JP2021051629A - 乱数発生器、ニューロモルフィックデバイス、センサ信号処理回路および乱数発生方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】スピン軌道トルク(SOT)を用いて、自然乱数に基づき正規分布を与える乱数発生器を提供する。【解決手段】乱数発生器1000は、複数の磁気抵抗効果素子500と、複数の磁気抵抗効果素子の自由層に接合するスピン軌道トルク配線20を備える。複数の磁気抵抗効果素子が互いに並列接続され、スピン軌道トルク配線に電流を通電し、複数の磁気抵抗効果素子の自由層の磁化方向を、スピン軌道トルク相互作用によって磁化容易軸に対して交差する方向に向け、通電を停止させ、複数の磁気抵抗効果素子のそれぞれの自由層の磁化方向を、磁化容易軸に対して同方向又はその方向に対して反平行な方向のいずれか一方にランダムに向け、自由層がランダムに向いた複数の磁気抵抗効果素子を通した並列合成電流を乱数として出力する出力端子520を備える。【選択図】図1
Description
本発明は、乱数発生器および乱数発生方法に関する。
正規分布乱数は、セキュリティ、ゲーム、電子くじ、画像処理、通信信号処理、センサ信号処理、ニューロモロフィックデバイス等における乱数発生として使用される。正規分布乱数を出力する乱数発生器には、たとえば、特許文献1がある。互いに無相関なM系列疑似乱数を発生するM系列疑似乱数ディザ発生器11、12および13の各出力により、擬似ガウス分布が出力される。
ところで乱数には、擬似乱数と自然乱数がある。擬似乱数は、予め定められたプログラムにより計算機を用いて得られる乱数である。擬似乱数は、プログラムに入力する初期値が同一の場合、同一の結果が出力されるという問題や、計算機のレジスタ数に基づき乱数が特定の周期性を有するという問題がある。これに対し、自然乱数は自然界で生じる確率的事象から得られる乱数であり、乱数がランダムであることについては疑いようがない。したがって、正規分布乱数の発生においても、自然乱数に基づくことが好ましい。
自然乱数を得る手段としては、トンネル接合における雑音(熱雑音とショットノイズの和)を利用したもの(特許文献2)、熱雑音を単一電子トランジスタ効果により増幅したもの(特許文献3)、熱雑音を負性抵抗素子により増幅しもの(特許文献4)、磁気抵抗効果素子における概場による磁化自由層の揺動を利用したもの(特許文献5)及び極薄膜SOI(silicon-on-insulator)トランジスタにおける電子の捕捉、放出を利用したもの(非特許文献1)等が知られている。
K.Uchida et al.,J.Appl.Phys,No.90,(2001),pp3551.
I.M.Miron,K.Garello,G.Gaudin,P.-J.Zermatten,M.V.Costache,S.Auffret,S.Bandiera,B.Rodmacq,A.Schuhl,and P.Gambardella,Nature,476,189(2011).
しかしながら、特許文献2〜4に記載の乱数発生器は、雑音を増幅するための増幅回路及び情報を二値化するための閾値回路が必要であり、乱数発生器が大型化してしまう。また非特許文献1に記載の乱数発生器は、乱数発生速度が100kbit/秒であり、乱数発生器がこの動作速度を満たして動作することが難しい。
また特許文献5に記載の乱数発生器は、磁気抵抗効果素子の積層方向に電流を流して生ずるスピントランスファートルク(STT)を利用し乱数を発生させている。しかしながらこの乱数発生器は、乱数を得るために印加する電流及び磁場のマージンが小さく、外的要因の影響を受けやすい。
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、スピン軌道トルク(SOT)を用いて、自然乱数に基づき正規分布を与える乱数発生器の提供を目的とする。
近年、反転電流を低減する手段としてスピン軌道相互作用により生成された純スピン流を利用した磁化反転に注目が集まっている(例えば、非特許文献2)。本発明者らは、鋭意検討の結果、このスピン軌道相互作用によって生じるスピン軌道トルク(SOT)を利用した新たな乱数発生器を生み出した。
(1)第1の態様にかかる乱数発生器は、複数の磁気抵抗効果素子と、前記複数の磁気抵抗効果素子の自由層に接合するスピン軌道トルク配線を備え、
前記複数の磁気抵抗効果素子が互いに並列接続され、前記スピン軌道トルク配線に電流を通電し、前記磁気抵抗効果素子の自由層の磁化方向を、スピン軌道トルク相互作用によって磁化容易軸に対して交差する方向に向け、前記通電を停止させ、前記磁気抵抗効果素子のそれぞれの自由層の磁化方向を、磁化容易軸に対して同方向、または、その方向に対して反平行な方向のいずれか一方にランダムに向け、前記自由層がランダムに向いた磁気抵抗効果素子を通した並列合成電流を乱数として出力する出力端子を備える。
(2)前記の乱数発生器において、前記スピン軌道トルク配線が並列に分岐しており、前記分岐したスピン軌道トルク配線の少なくとも2つに前記磁気抵抗効果素子の自由層が接合されていてもよい。
(3)前記の乱数発生器において、磁場印加コイルを少なくとも一つを備えていてもよい。
(4)前記の乱数発生器において、前記並列合成電流に電流バイアスを印加するバイアス回路を備えていてもよい。
(5)前記のいずれかの乱数発生器を有するニューロモルフィックデバイスでもよい。
(6)前記のいずれかの乱数発生器を有するセンサ信号処理回路でもよい。
(7)複数の磁気抵抗効果素子と、前記複数の磁気抵抗効果素子の自由層に接合するスピン軌道トルク配線を備え、前記複数の磁気抵抗効果素子が互いに並列接続され、前記スピン軌道トルク配線に電流を通電し、前記磁気抵抗効果素子の自由層の磁化方向を、スピン軌道トルク相互作用によって磁化容易軸に対して交差する方向に向け、前記通電を停止させ、前記磁気抵抗効果素子のそれぞれの自由層の磁化方向を、磁化容易軸に対して同方向、または、その方向に対して反平行な方向のいずれか一方にランダムに向け、前記自由層がランダムに向いた磁気抵抗効果素子を通して並列合成電流を出力端子から乱数として出力する、乱数発生方法である。
前記複数の磁気抵抗効果素子が互いに並列接続され、前記スピン軌道トルク配線に電流を通電し、前記磁気抵抗効果素子の自由層の磁化方向を、スピン軌道トルク相互作用によって磁化容易軸に対して交差する方向に向け、前記通電を停止させ、前記磁気抵抗効果素子のそれぞれの自由層の磁化方向を、磁化容易軸に対して同方向、または、その方向に対して反平行な方向のいずれか一方にランダムに向け、前記自由層がランダムに向いた磁気抵抗効果素子を通した並列合成電流を乱数として出力する出力端子を備える。
(2)前記の乱数発生器において、前記スピン軌道トルク配線が並列に分岐しており、前記分岐したスピン軌道トルク配線の少なくとも2つに前記磁気抵抗効果素子の自由層が接合されていてもよい。
(3)前記の乱数発生器において、磁場印加コイルを少なくとも一つを備えていてもよい。
(4)前記の乱数発生器において、前記並列合成電流に電流バイアスを印加するバイアス回路を備えていてもよい。
(5)前記のいずれかの乱数発生器を有するニューロモルフィックデバイスでもよい。
(6)前記のいずれかの乱数発生器を有するセンサ信号処理回路でもよい。
(7)複数の磁気抵抗効果素子と、前記複数の磁気抵抗効果素子の自由層に接合するスピン軌道トルク配線を備え、前記複数の磁気抵抗効果素子が互いに並列接続され、前記スピン軌道トルク配線に電流を通電し、前記磁気抵抗効果素子の自由層の磁化方向を、スピン軌道トルク相互作用によって磁化容易軸に対して交差する方向に向け、前記通電を停止させ、前記磁気抵抗効果素子のそれぞれの自由層の磁化方向を、磁化容易軸に対して同方向、または、その方向に対して反平行な方向のいずれか一方にランダムに向け、前記自由層がランダムに向いた磁気抵抗効果素子を通して並列合成電流を出力端子から乱数として出力する、乱数発生方法である。
上記態様にかかる乱数発生器は、スピン軌道トルク(SOT)を用いて自然乱数に基づく乱数、特に、正規分布乱数を与える乱数を発生できる。
以下、本発明の実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
「第1実施形態」
(乱数発生器)
図1は、第1実施形態に係る乱数発生器1000を模式的に示した図である。
乱数発生器1000は、複数の磁気抵抗効果素子500と、前記複数の磁気抵抗効果素子500の自由層10に接合するスピン軌道トルク配線20を備え、前記複数の磁気抵抗効果素子500は、配線70により並列接続され、スピン軌道トルク配線20に電流を印加する配線75と電源540と、磁気抵抗効果素子500の並列合成電流を与える電源550と、電源540と電源550の切り替えを制御する制御回路560と、並列合成電流を出力する出力端子520を備える。
「第1実施形態」
(乱数発生器)
図1は、第1実施形態に係る乱数発生器1000を模式的に示した図である。
乱数発生器1000は、複数の磁気抵抗効果素子500と、前記複数の磁気抵抗効果素子500の自由層10に接合するスピン軌道トルク配線20を備え、前記複数の磁気抵抗効果素子500は、配線70により並列接続され、スピン軌道トルク配線20に電流を印加する配線75と電源540と、磁気抵抗効果素子500の並列合成電流を与える電源550と、電源540と電源550の切り替えを制御する制御回路560と、並列合成電流を出力する出力端子520を備える。
図2は、複数の磁気抵抗効果素子500のうち一つの磁気抵抗効果素子の部分を拡大した図である。以下の実施形態において、自由層10の積層方向をz方向、スピン軌道トルク配線20が延在する第1の方向をx方向、z方向及びx方向のいずれにも直交する第2の方向をy方向とする。
<自由層>
自由層10は、磁化容易方向と磁化困難方向とを有する。磁化容易方向は、自由層10の磁化M10が最も配向しやすい方向であり、磁化困難方向はその他の方向である。自由層10は、磁化容易方向が層に平行な面内方向である面内磁化膜でも、磁化方向が層に対して垂直方向である垂直磁化膜でもいずれでもよい。自由層10の面積を小さくし、磁気抵抗効果素子500のサイズを微細化するためには、垂直磁化膜であることが好ましい。
自由層10は、磁化容易方向と磁化困難方向とを有する。磁化容易方向は、自由層10の磁化M10が最も配向しやすい方向であり、磁化困難方向はその他の方向である。自由層10は、磁化容易方向が層に平行な面内方向である面内磁化膜でも、磁化方向が層に対して垂直方向である垂直磁化膜でもいずれでもよい。自由層10の面積を小さくし、磁気抵抗効果素子500のサイズを微細化するためには、垂直磁化膜であることが好ましい。
自由層10の磁化M10は、外力が印加されていない状態では、磁化容易方向に向いている。図1は、外力が印加されていない状態で磁化M10が自由層10の積層面に対して垂直な方向(z方向)に配向している。すなわち、図1に示す自由層10は、磁化容易方向がz方向である垂直磁化膜である。以下、この例を基に説明する。
自由層10には、公知の材料を用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。またホイスラー合金等を用いてもよい。
<スピン軌道トルク配線>
スピン軌道トルク配線20は、x方向に延在する。スピン軌道トルク配線20は、自由層10のz方向の一面に接続されている。
スピン軌道トルク配線20は、x方向に延在する。スピン軌道トルク配線20は、自由層10のz方向の一面に接続されている。
スピン軌道トルク配線20は、スピン軌道相互作用に由来するスピンを自由層10へ供給する。スピン軌道相互作用に由来するスピンは、スピン軌道トルク配線20に電流が流れることによって生じるスピンホール効果及び異種元素界面間での界面ラシュバ効果によって発生する。
まずスピンホール効果について説明する。スピンホール効果は、材料に電流を流した場合にスピン軌道相互作用に基づき、電流の向きと直交する方向に純スピン流が誘起される現象である。図3は、スピンホール効果について説明するための模式図である。図3は、図2に示す磁気抵抗効果素子500の自由層10とスピン軌道トルク配線20をx方向に沿って切断した断面図に対応する。図3に基づいてスピンホール効果により純スピン流が生み出されるメカニズムを説明する。
図3に示すように、スピン軌道トルク配線20の延在方向に電流Iを流すと、紙面奥側に配向した第1スピンS1と紙面手前側に配向した第2スピンS2はそれぞれ電流と直交する方向に曲げられる。通常のホール効果とスピンホール効果とは運動(移動)する電荷(電子)が運動(移動)方向を曲げられる点で共通するが、通常のホール効果は磁場中で運動する荷電粒子がローレンツ力を受けて運動方向を曲げられるのに対して、スピンホール効果では磁場が存在しないのに電子が移動するだけ(電流が流れるだけ)で移動方向が曲げられる点で大きく異なる。
非磁性体(強磁性体ではない材料)では第1スピンS1の電子数と第2スピンS2の電子数とが等しい。そのため、図中で上方向に向かう第1スピンS1の電子数と下方向に向かう第2スピンS2の電子数は等しい。第1スピンS1の電子の流れをJ↑、第2スピンS2の電子の流れをJ↓、スピン流をJSと表すと、JS=J↑−J↓で定義される。JSは分極率が100%の電子の流れである。すなわち、スピン軌道トルク配線20内において、z方向の電荷の正味の流れとしての電流はゼロであり、この電流を伴わないスピン流は特に純スピン流と呼ばれる。
純スピン流が生じているスピン軌道トルク配線20に自由層10を接合すると、図3において上方向に向かう第1スピンS1が自由層10に拡散して流れ込む。
次いで、界面ラシュバ効果について説明する。界面ラシュバ効果は、異種元素間の界面の影響を受けて、スピンが所定の方向に配向しやすくなり、所定の方向に配向したスピンが界面近傍に蓄積する現象をいう。
例えば、図3において自由層10とスピン軌道トルク配線20の界面は異種元素間の界面に対応する。そのため、スピン軌道トルク配線20の自由層10側の面には所定の方向に配向したスピンが蓄積する。蓄積したスピンは、エネルギー的な安定を得るために、自由層10側に拡散し流れ込む。
スピン軌道トルク配線20は、スピンが生成される材料で構成される部分(スピン生成部)と、スピンが生成されない材料で構成される部分とを有してもよい。
図4は、第1実施形態にかかる乱数発生器の一例の断面図である。図4に示すスピン軌道トルク配線20は、スピン軌道トルク配線20の延在方向(x方向)に、スピン生成部20Aと低抵抗部20Bとを有す。
スピン生成部20Aは、自由層10に注入するスピンを生み出す必要があり、材料が限定される。そのため、スピン生成部20Aは配線抵抗が高くなることが多い。低抵抗部20Bを設けることで、スピン軌道トルク配線20全体の抵抗を下げることができる。低抵抗部20Bには導電性の高いAl、Cu、Ag等を用いることができる。
図4の構成においてスピン生成部20Aは、自由層10へ注入するためのスピンを生成する材料により構成される。スピン軌道トルク配線20を構成する材料は、単体の元素からなる材料に限らない。
スピン生成部20Aは、非磁性の重金属を含んでもよい。ここで、重金属とは、イットリウム以上の比重を有する金属の意味で用いている。スピン生成部20Aは、非磁性の重金属だけからなってもよい。
非磁性の重金属は、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属であることが好ましい。非磁性の重金属は、スピンホール効果を生じさせるスピン軌道相互作用が大きい。スピン生成部20Aは、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号39以上の原子番号が大きい非磁性金属だけからなってもよい。
通常、金属に電流を流すとすべての電子はそのスピンの向きに関わりなく、電流とは逆向きに動くのに対して、最外殻にd電子又はf電子を有する原子番号が大きい非磁性金属はスピン軌道相互作用が大きいためにスピンホール効果によって電子の動く方向が電子のスピンの向きに依存し、純スピン流JSが発生しやすい。
またスピン生成部20Aは、磁性金属を含んでもよい。磁性金属とは、強磁性金属、あるいは、反強磁性金属を指す。非磁性金属に微量な磁性金属が含まれるとスピン軌道相互作用が増強され、スピン生成部20Aのスピン流生成効率を高くできるからである。スピン生成部20Aは、反強磁性金属だけからなってもよい。
スピン軌道相互作用は、スピン生成部20Aを構成する物質の固有の内場によって生じる。スピン軌道トルク配線材料に微量の磁性金属を添加すると、磁性金属自体が流れる電子スピンを散乱するためにスピン流生成効率が向上する。ただし、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生した純スピン流が添加された磁性金属によって散乱され、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる。したがって、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線におけるスピン生成部の主成分のモル比よりも十分小さい方が好ましい。目安で言えば、添加される磁性金属のモル比は3%以下であることが好ましい。
またスピン生成部20Aは、トポロジカル絶縁体を含んでもよい。スピン生成部20Aは、トポロジカル絶縁体だけからなってもよい。トポロジカル絶縁体とは、物質内部が絶縁体、あるいは、高抵抗体であるが、その表面にスピン偏極した金属状態が生じている物質である。物質にはスピン軌道相互作用という内部磁場のようなものがある。そこで外部磁場が無くてもスピン軌道相互作用の効果で新たなトポロジカル相が発現する。これがトポロジカル絶縁体であり、強いスピン軌道相互作用とエッジにおける反転対称性の破れにより純スピン流を高効率に生成することができる。
スピン軌道相互作用は、スピン生成部20Aを構成する物質の固有の内場によって生じる。スピン軌道トルク配線材料に微量の磁性金属を添加すると、磁性金属自体が流れる電子スピンを散乱するためにスピン流生成効率が向上する。ただし、磁性金属の添加量が増大し過ぎると、発生した純スピン流が添加された磁性金属によって散乱され、結果としてスピン流が減少する作用が強くなる。したがって、添加される磁性金属のモル比はスピン軌道トルク配線におけるスピン生成部の主成分のモル比よりも十分小さい方が好ましい。目安で言えば、添加される磁性金属のモル比は3%以下であることが好ましい。
トポロジカル絶縁体としては例えば、SnTe,Bi1.5Sb0.5Te1.7Se1.3,TlBiSe2,Bi2Te3,(Bi1−xSbx)2Te3などが好ましい。これらのトポロジカル絶縁体は、高効率にスピン流を生成することが可能である。
乱数発生器1000は、例えば、支持体として基板等を有していてもよい。基板は、平坦性に優れることが好ましく、材料として例えば、Si、AlTiC等を用いることができる。
<乱数発生の動作>
電源540によりスピン軌道トルク配線20に電流を流すと、界面ラシュバ効果に伴うスピン蓄積及び純スピン流が生じる。発生したスピンは、自由層10に拡散して流れ込む。つまり、スピン軌道トルク配線20で発生したスピンS20は、自由層10に注入される。
電源540によりスピン軌道トルク配線20に電流を流すと、界面ラシュバ効果に伴うスピン蓄積及び純スピン流が生じる。発生したスピンは、自由層10に拡散して流れ込む。つまり、スピン軌道トルク配線20で発生したスピンS20は、自由層10に注入される。
図5は、本実施形態に係る乱数発生器1000のスピン軌道トルク配線20に電流を印加した状態を模式的に示した斜視図である。スピン軌道トルク配線20から注入されるスピンS20の向きは、電流印加手段と接続されるスピン軌道トルク配線20の両端子方向(x方向)と直交する。
図2に示すように、注入されるスピンS20の向きは、自由層10の磁化M10の向き(磁化容易方向)に対して直交している。そのため、自由層10の磁化M10は、注入されるスピンS20の影響を受ける。z方向に配向した磁化M10は、あたかもy方向に外部磁場が加えられたようなy方向のトルクを受ける。
トルクが加わるベクトル方向は、磁化容易方向(図2におけるz方向)に対して直交している。このトルクを受けて、初期状態として磁化容易方向(図2におけるz方向)に配向していた磁化M10は、磁化困難方向(図5における−y方向)に配向する。スピン軌道トルク配線20に電流を印加し続ける限り、この状態は維持される。
スピン軌道トルク配線20に印加する電流は以下の関係式(1)を満たすことが好ましい。
ここで、MSは自由層10の飽和磁化(emu/cm3)、tFは自由層10の膜厚(cm)、θSHはスピン軌道トルク配線20の有効スピンホール角度、HK,effは自由層10の有効異方性磁界(Oe)、Hxはスピン軌道トルク配線20の電流印加方向にかかる外部磁界(Oe)である。
スピン軌道トルク配線20に上記関係式(1)を満たす電流を印加すれば、十分な量のスピンS20を自由層10に供給することができ、磁化M10が磁化困難方向(図5における−y方向)に向いた状態を安定的に維持できる。
磁化M10が注入されるスピンS20により受けるトルクのベクトル方向は、−y方向である。そのため、印加電流量が多くなりトルクの大きさが大きくなっても、磁化M10が−z方向に反転してしまうことはない。なお、SOTを利用した磁化反転素子等は、磁化困難方向まで磁化が回転した状態に更なる外力(外部磁場等)を与えることで、その外力をきっかけとした磁化反転を生み出しているが、乱数発生器においては更なる外力は印加しないため、磁化M10は磁化困難方向を向いた状態が保持される。
一方で従来のSTTを用いた乱数発生器は、電流印加時の磁化の向きの調整が難しい。図6は、STTを用いた乱数発生器の動作を説明するための模式図である。図6に示すSTTを用いた乱数発生器30は、順に積層された自由層31と、非磁性層32と、固定層33と、これらを挟む二つの配線34とを有する。
図6に示す乱数発生器では、二つの配線34間に電流を流すと、固定層33から自由層31へスピンが注入される。固定層33から注入されるスピンは、固定層33の磁化M33と同じ+z方向を有する。そのため、自由層31の磁化M31は+z方向の力を受ける。STTを利用した乱数発生器101では、+z方向に係る力を調整し、電流印加時の磁化M31の配向方向がx方向又はy方向(磁化困難方向)となるように調整する。
このようにSTTを用いた乱数発生器30では、電流印加時に磁化M31を向けたい方向(x方向又はy方向)と、磁化M31に加わる力の方向(+z方向)とが一致していない。そのため、電流印加時に磁化M31の向きを磁化困難方向に保つためには、印加電流量の微妙な調整が必要となる。また熱等の外的要因が加わる場合は、その度に印加電流量の調整が必要になる。
これに対し本実施形態にかかるSOTを利用した乱数発生器1000は、図5に示すように、電流印加時に磁化M10を向けたい方向(−y方向)と、磁化M10に加わる力の方向(−y方向)とが一致している。そのため、閾値を超える電流量を印加すればよく、微妙な調整が不要となる。
次いで、乱数を発生させるために、乱数発生器1000のスピン軌道トルク配線20に印加していた電流を止める。スピン軌道トルク配線20に印加していた電流を止めると、自由層10に注入されていたスピンS20が注入されなくなる。すなわち、自由層10の磁化M10を−y方向に向けていた力を失う。
磁化M10は、磁化容易方向(z方向)に配向することがエネルギー的に安定である。そのため、−y方向に配向する力を失った磁化M10は、磁化容易方向(z方向)に戻ろうとする。この際、磁化M10は、+z方向又は−z方向のいずれかに向く。−y方向に対して+z方向と−z方向はいずれも等価であり、磁化M10が+z方向に向く確率、及び、−z方向に向く確率はいずれも50%となる。そのため、例えば+z方向に向いた場合を「1」、−z方向に向いた場合を「0」とすると、「1」と「0」が出る確率が50%である乱数が得られる。
スピン軌道トルク配線20に印加する電流を(1)式で示す閾値電流以上に上げた場合に、バックホッピング現象が生じ、磁化M10が磁化困難方向からずれる場合がある。しかしながら、この場合でも「1」と「0」が出る確率が50%である乱数を得ることができることは変わらない。スピン軌道トルク配線20に印加していた電流を止めると、磁化M10は、バックホッピング現象によりずれた方向に対応した磁化容易方向(+z方向、−z方向)へ戻る。磁化M10方向のずれは、ランダムに生じることから、戻った磁化容易方向(+z方向、−z方向)もランダムになり、やはり、「1」と「0」が出る確率が50%である乱数が得られる。
磁化M10が+z方向と−z方向のいずれの方向に配向しているかの情報は、磁化の配向状態の違いを抵抗値変化として読み出すことができる。
図2に示す乱数発生器1000の一部分は、自由層10のスピン軌道トルク配線20と反対側に、非磁性層50と、強磁性金属層60と、配線層70とを順に備える。
乱数発生器1000は、スピン軌道トルク配線20と配線層70間の抵抗値を測定することで、自由層10の磁化状態を読み出す。抵抗値は、強磁性金属層60の磁化M60の向き(−z方向)に対して自由層10の磁化M10の向きが平行(−z方向)の場合は低くなり、反平行(+z方向)の場合は高くなる。
非磁性層50には、公知の材料を用いることができる。非磁性層50が絶縁体の場合は、自由層10と非磁性層50と強磁性金属層60とでTMR素子を構成する。非磁性層50が金属の場合は、自由層10と非磁性層50と強磁性金属層60とでGMR素子を構成する。磁化M10の配向方向の違いをより明確に得るためには、大きな磁気抵抗変化が得られるTMR素子であることが好ましい。
例えば、非磁性層50が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、その材料としては、Al2O3、SiO2、MgO、及び、MgAl2O4等を用いることができる。またこれらの他にも、Al,Si,Mgの一部が、Zn、Be等に置換された材料等も用いることができる。これらの中でも、MgOやMgAl2O4はコヒーレントトンネルが実現できる材料であるため、スピンを効率よく注入できる。
また、非磁性層50が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。
また、非磁性層50が金属からなる場合、その材料としては、Cu、Au、Ag等を用いることができる。
非磁性層50が絶縁体からなる場合(トンネルバリア層である場合)、トンネルバリア層の膜厚は2nm以上であることが好ましい。トンネルバリア層の膜厚が2nm以上であると、磁気抵抗変化量が大きくなる。そのため、自由層10の磁化M10の配向状態を確認するためにスピン軌道トルク配線20と配線層70間に印加する電流量を小さくでき、乱数発生器101の発熱が抑えられる。その結果、安定性の高い乱数発生器が得られる。
第2強磁性金属層60は、自由層10より磁気異方性が相対的に強く、磁化方向が1方向に固定された固定層である。
第2強磁性金属層60の材料としては、公知のものを用いることができる。例えば、Cr、Mn、Co、Fe及びNiからなる群から選択される金属及びこれらの金属を1種以上含み強磁性を示す合金を用いることができる。またこれらの金属と、B、C、及びNの少なくとも1種以上の元素とを含む合金を用いることもできる。具体的には、Co−FeやCo−Fe−Bが挙げられる。またホイスラー合金等を用いてもよい。
第2強磁性金属層60の保磁力をより大きくするために、第2強磁性金属層60の非磁性層50と反対側の面にIrMn,PtMnなどの反強磁性材料を接触させてもよい。さらに、第2強磁性金属層60の漏れ磁場を自由層10に影響させないようにするため、シンセティック強磁性結合の構造としてもよい。
配線層70は、導電性を有するものであれば特に問わない。例えば、銅、アルミ等を用いることができる。
以上の磁気抵抗効果素子500とスピン軌道トルク配線20からなる部分を図1のように配置すれば、正規分布乱数を出力できる。スピン軌道トルク配線20に電流を通電し、スピン軌道トルク相互作用に由来するスピンとの相互作用よって、磁気抵抗効果素子500の自由層10の磁化方向を、磁化容易軸に対して交差する方向に向け、その後に前記通電を停止させ、磁気抵抗効果素子500のそれぞれの自由層10の磁化方向を、磁化容易軸に対して同方向、または、その方向に対して反平行な方向のいずれか一方にランダムに向け、自由層10がランダムに向いた複数の磁気抵抗効果素子500を通した並列合成電流を乱数として出力端子520から出力する。
「第2実施形態」 (分岐なし)
図7は、第2実施形態にかかる乱数発生器2000を模式的に示した図である。乱数発生器1000との違いは、磁気抵抗効果素子500を単一のスピン軌道トルク配線20に配置したことである。その他の構成と動作方法は、乱数発生器1000と同様である。
図7は、第2実施形態にかかる乱数発生器2000を模式的に示した図である。乱数発生器1000との違いは、磁気抵抗効果素子500を単一のスピン軌道トルク配線20に配置したことである。その他の構成と動作方法は、乱数発生器1000と同様である。
「第3実施形態」 (外部磁場印加)
図8は、第3実施形態にかかる乱数発生器1000における一つの磁気抵抗効果素子500の部分を模式的に示した斜視図である。図8に示す磁気抵抗効果素子500は、自由層10に磁場を印加する外部磁場印加手段80が設けられている点が、第1実施形態にかかる乱数発生器1000と異なる。図8では、外部磁場印加手段80として配線を自由層10上に配設した。配線に電流を流すことにより、配線を中心とした磁界が生じる。
図8は、第3実施形態にかかる乱数発生器1000における一つの磁気抵抗効果素子500の部分を模式的に示した斜視図である。図8に示す磁気抵抗効果素子500は、自由層10に磁場を印加する外部磁場印加手段80が設けられている点が、第1実施形態にかかる乱数発生器1000と異なる。図8では、外部磁場印加手段80として配線を自由層10上に配設した。配線に電流を流すことにより、配線を中心とした磁界が生じる。
外部磁場印加手段80を設けることで、磁気抵抗効果素子500の「1」と「0」の発生確率を調整することができる。例えば、熱等の影響を受けて発生確率が50%からずれる場合は、外部磁場印加手段80を用いて発生確率が50%となるように調整できる。また発生確率を50%からずらしたい場合にも用いることができる。
このように乱数発生器の「1」と「0」の発生確率は、外部磁場により調整することができる。一方で換言すると、乱数発生器は周辺回路から発生する磁界の影響を受ける可能性があるとも言える。そこで、周辺回路からの磁界の影響を抑制するために、自由層及びスピン軌道トルク配線を囲む磁気シールドを設けてもよい。NiFe等の高透磁率磁性体を用いることができる。
「第4実施形態」 (バイアス回路)
図9は、第4実施形態にかかる乱数発生器3000を模式的に示した図である。図9に示す乱数発生器3000は、出力端子520の近傍にバイアス回路570が設けられている点が、第1実施形態にかかる乱数発生器1000と異なる。その他の構成と動作方法は、乱数発生器1000と同様である。
図9は、第4実施形態にかかる乱数発生器3000を模式的に示した図である。図9に示す乱数発生器3000は、出力端子520の近傍にバイアス回路570が設けられている点が、第1実施形態にかかる乱数発生器1000と異なる。その他の構成と動作方法は、乱数発生器1000と同様である。
バイアス回路570により一定の電流バイアスを追加することで、正規分布の平均にあたる中心位置を変化させることができる。つまり、バイアス回路570により、アプリケーションに適した平均値を示す正規分布乱数を与えることができる。また、バイアス回路570の位置は、正規分布の平均値を変化させることができれば、出力端子520の近傍に限らない。
上記実施形態にかかる乱数発生器は、自然乱数に基づく、正規分布乱数を生み出すことができる。また上記実施形態にかかる乱数発生器は、電流印加時に磁化を向けたい方向と、磁化に与える力の方向が一致している。そのため、電流の供給量等の調整が不要であり、乱数発生器の安定性が高い。またこの乱数発生器のスピン軌道トルク配線20をトランジスタ等の半導体回路等と接続し、半導体集積素子として用いてもよい。
(乱数発生器の製造方法)
上述の乱数発生器は、スパッタリング等の公知の成膜手段と、フォトリソグラフィー等の加工技術を用いて作製できる。支持体となる基板上に、各層を構成する金属等を順に積層し、その後所定の形に加工する。
上述の乱数発生器は、スパッタリング等の公知の成膜手段と、フォトリソグラフィー等の加工技術を用いて作製できる。支持体となる基板上に、各層を構成する金属等を順に積層し、その後所定の形に加工する。
成膜法としてはスパッタリング法のほか、蒸着法、レーザアブレーション法、MBE法等が挙げられる。フォトリソグラフィー法では、レジスト膜を残したい部分に形成し、イオンミリング、反応性イオンエッチング(RIE)等の処理により不要部を除去する。
情報の読み出し手段として、例えば非磁性層を絶縁体としたTMR素子を作製する場合は、自由層上に最初に0.4〜2.0nm程度の金属薄膜をスパッタし、プラズマ酸化あるいは酸素導入による自然酸化を行い、その後の熱処理を行うことで、トンネルバリア層を形成してもよい。
本発明は、上記実施形態に必ずしも限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
正規分布を与える乱数発生器は、セキュリティ、ゲーム、電子くじ、画像処理、通信信号処理、センサ信号処理、ニューロモロフィックデバイス等における乱数生成に利用される。
10…自由層、20…スピン軌道トルク配線、20A…スピン生成部、20B…低抵抗部、20C…スピン伝導部、30…STTを用いた乱数発生器、31…自由層、32…非磁性層、33…固定層、34…配線、50…非磁性層、60…強磁性金属層、70…配線層、75…配線、80…外部磁場印加手段、M10,M11,M31,M33,M60…磁化、S20…スピン、500…磁気抵抗効果素子、540、550…電源、560…制御回路、520…出力端子、1000,2000,3000…乱数発生器
Claims (7)
- 複数の磁気抵抗効果素子と、
前記複数の磁気抵抗効果素子の自由層に接合するスピン軌道トルク配線を備え、
前記複数の磁気抵抗効果素子が互いに並列接続され、
前記スピン軌道トルク配線に電流を通電し、前記複数の磁気抵抗効果素子の自由層の磁化方向を、スピン軌道トルク相互作用によって磁化容易軸に対して交差する方向に向け、
前記通電を停止させ、前記複数の磁気抵抗効果素子のそれぞれの自由層の磁化方向を、磁化容易軸に対して同方向、または、その方向に対して反平行な方向のいずれか一方にランダムに向け、
前記自由層がランダムに向いた前記複数の磁気抵抗効果素子を通した並列合成電流を乱数として出力する出力端子を備える、
ことを特徴とする乱数発生器。 - 前記スピン軌道トルク配線が並列に分岐しており、
前記分岐したスピン軌道トルク配線の少なくとも2つに前記複数の磁気抵抗効果素子の自由層が接合されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の乱数発生器。 - 磁場印加コイルを少なくとも一つを備える、
ことを特徴とする請求項1から2のいずれか一項に記載の乱数発生器。 - 前記並列合成電流に電流バイアスを印加するバイアス回路を備える、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の乱数発生器。 - 請求項1から4のいずれか一項に記載の乱数発生器を有するニューロモルフィックデバイス。
- 請求項1から5のいずれか一項に記載の乱数発生器を有するセンサ信号処理回路。
- 複数の磁気抵抗効果素子と、
前記複数の磁気抵抗効果素子の自由層に接合するスピン軌道トルク配線を備え、
前記複数の磁気抵抗効果素子が互いに並列接続され、
前記スピン軌道トルク配線に電流を通電し、前記複数の磁気抵抗効果素子の自由層の磁化方向を、スピン軌道トルク相互作用によって磁化容易軸に対して交差する方向に向け、
前記通電を停止させ、前記複数の磁気抵抗効果素子のそれぞれの自由層の磁化方向を、磁化容易軸に対して同方向、または、その方向に対して反平行な方向のいずれか一方にランダムに向け、
前記自由層がランダムに向いた前記複数の磁気抵抗効果素子を通して並列合成電流を出力端子から乱数として出力する、
乱数発生方法。
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