JP2021042461A - 快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法 - Google Patents

快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】熱間加工性に優れ、強度が高く、強度と延性のバランス、および靭性に優れ、鉛の含有量を大幅に減少させた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法を提供する。【解決手段】Cu、Si、Pb、Pを含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.40%未満、SnとAlの合計量が0.40%未満であり、56.5≦f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]≦59.5の関係を有し、金属組織の構成相は、20≦(α)≦80、15≦(β)≦80、0≦(γ)<8、18×(γ)/(β)<9、20≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2≦88、33≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15の関係を有し、β相内にPを含む化合物が存在する。【選択図】なし

Description

本発明は、強度が高く、Pbの含有量を大幅に減少させた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法に関する。本発明は、自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品、及び飲料水、工業用水、排水、水素などの液体や気体に係る部品に用いられる快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法に関連している。具体的な部品名称として、バルブ、継手、コック、給水栓、歯車、軸、軸受け、シャフト、スリーブ、スピンドル、センサー、ボルト、ナット、フレアナット、ペン先、インサートナット、袋ナット、ニップル、スペーサー、ねじなどが挙げられ、本発明は、これら切削が施される部品に用いられる快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法に関連している。
従来から、自動車部品、電気・家電・電子機器部品、機械部品、文具、精密機械部品、医療用部品、および飲料水、工業用水、排水、水素などの液体や気体に関わる器具・部品、具体的な部品名称として、バルブ、継手、歯車、センサー、ナット、ねじなどの部品には、優れた被削性を備えた、Cu−Zn−Pb合金(いわゆる快削黄銅棒、鍛造用黄銅、鋳物用黄銅)、あるいは、Cu−Sn−Zn−Pb合金(いわゆる青銅鋳物:ガンメタル)が一般的に使用されていた。
Cu−Zn−Pb合金は、56〜65mass%のCuと、1〜4mass%のPbを含有し、残部がZnである。Cu−Sn−Zn−Pb合金は、80〜88mass%のCuと、2〜8mass%のSnと、1〜8mass%のPbを含有し、残部がZnである。
銅合金に添加されるPbは、特にドリルを用いた穴あけ加工において絶大な効果を発揮する。近年、ますます各種の機器、部品が小型化し、それらの部品に対する微細な穴あけ加工の必要性が高まっている。情報家電や医療機器、自動車部品など、さまざまな工業製品の軽薄短小化は、今後ますます加速すると予測される。
しかしながら、近年では、Pbの人体や環境に与える影響が懸念されるようになり、各国でPbに関する規制の動きが活発化している。例えば、米国カリフォルニア州では、2010年1月より、飲料水器具等に含まれるPb含有量を0.25mass%以下とする規制が発効されている。米国以外の国においても、その規制の動きは急速であり、Pb含有量の規制に対応した銅合金材料の開発が求められている。
また、その他の産業分野、自動車、電気・電子機器、機械などの産業分野においても、例えば、欧州のELV規制、RoHS規制では、快削性銅合金のPb含有量が例外的に4mass%まで認められているが、飲料水の分野と同様、例外の撤廃を含め、Pb含有量の規制強化が活発に議論されている。
このような快削性銅合金のPb規制強化の動向の中、(1)Pbの代わりに被削性(被削性能、被削性機能)を有するBiと、場合によっては、Biと共にSeを含有するCu−Zn−Bi合金、Cu−Zn−Bi−Se合金、(2)高濃度のZnを含有し、β相を増やして被削性の向上を図ったCu−Zn合金、あるいは、(3)Pbの代わりに被削性を有するγ相、κ相を多く含んだCu−Zn−Si合金、Cu−Zn−Sn合金、さらには(4)γ相を多く含み、かつBiを含有するCu−Zn−Sn−Bi合金などが提唱されている。
特許文献1においては、Cu−Zn−Bi合金に、Snを0.7〜2.5mass%の量で添加してγ相を析出させることにより、被削性と耐食性の改善を図っている。
しかしながら、Pbの代わりにBiを含有させた合金に関して、Biは、被削性においてPbより劣ること、Biは、Pbと同様に人体に有害であるおそれがあること、Biは、希少金属であるので資源上の問題があること、Biは、銅合金材料を脆くする問題があることなどを含め、多くの問題を有している。
また、特許文献1に示すように、Cu−Zn−Sn合金においてγ相を析出させたとしても、Snを含有させたγ相は、被削性を持つBiの共添加を必要としているように、被削性に劣る。
一方、多量のβ相を含むCu−Znの2元合金は、β相が被削性の改善に貢献するが、Pbに比べ被削性が劣るので、到底、Pb含有快削性銅合金の代替にはなりえない。
他方、快削性銅合金として、Pbの代わりにSiを含有したCu−Zn−Si合金が、例えば特許文献2〜13に提案されている。
特許文献2,3においては、主として、Cu濃度が69〜79mass%、Si濃度が2〜4mass%でありCu、Si濃度が高い合金で形成されるγ相、場合によってはκ相の優れた被削性を有することにより、Pbを含有させずに、又は、少量のPbの含有で優れた被削性を実現させている。Sn、Alを、それぞれ、0.3mass%以上、0.1mass%以上の量で含有することにより、被削性を有するγ相の形成をさらに増大、促進させ、被削性を改善させる。そして、多くのγ相の形成により、耐食性の向上を図っている。
特許文献4においては、0.02mass%以下の極少量のPbを含有させ、主として、Pb含有量を考慮し、単純にγ相、κ相の合計含有面積を規定することにより、優れた快削性を得ている。
特許文献5,6においては、Cu−Zn−Si合金の鋳物製品が提案されており、鋳物の結晶粒の微細化を図るために、PとZrを極微量含有させており、P/Zrの比率等が重要としている。
特許文献7には、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させた銅合金が提案されている。
特許文献8には、Cu−Zn−Si合金にSn,Fe,Co,Ni,Mnを含有させた銅合金が提案されている。
特許文献9には、Cu−Zn−Si合金において、κ相を含むα相マトリックスを有し、β相、γ相及びμ相の面積率を制限した銅合金が提案されている。
特許文献10には、Cu−Zn−Si合金において、κ相を含むα相マトリックスを有し、β相及びγ相の面積率を制限した銅合金が提案されている。
特許文献11には、Cu−Zn−Si合金において、γ相の長辺の長さ、μ相の長辺の長さを規定した銅合金が提案されている。
特許文献12には、Cu−Zn−Si合金に、Sn及びAlを添加した銅合金が提案されている。
特許文献13には、Cu−Zn−Si合金において、γ相をα相及びβ相の相境界の間に粒状に分布させることで、被削性を向上させた銅合金が提案されている。
特許文献15には、Cu−Zn合金に、Sn、Pb、Siを添加した銅合金が提案されている。
ここで、上述のCu−Zn−Si合金においては、特許文献14及び非特許文献1に記載されているように、Cu濃度が60mass%以上、Zn濃度が40mass%以下、Si濃度が10mass%以下の組成に絞っても、マトリックスα相の他に、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10種類の金属相、場合によっては、α’、β’、γ’を含めると13種類の金属相が存在することが知られている。さらに、添加元素が増えると、金属組織はより複雑になることや、新たな相や金属間化合物が出現する可能性があること、また、平衡状態図から得られる合金と実際に生産されている合金では、存在する金属相の構成に大きなずれが生じることが経験上よく知られている。さらに、これらの相の組成は、銅合金のCu、Zn、Si等の濃度、および、加工熱履歴によっても、変化することがよく知られている。
ところで、Pbを含有したCu−Zn−Pb合金においては、Cu濃度が約60mass%であるのに対し、これら特許文献2〜13に記載されているCu−Zn−Si合金では、Cu濃度がいずれも65mass%以上であり、経済性の観点から、高価なCuの濃度の低減が望まれている。
また、従来のPbを添加された快削性銅合金には、少なくとも1昼夜の間に切削のトラブルなしに、さらには、1昼夜の間に切削工具の交換や刃具の研磨などの調整なしで、外周切削やドリル穴あけ加工などの切削加工できることが求められている。切削の難易度にもよるが、Pbの含有量を大幅に低減させた合金においても、同等の被削性が求められている。
さらに、特許文献7においては、Cu−Zn−Si合金にFeを含有させているが、FeとSiは、γ相より硬く脆いFe−Siの金属間化合物を形成する。この金属間化合物は、切削加工時には切削工具の寿命を短くし、研磨時にはハードスポットが形成され外観上の不具合が生じるなど問題がある。また、Feは添加元素であるSiと結合し、Siは金属間化合物として消費されることから、合金の性能を低下させてしまう。
また、特許文献8においては、Cu−Zn−Si合金に、SnとFe,Co,Mnを添加しているが、Fe,Co,Mnは、いずれもSiと化合して硬くて脆い金属間化合物を生成する。このため、特許文献7と同様に、切削や研磨時に問題を生じさせる。
国際公開第2008/081947号 特開2000−119775号公報 特開2000−119774号公報 国際公開第2007/034571号 国際公開第2006/016442号 国際公開第2006/016624号 特表2016−511792号公報 特開2004−263301号公報 国際公開第2012/057055号 特開2013−104071号公報 国際公開第2019/035225号 特開2018−048397号公報 特表2019−508584号公報 米国特許第4,055,445号明細書 特開2016−194123号公報
美馬源次郎、長谷川正治:伸銅技術研究会誌,2(1963),P.62〜77
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、熱間加工性に優れ、強度が高く、強度と延性のバランス、および靭性に優れ、Pbの含有量を大幅に減少させた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法を提供することを課題とする。
なお、本明細書において、特に断りのない限り、熱間加工材には、熱間押出材、熱間鍛造材、熱間圧延材を含んでいる。冷間加工性とは、抽伸、伸線、圧延、かしめ、曲げなど冷間で行われる加工の性能を指す。ドリル切削は、ドリルによる穴あけ切削加工を指す。良好な、優れた被削性とは、断りがない限り、旋盤を用いた外周切削やドリル穴あけ加工時、切削抵抗が低く、切屑の分断性が良いこと、或いは優れることを指す。伝導性とは、電気伝導性、熱伝導性を指す。また、β相には、β’相を含み、γ相には、γ’相を含み、α相にはα’相を含む。冷却速度とは、ある温度範囲での平均の冷却速度を指す。1昼夜は、1日間を意味する。実操業は、実機の量産設備で製造することを意味する。Pを含む化合物は、Pと、少なくともSi及びZnのいずれか一方又は両方とを含む化合物、場合によっては、さらにCuを含む化合物や、さらに不可避不純物であるFe、Mn、Cr、Coなどを含む化合物である。Pを含む化合物は、例えばP−Si、P−Si−Zn、P−Zn、P−Zn−Cuなどの化合物である。Pを含む化合物は、PとSi,Znを含む化合物とも言う。
上述の課題を解決して、前記目的を達成するために、本発明者らは鋭意検討した結果、以下のような知見を得た。
上述の特許文献4、6では、Cu−Zn−Si合金において、β相は、銅合金の被削性にほとんど貢献することなく、むしろ阻害するとされている。特許文献2、3では、β相が存在する場合、熱処理によりβ相をγ相に変化させるとされている。特許文献9、10、11においても、β相の量は大幅に制限されている。特許文献15では、β相の耐脱亜鉛腐食性の改善のために、SnとSiが含有されること、700℃以上の温度で熱間押出されること、及び保持温度が400℃〜600℃であり、400℃〜200℃の平均冷却速度が0.2〜10℃/秒である熱処理を行うことが必要とされている。
本発明者らは、まず、Cu−Zn−Si合金において、従来の技術では、被削性への効果がないとされていたβ相に関し、鋭意研究を重ね、被削性に大きな効果があるβ相の組成を究明した。
しかしながら、被削性に大きな効果があるSiを含有するβ相であっても、切屑の分断性や、切削抵抗では、3mass%のPbを含有した快削黄銅との被削性の差は依然として大きかった。
そこで、β相自身の被削性(被削性能、被削性機能)を向上させるために、約0.5〜3μmの大きさのPとSi,Znを含む化合物(例えばP−Si、P−Si−Zn、P−Zn、P−Zn−Cu)を、適切な量のSiを含有したCu−Zn−Si合金のβ相に析出させた。この結果、β相の被削性は飛躍的に向上した。
しかしながら、被削性を向上させたβ相は、延性や靭性に乏しい。β相の被削性を損なわずに延性の改善を図るため、適正なβ相とα相の量と、α相とβ相の分布、およびα相の結晶粒の形状を制御した。
これらにより、一段と被削性を向上させたβ相と、延性に富んだα相と、少量のPbと、場合によっては少量のγ相とを含有させることにより、従来の多量のPbを含有するPb添加銅合金に匹敵する快削性能を有する銅合金を発明するに至った。
本発明の第1の態様である快削性銅合金は、61.0mass%超え65.0mass%未満のCuと、1.0mass%超え1.5mass%未満のSiと、0.003mass%以上0.20mass%未満のPbと、0.003mass%超え0.19mass%未満のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.40mass%未満であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.40mass%未満であり、Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.5≦f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]≦59.5
の関係を有するとともに、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%とした場合に、
20≦(α)≦80、
15≦(β)≦80、
0≦(γ)<8、
18×(γ)/(β)<9、
20≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2≦88、
33≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15
の関係を有するとともに、
前記β相内にPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
本発明の第2の態様である快削性銅合金は、61.7mass%以上64.3mass%以下のCuと、1.02mass%以上1.35mass%以下のSiと、0.005mass%以上0.10mass%以下のPbと、0.02mass%以上0.14mass%以下のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.30mass%以下であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.30mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
57.0≦f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]≦59.0
の関係を有するとともに、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%とした場合に、
30≦(α)≦75、
25≦(β)≦70、
0≦(γ)<4、
18×(γ)/(β)<2、
30≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2≦77、
44≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15
の関係を有するとともに、
前記β相内にPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
本発明の第3の態様である快削性銅合金は、本発明の第1、2の態様の快削性銅合金において、アスペクト比(長辺/短辺)が4以下である粒状のα相結晶粒の占める割合が50%以上であることを特徴とする。
本発明の第4態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜3の態様の快削性銅合金において、前記β相中に含有されるSi量が1.2mass%以上1.9mass%以下であることを特徴とする。
本発明の第5の態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜4の態様の快削性銅合金において、電気伝導率が13%IACS以上であり、かつ、引張強さをS(N/mm)、伸びをE(%)とした場合に、強度と伸びとのバランスを示す関係式S×(100+E)/100が600以上であることを特徴とする。
本発明の第6の態様である快削性銅合金は、本発明の第1〜5の態様の快削性銅合金において、自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品に用いられることを特徴とする。
本発明の第7の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第1〜6の態様の快削性銅合金の製造方法であって、1以上の熱間加工工程を有し、前記熱間加工工程のうち、最終の熱間加工工程においては、熱間加工温度が540℃超え675℃未満であり、熱間加工後の530℃から450℃までの温度領域における平均冷却速度が0.1℃/分以上50℃/分以下であることを特徴とする。
本発明の第8の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第7の態様の快削性銅合金の製造方法において、冷間加工工程、矯正加工工程、及び焼鈍工程から選択される1以上の工程を更に有することを特徴とする。
本発明の第9の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第7,8の態様の快削性銅合金の製造方法において、前記熱間加工工程、前記冷間加工工程、前記矯正加工工程、及び前記焼鈍工程のうち、最終の工程の後に実施する低温焼鈍工程を更に有し、前記低温焼鈍工程では、保持温度が250℃以上430℃以下であり、保持時間が10分以上200分以下であることを特徴とする。
本発明の一態様によれば、熱間加工性に優れ、強度が高く、強度と延性のバランス、および靭性に優れ、Pbの含有量を大幅に減少させた快削性銅合金、及び、快削性銅合金の製造方法を提供することができる。
実施形態における銅合金の組織観察写真であり、銅合金は、Zn−62.9mass%Cu−1.14mass%Si−0.072mass%P−0.009mass%Pb合金であって、590℃で熱間押出加工し、530℃から450℃の平均冷却速度を25℃/分として得られた合金である。 実施形態における銅合金の組織観察写真であり、銅合金は、Zn−62.9mass%Cu−1.14mass%Si−0.072mass%P−0.009mass%Pb合金であって、615℃で熱間鍛造し、530℃から450℃の平均冷却速度を28℃/分として得られた合金である。 実施形態における銅合金の組織観察写真であり、銅合金は、Zn−62.5mass%Cu−1.05mass%Si−0.001mass%P−0.016mass%Pb合金であって、595℃で熱間押出加工し、530℃から450℃の平均冷却速度を25℃/分として得られた合金である。 実施例のうち、試験No.T01の切削試験後の切屑の写真である。 実施例のうち、試験No.T303の切削試験後の切屑の写真である。
以下に、本発明の実施形態に係る快削性銅合金及び快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態である快削性銅合金は、自動車部品、電気・家電・電子部品、機械部品、および、飲料用水、工業用水、水素などの液体または気体と接触する器具・部品に用いられるものである。具体的な部品名称として、バルブ、継手、歯車、ねじ、ナット、センサー、圧力容器などが挙げられる。
ここで、本明細書では、[Zn]のように括弧の付いた元素記号は当該元素の含有量(mass%)を示すものとする。
そして、本実施形態では、この含有量の表示方法を用いて、以下のように、組成関係式f1を規定している。
組成関係式f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]
さらに、本実施形態では、非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%で示すものとする。各相の面積率は、各相の量、各相の割合、各相の占める割合とも言う。
そして、本実施形態では、以下のように、複数の組織関係式を規定している。
組織関係式f2=(α)
組織関係式f3=(β)
組織関係式f4=(γ)
組織関係式f5=18×(γ)/(β)
組織関係式f6=(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2
組織・組成関係式f6A=(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15
本発明の第1の実施形態に係る快削性銅合金は、61.0mass%超え65.0mass%未満のCuと、1.0mass%超え1.5mass%未満のSiと、0.003mass%以上0.20mass%未満のPbと、0.003mass%超え0.19mass%未満のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.40mass%未満であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.40mass%未満であり、上述の組成関係式f1が56.5≦f1≦59.5の範囲内、組織関係式f2が20≦f2≦80の範囲内、組織関係式f3が15≦f3≦80の範囲内、組織関係式f4が0≦f4<8の範囲内、組織関係式f5がf5<9の範囲内、組織関係式f6が20≦f6≦88の範囲内、組織・組成関係式f6Aがf6A≧33の範囲内とされており、β相内にPを含む化合物が存在している。
本発明の第2の実施形態に係る快削性銅合金は、61.7mass%以上64.3mass%以下のCuと、1.02mass%以上1.35mass%以下のSiと、0.005mass%以上0.10mass%以下のPbと、0.02mass%以上0.14mass%以下のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.30mass%以下であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.30mass%以下であり、上述の組成関係式f1が57.0≦f1≦59.0の範囲内、組織関係式f2が30≦f2≦75の範囲内、組織関係式f3が25≦f3≦70の範囲内、組織関係式f4が0≦f4<4の範囲内、組織関係式f5がf5<2の範囲内、組織関係式f6が30≦f6≦77の範囲内、組織・組成関係式f6Aがf6A≧44の範囲内とされており、β相内にPを含む化合物が存在している。
ここで、本発明の第1、2の実施形態である快削性銅合金においては、アスペクト比(長辺/短辺)が4以下である粒状のα相結晶粒の占める割合(α相全体に対する割合)が50%以上であることが好ましい。厳密には、粒状のα相結晶粒の占める割合は、ある視野内でのα相結晶粒の総数(個数)を分母とし、アスペクト比が4以下である粒状のα相結晶粒の数(個数)を分子とする割合であり、(アスペクト比が4以下である粒状のα相結晶粒の数(個数)/α相結晶粒の総数(個数))×100である。
また、本発明の第1、2の実施形態である快削性銅合金においては、前記β相中に含有されるSi量が1.2mass%以上1.9mass%以下であることが好ましい。
さらに、本発明の第1、2の実施形態である快削性銅合金においては、電気伝導率が13%IACS以上18%IACS以下であり、かつ、引張強さをS(N/mm)、伸びをE(%)とした場合に、強度と伸びとのバランスを示す特性関係式f7=S×(100+E)/100が600以上であることが好ましい。
以下に、成分組成、組成関係式f1、組織関係式f2,f3,f4,f5,f6、組織・組成関係式f6A、金属組織、特性関係式f7等を、上述のように規定した理由について説明する。
<成分組成>
(Cu)
Cuは、本実施形態である快削性銅合金の主要元素であり、本発明の課題を克服するためには、少なくとも61.0mass%超えの量のCuを含有する必要がある。Cu含有量が、61.0mass%以下の場合、Si,Zn,P,Pbの含有量や、製造プロセスにもよるが、β相の占める割合が80%を超え、材料としての延性に劣る。よって、Cu含有量の下限は、61.0mass%超えであり、好ましくは61.5mass%以上、より好ましくは61.7mass%以上であり、さらに好ましくは62.0mass%以上である。
一方、Cu含有量が65.0mass%以上の場合、Si,Zn,P,Pbの含有量や、製造プロセスにもよるが、β相の占める割合が少なくなり、一方、γ相の占める割合が多くなる。場合によっては、μ相や他の相が出現する。結果、優れた被削性が得られなくなり、延性や靭性も乏しくなる。従って、Cu含有量は、65.0mass%未満であり、好ましくは64.5mass%以下、より好ましくは64.3mass%以下であり、さらに好ましくは63.8mass%以下である。
なお、本実施形態では、被削性とともに、強度、延性などの機械的性質が良好な合金を目的としている。延性、及び延性と強度のバランスを重要視する場合、Cuの下限を、さらに、62.3mass%以上とするのが好ましい。
(Si)
Siは、本実施形態である快削性銅合金の主要な元素であり、Siは、κ相、γ相、μ相、β相、ζ相などの金属相の形成に寄与する。Siは、本実施形態の合金の被削性、強度、高温変形能、耐摩耗性、耐食性、特に耐応力腐食割れ性を向上させる。被削性に関し、前記の範囲の量のCuと、Znと、Siの含有によって形成されるβ相に、優れた被削性を有することを究明した。被削性に優れるβ相は、例えば代表的なものとして、Cuが約61mass%、Siが約1.5mass%、Znが約37.5mass%からなるβ相が、挙げられる。また、同時に、前記の範囲の量のCuと、Znと、Siの含有によって形成されるγ相にも、β相の存在の元で、優れた被削性を有していることを究明した。但し、γ相は、延性に問題があり、その量は制約される。
α相は、例えば代表的な組成として、Cuが約68mass%、Siが約1mass%、Znが約31mass%の組成が、挙げられる。本実施形態の組成範囲では、α相も、Siの含有により被削性は改善されるが、その改善の度合いはβ相に比べはるかに小さい。
また、Siの含有によってα相、β相が固溶強化されるため、合金が強化され、合金の延性や靭性にも影響を与える。そしてSiの含有は、α相の導電率を低くするが、β相の形成により、合金の導電率を向上させる。
合金として優れた被削性を有し、高い強度を得るには、Siは1.0mass%を超えた量で、含有する必要がある。Si含有量は、好ましくは1.02mass%以上であり、より好ましくは1.05mass%以上、さらに好ましくは1.07mass%以上である。
一方、Si含有量が多すぎると、γ相が過多になり、場合によっては、μ相が析出する。γ相は、β相より延性、靭性に劣り、合金の延性を低下させ、場合によっては切削抵抗を高くする。γ相が過多であると、ドリル切削のスラスト値が増す。Siの増量(Si含有量を増やすこと)は合金の導電率を悪くする。本実施形態では、高い強度と共に良好な延性と靭性、及び電気部品等を対象としていることから良好な伝導性を兼ね備えることも目標としているので、Si含有量の上限は1.5mass%未満であり、好ましくは1.35mass%以下である。延性、伝導性を重視すると、Si含有量の上限は、より好ましくは1.3mass%以下であり、さらに好ましくは、1.25mass%以下である。製造プロセスやCu濃度にもよるが、Si含有量が、約1.3mass%より少なくなると、γ相の量は、おおよそ4%より少なくなるが、β相の占める割合を増やすことにより、優れた被削性を保持でき、強度と延性のバランスに優れるようになる。
熱間加工性に関し、Siの含有により、500℃を超える温度域でのα相、β相の熱間変形能を高め、熱間変形抵抗を低くする。その結果、合金の熱間変形能を高め、変形抵抗を低くする。特にSiを1.0mass%を超えて含有すると、その効果が顕著に発揮され、効果は約1.4mass%で飽和する。
なお、直径5mm以下の細棒や厚み5mm以下の板の場合、良好な冷間伸線性、冷間圧延性が重要視される。また、切削加工後に、かしめ加工などの塑性加工が施されることがある。これらの冷間加工性と被削性は、基本的に相反する特性であり、Siの量、またはγ相の量をさらに制限するのが好ましく、Siの量を約1.25mass%以下、或いは、γ相の面積率を約1%以下にするのが好ましい。
Cu−Znの2元合金ベースに、第3、第4の元素を含有させると、また、その元素の量を増減させると、β相の特性、性質は、変化する。特許文献2〜5に記載されているように、Cuが約69mass%以上、Siが約2mass%以上、残部がZnの合金で存在するβ相と、本実施形態の合金として、例えば、Cuが約63mass%、Siが約1.2mass%、残部がZnの合金で存在するβ相とは、同じβ相であっても、特性や性質が異なる。さらに、不可避不純物が多く含まれると、β相の性質も変化し、場合によっては、被削性を含む特性が、変化する。同様に、形成されるγ相も、主要元素の量や配合割合が異なると、γ相の性質は相違し、不可避不純物が多く含まれると、γ相の性質も変化する。そして、同じ組成であっても、温度などの製造条件によって、存在する相の種類、または、相の量、各相への各元素の分配が変化する。
(Zn)
Znは、Cu、Siとともに本実施形態である快削性銅合金の主要構成元素であり、被削性、強度、高温特性、鋳造性を高めるために必要な元素である。なお、Znは残部としているが、強いて記載すれば、Zn含有量は約37.8mass%より少なく、好ましくは約37.5mass%より少なく、約33mass%より多く、好ましくは33.5mass%より多い。
(Pb)
本実施形態においては、Siを含有したβ相によって合金として良好な被削性が得られるが、さらに少量のPbの含有によって、優れた被削性が得られる。本実施形態の組成において、約0.001mass%のPbがマトリックスに固溶し、それを超えた量のPbは直径が0.1〜3μm程度のPb粒子として存在する。Pbは、微量であっても被削性に大きな効果があり、0.003mass%以上の含有量で効果を発揮する。Pb含有量は、好ましくは0.005mass%以上であり、より好ましくは0.01mass%以上であり、さらに好ましくは0.02mass%以上である。切削速度が速くなる場合、送りが大きくなる場合、外周切削の切込深さが深くなる場合、ドリル穴径が大きくなる場合などのように、切削条件が厳しくなる場合は、Pb含有量は、好ましくは0.04mass%以上であり、さらに好ましくは0.05mass%超えである。被削性が大幅に改善されたβ相と、少量のPbの含有により、合金の被削性が大幅に向上する。
Pbは、銅合金の被削性を向上させることは周知の事実であるが、そのために、快削黄銅棒C3604に代表されるように、Cu−Znの2元合金に約3mass%のPbが必要とされる。本実施形態においては、Siを含有したβ相、そしてさらに、後述するPの固溶と、Pを含む化合物がβ相に存在することにより、本実施形態の合金の主構成相のβ相は、すでに大よそC3604に近づく被削性を備えている。そして、少量のPbを含有させ、少量のPb粒子を金属組織に存在させることで、優れた被削性を有する合金が完成する。Pbは、人体に有害であることと、合金に高度な被削性を備えることを考慮し、Pbの上限を0.20mass%未満とした。さらに、Pb含有量は、好ましくは0.10mass%以下であり、人体や環境への影響を鑑みれば、最適には0.08mass%以下である。
(P)
Pに関して、まず、Pがβ相に固溶することによって、β相の被削性、すなわち、β相の切屑の分断性を高め、切削抵抗を下げることができ、合金としての優れた被削性を得ることができる。そしてさらに、Pの含有と製造プロセスによって、平均で直径0.5〜3μm程度の大きさのPを含む化合物が、β相内に形成される。これらの化合物により、外周切削の場合、主分力、送り分力、背分力の3分力を低下させ、ドリル切削の場合では、特にトルクを大きく引き下げる。外周切削時の3分力と、ドリル切削時のトルクと、切屑形状とは、連動しており、3分力、トルクが小さいほど、切屑は分断される。
Pを含む化合物は、熱間加工中には形成されない。Pは、熱間加工中、主としてβ相中に固溶する。そして、熱間加工後の冷却過程において、ある臨界の冷却速度以下で、β相内、またはβ相とα相の相境界に、Pを含む化合物が析出する。α相中には、Pを含む化合物は少ない。金属顕微鏡で観察すると、Pを含む析出物は、粒状で、平均粒子径は0.5〜3μm程度である。そして、その析出物を含有したβ相は、一段と優れた被削性を備えることができる。Pを含む化合物、例えば、P−Si、P−Si−Zn、P−Zn、P−Zn−CuなどのPと、少なくともSi,Znのいずれか一方又は両方とを含む化合物は、切削工具の寿命にほとんど影響を与えず、合金の延性や靭性をほとんど阻害しない。Fe,Mn,Cr,Coと、Si,Pを含む化合物は、合金の強度や耐摩耗性の向上に寄与するが、合金中のSi,Pを消費し、合金の切削抵抗を高め、切屑の分断性を低下させ、工具寿命を悪くし、延性も阻害する。
これらの効果を発揮するためには、Pの含有量の下限は、0.003mass%超えであり、好ましくは0.01mass%以上、より好ましくは0.02mass%以上、さらに好ましくは0.03mass%以上である。
Pの含有量が、約0.015mass%以上であると、金属顕微鏡で、Pを含む化合物を観察することができる。また、Pの量が多くなるにしたがって、Pを含む化合物が形成される臨界の冷却速度が上がり、Pを含む化合物の形成を容易にする。
なお、例えばPとSiの化合物に関しては、Mn,Fe,Cr,CoなどのSiやPと化合しやすい元素の量が増えると、徐々に化合物の組成比も変化する。すなわち、β相の被削性を顕著に向上させるPを含む化合物から、徐々に被削性に効果の少ない化合物に変化する。従って、少なくともFe,Mn,Co及びCrの合計含有量を0.40mass%未満、好ましくは0.30mass%以下にしておく必要がある。
一方、Pを、0.19mass%以上の量で含有させると、析出物が粗大化して被削性への効果が飽和するだけでなく、被削性が却って悪くなり、延性や靭性も低下する。また、β相中のSi濃度が低下することがある。このため、Pの含有量は、0.19mass%未満であり、好ましくは0.14mass%以下であり、より好ましくは0.10mass%以下である。Pの含有量は、約0.05%、または0.05mass%未満でも、十分な量の化合物を形成する。
(不可避不純物、特にFe,Mn,Co及びCr/Sn,Al)
本実施形態における不可避不純物としては、例えば、Mn,Fe,Al,Ni,Mg,Se,Te,Sn,Bi,Co,Ca,Zr,Cr,Ti,In,W,Mo,B,Ag及び希土類元素等が挙げられる。
従来から快削性銅合金、特にZnを約30mass%以上の量で含む快削黄銅は、電気銅、電気亜鉛など、良質な原料が主原料ではなく、リサイクルされる銅合金が主原料となる。当該分野の下工程(下流工程、加工工程)において、ほとんどの部材、部品に対して切削加工が施され、材料100に対して40〜80の割合で多量に廃棄される銅合金が発生する。例えば切屑、端材、バリ、湯道、および製造上の不良を含む製品などが挙げられる。これら廃棄される銅合金が、主たる原料となる。切削切屑、端材などの分別が不十分であると、Pbが添加された快削黄銅、Pbを含有しないが、Biなどが添加されている快削性銅合金、或いは、Si,Mn,Fe,Alを含有する特殊黄銅合金、その他の銅合金から、Pb,Fe,Mn,Si,Se,Te,Sn,P,Sb,As,Bi,Ca,Al,Zr,Niおよび希土類元素が、原料として混入する。また切削切屑には、工具から混入するFe,W,Co,Moなどが含まれる。廃材は、めっきされた製品を含むため、Ni,Cr、Snが混入する。また、電気銅の代わりに使用される純銅系のスクラップの中には、Mg,Sn,Fe,Cr,Ti,Co,In,Ni,Se,Teが混入する。電気銅や電気亜鉛の代わりに使用される黄銅系のスクラップには、特に、Snがメッキされていることが度々あり、高濃度のSnが混入する。
資源の再使用の点と、コスト上の問題から、少なくとも特性に悪影響を与えない範囲で、これらの元素を含むスクラップは、原料として使用される。なお、JIS規格(JIS H 3250)のPbが添加された快削黄銅棒C3604において、必須元素のPbを約3mass%の量で含有し、さらに不純物として、Feは0.5mass%以下、Fe+Sn(FeとSnの合計量)は、1.0mass%まで許容されている。実際に、高い濃度のFeやSnが快削黄銅棒に含有されていることがある。
Fe,Mn,Co及びCrは、Cu−Zn合金のα相、β相、γ相にある濃度まで固溶するが、そのときSiが存在すると、Siと化合しやすく、場合によってはSiと結合し、被削性に有効なSiを消費させる恐れがある。そして、Siと化合したFe,Mn,Co及びCrは、金属組織中にFe−Si化合物,Mn−Si化合物,Co−Si化合物,Cr−Si化合物を形成する。これらの金属間化合物は非常に硬いので、切削抵抗を上昇させるだけでなく、工具の寿命を短くする。このため、Fe,Mn,Co及びCrの量は、制限しておく必要があり、それぞれの含有量は、0.30mass%未満が好ましく、より好ましくは0.20mass%未満であり、0.15mass%以下がさらに好ましい。特に、Fe,Mn,Co及びCrの含有量の合計は、0.40mass%未満とする必要があり、好ましくは0.30mass%以下であり、より好ましくは0.25mass%以下であり、さらに好ましくは0.20mass%以下である。
一方、快削性黄銅や、めっきが施された廃製品などから混入するSn,Alは、本実施形態の合金においてγ相の形成を促進させ、一見被削性に有用であるように思われる。しかしながら、SnとAlは、Cu,Zn,Siで形成されるγ相本来の性質も変化させる。また、Sn,Alは、α相より、β相に多く配分され、β相の性質を変化させる。その結果、合金の延性や靭性の低下、被削性の低下を引き起こす恐れがある。そのため、Sn、Alの量を制限しておくことが必要である。Snの含有量は、0.30mass%未満が好ましく、0.20mass%未満がより好ましく、0.15mass%以下がさらに好ましい。Alの含有量は、0.20mass%未満が好ましく、0.15mass%未満がより好ましく、0.10mass%以下がさらに好ましい。特に、被削性、延性への影響を鑑み、Sn,Alの含有量の合計は、0.40mass%未満にする必要があり、好ましくは0.30mass%以下であり、より好ましくは0.25mass%以下であり、0.20mass%以下がさらに好ましい。
その他の主要な不可避不純物元素として、経験的に、Niはスクラップ等からの混入が多いが、特性に与える影響は前記のFe,Mn,Sn等に比べて小さい。したがってNiの含有量は0.3mass%未満が好ましく、0.2mass%未満がより好ましい。Agについては、一般的にAgはCuとみなされ、諸特性への影響がほとんどないことから、特に制限する必要はないが、Agの含有量は、0.1mass%未満が好ましい。Te,Seは、その元素自身が快削性を有し、稀であるが多量に混入する恐れがある。延性や衝撃特性への影響を鑑み、Te,Seの各々の含有量は、0.2mass%未満が好ましく、0.05mass%以下がより好ましく、0.02mass%以下がさらに好ましい。また、耐食性黄銅には、黄銅の耐食性を向上させるためにAsやSbが含まれているが、延性、衝撃特性、人体への影響を鑑み、As,Sbの各々の含有量は、0.05mass%未満が好ましく、0.02mass%以下がより好ましい。さらに、Biに関しては、Biを含有する快削性銅合金からの混入が考えられるが、本実施形態においては、Biは、人体や環境への影響の恐れから、Biの含有量を0.02mass%以下にすることが好ましい。
その他の元素であるMg,Ca,Zr,Ti,In,W,Mo,B,および希土類元素等のそれぞれの含有量は、0.05mass%未満が好ましく、0.03mass%未満がより好ましく、0.02mass%以下がさらに好ましい。
なお、希土類元素の含有量は、Sc,Y,La、Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Tb,及びLuの1種以上の合計量である。
以上、これら不可避不純物の合計量は、1.0mass%未満が好ましく、0.7mass%以下がより好ましく、0.5mass%以下がさらに好ましい。
(組成関係式f1)
組成関係式f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]は、組成と金属組織の関係を表す式で、各々の元素の量が上記に規定される範囲にあっても、この組成関係式f1を満足しなければ、本実施形態が目標とする諸特性を満足できない。組成関係式f1が56.5未満であると、β相の占める割合が多くなり、延性が悪くなる。よって、組成関係式f1の下限は、56.5以上であり、好ましくは57.0以上であり、より好ましくは57.2以上である。組成関係式f1がより好ましい範囲になるにしたがって、α相の占める割合が増え、優れた被削性を保持するとともに、良好な延性、冷間加工性、衝撃特性、耐食性を備えることができる。特に、良好な冷間加工性を必要とする場合は、組成関係式f1は、さらに好ましくは57.5以上である。
一方、組成関係式f1の上限は、β相の占める割合、または、γ相の占める割合に影響し、組成関係式f1が59.5より大きいと、β相の占める割合が少なくなり、優れた被削性が得られない。同時にγ相の占める割合が多くなり、延性が低下し、強度も下がる。場合によってはμ相が出現する。よって、組成関係式f1の上限は、59.5以下であり、好ましくは59.0以下であり、より好ましくは58.5以下である。特に優れた被削性が必要とする場合は、58.3以下が好ましい。
また、約600℃の熱間加工性に関しても、組成関係式f1は深くかかわっており、組成関係式f1が56.5より小さいと、熱間変形能に問題が生じる。組成関係式f1が59.5より大きいと、熱間変形抵抗が高くなり、600℃での加工が困難になる。
本実施形態である快削性銅合金は、切削時の抵抗を低くし、切屑を細かく分断させるという一種の脆さが求められる被削性と、延性との全く相反する特性を備えたものであるが、各成分の組成だけでなく、組成関係式f1、及び、後述する組織関係式f2〜f6、組織・組成関係式f6Aを、詳細に議論することにより、より目的や用途に合った合金を提供することができる。
なお、Sn,Al,Fe,Mn,Co,Crおよび別途規定した不可避不純物については、不可避不純物として扱われる範疇の範囲内であれば、組成関係式f1に与える影響が小さいことから、組成関係式f1では規定していない。
(特許文献との比較)
ここで、上述した特許文献2〜15に記載されたCu−Zn−Si合金と本実施形態の合金との組成を比較した結果を表1,2に示す。
本実施形態と特許文献2〜11とは、主要元素であるCu、Siの含有量が異なっており、Cuを多量に必要としている。
特許文献2〜4,6,9,11では、金属組織においてβ相は、被削性を阻害するとして、好ましくない金属相として挙げられ、被削性の関係式で、β相はマイナスの相として挙げられている。また、β相が存在する場合、熱処理によって、被削性に優れるγ相に、相変化させることが好ましいとされている。
特許文献4,9〜11では、許容できるβ相の量が記載されているが、β相の面積率は、最大で5%以下である。
特許文献12では、耐脱亜鉛腐食性を向上させるために、SnとAlを少なくとも、各々0.1mass%以上の量で含有し、優れた被削性を得るためには、多量のPb、Biの含有を必要としている。
特許文献13では、65mass%以上のCuを必要とし、Siの含有とともに、Al,Sb,Sn,Mn,Ni,B等を微量含有させることにより、良好な機械的性質、鋳造性を備えた耐食性銅合金鋳物である。
さらにいずれの特許文献においても、本実施形態で必須の要件である、Siを含有するβ相が被削性に優れていること、少なくともβ相は15%以上必要であること、β相内に存在する微細なPを含む化合物に関し、何も開示されておらず示唆もされていない。
なお、特許文献15では、0.2mass%以上のSnを含有し、β相の耐脱亜鉛腐食性を向上させるために、Sn、Siが含有され、被削性の向上のために700℃以上の温度で熱間押出し、耐食性の向上のために400℃〜600℃の熱処理を必要としている。β相の割合は、5〜25%で、Siの含有量は、0.2mass%以下でよいとしている。
Figure 2021042461
Figure 2021042461
<金属組織>
Cu−Zn−Si合金には、10種類以上の相が存在し、複雑な相変化が起こり、組成範囲、元素の関係式だけでは、目的とする特性が必ずしも得られない。最終的には金属組織に存在する相の種類とその面積率の範囲を特定し、決定することによって、目的とする特性を得ることができる。そこで、以下のように、組織関係式を規定している。
20≦f2=(α)≦80、
15≦f3=(β)≦80、
0≦f4=(γ)<8、
f5=18×(γ)/(β)<9
20≦f6=(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2≦88
33≦f6A=(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15
(γ相、組織関係式f4)
特許文献2〜6、9〜11に記載されているように、γ相は、Cu濃度が約69〜約80mass%、Si濃度が約2〜約4mass%のCu−Zn−Si合金において、被削性に最も貢献する相である。本実施形態においても、γ相は被削性に貢献するが、延性と強度とのバランスを優れたものにするためには、γ相を制限しなければならない。具体的には、γ相の占める割合を8%以上にすると、良好な延性や靭性が得られない。γ相は、少量で、ドリル切削の切屑分断性をよくする作用がある。しかし、γ相は硬いため、γ相が多く存在するとドリル切削のスラスト抵抗値を高くする。β相が15%以上の量で存在することを前提に、γ相の被削性への効果は、γ相の量の1/2乗の値に相当し、少量のγ相が含有する場合では、被削性への改善効果は大きいが、γ相の量を増やしても被削性の改善効果は減少していく。延性と、ドリル切削や外周切削の切削抵抗を考慮に入れると、γ相の占める割合は、8%未満にする必要がある。γ相の面積率は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは4%未満である。γ相の面積率が4%未満になると、延性への影響は、少なくなるが、特に冷間加工性が要求される場合は、γ相の面積率は1%未満、或いは、γ相が存在しないことが好ましい。γ相が存在しない、すなわち(γ)=0の場合でも、Siを含有するβ相を後述の割合で存在させることにより、優れた被削性が得られる。
(β相、組織関係式f3、f5)
特許文献に記載されているγ相を制限し、κ相、μ相をほとんど含まず、優れた快削性を得るためには、最適なSi量とCu、Znとの配合割合、β相の量、β相に固溶するSi量が重要となる。なお、ここで、β相には、β’相が含まれるものとする。
本実施形態における組成範囲にあるβ相は、α相に比べると延性に乏しいが、γ相、μ相に比べると遥かに延性に富み、κ相と比べても延性に富む。したがって、延性の点から、比較的多くのβ相を含有させることができる。一方で、γ相は、延性や靭性の面からは、大きな制約を受ける。また、β相は、高濃度のZnとSiを含有するにも関わらず、良好な伝導性を得ることができる。但し、β相やγ相の量は、組成だけでなく、プロセスに大きく影響される。
本実施形態の快削性銅合金であるCu−Zn−Si−P−Pb合金において、Pbの含有量を最小限に留めながら良好な被削性にするためには、少なくとも、β相は、15%以上の面積率で必要であり、かつ、良好な延性を有し、高い強度を得るために、β相の量は、γ相の2倍の量より多くする必要がある。すなわち、f5=18×(γ)/(β)<9(f5を式変形すると2×(γ)<(β))を満たす必要がある。β相の量は、好ましくは20%以上であり、より好ましくは25%以上である。γ相の量が4%未満であっても、場合によっては、γ相の量が0%であっても、関係式f6、f6Aを満たすと、良好な被削性を備えることができる。γ相の量が4%未満であり、かつ、β相の量が、γ相の量の9倍を超えると、良好な延性、靭性と高い強度を備えることができる。そのとき、β相の量は、好ましくは25%以上、より好ましくは35%以上であり、さらに好ましくは40%以上である。β相の占める割合が約50%、または約40%で、被削性に乏しいα相の占める割合が約50%、約60%であっても、合金の被削性は、高いレベルで維持される。
γ相の占める割合が0%または1%未満の場合、Si濃度、α相の形状、β相の分布にも左右されるが、β相の量が、約50%、或いは、約40%以上であると、Pを含む化合物が存在しSiを含有したβ単相合金の被削性を引き継ぐ。軟らかいα相が、β相の周りにクッション材の役割を果たし、切削抵抗だけでなく、切屑の分断性にも悪い影響を与えないと考えられる。さらに、硬質のβ相と軟質のα相の相境界が、切屑分断の応力集中源となり、硬質のβ相単相より、α相の形状によっては、切屑分断性が良くなる。さらに、β相の量が減少し、約20%に達すると、α相の性質が勝るようになり、β相の量が約15〜約25%付近を境にして、被削性が急激に低下する。
一方、β相は、α相に比べ延性に劣る。β相の占める割合が減少するとともに、延性は向上する。良好な延性を得て、強度と延性のバランスをよくするためには、β相の占める割合を80%以下にする必要があり、好ましくは75%以下であり、より好ましくは70%以下である。延性や冷間加工性を重要視するとき、β相の占める割合は、60%以下が好ましく、より好ましくは50%以下である。使用する目的、用途により、適切なβ相の占める割合は、多少変動する。
なお、Siを約1.5mass%の量で含有したβ相には、熱間加工温度としては、500℃の低温度から、優れた熱間変形能、低い熱間変形抵抗を示し、合金として優れた熱間変形能、低い熱間変形抵抗を示す。
(Si濃度とβ相の被削性)
β相は、本実施形態における組成範囲において、β相に固溶するSi量が増えるほど被削性が向上し、β相中に含有されるSi量は、1.2mass%以上であることが好ましい。合金のSi濃度とβ相の量と、合金の被削性の関係を鋭意研究の結果、合金の被削性は、簡便的に、β相の量にSi濃度(mass%、[Si])の1/2乗を掛け合わすとよく適合することが判明した。すなわち、同じβ相であっても、Si濃度の高いβ相のほうが、被削性がよい。例えば、Si濃度が1.0mass%の合金の場合、Si濃度が1.21mass%の合金に比べ、1.1倍の量のβ相が必要であることを示している。但し、合金のSi濃度が、約1.35mass%から約1.5mass%の間でβ相の被削性の改善効果は飽和し、それどころか、約1.5mass%を超えると、Si濃度が増すほど、β相の被削性は低下する。β相中に含有されるSi量で考察すると、β相中に含有されるSi量が1.9mass%を超えると、β相の被削性は却って低下する。よって、β相中に含有される、すなわちβ相中に固溶するSiの量は、1.2mass%以上、1.9mass%以下が好ましい。
(β相、組織関係式f6)
組織関係式f6は、組織関係式f3〜f5に加え、総合的に優れた被削性と延性、強度を得るための、γ相、β相の割合にそれぞれ係数を与えて示したものである。γ相は、前記のとおり、少量で、ドリル切削時の切屑の分断性に優れた効果があり、γ相の量(面積%)の1/2乗に係数3が掛け合わされている。β相は、合金のSi濃度に重みがつけられ、β相の量(面積%)に、Si濃度の1/2乗が掛け合わされ、γ相の量の1/2乗に係数3を掛け合わした値との和が、被削性を得るための組織関係式f6として表されている。組織関係式f6は、重要であるが、前記の組成関係式f1と組織関係式f2〜f5を満たして初めて成立する。良好な被削性を得るための組織関係式f6の下限値は、20以上であり、好ましくは30以上であり、より好ましくは35以上である。被削性を重要視すれば、組織関係式f6の下限値は、好ましくは40以上であり、さらに好ましくは45以上である。一方、組織関係式f6の上限は、延性、強度等の特性を鑑み、88以下であり、好ましくは82以下であり、より好ましくは77以下である。特に、延性と、冷間圧延や細棒の製造等で冷間加工性を重要視する場合は、組織関係式f6は、好ましくは67以下であり、より好ましくは60以下である。
なお、金属組織の関係式f2〜f6、f6Aにおいて、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の金属相を対象としており、Pを含む化合物を除く金属間化合物、Pb粒子、酸化物、非金属介在物、未溶解物質などは対象としていない。Pを含む化合物は、ほとんどがβ相内や、α相とβ相の境界に存在するので、β相内、及びα相とβ相の境界にあるPを含む化合物は、β相に含めるものとする。稀であるがPを含む化合物がα相内に存在する場合は、α相に含めるものとする。Pを含む化合物は、被削性に有効に作用し、その量も僅かであるので、β相に含めても問題ない。一方、SiやPと不可避的に混入する元素(例えばFe,Mn,Co,Cr)によって形成される金属間化合物は、金属相の面積率の適用範囲外である。
(組織・組成関係式f6A)
合金として良好な被削性を得るための条件式として、f6の式に、異なった作用で被削性を改善するPbおよびPの効果を加える必要がある。Siを含有するβ相であって、β相内にPを含む化合物が存在する条件下で、ごく少量のPbを含有すると、被削性が向上する。Pも同様に、β相中への固溶量が増すにしたがって、またはPを含む化合物の量が増えるにしたがって、被削性が向上する。鋭意研究を進めた結果、Pb、Pとも被削性の向上の度合いは、Pb、Pの量の1/2乗と深い関係を持つことが、見出された。すなわち、Pb、Pともごく少量の含有で大きな効果を発揮し、含有量が増すとともに被削性の向上効果は増すが、徐々に緩やかなものになる。
以上をまとめると、β相中に含有されるSi濃度およびβ相の量、β相中でのPの固溶量およびβ相中に存在するPを含む化合物の量、微細な粒子として存在するPbの量は、それぞれ別々の作用により合金の被削性を向上させる。これらのすべての要件が揃うと、それらの相乗作用により、大きな被削性の改善効果を発揮し、Pb、Pともにごく少量の含有で、大幅に合金の被削性が向上する。
組織・組成関係式f6Aは、f6に、Pbの量(mass%、[Pb])の1/2乗に係数35が掛け合わされ、Pの量(mass%、[P])の1/2乗に係数15が掛け合わされ、各々加算されたものである。良好な被削性を得るためには、f6Aが、少なくとも33以上であり、好ましくは40以上、より好ましくは44以上、さらに好ましくは50以上である。組織関係式f6を満たしても、Pb、Pの効果を加えたf6Aを満たさないと、良好な被削性が得られない。なお、Pb、Pの含有量が、本実施形態で規定する範囲内であれば、延性等への影響は、f6の関係式の上限で定められているので、f6Aで規定する必要はない。f6の値が比較的小さい場合、Pb、Pの含有量を増すことにより、被削性は向上する。さらに、切削速度が速くなる場合、送りが大きくなる場合、外周切削の切込深さが深くなる場合、ドリル穴径が大きくなる場合などのように、切削条件が厳しくなる場合、f6Aを大きくすることが好ましく、その中でも、Pbの項を大きくすることが好ましい。
なお、f6、f6Aは、本実施形態で規定する各元素の濃度範囲内、f1〜f5で規定される範囲内でのみ適用される。
(α相、組織関係式f2、α相の形状)
α相は、β相、或いはγ相とともにマトリックスを構成する主要な相である。Siを含有したα相は、Siを含有しないものに比べると、被削性指数で5〜10%の向上に留まるが、Si量が増すにしたがって被削性は向上する。β相の単相であると、合金の延性で問題があり、適切な量の延性に富むα相が必要である。優れた被削性を持つβ相と、被削性に乏しいα相とを含んでいても、α相自体がクッション材の役割、或いは、切削時、硬質のβ相との境界で応力集中源の役割を果たし、α相を比較的多く、例えば約50%の面積率で含んでも、優れたβ単相合金の被削性が維持される。なお、前記の如く、合金のSi濃度、β相中に含有されるSi濃度、そして、α相の形状や分布状況にも左右される。
鋭意研究を重ねた結果、合金の延性、靭性、および延性と強度とのバランスを加味し、α相の量は、20%以上必要であり、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。冷間で、高い加工率の抽伸、伸線や圧延を行う場合、曲げやかしめなどの冷間加工を行うなど、冷間加工性を重要視する場合は、α相の面積率は、40%以上であることが好ましい。一方、α相の面積率の上限は、良好な被削性を得るためには、少なくとも80%以下であり、好ましくは75%以下であり、より好ましくは70%以下、または65%以下である。特に、被削性を重視する場合は、α相の面積率は60%以下が好ましい。
(被削性、機械的性質とα相の形状、β相の分布)
合金の被削性、機械的性質におよぼす、α相の形状、分布、β相の分布に関し、α相結晶粒の形状が針状(結晶粒の長辺/短辺の比が4を超える楕円形)であると、α相の分散が悪くなり、針状の、長辺の大きいα相が、切削時の妨げになる。そして、α相の周りのβ相の結晶粒が大きくなり、β相の分散度合いも悪くなる。さらに、α相結晶粒の結晶粒径が細かいほど、被削性、機械的性質が良くなる。α相結晶粒の平均結晶粒径は、30μm以下が好ましい。α相結晶粒が粒状で細かいと、α相の分布が均一になり、β相も分断される。このため、切削や強度・延性面において、α相が良いクッション材としての役割を果たし、或いは、α相とβ相の相境界が切屑分断の応力集中源としての役割を果たし、切屑は、β相単相合金よりむしろ分断される。したがって、好ましい実施形態として、α相全体に対して、長辺/短辺が4以下のα相結晶粒が占める割合(((長辺/短辺)が4以下である粒状のα相結晶粒の数(個数)/α相結晶粒の総数(個数))×100)が50%以上、より好ましくは75%以上であると、被削性は向上する。そして、針状の、長辺の大きいα相結晶粒が占める割合が50%を超えると、延性は概ね維持されるが、合金の強度が下がる。したがって、粒状のα相結晶粒の割合が大きくなると、強度が高くなり、強度と延性のバランスが向上する。α相結晶粒の形状に関して、長辺/短辺が4を超える針状或いは楕円形のα相結晶粒の割合が、50%、或いは25%を超えるか否かは、製造プロセスに影響され、熱間加工温度が高いと、長辺/短辺が4を超える針状、或いは楕円形のα相結晶粒が多くなる。
(μ相、κ相、その他の相)
優れた被削性を備えるとともに、高い延性や靭性、高い強度を得るには、α、β、γ相以外の相の存在も重要である。本実施形態では、諸特性を鑑み、κ相、μ相、或いはδ相、ε相、ζ相、η相は、特に必要としない。金属組織を形成する構成相(α)、(β)、(γ)、(μ)、(κ)、(δ)、(ε)、(ζ)、(η)の総和を100としたとき、好ましくは、(α)+(β)+(γ)>99であり、計算上の誤差、数字の丸め方を除けば、最適には(α)+(β)+(γ)=100である。
(Pを含む化合物の存在)
Siを含有するβ相は、Pbを3mass%の量で含有する快削性銅合金に比べ、切屑の分断性が不十分であり、外周切削時の切削抵抗、ドリル切削時のトルクが高い。β相内に、平均粒径が0.5〜3μm程度のPを含む化合物が析出することによって、β相の被削性をさらに改善することができる。Pを含む化合物の存在による被削性の改善効果は、単純には、被削性指数で、約10%、場合によっては約12%の向上に相当する。被削性は、Pの含有量、β相の量と分布、形成されるPを含む化合物の大きさ、分布状況等にも影響される。このPを含む化合物は、Pと、少なくともSi及びZnのいずれか一方又は両方とを含む化合物、場合によっては、さらにCuを含む化合物や、さらに不可避不純物であるFe、Mn、Cr、Coなどを含む化合物である。そして、Pを含む化合物は、不可避不純物であるFe,Mn,Cr,Coなどにも影響される。不可避不純物の濃度が、前記で規定した量を超えると、Pを含む化合物の組成が変化し、被削性の向上に寄与しなくなる恐れがある。なお、約600℃の熱間加工温度では、Pを含む化合物は存在せず、熱間加工後の冷却時の臨界の冷却速度で生成する。したがって、熱間加工後の冷却速度が重要となり、530℃から450℃の温度域を、50℃/分以下の平均冷却速度で冷却することが好ましい。前記の平均冷却速度は、より好ましくは45℃/分以下である。一方、冷却速度が遅すぎると、Pを含む化合物が成長し易くなり、被削性への効果が低下する。前記の平均冷却速度の下限は、0.1℃/分以上が好ましく、0.3℃/分以上がより好ましい。
ここで、図1A〜図1Cに、各種合金の金属組織写真を示す。
図1Aの銅合金は、Zn−62.9mass%Cu−1.14mass%Si−0.072mass%P−0.009mass%Pb合金であって、590℃で熱間押出加工し、530℃から450℃の平均冷却速度を25℃/分として得られた合金である。
図1Bの銅合金は、Zn−62.9mass%Cu−1.14mass%Si−0.072mass%P−0.009mass%Pb合金であって、615℃で熱間鍛造し、530℃から450℃の平均冷却速度を28℃/分として得られた合金である。
図1Cの銅合金は、Zn−62.5mass%Cu−1.05mass%Si−0.001mass%P−0.016mass%Pb合金であって、595℃で熱間押出加工し、530℃から450℃の平均冷却速度を25℃/分として得られた合金である。
図1A,図1Bに示すように、熱間押出材、熱間鍛造材ともに、金属顕微鏡で、黒く見える約0.5〜3μmの粒状の析出物が、β相内、β相とα相の相境界に存在している。また、α相結晶粒のほとんどは、長辺/短辺が4以下であり、α相の平均結晶粒径は、図1Aでは約15μmであり、図1Bでは約25μmである。
一方、図1Cにおいては、P量が0.001mass%であるので、Pを含む析出物は存在しない。図1Cと図1A,図1Bとを比較すると、同じ条件でエッチングしても、Pの量が0.001mass%の場合(図1C)、α相とβ相の相境界が明瞭ではないが、Pの量が0.072mass%の場合(図1A,図1B)、α相とβ相の相境界がよりクリアーになっている。前者のP量が0.001mass%であることと、両者のPの量の差である0.071mass%の差が、金属組織を変化させている。
(β相に固溶するSi量と被削性)
本実施形態である組成範囲において生成するα相、β相、γ相のCu,Zn、Siの量には、おおよそ、次の関係がある。
Cu濃度は、α>β≧γ
Zn濃度は、β>γ>α
Si濃度は、γ>β>α
実操業で、590℃でφ25.4mmに熱間押出した試料(Zn−64.1mass%Cu−1.21mass%Si−0.035mass%P合金)、410℃で50分間熱処理した試料(Zn−62.9mass%Cu−1.14mass%Si−0.07mass%P合金)、および実験室で、595℃でφ22mmに押出した試料(Zn−64.0mass%Cu−1.31mass%Si−0.05mass%P合金、および、Zn−62.3mass%Cu−1.06mass%Si−0.04mass%P合金)について、α、β、γ相中の、Cu,Zn,Siの濃度を、2000倍の倍率で、2次電子像、組成像を撮影し、X線マイクロアナライザーで定量分析した。測定は、日本電子製「JXA−8230」を用い、加速電圧20kV、電流値3.0×10−8Aの条件で行った。結果を表3〜6に示す。
β相に固溶するSi濃度は、概ねα相の1.5倍、すなわち、β相には、α相の1.5倍のSiが配分される。例えば、合金のSi濃度が1.2mass%の場合、おおよそα相に1.0mass%のSiが固溶し、β相には、1.5mass%のSiが固溶する。
なお、特許文献2の代表組成のZn−76mass%Cu−3.1mass%Si合金を作製し、X線マイクロアナライザー(EPMA)で分析したところ、γ相の組成は、73mass%Cu−6mass%Si−20.5mass%Znであった。本実施形態のγ相の組成例である60.5mass%Cu−3.5mass%Si−36mass%Znと大きな相違があり、両者のγ相の性質も異なることが予想される。
Figure 2021042461
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(被削性指数)
一般に、3mass%のPbを含有する快削黄銅を基準とし、その被削性を100%として、様々な銅合金の被削性が数値(%)で表されている。一例として、1994年、日本伸銅協会発行、「銅および銅合金の基礎と工業技術(改訂版)」、p533、表1、及び1990年、ASM International発行、“Metals Handbook TENTH EDITION Volume2 Properties and Selection: Nonferrous Alloys and Special-Purpose Materials”、p217〜228の文献に銅合金の被削性が記載されている。
表7の合金は、後述する実験室で作製したPbを0.01mass%の量で含む合金で、同じく実験室の押出試験機でφ22mmに熱間押出されたものである。Cu−Znの2元合金では、Pbを少量含んでも、被削性にほとんど影響がないことから、本実施形態の成分範囲内の0.01mass%の量のPbをそれぞれ含有させた。熱間押出温度は、合金A,Dでは、750℃であり、その他の合金B,C,E,Fでは、635℃であった。押出後、金属組織を調整するため、500℃で2時間熱処理した。後述する切削試験に従って、外周切削、ドリル切削の試験を行い、被削性を求めた。なお、基準材の快削黄銅としては、市販されているC3604(Zn−59mass%Cu―3mass%Pb―0.2mass%Fe―0.3mass%Sn)を用いた。
Figure 2021042461
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前記文献では、α単相黄銅である70Cu−30Znの被削性は30%であると記されている。本実施形態において、表7、表8に示すとおり、同じα単相黄銅である65Cu−35Zn(合金A)の被削性は31%であった。そして、Cu、Znの量を調整し、Siを0.9mass%の量で含有したα単相黄銅(合金D)、すなわち、α相中にSiを0.9mass%の量で固溶させたα単相黄銅では、Siを含まないα黄銅に比べ、被削性指数は約7%向上した。合金A,Dともに切屑は、外周切削とドリル穴あけ切削の両者の試験で、連続した。
外周切削は、主分力、送り分力、背分力に分解できるが、それらの合力(3分力)を切削抵抗とした。ドリル切削については、トルク、スラストに分解し、それらの平均値をドリルの切削抵抗の「総合」として記載した。さらに、合金の被削性として、外周の切削抵抗とドリル切削抵抗を平均し、被削性「総合」指数(評価)とした。
Cu、Znを調整しSiを含まないβ単相黄銅(合金C、54Cu−46Zn)は、Siを含まないα相に比べ、被削性「総合」指数は、約20%向上するが、51%に留まり、切屑の改善はほとんどなく、切屑評価は変わらなかった。Siを約1.3mass%の量で含有したβ単相合金(合金E)では、Siを含まないβ単相合金(合金C)に比べ、さらに被削性「総合」指数で約24%向上した。外周切削、ドリル穴あけ切削時の切屑は、少し改善し、分断されたが、3mass%のPbを含有する快削黄銅との差は大きかった。
そして0.05mass%のPを含有し、Siを1.3mass%の量で含有するβ単相合金(合金F)では、Pを含まずSiを1.3mass%の量で含むβ単相合金に比べ、被削性「総合」指数で約10%向上した。P含有の有無で、外周切削の向上は、約14%であり、ドリル穴あけ切削でのトルクの向上は、約9%であり、顕著に向上した。外周切削の切削抵抗およびドリル切削のトルクの大小は、切屑形状に関連し、0.05mass%のPの含有により、切屑形状の評価結果が「△」から「〇」に向上した。外周切削時の抵抗は、3%のPbを含有する快削黄銅との差も僅かとなり、外周切削、ドリル切削の切屑も、3%のPbを含有する快削黄銅とほぼ同形状になり、著しく改善された。なお、切削抵抗は、強度に影響され、熱間押出材同士で比較すると、強度が高いほど、切削抵抗が大きくなる。β単相黄銅や本実施形態の合金は、3mass%Pbを含有する快削黄銅よりも、1.2〜1.3倍、高い強度を有するので、それを差し引くと1.3mass%のSiと0.05mass%のPを含有するβ単相合金の被削性は、3mass%のPbを含有する快削黄銅の被削性とおおよそ同等といえる。
表4、6から、β単相合金Fは、おおよそ本実施形態の快削性銅合金のβ相に相当し、合金Dは、おおよそα相に相当する。本実施形態の快削性銅合金は、Pbを3mass%含有した快削黄銅の被削性におおよそ匹敵するβ相(合金F)と、Siの含有によって被削性が改善されたα相(合金D)で、構成されている。本実施形態の快削性銅合金は、β相の割合が約50%、或いは約40%になっても、β単相の合金Fの被削性を概ね保持でき、Pbを添加した快削黄銅の被削性に匹敵する。
一方で、合金Bは、Pbを0.01mass%含むが、Si,Pを含まない黄銅で、β相の占める割合が48%であり、外周切削、ドリル切削ともに、α単相黄銅(合金A)よりも切削抵抗は、改善されたが、β単相黄銅(合金C)より切削抵抗が高く、被削性「総合」評価は44%であった。同じβ相率の本実施形態の発明合金の被削性「総合」評価に比べ、おおよそ35%も低い数値であり、切屑形状も全く異なっていた。Pbを0.01mass%含むが、Si,Pを含まず、β相を48%含む黄銅では、切削抵抗、および切屑の形状から、到底、3mass%のPbを含有した快削黄銅の代替にはなり得ない。
本実施形態の快削性銅合金は、β相にPを含む化合物を含み、表3〜6に示されるように、β相に、Siが1.3〜1.6mass%の量で含有されることにより、良好な被削性を備えることができる。
<特性>
(常温強度及び高温特性)
自動車部品を始め本実施形態の使用対象となる部材、部品に対し、薄肉化、軽量化の強い要請がある。必要な強度としては、引張強さが重要視され、延性とのバランスも重要とされている。
そのためには、熱間押出材、熱間圧延材及び熱間鍛造材は、冷間加工を施さない熱間加工あがりの状態で、引張強さが470N/mm以上の高強度材であることが好ましい。引張強さは、より好ましくは500N/mm以上で、さらに好ましくは530N/mm以上である。バルブ、継手、圧力容器、空調・冷凍機に使用される多くの部品は、熱間鍛造で作られており、現行使用されているPb添加銅合金の引張強さは、約400N/mm、伸びが30〜35%であるので、高強度化により軽量化が図れる。
熱間加工後、冷間加工が行われることもあり、冷間加工の影響を加味し、以下の範囲にある材料を高強度、高延性の材料と定義する。
熱間加工材、熱間加工後にさらに加工率30%以内で冷間加工された材料、或いは、さらに冷間加工と熱処理が施され、次に加工率30%以内で冷間加工された材料の場合、以下の特性を有する。以下、最終の冷間加工率を[R]%とするが、冷間加工されない場合は、[R]=0である。引張強さS(N/mm)は、(470+8×[R])N/mm以上、好ましくは、(500+8×[R])N/mm以上である。伸びE(%)は、(0.02×[R]−1.15×[R]+18)%以上、好ましくは、(0.02×[R]−1.2×[R]+20)%以上である。強度と延性のバランスを示す特性関係式f7=S×(100+E)/100は、600以上であることが好ましく、より好ましくは640以上であり、さらに好ましくは670以上であり、最も好ましくは700以上である。
なお、Pbを含有した、熱間加工あがりの快削黄銅は、特性関係式f7が、約530である。このため、本実施形態の銅合金の特性関係式f7は、Pbを含有した熱間加工あがりの快削黄銅の特性関係式f7よりも、少なくとも70以上、さらには100以上大きく、強度と延性のバランスに優れている。
(導電率)
本実施形態の用途には、電気・電子機器部品、EV化が進む自動車部品、その他の高い伝導性部材・部品が含まれる。現在、これらの用途には、Snを6mass%、或いは8mass%の量で含有する、りん青銅(JIS規格、C5191、C5210)が多く使用され、それらの導電率は、各々、約14%IACS、12%IACSである。したがって、本実施形態の銅合金の導電率は、13%IACS以上であれば、電気伝導性に関し大きな問題は生じない。導電率は、好ましくは14%IACS以上である。導電率を悪くする元素であるSiを1mass%超えた量で含有し、かつ、Znを約33mass%以上の量で含有するにも関わらず、高い伝導性を示すのは、β相の量とβ相中に固溶するSiが影響している。なお、導電率の上限は、伝導性が良くなることで、実用上、問題となることはほとんどないから、特に規定しない。
以上の検討結果から、以下の知見を得た。
第1に、従来からCu−Zn−Si合金において生成するβ相は、合金の被削性に効果がないか、或いは、合金の被削性を妨げるとされていた。しかしながら、鋭意研究の結果、一例として、Si量が約1.5mass%、Cu量が約61mass%、Zn量が約37.5mass%であるβ相に、非常に優れた被削性を有することを究明した。
第2に、Cu−Zn−Si合金のβ相の被削性をさらに改善するために、Pを含有させ、β相中へのPの固溶、そしてβ相中に平均粒径が約0.5〜約3μmの大きさのPを含む化合物を析出させると、Pを含有しない、或いは、Pを含む化合物が存在しない合金に比べ、一段と切削抵抗が低下し、同時に切屑の分断性能が著しく向上させることを究明した。
第3に、本実施形態の快削性銅合金で生成するγ相に、優れた切屑分断性に効果があることを究明した。特許文献の銅合金と本実施形態の快削性銅合金では、組成が異なり、同じγ相であっても、前記のβ相のように組成が異なると被削性に大きな差が生じるが、本実施形態の組成範囲で存在するγ相にも優れた被削性があることを見出した。本実施形態においては、Cu含有量、Si含有量が少ないにも関わらず、γ相の被削性、特にドリル切削時の切屑の分断性が優れていることを明らかにした。但し、γ相は、延性を阻害するので、その量を制限する必要があった。合金の延性との関係で、γ相を含まない、α相とβ相の2相の金属組織においても、優れた被削性を備えることを究明した。
第4に、Siを約1.5mass%含むβ相は、高い強度を有するが、延性に乏しく、β相が過多であると、工業用材料としては、不適切である。切屑分断性に優れ、切削抵抗が低いといった被削性を維持すると同時に、良好な延性を備え、かつ、高い強度を持った銅合金に仕上げるために、α相の量、β相の量、γ相の量、α相結晶粒の粒径(α相の結晶粒径)および、α相結晶粒の形状を含めた各パラメータを最適にすることにより、本実施形態の快削性銅合金を完成させた。
第5に、Siを含有させたβ相を含み、β相中にPを含む化合物が存在することにより被削性能が高められた銅合金に、Pbが含有されると、微量のPbが、切屑の分断性、切削抵抗の低下に効果を発揮することを明らかにした。前記Pの量とともに、Pbの量の被削性への効果を明らかにし、被削性、その他の諸特性、人体への影響を鑑み、より最適な組成、金属組織を得ることにより、さらに本実施形態の合金を完成させた。
第6に、従来のPb含有銅合金は、多量のPbを含み、熱間加工温度でPbが溶けているので、650℃以下での熱間変形能に問題があった。本実施形態の合金では、650℃より低い温度、約600℃で、優れた熱間変形能を有し、熱間変形抵抗が低く、容易に熱間加工でき、熱間での延性に富む銅合金に仕上げられた。
(熱間加工性)
本実施形態の快削性銅合金は、約600℃で優れた変形能を有していることが特徴であり、断面積が小さな棒に熱間押出でき、複雑な形状に熱間鍛造できる。Pbを含有する銅合金は、約600℃で強加工すると大きな割れが発生するので、適正な熱間押出温度は625〜800℃とされ、適正な熱間鍛造温度は650〜775℃とされている。本実施形態の快削性銅合金の場合、600℃で80%以上の加工率で熱間加工した場合に割れないことが特徴であり、好ましい熱間加工温度は、650℃より低い温度であり、より好ましくは、625℃より低い温度である。
本実施形態の快削性銅合金では、Siを含有することにより、600℃で、α相、β相の熱間変形能が向上し、変形抵抗が低くなる。そしてβ相の占める割合が大きいので、600℃で容易に熱間加工できる。
熱間加工温度が約600℃であり、従来の銅合金の加工温度より低いと、熱間押出用の押出ダイスなどの工具、押出機のコンテナー、鍛造金型は、400〜500℃に加熱され使用されている。それらの工具と熱間加工材の温度差が小さいほど、均質な金属組織が得られ、寸法精度の良い熱間加工材が作れ、工具の温度上昇がほとんどないので、工具寿命も長くなる。また、同時に、高い強度、強度と伸びのバランスに優れた材料が得られる。
<製造プロセス>
次に、本発明の第1、2の実施形態に係る快削性銅合金の製造方法について説明する。
本実施形態の合金の金属組織は、組成だけでなく製造プロセスによっても変化する。熱間押出、熱間鍛造の熱間加工温度、熱処理条件に影響されるだけでなく、熱間加工や熱処理における冷却過程での平均冷却速度が影響する。鋭意研究を行った結果、熱間加工や熱処理の冷却過程において、530℃から450℃の温度領域における冷却速度に金属組織が大きく影響されることが分かった。
(溶解鋳造)
溶解は、本実施形態の合金の融点(液相線温度)より約100〜約300℃高い温度である約950〜約1200℃で行われる。融点より、約50〜約200℃高い温度である約900〜約1100℃の溶湯が、所定の鋳型に鋳込まれ、空冷、徐冷、水冷などの幾つかの冷却手段によって冷却される。そして、凝固後は、様々に構成相が変化する。
(熱間加工)
熱間加工としては、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延が挙げられる。2以上の熱間加工工程を行う場合、最終の熱間加工工程を以下の条件で行う。
まず、熱間押出に関して、好ましい実施形態として、押出比(熱間加工率)、設備能力にもよるが、実際に熱間加工される時の材料温度、具体的には押出ダイスを通過直後の温度(熱間加工温度)が540℃超えて650℃より低い温度で熱間押出する。熱間押出温度の下限は、熱間での変形抵抗に関係し、上限は、α相の形状に関連し、より狭い温度で管理することにより、安定した金属組織が得られる。650℃以上の温度で熱間押出すると、α相結晶粒の形状が粒状でなく、針状になりやすくなるか、或いは、直径50μmを超える大きなα相結晶粒が出現し易くなる。針状で粗大なα相結晶粒が出現すると、強度がやや低くなり、強度と延性のバランスが少し悪くなり、Pを含む析出物の分布が悪くなり、長辺が大きく粗大なα相結晶粒が切削の障害となり、被削性が少し悪くなる。α相結晶粒の形状は、組成関係式f1と関係があり、組成関係式f1が58.0以下の場合は、押出温度が625℃より低いことが好ましい。一般の銅合金より、低い温度で押出することにより、良好な被削性と強度を備えることができる。
そして熱間押出後の冷却速度の工夫により、より良好な被削性を備えた材料を得ることができる。すなわち、熱間押出後の冷却過程で、530℃から450℃の温度領域における平均冷却速度を、50℃/分以下、好ましくは45℃/分以下に設定して冷却する。平均冷却速度を50℃/分以下に制限することにより、倍率500倍の金属顕微鏡でPを含む化合物の存在が確認できる。一方、冷却速度が遅すぎると、Pを含む化合物が成長し、被削性への効果が低下する恐れがあるので、前記の平均冷却速度は、0.1℃/分以上が好ましく、0.3℃/分以上がより好ましい。
実測が可能な測定位置に鑑みて、熱間加工温度は、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延の終了時点から約3秒後または4秒後の実測が可能な熱間加工材の温度と定義する。金属組織は、大きな塑性変形を受けた加工直後の温度に影響を受ける。議論されている熱間加工後の平均冷却速度が、約50℃/分であるので、3〜4秒後の温度低下は、計算上、約3℃であり、ほとんど影響を受けない。
熱間鍛造は、素材として、主として熱間押出材が用いられるが、連続鋳造棒も用いられる。熱間押出に比べ、熱間鍛造は、加工速度が速く、複雑形状に加工し、場合によっては、肉厚が約3mmにまで強加工することがあるので、鍛造温度は、熱間押出温度より高い。好ましい実施形態として、鍛造品の主要部位となる大きな塑性加工が施された熱間鍛造材の温度、すなわち鍛造直後(鍛造の終了時点)から約3秒後または4秒後の材料温度は、540℃を超え、675℃より低いことが好ましい。鍛造用の黄銅合金として広く世の中で使用されているPbを2mass%の量で含有する黄銅合金(59Cu−2Pb−残部Zn)では、熱間鍛造温度の下限は650℃とされるが、本実施形態の熱間鍛造温度は、650℃より低いことがより好ましい。熱間鍛造においても、組成関係式f1と関係があり、組成関係式f1が58.0以下の場合は、熱間鍛造温度が650℃より低いことが好ましい。熱間鍛造の加工率にもよるが、温度が低いほど、α相の結晶粒の大きさが小さくなり、α相結晶粒の形状が、針状から粒状に変化し、強度が高くなり、強度と延性のバランスが良くなり、かつ、被削性が良くなる。
そして、熱間鍛造後の冷却速度の工夫により、被削性の諸特性を備えた材料を得ることができる。すなわち、熱間鍛造後の冷却過程で、530℃から450℃の温度領域における平均冷却速度を、50℃/分以下、好ましくは45℃/分以下に設定して冷却する。冷却速度を制御することにより、β相中、および相変化が起こっているβ相とα相との境界に、約0.5〜3μmのPとSi,Znを主とする化合物を析出させることにより、合金の被削性を一段と向上させることができる。なお、冷却速度が遅すぎると、冷却過程で化合物の粗大化が生じるので、前記の平均冷却速度の下限は、0.1℃/分以上であり、0.3℃/分以上が好ましい。
熱間圧延では、鋳塊を加熱し、5〜15回、繰り返し圧延される。そして、最終の熱間圧延終了時の材料温度(終了時点から3〜4秒経過後の材料温度)が、540℃超え、650℃より低いことが好ましく、625℃より低いことがより好ましい。熱間圧延終了後、圧延材が冷却されるが、熱間押出と同様、530℃から450℃の温度領域における平均冷却速度を0.1℃/分以上50℃/分以下とすることが好ましい。前記の平均冷却速度は、より好ましくは、0.3℃/分以上、または45℃/分以下である。
(熱処理)
銅合金の主たる熱処理は、焼鈍とも呼ばれ、例えば熱間押出では押出できない小さなサイズに加工する場合、冷間抽伸、或は冷間伸線後に、必要に応じて熱処理が行われ、この熱処理は、再結晶、すなわち材料を軟らかくすることを目的として実施される。圧延材も同様で、冷間圧延と熱処理が施される。本実施形態においては、さらに、γ相、β相の量を制御することも目的として熱処理が施される。
再結晶を伴う熱処理が必要な場合は、材料の温度が、400℃以上600℃以下で、0.1時間から8時間の条件で加熱される。前工程で、Pを含む化合物が形成されていない場合、熱処理中に、Pを含む化合物が形成される。なお、530℃を超える温度で熱処理すると、Pを含む化合物が再固溶し、消失する。熱処理温度が530℃を超える場合、冷却過程において、530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を50℃/分以下、好ましくは45℃/分以下に設定して冷却し、Pを含む化合物を形成する必要がある。前記の平均冷却速度の下限は、0.1℃/分以上が好ましい。
(冷間加工工程)
熱間押出棒の場合、高い強度を得るため、寸法精度を良くするため、または押出された棒材、コイル材を曲がりの少ない直線形状にするために、熱間押出材に対して冷間加工を施されることがある。例えば熱間押出材に対して、約2%〜約30%の加工率で冷間抽伸、場合によっては抽伸加工後、矯正加工、低温焼鈍が施される。
細い棒、線、或いは、圧延材は、冷間加工と熱処理が繰り返し実施され、熱処理後、最終加工率0%〜約30%の冷間加工、矯正加工、低温焼鈍が施される。
冷間加工の利点は、合金の強度を高めることができる点である。熱間加工材に対して、冷間加工と、熱処理を組み合わせることにより、その順序が逆であっても、高い強度、延性、衝撃特性のバランスを取ることができ、用途に応じ、強度重視、延性や靱性重視の特性を得ることができる。なお、冷間加工による、被削性への影響は小さい。
(低温焼鈍)
棒、線、鍛造品、圧延材においては、残留応力の除去、棒材の矯正(棒材の直線度)、金属組織の調整と改善を主たる目的として、再結晶温度以下の温度で棒材、線材、鍛造品、圧延材を最終の工程で低温焼鈍することがある。本実施形態の場合、前記熱処理と区別するため、金属組織中で再結晶する割合が、50%より小さい場合を低温焼鈍と定義する。低温焼鈍は、保持温度が250℃以上430℃以下で、保持時間が10〜200分の条件で行われる。下限の条件は、残留応力が十分に除去できる最低の温度、または時間である。また、断面が凹状で底面が平滑な面の型枠、例えば、幅約500mm、高さ約300mm、厚み約10mm、長さ約4000mmの鋼製の型枠(凹状のくぼみの深さは(高さ)−(厚み))に、棒材を整列して並べ、250℃以上430℃以下の温度で、10〜200分保持することにより、直線性に優れた棒材を得ることができる。温度をT℃、時間をt分とすると、300≦焼鈍条件式f8=(T−200)×(t)1/2≦2000の条件が好ましい。焼鈍条件式f8が300より小さいと、残留応力の除去、または矯正が不十分である。焼鈍条件式f8が2000を超えると、再結晶により材料の強度が低下する。焼鈍条件式f8は、好ましくは、400以上であり、1600以下である。前工程の冷却速度に関わらず、焼鈍条件式f8が400以上であると、微細なPを含む化合物が、低温焼鈍中に形成される。また、合金組成にもよるが、250℃以上、430℃以下の温度で、10〜200分間、保持すると、β相内、β相とα相の相境界に、微細なγ相を析出させることができ、穴あけ切削の切屑を微細にする。但し、γ相の増加とともに、β相が減少するので被削性が悪くなることがある。またγ相が、過多になると、被削性の向上が飽和し、延性が乏しくなる。このため、組織関係式f2〜f6を注視しておく必要がある。
このような製造方法によって、本発明の第1,2の実施形態に係る高強度快削性銅合金が製造される。
熱間加工工程、熱処理(焼鈍とも言う)工程、低温焼鈍工程は、銅合金を加熱する工程である。基本となる製造工程は、溶解・鋳造、熱間加工(押出、鍛造、圧延)、冷間加工(抽伸、伸線、圧延)、矯正加工、低温焼鈍であり、矯正加工、冷間加工、低温焼鈍を含まない場合もある。なお、矯正加工は、通常、冷間で行われるため、冷間加工とも言う。φ5〜7mm以下の細い棒、線、厚みが8mm以下の板は、前記工程に熱処理が含まれることがある。熱処理は、主として冷間加工後に行われ、最終寸法に応じ、熱処理と冷間加工が繰り返される。最終製品の直径が小さいほど、厚みが薄いほど、冷間加工性が、被削性と同等以上に、重要視される。熱処理は、熱間加工後、冷間加工前に行われることもある。
低温焼鈍工程は、熱間加工工程、冷間加工工程、矯正加工工程、及び焼鈍工程のうち、最終の工程の後に実施する。低温焼鈍工程を行う場合、通常、焼鈍工程は、加工工程の間に行うため、低温焼鈍工程は、熱間加工工程、冷間加工工程、及び矯正加工工程のうち、最終の加工工程の後に実施するともいえる。
具体的には、以下の製造工程の組み合わせが挙げられる。なお、熱間押出の代わりに、熱間圧延を行ってもよい。
(1)熱間押出−低温焼鈍
(2)熱間押出−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−低温焼鈍
(3)熱間押出−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−矯正加工−低温焼鈍
(4)熱間押出−冷間加工(伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−低温焼鈍
(5)熱間押出−冷間加工(冷間伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−矯正加工−低温焼鈍
(6)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−低温焼鈍
(7)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)−矯正加工−低温焼鈍
(8)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−低温焼鈍
(9)熱間押出−焼鈍−冷間加工(抽伸、伸線、圧延)と焼鈍の繰り返し−冷間加工−矯正加工−低温焼鈍
(10)熱間押出−冷間抽伸−矯正加工(矯正加工は無くともよい)−熱間鍛造−低温焼鈍
(11)熱間押出−矯正加工−熱間鍛造−低温焼鈍
(12)熱間押出−熱間鍛造−低温焼鈍
(13)鋳造−熱間鍛造−低温焼鈍
(14)鋳造−矯正加工−熱間鍛造−低温焼鈍
以上のような構成とされた本発明の第1、第2の実施形態に係る快削性合金によれば、合金組成、組成関係式、金属組織、組織関係式、組織・組成関係式を上述のように規定しているので、Pbの含有量が少なくても優れた被削性を得ることができ、優れた熱間加工性、高い強度、強度と延性のバランスに優れている。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的要件を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
以下、本実施形態の効果を確認すべく行った確認実験の結果を示す。なお、以下の実施例は、本実施形態の効果を説明するためのものであって、実施例に記載された構成要件、プロセス、条件が、本実施形態の技術的範囲を限定するものでない。
実操業で使用している低周波溶解炉及び半連続鋳造機を用いて銅合金の試作試験を実施した。
また、実験室設備を用いて銅合金の試作試験を実施した。
合金組成を表9〜12に示す。また、製造工程を表13〜19に示す。なお、組成において、“MM”は、ミッシュメタルを示し、希土類元素の合計量を示す。各製造工程について以下に示す。
(工程No.A0〜A6、A10、AH1、AH2)
表13に示すように、実操業している低周波溶解炉及び半連続鋳造機により直径240mmのビレットを製造した。原料は、実操業に準じたものを使用した。ビレットを長さ800mmに切断して加熱した。公称能力3000トンの熱間押出機で、直径25.6mmの丸棒を2本押出した。そして押出材を、530℃から450℃の温度領域を幾つかの冷却速度で冷却した。温度測定は、熱間押出の中盤から終盤を中心に放射温度計を用いて行い、押出機より押出されたときから約3〜4秒後の押出材の温度を測定した。なお、以後の熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延の温度測定には、LumaSense Technologies Inc製の型式IGA8Pro/MB20の放射温度計を用いた。
その押出材の温度の平均値が表13に示す温度の±5℃((表に示す温度)−5℃〜(表に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
工程No.A0、A1、A2、A4、AH2では、押出温度が590℃であり、No.A3では、押出温度が635℃、No.AH1では、押出温度が680℃であった。そして、熱間押出後、530℃から450℃の平均冷却速度は、工程No.A2では45℃/分、工程No.AH2では65℃/分とした。工程No.A2、AH2以外の工程では、前記平均冷却速度は25℃/分であった。
熱間押出終了後、工程No.A0では、熱間押出上がりとし、冷間で矯正した。矯正では、実質的な冷間加工率は0%であった。工程No.A4では、抽伸加工率を8.4%とした。工程No.A0、A4以外の工程では、直径25.6mmから直径25.0mmに冷間で抽伸した(加工率4.7%)。さらに、工程No.A5、A6では、工程No.A1の素材を用い、それぞれ、実験室で、275℃で100分間、410℃で50分間の条件で、型枠に材料を入れ低温焼鈍した。工程No.A10では、575℃で、直径45mmに熱間押出を行い、530℃から450℃の平均冷却速度を20℃/分で実施した。工程No.A10は、鍛造実験にも使用した。
ここで、低温焼鈍を実施したものについては、以下に示す焼鈍条件式f8を算出した。
f8=(T−200)×(t)1/2
T:温度(材料温度)(℃)、t:加熱時間(分)
また、断面が凹状、幅約500mm、高さ300mm、厚み10mmで、長さが4000mmの鋼製の型枠に、棒材を4段積みに整列して並べた状態で低温焼鈍し、次いで、棒材の曲がりを測定した。
曲がり測定結果は、合金No.S01、S02に工程No.A5、A6、後述の工程No.B6を施して得られた試料の全ての曲がりが、棒材1メートルあたり0.1mm以下で、良好であった。
(工程No.B1〜B7、BH1、BH2)
表14に示すように、実操業設備を用いて、工程No.B1〜B7、BH1、BH2では、直径20.0mmに熱間押出し、工程No.B5、B7を除き、直径19.03mmに冷間で抽伸した。工程No.B5では、直径18.5mmに冷間で抽伸した。工程No.B1,B2,B5,B6,B7では、押出温度を610℃とした。工程No.B3とBH2では押出温度を580℃とし、工程No.B4では押出温度を640℃とし、工程No.BH1では押出温度を680℃とし、熱間押出した。押出後の530℃から450℃の平均冷却速度は、工程No.BH2では55℃/分とし、工程No.B2では0.2℃/分とした。それ以外の工程では、平均冷却速度を38℃/分として冷却を行った。工程No.B6では、工程No.B1の材料を用いて、310℃で100分間、型枠に入れ低温焼鈍した。工程No.B7は、工程No.Eに進めた。
(工程No.C1〜C3、C10、CH1、CH2)
表15に示すように、実験室において、所定の成分比で原料を溶解した。直径100mm、長さ180mmの金型に溶湯を鋳込み、ビレットを作製した(合金No.S51〜S65、No.S70〜S84)。なお、実操業している溶解炉からも溶湯を得て、さらに、Fe、Sn等の不純物をさらに意図的に加え、溶湯を直径100mm、長さ180mmの金型に鋳込み、ビレットを作製した(合金No.S11〜S17、No.S21〜S26)。なお、意図的に加えたFe、Sn等の不純物の濃度は、市販のPbを含有した黄銅とおおよそ同じレベル、またはそれ以下である。
このビレットを加熱し、工程No.C1,C3,CH2では押出温度を595℃とし、工程No.C2では押出温度を635℃とし、工程No.CH1では押出温度を675℃とし、直径22mmの丸棒に押出した。押出後の530℃から450℃の平均冷却速度を、工程No.CH2では72℃/分とし、工程No.C1,C2,C3,CH1では30℃/分とした。次に、直線度の良いものは、矯正していないが、直線度の悪いものは、矯正した(加工率0%)。工程No.C3では、工程No.C1の棒を用い、320℃、60分の条件で低温焼鈍した。
工程No.C10では、押出温度を575℃とし、直径45mmに押出し、平均冷却速度を、20℃/分とし、鍛造用素材とした。
前述した合金A〜合金Fは、工程Cの方法に従って作製された。ただし、押出温度は、合金A,Dでは、750℃とし、その他の合金B,C,E,Fでは、635℃とし、押出後の530℃から450℃の平均冷却速度を30℃/分とした。そして、すべての合金A〜合金Fは、押出後、金属組織を調整するために500℃で2時間熱処理した。なお、比較材の2mass%Pbを含有する鍛造用黄銅C3771、合金Hとしては、市販されているものを使用した。
(工程D)
工程No.Dでは、実験室と、実操業している溶解炉からも溶湯を得て、内径45mmの金型に鋳込んだ。冷却過程において、530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を40℃/分とし、工程Fの鍛造用素材とした。
(工程E)
表17に示すように、工程No.Eは焼鈍を含む工程である。主として、例えば直径7mm以下の細い棒材を作製する工程であるが、棒材が細いと切削試験ができないので、直径の大きな押出棒で代用試験した。
工程No.E1では、工程No.B7により得られた直径20mmの素材を、冷間抽伸加工で16.7mmとし、480℃、60分の熱処理を施し、次いで冷間抽伸で直径16mmとした。
工程No.E2では、工程No.C1により得られた直径22mmの素材を、冷間抽伸で18.4mmとし、450℃、90分の熱処理を施し、次いで冷間抽伸で直径17.7mmとした。
(工程No.F1〜F5、FH1〜FH2)
表18に示すように、工程No.A10、C10、D1で得られた直径45mmの丸棒を長さ180mmに切断した。この丸棒を横置きにして、熱間鍛造プレス能力150トンのプレス機で、厚み16mmに鍛造した。所定の厚みに熱間鍛造された直後から約3秒〜約4秒経過後に、放射温度計、および接触温度計を用いて温度の測定を行った。熱間鍛造温度(熱間加工温度)は、表18に示す温度±5℃の範囲((表に示す温度)−5℃〜(表に示す温度)+5℃の範囲内)であることを確認した。
工程No.F1、F2、F3、F5、FH1、FH2では、熱間鍛造温度を、それぞれ660℃、640℃、615℃、620℃、685℃、615℃に変えて実施した。530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を、工程No.FH2では63℃/分とした。それ以外の工程では、平均冷却速度を28℃/分として冷却を実施した。工程Fでは、鍛造品を得ており、矯正(冷間加工)を実施せず、熱間鍛造ままであった。なお、工程No.F4では、工程No.F3の鍛造品を用い、290℃、100分の条件で、低温焼鈍した。
熱間鍛造材は、切断し、切削試験、機械的性質の実験に供した。
(工程R)
工程No.R1では、実操業している溶解炉から、溶湯の一部を、断面が35mm×70mmの鋳型に鋳込んだ。鋳物の表面を面削して32mm×65mm×200mmとし、650℃に加熱し、2パスの熱間圧延を施して厚みを15mmにした。最終の熱間圧延の終了時点から約3〜約4秒後の材料温度は560℃であり、530℃から450℃の温度領域での平均冷却速度を20℃/分として、冷却した。そして得られた圧延板を厚み10mmまで冷間圧延し、電気炉を用いて480℃で60分の条件で熱処理し、さらに厚み9mmまで冷間圧延した。
上述の試験材について、以下の項目について評価を実施した。評価結果を表20〜32に示す。
(金属組織の観察)
以下の方法により金属組織を観察し、α相、β相、γ相、κ相、μ相など各相の面積率(%)を画像解析により測定した。なお、α’相、β’相、γ’相は、各々α相、β相、γ相に含めることとした。
各試験材の棒材、鍛造品を、長手方向に対して平行に、または金属組織の流動方向に対して平行に切断した。次いで表面を研鏡(鏡面研磨)し、過酸化水素とアンモニア水の混合液でエッチングした。エッチングでは、3vol%の過酸化水素水3mLと、14vol%のアンモニア水22mLを混合した水溶液を用いた。約15℃〜約25℃の室温にてこの水溶液に金属の研磨面を約2秒〜約5秒浸漬した。
金属顕微鏡を用いて、倍率500倍で金属組織を観察し、各相の割合を求め、Pを含む化合物の有無を調べた。金属組織の状況によっては1000倍で観察し、相と化合物を確認した。5視野の顕微鏡写真において、画像処理ソフト「Photoshop CC」を用いて各相(α相、β相、γ相、κ相、μ相)を手動で塗りつぶした。次いで画像解析ソフト「WinROOF2013」で2値化し、各相の面積率を求めた。詳細には、各相について、5視野の面積率の平均値を求め、平均値を各相の相比率とした。Pを含む化合物を除く析出物、酸化物、硫化物、晶出物は、除外され、全ての構成相の面積率の合計を100%とした。
そして、Pを含む化合物を観察した。金属顕微鏡を用い、500倍で観察できる最小の析出粒子の大きさは、おおよそ0.5μmである。相の割合と同様に、500倍の金属顕微鏡で観察できる析出物で、まず、Pを含む化合物の有無の判断を行った。この観察条件でPを含む化合物が確認できた場合、Pを含む化合物の存在評価を「〇」(good)とした。Pの含有量、製造条件にもよるが、1つの顕微鏡視野の中に、数個〜数百個のPを含む化合物が存在する試料があった。Pを含む化合物は、ほとんどがβ相内、α相とβ相の相境界に存在するので、β相に含めた。また、稀であるが、α相内に存在する場合については、α相に含めるものとした。さらに、β相内に、大きさが0.5μm未満のγ相が存在することがあった。本実施形態においては、倍率500倍の金属顕微鏡で、0.5μm未満の大きさの相の識別が不可能なので、超微細なγ相は、β相として処理された。Pを含む化合物は、金属顕微鏡で、黒灰色を呈し、Mn、Feで形成される析出物、化合物は、水色を呈するので、区別がつく。
α相の中で、針状であるか否かの区別をする必要がある。よって、α相の形状を以下のように評価した。
一つのα相の結晶粒において、長辺/短辺の比が4を超える場合を針状(楕円形状)のα相結晶粒とし、α相の結晶粒の長辺/短辺の比が4以下の場合を粒状のα相結晶粒として定義した。前記金属組織の観察のなかで、α相全体に対する粒状のα相結晶粒の占める個数の割合を調べた。粒状のα相結晶粒の占める割合が50%未満の場合を「×」(poor)と評価した。粒状のα相結晶粒の占める割合が50%以上75%未満の場合を「△」(fair)と評価した。粒状のα相結晶粒の占める割合が75%以上の場合を「〇」(good)と評価した。α相結晶粒の形状は、機械的性質、被削性に影響し、粒状のα相結晶粒が多くなるほど、機械的性質、被削性が良くなる。
各々の相の面積率、化合物の有無は、具体的には、約70mm×約90mmのサイズにプリントアウトした写真を用いて評価した。
相の同定、析出物の同定が困難な場合は、電界放出形走査電子顕微鏡(FE−SEM)(日本電子株式会社製のJSM−7000F)と付属のEDSを用いて、加速電圧15kV、電流値(設定値15)の条件で、FE−SEM−EBSP(Electron Back Scattering Diffracton Pattern)法により、倍率500倍又は2000倍で、相、析出物を特定した。
また、幾つかの合金について、β相に含有されるSi濃度を測定する場合、及びPを含む化合物の判断が困難な場合に、主として、2000倍の倍率で、2次電子像、組成像を撮影し、X線マイクロアナライザーで定量分析、または定性分析した。測定には、日本電子製「JXA−8230」を用い、加速電圧20kV、電流値3.0×10−8Aの条件で行った。これらの電子顕微鏡による調査で、Pを含む化合物が観察された場合、Pを含む化合物の存在評価を「△」(fair)とした。Pを含む化合物が観察されなかった場合、Pを含む化合物の存在評価を「×」(poor)とした。本実施形態のPを含む化合物の存在については、「△」も含むものとする。表では、Pを含む化合物の存在評価の結果を項目「P化合物」に示す。
(導電率)
導電率の測定は、日本フェルスター株式会社製の導電率測定装置(SIGMATEST D2.068)を用いた。なお、本明細書においては、「電気伝導」と「導電」の言葉を同一の意味に使用している。また、熱伝導性と電気伝導性は強い相関があるので、導電率が高い程、熱伝導性が良いことを示す。
(引張強さ/伸び)
各試験材をJIS Z 2241の10号試験片に加工し、引張強さ及び伸びの測定を行った。
冷間加工工程を含まない熱間押出材、或いは熱間鍛造材の引張強さが、好ましくは470N/mm以上、より好ましくは500N/mm以上、さらに好ましくは530N/mm以上であれば、快削性銅合金の中で最高の水準であり、各分野で使用される部材の薄肉・軽量化、或いは許容応力の増大を図ることができる。また、強度と伸びとのバランスにおいても、引張強さをS(N/mm)、伸びをE(%)とすると、強度と延性のバランスを示す特性関係式f7=S×(100+E)/100が、好ましくは600以上、より好ましくは640以上であり、さらに好ましくは670以上、さらには700以上であると、快削性銅合金の中で非常に高い水準であるといえる。
<旋盤による被削性試験>
被削性の評価は、以下のように、旋盤を用いた切削試験で評価した。
熱間押出棒材、熱間鍛造品について、切削加工を施して直径を14mmとして試験材を作製した。チップブレーカーの付いていないK10の超硬工具(チップ)を旋盤に取り付けた。この旋盤を用い、乾式下にて、すくい角:0°、ノーズ半径:0.4mm、逃げ角:6°、切削速度:40m/分、切り込み深さ:1.0mm、送り速度:0.11mm/rev.の条件で、直径14mmの試験材の円周上を切削した。
工具に取り付けられた3部分から成る動力計(三保電機製作所製、AST式工具動力計AST−TL1003)から発せられるシグナルが、電気的電圧シグナルに変換され、レコーダーに記録された。次にこれらのシグナルは切削抵抗(主分力、送り分力、背分力、N)に変換された。切削試験は、チップの摩耗の影響を抑えるために、A→B→C→・・・C→B→Aの往復を2回実施し、各試料について4回測定した。切削抵抗は、以下の式によって求められる。
切削抵抗(主分力、送り分力、背分力の合力)=((主分力)+(送り分力)+(背分力)1/2
尚、各サンプルで4回測定し、その平均値を採用した。Zn−59mass%Cu−3mass%Pb−0.2mass%Fe−0.3mass%Sn合金からなる市販の快削黄銅棒C3604の切削抵抗を100とし、試料の切削抵抗の相対値(被削性指数)を算出し、相対評価をした。被削性指数が、高いほど良好な被削性を有する。尚、「3分力」の記載は、主分力、送り分力、背分力の合力を指し、被削性指数を示す。
なお、被削性指数は下記のようにして求めた。
試料の切削試験結果の指数(被削性指数)=(C3604の切削抵抗/試料の切削抵抗)×100
同時に切屑を採取し、切屑形状により被削性を評価した。実用の切削で問題となるのは、切屑の工具への絡みつき、及び、切屑の嵩張りである。このため、切屑形状として、平均で長さが5mmより短い切屑が生成した場合を良好“〇”(good)と評価した。切屑形状として、平均で長さが5mm以上15mm未満の切屑が生成した場合を可“△”(fair)と評価し、実用上多少問題があるが切削可能と評価した。切屑長さが平均で15mm以上の切屑が生成した場合を“×”(poor)と評価した。なお、最初に生成された切屑は除外して評価した。
切削抵抗は、材料のせん断強さ、引張強さに依存し、強度が高い材料ほど切削抵抗が高くなる傾向がある。高強度材の場合、Pbを1〜4mass%含有する快削黄銅棒の切削抵抗に対して、切削抵抗が約40%高くなる程度であれば、実用上良好とされる。本実施形態においては、3mass%Pbを含有する快削黄銅C3604に比べ、押出材のせん断強さが、おおよそ1.2〜1.3倍あり、そのため本実施形態における被削性の評価基準を、被削性指数が約70を境(境界値)として評価した。詳細には、被削性指数が80以上であれば、被削性に優れる(評価:◎、excellent)と評価した。被削性指数が70以上80未満であれば、被削性が良好である(評価:〇、good)と評価した。被削性指数が63以上70未満であれば、被削性が可である(評価:△、fair)と評価した。被削性指数が63未満であれば、被削性が不可である(評価:×、poor)と評価した。
同等の強度であれば、切屑形状と被削性指数とは、相関関係があり、被削性指数が大きいと、切屑分断性が良い傾向があり、数値化できる。
冷間加工性を重視する場合においても、少なくとも、切屑、切削抵抗の評価が、「可」以上であることが必要である。
因みに、Zn濃度が高く、Pbを0.01mass%を含み、β相を約50%含む快削性銅合金であるZn−58.1mass%Cu−0.01mass%Pb合金の被削性指数は39であり、切屑の長さは15mmを超えた。同様に、Siを含まず、0.01mass%のPbを含むβ単相の銅合金であるZn−55mass%Cu−0.01mass%Pb合金の被削性指数は41であり、切屑の長さは15mmを超えた。
試験No.T01(合金No.S01)では、0.072mass%のPを含み、590℃で熱間押出され、Pを含む化合物が存在した。この試験No.T01(合金No.S01)の切屑の外観を図2Aに示す。また、試験No.T303(合金No.S71)では、Pの含有量が0.003mass%以下で、595℃で熱間押出され、Pを含む化合物の存在が金属顕微鏡および電子顕微鏡で確認できなかった。この試験No.T303(合金No.S71)の切屑の外観を図2Bに示す。
Pを含有し、Pを含む化合物が確認できる試験No.T01(合金No.S01)の切屑の平均長さは1.2mmで細かく分断されている。一方、Pの含有量が0.003mass%以下で、Pを含む化合物が観察されない試験No.T303(合金No.S71)は、切屑長さが15mmを超え、連続したものであった。
<ドリル切削試験>
ボール盤でφ3.5mmハイス製JIS標準ドリルを使用し、深さ10mmのドリル加工を回転数:1250rpm、送り:0.17mm/rev.の条件で、乾式で切削した。ドリル加工時にAST式工具動力計で電圧変化を円周方向、軸方向で採取し、ドリル加工時のトルク・スラストを算出した。尚、各サンプルで4回測定し、その平均値を採用した。Zn−59mass%Cu−3mass%Pb−0.2mass%Fe−0.3mass%Sn合金からなる市販の快削黄銅棒C3604のトルク、スラストを100とし、試料のトルク、スラストの相対値(トルク指数、スラスト指数)を算出し、相対評価をした。被削性指数(トルク指数、スラスト指数、ドリル指数)が、高いほど良好な被削性を有する。ドリル加工は、ドリルの摩耗の影響を抑えるために、A→B→C→・・・C→B→Aの往復を2回実施し、各試料で4回測定した。
すなわち、被削性指数を下記のようにして求めた。
試料のドリル試験結果の指数(ドリル指数)=(トルク指数+スラスト指数)/2
試料のトルク指数=(C3604のトルク/試料のトルク)×100
試料のスラスト指数=(C3604のスラスト/試料のスラスト)×100
3回目の試験時に、切屑を採取した。切屑形状により被削性を評価した。実用の切削で問題となるのは、切屑の工具への絡みつき、及び、切屑の嵩張り、である。このため、切屑形状が、切屑の平均で、1巻き未満の切屑が生成した場合を良好“〇”(good)と評価した。切屑形状が1巻き以上3巻き未満までの切屑が生成した場合を可“△”(fair)と評価し、実用上多少問題があるがドリル切削可能と評価した。切屑形状が3巻き以上の切屑が生成した場合を“×”(poor)と評価した。なお、最初に生成された切屑は除外した。
高強度材のトルク、スラストは、Pbを1〜4mass%含有する快削黄銅棒の切削抵抗に対して約40%高くなる程度であれば、実用上良好とされる。本実施形態においては、被削性指数が約70%を境(境界値)として評価した。詳細には、ドリル指数が75以上であれば、被削性に優れる(評価:◎、excellent)と評価した。ドリル指数が70以上75未満であれば、被削性が良好である(評価:〇、good)と評価した。ドリル指数が65以上70未満であれば、被削性が可である(評価:△、fair)と評価し、実用上多少問題があるがドリル切削が可能であると評価した。ドリル指数が65未満であれば、被削性が不可である(評価:×、poor)と評価した。
同じ強度であれば、切屑形状とトルク指数とは、強い関係がある。トルク指数が大きいと、切屑分断性が良い傾向にあるので、切屑形状をトルク指数で数値比較できる。ただし、本実施形態の合金は、3mass%Pbを含有する快削黄銅に比べ、熱間押出材において、引張強さと概ね比例関係にあるせん断強さが、おおよそ1.2〜1.3倍ある。切削抵抗は、せん断強さと強い関係を持つので、材料強度を考慮に入れる必要がある。
被削性と相反する特性である冷間加工性を重視する場合においても、少なくとも、切屑、切削抵抗の評価が、「可」(△、fair)以上であることが必要である。
因みに、Zn濃度が高く、Pbを0.01mass%を含み、β相を約50%含む快削性銅合金であるZn−58.1mass%Cu−0.01mass%Pb合金のドリル指数は49であり(トルク指数は46、スラスト指数は52)、切屑は3巻きを超えた。同様に、Siを含まず0.01mass%のPbを含むβ単相の銅合金であるZn−54mass%Cu−0.01mass%Pb合金のドリル指数は61であり(トルク指数は53、スラスト指数は68)、切屑は3巻きを超えた。
精密穴加工用の専用工具として、近年ますます各種の機器が小型化し、それらの部品に対する微細な穴加工の必要性が高まっている。例えば、金型のピン穴、紡孔、プリント基板等の半導体関連の装置部品、光デバイス関連の装置部品など幅広いニーズが挙げられる。情報家電や医療機器、自動車部品など、さまざまな工業製品の軽薄短小化は今後ますます加速する。このような流れの中にあって、ドリルメーカー各社は0.1mm以下の超硬ドリルのラインアップの充実を図る。これまでは加工穴の直径と深さの比率は10倍程度が限界であったが、最近では0.5mm以下の穴でも、加工穴の直径と深さの比率が100倍程度まで加工できるドリルが数多く登場している。小径・深穴あけ加工の可能性を広げており、これらの分野で、被削性の良い材料が求められている。
(熱間加工試験)
工程No.A0の直径25.6mm、または、工程No.C1の直径22.0mmの棒材を切削によって直径15mmとし、長さ25mmに切断した。この試験材を600℃で20分間保持した。次いで試験材を縦置きにして、熱間圧縮能力10トンで電気炉が併設されているアムスラー試験機を用いて、ひずみ速度0.02/秒、加工率80%で圧縮し、厚み5mmとした。熱間加工中、試験材は600℃で維持された。
熱間変形能は、肉眼で割れの有無と表面に大きなしわが生じるかどうかで評価した。熱間変形抵抗は、加工率20%の時の変形抵抗を測定し、30N/mmを境に評価した。30N/mmは、設備能力や押出比などの熱間加工率にもよるが、一般的に製造される範囲の熱間押出棒が、問題がなく製造される熱間変形抵抗の境界値である。600℃の熱間加工試験で、割れがなく、大きなしわが生じず、熱間変形抵抗が30N/mm以下の場合、熱間加工性が良好:“〇”(good)と評価した。熱間変形能、熱間変形抵抗のいずれか一方が上記基準を満たさない場合、条件付きで可“△”(fair)と評価した。熱間変形能、熱間変形抵抗の両方とも上記基準を満たさない場合、不適“×”(poor)と評価した。評価結果を表32に示す。
600℃での熱間押出や熱間鍛造は、一般的な銅合金で実施されることは、ほとんどない。Pbを含有する快削銅合金の場合、600℃で試験すると、割れが発生し、熱間変形抵抗は30N/mmを超える。低い温度で熱間加工することにより、高い強度、高い強度と伸びのバランス、良好な被削性が得られ、寸法精度の向上、工具の長寿命化が図れ、地球環境にも優しい。
Pbを含有する鍛造用黄銅である合金Hは、割れが発生し、変形抵抗が高かった。組成関係式f1の値が56.5より低い場合、大きなしわが生じ、組成関係式f1の値が59.5より高い場合、変形抵抗が30N/mmを超えた。
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上述の測定結果から、以下のような知見を得た。
1)本実施形態の組成を満足し、組成関係式f1、金属組織の要件、および組織関係式f2〜f6、組織・組成関係式f6Aを満たすことにより、少量のPbの含有で、良好な被削性が得られ、約600℃で良好な熱間加工性、13%IACS以上の高い導電率、且つ高強度で、良好な延性、そして強度と延性の高いバランス(特性関係式f7)を持ち合せる熱間押出材、熱間鍛造材、熱間圧延材が得られることが確認できた(合金No.S01、S02、S11、S12、S14、S16、S17、S21、S23、S25、S51〜S66)。
2)Pを0.003mass%を超えて含有し、Pを含む化合物が、β相内に存在することにより、切屑分断性が向上し、切削抵抗が減少した。Pの量が0.02mass%以上で、さらに被削性が向上した。γ相が0%であっても、良好な被削性が確保できた(例えば合金No.S01、S02)。
3)Cu含有量が低いと、β相が多くなり、伸びが低くなった。Cu含有量が高いと、β相が少なく、γ相が多くなり、伸び値が低く、強度・延性バランスが低くなり、被削性もよくなかった(合金No.S70、S73、S74)。
4)Si含有量が低いと、被削性が悪くなり、Si含有量が多いと、γ相が多くなり、伸び値が低く、強度・延性バランスが悪くなり、導電率も低く、被削性もよくなかった(合金No.S73、S75、S76、S84)。
5)β相に含有されるSiの量が1.2mass%以上1.7mass%以下の範囲内であると、良好な被削性が得られた(合金No.S01、S02、S56、S57)。
6)P含有量が0.003mass%以下であると、旋盤、ドリルともに切屑の分断性が悪くなり、切削抵抗が高くなった(合金No.S71、S72)。Pの量が、約0.01mass%であると、Pを含む化合物は、金属顕微鏡で観察されず、電子顕微鏡で確認できた。Pの量が、約0.02mass%以上であると、倍率500倍または1000倍の金属顕微鏡で、Pを含む化合物が観察されるようになり、被削性がより良好となった(合金No.S63、S51、S55)。Pを含む化合物が、電子顕微鏡で確認できるが、金属顕微鏡で観察されないと、Pを含む化合物による被削性への効果が少し減少した(例えば合金No.S63、S72)。金属組織において、同じ条件でエッチングしても、Pの量が、約0.01〜0.02mass%を境にして、Pの量が多いと、α相とβ相の境界の明瞭になった。この現象は、Pのβ相への固溶、Pを含む化合物の存在の有無、形態と関連があるように思われる。
7)Pbの含有量が0.003mass%未満であると、被削性が悪かった(合金No.S77)。Pbの量が0.005mass%以上、さらには0.01mass%以上であると、被削性が良くなり、Pbの量が、0.05mass%を超えると、より一層被削性が良くなった(合金No.S60、S65、S66)。Pbの量が約0.2mass%で、かつβ相を多く含んでいても、Siの量が少ないと、Pbによる被削性への効果が小さく、被削性が悪かった(合金No.S82)。
8)実操業で行われる程度の不可避不純物を含有しても、諸特性に大きな影響を与えないことが確認できた(合金No.S01、S02、S11)。不可避不純物の好ましい範囲を超える量でFe,Mn,CoまたはCrを含有すると、Fe,Mn等とSi,Pの金属間化合物を形成していると考えられる。その結果、Fe等とSiの化合物が存在し、かつ有効に働くSi濃度が減少し、被削性が悪くなったと考えられる。また、Pを含む化合物の組成も変化している可能性があると思われる(合金No.S12、S13、S21、S22、S78)。不可避不純物の好ましい範囲を超える量でSnとAlを含有すると、γ相の増加により、伸び値が減少し、被削性が悪くなった。γ相、或いはβ相には、SnやAlが多く含有しているものと思われ、不可避不純物の少ないγ相、β相から性質が変化している可能性がある(合金No.S14、S15、S23、S24、S79)。
9)組成関係式f1が、小さいと、伸び値が低くなった。組成関係式f1が大きいと、被削性が悪くなった。組成関係式f1が59.5を超える、または、56.5より小さいと、熱間加工性、被削性、または機械的性質が目標値に達しなかった(合金No.S70、S80)。組成関係式f1の値が、57.0以上であると、伸び値がより良くなり、57.5以上でさらに良くなった。一方、組成関係式f1の値が、59.0以下で被削性がより良くなり、58.5以下で一層良くなった(例えば合金No.S01、S02)。
10)β相の面積率が15%より少ないと、組成、及び、組成関係式f1を満たしていても、良好な被削性が得られなかった。β相の面積率が80%を超えると、伸び値が低かった(合金No.S70、S75、S59)。
β相の割合が70%以上であると、Siを1.3mass%、Pを0.05mass%含有し、Pを含む化合物が存在するβ単相合金と、ほぼ同じ切削抵抗を示した(合金F、S58、S70)。β相の割合が、約40%、または50%以上、或いは組織関係式f6が約45以上、組織・組成関係式f6Aが、約55以上であると、β単相合金、合金Fの被削性がおおよそ維持された(例えば合金No.S54、S56、S64、S65)。
11)γ相の面積率が0%であっても、β相が適量存在することにより、良好な被削性、機械的性質が得られた(例えば合金No.S01、S02)。
12)γ相の面積率が8%以上であると、伸び値が低くなった。γ相が適量であると、トルク指数が向上した。組織関係式f5=18×(γ)/(β)≧9であると、伸び値、被削性が悪かった。組織関係式f5=18×(γ)/(β)<2であると、延性の低下は少なく、トルク、外周切削が良くなった(合金No.S73、S74、合金No.S01、工程No.A5、A6)。
13)組成、組織の要件f2〜f4、f6を満たしても、組織・組成の関係式f6Aが低いと、被削性が悪かった(合金No.S81、S83)。f6Aが、44以上であると、被削性はより良好となり、約55以上であると、より一層良好な被削性を示すようになった(例えば合金No.S51、S57、S62、S66)。
14)粒状(長辺/短辺≦4)のα相結晶粒の占める割合が75%以上であると、強度、被削性がさらに良くなった。α相結晶粒の平均結晶粒径が30μm以下で細かく、粒状であると、クッション材の役割を果たし、α相とβ相の相境界が、切削時の応力集中源となり、切屑の分断性が良くなったと思われる。ただし、粒状のα相結晶粒の占める割合が、50%未満であっても、目標とする、被削性、機械的性質が得られた(例えば、合金No.S01、S51〜S66、工程No.A1〜A3、AH1)。
15)本実施形態の組成、組成関係式f1を満たすと、600℃で良好な熱間加工性を示し、約600℃で、熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延ができた。熱間加工温度が675℃以上であると、粒状のα相の割合が、50%より少なくなった(例えば合金No.S01、S02)。また鍛造素材が鋳物であっても、620℃で良好な熱間鍛造性を示し、被削性、機械的性質も良好であった(工程No.F5)。
16)熱間押出温度が、約650℃を超えると、引張強さが少し低くなり、被削性が少し悪くなった。約625℃以下で押出すると、機械的性質、被削性が良くなった。
熱間鍛造では、鍛造温度が、約675℃を超えると、引張強さが少し低くなり、被削性が少し悪くなった。約650℃以下、または約625℃以下で鍛造すると、機械的性質、被削性が良くなった。
17)組成、f1〜f6Aの関係式を満たすと、冷間加工を施さない、熱間押出材、鍛造品の引張強さは、470N/mm以上の高い値を示した。好ましい範囲内に組成、関係式の値があると、引張強さは、500N/mmを超えた。同時に、強度と延性のバランスを示す特性関係式f7=S×(100+E)/100は、600以上を示した。好ましい範囲内に組成、関係式の値があると、特性関係式f7は、640以上、または670以上の高い数値を示した。α相の形状、製造条件が、好ましい範囲を逸脱すると、引張強さ、特性関係式f7が低くなるが、引張強さは、470N/mm以上、f7が600以上であった(合金No.S01、S02、S51〜S66、各工程)。
18)組成、f1〜f6Aの関係式を満たすと、冷間加工を施した場合、冷間加工率を[R]%とした場合、引張強さは、いずれも(470+8×[R])N/mm以上で、さらにすべて(500+8×[R])N/mm以上であり、伸びE(%)は、(0.02×[R]−1.15×[R]+18)%以上で、さらにすべて(0.02×[R]−1.2×[R]+20)%以上であった(工程No.A1〜A6、B1〜B6、E1、E2)。
19)Pの量にもよるが、熱間押出後、熱間鍛造後の冷却で、530℃から450℃の平均冷却速度の約50℃/分が、倍率500倍の金属組織観察でPを含む化合物が、観察されるか、または、電子顕微鏡で、Pを含む化合物が観察されるか、否かの境界値であった(合金No.S01、S02、S51〜S66、各工程)。Pを含む化合物が金属顕微鏡で確認されると、被削性が良好であった。530℃から450℃の平均冷却速度が0.2℃/分の場合、β相の減少と、Pを含む化合物が大きくなったため、強度が少し低くなり、被削性が少し悪くなったと考えられるが、強度、被削性ともに高いレベルにあった(工程No.B2)。
20)冷却速度、Pの含有量に関わらず、金属顕微鏡でPを含む化合物が確認できず、電子顕微鏡でPを含む化合物が観察された場合、Pを含む化合物が確認できなかった場合より、被削性は良好であり、本実施形態の目標を満たした。しかし、金属顕微鏡でPを含む化合物が観察された場合より、被削性の向上の度合いが小さかった(工程No.A1、AH2、工程No.F3、FH2、例えば合金No.S63)。
21)熱間加工材を、焼鈍条件式f8が750から1485の条件で低温焼鈍し(合金No.S01、S02、工程No.A5、A6、B6)、得られた棒材の曲がりを測定すると、1mあたり、0.1mm以下の曲がりの少ない棒材であることが分かった。低温焼鈍を施すことによって、新たにγ相が析出する合金が出てきた。γ相が約1%の合金は、トルクと外周切削が良くなった(例えば合金No.S01、S02)。
以上のことから、本実施形態の合金のように、各添加元素の含有量および組成関係式、各組織関係式が適正な範囲にある本実施形態の合金は、熱間加工性(熱間押出、熱間鍛造、熱間圧延)に優れ、被削性、機械的性質も良好である。また、本実施形態の合金において優れた特性を得るためには、熱間押出、熱間鍛造、および熱間圧延での製造条件、熱処理での条件を適正範囲とすることで達成できる。
本実施形態の快削性銅合金は、Pbの含有量を少量に留め、熱間加工性、被削性に優れ、高強度で、強度と伸びとのバランスに優れる。このため、本実施形態の快削性銅合金は、自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品、及び飲料水、工業用水、排水、水素などの液体や気体に係る部品に好適である。
具体的には、前記分野に用いられるバルブ、継手、コック、給水栓、歯車、軸、軸受け、シャフト、スリーブ、スピンドル、センサー、ボルト、ナット、フレアナット、ペン先、インサートナット、袋ナット、ニップル、スペーサー、ねじなどの名称で使用されているものの構成材等として好適に適用できる。
本発明の第1の態様である快削性銅合金は、61.0mass%超え65.0mass%未満のCuと、1.0mass%超え1.5mass%未満のSiと、0.003mass%以上0.20mass%未満のPbと、0.003mass%超え0.19mass%未満のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.40mass%未満であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.40mass%未満であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
56.5≦f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]≦59.5の関係を有するとともに、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10相の金属相を対象とし、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%、μ相の面積率を(μ)%、κ相の面積率を(κ)%、δ相の面積率を(δ)%、ε相の面積率を(ε)%、ζ相の面積率を(ζ)%、η相の面積率を(η)%、χ相の面積率を(χ)%とし、(α)+(β)+(γ)+(μ)+(κ)+(δ)+(ε)+(ζ)+(η)+(χ)=100としたときに、
20≦(α)≦80、
15≦(β)≦80、
0≦(γ)<8、
18×(γ)/(β)<9、
20≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2≦88、
33≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15
の関係を有するとともに、
前記β相内に、粒径が3μm以下で、少なくとも2000倍の倍率で電子顕微鏡による調査で観察可能な大きさのPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
本発明の第2の態様である快削性銅合金は、61.7mass%以上64.3mass%以下のCuと、1.02mass%以上1.35mass%以下のSiと、0.005mass%以上0.10mass%以下のPbと、0.02mass%以上0.14mass%以下のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.30mass%以下であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.30mass%以下であり、
Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
57.0≦f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]≦59.0の関係を有するとともに、
非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相、β相、γ相、δ相、ε相、ζ相、η相、κ相、μ相、χ相の10相の金属相を対象とし、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%、μ相の面積率を(μ)%、κ相の面積率を(κ)%、δ相の面積率を(δ)%、ε相の面積率を(ε)%、ζ相の面積率を(ζ)%、η相の面積率を(η)%、χ相の面積率を(χ)%とし、(α)+(β)+(γ)+(μ)+(κ)+(δ)+(ε)+(ζ)+(η)+(χ)=100としたときに、
30≦(α)≦75、
25≦(β)≦70、
0≦(γ)<4、
18×(γ)/(β)<2、
30≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2≦77、
44≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15
の関係を有するとともに、
前記β相内に、粒径が3μm以下で、少なくとも2000倍の倍率で電子顕微鏡による調査で観察可能な大きさのPを含む化合物が存在していることを特徴とする。
本発明の第3の態様である快削性銅合金は、本発明の第1、2の態様の快削性銅合金において、アスペクト比(長辺/短辺)が4以下である粒状のα相結晶粒の個数の割合が、α相結晶粒の全数に対して、50%以上であることを特徴とする。
本発明の第9の態様である快削性銅合金の製造方法は、本発明の第7,8の態様の快削性銅合金の製造方法において、最終の加工工程の後に実施する低温焼鈍工程を更に有し、 前記低温焼鈍工程では、保持温度が250℃以上430℃以下であり、保持時間が10分以上200分以下であることを特徴とする。

Claims (9)

  1. 61.0mass%超え65.0mass%未満のCuと、1.0mass%超え1.5mass%未満のSiと、0.003mass%以上0.20mass%未満のPbと、0.003mass%超え0.19mass%未満のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
    前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.40mass%未満であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.40mass%未満であり、
    Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
    56.5≦f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]≦59.5
    の関係を有するとともに、
    非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%とした場合に、
    20≦(α)≦80、
    15≦(β)≦80、
    0≦(γ)<8、
    18×(γ)/(β)<9、
    20≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2≦88、
    33≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15
    の関係を有するとともに、
    前記β相内にPを含む化合物が存在していることを特徴とする快削性銅合金。
  2. 61.7mass%以上64.3mass%以下のCuと、1.02mass%以上1.35mass%以下のSiと、0.005mass%以上0.10mass%以下のPbと、0.02mass%以上0.14mass%以下のPと、を含み、残部がZn及び不可避不純物からなり、
    前記不可避不純物のうち、Fe,Mn,Co及びCrの合計量が0.30mass%以下であり、かつ、Sn,Alの合計量が0.30mass%以下であり、
    Cuの含有量を[Cu]mass%、Siの含有量を[Si]mass%、Pbの含有量を[Pb]mass%、Pの含有量を[P]mass%とした場合に、
    57.0≦f1=[Cu]−4.5×[Si]+0.5×[Pb]−[P]≦59.0
    の関係を有するとともに、
    非金属介在物を除いた金属組織の構成相において、α相の面積率を(α)%、γ相の面積率を(γ)%、β相の面積率を(β)%とした場合に、
    30≦(α)≦75、
    25≦(β)≦70、
    0≦(γ)<4、
    18×(γ)/(β)<2、
    30≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2≦77、
    44≦(γ)1/2×3+(β)×([Si])1/2+([Pb])1/2×35+([P])1/2×15
    の関係を有するとともに、
    前記β相内にPを含む化合物が存在していることを特徴とする快削性銅合金。
  3. アスペクト比(長辺/短辺)が4以下である粒状のα相結晶粒の占める割合が50%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の快削性銅合金。
  4. 前記β相中に含有されるSi量が1.2mass%以上1.9mass%以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  5. 電気伝導率が13%IACS以上であり、かつ、引張強さをS(N/mm)、伸びをE(%)とした場合に、強度と伸びとのバランスを示す関係式S×(100+E)/100が600以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  6. 自動車部品、電気・電子機器部品、機械部品、文具、玩具、摺動部品、計器部品、精密機械部品、医療用部品、飲料用器具・部品、排水用器具・部品、工業用配管部品に用いられることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の快削性銅合金。
  7. 請求項1から請求項6のいずれか一項に記載された快削性銅合金の製造方法であって、
    1以上の熱間加工工程を有し、
    前記熱間加工工程のうち、最終の熱間加工工程においては、熱間加工温度が540℃超え675℃未満であり、熱間加工後の530℃から450℃までの温度領域における平均冷却速度が0.1℃/分以上50℃/分以下であることを特徴とする快削性銅合金の製造方法。
  8. 冷間加工工程、矯正加工工程、及び焼鈍工程から選択される1以上の工程を更に有することを特徴とする請求項7に記載の快削性銅合金の製造方法。
  9. 前記熱間加工工程、前記冷間加工工程、前記矯正加工工程、及び前記焼鈍工程のうち、最終の工程の後に実施する低温焼鈍工程を更に有し、
    前記低温焼鈍工程では、保持温度が250℃以上430℃以下であり、保持時間が10分以上200分以下であることを特徴とする請求項7又は請求項8に記載の快削性銅合金の製造方法。
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