JP2021035626A - 医療機器の製造方法 - Google Patents

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Kazuhiko Ishihara
一彦 石原
今日子 深澤
Kyoko Fukazawa
今日子 深澤
京本 政之
Masayuki Kyomoto
政之 京本
史帆里 山根
Shihori Yamane
史帆里 山根
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Abstract

【課題】 容易に高分子皮膜を形成することができ、濡れ性に優れ、高い耐水性を有する医療機器の製造方法を提供する。【解決手段】 工程A1の準備工程で、基材を準備し、工程A2の調製工程で、ホスホリルコリン基を有する第1重合体および第1重合体と親水性が異なる、ホスホリルコリン基を有する第2重合体を有機溶媒に溶解させて重合体混合溶液を調製する。工程A3の皮膜形成工程で、重合体混合溶液に基材を浸漬させたのち乾燥させて、基材の少なくとも一部の表面に第1重合体および第2重合体を含む親水性皮膜を形成することで、医療機器を製造する。【選択図】 図1

Description

本発明は、医療機器の製造方法に関する。
ホスホリルコリン基を含有する合成高分子は、生体内の細胞膜と同様の構造を持つため、生体親和性、高潤滑特性、低摩擦特性、タンパク吸着抑制、細胞接着抑制、細菌付着抑制などの様々な優れた特性を持ち、コンタクトレンズ、カテーテル、人工関節等の医療機器や、ウェルプレートなどの検査用医療機器や診断用医療機器等、多くの医療機器の表面へ応用されている。
ホスホリルコリン基を含有する合成高分子を医療機器の表面へ応用するとき、医療機器が必要とする特性に合わせて、様々なホスホリルコリン基を含有する高分子が用いられる。例えば、特許文献1には、ホスホリルコリン基を含有する高分子の一例である2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと、メタクリル酸エステルの共重合体が記載されている。
例えば、コンタクトレンズなどの医療機器やウェルプレートなどの検査用医療機器には、比較的穏やかな水環境下においてタンパク質等の吸着を防ぐことを目的として、ホスホリルコリン基を含有する高分子が用いられている。したがって、疎水性のホスホリルコリン基を含有する合成高分子を溶解させた有機溶媒に基材を浸漬したり、疎水性のホスホリルコリン基を含有する合成高分子を溶解させた有機溶媒を基材に噴霧したりしたのち、乾燥して、ホスホリルコリン基を含有する高分子によるコーティングを行っている。
特許文献2には、薬剤放出ステントのような体内埋め込み型医療機器として、金属基材の表面に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンからなる高分子などの合成リン脂質成分をスプレー噴霧などでコーティングを行うことが記載されている。
人工関節には、日常生活において絶えず摺動するような過酷な使用環境において、高い潤滑特性、耐摩耗特性を獲得するために、ホスホリルコリン基を含有する合成高分子が用いられている。前出の浸漬や噴霧などによるコーティングでの表面改質では、ホスホリルコリン基を含有する高分子は基材に物理吸着しているだけなので、生体内においてホスホリルコリン基を含有する高分子が基材から容易に剥離してしまう。したがって、剥離を防止するために、人工関節では、光照射によるグラフト重合によりホスホリルコリン基を含有する合成高分子と基材を共有結合により強固に固着させている。これによりホスホリルコリン基を含有する合成高分子が基材表面を長期間にわたって保護している。また、ホスホリルコリン基を含有する合成高分子の末端が基材と共有結合することで固定されているため、ホスホリルコリン基を含有する合成高分子が高い親水性であっても、生体内に溶出しない。
特開平9−3132号公報 特開2012−46761号公報
物理吸着によるコーティングで、ホスホリルコリン基を含有する合成高分子の皮膜を基材表面に形成させる方法は、皮膜を容易に形成させることが可能で、かつ、基材の材質や形状に制限がほとんどない。しかし、高い親水性を示すホスホリルコリン基を含有する合成高分子による皮膜は、水に溶解しやすく、耐水性に劣るため、生体内などの水環境下での使用が制限される。一方、疎水性のホスホリルコリン基を含有する合成高分子による皮膜は、皮膜が水和するまでの間、ぬれ性に劣り、ホスホリルコリン基を含有する合成高分子の性能が十分に発現するまでに時間を要する。
光照射によるグラフト重合で形成した親水性の高いホスホリルコリン基を含有する合成高分子による皮膜は、生体内において瞬時に高い親水性や耐摩耗特性を発現し、また安定してそれらの性能を発揮するが、光照射によるグラフト重合反応の条件などが複雑であり、コーティングをする基材の材質や形状により制限される。
本発明の目的は、容易にホスホリルコリン基を含有する合成高分子皮膜を形成することができ、生体内において早期に高いぬれ性を発現し、その使用環境下での高い安定性を有する医療機器の製造方法を提供することである。
本発明は、医療機器の製造方法であって、基材を準備する準備工程と、ホスホリルコリン基を有する第1重合体および第1重合体と親水性が異なる、ホスホリルコリン基を有する第2重合体を有機溶媒に溶解させて重合体混合溶液を調製する調製工程と、調製された重合体混合溶液に基材を浸漬させたのち、乾燥させて、基材の少なくとも一部の表面に第1重合体および第2重合体を含む親水性皮膜を形成する皮膜形成工程と、を有することを特徴とする医療機器の製造方法である。
また本発明は、第1重合体および第2重合体は、光反応性を有しておらず、皮膜形成工程では、光反応を行わないことを特徴とする。
また本発明は、ホスホリルコリン基を有する第1重合体およびホスホリルコリン基を有する第2重合体は、互いに共重合比が異なる2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとnブチルメタクリレートとの共重合体であることを特徴とする。
また本発明は、重合体混合溶液中の第1重合体と第2重合体の含有濃度が0.1〜0.5重量%であることを特徴とする。
また本発明は、基材は、生体適合性材料からなることを特徴とする。
また本発明は、親水性皮膜が形成された基材に滅菌処理を施す滅菌工程をさらに有することを特徴とする。
また本発明は、滅菌処理が、親水性皮膜が形成された基材に高エネルギー線を照射する照射処理または親水性皮膜が形成された基材にガスプラズマを接触させるガスプラズマ処理であることを特徴とする。
本発明によれば、調製工程で、ホスホリルコリン基を有する第1重合体および第1重合体と親水性が異なる、ホスホリルコリン基を有する第2重合体を有機溶媒に溶解させて重合体混合溶液を調製し、皮膜形成工程で、重合体混合溶液に基材を浸漬させたのち乾燥させて、基材の少なくとも一部の表面に第1重合体および第2重合体を含む親水性皮膜を形成することで、医療機器を製造する。
上記のような第1重合体と第2重合体とを混合して溶解させた重合体混合溶液に基材を浸漬させて乾燥するだけで、容易に親水性皮膜を形成することができ、形成された親水性皮膜が、初期の濡れ性に優れ、使用環境下における高い安定性を有する。
また本発明によれば、第1重合体および第2重合体は、光反応性を有しておらず、皮膜形成工程では、光反応を行わない。
また本発明によれば、ホスホリルコリン基を有する第1重合体およびホスホリルコリン基を有する第2重合体として、互いに共重合比が異なる2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとnブチルメタクリレートとの共重合体を用いることが好ましい。
また本発明によれば、重合体混合溶液中の第1重合体と第2重合体の含有濃度は0.1〜0.5重量%とすることが好ましい。
また本発明によれば、基材は、生体適合性材料からなるものであることが好ましい。
また本発明によれば、滅菌工程によって、親水性皮膜が形成された基材に滅菌処理を施すことが好ましい。
また本発明によれば、滅菌処理として、親水性皮膜が形成された基材に高エネルギー線照射する照射処理、親水性皮膜が形成された基材にガスプラズマを接触させるガスプラズマ処理を用いることができる。
本発明の実施形態である医療機器の製造方法を示す工程図である。 実施例および比較例の水の接触角の測定結果を示すグラフである。 実施例において重合体濃度による水の接触角変化を示すグラフである。 実施例において各種滅菌処理後の水の接触角の測定結果を示すグラフである。 実施例および比較例のリン原子濃度の変化を示すグラフである。
本発明の製造方法によって製造される医療機器としては、直接生体成分と接触して用いる医療機器であり、例えば人工血管、人工弁、血液バッグ、血液透析膜、カテーテル、ステント、カプセル化材料、酵素電極、眼内レンズ、コンタクトレンズ、人工骨、細胞培養プレート、診断用マイクロチップなどが挙げられるが、これらに限定されない。
図1は、本発明の実施形態である医療機器の製造方法を示す工程図である。
本実施形態の製造方法は、
(工程A1)準備工程
(工程A2)調製工程
(工程A3)皮膜形成工程
の3つの工程からなる。
(工程A1)準備工程
工程A1の準備工程では、医療機器の基材を準備する工程である。基材は、製造しようとする医療機器に応じて適宜材料、形状などを選択すればよい。特に、医療機器が、体内に挿入される、もしくは、埋め込まれる機器などである場合には、基材は、生体適合性材料からなるものとすればよい。
医療機器が、生体適合性を要求されない、検査用医療機器や診断用医療機器などの場合は、基材について特に制限はなく、医療機器に要求される特性に応じた材料を用いればよい。
本実施形態では、基材材料として、たとえばチタン、ステンレス、コバルトクロム合金等の金属材料、アルミナ、ジルコニア、ハイドロキシアパタイト等のセラミック材料、シリコーン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル、ポリオキシメチレン、ポリイソプレン、ポリL乳酸、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリパリレン、環状ポリオレフィン等の高分子材料などを用いることができる。
基材の形状は、基材を構成する材料に応じて、成形および切削などの加工を施せばよい。
基材は、ホスホリルコリン基を有する重合体が含まれる有機溶剤とのなじみを向上させるために、少なくとも皮膜を形成すべき表面に大気プラズマ、酸素プラズマなどをあらかじめ照射してもよい。
(工程A2)調製工程
次に、工程A2の調製工程では、ホスホリルコリン基を有する第1重合体およびホスホリルコリン基を有する第2重合体を有機溶剤に溶解させて重合体混合溶液を調製する。第1重合体と第2重合体とは、互いに親水性が異なる重合体である。すなわち、本工程で調製する重合体混合溶液は、2種類の重合体を混合して溶解させた溶液である。
第1重合体と第2重合体の親水性が異なるとは、第1重合体と第2重合体の骨格(主鎖)構造が異なる場合、骨格構造自体の親水性が第1重合体と第2重合体とで異なっているということである。第1重合体と第2重合体の骨格構造が同じ場合には、それぞれの重合体の側鎖の親水性が異なっているということである。
第1重合体と第2重合体の骨格(主鎖)構造が異なる場合、いずれの骨格構造にもホスホリルコリン基が含まれていればよく、第1重合体と第2重合体の骨格構造が同じ場合、当該骨格構造にホスホリルコリン基が含まれていればよい。
第1重合体および第2重合体は、2種以上のモノマーからなる共重合体であってもよい。第1重合体および第2重合体が、共重合体である場合、少なくともいずれか1種のモノマーがホスホリルコリン基を含んでいればよい。
第1重合体と第2重合体とで、共重合体を構成するモノマーが異なる場合、モノマーの親水性が異なれば、第1重合体と第2重合体の親水性は異なり、第1重合体と第2重合体とで、モノマーが同じ場合、共重合比が異なれば、第1重合体と第2重合体の親水性は異なる。
第1重合体および第2重合体が、共重合体である場合、ホスホリルコリン基を含むモノマーとしては、たとえば、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、2−アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン、4−メタクリロイルオキシブチルホスホリルコリン、6−メタクリロイルオキシヘキシルホスホリルコリン、10−メタクリロイルオキシデシルホスホリルコリン、ω−メタクリロイルオキシポリ(エチレンオキシド)エチルホスホリルコリン、4−スチリルオキシブチルホスホリルコリンなどがある。これらの中でも、重合特性と原料化合物の入手の点から2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下では、「MPC」という)が特に好ましい。
ホスホリルコリン基を含むモノマーとともに共重合体を構成する他のモノマーとしては、たとえば、メタクリル酸エステル、メタクリルアミドなどがある。これらの中でもメタクリル酸エステルが好ましい。
また、メタクリル酸エステルとしては、たとえば、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メ
タクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシプロピル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸2−ブトキシエチルなどがある。これらの中でもメタクリル酸n-ブ
チル(nブチルメタクリレート、BMA)が特に好ましい。
以下の本実施形態では、第1重合体および第2重合体は、いずれも下記の一般式で表される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とブチルメタクリレート(BMA)との共重合体で(以下では、「PMB」と略称する。)ある。
(ただし、mは0.1〜0.9であり、nは0.1〜0.9であり、m+n=1.0である。)
MPCは、下記構造式に示すような化学構造を有しており、ホスホリルコリン基と、重合性のメタクリル酸ユニットとを有する重合性モノマーである。
MPCは、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、トリエチルアミン、2−クロロ−2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホランを反応させ、2−(2−オキソ−1,3,2−ジオキサホスホロイルオキシ)エチルメタクリレート(OPEMA)を得たのち、このOPEMAを無水トリメチルアミンのアセトニトリル溶液中で反応させて得ることができる。
また、BMAは、下記構造式に示すような化学構造を有する重合性モノマーである。
本実施形態の第1重合体と第2重合体とは、構成するモノマーが同じPMBであり、第1重合体と第2重合体とで、共重合比を異ならせることによって、第1重合体と第2重合体との親水性が異なるようにしている。
第1重合体であるPMB(第1PMB)の共重合比(MPC:BMA)は、モル比で9:1〜6:4である。一方、第2重合体であるPMB(第2PMB)の共重合比(MPC:BMA)は、モル比で3:7〜1:9である。
このような第1PMBの平均分子量は、5,000〜300,000であり、好ましくは、10,000〜300,000である。また、第2PMBの平均分子量は、300,000以上であり、好ましくは、300,000〜5,000,000である。
第1PMBは、BMAに対してMPCの比率が高く、第2PMBは、BMAに対してMPCの比率が低い。MPCとBMAのモノマーとしての親水性は、MPCのほうがBMAよりも高いので、第1PMBと第2PMBとでは、第1PMBのほうが第2PMBよりも親水性が高い共重合体である。また、第1PMBの共重合比(MPC:BMA)において、MPCの比率が大きいほど、より親水性が高い共重合体である。第2PMBの共重合比(MPC:BMA)において、BMAの比率が大きいほど、より疎水性が高い(親水性が低い)共重合体である。
本実施形態で用いられる共重合体である第1PMBとしては、共重合比(MPC:BMA)がモル比で8:2である共重合体(以下では、PMB80という)が好ましく、第2PMBとしては、共重合比(MPC:BMA)がモル比で3:7である共重合体(以下では、PMB30という)が好ましい。
第1PMBおよび第2PMBの共重合体の製造は、重合開始剤の存在下、MPCとBMAを溶媒中で反応させて得られる。反応場となる溶媒としては、MPCおよびBMAが溶解すればよく、具体的には水、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブタノール、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルムおよびこれらの混合物等である。重合開始剤としては、一般に用いられるラジカル開始剤ならばいずれを用いてもよく、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾビスマレノニトリル等の脂肪族アゾ化合物や、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の有機過酸化物などがある。
第1PMBと第2PMBの共重合比を異ならせるためには、溶媒に溶解させるMPCとBMAのそれぞれの投入量(比率)を、第1PMBと第2PMBの共重合比に応じて適宜調製すればよい。
本工程では、上記のようにして得られた親水性が異なる2種の重合体、本実施形態では、共重合比が互いに異なる第1PMBと第2PMBを、有機溶媒に溶解させることで重合体混合溶液を調製する。
重合体混合溶液に用いられる有機溶媒としては、親水性が異なる第1重合体と第2重合体とがいずれも溶解するような溶媒であればよく、具体的には、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトンおよびこれらの混合物等である。これらの中でもエタノールが好ましい。
上記のように、第1重合体である第1PMBは、共重合比(MPC:BMA)が9:1〜6:4(モル比)の範囲内で複数種類の共重合体を含み、第2重合体である第2PMBは、共重合比(MPC:BMA)が3:7〜1:9(モル比)の範囲内で複数種類の共重合体を含んでいる。重合体混合溶液に溶解される2種の重合体の組み合わせは、重合比(MPC:BMA)が9:1〜6:4(モル比)の範囲から選ばれた1種の第1PMBと、共重合比(MPC:BMA)が3:7〜1:9(モル比)の範囲から選ばれた1種の第2PMBとの組み合わせであり、複数の組み合わせがある。
本実施形態で調製される重合体混合溶液は、これら複数の組み合わせのうち、少なくとも1つの組み合わせである第1PMBと第2PMBとが、有機溶媒に溶解されたものである。
本工程で調製される重合体混合溶液は、第1重合体の含有量(P1)と第2重合体の含有量(P2)との比(P1/P2)が、重量比で1/9〜4/6である。
特に、第1重合体がPMB80であり、第2重合体がPMB30である組み合わせの場合、PMB80の含有量とPMB30の含有量との比(PMB80/PMB30)は、重量比で1/9〜3/7が好ましく、より好ましくは、1/9〜2/8である。
本実施形態において、重合体混合溶液中の、第1重合体および第2重合体の混合物の濃度は、濡れ性に影響を与えないので、特に限定されないが、たとえば、0.1〜0.5重量%とすればよい。
このようにして調製された重合体混合溶液は、次の皮膜形成工程で使用される。
(工程A3)皮膜形成工程
次に、工程A3の皮膜形成工程では、調製された重合体混合溶液に基材を浸漬させたのち乾燥させる方法、調製された重合体混合溶液を噴霧する方法またはスピンコーティング法を用いて、基材の少なくとも一部の表面に第1重合体および第2重合体を含む親水性皮膜を形成する。
本工程では、浸漬および乾燥という簡単な処理操作、いわゆるディッピングによって基材の少なくとも一部の表面に親水性皮膜を形成することができる。本工程で形成された親水性皮膜には、重合体混合溶液に溶解されていた第1重合体と第2重合体とが含まれている。
親水性皮膜が第1重合体および第2重合体であるPMBを含むことにより、医療機器の表面に、MPC由来のリン脂質極性基が存在するため、細胞膜類似となる。このような医療機器の表面には、タンパク質や血球などの生体成分の吸着が極めて少なく、また血栓形成を誘引する血小板の活性化を抑制することができるという効果もある。
さらに、親水性皮膜が、親水性が異なる2種の、ホスホリルコリン基を有する重合体を含むことにより、初期の水濡れ性に優れ、使用環境下における高い安定性を有する医療機器を製造することができる。
本発明における安定性とは、水または水性媒体中に医療機器を浸漬させたときに、皮膜を構成する重合体の水または水性溶媒への溶出のし難さであり、溶出し難いほど安定性が高い。
親水性皮膜が、比較的親水性の高い1種の重合体、たとえばPMB80のみで構成される場合、初期の水濡れ性は十分に高いが、安定性が低いので、水中に重合体が溶出して皮膜の一部または全部が失われる。また、医療機器が、ウェルプレートなどの検査用器具やマイクロチップなどの診断用器具である場合、検体液中に重合体が混入し、検査結果または診断結果に影響を及ぼしてしまう。
親水性被膜が、比較的親水性の低い1種の重合体、たとえばPMB30のみで構成される場合安定性は高いが、初期の水濡れ性に劣るので、応用される医療機器が限定される。
さらに、本発明のように第1重合体と第2重合体とを含む混合溶液を用いず、親水性の高い1種の重合体(たとえばPMB80)のみを溶解させた第1溶液と、親水性の低い1種の重合体(たとえばPMB30)のみを溶解させた第2溶液とをそれぞれ調製し、第1溶液に浸漬させて第1皮膜を形成したのち第2溶液に浸漬させて第1皮膜上に第2皮膜を形成していわゆる2層型の親水性皮膜を形成した場合、表面層がPMB30からなるので、初期の水濡れ性は改善されない。また、浸漬の順序を入れ替えて、2層型の親水性皮膜を形成した場合、表面層がPMB80からなるので、表面層が水中に溶出する問題が残る。
これに対して、第1重合体と第2重合体とを含む混合溶液を用いて、ディッピングによって親水性皮膜を形成した場合、形成される皮膜は1層型であり、初期の水濡れ性に優れ、高い安定性を有する医療機器が得られる。ただし、この1層型の第1皮膜上を形成させたのちであれば、第1重合体と第2重合体とを含む混合溶液を用いず、親水性の高い1種の重合体(たとえばPMB80)のみを溶解させた溶液による第2皮膜を形成していわゆる2層型の親水性を高めた皮膜を作製してもよい。
浸漬条件は、基材の大きさ、基材の形状、親水性皮膜を形成する表面部分の大きさ、親水性皮膜の厚みなど製造すべき医療機器の仕様に従い、適宜決定すればよい。浸漬条件としては、たとえば、基材を重合体混合溶液に浸漬させる時間、重合体混合溶液の液温などである。
基材を重合体混合溶液に浸漬させた直後の状態では、基材の表面には、有機溶媒を含む混合溶液が付着した状態であるので、基材の表面には第1重合体と第2重合体にさらに有機溶媒を含んだ状態である。有機溶媒を除去するために、乾燥を行う。
乾燥は、第1重合体と第2重合体に影響を与えずに有機溶媒を除去できる操作であればよく、常温常圧下に浸漬後の基材を放置する風乾、浸漬後の基材に高温の熱風を吹き付ける熱風乾燥、常温下、真空雰囲気内に基材を放置する真空乾燥などであってもよい。
乾燥条件も浸漬条件と同様に製造すべき医療機器の仕様に従い、適宜決定すればよい。
このような乾燥を経て、基材表面に第1重合体と第2重合体とを含む親水性皮膜が形成された医療機器が製造される。
(工程A4)滅菌工程
本実施形態の製造方法は、さらに、工程A4として、親水性皮膜が形成された基材に滅菌処理を施す滅菌工程を有していてもよい。工程A4の滅菌工程では、滅菌処理として、たとえば親水性皮膜が形成された基材に高エネルギー線を照射する照射処理、親水性皮膜が形成された基材にガスプラズマを接触させるガスプラズマ処理などがある。
照射処理またはガスプラズマ処理によって、得られる医療機器に滅菌処理を施すことができるとともに、さらに初期の濡れ性を向上させることができる。
照射処理において、照射する高エネルギー線は、滅菌処理に用いられるものであれば、限定されないが、たとえば、ガンマ線、電子線、紫外線などを用いることができる。ガンマ線または電子線を照射する場合、その吸収線量は、たとえば20〜100kGyとすることが好ましい。紫外線を照射する場合、その照射量は、たとえば8,000〜100,000mJ/cmとすることが好ましい。
ガスプラズマ処理において、接触させるガスプラズマは、滅菌処理に用いられるものであれば、限定されないが、たとえば、過酸化水素ガスプラズマなどを用いることができる。
(実施例1)
・準備工程
準備工程では、たて10mm×よこ10mm×厚み3mmの平板形状であり、ポリカーボネート(PC)からなる基材、環状ポリオレフィン(COP)からなる基材、シリコン(Si)からなる基材、クロスリンクポリエチレン(CLPE)からなる基材、コバルトクロム合金(CCM)からなる基材、チタン(Ti)から成る基材およびステンレス鋼(SUS)から成る基材をそれぞれ準備した。
・調製工程
調製工程では、実施例として、第1重合体を、共重合比(MPC:BMA)がモル比で8:2であるPMB80(重量平均分子量350,000)とし、第2重合体を、共重合比(MPC:BMA)がモル比で3:7であるPMB30(重量平均分子量200,000)とし、有機溶媒をエタノールとした。
エタノールに、PMB80とPMB30の混合物濃度が0.2重量%となるよう溶解させて重合体混合溶液を調製した。混合物の含有量比(PMB80/PMB30)は、重量比で1/9となるように混合した。
また、比較例として、PMB80を用いず、PMB30のみを、エタノールに、PMB30の濃度が0.2重量%となるように溶解させて重合体溶液を調製した。
・皮膜形成工程
皮膜形成工程では、実施例の重合体混合溶液に、各基材を10秒間浸漬し、これを2回繰り返したのち、真空乾燥によって乾燥させ、各基材の表面に親水性皮膜を形成し、実施例の試験片を得た。また、比較例の重合体溶液に各基材を10秒間浸漬し、これを2回繰り返したのち、真空乾燥によって乾燥させ、各基材の表面に親水性皮膜を形成し、比較例の試験片を得た。
試験片表面の水濡れ性は、実施例および比較例の各試験片の親水性皮膜の表面に純水を滴下したときの接触角を測定することで評価した。水の静的接触角は、表面接触角測定装置(協和界面科学社製 DM300)を用い、液滴法により評価した。液滴法による静的表面接触角の測定は、ISO15989規格に準拠し、液滴量1μLの純水を試料表面に滴下し、60秒後に測定した。結果を図2のグラフに示す。
図2からわかるように、実施例の試験片は、比較例の試験片に比べていずれも小さな接触角を示した。すなわち、実施例の試験片表面は、比較例の試験片表面よりも親水性が高く、初期の濡れ性に優れていることがわかった。
(実施例2)
・準備工程
準備工程では、たて10mm×よこ10mm×厚み3mmの平板形状であり、ポリカーボネート(PC)からなる基材、環状ポリオレフィン(COP)からなる基材およびステンレス鋼(SUS)から成る基材をそれぞれ準備した。
・調製工程
調製工程では、実施例として、第1重合体を、共重合比(MPC:BMA)がモル比で8:2であるPMB80(重量平均分子量350,000)とし、第2重合体を、共重合比(MPC:BMA)がモル比で3:7であるPMB30(重量平均分子量200,000)とし、有機溶媒をエタノールとした。
エタノールに、PMB80とPMB30の混合物濃度が0.1重量%、0.2重量%、0.5重量%となるよう溶解させて3種の重合体混合溶液を調製した。混合物の含有量比(PMB80/PMB30)は、重量比で1/9となるように混合した。
・皮膜形成工程
皮膜形成工程では、3種の重合体混合溶液それぞれに、各基材を10秒間浸漬し、これを2回繰り返したのち、真空乾燥によって乾燥させ、各基材の表面に親水性皮膜を形成し、実施例の試験片を得た。
試験片表面の濡れ性は、実施例の各試験片の親水性皮膜の表面に純水を滴下したときの接触角を測定することで評価した。水の静的接触角は、表面接触角測定装置(協和界面科学社製 DM300)を用い、液滴法により評価した。液滴法による静的表面接触角の測定は、ISO15989規格に準拠し、液滴量1μLの純水を試料表面に滴下して、60秒後に測定した。結果を図3のグラフに示す。
図3からわかるように、実施例の試験片の水の静的接触角は、重合体混合溶液の第1重合体および第2重合体の濃度には影響を受けず、0.1〜0.5重量%の範囲で一定であることがわかった。
(実施例3)
・準備工程
準備工程では、たて10mm×よこ10mm×厚み3mmの平板形状であり、ポリカーボネート(PC)からなる基材、環状ポリオレフィン(COP)からなる基材およびステンレス鋼(SUS)から成る基材をそれぞれ準備した。
・調製工程
調製工程では、実施例として、第1重合体を、共重合比(MPC:BMA)がモル比で8:2であるPMB80(重量平均分子量350,000)とし、第2重合体を、共重合比(MPC:BMA)がモル比で3:7であるPMB30(重量平均分子量200,000)とし、有機溶媒をエタノールとした。
エタノールに、PMB80とPMB30の混合物濃度が0.2重量%となるよう溶解させて重合体混合溶液を調製した。混合物の含有量比(PMB80/PMB30)は、重量比で1/9となるように混合した。
・皮膜形成工程
皮膜形成工程では、実施例の重合体混合溶液に、各基材を10秒間浸漬し、これを2回繰り返したのち、真空乾燥によって乾燥させ、各基材の表面に親水性皮膜を形成し、未滅菌の実施例の試験片を得た。
・滅菌工程
滅菌工程では、親水性皮膜が形成された乾燥後の試験片に吸収線量25〜40kGyの条件でガンマ線を照射する照射処理を施した滅菌済み実施例の試験片および親水性皮膜が形成された乾燥後の試験片にガスプラズマ処理を施した滅菌済み実施例の試験片を得た。
試験片表面の濡れ性は、実施例の各試験片の親水性皮膜の表面に純水を滴下したときの接触角を測定することで評価した。水の静的接触角は、表面接触角測定装置(協和界面科学社製 DM300)を用い、液滴法により評価した。液滴法による静的表面接触角の測定は、ISO15989規格に準拠し、液滴量1μLの純水を試料表面に滴下して60秒後に測定した。結果を図4のグラフに示す。図4のグラフにおいて、基材ごとに左から未滅菌、ガンマ線滅菌、ガスプラズマ滅菌の順に示している。
図4からわかるように、実施例の試験片の水の静的接触角は、いずれの基材においてもガンマ線滅菌およびガスプラズマ滅菌を施すことで未滅菌のものよりも低くなることがわかった。すなわち、ガンマ線滅菌のように高エネルギー線を照射したり、ガスプラズマ滅菌のようにガスプラズマを接触させることで、照射前よりも初期の水濡れ性が優れることがわかった。
(実施例4)
・準備工程
準備工程では、たて10mm×よこ10mm×厚み3mmの平板形状であり、シリコン(Si)から成る基材をそれぞれ準備した。
・調製工程
調製工程では、実施例として、第1重合体を、共重合比(MPC:BMA)がモル比で8:2であるPMB80(重量平均分子量350,000)とし、第2重合体を、共重合比(MPC:BMA)がモル比で3:7であるPMB30(重量平均分子量200,000)とし、有機溶媒をエタノールとした。
エタノールに、PMB80とPMB30の混合物濃度が0.2重量%となるよう溶解させて重合体混合溶液を調製した。混合物の含有量比(PMB80/PMB30)は、重量比で1/9となるように混合した。
また、比較例として、PMB80を用いず、PMB30のみを、エタノールに、PMB30の濃度が0.2重量%となるように溶解させて重合体溶液を調製した。
・皮膜形成工程
皮膜形成工程では、実施例の重合体混合溶液に、各基材を10秒間浸漬し、これを2回繰り返したのち、真空乾燥によって乾燥させ、各基材の表面に親水性皮膜を形成し、実施例の試験片を得た。また、比較例の重合体溶液に各基材を10秒間浸漬し、これを2回繰り返したのち、真空乾燥によって乾燥させ、各基材の表面に親水性皮膜を形成し、比較例の試験片を得た。
耐水性は、水温37℃の純水に実施例および比較例の試験片を浸漬させ、浸漬時間の経過に従って、リン原子濃度を測定し、その変化によって評価した。
リン原子濃度は、XPS分析装置(島津/KRATOS製 AXIS−HSi165)を用い、X線源をMg−Kα線、印加電圧を15kV、光電子の放出角度を90°として測定した。結果を図5のグラフに示す。
図5からわかるように、実施例の試験片は、浸漬時間が経過してもリン原子の濃度が殆んど低下せず、一定濃度を維持した。これに対して、比較例の試験片は、同じ浸漬時間において、実施例よりもリン原子の濃度が低く、浸漬時間の経過に伴い、リン原子の濃度も低下した。
すなわち、実施例では、親水性皮膜からの重合体の溶出は殆んど無かったのに対して、比較例は、親水性皮膜から重合体が溶出し、実施例のほうが水中での安定性に優れていると判断できる。

Claims (7)

  1. 医療機器の製造方法であって、
    基材を準備する準備工程と、
    ホスホリルコリン基を有する第1重合体および第1重合体と親水性が異なる、ホスホリルコリン基を有する第2重合体を有機溶媒に溶解させて重合体混合溶液を調製する調製工程と、
    調製された重合体混合溶液に基材を浸漬させたのち乾燥させて、基材の少なくとも一部の表面に第1重合体および第2重合体を含む親水性皮膜を形成する皮膜形成工程と、を有することを特徴とする医療機器の製造方法。
  2. 第1重合体および第2重合体は、光反応性を有しておらず、
    皮膜形成工程では、光反応を行わないことを特徴とする請求項1記載の医療機器の製造方法。
  3. ホスホリルコリン基を有する第1重合体およびホスホリルコリン基を有する第2重合体は、互いに共重合比が異なる2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとn−ブチルメタクリレートとの共重合体であることを特徴とする請求項1または2記載の医療機器の製造方法。
  4. 重合体混合溶液中の第1重合体および第2重合体の混合物の含有濃度が、0.1〜0.5重量%であることを特徴とする請求項3に記載の医療機器の製造方法。
  5. 基材は、生体適合性材料からなることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1つに記載の医療機器の製造方法。
  6. 親水性皮膜が形成された基材に滅菌処理を施す滅菌工程をさらに有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の医療機器の製造方法。
  7. 滅菌処理が、親水性皮膜が形成された基材に高エネルギー線を照射する照射処理または親水性皮膜が形成された基材にガスプラズマを接触させるガスプラズマ処理であることを特徴とする請求項6に記載の医療機器の製造方法。
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