JP2004194874A - 歯科補綴物用コーティング材組成物 - Google Patents

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Abstract

【課題】口臭等の口腔疾患の原因となるタンパク質や口腔内細菌等の口腔内汚染物質が歯科補綴物表面へ付着することを抑制し、歯垢等のバイオフィルムの形成を未然に防ぐ歯科補綴物用コーティング材組成物を提供する。
【解決手段】歯科補綴物用コーティング材組成物を、水,エタノール,プロパノール,ブタノール,ペンタノール,アセトンから選ばれた少なくとも1種類の溶媒中に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であって2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン成分が3〜90モル%である共重合体が1〜150g/l含まれている構成にする。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歯科補綴物表面にタンパク質や口腔内細菌の付着抑制効果を持つコーティング層を形成することが可能な歯科補綴物用コーティング材組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
義歯,矯義歯,歯冠補綴物等の歯科補綴物は、口腔機能の低下,欠落及び形態の異常を整復する目的で使用される。これらの歯科補綴物には、長期間に亘って口腔内で使用されるため、口腔汚染物質(主に唾液中のタンパク質やストレプトコッカス・ミュータンス,カビ等の菌類)の付着によって歯垢等のバイオフィルムが形成される。このバイオフィルムは、口臭,口腔粘膜の炎症,口内炎等の口腔疾患を引き起こす原因となるため、形成後出来るだけ早めに除去しておくことが望ましい。
【0003】
一般的な歯科補綴物のバイオフィルムの除去方法としては、歯ブラシ等によるブラッシングや有床義歯の場合は義歯洗浄剤等の薬剤中に歯科補綴物を浸漬し、この薬剤に含まれる酵素や酸素を利用してバイオフィルムを破壊し洗浄する方法が広く行われている。このような方法は、歯科補綴物に形成されたバイオフィルムを除去し、付着したタンパク質や口腔内細菌を早期に除去する方法である。しかし、バイオフィルムが一旦形成されてしまうとブラッシングや薬剤による除去方法では簡単に歯科補綴物から取り除くことが難しく、磨き残しや除去のし残りが起こり易いため口腔疾患の予防として大きな効果を得ることが難しかった。
【0004】
また、バイオフィルムを形成し難くする方法として、歯科補綴物の材質に抗菌剤を添加する方法も提案されている。しかし、抗菌剤は歯科補綴物に付着した口腔内細菌やカビなどの菌類の増殖を抑制する作用しか生じないため、バイオフィルムが形成されることは避けられないものであった。
【0005】
そこで単独では作用し難いバイオフィルムやプラークなどの微生物の集合体や塊に対し優れた抗菌活性を有する抗菌製剤として、アルギニンまたはその誘導体と抗菌活性を示す化合物と界面活性剤とから成る抗菌製剤(例えば、特許文献1参照。)や、リジンまたはその誘導体と抗菌活性を示す化合物と界面活性剤とから成る抗菌製剤(例えば、特許文献2参照。)や、ヒスチジンまたはその誘導体と抗菌活性を示す化合物と界面活性剤とから成る抗菌製剤(例えば、特許文献3参照。)が提案されているが、これらの抗菌製剤は口腔内に既に存在しているバイオフィルムやプラークなどの微生物の集合体や塊に対し優れた抗菌活性を有するものであって、バイオフィルムが形成されるのを未然に防ぐことを目的とするものではない。
【0006】
【特許文献1】
特開平8−151324号公報
【特許文献2】
特開平8−151325号公報
【特許文献3】
特開平8−151326号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、口臭等の口腔疾患の原因となるタンパク質や口腔内細菌等の口腔内汚染物質が歯科補綴物表面へ付着することを抑制し、バイオフィルムの形成を未然に防ぐことを目的とした歯科補綴物用コーティング材組成物を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、生体中の組織を構成している生体膜の表面がタンパク質及び口腔内細菌に対する非吸着性,非活性特性に極めて優れていることに着目し、生体膜の主成分であるリン脂質の極性基と同一の構造を有する成分の中でも特に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと疎水性である(メタ)アクリル酸エステルとから得られる共重合体をコーティング材成分として適用すると、歯科補綴物表面に非吸着性,非活性特性を持つ生体に安全なコーティング層が形成され、タンパク質や口腔内細菌の付着を抑制する効果があることを見い出して本発明を完成したのである。
【0009】
【発明の実施の形態】
即ち、本発明は、水,エタノール,プロパノール,ブタノール,ペンタノール,アセトンから選ばれた少なくとも1種類の溶媒中に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であって2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン成分が3〜90モル%である共重合体が1〜150g/l含まれていることを特徴とする歯科補綴物用コーティング材組成物である。
【0010】
本発明で用いる共重合体は、下記化学式で示される構造を有する2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンとメタクリル酸エステルとの共重合体である。
【0011】
【化1】
Figure 2004194874
【0012】
但し、kは0.03〜0.90,mは0.10〜0.97,nは1以上の正数,R1はH又はメチル基,R2はH又はOR'(R'は脂肪族炭化水素基又は芳香族炭化水素基)を示す。
共重合体成分である(メタ)アクリル酸エステルのR'が脂肪族炭化水素基の場合の例としては、アルキル基,アルケニル基等が挙げられ、芳香族基ではフェニル基等を挙げることが出来る。
【0013】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例として、メタクリル酸メチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−エトキシエチル、メタクリル酸2−エトキシプロピル、メタクリル酸2−フェノキシエチル、メタクリル酸2−ブトキシエチル等及びそのアクリル酸を例示することが出来る。
【0014】
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体の分子量はその使用状況に応じて種々に変化させることが出来るが、得られるコーティングの強度及び組成物の使い易さの観点から、分子量は5,000〜500,000であることが好ましく、より好ましくは20,000〜200,000である。
【0015】
本発明に係る歯科補綴物用コーティング材組成物中の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体は、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン成分のモル%が3〜90%であり、より好ましくは10〜60%である。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン成分のモル%が3%未満では非吸着性,非活性特性の効果が得難く、90%を超える場合は共重合体と歯科補綴物表面との相互作用が弱く安定したコーティング層が形成出来なくなる。
【0016】
歯科補綴物用コーティング材組成物に使用する共重合体が、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン成分のモル%が3〜40%と低い場合は、共重合体が水に難溶となる傾向があるため、予め共重合体をエタノールやアセトンに溶解させてから使用することが好ましい。
【0017】
本発明に係る歯科補綴物用コーティング材組成物は、後述する溶媒に対して、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体を1〜150g/l、より好ましくは10〜100g/l含んでいるものである。2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体の濃度が1g/lより少ない場合は、非吸着性の効果が得られるほど充分なコーティングが行えず、また150g/lを超えても効果は上がらない。
【0018】
本発明に係る歯科補綴物用コーティング材組成物に使用する溶媒は、口腔内において安全な水,エタノール,プロパノール,ブタノール,ペンタノール,アセトンから選ばれた少なくとも1種類であることが必要である。但し、長時間水を除くこれらの溶媒に浸した場合、変色やひび割れ等が生じる畏れのあるレジン床や長時間浸した場合には膨潤する畏れのある粘膜調整材等を含む床等の歯科補綴物に使用する場合は、組成物中の水を除く溶媒の濃度を多くても溶媒全体の60%程度とし残部は水とすることが望ましい。
【0019】
本発明に係る歯科補綴物用コーティング材組成物は、主にコーティングを行おうとする歯科補綴物を歯科補綴物用コーティング材組成物中に1分から一晩程浸漬した後に必要に応じて軽く水洗し、その後乾燥する方法や、筆等を用いて歯科補綴物表面に直接均一に塗布し、その後乾燥を行う方法によって使用される。
【0020】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
<2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体>
(メタ)アクリル酸エステルとしてメタクリル酸ブチル(BMA)、メタクリル酸ステアリル(SMA)、メタクリル酸エチルヘキシル(EHMA)を使用し、表1に示すモル%の2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)とメタクリル酸エステルとの共重合体1,2,3を用いた。
【0022】
【表1】
Figure 2004194874
【0023】
<実施例1〜6,比較例1,2>
表2に示す配合で実施例1〜3に使用する歯科補綴物用コーティング材組成物を作製して実施例,比較例に使用した。歯科補綴物としてレジン製の義歯床に抗菌剤を含有したものを比較例1とし、歯科補綴物表面に歯科補綴物用コーティング材組成物を適応していないものを比較例2とした。
<口腔内細菌の付着試験>
コーティング対象物である義歯床としては、義歯床用材料(商品名:アクロン,ジーシー社製)を用いて通常行われている湿式加熱重合方法により義歯床を作製した。
【0024】
実施例1,3は、面相筆を用いて義歯床表面に表2に示す歯科補綴物用コーティング材組成物を塗布し室温で自然乾燥を行った。実施例2,4は、義歯床を表2に示す歯科補綴物用コーティング材組成物中に60分間浸漬した後に自然乾燥を行った。実施例5,6は義歯床を表2に示す歯科補綴物用コーティング材組成物中に5分間浸漬した後自然乾燥を行った。
比較例1は、義歯床用材料のモノマー液中に抗菌成分として陽イオン系界面活性剤(商品名:DC5700,ダウコーニング社製)を4%含有したものを用いた以外は実施例1と同様の方法で作製した義歯床を用いた。
【0025】
評価は口腔内のバイオフィルムの形成に直接影響を及ぼすストレプトコッカス・ミュータンス菌について、市販されているストレプトコッカス・ミュータンス菌測定キット(商品名:デントカルトSM,エイコー社製)を用い以下の方法により行った。
【0026】
実施例,比較例の各義歯床を5人の患者の口腔内に1分間入れた後、口腔内より取り出し測定キットに付属の培養液を用いてストレプトコッカス・ミュータンス菌のみを48時間培養させ、各義歯床中央部1cm2部分の目視で確認されるコロニー数を数え、ストレプトコッカス・ミュータンス菌の付着具合を評価した。
なお、コロニー数は5つの義歯床の平均値を用いて評価した。結果を表2に示す。
【0027】
<口腔内装着試験>
実施例1〜6と同様にして作製しコーティングを行った義歯床を試験体とした。また、比較例も比較例1,2と同様のものを使用した。
【0028】
各義歯を患者に8時間装着させた後、軽く水で濯ぎ、装着後の義歯床の重量の増加量を求めた。なお、重量測定は各義歯床において装着前後共充分乾燥した状態で行い、各実施例,比較例の義歯床は5人の患者それぞれに1種類づつ使用しその平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0029】
【表2】
Figure 2004194874
【0030】
表2のコロニー数から本発明に係る歯科補綴物用コーティング材組成物は、コーティングを行わない場合と比較して唾液接触によるミュータンス菌の付着を抑制する効果を有することが確認された。特に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン成分が多い共重合体2を用いた場合はコロニー少なく、優れた付着抑制効果を持つコーティング層が形成されていることが確認された。
【0031】
また、本発明に係る歯科補綴物用コーティング材組成物を使用した義歯床は装着後の重量増加が少ないことが認められる。義歯床の重量の増加は、口腔内に装着されていた間に付着した汚染物質の量も含むと考えられるため、各実施例は汚染物質の付着が少ないと言える。一方、抗菌剤を添加した比較例1の重量の増加量はコーティングを行わない比較例2に比べて少ないものの各実施例と比較すると明らか多い。このことから、抗菌剤には義歯床に付着した菌の繁殖を抑える効果は期待出来るが、菌やその他タンパク質等の汚染物質の付着を抑制する効果は少ないと言える。
【0032】
【発明の効果】
以上に詳述した如く、本発明に係る歯科補綴物用コーティング材組成物は、口臭等の口腔疾患の原因となるタンパク質や口腔内細菌等の口腔内汚染物質が歯科補綴物表面へ付着することを抑制し、バイオフィルムの形成を未然に防ぐことを可能とするものである。
このような本発明に係る歯科補綴物用コーティング材組成物の歯科分野に貢献する価値は非常に大きなものである。

Claims (1)

  1. 水,エタノール,プロパノール,ブタノール,ペンタノール,アセトンから選ばれた少なくとも1種類の溶媒中に、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンと(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体であって2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン成分が3〜90モル%である共重合体が1〜150g/l含まれていることを特徴とする歯科補綴物用コーティング材組成物。
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