JP2021030237A - 鋼の連続鋳造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】連続鋳造において、鋳片の中心偏析とセンターポロシティを抜本的に低減することのできる、鋼の連続鋳造方法を提供する。【解決手段】鋳片の上面等軸晶率を5%以上とし、中心固相率が0.8から凝固完了までの領域(高固相率領域)において、圧下ロール対を1対以上配置して鋳片の圧下を行い、前記上面等軸晶率が5%以上20%未満のときは高固相率領域での圧下勾配を4.0mm/min以上とし、上面等軸晶率が20%以上のときは高固相率領域での圧下勾配を3.0mm/min以上とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。鋳片上面等軸晶率の確保と、高固相率領域における適正な圧下勾配との組み合わせにより、鋳片の中心偏析とセンターポロシティを抜本的に改善することができる。【選択図】図1

Description

本発明は、鋳片の中心偏析とセンターポロシティを抜本的に低減するための、鋼の連続鋳造方法に関するものである。
連続鋳造方法によってスラブやブルームなどの鋳片を鋳造する場合に、鋳片の中心部にリンやマンガン等の成分が偏析する、いわゆる中心偏析が発生することがある。また、鋳片中心部にはセンターポロシティと呼ばれる空孔が発生する。
連続鋳造中の凝固末期において、鋼が凝固する際の凝固収縮に伴って、鋳片内の所定体積に占める鋼量が不足する。未凝固溶鋼が流動可能である鋳片部位では、未凝固溶鋼が最終凝固部の凝固完了点に向かって流動し、固液界面の不純物濃化溶鋼が最終凝固部に集積し、これが中心偏析の原因となる。また、未凝固溶鋼が流動できない位置(鋳片中心固相率が0.8以上)では、鋳片中心部に空隙が生じ、センターポロシティの原因となる。
中心偏析を軽減するためには、厚み中心が固液共存領域であって未凝固溶鋼が流動可能である領域において、溶鋼の凝固収縮量に見合った分だけ凝固シェルを圧下することにより、最終凝固部付近の溶鋼流動を抑えることが有効となる。また、センターポロシティを軽減するためには、未凝固溶鋼が流動できない凝固完了位置付近又は完全凝固後の鋳片を圧下してセンターポロシティを圧着することが有効となる。このような考え方に基づき、連続鋳造末期の凝固完了前後においてサポートロールによって鋳片を圧下する軽圧下技術が用いられている。
連続鋳造においては、上記のように凝固収縮を補償する適切な圧下を付与することにより、中心偏析を低減することが可能である。実機では、中心固相率0.8以下の低固相率の領域において0.8〜1.2mm/min程度の適正圧下を加える、軽圧下技術が広く適用されている。
特許文献1には、圧下の割合を0.36〜0.72mm/minとして、中心固相率が流動限界固相率以上の部位まで該圧下を行うことを特徴とするスラブの連続鋳造方法が紹介されている。流動限界固相率以上の部位(中心固相率が0.8以上)においても圧下勾配を変化させていない。
特許文献2は、少なくとも1対の対向するロール間で圧下しつつ鋼スラブ連続鋳造片を引抜く連続鋳造方法において、該鋳片中心部の固相率が0.1〜0.4となる位置から0.8〜0.9の範囲内となる任意位置に至る領域では、全凝固収縮量を補償するように鋳片を圧下し、上記任意位置以降凝固が完了するまでの高固相率の領域は、鋳片の引抜方向長さ(単位:m)当たりの鋳片厚みに対する圧下量の割合(%)を示す圧下勾配(%/m)が、鋼のC濃度による式で規定される範囲を満足するように圧下する連続鋳造方法が提案されている。
連続鋳造鋳片の断面の凝固組織は、全体が柱状晶で形成されるか、あるいは鋳片外周側が柱状晶であり、鋳片の厚み中心部に等軸晶が生成されることがある。鋳片の厚み全体に占める厚み方向の等軸晶帯の比率を、等軸晶率と呼んでいる。
鋳片の中心偏析やセンターポロシティを低減するために、鋳片の等軸晶率増加が有効であることが知られている(例えば非特許文献1)。等軸晶率を増加する手段として、タンディッシュ内溶鋼温度の過熱度を低下する方法(低温鋳造)、鋳造中における電磁攪拌の実施が有効である。電磁攪拌を実施する鋳造中の部位としては、鋳型内、二次冷却帯、凝固末期があり、特に鋳型内での電磁攪拌が鋳片の等軸晶率増加に有効であることが知られている。
通常用いられている連続鋳造装置は、鋳型内で鋳片表面を初期凝固し、その後の二次冷却帯においては鋳片が半径10m前後で湾曲して導かれ、最終的に水平方向に導かれていく。湾曲部の未凝固溶鋼中において、等軸晶は下面側の凝固シェル上に堆積するため、最終凝固後の鋳片断面において、等軸晶は厚み中心から下面側に多く形成される。特にスラブ連続鋳造鋳片では、等軸晶帯は主に厚み中心部よりも下面側に形成されることが多い。厚み中心部よりも上面側に形成される等軸晶帯の厚さを鋳片厚みの1/2で除した割合(%)を、本発明では「上面等軸晶率」という。
特許文献3には、凝固末期に少なくとも1対のロールにより鋳片を圧下しつつ引き抜く溶融金属の連続鋳造方法において、上面等軸晶率が5%未満の場合、鋳片中心部の温度が固相率0.25に相当する位置から流動限界固相率に相当する位置までの凝固時期範囲の任意の位置、好ましくは該凝固時期範囲の上流側に少なくとも1対のロールを設置し、全圧下量が4〜20mmとなるように圧下し、かつ中心固相率が0.05〜0.25の鋳片単位長さ当たりの圧下量が0.2〜3.0mm/mとなるように圧下することを特徴とする連続鋳造方法が開示されている。
特許文献4には、上面等軸晶率が5%以上になるように制御し、増速した鋳造速度において鋳片の中心固相率0.15から0.7(流動限界固相率)までの全圧下量が4〜20mmとなるように圧下し、かつ中心固相率が0.02〜0.15の圧下勾配を0.2〜3.0mmとして連続鋳造を行う方法が開示されている。
特許文献5には、B含有オーステナイト系ステンレス鋼鋳片を連続鋳造により製造する際に、該鋳片の等軸晶率を10〜50%とするとともに、鋳造中の最終凝固位置とそこから上流側において、鋳片の厚さに対して0.1%以上のテーパー量を1m以上の長さにわたって付与する、ステンレス鋼鋳片の製造方法が開示されている。
特許文献6には、鋳片軸心部に等軸晶帯を多く形成する様な連続鋳造片を、対向するロール間で圧下しつつ引抜く連続鋳造方法において、該鋳片中心部の固相率が0.2となる位置から0.8〜0.9となる位置に至る領域では、該領域内での全凝固収縮量を補償する様に鋳片を圧下し、それ以降凝固が完了する迄の領域は、該鋳片の引抜方向長さ(単位:m)当たりの鋳片厚みに対する圧下量の割合(%)を示す圧下勾配(%/m)が、0.08%/m以上で1.50%/m以下となる様な割合で連続的に圧下することを特徴とする連続鋳造方法が開示されている。
特開平06−297125号公報 特開平11−77269号公報 特開平4−279265号公報 特開平4−309446号公報 特開平11−138238号公報 特開平9−285856号公報
第5版鉄鋼便覧 第1巻製銑・製鋼 第430頁
連続鋳造においては、前述のとおり、凝固収縮を補償する適切な圧下を付与することで中心偏析及びセンターポロシティを低減可能であることから、軽圧下技術が広く適用されている。また、鋳片に等軸晶帯を形成することによる中心偏析の低減も広く用いられている。しかし、中心偏析とセンターポロシティの抜本的な低減には至っていない。
本発明は、連続鋳造において、鋳片の中心偏析とセンターポロシティを抜本的に低減することのできる、鋼の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
即ち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
[1]鋳片の上面等軸晶率を5%以上とし、
中心固相率が0.8から凝固完了までの領域(以下「高固相率領域」という。)において、圧下ロール対を1対以上配置して鋳片の圧下を行い、
前記上面等軸晶率が5%以上20%未満のときは高固相率領域での圧下勾配を4.0mm/min以上とし、上面等軸晶率が20%以上のときは高固相率領域での圧下勾配を3.0mm/min以上とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
[2]前記圧下ロール対を連続で2対以上配置して鋳片の圧下を行うことを特徴とする[1]に記載の鋼の連続鋳造方法。
[3]中心固相率が0.3から0.75までの領域(以下「低固相率領域」という。)において、圧下勾配が0.8〜1.2mm/minの圧下を行い、前記低固相率領域と高固相率領域の間の領域では圧下勾配が0.8mm/min以上の圧下を行うことを特徴とする[1]又は[2]に記載の鋼の連続鋳造方法。
本発明の鋼の連続鋳造方法を用いることにより、鋳片の中心偏析とセンターポロシティを抜本的に低減することができる。
上面等軸晶率、高固相率領域圧下勾配と鋳片の最大Mn偏析度との関係を示す図である。 上面等軸晶率と鋳片の最大Mn偏析度との関係を示す図であり、(A)(B)はそれぞれ高固相率領域圧下勾配が4.0、5.6mm/minの場合である。 高固相率領域における圧下ロール対の配置を示す図であり、(A)は1対、(B)は2対、(C)は3対の圧下ロール対を有する場合である。 高固相率領域での圧下ロール対を用いた圧下に加え、低固相率領域で軽圧下を行う状況を示す図である。 圧下ロール対の対数、上面等軸晶率と最大Mn偏析度の関係を示す図であり、(A)(B)はそれぞれ高固相率領域圧下勾配が4.0、5.6mm/minの場合である。
連続鋳造中における鋳片の中心固相率の変化について説明する。鋳片の上面側と下面側の液相線が鋳片厚み中心部で接した地点(凝固開始位置)から中心固相率が0より大きくなり、下流側に行くに従って中心固相率が増大する。凝固開始位置より上流側では中心固相率が0である。そして、鋳片の上面側と下面側の固相線が鋳片厚み中心部で接した地点で凝固が完了し、中心固相率が1.0となる。この点を「凝固完了位置」ともいう。凝固完了位置の下流側では、中心固相率は1.0のままである。以下便宜的に、凝固完了位置を「中心固相率が1.0の位置」ということがある。また、中心固相率をfsと表示することがある。
鋳造中の鋳造方向各位置における中心固相率については、連続鋳造中の鋳片厚み方向中心部の温度TCを1次元の伝熱凝固計算によって求めた上で、液相線温度TL、固相線温度TSを用いて下記(1)式で算出することができる。伝熱・凝固計算にあたってはエンタルピー法や等価比熱法などを用いることができる。TC>TLでは中心固相率=0、TS>TCでは中心固相率=1.0となる。
中心固相率=(TL−TC)/(TL−TS) (1)
前述のように、連続鋳造においては、凝固収縮を補償する適切な圧下を付与することにより、中心偏析を低減することが行われている。実機では、中心固相率0.8以下の低固相率の領域において軽圧下を行っており、そのような中心固相率の範囲では、凝固収縮を補償するための軽圧下量は、0.8〜1.2mm/min程度とされている。
本発明においては、中心固相率が0.8以上で凝固完了位置(中心固相率=1.0)までの領域を「高固相率領域」と呼ぶ。そして、高固相率領域においても、適正な圧下を行うとともに、鋳片の厚み中心部から上面側に等軸晶を形成することとすれば、鋳片の中心偏析・センターポロシティをより改善できるのではないかと着想した。前述のとおり、本発明では、厚み中心部よりも上面側に形成される等軸晶帯の厚さを鋳片厚みの1/2で除した割合(%)を「上面等軸晶率」という。
そこで、実機連続鋳造装置を用いた実験により確認を行った。連続鋳造において、鋳型内電磁攪拌を実施するとともに、タンディッシュ内溶鋼温度を調整し、タンディッシュ内溶鋼過熱度ΔT(タンディッシュ内溶鋼温度と液相線温度との差(℃))を20℃以下から30℃以上までのいずれかとすることにより、鋳片の上面等軸晶率を0%、5%、20%のそれぞれに調整した。溶鋼過熱度ΔTが小さいほど、上面側等軸晶率が増大する。さらに、鋳片中心固相率が0.8から凝固完了位置までの区間の高固相率領域において鋳片の圧下を行い、圧下に際して圧下勾配(時間当たりの圧下量(mm/min))を種々変化させ、鋳片厚み中心部の最大Mn偏析度に及ぼす影響の評価を行った。
鋳片の評価については、圧下定常部の幅方向中央部・鋳片幅方向に垂直な断面(L断面)サンプルを対象にして行った。
上面等軸晶率については、L断面のエッチプリントを採取し、目視観察により柱状晶組織と等軸晶組織の境界を定め、鋳片厚み中心部から上面側についての等軸晶率(上面等軸晶率)を算出した。
Mn偏析評価に当たっては、当該L断面においてEPMAによるビーム径50μmでMn濃度マッピング分析を実施した。マッピングデータのうち、偏析最悪部を含む2mm幅のラインを設定し、濃度のピーク値Cを測定視野内平均濃度C0で除した値を、最大Mn偏析度C/C0とした。
評価結果を図1に示す。同じ上面等軸晶率のデータで比較すると、鋳片中心固相率が0.8から凝固完了位置までの区間の高固相率領域において圧下を行い、圧下における圧下勾配を増加させると、鋳片厚み中心部の最大Mn偏析度は減少していくことがわかる。また、同じ圧下勾配であれば、上面等軸晶率が高くなるほど、鋳片厚み中心部の最大Mn偏析度は減少していくことがわかる。そして、上面等軸晶率が5%以上であって、高固相率領域の圧下勾配が4.0mm/min、あるいは上面等軸晶率が20%であって、高固相率領域の圧下勾配が3.0mm/minであれば、最大Mn偏析度は1.17以下となることがわかった。上面等軸晶率が高いほど、高固相率領域の圧下勾配が大きいほど、最大Mn偏析度は低減する。
次に、実機連続鋳造装置を用いた実験により確認を行った。実機連続鋳造装置では上面等軸晶率0〜20%の鋳造を行った。鋳型内電磁攪拌を実施し、タンディッシュ内溶鋼過熱度ΔTを低減することにより、高い上面等軸晶率を実現した。高固相率領域において、圧下ロール対3対を連続して配置し、圧下勾配を4.0mm/minと5.6mm/minの2水準として連続鋳造を行った。得られた鋳片の品質について、横軸を上面等軸晶率、縦軸を最大Mn偏析度として図2に示した。上面等軸晶率が高いほど、また圧下勾配が大きいなるほど、最大Mn偏析度が改善されていることがわかる。
上面等軸晶率が高いほど、高固相率領域の圧下勾配が大きいほど、最大Mn偏析度が低減する理由は、以下のように考えられる。
固相率0.8以上最終凝固位置までの高固相率領域は、流動限界固相率を上回る固液共存領域であり、マクロな溶鋼流動は生じない。しかしブリッジング等に起因する局所的な負圧の発生を要因に、溶鋼の局所的な流動が生じ、偏析の濃化が生ずる。そして高固相率領域における急勾配圧下は、偏析の濃化を抑制可能であることが分かっている。
鋳片最終凝固部における溶鋼の局所的な流動は、柱状晶凝固組織に比べ等軸晶凝固組織においてより生じにくい。これは、柱状晶組織では液相がデンドライト先端領域に集中するのに比べ、等軸晶組織では液相が結晶粒間に均一に分散しているため、ミクロスケールでの流動抵抗が大きくなるためである。
上記を踏まえると、同一の圧下を加えた場合でも、鋳片厚み中心部の主たる凝固組織が柱状晶である鋳片に比べ、等軸晶である鋳片の方が、より偏析が低減する。これは、目標とする偏析度への到達に必要な圧下勾配が、等軸晶では小さく済むことを意味する。
以上の結果に基づいて、本発明の鋼の連続鋳造方法を以下のように規定することとした。図3を参照しつつ説明する。
即ち、鋳片の上面等軸晶率を5%以上とし、中心固相率が0.8から凝固完了までの領域(高固相率領域61)において、圧下ロール対1を1対以上配置して鋳片の圧下を行い、上面等軸晶率が5%以上20%未満のときは高固相率領域61での圧下勾配を4.0mm/min以上とし、上面等軸晶率が20%以上のときは高固相率領域61での圧下勾配を3.0mm/min以上とする。
なお、上面等軸晶率が10%程度のとき、鋳片最終凝固部の凝固組織はほぼすべてが等軸晶となる。さらに、上面等軸晶率が20%程度のとき、凝固不均一を考慮しても最終凝固部の凝固組織はほぼすべてが等軸晶となる。
連続鋳造中の圧下位置を定めるにあたり、中心固相率が0.8となる位置、凝固完了位置のそれぞれについては、連続鋳造中における鋳片表面の温度測定、鋳片の伝熱凝固計算を組み合わせることによって定めることができる。
中心固相率が0.8から凝固完了位置までの高固相率領域61で圧下を行う圧下ロール対1の数については、最低でも1対とする(図3(A)参照)。当該領域での圧下ロール対1の数は2対とすると好ましい(図3(B)参照)。圧下ロール対1の数は3対以上であるとより好ましい(図3(C)参照)。
中心固相率が0.8から凝固完了位置までの領域(高固相率領域61)で行う圧下の圧下勾配は、10mm/min以下とすると好ましい。10mm/min以下であれば、割れが発生しないことを実験装置で確認しているためである。
鋳片の上面等軸晶率を5%以上とする方法について説明する。
上面等軸晶率を5%以上とするためには、鋳型内電磁攪拌の実施が最も有効である。鋳型内電磁攪拌による攪拌流速を速くするほど、上面等軸晶率を増大することができる。
さらに、タンディッシュ内溶鋼温度を低下し、タンディッシュ内溶鋼過熱度ΔT(タンディッシュ内溶鋼温度と液相線温度との差(℃))を小さくするほど、上面等軸晶率を増大することができる。ΔTを30℃以下とすると好ましい。
ΔT=30℃以下、鋳型内電磁撹拌流速0.1m/sで上面等軸晶率が5%以上になる。
中心固相率が0.8以下の固相率が低い領域における好ましい鋳片の圧下条件について説明する(図4参照)。従来から知られているように、固相率が低い領域において、凝固収縮にみあった鋳片の圧下を行うことにより、鋳片の中心偏析が低減することが知られている。固相率が低い領域における中心固相率の範囲では、凝固収縮を補償するための軽圧下量は、0.8〜1.2mm/min程度とされている。本発明においても、中心固相率が0.3から0.75までの領域(低固相率領域62)において、圧下勾配が0.8〜1.2mm/minの圧下を行うことにより、鋳片の中心偏析を低位に保つことが可能となる。中心固相率の下限については、軽圧下が有効となる固相率範囲の一般的な下限であることから定めた。一方、中心固相率が0.75を超えると、圧下勾配の上限が緩和されることから、低固相率領域の上限中心固相率を0.75と定めた。低固相率領域における圧下勾配の範囲については、凝固収縮見合いとされる、一般的な軽圧下適正勾配に準ずるものである。
前記低固相率領域62と高固相率領域61の間の領域(中心固相率が0.75〜0.8の間の領域、以下「遷移固相率領域63」という。)では圧下勾配が0.8mm/min以上の圧下を行えばよい(図4参照)。遷移固相率領域63の圧下勾配の上限は、高固相率領域61と同様、10mm/min以下とすると好ましい。即ち、遷移固相率領域63においては、低固相率領域62と同じ圧下勾配としてもよく、あるいは高固相率領域61と同じ圧下勾配としてもよく、低固相率領域62での圧下勾配(軽圧下)から高固相率領域61での圧下勾配(高圧下)に順次移行する遷移領域としてもかまわない。
中心固相率が0.8から凝固完了位置までの高固相率領域の圧下ロールの直径については、直径380mm以上であれば内部割れが発生しないことを確認している。
本発明は、スラブの連続鋳造において用いると好ましい。スラブの連続鋳造においては、通常は上面等軸晶率が5%未満の状態で鋳造されることが多い。本発明は、スラブの連続鋳造においても、上面等軸晶率を5%以上とし、高固相率領域での高い圧下勾配を組み合わせることにより、鋳片の中心偏析とセンターポロシティを大幅に向上することを可能とした。
次に、実機連続鋳造装置を用いて、C含有量:0.17質量%の中炭素鋼を用い、幅:2300mm、厚み:230mmのスラブを鋳造する実験を行った。一般的な軽圧下機能を持つ連続鋳造装置に該当する。鋳型内電磁攪拌を実施し、鋳型内電磁攪拌条件は鋳型内撹拌流速が0.1m/sとなるよう設定した。鋳造速度は1.0m/minとした。
連続鋳造装置のロール配置については、図4に示すように、上流側52の固相率が低い側においては通常のサポートロール4(直径280mm)によって鋳片5を支持しており、サポートロールのロール間隔を順次狭めることによって軽圧下を行うことができる。
また、下流側53の固相率が0.8−1.0の領域(高固相率領域61)では、F面側の圧下ロール2とL面側の圧下ロール3を用いた圧下ロール対1を配置し、圧下を行っている。圧下ロール対1において、L面側の圧下ロール3、F面側の圧下ロール2はいずれも、直径400mmのフラットロールを用いている。
図3に高固相率領域での圧下ロール対1の配置について図示している。図3(A)は圧下ロール対1が1対、(B)は圧下ロール対1が2対、(C)は圧下ロール対1が3対配置されている。圧下ロール対1が3対の場合、図3(C)に示すように、上流側52から、第1圧下ロール対11、第2圧下ロール対12、第3圧下ロール対13が配置される。中心固相率が0.3から0.8までの領域と、中心固相率が0.8から1.0までの領域について、それぞれ圧下条件を設定して圧下を行った。表1において、No.1〜4、13〜16は圧下ロール対が3対、No.5〜8、17〜20は圧下ロール対が2対、No.9〜12、21〜24は圧下ロール対が1対の場合の実施例である。
また、圧下ロール対の数が1対〜3対の場合のいずれも、最も上流側の第1圧下ロール対11の直前のサポートロール4Uは鋳片中心固相率が0.8以下、各圧下ロール対1は鋳片中心固相率が0.8以上凝固完了位置(鋳片中心固相率が1.0)の範囲内に配置されている。表1に示す「累積平均圧下量(mm)」については、高固相率領域直前のサポートロール4U出側における鋳片の厚み(サポートロール4Uの上下ロール間隔)を基準とし、高固相率領域の各圧下ロール対において、平均圧下量dを算出し、これを累積平均圧下量としている。また、表1に示す圧下勾配(mm/min)は、高固相率領域入り側と出側における平均圧下量の差を、高固相率領域通過時間で除した値である。具体的には、高固相率領域入り側の平均圧下量はゼロ、出側における平均圧下量は最終圧下ロール対の累積平均圧下量dTが対応する。また、高固相率領域通過時間は、高固相率領域の長さL(実施例では1.0m)を鋳造速度(実施例では1.0m/min)で除した値である。実施例では結果として、圧下勾配(mm/min)は、最終圧下ロール対の累積平均圧下量(mm)と等しい数値となっている。
中心固相率が0.8までの領域では、軽圧下条件として、通常用いられている軽圧下勾配の0.8〜1.2mm/minを採用した。この中心固相率領域では、0.8〜1.2mm/minを採用することにより、凝固収縮を補償することができる。この領域での軽圧下は、前述のように通常用いられているサポートロール4を用いており、ロール直径は280mmである。
中心固相率0.8から凝固完了位置までの領域(高固相率領域61)の圧下条件については、圧下ロール対によって圧下する圧下勾配を選択し、表1のNo.1〜12は累積平均圧下量が4.0mm、圧下勾配が4.0mm/minであり、No.13〜24は累積平均圧下量が5.6mm、圧下勾配が5.6mm/minである。圧下ロール対1の数については、1対の場合、2対の場合と3対の場合の3水準で調査を行った。
鋳片の上面等軸晶率については、鋳型内電磁攪拌の攪拌流速を0.1m/sに設定した上で、タンディッシュ内溶鋼過熱度ΔTを変化させることによって調整した。攪拌流速が0.1m/sの時タンディッシュ内溶鋼過熱度ΔTを35℃以上とすることによって上面等軸晶率が0%となり 、ΔTを30℃とすることで上面等軸晶率を5%とし、ΔTを25℃とすることで上面等軸晶率を10%とし、ΔTを20℃以下とすることで上面等軸晶率を20% とした。
鋳片品質については、鋳片厚み中心部の最大Mn偏析度(中心偏析)、センターポロシティの評価を行った。最大Mn偏析度評価方法の評価方法は前述のとおりとした。
ポロシティ面積率については、L断面のカラーチェックを行い、カラーチェック後の着色部の面積の和をポロシティ合計面積とし、鋳片断面に占めるポロシティ合計面積の割合(%)をポロシティ面積率とした。
最大Mn偏析度が1.17以下、センターポロシティ面積率が3以下を合格とした。
製造条件及び品質評価結果を表1に示す。また、圧下ロール対の対数、上面等軸晶率と最大Mn偏析度の関係を図5に示す。図5(A)(B)はそれぞれ高固相率領域圧下勾配が4.0、5.6mm/minの場合である。
Figure 2021030237
表1において、No.1〜4、5〜8、9〜12、13〜16、17〜20、21〜24のそれぞれの群において、上面等軸晶率が0%の比較例はいずれもポロシティ面積率が不良であった。上面等軸晶率が0%で圧下勾配が4.0mm/minの条件については最大Mn偏析度も不良であった。一方、上面等軸晶率が5%以上では最大Mn偏析度、ポロシティ面積率ともに良好であり、上面等軸晶率が高くなるほど成績の向上が見られた。
No.1〜12(圧下勾配:4.0mm/min)とNo.13〜24(圧下勾配:5.6mm/min)のそれぞれの群において、圧下ロール対の対数が多くなるほど、最大Mn偏析度、ポロシティ面積率ともに、良好な成績が得られた。
No.1〜12(圧下勾配:4.0mm/min)とNo.13〜24(圧下勾配:5.6mm/min)を対比すると、圧下勾配が大きくなると、最大Mn偏析度、ポロシティ面積率ともに、良好な成績が得られた。
1 圧下ロール対
2 圧下ロール
3 圧下ロール
4 サポートロール
5 鋳片
11 第1圧下ロール対
12 第2圧下ロール対
13 第3圧下ロール対
52 上流側
53 下流側
61 高固相率領域
62 低固相率領域
63 遷移固相率領域

Claims (3)

  1. 鋳片の上面等軸晶率を5%以上とし、
    中心固相率が0.8から凝固完了までの領域(以下「高固相率領域」という。)において、圧下ロール対を1対以上配置して鋳片の圧下を行い、
    前記上面等軸晶率が5%以上20%未満のときは高固相率領域での圧下勾配を4.0mm/min以上とし、上面等軸晶率が20%以上のときは高固相率領域での圧下勾配を3.0mm/min以上とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
  2. 前記圧下ロール対を連続で2対以上配置して鋳片の圧下を行うことを特徴とする請求項1に記載の鋼の連続鋳造方法。
  3. 中心固相率が0.3から0.75までの領域(以下「低固相率領域」という。)において、圧下勾配が0.8〜1.2mm/minの圧下を行い、前記低固相率領域と高固相率領域の間の領域では圧下勾配が0.8mm/min以上の圧下を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鋼の連続鋳造方法。
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