本発明に係る燃料電池車の実施形態について図1から図6を参照して説明する。なお、複数の図面中、同一または相当する構成には同一の符号を付す。
図1は、本発明の実施形態に係る燃料電池車のブロック図である。
図1に示すように、本実施形態に係る燃料電池車1は、酸化剤ガスと燃料ガスとを反応させて発電する燃料電池5と、複数の蓄電池6、7と、駆動輪11と、駆動輪11の駆動力を発生させる電動機12と、を備えている。燃料電池車1は、燃料電池5、および複数の蓄電池6、7の少なくともいずれか1つから電動機12へ電力を供給して駆動輪11を駆動させて走行する。燃料電池車1は、例えば、普通乗用車、バス、トラック、電動車椅子などを含む。
燃料電池車1は、燃料電池5の出力を定められた電圧に調整して出力するDC/DCコンバーター13と、燃料電池5、第一蓄電池6、および第二蓄電池7と電動機12との電気的な接続状態を切り替えるスイッチ群15と、スイッチ群15によって切り替えられる燃料電池5、第一蓄電池6、および第二蓄電池7のいずれかの出力を交流に変換して電動機12へ出力するインバーター16と、スイッチ群15を制御して電動機12の駆動を制御する制御部17と、を備えている。
燃料電池5は、積層された多数の燃料電池セルを備えている。そのため、燃料電池5は、燃料電池スタックとも呼ばれる。燃料電池5は、燃料電池セルを最小単位とし、この燃料電池セルを数十から数百積層した燃料電池スタックとして使用される。
燃料電池5は、積層された複数の燃料電池セルと、積層された燃料電池セルを両方の外側から挟む一対のエンドプレートと、一対のエンドプレートを燃料電池セルの積層体に固定する締結部材と、を備えている。
それぞれの燃料電池セルは、燃料極(負極)、電解質膜、空気極(正極)を一体化した膜電極接合体((Membrane Electrode Assembly、MEA)と、膜電極接合体を表裏から挟む一対のセパレーターと、を備えている。セパレーターは、反応ガスの供給路を有している。
それぞれの燃料電池セルには、反応ガスとして酸化剤ガスと燃料ガスとが供給される。これら、酸化剤ガスと燃料ガスとが膜電極接合体を挟んで反応してそれぞれの燃料電池セルに電圧が生じる。それぞれの燃料電池セルに生じた電圧の総和が燃料電池5の出力電圧である。
第一蓄電池6および第二蓄電池7は、例えばリチウムイオンバッテリー、ニッケル水素バッテリー、または鉛蓄電池である。第二蓄電池7の蓄電容量は、第一蓄電池6の蓄電容量よりも大きいことが好ましい。第二蓄電池7の充放電制御における充電率の上限値は、第一蓄電池6の充放電制御における充電率の上限値より高く設定されている。例えば、制御部17は、第二蓄電池7に満充電を許容し、第一蓄電池6に満充電を許さず、充電率の上限値を60パーセントに抑える。
スイッチ群15は、5つのスイッチ21、22、23、24、25を含んでいる。
5つのスイッチ21、22、23、24、25は、例えば半導体スイッチであり、具体的にはMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)である。第一スイッチ21、第二スイッチ22、第三スイッチ23、第四スイッチ24、および第五スイッチ25のそれぞれのゲート端子(図示省略)は、制御部17に接続されている。5つのスイッチ21、22、23、24、25は、制御部17によってそれぞれ個別に開閉(開く/閉じる、切る/入れる、オフする/オンする、開放する/投入する、オープン/クローズ、遮断/導通のいずれの表現も、電路の切断と接続とを切り替える意味で同意である。)される。
第一スイッチ21は、燃料電池5と電動機12との間、燃料電池5と第一蓄電池6との間、かつ燃料電池5と第二蓄電池7との間に配置されている。第一スイッチ21は、燃料電池5の負荷側を電動機12および複数の蓄電池6、7のいずれかに切り替える。
第二スイッチ22は、第一スイッチ21と第一蓄電池6との間、かつ第一スイッチ21と第二蓄電池7との間に配置されている。第二スイッチ22は、第一スイッチ21を介して燃料電池5の負荷側を第一蓄電池6および第二蓄電池7のいずれかに切り替える。
第三スイッチ23は、第一蓄電池6と電動機12との間、かつ第二蓄電池7と電動機12との間に配置されている。第三スイッチ23は、電動機12を第一蓄電池6の負荷側および第二蓄電池7の負荷側のいずれかに接続する。
第四スイッチ24は、第三スイッチ23と電動機12との間に配置されている。第四スイッチ24は、第四スイッチ24は、第三スイッチ23を介して第一蓄電池6および第二蓄電池7のいずれかの負荷側を電動機12に接続し、または第一蓄電池6および第二蓄電池7の両方の負荷側と電動機12との接続を断つ。
第五スイッチ25は、第一蓄電池6と第二蓄電池7と間に配置されている。第五スイッチ25は、第一蓄電池6の負荷側を第二蓄電池7の入力側に接続し、または第一蓄電池6と第二蓄電池7との接続を断つ。
なお、燃料電池5と第一スイッチ21との間には、電動機12、および複数の蓄電池6、7から燃料電池5へ電流が逆流することを阻止するダイオード27が設けられている。また、第五スイッチ25を介して第一蓄電池6の負荷側を第二蓄電池7の入力側に接続する電路には、昇圧回路(図示省略)が設けられている。この昇圧回路は、第一蓄電池6の出力で第二蓄電池7を充電できるよう、第一蓄電池6の出力電圧を昇圧する。
制御部17は、いわゆるECM(Engine Control Module)である。制御部17は、信号線29を介してDC/DCコンバーター13、燃料電池5、第一蓄電池6、第二蓄電池7、スイッチ群15、インバーター16、および電動機12に接続されている。制御部17は、これらDC/DCコンバーター13、燃料電池5、第一蓄電池6、第二蓄電池7、スイッチ群15、インバーター16、および電動機12の運転を制御し、または運転の指令を下す。なお、図1において、信号線29のDC/DCコンバーター13、燃料電池5、第一蓄電池6、第二蓄電池7、スイッチ群15、インバーター16、および電動機12側の記載は省略した。
制御部17は、例えば中央処理装置(Central Processing Unit、CPU、図示省略)、中央処理装置で実行(処理)される各種演算プログラム、パラメータなどを記憶する補助記憶装置(例えば、Read Only Memory、ROM、図示省略)、プログラムの作業領域が動的に確保される主記憶装置(例えば、Random Access Memory、RAM、図示省略)を備えている。
また、燃料電池車1は、酸化剤ガスである空気の吸気および排気と、燃料ガスである水素の受け入れ、供給、および循環と、燃料電池5の運転制御に要する種々のセンサーを備えている。制御部17は、これら種々のセンサーから取得する情報に基づいて燃料電池5の運転を制御し、電動機12へ電力を供給する。これら種々のセンサーには、例えば第一蓄電池6の充電率を推定、または算定するための電流センサーや電圧センサーと、第二蓄電池7の充電率を推定、または算定するための電流センサーや電圧センサーと、を含んでいる。
ところで、燃料電池5の出力は、自己加湿を含む暖機運転が終了するまで、燃料電池車1の安定な走行に不足する場合がある。しかしながら、暖機運転中の燃料電池5の出力を無駄にすることもできない。
そこで、制御部17は、スイッチ群15のスイッチング制御を組み合わせて、燃料電池5の良好な暖機運転と、燃料電池5の暖機運転中における燃料電池車1の電力需要の充足と、を両立させる。それらスイッチ群15のスイッチング制御は、第一蓄電池6、および第二蓄電池7の充電率(State of Charge、SOC、「充電状態」とも言う。)に関連付けて行われる。
そこで先ず、制御部17が実行するスイッチング制御におけるスイッチ群15のスイッチングステータスについて説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る燃料電池車が実行するスイッチング制御におけるスイッチングステータスの一例を纏めた図表である。
図2に示すように、本実施形態に係る燃料電池車1の制御部17は、スイッチ群15を少なくとも4つのスイッチングステータスに切り替えるスイッチング制御を実行する。
第一スイッチ21を電動機12側へ切り替えると、燃料電池5の出力がインバーター16を経て電動機12へ供給される。燃料電池5の出力が電動機12へ供給されている場合には、第四スイッチ24は、第一蓄電池6および第二蓄電池7の両方と電動機12との接続を断つ。また、第五スイッチ25は、第一蓄電池6と第二蓄電池7との接続を断つ。スイッチ群15のこのような切り替え状態を以下「燃料電池走行モード」と呼ぶ。
第一スイッチ21を蓄電池6、7側へ切り替えると、燃料電池5の出力が第二スイッチ22を介して蓄電池6、7のいずれかへ供給される。燃料電池5の出力が蓄電池6、7のいずれかへ供給されている場合には、第四スイッチ24は、第一蓄電池6および第二蓄電池7のいずれかの出力先を電動機12に接続し、第五スイッチ25は、第一蓄電池6と第二蓄電池7との接続を断つ。
第一スイッチ21を蓄電池6、7側へ切り替え、かつ第二スイッチ22を第一蓄電池6側へ切り替えると、燃料電池5の出力が第一蓄電池6へ供給される。燃料電池5の出力が第一蓄電池6へ供給されている場合には、第三スイッチ23および第四スイッチ24は、第二蓄電池7の出力を電動機12に接続する。第五スイッチ25は、第一蓄電池6と第二蓄電池7との接続を断つ。スイッチ群15のこのような切り替え状態を以下「燃料電池暖機第一モード」と呼ぶ。
第一スイッチ21を蓄電池6、7側へ切り替え、かつ第二スイッチ22を第二蓄電池7側へ切り替えると、燃料電池5の出力が第二蓄電池7へ供給される。燃料電池5の出力が第二蓄電池7へ供給されている場合には、第三スイッチ23および第四スイッチ24は、第一蓄電池6の出力を電動機12に接続する。第五スイッチ25は、第一蓄電池6と第二蓄電池7との接続を断つ。スイッチ群15のこのような切り替え状態を以下「燃料電池暖機第二モード」と呼ぶ。
第一スイッチ21を電動機12側へ切り替え、第四スイッチ24を開き、かつ第五スイッチ25を閉じると、第一蓄電池6の出力が第二蓄電池7へ供給される。スイッチ群15のこのような切り替え状態を以下「第一蓄電池消費モード」と呼ぶ。
図3は、本発明の実施形態に係る燃料電池車が実行する燃料電池の運転制御のアルゴリズムの一例を表現するフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態に係る燃料電池車1の制御部17は、暖機運転モード、通常運転モード、および停止モードのいずれかのモードで燃料電池5を運転する。
具体的には、制御部17は、イグニッションオンによって起動すると、暖機条件が成立しているか否かを判断する(ステップS1)。
暖機条件は、燃料電池5の前回の運転時から所定時間以上経過し、または燃料電池5の周囲温度が所定温度以下の場合に成立する。
所定時間は、燃料電池セルの電解質膜が乾いて自己加湿が必要になることが予測される時間、例えば100時間に設定される。なお、自己加湿の要否は、燃料電池5の周囲の環境条件によっても変化するが、例えば一年を通じて相対湿度が最も低くなる条件において自己加湿が必要になることが予測される時間を実験的に確認しておくことでも良い。
所定温度は、発電反応にともなって燃料電池セル内に生成される水分が凍結してしまうことが余録される温度、例えば摂氏零度に設定される。
ステップS1の判断が肯定された場合、つまり暖機条件が成立した場合、換言すると、燃料電池5の前回の運転時から所定時間以上経過した場合、または燃料電池5の周囲温度が所定温度以下の場合(ステップS1 Yes)には、制御部17は、燃料電池5を暖機運転モードで運転する(ステップS2)。
次いで、制御部17は、燃料電池5が暖機運転モードで運転している間、燃料電池5の出力が安定したか否かを判断する(ステップS3)。燃料電池5の安定した出力は、燃料電池5の性能諸元によって適宜に定まる。このステップS3は、燃料電池5の暖機が終了しているか否かを判断している。燃料電池5が予め定める閾値以上に出力可能な場合には、燃料電池5の暖機が終了していると判断する。例えば、燃料電池5の出力電圧が所定電圧以上あって、かつ燃料電池5の出力電流が所定電流以上あれば、燃料電池5の出力が安定していると判断される。
ステップS3の判断が否定された場合、つまり燃料電池5の出力が不安定の場合(ステップS3 No)には、制御部17は、ステップS2に戻って燃料電池5の暖機運転モードを継続する。
ステップS1の判断が否定された場合、つまり暖機条件が不成立の場合、換言すると、燃料電池5の前回の運転時から経過した時間が所定時間未満であって、かつ燃料電池5の周囲温度が所定温度より大きい場合(ステップS1 No)には、制御部17は、燃料電池5を通常運転モードで運転する(ステップS4)。また、ステップS3の判断が肯定された場合、つまり、燃料電池5の出力が安定している場合(ステップS3 Yes)には、制御部17は、燃料電池5を通常運転モードで運転する(ステップS4)。
制御部17は、燃料電池5が通常運転モードで運転している間、燃料電池車1のイグニッションオフ操作が行われたか否かを判断する(ステップS5)。
ステップS5の判断が否定された場合、つまりイグニッションオフの操作が行われるまで(ステップS5 No)には、制御部17は、ステップS4に戻って燃料電池5の通常運転モードを継続する。
ステップS5の判断が肯定された場合、つまりイグニッションオフの操作が行われた(ステップS5 Yes)場合には、制御部17は、燃料電池5を停止モードで運転し(ステップS6)、停止モードの終了後に本制御を終了させる。
次いで、燃料電池5の各運転モードにおいて制御部17が実行するスイッチング制御について説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る燃料電池車が実行する燃料電池の暖機運転モードのアルゴリズムの一例を表現するフローチャートである。
図4に示すように、本実施形態に係る燃料電池車1の制御部17は、燃料電池5の暖機条件が成立した場合には、燃料電池5の出力で第一蓄電池6を充電し、第二蓄電池7の出力で電動機12を駆動させる。
また、制御部17は、燃料電池5の暖機運転中に第一蓄電池6が実質的に満充電に達した場合には、燃料電池5の出力で第二蓄電池7を充電し、第一蓄電池6の出力で電動機12を駆動させる。
さらに、制御部17は、燃料電池5の暖機運転中に第一蓄電池6が実質的に電欠に達した場合には、燃料電池5の出力で第一蓄電池6を充電し、第二蓄電池7の出力で電動機12を駆動させる。
また、制御部17は、燃料電池5の暖機運転中に第二蓄電池7が実質的に満充電に達した場合には、燃料電池5の出力で第一蓄電池6を充電し、第二蓄電池7の出力で電動機12を駆動させる。
さらに、制御部17は、燃料電池5の暖機運転中に第二蓄電池7が実質的に電欠に達した場合には、燃料電池5の出力で第二蓄電池7を充電し、第一蓄電池6の出力で電動機12を駆動させる。
具体的には、制御部17は、燃料電池5の暖機運転モードを開始すると、第一スイッチ21を蓄電池6、7側へ繋ぐ(ステップS11)。
次いで、制御部17は、第二スイッチ22を第一蓄電池6側へ繋ぎ、第三スイッチ23を第二蓄電池7側へ繋ぎ、第四スイッチ24を閉じる(ステップS12)。換言すると、制御部17は、スイッチ群15を燃料電池暖機第一モードに切り替える。そうすると、燃料電池5の出力で第一蓄電池6が充電され、第二蓄電池7の出力で電動機12が駆動される。
このように、暖機中の燃料電池5の出力の蓄電池と、電動機12へ出力する蓄電池とを異ならせておくことによって、燃料電池車1は、燃料電池5の暖機運転の確実な継続と、暖機中の燃料電池5の出力の無駄の防止と、電動機12への安定的な電力供給とを、並立させることができる。
次いで、制御部17は、第一蓄電池6の充電率、および第二蓄電池7の充電率を監視する。制御部17は、暖機中の燃料電池5によって充電される第一蓄電池6が満充電に達したか否か、または電動機12へ出力する第二蓄電池7が電欠に達したか否か、を判断する(ステップS13)。
ステップS13の判断が否定された場合、つまり暖機中の燃料電池5によって充電される第一蓄電池6が満充電に至らず、または電動機12へ出力する第二蓄電池7が電欠に至らないと(ステップS13 No)、制御部17は、各スイッチ21、22、23、24、25の状態を維持したまま、ステップS13の判断を繰り返す。
そして、ステップS13の判断が肯定された場合、つまり暖機中の燃料電池5によって充電される第一蓄電池6が満充電に達する、または電動機12へ出力する第二蓄電池7が電欠に達すると(ステップS13 Yes)、制御部17は、第一スイッチ21および第四スイッチ24の状態を維持したまま、第二スイッチ22を第二蓄電池7側へ繋ぎ、第三スイッチ23を第一蓄電池6側へ繋ぐ(ステップS14)。換言すると、制御部17は、スイッチ群15を燃料電池暖機第二モードに切り替える。そうすると、燃料電池5の出力で第二蓄電池7が充電され、第一蓄電池6の出力で電動機12が駆動される。
次いで、制御部17は、第一蓄電池6の充電率、および第二蓄電池7の充電率を監視する。制御部17は、暖機中の燃料電池5によって充電される第二蓄電池7が満充電に達したか否か、または電動機12へ出力する第一蓄電池6が電欠に達したか否か、を判断する(ステップS15)。
ステップS15の判断が否定された場合、つまり暖機中の燃料電池5によって充電される第二蓄電池7が満充電に至らず、または電動機12へ出力する第一蓄電池6が電欠に至らないと(ステップS15 No)、制御部17は、各スイッチ21、22、23、24、25の状態を維持したまま、ステップS15の判断を繰り返す。
そして、ステップS15の判断が肯定された場合、つまり暖機中の燃料電池5によって充電される第二蓄電池7が満充電に達する、または電動機12へ出力する第一蓄電池6が電欠に達すると(ステップS15 Yes)、制御部17は、第一スイッチ21および第四スイッチ24の状態を維持したまま、ステップS12へ戻る。そうすると、燃料電池5の出力で第一蓄電池6が充電され、第二蓄電池7の出力で電動機12が駆動される。
なお、第一蓄電池6の満充電における充電率、第一蓄電池6の電欠における充電率、第二蓄電池7の満充電における充電率、第二蓄電池7の電欠における充電率は、それぞれの電池の劣化が極端に進行しないよう設定される。つまり、満充電における充電率は、100パーセントよりも低く、例えば80パーセントに設定される。電欠における充電率は、零パーセントよりも高く、例えば20パーセントに設定される。満充電における充電率は、電欠における充電率よりも高い。また、満充電における充電率、および電欠における充電率は、それぞれの蓄電池6、7で異なっていても良い。
このように、暖機中の燃料電池5の出力の蓄電池と、電動機12へ出力する蓄電池とを適宜に切り替えることによって、燃料電池車1は、燃料電池5の暖機運転の確実な継続と、暖機中の燃料電池5の出力の無駄の防止と、電動機12への安定的な電力供給とを、並立させることができる。
図5は、本発明の実施形態に係る燃料電池車が実行する燃料電池の通常運転モードのアルゴリズムの一例を表現するフローチャートである。
図5に示すように、本実施形態に係る燃料電池車1の制御部17は、燃料電池5の暖機が終了した場合(図3のステップS3の判断が成立した場合)、つまり、燃料電池5が予め定める閾値以上に出力可能な場合には、燃料電池5の出力で電動機12を駆動させる。
また、制御部17は、燃料電池車1の起動時に第二蓄電池7の充電率が第一蓄電池6の充電率より高くなるようスイッチ群15の切り替え制御を行う。
さらに、制御部17は、次回の燃料電池5の暖機運転中の出力先である第一蓄電池6の充電率を電欠にさせる。
具体的には、制御部17は、燃料電池車1のアクセル(図示省略)が操作されるなどして、出力要求がある場合には(ステップS21 Yes)、第一スイッチ21を電動機12側へ繋ぐ(ステップS22)。つまり、制御部17は、スイッチ群15を燃料電池走行モードに切り替える。そうすると、電動機12は、燃料電池5の出力で駆動する。
燃料電池車1の出力要求がない場合には(ステップS21 No)、第一スイッチ21を蓄電池6、7側へ繋ぎ、第二スイッチ22を第二蓄電池7側へ繋ぐ(ステップS23)。そうすると、燃料電池5の出力で第二蓄電池7が充電される。ステップS23の後、制御部17は、ステップS21へ戻って処理を繰り返す。
次いで、制御部17は、第一蓄電池6の充電率を監視する。制御部17は、第一蓄電池6が電欠に達しているか否かを判断する(ステップS24)。
ステップS24の判断が否定された場合、つまり第一蓄電池6が電欠に達していない場合には(ステップS24 No)、制御部17は、第三スイッチ23を第一蓄電池6側へ繋ぎ、第四スイッチ24を閉じる(ステップS25)。そうすると、電動機12は、燃料電池5および第一蓄電池6の出力で駆動する。
次いで、制御部17は、再度、第一蓄電池6の充電率を監視する。制御部17は、第一蓄電池6が電欠に達しているか否かを判断する(ステップS26)。
ステップS26の判断が否定された場合、つまり第一蓄電池6が電欠に達していない場合には(ステップS26 No)、制御部17は、各スイッチ21、22、23、24、25の状態を維持したまま、ステップS26の判断を繰り返す。
そして、ステップS24の判断が肯定された場合、つまり第一蓄電池6が電欠に達している場合には(ステップS24 No)、制御部17は、第一スイッチ21を電動機12側へ繋いだまま、第三スイッチ23を第二蓄電池7側へ繋ぎ、第四スイッチ24を閉じる(ステップS27)。そうすると、電動機12は、燃料電池5および第二蓄電池7の出力で駆動する。ステップS26の判断が肯定された場合にも、同様である。ステップS27の後、制御部17は、ステップS21へ戻って処理を繰り返す。
ところで、燃料電池車1の走行距離によっては、第一蓄電池6が電欠に達しない場合がある。
そこで、制御部17は、燃料電池5を停止させる場合には、次回の燃料電池5の暖機運転時に、電動機12へ供給する電力の総和(蓄電池6、7の充電率の総和)を確保しつつ、暖機中の燃料電池5の出力を受け入れるための余地を確保しておく。
図6は、本発明の実施形態に係る燃料電池車が実行する燃料電池の停止モードのアルゴリズムの一例を表現するフローチャートである。
図6に示すように、本実施形態に係る燃料電池車1の制御部17は、燃料電池5を停止させる場合には、燃料電池5の出力で第二蓄電池7を充電する。
つまり、制御部17は、図5および図6のアルゴリズムを経て、次回の燃料電池5の暖機運転時に、燃料電池5の出力を受け入れる蓄電池6、7の余力と電動機12への安定した電力供給を両立可能なように、それぞれの蓄電池6、7の充電率を異ならせ、両方の蓄電池6、7が同時に満充電になることを回避する。
具体的には、制御部17は、第一蓄電池6の充電率を監視する。制御部17は、燃料電池5の次回の暖機運転において、燃料電池5によって充電される第一蓄電池6の充電率が、電欠よりも高く、満充電よりも低い所定の充電率、例えば40パーセント以上か否かを判断する(ステップS31)。
なお、本処理の実行が開始される時点では、第四スイッチ24は開かれて蓄電池6、7から電動機12への電力の供給は遮断されている。
ステップS31の判断が肯定される場合、つまり第一蓄電池6の充電率が所定の充電率以上の場合には(ステップS31 Yes)、制御部17は、第一スイッチ21を蓄電池6、7側へ繋ぎ、第二スイッチ22を第二蓄電池7側へ繋ぐ(ステップS32)。そして、制御部17は、燃料電池5の出力で第二蓄電池7の充電率が満充電よりも低い所定の充電率、例えば70パーセントに達すると、燃料電池5を停止させて(ステップS33)本処理を終了する。
また、ステップS31の判断が否定される場合、つまり第一蓄電池6の充電率が所定の充電率未満の場合には(ステップS31 No)、制御部17は、第一スイッチ21を蓄電池6、7側へ繋ぎ、第二スイッチ22を第二蓄電池7側へ繋ぐ(ステップS34)。そして、制御部17は、燃料電池5の出力で第二蓄電池7が満充電に達すると、燃料電池5を停止させて(ステップS35)本処理を終了する。
このように、燃料電池車1は、複数の蓄電池6、7の充電率を、電欠と満充電との間の適宜の充電率にして燃料電池5を停止させる。そのため、燃料電池車1は、次回に燃料電池5を暖機運転させる際に、燃料電池5の出力で充電される第一蓄電池6の充電率と、電動機12へ電力を供給する第二蓄電池7の充電率と、を図3に示すような暖機運転モードに適合させる。
なお、制御部17は、燃料電池5の起動時および停止時の少なくともいずれかで、第一蓄電池6の出力で第二蓄電池7を充電しても良い。このとき、燃料電池5は停止される。制御部17は、第五スイッチ25を閉じて第一蓄電池6の出力で第二蓄電池7を充電する。換言すると、制御部17は、スイッチ群15を第一蓄電池消費モードに切り替える。第一蓄電池消費モードでは、燃料電池5を停止させた状態で、第一蓄電池6の充電率、および第二蓄電池7の充電率を、次回の燃料電池5の安定的な暖機と、電動機12への安定的な電力供給と、に備えておくことができる。
また、燃料電池5の起動時に第一蓄電池消費モードを実行することによって、燃料電池車1は、冷間状態の燃料電池5の暖機運転を実行できる。さらに、燃料電池5の停止時に第一蓄電池消費モードを実行することによって、次回の燃料電池車1の起動の直後から車両を走行可能な状態にすることができる。
以上のように、本実施形態に係る燃料電池車1は、燃料電池5の暖機条件が成立した場合には、燃料電池5の出力で第一蓄電池6を充電し、第二蓄電池7の出力で電動機12を駆動させる。そのため、燃料電池車1は、大きな出力を出すことが困難な暖気中の燃料電池5に安定した暖機運転を継続させること、および電動機12へ電力を安定供給して車両のドライバビリティを向上させること、を両立できる。
また、本実施形態に係る燃料電池車1は、燃料電池5の暖機運転中に第一蓄電池6が実質的に満充電に達した場合には、燃料電池5の出力で第二蓄電池7を充電し、第一蓄電池6の出力で電動機12を駆動させ、第一蓄電池6が実質的に電欠に達した場合には、燃料電池5の出力で第一蓄電池6を充電し、第二蓄電池7の出力で電動機12を駆動させ、第二蓄電池7が実質的に満充電に達した場合には、燃料電池5の出力で第一蓄電池6を充電し、第二蓄電池7の出力で電動機12を駆動させ、第二蓄電池7が実質的に電欠に達した場合には、燃料電池5の出力で第二蓄電池7を充電し、第一蓄電池6の出力で電動機12を駆動させる。そのため、燃料電池車1は、一方の蓄電池(始めは第一蓄電池6)が満充電に達しても燃料電池5の暖機が終了していない場合であっても、他方の蓄電池(始めは第二蓄電池7)で燃料電池5の出力を受け入れて暖機運転を継続することができる。また、暖機中の燃料電池5の出力の受け入れ先を切り替えた場合には、燃料電池車1は、電動機12側へ満充電状態の蓄電池から電力を供給することになって、ドライバビリティを維持できる。
さらに、本実施形態に係る燃料電池車1は、燃料電池車1の起動時に第二蓄電池7の充電率が第一蓄電池6の充電率より高くなるようスイッチ群15の切り替え制御を行う。そのため、燃料電池車1は、燃料電池5を起動させる都度、確実に好適な燃料電池5の暖機運転を終了すること、および車両の始動時から良好なドライバビリティを提供すること、を両立できる。
また、本実施形態に係る燃料電池車1は、燃料電池5が予め定める閾値以上に出力可能な場合には、燃料電池5の出力で電動機12を駆動させる。そのため、燃料電池車1は、燃料電池5の暖機の終了を好適に判定できる。
さらに、本実施形態に係る燃料電池車1は、第二蓄電池7の充放電制御における充電率の上限値は、第一蓄電池6の充放電制御における充電率の上限値より高く設定される。そのため、燃料電池車1は、大きな出力を出すことが困難な暖気中の燃料電池5に安定した暖機運転を継続させること、および電動機12へ電力を安定供給して車両のドライバビリティを向上させること、をさらに確実に両立できる。
また、本実施形態に係る燃料電池車1は、燃料電池5の起動時および停止時の少なくともいずれかで、第一蓄電池6の出力で第二蓄電池7を充電する。そのため、燃料電池車1は、例えばシニアカーや小型の二輪車のように出力の小さい燃料電池5や蓄電池6、7で十分に走行可能な車両において、蓄電池6、7間で電力を融通することで、暖機中の燃料電池5の出力の受け入れ先である第一蓄電池6の受入余裕を増加させるとともに、電動機12で消費可能な第二蓄電池7の充電率を上げてドライバビリティを向上できる。
したがって、本発明に係る燃料電池車1によれば、燃料電池5の自己加湿を含む暖機運転の確実な遂行と、電動機12への安定した電力の供給と、を両立できる。