JP2021025598A - 転がり軸受及び軌道輪の修復方法 - Google Patents

転がり軸受及び軌道輪の修復方法 Download PDF

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Abstract

【課題】軌道輪の軌道面の表面層に予め取り代を設けることなく、摩耗や剥離などの損傷が生じた軌道面を修復することができる方法を提供する。【解決手段】レーザ10を内輪軌道4aに照射し、かつ、内輪軌道4aのうち、レーザ10が照射された部分に粉末溶材11を供給しながら、内輪3aを回転させることにより、内輪軌道4aの上に肉盛部8aを全周にわたって形成する。その後、肉盛部8aに研磨加工を施すことにより、新たな内輪軌道を形成する。【選択図】図4

Description

本発明は、軌道面に摩耗や剥離などの損傷が生じた軌道輪の修復方法に関する。
工作機械および産業機械などの回転機械の回転軸は、転がり軸受により、ハウジングなどの使用時に回転しない部分に対して支持される。転がり軸受は、互いに対向する面に軌道面を全周にわたり有し、かつ、互いに同軸に配置された一対の軌道輪と、該一対の軌道輪の前記軌道面同士の間に転動自在に配置された複数個の転動体と、を備える。このような転がり軸受として、具体的には、主に径方向の荷重を支承するためのラジアル転がり軸受と、主に軸方向の荷重を支承するためのスラスト転がり軸受とがある。
ラジアル転がり軸受は、外周面に内輪軌道を有する内輪と、内周面に外輪軌道を有し、かつ、前記内輪の径方向内側に該内輪と同軸に配置された外輪と、前記内輪軌道と前記外輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。
スラスト転がり軸受は、軸方向に対向する側面に軌道面を全周にわたり有し、かつ、互いに同軸に配置された一対の軌道輪と、該一対の軌道輪の前記軌道面同士の間に転動自在に配置された複数個の転動体と、を備える。
転がり軸受は、ラジアル転がり軸受であるか、スラスト転がり軸受であるかにかかわらず、荷重が負荷された状態で長時間使用すると、軌道面に摩耗が生じたり、金属疲労が生じて軌道面が剥離したりすることがある。軌道面に摩耗や剥離などの損傷が生じた場合には、前記軌道輪、または、該軌道輪を含む転がり軸受全体を交換することが考えられる。
ただし、回転機械の運用コストを低減する面からは、軌道輪や転がり軸受を交換するのではなく、摩耗や剥離などの損傷が生じた軌道面を修復したうえで、軌道輪を引き続き使用することが望ましい。特に、鉄鋼圧延機用ロールネック用軸受などの大型の軸受に対しては、このような要望が大きい。なお、ロールネック用軸受としては、例えば、大型の円すいころ軸受および円筒ころ軸受などが用いられている。
特開2003−21147号公報(特許文献1)には、軌道輪の軌道面の表面層に予め取り代を設けておき、軌道面に損傷が生じた場合に、前記取り代を除去することで、転がり軸受を再生する方法が記載されている。しかしながら、特開2003−21147号公報に記載の方法では、取り代の厚さよりも深い損傷が生じた場合に、損傷を修復あるいは除去できなかったり、取り代の除去に伴い、転がり軸受の内部隙間が増大したりするといった問題を生じる。
特開2003−21147号公報
本発明は、上述のような事情に鑑み、軌道輪の軌道面の表面層に予め取り代を設けることなく、摩耗や剥離などの損傷が生じた軌道面を修復することができる、軌道輪の修復方法を実現することを目的としている。
本発明の転がり軸受は、
互いに対向する面に軌道面を全周にわたり有し、かつ、互いに同軸に配置された一対の軌道輪と、
前記一対の軌道輪の前記軌道面同士の間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
を備え、
前記一対の軌道輪のうちの少なくとも一方の軌道輪は、少なくとも前記軌道面を含む部分の表面部に、前記少なくとも一方の軌道輪を構成する基材とは異なる金属材料により構成された肉盛層と、該肉盛層の直下に位置する部分に存在する、前記肉盛層を構成する金属材料と前記基材を構成する金属材料との混合層とを備えることを特徴とする。
前記少なくとも一方の軌道輪のうち、前記軌道面の表面から、前記転動体の直径の2%に相当する深さまでの範囲内に存在する部分のビッカース硬さ(Hv)が、600以上であることが好ましく、700以上であることがより好ましい。
前記少なくとも一方の軌道輪は、前記混合層の直下に位置する部分に再焼入れ層を備え、前記軌道面の表面から前記再焼入れ層の最深位置までの深さが、前記転動体の直径の2%以上に相当することが好ましい。
なお、層構造に関して、「下側」とは、表面層から遠い側をいい、特定の層の「直下」に位置する層とは、特定の層に対し、表面層から遠い側に隣接する層のことをいう。
前記少なくとも一方の軌道輪の前記軌道面は、0.3μm以下の算術平均粗さを有することができる。
本発明の軌道輪の修復方法は、
軌道輪の元の軌道面に、レーザ光源から発射されたレーザを照射し、かつ、前記元の軌道面のうち、前記レーザが照射された部分に、粉末溶材やワイヤ溶材などの溶材を供給しながら、前記レーザ光源と前記軌道輪とを相対回転させることにより、前記元の軌道面の上に肉盛部を全周にわたって形成する、肉盛工程と、
前記肉盛部に研磨加工を施すことにより、新たな軌道面を全周にわたって形成する、研磨工程と、
を備えることを特徴とする。
前記肉盛工程を、前記軌道輪のうち、前記元の軌道面を除く表面の少なくとも一部を拘束した状態で行うことができる。
本発明の軌道輪の修復方法は、前記肉盛工程よりも前に、前記元の軌道面を脱脂洗浄する工程を備えることができる。
上述のような本発明の軌道輪の修復方法によれば、軌道輪の軌道面の表面層に予め取り代を設けることなく、摩耗や剥離などの損傷が生じた軌道面を修復することができる。
図1は、本発明の実施の形態の第1例に係る円すいころ軸受を示す、部分切断斜視図である。 図2は、図1のX部に相当する部分の拡大模式図である。 図3(A)は、摩耗や剥離が発生した状態にある元の内輪軌道を示す、部分拡大断面図であり、図3(B)は、元の内輪軌道の上に肉盛部を形成した状態を示す、部分拡大断面図であり、図3(C)は、肉盛部に研磨加工を施して、新たな内輪軌道を形成した状態を示す、部分拡大断面図である。 図4は、元の内輪軌道の上に、レーザクラッディングにより肉盛部を形成する様子を示す、部分拡大模式図である。 図5は、レーザクラッディングを施す際に、変形防止治具により、内輪の内周面を拘束する様子を示す、断面図である。 図6は、本発明の対象となり得るスラスト転がり軸受の1例を示す、断面図である。 図7は、実施品について、軌道面に形成した凹部の形状を説明するための断面図である。 図8(A)は、実施品について、修復後の軌道輪の断面を撮影した顕微鏡写真であり、図8(B)は、新たな軌道面からの深さとビッカース硬さとの関係を示す線図である。 図9は、実施品および比較品について、転がり疲れ寿命(時間)と、累積破損確率との関係を示すワイブル分布図である。
以下、本発明の実施の形態の1例について、図1〜図5を用いて説明する。本例では、図1に示すように、転動体1として円すいころを使用した円すいころ軸受2の内輪3を、本発明の軌道輪の修復方法により修復した場合について説明する。
<円すいころ軸受の構造>
円すいころ軸受2は、外周面に内輪軌道4を全周にわたって有する内輪3と、内周面に外輪軌道5を全周にわたって有し、かつ、内輪3の径方向内側に該内輪3と同軸に配置された外輪6と、内輪軌道4と外輪軌道5との間に転動自在に配置された複数個の転動体1とを備える。
本例では、内輪3が、本発明の軌道輪の修復方法により修復されている。内輪3は、基本的には修復前における元の内輪3aを基材7として構成される。本例の内輪3は、少なくとも内輪軌道4を含む部分の表面部に、その表面側から、基材7とは異なる金属材料により構成された肉盛層8と、肉盛層8の直下に位置する部分に存在する、基材7を構成する金属材料と肉盛層8を構成する金属材料との混合層9とを備える。
基材7は、円筒形状を有し、かつ、SUJ2〜4などの高炭素クロム鋼や、浸炭処理または浸炭窒化処理を施された高炭素クロム鋼、S53Cなどの炭素鋼、SCr420やSCM420などの浸炭鋼などの硬質金属からなる金属材料により構成されている。基材7は、修復する以前の状態では、単独で内輪3aを構成し、元の内輪3aは、その外周面に、元の内輪軌道4aを有する。
肉盛層8は、基材7の外周面のうち、元の内輪軌道4aを含む部分を全周にわたって覆っている。修復後の内輪3は、肉盛層8の外周面に形成され、かつ、転動体1と転がり接触する、新たな内輪軌道4を有する。肉盛層8は、Fe基合金、Cu基合金、Ni基合金、Co基合金、炭素合金など、基材7との結合強度を十分に確保することができ、かつ、内輪軌道4の性能を十分に確保することができる金属材料により構成される。
混合層9は、基材7を構成する金属材料と肉盛層8を構成する金属材料とが混合している層である。より具体的には、混合層9は、修復時に、元の内輪3aの基材を構成する金属材料と、肉盛部8aを構成する金属材料である粉末溶材11が溶融し、混合して、凝固することにより形成される。すなわち、図4に示すように、レーザクラッディングにより肉盛部8aを形成する際には、レーザ光源から発射されたレーザ10を元の内輪軌道4aに照射し、かつ、元の内輪軌道4aのうち、レーザ10が照射された部分に、粉末溶材11を供給する。これにより、粉末溶材11が加熱されて溶融し、凝固することにより肉盛部8aが形成される。このとき、レーザ10の照射によって、レーザ10が照射された元の内輪軌道4aの表層部分に存在する金属材料が、融点以上になるまで加熱されて溶融し、溶融した粉末溶材11と混合される。したがって、基材7と肉盛部8aとの境界部分に、基材7を構成する金属材料と肉盛部8aを構成する金属材料とが溶融および混合した状態で凝固することにより、混合層9が形成される。混合層9は、肉盛部8aに研磨加工を施して、内輪軌道4をその表面に有する肉盛層8を形成した後も、肉盛層8の直下に位置する部分に存在する。
内輪3は、混合層9の直下に位置する部分に、再焼入れ層12を有し、かつ、再焼入れ層12の直下に位置する部分に、再焼戻し層13を有する。すなわち、内輪3は、内輪軌道4が形成された部分に、径方向外側から順に、肉盛層8と、混合層9と、再焼入れ層12と、再焼戻し層13とを備える。
再焼入れ層12は、基材7のうち、レーザクラッディングにより肉盛層8を形成する際に、元の内輪軌道4aにレーザ10を照射することに伴って、焼入れ温度以上、融点未満の温度に加熱されることで、再度焼入れが施された部分である。
再焼戻し層13は、基材7のうち、レーザクラッディングにより肉盛層8を形成する際に、元の内輪軌道4aにレーザ10を照射することに伴って、焼戻し温度以上、焼入れ温度未満に加熱されることで、焼戻しが施された部分である。
本例では、内輪3のうち、内輪軌道4の表面から、転動体1の直径の2%の深さまでの範囲に存在する部分のビッカース硬さ(Hv)を、600以上、好ましくは700以上としている。このため、例えば、円すいころ軸受2の内部空間に、被加工物の摩耗粉などの異物が侵入するような厳しい使用条件の下でも、内輪軌道4の転がり疲れ寿命を十分に確保することができる。なお、円すいころである転動体1の直径は、転動体1の最大径と最小径との平均値をいう。
本例では、内輪軌道4の表面から再焼入れ層12の最深位置までの深さLを、転動体1の直径の2%以上としている。このため、転動体1の転動に伴い、内輪3の材料内部に繰り返し加わる剪断応力により、材料内部の介在物を起点として生じる内部起点型剥離を生じにくくすることができる。
さらに、内輪軌道4の算術平均粗さ(Ra)を、0.3μm以下、好ましくは0.2μm以下としている。これにより、円すいころ軸受2の運転時の振動や騒音を、所望の大きさ以下に抑えることができ、かつ、表面起点型剥離を生じにくくすることができる。
<内輪の修復方法>
長期間の使用に伴って、元の内輪軌道4aに摩耗や剥離などの損傷が生じた円すいころ軸受2を設置箇所から取り外して分解し、元の内輪3aを取り出す。必要に応じて、まず、元の内輪3aの外周面に備えられた元の内輪軌道4aの表面を脱脂洗浄する。これにより、元の内輪軌道4aの表層部分に存在する油分を除去し、かつ、元の内輪軌道4aの表面に付着した摩耗粉、剥離屑などの異物や水分などを除去する。
元の内輪軌道4aの表面を脱脂洗浄する方法については、特に限定されない。例えば、溶剤脱脂や、アルカリ溶液に浸漬するアルカリ脱脂、アルカリ溶液中に浸漬した素材と電極との間に電流を通電する電解脱脂などにより行うことができる。付加的あるいは代替的に、レーザクリーニングを施したり、有機溶剤などにより洗浄した後、熱風乾燥や加熱乾燥などにより乾燥したりすることができる。必要に応じて、元の内輪軌道4aの表面を脱脂洗浄する以前に、元の内輪軌道4aに研磨加工(研削加工を含む)を施して、表面を平滑化することもできる。
次に、レーザクラッディングにより、元の内輪3a(基材7)のうち、元の内輪軌道4aが形成された部分の外周面を全周にわたって覆うように、肉盛部8aを形成する。図4に示すように、図示しないレーザ光源から発射されたレーザ10を、元の内輪軌道4aに照射し、かつ、元の内輪軌道4aのうち、レーザ10が照射された部分に、ノズル14から粉末溶材11を、シールドガスとともに吹き付けることにより供給しながら、前記レーザ光源に対して元の内輪3aを回転させる。レーザ10を元の内輪軌道4aに照射しつつ、粉末溶材11を吹き付けると、元の内輪3a(基材7)のうち、元の内輪軌道4aを含む部分の外周面に肉盛部8aが全周にわたって形成される。同時に、元の内輪3a(基材7)のうち、レーザ10が照射された元の内輪軌道4aの表層部分に存在する金属材料と、肉盛部8aを構成する金属材料である粉末溶材11とが一緒に溶融されて、これらが混合した溶融池(モルテンプール)21が形成される。そして、元の内輪3aの回転に伴い、レーザ10が照射された位置からずれると、溶融池21を構成する金属材料が冷却されて凝固する。この結果、元の内輪軌道4aの上に、肉盛部8aが全周にわたって形成されると同時に、基材7と肉盛部8aとの境界部分に、基材7を構成する金属材料と肉盛部8aを構成する金属材料との混合層9が形成される。
レーザクラッディングを行うために、レーザ10を、元の内輪軌道4aに照射すると、元の内輪3a(基材7)のうち、元の内輪軌道4aの表層部分よりも下側に存在する部分の金属材料も加熱される。混合層9の直下に位置する部分は、焼入れ温度以上、融点未満の温度に加熱されることで、再度焼入れが施される。この結果、混合層9の直下に位置する部分には、再焼入れ層12が形成される。
さらに、再焼入れ層12の直下に位置する部分は、焼戻し温度以上、焼入れ温度未満の温度に加熱されることで、焼戻しが施される。この結果、再焼入れ層12の直下に存在する部分には、再焼戻し層13が形成される。なお、再焼戻し層13よりも下側に存在する部分は、加熱されたとしても、焼戻し温度未満であるため、組織変化はほとんど生じない。なお、図3および図4は、再焼入れ層12および再焼戻し層13を省略して示している。
レーザクラッディングにより、元の内輪軌道4aの上に、肉盛部8aを全周にわたって形成する際に、元の内輪3a(基材7)の表面のうち、元の内輪軌道4aが存在する部分を除く少なくとも一部を拘束することができる。これにより、レーザ10の照射によって発生する熱の影響により、基材7が変形することを抑えることができる。例えば、図5に示すように、元の内輪3a(基材7)に、円柱状の変形防止治具16を内嵌して、元の内輪3aの内周面を拘束することができる。元の内輪3a(基材7)の内周面に加えて、または、元の内輪3aの内周面に代えて、元の内輪3aの軸方向側面(軸方向片側面または軸方向両側面)を拘束することもできる。また、レーザ10の照射によって発生する熱によっては、元の内輪3aの変形がしなかったり、問題にならない程度であったりする場合には、変形防止治具16の装着を省略することもできる。
レーザ10は、元の内輪軌道4aのうち、少なくとも転動体1が転がり接触する部分を含む範囲に照射される。また、レーザ10は、元の内輪軌道4aの表層部分に存在する金属材料、および、粉末溶材11を溶融できる程度の出力で、元の内輪軌道4aに照射される。具体的には、レーザ10は、元の内輪3aの外径寸法などにもよるが、3.0kW〜4.5kWの出力で照射されることが好ましい。
粉末溶材11は、Fe基合金、Cu基合金、Ni基合金、Co基合金、炭素合金などの金属粉末により構成される。粉末溶材11は、元の内輪3aの外径寸法や、形成すべき研磨前の肉盛部8aの厚さおよび幅などに応じて、適切な量が供給される。なお、粉末溶材11に代えて、ワイヤ溶材を使用することもできる。
レーザクラッディングにより、元の内輪軌道4aの上に、肉盛部8aを全周にわたって形成するために、前記レーザ光源に対して元の内輪3aを1周させることで、元の内輪軌道4aの上に、肉盛部8aを一度に形成することができる。あるいは、前記レーザ光源に対して元の内輪3aを2周以上させることで、元の内輪軌道4aの上に、肉盛部8aを複数回に分けて形成することもできる。肉盛部8aを複数回に分けて形成すれば、肉盛部8aの厚さを、肉盛部8aを一度に形成する場合よりも厚くすることができる。このため、元の内輪軌道4aに生じた、摩耗や剥離などの損傷が深い場合であって、この損傷を確実に埋めたり塞いだりすることができる。
なお、レーザクラッディングを行う前に、元の内輪3a(基材7)を予熱しておくことが好ましい。元の内輪3aを予熱することにより、レーザ10を元の内輪軌道4aに照射することに伴って、元の内輪3aのうち、レーザ10を照射された部分の温度が急激に変化して、当該部分に割れなどの破損が生じるのを防止することができる。ただし、予熱温度は焼戻し温度以下とすることが好ましく、具体的には200度以下とすることが好ましい。すなわち、予熱温度が焼戻し温度を超えると、元の内輪3a(基材7)の表面に焼戻しが施されて、元の内輪3aの表面の硬さが低下する可能性がある。
レーザクラッディングにより、元の内輪3a(基材7)のうち、元の内輪軌道4aを含む部分の外周面に肉盛部8aを形成した後に、肉盛部8aに研磨加工を施すことにより、新たな内輪軌道4を形成して、修復後の内輪3を得る。新たな内輪軌道4を形成するための加工は、元の内輪3aの外周面に、元の内輪軌道4aを形成するための加工と基本的には同じである。本例では、肉盛部8aの外周面に砥石を押し付け、該砥石を、新たな内輪軌道4の母線形状(断面形状)の曲率中心を揺動させながら、肉盛部8aを備える元の内輪3aを、その中心軸を中心に回転させる。これにより、肉盛部8aの外周面に研磨加工を施して、新たな内輪軌道4を形成し、さらに、必要に応じて洗浄処理などを施すことで、修復後の内輪3を得る。修復後の内輪3の内輪軌道4aを含む部分の外周面は、研磨加工後に形成された肉盛層8により構成される。
上述のようにして得られた修復後の内輪3を、外輪6および転動体1と組み合わせて、修復後の円すいころ軸受2を組み立て、その設置箇所に再度組み込む。
本例の修復方法では、長期間の使用に伴って、元の内輪軌道4aに摩耗や剥離などの損傷が生じた場合に、内輪軌道4aを全周にわたって覆うように、研磨前の肉盛部8aを形成した後、肉盛部8aに研磨加工を施すことで、新たな内輪軌道4を形成して、修復後の内輪3を得る。すなわち、本例の修復方法では、特開2003−21147号公報に記載の技術のように、内輪軌道の表面層に予め取り代を設けておく必要がない。このため、本例の修復方法では、取り代の厚さよりも深い損傷が生じた場合に、損傷を修復(除去)できない、および/または、取り代の除去に伴い、軸受の内部隙間が増大するといった問題は生じない。
本例では、レーザクラッディングにより肉盛部8aを形成するため、基材7と肉盛部8a(肉盛層8)との境界部分に、基材7を構成する金属材料と肉盛部8a(肉盛層8)を構成する金属材料とが溶融凝固した混合層9を形成することができる。このため、基材7と肉盛層8とを混合層9を介して十分な強度で結合することができ、修復後の内輪軌道4の転がり疲れ寿命を十分に確保することができる。
レーザクラッディングを用いて肉盛部8aを形成するため、レーザ10の照射により、元の内輪軌道4aの表層部分に存在する金属材料が溶融する。したがって、元の内輪軌道4aの表層部分に、剥離に伴う亀裂が生じていた場合でも、該亀裂の周囲に存在する金属材料が溶融するので、亀裂を除去することができる。
レーザクラッディングにより肉盛部8aを形成する際に、元の内輪軌道4aの表層部分よりも下側に存在する部分の金属材料も加熱される。この結果、混合層9の下側に、再焼入れ層12と、比較的軟らかい再焼戻し層13とが形成される。本例では、元の内輪軌道4aの上に、肉盛部8aを全周にわたって形成しているため、肉盛部8aに研磨加工を施して、新たな内輪軌道4を形成した後においても、再焼戻し層13が、新たな内輪軌道4の表面に露出するのを防止することができる。この面からも、修復後の内輪軌道4の転がり疲れ寿命を十分に確保することができる。
本例の修復方法によれば、円すいころ軸受2を修復して、再利用することができるため、円すいころ軸受2を新たに製造し、交換する場合と比較して、コストを低減することができ、かつ、二酸化炭素の排出量を削減することができる。
本例では、円すいころ軸受の内輪を修復する場合について説明したが、本発明の軌道輪の修復方法は、種々の転がり軸受を構成する軌道輪を対象とすることができる。すなわち、本発明の軌道輪の修復方法は、円すいころ軸受の外輪を対象とすることもできるし、転動体として円筒ころ(ニードルを含む)を使用したラジアルころ軸受の内輪および/または外輪、あるいは、玉を使用したラジアル玉軸受の内輪および/または外輪、あるいは、球面ころを使用したラジアル自動調心ころ軸受の内輪および/または外輪を対象とすることもできる。
本発明の軌道輪の修復方法は、図6に示すような、転動体20として玉を使用したスラスト玉軸受17の一対の軌道輪18a、18bのうちの一方または両方を対象とすることもできる。スラスト玉軸受17は、軸方向に互いに対向する側面に軌道面19a、19bを全周にわたり有し、かつ、互いに同軸に配置された一対の軌道輪18a、18bと、軌道面19a、19b同士の間に、保持器22により保持された状態で転動自在に配置された複数個の転動体20とを備える。ただし、本発明の軌道輪の修復方法は、転動体として円筒ころ(ニードルを含む)を使用したスラスト転がり軸受の軌道輪、あるいは、円すいころを使用したスラスト円すいころ軸受の軌道輪を対象とすることもできる。
さらに、本発明の軌道輪の修復方法は、ラジアル転がり軸受の内輪若しくは外輪であるか、または、スラスト転がり軸受の軌道輪であるかにかかわらず、軌道面を2つ以上備える多列転がり軸受の軌道輪を対象とすることもできる。
本発明は、例えば、鉄鋼圧延機のロールネックを支持する転がり軸受など、大型で、かつ、大きな負荷を支承する転がり軸受に好ましく適用することができる。すなわち、大型の転がり軸受においては、本発明によるコスト低減効果および二酸化炭素の排出量削減効果が、特に顕著に得られる。
本発明の効果を確認するために行った実験について説明する。
本実験は、図6に示すようなスラスト玉軸受17を、供試品として用いて行った。供試品は、本発明の技術的範囲に属するもの(実施品)を4個と、比較例に属するもの(比較品)を10個との、合計14個用意した。
実施品は、スラスト玉軸受17の一方の軌道輪18aの軌道面19aの円周方向2箇所位置に、ドリルによる切削加工を施すことで、図7に示すような凹部(人工欠陥)23を形成し、本発明の軌道輪の修復方法により修復することで得た。すなわち、凹部23を有する軌道面19aの上に、レーザクラッディングにより肉盛部を形成した後、該肉盛部に研磨加工を施し、新たな軌道面を形成することで、実施品を得た。一方、比較品は、いずれの軌道輪18a、18bも修復していない新品のものである。
供試品として使用したスラスト玉軸受17の諸元、並びに、凹部23の形状および実施品の修復条件は、以下のとおりである。
<スラスト玉軸受17の諸元>
呼び番号 : 51305
内径 : 25(mm)
外径 : 52(mm)
幅 : 18(mm)
軌道輪18a、18bの材質: SUJ2
転動体20の材質 : SUJ2(浸炭窒化処理済み)
転動体20の数 : 3個
転動体20の直径(玉径) : 9.525(mm)
<凹部23の形状>
深さD : 1(mm)
直径φ : 3(mm)
面取り角θ: 120(度)
<実施品の修復条件>
(レーザクラッディングの条件)
レーザ10の出力 : 3.5(kW)〜4.0(kW)
粉末溶材11の材質 : ヘネガス社製M2ハイス鋼
粉末溶材11の供給量 : 12.6(g/min)
処理層数(軌道輪18aの回転回数): 2
処理速度(軌道輪18aの回転速度): 20(mm/s)
なお、実施品について、修復後の軌道輪18aの新たな軌道面の算術表面粗さRaを測定したところ、いずれも0.3μm以下であった。また、実施品について、修復後の軌道輪18aのうち、新たな軌道面の表面から転動体20の直径の2%の深さまでの範囲に存在する部分のビッカース硬さ(Hv)を、マイクロビッカース硬さ測定機(FUTURE−TECH社製、MICROHARDNESS TESTER FM310e)により測定したところ、600以上であった(図8(B)参照)。
上述のような実施品および比較品について、転がり疲れ寿命を測定した。具体的には、以下に示す条件で実施品および比較品を運転し、スラスト玉軸受17の振動加速度が、上昇し始めた時点で試験を停止し,軌道面にはく離が生じているのを目視できた時点を転がり疲れ寿命とした。
<スラスト玉軸受17の運転条件>
潤滑油 : ISO−VG68相当の鉱油(油浴方式)
潤滑油中に混入する異物の材質 : 高炭素鋼
異物の硬さ : Hv870
異物の粒径 : 74(μm)〜147(μm)
異物の混入量 : 0.0405(g)
試験荷重 : 3.38(kN)(最大面圧:2.5(GPa))
回転数 : 1000(rpm)
実施品および比較品について、転がり疲れ寿命の測定結果を図9に示す。図9の横軸は転がり疲れ寿命(時間)を、縦軸は累積破損確率(%)を、それぞれ表している。なお、累積破損確率(%)は、スラスト玉軸受17が、時間tまでに破損する確率を表している。実施品についての転がり疲れ寿命の平均値は、241.7時間であり、比較品ついての転がり疲れ寿命の平均値は、144.3時間であった。試験後の実施品を分解し、軌道面を確認したところ、修復された軌道輪の軌道面と修復していない軌道輪の軌道面とに、同様の剥離が生じていた。要するに、実施品は、比較品の転がり疲れ寿命と同等か、あるいは、同等以上の転がり疲れ寿命を有することが確認された。
なお、本発明の技術的範囲からは外れるが、軌道輪の軌道面以外の部分が破損した場合であっても、レーザクラッディングにより、肉盛部を形成した後、該肉盛部の表面部を研磨して修復することができる。
1 転動体
2 円すいころ軸受
3、3a 内輪
4、4a 内輪軌道
5 外輪軌道
6 外輪
7 基材
8 肉盛層
8a 肉盛部
9 混合層
10 レーザ
11 粉末溶材
12 再焼入れ層
13 再焼戻し層
14 ノズル
16 変形防止治具
17 スラスト玉軸受
18a、18b 軌道輪
19a、19b 軌道面
20 転動体
21 溶融池
22 保持器
23 凹部

Claims (7)

  1. 互いに対向する面に軌道面を全周にわたり有し、かつ、互いに同軸に配置された一対の軌道輪と、
    前記一対の軌道輪の前記軌道面同士の間に転動自在に配置された複数個の転動体と、
    を備え、
    前記一対の軌道輪のうちの少なくとも一方の軌道輪は、少なくとも前記軌道面を含む部分の表面部に、前記少なくとも一方の軌道輪を構成する基材とは異なる金属材料により構成された肉盛層と、該肉盛層の直下に位置する部分に存在する、前記肉盛層を構成する金属材料と前記基材を構成する金属材料との混合層とを備える、
    転がり軸受。
  2. 前記少なくとも一方の軌道輪のうち、前記軌道面の表面から、前記転動体の直径の2%に相当する深さまでの範囲内に存在する部分のビッカース硬さが600以上である、
    請求項1に記載の転がり軸受。
  3. 前記混合層の直下に位置する部分に再焼入れ層を備え、
    前記軌道面の表面から前記再焼入れ層の最深位置までの深さが、前記転動体の直径の2%以上に相当する
    請求項2に記載の転がり軸受。
  4. 前記少なくとも一方の軌道輪の前記軌道面が、0.3μm以下の算術平均粗さを有する、
    請求項1〜3のいずれかに記載の転がり軸受。
  5. 軌道輪の元の軌道面に、レーザ光源から発射されたレーザを照射し、かつ、前記元の軌道面のうち、前記レーザが照射された部分に溶材を供給しながら、前記レーザ光源と前記軌道輪とを相対回転させることにより、前記元の軌道面の上に肉盛部を全周にわたって形成する、肉盛工程と、
    前記肉盛部に研磨加工を施すことにより、新たな軌道面を全周にわたって形成する、研磨工程と、
    を備える、
    軌道輪の修復方法。
  6. 前記肉盛工程を、前記軌道輪のうち、前記元の軌道面を除く表面の少なくとも一部を拘束した状態で行う、
    請求項5に記載の軌道輪の修復方法。
  7. 前記肉盛工程よりも前に、前記元の軌道面を脱脂洗浄する工程を備える、
    請求項5または6に軌道輪の修復方法。
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