JP2021021105A - 真空浸炭用高炭素熱延鋼板およびその製造方法並びに浸炭鋼部品 - Google Patents
真空浸炭用高炭素熱延鋼板およびその製造方法並びに浸炭鋼部品 Download PDFInfo
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Abstract
Description
(i)Ac1変態点以上Ac3変態点以下に加熱して当該温度域で0.5h以上保持し、次いで1〜20℃/hの平均冷却速度でAr1変態点未満に冷却して、600℃以上Ar1変態点未満の温度域で10h以上保持するか、または
(ii)600℃以上Ac1変態点以下の温度域で1h以上40h以下を保持する、
ことにより、所定の組織を確保できる。
[1]質量%で、
C:0.10%以上0.30%以下、
Si:0.20%以上0.80%以下、
Mn:0.25%以上1.00%以下、
P:0.03%以下、
S:0.010%以下、
sol.Al:0.10%以下、
N:0.01%以下、
Cr:0.05%以上0.80%以下および
B:0.0005%以上0.0050%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成と、フェライトおよびセメンタイトを含むミクロ組織と、を有し、該ミクロ組織は、
フェライトの面積率が80%以上、
フェライトの平均粒径が5μm以上25μm以下、
全セメンタイト中の最大Cr濃度が23質量%以下および
全セメンタイトの平均間隔が1.0μm以上
である真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
前記全セメンタイトの平均間隔が5.0μm以上
である前記[1]に記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
前記全セメンタイトの平均間隔が1.0μm以上5.0μm未満
である前記[1]に記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
Ti:0.06%以下
を含有する前記[1]から[5]のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
SbおよびSnのいずれか1種または2種以上を合計で0.002%以上0.030%以下を含有する前記[1]から[6]のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
Ni:0.0005%以上2.50%以下、
Mo:0.0005%以上0.25%以下、
Ta:0.0005%以上0.1%以下、
W:0.0005%以上0.1%以下、
Cu:0.0005%以上0.1%以下、
Nb:0.0005%以上0.1%以下、
V:0.0005%以上0.1%以下および
Ca:0.0005%以上0.1%以下
のいずれか1種以上を含有する前記[1]から[8]のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
前記[1]、[6]、[7]または[9]に記載の成分組成を有する鋼素材を、1050〜1270℃の温度域で1h以上保持し、980〜1080℃の温度域での圧下率:40%以上で粗圧延し、終了温度:Ar3変態点以上で仕上圧延し、その後平均冷却速度:20℃/s以上で750℃まで1次冷却し、平均冷却速度:10℃/s以上で巻取温度まで2次冷却し、巻取温度:580℃超〜700℃で巻き取り常温まで冷却した後、焼鈍として、(i)または(ii)の処理を施す、真空浸炭用高炭素熱延鋼板の製造方法。
(i)Ac1変態点以上Ac3変態点以下に加熱して当該温度域で0.5h以上保持し、次いで1〜20℃/hの平均冷却速度でAr1変態点未満に冷却して、600℃以上Ar1変態点未満の温度域で10h以上保持する。
(ii)600℃以上Ac1変態点以下の温度域で1h以上40h以下保持する。
前記[1]、[6]、[7]または[9]に記載の成分組成を有する鋼素材を、1050〜1270℃の温度域で1h以上保持し、980〜1080℃の温度域での圧下率:40%以上で粗圧延し、終了温度:Ar3変態点以上で仕上圧延し、その後平均冷却速度:20℃/s以上で750℃まで1次冷却し、平均冷却速度:10℃/s以上で巻取温度まで2次冷却し、巻取温度:580℃超〜700℃で巻き取り常温まで冷却した後、Ac1変態点以上Ac3変態点以下に加熱して当該温度域で0.5h以上保持し、次いで1〜20℃/hの平均冷却速度でAr1変態点未満に冷却して、600℃以上Ar1変態点未満の温度域で10h以上保持する、真空浸炭用高炭素熱延鋼板の製造方法。
前記[1]、[6]、[7]または[9]に記載の成分組成を有する鋼素材を、1050〜1270℃の温度域で1h以上保持し、980〜1080℃の温度域での圧下率:40%以上で粗圧延し、終了温度:Ar3変態点以上で仕上圧延し、その後平均冷却速度:20〜65℃/s以下で750℃まで1次冷却し、平均冷却速度:10〜65℃/s以下で巻取温度まで2次冷却し、巻取温度:580℃超〜700℃で巻き取り常温まで冷却した後、600℃以上Ac1変態点以下の温度域で1h以上40h以下を保持することを特徴とする真空浸炭用高炭素熱延鋼板の製造方法。
浸炭層と非浸炭層からなり、該両層の組織はいずれもマルテンサイトであり、10μm以上のセメンタイトが存在しないことを特徴とする浸炭鋼部品。
[成分組成]
まず、本発明の高炭素熱延鋼板の成分組成につき、各元素量の限定理由について説明する。なお、以下の成分組成の含有量の単位である「%」は、特に断らない限り「質量%」を意味するものとする。
C:0.10%以上0.30%以下
Cは、焼入れ後の強度を得るために重要な元素である。C量が0.10%未満の場合、成形した後の熱処理によって所望の硬度が得られないため、C量は0.10%以上にする必要がある。しかし、C量が0.30%以上では硬質化し、冷間加工性や熱処理後の靭性が劣化する。したがって、C量は0.10%以上0.30%以下とする。形状が複雑でプレス加工の難しい部品の冷間加工に用いる場合には、C量は0.25%以下、さらには0.20%以下とすることが好ましい。
Siは、耐過剰浸炭性を高める元素である。Si量が0.20%未満になると、真空浸炭工程において、鋼板表層のC濃度が高くなる傾向があり、特に、鋭角な形状をもつ部品ではCの拡散場が重なるため、鋼板表層のC濃度が高くなってセメンタイトが析出する。この粗大なセメンタイトは疲労破壊の起点となるため、疲労特性の低下を招くことになる。従って、Siは0.20%以上とする。より好ましくは0.25%以上、0.30%超である。一方、Siは固溶強化により強度を上昇させる元素である。Si量の増加とともに鋼板が硬質化し、伸びが不足することになるため、Si量は0.80%以下とする。より好ましくは0.75%以下、0.65%以下である。
Mnは、焼入れ性を高める元素であり、過剰に添加すると耐過剰浸炭性を阻害する。Mn量が1.00%を超えると真空浸炭工程において、鋼板表層の炭素濃度が高くなり、例えば60°の鋭角形状をもつ部材ではC拡散場の重なりにより表層のC濃度が高くなるため、旧オーステナイト粒界上に粗大なセメンタイトが析出する。このセメンタイトは疲労破壊の起点となるため、疲労特性の低下を招く。このため、Mn量は1.00%以下とする。好ましくは0.90%以下、0.75%以下、さらに好ましくは0.65%以下である。一方、0.25%未満になると水焼入れのような冷却速度が高い焼入れ工程においてフェライト変態が生じることがあり焼入れ後所定の硬度が出ない場合があるため、Mn量は0.25%以上とする。好ましくは0.30%以上である。
Pは、固溶強化により強度を上昇させる元素である。P量が0.03%を超えて増加すると鋼板が硬質化し、鋼板の伸びが低下し、また粒界偏析することにより焼入れ後の靱性を阻害する。したがって、P量は0.03%以下とする。より高い伸びを得るには、P量は0.02%以下が好ましい。Pは鋼板の伸びを低下させるため、P量は少ないほど好ましい。なお、過度にPを低減すると精錬コストが増大するため、P量は0.005%以上が好ましい。より好ましくは0.007%以上である。
Sは、硫化物を形成し、鋼板の伸びおよび熱処理後の靭性を低下させるため、低減しなければならない元素である。S量が0.010%を超えると、鋼板の伸びおよび焼入れ後の靭性が著しく劣化する。したがって、S量は0.010%以下とする。優れた冷間加工性および焼入れ後の靭性を得るには、S量は0.005%以下が好ましい。Sは、冷間加工性および焼入れ後の靭性を低下させるため、さらには0.001%以下が好ましい。なお、過度にSを低減すると精錬コストが増大するため、S量は0.0005%以上が好ましい。
sol.Al量が0.10%を超えると、焼入れ処理の加熱時にAlNが生成されてオーステナイト粒が微細化し過ぎる。これにより、冷却時にフェライト相の生成が促進され、組織がフェライトとマルテンサイトとなり、焼入れ後の硬さが低下する。したがって、sol.Al量は、0.10%以下とする。好ましくは0.06%以下とする。なお、sol.Alは、脱酸の効果を有しており、十分に脱酸するためには、0.005%以上とすることが好ましい。
N量が0.01%を超えると、AlNの形成により焼入れ処理の加熱時にオーステナイト粒が微細化し過ぎ、冷却時にフェライト相の生成が促進され、焼入れ後の硬度が低下する。したがって、N量は、0.01%以下とする。より好ましくは0.008%以下である。さらに好ましくは、0.006%以下である。なお、下限はとくに規定しないが、Nは、AlN、Cr系窒化物およびBNを形成し、これにより、焼入れ処理の加熱時にオーステナイト粒の成長を適度に抑制して、焼入れ後の靭性を向上させる元素である。このため、N量は0.0005%以上が好ましい。
Crは、焼入れ性を高める元素であり、過剰に添加すると耐過剰浸炭性を阻害する。すなわち、Cr量が0.80%を超えると、真空浸炭工程において、表層のC濃度が高くなり、例えば60°の鋭角形状をもつ部材ではC拡散場の重なりにより鋼板表層のC濃度が高くなるため、旧オーステナイト粒界上に粗大なセメンタイトが析出する。このセメンタイトは疲労破壊の起点となるため、疲労特性の低下を招く。このため、Cr量は0.80%以下とする。より鋭角な形状では、さらにC拡散場の重なりでC濃度が高くなるため、一層セメンタイトの析出を抑制することが有利であり、0.60%以下が好ましい。さらに好ましくは0.50%以下、0.40%以下、0.20%以下である。一方、鋼中のCr量が0.05%未満であると、特に浸炭焼入れにおいて表層でフェライトが発生しやすくなり、完全焼入れ組織が得られず硬度低下が起きるため、0.05%以上とする。好ましくは、0.08%以上である。
本発明においてBは、焼入れ性を高め、Pの粒界偏析を抑制する重要な元素である。B量が0.0005%未満の場合、十分な効果が認められないため、B量は0.0005%以上とする必要がある。好ましくは0.0010%以上である。一方、B量が0.0050%超えの場合、Bによるフェライト結晶粒微細化で伸びが低下する。このため、B量は0.0050%以下とする。好ましくは0.0040%以下である。
上記以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。
Tiは、焼入れ性を高めるために有効な元素である。CrおよびBの含有のみでは焼入れ性が不十分な場合に、Tiを含有することで、焼入れ性を向上させることができる。Ti量が0.005%未満では、その効果が認められないため、Tiを含有する場合、0.005%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.007%以上である。一方、Ti量が0.06%を超えて含有すると、焼入れ前の鋼板が硬質化して伸びが損なわれるため、Tiを含有する場合、0.06%以下とする。好ましくは0.04%以下である。
SbおよびSnは、鋼板の表層に濃化することから鋼板表層からの過剰浸炭を抑制するのに有効な元素である。60°よりさらに鋭角な(特に45°以下)形状の部品では、真空浸炭中にC拡散場の重なりにより鋼板表層のC濃度が高くなりやすく、セメンタイトが析出しやすくなる。そのため、より高い耐過剰浸炭性が求められる場合においてもSbおよびSnのうちの少なくとも1種を鋼中に所定量添加することは有効である。これにより鋼板表層のC濃度の増加が抑えられ、45°以下の鋭角形状の部品でもセメンタイト析出を大幅に低減することが可能である。これら元素の1種または2種の合計が0.002%未満の場合、上記の効果が十分に認められないため、含有させる場合は1種または2種の合計で0.002%以上とする。さらに好ましくは、0.005%以上である。一方、これらの元素の1種または2種の合計で0.030%を超えて含有しても、過剰浸炭防止効果は飽和する。また、これらの元素は、粒界に偏析する傾向があるため、1種または2種の合計で0.030%超えとすると、含有量が高くなりすぎ、粒界脆化を引き起こす可能性がある。したがって、SbおよびSnのうち少なくとも1種を含有する場合、これらの元素の1種または2種の合計の含有量は、0.030%以下とすることが好ましい。さらに好ましくは、0.020%以下である。
Niは靱性の向上や焼入れ性の向上に効果の高い元素である。0.0005%未満では添加効果がないため、下限を0.0005%とする。2.50%超では、添加効果が飽和する上にコスト増加も招くため、上限を2.50%とする。さらに好ましい範囲は1.00%以下であり、最も好ましくは0.10%以下である。
Moは焼入れ性の向上と、焼戻し軟化抵抗改善に有効な元素である。0.0005%未満では添加効果が小さいので、下限を0.0005%とする。0.25%を超えると添加効果は飽和するため、上限を0.25%とする。さらに好ましくは0.10%以下、0.05%以下であり、最も好ましくは0.03%以下である。
TaはNbと同様に炭窒化物を形成し、焼入れ前加熱時の結晶粒の異常粒成長防止や結晶粒の粗大化防止、焼戻し軟化抵抗改善に有効な元素である。0.0005%未満では添加効果が小さいので、下限を0.0005%とする。また、0.1%を超えると添加効果が飽和し、また焼入れ硬度を低下させることになるため、上限を0.1%に規定する。さらに好ましくは0.05%以下であり、最も好ましくは0.03%以下である。
WはNb、Vと同様に、炭窒化物を形成し、焼入れ前加熱時のオーステナイト粒の異常粒成長防止や焼戻し軟化抵抗改善に有効な元素である。0.0005%未満では添加効果が小さいので、下限を0.0005%に規定する。0.1%を超えると添加効果が飽和し、また、焼入れ硬度を低下させることになるため、上限を0.1%に規定する。さらに好ましくは0.05%以下であり、最も好ましくは0.03%以下である。
Cuは焼入れ性の確保に有効な元素である。0.0005%未満では添加効果が十分に確認されないため、下限を0.0005%とする。0.1%超では、熱延時の疵が発生しやすくなり歩留りを落とすなど製造性を劣化させるので、上限を0.1%とする。さらに好ましい範囲は0.05%以下である。
Nbは、炭窒化物を形成し、焼入れ前加熱時の結晶粒の異常粒成長の防止や靱性改善、焼戻し軟化抵抗改善に有効な元素である。0.0005%未満では含有させる効果は十分に発現しないため、下限を0.0005%とすることが好ましい。一方で、0.1%を超えると含有させる効果が飽和するだけでなく、Nb炭化物により母材の引張強さの増加に伴い伸びを低下させることになる。このため、上限を0.1%とすることが好ましい。さらに好ましくは0.05%以下であり、最も好ましくは0.03%以下である。
VはNbやTaと同様に、炭窒化物を形成し、焼入れ前加熱時の結晶粒の異常粒成長防止および靱性改善、焼戻し軟化抵抗改善に有効な元素である。0.0005%未満では添加効果は十分に発現しないため、下限を0.0005%とする。0.1%を超えると添加効果が飽和するだけでなく、V炭化物により鋼板の引張強さの増加に伴い伸びを低下させることになるため、上限を0.1%とする。さらに好ましくは0.05%以下であり、最も好ましくは0.03%以下である。
Caは鋼を脱硫するのに有効であり、そのためには、0.0005%以上で添加する。一方、Ca添加量は多すぎると、低融点で粗大なAlとCaの酸化物が形成され、また複合酸硫化物がCaを吸収して粗大化しやすくなる。これらの粗大な酸化物は疲労破壊の起点となりやすいため、上限を0.1%に規定する。さらに好ましくは0.05%以下であり、最も好ましくは0.03%以下である。
次に、本発明の高炭素熱延鋼板のミクロ組織の限定理由について説明する。
本発明では、ミクロ組織は、フェライトおよびセメンタイトを含み、フェライトの面積率が80%以上、フェライトの平均粒径が5μm以上25μm以下、全セメンタイト中の最大Cr濃度が23質量%以下および、全セメンタイトの平均間隔が1.0μm以上である。
フェライトの面積率は、80%未満では冷間加工性が劣位となり、特に加工度の高い部品で冷間加工が難しくなる場合があるため、80%以上とする、より好ましくは85%以上である。
フェライトの平均粒径は、5μm未満では冷間加工前の強度が増加し、冷間加工性が劣化するため、5μm以上とする。より好ましくは6μm以上である。一方、25μmを超えると、鋼板強度が低下する。また、一般に焼入れ処理を行って表面硬度を高くして製品にするが、熱処理方法によっては、内側まで焼入れされず鋼板強度が疲労強度に影響するケースもあり、ある程度鋼板の強度が必要である。そのため、フェライト平均粒径は、25μm以下とする。より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。
真空浸炭のオーステナイト域での加熱時において、鋼板中のセメンタイトは溶解する。Cの拡散は速いため、浸炭保持時間はセメンタイトが溶解するには十分な時間であるが、Crの拡散は極めて遅く、保持時間中にはセメンタイト中に溶解していたCrは拡散できず、拡散期後にもCr濃度が高いところが存在する。Crはセメンタイトに溶け込みやすい元素であるため、高Cr濃度の領域が存在すると、浸炭後にセメンタイトが析出しやすいサイトとなる。浸炭前の鋼板において、最大Cr濃度が23質量%超のセメンタイトが存在すると、真空浸炭後にセメンタイトが析出しやすくなるため、鋼板中の全セメンタイト中の最大Cr濃度を23質量%以下とする。さらに好ましくは、17質量%以下、14質量%以下、10質量%以下、さらに好ましくは6質量%以下である。
穴広げ性の向上には局部延性を高める必要があり、ボイドの連結を抑制することが重要である。ボイドは、フェライトと粗大なセメンタイトの界面で発生しやすく、ボイドの連結を抑制するには全セメンタイト相互の間隔を1.0μm以上とする必要がある。その結果80%以上の穴広げ率を確保できる。
一方で粗大すぎるセメンタイトが存在すると、セメンタイトとフェライトとの界面から生じた割れを基点として板厚方向に割れが伝播する。その結果、穴広げ性が低下するおそれがあるため、粗大なセメンタイトを発生させないという観点からは、平均間隔は20.0μm以下とすることが好ましい。なお、セメンタイトの平均間隔は、セメンタイトの自由行程とする。
[フェライト粒内のセメンタイトの個数に対するフェライト粒界のセメンタイトの個数の比率が0.5以上]
通常、焼入れ前に存在するセメンタイト径は、円相当直径で0.2〜6.0μm程度であり、フェライト粒内と粒界に存在している。フェライト粒内に微細なセメンタイトが多数存在すると、局部延性は高くなり、穴広げ性は向上する。一方で、フェライト粒内にセメンタイトが多数存在すると、焼鈍工程においてフェライト粒の成長が抑制されてフェライト粒が微細化したり、また組織が不均一化し、伸びが低下する。従って、穴広げ性を確保しつつ、優れた伸び性を得るには、フェライト粒内のセメンタイトの個数に対するフェライト粒界のセメンタイトの個数の比率を0.5以上とすることが好ましい。好ましくは、0.7以上、さらに好ましくは1.0以上である。
まず、セメンタイトの平均粒子径とは、平均円相当直径のことである。このセメンタイトの平均粒子径が大きいと、引張変形時に割れが発生し、高い伸びを得ることができない。そのため、平均粒子径は2.5μm以下とするとすることが好ましい。さらに好ましくは2.0μm以下である。一方で、平均粒子径が0.2μm未満になると、析出強化に効く0.1μm以下のセメンタイトが増加し、鋼板が硬質化し伸びが低下するため、平均粒子径は0.2μm以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.3μm以上とする。
また、上記したように、必要に応じてSbおよびSnのいずれか1種を添加する場合に、鋼板の表面から板厚方向へ10nm以内の領域において、SbおよびSnのいずれか1種または2種以上の合計濃度が母材濃度の10倍以上であることが好ましい。
さらに、Sb、Snは鋼板表層に濃化することで鋼板表層からの過剰浸炭を抑制する効果があるため、60°より鋭角な(特に45°以下)形状を有する部品を真空浸炭処理する場合に、セメンタイト析出を抑制する効果がある。鋼板表面から10nm以内の領域においてSbおよびSnのうち1種または2種以上の合計濃度が母材濃度の10倍未満では、上記の効果は発現しにくくなる。なお、SbおよびSnのいずれかを鋼板表層に濃化するには、例えば、スラブ加熱温度を1050〜1270℃とするとよい。
本発明の高炭素熱延鋼板は、ギヤー、トランスミッションのダンパーなどの自動車用部品を冷間プレスで成形するため、優れた冷間加工性が必要である。また、焼入れ処理により硬度を大きくして、耐磨耗性を付与、高い疲労特性を出す必要がある。そのため、本発明の高炭素熱延鋼板は、鋼板の引張強さを420MPa以下とし、かつ全伸び(El)を39%以上、穴広げ率を80%以上とすることで、優れた冷間加工性を有するとともに、優れた焼入れ性(焼入れ性、耐過剰浸炭性)を両立させることができる。
なお、上述の引張強さ、全伸び(El)、穴広げ性は、後述する実施例に記載の方法で測定することができる。
本発明の高炭素熱延鋼板は、上記に従う成分組成の鋼を素材とし、該鋼素材を、1050〜1270℃の温度域で1h以上保持し、980〜1080℃の温度域での圧下率:40%以上で粗圧延し、終了温度:Ar3変態点以上で仕上圧延し、その後平均冷却速度:20℃/s以上で750℃まで1次冷却し、平均冷却速度:10℃/s以上で巻取温度まで2次冷却し、巻取温度:580℃超〜700℃で巻き取り常温まで冷却した後、焼鈍として、(i)または(ii)の工程を経ることにより製造される。
(i)Ac1変態点以上Ac3変態点以下に加熱して当該温度域で0.5h以上保持し、次いで1〜20℃/hの平均冷却速度でAr1変態点未満に冷却して、600℃以上Ar1変態点未満の温度域で10h以上保持する。
(ii)600℃以上Ac1変態点以下の温度域で1h以上40h以下を保持する。
例えば、連続鋳造で製造されたスラブの場合は、そのままあるいは温度低下を抑制する目的で保熱して、圧延する直送圧延を適用してもよい。なお、熱間圧延では、仕上圧延終了温度を確保するため、バーヒータ等の加熱手段により被圧延材の加熱を行ってもよい。
スラブ加熱中に、鋼中のCr濃度を均一にし、SbおよびSnを添加した場合はSbおよびSnを鋼板表面に濃化させる必要がある。加熱温度が高温すぎるとスケールにより表面状態が劣化し、また、SbおよびSnを添加した場合は、表面に濃化したSbおよびSnの濃化層が剥離してしまうため、上限は1270℃とした。一方、加熱温度が1100℃未満になると、Crの拡散速度が低下することで所定の時間では鋼中のCr濃度が均一にならない。また、SbおよびSnを添加した場合は、SbおよびSnの表層への濃化が遅くなり、表層全域において所定量で濃化しないため、下限を1050℃とした。保持時間が1h未満になると、Crが十分に拡散できず、鋼中のCr濃度が均一にならない。また、SbおよびSnを添加した場合は、SbおよびSnが表層全域において所定量濃化しないため、1h以上とした。一方、5h以上加熱すると、SbおよびSnを添加した場合にSbおよびSnの表層への濃化は飽和し、また表面が酸化して表面状態が劣化するため、5h以下が好ましい。
熱間粗圧延において、オーステナイト域で再結晶を繰り返すことにより、結晶粒が微細化する。この段階での結晶粒が粗大すぎると、拡散速度の速い結晶粒界が少なくなり、Crの拡散が十分に行われない。従って、仕上げ圧延前の鋼においてできるだけCrの偏析を小さくすることによって、仕上げ圧延後の冷却中にパーライト変態する際に、低いCr濃度を有するセメンタイトが得られるため、焼鈍後のセメンタイト中の最大Cr濃度も所定の値以下に制御できる。そのためには、980〜1080℃の温度域での圧下率:40%以上とする必要がある。なお、粗圧延におけるトータル圧下率は82〜90%であることが好ましい。より好ましくは、83〜88%である。
仕上圧延終了温度がAr3変態点未満では、熱間圧延後および焼鈍後に粗大なフェライト粒が形成され、伸びが著しく低下する。このため、仕上圧延終了温度は、Ar3変態点以上とする。好ましくは(Ar3変態点+20℃)以上とする。なお、仕上圧延終了温度の上限は、特に規定する必要はないが、仕上圧延後の冷却を円滑に行うためには、1000℃以下とすることが好ましい。
また、上述したAr3変態点は、フォーマスター試験などによる冷却時の熱膨張測定や電気抵抗測定による実測により決定することができる。
仕上圧延後の、750℃までの平均冷却速度は、球状化焼鈍後のセメンタイト粒度分布に影響する。巻取りに続く焼鈍工程後に所定のセメンタイト粒度分布を得るためには、焼鈍工程前に均一なフェライトおよびパーライト組織とする必要がある。平均冷却速度が20℃/s未満では、均一なフェライトおよびパーライト組織が得られなくなる。また、不均一なパーライトでは、セメンタイトが存在する領域で局所的にCr濃度が高くなるため、焼鈍後のセメンタイト中のCr濃度が所定濃度以上になる。従って、仕上圧延後の1次平均冷却速度は、20℃/s以上にする。上限については特に規定する必要はないが、150℃/sを超えるとパーライト組織が微細すぎて焼鈍後フェライト粒内に残りやすく、上記したフェライト粒内のセメンタイトの個数に対するフェライト粒界の炭化物の個数の比率を所定範囲内にすることが難しくなるため、好ましくは150℃/s以下である。より好ましくは100℃/s以下である。
2次平均冷却速度が10℃/s未満では、ラメラーの粗大なパーライト組織が生成され、焼鈍工程後に所定のセメンタイト粒度分布が得られず、またラメラーが粗大なパーライトではセメンタイトが存在する領域で局所的にCr濃度が高くなり、焼鈍後のセメンタイト中のCr濃度が所定濃度以上になるため、2次平均冷却速度は10℃/s以上とする。上限については特に規定する必要はないが、150℃/sを超えるとパーライト組織が微細すぎて焼鈍後フェライト粒内に残りやすく、フェライト粒内のセメンタイトの個数に対するフェライト粒界の炭化物の個数の比率を所定範囲内にすることが難しくなるため、好ましくは150℃/s以下である。より好ましくは100℃/s以下である。
仕上圧延後の熱延鋼板は、コイル形状に巻き取られる。巻取温度が高すぎると、熱延鋼板でラメラーの粗大なパーライト組織が生成され、焼鈍工程後にセメンタイトが存在する領域で局所的にCr濃度が高くなり、焼鈍後のセメンタイトのCr濃度が所定濃度以上になるため、巻取温度の上限を700℃とする。好ましくは690℃以下である。一方、巻取温度が低すぎると熱延鋼板が硬質化するため、好ましくない。したがって、巻取温度の下限を580℃超とする。好ましくは600℃以上である。
2段階での焼鈍を行う焼鈍(i)における各条件の限定理由について述べる。
[Ac1変態点以上Ac3変態点以下に加熱して当該温度域で0.5h以上保持(1段目の焼鈍)]
熱延鋼板をAc1変態点以上の焼鈍温度に加熱することにより、鋼板組織のフェライトの一部をオーステナイトに変態させ、フェライト中に析出していた微細な炭化物を溶解させ、Cをオーステナイト中に固溶させる。一方、オーステナイトに変態せずに残ったフェライトは高温で焼鈍されるため、転位密度が減少して軟化する。また、フェライト中には溶解しなかった比較的粗大な炭化物(未溶解炭化物)が残存するが、オストワルド成長によりさらに粗大になる。焼鈍温度がAc1変態点未満では、オーステナイト変態が生じないため、炭化物をオーステナイト中に固溶させることができない。また、本発明では、Ac1変態点以上での保持時間が0.5h未満では微細な炭化物を十分に溶解することができない、このため、1段目の焼鈍として、Ac1変態点以上に加熱して0.5h以上保持することとする。一方、1段目の焼鈍温度がAc3変態点超になると焼鈍後に棒状のセメンタイトが多数得られて所定の伸びが得られないため、Ac3変態点以下とする。また、保持時間は10h以下とすることが好ましい。なお、焼鈍の際の雰囲気ガスは、窒素、水素、窒素と水素の混合ガスのいずれも使用できる。
上記した1段目の焼鈍の後、2段目の焼鈍の温度域であるAr1変態点未満に、1〜20℃/hの平均冷却速度で冷却する。冷却途中に、オーステナイト→フェライト変態に伴いオーステナイトから吐き出されるCが、フェライトとオーステナイトの界面や未溶解炭化物を核生成サイトとして、比較的粗大な球状炭化物として析出する。この冷却においては、パーライトが生成しないように冷却速度を調整する必要がある。1段目の焼鈍後、2段目の焼鈍までの冷却速度が、1℃/h未満では生産効率が悪いため、該冷却速度は1℃/h以上とする。一方、20℃/hを超えて大きくなると、パーライトが析出し、硬度が高くなるため、20℃/h以下とする。
上記した1段目の焼鈍後、所定の冷却速度で冷却してAr1変態点未満の温度域で保持することで、オストワルド成長により、粗大な球状炭化物をさらに成長させ、微細な炭化物を消失させる。Ar1変態点未満での保持時間が10h未満では、炭化物を十分に成長させることができず、焼鈍後の強度が大きくなりすぎる。このため、2段目の焼鈍はAr1変態点未満で20h以上保持とする。なお、2段目の焼鈍温度は炭化物を十分成長させるため600℃以上とする。好ましくは660℃以上であり、また、保持時間は生産効率の観点から、35h以下とすることが好ましい。
1段階での焼鈍を行う焼鈍(ii)における各条件の限定理由について述べる。
[焼鈍温度:600℃以上Ac1変態点未満の温度域で保持]
上記のようにして得た熱延鋼板に、焼鈍(セメンタイトの球状化焼鈍)を施す。焼鈍温度がAc1変態点以上であると、オーステナイトが析出し、焼鈍後の冷却過程において粗大なパーライト組織が形成され、不均一な組織となる。このため、焼鈍温度は、Ac1変態点未満とする。好ましくは(Ac1変態点−10℃)以下である。なお、所定のセメンタイト分散状態を得るには、焼鈍温度は600℃以上とする必要があり、好ましくは700℃以上である。なお、雰囲気ガスは、窒素、水素、窒素と水素の混合ガスのいずれも使用できる。また、焼鈍における保持時間は、0.5〜40時間とすることが好ましい。焼鈍温度における保持時間が0.5時間未満であると、焼鈍の効果が乏しく、本発明の目標とする組織が得られず、その結果、本発明の目標とする鋼板の硬度および伸びが得られない。したがって、焼鈍温度における保持時間は1.0時間以上が好ましい。より好ましくは5時間以上である。一方、焼鈍温度における保持時間は、40時間以下とすることが好ましい。より好ましくは35時間以下である。
[上記浸炭層と非浸炭層のいずれもマルテンサイト組織]
例えば、ギヤーやトランスミッションのダンパーで高面圧をかけられた状態で使用する場合において、高い疲労特性や耐摩耗性を必要とするため、浸炭層と非浸炭層のいずれもマルテンサイトからなり、非浸炭層があることで所望の靱性が得られる。
10μm以上のセメンタイトが存在すると疲労における破壊の起点となるため、10μm以上のセメンタイトは存在しない必要がある。
このようにして得られた熱延鋼板から試験片を採取し、下記のように、ミクロ組織、引張強さ、伸び、穴広げ性および真空浸炭後の耐過剰浸炭性および硬度分布を求めた。なお、表1に示すAc3変態点、Ac1変態点、Ar1変態点およびAr3変態点はフォーマスター試験により求めたものである。
熱延鋼板のミクロ組織は、板幅中央部から採取した試験片(大きさ:3mmt×10mm×10mm)を切断研磨後、ナイタール腐食を施し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、1/4板厚の3箇所で1000倍の倍率で撮影した。撮影した組織写真を画像処理により各相(フェライト、セメンタイト、パーライトなど)を特定した。
また、SEM画像から画像解析ソフトを用いて、フェライトとフェライト以外の領域とを二値化して、フェライトの面積率を求めた。
平均セメンタイト径は、各セメンタイトの面積を測定し、次式(1)のとおり円相当直径dに換算したものを平均して求めた。
d=(4S/π)1/2 ・・・(1)
ここで、S:各セメンタイトの面積
全セメンタイトの平均間隔は、SEM画像から画像解析ソフトを用いて、セメンタイトとセメンタイト以外の領域とを二値化して、セメンタイトの面積率を求め、面積率(体積率)と上記で求めたセメンタイト平均径により、次式(2)ref 1)から平均自由行程として求めた。
平均自由行程={1.81(f-1/2)−1.63}dp/2・・・(2)
f:セメンタイトの体積割合(面積割合)、
dp:セメンタイトの平均粒子直径
ref 1) 金属便覧改訂6版,p.319
セメンタイトが析出した鋼板の断面において、FE-EPMAを用いて、50μm×50μmの領域で特性X線強度マッピングを行い、C、Crの元素分布を求めた。次に、前記マッピングにおいてCの高い領域をセメンタイトと判断し、前記領域で得られたCrのカウント数をセメンタイト中のCr濃度と定義した。EPMAの測定条件は、加速電圧:9kV、照射電流:5×10−8Aとして、定量分析にはZAF補正計算法を用いた。すなわち、分析試料から測定された特性X線強度と、99%以上のCr量を有する標準試料の特性X線の強度比である相対強度とを求め、原子番号補正ref2)、吸収補正ref2)および蛍光励起補正ref2)を実施し、定量分析を行った。
ref2) 表面分析技術選書 電子プローブ・マイクロアナライザー,第6章,p.167
(1)最初にFe、O、その他の鉄中の元素のメインピークの面積を計算し、この面積を相対感度係数で徐し、全元素の原子濃度を算出した。このとき、Oのピーク面積は、Sbを含むようにエネルギー範囲(527〜538ev)を決定する。正確にはOのピークではなく、O+Sbのピークとなる。
(2)エネルギー範囲を525〜540evとしてOピークを中心とした結合エネルギー範囲でOとSbのピークを再測定する(ナロースキャン)。Oのピークは酸化物(528.9ev)および水酸化物(531.9ev)と、金属Sbである3d5/2(528.2ev)および3d3/2(537.6ev)にピーク分離し、金属Sbのピークとそれ以外のピークの比で前記(1)で求めたO原子濃度をOとSbに分離する。
(3)前記(1)および(2)で求めたSbおよびFe、Fe中の添加元素の合計濃度を100%とするように正規化する。
(4)前記(1)〜(3)の方法で求めたSb濃度を質量%に換算する。
なお、試料表面に炭素のコンタミネーションとして多量に検出されFe、Sbのピークが認められない場合には、このコンタミネーションを除去するため、イオン銃で表面をクリーニングする。イオン銃の条件は本願を規定するものではないが、Arを用いれば良く、例えば、10mA、3kVの条件で、40s〜110s間クリーニングすることができる。また、XPSの測定条件は、本願を規定するものではないが、例えばAlのX線を用いて測定条件(電圧10kV、光電子の取り出し角度35°)で測定することができる。
熱延鋼板から、圧延方向に対して0°の方向(L方向)に切り出したJIS5号引張試験片を用いて、10mm/分で引張試験を行い、公称応力公称歪曲線を求め、最大応力を引張強さとした。また、破断したサンプルを突き合わせて全伸びを求めた。その結果を、伸び(El)とした。
JISZ2256に記載されている方法に従って、穴広げ試験を行った。125mm角の鋼板の中央部にクリアランス12±1%となるように10mmφの穴を打ち抜き、打ち抜きばりを上になるよう鋼板をセットして円錐パンチで下から押し上げて、1か所でも破断(板厚方向において割れ貫通)した時の穴の径Dを測定し、次式(3)にて穴広げ率を求める。なお、試験を3回行った時の平均値としている。
穴広げ率(%)=(D-10)/10×100 ・・・(3)
耐過剰浸炭性については大気より酸素濃度が低い浸炭雰囲気中においてオーステナイト化温度以上に加熱して表層に浸炭層を形成する浸炭工程において、浸炭期を930℃で浸炭時間が26分、拡散期を930℃で95分とし、平坦な試験片の表面C濃度が0.6%となるように浸炭を実施した。表4および5に示す条件で、60°、45°、30°の形状となる試験片の先端部分におけるセメンタイト析出の有無により評価した。評価方法は試験片の先端部分を切り出し板面から研磨してナイタール腐食を施し、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて、500倍の倍率で撮影した。各試験片の先端を中心として半径50μmの領域において、◎はセメンタイトの析出はなし、○は10μm以上のセメンタイトの析出はなし、×は10μm以上セメンタイト析出ありとして評価した。60°の形状で○および◎のものを合格としている。より好ましくは45°の形状で○および◎のものであり、さらに好ましくは30°の形状で○および◎のものである。なお、ここでのセメンタイト径は、撮影した組織写真について個々のセメンタイト径を評価した。セメンタイト径は楕円と想定して長径と短径を用いて面積を求め、次式(4)にて円相当直径dに換算した。
d=2(ra×rb)1/2 ・・・(4)
ここで、ra:各セメンタイトの長径
rb:各セメンタイトの短径
熱延鋼板について、大気より酸素濃度が低い浸炭雰囲気中においてオーステナイト化温度以上に加熱して表層に浸炭層を形成する浸炭工程において、浸炭期を930℃で浸炭期26分、拡散期930℃で95分とし、平坦な試験片の表面C濃度が0.6%となるように浸炭焼入れ処理を行い、860℃で30分保持した後、徐冷した。その後900℃に加熱して10s均熱保持後、マルテンサイト変態する冷却速度以上の冷却速度により冷却した。鋼板表面からの深さ0.1mmの位置と深さ1.5mmの位置まで0.1mm間隔にて硬度を荷重1kgfの条件下で測定し、浸炭焼入れ時の表層0.1mmの硬度(HV)と硬度が450HV以上800HV未満の第2層(mm)の距離と、さらにその内側に位置する母相の硬さとを求めた。
Claims (13)
- 質量%で、
C:0.10%以上0.30%以下、
Si:0.20%以上0.80%以下、
Mn:0.25%以上1.00%以下、
P:0.03%以下、
S:0.010%以下、
sol.Al:0.10%以下、
N:0.01%以下、
Cr:0.05%以上0.80%以下および
B:0.0005%以上0.0050%以下
を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物の成分組成と、フェライトおよびセメンタイトを含むミクロ組織と、を有し、該ミクロ組織は、
フェライトの面積率が80%以上、
フェライトの平均粒径が5μm以上25μm以下、
全セメンタイト中の最大Cr濃度が23質量%以下および
全セメンタイトの平均間隔が1.0μm以上
である真空浸炭用高炭素熱延鋼板。 - 前記フェライトの平均粒径が10μm以上25μm以下および
前記全セメンタイトの平均間隔が5.0μm以上
である請求項1に記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。 - 前記フェライトの平均粒径が5μm以上10μm未満および
前記全セメンタイトの平均間隔が1.0μm以上5.0μm未満
である請求項1に記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。 - 引張強さが420MPa以下および全伸びが39%以上である請求項1から3のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
- 穴広げ率が80%以上である請求項1から4のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
- 質量%で、さらに
Ti:0.06%以下
を含有する請求項1から5のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。 - 質量%で、さらに、
SbおよびSnのいずれか1種または2種以上を合計で0.002%以上0.030%以下を含有する請求項1から6のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。 - 前記鋼板の表面から板厚方向へ10nm以内の領域において、SbおよびSnのいずれか1種または2種以上の合計濃度が母材濃度の10倍(質量%)以上である請求項7に記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。
- 質量%で、さらに、
Ni:0.0005%以上2.50%以下、
Mo:0.0005%以上0.25%以下、
Ta:0.0005%以上0.1%以下、
W:0.0005%以上0.1%以下、
Cu:0.0005%以上0.1%以下、
Nb:0.0005%以上0.1%以下、
V:0.0005%以上0.1%以下および
Ca:0.0005%以上0.1%以下
のいずれか1種以上を含有する請求項1から8のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板。 - 請求項1から9のいずれかに記載の真空浸炭用高炭素熱延鋼板の製造方法であって、
請求項1、6、7または9に記載の成分組成を有する鋼素材を、1050〜1270℃の温度域で1h以上保持し、980〜1080℃の温度域での圧下率:40%以上で粗圧延し、終了温度:Ar3変態点以上で仕上圧延し、その後平均冷却速度:20℃/s以上で750℃まで1次冷却し、平均冷却速度:10℃/s以上で巻取温度まで2次冷却し、巻取温度:580℃超〜700℃で巻き取り常温まで冷却した後、焼鈍として、(i)または(ii)の処理を施す、真空浸炭用高炭素熱延鋼板の製造方法。
(i)Ac1変態点以上Ac3変態点以下に加熱して当該温度域で0.5h以上保持し、次いで1〜20℃/hの平均冷却速度でAr1変態点未満に冷却して、600℃以上Ar1変態点未満の温度域で10h以上保持する。
(ii)600℃以上Ac1変態点以下の温度域で1h以上40h以下保持する。 - 請求項2、4から9のいずれかに記載の高炭素熱延鋼板の製造方法であって、
請求項1、6、7または9に記載の成分組成を有する鋼素材を、1050〜1270℃の温度域で1h以上保持し、980〜1080℃の温度域での圧下率:40%以上で粗圧延し、終了温度:Ar3変態点以上で仕上圧延し、その後平均冷却速度:20℃/s以上で750℃まで1次冷却し、平均冷却速度:10℃/s以上で巻取温度まで2次冷却し、巻取温度:580℃超〜700℃で巻き取り常温まで冷却した後、Ac1変態点以上Ac3変態点以下に加熱して当該温度域で0.5h以上保持し、次いで1〜20℃/hの平均冷却速度でAr1変態点未満に冷却して、600℃以上Ar1変態点未満の温度域で10h以上保持する、真空浸炭用高炭素熱延鋼板の製造方法。 - 請求項3から9のいずれかに記載の高炭素熱延鋼板の製造方法であって、
請求項1、6、7または9に記載の成分組成を有する鋼素材を、1050〜1270℃の温度域で1h以上保持し、980〜1080℃の温度域での圧下率:40%以上で粗圧延し、終了温度:Ar3変態点以上で仕上圧延し、その後平均冷却速度:20〜65℃/s以下で750℃まで1次冷却し、平均冷却速度:10〜65℃/s以下で巻取温度まで2次冷却し、巻取温度:580℃超〜700℃で巻き取り常温まで冷却した後、600℃以上Ac1変態点以下の温度域で1h以上40h以下保持する、真空浸炭用高炭素熱延鋼板の製造方法。 - 請求項1から9のいずれかに記載の熱延鋼板を浸炭処理してなる鋼部品であって、
浸炭層と非浸炭層からなり、該両層の組織はいずれもマルテンサイトであり、10μm以上のセメンタイトが存在しないことを特徴とする浸炭鋼部品。
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