JP2021020346A - 積層体および積層体の製造方法 - Google Patents

積層体および積層体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度の高い硬化物を含む積層体、および当該積層体の製造方法を提供すること。【解決手段】線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体の間に、硬化性樹脂組成物からなる硬化物が積層されてなり、(i)硬化性樹脂組成物が特定の組成を有するか、または(ii)硬化物が特定の物性を有する積層体、を提供する。【選択図】なし

Description

本発明は、積層体および積層体の製造方法に関する。
エポキシ樹脂の硬化物は、寸法安定性、機械的強度、電気的絶縁特性、耐熱性、耐水性、耐薬品性などの多くの点で優れている。しかしながら、エポキシ樹脂の硬化物は破壊靭性が小さく、非常に脆性的な性質を示すことがあり、広い範囲の用途においてこのような性質が問題となることが多い。この問題に対して、種々の技術が開示されている。
特許文献1および特許文献2には、エポキシ樹脂などの硬化性樹脂中にポリマー微粒子を分散させてなる硬化性樹脂組成物が開示されている。
特開2015−078280号公報 国際公開公報WO2016/163491号
しかしながら、上述のような従来技術に開示されている硬化性樹脂組成物の硬化物は伸びの物性が劣り、線膨張係数の異なる被着体の接合(接着)に用いる観点からは、さらなる改善の余地があった。
本発明の一実施形態は、前記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度の高い硬化物を含む積層体、および当該積層体の製造方法を提供することである。
本発明者は、このような問題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成させるに至った。
すなわち本発明の一実施形態は、以下の構成を含むものである。
〔1〕線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体と硬化性樹脂組成物からなる硬化物とを有し、前記少なくとも2つの被着体の間に前記硬化物が積層されてなり、前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、並びに、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、弾性体と当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部とを有するゴム含有グラフト共重合体を含むポリマー微粒子(B)1質量部〜100質量部、ブロックドウレタン(C)5質量部〜50質量部、およびジシアンジアミド(D)9.0質量部〜17.0質量部を含有する、積層体。
〔2〕前記硬化物のガラス転移温度は110℃以上であり、JIS K 7113に準拠した方法により得られる前記硬化物の引張破壊ひずみは23.0%以上である、〔1〕に記載の積層体。
〔3〕線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体と硬化性樹脂組成物からなる硬化物とを有し、前記少なくとも2つの被着体の間に前記硬化物が積層されてなり、前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、弾性体と当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部とを有するゴム含有グラフト共重合体を含むポリマー微粒子(B)、ブロックドウレタン(C)、およびジシアンジアミド(D)を含有し、前記硬化物のガラス転移温度は110℃以上であり、JIS K 7113に準拠した方法により得られる前記硬化物の引張破壊ひずみは23.0%以上である、積層体。
〔4〕前記硬化性樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、ポリマー微粒子(B)1質量部〜100質量部、ブロックドウレタン(C)5質量部〜50質量部、およびジシアンジアミド(D)9.0質量部〜17.0質量部を含有する、〔3〕に記載の積層体。
〔5〕前記エポキシ樹脂(A)はビスフェノールF型エポキシ樹脂(A1)を含有し、前記エポキシ樹脂(A)100質量%中の前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(A1)の含有量が、1質量%〜100質量%である、〔1〕〜〔4〕の何れか1つに記載の積層体。
〔6〕無機充填材(E)をさらに含有し、前記硬化性樹脂組成物100質量%中の前記無機充填材(E)の含有量が、0.1質量%〜15質量%である、〔1〕〜〔5〕の何れか1つに記載の積層体。
〔7〕前記硬化性樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、更に、硬化促進剤(F)0.1質量部〜10質量部を含有する、〔1〕〜〔6〕の何れか1つに記載の積層体。
〔8〕前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種以上を含む、〔1〕〜〔7〕の何れか1つに記載の積層体。
〔9〕前記ジエン系ゴムは、ブタジエンゴム、および/または、ブタジエン−スチレンゴムである、〔1〕〜〔8〕の何れか1つに記載の積層体。
〔10〕前記グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニルモノマー、ビニルシアンモノマーおよび(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される1種以上のモノマーに由来する構成単位を含む重合体である、〔1〕〜〔9〕の何れか1つに記載の積層体。
〔11〕前記グラフト部は、エポキシ基を有する重合体である、〔1〕〜〔10〕の何れか1つに記載の積層体。
〔12〕前記グラフト部は、エポキシ基を有する重合体であり、前記グラフト部の質量に対する前記エポキシ基の含有量が0.1mmol/g〜5.0mmol/gである〔1〕〜〔11〕の何れか1つに記載の積層体。
〔13〕硬化性樹脂組成物を第一の被着体に塗布し、第二の被着体を前記第一の被着体と貼り合わせる貼り合わせ工程と、前記硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、を備え、前記第一の被着体と前記第二の被着体とは線膨張係数が異なり、前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、並びに、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、弾性体と当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部とを有するゴム含有グラフト共重合体を含むポリマー微粒子(B)1質量部〜100質量部、ブロックドウレタン(C)5質量部〜50質量部、およびジシアンジアミド(D)9.0質量部〜17.0質量部を含有する、積層体の製造方法。
〔14〕硬化性樹脂組成物を第一の被着体に塗布し、第二の被着体を前記第一の被着体と貼り合わせる貼り合わせ工程と、前記硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、を備え、前記第一の被着体と前記第二の被着体とは線膨張係数が異なり、前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、弾性体と当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部とを有するゴム含有グラフト共重合体を含むポリマー微粒子(B)、ブロックドウレタン(C)、およびジシアンジアミド(D)を含有し、前記硬化物のガラス転移温度は110℃以上であり、JIS K 7113に準拠した方法により得られる前記硬化物の引張破壊ひずみは23.0%以上である、積層体の製造方法。
〔15〕前記硬化工程において、前記硬化性樹脂組成物の硬化温度は130℃以上である、〔13〕または〔14〕に記載の積層体の製造方法。
本発明の一実施形態によれば、伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度の高い硬化物を含む積層体、および当該積層体の製造方法を提供できる、という効果を奏する。
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能である。また、異なる実施形態または実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態または実施例についても、本発明の技術的範囲に含まれる。さらに、各実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を組み合わせることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。なお、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意図する。
〔1.本発明の一実施形態の技術的思想〕
線膨張係数の異なる異種部材(被着体)の接合に使用する硬化性樹脂組成物は、伸びの物性に優れることが好ましい。特許文献1および特許文献2に開示されている硬化性樹脂組成物は伸びの物性に劣るものであった。本発明者は、まず、伸びの物性に優れる硬化物を提供することを目的として、鋭意検討を行った。その結果、ブロックドウレタンを多量に添加することにより、伸びの物性に優れる硬化物を提供できることを見出した。しかしながら、得られた硬化物は、ガラス転移温度(Tgと称する場合もある。)が低いという課題を、本発明者は独自に見出した。
硬化物は、Tgが低いほど、弾性率が低い。弾性率が低い硬化物を含む積層体は、剛性に劣るものである。車両、航空機、宇宙、機械、電気、建築および土木などの分野では、剛性が求められている。従って、これらの分野で好適に使用するためには、剛性に優れる積層体を提供する必要があり、弾性率が高い硬化物を含む積層体を提供する必要があり、すなわちTgが高い硬化物を含む積層体を提供する必要がある。
そこで、本発明者は、伸びの物性に優れ、かつTgの高い硬化物を提供することを目的として、さらに鋭意検討を行った。その結果、本発明者は、通常、当業者が使用しないほど多量のジシアジアミドとブロックドウレタンとを、ポリマー微粒子と併用することにより、伸びの物性に優れ、かつTgの高い硬化物を提供できる、という新規知見を得た。かかる知見に基づき、伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度の高い硬化物を含む積層体、および当該積層体の製造方法を提供し、本発明を完成させるに至った。
〔2.積層体〕
本発明の一実施形態は、第一の積層体を提供する。第一の積層体は、線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体と硬化性樹脂組成物からなる硬化物とを有し、少なくとも2つの被着体の間に前記硬化物が積層されてなる。第一の積層体では、前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、並びに、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、ポリマー微粒子(B)1質量部〜100質量部、ブロックドウレタン(C)5質量部〜50質量部、およびジシアンジアミド(D)9.0質量部〜17.0質量部を含有する。第一の積層体では、前記ポリマー微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含む。
「エポキシ樹脂(A)」、「ポリマー微粒子(B)」、「ブロックドウレタン(C)」および「ジシアンジアミド(D)」を、それぞれ、「(A)成分」、「(B)成分」、「(C)成分」および「(D)成分」と称する場合もある。
第一の積層体は、前記構成を有するため、特に、硬化性樹脂組成物が(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を各々特定量含有するため、伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度(Tg)の高い硬化物を含む、という利点を有する。
本明細書において、硬化物の伸びの物性は、硬化物の引張破壊ひずみ(%)によって評価する。すなわち、伸びの物性とは引張破壊ひずみ(%)の値を意図する。硬化物の引張破壊ひずみ(%)が大きいほど、硬化物は伸びの物性に優れることを意味する。第一の積層体は、引張破壊ひずみ(%)の大きい硬化物を含む、ともいえる。ガラス転移温度(Tg)の高い硬化物は、耐熱性および弾性率(剛性)に優れる。従って、第一の積層体は、耐熱性および弾性率(剛性)に優れる硬化物を含む、ともいえる。第一の積層体は、高い伸びの物性(引張破壊ひずみ(%))と高いTgとを両立する。従って、第一の積層体は、伸びの物性とTgとのバランスに優れている、ともいえる。
本発明の別の一実施形態は、第二の積層体を提供する。第二の積層体は、線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体と硬化性樹脂組成物からなる硬化物とを有し、少なくとも2つの被着体の間に前記硬化物が積層されてなる。第二の積層体では、硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、ポリマー微粒子(B)、ブロックドウレタン(C)、およびジシアンジアミド(D)を含有する。第二の積層体では、前記ポリマー微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含む。第二の積層体では、硬化物のガラス転移温度(Tg)は110℃以上であり、JIS K 7113に準拠した方法により得られる前記硬化物の引張破壊ひずみは23.0%以上である。
第二の積層体は、前記構成を有するため、特に、硬化性樹脂組成物が(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を含有し、かつ、硬化物が特定の物性を有するため、伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度(Tg)の高い硬化物を含む、という利点を有する。第二の積層体では、硬化物が特定の物性を有する限り、硬化性樹脂組成物における(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の各々の含有量は特に限定されず、適宜設定され得る。
第一の積層体および第二の積層体は、どちらも本発明の一実施形態に係る積層体である。「本発明の一実施形態に係る積層体」を、「本積層体」と称する場合もある。第一の積層体にて使用されている硬化性樹脂組成物、および第二の積層体にて使用されている硬化性樹脂組成物、はどちらも、本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物である。「本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物」を、「本硬化性樹脂組成物」と称する場合もある。第一の積層体に含まれている硬化物、および第二の積層体に含まれている硬化物、はどちらも、本発明の一実施形態に係る硬化物である。「本発明の一実施形態に係る硬化物」を、「本硬化物」と称する場合もある。
(2−1.硬化性樹脂組成物)
(2−1−1.エポキシ樹脂(A))
本硬化性樹脂組成物は、主成分として、エポキシ樹脂(A)を含む。
エポキシ樹脂(A)としては、後述のゴム変性エポキシ樹脂とウレタン変性エポキシ樹脂を除く、各種の硬質のエポキシ樹脂を使用することができる。エポキシ樹脂(A)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA(又はF)型エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテルなどの難燃型エポキシ樹脂、p−オキシ安息香酸グリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、m−アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン系エポキシ樹脂、各種脂環式エポキシ樹脂、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジル−o−トルイジン、トリグリシジルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンジオキシド、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリコールジグリシジルエーテル、脂肪族多塩基酸のジグリシジルエステル、グリセリンのような二価以上の多価脂肪族アルコールのグリシジルエーテル、キレート変性エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、石油樹脂などのような不飽和重合体のエポキシ化物、含アミノグリシジルエーテル樹脂、およびこれら上述のエポキシ樹脂にビスフェノールA(又はF)類または多塩基酸類等を付加反応させて得られるエポキシ化合物などが例示される。エポキシ樹脂(A)としては、これらに限定されるものではなく、一般に使用されているエポキシ樹脂が使用され得る。
前記「硬質のエポキシ樹脂」とは、特定のガラス転移温度(Tg)を有するエポキシ樹脂を意図しており、例えば、50℃以上のTgを有するエポキシ樹脂が挙げられる。
前記ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテルとしては、より具体的には、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。前記グリコールジグリシジルエーテルとしては、より具体的には、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。前記脂肪族多塩基酸のジグリシジルエステルとしては、より具体的には、ダイマー酸ジグリシジルエステル、アジピン酸ジグリシジルエステル、セバシン酸ジグリシジルエステル、マレイン酸ジグリシジルエステルなどが挙げられる。前記二価以上の多価脂肪族アルコールのグリシジルエーテルとしては、より具体的には、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、トリメチロールエタントリグリシジルエーテル、ひまし油変性ポリグリシジルエーテル、プロポキシ化グリセリントリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテルなどが挙げられる。エポキシ樹脂に多塩基酸類等を付加反応させて得られるエポキシ化合物としては、例えば、WO2010−098950号公報に記載されているような、トール油脂肪酸の二量体(ダイマー酸)とビスフェノールA型エポキシ樹脂との付加反応物が挙げられる。これらエポキシ樹脂は1種類を単独で用いても良く2種以上を併用しても良い。
前記ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、前記グリコールジグリシジルエーテル、前記脂肪族多塩基酸のジグリシジルエステルおよび前記二価以上の多価脂肪族アルコールのグリシジルエーテルは、比較的低い粘度を有するエポキシ樹脂である。本明細書において、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリコールジグリシジルエーテル、脂肪族多塩基酸のジグリシジルエステル、および二価以上の多価脂肪族アルコールのグリシジルエーテルを、低粘度エポキシ樹脂と称する。低粘度エポキシ樹脂を、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂などの低粘度エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂と併用する場合、低粘度エポキシ樹脂は、反応性希釈剤として機能し得る。その結果、低粘度エポキシ樹脂は、硬化性樹脂組成物の粘度と当該硬化性樹脂組成物から得られる硬化物の物性とのバランスを改良する事ができる。本硬化性樹脂組成物は、反応性希釈剤として機能し得るエポキシ樹脂(例えば、低粘度エポキシ樹脂)を含んでいてもよい。これら反応性希釈剤として機能するエポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂(A)100質量%中の0.5質量%〜20質量%が好ましく、1質量%〜10質量%がより好ましく、2質量%〜5質量%が更に好ましい。
前記キレート変性エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂とキレート官能基を含有する化合物(キレート配位子)との反応生成物である。本硬化性樹脂組成物にキレート変性エポキシ樹脂を添加して接着剤として用いる場合、油状物質で汚染された金属基材表面への接着性を改善できる。キレート官能基は、金属イオンへ配位可能な配位座を分子内に複数有する化合物の官能基であり、例えば、リン含有酸基(例えば、−PO(OH))、カルボン酸基(−COH)、硫黄含有酸基(例えば、−SOH)、アミノ基及び水酸基(特に、芳香環において互いに隣接した水酸基)などが挙げられる。キレート配位子としては、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸、フェナントロリン、ポルフィリン、クラウンエーテル、などが挙げられる。市販されているキレート変性エポキシ樹脂としては、ADEKA製アデカレジンEP−49−10Nなどが挙げられる。
(A)成分中のキレート変性エポキシ樹脂の使用量は、好ましくは0.1〜10質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。
本明細書において、ある成分の「使用量」は、当該成分の「添加量」ともいえ、また硬化性樹脂組成物または硬化物における当該成分の「含有量」ともいえる。
これらのエポキシ樹脂の中でもエポキシ基を一分子中に少なくとも2個有するものが、得られる硬化性樹脂組成物の硬化における反応性が高くなり、得られる硬化物が3次元的網目を作りやすいなどの点から好ましい。
硬化性樹脂組成物が引張破壊ひずみの大きい硬化物を提供できることから、エポキシ樹脂(A)は、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(A1)を含有することが好ましい。一方、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(A1)は、硬化性樹脂組成物が提供する硬化物のTgを低下させ得る。伸びの物性に優れ、かつTgの高い硬化物、換言すれば伸びの物性とTgとのバランスに優れる硬化物を提供できることから、エポキシ樹脂(A)100質量%中のビスフェノールF型エポキシ樹脂(A1)の含有量は、1質量%〜100質量%であることが好ましく、5質量%〜70質量%であることがより好ましく、10質量%〜50質量%であることがさらに好ましく、15質量%〜30質量%であることが特に好ましい。
弾性率が高く、かつ耐熱性および接着性に優れる硬化物が得られ、また比較的安価であることから、エポキシ樹脂(A)としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂(A1)が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。
また、上述した各種のエポキシ樹脂の中でも、エポキシ当量が220未満のエポキシ樹脂は、得られる硬化物の弾性率および耐熱性が高く、粘度の温度依存性が小さい為に好ましい。上述したエポキシ樹脂の中でも、エポキシ当量が90以上210未満のエポキシ樹脂がより好ましく、150以上200未満のエポキシ樹脂が更に好ましい。
エポキシ樹脂(A)は、エポキシ当量が220未満のビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂であることが好ましい。ビスフェノールA型エポキシ樹脂およびビスフェノールF型エポキシ樹脂は、常温で液体であるため、前記構成によると、得られる硬化性樹脂組成物の粘度の温度依存性が小さくなり、取扱い性が良好となる。
エポキシ樹脂(A)は、エポキシ当量が220以上5000未満のビスフェノールA型エポキシ樹脂および/またはビスフェノールF型エポキシ樹脂を、(A)成分100質量%中に、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下の範囲で添加することが好ましい。前記構成によると、得られる硬化物が耐衝撃性に優れるという利点を有する。
(2−1−2.ポリマー微粒子(B))
本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、(B)成分の靱性改良効果により、靱性および衝撃剥離接着性に優れる硬化物を提供できる。また、本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、(B)成分を含むことにより、伸びの物性に優れ,Tgが高く、耐熱性および弾性率(剛性)が良好である硬化物を提供できる。換言すれば、(B)成分を含むことなく、(A)成分、(C)成分および(D)成分を含む硬化性樹脂組成物が提供する硬化物は、引張破壊ひずみが小さく、すなわち伸びの物性に劣り、かつTgが低く、耐熱性および弾性率(剛性)に劣る。
本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、(A)成分100質量部に対して、(B)成分を、1質量部〜100質量部含むことが好ましく、3質量部〜70質量部含むことがより好ましく、5質量部〜50質量部含むことが更に好ましく、10質量部〜40質量部含むことが特に好ましい。当該構成によると、(a)得られる硬化性樹脂組成物の粘度のせん断速度依存性および取扱いやすさ、並びに得られる硬化物の靭性改良効果のバランスに優れ、かつ(b)得られる硬化性樹脂組成物は、伸びの物性に優れ、かつTgの高い硬化物を提供できる。
ポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)は特に限定されないが、工業的生産性を考慮すると、10nm〜2000nmが好ましく、30nm〜600nmがより好ましく、50nm〜400nmが更に好ましく、100nm〜200nmが特に好ましい。前記構成によると、所望の粘度を有し、かつ高度に安定した硬化性樹脂組成物を得ることができるという利点も有する。なお、本明細書において、「ポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)」とは、特に言及する場合を除き、ポリマー微粒子(B)の1次粒子の体積平均粒子径を意図する。ポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)は、ポリマー微粒子(B)を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置(例えばマイクロトラックUPA150(日機装株式会社製))を用いて測定することができる。ポリマー微粒子(B)の体体積平均粒子径の測定方法については、下記実施例にて詳述する。また、ポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径は、積層体の硬化物を切断し、電子顕微鏡などを用いて硬化物の切断面を撮像した後、得られた撮像データ(撮像画像)を用いて測定することもできる。
(B)成分は、本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物中において、その体積平均粒子径の個数分布において、前記体積平均粒子径の0.5倍以上、1倍以下の半値幅を有することが、得られる硬化性樹脂組成物が低粘度で取扱い易い為に好ましい。
上述の特定の粒子径分布を容易に実現できることから、(B)成分の体積平均粒子径の個数分布において、極大値が2個以上存在することが好ましい。製造時の手間が少なく、かつコストが小さいことから、(B)成分の体積平均粒子径の個数分布において、極大値が2〜3個存在することがより好ましく、極大値が2個存在することが更に好ましい。(B)成分は、特に、体積平均粒子径が10nm以上150nm未満のポリマー微粒子10〜90質量%と、体積平均粒子径が150nm以上2000nm以下のポリマー微粒子(B)90〜10質量%とを含むことが好ましい。
(B)成分は硬化性樹脂組成物または硬化物中で1次粒子の状態で分散していることが好ましい。本発明の一実施形態における、「ポリマー微粒子(B)が硬化性樹脂組成物または硬化物中で1次粒子の状態で分散している」とは、硬化性樹脂組成物または硬化物中で、ポリマー微粒子(B)同士が実質的に独立して(接触することなく)分散していることを意味する。硬化性樹脂組成物または硬化物中のポリマー微粒子(B)の分散状態は、例えば、ポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)(以下、「Mv/Mn」と称する場合もある。)を測定することにより確認できる。
ポリマー微粒子(B)のMv/Mnは、動的光散乱式の粒子径分布測定装置(例えば、マイクロトラックUPA(日機装株式会社製))を用いてポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)および個数平均粒子径(Mn)をそれぞれ測定し、MvをMnで除することによって求めることができる。硬化性樹脂組成物における、ポリマー微粒子(B)のMv/Mnは、例えば、硬化性樹脂組成物の一部をメチルエチルケトンのような溶剤に溶解し、得られた混合物(溶解物)を動的光散乱式の粒子径分布測定装置などに供することにより測定できる。硬化物中のポリマー微粒子(B)のMv/Mnは、例えば、積層体の硬化物を切断し、電子顕微鏡などを用いて硬化物の切断面を撮像した後、得られた撮像データ(撮像画像)を用いて測定することができる。
ポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)の値は、特に制限されないが、3以下であることが好ましく、2.5以下がより好ましく、2以下が更に好ましく、1.5以下が特に好ましい。ポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)が3以下である場合、硬化性樹脂組成物または硬化物中でポリマー微粒子(B)が良好に、すなわち一次粒子の状態で分散していると考えられる。ポリマー微粒子(B)のMv/Mnが3以下である硬化性樹脂組成物、すなわちポリマー微粒子(B)の分散性が良好である硬化性樹脂組成物は、耐衝撃性、接着性および伸びの物性に優れ、Tgが高く、耐熱性および弾性率(剛性)が良好である硬化物を提供できる。ポリマー微粒子(B)のMv/Mnが3以下である硬化物、すなわちポリマー微粒子(B)の分散性が良好である硬化物は、耐衝撃性、接着性および伸びの物性に優れ、Tgが高く、耐熱性および弾性率(剛性)が良好となる。
また、ポリマー微粒子(B)が、連続層中で凝集したり、分離したり、沈殿したりすることなく、定常的に通常の条件下にて、長期間に渡って、分散している状態を、ポリマー微粒子(B)の「安定な分散」と称する場合もある。前記「連続層」としては、例えば、硬化性樹脂組成物および硬化物などが挙げられる。ポリマー微粒子(B)の連続層中での分布は、実質的に変化しないことが好ましい。また、当該連続層(例えば硬化性樹脂組成物)を危険がない範囲で加熱することで連続層の粘度を下げて攪拌した場合であっても、連続層中のポリマー微粒子(B)の「安定な分散」が保持されることが好ましい。
(B)成分は1種類を単独で用いても良く2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(弾性体)
弾性体は、天然ゴム、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種以上を含むことが好ましく、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種以上を含むことがより好ましい。弾性体は、ゴム粒子と言い換えることもできる。本明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。ポリシロキサンゴム系弾性体は、オルガノシロキサン系ゴムと称される場合もある。
(a)得られる硬化物における靱性改良効果および耐衝撃剥離接着性改良効果が高い点、並びに(b)マトリックス樹脂(例えばエポキシ樹脂(A))との親和性が低い為に、得られる硬化性樹脂組成物において弾性体の膨潤による経時による粘度上昇が起こり難い点から、弾性体はジエン系ゴムを含むことが好ましく、ジエン系ゴムであることがより好ましい。弾性体がジエン系ゴムを含む場合、得られる硬化性樹脂組成物は、靱性および耐衝撃性に優れる硬化物を提供することもできる。
以下、弾性体がジエン系ゴムを含む場合(場合A)について説明する。前記ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系モノマーに由来する構成単位を含む弾性体である。前記ジエン系モノマーは、共役ジエン系モノマーと言い換えることもできる。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位100質量%中、ジエン系モノマーに由来する構成単位を50〜100質量%、およびジエン系モノマーと共重合体可能なジエン系モノマー以外のビニル系モノマーに由来する構成単位を0〜50質量%、含むものであってもよい。場合Aにおいて、ジエン系ゴムは、構成単位として、ジエン系モノマーに由来する構成単位よりも少ない量において、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。
ジエン系モノマーとしては、例えば、1,3−ブタジエン、イソプレン(2−メチル−1,3−ブタジエン)、2−クロロ−1,3−ブタジエンなどが挙げられる。これらのジエン系モノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
ジエン系モノマーと共重合体可能なジエン系モノマー以外のビニル系モノマー(以下、ビニル系モノマーA、とも称する。)としては、例えば、(i)スチレン、α−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;(ii)アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;(iii)アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;(iv)塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;(v)酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;(vi)ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性モノマー、などが挙げられる。上述した、ビニル系モノマーAは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上述した、ビニル系モノマーAの中でも、特に好ましくはスチレンである。
弾性体は、ブタジエンゴム、および/または、ブタジエン−スチレンゴムであることが好ましく、ブタジエンゴムであることがより好ましい。前記ブタジエンゴムは、1,3−ブタジエンに由来する構成単位からなるゴムであり、ポリブタジエンゴムとも称される。前記ブタジエン−スチレンゴムは、1,3−ブタジエンとスチレンとの共重合体であり、ポリスチレン−ブタジエンとも称される。前記構成によると、(a)得られる硬化物における靱性改良効果がより高いという利点、および(b)マトリックス樹脂(例えばエポキシ樹脂(A))との親和性がより低い為に、得られる硬化性樹脂組成物において弾性体の膨潤による経時による粘度上昇がより起こり難いという利点を有する。また、ブタジエン−スチレンゴムは、屈折率の調整により、得られる硬化物の透明性を高めることができる点においても、より好ましい。
多種のモノマーの組合せにより、幅広い重合体設計が可能なことから、弾性体は(メタ)アクリレート系ゴムを含むことが好ましく、(メタ)アクリレート系ゴムであることがより好ましい。以下、弾性体が(メタ)アクリレート系ゴムを含む場合(場合B)について説明する。
前記(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位を含む弾性体である。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位100質量%中、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位を50〜100質量%、および(メタ)アクリレート系モノマーと共重合体可能な(メタ)アクリレート系モノマー以外のビニル系モノマーに由来する構成単位を0〜50質量%、含むものであってもよい。場合Bにおいて、(メタ)アクリレート系ゴムは、構成単位として、(メタ)アクリレート系モノマーに由来する構成単位よりも少ない量において、ジエン系モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。
(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、(i)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;(ii)フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;(iii)2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;(iv)グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;(v)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;(vi)アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;(vii)モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系モノマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの(メタ)アクリレート系モノマーの中でも、特に好ましくは、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートおよび2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートである。
(メタ)アクリレート系モノマーと共重合体可能な(メタ)アクリレート系モノマー以外のビニル系モノマー(以下、(メタ)アクリレート系モノマー以外のビニル系モノマー、とも称する。)としては、前記ビニル系モノマーAにおいて列挙したモノマーが挙げられる。(メタ)アクリレート系モノマー以外のビニル系モノマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(メタ)アクリレート系モノマー以外のビニル系モノマーの中でも、特に好ましくはスチレンである。
得られる硬化物の耐熱性を低下させることなく、低温における硬化物の耐衝撃性を向上しようとする場合には、弾性体はポリシロキサンゴム系弾性体を含むことが好ましく、ポリシロキサンゴム系弾性体であることがより好ましい。以下、弾性体がポリシロキサンゴム系弾性体を含む場合(場合C)について説明する。
ポリシロキサンゴム系弾性体としては、例えば、(a)ジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ、ジメチルシリルオキシ−ジフェニルシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系重合体、および(b)側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシなどの、アルキルもしくはアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系重合体、が挙げられる。これらのポリシロキサン系重合体は、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのポリシロキサン系重合体の中でも、(a)得られる硬化性樹脂組成物が耐熱性に優れる硬化物を提供することができることから、ジメチルシリルオキシ単位、メチルフェニルシリルオキシ単位、および/またはジメチルシリルオキシ−ジフェニルシリルオキシ単位から構成される重合体が好ましく、(b)容易に入手できて経済的でもあることから、ジメチルシリルオキシ単位から構成される重合体が最も好ましい。
場合Cにおいて、ポリマー微粒子(B)は、ポリマー微粒子(B)に含まれる弾性体100質量%中、ポリシロキサンゴム系弾性体を80質量%以上含有していることが好ましく、90質量%以上含有していることがより好ましい。前記構成によると、得られる硬化性樹脂組成物は、耐熱性に優れる硬化物を提供することができる。
弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体以外の弾性体をさらに含んでいてもよい。ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体以外の弾性体としては、例えば天然ゴムが挙げられる。
(弾性体の架橋構造)
ポリマー微粒子(B)の硬化性樹脂組成物中での分散安定性を保持できることから、弾性体には、架橋構造が導入されていることが好ましい。弾性体に対する架橋構造の導入方法としては、一般的に用いられる手法を採用することができ、例えば以下の方法が挙げられる。すなわち、弾性体の製造において、弾性体を構成し得るモノマーに、多官能性モノマーおよび/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性モノマーを混合し、次いで重合する方法が挙げられる。本明細書において、弾性体など重合体を製造することを、重合体を重合する、とも称する。
また、ポリシロキサンゴム系弾性体に架橋構造を導入する方法としては、次のような方法も挙げられる:(a)ポリシロキサンゴム系弾性体を重合するときに、多官能性のアルコキシシラン化合物を他の材料と共に一部併用する方法、(b)ビニル反応性基、メルカプト基などの反応性基をポリシロキサンゴム系弾性体に導入し、その後ビニル重合性のモノマーまたは有機過酸化物などを添加してラジカル反応させる方法、または、(c)ポリシロキサンゴム系弾性体を重合するときに、多官能性モノマーおよび/またはメルカプト基含有化合物などの架橋性モノマーを他の材料と共に混合し、次いで重合を行う方法、など。
多官能性モノマーは、同一分子内にラジカル重合性反応基を2以上有するモノマーともいえる。前記ラジカル重合性反応基は、好ましくは炭素−炭素二重結合である。多官能性モノマーとしては、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類、および、アリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類などのようなエチレン性不飽和二重結合を有する(メタ)アクリレートなどが例示される。(メタ)アクリル基を2つ有するモノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレートおよびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。前記ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類としては、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレートなどが例示される。また、3つの(メタ)アクリレート基を有するモノマーとして、アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類、グリセロールプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどが例示される。アルコキシレーテッドトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート類としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリエトキシトリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。さらに、4つの(メタ)アクリル基を有するモノマーとして、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、などが例示される。またさらに、5つの(メタ)アクリル基を有するモノマーとして、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレートなどが例示される。またさらに、6つの(メタ)アクリル基を有するモノマーとして、ジトリメチロールプロパンヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示される。多官能性モノマーとしては、また、ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等も挙げられる。これらの中でも、多官能性モノマーとして特に好ましくは、アリルメタアクリレート、トリアリルイソシアヌレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、およびジビニルベンゼンである。
メルカプト基含有化合物としては、アルキル基置換メルカプタン、アリル基置換メルカプタン、アリール基置換メルカプタン、ヒドロキシ基置換メルカプタン、アルコキシ基置換メルカプタン、シアノ基置換メルカプタン、アミノ基置換メルカプタン、シリル基置換メルカプタン、酸基置換メルカプタン、ハロ基置換メルカプタンおよびアシル基置換メルカプタンなどが挙げられる。アルキル基置換メルカプタンとしては、炭素数1〜20のアルキル基置換メルカプタンが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基置換メルカプタンがより好ましい。アリール基置換メルカプタンとしては、フェニル基置換メルカプタンが好ましい。アルコキシ基置換メルカプタンとしては、炭素数1〜20のアルコキシ基置換メルカプタンが好ましく、炭素数1〜10のアルコキシ基置換メルカプタンがより好ましい。酸基置換メルカプタンとしては、好ましくは、カルボキシル基を有する炭素数1〜10のアルキル基置換メルカプタン、または、カルボキシル基を有する炭素数1〜12のアリール基置換メルカプタン、である。
(弾性体のゲル含量)
ポリマー微粒子(B)の弾性体は、得られる硬化物の靱性を高める為に、ゴムとしての性質を有することが好ましい。弾性体は、適切な溶媒に対して膨潤し得るが、実質的には溶解しないものであることが好ましい。弾性体は、使用するエポキシ樹脂(A)に対して、不溶であることが好ましい。
弾性体のゲル含量は、得られる硬化物が靭性に優れることから、60質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましく、95質量%以上であることが特に好ましい。
本明細書においてゲル含量の算出方法は下記の通りである。先ず、ポリマー微粒子(B)を含有する水性ラテックスを得、次に、当該水性ラテックスから、ポリマー微粒子(B)の粉体を得る。水性ラテックスからポリマー微粒子(B)の粉体を得る方法としては、特に限定されないが、例えば、(i)当該水性ラテックス中のポリマー微粒子(B)を凝集させ、(ii)得られる凝集物を脱水し、(iii)さらに凝集物を乾燥することにより、ポリマー微粒子(B)の粉体を得る方法が挙げられる。次いで、ポリマー微粒子(B)の粉体0.5gをトルエン100gに浸漬する。次に、得られた混合物を、23℃で24時間静置する。その後、得られた混合物を、トルエンに可溶な成分(トルエン可溶分)とトルエンに不溶な成分(トルエン不溶分)とに分離する。得られたトルエン可溶分とトルエン不溶分との質量を測定し、次式よりゲル含量を算出する。
ゲル含量(%)=(トルエン不溶分の質量)/{(トルエン不溶分の質量)+(トルエン可溶分の質量)}×100
(弾性体のガラス転移温度)
弾性体のガラス転移温度(Tg)は、得られる硬化物の靱性を高めるために、0℃以下であることが好ましく、−20℃以下がより好ましく、−40℃以下が更に好ましく、−60℃以下であることが特に好ましい。
一方、得られる硬化物の弾性率(剛性)の低下を抑制したい場合には、弾性体のTgは、0℃よりも大きいことが好ましく、20℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましく、80℃以上であることが特に好ましく、120℃以上であることが最も好ましい。
弾性体のTgは、弾性体に含まれる構成単位の組成などによって、決定され得る。換言すれば、弾性体を製造(重合)するときに使用するモノマーの組成を変化させることにより、得られる弾性体のTgを調整することができる。
ここで、1種類のモノマーのみを重合させてなる単独重合体としたとき、0℃よりも大きいTgを有する単独重合体を提供するモノマーの群を、モノマー群aとする。また、1種類のモノマーのみを重合させてなる単独重合体としたとき、0℃未満のTgを有する単独重合体を提供するモノマーの群を、モノマー群bとする。Tgが0℃よりも大きく、得られる硬化物の剛性低下を抑制し得る弾性体を形成し得るポリマーとしては、
モノマー群aから選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位を50〜100質量%(より好ましくは、65〜99質量%)、およびモノマー群bから選択される少なくとも1種のモノマーに由来する構成単位を0〜50質量%(より好ましくは、1〜35質量%)含んで構成されるポリマーが挙げられる。
弾性体のTgが0℃よりも大きい場合も、弾性体には架橋構造が導入されていることが好ましい。架橋構造の導入方法としては、前記の方法が挙げられる。
前記モノマー群aに含まれ得るモノマーとしては、以下に限るものではないが、例えば、(i)スチレン、2−ビニルナフタレンなどの無置換ビニル芳香族化合物類;(ii)α―メチルスチレンなどのビニル置換芳香族化合物類;(iii)3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、2,4,6―トリメチルスチレンなどの環アルキル化ビニル芳香族化合物類;(iv)4−メトキシスチレン、4−エトキシスチレンなどの環アルコキシル化ビニル芳香族化合物類;(v)2−クロロスチレン、3―クロロスチレンなどの環ハロゲン化ビニル芳香族化合物類;(vi)4−アセトキシスチレンなどの環エステル置換ビニル芳香族化合物類;(vii)4−ヒトロキシスチレンなどの環ヒドロキシル化ビニル芳香族化合物類;(viii)ビニルベンゾエート、ビニルシクロヘキサノエートなどのビニルエステル類;(ix)塩化ビニルなどのビニルハロゲン化物類;(x)アセナフタレン、インデンなどの芳香族モノマー類;(xi)メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレートなどのアルキルメタクリレート類;(xii)フェニルメタクリレートなどの芳香族メタクリレート;(xiii)イソボルニルメタクリレート、トリメチルシリルメタクリレートなどのメタクリレート類;(xiv)メタクリロニトリルなどのメタクリル酸誘導体を含むメタクリルモノマー;(xv)イソボルニルアクリレート、tert−ブチルアクリレートなどのある種のアクリル酸エステル;(xvi)アクリロニトリルなどのアクリル酸誘導体を含むアクリルモノマー、などが挙げられる。さらに、前記モノマー群aに含まれ得るモノマーとしては、アクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N−ビニルピロリドン、イソボルニルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート、1−アダマンチルアクリレート及び1−アダマンチルメタクリレート、など、単独重合体としたとき120℃以上のTgを有する単独重合体を提供し得るモノマーが挙げられる。また、モノマー群aに含まれ得るモノマーとしては、例えば、WO2014−196607号公報の明細書の、[0084]段落に記載の各種の化合物が挙げられる。これらのモノマー群aから選択させるモノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
前記モノマー群bとしては、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレートなどが挙げられる。これらのモノマー群bから選択させるモノマーは、1種類のみを用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。モノマー群bの中でも、特に好ましくは、エチルアクリレート、ブチルアクリレートおよび2−エチルヘキシルアクリレートである。
(弾性体の体積平均粒子径)
弾性体の体積平均粒子径は、0.03〜2μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましく、0.1〜0.8μmがさらに好ましく、0.1〜0.5μmが特に好ましい。弾性体の体積平均粒子径が(a)0.03μm以上である場合、所望の体積平均粒子径を有する弾性体を安定的に得ることができ、(b)2μm以下である場合、得られる硬化物の耐熱性および耐衝撃性が良好となる。弾性体の体積平均粒子径は、弾性体を含む水性ラテックスを試料として、動的光散乱式粒子径分布測定装置などを用いて、測定することができる。弾性体の体積平均粒子径の測定方法については、下記実施例にて詳述する。
(弾性体の割合(比率))
ポリマー微粒子(B)中に占める弾性体の割合は、ポリマー微粒子(B)全体を100質量%として、40〜97質量%が好ましく、60〜95質量%がより好ましく、70〜93質量%がさらに好ましく、80〜90質量%が特に好ましい。弾性体の前記割合が、(a)40質量%以上である場合、得られる硬化性樹脂組成物の硬化物の靱性改良効果が低下する虞がなく、(b)97質量%以下である場合、ポリマー微粒子(B)は凝集しにくいため、硬化性樹脂組成物が高粘度となることがなく、その結果、得られる硬化性樹脂組成物は取り扱い易いものとなり得る。
(弾性体の変形例)
本発明の一実施形態において、弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種類であり、かつ同一の組成の構成単位を有する1種の弾性体のみからなってもよい。本発明の一実施形態において、弾性体は、それぞれ異なる組成の構成単位を有する複数種の弾性体からなってもよい。
本発明の一実施形態において、弾性体が複数種の弾性体からなる場合について説明する。この場合、複数種の弾性体のそれぞれを、弾性体、弾性体、・・・、および弾性体とする。ここで、nは2以上の整数である。弾性体は、それぞれ別々に重合された弾性体、弾性体、・・・、および弾性体を混合して得られる混合物を含んでいてもよい。弾性体は、弾性体、弾性体、・・・、および弾性体をそれぞれ順に重合して得られる重合体を含んでいてもよい。このように、複数の重合体(弾性体)をそれぞれ順に重合することを、多段重合とも称する。複数種の弾性体を多段重合して得られる重合体を、多段重合弾性体とも称する。多段重合弾性体の製造方法については、後に詳述する。
弾性体、弾性体、・・・、および弾性体からなる多段重合弾性体について説明する。当該多段重合弾性体において、弾性体は、弾性体n−1の少なくとも一部を被覆し得るか、または弾性体n−1の全体を被覆し得る。当該多段重合弾性体において、弾性体の一部は弾性体n−1の内側に入り込んでいることもある。
多段重合弾性体において、複数の弾性体のそれぞれが、層構造を有していてもよい。例えば、多段重合弾性体が、弾性体、弾性体、および弾性体からなる場合、弾性体を最内層とし、弾性体の外側に弾性体の層が存在し、さらに弾性体の層の外側に弾性体の層が弾性体における最外層として存在する態様も、本発明の一態様である。このように、複数の弾性体のそれぞれが層構造を有する多段重合弾性体は、多層弾性体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、弾性体は、複数種の弾性体の混合物、多段重合弾性体および/または多層弾性体を含んでいてもよい。
(グラフト部)
本明細書において、弾性体に対してグラフト結合された重合体をグラフト部と称する。グラフト部は、種々の役割を担い得る。「種々の役割」とは、例えば、(a)(B)成分と(A)成分との相溶性を向上させること、(b)エポキシ樹脂(A)中におけるポリマー微粒子(B)の分散性を向上させること、および(c)本硬化性樹脂組成物またはその硬化物中においてポリマー微粒子(B)が一次粒子の状態で分散することを可能にすること、などである。
(B)成分のグラフト部は、ヒドロキシ基を含むことが好ましい。当該構成により、得られる硬化性樹脂組成物は、粘度のせん断速度依存性が高くなり、その結果、作業性に優れる積層体の製造方法を提供できる。さらに、グラフト部にヒドロキシ基を含む(B)成分と後述のヒュームドシリカ(C)とを組み合わせて含むことにより、得られる硬化性樹脂組成物は、粘度のせん断速度依存性がより高くなり、その結果、作業性により優れる積層体の製造方法を提供できる。(B)成分のグラフト部がヒドロキシ基を含むことにより、得られる硬化性樹脂組成物は、耐衝撃剥離接着性に優れる硬化物を提供できる、という利点も有する。
(B)成分のグラフト部に含まれるヒドロキシ基の含有量は特に限定されない。(B)成分のグラフト部のヒドロキシ基の含有量は、グラフト部の総質量に対して0.01mmol/g以上であることが好ましく、0.1mmol/g以上であることがより好ましく、0.2mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.4mmol/g以上であることが特に好ましい。(B)成分のグラフト部に含まれるヒドロキシ基の含有量が多いほど、得られる硬化性樹脂組成物における粘度のせん断速度依存性は高くなり、得られる硬化性樹脂組成物が提供する硬化物における耐衝撃剥離接着性は良好となる。(B)成分のグラフト部は、グラフト部の総質量に対して5.0mmol/g以下であることが好ましく、4.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、1.5mmol/g以下であることが特に好ましい。(B)成分のグラフト部に含まれるヒドロキシ基の含有量が少ないほど、得られる硬化性樹脂組成物の貯蔵時の粘度変化は小さくなり、当該硬化性樹脂組成物の取り扱い性が容易となる。
(B)成分のグラフト部は、構造単位として、ヒドロキシ基含有モノマーに由来する構成単位を含むことが好ましい、ともいえる。
ヒドロキシ基を有するモノマーの具体例としては、例えば、(i)2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシ直鎖アルキル(メタ)アクリレート(特に、ヒドロキシ直鎖C1−6アルキル(メタ)アクリレート);(ii)カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート;(iii)α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α−(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルなどのヒドロキシ分岐アルキル(メタ)アクリレート;(iv)二価カルボン酸(フタル酸など)と二価アルコール(プロピレングリコールなど)とから得られるポリエステルジオール(特に飽和ポリエステルジオール)のモノ(メタ)アクリレートなどのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類、などが挙げられる。
グラフト部は、グラフト部100質量%中、ヒドロキシ基含有モノマーに由来する構成単位を、0.2質量%〜70.0質量%含むことが好ましく、2.0質量%〜50.0質量%含むことがより好ましく、4.0質量%〜40.0質量%含むことがさらに好ましく、10.0質量%〜30.0質量%含むことが特に好ましい。グラフト部100質量%中、ヒドロキシ基含有モノマーに由来する構成単位を0.2質量%以上含む場合、(a)得られる硬化性樹脂組成物における粘度のせん断速度依存性は高くなり、得られる硬化性樹脂組成物が提供する硬化物における耐衝撃剥離接着性は良好となり、かつ(b)得られる硬化性樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する硬化物を提供することができる。グラフト部100質量%中、ヒドロキシ基含有モノマーに由来する構成単位を70.0質量%以下含む場合、得られる硬化性樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する硬化物を提供することができ、かつ、当該硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性が良好となるという利点を有する。
ヒドロキシ基またはヒドロキシ基含有モノマーに由来する構成単位は、グラフト部に含まれることが好ましく、グラフト部にのみ含まれることがより好ましい。
ヒドロキシ基は、後述する反応性基ともいえ、ヒドロキシ基含有モノマーは、後述する反応性基含有モノマーともいえる。
(B)成分の硬化性樹脂組成物中での相溶性および分散性が良好となることから、グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニルモノマー、ビニルシアンモノマーおよび(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される1種以上のモノマーに由来する構成単位を含む重合体であることが好ましく、(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を含む重合体であることがより好ましい。
芳香族ビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンおよびジビニルベンゼンなどのビニルベンゼン類が挙げられる。
(B)成分のグラフト部の総質量に対するシアノ基の含有量は、特に限定は無いが、得られる硬化性樹脂組成物の粘度の温度依存性および硬化して得られる硬化物の衝撃強度が良好となることから、0.5mmol/g〜15.0mmol/gが好ましく、1.0mmol/g〜13.0mmol/gがより好ましく、1.5mmol/g〜11.0mmol/gがより好ましく、2.0mmol/g〜11.0mmol/gがより好ましく、2.0mmol/g〜10.0mmol/gがより好ましく、2.5mmol/g〜9.0mmol/gがより好ましく、3.0mol/g〜9.0mol/gがより好ましく、5.0mmol/g〜10.0mmol/gがさらに好ましく、5.5mmol/g〜9.5mmol/gがよりさらに好ましく、7.0mmol/g〜9.0mmol/gが特に好ましい。(B)成分のグラフト部の総質量に対するシアノ基の含有量が、(a)0.5mmol/g以上である場合、得られる硬化性樹脂組成物の粘度の温度依存性が小さくなるという利点を有し、(b)15.0mmol/g以下である場合、ポリマー微粒子(B)中に残存するシアノ基含有モノマーの量が増加する虞がなく、その結果、安全性が高いという利点を有する。
ビニルシアンモノマーの具体例としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルなどが挙げられる。
(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、(a)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;および(b)ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル、などが挙げられる。
上述した、芳香族ビニルモノマー、ビニルシアンモノマーおよび(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される1種以上のモノマーは、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニルモノマーに由来する構成単位、ビニルシアンモノマーに由来する構成単位および(メタ)アクリレートモノマーに由来する構成単位を合計で、全構成単位100質量%中に、10〜95質量%含むことが好ましく、30〜92質量%含むことがより好ましく、50〜90質量%含むことがさらに好ましく、60〜87質量%含むことが特に好ましく、70〜85質量%含むことが最も好ましい。
グラフト部は、構成単位として、反応性基含有モノマーに由来する構成単位を含むことが好ましい。前記反応性基含有モノマーは、エポキシ基、オキセタン基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基およびシアン酸エステル基からなる群から選択される1種以上の反応性基を含有するモノマーであることが好ましく、エポキシ基およびカルボン酸基からなる群から選択される1種以上の反応性基を含有するモノマーであることがより好ましく、エポキシ基を含有するモノマーであることがさらに好ましい。前記構成によると、硬化性樹脂組成物および硬化物中でポリマー微粒子(B)のグラフト部とエポキシ樹脂(A)とを化学結合させることができる。これにより、硬化性樹脂組成物および硬化物中で、ポリマー微粒子(B)を凝集させることなく、ポリマー微粒子(B)の良好な分散状態を維持することができる。すなわち、グラフト部は、エポキシ基を有する重合体であることが好ましい。
グラフト部は、エポキシ基を有する重合体であることが好ましい。グラフト部の総質量に対するエポキシ基の含有量は0.1mmol/g〜5.0mmol/gが好ましく、0.2〜4.0mmol/gがより好ましく、0.3〜3.0mmol/gがより好ましく、0.4〜2.0mmol/gがより好ましく、0.4〜1.5mmol/gがさらに好ましく、0.4〜1.2mmol/gがよりさらに好ましく、0.4〜1.0mmol/gが特に好ましい。当該構成によると、得られる硬化性樹脂組成物は、靭性および伸びの物性に優れる硬化物を提供できるという利点を有する。(B)成分のグラフト部の総質量に対するエポキシ基の含有量が、(a)0.1mmol/g以上である場合、得られる硬化性樹脂組成物の硬化物の靭性が高くなるという利点を有し、(b)5.0mmol/g以下である場合、得られる硬化性樹脂組成物の硬化物は伸びの物性に優れるという利点を有する。
エポキシ基を有するモノマーの具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテルおよびアリルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有ビニルモノマーが挙げられる。
カルボン酸基を有するモノマーの具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸およびクロトン酸などのモノカルボン酸、並びに、マレイン酸、フマル酸およびイタコン酸などのジカルボン酸などが挙げられる。カルボン酸基を有するモノマーとしては、前記モノカルボン酸が好適に用いられる。
上述した反応性基含有モノマーは、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
グラフト部は、グラフト部100質量%中、反応性基含有モノマーに由来する構成単位を、0.5〜90質量%含むことが好ましく、1〜50質量%含むことがより好ましく、2〜35質量%含むことがさらに好ましく、3〜20質量%含むことが特に好ましい。グラフト部が、グラフト部100質量%中、反応性基含有モノマーに由来する構成単位を、(a)0.5質量%以上含まれている場合、得られる硬化性樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する硬化物を提供することができ、(b)90質量%以下含まれている場合、得られる硬化性樹脂組成物は、十分な耐衝撃性を有する硬化物を提供することができ、かつ、当該硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性が良好となるという利点を有する。
反応性基含有モノマーに由来する構成単位は、グラフト部に含まれることが好ましく、グラフト部にのみ含まれることがより好ましい。
グラフト部は、構成単位として、多官能性モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。グラフト部が、多官能性モノマーに由来する構成単位を含む場合、(a)硬化性樹脂組成物中においてポリマー微粒子(B)の膨潤を防止することができる、(b)硬化性樹脂組成物の粘度が低くなるため、硬化性樹脂組成物の取扱い性が良好となる傾向がある、および(c)エポキシ樹脂(A)におけるポリマー微粒子(B)の分散性が向上する、などの利点を有する。
グラフト部が多官能性モノマーに由来する構成単位を含まない場合、得られる硬化性樹脂組成物は、靱性改良効果および耐衝撃剥離接着性改良効果に優れる硬化物を提供できるという利点を有する。
グラフト部の重合に用いられ得る多官能性モノマーとしては、上述の多官能性モノマーと同じモノマーが挙げられる。それら多官能性モノマーの中でも、グラフト部の重合に好ましく用いられ得る多官能性モノマーとしては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレートおよびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられ、アリルメタクリレートおよびトリアリルイソシアヌレートがより好ましい。これら多官能性モノマーは、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
グラフト部は、グラフト部100質量%中、多官能性モノマーに由来する構成単位を、0質量%〜20質量%含んでいてもよく、1質量%〜20質量%含むことが好ましく、5質量%〜15質量%含むことがより好ましい。
グラフト部は、構成単位として全構成単位100質量%中に、好ましくは、芳香族ビニルモノマー(特にスチレン)に由来する構成単位0質量%〜50質量%(より好ましくは1質量%〜50質量%、さらに好ましくは2質量%〜48質量%)、ビニルシアンモノマー(特にアクリロニトリル)に由来する構成単位0質量%〜50質量%(より好ましくは0質量%〜30質量%、さらに好ましくは10質量%〜25質量%)、(メタ)アクリレートモノマー(特にメチルメタクリレート)に由来する構成単位0質量%〜90質量%(より好ましくは5質量%〜85質量%、さらに好ましくは20質量%〜80質量%)、およびエポキシ基を有するモノマー(特にグリシジルメタクリレート)に由来する構成単位5質量%〜90質量%(より好ましくは10質量%〜50質量%、さらに好ましくは15質量%〜30質量%)を、合計100質量%含む。当該構成によると、粘度の温度依存性が小さい硬化性樹脂組成物が得られる。
グラフト部の重合において、上述したモノマーは、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
グラフト部は、構成単位として、上述したモノマーに由来する構成単位の他に、他のモノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。
(グラフト部のグラフト率)
本発明の一実施形態において、ポリマー微粒子(B)は、グラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ弾性体に対してグラフト結合されていない重合体を有していてもよい。本明細書において、グラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ弾性体に対してグラフト結合されていない重合体を、非グラフト重合体とも称する。当該非グラフト重合体も、本発明の一実施形態に係るポリマー微粒子(B)の一部を構成するものとする。前記非グラフト重合体は、グラフト部の重合において製造された重合体のうち、弾性体に対してグラフト結合していないものともいえる。
本明細書において、グラフト部の重合において製造された重合体のうち、弾性体に対してグラフト結合された重合体、すなわちグラフト部の割合を、グラフト率と称する。グラフト率は、(グラフト部の質量)/{(グラフト部の質量)+(非グラフト重合体の質量)}×100で表される値、ともいえる。
グラフト部のグラフト率は、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。グラフト率が70%以上である場合、硬化性樹脂組成物の粘度が高くなりすぎないという利点を有する。
本明細書において、グラフト率の算出方法は下記の通りである。先ず、ポリマー微粒子(B)を含有する水性ラテックスを得、次に、当該水性ラテックスから、ポリマー微粒子(B)の粉体を得る。水性ラテックスからポリマー微粒子(B)の粉体を得る方法は、(弾性体のゲル含量)の項にて説明した方法を用いることができる。次いで、ポリマー微粒子(B)の粉体2gをメチルエチルケトン(以下、MEKと称する場合もある。)100gに浸漬する。次に、得られた混合物を、23℃で24時間静置する。その後、得られた混合物を、その後、得られた混合物を、MEKに可溶な成分(MEK可溶分)とMEKに不溶な成分(MEK不溶分)とに分離する。さらに、MEK可溶分をメタノールと混合するなどして、MEK可溶分からメタノール不溶分を分離する。そして、得られたMEK不溶分とメタノール不溶分との質量を測定し、MEK不溶分とメタノール不溶分との合計量に対するMEK不溶分の比率を求めることによってグラフト率を算出する。具体的には次式によりグラフト率を算出する。
グラフト率(%)=(MEK不溶分の質量)/{(MEK不溶分の質量)+(メタノール不溶分の質量)}×100
(グラフト部の変形例)
本発明の一実施形態において、グラフト部は、同一の組成の構成単位を有する1種のグラフト部のみからなってもよい。本発明の一実施形態において、グラフト部は、それぞれ異なる組成の構成単位を有する複数種のグラフト部からなってもよい。
本発明の一実施形態において、グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合について説明する。この場合、複数種のグラフト部のそれぞれを、グラフト部、グラフト部、・・・、グラフト部とする(nは2以上の整数)。グラフト部は、それぞれ別々に重合されたグラフト部、グラフト部、・・・、およびグラフト部を混合して得られる混合物を含んでいてもよい。グラフト部は、グラフト部、グラフト部、・・・、およびグラフト部を多段重合して得られる重合体を含んでいてもよい。複数種のグラフト部を多段重合して得られる重合体を、多段重合グラフト部とも称する。多段重合グラフト部の製造方法については、後に詳述する。
グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、これら複数種のグラフト部の全てが弾性体に対してグラフト結合されていなくてもよい。少なくとも1種のグラフト部の少なくとも一部が弾性体に対してグラフト結合されていればよく、その他の種(その他の複数種)のグラフト部は、弾性体に対してグラフト結合されているグラフト部にグラフト結合されていてもよい。また、グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、複数種のグラフト部と同じ構成を有する重合体であり、かつ弾性体に対してグラフト結合されていない複数種の重合体(非グラフト重合体)を有していてもよい。
グラフト部、グラフト部、・・・、およびグラフト部からなる多段重合グラフト部について説明する。当該多段重合グラフト部において、グラフト部は、グラフト部n−1の少なくとも一部を被覆し得るか、またはグラフト部n−1の全体を被覆し得る。当該多段重合グラフト部において、グラフト部の一部はグラフト部n−1の内側に入り込んでいることもある。
多段重合グラフト部において、複数のグラフト部のそれぞれが、層構造を有していてもよい。例えば、多段重合グラフト部が、グラフト部、グラフト部、およびグラフト部からなる場合、グラフト部をグラフト部における最内層とし、グラフト部の外側にグラフト部の層が存在し、さらにグラフト部の層の外側にグラフト部の層が最外層として存在する態様も、本発明の一態様である。このように、複数のグラフト部のそれぞれが層構造を有する多段重合グラフト部は、多層グラフト部ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、グラフト部は、複数種のグラフト部の混合物、多段重合グラフト部および/または多層グラフト部を含んでいてもよい。
ポリマー微粒子(B)の製造において弾性体とグラフト部とがこの順で重合される場合、得られるポリマー微粒子(B)において、グラフト部の少なくとも一部分は、弾性体の少なくとも一部分を被覆し得る。弾性体とグラフト部とがこの順で重合されるとは、換言すれば、弾性体とグラフト部とが多段重合されるともいえる。弾性体とグラフト部とを多段重合して得られるポリマー微粒子(B)は、多段重合体ともいえる。
ポリマー微粒子(B)が多段重合体である場合、グラフト部は弾性体の少なくとも一部を被覆し得るか、または弾性体の全体を被覆し得る。ポリマー微粒子(B)が多段重合体である場合、グラフト部の一部は弾性体の内側に入り込んでいることもある。
ポリマー微粒子(B)が多段重合体である場合、弾性体およびグラフト部が、層構造を有していてもよい。例えば、弾性体を最内層(コア層とも称する。)とし、弾性体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層とも称する。)として存在する態様も、本発明の一態様である。弾性体をコア層とし、グラフト部をシェル層とする構造はコアシェル構造ともいえる。このように、弾性体およびグラフト部が層構造(コアシェル構造)を有するポリマー微粒子(B)は、多層重合体またはコアシェル重合体ともいえる。すなわち、本発明の一実施形態において、ポリマー微粒子(B)は、多段重合体であってもよく、かつ/または、多層重合体もしくはコアシェル重合体であってもよい。ただし、グラフト部が弾性体に対してグラフト結合している限り、ポリマー微粒子(B)は前記構成に制限されるわけではない。
グラフト部の少なくとも一部分は、弾性体の少なくとも一部分を被覆していることが好ましい。換言すれば、グラフト部の少なくとも一部分は、ポリマー微粒子(B)の最も外側に存在することが好ましい。
(表面架橋重合体)
ポリマー微粒子(B)は、弾性体、および当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部以外に、表面架橋重合体を有することが好ましい。前記構成によると、(a)ポリマー微粒子(B)の製造において、耐ブロッキング性を改善することができるとともに、(b)エポキシ樹脂(A)におけるポリマー微粒子(B)の分散性がより良好となる。これらの理由としては、特に限定されないが、以下のように推測され得る:表面架橋重合体が弾性体の少なくとも一部を被覆することにより、ポリマー微粒子(B)の弾性体部分の露出が減り、その結果、弾性体同士が引っ付きにくくなるため、ポリマー微粒子(B)の分散性が向上する。
ポリマー微粒子(B)が表面架橋重合体を有する場合、さらに以下の効果も有し得る:(a)本硬化性樹脂組成物の粘度を低下させる効果、(b)弾性体における架橋密度を上げる効果、および(c)グラフト部のグラフト効率(グラフト率)を高める効果。弾性体における架橋密度とは、弾性体全体における架橋構造の数の程度を意味する。
得られる硬化物が靱性および耐衝撃剥離接着性に優れることから、ポリマー微粒子(B)は、表面架橋重合体を含有しないことが好ましい。
表面架橋重合体は、構成単位として、多官能性モノマーに由来する構成単位を30〜100質量%、およびその他のビニル系モノマーに由来する構成単位を0〜70質量%、合計100質量%含むポリマーからなる。
表面架橋重合体の重合に用いられ得る多官能性モノマーとしては、上述の多官能性モノマーと同じモノマーが挙げられる。それら多官能性モノマーの中でも、表面架橋重合体の重合に好ましく用いられ得る多官能性モノマーとしては、アリルメタクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレートおよびポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられ、アリルメタクリレートおよびトリアリルイソシアヌレートがより好ましい。これら多官能性モノマーは、1種類のみが用いられてもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
ポリマー微粒子(B)は、ゴム含有グラフト共重合体の重合とは独立して重合された表面架橋重合体を含んでいてもよく、または、ゴム含有グラフト共重合体と共に重合された表面架橋重合体を含んでいてもよい。ポリマー微粒子(B)は、弾性体と表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体であってもよい。これらいずれの態様においても、表面架橋重合体は弾性体の少なくとも一部を被覆し得る。
表面架橋重合体は、弾性体の一部とみなすこともできる。ポリマー微粒子(B)が表面架橋重合体を含む場合、グラフト部は、(a)表面架橋重合体以外の弾性体に対してグラフト結合されていてもよく、(b)表面架橋重合体に対してグラフト結合されていてもよく、(c)表面架橋重合体以外の弾性体および表面架橋重合体の両方に対してグラフト結合されていてもよい。ポリマー微粒子(B)が表面架橋重合体を含む場合、上述した弾性体の体積平均粒子径とは、表面架橋重合体を含む弾性体の体積平均粒子径を意図する。
ポリマー微粒子(B)が、弾性体と表面架橋重合体とグラフト部とをこの順に多段重合して得られる多段重合体である場合(場合D)について説明する。場合Dにおいて、表面架橋重合体は、弾性体の一部を被覆し得るか、または弾性体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、表面架橋重合体の一部は弾性体の内側に入り込んでいることもある。場合Dにおいて、グラフト部は、表面架橋重合体の一部を被覆し得るか、または表面架橋重合体の全体を被覆し得る。場合Dにおいて、グラフト部の一部は表面架橋重合体の内側に入り込んでいることもある。場合Dにおいて、弾性体、表面架橋重合体およびグラフト部が、層構造を有していてもよい。例えば、弾性体を最内層(コア層)とし、弾性体の外側に表面架橋重合体の層が中間層として存在し、表面架橋重合体の外側にグラフト部の層が最外層(シェル層)として存在する態様も、本発明の一態様である。
(ポリマー微粒子(B)の製造方法)
ポリマー微粒子(B)は、弾性体を重合した後、弾性体の存在下にて弾性体に対してグラフト部を構成する重合体をグラフト重合することによって、製造できる。グラフト部を構成する重合体を、グラフト重合体とも称する。
ポリマー微粒子(B)は、公知の方法、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができる。具体的には、ポリマー微粒子(B)における弾性体の重合、グラフト部の重合(グラフト重合)、表面架橋重合体の重合は、公知の方法、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができる。これらの中でも特に、ポリマー微粒子(B)の組成設計が容易である、工業生産が容易である、および本硬化性樹脂組成物の製造に好適に用いられ得るポリマー微粒子(B)の水性ラテックスが容易に得られることから、ポリマー微粒子(B)の製造方法としては、乳化重合が好ましい。以下、ポリマー微粒子(B)に含まれ得る弾性体、グラフト部、および任意の構成である表面架橋重合体の製造方法について、説明する。
(弾性体の製造方法)
弾性体が、ジエン系ゴムおよび(メタ)アクリレート系ゴムからなる群より選択される少なくとも1種以上を含む場合を考える。この場合、弾性体は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができ、その製造方法としては、例えばWO2005/028546号公報に記載の方法を用いることができる。
弾性体が、ポリシロキサンゴム系弾性体を含む場合を考える。この場合、弾性体は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などの方法により製造することができ、その製造方法としては、例えばWO2006/070664号公報に記載の方法を用いることができる。
弾性体が複数種の弾性体(例えば弾性体、弾性体、・・・、弾性体)からなる場合の、弾性体の製造方法について説明する。この場合、弾性体、弾性体、・・・、弾性体は、それぞれ別々に上述の方法により重合され、その後混合されることにより、複数種の弾性体を有する弾性体が製造されてもよい。または、弾性体、弾性体、・・・、弾性体は、それぞれ順に多段重合され、複数種の弾性体を有する弾性体が製造されてもよい。
弾性体の多段重合について、具体的に説明する。例えば、(1)弾性体を重合して弾性体を得る;(2)次いで弾性体の存在下にて弾性体を重合して2段弾性体1+2を得る;(3)次いで弾性体1+2の存在下にて弾性体を重合して3段弾性体1+2+3を得る;(4)以下、同様に行った後、弾性体1+2+・・・+(n−1)の存在下にて弾性体を重合して多段重合弾性体1+2+・・・+nを得る。
(グラフト部の製造方法)
グラフト部は、例えば、グラフト部の形成に用いるモノマーを、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。(a)弾性体、または(b)弾性体および表面架橋重合体を含むポリマー微粒子前駆体、を水性ラテックスとして得た場合には、グラフト部の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。グラフト部は、例えば、WO2005/028546号公報に記載の方法に従って製造することができる。
グラフト部の製造(重合)において、ヒドロキシ基含有モノマーを使用することにより、ヒドロキシ基を有するグラフト部を得ることができる。
グラフト部が複数種のグラフト部(例えばグラフト部、グラフト部、・・・、グラフト部)からなる場合の、グラフト部の製造方法について説明する。この場合、グラフト部、グラフト部、・・・、グラフト部は、それぞれ別々に上述の方法により重合され、その後混合されることにより、複数種のグラフト部を有するグラフト部が製造されてもよい。または、グラフト部、グラフト部、・・・、グラフト部は、それぞれ順に多段重合され、複数種のグラフト部を有するグラフト部が製造されてもよい。
グラフト部の多段重合について、具体的に説明する。例えば、(1)グラフト部を重合してグラフト部を得る;(2)次いでグラフト部の存在下にてグラフト部を重合して2段グラフト部1+2を得る;(3)次いでグラフト部1+2の存在下にてグラフト部を重合して3段グラフト部1+2+3を得る;(4)以下、同様に行った後、グラフト部1+2+・・・+(n−1)の存在下にてグラフト部を重合して多段重合グラフト部1+2+・・・+nを得る。
グラフト部が複数種のグラフト部からなる場合、複数種のグラフト部を有するグラフト部を重合した後、弾性体にそれらグラフト部をグラフト重合して、ポリマー微粒子(B)を製造してもよい。弾性体の存在下にて、弾性体に対して複数種のグラフト部構成する複数種の重合体を順に多段グラフト重合して、ポリマー微粒子(B)を製造してもよい。
(表面架橋重合体の製造方法)
表面架橋重合体は、表面架橋重合体の形成に用いるモノマーを公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。弾性体を水性ラテックスとして得た場合には、表面架橋重合体の重合は乳化重合法により行うことが好ましい。
表面架橋重合体は、重合された弾性体を含む水性ラテックスに、表面架橋重合体の形成に用いるモノマーを一度に添加するか、または一定量ずつ連続で添加して追加した後、重合する方法で得られてもよい。このような重合は、1段で行われる表面架橋重合体の重合ともいえる。表面架橋重合体の重合は、2段以上で行ってもよい。すなわち、あらかじめ表面架橋重合体の形成に用いるモノマーが仕込まれた反応器に重合された弾性体を含む水性ラテックスを加えてから重合を実施する方法などを採用することもできる。
(乳化剤)
ポリマー微粒子(B)の製造方法として、乳化重合法を採用する場合、ポリマー微粒子(B)の製造には、公知の乳化剤を用いることができる。乳化重合において用いることができる乳化剤としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、[0073]段落に記載の各種の乳化剤が挙げられる。これらの乳化剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。乳化剤は、分散剤ともいえる。
ポリマー微粒子(B)の水性ラテックス中の分散安定性に支障を来さない限り、乳化剤(分散剤)の使用量は少なくすることが好ましい。また、乳化剤は、その水溶性が高いほど好ましい。乳化剤の水溶性が高い場合、乳化剤の水洗除去が容易になり、最終的に得られる硬化物に対する乳化剤(残存乳化剤)の悪影響を容易に防止できる。
(開始剤)
ポリマー微粒子(B)の製造方法として、乳化重合法を採用する場合、ポリマー微粒子(B)の製造には、熱分解型開始剤を用いることができる。前記熱分解型開始剤としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウムおよび過硫酸アンモニウムなどの公知の開始剤を挙げることができる。
ポリマー微粒子(B)の製造には、レドックス型開始剤を使用することもできる。前記レドックス型開始剤は、(a)有機過酸化物および無機過酸化物などの過酸化物と、(b)必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤、および必要に応じて硫酸鉄(II)などの遷移金属塩、さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物などと、を併用した開始剤である。前記有機過酸化物としては、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドおよびt−ヘキシルパーオキサイドなどが挙げられる。前記無機過酸化物としては、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどが挙げられる。
レドックス型開始剤を用いる場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定できるようになる。そのため、レドックス型開始剤を用いることが好ましい。レドックス型開始剤の中でも、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイドおよびt−ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物をレドックス型開始剤として用いることが好ましい。前記開始剤の使用量、並びに、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤、遷移金属塩およびキレート剤などの使用量は、公知の範囲で用いることができる。
弾性体、グラフト部または表面架橋重合体に架橋構造を導入する目的で、弾性体、グラフト部または表面架橋重合体の重合に多官能性モノマーを使用する場合、公知の連鎖移動剤を公知の使用量の範囲で用いることができる。連鎖移動剤を使用することにより、得られる弾性体、グラフト部もしくは表面架橋重合体の分子量および/または架橋度を容易に調節することができる。
ポリマー微粒子(B)の製造には、上述した成分に加えて、さらに界面活性剤を用いることができる。前記界面活性剤の種類および使用量は、公知の範囲である。
ポリマー微粒子(B)の製造において、重合における重合温度、圧力および脱酸素などの条件は、公知の範囲のものが適用することができる。
(2−1−3.ブロックドウレタン(C))
ブロックドウレタン(C)は、硬化性樹脂組成物の硬化物の引張破壊ひずみ(%)を向上させる効果を有しており、すなわち、硬化性樹脂組成物の硬化物の伸びの物性を向上させる効果を有している。ブロックドウレタン(C)は、また、硬化性樹脂組成物の硬化物の靱性を向上させる効果を有する。それ故に、ブロックドウレタン(C)を含んでいる本硬化性樹脂組成物は、靱性および伸びの物性に優れる硬化物を提供できる。
ポリマー微粒子(B)の質量(W1)とブロックドウレタン(C)の質量(W2)との比(W1/W2)は、特に限定されない。ポリマー微粒子(B)の質量(W1)とブロックドウレタン(C)の質量(W2)との比(W1/W2)は、0.1〜10.0が好ましく、0.2〜7.0がより好ましく、1.5〜7.0がより好ましく、1.8〜5.0がさらに好ましく、2.0〜4.0がよりさらに好ましく、2.5〜3.5が特に好ましい。前記W1/W2は、0.2〜5.0であってもよく、0.3〜4.0であってもよく、0.4〜3.0であってもよく、0.5〜2.0であってもよい。前記W1/W2が、前記範囲内である場合、得られる硬化性樹脂組成物の粘度の温度依存性をより小さくできる、という利点を有する。また、W1/W2が、1.5以上である場合、硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の低温での耐衝撃剥離接着性が低下しないという利点を有する。
ブロックドウレタン(C)は、エラストマー型であって、ウレタン基および/または尿素基を含有し、かつ、末端にイソシアネート基を有する化合物の当該末端イソシアネート基の全部または一部が活性水素基を有する種々のブロック剤でキャップされた化合物である。特に、当該末端イソシアネート基の全部がブロック剤でキャップされた化合物が好ましい。この様な化合物(すなわちブロックドウレタン(C))は、例えば、次のような方法で得ることができる:(i)末端に活性水素含有基を有する有機重合体に、過剰のポリイソシアネート化合物を反応させて、主鎖骨格中にウレタン基および/または尿素基を有し末端にイソシアネート基を有する重合体(ウレタンプレポリマー)とする;(ii)前記(i)の後、あるいは前記(i)と同時に、ウレタンプレポリマーの該イソシアネート基の全部または一部に、活性水素基を有するブロック剤を作用させ、該イソシアネート基の全部または一部をブロック剤でキャップすることにより得られる。
前記ブロックドウレタン(C)は、例えば、下記一般式(1)で表される:
A−(NR−C(=O)−X) ・・・一般式(1);
(一般式(1)中、a個のRは、それぞれ独立に、炭素原子数1〜20の炭化水素基である。aはキャップされたイソシアネート基の1分子当たりの平均数を表し、1.1個以上が好ましく、1.5〜8個がより好ましく、1.7〜6個が更に好ましく、2〜4個が特に好ましい。Xは、前記ブロック剤から活性水素原子を除いた残基である。Aは、イソシアネート末端化プレポリマー(例えば、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー)から末端イソシアネート基を除いた残基である。)。
前記ブロック剤でキャップされたイソシアネート基は、加熱によりイソシアネート基が再生し、再生したイソシアネート基が硬化性樹脂組成物中の活性水素含有化合物等と反応して、得られる硬化物の靭性を改良する。ブロックドウレタン(C)100重量%に対する、加熱により再生するイソシアネート基の重量%を潜在NCO%と定義する。なお、ウレタンプレポリマーとブロック剤との反応はほぼ定量的に進行すると考えられる。そのため、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基に対して当量以上の活性水素基を有するブロック剤を反応させた場合、潜在NCO%は、ブロック剤でキャップする前のウレタンプレポリマーをNCO滴定することで計算できる。また、ウレタンプレポリマーのイソシアネート基に対して当量未満の活性水素基を有するブロック剤を反応させた場合、潜在NCO%は、反応させたブロック剤量で計算できる。
本発明の一実施形態において、(C)成分の潜在NCO%は、特に限定は無いが、得られる硬化性樹脂組成物の粘度の温度依存性および硬化物の靭性の観点から、0.1%〜10.0%が好ましく、0.1%〜5.0%がより好ましく、0.1%〜4.0%がより好ましく、0.1%〜3.5%がより好ましい。
本発明の一実施形態において、ブロックドウレタン(C)は、潜在NCO%が0.1%〜2.9%であることがさらに好ましい。(C)成分の潜在NCO%が、0.1〜2.9%である場合、粘度の温度依存性が小さい硬化性樹脂組成物が得られる。(C)成分の潜在NCO%が、(a)0.1%以上である場合、硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物の靱性が悪化する虞がなく、(b)2.9%以下である場合、得られる硬化性樹脂組成物の粘度の温度依存性が小さくなる傾向がある。
本発明の一実施形態において、(C)成分の潜在NCO%は、得られる硬化性樹脂組成物の粘度の温度依存性と硬化物の靭性との観点から、0.3%〜2.8%がよりさらに好ましく、0.5%〜2.7%がよりさらに好ましく、1.0%〜2.5%がよりさらに好ましく、1.5%〜2.3%が特に好ましい。
本発明の一実施形態において、(C)成分の潜在NCO%は、0.5%〜5.0%であってもよく、1.0%〜4.0%であってもよく、1.5%〜3.5%であってもよい。
潜在NCO%は、単位「mmol/g」を用いて表すこともできる。潜在NCOについて、単位「mmol/g」は、ブロックドウレタン(C)1gに対する、加熱により再生するイソシアネート基のモル量(mmol)を意味する。潜在NCOについて、「%」と「mmol/g」とは相互置換可能である。
ブロックドウレタン(C)の数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel permeation chromatography;GPC)で測定したポリスチレン換算分子量にて、2000〜40000が好ましく、3000〜30000がより好ましく、4000〜20000が特に好ましい。ブロックドウレタン(C)の分子量分布(重量平均分子量と数平均分子量との比)は、1〜4が好ましく、1.2〜3がより好ましく、1.5〜2.5が特に好ましい。
ブロックドウレタン(C)の重量平均分子量は、GPCの方法で測定できる。
ブロックドウレタン(C)の製造に用いられる、「末端に活性水素含有基を有する有機重合体」、「ポリイソシアネート化合物」および「活性水素基を有するブロック剤」について、説明する。
(末端に活性水素含有基を有する有機重合体)
末端に活性水素含有基を有する有機重合体を構成する主鎖骨格としては、ポリエーテル系重合体、ポリアクリル系重合体、ポリエステル系重合体、ポリジエン系重合体、飽和炭化水素系重合体(ポリオレフィン)、ポリチオエーテル系重合体などが挙げられる。
(活性水素基)
末端に活性水素含有基を有する有機重合体を構成する活性水素含有基としては、水酸基、アミノ基、イミノ基およびチオール基が挙げられる。これらの中でも、入手性の点から、水酸基、アミノ基およびイミノ基が好ましく、さらに得られるブロックドウレタンの取扱い易さ(粘度)の点から、水酸基がより好ましい。
末端に活性水素含有基を有する有機重合体としては、末端に水酸基を有するポリエーテル系重合体(ポリエーテルポリオール)、末端にアミノ基および/またはイミノ基を有するポリエーテル系重合体(ポリエーテルアミン)、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、末端に水酸基を有するジエン系重合体(ポリジエンポリオール)、末端に水酸基を有する飽和炭化水素系重合体(ポリオレフィンポリオール)、ポリチオール化合物、ポリアミン化合物などが挙げられる。これらの中でも、ポリエーテルポリオール、ポリエーテルアミン、および、ポリアクリルポリオールは、(A)成分との相溶性に優れ、有機重合体のTgが比較的低く、得られる硬化物が低温での耐衝撃性に優れることから好ましい。特に、ポリエーテルポリオールおよびポリエーテルアミンは、得られる有機重合体の粘度が低く作業性が良好である為により好ましく、ポリエーテルポリオールは特に好ましい。
ブロックドウレタン(C)の前駆体である前記ウレタンプレポリマーを調製するときに使用する、末端に活性水素含有基を有する有機重合体は、1種類を単独で用いても良く2種以上を併用しても良い。
末端に活性水素含有基を有する有機重合体の数平均分子量は、GPCで測定したポリスチレン換算分子量にて、800〜7000が好ましく、1500〜5000がより好ましく、2000〜4000が特に好ましい。
(ポリエーテル系重合体)
前記ポリエーテル系重合体は、有機重合体100質量%中、下記一般式(2)で示される繰り返し単位を40質量%以上有する重合体である:
−R−O− ・・・一般式(2)
(一般式(2)中、Rは、炭素原子数1から14の直鎖状もしくは分岐状アルキレン基である。)。
一般式(2)におけるRは、炭素原子数1から14の、さらには2から4の、直鎖状もしくは分岐状アルキレン基が好ましい。一般式(2)で示される繰り返し単位の具体例としては、−CHO−、−CHCHO−、−CHCH(CH)O−、−CHCH(C)O−、−CHC(CHO−、−CHCHCHCHO−等が挙げられる。ポリエーテル系重合体の主鎖骨格は、1種類だけの繰り返し単位からなってもよいし、2種類以上の繰り返し単位からなってもよい。特に、有機重合体100質量%中、プロピレンオキシドの繰り返し単位を50質量%以上有するポリプロピレングリコールを主成分とする重合体から成るポリエーテル系重合体は、得られる硬化物がT字剥離接着強さに優れるため好ましい。また、テトラヒドロフランを開環重合して得られるポリテトラメチレングリコール(PTMG)は、得られる硬化物が動的割裂抵抗力に優れるため、好ましい。
ポリエーテル系重合体は、有機重合体100質量%中、一般式(2)の繰り返し単位を、50質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、70質量%以上含むことがさらに好ましい。
ブロックドウレタン(C)は、ポリアルキレングリコール構造を含むウレタンプレポリマーをブロック剤でキャップした化合物であることが好ましく、ポリプロピレングリコール構造を含むウレタンプレポリマーをブロック剤でキャップした化合物であることが、得られる硬化性樹脂組成物の粘度の感温特性が小さいことから、より好ましい。
「粘度の感温特性が小さい」ということは、「粘度の温度依存性が小さい」ことを意味する。
(ポリエーテルポリオールおよびポリエーテルアミン)
前記ポリエーテルポリオールは、末端に水酸基を有するポリエーテル系重合体である。前記ポリエーテルアミンは、末端にアミノ基またはイミノ基を有するポリエーテル系重合体である。
(ポリアクリルポリオール)
前記ポリアクリルポリオールとしては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(共)重合体を骨格とし、かつ、分子内に水酸基を有するポリオールを挙げることができる。ポリアクリルポリオールとしては、特に、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを共重合して得られるポリアクリルポリオールが好ましい。
前記ポリエステルポリオールとしては、(i)マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、フタル酸等の多塩基酸およびそれらの酸無水物からなる群より選択される1種以上と、(ii)エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−へキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコールからなる群より選択される1種以上とを、エステル化触媒の存在下、150〜270℃の温度範囲で重縮合させて得られる重合体が挙げられる。また、(a)ε−カプロラクトン、バレロラクトン等の開環重合物、並びに(b)ポリカーボネートジオールおよびヒマシ油等の活性水素を2個以上有する活性水素化合物等も挙げられる。
(ポリジエンポリオール)
前記ポリジエンポリオールとしては、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオール、ポリクロロプレンポリオールなどを挙げることができる。特に、ポリブタジエンポリオールが好ましい。
(ポリオレフィンポリオール)
前記ポリオレフィンポリオールとしては、ポリイソブチレンポリオール、水添ポリブタジエンポリオールなどを挙げることができる。
(ポリイソシアネート化合物)
前記ポリイソシアネート化合物の具体例としては、(a)トルエン(トリレン)ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート;(b)イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化トルエンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネート、などを挙げることができる。これらの中でも、耐熱性の点から、脂肪族系ポリイソシアネートが好ましく、更に入手性の点から、イソフォロンジイソシアネートおよびヘキサメチレンジイソシアネートがより好ましい。
(活性水素基を有するブロック剤)
前記ブロック剤は、例えば、第一級アミン系ブロック剤、第二級アミン系ブロック剤、オキシム系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、活性メチレン系ブロック剤、アルコール系ブロック剤、メルカプタン系ブロック剤、アミド系ブロック剤、イミド系ブロック剤、複素環式芳香族化合物系ブロック剤、ヒドロキシ官能性(メタ)アクリレート系ブロック剤およびフェノール系ブロック剤が挙げられる。これらの中でも、オキシム系ブロック剤、ラクタム系ブロック剤、ヒドロキシ官能性(メタ)アクリレート系ブロック剤およびフェノール系ブロック剤が好ましく、ヒドロキシ官能性(メタ)アクリレート系ブロック剤およびフェノール系ブロック剤がより好ましく、フェノール系ブロック剤が更に好ましい。
(第一級アミン系ブロック剤)
前記第一級アミン系ブロック剤としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、[0098]段落に記載の各種の化合物が挙げられる。
(ヒドロキシ官能性(メタ)アクリレート系ブロック剤)
前記ヒドロキシ官能性(メタ)アクリレート系ブロック剤は、1個以上の水酸基を有する(メタ)アクリレートである。ヒドロキシ官能性(メタ)アクリレート系ブロック剤の具体例としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、[0099]段落に記載の各種の化合物が挙げられる。
(フェノール系ブロック剤)
前記フェノール系ブロック剤は、少なくとも1個のフェノール性ヒドロキシル基を含有する。「フェノール性ヒドロキシル基」とは、芳香環の炭素原子に直接結合したヒドロキシル基、を意味する。フェノール性化合物は2個以上のフェノール性ヒドロキシル基を有していてもよい。フェノール性化合物は、好ましくはフェノール性ヒドロキシル基を一つだけ含有する。フェノール性化合物は、他の置換基を含有していてもよい。他の置換基としては、(a)直鎖状、分岐鎖状またはシクロアルキル等のアルキル基;(b)芳香族基(例えば、フェニル基、アルキル置換フェニル基、アルケニル置換フェニル基等);(c)アリール置換アルキル基;(C)フェノール置換アルキル基、(e)アルケニル基、(f)アリル基が挙げられる。他の置換基としては、好ましくはキャッピング反応の条件下でイソシアネート基と反応しない置換基が好ましく、アルケニル基およびアリル基がより好ましい。フェノール系ブロック剤の具体例としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、[0100]段落に記載の各種の化合物が挙げられる。
前記ブロック剤は、当該ブロック剤が結合する末端がもはや反応性基を有しないような態様で、ウレタンプレポリマーのポリマー鎖の末端に結合していることが好ましい。前記ブロック剤がウレタンプレポリマーのポリマー鎖の末端に結合して得られたポリマー末端は、反応性基を有しないことが好ましい、ともいえる。
前記ブロック剤は、1種類を単独で用いても良く2種以上を併用しても良い。
ブロックドウレタン(C)は、架橋剤の残基、鎖延長剤の残基、または、その両方を含有していてもよい。
(架橋剤)
前記架橋剤の分子量は750以下が好ましく、より好ましくは50〜500である。前記架橋剤は、1分子当たり少なくとも3個のヒドロキシル基、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリオールまたはポリアミン化合物である。架橋剤はブロックドウレタン(C)に分岐を付与し、ブロックドウレタン(C)の官能価(即ち、キャップされたイソシアネート基の1分子当たりの数)を増加させるのに有用である。
(鎖延長剤)
前記鎖延長剤の分子量は750以下が好ましく、より好ましくは50〜500である。前記鎖延長剤は、1分子当たり2個のヒドロキシル基、アミノ基および/またはイミノ基を有するポリオールまたはポリアミン化合物である。鎖延長剤は、官能価を増加させずにブロックドウレタン(C)の分子量を上げるのに有用である。
前記架橋剤および鎖延長剤の具体例としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、[0106]段落に記載の各種の化合物が挙げられる。
(ブロックドウレタン(C)の含有量)
本硬化性樹脂組成物は、(A)成分100質量部に対して、(C)成分を、5質量部〜60質量部含むことが好ましく、5質量部〜50質量部含むことがより好ましく、10質量部〜45質量部含むことがさらに好ましく、20質量部〜40質量部含むことが特に好ましい。(C)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して、(a)5質量部以上である場合、得られる硬化性樹脂組成物は、靭性および伸びの物性に優れる硬化物を提供でき、(b)60質量部以下である場合、得られる硬化性樹脂組成物は、Tgが高く、耐熱性および弾性率(剛性)に優れる硬化物を提供できる。
(C)成分は1種類を単独で用いても良く2種以上を組み合わせて用いても良い。
(2−1−4.ジシアンジアミド(D))
ジシアンジアミド(D)は、エポキシ樹脂硬化剤として機能し得る。ジシアンジアミドは、加熱により活性を示すため、潜在性エポキシ硬化剤ともいえる。本硬化性樹脂組成物は、潜在性硬化剤であるジシアンジアミド(D)を含むため、一液型硬化性樹脂組成物として使用できる。
本発明者は、硬化性樹脂組成物が(B)成分および(C)成分に加えて、さらに(D)成分を含むことにより、当該硬化性樹脂組成物は、伸びの物性に優れ、かつTgの高い硬化物を提供できるという新規知見を得た。より具体的に、本発明者は、数あるエポキシ樹脂硬化剤の中でも、ジシアンジアミドが、硬化性樹脂組成物が提供する硬化物の弾性率および引張強さを低下させることなく、硬化物の伸びの物性を向上させることができる、という新規知見を見出した。
本硬化性樹脂組成物は、(A)成分100質量部に対して、(D)成分を、9.0質量部〜17.0質量部含むことが好ましく、10.0質量部〜16.0質量部含むことがより好ましく、11.0質量部〜15.0質量部含むことがさらに好ましい。(D)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して9.0質量部以上である場合、得られる硬化性樹脂組成物の硬化性が良好となり、かつ、得られる硬化性樹脂組成物は、伸びの物性に優れる硬化物を提供できる。(D)成分の含有量が(A)成分100質量部に対して17.0質量部以下である場合、得られる硬化性樹脂組成物は、Tgが高く、耐熱性および弾性率(剛性)に優れる硬化物を提供できる。
第二の積層体における硬化性樹脂組成物では、(D)成分の含有量は、特に限定されない。第一の積層体における硬化性樹脂組成物は、(A)成分100質量部に対して、(D)成分を、9.0質量部〜17.0質量部含むことが必須である。
エポキシ樹脂硬化剤は、通常、硬化性樹脂組成物を硬化させるのに十分な量で使用される。ジシアンジアミドに関していえば、典型的には、その機械的性質の変化から、ジシアンジアミドの配合量は硬化性樹脂組成物中に存在するエポキシ基1当量に対して0.7当量配合すれば十分であり、0.7当量以上配合した場合であっても、得られる結果は同じである。なお、硬化性樹脂組成物中に存在するエポキシド基は、その大部分が(A)成分由来である。そのため、エポキシド基の消費に必要な量とは、(A)成分の含有量を基準として決定され得る。エポキシ樹脂(A)として、エポキシ当量が186であるビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いる場合(場合G)について説明する。場合Gでは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂100質量部に対して、0.7当量のジシアンジアミドは7.9質量部である。従って、場合Gでは、当業者であれば、通常、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して7.9質量部を超えるジシアンジアミドを使用しない。
本硬化性樹脂組成物は、ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤をさらに含んでいてもよい。
本硬化性樹脂組成物を一成分型組成物(例えば、一液型硬化性樹脂組成物など)として使用する場合(場合E)について説明する。場合Eでは、80℃以上、好ましくは140℃以上の温度まで硬化性樹脂組成物を加熱したとき硬化性樹脂組成物が急速に硬化するように、ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤の種類および量を選択するのが好ましい。換言すれば、場合Eでは、硬化性樹脂組成物が室温(約22℃)および少なくとも50℃までの温度では硬化性樹脂組成物が硬化するとしても非常にゆっくりとなるよう、ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤および後述の(G)成分の種類および量を選択するのが好ましい。
場合Eにおいて、ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤としては、加熱により活性を示す成分(潜在性エポキシ硬化剤と称する場合もある)が使用できる。このような潜在性エポキシ硬化剤としては、特定のアミン系硬化剤(イミン系硬化剤を含む)などの窒素(N)含有硬化剤が使用できる。ジシアンジアミド以外の潜在性エポキシ硬化剤としては、例えば、三塩化ホウ素/アミン錯体、三フッ化ホウ素/アミン錯体、メラミン、ジアリルメラミン、グアナミン(例えば、アセトグアナミンおよびベンゾグアナミン)、アミノトリアゾール(例えば、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール)、ヒドラジド(例えば、アジピン酸ジヒドラジド、ステアリン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、セミカルバジド)、シアノアセトアミド、並びに芳香族ポリアミン(例えば、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなど)が挙げられる。ジシアンジアミド以外の潜在性エポキシ硬化剤としては、接着性に優れることから、イソフタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホンを用いることがより好ましい。
また、ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤のうち、潜在性エポキシ硬化剤としては、酸無水物類およびフェノール類なども使用できる。酸無水物類およびフェノール類などは、アミン系硬化剤と比較して高温を必要とするが、ポットライフが長く、得られる硬化物は電気的特性、化学的特性、機械的特性などの物性バランスが良好となる。酸無水物類としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、[0117]段落に記載の各種の化合物が挙げられる。
本硬化性樹脂組成物を二成分型または多成分型組成物として使用する場合(場合F)について説明する。場合Fでは、ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤として、室温程度の比較的低温で活性を示す硬化剤(室温硬化性硬化剤と称する場合もある)を選択することができる。室温硬化性硬化剤としては、上記以外のアミン系硬化剤(イミン系硬化剤を含む)および/またはメルカプタン系硬化剤などが挙げられる。
室温硬化性硬化剤としては、また、例えば、ポリアミドアミン類、アミン末端ポリエーテル、アミン末端ゴム、変性脂肪族ポリアミン、変性脂環式ポリアミンおよびポリアミドなどのアミン系硬化剤、並びに、WO2016−163491号公報の明細書の[0113]段落に記載の各種の化合物が挙げられる。
ポリエーテル主鎖を含み、1分子あたり平均して、1〜4個(好ましくは1.5〜3個)のアミノ基および/またはイミノ基を有するアミン末端ポリエーテルもまた、室温硬化性硬化剤として使用できる。市販されているアミン末端ポリエーテルとしては、Huntsman社製のJeffamine D−230、Jeffamine D−400、Jeffamine D−2000、Jeffamine D−4000、Jeffamine T−5000、などが挙げられる。
更に、共役ジエン系ポリマー主鎖を含み、1分子あたり平均して、1〜4個(より好ましくは1.5〜3個)のアミノ基および/またはイミノ基を有するアミン末端ゴムもまた、室温硬化性硬化剤として使用できる。ここで、ゴムの主鎖、すなわち共役ジエン系ポリマー主鎖はポリブタジエンのホモポリマーまたはコポリマーが好ましく、ポリブタジエン/アクリロニトリルコポリマーがより好ましく、アクリロニトリルモノマー含量が、5〜40質量%(より好ましくは10〜35質量%、更に好ましくは15〜30質量%)であるポリブタジエン/アクリロニトリルコポリマーが特に好ましい。市販されているアミン末端ゴムとしては、CVC社製のHypro 1300X16 ATBNなどが挙げられる。
室温硬化性硬化剤における上記アミン系硬化剤の中では、ポリアミドアミン類、アミン末端ポリエーテル、および、アミン末端ゴムがより好ましく、ポリアミドアミン類とアミン末端ポリエーテルとアミン末端ゴムとを併用することが特に好ましい。
ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤の中でも、ジシアンジアミド以外の潜在性エポキシ硬化剤は、本硬化性樹脂組成物の一液型硬化性樹脂組成物としての使用を可能にするため好ましい。
ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤は、1種類を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本硬化性樹脂組成物における、ジシアンジアミドとジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤との合計含有量は、(A)成分100質量部に対して、9.0質量部〜80.0質量部が好ましく、10.0質量部〜40.0質量部がより好ましく、11.0質量部〜30.0質量部がさらに好ましく、11.0質量部〜20.0質量部が特に好ましい。ジシアンジアミドとジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤との合計含有量が(A)成分100質量部に対して9.0質量部以上である場合、得られる硬化性樹脂組成物の硬化性が良好となる。ジシアンジアミドとジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤との合計含有量が(A)成分100質量部に対して80質量部以下である場合、(a)得られる硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性が良好となり、得られる硬化性樹脂組成物は取り扱い易くなり、また(b)得られる硬化性樹脂組成物は、Tgが高く、耐熱性および弾性率(剛性)に優れる硬化物を提供できる。
(2−1−5.無機充填材(E))
本硬化性樹脂組成物は、無機充填材(E)を含んでいてもよい。「無機充填材(E)」を、以下、「(E)成分」と称する場合もある。
無機充填材(E)は、当該硬化性樹脂組成物の粘度のせん断速度依存性を改善する(高くする)ことができる。また、本硬化性樹脂組成物が無機充填材(E)をさらに含む場合、当該硬化性樹脂組成物は、接着性に優れる硬化物を提供できる。一方、無機充填材(E)は、硬化性樹脂組成物の硬化物の引張破壊ひずみを低下させ得る。それゆえ、硬化性樹脂組成物の硬化物が伸びの物性に優れることを重要視する場合には、硬化性樹脂組成物における無機充填材(E)は、少ないほど好ましく、硬化性樹脂組成物は無機充填材(E)を含まないことが好ましい。
無機充填材(E)としては、ケイ酸、ケイ酸塩、ドロマイト、補強性充填材、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化チタン、酸化第二鉄、アルミニウム微粉末、酸化亜鉛、活性亜鉛華などが挙げられる。
ケイ酸としては、湿式シリカおよび乾式シリカが挙げられる。
前記乾式シリカはヒュームドシリカとも称される。前記乾式シリカとしては、表面無処理の親水性ヒュームドシリカと、親水性ヒュームドシリカのシラノール基部分にシランおよび/またはシロキサンで化学的に処理することによって製造された疎水性ヒュームドシリカとが挙げられる。前記乾式シリカとしては、(a)作業性に優れることから、親水性ヒュームドシリカが好ましく、(b)(A)成分への分散性に優れ、かつ得られる硬化性樹脂組成物が貯蔵安定性に優れることから、疎水性ヒュームドシリカが好ましい。
乾式シリカの製造方法としては、(a)ハロゲン化ケイ素の分解により製造するアエロジル法、および(b)ケイ砂を加熱して還元した後、空気により酸化してケイ酸を得るアーク法、等が挙げられるが、特に限定はない。乾式シリカの製造方法としては、入手性の点からアエロジル法が好ましい。
疎水性ヒュームドシリカの表面処理剤としては、シランカップリング剤、オクタメチルテトラシクロシロキサン、ポリジメチルシロキサンなどが挙げられる。前記シランカップリング剤としては、ジメチルジクロロシラン、(メタ)アクリルシラン、ヘキサメチルジシラザン、オクチルシラン、ヘキサデシルシラン、アミノシラン、メタクリルシランなどが挙げられる。(A)成分への分散安定性、および得られる硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性に優れることから、ポリジメチルシロキサンで表面処理された疎水性ヒュームドシリカが好ましい。
本硬化性樹脂組成物が無機充填剤として乾式シリカを含む場合、硬化性樹脂組成物の粘度のせん断速度依存性が高くなる。
ケイ酸塩としては、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ウォラストナイト、タルク、などが挙げられる。
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウムおよび膠質炭酸カルシウムなどが挙げられる。
膠質炭酸カルシウムは、一般に、生石灰に水を加えてできた石灰乳に、炭酸ガスを反応させて製造され得る。膠質炭酸カルシウムは、均一な粒子の炭酸カルシウムであり、「沈降炭酸カルシウム」、「コロイド炭酸カルシウム」、あるいは、「合成炭酸カルシウム」と呼ばれる場合もある。
経済性の観点から、無機充填材(E)は、炭酸カルシウムを含有することが好ましい。
無機充填材(E)は、表面処理剤により表面処理されていることが好ましい。表面処理により無機充填材(E)の硬化性樹脂組成物への分散性が向上し、その結果、得られる硬化物の各種物性が向上する。
無機充填剤(E)の表面処理剤としては、例えば、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸などの脂肪酸、樹脂酸、およびシランカップリング剤などが挙げられる。
硬化性樹脂組成物100質量%中の無機充填材(E)の含有量は、0.1質量%〜15.0質量%であることが好ましく、0.5質量%〜10.0質量%であることがより好ましく、1.0質量%〜5.0質量%であることがさらに好ましい。硬化性樹脂組成物100質量%中の無機充填材(E)の含有量が0.1質量%以上である場合、硬化性樹脂組成物は接着性に優れる硬化物を提供できる。硬化性樹脂組成物100質量%中の無機充填材(E)の含有量が15.0質量%以下である場合、無機充填材(E)に起因する伸びの物性の低下が顕著とならず、硬化性樹脂組成物は伸びの物性に優れる硬化物を提供できる。
無機充填材(E)は1種類を単独で用いても良く2種以上を組み合わせて用いても良い。
(酸化カルシウム)
本硬化性樹脂組成物は、無機充填材(E)として酸化カルシウムを含んでいてもよい。本硬化性樹脂組成物が無機充填材(E)として酸化カルシウムを含む場合、当該酸化カルシウムは、硬化性樹脂組成物中の水分との反応により硬化性樹脂組成物から水分を除去し、水分の存在により引き起こされる種々の物性上の問題を解決できる。酸化カルシウムは、例えば、水分除去による気泡防止剤として機能し、得られる硬化物の接着強度の低下を抑制できる。
酸化カルシウムは、表面処理剤により表面処理されることが可能である。表面処理により酸化カルシウムの硬化性樹脂組成物への分散性が向上する。その結果、表面処理された酸化カルシウムを使用する場合、表面処理を施していない酸化カルシウムを使用する場合と比較して、得られる硬化物の接着強度などの物性が向上する。表面処理された酸化カルシウムは、特に、得られる硬化物のT字剥離接着性、耐衝撃剥離接着性を顕著に改善し得る。酸化カルシウムの表面処理にもちられ得る表面処理剤は、特に制限はないが、脂肪酸が好ましい。
本硬化性樹脂組成物が無機充填材(E)として酸化カルシウムを含む場合、硬化性樹脂組成物における酸化カルシウムの含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部が好ましく、0.2〜5質量部がより好ましく、0.5質量部〜3質量部が更に好ましく、1質量部〜2質量部が特に好ましい。酸化カルシウムの含有量が、(A)成分100質量部に対して、(a)0.1質量部以上である場合、水分除去効果が十分となり、(b)10質量部以下である場合、得られる硬化物の強度が低くなる虞がない。
酸化カルシウムは1種類を単独で用いても良く2種以上を組み合わせて用いても良い。
本硬化性樹脂組成物は、酸化カルシウム以外の脱水剤を使用することができる。酸化カルシウム以外の脱水剤としては、例えば、WO2014−196607号公報の明細書の、[0155]段落に記載の各種の化合物が挙げられる。
(2−1−6.硬化促進剤(F))
本発明の一実施形態では、必要に応じて硬化促進剤(F)を使用することができる。「硬化促進剤(F)」を、以下、「(F)成分」と称する場合もある。
(F)成分は、(A)成分中のエポキシ基と、エポキシ樹脂硬化剤および硬化性樹脂組成物中のエポキシ樹脂硬化剤以外の成分に含まれるエポキシド反応性基と、の反応を促進するための触媒である。
(F)成分としては、例えば、(a)p−クロロフェニル−N,N−ジメチル尿素(商品名:Monuron)、3−フェニル−1,1−ジメチル尿素(商品名:Fenuron)、3,4−ジクロロフェニル−N,N−ジメチル尿素(商品名:Diuron)、N−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−N’,N’−ジメチル尿素(商品名:Chlortoluron)、1,1−ジメチルフェニルウレア(商品名:Dyhard)などの尿素類;(b)ベンジルジメチルアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、ポリ(p−ビニルフェノール)マトリックスに組み込まれた2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルピペリジンなどの三級アミン類;(c)C1−C12アルキレンイミダゾール、N−アリールイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−2−メチルイミダゾール、N−ブチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウム・トリメリテート、エポキシ樹脂とイミダゾールとの付加生成物、などのイミダゾール類;(d)6−カプロラクタムなどが挙げられる。触媒は封入されていてもよく、あるいは、温度を上げた場合にのみ活性となる潜在的な触媒であってもよい。
なお、三級アミン類およびイミダゾール類は、ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤(例えば、室温硬化性硬化剤)のアミン系硬化剤と併用することにより、硬化速度並びに得られる硬化物の物性および耐熱性などを向上させることができる。
(F)成分は、1種類を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、更に、硬化促進剤(F)0.1〜10.0質量部を含有することが好ましく、0.2〜5.0質量部を含有することがより好ましく、0.5〜3.0質量部を含有することがさらに好ましく、0.8〜2.0質量部を含有することが特に好ましい。(F)成分の含有量が、(A)成分100質量部に対して、(a)0.1質量部以上である場合、得られる硬化性樹脂組成物の硬化性が良好となり、(b)10.0質量部以下である場合、得られる硬化性樹脂組成物の貯蔵安定性が良好となり、得られる硬化性樹脂組成物は取り扱い易くなる。
(2−1−7.その他の配合成分)
本発明の一実施形態では、必要に応じて、その他の配合成分を使用することができる。その他の配合成分としては、ラジカル硬化性樹脂、モノエポキシド、光重合開始剤、有機質充填材、顔料、難燃剤、分散剤、消泡剤、可塑剤、溶剤、粘着性付与剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミネート系カップリング剤、離型剤、帯電防止剤、滑剤、低収縮剤、アゾタイプ化学的発泡剤および熱膨張性マイクロバルーンなどの膨張剤、アラミド系パルプなどの繊維パルプ、並びに、熱可塑性樹脂、などが挙げられる。
ラジカル硬化性樹脂、モノエポキシドおよび光重合開始剤の具体例としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、それぞれ、[0143]〜[0144]、[0146]、[0148]の各段落に記載の各種の化合物が挙げられる。顔料、難燃剤、分散剤、消泡剤、可塑剤、溶剤、粘着性付与剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤およびシランカップリング剤の具体例としては、例えば、WO2014−196607号公報の明細書の、それぞれ、[0124]、[0126]〜[0127]、[0129]〜[0130]、[0132]、[0134]、[0136]、[0139]、[0141]、[0143]、[0147]、[0149]、[0151]、[0153]の各段落に記載の各種の化合物が挙げられる。
本硬化性樹脂組成物は、その他の配合成分として、ゴム変性エポキシ樹脂、および/または、ウレタン変性エポキシ樹脂を含んでいてもよい。本硬化性樹脂組成物が、ゴム変性エポキシ樹脂、および/または、ウレタン変性エポキシ樹脂を含む場合、当該硬化性樹脂組成物は、靭性、耐衝撃性、せん断接着性および剥離接着性などの性能にさらに優れる硬化物を提供できる。ゴム変性エポキシ樹脂、および/または、ウレタン変性エポキシ樹脂は、強化剤ともいえる。
前記強化剤は、1種類を単独で用いても良く2種以上を併用しても良い。
ゴム変性エポキシ樹脂としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、[0124]〜[0132]段落に記載の樹脂を使用することができる。
ウレタン変性エポキシ樹脂としては、例えば、WO2016−163491号公報の明細書の、[0133]〜[0135]段落に記載の樹脂を使用することができる。
(2−1−8.硬化性樹脂組成物の製造方法)
本硬化性樹脂組成物は、(A)成分を主成分とする硬化性樹脂中に、ポリマー微粒子(B)を含有する組成物を含み、好ましくは、ポリマー微粒子(B)が(A)成分中に1次粒子の状態で分散した組成物を含む。「ポリマー微粒子(B)が(A)成分中に1次粒子の状態で分散した組成物」を、以下、「ポリマー微粒子組成物」と称する場合もある。
ポリマー微粒子組成物を得る方法は、種々の方法が利用できる。当該方法としては、例えば、(a)水性ラテックス状態で得られたポリマー微粒子(B)を(A)成分と接触させた後、混合物から水などの不要な成分を除去する方法、および(b)ポリマー微粒子(B)を一旦有機溶剤に抽出後に、抽出されたポリマー微粒子(B)を(A)成分と混合してから、混合物から有機溶剤を除去する方法、などが挙げられる。当該方法としては、WO2005/028546号公報に記載の方法を利用することが好ましい。
ポリマー微粒子組成物の具体的な製造方法としては、順に、(1)ポリマー微粒子(B)を含有する水性ラテックス(詳細には、乳化重合によってポリマー微粒子(B)を製造した後の反応混合物)を、20℃における水に対する溶解度が5質量%以上40質量%以下の有機溶媒と混合した後、得られる混合物をさらに過剰の水と混合して、ポリマー微粒子(B)を凝集させる第1工程と、(2)凝集させたポリマー微粒子(B)を液相から分離および回収した後、ポリマー微粒子(B)を再度有機溶媒と混合して、ポリマー微粒子(B)が分散している有機溶媒溶液を得る第2工程と、(3)得られる有機溶媒溶液をさらに(A)成分と混合した後、混合物から前記有機溶媒を留去する第3工程と、を含む方法が挙げられる。ポリマー微粒子組成物は、当該方法によって調製されることが好ましい。
前記第3工程が容易となる為、(A)成分は、23℃で液状であることが、好ましい。「23℃で液状である」とは、軟化点が23℃以下であることを意味し、23℃で流動性を示すものである。
ポリマー微粒子組成物は、上記の工程(第1工程〜第3工程)を含む方法以外の方法により、製造することもできる。例えば、粉体状のポリマー微粒子(B)を経る方法である。具体的には、まず、ポリマー微粒子(B)を含む水性ラテックスを用いて、塩析などの方法によりポリマー微粒子(B)を凝固させた後に、得られる凝固物を乾燥させることにより、粉体状のポリマー微粒子(B)を得る。当該粉体状のポリマー微粒子(B)を、3本ペイントロール、ロールミル、ニーダーなどの高い機械的せん断力を有する分散機を用いて(A)成分中に再分散させることにより、ポリマー微粒子組成物を製造することも可能である。このとき、(A)成分および(B)成分の混合物に対して、高温で機械的せん断力を与えることにより、効率良く、(A)成分中に(B)成分を分散させることができる。分散させるときの温度(せん断力を与えるときの温度)は、50〜200℃が好ましく、70〜170℃がより好ましく、80〜150℃が更に好ましく、90〜120℃が特に好ましい。分散させるときの温度が、(a)50℃以上である場合、十分に(B)成分が分散することができ、(b)200℃以下である場合、(A)成分および(B)成分が熱劣化する虞がない。
上述の方法により得られたポリマー微粒子組成物に、更に(C)成分および(D)成分を添加し、混合する事により、ポリマー微粒子(B)が(A)成分中に1次粒子の状態で分散している本硬化性樹脂組成物が得られる。本硬化性樹脂組成物の製造において、ポリマー微粒子組成物に、(A)成分を必要により更に添加し、混合してもよい。また、本硬化性樹脂組成物の製造において、ポリマー微粒子組成物に、ジシアンジアミド以外のエポキシ樹脂硬化剤、(E)成分、(F)成分、および、前記その他配合成分の各成分を、必要により更に添加し、混合してもよい。
(2−1−9.硬化性樹脂組成物の用途)
本硬化性樹脂組成物は、一液型硬化性樹脂組成物として使用することができる。上述した本硬化性樹脂組成物を含む一液型硬化性樹脂組成物もまた、本発明の一実施形態といえる。一液型硬化性樹脂組成物とは、(i)すべての配合成分を予め配合した後、硬化させることなく密封保存することができ、かつ(ii)硬化性樹脂組成物を塗布後、加熱および/または光照射により硬化する硬化性樹脂組成物を意味する。
また、本硬化性樹脂組成物は、二液型または多液型の硬化性樹脂組成物として使用することもできる。すなわち、(i)主成分として(A)成分、(B)成分および(C)成分を含有するA液を調製し、かつ(ii)(D)成分と、任意で(E)成分および/または(F)成分とを含有し、さらに必要に応じて(B)成分および/または(C)成分を含有するB液を、A液と別途調製しておき、(iii)当該A液と当該B液とを使用前に混合して、使用することもできる。A液とB液とは、少なくとも1種ずつ調製されればよく、いずれか一方または両方の液が複数種調製されてもよい。また、(B)成分および(C)成分は、それぞれA液またはB液のどちらか少なくとも一方に含まれていればよい。(B)成分および(C)成分は、それぞれ、例えば、A液にのみまたはB液にのみ含まれていてもよく、A液およびB液の両方に含まれていてもよい。
本硬化性樹脂組成物は、貯蔵安定性に優れる為に、一液型硬化性樹脂組成物として使用した場合に、特に有益である。本硬化性樹脂組成物は、取扱い性に優れることから、一液型硬化性樹脂組成物であることが好ましい。
本硬化性樹脂組成物は、接着剤として有用である。本硬化性樹脂組成物は低温(−20℃程度)から常温のみならず、高温(80℃程度)においても接着性能および柔軟性に優れる。また、本硬化性樹脂組成物は、伸びの物性に優れ、かつTgの高い硬化物を提供できる。従って、本硬化性樹脂組成物は、より好ましくは構造接着剤として、さらに好ましくは線膨張係数のことなる異種被着体用の構造接着剤として、用いることができる。上述した硬化性樹脂組成物を含む接着剤、および構造接着剤も、本発明の一実施形態といえる。
(2−2.硬化物)
本積層体は、本硬化性樹脂組成物からなる硬化物を有する。本積層体において、線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体は、硬化物を介して接着されているため、硬化物は接着層ともいえる。本積層体における硬化物、すなわち本硬化性樹脂組成物からなる硬化物もまた、本発明の一実施形態といえる。
本発明の一実施形態に係る硬化物は、上述した本硬化性樹脂組成物からなるため、(a)表面美麗であり、(b)Tgが高いため、高剛性および高弾性率を有し、かつ(c)靱性、接着性(特に耐衝撃剥離接着性)および伸びの物性に優れるものである。
本発明の一実施形態に係る硬化物は、Tg(℃)が、109℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、112℃以上がより好ましく、113℃以上がより好ましく、115℃以上がさらに好ましく、117℃以上がよりさらに好ましく、120℃以上が特に好ましい。当該構成によると、硬化物は、より高い剛性およびより高い弾性率を有する。
本発明の一実施形態に係る硬化物は、引張強さ(MPa)が、31.0MPa以上が好ましく、31.5MPa以上がより好ましく、32.0MPaがより好ましく、32.5MPa以上がより好ましく、33.0MPaがさらに好ましく、34.0MPaがよりさらに好ましく、35.0MPaが特に好ましい。当該構成によると、得られる硬化物を含む積層体の接合強度(接着強度)が高いという利点を有する。
本発明の一実施形態に係る硬化物は、引張破壊ひずみ(%)が、20.5%以上が好ましく、21.0%以上がより好ましく、23.0%以上がより好ましく、24.0%以上がより好ましく、25.0%以上がより好ましく、28.0%以上がより好ましく、30.0%以上がより好ましく、33.0%以上がより好ましく、35.0%以上がさらに好ましく、38.0%以上がよりさらに好ましく、40.0%以上が特に好ましい。当該構成によると、硬化物は、より伸びに優れる。
本発明の一実施形態に係る硬化物は、引張弾性率(GPa)が、1.1GPa以上が好ましく、1.2GPa以上がより好ましく、1.3GPa以上がさらに好ましく、1.4GPa以上が特に好ましい。当該構成によると、得られる硬化物を含む積層体の接合剛性(接着剛性)が高いという利点を有する。
本明細書において、本発明の一実施形態に係る硬化物における引張強さ、引張破壊ひずみおよび引張弾性率は、それぞれ、JIS K 7113に準拠した方法により得られる値とする。
本発明の一実施形態に係る硬化物の製造方法としては、下記〔3.積層体の製造方法〕の項に記載の方法が挙げられる。
(2−3.被着体)
本積層体は、線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体を有する。換言すれば、本硬化性樹脂組成物を使用して、線膨張係数の異なる様々な被着体を接着し、様々な積層体を製造することができる。「被着体」は、「基板」または「接着基板」と称される場合もある。被着体の形状としては、典型的には板状であるが、これに限定されない。
被着体としては、例えば、木材、金属、プラスチック、ガラスなどを挙げることができる。被着体は、より具体的には、(i)冷間圧延鋼および溶融亜鉛メッキ鋼などの鋼材、(ii)アルミニウムおよび被覆アルミニウムなどのアルミニウム材、並びに(iii)汎用プラスチック、エンジニアリングプラスチック、CFRPおよびGFRP等の複合材料等の各種のプラスチック系材料(基板)、などが挙げられる。
鋼材(鋼板)の線膨張係数は約12×10−6/Kであり、マグネシウム材の線膨張係数は約26×10−6/Kであり、アルミニウム材(アルミニウム板)の線膨張係数は約23×10−6/Kであり、CFRPの線膨張係数は約0/K〜5×10−6/Kである。
本硬化性樹脂組成物は、伸びの物性および靭性に優れる為に、線膨張係数の異なる異種被着体間の接合(接着)に好適に利用できる。線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体の組み合わせとしては、鋼材およびマグネシウム材、鋼材およびアルミニウム材、鋼材およびCFRP、CFRPおよびマグネシウム材、CFRPおよびアルミニウム材、アルミニウム材およびマグネシウム材、などが好適に挙げられる。また、高張力鋼および一般の圧延鋼材も線膨張係数が異なる場合がある。本硬化性樹脂組成物は、高張力鋼および一般の圧延鋼材の接合にも好適に利用できる。また、一般鋼、炭素鋼、高張力鋼、強靭鋼、超強力鋼、耐食鋼、合金鋼、など、線膨張係数差が小さい被着体間の接合にも、本硬化性樹脂組成物は好適に利用できる。本案文中、用語「接合」と「接着」とは同義であり、相互置換可能である。
本発明の一実施形態において、積層体に含まれる少なくとも2つの被着体の線膨張係数の差の絶対値は、1×10−6以上であってもよく、3×10−6以上であってもよく、5×10−6以上であってもよく、7×10−6以上であってもよく、8×10−6以上であってもよく、9×10−6以上であってもよく、10×10−6以上であってもよく、11×10−6以上であってもよく、12×10−6以上であってもよく、13×10−6以上であってもよく、14×10−6以上であってもよく、16×10−6以上であってもよく、18×10−6以上であってもよく、20×10−6以上であってもよく、22×10−6以上であってもよく、24×10−6以上であってもよい。当該構成のように、少なくとも2つの被着体の線膨張係数が大きく異なる場合であっても、本硬化性樹脂組成物を使用することにより、当該2つの被着体を接着させてなる積層体を得ることができる。
また、被着体としては、航空宇宙用の構成材、特に、外装金属構成材も好適に挙げられる。
(2−4.積層体)
本硬化性樹脂組成物は、接着性に優れる。その為、鋼材、アルミニウム材およびCFRPなど線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体の間に、本硬化性樹脂組成物からなる硬化物が積層されてなる積層体は、高い接着強度を示す、という利点を有する。本積層体は、鋼材、アルミニウム材およびCFRPなど線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体が、本硬化性樹脂組成物からなる硬化物によって接着されてなる積層体、ともいえる。積層体は、構造物ともいえる。
〔3.積層体の製造方法〕
本発明の一実施形態は、第一の積層体の製造方法を提供する。第一の積層体の製造方法は、硬化性樹脂組成物を第一の被着体に塗布し、第二の被着体を第一の被着体と貼り合わせる貼り合わせ工程と、硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、を備える。第一の積層体の製造方法では、第一の被着体と前記第二の被着体とは線膨張係数が異なる。第一の積層体の製造方法では、硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、並びに、エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、ポリマー微粒子(B)1質量部〜100質量部、ブロックドウレタン(C)5質量部〜50質量部、およびジシアンジアミド(D)9.0質量部〜17.0質量部を含有する。第一の積層体の製造方法では、ポリマー微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含む。
第一の積層体の製造方法は、前記〔2.硬化性樹脂組成物〕の項に記載の第一の積層体を製造するために好適に用いられ得る。
第一の積層体の製造方法は、前記構成を有するため、特に、硬化性樹脂組成物が(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を各々特定量含有するため、伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度(Tg)の高い硬化物を含む積層体を提供できる、という利点を有する。
本発明の別の一実施形態は、第二の積層体の製造方法を提供する。第二の積層体の製造方法は、硬化性樹脂組成物を第一の被着体に塗布し、第二の被着体を第一の被着体と貼り合わせる貼り合わせ工程と、硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、を備える。第二の積層体の製造方法では、第一の被着体と前記第二の被着体とは線膨張係数が異なる。第二の積層体の製造方法では、硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、ポリマー微粒子(B)、ブロックドウレタン(C)、およびジシアンジアミド(D)を含有する。第二の積層体の製造方法では、ポリマー微粒子(B)は、弾性体と、当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部と、を有するゴム含有グラフト共重合体を含む。第二の積層体の製造方法では、硬化物のガラス転移温度(Tg)は110℃以上であり、JIS K 7113に準拠した方法により得られる前記硬化物の引張破壊ひずみは23.0%以上である。
第二の積層体の製造方法は、前記〔2.硬化性樹脂組成物〕の項に記載の第二の積層体を製造するために好適に用いられ得る。
第二の積層体の製造方法は、前記構成を有するため、特に、硬化性樹脂組成物が(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分を含有し、かつ、硬化物が特定の物性を有するため、伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度(Tg)の高い硬化物を含む積層体を提供できる、という利点を有する。第二の積層体の製造方法では、硬化物が特定の物性を有する限り、硬化性樹脂組成物における(A)成分、(B)成分、(C)成分および(D)成分の各々の含有量は特に限定されず、適宜設定され得る。
第一の積層体の製造方法および第二の積層体の製造方法は、どちらも本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法である。「本発明の一実施形態に係る積層体の製造方法」を、「本製造方法」と称する場合もある。
本硬化性樹脂組成物では、ポリマー微粒子(B)が(A)成分中に一次粒子の状態で均一に分散している。そのため、当該硬化性樹脂組成物を硬化することによって、ポリマー微粒子(B)が均一に分散した硬化物を容易に得ることができる。また、本硬化性樹脂組成物では、ポリマー微粒子(B)が膨潤し難く、硬化性樹脂組成物の粘性が低い。そのため、硬化物を作業性よく得ることができる。換言すれば、本硬化性樹脂組成物を用いることにより、作業性良く被着体を接着させることができ、すなわち作業性の良い積層体の製造方法を提供できる。
以下、本製造方法に関する各工程について説明するが、以下に詳説した事項以外は、適宜、〔2.硬化性樹脂組成物〕の記載を援用する。
(3−1.貼り合わせ工程)
貼り合わせ工程は、硬化性樹脂組成物を第一の被着体に塗布した後、第二の被着体を前記第一の被着体と、貼り合わせる工程である。第一の積層体の製造方法および第二の積層体の製造方法のそれぞれの貼り合わせ工程において、使用する硬化性樹脂組成物の組成が異なる場合もあるが、使用する硬化性樹脂組成物以外の態様は同一である。
貼り合わせ工程では、第一の被着体に塗布した硬化性樹脂組成物を、第一の被着体と第二の被着体とで挟むように、第一の被着体第一の被着体とを貼り合せる。また、このとき、第一の被着体と第二の被着体とで挟まれた硬化性樹脂組成物は、第一の被着体および/または第二の被着体からはみ出してもよい。また、硬化性樹脂組成物は、第一の被着体への塗布に加えて、必要に応じて、第二の被着体に塗布されてもよい。
本硬化性樹脂組成物は、任意の方法によって塗布可能である。
本硬化性樹脂組成物は、塗布ロボットを使用してビード状、モノフィラメント状またはスワール(swirl)状に基板上へ押出して塗布することもでき、コーキングガン等の機械的な塗布方法および他の手動塗布手段を用いることもできる。また、ジェットスプレー法またはストリーミング法を用いて硬化性樹脂組成物を基板へ塗布することもできる。
なお、本硬化性樹脂組成物の粘度は、特に限定されず、塗布方法によって適宜設定され得る。本硬化性樹脂組成物の粘度は、(a)押出しビード法では、45℃で150〜600Pa・s程度が好ましく、(b)渦巻き(swirl)塗布法では、45℃で100Pa・s程度が好ましく、(c)高速度流動装置を用いた高体積塗布法では、45℃で20〜400Pa・s程度が好ましい。
貼り合わせ工程において、第一の被着体に塗布される硬化性樹脂組成物の温度を、「第一の温度」とも称する。貼り合わせ工程では、硬化性樹脂組成物を第一の温度に加温して第一の被着体に塗布してもよい。
第一の温度は、室温であってもよい。第一の温度は、室温よりも高いことが好ましい。本明細書において、「室温」とは、通常、5℃〜45℃であり、好ましくは10℃〜40℃であり、より好ましくは15℃〜34℃であり、最も好ましくは20℃〜30℃である。
貼り合わせ工程において、第一の温度(第一の被着体に塗布される硬化性樹脂組成物の温度)は、例えば、35℃〜80℃であることが好ましく、40℃〜70℃であることがより好ましく、45℃〜60℃であることが特に好ましい。第一の温度が、(a)35℃以上である場合、硬化性樹脂組成物の粘度が低くなるため、塗布作業が容易となる利点を有し、(b)80℃以下である場合、エポキシ化合物の一部が反応し始めて粘度が高くなる虞が無く、塗布作業が容易となる利点を有する。
第一の被着体に塗布された硬化性樹脂組成物の厚さを、「第一の厚さ」とも称する。貼り合わせ工程では、硬化性樹脂組成物を第一の被着体に第一の厚さで塗布するともいえる。
第一の厚さは、例えば、0.5mm〜10mmが好ましく、1mm〜7mmがより好ましく、1.5mm〜5mmがさらに好ましく、2mm〜4mmが特に好ましい。
貼り合わせ工程において、第一の被着体に第一の厚さで塗布された硬化性樹脂組成物は、第一の被着体と第二の被着体とを貼り合せるとき、第一の厚さよりも薄く、引き伸ばされてもよい。引き伸ばされた後の硬化性樹脂組成物の厚さを、「第二の厚さ」とも称する。
第二の厚さは、第一の厚さより薄い限り、特に限定されない。第二の厚さは、例えば、0.001mm〜5mmが好ましく、0.01mm〜1mmがより好ましく、0.1mm〜0.3mmが特に好ましい。
貼り合わせ工程において、第一の厚さで塗布された硬化性樹脂組成物を第二の厚さまで引き伸ばす具体的な方法は、特に限定されない。当該方法としては、例えば、(i)第一の厚さで塗布された硬化性樹脂組成物をヘラ等を用いて、第二の厚さまで引き伸ばす方法、および(ii)硬化性樹脂組成物が塗布された第一の被着体に第二の被着体を貼り合わせるとき、硬化性樹脂組成物を間に挟んだ状態でこれら2つの被着体を近づけることにより、第一の厚さで塗布された硬化性樹脂組成物を第二の厚さまで2つの被着体により押し広げて引き伸ばす方法、等が挙げられる。
貼り合わせ工程を行うときの環境温度(室温)を、「第二の温度」とも称する。
第二の温度は、第一の温度より低いことが好ましい。第二の温度は、室温であってもよい。
第二の温度は、例えば、0℃〜34℃であることが好ましく、5℃〜30℃であることがより好ましく、10℃〜25℃であることが特に好ましい。第二の温度が、(a)0℃以上である場合、硬化性樹脂組成物の粘度が低くなるため、第二の厚さまで引き伸ばす作業が容易となる利点を有し、(b)34℃以下である場合、硬化性樹脂組成物を長期保管した場合の貯蔵安定性が悪くなる虞が無い。
貼り合わせ工程は、第一の厚さで塗布された硬化性樹脂組成物を第二の温度の環境下にて第二の厚さまで引き伸ばす工程を、さらに有していてもよい。
(3−2.硬化工程)
硬化工程は、貼り合せた2つの前記被着体に挟まれた前記硬化性樹脂組成物を硬化させる工程である。硬化工程によって、2つの被着体が硬化性樹脂組成物により接着された積層体、換言すれば、線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体の間に硬化性樹脂組成物からなる硬化物が積層されてなる積層体を得ることができる。第一の積層体の製造方法および第二の積層体の製造方法のそれぞれの硬化工程において、使用する硬化性樹脂組成物の組成および得られる硬化物の物性が異なる場合もあるが、使用する硬化性樹脂組成物の組成および得られる硬化物の物性以外の態様は同一である。
硬化工程では、硬化性樹脂組成物を加熱することにより、硬化性樹脂組成物を硬化させることができる。
(硬化温度)
硬化工程において、硬化性樹脂組成物の加熱温度、を硬化温度とも称する。硬化温度は、加熱された硬化性樹脂組成物が呈する温度、または硬化性樹脂組成物を硬化するときの硬化性樹脂組成物の温度、ともいえる。硬化工程において、本硬化性樹脂組成物の硬化温度は、特に限定はない。硬化工程において、本硬化性樹脂組成物の硬化温度は、50℃〜250℃であることが好ましく、80℃〜220℃であることがより好ましく、100℃〜200℃であることが更に好ましく、130℃〜180℃であることが特に好ましい。硬化温度が50℃以上である場合、硬化性樹脂組成物を一液型硬化性樹脂組成物として使用するときの、貯蔵安定性と硬化性とのバランスが良好となる。硬化温度が250℃以下である場合、得られる積層体の接着物性が良好となる。
線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体を用いる積層体の製造では、線膨張係数差に起因して、これら2つの被着体間に寸法差が生じる。かかる寸法差は高温下でより顕著となる。線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体を用い、かつ従来の硬化性樹脂組成物を用いる積層体の製造では、50℃〜250℃という高温で硬化工程を行う場合、上述した寸法差に起因して、良好な接着物性を有する積層体を得ることができなかった。本硬化性樹脂組成物は上述した構成を有する。そのため、線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体を用い、かつ本硬化性樹脂組成物を用いる積層体の製造では、50℃〜250℃という高温で硬化工程を行う場合であっても、良好な接着物性を有する積層体を得ることができる。
(3−3.洗浄工程)
本製造方法は、貼り合わせ工程にて得られた貼り合わせ体を洗浄する、洗浄工程をさらに有していてもよい。
洗浄工程において、貼り合わせ体を洗浄する洗浄液としては特に限定されない。洗浄液としては、水、酸またはアルカリを含む水溶液などが好ましく例示できる。
洗浄液の温度としては特に限定されない。洗浄液の温度としては、20℃〜80℃であってもよく、30℃〜70℃がより好ましく、40℃〜60℃であってもよい。洗浄液の温度が高温であるほど、(a)高い洗浄効果を得ることができ、(b)塗布された硬化性樹脂組成物の飛散および変形の虞が増加する。従って、洗浄効果と硬化性樹脂組成物の飛散および変形とのバランスを考慮して、洗浄液の温度を適宜決定することができる。本硬化性樹脂組成物は、粘度の温度依存性が小さく、かつ、高温下においても粘度が高いという利点を有する。そのため、本製造方法では、従来の硬化性樹脂組成物を使用する場合と比較して、より高温の洗浄液を使用することができる。
貼り合わせ体の洗浄方法は、特に限定されず、洗浄液に貼り合わせ体を浸漬する方法、および洗浄液を貼り合わせ体に貼り合せ体に噴霧する(シャワーする)方法などが挙げられる。
洗浄液を貼り合わせ体に噴霧するときの洗浄液の圧力としては特に限定されない。洗浄液の圧力(水圧)としては、0.1MPa〜1.0MPaであってもよく、0.1MPa〜0.5MPaであってもよく、0.2MPa〜0.4MPaであってもよい。洗浄液の圧力が高圧であるほど、(a)高い洗浄効果を得ることができ、(b)塗布された硬化性樹脂組成物の飛散および変形の虞が増加する。従って、洗浄効果と硬化性樹脂組成物の飛散および変形とのバランスを考慮して、洗浄液の圧力を適宜決定することができる。本硬化性樹脂組成物は、粘度のせん断速度依存性が高く、かつ、Yield Stressの値が高いという利点を有する。そのため、本製造方法では、従来の硬化性樹脂組成物を使用する場合と比較して、洗浄液をより高圧な条件にて被着体に噴霧して使用することができる。
洗浄工程において、洗浄される、すなわち洗い落とされる対象は特に限定されない。洗浄工程において、洗い落とされる対象としては、例えば被着体の原料に予め塗布された防錆油などが挙げられる。
(3−4.塗料塗布工程)
本製造方法は、貼り合わせ体に塗料を塗布する塗料塗布工程を、さらに有していてもよい。塗布工程は、任意の段階で実施することができる。塗布工程は、好ましくは、洗浄工程の後であり、かつ、硬化工程の前に実施されることが好ましい。塗布工程が、洗浄工程の後に実施される場合、塗布性が良好となる利点を有する。塗布液が硬化性樹脂を含み、かつ、塗布工程が硬化工程の前に実施される場合、硬化性樹脂組成物の硬化と同時に、塗料を硬化させることができる。
塗料としては特に限定されないが、例えば以下のようなものが挙げられる:錆び防止剤、顔料、つや消し剤、光沢付与剤および反射防止剤など。
〔4.用途〕
本発明の一実施形態に係る積層体(構造物)としては、例えば、自動車および車両(新幹線、電車など)、航空機、宇宙船、宇宙ステーション、建築物、建造物、木工建造物、電気関連施設、風力発電所、電気関連部材、電子関連部材、エレクトロニクス関連施設、エレクトロニクス関連部材、などを挙げることができる。自動車関連の用途としては、天井、ドア、シートなどの内装材、および、ランプなどの自動車照明灯具、サイドモールなどの外装材などを挙げることができる。
以下、実施例および比較例によって本発明の一実施形態をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明の一実施形態は、前記および後記の趣旨に適合し得る範囲で、下記実施例を適宜変更して実施することが可能である。下記実施例を適宜変更して実施される実施形態は、いずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお下記実施例、比較例および表において、「部」および「%」とあるのは、それぞれ、質量部および質量%を意味する。
(測定方法および評価方法)
先ず、各物性の測定方法および評価方法について、以下に説明する。
[1]体積平均粒子径の測定
水性ラテックスに分散しているポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径(Mv)は、マイクロトラックUPA150(日機装株式会社製)を用いて測定した。脱イオン水で水性ラテックスを希釈したものを測定試料として用いた。測定は、水の屈折率、およびそれぞれの製造例で得られたポリマー微粒子(B)の屈折率を入力し、計測時間600秒、Signal Levelが0.6〜0.8の範囲内になるように試料濃度を調整して行った。
[2]ダンベル引張物性の測定
実施例および比較例で得られた各硬化性樹脂組成物を、厚み3mmのスペーサーを挟んだ2枚のガラス板の間に注ぎ込んだ。得られた硬化性樹脂組成物を含むガラス板を、所定の温度(硬化温度)の熱風オーブン中に1時間放置し、硬化性樹脂組成物を硬化させ、厚み3mmの板状の硬化物を得た。ここで、実施例1〜9および比較例1〜6で得られた各硬化性樹脂組成物は、熱風オーブンの温度、すなわち硬化温度を170℃とした(表1および2)。他方、実施例10〜12で得られた各硬化性樹脂組成物は、熱風オーブンの温度、すなわち硬化温度を180℃とした(表3)。得られた硬化物を、JIS K 7113 1号型試験片の形状に切削し試験片を得た。得られた試験片を用いて、JIS K 7113に従って引張試験を行い、引張強さ、引張破壊ひずみ、引張弾性率を得た。試験条件は、チャック間距離:115mm、標線間距離:50mm、測定温度:23℃、テストスピード:5mm/min、とした。
[3]ガラス転移温度(Tg)の測定
実施例および比較例で得られた各硬化性樹脂組成物を、170℃または180℃で1時間硬化させて硬化物を得た。得られた硬化物を用いて、動的粘弾性測定機を使用し、4℃/分で昇温してtanδ曲線を得た。得られたtanδ曲線のピーク温度をガラス転移温度(Tg)とした。
(1.弾性体の形成)
(製造例1−1;ポリブタジエンゴムラテックス(R−1)の調製)
容積100Lの耐圧重合機中に、脱イオン水200質量部、リン酸三カリウム0.03質量部、リン酸二水素カリウム0.25質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002質量部、硫酸第一鉄・7水和塩(FE)0.001質量部および乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)1.5質量部を投入した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、ブタジエン(BD)100質量部を耐圧重合器内に投入し、耐圧重合器内の温度を45℃に昇温した。その後、パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.015質量部を耐圧重合器内に投入し、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.04質量部を耐圧重合器内に投入し、重合を開始した。重合開始から10時間目に、減圧下にて脱揮して、重合に使用されずに残存したモノマーを脱揮除去することにより、重合を終了した。重合中、PHP、EDTAおよびFEのそれぞれを、任意の量および任意の時宜で耐圧重合器内に添加した。当該重合により、ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体(ポリブタジエンゴム粒子)を含むラテックス(R−1)を得た。得られたラテックスに含まれるポリブタジエンゴム粒子の体積平均粒子径は0.10μmであった。
(製造例1−2;ポリブタジエンゴムラテックス(R−2)の調製)
容積100Lの耐圧重合機中に、製造例1−1で得たポリブタジエンゴムラテックス(R−1)を固形分で7質量部、脱イオン水200質量部、リン酸三カリウム0.03質量部、EDTA0.002質量部、およびFE0.001質量部を投入した。次に、投入した原料を撹拌しつつ、耐圧重合器内部の気体を窒素置換することにより、耐圧重合器内部から酸素を十分に除いた。その後、BD93質量部を耐圧重合器内に投入し、耐圧重合器内の温度を45℃に昇温した。その後、PHP0.02質量部を耐圧重合器内に投入し、続いてSFS0.10質量部を耐圧重合器内に投入し、重合を開始した。重合開始から30時間目に、減圧下にて脱揮して、重合に使用されずに残存したモノマーを脱揮除去することにより、重合を終了した。重合中、PHP、EDTAおよびFEのそれぞれを、任意の量および任意の時宜で耐圧重合器内に添加した。当該重合により、ポリブタジエンゴムを主成分とする弾性体(ポリブタジエンゴム粒子)を含むラテックス(R−2)を得た。得られたラテックスに含まれるポリブタジエンゴム粒子の体積平均粒子径は0.20μmであった。
(2.ポリマー微粒子(B)の調製(グラフト部の形成))
(製造例2−1;ポリマー微粒子ラテックス(L−1)の調製)
ガラス製反応器に、製造例1−2で調製したポリブタジエンゴムラテックス(R−2)256質量部(ポリブタジエンゴム粒子85質量部を含む)、および、脱イオン水61質量部を投入した。ここで、前記ガラス製反応器は、温度計、撹拌機、還流冷却器、窒素流入口、およびモノマーの添加装置を有していた。ガラス製反応器中の気体を窒素で置換し、窒素置換を行いつつ、60℃にて投入した原料を撹拌した。次に、EDTA0.004質量部、FE0.001質量部、およびSFS0.2質量部をガラス製反応器内に加えた。その後、グラフト部を形成するためのモノマー(以下、グラフトモノマーとも称する。)(スチレン(ST)7質量部、メチルメタクリレート(MMA)1.5質量部、アクリロニトリル(AN)2.5質量部およびグリシジルメタクリレート(GMA)4質量部)と、クメンヒドロパーオキサイド(CHP)0.04質量部との混合物をガラス製反応器内に、80分間かけて連続的に添加した。添加終了後、CHP0.04質量部をガラス製反応器内に添加し、さらに2時間、ガラス製反応器内の混合物の撹拌を続けて重合を完結させた。以上の操作により、ポリマー微粒子(B)を含む水性ラテックス(L−1)を得た。モノマー成分の重合転化率は99%以上であった。得られた水性ラテックスに含まれるポリマー微粒子(B)の体積平均粒子径は0.21μmであった。
(3.硬化性樹脂組成物中にポリマー微粒子(B)が分散した分散物(M)の調製)
(製造例3−1;分散物(M−1)の調製)
25℃の1L混合槽にメチルエチルケトン(MEK)132gを導入した。次に、MEKを撹拌しながら、前記製造例2−1で得られたポリマー微粒子(B)を含む水性ラテックス(L−1)132g(ポリマー微粒子(B)40g相当)を混合槽内に投入した。混合槽内の原料を均一に混合後、混合槽内の原料を攪拌しながら、水200gを80g/分の供給速度で混合槽内に投入した。水の供給終了後、速やかに前記撹拌を停止し、ポリマー微粒子(B)を含む凝集体と少量の有機溶媒とを含む水相からなるスラリー液を得た。前記凝集体は、浮上性であった。次に、一部の水相を含む凝集体を混合槽内に残すように、水相360gを混合槽下部の払い出し口より排出した。得られた凝集体にMEK90gを追加して、これらを均一に混合し、MEK中にポリマー微粒子(B)が均一に分散している分散体を得た。得られた分散体に、(A)成分であるエポキシ樹脂(A−1)60gを添加し、これらを均一に混合した。エポキシ樹脂(A−1)については、下記に詳述する。得られた混合物から、回転式の蒸発装置を用いて、MEKを除去した。このようにして、エポキシ樹脂(A)にポリマー微粒子(B)が分散している分散物(M−1)を得た。
(製造例3−2;分散物(M−2)の調製)
製造例3−1において、(A)成分であるエポキシ樹脂(A−1)60gの代わりにエポキシ樹脂(A−2)60gを用いたこと以外は製造例3−1と同じ方法にて、エポキシ樹脂(A)にポリマー微粒子(B)が分散している分散物(M−2)を得た。エポキシ樹脂(A−2)については、下記に詳述する。
(実施例1〜12、比較例1〜6)
表1〜3に示す処方(配合)にしたがって、各成分をそれぞれ計量し、十分に混合して硬化性樹脂組成物を得た。得られた硬化性樹脂組成物のダンベル引張物性(引張強さ、引張破壊ひずみ、引張弾性率)およびガラス転移温度(Tg)の試験結果を表1〜3に示す。
なお、表1〜3中の各種配合剤は、以下に示すものを使用した。
≪エポキシ樹脂(A)≫
エポキシ樹脂(A−1):JER828(三菱化学製、常温で液状のビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ当量:184〜194)
エポキシ樹脂(A−2):JER806(三菱化学製、常温で液状のビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量:160〜170)
≪エポキシ樹脂(A)中にポリマー微粒子(B)が分散した分散物(M)≫
M−1〜2:前記製造例3−1〜2で得られた分散物
≪ブロックドウレタン(C)≫
QR−9466(ADEKA製、ブロックドウレタン)
≪エポキシ硬化剤(D)≫
Dyhard 100S(AlzChem製、ジシアンジアミド)
≪無機充填材(E)≫
(表面無処理重質炭酸カルシウム)
ホワイトンSB(白石カルシウム製、表面無処理重質炭酸カルシウム、平均粒子径:1.8μm)
(酸化カルシウム)
CML#31(近江化学工業製、脂肪酸で表面処理した酸化カルシウム)
≪硬化促進剤(F)≫
Dyhard UR200(AlzChem製、1,1−ジメチル−3−(3,4−ジクロロフェニル)ウレア)
Figure 2021020346
Figure 2021020346
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なお、表1〜3の硬化性樹脂組成物中に含まれる(A)成分の量(質量部)は、(i)(A)成分の欄に記載の量、すなわちエポキシ樹脂として添加した(A)成分の量と、(ii)(A)成分+(B)成分の欄に記載の量、すなわちポリマー微粒子(B)の分散物(M)に含まれる(A)成分の量と、を合算した量である。
表1〜3から、本発明の一実施形態に係る(A)成分、(B)成分、(C)成分、および、9.0質量部〜17.0質量部の(D)成分を含有する実施例1〜12の硬化性樹脂組成物は、伸びの物性に優れ(引張破壊ひずみの値が高く)、かつ、ガラス転移温度(Tg)が高い硬化物を提供できることが判る。それ故に、本発明の一実施形態に係る硬化性樹脂組成物は、線膨張係数の異なる異種基材の接合に適し、更に、耐熱性および弾性率に優れる硬化物(接着層)を提供できる接着剤であることが判る。
ポリマー微粒子(B)を含有しない比較例6、およびブロックドウレタン(C)を含有しない比較例3の硬化性樹脂組成物は、伸びの物性に劣る(引張破壊ひずみの値が小さい)硬化物を提供することから、異種基材の接合に適し難いと思われる。ブロックドウレタン(C)を50質量部よりも多く含む比較例4と比較例5との硬化性樹脂組成物は、Tgの値が低く、耐熱性および弾性率が不十分な硬化物(接着層)を提供する接着剤である。
ジシアンジアミド(D)を9質量部よりも少なく含む比較例1の硬化性樹脂組成物は、伸びの物性に劣る(引張破壊ひずみの値が小さい)硬化物を提供することから、異種基材の接合に適し難いと思われる。ジシアンジアミド(D)を17質量部よりも多く含む比較例2の硬化性樹脂組成物は、Tgの値が低く、耐熱性および弾性率が不十分な硬化物(接着層)を提供する接着剤である。
本発明の一実施形態によれば、伸びの物性に優れ、かつガラス転移温度の高い硬化物を含む積層体、および当該積層体の製造方法を提供できる。そのため、本発明の一実施形態に係る積層体および当該積層体の製造方法は、車両、航空機、宇宙、機械、電気、建築および土木などの分野にて好適に利用できる。

Claims (15)

  1. 線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体と硬化性樹脂組成物からなる硬化物とを有し、
    前記少なくとも2つの被着体の間に前記硬化物が積層されてなり、
    前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、並びに、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、弾性体と当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部とを有するゴム含有グラフト共重合体を含むポリマー微粒子(B)1質量部〜100質量部、ブロックドウレタン(C)5質量部〜50質量部、およびジシアンジアミド(D)9.0質量部〜17.0質量部を含有する、積層体。
  2. 前記硬化物のガラス転移温度は110℃以上であり、JIS K 7113に準拠した方法により得られる前記硬化物の引張破壊ひずみは23.0%以上である、請求項1に記載の積層体。
  3. 線膨張係数の異なる少なくとも2つの被着体と硬化性樹脂組成物からなる硬化物とを有し、
    前記少なくとも2つの被着体の間に前記硬化物が積層されてなり、
    前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、弾性体と当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部とを有するゴム含有グラフト共重合体を含むポリマー微粒子(B)、ブロックドウレタン(C)、およびジシアンジアミド(D)を含有し、
    前記硬化物のガラス転移温度は110℃以上であり、JIS K 7113に準拠した方法により得られる前記硬化物の引張破壊ひずみは23.0%以上である、積層体。
  4. 前記硬化性樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、ポリマー微粒子(B)1質量部〜100質量部、ブロックドウレタン(C)5質量部〜50質量部、およびジシアンジアミド(D)9.0質量部〜17.0質量部を含有する、請求項3に記載の積層体。
  5. 前記エポキシ樹脂(A)はビスフェノールF型エポキシ樹脂(A1)を含有し、前記エポキシ樹脂(A)100質量%中の前記ビスフェノールF型エポキシ樹脂(A1)の含有量が、1質量%〜100質量%である、請求項1〜4の何れか1項に記載の積層体。
  6. 無機充填材(E)をさらに含有し、前記硬化性樹脂組成物100質量%中の前記無機充填材(E)の含有量が、0.1質量%〜15質量%である、請求項1〜5の何れか1項に記載の積層体。
  7. 前記硬化性樹脂組成物は、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、更に、硬化促進剤(F)0.1質量部〜10質量部を含有する、請求項1〜6の何れか1項に記載の積層体。
  8. 前記弾性体は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴムおよびポリシロキサンゴム系弾性体からなる群より選択される1種以上を含む、請求項1〜7の何れか1項に記載の積層体。
  9. 前記ジエン系ゴムは、ブタジエンゴム、および/または、ブタジエン−スチレンゴムである、請求項1〜8の何れか1項に記載の積層体。
  10. 前記グラフト部は、構成単位として、芳香族ビニルモノマー、ビニルシアンモノマーおよび(メタ)アクリレートモノマーからなる群より選択される1種以上のモノマーに由来する構成単位を含む重合体である、請求項1〜9の何れか1項に記載の積層体。
  11. 前記グラフト部は、エポキシ基を有する重合体である、請求項1〜10の何れか1項に記載の積層体。
  12. 前記グラフト部は、エポキシ基を有する重合体であり、前記グラフト部の質量に対する前記エポキシ基の含有量が0.1mmol/g〜5.0mmol/gである請求項1〜11の何れか1項に記載の積層体。
  13. 硬化性樹脂組成物を第一の被着体に塗布し、第二の被着体を前記第一の被着体と貼り合わせる貼り合わせ工程と、
    前記硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、を備え、
    前記第一の被着体と前記第二の被着体とは線膨張係数が異なり、
    前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、並びに、前記エポキシ樹脂(A)100質量部に対して、弾性体と当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部とを有するゴム含有グラフト共重合体を含むポリマー微粒子(B)1質量部〜100質量部、ブロックドウレタン(C)5質量部〜50質量部、およびジシアンジアミド(D)9.0質量部〜17.0質量部を含有する、積層体の製造方法。
  14. 硬化性樹脂組成物を第一の被着体に塗布し、第二の被着体を前記第一の被着体と貼り合わせる貼り合わせ工程と、
    前記硬化性樹脂組成物を硬化させる硬化工程と、を備え、
    前記第一の被着体と前記第二の被着体とは線膨張係数が異なり、
    前記硬化性樹脂組成物は、エポキシ樹脂(A)、弾性体と当該弾性体に対してグラフト結合されたグラフト部とを有するゴム含有グラフト共重合体を含むポリマー微粒子(B)、ブロックドウレタン(C)、およびジシアンジアミド(D)を含有し、
    前記硬化物のガラス転移温度は110℃以上であり、JIS K 7113に準拠した方法により得られる前記硬化物の引張破壊ひずみは23.0%以上である、積層体の製造方法。
  15. 前記硬化工程において、前記硬化性樹脂組成物の硬化温度は130℃以上である、請求項13または14に記載の積層体の製造方法。
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