本発明は、前駆体化合物(システアミン前駆体)から制御された量および胃腸管の制御された位置におけるシステアミンのインビボ産生を可能にする組成物および方法、ならびにシステアミン感受性症状、症候群、および疾患を治療する方法を特徴とする。本発明の方法および組成物は、以下に示される化合物1〜3のいずれか1つ、またはその薬学的に許容される塩を含むことができる。
化合物1〜3は、還元剤もしくはパンテテイナーゼ誘導剤などの化合物の投与に続いて、単独で、またはシステアミン前駆体である第2の活性剤と組み合わせて、またはシステアミンの放出もしくは取り込みを修正する薬剤と組み合わせて、対象に投与することができる。
システアミンは、細菌からヒトまで全ての生命体に存在する、小さな反応性の高いチオール分子(NH2−CH2−CH2−SH)である。システアミンのIUPAC名は、2−アミノエタンチオールである。他の一般的な名称としては、メルカプタミン、ベータ−メルカプトエチルアミン、2−メルカプトエチルアミン、デカルボキシシステイン、およびチオエタノールアミンが挙げられる。ヒトにおいて、システアミンは、パンテテインをシステアミンおよびパントテン酸に切断する、酵素パンテテイナーゼ(パントテネートまたはビタミンB5としても知られる)によって産生される。ヒトパンテテナイナーゼは、Vanin 1およびVanin 2遺伝子(省略してVNN1およびVNN2)によってコードされ、胃腸管を含めて広く発現される。したがって、多くの食品(例えば、ナッツおよび乳製品)中に存在する食餌性パンテテインは、胃腸管腔で切断されてシステアミンおよびパントテン酸を生成し、その後吸収される。特に、システアミンは、腸細胞内でシステアミンを輸送することが示されている有機カチオン輸送体1(OCT1)、OCT2、およびOCT3を含む輸送体のファミリーである、有機カチオン輸送体(OCT)によって胃腸上皮を横切って輸送することができる。胃腸管でシステアミンに変換されるその能力に基づいて、パンテテインは、システアミン前駆体である。システアミン前駆体は、(i)忍容性および副作用、(ii)薬物動態および投与間隔、(iii)製造、ならびに(iv)製品安定性に関して、システアミン塩を上回る利点を有し得る化合物のクラスを表す。より一般的には、様々な速度でインビボでシステアミンを生成することができるシステアミン前駆体を投与すること、および配合方法を使用して、選択された時間に胃腸管の選択部位にそれらの前駆体を送達することは、システアミン薬物動態のはるかに良好な制御を提供することによって治療レジメンにおいて有用であり得、現在まで、システアミンおよび他のチオールの広範な使用に対する大きな障害であった。
システアミン前駆体
パンテテインおよびその異化産物であるシステアミンおよびパントテネートは、植物および動物における補酵素Aの生合成における中間化合物である(関連する代謝および異化経路の図については図11を参照)。4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、および補酵素Aなどの補酵素A生合成経路中におけるいくつかの化合物は、ヒト胃腸管でパンテテイン、次いでシステアミンおよびパントテネートに異化することができる。したがって、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、および補酵素Aは、腸内でシステアミンに変換可能であることから、システアミン前駆体である。N−アセチルシステアミンはまた、腸または細胞デアセチラーゼ(例えば、インビボでN−アセチルシステインをシステインに変換するデアセチラーゼ)によって脱アセチル化することによる、システアミン前駆体でもある。
パンテチンは、ジスルフィド結合によって接合された2つのパンテテイン分子の二量体である。換言すれば、パンテチンは、パンテテインの酸化形態である。パンテチンの2つのパンテテインへの相互変換は、酵素的に媒介されず、ATPを必要としない。この反応は、代わりに、腸内の酸化還元環境によって主に制御される。インビボで、特に細胞内で優勢である傾向がある還元環境では、パンテテインが優勢であるが、胃などのより酸化的な環境では、平衡はパンテチンに向かってシフトする。Wittwerによる小規模臨床研究(Wittwer et al.,J.Exp.Med.76:4(1985))は、経口投与したとき、パンテチンのかなりの画分がヒトの胃腸管でパンテテインに化学的に還元され、続いてシステアミンおよびパントテネートに切断されることを示した。したがって、パンテチンは、システアミン前駆体である。本明細書におけるパンテテインは、D−鏡像異性体を指す。
パンテテインのパントテノイル部分は、キラル炭素を含む。したがって、伝統的にD−パンテテインおよびL−パンテテインと呼ばれる(R−パンテテインおよびS−パンテテインとも呼ばれる)パンテテインの2つの鏡像異性体形態が存在する。パンテテインのD−鏡像異性体のみが、パンテテイナーゼにより切断され得るため、D−鏡像異性体のみが、システアミン前駆体として適格である。パンテテインの2つの鏡像異性体は、4つの方法で組み合わせて(D−,D−;D−,L−;L−,D−;およびL−,L−パンテテイン)、ジスルフィドパンテチンを形成することができる。D−,D−パンテチンのみが化学的に2つのD−パンテテインに還元され、次いで切断されて2つのシステアミンが産生され得る。したがって、パンテチンのD−,D−形態が極めて好ましく、パンテチンという用語は、本明細書で使用される場合、D−,D−鏡像異性体を指す。パンテテイン関連化合物である4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、および補酵素Aはまた、腸内分解の際にD−パンテテイン(およびしたがってシステアミン)を生じるために、D−立体異性体構成でなければならない。したがって、「4−ホスホパンテテイン」、「デホスホ補酵素A」、および「補酵素A」、ならびにそれらの任意の類似体または誘導体は、本明細書においてD−鏡像異性体を指す。パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aのいずれも腸細胞に吸収されず、むしろ各化合物は、吸収されるパントテネートおよびシステアミンに異化されなければならない(Shibata et al.,J.Nutr.113:2107(1983)を参照)。
胃腸管において(例えば、天然の酵素的または化学的プロセスによって)親化合物に変換され得るパンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素AのD−立体異性体の類似体または誘導体を使用して、チオールまたはジスルフィド型システアミン前駆体を形成することもでき、本明細書では「適切な類似体または誘導体」と呼ばれる。例えば、腸内で補酵素Aに容易に分解される補酵素の多数の生理学的形態(例えば、アセチルCoA、スクシニルcoA、マロニルcoA、等)が存在する。任意のアセチル化、アルキル化、リン酸化、脂質化、または他の類似体を、システアミン前駆体として使用することができる。パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aの類似体、ならびにそれらを産生する方法が文献に説明されている(van Wyk et al.,Chem Commun 4:398(2007))。
パンテテインは、別のクラスのシステアミン前駆体を構成するパンテテイン混合ジスルフィドと呼ばれる、それ自体以外のチオールとともにジスルフィドを形成することができる。パンテテインと反応したチオールは、好ましくは天然に存在するチオール、またはヒトもしくは動物使用の履歴に基づいて、ヒトにおいて安全であることが知られている非天然チオールである。例えば、混合ジスルフィドは、パンテテインを、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A、人体および多くの食品に存在する化合物と反応させることによって形成することができる。そのような混合ジスルフィドは、腸内での還元および分解の際に、2つのシステアミンを生じる。N−アセチルシステアミンに連結したパンテテインもまた、腸内での還元および分解の際に2つのシステアミンを生じる。ある特定の実施形態では、2つのシステアミンを生じることができるジスルフィドシステアミン前駆体が好ましい。図18〜21は、異なるクラスのジスルフィドシステアミン前駆体のシステアミン収率を示す。化学的または酵素的プロセス(すなわち、適切な類似体または誘導体)を介して胃腸管で親化合物に変換され得る4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aの類似体または誘導体もまた、パンテテインに連結されて、パンテテイン混合ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することができ、または他のチオールに連結され得る。
パンテテイン混合ジスルフィドはまた、パンテテインを、L−システイン、ホモシステイン、N−アセチルシステイン、N−アセチルシステインアミド、N−アセチルシステインエチルエステル、N−アセチルシステアミン、L−システインエチルエステル塩酸塩、L−システインメチルエステル塩酸塩、チオシステイン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール、3−メルカプトピルビン酸塩、システイニルグリシン、ガンマグルタミルシステイン、ガンマ−グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオン、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸などの、それ自体はシステアミンに分解可能でないチオールと反応させることによって形成することもできる。パンテテインと反応してパンテテイン混合ジスルフィドを形成することができる、例示的なチオール化合物のケミカル・アブストラクツ・サービス(CAS)登録番号、分子式、および分子量については、図17を参照されたい。パンテテインおよびチオール6〜35(チオールの番号付けについては、図17を参照)のうちのいずれかによって形成されるジスルフィドは、ジスルフィド結合の還元およびパンテテイナーゼ切断の際に、1つのシステアミンを生じる。これらの第2のチオールは、腸内でシステアミンに変換可能でないが、それにもかかわらず、例えばパンテテイナーゼ活性を刺激すること、またはシステアミン含有ジスルフィドとのジスルフィド交換に関与することによって、システアミン産生を促進することができるか、または例えば、還元剤として作用することによって、もしくは他の機序によって、システアミンにより提供されるものを補完する治療的利益を提供することができる。
ジヒドロリポ酸(DHLA)、メソ−2,3−ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3−ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、ブシラミン、またはN,N′−ビス(2−メルカプトエチル)イソフタルアミドなどのジチオール化合物もまた、パンテテインと反応して、1つの遊離チオール基を有するパンテテイン混合ジスルフィド、または2つのパンテテイン分子をジチオールに接続する2つのジスルフィド結合を有する三部化合物のいずれかを形成することができる。前者のカテゴリーの混合パンテテインジスルフィドは、ジスルフィド結合の還元およびパンテテイナーゼ切断の際に1つのシステアミンを生じ、後者のカテゴリーは、2つのシステアミンを生じる。システアミン、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN−アセチルシステアミンを様々なジチオールと組み合わせて有用なシステアミン前駆体を産生する方法を示す表については、図21を参照されたい。あるいは、チオールのうちの1つがシステアミン、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN−アセチルシステアミン、またはその適切な類似体もしくは誘導体である限り、2つの異なるチオールをジチオールに結合させてシステアミン前駆体を得ることができ、すなわち、最終的に胃腸管でシステアミンに分解され得る化合物である。図21の表2Aおよび2Bは、分子量およびシステアミン収率の範囲(すなわち、インビボでシステアミンに変換可能なシステアミン前駆体のパーセント)を含む、そのようなシステアミン前駆体の顕著な特性のうちのいくつかを示し、選択された例については、システアミン前駆体からシステアミンへのインビボ分解ステップの数を示す。
パンテテインと同様に、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN−アセチルシステアミンのうちのいずれか、または適切な類似体もしくは誘導体は、(i)それ自体と反応してホモ二量体ジスルフィドを形成することができるか、または(ii)様々な対で互いに反応して混合ジスルフィドを形成することができるか、または(iii)他のチオール(インビボでシステアミンに変換可能でない)と反応して、混合ジスルフィドを形成することができる。そのようなジスルフィドは全て、システアミン前駆体である。最初の2つのカテゴリーは、腸内での還元および分解の際に2つのシステアミンを生じ得るが、第3のカテゴリーは、1つのシステアミンのみを生じ得る。
例えば、図17に列挙したチオールのうちのいずれかを、4−ホスホパンテテイン(図19に示すように)、デホスホ補酵素A(図19)、補酵素A(図20)、またはN−アセチルシステアミン(図20)と反応させて、混合ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することができる。ヒトにおいて安全であることが知られている非天然チオールも同様に、他の天然に存在するキトールを使用することもできる。図18〜21は、反応してジスルフィドシステアミン前駆体を形成することができる、チオールおよびジチオールとの組み合わせのうちのいくつかを概略的に示す。ヒト胃腸管におけるそのような化合物のシステアミンへの変換は、(i)遊離チオールを生成するためのジスルフィド結合の還元、(ii)4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素Aを含有するジスルフィド、またはその適切な類似体もしくは誘導体の場合、パンテテインを生成する、腸に存在する酵素(例えば、ホスファターゼ、ジホスファターゼ、ホスホジエステラーゼ)による分解、(iii)パンテテイナーゼによるパンテテインの切断を必要とする。ジスルフィドを含有するN−アセチルシステアミンは、腸、血液、または組織において還元および脱アセチル化されなければならない。
システアミン自体を他のチオールと反応させて、混合ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することもできる。例えば、システアミンは、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはN−アセチルシステアミンと、胃腸管で親化合物に分解可能な5つのチオールの類似体もしくは誘導体と、または図17に列挙される他のチオールのうちのいずれかと反応させて、図18〜20のジスルフィドのうちのいずれかを形成することができる。2つのシステアミンを、2つのジスルフィド結合を介してジチオールに接合して、別の種類のジスルフィドシステアミン前駆体を産生することができる(図21)。図8は、そのようなシステアミン前駆体、すなわち2つのシステアミンに結合したジヒドロリポエートジスルフィドの化学構造を示す。ジスルフィド結合の還元に際して、強力な還元剤であるジヒドロリポ酸とともに、2つのシステアミンが放出され、ある特定の疾患設定においてシステアミンの治療特性を補完し得る。
要約すると、システアミン前駆体は、3つの主なカテゴリー、すなわち(i)システアミンに分解可能なチオール、(ii)ジチオールで形成されたジスルフィドを含む、システアミンを含む混合ジスルフィド、(ii)パンテテインを含むジスルフィド、(iii)4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aを含むジスルフィド、または適切な類似体もしくは誘導体に分類することができる。後者の3つのカテゴリーの各々は、第2のチオールに応じてさらに分解され得る:(a)パンテテイン、または適切な類似体もしくは誘導体、(b)4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素A、または適切な類似体もしくは誘導体、あるいは(c)それ自体がシステアミン前駆体ではないチオール(例えば、L−システイン、ホモシステイン、N−アセチル−システイン、N−アセチルシステインアミド、N−アセチルシステインエチルエステル、N−アセチルシステアミン、L−システインエチルエステル塩酸塩、L−システインメチルエステル塩酸塩、チオシステイン、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、3−メルカプトピルビン酸塩、チオテルピネオール、グルタチオン、システイニルグリシン、ガンマグルタミルシステイン、ガンマ−グルタミルシステインエチルエステル、グルタチオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオシステイン、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸)。ジヒドロリポ酸、メソ−2,3−ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3−ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、ブシラミン、またはN,N′−ビス(2−メルカプトエチル)イソフタルアミドなどのジチオール化合物を、システアミン、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素A、または適切な類似体もしくは誘導体と組み合わせて、ジスルフィドを形成することもできる。
システアミン前駆体の薬理学的特性
システアミン前駆体からのインビボシステアミン生成の時間的および空間的パターンは、システアミン前駆体の種類に依存して広く変動し得る。システアミンを生成するために複数の化学的および酵素的反応を必要とするシステアミン前駆体は、平均して1つのステップのみを必要とするものよりも後にシステアミンを生成するであろう。システアミン前駆体のこの特性を使用して、インビボでのシステアミン生成の速度および持続時間が変化する複数の医薬組成物を設計することができる。さらに、医薬組成物は、所望の薬理学的終結をもたらす組み合わせおよび比で投与することができる。例えば、薬物投与直後に上昇した血漿システアミンレベルを提供するために、システアミン混合ジスルフィドを投与してもよい。システアミン混合ジスルフィドからシステアミンを産生するために必要な唯一のステップは、ジスルフィド結合の還元である。第2のチオールの同一性に依存して、第2のシステアミンが、1つ以上の分解ステップに続いて産生され得る。第2のシステアミンは、ジスルフィド結合の還元および別のステップの後にのみ生成され得るため、必然的に第1のシステアミンよりも遅く産生され、それによってシステアミンが腸内で生成され、血液中に吸収される期間を延長する。システアミン遊離塩基およびシステアミン塩(例えば、Cystagon(登録商標)およびProcysbi(登録商標))は、非常に短い半減期を有するため、システアミン前駆体からのインビボでのシステアミン生成のこの延長は、現在の治療法を上回る著しい進歩を示す。
1つのアプローチでは、第2のチオールがパンテテイン(すなわち、システアミン−パンテテインジスルフィド)である場合、第2のシステアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断ステップが必要である。パンテテイナーゼは、一般に、腸細胞の表面上に位置するため、いつでも腸内容物の一部と接触するだけであり、それによってシステアミンが生成される期間が延長される。1つのジスルフィド分子からの早期および後期システアミン生成のこの組み合わせは、いくつかの利点を有する:(i)システアミンが、ジスルフィド結合の還元に際して利用可能になり、早期の治療上の利点を提供する、(ii)経時的にパンテテインの切断が起こり(パンテテイナーゼは、胃腸管全体にわたって様々なレベルで発現される)、治療効果の持続期間を延長する、(iii)結合の還元およびパンテテイン切断の両方を介して時間的および空間的に延長されたシステアミンの産生は、副作用と強く関連した高いピークシステアミン濃度を低下させる一方で、(iv)OCTによる輸送などのパンテテイナーゼまたはシステアミンの取り込み機序の飽和を回避する。。つまり、長期の血中システアミンレベルの上昇は、より有効な薬物療法と、より毒性が低く、より便利な剤形の両方を患者に提供する。
あるいは、第2のチオールがL−システイン(すなわち、システアミン−L−システインジスルフィド)である場合、ジスルフィドの還元の際に1つのシステアミンのみが生成され、長期間のシステアミン生成はない。しかしながら、以下に説明されるように、システアミン−L−システインジスルフィドは、迅速なシステアミン放出が可能なシステアミン前駆体が有用であり得る、回腸または結腸を含む胃腸管の実質的に任意の部分における放出のために配合され得る。さらに、システインは、パンテテイナーゼの活性を促進し、いくつかの疾患モデルにおいて有益な効果を有することも示されている。したがって、システアミン−L−システインジスルフィドは、別のシステアミン前駆体の有用な補体であり得るか、またはシステアミンおよびシステインの両方に応答する疾患の治療に有用であり得る。
4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aなどのシステアミンを生成するために2つ以上の異化反応を必要とするチオールを含むジスルフィド、またはその適切な類似体もしくは誘導体は、小腸においてより効率的に分解され、ここでそれらは、胃または大腸内よりも膵液に存在する消化酵素に曝露される。そのような2つのチオールを互いにまたはシステアミン以外のチオールと反応させることによって作製されるジスルフィドは、後の時点で開始し、例えばシステアミン−L−システインジスルフィドよりも長い時間にわたってシステアミンを生成する。平均して、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素A、または適切な類似体は、パンテテインよりも遅くシステアミンを生成し、これらの化合物を含むジスルフィドについても同様である。
パンテテインなどのシステアミン前駆体および腸内のパンテテインに分解可能な化合物、ならびにそれらの化合物のうちのいずれかを含有するジスルフィドは全て、パンテテイナーゼによる切断の際にシステアミンとともにパントテネートを生じる。パントテネートまたはビタミンB5は、食物中に存在し、腸内細菌によって合成される、水溶性化合物である。パントテネートが大用量で投与されると、過剰量が尿中に排泄される。食事摂取基準の科学的評価に関する米国医薬常設委員会の葉酸、他のビタミンB、およびコリンに関するパネル(Panel on Folate, Other B Vitamins,and Choline of the US Institute of Medicine Standing Committee on the Scientific Evaluation of Dietary Reference Intakes(National Academies Press(US)、1998)によるパントテネートのレビューは、「ヒトまたは動物における経口パントテン酸の有害効果が認められたという報告はない」と述べている。
システアミン前駆体の混合物
本発明の方法および組成物は、それらの異なる薬理学的特性を利用するためのシステアミン前駆体の混合物を含むことができる。特に、システアミン血漿レベルの個別化された改善(または所与の患者のニーズに対する個人化)は、システアミン前駆体の混合物を使用することによって達成することができる。例えば、上記のシステアミン−パンテテイン混合ジスルフィドは、システアミンとパンテテインとの比を1:1に固定する。しかしながら、システアミンは身体から迅速に吸収および除去され(排出半減期:約25分)、血中レベルの急激なピークをもたらす一方、パンテテインは、数時間にわたって(パンテテイナーゼ切断を介して)システアミンを提供する。したがって、パンテテインからのシステアミン生成が長期間にわたって広がるため、(ジスルフィド結合の還元の際に放出されるシステアミンから)早期に治療的システアミンレベルをもたらすシステアミン−パンテテイン混合ジスルフィドの用量は、後に治療的システアミンレベル以下をもたらし得る。したがって、システアミン:パンテテインの1:1の比は、特定の患者または目的には理想的ではない場合がある。より多くのパンテテインを剤形に添加することは、血中システアミンを治療濃度範囲内により長い期間維持する。パンテテインとシステアミンとの比を増加させるために、チオールパンテテインまたはジスルフィドパンテチンまたは別のパンテテイン含有ジスルフィドのいずれかを、例えば、システアミン−パンテテイン混合ジスルフィドと同時配合または同時投与して、治療範囲内の血中システアミンレベルをより長い期間達成することができる。2つのシステアミン前駆体の比を調整して、システアミン濃度−時間曲線(AUC)下面積を最大にすること、またはシステアミンのピーク濃度(Cmax)を最小にすること、またはトラフ濃度(Cmin)を最大にすること、または閾値を超えるシステアミン血中レベルを維持することなどの所望の薬物動態パラメータ、またはそのようなパラメータの任意の組み合わせを達成することができる。
4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aなどのシステアミン前駆体、およびこれらの3つの化合物から形成されるジスルフィドは、パンテテインよりもシステアミンを生じるために、より多くの異化ステップを必要とする。したがって、それらのシステアミン前駆体からのシステアミン産生の速度は、平均して、パンテテインまたはある特定のパンテテインジスルフィドよりも遅く、より長期になる。したがって、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素A、またはそれらのジスルフィドとシステアミン−パンテテインの組み合わせ、および任意にパンテテインまたはパンテチンの同時投与または同時配合は、適切なシステアミン前駆体を選択することによってシステアミン薬物動態を制御する別の方法を提供する。特に、そのようなシステアミン前駆体の使用は、システアミンが胃腸管において産生される時間をさらに延長するために使用され得る。
4−ホスホパンテチン、デホスホ補酵素A、および補酵素Aを含有するジスルフィド
図11に概略的に示される補酵素Aのための正式な生合成経路は、4つの酵素によって触媒される5つのステップを必要とする(CoAシンターゼは、最後の2つのステップを触媒する)。パントテネートキナーゼによるパントテネートのリン酸化の初期ステップは、経路を通る流動を制御する。最近まで、補酵素A合成(または異化)経路における中間化合物のいずれも、胃腸管において効率的に吸収されないと考えられていた。むしろ、パンテテイン(パントテネートおよびシステアミン)の異化産物のみが、腸内で吸収される。システアミン前駆体療法のための補酵素A経路に関する理解の2つの重要な結果は、(i)システアミン前駆体が腸内でシステアミンに分解され、次いで吸収されて治療効果の部位(例えば、肝臓、中枢神経系)に輸送されなければならいこと、および(ii)細胞補酵素A合成が、必然的に(他の代謝中間体は細胞膜を横断しないため)パントテネートから開始することである。
しかしながら、4−ホスホパンテテインは、細胞膜を効率的に横断する(Srinivasan et al.,Nature Chemical Biology 11:784(2015))。この観察は、様々な疾患および障害を治療するための、本明細書に説明されるシステアミン前駆体の設計および使用に意味を有する。最初に、それは、病変組織を含む複数の組織および臓器(腸のみとは対照的に)における原位置システアミン生成を伴う治療アプローチを可能にする。第2の態様では、パントテネートキナーゼ欠損対象を治療するために使用され得る、パントテネートキナーゼにより触媒される初期合成ステップの下流に、補酵素A前駆体(4−ホスホパンテテイン)の細胞送達を可能にする。これらの2つのカテゴリーの疾患を治療するためにシステアミン前駆体を使用するための方法を以下に記載し、いくつかの例を挙げて説明する。
1つのアプローチにおいて、これらの臓器(およびその他)は全て、VNN1またはVNN2遺伝子のいずれかから発現されるパンテテイナーゼを含むため、腎臓、肝臓、肺、および結合組織の疾患、ならびに感染性疾患を効果的に治療することができる。この方法は、(i)腸内で分解され得るシステアミン前駆体を患者に投与して、4−ホスホパンテテインの1つまたは2つの分子を生じさせ、その一部は(ii)腸細胞によって吸収され、血液中に入り(4−ホスホパンテテインが比較的安定している)、次いで循環を介して(iii)病変臓器を通過し、(iv)ホスファターゼおよびパンテテイナーゼによって分解されて、疾患の部位でシステアミンを生じることができる。
この治療方法の利点としては、(i)等価用量あたり腸から吸収されるシステアミンを用いて達成され得る疾患の部位におけるより高いシステアミン濃度、(ii)結果としてより低い毒性をもたらす、より低い血漿システアミン濃度(4−ホスホパンテテインは、循環送達ビヒクルである)、(iii)システアミンよりも長い血中半減期(4−ホスホパンテテインの場合の3時間以上に対して、システアミンの場合約25分)、これが投与間隔を長くし、それによって患者の便宜性を高める、および(iv)例えば、NASH(Sato W.et al.,Hepatol Res.34:256(2006))などの代謝性疾患およびある特定の炎症性疾患(Naquet P.et al.,Biochem Soc Trans.42:1094(2014))を含む、パンテテイナーゼの過剰発現が病原性である疾患組織にシステアミンを選択的に標的とする能力を挙げることができる。炎症はしばしば感染部位に存在するため、感染部位での選択的システアミン生成も可能であり、システアミンが抗菌性、抗ウイルス性、または抗寄生虫作用を有する環境で有用である。したがって、4′−ホスホパンテテインは、腸内で吸収され、血液中を循環し、次いで、腎臓と同様に構成的に、または炎症と同様に活性疾患の提示として、パンテテイナーゼを発現する臓器または疾患組織においてシステアミンに分解され得る。
4−ホスホパンテチン−腎疾患の場合にジスルフィドを生じる
上記のように、パンテテイナーゼ(VNN1およびVNN2遺伝子の両方によってコードされる)は、腎臓において高レベルで発現される。したがって、いくつかの循環4−ホスホパンテテインは、腎臓において分解され、システアミンを生じる。腎臓特異的システアミン生成の利点としては、胃腸管によるシステアミン吸収を介して達成されるよりも高い組織レベル、およびより少ないシステアミンの血中レベルの上昇と関連した副作用(例えば、悪臭呼吸および発汗、悪心、嘔吐、食欲不振、および胃痛)が挙げられる。システアミン療法に応答性の腎疾患としては、線維性疾患(例えば、糸球体腎炎)、ならびに腎症性シスチン症を含む代謝性疾患(腎不全は、システアミン療法によって10年まで遅延する可能性のある主要な合併症である)が挙げられる。
シスチン尿症は、再発性の腎結石(腎石症)と関連した別の遺伝性腎疾患である。平均して、成人患者は、3年毎に腎臓結石と関連した疼痛、感染症、または他の合併症のために外科処置を必要とし、平均的な患者は、中年までに腎石症に対して7回の外科的処置を受けた。シスチン尿症の患者は、腎臓損失の危険性が高く、腎摘除術が必要である。わずかではあるが有意な割合の症例(1〜3%)が、末期腎疾患を発症し、透析または腎臓移植で治療しなければならない。
シスチン尿症は、低親和性シスチン輸送体rBAT(ヘテロ二量体)をコードする2つの遺伝子(SLC3A1およびSLC7A9)のうちの1つの突然変異によって引き起こされる。疾患伝達は、常染色体劣性であり、いずれかの遺伝子の2つの欠損コピーを受け継いだ個体は、シスチン尿症を発症する。
健康なヒト対象では、糸球体を通して濾過されたシスチンの0.4%のみが、最終的に尿中に排出される。他の99.6%は、rBATによって(また別の輸送体によってより少ない程度で)近位尿細管に再吸収される。rBATに欠陥があると、シスチンが腎盂に集まるため、高濃度のシスチンが尿中に残る。シスチンは結石として沈殿し、尿管の閉塞および重度の疼痛を引き起こす可能性がある。腎臓結石はまた、感染症の危険性を高める。(シスチン尿症の全ての患者が結石を発達させるわけではなく、疾患のスペクトルはかなり広い)。
石を発達させるシスチン尿症患者の初期治療は、食事療法であり、1日あたり5リットルまでの液体を飲むこと、および尿を約pH7.5にアルカリ性化することであり、これがシスチンの溶解度を増加させる。第二選択療法は、システインとの混合ジスルフィドを形成することができるチオール化合物の投与である。混合ジスルフィドは、シスチンよりも溶解度が高いため、尿中に溶解したままである。ペニシラミンおよびチオプロニンのチオールは、このように使用されてきたが、ほとんどの患者には十分に忍容されない。アルファ−メルカプトプロピオニルグリシンはまた、シスチン尿症についてUS FDAによって承認されているが、患者の約3分の1には忍容されない。
腸内で4−ホスホパンテテインに分解可能であり、次いで吸収され、循環に入り、最終的にパンテテインに分解された後、腎臓のパンテテイナーゼによってシステアミンに分解される、経口投与されたシステアミン前駆体は、シスチン尿症の治療化合物の有用なクラスである。システアミンは、シスチンとのジスルフィド交換を介してシステインとの混合ジスルフィドを容易に形成し、システアミン−システインジスルフィドは、水溶液(例えば、尿)中でシスチンよりも溶解度が高い。この治療アプローチは、腎臓におけるシステアミンの形成を伴うため、腸内で形成され、そこから吸収されるシステアミンに必要とされるよりも低い用量のシステアミン前駆を必要とする(そのわずかな部分のみが、腎臓に到達する)。
アルギニンコドンをシステインコドンに変える突然変異によって引き起こされる疾患を含む、酸化的損傷および遺伝性疾患と関連した線維性疾患を含む、システアミン療法に適した他の腎疾患は、同様のアプローチを用いて治療することができる。腎臓の血液供給は、心拍出量の主要な部分であり、吸収された4−ホスホパンテテインのかなりの部分の、腎臓への送達を確実にする。
より一般的には、4−ホスホパンテテイン(4−ホスホパンテテインジスルフィドを含む)に分解可能なシステアミン前駆体は、治療用量のシステアミンを、有意なレベルのホスファターゼおよびパンテテイナーゼを発現する全ての臓器に提供するために有用である。例えば、酸化的損傷と関連した肺の疾患を治療することができる。
これらの治療方法のための有用なシステアミン前駆体としては、補酵素A、デホスホ補酵素A、および4′−ホスホパンテテインを含有するジスルフィドが挙げられ、各々が、ジスルフィド結合の還元によって(4′−ホスホパンテテインを含有するジスルフィドの場合)、またはジスルフィド結合の還元に続いて酵素分解によって(補酵素Aおよびデホスホ補酵素Aを含有するジスルフィドの場合)、胃腸管で4′−ホスホパンテテインに分解され得る。いくつかの実施形態では、4′−ホスホパンテテインの2つの分子を提供するシステアミン前駆体は、1つを提供するものよりも好ましい。例えば、4′−ホスホパンテテイン−デホスホ補酵素A混合ジスルフィド、またはホモ二量体4′−ホスホパンテテインジスルフィドは、システイン−4−ホスホパンテテイン混合ジスルフィドよりも多くの原位置システアミン生成能力を送達することができる。別の有用なクラスのシステアミン前駆体は、4′−ホスホパンテテインに分解可能な1つまたは2つのチオールに結合したジチオールを含む。例えば、ジヒドロリポ酸は、ジスルフィド結合を介して、4′−ホスホパンテテインの1つまたは2つの分子に連結される。
より一般的には、4′−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A、および別のチオールからなる任意のジスルフィドは、ジスルフィド結合の還元および(デホスホ補酵素Aまたは補酵素Aの場合)胃腸管における部分的分解後、4′−ホスホパンテテインの供給源となり得る。胃腸上皮を通って輸送された後、循環に達すると、4′−ホスホパンテテインは、血清ホスファターゼによってパンテテインに分解され(しかしながら、これは遅い反応である)、次いでパンテテイナーゼによって血中でシステアミンおよびパントテネートに分解され得るか(高速反応)、または4′−ホスホパンテテインは、ホスファターゼおよびパンテテイナーゼを発現する組織と接触すると分解され得る。例えば、ACP1、ACP2、ACP5、およびACPT遺伝子によってコードされる酸ホスファターゼ、ならびにALPI、ALPL、ALPP、およびALPPL2遺伝子によってコードされるアルカリホスファターゼを含む、ホスファターゼは(集合的に)広く発現される。VNN1でコードされたパンテテイナーゼを発現する組織としては、肝臓、腎臓、心臓、および胃腸管が挙げられ、一方VNN2でコードされたパンテテイナーゼは、腎臓、膀胱、膵臓、脾臓、肺、造血系(例えば、骨髄、リンパ節、扁桃)、結合組織(平滑筋、脂肪組織)において発現され、より低い程度で、甲状腺、副腎、心臓、および生殖器官(睾丸、卵巣、卵管、子宮内膜)において発現される。VNN3遺伝子は、偽遺伝子として記載されているが、いくつかの報告は、機能的な役割を示唆する、異なるVNN3発現を記載している。VNN3は、広く発現される。バニリンファミリー遺伝子の組織および細胞株の発現に関するデータは、タンパク質アトラスなどの公用データベース(www.proteinatlas.org)およびいくつかの刊行物(例えば、Jansen,P.A.M.et al.Expression of the Vanin Gene Family in Normal and Inflamed Human Skin:Induction by Proinflammatory Cytokines.J.Investigative Dermatology 129:2167−2174,2009)において見出すことができる。
パントテネートキナーゼ関連神経変性(PKAN)
4−ホスホパンテテインを送達するジスルフィドシステアミン前駆体が、治療的に使用され得る第2の治療方法は、パントテネートキナーゼ関連神経変性(PKAN)として知られる疾患によって例示される。システアミンは、パーキンソン病、ハンチントン病、および脳鉄蓄積による神経変性(NBIA)を含む、いくつかの神経変性疾患において治療上有効であるという前臨床的および臨床的証拠がある。NBIAは、他の症状の中で、進行性錐体外路兆候、運動発達の遅延、および認知低下と可変的に関連する、稀で臨床的に異種の疾患群を指す。発症年齢は、乳児期から成人後期に及ぶ。症状の出現は、進行速度と同様に大きく異なる。その結果、診断は通常、脳のMRI走査での基底核における異常な鉄蓄積の観察によって示唆される。小脳萎縮もまた存在し得る。NBIAは、PANK2、PLA2G6、C19orf12、FA2H、ATP13A2、WDR45、COASY、FTL、CP、およびDCAF17の10個の遺伝子のうちのいずれかの突然変異と関連している。X染色体上に位置するWDR45遺伝子の突然変異を除いて、NBIAは常染色体劣性疾患として伝染する。
最も一般的な種類のNBIA(全症例の30〜50%)は、パントテネートキナーゼ2(PANK2)をコードする遺伝子における突然変異によって引き起こされる、パントテネートキナーゼ関連神経変性(PKAN)である。ミトコンドリアに局在するパントテネートキナーゼ2は、パントテン酸をリン酸化して4−ホスホパントテン酸を生成し、それが4−ホスホパントテノイル−システインに変換され、その後4−ホスホパンテテインに脱炭酸される(図11を参照)。PANK2触媒化ステップの下流の代謝産物である、4′−ホスホパンテテインの供給源を提供することは、機能的PANK2酵素の要件を克服する。補酵素Aおよびデホスホ補酵素Aの両方は、胃腸管で4′−ホスホパンテテインに分解され得る。したがって、4′−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A、および別のチオールからなる任意のジスルフィドは、PANK2の欠損を補完することができる。
ある特定の実施形態では、4′−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aを含有するジスルフィドを、PANK2欠損に罹患している患者に投与して、疾患症状を改善することができる。具体的には、ジスルフィドは、図19(表1Cおよび1D)、図20(表1E)、および図21に示される(少なくとも1つの4′−ホスホパンテテイン、1つのデホスホ補酵素A、または1つの補酵素Aを含む化合物のサブセット;図の命名法ではそれぞれチオール3、4、および5)。
本出願のジスルフィドシステアミン前駆体は、上で概説した治療方法を実施するために特に適している。(i)ジスルフィドが空気中で安定であり(すなわち、酸素に対して安定である)、したがってチオールよりも配合および保存が容易であり、より長い期間安定であるため、(ii)チオール基は、ジスルフィドが吸収部位の近くの小腸で還元されるまで保護されるため、(iii)付加的または相補的な治療特性を有する第2のチオールが同時に送達され得るため、ジスルフィドは、4′−ホスホパンテテイン(および最終的にシステアミン)を送達するための有効な方法を提供する。例えば、いくつかの実施形態では、システアミン−4−ホスホパンテテイン混合ジスルフィド、システアミン−デホスホ補酵素A混合ジスルフィド、およびシステアミン−補酵素A混合ジスルフィドは、有用な治療化合物である。
N−アセチルシステアミンジスルフィド(化合物3)
特定の実施形態では、システアミン前駆体は、化合物3またはその薬学的に許容される塩である。2つのN−アセチルシステアミンのホモ二量体は、2つの方法で使用できるシステアミンの効率的な送達ビヒクルであり、単剤として投与するか、または1つ以上の他のシステアミン前駆体と組み合わせて投与することができる。いずれの場合も、目標は、治療範囲内の持続的な血中N−アセチルシステアミンおよびシステアミンレベル(例えば、血漿中5マイクロモルより大きく75マイクロモル未満、または10マイクロモルより大きく65マイクロモル未満)を可能な限り長い時間提供することである。
化合物3が単剤として投与されるそれらの実施形態では、それは、好ましくは、少なくとも2つの放出プロファイル:早期放出プロファイルおよび後期放出プロファイルを提供する方法で配合される。早期放出製剤(別名即時放出)は、経口投与後10分以内に化合物3の放出を開始する。後期放出製剤は、約2〜4時間後に相当量の化合物3を放出し始める。2つの製剤は、それらを単一の剤形で一緒に摂取できるように、混合することができる。早期放出用に配合された化合物3の用量と後期放出用に配合された用量の比は、少なくとも1:2であり、最大1:8(例えば、1:2、1:3、1:4、1:5、1:6、1:7、1:8)の範囲であり得る。一実施形態では、早期および後期放出用量成分は、両方ともマイクロビーズとして配合される。2つの放出プロファイルを有するマイクロビーズは、別個に製造され、次いで、所望の比率で一緒に混合されて、剤形(例えば、サシェ)を生成することができる。そのアプローチは、早期対後期放出マイクロビーズの比率が異なる用量の製造を容易にする。2種類のマイクロビーズの異なる比率を使用して、患者のための治療を個別化することができる。
いくつかの実施形態では、化合物3は、3つの放出プロファイル:早期、中期および後期で配合される。早期放出成分は、経口投与後10分以内に化合物3の放出を開始し、中期放出成分は、摂取後約2〜4時間に相当量の化合物3を放出し始め、後期製剤は摂取後約3〜6時間で放出するを開始する。3つの放出成分は、それらを単一の剤形で一緒に摂取できるように、混合することができる。3つの用量成分(早期:中期:後期)の化合物3の比率は、少なくとも1:2:2である。中期および後期成分の化合物3は、独立して、早期成分の量の2〜8倍の間で変動し得るが、後期放出成分は、少なくとも中期放出成分と等しい(例えば、1:2:8、1:4:6、1:4:4、1:5:5、1:6:8など)。一実施形態では、早期、中期、および後期放出用量成分は全てマイクロビーズとして配合され、別個に製造され、次いで、所望の比率(例えば、胃腸および肝臓の生理学に合わせてカスタマイズされた比率)で一緒に混合されて、剤形(例えば、サシェ)を生成することができる。
特定の実施形態では、後期用量成分、または中期および後期用量成分の両方は、胃内での長期滞留のために配合される(胃内滞留性製剤)。他の実施形態では、後期、または中期および後期の両方の用量成分が、持続放出用に配合される。特定の実施形態では、2成分または3成分剤形は、食事、好ましくは少なくとも500カロリー、より好ましくは少なくとも700カロリーを含む食事とともに摂取される。好ましくは、食事は栄養的に複合的であり(例えば、いくつかの種類の自然食品を含有する)、カロリー含有量の少なくとも25%が脂肪に由来する。
化合物3が少なくとも1つの追加のシステアミン前駆体と同時投与されるこれらの実施形態では、少なくとも1つの他のシステアミン前駆体の放出プロファイルを補完する放出プロファイルを提供するように配合され、システアミン前駆体が一緒になって治療範囲内の血漿システアミン濃度を可能な限り長い時間提供する。好ましい実施形態では、化合物3は、投与後の最初の1〜3時間でシステアミンを提供し、少なくとも1つの追加のシステアミン前駆体は、例えば、12時間の投与間隔で、3〜6、3〜8、4〜10、または3〜12時間、システアミンを提供する。そのような実施形態では、化合物3は、即時放出用に配合され得る。特定の実施形態では、化合物3と同時投与される少なくとも1つの追加のシステアミン前駆体は、化合物1またはその薬学的に許容される塩である。
システアミン前駆体からのシステアミン生産の促進剤
本発明の方法および組成物は、システアミン産生の促進剤を利用することができる。システアミンの血中レベルを制御することにおける付加的な柔軟性は、システアミン前駆体を、腸内でシステアミン前駆体をシステアミンに化学的かつ酵素的に分解するため、システアミンを血液中に吸収するため、およびシステアミンが腸、血液、または組織中で迅速に異化されることを防ぐために必要なステップの促進剤と組み合わせることによって達成することができる。これらのいくつかのステップの各々に特異的な促進剤が存在する。したがって、本明細書に説明されるシステアミン前駆体のうちのいずれかは、任意に、システアミン生成もしくは小腸取り込みを促進するか、またはシステアミン分解を遅くする薬剤と同時配合もしくは同時投与するか、または順次投与することができる。
ジスルフィドシステアミン前駆体をシステアミンに変換する第1のステップは、2つのチオールを産生するためのジスルフィドを還元である。胃腸管内の酸化還元環境は、システアミン前駆体をそれらのそれぞれのチオールに定量的に還元し、それによってシステアミン生成を制限するために十分な還元当量を含有しないことがある。例えば、胃液中の還元剤グルタチオンおよびシステインの濃度は、非常に低いか、または検出不能である(Nalini et al.,Biol Int.32:449(1994))。さらに、高用量のパンテチンに関する小規模臨床研究では、パンテテインの多くが便中に変化しないまま排出され、明らかに不完全なジスルフィド結合の還元を反映している(Wittwer et al.,J.Exp.Med.76:4(1985)を参照)。この潜在的な制約に対処するために、還元剤をジスルフィドシステアミン前駆体と同時投与もしくは同時配合するか、またはシステアミン前駆体の前または後に投与することができ、それによりそれらを必要な時間および場所で利用できるようにする。還元剤は、ジスルフィド結合の還元を促進し、2つのチオールを遊離させ得るか、またはチオール−ジスルフィド交換反応を促進することができ、チオール(A)およびジスルフィド(B−C)が反応して、新たなジスルフィド(A−BまたはA−C)およびチオール(BまたはC)を産生し、それによって元のジスルフィド(例えば、システアミン、パンテテイン、またはシステアミンに分解可能な化合物)中のチオールのうちの1つを放出する。
様々な還元剤を使用して、胃腸管でのジスルフィドの還元またはチオール−ジスルフィド交換を促進することができる。還元剤は、ジスルフィドシステアミン前駆体を直接還元するか、または順にジスルフィドシステアミン前駆体を還元するか、もしくはチオール−ジスルフィド交換に関与する、グルタチオンジスルフィドなどの他のジスルフィドを還元することができる。いくつかの実施形態では、還元能力を有する生理学的化合物(すなわち、体内に通常見られる物質)または食品由来の化合物を使用して、ジスルフィドシステアミン前駆体の還元を促進するか、またはチオール−ジスルフィド交換反応を促進することができる。アスコルビン酸(ビタミンC)、トコフェロール(ビタミンE)、またはジチオールジヒドロリポ酸、強力な還元剤などの、通常、体内および食品中に存在し得る他の化合物のように、チオールグルタチオンまたはシステインなどの生理学的還元剤(いずれも胆汁および腸細胞分泌の結果として小腸に存在する)が使用されてもよい。図17に列挙された任意のチオールのように、N−アセチルシステインなどのチオールおよびニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)などの非チオールを含む、他の広く利用可能な還元剤を使用することもできる。好ましい還元剤としては、局所胃腸管酸化還元環境の変化をもたらすために必要な用量で安全であることが知られているものが挙げられる。投与期間あたり、数グラムまで、例えば0.5〜5グラムの還元剤が必要とされ得る。還元剤の同時投与から利益を得ることができるジスルフィドシステアミン前駆体を図13に示す。特に、化合物1〜3は、本明細書に説明されるように、1つ以上の還元剤の同時投与または適切な回数のその後の投与から利益を得ることができる。2つ以上の還元剤を組み合わせてもよい。好ましくは、還元剤は300ダルトン未満の分子量を有する。
成人は、毎日400〜1,000ミリリットル(mL)以上の胆汁を産生し、750mLが、平均量として推定されている(Boyer,Compr.Physiol.3:32(2013))。胆汁は、1日中肝臓で産生される。一部は胆嚢に貯蔵されるが、残りは絶食状態であっても、胆汁の安定したゆっくりとした流れを提供する(胆汁は、排泄機能を果たすとともに消化および脂肪吸収を助ける)。食事は、ペプチドホルモンセクレチンおよびコレシストキニンの十二指腸分泌を刺激し、胆汁産生および胆嚢収縮をそれぞれ刺激する。胆汁中のチオールの濃度は、およそ4mMであり、主にグルタチオンからなるが、ガンマ−グルタミルシステイン、システイニルグリシン、およびシステインも含む(Eberle et al.,J Biol.Chem.256:2115(1981)、AbbottおよびMeister,J.Biol.Chem 258:6193(1984))。
システインおよび、より低い程度で、グルタチオンもまた、管腔内酸化還元能力を調節するために腸細胞によって胃腸管の内腔に分泌される。ラットの空腸からの腸液中のチオール濃度は、胆汁からの寄与とは無関係に直接測定されている。絶食ラットでは、60〜200μM、摂食動物では120〜300μMの範囲である(Hagen et al.,Am.J.Physiol.259:G524(1990)、DahmおよびJones,Am.J.Physiol.267:G292(1994))。さらに、胆汁分泌とは異なり、内腔チオールレベルの維持は動的プロセスであり、それにより酸化分子(例えば、ジスルフィドシステアミン前駆体)の腸レベルの上昇は、少なくともある程度、腸細胞によるシステイン産生の増加によって対抗され得る(Dahm and Jones,J.Nutr.130:2739(2000))。ヒトの小腸は、1日あたり約1.8リットルの流体、結腸は約0.2リットルで合計約2リットルを分泌する。分泌液中のチオール(主にシステイン)の濃度は、胃腸管の領域、内腔の酸化還元能力、および食事によって変化する。
胃腸チオールの総濃度(胆汁および腸細胞由来の両方)は、システアミン前駆体をチオールに変換するために必要なジスルフィド結合の還元および/またはチオール−ジスルフィド交換の速度および程度に影響し、これはシステアミンへの分解における必須の第1ステップである。食事後の上部胃腸管で利用可能な還元等価物の量は、いくつかの仮定を行うことによって推定することができる。例えば、(i)量の多い食事後1時間に200mL、2〜3時間後にさらに100mLの胆汁が分泌され、(ii)胆汁中のチオール濃度が、4mMであると仮定すると、胆汁中のチオール還元力のミリ当量は、0.3L×0.004モル/L=0.0012モルのチオール(1.2ミリモル)になる。さらに、小腸の腸細胞が食事後4時間の間に追加の400ミリリットルを分泌し、200uMのチオール濃度で、0.4リットル×0.0002モル/リットル=80マイクロモルの管腔チオールを付加的にもたらすと仮定する。胆汁チオールと組み合わせると、合計約1.28ミリモルが、食物のジスルフィドを低減し、腸の酸化還元ポテンシャルを維持するために利用可能である。これは、チオール分泌の上限の推定値(かなり大きい場合がある)ではなく、食事後の数時間の小腸におけるチオールの正常レベルの値である。
0.5グラム用量のシステアミン−(R)−パンテテインジスルフィド(MW:353.52g/L)は、約1.41ミリモルのジスルフィド結合を含有し、したがって、原則的に、内在性レベルのチオールによって(他の生理学的目的のために内腔チオールの必要性を無視して)、チオールに変換することができる(ジスルフィド結合の還元またはチオール−ジスルフィド交換のいずれかを介して)。
より一般的には、1.25ミリモル過剰のシステアミン前駆体用量は、外因性還元剤の同時投与から利益を得ることができる。食物中に通常存在する多くの天然産物は、システアミン前駆体の還元またはチオール−ジスルフィド交換を促進する還元力を提供することができ、主要な内在性腸チオールのシステインまたはグルタチオンを含む。N−アセチルシステイン、N−アセチルシステインエチルエステル、またはN−アセチルシステインアミドなどのシステインまたはグルタチオン類似体を使用することもできる。アスコルビン酸は、ジスルフィド結合を還元することができる別の薬剤である(Giustarini et al.Nitric Oxide 19:252(2008))。例えば、1グラムのジスルフィドシステアミン前駆体システアミン−(R)−パンテテインジスルフィドに等しい還元力を提供するために必要なアスコルビン酸の用量は、以下のように計算することができる。
アスコルビン酸の分子量(176.12g/mol)は、化合物1としても知られる、システアミン−(R)−パンテテインジスルフィドの分子量(353.52g/mol)の約半分である。したがって、1グラムのアスコルビン酸は、2グラム用量の化合物1中のジスルフィド結合の数に対して等モルの還元等価物を有する。米国食品栄養委員会が推奨するビタミンCの1日の摂取量は、女性の場合わずか75ミリグラム、男性の場合90ミリグラムであるが、多くの人々は、1日あたり1グラム以上の用量を含む、はるかに多い用量を摂取しており、有害作用は明らかに少ないか、または有害作用がない。
同様の論拠は、化合物1の用量をモル単位で一致させるために必要な他の還元剤の量をもたらす。例えば、システイン(分子量:121.15ダルトン)は、化合物1の質量の約34%であり、N−アセチルシステイン(分子量:163.195ダルトン)は、化合物1の質量の約46%であり、アルファリポ酸(分子量:208.34ダルトン)は、化合物1の質量の約59%であり、以下同様である。アルファリポ酸およびN−アセチルシステインは、非規制状態を示す、持続放出製剤を含めて、それぞれ600および1,000mgのカプセルおよび錠剤中で、ビタミンストアおよびインターネット上で広く入手可能である。それらの分子量に基づいて他のジスルフィドシステアミン前駆体についても同様の計算を行うことができる。
胆汁はチオールの主な供給源であり、胆汁は小腸および大腸の長さに沿って連続的に希釈されるため、システアミン前駆体の還元のための余分な還元力は、空腸、回腸、または結腸において十二指腸よりも有用であり得る。したがって、遠位小腸および/または大腸における還元剤を放出するように設計された製剤は、ジスルフィドシステアミン前駆体の特に有用な補充剤であり得る。アスコルビン酸および他の還元剤の持続放出製剤は、市販されている。あるいは、アスコルビン酸をシステアミン前駆体と同時配合して、両方の薬剤の同時送達を確実にすることができる。
異なる生物学的還元剤と関連した電気化学的能力(還元力)は知られており、それらの使用についてのガイドを提供するが、異なるジスルフィドシステアミン前駆体を還元するそのような薬剤の能力は、経験的に最もよく決定される。
チオール−ジスルフィド交換反応の反応速度は、pHの影響を強く受ける(すなわち、低いpHによって遅くなる)。そのような交換反応は、システアミンをシステアミン混合ジスルフィドから、またはパンテテインをパンテテシンジスルフィドから遊離するためのジスルフィド結合の還元に対する代替機序である。チオール−ジスルフィド交換反応の反応速度を高めるために、塩基性化合物を、ジスルフィドシステアミン前駆体と同時投与または同時配合してもよく、それによりそれらは、必要とされる時間および場所で利用可能になる。重炭酸塩などの生理学的化合物は、膵液中に高濃度で存在し、局所胃腸pHを調節するために使用され得る。
多くのシステアミン前駆体をシステアミンに変換することにおける必須のステップは、ヒトのVNN1およびVNN2遺伝子によってコードされる酵素パンテテイナーゼである。パンテテインおよびパンテテインジスルフィド(パンテチンを含む)は、システアミンを生じるためにこの酵素を必要とする。パンテテイナーゼはまた、最終的に、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、および適切な類似体および誘導体などの、胃腸管でパンテテインに変換可能な化合物からのシステアミン生成のために必要とされる。胃腸管における正常レベルのパンテテイナーゼは、薬理学的用量によって提供される全てのパンテテイン分子を定量的に切断するために十分でない場合がある。この制約に対処するために、パンテテイナーゼ発現を誘導する化合物を、パンテテインまたはパンテテインに変換可能な化合物を含有するシステアミン前駆体と同時投与または同時配合して、必要とされる時間および場所(すなわち、パンテテインが存在する時期および場所)において、胃腸管内のパンテテイナーゼの量を増加させることができる。パンテテイナーゼの発現を誘導する薬剤としては、ある特定の食物成分を含む生理学的物質と、FDA承認された薬物を含む薬剤の両方が挙げられる。VNN1の生理学的誘導因子としては、転写因子NF−E2関連因子−2(より一般的に、頭字語でNrf2と呼ばれる)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体アルファ(PPARアルファ)、およびペルオキシソーム増殖因子活性化受容体ガンマ(PPARガンマ)を介して作用する様々な物質を含む。
Nrf2活性化を誘導する因子(核への移行を介して)としては、天然産物およびある特定の薬物の両方が挙げられる。例えば、ブロッコリー、芽キャベツ、キャベツ、およびカリフラワーなどのアブラナ科野菜に存在するイソチオシアネートであるスルフォラファンは、Nrf2を介してVNN1の発現を誘導する。スルフォラファンが豊富な食品(例えば、芽キャベツ)を使用して、パンテテイナーゼの発現を誘導することができ、またはスルフォラファンを、医薬組成物中の純物質として投与することができる。S−アリルシステインおよびジアリルトリスルフィド(いずれもタマネギ、ニンニク、およびニンニク抽出物中に存在する)を含む、ある特定の食品由来チオールもまたNfr2を誘導し、システアミン前駆体とともに投与される食事に含めることができる。あるいは、いずれかの化合物を純粋な形態で得て、医薬組成物中で投与することができる。一部の多価不飽和脂肪酸、酸化脂肪、オメガ3脂肪酸、および天然に存在する脂質オレイルエタノールアミド(OEA)を含む、ある特定の食品中に存在する脂質もまた、Nrf2および/またはPPARアルファを誘導する。酸化脂肪が豊富な食品としては、フライドポテトおよび他の揚げ物が挙げられ、システアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と同時投与することができる。オメガ3脂肪酸は魚に存在し、魚油抽出物中、および医薬組成物で使用するための純粋な形態で入手可能である。
天然に存在するPPARアルファリガンドとしては、ロイコトリエンB4、8−ヒドロキシエイコサテトラエン酸、およびある特定のファミリーメンバーを含むアラキドン酸およびアラキドン酸代謝産物などの内在性化合物が挙げられる。薬理学的PPARアルファリガンドとしては、フィブラート(例えば、ベンザフィブラート、シプロフィブラート、クリノフィブラート、クロフィブラート、フェノフィブラート、ゲムフィブロジル)、ピリニクス酸(Wy14643)、およびジ(2−エチルヘキシル)フタレート(DEHP)が挙げられる。任意の天然または合成のPPARアルファリガンドは、システアミンを産生するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と同時配合または同時投与され得る。PPARリガンドの概説については、Grygiel−Gorniak,B.Nutrition Journal 13:17(2014)を参照されたい。
天然および合成のPPARGアゴニストを使用して、パンテテイナーゼ遺伝子VNN1および/またはVNN2のNrf2媒介転写を刺激することもできる。天然産物PPARGアゴニストとしては、アラキドン酸および代謝産物が挙げられ、15−ヒドロキシエイコサテトラエン酸(15(S)−HETE、15(R)−HETE、および15(S)−HpETE)、9−ヒドロキシオクタデカジエン酸、13−ヒドロキシオクタデカジエン酸、15−デオキシ−(デルタ)12,14−プロスタグランジンJ2、およびプロスタグランジンPGJ2、ならびにホノキオール、アモルフルチン1、アモルフルチンB、およびアモルファスチルボールを含む。他の天然産物は、PPARGおよびPPARAの両方を活性化し、ゲニステイン、ビオカニンA、サルガキン酸、サルガヒドロキン酸、レスベラトロール、およびアモルファスチルボールを含む。天然産物PPARGアゴニストは、Wang et al.,Biochemical Pharmacology 92:73(2014)に説明および概説されている。薬理学的PPARガンマアゴニストとしては、チアゾリジンジオン(グリタゾンとも呼ばれる、例えばピオグリタゾン、ロシグリタゾン、ロベグリタゾン)が挙げられる。赤身肉由来のヘムもまた、VNN1発現を誘導する。パンテテイナーゼ発現を刺激するPPARAまたはPPARGアゴニストは、パンテテインまたは腸内でパンテテインに分解可能な化合物を含有するシステアミン前駆体と同時投与または同時配合することができる。パンテテイナーゼ発現の2つ以上の誘導因子を組み合わせて、発現を促進するか、または任意の単一薬剤の用量を低減することができる。
システアミンを全身で生物学的に利用可能にする別の重要なステップは、腸上皮全体の吸収である。腸管腔からのシステアミンの取り込みは、輸送体によって媒介され、その天然レベルは腸管腔内の全てのシステアミンを輸送するには十分に高くない場合がある。したがって、システアミン輸送体の発現を誘導する化合物は、システアミン前駆体と同時投与または同時配合してシステアミンの吸収を高めることができる。システアミンは、有機カチオン輸送体1、2、および3によって(OCT1、OCT2、およびOCT3遺伝子によってコードされ、SLC22A1、SLC22A2、およびSLC22A3遺伝子とも呼ばれる)、ならびに恐らくは他の輸送体タンパク質によって腸上皮全体に輸送される。有機カチオン輸送体発現の誘導因子としては、転写因子PPARアルファおよびPPARガンマ、プレグナンX受容体(PXR)、レチノイン酸受容体(RAR)、および(OCT1の場合)RXR受容体、ならびにグルココルチコイド受容体が挙げられる。したがって、これらの受容体の天然または合成リガンドのいずれかを使用して、OCT発現を増加させ、結果として腸上皮細胞によるシステアミンの取り込みを促進することができる。システアミン輸送体(複数可)の発現を刺激する薬剤は、任意の種類のシステアミン前駆体と同時投与または同時配合されてもよい。
人体におけるシステアミンの排出半減期(Cmaxから静脈内ボーラス後の半Cmaxまでの時間)は、約25分である。システアミンの用量の一部は、遊離システインとの、タンパク質のシステイニル残基との、およびグルタチオンとの混合ジスルフィドを含む、種々のジスルフィドに変換される。薬理学的介入は、その排出の様式を防止することができず、いずれの場合でもシステアミンのプールがさらなるジスルフィド交換のために利用可能なままである。しかしながら、システアミンを不可逆的に変換し、それを効果的に身体から除去する、システアミン異化経路がある。システアミンをヒポタウリンに酸化する酵素システアミンジオキシゲナーゼは、システアミン排出において重要な因子である。その後、ヒポタウリンは、タウリンへとさらに酸化される。システアミン前駆体とこれらの異化産物の一方または両方との同時投与は、最終産物の阻害によってシステアミン異化を遅らせる場合がある。したがって、ある特定の実施形態では、システアミン前駆体は、ヒポタウリンおよび/またはタウリンとの最適な時間的順序で同時配合、同時投与、または投与される。
図13は、チオール構成体、生成され得るシステアミン分子の数、システアミンを生成するために必要な代謝ステップ、インビボシステアミン生成の潜在的に有用な促進剤、およびシステアミン放出プロファイルに基づくシステアミン前駆物質の分類を示す。システアミン輸送体(複数可)のより高い発現を誘導する化合物(図13には示されていない)は、全ての種類のシステアミン前駆体に有用である。腸内容物をアルカリ化し、それによってチオール−ジスルフィド交換および/またはジスルフィド結合の還元を促進する化合物(図13には示されていない)は、ジスルフィドシステアミン前駆体に有用である。
要約すると、システアミン血中レベルの制御における柔軟性は、(i)選択された特性を有する1種以上のシステアミン前駆体、(ii)インビボシステアミン前駆体分解および/またはシステアミン吸収の1種以上の促進剤、(iii)システアミン異化の1種以上の阻害剤、(iv)1種以上の製剤(例えば、即時、遅延、持続、胃内滞留性、もしくは結腸標的、または組み合わせ)を用いる、および(v)効果的に分解および吸収され得る量での、システアミン前駆体(複数可)および促進剤(複数可)の胃腸管の標的化セグメントへの最適な同時送達を可能にする投与スケジュールの同時配合または同時投与によって達成され得る。これらのツールの個別化された適用の結果は、システアミン血中レベルを治療範囲内に長期間維持し、既存の化合物および製剤と比較して、疾患に対する優れた薬理学的効果をもたらす。
医薬組成物
本発明は、(i)システアミンの高いピーク濃度と関連した副作用を低減するため、(ii)システアミンの治療量以下のトラフ濃度によって引き起こされる治療不十分を低減するため、および(iii)患者の便宜性を改善し、したがって1日あたりの投与回数を減らすことによって治療法を遵守するために、長期間にわたってシステアミンの治療上有効な血漿濃度を達成するように配合された組成物を提供する。本発明の化合物および製剤はまた、(i)既存のシステアミン製剤と比較して、改善された感覚刺激特性を提供し、(ii)胃腸副作用の既知の原因である、遊離システアミンと胃上皮との接触を低減し、(ii)用量および送達部位(複数可)を胃腸管における関連する消化および吸収プロセスと一致させることによって、治療的システアミン血中レベルを達成するために必要とされるシステアミン前駆体の用量を最小限にするように設計され、この目的は、(iii)システアミン前駆体の分解および吸収を、それらのプロセスの促進剤との同時配合または同時投与によって最適化することによって達成され得る。
本発明の組成物の場合、システアミン前駆体またはその塩の、口内での曝露を防止するために、全ての製剤に薬学的賦形剤が含まれる。苦味または他の不快な味をマスキングするための配合方法としては、いくつかの層に塗布することができるコーティングが挙げられる。香味剤および染料を使用することもできる。許容される口あたりおよび/または味を有する医薬組成物を産生する方法は、当該分野で知られている(例えば、他の箇所で引用されている薬学的製剤の教科書を参照。特許文献はまた、感覚刺激的に許容される医薬組成物を産生するための方法を提供する(例えば、米国特許公開第2010/0062988号を参照。)
胃内滞留性組成物
第1の組成物は、胃内滞留性製剤中でシステアミン前駆体またはその塩を提供する。様々な胃内滞留技術が当該分野で知られており、そのいくつかは市販製品において良好に使用されている。概説については、例えば、Pahwa et al.,Recent Patents in Drug Delivery and Formulation,6:278(2012)、およびHou et al.,Gastric retentive dosage forms:a review.Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems 20:459(2003)を参照されたい。
胃内滞留性製剤は、胃内でシステアミン前駆体の持続放出を提供する。その後のインビボでのシステアミン前駆体の種類に応じて、システアミン生成は、胃で、またはシステアミンが最も効率的に吸収される組織である小腸で開始し得る。いくつかのシステアミン前駆体は、たとえ胃または小腸において医薬組成物から放出されたとしても、大腸においてシステアミンに変換され続けることがある。例えば、胃で放出されるジスルフィドシステアミン前駆体は、主に胃の酸性、酸化性環境において酸化状態で残る場合があり、小腸で還元剤(例えば、胆汁グルタチオン)に遭遇した後にシステアミンを放出し始める。胃内滞留性組成物は、摂取後1〜4時間、好ましくは1〜6時間、より好ましくは1〜8時間、1〜10時間、またはそれ以上の間に、上昇した血中システアミンレベルを生じる。
システアミン重酒石酸塩に推奨されるものとは反対に(例えば、Procysbi(登録商標)FDA完全処方情報を参照)、システアミン前駆体の胃内滞留性製剤は、食品とともに、好ましくは、胃排出を遅らせるために十分なカロリー含有量および栄養素密度を含む食事とともに投与されるべきである。栄養素稠密な食事は、小腸において(および胃ではより低い程度で)浸透圧受容体および化学受容体を誘発し、これが胃の運動性を低下させ、それによって排出を遅延させる神経およびホルモンシグナルを刺激する効果を有する。胃排出を遅らせることは、胃内滞留性組成物の効果を延長するための機序である。しかしながら、大量の食物または液体で胃を満たすことは、胃の運動性を促進し、排出速度を上げる傾向があり、したがって、栄養素密度は、容量よりも重要な食事の特性である。十二指腸に排出する前に幽門洞および幽門内で小さな粒子に粉砕しなければならない固体食品は、液体または半液体食品と比較して胃の滞留を延長する。液体食品の中で、高粘度の液体は、低粘度の液体と比較して胃排出を遅らせることができる。高浸透圧内容物を有する食品は、十二指腸浸透圧受容体を誘発して、胃排出を遅らせる信号を伝達する。胃内のシステアミン前駆体の放出(例えば、胃内滞留性製剤からの)は、胃内容物、したがって十二指腸内容物の浸透圧を増加させることができる。
ある特定の実施形態では、ジスルフィドシステアミン前駆体は、胃の酸性、酸化環境がジスルフィドを酸化形態で維持する傾向があり、それによってシステアミン毒性の原因の1つと考えられる胃上皮のシステアミンへの曝露を制限するため、胃内滞留性製剤に好ましい。十二指腸に入り、高(ミリモル)濃度のグルタチオン、システイン、および他の還元剤を含有する胆汁と混合すると、ジスルフィドは還元され、それによってパンテテイナーゼに曝露される場所、およびシステアミン輸送体が腸細胞上で発現される場所で、遊離チオールを産生する。
小腸における脂肪の存在は、胃排出の最も強力な既知の阻害剤であり、幽門領域における近位の胃の弛緩および収縮の減少につながる。脂肪が小腸において吸収され、もはや胃への阻害シグナルを誘発しなくなると、胃の運動は正常なパターンを再開する。したがって、胃内滞留性製剤は、理想的には、脂肪食品を含む食事とともに投与され得る。タンパク質が豊富な食事もまた、より低い程度で、炭水化物が豊富な食事はさらに低い程度で、胃排出を遅くする。
胃内滞留性組成物はまた、ある特定の脂質を含む、胃排出を遅らせる化合物とともに投与することができ、例えば少なくとも12個の炭素原子を有する脂肪酸は、腸内分泌細胞からのコレシストキニン放出を刺激し、胃の運動を低下させるが、より短い炭素細胞を有する脂肪酸は、それほど効果的ではない。いくつかの実施形態では、食物または食事には、炭素鎖が12以上の脂肪酸(例えば、オレイン酸、ミリスチン酸、ミリスチン酸トリエタノールアミン、脂肪酸塩)を含む脂肪酸またはトリグリセリドが補充されてもよい。
脂肪およびタンパク質は、それらが十二指腸に達すると、グレリン、コレシストキニン(CCK)、およびグルカゴン様ペプチド1(GLP1)を含むいくつかの腸ホルモンの分泌を刺激する。CCKは、CCK1受容体(CCK1R、以前はCCK−A受容体と呼ばれていた)に結合することによって胃排出を遅らせる。いくつかの実施形態では、経口的に活性なCCKアゴニストまたは模倣物、CCK1Rの正のアロステリック調節剤、または内在性CCKの放出を促進する、もしくはCCK分解を阻害する薬剤、またはそうでなければそれらの機序もしくは他の機序のいくつかの組み合わせによってCCK作用を延長する薬剤は、胃内滞留性組成物とともに投与され、胃排出を遅らせ、胃内滞留組成物の胃滞留を延長させる。CCKは、8アミノ酸から53アミノ酸までの範囲のいくつかの形態(例えば、CCK−8、CCK−53)で存在するペプチドである。ペプチドの経口投与は、それらが胃腸管で消化されるため有効ではない。小分子CCKアゴニストは、いくつかの研究グループによって開発され、試験されている。例えば、SR−146、131および関連化合物は、Sanofiの科学者によって開発された(米国特許第5,731,340号および同第6,380,230号、参照により本明細書に組み込まれる)。
ある特定のプロテアーゼ阻害剤は、CCK産生もしくは放出を誘導するか、またはその半減期を延長するか、またはそうでなければ食物由来の混合物および純粋な化合物の両方を含むその効果を増強する。例えば、ジャガイモ由来のプロテアーゼ阻害剤濃縮物の摂取は、大豆ペプトンおよび大豆ベータ−コングリシニンペプトンの摂取と同様に、CCKレベルの上昇と関連する。カモステートは、内在性CCK放出の刺激、および結果的に胃排出の減速を含む、多面発現効果を有する合成プロテアーゼ阻害剤である。メシル酸カモスタットは、ヒトにおいて広範に使用されている薬学的塩である。FOY−251は、カモスタットの活性代謝産物である。いくつかの実施形態では、CCK産生もしくは放出を刺激する、またはCCK半減期を延長する、またはそうでなければCCK効果を増強する薬剤は、胃排出を遅らせる量の胃内滞留性組成物と同時配合または同時投与される。いくつかの実施形態では、カモスタット、FOY−251、またはカモスタットのプロドラッグ、誘導体、もしくは活性代謝産物、またはその薬学的に許容される塩は、胃内滞留性組成物と、50〜300mg/kgまたは100〜250mg/kgの範囲の量で同時配合または同時投与される。
胃排出もまた、粥状液の酸性化によって遅くなる。例えば、クエン酸および酢酸は、胃排出を遅延させることが示されている。いくつかの実施形態では、食物または食事としては、クエン酸の天然源(例えば、オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツ、もしくは他の柑橘類の豊富な果物の果肉もしくは果汁)、または酢酸(例えば、酢、ピクルス、もしくは他の漬けた野菜)、または乳酸(例えば、ザワークラウトもしくはキムチ)が挙げられる。いくつかの実施形態では、胃粥状液のpHをpH4より下またはpH3.5より下に低下させるために十分な量の酸性食品または液体の量は、胃内滞留性組成物とともに投与される。
グルカゴン様ペプチド−1(GLP1)は、食物、特に摂取した脂肪に応答して十二指腸内の細胞によって放出され、胃排出に影響を及ぼす別の腸ホルモンである。経口投与されたGLP1受容体アゴニストは、いくつかの研究グループによって発見されている(例えば、Sloop et al.,Diabetes 59:3099(2010))。GLP1受容体の正のアロステリック調節剤(アゴニスト自体ではないが、内在性GLP1を増強する)は、別のカテゴリーのGLP1R刺激剤である(例えば、Wootten et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.336:540(2011)、Eng et al.,Drug Metabolism and Disposition 41:1470(2013)、また各々が参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第2006/0287242号、同第2007/0021346号、同第2007/0099835号、同第2013/0225488号、および同第2013/0178420号も参照されたい)。内在性GLP1の存在下でGLP−1受容体シグナル伝達を正に調節する化合物の中には、GLP−1受容体上のアロステリック部位に結合し、内在性リガンド(ペプチドであるGLP−1は、いくつかの形式で存在する。)の結合の際に受容体シグナル伝達に正の影響を及ぼすことによって作用する、ケルセチンがある。いくつかのケセルチン類似体もまた、内在性GLP1の正の調整剤である。ケルセチンは、多くの果物、野菜、葉類、および穀物に存在するフラボノールである。それは健康補助食品、飲料、および食品の成分として使用されている。いくつかの実施形態では、GLP−1受容体アゴニストまたはGLP−1の正のアロステリック調節剤は、胃排出を遅延させるために十分な量で胃内滞留性組成物と同時配合または同時投与される。いくつかの実施形態では、GLP−1受容体アゴニストまたは正のアロステリック調節剤は、ケルセチンまたはケルセチンの類似体、誘導体、または活性代謝産物である。ある特定の小分子薬物はまた、胃排出時間を遅らせることができ、胃内滞留性組成物と同時投与または同時配合することもできる。
胃排出もまた、粥状液の酸性化によって遅くなる。例えば、クエン酸および酢酸は、胃排出を遅延させることが示されている。いくつかの実施形態では、食物または食事としては、クエン酸の天然源(例えば、オレンジ、グレープフルーツ、もしくは他の柑橘類の豊富な果物)、または酢酸(例えば、酢、ピクルス、もしくは他の漬けた野菜)、または乳酸(例えば、ザワークラウトもしくはキムチ)が挙げられる。いくつかの実施形態では、酸性食品または液体を胃内滞留性組成物とともに投与することによって、粥状液のpHを4より下または3.5より下に低下させる。
米国特許第8,741,885号は、活性薬学的成分をオピオイドと組み合わせることによって、胃内滞留性医薬組成物(例えば、浮遊性、膨潤性、または粘膜付着性組成物)の胃内滞留を延長するための方法を説明している。同時配合オピオイドの目的は、胃排出を遅らせることである。胃不全麻痺、または深刻なうっ血性胃腸運動は、オピオイド療法のよく知られた潜在的に重篤な合併症である。
持続放出組成物
第2の組成物は、非胃内滞留性持続放出製剤中のシステアミン前駆体またはその塩を提供する。持続放出製剤は、当該分野において周知である:Wen,H.およびPark,K.(編)Oral Controlled Release Formulation Design and Drug Delivery:Theory to Practice.Wiley,2010、Augsburger,L.L.およびHoag,S.W.(編)Pharmaceutical Dosage Forms−Tablets,第3巻:Manufacture and Process Control.CRC Press,2008。持続放出成分は、錠剤、粉末、または微粒子が充填されたカプセルであってもよい。任意に、粒子は、サイズ、組成物(例えば、持続放出ポリマーの種類もしくは濃度)、またはコーティング剤の種類もしくは厚さ、またはコーティング剤の複数の層でコーティングされた場合の層の数および組成物が異なっていてもよく、それにより薬物が、異なる速度または異なる開始時間に個々の粒子から放出され、それによって全ての粒子が実質的に同一である製剤と比較して、長期間にわたる薬物放出を凝集体において提供する。持続放出製剤は、任意に、胃での溶解を防止するpH感受性材料(腸溶性コーティングと呼ばれる)でコーティングされてもよい。単一組成物中の微粒子は、1種以上のコーティング剤の種類または厚さが異なっていてもよい。例えば、コーティングが溶解するpHは、異なっていてもよい。そのような混合組成物に使用される2種以上の微粒子は、厳密な仕様に分けて別々に製造され、次いでインビボでの長期薬物放出を達成する比でブレンドされてもよい。
持続放出組成物は、胃および/または小腸(腸溶性コーティングされている場合は前者ではない)におけるシステアミン前駆体の長期放出をもたらし、結果としてインビボでのシステアミン生成を持続させることができる。持続放出製剤は、平均胃通過時間および小腸通過時間の合計にほぼ等しい期間、例えば、絶食状態で投与される場合は3〜5時間、食物または食事とともに投与される場合は5〜8時間にわたって薬物を放出するように設計することができる。あるいは、持続放出製剤は、大腸でシステアミン前駆体を放出し続けるように、平均胃通過時間および小腸通過時間の合計よりも長く薬物を放出するよう設計することができる。いくつかの実施形態では、そのような持続放出組成物は、絶食状態で投与した場合に4〜8時間、または食事とともに投与した場合に6〜10時間またはそれ以上にわたってシステアミン前駆体を放出することができる。
持続放出製剤は、摂取後1〜4時間、好ましくは1〜6時間、より好ましくは1〜8時間、さらに好ましくは1〜10時間またはそれ以上にわたって血中システアミンレベルの上昇をもたらし得る。システアミン前駆体の持続放出製剤は、食物とともに、または食事の間に、および任意にシステアミン前駆体分解またはシステアミン吸収の促進剤とともに投与することができる。食品は、遊離システアミン、特に脂肪性食品の吸収を阻害する傾向があり、システアミン塩を空腹時に摂取することが一般的に推奨されるが、少量のアップルソースまたは類似の食品は許容される。
混合製剤
いくつかの組成物は、必然的に、主に薬物放出の速度を制御するものと、主に薬物放出の解剖学的部位を制御するものとの2つの種類の製剤の要素を有する。例えば、胃内滞留性製剤は、常に持続放出製剤中に薬物を含有する。そうでなければ、長期胃内滞留には何の意味もない。しかしながら、単一の胃内滞留性製剤中に即時放出成分および持続放出成分を組み合わせる方法がある。例えば、即時放出成分は、胃で急速に溶解するか、または急速に崩壊する外層を形成することができ、本明細書に説明される胃内滞留機序のうちの1つ以上によって胃に残留するコア持続放出成分を残す。しかしながら、全ての種類の製剤を生産的に組み合わせることはできない。例えば、腸溶性コーティングされた胃内滞留性製剤は、胃内で薬物を放出するように胃内滞留性製剤が設計されており、胃内放出が酸性媒体での溶解に対して耐性があるコーティングによって遮断されるため、逆効果である。
異なる時間的または解剖学的薬物放出プロファイルを有する組成物は、適切なシステアミン前駆体と、および任意にシステアミン生成または吸収の促進剤と組み合わせた場合、治療範囲内の血中システアミンレベルを0.5〜6時間、より好ましくは0.5〜8時間、最も好ましくは0.5〜12、0.5〜15時間、またはそれ以上にわたってもたらす。製剤の生産的組み合わせの例としては、最大2種までの薬物放出成分を含む混合製剤、ならびにインビボでのシステアミン生成および吸収の量およびタイミングを個々の患者のニーズに対して調整するために様々な量および比で組み合わせることができる別々に配合された組成物が挙げられる。
第3の組成物は、小腸でのシステアミン前駆体またはその塩の遅延放出用に配合された第1の腸溶性コーティング成分と、小腸および大腸の近位部分全体でのシステアミン前駆体またはその塩の持続放出用に配合された腸溶性コーティングされた微粒子の第2成分との混合製剤を提供する。この混合製剤は、最初に血液中の上昇したシステアミンレベルを達成するために第1の成分を提供し、第2の成分は、経時的に血液中のシステアミンレベルを維持する。
第4の組成物は、(i)システアミン前駆体またはその塩の持続放出胃内滞留性製剤と、(ii)胃で薬物を放出するように設計されたシステアミン前駆体またはその塩の即時放出製剤と、を含む、混合製剤を提供する。混合製剤の第2の成分は、組成物の外面上にあり、胃内容物と接触すると直ちに溶解し始める。それは、胃では必ずしもそうではないが、システアミンを生成する最初のものである。第1の(胃内滞留性)成分は、胃でのシステアミン前駆体の長期放出をもたらし、続いて小腸全体にわたるインビボでのシステアミン生成、およびシステアミン前駆体の特性に応じて大腸内への生成をもたらす。2つの成分からのシステアミンのインビボ生成および吸収を合わせたものは、混合組成物の投与後1時間以内に開始し、少なくとも5時間、好ましくは治療濃度範囲内で8、10、12時間、またはそれ以上にわたって持続する。
第5の組成物において、第1の成分は、胃での即時放出用に配合され、システアミン前駆体、好ましくはシステアミン混合ジスルフィドもしくはパンテテインジスルフィド、またはその塩を含み、第2の成分は、システアミン前駆体、またはその塩の持続放出用に配合される。第1の成分は、第1の成分の溶解または崩壊後に第2の成分が無傷のままであるように、組成物の外面上にある。この第5の組成物の混合製剤は、即時放出成分からの血漿システアミン濃度の初期上昇を生じ、6時間、8時間、10時間、またはそれ以上のインビボでのシステアミン産生の継続により、第2の(持続放出)成分からのシステアミンの上昇したレベルを維持することができる。胃から大腸までの胃腸管に沿ったシステアミン前駆体(またはいくつかの異なるシステアミン前駆体)の放出は、システアミン前駆体の量を、腸の全てのセグメントにおけるパンテヘチナーゼおよびシステアミン輸送体のレベルと一致させることを可能にし、それによってシステアミンの生成および吸収を最大にする。システアミンの連続的な小腸生成および吸収は、曝露を延長するための高いCmaxに依存することを回避し、それによって高いピークレベルに伴うシステアミン副作用を低減する。したがって、システアミン前駆体の混合製剤は、システアミンの作用に感受性のある多数の障害に対するシステアミンの投与を可能にする。
第6の組成物において、第1の成分は、胃での即時放出用に配合され、システアミン前駆体、好ましくはシステアミン混合ジスルフィドもしくはパンテテインジスルフィド、またはその塩を含み、第2の成分は、回腸および/または結腸でのシステアミン前駆体、またはその塩の持続放出用に配合される。この第6の組成物の混合製剤は、第1ピークが急速に減少する頃に、即時放出成分からの血漿システアミンレベルの初期上昇、ならびに回腸および結腸標的成分からの血漿システアミンレベルの第2の上昇をもたらすことができる。第2の成分は、食品の有無にかかわらず投与されたかどうかに応じて、投与から4〜8時間後にシステアミン前駆体を放出し始めることができる。胃から大腸までの胃腸管に沿ったシステアミン前駆体(または異なるシステアミン前駆体)の制御放出は、システアミン前駆体の量を、腸の全てのセグメントにおけるパンテヘチナーゼおよびシステアミン輸送体のレベルと一致させることを可能にし、システアミンの生成および吸収を最大にする。
化合物
本発明の薬学的に許容される組成物は、1種以上のシステアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩(複数可)を含む。本発明の塩としては、限定されないが、アルカリ金属、例えば、ナトリウム、カリウムの塩;アルカリ土類金属、例えば、カルシウム、マグネシウム、およびバリウムの塩;ならびに有機塩基、例えば、アミン塩基および無機塩基の塩が挙げられる。例示的な塩は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,17th ed.,Mack Publishing Company,Easton,Pa.,1985,p.1418、Berge et al.,J.Pharmaceutical Sciences 66:1(1977)、およびPharmaceutical Salts:Properties,Selection,and Use(P.H.StahlおよびC.G.Wermuth編),Wiley−VCH,2008に見出され、その各々は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
本発明の組成物は、投与後の最初の4時間以内、好ましくは投与後の最初の2時間以内、および最も好ましくは最初の1時間以内に治療範囲内のシステアミンの血漿濃度を達成するために、胃内滞留性製剤または混合製剤の成分中にシステアミン前駆体またはその塩を含むことができる。システアミン血漿濃度は、好ましくは少なくとも5時間、好ましくは6時間、より好ましくは8時間、10時間、またはそれ以上にわたって治療範囲内に留まる。この製剤は、酵素的に分解してパンテテインなどのシステアミンを産生することができるチオールシステアミン前駆体、または4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aなどの胃腸管内でパンテテイン(およびそれからシステアミン)に分解することができる化合物、または胃腸管内でパンテテイン(および次いでシステアミン)に分解することができるその誘導体またはプロドラッグを含んでもよい。あるいは、システアミン前駆体は、システアミンまたは分解してシステアミンを産生することができる化合物を、別のチオール含有有機硫黄化合物と反応させてジスルフィド化合物を形成することによって形成されてもよい。ジスルフィドシステアミン前駆体またはその塩は、システアミンを、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、もしくはN−アセチルシステアミンなどのチオールシステアミン前駆体を反応させることによって、またはシステアミンを、N−アセチルシステイン(NAC)、N−アセチルシステインアミド、N−アセチルシステインエチルエステル、ホモシステイン、グルタチオン(GSH)、アリルメルカプタン、フルフリルメルカプタン、ベンジルメルカプタン、チオテルピネオール(グレープフルーツメルカプタン)、3−メルカプトピルビン酸、L−システイン、L−システインエチルエステル、L−システインメチルエステル、チオシステイン、システイニルグリシン、ガンマ−グルタミルシステイン、ガンマ−グルタミルシステインエチルエステル、グルタジオンモノエチルエステル、グルタチオンジエチルエステル、メルカプトエチルグルコンアミド、チオサリチル酸、チオプロニン、またはジエチルジチオカルバミン酸を含む他のチオールと反応させることによって形成することができる。チオールシステアミン前駆体またはシステアミンは、ジヒドロリポ酸、メソ−2,3−ジメルカプトコハク酸(DMSA)、2,3−ジメルカプトプロパンスルホン酸(DMPS)、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール(ジメルカプロール)、ブシラミン、またはN,N′−ビス(2−メルカプトエチル)イソフタルアミド(BDTH2)などのジチオールと反応させて、ジスルフィドシステアミン前駆体を形成することもできる。ジスルフィドシステアミン前駆体を形成するために使用することができるチオールの一覧については図17を、ジスルフィドシステアミン前駆体を形成するために結合することができるチオールの対を要約する表については図18〜21を参照されたい。システアミン前駆体を形成するのに適した他のチオールは、当該分野において知られている。例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれるPCT特許公開第WO1993/006832号は、中でもN,N−ジメチルシステイン、チオコリン、アミノプロパンチオール、アミノブタンチオール、およびアミノペンタンチオールを含む、図17に含まれない追加の有用なチオールを開示する
形成されたジスルフィドは、使用されるシステアミン前駆体の特性(例えば、システアミンを形成するために必要とされる分解ステップの数)に依存して、胃でのシステアミンの放出を遅延させ、および/またはその小腸でのインビボ生成および吸収を促進し得る。図13は、システアミン前駆体の分類を示し、選択された薬理学的に関連する特性を要約する。図18〜図21は、多くのジスルフィドシステアミン前駆体のシステアミン収率に関する情報を提供する。胃は一般に、小腸よりも酸化的かつ酸性の環境である。胃内容物が十二指腸に入ると、それらは胃酸を中和する重炭酸塩を含有する膵液、およびミリモル濃度の生理学的還元剤グルタチオンならびにシステインを含む関連チオールを含有する胆汁と混合する。その結果、ジスルフィドは、胃で酸化されたままである傾向があり、小腸において還元されるか、またはチオールとのジスルフィド交換反応に関与する可能性が高くなる。ジスルフィド交換反応は、一般に、チオール型よりもはるかに求核性であるチオレートイオンによって触媒され、チオレートイオンの形成は、胃の酸性環境では好ましくない。
例えば、チオールシステアミン前駆体であるパンテテインは、ホモ二量体ジスルフィドを形成することができ、ここで2つのパンテテインが共有結合してパンテチン(ジスルフィドシステアミン前駆体)を形成する。いくつかの好ましい実施形態では、システアミン前駆体は、例えば、システアミンをパンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aのいずれかと接合することによって形成される混合システアミンジスルフィドによって、または4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、もしくは補酵素Aのいずれかでパンテテインを酸化することによって形成される対応する混合パンテテインジスルフィド、または胃腸管内で親化合物に変換可能な好適なプロドラッグもしくは類似体によって提供されるように、複数のシステアミンを提供する。また、4−ホスホパンテテインは、デホスホ補酵素Aもしくは補酵素Aにジスルフィド結合され得るか、またはデホスホ補酵素Aは、ジスルフィド結合して、システアミン前駆体をインビボで2種のシステアミンを生じることができるようにすることができる。図13は、異なるクラスのシステアミン前駆体からインビボで生成され得るシステアミンの数を示す。図18〜図21は、特異的なジスルフィドシステアミン前駆体を示す。インビボで2つのシステアミンを生じるものが表の上部に列挙され、システアミンを生じるために必要とされる分解ステップの数と同様に、各ジスルフィドについてのシステアミンの画分収率(パーセント)も示される。いくつかの実施形態では、システアミンまたは有機硫黄の反応性チオール基は、アセチル基、エステル基、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)、および/または葉酸塩などの置換基を含むように修飾することができる。
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、胃内滞留性製剤の成分および/または混合製剤の成分中のパンテテイン、パンテテイン含有パンテテイン、またはその塩を含み、投与後5〜10時間以上にわたってシステアミンの上昇した血中レベルを持続することができる。組成物は、親化合物の少なくとも1つのシステアミンへの化学的還元または酵素的変換を必要とするシステアミン前駆体であってよく、それによってシステアミンの放出を遅延させる。この製剤は、パンテテインまたは胃腸管内でパンテテインに分解され得る化合物(例えば、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A;総称してパンテテイン前駆体)を含んでもよく、パンテテインのチオール基またはパンテテイン前駆体を別の有機硫黄化合物のチオール基と反応させて、ジスルフィド化合物を形成する。パンテテイナーゼは胃よりも腸内でより高いレベルで発現され、小腸の管腔は、胃よりも還元環境であるため、ジスルフィドシステアミン前駆体のパンテテイン成分は、小腸でシステアミンに変換され、その後吸収される。例えば、パンテテインは、2つのパンテテインが共有結合してパンテチンを形成する、ホモ二量体ジスルフィドを形成することができる。パンテテイン含有システアミン前駆体はまた、パンテテイン混合ジスルフィドを含むことができ、パンテテインチオールは、チオール基と反応してジスルフィドを形成する。好ましい実施形態では、パンテテイン前駆体は、例えば、システアミンおよびパンテテインから形成される混合ジスルフィドによって(これは、還元され、続いてパンテテイナーゼによって切断されると、2つのシステアミンおよび1つのパントテン酸を生じる)、または混合ジスルフィドパンテテイン−補酵素Aによって(還元され、続いて分解され、次いでパンテテイナーゼによって切断されると、2つのシステアミン、2つのパントテン酸、およびADPを生じる)提供されるような2つ以上のシステアミンを提供する。腸内で分解すると2つのシステアミンを生じる他のジスルフィドシステアミン前駆体を図18〜21に示す。いくつかの実施形態では、パンテテインまたは有機硫黄化合物の反応性チオール基は、アセチル基、メチルエステル、エチルエステル、グルタミル、スクシニル、フェニルアラニル、ポリエチレングリコール(PEG)および/または葉酸塩などの置換基を含むように修飾されてもよい。
システアミンを生成するためにパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体と、システアミンを生成するために化学的還元のみを必要とするシステアミン前駆体(システアミン混合ジスルフィド)との区別は、適切に還元する環境が腸内に存在する(または薬理学的に作成され得る)ことを条件として、前駆体化合物の、システアミンへの変換の反応速度が、一般に第2のカテゴリーでより迅速であるため重要である。還元に続いてパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体(例えば、パンテチン)と、最初に還元、次いでパンテテインへの分解、次いでパンテテイナーゼ切断を必要とするシステアミン前駆体(例えば、4−ホスホパンテチン、デホスホ補酵素A、または補酵素Aを含有するジスルフィド)とをさらに区別することができる。後者のクラスのジスルフィドシステアミン前駆体によって必要とされる付加的な分解ステップ(複数可)は、システアミン産生の期間を、より長い期間にわたって遅くし、延長する。
本発明の化合物は、化学合成の分野の当業者に知られている様々な方法で調製することができる。システアミン、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、または補酵素A、および他のチオール(図17参照)を含むチオールを調製する方法は、当該分野で周知である。補酵素A、パンテチン、N−アセチルシステアミン、およびグルタチオンは、栄養補助食品として市販されている。図17の他のチオールのほとんどは、化学会社から容易に入手できる。
システアミン前駆体の合成
チオールおよびジスルフィドシステアミン前駆体の両方を含む本発明の化合物は、Mandel et al.,Organic Letters,6:4801(2004)に説明されているものなどの、当該分野において知られている方法および手順を用いて容易に入手可能な出発材料から調製することができる。パンテチンの製造方法は、米国特許第3,300,508号および第4,060,551号に説明されており、これらの各々は、参照により本明細書に組み込まれる。液体のパンテテインを固体に変換する方法は、日本特許公開第JP−A−S50−88215号およびJP−A−S55−38344号に開示されている。典型的または好ましいプロセス条件(すなわち、反応温度、時間、反応物のモル比、溶媒、圧力等)が示されている場合、他に記載のない限り、他のプロセス条件を使用することもできることが理解されるであろう。最適な反応条件は、使用される特定の反応物または溶媒によって変化し得るが、そのような条件は、当業者が日常的な最適化手順によって決定することができる。
好ましい実施形態では、本発明の組成物は、1つ以上のジスルフィドシステアミン前駆体を含む。酸化形態のチオールであるジスルフィドは、高価な試薬または装置なしに構成体チオールから容易に形成される。さらに、ジスルフィドは、空気に曝露されたチオール化合物の長期安定性を制限し得る酸化の影響を受けない。したがって、製造、コスト、貯蔵コスト、出荷、および患者の便宜(すなわち、長い貯蔵寿命)に関して、ジスルフィド形態のシステアミン前駆体は、チオール形態よりも好ましい。
いくつかの実施形態では、混合ジスルフィドシステアミン前駆体は、2つの異なるチオールが接合し、3つの反応産物を形成することにより合成され、チオールAおよびBは、接合してジスルフィドA−A、A−B、およびB−Bを形成することができる。例えば、システアミンをパンテテインを反応させることによって形成されるジスルフィドは、システアミン−システアミン(シスタミンと呼ばれる)、システアミン−パンテテイン、およびパンテテイン−パンテテイン(パンテチンと呼ばれる)を含む。3つの化合物は全て、システアミンを提供することにおいて有用であり、実際に各化合物をシステアミンに変換することに関与する異なるステップは、システアミンがジスルフィド結合の還元によって、または還元ステップと酵素的分解ステップの組み合わせによってインビボで生成される期間を延長することによって薬理学的に有益であり得る。したがって、精製なしに(未反応のチオールおよび/または溶媒などの不要の不純物を除去することを除いて)3つの酸化産物全てを同時配合することは、薬理学的に有用であり得る。これは特に、2つの反応したチオールがそれぞれシステアミン(例えばパンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、N−アセチルシステイン、または適切な類似体およびプロドラッグ)に変換可能である場合、またはシステアミン自体をシステアミンに変換可能なチオールと反応させる場合に該当する。結果として、ある特定の実施形態では、各々がシステアミンに変換可能な(またはそれらのうちの1つがシステアミンである)2つの異なるチオールを反応させることによって形成される3つのジスルフィドは全て、単一の組成物中に同時配合される。この合成および配合の方法は、より複雑な合成ステップ、または酸化反応において同時に生成される2つのホモ二量体ジスルフィドから混合ジスルフィドを分離するために必要な合成後精製ステップを必要としない。(未反応のチオールおよび他の不純物は、当然のことながら、医薬組成物を配合する前に除去されなければならない。)
3つのジスルフィドの混合物の製造および同時配合の利点は、システアミンに変換可能なチオールを、システアミンに変換可能でない第2のチオールと反応させることによって作製されるジスルフィドシステアミン前駆体の場合には完全には実現されない。例えば、パンテテインをN−アセチルシステイン(NAC)と反応させることによって形成される3つのジスルフィドは、パンテテイン−パンテテイン(パンテチン)、パンテテイン−NAC、およびNAC−NACである。最初の2つの化合物は、システアミン前駆体であり、3番目の(NAC−NAC)はそうではない。しかしながら、NAC−NACは、それにもかかわらず、化学的還元の際に、2つのNAC分子をもたらす結果として、腸酸化還元環境または有益な医学的特性の調節に関して有益な薬理学的特性を有し得る。したがって、ある特定の実施形態では、システアミンまたはインビボでシステアミンに変換可能なチオールを、インビボでシステアミンに変換可能でない第2のチオールと反応させることによって形成される3つのジスルフィド産物の全てが、単一組成物中に同時配合される。
2つの異なるチオールが酸化される場合の反応産物の予想される比は、2つのチオールのモル比、2つのチオールの絶対濃度、pH、および/または各チオールのスルフヒドリル基の周囲の化学環境に依存する。チオールAとチオールBとの比が1:1である場合、反応産物A−A、B−B、A−Bの予想モル比は、約1:1:2である。(予想された比からの偏差は、例えば、スルフヒドリルへの原子結合の電気陰性度によって影響され得るジスルフィド結合形成の反応速度に影響し得るチオールに隣接した化学結合の相違の結果として生じ得る。任意の偏差は、当該分野において知られている方法を使用して予測または測定することができる。)反応産物の比は、2つのチオールのモル比を変化させることによって変更することができる。例えば、B−Bに対してA−AおよびA−Bの割合を増加させるために、チオールAのモル濃度をチオールBのモル濃度に対して増加させてもよい。2つのチオールを反応させる場合、一方がシステアミンまたはシステアミンに分解可能な化合物(チオールA)であり、もう一方は、システアミンに分解可能でないチオール(チオールB)であり、第1のチオールのモル濃度は、産生されるシステアミン前駆体の割合を増加させるために、第2のチオールのモル濃度に対して増加させることができる.例えば、チオールAおよびBを2:1のモル比で反応させると、B−B(システアミン前駆体でない)に対するA−AおよびA−B(両方のシステアミン前駆体)の割合を増加させる。
特定の実施形態では、触媒の包含により、2つの異なるチオールの酸化を促進し、および/または反応産物の混合を変更することができる(MusiejukおよびWitt(2015)に概説される)。例えば、過酸化水素もしくはジメチルスルホキシド(DMSO)などの酸化剤、または銅、マンガン、もしくはテルル化物などの金属、またはヨウ素、ジエチルアゾジカルボキシレート(または関連化合物)、またはジクロロジシアノキノン(DDQ)を追加することができる。最適な溶媒系、触媒濃度、および反応条件を経験的に決定することにより、触媒の最適な性能を達成することができる。
他の実施形態では、非対称ジスルフィドは、チオールと対称ジスルフィドとの間のチオール−ジスルフィド交換反応を介して産生することができる。この種類の反応は、2つの異なるチオールの酸化のように、全ての可能な生成物(対称および非対称のジスルフィド)の混合物を提供する。しかしながら、チオールよりもモル過剰の対称ジスルフィドを提供することによって、非対称ジスルフィドの形成が優遇され、最適化された条件下での主要な反応産物となる場合さえある。実施例15および16は、チオ−ジスルフィド交換を介したパンテテイン−システアミンジスルフィドの合成を説明する。この方法は、システアミンをチオールとし、パンテチンをジスルフィドとして、ならびにパンテテインをチオールとし、シスタミンをジスルフィドとして機能する。チオール:ジスルフィド交換反応の好ましい実施形態では、チオール対ジスルフィド(例えば、システアミン:パンテチン)のモル比は、2:1〜4:1、2.5:1〜3.5:1、2.7:1〜3.3:1である。特定の実施形態では、溶媒はメタノールであり、反応時間は1〜20時間、または1〜12時間、または1〜6時間である。特定の実施形態では、チオール:ジスルフィド交換反応の生成物(例えば、TTI−0102)は、その後沈殿される(例えば、実施例17に説明されるように)。
あるいは、別の実施形態では、医薬組成物に使用されるシステアミン前駆体の比は、混合ジスルフィド酸化反応の3つの反応産物を純粋なジスルフィドと組み合わせることによって調整することができる。例えば、チオールのシステアミン(C)およびパンテテイン(P)が1:1のモル比で酸化された場合、これらを複合して3つの産物:C−C、P−P、およびC−Pをおよそ1:1:2の比で形成する。純粋なパンテチン(P−P)は、混合物のインビボでのシステアミン生成特性を延長するために、任意の所望の量で混合物に添加することができる。パンテチンの開始量を2倍にすると、1:2:2の比が得られる。出発量のパンテチンの4倍を添加すると、1:2:5の比が得られる。
独立して生成された2つの混合ジスルフィド反応産物を組み合わせて、システアミン前駆体の新規の比を達成することもできる。例えば、システアミン−パンテテイン反応産物(C−C、P−P、およびC−P)を、N−アセチルシステイン(NAC)−システアミン(C)酸化反応からの当モル量の反応産物(1:1:2の比のC−C、NAC−NAC、およびC−NAC)と組み合わせる場合、混合物は、5つの化合物を含有することになり、それらのうちの1つであるNAC−NACは、システアミンに変換することができない。他の4つのジスルフィド、P−P、C−C、C−P、C−NACは、およそ1:2:2:2のモル比で存在する。任意に、パンテテインを添加して、比を例えば2:2:2:2(より単純に1:1:1:1として表す)にするか、または1:1:1:5の比になるようにより多くの量を添加することができる。したがって、医薬組成物中のジスルフィドのモル比は、様々な方法によって制御することができる。別の例では、システアミン−パンテテイン反応産物(C−C、P−P、およびC−P)を、4−ホスホパンテテイン(4P)−システアミン(C)酸化反応(すなわち、1:1:2の比のC−C、4P−4P、およびC−4P)と組み合わせて、5つのジスルフィドの混合物を1:1:1:2:2の比で産生してもよい。
要約すると、システアミン前駆体ジスルフィドを作製するために1つのチオールを酸化する場合、1つの産物のみが存在する(例えば、パンテテイン+パンテテイン=パンテチン)。2つのチオールを酸化する場合、3つの産物が存在し、それらのうちの2つまたは3つは、チオールの一方もしくは両方がシステアミンに分解可能であるか、またはシステアミンであるかに依存して、システアミン前駆体である。システアミン前駆体の混合物は、これらの2つの種類の反応の産物を組み合わせることによって最も容易に作製される。混合物は、種々のモル比の、純粋なジスルフィドまたは3成分のジスルフィド混合物を含み得る。しかしながら、ヘテロ二量体システアミン前駆体はまた、純粋な形態で、精製後に、または他のホモもしくはヘテロ二量体システアミン前駆体と組み合わせて使用することもできる。
あるいは、より洗練された化学的方法を用いることにより、特異的混合ジスルフィド(非対称ジスルフィドとも呼ばれる)を選択的に合成することができる(例えば、システアミンおよびパンテテインを組み合わせて、実質的にジスルフィドシステアミン−パンテテインのみを形成することができる)。これらの方法は、広範囲の硫黄保護基およびそれらの除去のための戦略を用いる。最も広く使用されている方法は、スルフェニル誘導体をチオールまたはその誘導体で置換することを伴う。一般に利用されるスルフェニル誘導体としては、スルフェニルクロリド、S−アルキルチオスルフェートおよびS−アリールチオスルフェート(ブンテ塩)、S−(アルキルスルファニル)イソチオウレア、ベンゾチアゾール−2−イルジスルフィド、ベンゾトリアゾリルスルフィド、ジチオペルオキシエステル、(アルキルスルファニル)ジアルキルスルホニウム塩、2−ピリジルジスルフィドおよび誘導体、N−アルキルテトラゾリルジスルフィド、スルフェンアミド、スルフェニルジメシルアミン、スルフェニルチオシアネート、4−ニトロアレンスルフェナニリド、チオールスルフィネートおよびチオールスルホネート、スルファニルスルフィナミジン、チオニトライト、スルフェニルチオカーボネート、チオイミド、チオホスホニウム塩、および5,5−ジメチル−2−チオキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イルジスルフィドが挙げられる。さらに他の手順には、チオールとスルフィニルベンズイミダゾールとの反応、ロジウム触媒によるジスルフィド交換、電気化学的方法、およびアゾジカルボン酸ジエチルの使用が含まれる。これらおよび他の方法は、Musiejuk,M.およびD.Witt.Organic Preparations and Procedures International 47:95(2015)によって概説されている。したがって、適度な努力で、関心対象の特異的混合(非対称)ジスルフィドを作製することができる。実施例1および2は、本発明の混合ジスルフィドの合成手順を提供する。
さらに他の実施形態では、混合ジスルフィドは、置換基(例えば、アシル基)を対称ジスルフィドの一端に優先的に結合することにより(すなわち、ヘミアシル化)、対称ジスルフィドから合成することができる。例えば、システアミンおよびパンテテインはパントテネート部分が異なるため、ジスルフィドシスタミンをパントテネートによってヘミアシル化して、システアミン−パンテテインジスルフィドを産生することができる。反応物の濃度を最適化し、カップリング剤を添加してアシル化を促進した場合、この手順は95%超の収率を得ることができる。シスタミンは両端に反応性アミノ基を含有するため、非対称ジスルフィドを作製するための魅力的な開始点である。実施例14は、反応性中間体を介した置換基パントテン酸によるシスタミンのヘミアシル化を介したパンテテイン−システアミンジスルフィドの効率的な合成を説明する。特定の実施形態では、アシル基のジスルフィドに対するモル比は、1:2〜1:4である。特定の実施形態では、アシル化反応は、3:1〜5:1のDCC:アシル基のモル比でのN,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)の添加により促進される。特定の実施形態において、アシル化反応は、1:1〜1:3のHOBt:アシル基のモル比での1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)の添加により促進される。
立体化学
本発明の化合物のいくつかは、複数の鏡像異性体形態で存在する。特に、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、および補酵素Aは、パントテノイル部分にキラル炭素を含む。したがって、これらの化合物の各々は、D−もしくはL−鏡像異性体として、またはパンテテノイル基に関して2つのラセミ混合物として存在することができる。しかしながら、ヒトパンテテイナーゼ(VNN1およびVNN2遺伝子によってコードされる)は、D−パンテテインに特異的である。(Bellussi et al.,Physiological Chemistry and Physics 6:505(1974))。それ故に、D−パンテテイン(およびL−パンテテインではない)のみがシステアミン前駆体であり、したがって本発明は、D−パンテテインのみ、および4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、および補酵素AのD−鏡像異性体、ならびに胃腸管でそれらの化合物に変換可能な類似体またはプロドラッグのみに関する。同様に、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、および補酵素A、または任意の適切な類似体もしくはプロドラッグを含有する全てのジスルフィドは、D−鏡像異性体のみを用いる。
アミノ酸およびアミノ酸誘導体のL−鏡像異性体が好ましい。したがって、本明細書において「システイン」とは、L−システイン、ホモシステインからL−ホモシステインを指し、N−アセチルシステイン、N−アセチルシステインアミド、N−アセチルシステインエチルエステル、システインメチルエステル、システインエチルエステル、システイニルグリシン、およびガンマグルタミルシステインなどのシステイン誘導体は、全てシステインのL−鏡像異性体を用いて形成される。
ジヒドロリポ酸の場合、R鏡像異性体が好ましく、それは人体で作製された鏡像異性体であるためである。一般に、人体に通常存在するか、または食品中に存在する化合物については、天然に存在する鏡像異性体が好ましい。
塩形態および結晶化
本発明のシステアミン前駆体を含む任意の化合物の薬学的特性は、対イオンまたは塩との会合により改善され得る。改善される可能性のある特定の特性は、安定性(例えば、吸湿性が低い、酸化の影響を受けにくい、熱、湿度、およびpHの極端な変化に対する耐性が高い)、結晶を形成する傾向の向上、製剤の容易さ(粉末などの化合物の固体形状の特性に関して)である。
結晶化は、例えば、カラムクロマトグラフィーよりも、より安価で、より速く、より拡張性のある精製方法であるため、塩形態が化合物の結晶化特性を改善する可能性は特に重要である。小分子の沈殿を誘発するための方法は、当該分野で知られている(例えば、ChenらによるCrystal Growth and Design,11(4),2011の概説を参照されたい)。結晶化は、標的化合物の飽和溶液を冷却することによって、または化合物の溶液への反溶媒(標的化合物が難溶性である液体)の添加によって(Mostafaら、Chemical Engineering Science 63:5457−5467,2008)、または結晶形成を促進する表面(例えば、スクラッチされたガラス)の導入によって、または結晶種の添加によって、またはポリマーを含む(Eduengら、Journal of Controlled Release 256:193−202,2017)、標的化合物と共結晶化するであろう化合物の添加によって(KorotkovaおよびKaratchvil,Procedia Chemistry 10:473−476,2014)、誘発することができる。工業用結晶化プロセスは、バッチ形式で、またはますます連続プロセスを介して実施することができる(Zhang et al.Engineering 3:354−364,2017)。
結晶化は、2つの方法のいずれかで使用することができる:目的のジスルフィド化合物を、不純物の存在下で選択的に結晶化することができる(不純物は溶液中に残り、したがって結晶化後に容易に除去することができる)か、または、目的の化合物を溶液中に残しながら、1つ以上の不純物を結晶化することができる。2つのアプローチは、順次(次々と)組み合わせることができる。
システアミン前駆体は、比較的大きな用量(1日あたり1グラム超、あるいは成人では最大10グラムまで)で投与されることが多いため、いずれの塩も安全である必要がある。したがって、天然産物であり、食事中に有意なレベルで存在し、心地よい感覚刺激特性を有する塩が好ましい。そのような塩の例には、酢酸塩、クエン酸塩、および酒石酸塩が含まれるが、それらに限定されない。結晶形成を誘発するシステアミン前駆体の塩形態は、薬学的に好ましい塩形態と重複しない場合があり、その場合、結晶化を助けるために塩形態を特異的に生成し、次いで溶媒中に再溶解して、塩を好ましい薬学的塩に転換してもよい。結晶形成を促進する傾向がある大きな塩には、安息香酸塩およびナフトエート(ナフトエ酸)が含まれる。
分離方法
上記で概説した合成経路のほとんどは、99%を超える純度(すなわち、薬物規制機関によって必要とされる範囲内)の混合ジスルフィドを産生することができない。結晶化はまた、薬物不純物を許容可能なレベルに低減するのに十分に選択的ではない場合がある。したがって、強固な分離方法が必要となり得る。したがって、特定の実施形態では、任意の合成方法を、合成において生成された他の化合物(他のジスルフィドを含む)から所望の生成物(すなわち、混合ジスルフィドシスタミン前駆体)を分離するための効率的なスキームと組み合わせることができる。結晶化以外の有用な分離方法には、サイズ、電荷、疎水性、親和性、または他の特性に基づいて小分子を分離する樹脂を含む、様々なクロマトグラフィー手順が含まれる。
製剤
医薬品として用いる場合、システアミン前駆体、またはその薬学的に許容される塩、溶媒和物、もしくはプロドラッグは、医薬組成物の形態で投与することができる。これらの組成物は、製薬業界で周知の様々な方法で調製することができ、様々な賦形剤および配合技術によって制御された時間に胃腸管の特定の部分に薬物を放出するように作製することができる。例えば、製剤は、特定の疾患に対処し、治療有効性を達成するために必要なシステアミンの血中レベルを達成し、薬物効果の所望の持続時間を可能にし、異なる組み合わせで投与されて、システアミン代謝における患者間変動を説明することができる様々な薬物放出特性を有する組成物のセットを提供するために調整されてもよい。投与は、主に経口経路によるものであり、坐剤によって補われてもよい。システアミン前駆体はまた、例えば、還元剤、緩衝液、パンテテイナーゼ誘導剤、または腸上皮細胞によるシステアミン取り込みの誘導剤を含む、インビボでのシステアミンの生成または吸収を促進する薬剤と同時配合することもできる。
医薬組成物は、1種以上の薬学的に許容される担体を含むことができる。本発明の方法で使用するための医薬組成物の作製において、システアミン前駆体、その薬学的に許容される塩、溶媒和物、またはプロドラッグは、典型的には賦形剤と混合されるか、賦形剤によって希釈されるか、または例えば、カプセル、錠剤、サシェ、紙、バイアル、もしくは他の容器の形態の担体に封入される。本発明の活性成分は、薬学的に許容される賦形剤または担体の存在下、単独で、または混合物として投与することができる。賦形剤または担体は、投与の様式および経路、薬物放出の標的とされる胃腸管の領域、および薬物放出の意図される時間プロファイルに基づいて選択される。賦形剤が希釈剤として働く場合、賦形剤は、ビヒクル、担体、マトリックス、または有効成分のための他の媒体として作用する固体、半固体、または液体物質(例えば、生理食塩水)であり得る。したがって、組成物は、錠剤、粉末、顆粒、ロゼンジ、サシェ、カシェ、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、溶液、シロップ、ならびに軟質および硬質ゼラチンカプセルの形態であり得る。当該分野で知られているように、賦形剤の種類および量は、意図される薬物放出特性に依存して変化する。得られる組成物は、防腐剤またはコーティングなどの付加的な薬剤を含むことができる。
好適な薬学的担体、ならびに薬学的製剤に使用するための薬学的必需品は、この分野における周知の参考文献であるRemington:The Science and Practice of Pharmacy,21st Ed.,Gennaro,Ed.,Lippencott Williams&Wilkins(2005)、およびUSP/NF(米国薬局方および国家医薬品)、または対応する欧州もしくは日本の参考資料に説明されている。好適な賦形剤の例は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アカシアガム、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、アルギン酸塩、トラガカント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリ(乳酸−グリコール酸共重合体)(PLGA)、セルロース、水、シロップ、メチルセルロース、植物油、ポリエチレングリコール、疎水性不活性マトリックス、カルボマー、ヒプロメロース、gelucire 43/01、ドキュセートナトリウム、および白蝋である。製剤として、タルク、ステアリン酸マグネシウム、および鉱物油などの潤滑剤;湿潤剤;乳化剤および懸濁化剤;メチルおよびプロピルヒドロキシ安息香酸塩などの保存剤;甘味剤;ならびに香味剤を追加で挙げることができる。他の例示的な賦形剤およびそれらの使用の詳細は、Handbook of Pharmaceutical Excipients,6th Edition,Rowe et al.,Eds.,Pharmaceutical Press(2009)に説明されている。
医薬組成物は、システアミン前駆体のシステアミンへのインビボ分解を促進するか、またはシステアミンの腸吸収を促進する他の薬剤と任意に同時配合または同時投与される、システアミン前駆体塩を含むことができる。医薬組成物はまた、標的疾患におけるシステアミンの薬理学的効果を補完する他の治療薬を含んでもよい。インビボでのシステアミンの産生または吸収の例示的な促進剤、および本明細書に説明される組成物に含まれ得る例示的な治療剤が本明細書に提供される。
本発明の組成物は、単一の活性成分(すなわち、単一のシステアミン前駆体)、または単一の単位剤形中の第1および第2の活性成分の組み合わせ、または単一の単位剤形中の第1、第2、第3、および任意に第4の活性成分、および任意に第5の成分の組み合わせを含有してもよい。2つの活性成分を有する組成物では、両方の成分がシステアミン前駆体であり得るか、または1つの成分がインビボでのシステアミン産生の促進剤(例えば、ジスルフィドシステアミン前駆体の還元を促進する還元剤もしくはパンテテイナーゼの腸内発現の増加を誘導する薬剤)、またはシステアミンの腸吸収の促進剤(例えば、OCT1、OCT2、もしくはOCT3などの1種以上の有機カチオン輸送体の増加した発現を誘導する薬剤)であり得る。3つまたは4つの活性成分を有する組成物では、全ての成分が、システアミン前駆体であり得るか、または1つもしくは2つの成分が、インビボでのシステアミン産生および/もしくは腸吸収の促進剤であり得る。2つ以上のシステアミン前駆体を有する組成物において、システアミン前駆体の種類は、持続期間にわたってインビボでのシステアミン産生を達成するように選択される。例えば、1つのシステアミンを生成するためにジスルフィド結合の還元のみを必要とし、したがってジスルフィド結合の還元に寄与する酸化還元環境を有する胃腸管の領域に到達した直後にシステアミンを生成し始めるであろう混合ジスルフィドシステアミン前駆体は、パンテテインと、またはシステアミンを生じるためにジスルフィド結合の還元およびパンテテイナーゼ切断の両方を必要とするパンテテインジスルフィドと混合することができ、任意に、腸でパンテテインに分解可能な化合物、またはパンテテインおよびしたがってシステアミンを生成するために追加のステップを必要とする、そのような化合物を含有するジスルフィドと組み合わせることができる。腸でパンテテインに分解可能な化合物としては、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、ならびに好適な類似体および誘導体が挙げられる。インビボでのシステアミン産生の時間経過は、システアミン前駆体とシステアミンとの間の分解ステップの数によって変化する。いくつかの実施形態では、複数のシステアミン前駆体を含む組成物は、粉末として、顆粒として、または液体として、すなわち大量の薬物を収容することができる製剤タイプとして配合される。
医薬組成物はまた、製剤の性能を高める1種以上の薬剤を含むことができる。例えば、胃内滞留性組成物は、胃内の組成物の滞留を延長するために胃排出を遅くする化合物を含み得る。
2つのシステアミン前駆体成分を含む組成物において、第1および第2の成分は、例えば、約1:1.5〜約1:4の比で存在し得る。3つのシステアミン前駆体成分を含む組成物において、第1、第2、および第3成分は、例えば、約1:1:2〜約1:4:4の比で存在してもよい。4つの活性成分を含む組成物では、第1〜第4の活性成分は、例えば、約1:1:1:2〜約1:2:5:5の比で存在してもよい。5つの活性成分を含む組成物において、第1〜第5の活性成分は、例えば、約1:1:2:2:2〜約1:1:2:5:5:8の比で存在してもよい。
いくつかの実施形態では、2つ以上のシステアミン前駆体を含有する組成物は、迅速なインビボでのシステアミン産生のために選択された1つの前駆体(例えば、単にジスルフィド結合の還元を必要とする)、およびより中程度またはより遅いインビボでのシステアミンへの変換のために選択された第2の前駆体(例えば、化学的還元および少なくとも1つの酵素分解ステップを必要とする)を含む。いくつかの実施形態では、2つ以上のシステアミン前駆体を含む医薬組成物は、少なくとも1つの前駆体がシステアミン混合ジスルフィドであり、これがジスルフィド結合の還元の際にシステアミンを生じることができる。さらに関連した実施形態では、少なくとも1つの付加的な成分は、ジスルフィド含有パンテテインまたは胃腸管でパンテテインに分解可能な化合物である。
組成物は、固形単位剤形(例えば、錠剤またはカプセル)で配合することができ、各投与量は、例えば、50〜800mgの第1成分の有効成分を含有する。例えば、投与量は、約50mg〜約800mg、約50mg〜約700mg、約50mg〜約600mg、約50mg〜約500mg、約75mg〜約800mg、約75mg〜約700mg、約75mg〜約600mg、約75mg〜約500mg、約100mg〜約800mg、約100mg〜約700mg、約100mg〜約600mg、約100mg〜約500mg、約250mg〜約800mg、約250mg〜約700mg、約250mg〜約600mg、約250mg〜約500mg、約400mg〜約800mg、約400mg〜約700mg、約400mg〜約600mg、約450mg〜約700mg、約450mg〜約600mgの第1成分の有効成分を含有し得る。
代替実施形態では、組成物は、液体または粉末単位剤形で配合することができ、各投与単位は、約250mg〜約10,000mgのシステアミン前駆体を含有する。例えば、投与量は、約250mg〜約10,000mg、約250mg〜約8,000mg、約250mg〜約6,000mg、約250mg〜約5,000mg、約500mg〜約10,000mg、約500mg〜約8,000mg、約500mg〜約6,000mg、約500mg〜約5,000mg、約750mg〜約10,000mg、約750mg〜約8,000mg、約750mg〜約6,000mg、約750mg〜約5,000mg、約1,250mg〜約10,000mg、約1,250mg〜約8,000mg、約1,250mg〜約6,000mg、約1,250mg〜約5,000mg、約2,000mg〜約10,000mg、約2,000mg〜約8,000mg、約2,000mg〜約6,000mg、約2,000mg〜約5,000mg、約3,000mg〜約6,000mgの第1成分の有効成分を含有し得る。
第1および第2のシステアミン前駆体成分を有する組成物では、固体単位剤形中の第2の活性成分の量は、例えば50〜700mgで変化し得る。例えば、投与量は、約50mg〜約700mg、約50mg〜約600mg、約50mg〜約500mg、約50mg〜約450mg、約75mg〜約700mg、約75mg〜約600mg、約100mg〜約700mg;約100mg〜約600mg、約100mg〜約500mg、約100mg〜約400mg、約250mg〜約700mg、約250mg〜約600mg、約250mg〜約500mg、約250mg〜約400mg、約400mg〜約700mg、約400mg〜約600mg、約400mg〜約500mg、約450mg〜約700mg、約450mg〜約600mg、約450mg〜約500mgを含有し得る。第1の活性成分としてのシステアミン前駆体および第2の活性成分としてのインビボでのシステアミン生成の促進剤を有する組成物において、単位剤形中の第2の活性成分の量は、例えば、0.1mg〜400mgで変化し得る。
第1および第2のシセアミン前駆体成分を含む代替実施形態では、液体または粉末単位剤形中の第2の活性成分の量は、例えば、約250mg〜約6,000mgで変化し得る。例えば、投与量は、1用量あたり約250mg〜約6,000mg、約250mg〜約5,000mg、約250mg〜約4,000mg、約250mg〜約3,000mg、約250mg〜約2,000mg;約500mg〜約6,000mg、約500mg〜約5,000mg、約500mg〜約4,000mg、約500mg〜約3,000mg、約750mg〜約6,000mg、約750mg〜約5,000mg、約750mg〜約4,000mg、約750mg〜約3,000mg、約1,250mg〜約6,000mg、約1,250mg〜約5,000mg、約1,250mg〜約4,000mg、約1,250mg〜約3,000mg、約2,000mg〜約6,000mg、約2,000mg〜約5,000mg、約2,000mg〜約4,000mg、約2,000mg〜約3,000mg、約2,500mg〜約5,000mgの第2成分の有効成分を含有し得る
第3の、または第3および第4のシステアミン前駆体成分を含む固体組成物において、単位投与量は、約50mg〜約400mgの第3の活性成分、および存在する場合には第4の活性成分の各々を含有することができる。例えば、投与量は、約50mg〜約400mg、約50mg〜約350mg、約50mg〜約300mg、約50mg〜約250mg、約75mg〜約400mg、約75mg〜約350mg、約75mg〜約300mg、約75mg〜約250mg、約100mg〜約400mg、約100mg〜約350mg、約100mg〜約300mg、約100mg〜約250mg、約250mg〜約400mg、約250mg〜約350mg、または約250mg〜約300mgを含有することができる。5つの活性成分を有する組成物において、5つの成分の単位投与量は、約50mg〜約300mgの範囲であり得る。第4の活性成分、また任意に第3の活性成分としてインビボでのシステアミン生成の促進剤を有する組成物において、単位剤形中の第4の活性成分および任意に第3の活性成分の量は、例えば、0.1mg〜400mgで変化し得る。
液体または粉末単位剤形中の第3、または第3および第4のシステアミン前駆体成分を含む代替実施形態では、第3および任意に第4の活性成分の単位投与量は、例えば、約250mg〜約4,000mgで変化し得る。例えば、投薬量は、1用量あたり約250mg〜約4,000mg、約250mg〜約3,000mg、約250mg〜約2,000mg、約250mg〜約1,000mg、約500mg〜約4,000mg、約500mg〜約3,000mg、約500mg〜約2,000mg、約500mg〜約1,000mg、約750mg〜約4,000mg、約750mg〜約3,000mg、約750mg〜約2,000mg、約750mg〜約1,000mg、約1,000mg〜約4,000mg、約1,000mg〜約3,000mg、約1,000mg〜約2,000mg、約1,000mg〜約1,500mg、約1,500mg〜約4,000mg、約1,500mg〜約3,000mg、約1,500mg〜約2,000mg、約2,000mg〜約4,000mg、約2,000mg〜約3,000mgの第3および任意に第4の活性成分の有効成分を含有し得る
医薬組成物は、当該分野において知られている手順を用いることによって、患者への投与後に活性成分の即時、遅延、胃内滞留性、持続、または結腸放出(制御放出と総称される)を提供するように配合することができる。
錠剤などの固体組成物を調製するために、有効成分(複数可)(例えば、いくつかのシステアミン前駆体)を1種以上の薬学的賦形剤と混合して、本発明の化合物の均質な混合物を含有する固体バルク製剤組成物を形成することができる。これらのバルク製剤組成物を均質とする場合、有効成分は、典型的に組成物全体に均一に分散され、それにより組成物を、錠剤、カプセル、または微粒子などの同等に有効な単位剤形に容易に細分することができる。次いで、この固体バルク製剤を上記の種類の単位剤形に細分する。
あるいは、1種以上の薬学的賦形剤と混合された有効成分(複数可)の2つの均質なバッチを調製することができ、各々が異なる濃度の有効成分(複数可)を使用する。次いで、第1の混合物を使用してコアを形成し、第2の混合物はコアの周りにシェルを形成して、可変薬物放出特性を有する組成物を形成することができる。高濃度バッチがコア中に位置し、より低い濃度のバッチがシェル中に位置する場合、一旦シェルが実質的に溶解または浸食すると、薬物放出の初期の適度な速度の後に、より速い薬物放出速度が続く。いくつかの実施形態では、医薬組成物は、シェル中よりもコア中に高濃度の有効成分(複数可)を含有する。コア:シェル中のシステアミン前駆体濃度の比は、例えば、約1.5:1〜4:1の範囲であり得る。賦形剤はまた、薬物放出速度に影響を及ぼすように、2つのバッチ間の種類または濃度が異なる場合もある。いくつかの実施形態では、コア中のポリマー(複数可)または他のマトリックス形成成分は、シェルからよりもゆっくりと有効成分(複数可)を放出する。そのような実施形態では、より高い濃度のコア中のシステアミン前駆体(複数可)は、より遅い速度の薬物放出によって部分的にまたは完全に平衡され、システアミン前駆体放出の持続期間、およびしたがってインビボでのシステアミン生成の持続期間、腸吸収、および上昇した血中レベルを延長する。シェル層が適用される前に、1つ以上のコーティングがコアに適用されてもよく、追加のコーティングをシェルに適用して、効率的な製造プロセスを可能にし、および/または胃腸管内の薬物放出のタイミングおよび位置を含む、所望の薬理学的特性の提供を助けることができる。
本発明の医薬組成物は、システアミン産生に至る機序(複数可)または分解ステップの数が異なるシステアミン前駆体の混合物を放出するように配合されたものを含む。具体的には、2つ、3つ、4つ、または5つのシステアミン前駆体の混合物であり、各々がシステアミンを放出することから離れた1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の化学的および/または酵素的分解ステップである。例えば、1つのステップは、ジスルフィド結合の還元(システアミン混合ジスルフィドの場合)またはパンテテイナーゼ切断(パンテテインの場合)であり得る。2つのステップは、ジスルフィド結合の還元、その後のパンテテイナーゼ切断(パンテテインジスルフィドの場合)、またはホスファターゼ切断、その後のパンテテイナーゼ切断(4−ホスホパンテテインの場合)であり得る。3つのステップは、(例えば、ホスファターゼによる)パンテテインへの分解の前または後に続くジスルフィド結合の還元、続いて(例えば、4−ホスホパンテテインジスルフィドの場合)パンテテイナーゼ切断であり得る。4つのステップは、ジスルフィド結合の還元、その後のパンテテインへの2つの分解段階(例えば、エクトヌクレオチドジホスファターゼによるアデニンヌクレオチド部分の除去、その後のホスファターゼによる4′ホスフェートの除去)、続いてパンテテイナーゼ切断(例えば、補酵素Aまたはデホスホ補酵素Aジスルフィド)であり得る。システアミンへの異なる化学的および/または酵素的分解経路を有するシステアミン前駆体を組み合わせる目的は、システアミンが腸から産生され、腸から吸収される時間を延長し、その結果、治療上有効なシステアミン血中レベルの持続時間を延長することである。いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、少なくとも2つのシステアミン前駆体を含み、さらなる実施形態では、医薬組成物は3つのシステアミン前駆体を含有する。
本発明の医薬組成物は、混合放出用に配合することができ、これは1つの組成物が2つの薬物放出プロファイルを含むことを意味する。例えば、即時放出製剤を持続放出製剤と組み合わせることができる。(例えば、図14の化合物Fを参照されたい。)そのような組成物では、第1の活性成分は、摂取後約5分〜約30分の間に開始する即時放出用に配合され得る。例えば、第1の活性成分は、組成物の摂取後5分、10分、15分、20分、25分、30分、または45分後に放出され得る。第1の活性成分は、治療範囲内のシステアミン血漿濃度が、摂取後約15分〜3時間、好ましくは30分〜2時間の間に達成されるように配合される。例えば、治療的血漿システアミン濃度は、組成物の摂取から0.5時間、1時間、2時間、または3時間後に到達し得る。使用されるシステアミン前駆体の種類(例えば、チオール、システアミン混合ジスルフィド、パントテシンジスルフィド、補酵素Aジスルフィド、N−アセチルシステアミンジスルフィド等)は、システアミンの治療的血中濃度に到達する時間の長さ、および治療的血中濃度が維持される期間に影響を及ぼす。
2つ、3つ、および任意に4つまたは5つの活性成分を有する組成物(例えば、複数のシステアミン前駆体ならびに/またはインビボでのシステアミン生成および吸収の促進剤)において、第2、第3および/または第4および/または第5の活性成分の各々が、摂取後約1時間〜約8時間の間に組成物からの制御放出を開始するように配合される。制御放出組成物は、遅延放出および/または持続放出製剤を含み得る。例えば、第2、第3、および/または第4の活性成分は、組成物の摂取後1時間、1.5時間、2時間、3時間、4時間、5時間、6時間、7時間、または8時間から放出され得る。第2、第3、および/または第4の活性成分は配合され、それによってシステアミンの血漿濃度(全ての活性成分の寄与を反映する)が、摂取後約30分〜2時間の間に開始して治療範囲内で維持され、6〜10時間、より好ましくは、摂取後8〜12時間、またはより長い期間にわたって延長する。例えば、血漿システアミン濃度は、組成物の活性成分の摂取後6時間、8時間、10時間、12時間、15時間、20時間、または24時間にわたって治療範囲内で持続され得る。患者の年齢およびサイズ、治療される疾患、および患者のシステアミン代謝速度に依存して、数時間にわたって治療的血中レベルを達成するために十分なシステアミン前駆体を送達するために、2つ以上の組成物が必要とされ得る。
混合製剤を含む医薬組成物の代替物または補完物として、いくつかの実施形態では、単一種の製剤からなる組成物を産生することができる。すなわち、即時放出または持続放出製剤などの時間ベースの製剤、および胃内滞留性、遅延放出、および結腸指向性製剤などの解剖学的標的製剤を、別々の組成物として投与するために調製することができる。異なる薬物放出特性(時間ベースであるか、または解剖学的/生理学的ベースかにかかわらず)を有する医薬組成物の集合体を配合することは、ある特定の利点を有する。例えば、そのような組成物を、異なる組み合わせおよび比で異なる患者に投与して、長期にわたり治療範囲内の血中システアミンレベルをもたらすことができる。すなわち、特定のスケジュールで投与される1つ、2つ、3つ、またはそれ以上の組成物からなる治療レジメンは、個々の患者のシステアミン生成、吸収、および代謝能に合わせて調整することができる。これらの能力は、患者間で異なることが知られているため、異なるシステアミン前駆体および異なる薬物放出特性を含む複数の均質な組成物の配合は、異なる患者に対して異なる比で組み合わせることができ、既存のシステアミン製剤の既知の限界に対処する。
好ましくは、2つ以上の医薬組成物の組み合わせは、システアミン血中レベルを、摂取後少なくとも2〜8時間、より好ましくは摂取後1〜8時間、さらにより好ましくは2〜10時間、最も好ましくは1〜10時間、1〜12時間、1〜14時間、またはそれ以上にわたって治療範囲内に維持することができる。異なる薬物放出プロファイルを有する異なるシステアミン前駆体を含有する別々に配合された医薬組成物は、治療的に有効なシステアミン血中濃度を長期間達成するために投与レジメンを個別化するために必要な投与の柔軟性を提供する。
胃排出時間および大腸通過時間が、健康な個体間で大幅に(2倍以上まで)変化することがよく報告されている。腸酸化還元環境およびパンテテイナーゼ活性のレベルもまた、個体間で変化することが知られている。これらおよび他の因子は、システアミン投与後に観察される血漿システアミンレベルの広い個体間の変動を説明すると考えられる。例えば、健康なボランティアにおける即時放出システアミン重酒石酸塩薬物動態の研究では、食事とともに投与された600mg経口投与後のピークシステアミン血中レベル(Cmax)は、7マイクロモルから57.3マイクロモルまで8倍以上変化した。(Dohil R.and P.Rioux,Clinical Pharmacology in Drug Development 2:178(2013))。同じ研究において、食事とともに投与された600mgの遅延放出システアミン重酒石酸塩に続くCmaxは、2.1uMから25.4uMまで12倍変化した。システアミン血漿レベルの患者間変動は、システアミンを絶食患者に投与した場合に極端ではなかったが、依然として最大4倍であった。(システアミンは、Cystagon(登録商標)の場合のように6時間毎、またはProcysbi(登録商標)の場合のように12時間毎に投与されるとき、食事時間を完全に避けることは困難である)。
現在のシステアミン配合および投与方法は、対象間の変動に対処するための1つのツール、すなわち用量を上げるまたは下げることのみを提供する。本発明のシステアミン前駆体、インビボでのシステアミン生成および吸収の促進剤、薬物配合方法および薬物投与方法は、高いCmaxとしばしば関連する許容されない毒性、または長期の治療閾値を下回る血中レベルと関連する不適切な治療効果を招くことなく、個々の患者に対して化合物、剤形、および投与レジメンを調整することによって、治療的血中システアミンレベルを達成するための複数のツールを提供する。
別々に配合された組成物の別の利点は、それらが食事に関して異なる時間に投与され得ることである。これは、システアミン前駆体の異なるクラスおよび異なる種類の製剤が食事とは異なって相互作用するため、有用な選択肢である。例えば、胃内滞留時間を最大にするために、胃内滞留性製剤を食事とともに、または食事の直後、好ましくは栄養豊富な食事とともに投与する必要がある。逆に、ジスルフィド結合の還元によってシステアミンに迅速に変換され得るシステアミン混合ジスルフィドを含む即時放出製剤は、好ましくは、量の多い食事とともに投与されてはならない。量の多い食事は、一部の個体においてシステアミンの吸収を妨げるが、食事は、胃の中で(存在するとしても)システアミンをほとんど産生しないある特定のシステアミン前駆体、例えばパンテテインジスルフィドと適合し、これが小腸でシステアミンに変換される傾向がある。
本発明の化合物および製剤で可能な個別化した投与レジメンは、システアミンの腸内吸収における広範囲の個体間変動が十分に文書化されているが、個体内変動が比較的に中程度であることも同様に十分に立証されるため特に有用である。すなわち、所与の対象は、同様の状況下で複数の機会に投与された場合、実質的に同様にシステアミンの用量を吸収し、代謝する。したがって、特定の患者のために治療範囲内の血中システアミンレベルをもたらすように個別化された投与レジメンは、比較的安定であり、経時的に予測可能な結果をもたらすはずである。
持続放出製剤は、当該分野において知られている方法を用いて、広範囲に変化する期間にわたって薬物を放出するように設計することができる。(Wen,H.およびPark,K.編:Oral Controlled Release Formulation Design and Drug Delivery:Theory to Practice,Wiley,2010、Wells,J.I.およびRubinstein,M.H.編:Pharmaceutical Technology:Controlled Drug Release,第I巻および第II巻,Ellis and Horwood,1991、およびGibson,M.編:Pharmaceutical Preformulation and Formulation:A Practical Guide from Candidate Drug Selection to Commercial Dosage Form,第2版,Informa,2009。)
図14、図15、および図16は、本発明の医薬組成物の例を提供し、有効成分(システアミン前駆体、システアミン前駆体のシステアミンへの変換の促進剤、およびシステアミン腸吸収の促進剤)、用量範囲(全ての活性成分を組み合わせる場合)、製剤の種類(混合製剤を含む)、組成物の組み合わせ、および投与方法(例えば、食品とともにまたは食事とともに)などの態様を例示することが意図される。有効成分としては、システアミン前駆体、ならびにインビボでのシステアミン生成の促進剤、およびシステアミンの腸吸収の促進剤が挙げられる。
経口投与のための製剤
本発明によって企図される医薬組成物としては、経口投与用に配合されたもの(「経口剤形」)が挙げられる。経口剤形は、例えば、錠剤、カプセル、液体溶液もしくは懸濁液、粉末、または液体もしくは固体の結晶もしくは顆粒の形態であり得、これらは活性成分(複数可)を非毒性の薬学的に許容される賦形剤との混合物中に含有する。液体、粉末、結晶、または顆粒として配合される場合、用量は、単位用量を明確に画定する方法で包装されてもよい。例えば、粉末または顆粒または微粒子が、サシェに包装されてもよい。液体は、ガラスまたはプラスチック容器に包装されてもよい。
賦形剤は、薬理学、医薬品、および医薬品製造の分野の当業者に知られている他の考慮事項の中から、許容される感覚刺激特性を提供し、薬物放出特性を制御し、効率的な製造を容易にし、医薬組成物の長期間の安定性を保証するように選択される。賦形剤は、例えば、不活性希釈剤または充填剤(例えば、スクロース、ソルビトール、糖、マンニトール、微結晶性セルロース、ジャガイモデンプンを含むデンプン、炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、乳糖、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはリン酸ナトリウム);造粒剤および崩壊剤(例えば、微晶質セルロースを含むセルロース誘導体、ジャガイモデンプンを含むデンプン、クロスカルメロースナトリウム、アルギン酸塩、またはアルギン酸);結合剤(例えば、スクロース、グルコース、ソルビトール、アカシア、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ゼラチン、デンプン、アルファ化デンプン、微晶質セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、またはポリエチレングリコール);ならびに潤滑剤、滑剤、および粘着防止剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、シリカ、水素化植物油、またはタルク)であってもよい。他の薬学的に許容される賦形剤は、着色剤、香味剤、可塑剤、湿潤剤、防腐剤、緩衝剤、安定化剤等であり得る。これらの賦形剤の多くは、様々な化学的形態で複数の賦形剤製造業者によって販売され、および/または異なる濃度で、および/または他の賦形剤との様々な組み合わせで使用することができ、性能特性の差異を保証する。特定の賦形剤は、製剤中で複数の目的を達成することができる。
経口投与のための製剤はまた、チュアブル錠剤として、有効成分が不活性固体希釈剤(例えば、ジャガイモデンプン、乳糖、微結晶セルロース、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、またはカオリン)と混合された硬質ゼラチンカプセルとして、または活性成分が水もしくは油性媒体、例えばピーナッツ油、液体パラフィン、もしくはオリーブ油と混合された軟質ゼラチンカプセルとして提示されてもよい。粉末、顆粒、およびペレットは、例えば、ミキサー、流動床装置、または噴霧乾燥装置を使用して、従来の方法で錠剤およびカプセルの下で上述の成分を用いて調製されてもよい。
有用な製剤の1つのカテゴリーは、薬物が放出される場所に重要な意味を有するが、主として薬物放出の速度(例えば、即時および持続放出製剤)を制御する。有用な製剤の第2のカテゴリーは、放出のタイミングに重要な意味を有するが、主として薬物放出の解剖学的部位(例えば、胃における薬物放出のための胃内滞留性製剤、大腸の結腸標的製剤)を制御する。腸溶性コーティング製剤は、酸性胃環境で無傷のままであるように設計され、しばしば解剖学的標的の一種であるよりアルカリ性の小腸で溶解するように設計されているが、しばしば遅延放出製剤と称され、時間制御要素を強調する。しかしながら、結腸標的製剤はまた、胃での溶解を防止するための腸溶性コーティングを有してもよく、解剖学的標的化と薬物放出速度の制御との間の複雑な関係を強調する。さらに、時間ベースおよび解剖学的または生理学的に標的化された製剤に使用される賦形剤の間には、広範な重複がある。これらの種類の製剤を様々な方法で組み合わせて、時間および空間の両方において、異なる薬物放出プロファイルを有する複数の組成物を作製することができる。そのような組成物は、順に異なる量および比率で組み合わせて、患者間の生化学的および生理学的変動、ならびに疾患の種類、程度、および活性の変動に対応するように治療レジメンを個別化することができる。
胃内滞留性製剤
胃内滞留性製剤は、胃内の本発明の組成物から、システアミン前駆体またはその塩を放出するため、および長期間にわたって胃内の組成物の活性成分(複数可)の放出を制御するために用いてもよい。言換すれば、胃内滞留性製剤のポイントは、長期胃内滞留であるため、付随する賦形剤は、胃内滞留性剤形が胃に残留すると予想される期間全体にわたって、および任意に小腸を通って結腸に移行する時間を含めてより長い期間にわたって、有効成分の持続放出を提供するはずである。本発明の活性成分の胃内滞留は、粘膜付着、浮揚、沈降、膨潤、および膨張などの様々な機序によって、ならびに/または胃排出を遅らせる薬理学的薬剤の同時投与によって達成されてもよい。胃内滞留性製剤に使用される賦形剤、ならびに医薬組成物のサイズおよび形状は、胃内滞留の機序によって異なる。
粘膜付着性/生体付着性胃内滞留性製剤
粘膜付着は、進行中の粘液産生の結果として表面から自然に除去されるまで、製剤中で利用されるポリマーの胃腸粘液層への付着に関する。時には粘膜付着と互換的に使用される生体付着もまた、胃腸上皮細胞の表面上の分子への医薬組成物のポリマーまたは他の成分の付着を包含する。粘膜付着および生体付着の目的は、医薬組成物が、システアミン前駆体切断(すなわち、その表面上でパンテテイナーゼを発現する細胞)および循環へのシステアミン取り込みおよび輸送(例えば、有機カチオン輸送体を発現する細胞)が可能な細胞型を含む、胃腸上皮細胞に近接している時間を増加させることである。粘膜付着性ポリマーは、錠剤またはカプセルなどの大きな剤形、および微粒子またはマイクロスフェアなどの小さな剤形を配合する際に使用することができる。蠕動、ムチン型、ムチン代謝回転速度、胃腸内pH、絶食/摂食状態、および摂食状態での食品の種類などの様々な生理学的要因が、粘膜付着の程度および持続性に影響を及ぼす。粘膜付着の機序は、ポリマーと粘液との境界における静電結合および水素結合の形成によるものと考えられている。一般に、粘膜付着は、胃腸管粘膜に対する親和性を有するポリマーで達成され、ポリアクリル酸、メタクリル酸およびその誘導体または両方、ポリブレン、ポリリシン、ポリカルボフィル、カルボマー、アルギン酸塩、キトサン、コレスチラミン、ガム、レクチン、ポリエチレンオキシド、スクラルファート、トラガカント、デキストリン(例えば、ヒドロキシプロピルベータ−シクロデキストリン)、ポリエチレングリコール(PEG)、グリアジン、セルロースおよびセルロース誘導体、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、またはそれらの混合物などの、合成または天然の生体付着性物質から選択される。例えば、商品名CARBOPOL(例えば、Carbopol 974Pおよび971P)ならびにPOLYCARBOPHILで入手可能な架橋アクリルおよびメタクリル酸コポリマーが、粘膜付着性製剤において使用されている。(HombachJ.およびA.Bernkop−Schnurch.Handbook of Experimental Pharmacology 197:251(2010))。他の生体付着性カチオンポリマーとしては、酸性ゼラチン、ポリガラクトサミン、ポリ−アミノ酸、例えばポリリシン、ポリオルニチン、ポリ四級化合物、プロラミン、ポリイミン、ジエチルアミノエチルデキストラン(DEAE)、DEAE−イミン、ポリビニルピリジン、ポリチオジエチルアミノメチルエチレン(PTDAE)、ポリヒスチジン、DEAE−メタクリレート、DEAE−アクリルアミド、ポリ−p−アミノスチレン、ポリオキセタン、Eudragit RL、Eudragit RS、GAFQUAT、ポリアミドアミン、カチオン性デンプン、DEAE−デキストラン、DEAE−セルロース、およびコポリメタクリレート(HPMAのコポリマーを含む)、N−(2−ヒドロキシプロピル)−メタクリルアミド(例えば、米国特許第6,207,197号を参照)が挙げられる。
粘膜付着は、小さな粒子(例えば、微粒子)に適用される場合に最も効果的である。粘膜付着性製剤は、浮遊性製剤、膨張/膨潤製剤、または任意の種類の持続放出製剤を含む、1つ以上の他の胃内滞留性製剤方法と組み合わせることができる。
浮遊性胃内滞留性製剤
胃内滞留機序としての浮遊は、胃での浮力を保つように、胃液および/または粥状液(胃で部分的に消化された食物)よりも低い嵩密度を有する活性成分(例えば、システアミン前駆体)の配合において効果的である。一般に、1立方センチメートルあたり1グラム未満の密度が望ましく、より好ましくは1立方センチメートルあたり0.9グラム未満の密度である。浮力は、(i)脂質を含む低密度物質を使用すること、(ii)組成物の中心に気泡(複数可)を予め形成すること、または(iii)インビボで気泡を発生するために発泡性賦形剤を使用することによって達成することができる。後者の種類の医薬組成物は、発泡性賦形剤によって生成されたガスが、組成物中に残り、それによりその浮力に寄与するように設計されなければならない。例えば、発泡性賦形剤は、組成物中に泡を閉じ込めるために、ポリマーのマトリックスに包埋することができる。後者の種類の浮揚性製剤は、一般に、膨潤性ポリマーまたは多糖類および発泡性カップル(例えば、重炭酸ナトリウムおよびクエン酸もしくは酒石酸)、または閉じ込められた空気のチャンバを含むマトリックスまたは体温で液体胃内容物との接触時にガスを発生する液体を用いて調製した。浮遊性胃内滞留性製剤は、広範囲に概説されている(例えば、Kotreka,U.K.Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems,28:47(2011))。
胃内滞留のために設計された浮遊性医薬組成物は、当該分野ではしばらく前から知られている。例えば、米国特許第4,126,672号、同第4,140,755号、および同第4,167,558号は、各々が参照により本明細書に組み込まれ、胃液の密度(すなわち、1立方センチメートルあたり1グラム未満)よりも低い密度を有する錠剤形態の「流体力学的に平衡された」薬物送達系(HBS)について説明している。結果として、組成物は、胃液または粥状液上に浮遊し、それによって胃の筋肉収縮の間に幽門を通しての放出を回避する。薬物は、メチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース)またはカルボキシメチルセルロースナトリウムなどのセルロース由来の親水コロイドから連続的に放出され、胃液と接触すると、組成物の表面に水不透過性バリアを形成し、これが徐々に浸食し、ゆっくり薬物を放出する。即時放出用に配合された外層および持続放出用に配合された内層を有する2層浮遊性錠剤もまた、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第4,140,755号に開示されている。
L−ドーパおよびデカルボキシラーゼ阻害剤の持続送達のための同様の流体力学的に平衡した浮遊性製剤も説明されている(米国特許第4,424,235号を参照)。アラビアガム、トラガントガム、ローカストビーンガム、グアーガム、カラヤガム、アガー、ペクチン、カラギーン、可溶性および不溶性アルギン酸塩、カルボキシポリメチレン、ゼラチン、カゼイン、ゼイン、およびベントナイトなどの親水コロイドは、本発明の浮遊性製剤の調製において有用であり得る。浮遊性製剤は、蜜蝋、セチルアルコール、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、水素化ヒマシ油、および水素化綿実油から選択される脂肪物質または脂肪物質の混合物を約60%まで含むことができる(油脂は胃液よりも密度が低い)。浮遊性製剤は、システアミン前駆体の持続放出を促進し、より長い時間にわたって上昇した血漿システアミンレベルを提供することができる。長期の血漿システアミンレベルの上昇は、より少ない頻度での投与を可能にする。
本発明の浮遊性組成物は、ガス発生剤を含有してもよい。ガス発生化合物を用いて浮遊組成物を配合する方法は、当該分野において知られている。例えば、重炭酸ナトリウムを含有する浮遊性小カプセルは、米国特許第4,106,120号に説明されている。ガス発生に基づく同様の浮遊性顆粒は、米国特許第4,844,905号に説明されている。浮動カプセルは、米国特許第5,198,229号に説明されている。
浮遊性組成物は、任意に、酸源およびガス発生炭酸塩または重炭酸塩剤を含有してもよく、これらは一緒に、発泡性カップルとして作用し、製剤に浮力を与える二酸化炭素ガスを産生する。可溶性有機酸およびアルカリ金属炭酸塩からなる発泡性カップルは、混合物が水と接触するとき、またはアルカリ性成分が酸性液体(例えば、胃液)と接触するときに、二酸化炭素を形成する。使用される酸の典型的な例としては、クエン酸、酒石酸、リンゴ酸、フマル酸、またはアジピン酸が挙げられる。使用されるガス発生アルカリの典型的な例としては、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸グリシンナトリウム、セスキ炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸カリウム、炭酸カルシウム、重炭酸アンモニウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム等が挙げられる。ガス発生剤は、水との接触、または胃液中の塩酸と接触することにより誘発される酸源と相互作用して、組成物のマトリックス中に閉じ込められ、その浮遊特性を改善する二酸化炭素または二酸化硫黄を生成する。一実施形態では、ガス発生剤は重炭酸ナトリウムであり、酸源はクエン酸である。
組成物が、胃に到達した直後に胃液および/または粥状液よりも軽くない場合、幽門を介して速やかに追放される可能性があるため、浮遊動態は重要である。予め形成された気泡を含む組成物または脂質などの低密度物質を含む組成物などのいくつかの組成物は、摂取時に胃液および粥状液よりも密度が低い。胃に到達した後に胃液および/または粥状液の密度よりも低い密度を達成しなければならない浮遊性組成物(すなわち、発泡性製剤)の場合、1立方センチメートルあたり1グラム未満の密度は、好ましくは30分以内、より好ましくは15分以内に到達し、最も好ましくは胃液と接触した後10分以内に到達する。浮遊期間も重要であり、薬物放出期間と一致させるべきである。すなわち、組成物が6時間以上薬物を放出するように設計されている場合、それはまた、6時間にわたって浮遊することができなければならない。好ましくは、浮遊性組成物は、少なくとも5時間、より好ましくは7.5時間、さらにより好ましくは10時間以上、1未満の密度を維持する。
大用量のシステアミン前駆体(例えば、2〜10グラム)が、いくつかのシステアミン感受性疾患を効果的に治療し、および/または成体対象において適切な血中レベルを達成するために必要であり得る。標準剤形(例えば、錠剤、カプセル)に含まれ得る任意の活性剤の量は、患者が大きな組成物を飲み込む能力によって制限されるため、さらに複数の錠剤またはカプセルの投与が、不便または不快(嚥下障害の患者には不可能)になり得るため、単位剤形中の活性剤の量を制限しない代替剤形が有用である。粉末、顆粒、および液体は、サイズが制限されない剤形の例であるが、適切な包装(例えば、サシェまたはバイアル)によって単位投与量で送達され得る。本発明のいくつかの実施形態では、本発明の浮遊性胃内滞留性組成物は、液体形態で投与される。さらなる実施形態では、液体組成物は、アルギン酸塩を含む。他の実施形態では、有効医薬成分は、食品に振りかけることができる粉末または顆粒の形態で送達される。
液体胃内滞留性浮遊性薬物送達系の1つの種類は、賦形剤としてアルギン酸塩を利用する。アルギン酸は、1,4−グリコシド結合によって接続されたベータ−D−マンヌロン酸およびアルファ−L−グルロン酸残基から作製される線状ブロック多糖コポリマーである。これは、持続放出ポリマーとしての使用を含めて、医薬組成物における広範囲の目的に使用される(Murata et al.,Eur J Pharm Biopharm 50:221(2000)を参照)。Gavisconは、制酸剤を含む浮遊性液体アルギン酸塩製剤のブランド名である。それは数十年にわたって胃食道逆流を治療するために使用されているため、慢性アルギン酸塩摂取の安全性は十分に確立されている。小分子薬物を有するアルギン酸塩の浮遊性製剤が説明されている(Katayama et al.,Biol Pharm Bull.22:55(1999)、およびItoh et al.,Drug Dev Ind Pharm.36:449(2010)を参照)。胃内容物の表面上に層を形成する浮遊性製剤は、ラフト形成製剤と称されることがある。ラフト形成浮遊性/ゲル化持続放出組成物は、Prajapati et al.,J Control Release 168:151(2013)、およびNagarwal et al.,Curr Drug Deliv.5:282(2008)によって説明されている。
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第4,717,713号は、胃内容物と接触すると、胃の中に半固体のゲル様マトリックスを形成し、それによってゼラチン状マトリックスからの薬物の制御放出をもたらす、液体(飲用に適した)製剤を開示する。キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、ゼラチンまたは他のポリマーおよびカラギーナンなどの複合コアセルベート対、および熱ゲル化メチルセルロースを含むゲル形成ビヒクルが開示されており、その全てまたはサブセットを様々な比で組み合わせて、懸濁した薬学的活性剤(複数可)の溶解および/または拡散速度に影響を及ぼすことができる。使用される他の賦形剤としては、ゲル化の促進剤としても、ゲルを浮遊させるためのガス発生剤としても有効な、炭酸カルシウムなどの炭酸塩化合物が挙げられる。キシログルカンおよびゲランガムもまた、ゲル化剤として、またはゲル化剤の組み合わせとして使用することができる。
液体(飲用に適した)浮遊性製剤としては、液体懸濁液(濃縮物もしくは使用の準備ができている)または液体(例えば、水、ジュースもしくは他の飲料)に加えることができる粉末として提供され得る微粒子を挙げることができる。浮遊性胃内滞留性組成物はまた、食品の上に振りかけるか、または他の方法で混合される粉末の形態で送達されてもよい。
浮遊性胃内滞留性製剤としては、粘膜付着性ポリマーまたは他の粘膜付着性成分を挙げることができ(米国特許第6,207,197号および同第8,778,396号を参照)、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、アルギン酸ナトリウム、エチルセルロース、ポリ(乳酸)コグリコール酸(PLGA)、ポリ乳酸、ポリメタクリレート、ポリカプロラクトン、ポリエステル、ポリアクリル酸、およびポリアミドなどのポリマーを利用することができる。
胃内滞留性組成物の膨潤および膨張
膨潤および膨張は、胃液と接触すると、組成物が幽門を通って胃から出ることを妨げる程度まで膨潤する、胃内滞留機序である。結果として、組成物は、長期間にわたって、例えば、組成物の表面が幽門の直径よりも小さくなるまで浸食されるまで、または食物が胃から実質的に空になるまで、長期間にわたって胃内に滞留し、その時、強い筋肉収縮(「ハウスキーパー波」と呼ばれることもある)が胃を掃引し、その内容物を取り除く。組成物は、膨潤状態または膨張状態でおよそ14〜16mmの直径を超えるため、幽門括約筋を通過することから除外される。好ましくは、組成物は、16〜18mmの直径を超える。膨潤は、浮遊性と組み合わせてもよく、これが特に摂食状態で、幽門から製剤を遠ざける。
胃液との接触時に膨潤し、結果として胃内に滞留する製剤の概念は、1960年代から知られている。米国特許第3,574,820号は、幽門を通過することができず、したがって胃に保持されるようなサイズまで、胃液と接触して膨潤する錠剤を開示している。同様に、米国特許第5,007,790号は、ポリマーと混合された薬物分子の緩慢な溶解を可能にしながら、急速に膨潤して胃の保持を促進する、親水性で水膨潤性の架橋ポリマーからなる錠剤またはカプセルを説明している。
参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2003/0104053号は、活性成分がポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースとの組み合わせから形成された固体単位マトリックス中に分散されている医薬品の送達のための単位剤形錠剤を開示している。この組み合わせは、放出速度制御および再現性の点で独特の利点を提供すると同時に、胃内滞留をもたらす錠剤の膨潤、および薬物の放出が起こった後に胃腸管から錠剤を取り除く錠剤の崩壊の両方を可能にすると言われている。参照により本明細書に組み込まれ、またDepoMedに譲渡された米国特許第6,340,475号は、水を吸収すると、摂食モード中に胃内の剤形の滞留を促進するために十分に大きいサイズまで膨潤する、親水性ポリマーからなるポリマーマトリックスに組み込むことによって開発された活性成分の単位経口剤形を強調する。ポリマーマトリックスは、ポリ(エチレンオキシド)、セルロース、架橋ポリアクリル酸、キサンタンガム、およびヒドロキシメチル−セルロース、ヒドロキシエチル−セルロース、ヒドロキシプロピル−セルロース、ヒドロキシプロピルメチル−セルロース、カルボキシメチル−セルロース、および微晶質セルロースのようなアルキル置換セルロースからなる群から選択されるポリマーで形成される。
さらに、ガムベースの膨潤性胃内滞留系もまた、DepoMed研究者によって開発されている。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,635,280号は、水を吸収すると、摂食モード中に胃内の剤形の滞留を促進するために十分に大きいサイズまで膨潤する、固体ポリマーマトリックスを形成する1つ以上のポリマーを含む、高度に水溶性の薬物の制御放出経口剤形を開示している。ポリマーマトリックスは、ポリ(エチレンオキシド)、セルロース、アルキル置換セルロース、架橋ポリアクリル酸、およびキサンタンガムから選択されるポリマーから形成されてもよい。参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,488,962号は、嚥下に便利なままで幽門を通過することを防止する最適な錠剤形状を開示している。錠剤は、セルロースポリマーおよびそれらの誘導体、多糖類およびそれらの誘導体、ポリアルキレンオキシド、ポリエチレングリコール、キトサン、ポリ(ビニルアルコール)、キサンタンガム、無水マレイン酸コポリマー、ポリ(ビニルピロリドン)、デンプンおよびデンプン系ポリマー、マルトデキストリン、ポリ(2−エチル−2−オキサゾリン)、ポリ(エチレンイミン)、ポリウレタンヒドロゲル、架橋ポリアクリル酸およびそれらの誘導体、ならびにブロックコポリマーおよびグラフトポリマーを含む上に列挙されたポリマーのコポリマーを含む、水膨潤性ポリマーを使用して作製される。
参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,723,340号は、膨潤性胃内滞留性組成物を作製するための最適なポリマー混合物を開示する。混合物は、実質的に完全な薬物放出の際に組成物の小腸への通過を確実にするために、膨潤および薬物放出パラメータの最適制御、ならびに溶解/浸食パラメータの制御を提供する。好ましいポリマー混合物は、ポリ(エチレンオキシド)とヒドロキシプロピルメチルセルロースとの組み合わせを含む。好ましい分子量範囲および粘度範囲は、ポリマー混合物について提供される。
上記の特許公報に記載された方法は、複数の刊行物に説明されている4つのU.S.FDA承認の膨潤性胃内滞留性製剤を配合するために使用されている(例えば、Berner et al.,Expert Opin Drug Deliv.3:541(2006)において概説されている)。
参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2008/0220060号は、弱ゲル化剤、強ゲル化剤、およびガス発生剤の混合物で造粒された活性物質を含む胃内滞留性製剤を開示している。ここで、強力なゲル化剤は、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースを除くヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、キサンタンガム、グアーガム、カラギーナンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、アガー−アガー、ゼラチン、改質デンプン、カルボキシビニルポリマーのコポリマー、アクリレートのコポリマー、オキシエチレンとオキシプロピレンのコポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択される。この特許は、製造方法も説明している。米国特許第7,674,480号は、超崩壊剤、タンニン酸、および1つ以上のヒドロゲルを含む混合物を用いて非常に急速な膨潤をもたらす、膨潤性の胃内滞留性製剤法を開示している。参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2004/0219186号は、キサンタンガムまたはローカストビーンガムまたはそれらの組み合わせに基づいて、多糖から形成されたゲルを含む膨張性胃内滞留デバイスを提供する。参照により本明細書に組み込まれる米国特許公開第2006/0177497号は、胃内滞留のためのプラットフォーム技術として、ゲランガムベースの経口制御放出剤形を開示している。剤形は、グアーガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、キサンタンガムなどの親水性ポリマーをさらに含む。
米国特許第6,660,300号は、膨潤および薬物放出が組成物の別々の区画によって達成される、水溶性薬物を送達するために適した二相性膨潤性胃内滞留性製剤技術を開示しており、内部固体粒状相は、薬物および1種以上の親水性ポリマー、1種以上の疎水性ポリマーおよび/または1種以上の疎水性材料(蝋、脂肪アルコール、および/もしくは脂肪酸エステルなど)を含む。1種以上の疎水性ポリマーおよび/または1種以上の疎水性材料(蝋、脂肪アルコール、および/もしくは脂肪酸エステルなど)を使用して、外部固体連続相(薬物含有内部相の顆粒が包埋されている)が形成される。錠剤およびカプセルが開示される。
膨潤性または膨張性マトリックス製剤に有用な他の賦形剤としては、(i)水膨潤性ポリマーマトリックス、および(ii)以下:ポリアルキレンオキシド、特にポリ(エチレンオキシド)、ポリエチレングリコールおよびポリ(エチレンオキシド)−ポリ(プロピレンオキシド)コポリマー;セルロースポリマー;好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、およびそれらのコポリマーから、互いにまたはアミノエチルアクリレートなどの付加的なアクリレート種とともに形成される、アクリル酸およびメタクリル酸ポリマー、それらのコポリマーおよびエステル;無水マレイン酸コポリマー;ポリマレイン酸;ポリアクリルアミド自体などのポリ(アクリルアミド)、ポリ(メタクリルアミド)、ポリ(ジメチルアクリルアミド)、およびポリ(N−イソプロピル−アクリルアミド);ポリ(ビニルアルコール)などのポリ(オレフィンアルコール)、ポリ(ビニルピロリドン)などのポリ(N−ビニルラクタム)、ポリ(N−ビニルカプロラクタム)、およびそれらのコポリマー;グリセロール、ポリグリセロール(特に高度に分岐したポリグリセロール)、プロピレングリコール、および1つ以上のポリアルキレンオキシドで置換されたトリメチレングリコールなどのポリオール、例えば、モノ−、ジ−、およびトリ−ポリオキシエチレン化グリセロール、モノ−およびジ−ポリオキシエチレン化プロピレングリコール、ならびにモノ−およびジ−ポリオキシエチル化トリメチレングリコール;ポリオキシエチレン化ソルビトールおよびポリオキシエチレン化グルコース;ポリ(メチルオキサゾリン)およびポリ(エチルオキサゾリン)を含むポリオキサゾリン;ポリビニルアミン;ポリビニルアセテート自体ならびにエチレン−ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルアセテートフタレート等を含む、ポリビニルアセテート;ポリエチレンイミンなどのポリイミン;デンプンおよびデンプンベースのポリマー;ポリウレタンヒドロゲル;キトサン;多糖ガム;ゼリン;ならびにシェラック、シェラック−アセチルアルコール、およびシェラックn−ブチルステアレートから選択される親水性ポリマーが挙げられる。胃内滞留性製剤はまた、浮遊性製剤、粘膜付着性製剤、膨張性マトリックス製剤、改変形状製剤、および/または磁性製剤の任意の組み合わせを含んでもよい。
いくつかの実施形態では、本発明の医薬組成物は、幽門を通過することを阻害する大きさに膨潤した結果、胃内に保持される胃内滞留性組成物である。さらなる実施形態では、胃内滞留性組成物は、膨潤機序および浮遊機序の両方によって胃内に滞留する。
展開、形状変化性胃内滞留性製剤
液体胃内容物と接触すると展開、除圧、または他の方法でサイズおよび/もしくは形状を変化させる医薬組成物も説明されており、本発明の化合物および製剤の適切な送達ビヒクルである。そのような組成物は、胃の形状を、幽門を通過しにくい大きさおよび/または幾何形状に変化させるという点で、膨潤/膨張性胃内滞留性製剤と同様の原理を用いる。展開、伸展、または他の形状変化性の胃内滞留性組成物を作製するための方法および材料は、当該分野において知られている。例えば、米国特許第3,844,285号は、反芻動物における獣医学的使用を意図した様々なそのような装置を説明しているが、基本原理は、ヒト胃内滞留性製剤にも適用される。米国特許第4,207,890号は、胃液と接触すると膨潤して展開する「有効な膨張量の膨張剤をその中に含有する、崩壊した、膨張可能な、無孔のポリマーエンベロープ」からなり、その結果として拡張した状態で胃内に滞留する、制御放出薬物送達系を説明している。組成物は、崩壊した形態のカプセルの内部に投与される。展開および形状変化性胃内滞留性組成物が概説されている(例えば、Klausner et al.,Journal of Controlled Release 90:143(2003))。
「アコーディオンピル」と呼ばれる例示的な展開胃内滞留技術は、Intec Pharma(Jerusalem,Israel)によって開発されている。様々な形状の多層の平面構造は(少なくとも1つの層が薬物を含有する)、Kagan,L.Journal of Controlled Release 113:208(2006)に説明されているように、アコーディオンまたは階段状の形状に折り畳まれ、カプセル内に包装される。アコーディオンピルおよび関連技術のさらなる特徴は、その構築に好ましく使用される薬学的賦形剤を含めて、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,685,962号に開示されている。カプセルは、胃内容物との接触時に溶解し、折り畳まれた組成物を放出し、これが急速に展開し、その後、通常の食事とともに投与された場合、最大12時間にわたって胃内に滞留する。
他の胃内滞留技術としては、超多孔質ヒドロゲルおよびイオン交換樹脂系が挙げられる。超多孔質ヒドロゲルは、多数の相互接続された孔を介して急速に水を取り込むため、急速に(液体接触から1分以内に)膨潤する。組成物は、クロスカルメロースナトリウム(例えば、商品名:Ac−Di−Sol)などの親水性ポリマーとの同時配合による胃収縮の力に耐えるために十分な機械的強度を保持しながら、それらの元のサイズの100倍以上まで膨潤し得る。イオン交換樹脂ビーズを、負電荷の薬物で充填し、ガス発生剤(例えば、二酸化炭素ガスを生成するために胃液中の塩化物イオンと反応する重炭酸塩)を用いて浮遊させることができる。ビーズは、ガスを捕捉する半透膜に封入され、ビーズの長期浮遊をもたらす。
胃内滞留性製剤はまた、粘膜付着性、浮遊性、ラフト形成性、膨潤性、展開/形状変化性、超多孔性ヒドロゲルまたはイオン交換樹脂製剤の任意の組み合わせを含み得る。そのような組み合わせは、当業者に知られている。例えば、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許第8,778,396号(「微粒子を含む多単位胃内滞留性薬学的剤形」)は、微粒子からなる複合粘膜付着性浮遊胃内滞留性製剤を説明している。
本発明の組成物は、胃内滞留をさらに促進するために膨潤性および/または粘膜付着特性を有する親水性ポリマーを含み得るが、これに限定されない。本発明の組成物に組み込むために適した膨潤性および/または粘膜付着特性を有する親水性ポリマーとしては、ポリアルキレンオキシド;セルロースポリマー;アクリル酸およびメタクリル酸ポリマー、およびそれらのエステル、無水マレイン酸ポリマー;ポリマレイン酸;ポリ(アクリルアミド);ポリ(オレフィンアルコール);ポリ(N−ビニルラクタム);ポリオール;ポリオキシエチル化糖類;ポリオキサゾリン;ポリビニルアミン;ポリビニルアセテート;ポリイミン;デンプンおよびデンプン系ポリマー;ポリウレタンヒドロゲル;キトサン;多糖類ガム;ゼイン;シェラック系ポリマー;ポリエチレンオキシド、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、メチルセルロース、ポリアクリル酸、マルトデキストリン、アルファ化デンプン、およびポリビニルアルコール、それらのコポリマーおよび混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
組成物からの活性成分の放出は、それらの放出遅延特性について製薬分野で周知の賦形剤を含む適切な遅延剤の使用によって達成することができる。そのような放出遅延剤の例として、ポリマー放出遅延剤、非ポリマー放出遅延剤、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の目的に用いられるポリマー放出遅延剤としては、セルロース誘導体;多価アルコール;糖類、ガム、およびそれらの誘導体;ビニル誘導体、ポリマー、コポリマー、またはそれらの混合物;マレイン酸コポリマー;ポリアルキレンオキシドまたはそのコポリマー;アクリル酸ポリマーおよびアクリル酸誘導体;またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。セルロース誘導体としては、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース(CMC)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。多価アルコールとしては、ポリエチレングリコール(PEG)またはポリプロピレングリコール、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。糖類、ガム、およびそれらの誘導体としては、デキストリン、ポリデキストリン、デキストラン、ペクチンおよびペクチン誘導体、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、グアーガム、ローカストビーンガム、キサンタンガム、カラヤガム、トラガカントガム、カラギーナン、アカシアガム、アラビアガム、フェヌグリーク繊維、もしくはゲランガム等、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ビニル誘導体、ポリマー、コポリマー、またはそれらの混合物としては、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセテート(8部w/w)、およびポリビニルピロリドン(2部w/w)の混合物(Kollidon SR)、ビニルピロリドンのコポリマー、ビニルアセテートコポリマー、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ポリアルキレンオキシドまたはそのコポリマーとしては、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマー(ポロキサマー)、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。マレイン酸コポリマーとしては、ビニルアセテート無水マレイン酸コポリマー、ブチルアクリレートスチレン無水マレイン酸コポリマー等、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。アクリル酸ポリマーおよびアクリル酸誘導体としては、カルボマー、メタクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリレート、ポリメタクリレート等、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。ポリメタクリレートとしては、a)メタクリル酸、メタクリル酸エステル、アクリル酸、およびアクリル酸エステルから選択されるモノマーから形成されるコポリマー、c)エチルアクリレート、メチルメタクリレート、およびトリメチルアンモニオエチルメタクリレートクロリド等から選択されるモノマーから形成されるコポリマー、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。本発明の目的に用いられる非ポリマー性放出遅延剤としては、脂肪、油、蝋、脂肪酸、脂肪酸エステル、長鎖一価アルコール、およびそれらのエステル、またはそれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。実施形態では、本発明で用いられる非ポリマー放出遅延剤としては、Cutina(水素化ヒマシ油)、Hydrobase(水素化大豆油)、Castorwax(水素化ヒマシ油)、Croduret(水素化ヒマシ油)、Carbowax、Compritol(ベヘン酸グリセリル)、Sterotex(水素化綿実油)、Lubritab(水素化綿実油)、Apifil(黄色の蝋)、Akofine(水素化綿実油)、Softtisan(水素化パーム油)、Hydrocote(水素化大豆油)、Corona(ラノリン)Gelucire(マクロゴールグリセリドラウリク)、Precirol(パルミトステアリン酸グリセリル)、Emulcire(セチルアルコール)、プルロールジイソステアリク(ジイソステアリン酸ポリグリセリル)、およびGeleol(ステアリン酸グリセリル)、ならびにそれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明の胃内滞留性組成物は、モノリシックもしくは多層の剤形またはインレイ系などの形態であってもよいが、これらに限定されない。本発明の一実施形態では、胃内滞留性組成物は、二層または三層の固体剤形の形態である。例示的な実施形態では、経口投与のための膨張性二層系の形態の固体医薬組成物は、胃腸管に到達した直後に第1の層から活性医薬成分を送達し、第2の層と同じであっても異なっていてもよいさらなる医薬剤を、特定の期間にわたって修正された様式で送達するように適合される。第2の層は、組成物中で膨張するように配合されてよく、それによって胃における組成物の保持を延長する。
さらなる例示的な実施形態では、経口投与のための固体医薬組成物は、2つの層を含み、一方の層は、適切な放出遅延剤とともに活性成分を含み、もう一方の層は、他の賦形剤と組み合わせて膨潤剤を含む。本発明の別の実施形態では、経口投与のための固体医薬組成物は、胃内滞留を確実にする賦形剤を含む第2の錠剤の内部に配置された活性成分(複数可)を含有する第1の錠剤を含む特殊な剤形である、インレイ系を含有する。この系では、活性成分を含有する錠剤は小さく、少なくとも片側を除いた全ての面が膨潤性ポリマーもしくは浮遊系、または両方を含む賦形剤のブレンドで被覆され、胃内滞留を確実にする。
本発明のさらに別の実施形態では、剤形は任意にコーティングされてもよい。表面コーティングは、感覚刺激目的のため(特に、臭いもしくは不快な味を有するチオールもしくはジスルフィド)、薬物標識目的のため(例えば、剤形のための色分けシステム)、美容目的のため、圧縮された剤形を寸法的に安定化するため、または薬物放出を遅延させるために用いることができる。表面コーティングは、経腸的使用に適した任意の従来のコーティングであってもよい。コーティングは、従来の成分を用いる任意の従来技術を使用して行うことができる。表面コーティングは、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリメタクリレート等であるが、これらに限定されない従来のポリマーを使用する速溶性フィルムを使用して得ることができる。コーティング賦形剤およびそれらを使用するための方法は、当該分野において周知である。例えば、McGinity,James W.およびLinda A.Felton、Aqueous Polymeric Coatings for Pharmaceutical Dosage Forms,第3版,Informa Healthcare,2008を参照されたい。
さらに、本発明の別の実施形態では、組成物は、腸管内でより長い滞留時間を必要とする活性剤を効果的に送達するために、腸内での長期通過を有する、ペレット、マイクロスフェア、マイクロカプセル、マイクロビーズ、マイクロ粒子、またはナノ粒子が挙げられるが、これらに限定されない。多微粒子系は、(i)生体付着性もしくは粘膜付着性であってよく、それにより胃腸管通過を遅延させるか、または(ii)胃内容物の上に浮遊し、任意にゲル様層を形成することができるか、または(iii)pH感受性外層もしくは小腸の軽度の酸性環境において、または回腸の中性からわずかに塩基性の環境(典型的には最高pHを有する腸セグメント)において溶解する層でコーティングされ得るか、または(iv)は、ヒト酵素によって消化されないが、腸内細菌によって産生される酵素によって消化され、遠位回腸および結腸での薬物放出につながる薬物を含有するポリマーを使用して形成されてもよい。実施形態では、本発明の組成物は、多微粒子の形態で、胃内滞留性である。そのような多粒子系は、ペレット化、造粒、噴霧乾燥、噴霧凝結等を含むが、これらに限定されない方法によって調製することができる。
適切な高分子放出制御剤を、本発明の組成物に用いることができる。一実施形態では、ポリマー放出制御剤は、pH非依存性またはpH依存性またはそれらの任意の組み合わせである。別の実施形態では、本発明の組成物に用いられるポリマー放出制御剤は、膨潤または非膨潤であり得る。さらなる実施形態では、本発明の組成物に用いることができるポリマー放出制御剤としては、セルロース誘導体、糖類もしくは多糖類、ポリ(オキシエチレン)−ポリ(オキシプロピレン)ブロックコポリマー(ポロキサマー)、ビニル誘導体またはそのポリマーもしくはコポリマー、ポリアルキレンオキシドおよびその誘導体、マレイン酸コポリマー、アクリル酸誘導体等、またはそれらの任意の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。
経口使用のための制御放出組成物は、活性薬物物質の溶解および/または拡散を制御することによって活性薬物を放出するように構築されてもよい。制御放出を得て、それによって血漿濃度対時間プロファイルを最適化するために、多くの戦略のうちのいずれかを遂行することができる。一例では、制御放出は、例えば、様々な種類の制御放出組成物およびコーティングを含む、様々な製剤パラメータおよび成分の適切な選択によって得られる。したがって、薬物は、適切な賦形剤とともに、投与時に制御された様式で薬物を放出する医薬組成物に配合される。例としては、単一または複数の単位錠剤またはカプセル組成物、油性溶液、液体、懸濁液、乳液、マイクロカプセル、マイクロスフェア、ナノ粒子、粉末、および顆粒が挙げられる。ある特定の実施形態では、組成物は、生分解性、pH、および/または温度感受性ポリマーコーティングを含む。
溶解または拡散制御放出は、化合物の錠剤、カプセル、ペレット、もしくは顆粒製剤の適切なコーティングによって、または化合物を適切なマトリックスに組み込むことによって達成することができる。制御放出コーティングとしては、上述のコーティング物質のうちの1つ以上、および/または例えば、シェラック、蜜蝋、グリコワックス(glycowax)、ヒマシ油蝋、カルナウバ蝋、ステアリルアルコール、モノステアリン酸グリセリル、ジステアリン酸グリセリル、パルミトステアリン酸グリセロール、エチルセルロース、アクリル樹脂、ジ−ポリ乳酸、酢酸酪酸セルロース、ポリビニルクロリド、ポリビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリエチレン、ポリメタクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシメタクリレート、メタクリレートヒドロゲル、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコールメタクリレート、および/またはポリエチレングリコールを挙げることができる。制御放出マトリックス製剤において、マトリックス材料として、例えば、水和メチルセルロース、カルナウバ蝋、およびステアリルアルコール、カルボポール934、シリコーン、グリセリルトリステアレート、メチルアクリレート−メチルメタクリレート、ポリビニルクロリド、ポリエチレン、および/またはハロゲン化フルオロカーボンを挙げることもできる。
あるいは、ある特定のシステアミン前駆体、またはインビボでのシステアミンの生成または吸収の促進剤を配合し、医療用食品として投与してもよい。医療用食品は、薬物ではなく食品としてUS FDAによって規制されている。医療用食品を配合するための方法は、当該分野において知られている。食品または飲料中の活性化合物を調製および投与するための方法の説明については、例えば、米国特許公開第2010/0261791号を参照されたい。オランダに本拠を置く医療食品会社であるNutraciaは、薬理学的に活性な薬剤を食品または飲料と組み合わせる方法を記載した250以上の特許出願および特許を有している。
コーティング
本発明の錠剤またはカプセルなどの経口送達用に配合された医薬組成物は、遅延放出または延長放出の利点をもたらす剤形を提供するためにコーティングまたは他の方法で化合することができる。コーティングは、(例えば、制御放出製剤を達成するために)所定のパターンで活性薬物物質を放出するように適合させることができるか、または例えば、腸溶性コーティング(例えば、pH感受性であるポリマー(「pH制御放出」)、緩慢またはpH依存的膨潤速度、溶解または浸食を有するポリマー(「時間制御放出」)、酵素によって分解されるポリマー(「酵素制御放出」または「生分解性放出」)、および圧力の増加によって破壊される強固な層を形成するポリマー(「圧力制御放出」))の使用によって胃の通過後まで活性薬物物質を放出しないように適合されてもよい。本明細書に説明される医薬組成物に使用できる例示的な腸溶性コーティングとして、糖コーティング、フィルムコーティング(例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、メチルヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アクリレートコポリマー、ポリエチレングリコール、および/またはポリビニルピロリドンに基づく)、またはメタクリル酸コポリマー、セルロースアセテートフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート、ポリビニルアセテートフタレート、シェラック、および/またはエチルセルロースに基づくコーティングが挙げられる。さらに、例えば、モノステアリン酸グリセリルまたはジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延材料を用いてもよい。
例えば、錠剤またはカプセルは、内部投与量成分および外部投与量成分を含むことができ、後者は、前者に対してエンベロープの形態である。2つの成分は、胃内の崩壊に抵抗し、内部成分が十二指腸に無傷で通過するか、または放出が遅れることを可能にする腸溶層によって分離することができる。
腸溶性コーティングが使用される場合、望ましくは、実質的な量の薬物が下部胃腸管で放出される。あるいは、漏出性腸溶性コーティングを使用して、即時放出製剤と遅延放出製剤の中間の放出プロファイルを提供することができる。例えば、米国特許出願第2008/0020041(A1)号は、腸液に接触すると放出される残りの成分とともに、胃液と接触すると有効成分の少なくとも一部を放出する腸溶性材料でコーティングされた医薬製剤を開示する。
遅延放出または延長放出をもたらすコーティングに加えて、固体錠剤組成物は、望ましくない化学変化(例えば、活性薬物物質の放出前の化学分解)から組成物を保護するように適合されたコーティングを含み得る。コーティングは、Encyclopedia of Pharmaceutical Technology、第5および6巻、SwarbrickおよびBoyland編、2000、に説明されているものと同様の方法で固体剤形に適用することができる。
制御放出製剤の場合、組成物の活性成分は、小腸における放出の標的とされ得る。製剤は、組成物が胃で見出される低いpH環境に耐性があるが、小腸のより高いpH環境に感受性であるように腸溶性コーティングを含み得る。小腸における活性成分の放出を制御するために、多粒子製剤を用いて、活性成分の同時放出を防止してもよい。多粒子組成物は、微晶質セルロース系ゲルに分散されたシステアミン前駆体またはその塩を含む疎水性相、およびヒドロゲルを含有する親水性相を含む、複数の個々の腸溶性コーティングされたコアを含んでもよい。微晶質セルロース(MCC)は、コアが腸内で溶解または侵食されている間に、システアミン前駆体またはその塩の放出制御ポリマーとして機能し、用量ダンピングを防止し、システアミン前駆体またはその塩を安定化する。コアまたはコーティング層中の賦形剤に関して異なる2つ以上の多粒子組成物は、より長い期間にわたって活性成分(例えば、システアミン前駆体)を放出するように、1つの医薬組成物(例えば、カプセル、粉末、または液体)に複合されてもよい。あるいは、2つ以上の微粒子のバッチにおいて異なる濃度の賦形剤を使用し、次いで、標的化薬物放出プロファイルをもたらすように選択された比(例えば、1:1)で異なるバッチからの微粒子を組み合わせることによって、同じ効果を達成することができる。
この組成物は、約15%w/w〜約70%w/wのシステアミン前駆体またはその塩、約25%w/w〜約75%w/wの微晶質セルロース、および約2%w/w〜約15%w/wのメチルセルロースを含み、%w/wは、腸溶性コーティングされたコアの%w/wである。
場合によって、タンパク質性サブコーティング層は、システアミン前駆体またはその塩の安定性をさらに高めるため、個々のコアを覆い、個々のコアをそれぞれの腸溶性コーティングから分離する連続的なタンパク質性サブコーティング層を含むことが有利であり得る。連続的なタンパク質性サブコーティングは、システアミン前駆体またはその塩が腸溶性コーティングと混合するのを防止するように適合される。いくつかの好ましいタンパク質性サブコーティングは以下の属性を有する:サブコーティングは、コアに付着したゼラチンフィルムを含むことができ、および/またはサブコーティングは、乾燥タンパク質性ゲルを含むことができる。
特定の実施形態では、腸溶性コーティングされたコアは、0.1N HCl溶液中に置かれた約2時間以内に約20%以下のシステアミン前駆体またはその塩を放出し、その後、実質的に中性のpH環境に置かれた約8時間以内に、約85%以上のシステアミン前駆体またはその塩を放出する。
好ましくは、腸溶性コーティングされたコアは、回転楕円体であり、直径3mm以下である。
別々に投与された組成物の胃での付着を防止するために、本発明の組成物は、抗付着剤でコーティングすることができる。抗付着剤はまた、微粒子が互いに粘着するのを防止するために使用されてもよい。例えば、組成物は、微晶質セルロース粉末の薄い最外層で被覆されていてもよい。あるいは、胃液に不溶であるが透過性および膨潤性のポリマーでコーティングすることによって付着を防止することができる。例えば、30%ポリアクリレート分散液(例えば、Eudragit NE30D、Evonik Industries)は、胃における浮遊性ミニ錠剤の付着を防止することが示されている(Rouge et al.,European Journal of Pharmaceutics and Biopharmaceutics 43:165(1997)を参照)。
腸溶性コーティングに使用される列挙された賦形剤の市販形態としては、例えば、種々のブランドのポリメタクリレート(アミノメタクリレートコポリマー、アンモニオメタクリレートコポリマー、エチルアクリレートコポリマー分散物、メチルメタクリレートコポリマー分散物、メタクリル酸コポリマー、およびメタクリル酸コポリマー分散物を含む、化学的に均一な化合物群)が挙げられ、これらは、Ashland,BASF Fine Chemicals(Kollicoat製品ライン)、ColorCon(Acryl−EZE製品ライン)、Eastman Chemical(Eastacryl製品ライン)、およびEvonik Industries(Eudragit製品ライン)を含むが、これらに限定されない企業によって製品ラインとして販売されている。
回腸および結腸の薬物放出のための製剤
いくつかの実施形態では、回腸および/または結腸標的製剤を使用して、システアミン前駆体を遠位回腸および結腸に送達することができる。(「結腸標的」という用語は、回腸標的製剤および結腸標的製剤の両方を指すために本明細書で使用される。回腸内で薬物を放出し始めるいずれの組成物もまた、結腸内で薬物を放出する可能性があり、回腸で放出されるいくつかの薬物は、結腸に達する可能性がある)。結腸標的組成物の薬物送達の利点には、大腸の上皮との長期の接触および部位特異的送達のために利用できる結腸細菌の存在が含まれる。
薬物動態の観点から、システアミンの結腸吸収は、その極めて短い半減期に起因して、血中レベルを治療範囲内で維持するために胃腸管で連続的に産生(および吸収)されなければならないため望ましい。摂取した医薬組成物(そうでなければ胃内滞留性組成物)は、絶食状態で摂取した場合、摂取後3〜5時間(平均して、ほとんどの対象において)、または食品とともに摂取した後6〜10時間(平均して、ほとんどの対象において)で結腸に到着し得る。その剤形が結腸に到達した後に血液システアミンレベルを治療範囲内で維持する唯一の方法は、システアミンが生成され、結腸に吸収されることを確実にすることである。小腸内に放出されたいくつかのシステアミン前駆体は、結腸にそのまま入り、結腸でシステアミンに分解され得る。しかしながら、結腸での強固なシステアミン生成を提供するために、システアミン前駆体は、結腸(または回腸)で放出されるように配合されるべきであり、そこでシステアミンに分解されて吸収され得る。結腸標的組成物は、システアミン感受性疾患の治療法として単独で使用することを意図するものではなく、むしろ胃腸管の他の領域に向けた製剤を補完するものである。
結腸標的送達に対する2つのアプローチが広範に開発されており、以下に説明する。
第1のアプローチは、腸内細菌によって結腸内で産生された酵素の利用を含む。腸内細菌は、唾液、胃液、腸液、または膵液中に存在するヒト酵素によって消化されない種々のポリマーを消化することができる。そのようなポリマーを含有する医薬組成物は、消化することができず、したがって、ポリマーと混和された有効成分は、それらが遠位回腸(細菌の密度が上昇し始める)または結腸(結腸内容物の1ミリリットルあたり1兆個の細菌が存在し得る)における腸内細菌によって産生された酵素に遭遇するまで逃げることができない。
システアミン前駆体および/または他の有効成分(例えば、インビボシステアミン生成または吸収の促進剤)は、薬物放出を遅延させ、腸内細菌によって産生される酵素によってのみ(ヒト胃腸管において)消化可能であるポリマーと混合することができる。腸内細菌による選択的分解に基づく結腸標的薬物送達に使用されるポリマーには、デキストランヒドロゲル(Hovgaard,L.およびH.Brondsted,J.Controlled ReI.36:159(1995))、架橋コンドロイチン(Rubinstein et al., Pharm.Res.9:276(1992))、およびアゾ芳香族部分を含有するヒドロゲル(Brondsted,H.およびJ.Kopoecek,Pharm Res.9:1540(1992)、ならびにYeh et al.,J.Controlled ReI.36:109(1995))が含まれる。
胃および小腸で安定な前駆体を形成し、腸内微生物叢による酵素切断の際に大腸内で薬物を放出する担体との薬物の共有結合;これらの前駆体の例として、アゾ複合体、シクロデキストリン複合体、グリコシド複合体、グルクロン酸塩複合体、デキストラン複合体、ポリペプチドおよびポリマー複合体が挙げられる。基本原理は、薬物と担体とを連結する共有結合が、ヒト酵素によって消化不可能であるが、腸内細菌酵素によって消化可能でなければならないということである。
第2のアプローチは、胃腸管の他の部分に対して、回腸での高いpHの利用を含む。健康な対象では、胃腸管のpHは、十二指腸(近位から遠位十二指腸までおよそpH5.5〜6.6)から回腸末端(およそpH7〜7.5)まで増加し、次いで盲腸で減少し(pH約6.4)、結腸の右側から左側に向かって最終値約pH7まで再び増加する。
組成物は、中性から軽度アルカリ性pH(例えば、pH6.5以上、pH6.8以上、またはpH7以上)でのみ溶解するpH感受性ポリマーでコーティングすることができる。pH感受性コーティングの下には、持続放出製剤があり、そこから薬物が、拡散、浸食、または組み合わせによって徐々に放出される。このアプローチは、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第5,900,252号に説明されている。
腸内細菌およびpHに基づく結腸標的法を組み合わせることができる。例えば、Naeem et al.,Colloids Surf B Biointerfaces S0927(2014)を参照されたい。この研究では、細菌消化性ポリマーを使用して形成されたコーティングされたナノ粒子が説明されている。薬物を含有する液体で充填したカプセルを結腸に送達するためのpHおよび細菌酵素消化を組み合わせた別の技術は、米国特許公開第2007/0243253号に説明されており、デンプン、アミロース、アミロペクチン、キトサン、硫酸コンドロイチン、シクロデキストリン、デキストラン、プルラン、カラギーナン、スクレログルカン、キチン、クルデュラン、およびレバンを含むポリマーを、約pH5以上で溶解するpH感受性コーティングと一緒に利用する製剤を開示している。
結腸標的薬物送達のための他のアプローチは、(i)マルチコーティング製剤が胃を通過すると外皮が溶解し始め、コーティングの厚さおよび組成に基づいて、ほぼ小腸の通過時間である3〜5時間のラグタイム後に薬物が放出される、時間放出系、(ii)アゾ−およびジスルフィドポリマーの組み合わせが、結腸の低酸化還元電位に応答して薬物放出を提供する、酸化還元感受性ポリマー、(iii)結腸粘膜に選択的に付着し、剤形の通過を遅らせて薬物が薬物を放出することを可能にする、生体付着性ポリマー、および/または(iv)薬物が浸透圧のために半透膜を介して放出される、浸透圧制御薬物送達を用いる。
David R.Friendによる書籍「Oral Colon−Specific Drug Delivery」(CRC Press,1992)は、デキストランベースの送達系、グリコシド/グリコシダーゼベースの送達、アゾ結合プロドラッグ、ヒドロキシプロピルメタクリルアミドコポリマー、および結腸送達のための他のマトリックスなどの、より古い結腸標的方法(それらのうち多くは依然として有用である)を提供し、概説している。結腸標的薬物送達は、より最近では、例えば、Bansal et al.,Polim Med.44:109(2014)によって概説されている。最近のアプローチとしては、腸内細菌によって産生される酵素によってのみ消化可能な新規ポリマーの使用が挙げられ、様々な植物に見られる天然ポリマー、ならびにマイクロビーズ、ナノ粒子、および他の微粒子が含まれる。
治療方法
本発明は、システアミン感受性疾患および障害を治療するために有用な新規の組成物および方法に関する。治療は、胃腸管でシステアミンに変換可能なシステアミン前駆体の経口投与を必要とする。重要なクラスのシステアミン前駆体は、インビボで還元すると2つのチオールを提供する混合ジスルフィドである。両方のチオールが、インビボでシステアミンに変換可能であり得るか、または1つだけであってもよい。両方のチオールがシステアミンに変換可能であるシステアミン前駆体は、シスチン症、嚢胞性線維症、マラリア、ならびにウイルスおよび細菌感染症を含む疾患の治療剤の好ましいクラスである。そのような混合ジスルフィドの非限定的な例としては、システアミン−パンテテインおよびシステアミン−4−ホスホパンテテインが挙げられる。
いくつかの他の疾患では、システアミンに変換可能でない第2のチオールを選択して、システアミンの治療効果を補完または増強することができる。ある特定の実施形態では、神経変性および精神神経疾患の治療のための混合ジスルフィドシステアミン前駆体として、以下のN−アセチルシステイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、ガンマグルタミルシステイン、ガンマグルタミルシステインエチルエステル、ホモシステイン、システイン、およびジヒドロリポ酸の群からの第2のチオールが挙げられる。
混合ジスルフィドシステアミン前駆体の組み合わせは、特定の疾患の病態生理に対処すること、または疾患状態、疾患活性、薬物代謝、もしくは薬物感受性における患者間の変動を説明するように治療レジメンを調整することにおけるさらなる柔軟性をもたらす。例えば、両方のチオールがインビボでシステアミンに変換可能な混合ジスルフィドは、ただ1つのチオールがインビボでシステアミンに変換可能な混合ジスルフィドと同時投与されてもよい。2種類の混合ジスルフィドの比は、約1:1から約1:10まで変化してもよい。
システアミン前駆体は、(i)前駆体のシステアミンへのインビボ変換、および(ii)その後の腸細胞によるシステアミンの吸収に必要な生化学的プロセスを促進する薬剤と同時投与することができる。そのような促進剤は、特定の疾患におけるシステアミン前駆体の治療効果を増大または補完するために、または特定の患者のための治療レジメンを個別化するために選択および投与され得る。例えば、ジスルフィドシステアミン前駆体を、ジスルフィド結合の還元を促進する還元剤と同時投与することができる。還元剤は、チオールグルタチオン、システイン、ホモシステイン、ガンマ−グルタミルシステインなどの生理学的化合物であってもよく、またはそれらの化合物のうちの1つの類似体、例えばN−アセチルシステイン、システインメチルエステル、システインエチルエステル、もしくはガンマグルタミルシステインエチルエステルなどであってもよく、またはジヒドロリポ酸などのジチオール、もしくはビタミンC(アスコルビン酸)などの非チオール還元剤であってもよい。
本発明の混合ジスルフィドから放出されたシステアミンおよび他のチオールは、いくつかの機序のうちのいずれかを介して治療効果を提供し得る。
システアミンは、(i)酸化防止剤、(ii)還元剤およびチオール−ジスルフィド交換の参与剤、(iii)酵素阻害剤、ならびに(iv)銅キレート化剤を含む、体内で多面的な化学的および薬理学的効果を有する。システアミンはまた、ある特定の疾患関連化学物質およびタンパク質の血漿レベルを調節する。例えば、システアミンは、(v)その高いレベルが心臓疾患およびアテローム性動脈硬化症と関連している、トリグリセリドおよび低密度リポタンパク質関連コレステロールを低下させ、(vi)その高いレベルが代謝性症候群および他の疾患と関連している、総アディポネクチンならびにアディポネクチン多量体の相対存在量を低下させる。システアミンはまた、(v)抗寄生虫、(vi)抗細菌、および(vii)抗ウイルス作用、ならびに(viii)抗線維化作用を有し、全て不確実な機序を介する。
(i)システアミンは、還元基を提供することによって、反応性酸素種(ROS)を中和する抗酸化剤として直接作用することができる。
(ii)システアミンは、体内の主要な抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)、ならびに血清中および胃腸管中の重要な抗酸化物質であるシステインを含む、他の生理学的抗酸化物質のレベルを高めることができる。システアミンの抗酸化剤およびGSH回復特性は、高レベルの酸化脂質、タンパク質、または小分子(しばしば低レベルのGSHを伴う)が病因に寄与する広範囲の疾患に関連する。異常酸化産物が寄与因子である疾患として、神経変性疾患、嚢胞性線維症、およびHIV感染症と関連した免疫機能不全が挙げられる(Herzenberg et al.,Proc Natl Acad Sci USA.94:1967(1997)、およびBhaskar et al.,J BiolChem.290:1020(2015)を参照)。トリペプチドであるGSHは、腸内のプロテアーゼによってその構成体アミノ酸に分解される。したがって、経口GSHは、体内にGSHを送達する効率的な方法ではない。システアミン療法は、GSHレベルを高める効果的な方法である。
(iii)システアミンは、ジスルフィドおよびシステイン含有ジスルフィド(シスチンを含む)を含有するグルタチオンとのチオール−ジスルフィド交換反応を化学的に減少させるか、またはそれに参与し、それにより遊離グルタチオンおよびシステインを産生し、順に他の酸化化合物を還元するか、または反応性酸素種を中和することができる。遊離システイン(例えば、システアミン−シスチン交換から生成される)もまた、グルタチオン合成に利用することができる。遊離シスチンおよびシステインとのチオール−ジスルフィド交換を促進することに加えて、システアミンはまた、細胞性抗酸化物質防御機序を制御する様々な酸化還元感知タンパク質を含む、タンパク質中のシスチンおよびシステイニル残基と相互作用することができる。システアミンはまた、システインおよびシステイン−システアミン混合ジスルフィド(両方が機能的シスチノシン遺伝子が存在しない場合にリソソームを出ることができる)を形成するリソソームシスチンとのチオール−ジスルフィド交換反応を介して、シスチン症における病理学的シスチン蓄積を阻害する。(システイン−システアミンジスルフィドは、PQLC2遺伝子によってコードされるリジン/ヘプタヘリカルタンパク質輸送体によって輸送される)。
(iv)システアミンは、ハンチントン病の病因に関与する細胞質酵素である組織トランスグルタミナーゼ(トランスグルタミナーゼ2またはTG2とも呼ばれる)を阻害する。2つのシステアミンのジスルフィドであるシスタミンもまた、TG2阻害剤であり、ハンチントン病モデルではシステアミンよりも広範に試験されている。しかしながら、細胞質の強い還元環境では、実質的に全てのシスタミンがシステアミンに還元される。したがって、システアミンは、シスタミンの活性型である可能性が高い(Jeitner et al.,Biochem Pharmacol.69:961(2005)を参照)。シスタミンは、ハンチントン病のいくつかのマウスモデルにおいて運動機能を改善し、寿命を延ばす。これらの有益な効果は、シスタミン治療により増加する脳由来神経栄養因子(BDNF)によって媒介され得る。シスタミンはまた、細胞質酵素カスパーゼ−3を阻害し、これもシステアミン生成による可能性が高い。ハンチントン病遺伝子の異常な病原体であるハンチンチンは、カスパーゼ−3の活性化を誘導し、その結果、培養細胞におけるミトコンドリアからのシトクロームcの放出をもたらし、最終的にアポトーシスにつながる。高濃度(例えば、25ミリモル)で、システアミンはまた、血管新生、創傷治癒、および組織リモデリングにおいて生理学的役割を果たす亜鉛依存性エンドペプチダーゼの群であるマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)を阻害する。MMPは、いくつかの癌において過剰発現され、細胞外マトリックスを分解することによって浸潤および転移に寄与する。システアミンは、インビトロでの膵臓癌細胞による移動および浸潤、ならびにインビボでの膵臓癌異種移植の増殖を阻害する(Fujisawa et al.,PLoS One.7:e34437(2012))。
(v)システアミンは、いくつかの他のチオールと同様に、強力な銅キレート剤であり、疾患関連腎不全の結果として既に低い銅およびセルロプラスミンレベルを有する一部のシスチン症患者において主要な副作用の原因となり得る。しかしながら、銅キレート化は、神経変性疾患、例えばアルツハイマー病において治療的に有益であり得る。
(vi)システアミンは、慢性腎臓疾患の2つのマウスモデルにおいて、酸化タンパク質のレベルを低減し、TGF−ベータ非依存性機序を介して筋線維芽細胞の増殖を阻害する。筋線維芽細胞は、コラーゲンを含む細胞外マトリックスを産生し、異常な筋線維芽細胞の増殖は、腎臓の疾患(例えば、アルポート病、局所分節性糸球体硬化症)、肺(例えば、嚢胞性肺線維症、慢性閉塞性肺疾患)および肝臓(例えば、非アルコール性脂肪肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎およびアルコール性脂肪性肝炎)を含む、多様な慢性線維性疾患における瘢痕化、収縮および器官機能の喪失と関連している。
(vii)システアミンは、宿主の炎症反応を不都合に調節することなく、インビトロおよびマラリアのマウスモデルの両方において、マラリア(Plasmodium Falciparum)を引き起こす寄生虫の増殖を阻害する。システアミン前駆体パンテチンの投与は、Plasmodium berghei ANKA株に感染したマウスの脳症候群を予防する。システアミンはまた、抗マラリア薬の治療的に重要なアルテミシニンファミリーを増強する。いくつかの実施形態では、新生アルテミシニン耐性Plasmodium株および脳マラリアを含む、アルテミシニン−システアミン前駆体の組み合わせを用いてマラリアを治療する。マラリアの治療のための好ましいシステアミン前駆体は、2つのシステアミンが生成され得るものであり、すなわち還元時に生成されるチオールの両方がシステアミンに変換可能なジスルフィドシステアミン前駆体である。例示的なジスルフィドシステアミン前駆体には、システアミンとパンテテインまたはシステアミンと4−ホスホパンテテインとを接合させることによって形成されるものが含まれる。ジスルフィドシステアミン前駆体と同時投与されるジスルフィド結合の還元の好ましい促進剤としては、チオールパンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、および補酵素Aが含まれ、それらの各々はシステアミン前駆体である。
(viii)システアミンは、脂肪細胞によって産生されるシグナル伝達分子であるアディポネクチンの多量体化を促進する。低レベルのアディポネクチンは、インスリン耐性および炎症と関連し、I型およびII型糖尿病の両方の病因に寄与し得る。高分子量アディポネクチンは、インスリンシグナル伝達を仲介するのに役立ち得る。24週間にわたってシステアミンで治療された非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、高分子量アディポネクチン多量体のレベルが増加した。システアミンは、糖尿病などのインスリン耐性代謝疾患を含む、低アディポネクチンレベルと関連した症状において治療的に有用であり得る。総アディポネクチンに加えて、アディポネクチン多量体の分布は、独立して、個体および集団間の代謝特性の変動性を説明することができる。
(ix)システアミンは、多面的な抗ウイルス効果を有する。例えば、それは、感染性ウイルス粒子の産生を干渉することによって、プロウイルスDNA形成を遮断することによって、またはタンパク質のシステイン残基との混合ジスルフィドを形成することによって、HIV複製を阻害することができ、それにより細胞膜のジスルフィド架橋構造を改変し、ウイルスの吸着を制限する。システアミンはまた、H5N1、H1N2、H2N2、H3N2、H3N8、H5N1、H5N2、H5N3、H5N8、H5N9、H7N1、H7N2、H7N3、H7N4、H7N7、H9N2およびH10N7などの鳥インフルエンザウイルス亜型を含む、インフルエンザウイルスA型、B型およびC型の増殖を阻害することができる。システアミンはまた、スペイン、アジア、および香港インフルエンザウイルス株、ならびにブタ、ウマ、およびイヌインフルエンザウイルスの増殖を阻害することもできる。米国特許第8,415,398号は、システアミンの抗ウイルス用途を開示している。
特定の疾患において、システアミンは、上記の作用機序のうちの1つを介して、複数の機序を介して、またはまだ同定されていない1つ以上の機序を介して作用し得る。
システアミン有効性の証拠がある疾患および障害には、シスチン症;神経変性疾患;神経発達障害、例えば、レット症候群;ミトコンドリア障害、例えば、Leigh症候群、MELAS、MERFF、フリードライヒ運動失調症およびPOLG遺伝子の突然変異に関連する病態、ならびにいくつかの形態の自閉症;腎臓(例えば、アルポート病、局所分節性糸球体硬化症(FSGS))、肝臓(例えば、非アルコール性脂肪肝疾患(NASH)およびアルコール性脂肪性肝炎(ASH))、ならびに肺(肺線維症、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症(CF)の線維性疾患;寄生虫感染症(例えば、マラリアおよび脳マラリア);鎌状赤血球貧血症;癌;脳卒中;pseudomonas aeruginosaなどのバイオフィルム形成細菌を含む細菌感染;インフルエンザウイルスおよびヒト免疫不全ウイルス感染症(AIDS)を含むウイルス感染症;代謝性症候群Xおよび非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)含む代謝性疾患;銅および中毒を含む金属中毒;放射線毒性からの保護が挙げられる。
システアミンまたはシステアミンに分解可能な化合物にジスルフィド結合した他のチオールは、相補的な治療効果を提供することができる。例えば、システアミンをL−システインと、またはL−システインメチルエステル、L−システインエチルエステル、N−アセチルシステイン、N−アセチルシステインエチルエステルまたはN−アセチルシステインアミドなどのL−システイン誘導体と反応させることによって形成されるジスルフィドは、神経変性疾患の治療における、または毒性金属のキレート化および排泄における補完的な有効性を有し得る。
本発明の組成物は、システアミン血中レベルのより良好な制御を可能にする(すなわち、長期間にわたってシステアミンを治療範囲内で維持する)ことによって、また混合ジスルフィドの場合には、任意に第2の治療的チオール部位を提供することによって、これらの疾患の改善された治療を提供し、それにより有効性および患者の利便性を改善しつつ、副作用および患者の治療への不遵守を低減する。
神経変性疾患
神経変性疾患には、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)、アルツハイマー病(AD)および脳鉄蓄積を伴う神経変性(NBIA)(Hallervorden−Spatz症候群とも呼ばれる)が含まれる。既知の遺伝子突然変異によって様々な程度で引き起こされるこれらの疾患は、ニューロン死を含むニューロンの構造または機能の進行性喪失を特徴とする。HDは、HTT遺伝子のエクソン1におけるCAGトリプレットの拡大に全面的に起因するが、NBIAは、約10個の遺伝子の突然変異と関連し、最も一般的なものはPANK2(症例の30〜50%)である。PDおよびAD症例のごく一部は、遺伝的起源である。神経変性疾患はまた、様々なタンパク質のミスフォールディング異常(例えば、アルファ−シヌクレインの凝集、タウタンパク質の高リン酸化および凝集、ならびにベータアミロイドタンパク質の凝集)、ならびにタンパク質分解経路の誤調節(例えば、ユビキチン−プロテアソーム経路および自食作用−リソソーム経路)、膜障害、ミトコンドリア機能不全、軸索輸送の欠陥またはプログラムされた細胞死経路の誤調節(例えば、アポトーシスおよび自食作用)と関連している。
ハンチントン病(HD)細胞は、シスタチオニン由来のシステインの重要な生成因子である酵素シスタチオニンガンマ−リアーゼ(CSE)のレベルが非常に低い。この欠損は、転写レベルで起こり、神経変性の重要な媒介物質であり得る。HD組織およびHDの動物モデルへのシステインの投与は、酸化的ストレスおよび他の異常を逆転させる。鉄蓄積を伴う神経変性、パーキンソン病、アルツハイマー病、および神経発達障害、例えば、レット症候群および他のMECP−2関連障害を含む、他の神経変性疾患におけるシステイン効力の証拠も存在する。しかしながら、経口投与されたシステインは、低いバイオアベイラビリティを有し、大用量で毒性があり得る。
システアミンは、血液脳関門を通過し、インビボでシステインの形成を促進し(例えば、シスチンとのチオール−ジスルフィド交換によって)、システイン生合成のための硫黄源を提供することができる。システアミンは、HDの3つの異なるマウスモデルにおいて有益な効果を呈している。4つの研究は、R6/2マウスモデルにおいて有益な効果を示している。R6/2 HDマウスモデルは、非常に長いCAGトリプレット反復を有する突然変異ヒトHTT対立遺伝子のエクソン1を発現する導入遺伝子を含む。システアミンの有益な影響には、体重減少および運動異常の改善、ならびに生存の延長が含まれる。ある研究では、R6/1マウスモデルにおいても利点が示され、より小さい伸長のCAG反復およびより軽度の表現型を有するエクソン1導入遺伝子を含む。システアミンはまた、伸長CAG反復を有する全長HTT遺伝子を含む、HDのYAC128マウスモデルにおいて有益であることが示されている。システアミンの作用機序は不明である。
2014年2月、Raptor Pharmaceutical Corp.は、ハンチントン病におけるRP103(遅延放出システアミン重酒石酸塩)の進行中の3年間の第2/3相臨床試験の予定された18ヶ月間の中間分析からの結果を発表した。合計96名のHD患者を、RP103またはプラセボでの治療に無作為に割り付けた。RP103で治療した患者に、シスチン症のために使用した用量のおよそ半分の、1日あたり1200mgのシステアミンを投与した。89名の患者が、最初の18ヶ月の相を完了した。試験に参加した全96名の患者の分析は、研究の主要なエンドポイントであるRP103で治療した患者における総モータースコア(TMS)の、よりゆっくりした悪化に向かう肯定的な傾向を示した。TMSの進行は、プラセボで治療した患者に対して、RP103で治療した患者において、治療後18ヶ月で32%遅かった(それぞれ4.51対6.68、p=0.19)。同時のテトラベナジンを摂取していない66名の患者において、RP103治療は、プラセボ群と比較したとき、TMSによって測定されるように、疾患進行の統計的に有意な遅延をもたらした(それぞれ2.84点対6.78、p=0.03)。
本明細書に説明される神経変性疾患または精神疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+システイン、システアミン+N−アセチルシステイン、システアミン+N−アセチルシステインアミド、システアミン+N−アセチルシステインエチルエステル、システアミン+3−メルカプトピルビン酸塩、システアミン+γ−グルタミルシステインエチルエステル、パンテテイン+システイン、パンテテイン+N−アセチルシステイン、システアミン+N−アセチルシステインアミド、パンテテイン+N−アセチルシステインエチルエステル、パンテテイン+3−メルカプトピルビン酸塩、パンテテイン+γ−グルタミルシステインエチルエステル、2システアミン+ジヒドロリポ酸、2パンテテイン+ジヒドロリポ酸、システアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸、システアミン+AD4+ジヒドロリポ酸、およびシステアミン+N−アセチルシステインエチルエステル+ジヒドロリポ酸。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
肝疾患
非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)は、米国および欧州で最も一般的な慢性肝疾患であり、その発生率は、アジア太平洋地域で急速に増加している。米国におけるNAFLD有病率の推定値は、23%〜33.6%に及ぶ。代謝性症候群の患者の80%まで(米国ではおよそ4,700万人)が、NAFLDを有する可能性があると推定されている。一部の患者では、NAFLDは、潜在的に致命的な疾患である非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、および肝不全の原因の増加に進行し、推定罹患率は、米国において2%〜5.7%である。
NAFLD、NASH、またはアルコール性脂肪性肝炎(ASH)のFDA承認治療は存在しない。抗酸化ビタミンE、血糖降下剤メトホルミン、ならびにPPARガンマアゴニストピオグリタゾンおよびロシグリタゾンを含む様々な薬剤の臨床試験は、期待外れの結果をもたらした。ファルネソイドX受容体アゴニストである半合成胆汁酸誘導体オベチコール酸の第2相臨床試験が有望視されている。インスリン耐性を標的とする他の実験的治療法が試験されている。
2011年に、Dohilら(Aliment Pharmacol.Ther.33:1036(2011))は、NAFLDを有する11名の小児において、腸溶性コーティングされたシステアミンの小規模オープンラベルの24週間パイロット試験を行った。システアミンは、11名の患者のうち7名において、肝酵素ALTおよびAST(肝細胞障害の指標)の血清レベルを低減し、この効果は、治療終了後6ヶ月間持続した。しかしながら、体格指数(BMI)に影響はなかった。このオープンラベル第2a相臨床試験には、中度〜重度のNAFLDならびにベースラインALTおよびASTレベルの正常値の上限の少なくとも2倍の、生検で確認された診断を有する小児が関与した。これらの患者には、腸溶性コーティングされたシステアミンを1日2回6ヶ月間与え、その後6ヶ月間の治療後モニタリング期間を設けた。全患者の中で、ALTが平均54%低減し(p=0.004)、ベースラインから少なくとも50%のALT低減の既定の主要評価項目を満たしていた。さらに、患者には、AST(平均41%低減、p=0.02)、サイトケラチン18(平均45%低減、p=0.026)、およびアディポネクチン(平均35%低減、p=0.023)を含む、二次的エンドポイントの改善が見られた。血清トランスアミナーゼは、薬物離脱後に測定され、ALTおよびASTの低減は、治療相後6ヶ月の間に持続した。Dohilらによる概念研究のこの証明に続いて、Raptor Pharmaceutical Corp.は、国立糖尿病・消化器・腎疾病研究所(NIDDK)と協働で臨床試験を開始した。小児における非アルコール性脂肪肝疾患の治療のためのシステアミン重酒石酸塩遅延放出(CyNCh)と呼ばれるこの試験は、NIDDKが後援しているNASH臨床研究ネットワークの10ヶ所の米国センターにおいて160名の小児科の参加者を登録した。
CyNChは、遅延放出システアミン(RP103)カプセル(65kg以下の患者の場合、1日2回300mgを経口的に、65超〜80kgの患者の場合、1日2回375mgを経口的に、または80kg超の患者の場合、1日2回450mgを経口的に)または組織学的に確認されたNAFLDを有する小児にはプラセボのいずれかによる治療の、多施設二重マスク無作為化プラセボ対照第IIb相臨床試験である。肝臓のシステアミンの初回通過代謝は、腸によって吸収されたシステアミンの約40%を除去するため、シスチン症を治療するために使用されるものよりほぼ3倍低いシステアミン用量が可能であり、これはシステアミン感受性疾患の全身治療にとって障害であるが、肝疾患の治療においては利点である。
システアミン治療から利益を得ることができる他の肝疾患には、アルコール性脂肪性肝炎および急性または慢性肝不全が含まれる。
本明細書に説明される肝疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+システイン、システアミン+N−アセチルシステイン、システアミン+N−アセチルシステインエチルエステル、システアミン+グルタチオン、システアミン+グルタチオン−モノエチルエステル、システアミン+グルタチオン−ジエチルエステル、システアミン+γ−グルタミル−システイン、システアミン+γ−グルタミルシステインエチルエステル、システアミン+システイニルグリシン、システアミン+ジヒドロリポ酸、パンテテイン+システイン、パンテテイン+N−アセチルシステイン、パンテテイン+N−アセチルシステインエチルエステル、パンテテイン+グルタチオン、パンテテイン+グルタチオン−モノエチルエステル、パンテテイン+グルタチオン−ジエチルエステル、パンテテイン+ガンマ−グルタミル−システイン、パンテテイン+γ−グルタミルシステインエチルエステル、パンテテイン+システイニルグリシン、パンテテイン+ジヒドロリポ酸、2システアミン+ジヒドロリポ酸、2パンテテイン+ジヒドロリポ酸、2N−アセチルシステイン+ジヒドロリポ酸、NAC+システアミン+ジヒドロリポ酸、システアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸、N−アセチルシステアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸、およびシステアミン+システイン+ジヒドロリポ酸。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
マラリア
マラリアにおけるシステアミンの有効性についてのインビトロおよびインビボの証拠は、唯一の治療としても、アルテメシニンの増強剤としても、上記に説明されている。システアミン治療は、マラリアおよび脳マラリア患者に利益をもたらす可能性がある。
アルテメシニンに対する耐性は、アルテミシニン治療後の寄生虫の有意に遅延されたクリアランスを特徴とする。アルテミシニン誘導体は、1時間の位数の半減期を有し、したがって、数日にわたって少なくとも1日1回の投与を必要とする。例えば、WHOが承認したコアルテムエーテル(アルテムエーテル−ルメファントリン)の成人用量は、0、8、24、36、48、および60時間(6回投与)で4錠である。同様の短い半減期のため、システアミンは、システアミン前駆体の即時放出製剤を使用する場合、同じスケジュールに従って投与され得るか、または12時間毎に3日間、シスチン症の患者の治療に使用される用量と同様の用量で、すなわち、成人で2.5g/日で投与され得る。
シスチン症
シスチン症は、稀な常染色体劣性遺伝性リソソーム蓄積症である。これは、遺伝性腎ファンコニー症候群の最も頻繁かつ潜在的に治療可能な原因である。未治療の腎機能は、人生の最初の10年の終わりまでに急速に悪化し、腎臓移植を必要とする末期の腎臓疾患につながる。シスチン症管理における2つの主要なマイルストーンである、システアミンによるシスチン枯渇療法および腎臓同種移植は、シスチン症患者の予後にかなりの影響を与えた。しかしながら、システアミン療法の遵守は、重大な副作用およびシステアミン重酒石酸塩(Cystagon(登録商標))の即時放出製剤を使用する場合の厳密な6時間毎の投与レジメンに起因して大きな問題となっている。最近では、システアミン重酒石酸塩(Procysbi(登録商標))の新しい1日2回の遅延放出腸溶性コーティング製剤が、シスチン症の治療のために、米国のFDAによって、および欧州のEMAによって承認され、Cystagon(登録商標)に対する安全かつ有効な代替であることが示された。システアミンの推奨維持用量(即時放出製剤(Cystagon(登録商標))の場合は6時間毎または遅延放出製剤(Procysbi(登録商標))の場合は1日2回)は、1日に体表面積1平方メートルあたり1.3グラムである。白血球シスチンレベルがWBCタンパク質1ミリグラムあたり1ナノモル1/2シスチンより高いままである場合、用量は1.95グラム/m2/日まで増加させることができる。
本明細書に説明されるシスチン症の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N−アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3−メルカプトピルビン酸塩、N−アセチルシステアミン+パンテテイン、N−アセチルシステアミン+N−アセチルシステアミン、N−アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N−アセチルシステアミン+システイン、およびN−アセチルシステアミン+3−メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
遺伝性ミトコンドリア病
システアミンは、スーパーオキシドフリーラジカル、アルデヒド(脂質過酸化の毒性産物)、および過酸化水素を含むROSを直接除去する。システアミンはまた、ジスルフィド結合の還元による、ならびにシステインおよびシステイン−システアミン混合ジスルフィドを生じるシスチンとの反応を含む、チオール−ジスルフィド交換反応に関与することによって、他の還元チオールの形成に寄与する。この反応は、細胞性システインプールを増加させる。システインは、グルタチオン(GSH)生合成における律速基質である。グルタチオンは、システイン、グルタミン酸塩、およびグリシンのアミノ酸からなるトリペプチドである。
低いGSHレベルは、ミトコンドリア機能を損ない、遺伝性ミトコンドリア病を悪化させる場合がある。Salmiら(Scandinavian Journal of Clinical and Laboratory Investigation,2012)は、生化学的および/または遺伝的に確認されたミトコンドリア病を有する小児の群を研究し、血漿チオールレベルおよび酸化還元状態の変化を見出し、酸化ストレスの増加および抗酸化物質の枯渇を示した。システインを含む細胞チオールレベルを増加させるシステアミンの能力は、ミトコンドリア病を有する患者の相対チオール欠乏に潜在的に対処することができる。システアミンがROSを直接除去する能力は、増加した酸化ストレスに対抗し、これらの疾患における損なわれたミトコンドリア機能を改善し得る。
2014年、Raptor Pharmaceuticalsは、Leigh症候群および他の遺伝性ミトコンドリア病を有する患者において、その遅延放出システアミンであるRP103を、最大1.3g/m2/日を2つの分割用量で12時間毎に最大6ヶ月間投与する、オープンラベルの用量漸増型第2相試験を開始した。
例示的な遺伝性ミトコンドリア病としては、フリードライヒ運動失調症、レーバー遺伝性視神経症、ミオクローヌス癲癇およびぼろ赤色線維、ミトコンドリア脳心筋症、乳酸アシドーシスおよび脳卒中様症候群(MELAS)、ケーン・セイヤー症候群、亜急性壊死脳症(Leigh症候群)、およびミトコンドリア心筋症、ならびに複数のミトコンドリアDNA欠失による他の症候群が挙げられる。さらなるミトコンドリア病としては、神経筋衰弱、運動失調症および網膜色素変性症(NARP)、進行性外眼瞼麻痺(PEO)、ならびにOXPHOS複合体の機能不全に関する複合I疾患、複合II疾患、複合III疾患、複合IV疾患および複合V疾患が挙げられる。また、POLG遺伝子の突然変異、ならびにある形態の自閉症も含まれる。
本明細書に説明されるミトコンドリア病の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N−アセチルシステアミン、システアミン+3−メルカプトピルビン酸塩、システアミン+ジヒドロリポ酸、2システアミン+ジヒドロリポ酸、2パンテテイン+ジヒドロリポ酸、システアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸、システアミン+N−アセチルシステアミン+ジヒドロリポ酸、およびシステアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
嚢胞性線維症および他の慢性呼吸器病態
嚢胞性線維症(CF)は、様々な上皮細胞において発現されるcAMP調節塩化物チャネルをコードする、CFTR遺伝子における機能喪失突然変異によって引き起こされる。CFTR機能の欠損は、呼吸器細菌感染症、膵臓機能不全、および男性不妊症に対する感受性の増加を伴う慢性肺炎症を含む主要な臨床症状につながる。3つの塩基欠失突然変異ΔF508は、北欧および北米におけるCFの約70〜90%を占める。ΔF508−CFTRは、補正分子によって原形質膜で救出された場合、部分的クロリドチャネル活性を保持することができるが、この場合ΔF508−CFTRは、原形質膜から迅速にリサイクルされ、リソソーム分解に転換される。したがって、原形質膜でΔF508−CFTRを安定化させることは、依然として困難な課題である。機能的CFTRの喪失は、反応性酸素種(ROS)およびBECN1のトランスグルタミナーゼ2媒介性架橋および細胞内アグレソーム内のホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PtdIns3K)クラスIIIの隔離を誘導し、肺の炎症につながる。シスタミンは、BECN1機能および自食作用を回復させることができ、ヒト細胞における、およびΔF508−CFTR突然変異についてホモ接合性のマウスモデルの気道におけるSQSTM1蓄積および鈍的な炎症を低減することができる。さらに、シスタミンの投与は、細胞内輸送を救済し、上皮細胞の原形質膜で完全に機能的なΔF508−CFTRを安定化することができ、CFTRコレクタ分子の有益な効果を補完する。自食作用を救済し、炎症を制御するシスタミンの効果は、薬物ウォッシュアウト後も十分に及ぶが、離脱中のCFTR枯渇によって消滅する。システアミン(Novabiotics(登録商標)からのLynovex(登録商標))は、現在入手可能な粘液溶解剤と少なくとも同等の粘液溶解活性を示した。システアミンは、Pseudomonas aeruginosaおよび他のCF病原体に対して殺菌性であった。システアミン活性は、CF肺に特徴的な高いイオン濃度には感受性でなかった。システアミンは、P.aeruginosaバイオフィルムの形成を防ぎ、確立されたP.aeruginosaバイオフィルムを破壊した。システアミンは、従来のCF抗生物質と相乗的であり、CF細菌病原体の抗生物質耐性を逆転させる。経口(ゲルカプセル)形態のLynovex(登録商標)は、第IIa相試験を完了した。Novabioticsは、粘液溶解性効果および抗菌効果の両方を有する単一治療として、嚢胞性線維症のため、またCOPDおよび、他の慢性呼吸器病態のためのLynovexを開発している。
本明細書に説明される肺疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N−アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3−メルカプトピルビン酸塩、N−アセチルシステアミン+パンテテイン、N−アセチルシステアミン+N−アセチルシステアミン、N−アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N−アセチルシステアミン+システイン、およびN−アセチルシステアミン+3−メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
腎疾患
システアミンは、腎線維症の2つのマウスモデル、すなわち、尿管狭窄および腎虚血/再灌流傷害において有効であった(Okamura et al.,J.Am.Soc.Nephrol.25:43(2014))。これらの結果は、酸化的ストレスの低減および腎傷害に対する筋線維芽細胞応答の減弱を含む、TGF−β非依存性機序によるシステアミンの、以前に認識されていない抗線維化作用を示唆している。
線維症はまた、局所分節性糸球体硬化症、アルポート症候群、および薄い基底膜疾患を含む、糸球体疾患の遺伝型の主要な明示の1つである。
本明細書に説明される腎疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N−アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3−メルカプトピルビン酸塩、N−アセチルシステアミン+パンテテイン、N−アセチルシステアミン+N−アセチルシステアミン、N−アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N−アセチルシステアミン+システイン、およびN−アセチルシステアミン+3−メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
実施例10は、システアミン前駆体のラットの薬物動態研究を説明し、システアミン前駆体の投与後のシステアミンの腎臓レベルは、システアミン重酒石酸塩の投与後に報告されたものよりも、用量投与後10.5時間ではるかに高かった(Dohil et al.Clin.Pharmacol.Drug Dev.4:170(2012))。
システイン突然変異に対してアルギニンによって引き起こされる遺伝性疾患
ある特定の遺伝性疾患は、本発明の方法および組成物を用いて治療することができる。例えば、疾患によって引き起こされる突然変異には、アルギニンのコドンをシステインのコドンに改変するDNA配列変化が含まれる。そのような突然変異のサブセットは、部分的な機能を保持するか、または少なくともリボソームによって完全に合成され、それらの正常な目的地(例えば、原形質膜、ミトコンドリア、核等)に輸送されるのに十分に安定なタンパク質において生じる。システアミンは、異常なシステイン残基とジスルフィド結合を形成することができ、そのようにしてアルギニンをある程度模倣し、それにより正常なタンパク質機能をある程度回復させることができる(例えば、Gahl et al.Am J Med Genet 20:409(1985)参照)。したがって、アルギニンからシステアミンへの変化を伴う任意の遺伝性疾患は、システアミン前駆体療法の候補である。そのような疾患としては、第VIII因子遺伝子におけるアルギニンからシステアミンへの突然変異による血友病A;CPT1C遺伝子におけるアルギニンからシステアミンへの突然変異に起因する純粋常染色体優性痙性対麻痺;TGM6遺伝子におけるアルギニンからシステアミンへの突然変異に起因する脊髄小脳失調症35;および多くの他の疾患が挙げられる。
システアミン前駆体および促進剤で可能なシステアミンの持続レベルは、突然変異タンパク質の進行中のシステアミン化の必要性をよりよく解決する。
本明細書に説明されるアルギニンからシステインへの突然変異によって引き起こされる遺伝性疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N−アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3−メルカプトピルビン酸塩、N−アセチルシステアミン+パンテテイン、N−アセチルシステアミン+N−アセチルシステアミン、N−アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N−アセチルシステアミン+システイン、およびN−アセチルシステアミン+3−メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
心血管疾患
慢性高コレステロール血症と関連したアテローム性動脈硬化症に起因する心疾患、および虚血性心疾患は、システアミン前駆体で治療可能である。
本明細書に説明される心血管疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+補酵素A、N−アセチルシステアミン+補酵素A、パンテテイン+補酵素A、デホスホ−補酵素A+補酵素A、補酵素A+補酵素A、システアミン+パンテテイン、システアミン+N−アセチルシステアミン、システアミン+パンテテイン、システアミン+ブシラミン、パンテテイン+ブシラミン、パンテテイン+ジヒドロリポ酸、補酵素A+ジヒドロリポ酸、2システアミン+ブシラミン、2システアミン+ジヒドロリポ酸、システアミン+パンテテイン+ブシラミン、およびシステアミン+パンテテイン+ジヒドロリポ酸。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
神経発達障害
レット症候群および他のMECP2関連障害を含む神経発達障害は、システアミン前駆体で治療可能である。
他の疾患
鎌状赤血球貧血症患者からの赤血球の、システアミンへの曝露は、低酸素条件下での鎌状化の著しい阻害、平均血球ヘモグロビン濃度の減少、および酸素親和性の有意な増加をもたらした。システアミン治療した赤血球の酸素親和性は、未処理の鎌状赤血球よりもそれらの平均血球ヘモグロビン濃度に依存しなかった。
システアミンの抗新生物効果は、癌細胞系および異種移植モデルにおいて実証されている(Fujisawa et al.,e34437(2012))。特に、システアミンは毒性のない用量依存的様式でマウスの生存を延長した。マトリックスメタロプロテアーゼ活性は、動物異種移植片およびシステアミンで治療した癌細胞株において有意に減少した。
長期間のシステアミン療法は、アディポネクチンの多量体化を促進し、システアミンがインスリン耐性、酸化ストレス、および低下したアディポネクチンレベルと関連した病態、ならびに虚血性傷害において治療的であり得ることを示唆している。
本明細書に説明される血液病の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N−アセチルシステアミン、システアミン+N−アセチルシステインエチルエステル、システアミン+N−アセチルシステインアミド、N−アセチルシステアミン+N−アセチルシステアミン、およびシステアミン+アリルメルカプタン。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
本明細書に説明される感染性疾患の治療のために、システアミン前駆体は、望ましくは以下の群の混合ジスルフィドの群から選択される:システアミン+パンテテイン、システアミン+N−アセチルシステアミン、システアミン+アリルメルカプタン、システアミン+システイン、システアミン+3−メルカプトピルビン酸塩、N−アセチルシステアミン+パンテテイン、N−アセチルシステアミン+N−アセチルシステアミン、N−アセチルシステアミン+アリルメルカプタン、N−アセチルシステアミン+システイン、およびN−アセチルシステアミン+3−メルカプトピルビン酸塩。治療レジメンは、任意に、還元剤、パンテテイナーゼ誘導剤、またはPPARアゴニストなどの本明細書に説明される促進剤を含む。
投与レジメン
システアミン感受性障害の治療における血漿システアミンレベルを調節するための本方法は、1つ以上のシステアミン前駆体および任意にインビボでのシステアミン生成および/または吸収の1種以上の促進剤を含む1つ以上の組成物を、システアミン感受性疾患または障害の有効な治療を提供するのに十分なシステアミンの血漿レベルの上昇をもたらすために十分な時間および量で投与することによって実行される。例えば、胃内滞留性および非胃内滞留性持続放出製剤の両方は、それら自体で、3、5、8時間、またはそれ以上にわたってシステアミン前駆体の放出をもたらすことができるが、治療濃度範囲内のシステアミンのより安定した血中レベルをより長い期間達成するために、それらの製剤型のいずれかを、即時放出、遅延放出、または結腸標的組成物などの1種以上の他の組成物と同時投与することが望ましい場合がある。混合製剤と呼ばれる2種類の製剤を含有する組成物を投与することもできる。
組成物の投与の量および頻度は、例えば投与されるもの(例えば、どのシステアミン前駆体、どの促進剤、どの種類の製剤)、疾患、患者の状態、および投与様式に応じて変化し得る。治療的適用において、組成物は、上昇したWBCシスチンレベル(例えば、シスチン症)に罹患している患者に、WBCシスチンレベルを、好ましくは推奨レベルより低く減少させるか、または少なくとも部分的に減少させるために十分な量で投与することができる。投与量は、疾患の種類および進行の程度、痛みの重症度(例えば、急性、亜急性、または慢性)、特定患者の年齢、体重、および全身状態、選択された組成物の相対的な生物学的有効性、システアミン代謝における個体間の変動、賦形剤の配合、投与経路、ならびに主治医の判断のような変数に依存する可能性がある。有効用量は、インビトロまたは動物モデル試験系から誘導された用量反応曲線から推定することができる。有効用量は、例えば、シスチン症の場合、WBCシスチンレベルを減少させること、NASHの場合、肝線維症を停止または逆行させること、神経変性疾患の場合、臨床的に検証された試験によって測定される認知、運動、または情緒的機能を改善することによって、望ましい臨床転帰をもたらす用量である。
用量あたりのシステアミン前駆体またはその塩の量は変動し得る。システアミン重酒石酸塩の用量範囲の上端は、1日に体表面積1万平方メートルあたり1.95グラム(単にシステアミンの重量を数える)であり、これは平均成人のシステアミン塩基約3.7グラム/日に相当する。しかしながら、その量のシステアミンは、重大な副作用および場合によっては治療の中止と関連する。
システアミン前駆体の分子量は、インビボでシステアミンに変換可能な画分ほど広く変化する。いくつかの例は、その変化を説明するのに役立つ場合がある。システアミン塩基の分子量は、77.15g/molである。チオールパンテテインの分子量は、278.37g/molである。したがって、システアミン−パンテテインジスルフィドは、およそ353.52の分子量(酸化反応で失われた2つのプロトンに対して調整)を有し、併せて154.3重量の2つのシステアミンにインビボで変換可能である。したがって、システアミン−パンテテインジスルフィドの約43.6%がシステアミンに変換可能である。インビボでのシステアミン−パンテテインジスルフィドのシステアミンへの100%変換を仮定し、さらに同等の生物学的利用能を仮定すると、システアミン−パンテテインジスルフィドの最大用量は、70kgの成人に対して8.5グラム/日、または約0.12グラム/kg/日の範囲である。システアミン前駆体の生物学的利用能は、患者のインビボでのシステアミンの生成および吸収能力と一致するように投与された場合、システアミン塩よりも適度に高いと予想される。システアミン前駆体のシステアミンへのインビボ変換は、100%である可能性は低いが、薬物動態パラメータへの投与レジメンの較正によって、およびシステアミン前駆体の分解および吸収の適切な促進剤の同時投与によって、非常に高い変換率が達成され得る。
ジスルフィドパンテチンは、分子量が554.723g/molであり、還元およびパンテテイナーゼ切断の際に2つのシステアミン分子を生じる(すなわち、パンテチンの27.8%がシステアミンになる)。したがって、上記と同じ仮定を行うと、パンテチンの最大用量は、70kgの成人に対して13グラム/日、または約0.19グラム/kg/日の範囲である。
補酵素Aのような大きなシステアミン前駆体(分子量767.535g/mol)については、システアミン1分子しか得られないため、システアミンに変換可能な用量の画分はわずか約10%であり、その結果、補酵素Aの最大用量は、70kgの成人に対して最大37グラム/日、または約0.5グラム/kg/日であり得る。その理由から、補酵素Aは、良好な治療効果のためにシステインの高血中レベルを必要とする疾患の唯一の治療として好まれないが、システアミンをより効率的に送達する他のシステアミン前駆体と組み合わせることができる。
有用なシステアミン前駆体用量の範囲の下限は、副作用および忍容性の限界によって決定されるのではなく、全体として効力によって決定され、これは疾患毎に大幅に異なる可能性がある。例えば、肝臓による最初の通過代謝(血液から吸収されたシステアミンの約40%を取り除く)は、肝臓へのシステアミン送達に影響を及ぼさないため、肝疾患の有効用量の範囲は他の疾患よりも低い。
例えば、対象は、約0.01g/kg〜約0.5g/kgのシステアミン前駆体を受けることができる。一般に、システアミンおよびパンテテイン化合物は、ピーク血漿濃度が1μM〜45μMの範囲にあるような量で投与される。例示的な投与量は、約0.01〜約0.2g/kg、約0.05〜約0.2g/kg、約0.1〜約0.2g/kg、約0.15〜約0.2g/kg、約0.05g/kg〜約0.25g/kg、約0.1g/kg〜約0.25g/kg、約0.15g/kg〜約0.25g/kg、約0.1g/kg〜約0.50g/kg、約0.2〜約0.5g/kg、約0.3〜約0.5g/kg、または約0.35〜約0.5g/kgであり得る。例示的な投与量は、約0.005g/kg、約0.01g/kg、約0.015g/kg、約0.02g/kg、約0.03g/kg、約0.05g/kg、約0.1g/kg、約0.15g/kg、約0.2g/kg、または約0.5g/kgである。例示的なピーク血漿濃度は、5〜20μM、5〜15μM、5〜10μM、10〜20μM、10〜15μM、または15〜20μMの範囲であり得る。ピーク血漿濃度は、2〜14時間、4〜14時間、6〜14時間、6〜12時間、または6〜10時間維持することができる。
治療の頻度も異なり得る。対象は、1日あたり1回以上(例えば、1回、2回、もしくは3回)、または非常に多くの時間毎に(例えば、約8、12、または24時間毎に)治療することができる。好ましくは、医薬組成物は、24時間に1回または2回投与される。治療の時間経過は、異なる期間であってよく、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10日間、またはそれ以上の日数、2週間、1ヶ月間、2ヶ月間、4ヶ月間、6ヶ月間、8ヶ月間、10ヶ月間、1年超、または生涯にわたる。例えば、治療は、1日2回を3日間、1日2回を7日間、1日2回を10日間であり得る。治療サイクルは、間隔をあけて、例えば、毎週、隔月、または毎月に繰り返すことができ、これは治療を施さない期間で区切られる。治療は、単一の治療であり得るか、または対象の寿命(例えば、長年)の長さであり得る。
併用療法
インビトロデータは、システアミンが、CYP2A6またはCYP3A4によってではなく、CYP1A2、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、およびCYP2E1を含む複数のCYP酵素によって代謝される可能性があることを示唆している。システアミンは、インビトロでCYP1A2、CYP2A6、CYP2B6、CYP2C8、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP2E1、およびCYP3A4の阻害剤ではない。インビトロでは、システアミンは、P−gpおよびOCT2の基質であるが、BCRP、OATP1B1、OATP1B3、OAT1、OAT3、およびOCT1の基質ではない。システアミンは、OAT1、OAT3、およびOCT2の阻害剤ではない。
システアミンと他の化合物との相互作用は知られておらず、したがってシステアミン前駆体を、上に列挙した複数の適応症の治療に使用されるいくつかの他の薬物とともに使用することができる。例えば:
本発明の組成物は、限定されないが、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤ドネペジル(Aricept(登録商標))、リバスチグミン(Exelon(登録商標))、またはガランタミン(Razadyne(登録商標))などの1種以上の抗神経変性薬と組み合わせて投与して、軽度から中度のアルツハイマー病を治療することができ、メマンチン(Namenda(登録商標))は軽度から重度のアルツハイマー病を治療するため、カルビドパと組み合わせたレボドパ(例えば、Parcopa(登録商標)、Sinemet(登録商標))はパーキンソン病を治療するため、またプラミペキソール(Mirapex(登録商標))、ロピニロール(Requip(登録商標))およびロチゴチン(パッチとして与えられるNeupro(登録商標))を含むドーパミンアゴニスト、例えば症状緩和のために使用されるアポモルフィン(Apokyn(登録商標))、セレギリン(Eldepryl(登録商標)、Zelapar(登録商標))およびラサギリン(Azilect(登録商標))を含むMAO−B阻害剤、カテコールO−メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害剤、エンタカポン(Comtan(登録商標))、抗コリン作用薬(Cogentin(登録商標))、アマンタジン、鎮静剤、抗うつ剤、および他の薬物はパーキンソン病およびアルツハイマー病(これらの障害に関連した行動問題を含む)を管理するため、テトラベナジン(Xenazine(登録商標))およびオランザピン、アリピプラゾール、リスペリドン、またはチアプリドなどの他の認可されていない抗喘息治療薬はハンチントン病のために投与することができる。
ミトコンドリア病のFDA承認された治療はないが、ビタミン、微量栄養素、および補酵素Q10などの薬理学的に活性な物質が試験されている。最初に電子輸送鎖と相互作用するように設計されたキノンEPI−743は、グルタチオンのレベルを上昇させる働きをし、ミトコンドリア病の臨床試験中である。
アルポート症候群に対する明確な治療は存在しないが、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害剤は、タンパク尿および腎疾患の進行を低減することができることが研究によって示されている。
アルテミシニンは、有効性および依然として少数の耐性株に起因して、最も重要な抗マラリア薬である。アルテミシニンは、耐性株の出現を低減するための単剤療法としては推奨されていないが、これは既に一部の地域で発生している。化学的にアルテメシニンは、その抗マラリア活性にとって重要であると考えられる特異な過酸化物架橋を含む、セスキテルペンラクトンである。アルテスナート(水溶性:経口、直腸、筋肉内、または静脈内用)、アルテメテル(脂溶性:経口、直腸、または筋肉内用)、ジヒドロアルテミシニン、アルテリン酸、およびアルテモチルを含む、アルテミシニンの半合成誘導体が開発された。他の類似体も合成されている(例えば、Posner et al.,J.Med.Chem.42:300(1999))。
代謝症候群を治療するために使用される薬物は、患者に存在する代謝症候群の特定の成分を標的とするように調整される。スタチンおよびフィブラートを含むコレステロール低下剤は、一部の患者において有用である。様々なクラスの血圧治療薬を使用することもできる。2型糖尿病を治療するために使用される薬物には、メトホルミンが含まれる。
システアミン前駆体は、上記の薬剤のうちのいずれかと組み合わせることができる。
バイオマーカー
本発明の治療方法は、投与レジメンまたは患者選択を選択するためのガイドとして、1つ以上のバイオマーカーに従うことを含むことができる。バイオマーカーは、以下のように測定することができる:
血漿システアミン薬物動態は、2区画モデルに基づいて、吸収および排出半減期、ならびに腸内産生および吸収の速度が排出速度よりも遅い薬物の「フリップフロップ」薬物動態プロファイル特性を決定する。
シスチン症:1nmolの1/2シスチン/mg WBCタンパク質よりも低い投与前白血球(WBC)シスチンレベル。治療が十分に忍容されることを条件とする。投与前WBCシスチンレベルが、2nmolの1/2シスチン/mgタンパク質よりも低い場合、患者は依然として治療から利益を受けることができる。
ミトコンドリア疾患:例示的なミトコンドリア活性マーカーとしては、遊離チオールレベル、グルタチオン(GSH)、還元グルタチオン(GSSH)、総グルタチオン、高度酸化タンパク質産物(AOPP)、第二鉄還元抗酸化力(FRAP)、乳酸、ピルビン酸、乳酸塩/ピルビン酸比、ホスホクレアチン、NADH(NADH+H+)またはNADPH(NADPH+H+)、NAD、またはNADPレベル、ATP、嫌気性閾値、還元型補酵素Q、酸化型補酵素Q;総補酵素Q、酸化型シトクロームC、還元型シトクロームC、酸化型シトクロームC/還元型シトクロームC比、アセトアセテート、β−ヒドロキシブチラート、アセトアセテート/β−ヒドロキシブチレート比、8−ヒドロキシ−2′−デオキシグアノシン(8−OHdG)、反応性酸素種のレベル、酸素消費のレベル(VO2)、二酸化炭素輩出のレベル(VCO2)、および呼吸商(VCO2/VO2)が挙げられるが、これらに限定されない。
神経変性疾患:神経変性疾患におけるシステアミン活性は、CNSにおけるシナプス可塑性に必要なNFkB経路の活性化、スルビビン(BIRC5)およびBcl−2様タンパク質12(BCL2L12)の上方調節(どちらもよく特徴付けられた抗アポトーシスタンパク質)、熱ショックタンパク質(HSP40、HSP90)の発現の増加、HD、AD、およびPDを含むタンパク質オリゴマー化を含む神経変性障害に有益なタンパク質ミスフォールディングを伴う病状の緩和、BDNFの発現および分泌の増加(さらにニューロンの生存および成長を支援する)、トランスグルタミナーゼおよびカスパーゼの阻害、または単純に、HDに有意に影響を与える可能性がある脳の遊離システインの増加に潜在的に関連し得る。
線維性疾患:製品の投与は、システアミンの全身レベルを増加させ、TGF−β経路を介したシグナル伝達を遮断し、筋線維芽細胞の活性化および増殖を阻害し、多種多様なマトリックス成分の発現を阻害し、MMP−1およびMMP−3を上方調節する。
寄生虫感染症:製品の投与が、マラリアおよび脳マラリアの治療のためのアルテミシニンおよび誘導体との相乗効果を有するであろうシステアミンの全身レベルを増加させることが企図される。
全ての徴候について、有害事象は適切な基準を用いて測定される。有害事象としては、皮膚発疹、皮膚病変、発作、嗜眠、うずき、うつ病、脳症、胃腸潰瘍および/または出血、悪心、嘔吐、食欲不振(拒食症)、下痢、発熱、ならびに腹痛が挙げられる。AEの重症度は、有害事象共通用語規準(CTCAE)バージョン3.0[Cancer Therapy Evaluation Program,2003]またはそうでなければ以下を使用して分類される。軽度(グレード1):経験がわずかであり、対象に対する著しい不快感または日常生活動作(ADL)の変化を引き起こさない。対象は、症状を自覚しているが、症状は容易に忍容される。中度(グレード2):経験が対象にとって不都合または懸念事項であり、ADLの干渉を引き起こすが、対象は、ADLを継続することができる。重度(グレード3):経験は、ADLを著しく干渉し、対象は、動けなくなり、および/またはADLを継続することができなくなる。致命的(グレード4):調査者の見解において、対象は、事象が起こったときにその事象から即時の死の危険に曝される(すなわち、より重篤な形態で起こり、死を引き起こしていたかもしれない事象を含まない)。上記で定義したCTCAE規準により、グレード5のカテゴリーは死亡である
キット
本明細書に説明される医薬組成物のいずれも、一連の指示とともに、すなわちキットを形成するために一緒に使用することができる。キットは、本明細書に説明されている療法としての医薬組成物の使用のための説明書を含むことができる。例えば、説明書は、システアミン感受性障害の治療において血漿中のシステアミン濃度を調節するための本発明の化合物の使用のための投薬および治療法を提供することができる。
配合剤は、キットとして一緒に包装することができる。非限定的な例としては、例えば、2つの丸剤、丸剤および粉末、坐剤および丸剤、錠剤等を含むキットが挙げられる。さらに、単位用量キットは、組成物の調製および投与のための説明書を含むことができる。キットは、1人の患者のための1回使用単位用量、特定の患者のための複数回の使用(一定用量で、または個々の化合物は、治療が進むにつれて効力が異なる可能性がある)として製造することができるか、またはキットは、複数の患者への投与に適した複数の用量(「バルク包装」)を含み得る。キット構成要素は、カートン、ブリスターパック、ボトル、チューブ等に組み立てることができる。
以下の実施例は、本明細書で請求される方法およびシステムがどのように実施され評価されるかについての完全な開示および記載を当業者に提供するために提示され、本発明の純粋な例示であり、発明者が発明と見なす範囲を限定することを意図しない。
実施例1.混合ジスルフィドの効率的な合成
混合ジスルフィドの効率的な合成のための多様な方法は、いくつかの研究グループによって説明されており(Witt et al.Langmuir 23:2318(2007)、Musiejuk et al.Org.Prep.and Proc.47.2:95(2015)による概説を参照)、システインおよびシステイン類似体に特異的な方法を含む(例えば、Szymelfejnik et al.Synthesis 22:3528(2007)、Gormer et al.J.Org.Chem.75.5:1811(2010))。例えば、チオール−ジスルフィド交換を促進するための2,3−ジクロロ−5,6−ジシアノベンゾキノン(DDQ)の使用に基づく最近の改良が報告されている(Musiejuk et al.RSC Advances 5.40:31347(2015))。
これらの方法は、2つの異なるチオールを組み合わせたとき、混合ジスルフィドの(2つのホモ二量体ジスルフィドに対する)優先的合成を可能にする。本実施例では、チオー、システアミン、およびパンテテインを、Antoniow et al.,Synthesis 3:363(2007)によって説明される手順を用いてカップリングさせる。この手順の変形を使用して、他の対のチオールを選択的にカップリングさせることもできる。
この手順のための試薬は、(i)ビス(5,5−ジメチル−2−チオノ−1,3,2−ジオキサホスホリナニル)ジスルフィド(略して「ジチオリン酸試薬」と称する)、(ii)臭素、(iii)システアミン、(iv)ジクロロメタン、および(v)パンテテインである。全ての試薬は、医薬品グレードである。
ステップ1.乾燥(無水)ジクロロメタン中のジチオリン酸試薬の7ミリモル溶液を、窒素雰囲気下、−5℃で作製する(例えば、27.6グラムのジスルフィド試薬を1リットルのジクロロメタンを添加する)。
ステップ2.窒素雰囲気下、−5℃で上記溶液に臭素を6ミリモルの最終濃度まで添加する。
ステップ3.乾燥ジクロロメタン中のパンテテインの11ミリモル溶液を作製する。
ステップ4.ステップ2を完了してから30分後、ステップ2で作製した溶液の体積の5パーセントである体積のパンテテイン溶液(ステップ3からの)を添加する(例えば、50mLのパンテテイン溶液を、1リットルのステップ2溶液に添加する)。室温で30分間撹拌する。
ステップ5.反応産物を脱イオン水(500ミリリットル)で洗浄し、次いで無水MgSO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で蒸発させる。
ステップ6.残渣をカラムクロマトグラフィー(SiO2、CH2Cl2−ヘキサン、1:1)によって精製して、ジスルフィド試薬−パンテテイン(DR−P)の純粋なジスルフィドを得る。
ステップ7.ジクロロメタン中に懸濁したDR−Pの0.5ミリモル溶液に、システアミン(乾燥ジクロロメタン中、0.5ミリモル)およびトリエタノールアミン(2ミリモル)を6:4:2(DR−P:システアミン:トリエタノールアミン)の比で添加し、室温で15分間撹拌する。
ステップ8.ステップ7の反応体積に、(i)5体積のジクロロメタン、(ii)5体積の蒸留水、および(iii)5体積の(a)NaHCO3の飽和水溶液または(b)1M HClのいずれかを添加する。
ステップ9.ステップ8からの有機層を無水MgSO4上で乾燥させ、濾過し、真空下で蒸発させる
ステップ10.ステップ9からの残渣を懸濁し、シリカゲル上でカラムクロマトグラフィーによって精製する。
上記プロトコルに関する詳細および選択的ジスルフィド合成のための多数の他のプロトコルへの参照は、Musiejuk,M.およびD.Witt.Organic Preparations and Procedures International 47:95(2015)に見出すことができる。
実施例2.システインまたはシステイン類似体を含有する混合ジスルフィドの選択的合成
混合ジスルフィドシステアミン前駆体の産生に有用なチオールの中には、システイン、システインエチルエステル、システインメチルエステル、N−アセチルシステイン、N−アセチルシステインエチルエステル、N−アセチルシステインアミドおよびホモシステイン、ならびにシステイングリシン、ガンマグルタミルシステイン、ガンマグルタミルシステインエチルエステルを含むシステイン含有化合物、ならびにグルタチオン(グリシン、L−システイン、およびL−グルタメートのトリペプチドであり、L−システインのアミノ部位とのイソペプチド結合を有するL−グルタメートを含む)およびグルタチオン誘導体がある。
上記および他のシステイン誘導体またはシステイン含有化合物をシステアミン、N−アセチルシステアミン、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、またはこれらの化合物の適切な類似体もしくは誘導体にカップリングするための有用なプロトコルは、Szymelfejnik et al.,Synthesis 22:3528(2007)に説明されている。
この方法は、システイン誘導体に対する5,5−ジメチル−2−チオキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イルジスルファニル誘導体の選択的反応性を利用して、ほぼ独占的に非対称ジスルフィドを産生する。例えば、N−アセチルシステインおよびシステインエチルエステルを用いて、それぞれ93%および98%の収率で様々な非対称ジスルフィドを合成した(Szymelfejnik et al.Synthesis 2007)。
本実施例では、パンテテインは、システインエチルエステルに連結している。(図18のジスルフィド表1Bを参照。ジスルフィドシステアミン前駆体「2+13」は、システインエチルエステルに結合したジスルフィドである)。
この手順の第1ステップは、(5,5−ジメチル−2−チオキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)ジスルファニルブロミドの合成であり、次いでそれをステップ2のパンテテインに連結させる。ステップ5から出発して、パンテテインはジチオリン酸アニオンの優れた脱離基特性を利用して、システインエチルエステルにジスルフィド結合される。
ステップ1.無水ジクロロメタン(100mL)中の5,5−ジメチル−2−チオキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)ジスルフィド(例えば、2.76グラム、7.0ミリモル)の溶液に、窒素ガス下、−30℃で臭化物(0.96グラム、6.0ミリモル)を添加する。反応を15分間進行させる。
ステップ2.上記に、無水ジクロロメタン(5mL)中のパンテテイン(3.062グラム、11ミリモル)の溶液を添加する。混合物を室温で30分間撹拌する。
ステップ3.混合物を蒸留脱イオン水(50mL)で洗浄し、無水MgSO4を用いて乾燥させた後、濾過し、真空下で蒸発させる。
ステップ4.残渣を、カラムクロマトグラフィー(シリカゲル、1:1ジクロロメタン:ヘキサン混合物を使用)によって精製して、(5,5−ジメチル−2−チオキソ−1,3,2−ジオキサホスホリナン−2−イル)ジスルファニル−パンテテインを得る(後続のステップにおいてジスルフィド1として言及される)。
ステップ5.ジクロロメタン(6mL)中のジスルフィド1(0.5ミリモル)の溶液に、ジクロロメタン(4mL)中のシステインエチルエステル塩酸塩(0.5ミリモル)およびトリエチルアミン(0.28mL、2.0ミリモル)の溶液を添加する。室温で15分間撹拌する。
ステップ7.混合物をジクロロメタン(50mL)で希釈し、次いで(i)1M KHSO4(25mL)または(ii)0.25M NaOH(25mL)のいずれかで洗浄する。
ステップ8.無水MgSO4を用いて乾燥させ、濾過し、真空下で蒸発させる。
ステップ8.残渣をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン:メタノールの25:1混合物を使用)によって精製するか、またはクロロホルム中で再結晶化させる。
この小規模な合成は、最適な合成条件を見出すように調整することができる(例えば、90%超、または95%超の混合ジスルフィドを生じる)。その後、反応をスケールアップして薬理学的量のジスルフィドを産生することができる。他のシステイン類似体は、システアミン、N−アセチルシステアミン、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、または適切な類似体もしくは誘導体に、この手順の変形を用いて連結させることができる。
さらなる詳細については、Szymelfejnik et al.,Synthesis 22:3528(2007)を参照されたい。
実施例5.化合物1および化合物3の同時配合
700重量部の化合物1(パンテテイン−システアミン二塩酸塩)、200重量部の化合物3(n−アセチルシステアミン−n−アセチルシステアミン二塩酸塩)、640重量部の蒸留水、および2,000重量部の食品グレードの微晶質セルロースを、室温で完全にブレンドする。得られた粉末状混合物を、1カプセルあたり800mgの標準的な2ピース硬質ゼラチンカプセルに充填するために使用する。
実施例6.化合物2および化合物3ならびにシスタミンの同時配合
650重量部の化合物2(パンテテイン−n−アセチルシステアミン二塩酸塩)、650重量部の化合物3(n−アセチルシステアミン−n−アセチルシステアミン二塩酸塩)、200重量部のシステアミン、および1090重量部の蒸留水、ならびに2000重量部の食品グレードの微晶質セルロースを室温で完全にブレンドする。得られた粉末状の混合物を使用して、1サシェあたり3,000ミリグラムの紙製サシェを充填する。
実施例7.化合物3の胃内滞留性製剤
本発明の例示的な胃内滞留性製剤は、薬物送達を最適化するように設計されたポリマーベースの技術であるAcuform(登録商標)(Depomed)である。Acuformは、組成物の錠剤が約5〜10時間にわたって胃内に滞留することを可能にする独特の膨潤性ポリマーの使用により、上部胃腸(GI)管への化合物3の医薬組成物の標的化され、制御された送達を可能にする。この間に、錠剤の活性成分である化合物3は、所望の速度および時間で上部GI管に着実に送達される。この緩やかで持続的な放出により、より多くの薬物が上部GI管に吸収され、1日1回または2回投与の利便性を伴う、より優れた治療効能および増加した治療忍容性の可能性が提供される。
実施例8.腎症性シスチン症の療法
シスチン症を有する3人の患者の用量配合および治療レジメンは、患者集団における人口統計的変動性および薬物吸収および代謝および応答における個体間生化学的変動は、本発明によって提供される薬物および剤形の柔軟性を利用することによって克服することができる。これらの実施例は、システアミン前駆体選択、剤形選択、および用量レジメン個別化の原理を説明する。
患者1:腎ファンコニー症候群による成長障害および過剰排尿を伴って、受診後にシスチン症と新たに診断された18ヶ月の乳児。この患者において、固形薬剤は許容されない。現在入手可能な種類の固形薬剤は、原則として粉砕して食品と混合することができるが、実際の用量は、特に未消費の薬物−食品混合物が将来の食事のために保存され、未消費の薬物に金銭を浪費することを回避する場合、(i)摂取された薬物−食品混合物の量、(ii)混合物の均質性、(iii)薬物−食品相互作用の可能性、および(iv)食品を保存および調製するための条件(例えば加熱)を含む様々な不良に制御された変数に依存する。さらなる問題は、6時間の投与間隔(システアミンの即時放出製剤であるCystagon(登録商標)で必要とされる)は、乳児の食事時間または両親の睡眠スケジュールに適合しないことである。
好ましい剤形は、乳児の食事時間でなくても完全に消費され、薬物の均一濃度を含有し、少量の未消費のまたは吐き戻された薬物が、摂取された総用量に対してわずかな影響しか及ぼさないように、十分に希釈されるであろう。さらに、投与間隔が6時間ではなく12時間に延長できる場合、所定の療法の遵守が改善される(この場合、乳児の両親による遵守)。
この14kgの乳児のために選択された剤形は、シロップ1ミリリットルあたり50mgの濃度で、甘味飲料シロップに遅延放出微粒子として配合された、化合物3である。
疾患制御は、白血球シスチンレベルの定期的な測定によってモニタリングされる。全てのシスチン症患者の治療目標は、白血球(WBC)シスチンをWBCタンパク質1mgあたり1ナノモル未満の1/2シスチン未満に抑制することである。治療開始後4〜6週間に典型的に実施される第1のシスチン測定が、不適切なシスチン抑制を示した場合、用量を2つの分割用量で1000mg/日に増加させてもよい。この高用量が依然としてWBCシスチンレベルを制御する際に有効でない場合、用量を150mg/日の増分でさらに増加させることができる。(高用量のシステアミン−パンテテインジスルフィドは、システアミン重酒石酸塩製剤と関連した高いCmaxを生じないため、必要であれば用量をさらに増加させるための相当の余地がある)。
WBCシスチンの適切な抑制が1,500mg/日で達成されない場合、副作用のモニタリング中に用量をさらに増加させることができるか、または第2のシステアミン−パンテテイン製剤を添加して、12時間の投与期間の後半に血漿システアミンレベルを増加させることができる。例えば、主として摂取後6〜12時間の間にシステアミンを提供するように設計された持続放出液体微粒子製剤を、血漿システアミンレベルまたは好ましくはWBCシスチンレベルを測定することによって経験的に決定される比で、元のシロップと混合することができる。
液体製剤は、食事とともにまたは食事の間(母乳、配合乳、または乳児用食品を問わない)を含む、任意の時点での迅速な投与に適合する。9〜10mLの投与量は、18ヶ月児にとってわずかな消費量であるが、少量(例えば、口からの漏出またはげっぷに起因する)の消費の失敗が総用量にあまり影響を与えないのに十分な量である。甘味料は、薬物の魅力を高める。
微粒子は、50〜500マイクロメートル、および好ましくは100〜400マイクロメートルのサイズ範囲にあり、したがって、特に懸濁剤(例えば、3%の低分子量のカルボキシメチルセルロースおよび0.25%のTWEEN 20)の存在下では、長期間液内中に懸濁し続けることができる。そのサイズ範囲内で別々に産生された粒子のバッチを、最終産物中で混合して、薬物放出の持続時間を広げる(例えば、75、150、および450マイクロメートルの粒子の別々のバッチを、1:2:1の比で混合する)。粒径は、ASTM規格に準拠するUSP標準ワイヤメッシュ篩を有する篩シェーカーによる篩分析を使用して決定することができる。
粒子は、湿式混練プロセスを用いて1種以上のマトリックス賦形剤と均質に混和され、少なくとも3つのコーティングによって取り囲まれた薬剤の内部コアからなる。コア賦形剤は、微晶質セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピロリドン−酢酸ビニルコポリマー、または湿式混練法に適合する他の賦形剤である。薬物負荷(最終産物中の薬物の割合、質量別)は、50〜90%である。
第1のコーティングは、粒子のサイズを固定するのを助け、拡散膜として機能し、調節された薬物放出を可能にする。(i)セルロース誘導体(例えば、ヒドロキシプロピルセルロースフタレート、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースアセテート、カルボキシメチル−セルロースアセテートブチレート)、またはメタクリル酸とアクリル酸のエステルのコポリマー、またはメチルメタクリレートと、(ii)脂質賦形剤(例えば、水素化綿実大豆油またはヒマシ油)と、(iii)適切な可塑剤(例えば、ジエチルフタレートまたはモノグリセロールアセテート)との3成分混合物からなる。
第2、第3、および任意の追加のコーティングは、親水性層と最も外側に親水性層を有する親油性層との間で交互になる。外側の親水性層は、酸性pHでの溶解に対して耐性があるが、ジメチルアミノエチルメタクリレート、メタクリル酸、およびメタクリル酸エステルなどの中性またはほぼ中性のpH(例えば、pH6以上)で溶解しやすいpH感受性賦形剤から様々な比で形成される腸溶性コーティングを提供し、集合的にポリ(メタ)アクリレートまたはメタクリル酸/エチルアクリレートコポリマーと呼ばれることがあり、任意にヒドロキシプロピルメチルセルロースとブレンドされる。これらの賦形剤で作製された市販の腸溶性コーティングは、商品名Acryl−EZE,Acryl−EZE MP(Colorcon,Inc.)、Eastacryl 30D(Eastman Chemical Co.)、様々なEudragit製品、例えばEudragit L 100(Evonik Industries)、Kollicoat MAE 30 DおよびKollicoat MAE 30 DP(BASF Chemicals)で市販されている。
親油性コーティング(複数可)は、脂肪酸、カルナウバ蝋、蜜蝋等を含むことができる。
粒子は、少なくとも6時間、好ましくは8時間以上続く延長された薬物放出プロファイルを達成するために、異なるバッチ内の異なる数のコーティング、異なるコーティングの厚さ、または異なるコーティング組成を有する別々のバッチで製造することができる。
薬物は、甘味剤および懸濁化剤を用いて微粒子の水性懸濁液として提供され得るか、または使用時に再構成されるように設計された乾燥混合物として提供され得る。いずれの場合でも、液体製剤は、微粒子の長期懸濁を促進するレオロジー特性を有する。
液体送達用に配合された制御放出微粒子は、米国特許第5,405,619号に開示されており、上記の要素のうちの多くを包含しながら、さらなる有用な賦形剤および製剤および製造方法の詳細を提供する。
患者2:シスチン症を有する10歳、35kgの少年は、Cystagon(登録商標)で7年間治療されている。彼の現在の用量は、1日4回700mg(1日あたり2.8グラム)であり、これは35kgの患者にとって異常に高い。用量は、6時間毎に6個の丸剤(4個の150mg錠および2個の50mg錠)、または1日あたり24個の丸剤である。この若い患者は、深夜0時に起き、午前6時に服薬することを嫌い、巨大な(サイズ0)丸剤を飲み込むことを嫌がり、Cystagon(登録商標)がしばしば引き起こす体臭および口臭を嫌っている(彼の友人がそれに気づき、彼をからかう)。彼は、服薬をスキップするため、またはそれが可能でない場合は、システアミンの副作用を軽減するために様々な戦略を立てた。彼は、例えば、大量の食事とともに、または食事の直後に薬物を摂取することによっていくつかの副作用を避けることができ、より少量のシステアミンが食品、特にタンパク質または脂肪とともに吸収されることを学んだ。学校の看護師が、彼が昼食を取る前に全ての薬を飲み込むのを見守っていないときはいつでも、学校でこれを達成することができ、一般に各丸剤を飲み込むために長い時間をかけることによって行うことができる。これらの回避策の結果として、彼のWBCシスチンレベルは、典型的には2.5ナノモル1/2シスチン/mgタンパク質を超える。不十分な代謝調節に対処するために、彼の医師は、少年のシステアミンの用量を現在の高レベルまで増加させたため、実際に処方のとおり摂取される場合には治療量を超えることになる。この過剰用量の結果、少年は、実際に処方のとおり全用量を空腹時に摂取したとき、そのような場合に副作用を経験する可能性が高くなる。
この患者のための好ましい剤形は、彼が経験する副作用のほとんどの近似原因である薬物摂取に続く高いピークシステアミン血中レベルを排除するものであり、(患者および両親にとって迷惑な)深夜および午前6時に起床する必要性をなくし、6時間毎に6個の丸剤を飲み込む負担を軽減し、全ての関連する芝居とともに、学校での投与の必要性を排除し、より良い服薬遵守を奨励することによって、より良い疾患制御を達成しながら高用量を低減することを可能にする。
この患者のために最初に選択された剤形は、高用量(例えば、50〜150mg/kg)で投与される、即時放出(IR)用に配合された化合物1であり、続いて、化合物1の投与から3時間以上後に、アスコルビン酸が投与される。化合物1およびアスコルビン酸の両方は、必要量の食品または飲料と一緒に開封し、組み合わせることができる、様々なサイズの色分けされたサシェに包装された、粉末状の形態の微粒子として提供することができる。粉末は、牛乳および甘いシリアル(患者の好みの朝食)と、脂肪およびタンパク質が豊富な食事を含む他のほとんどの食事と混合することができる。
投薬レジメンは、8時間の投薬間隔にわたって上昇した血漿システアミンレベルを提供することができる。2種類の粉末の比および投与のタイミングは、個々の患者におけるシステアミンの時間−濃度プロファイルを最適化するように容易に調整することができる。
この化合物1の粉末製剤は、即時放出、遅延放出、または持続放出を提供するために、様々な任意のコーティングを有するイオン交換樹脂コアを利用することができる。得られた粉末は、直接または水もしくは他の液体中に懸濁させた後に、食品に添加することができる。
即時放出粉末は、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム(例えば、Amberlite(登録商標)IRP69ブランドの樹脂、Rohm and Haasによって販売されている)などのコーティングされていないイオン交換樹脂と混和された薬物からなる。合成ステップは、次のとおりである。
ステップ1.システアミン−パンテテインジスルフィドを蒸留水に溶解する。
ステップ2.ステップ1の溶液にAmberlite(登録商標)IRP69を添加し、1時間撹拌し、その間に薬物−樹脂複合体が形成される。
ステップ3.濾過によって水を除去し、薬物−樹脂混合物を蒸留水で2回すすぎ、任意の置換塩イオンを除去する。
ステップ4.含水量が3%〜7%になるまで薬物−樹脂混合物を乾燥させ、標準40メッシュスクリーンを備えたCO−MILデバイス(Quadro Engineering Corp.)を通過させ、これが約410マイクロメートルを超える粒径を有する顆粒の通過を制限する(すなわち、メッシュを通過する顆粒は、約410マイクロメートルより小さい)。
患者3.腎臓移植後、糖尿病、甲状腺機能低下症、および嚥下障害に罹患している22歳のシスチン症患者は、12種を超える薬物療法で治療され、多くは1日に数回投与される。彼女のシスチン症は、Procysbi(登録商標)により、2,400mg/日を2つの分割用量で治療される(1用量あたり8個のサイズ0の150mgカプセル)。しかしながら、彼女は、Procysbi(登録商標)摂取後に重度の胃痛、ならびに吐き気および嘔吐を頻繁に経験し、これらの胃腸の副作用は、しばしば彼女がスケジュールどおりに他の薬物を服用することを妨げるか、または他の薬物を吐き出させた。これは、彼女の免疫抑制レジメンに関して特に懸念事項であり、そのレジメンがなければ彼女は移植された腎臓を失うリスクがある。
WBCシスチンの制御は、かろうじて適切であり、異なる訪問時にタンパク質1mgあたり1〜1.45ナノモルの1/2シスチンの範囲である。胃腸の副作用の原因を発見する努力において、彼女の医師は、摂取1時間後に血漿システアミンレベルを測定し、それが78マイクロモルであることを見出した。その高いレベルは、確かに彼女の胃腸症状を説明することができるが、彼女の医師は、限界シスチン制御の観点から彼女のProcysbi(登録商標)用量を低減することに気が進まない。
この患者のための好ましい剤形は、高いピークシステアミン血中レベルによって引き起こされる可能性が高い胃腸の副作用を排除するか、または少なくとも軽減すると同時に、患者の他の薬物とともに重要な身体的および心理的負担を表す、丸剤の数も低減する。
この患者のために選択される剤形は、高用量(例えば、50〜150mg/kg)で投与される化合物1と、同時に投与される低用量のシスタミン(例えば、10〜40mg/kg)との組み合わせである。
実施例9.非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の治療法
耐糖能障害、胃食道逆流症(GERD)、および36の体格指数(BMI)である体重超過の飲酒しない50歳男性は、日常的検査で肝臓酵素が上昇していることが注目されている。アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)およびアラニントランスアミナーゼ(ALT)の両方が正常範囲の上限の4倍を超えている。有意に上昇した肝臓酵素の発見は、肝臓細胞の損傷を示唆し、肝疾患の診断後の治療につながった。肝臓癌およびウイルス性肝炎の検査は陰性であり、上昇した肝臓酵素の他の潜在的な感染性および毒物学的原因は除外され、肝臓生検を促進する。生検では、脂肪症、肝細胞のバルーニング、炎症、および著しい線維症が明らかになる。これらの知見は、臨床像の文脈において、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の診断につながった。
患者は、食事を変更し、適度な運動のプログラムを開始するよう指示される。6ヶ月間のダイエットとライフスタイルのカウンセリングは、体重減少、耐糖能の改善、またはALTもしくはASTレベルの低下をもたらさず、薬物療法の開始を促した。患者を、インサイチュのゲル化液として配合された化合物2を用いて治療する。目標用量は、体重1kgあたり20mgのシステアミン遊離塩基であり、開始用量は、その量の1/4であり、目標用量まで4〜6週間かけて徐々に増加するが、任意の副作用(すなわち、より緩慢な用量漸増または重大な副作用の場合には最終用量の低下)について調節する。
還元剤ビタミンCおよびビタミンEは、患者の便宜(例えば、昼食前および就寝前)において、各用量の化合物2の2〜4時間後に、近位小腸での遅延放出用に配合されたカプセル形態で投与され、相補的な治療薬として、胃腸管におけるジスルフィド結合の還元を促進する(ひいてはシステアミン−N−アセチルシステインの、その2つの成分のチオールへの変換を最大にする)。ビタミンCの日用量は2グラムであり、ビタミンEの日用量は、800国際単位のアルファトコフェロール、RRR立体異性体であり、これは1日あたり533.3ミリグラムに相当する(1IUのトコフェロールは、RRR−アルファ−トコフェロールの2/3ミリグラムとして定義される)。それらの量の半分が、1日2回投与される。ビタミンCおよびビタミンEのレジメンは、NASH患者の肝線維症スコアを低減することにおいて有効であることが以前に示されている(Harrison et al.,Am J Gastroenterol.98:2485(2003)を参照)。
この実質的な量の薬物を錠剤またはカプセルの形態で摂取するには、1日あたり12個の大きな丸剤(他の薬物を含まない)を飲み込むことが必要であり、患者にとって苦痛である。薬物の不快な味をマスクした賦形剤を含む甘味飲料として提供される液体製剤は、食事とともに飲み込まれ、薬物摂取を容易にし、それにより服薬遵守を改善するように設計される。(事実、実質的により多量のシステアミン前駆体は、液体製剤を介して容易に投与することができる。)液体ゲル化製剤の第2の利点は、それが食品よりも軽いことであり、そのためゲル形態で粥状液の上に浮遊し、酸性胃内容物の食道への逆流に対する保護層を提供する。(Gaviscon(登録商標)、Algicon(登録商標)、およびGastron(登録商標)などの液体ゲル化製剤は、胃食道逆流の治療のために最初に開発された。)
実施例10.化合物2の薬物動態研究(N−アセチルシステアミン−(R)−パンテテインジスルフィド)
図25に示すように、N−アセチルシステアミン−(R)−パンテテインジスルフィド(図17のチオール6および2を組み合わせることによって作製されたジスルフィド、したがって化合物2と呼ばれる)を合成した。次いで、化合物2を、3用量レベルで雄のSprague−Dawleyラットに経口投与し、特にシステアミン産生の時間経過に関して、その薬物動態(PK)パラメータを評価した。
体重1キログラムあたりのシステアミン塩基のミリグラムで表される用量を計算し、本明細書において以下のように表す:化合物2の1分子は、ジスルフィド結合の還元、N−アセチルシステアミンの脱アセチル化(システアミンを生じる)、およびパンテテイナーゼによるパンテテインの切断(1つのシステアミンおよび1つのパントテン酸を生成する)の際に、2つのシステアミン分子を生じる。したがって、1モルの化合物2(重量395.54グラム)は、2モルのシステアミンを生じ、各々が77.15グラム/モル×2=154.3グラムである。したがって、質量基準で、154.3/395.54=38.5%の化合物2が、分解後にシステアミンに変換可能である。反対に、システアミン塩基に関して化合物2の用量を計算するには、システアミン塩基の用量に2.5974を乗じる。例えば、化合物2の30mg/kgのシステアミン塩基の等価用量を計算するには、30mg/kg×2.5974=77.92mg/kgとなる。したがって、以下の考察および添付の図において、「30mg/kg」用量の化合物2は、77.92mg/kgが投与されたことを意味し、「60mg/kg」用量の化合物2は、155.84mg/kgが投与されたことを意味し、「120mg/kg」用量の化合物2は、311.68mg/kgが投与されたことを意味する。システアミン塩に関する文献で広く使用されているこの命名法の目的は、異なるシステアミン前駆体およびシステアミン塩の用量の比較を容易にすることである。
化合物2を、およそ30mg/kg(群1)、60mg/kg(群2)、および120mg/kg(群3)のシステアミン塩基を送達するように選択された用量で、3つの群のラット(1群あたり3匹のラット)に強制経口投与で投与した。絶食ラットに投与する前に、全ての用量を3ミリリットルの生理食塩水中に溶解した(しかしながら、120mg/kgの用量は生理食塩水に完全に溶解しなかったため、ラットは、実際には、計画した用量よりも少ない用量を受けた。以下の組織分析の考察を参照されたい)。
化合物2の用量は250グラムのラット用に調製されたが、薬物投与時のラットの実際の質量は267〜300グラムに変動したため、体重に正規化した実際の用量は、群1において26.1〜27.1mg/kg、群2において51.7〜56.2mg/kg、群3において108.3〜109.5mg/kgの範囲であった。それにもかかわらず、便宜上、これらの用量は、30、60、および120mg/kgと呼ばれる。
対照群のラット(群5)に、3ミリリットルの生理食塩水中のシステアミン塩酸塩を、30mg/kgのシステアミン塩基を送達するように選択された用量で、強制経口投与で投与した。(システアミンHClの質量は113.6ダルトンであり、そのうち77.15ダルトンまたは67.91%はシステアミン塩基である。反対に、システアミン塩基の用量からシステアミンHClの用量を計算するには、後者に1.47を乗じる。例えば、30mg/kgのシステアミン塩基を送達するシステアミンHCl用量を計算するには、30×1.47=44.2mg/kgとなる。)システアミン塩酸塩の用量は250グラムのラット用に調製されたが、薬物投与時のラットの実際の体重は281〜285グラムに変動したため、体重に正規化した実際の用量レベルは、群5において26.3〜26.7mg/kgの範囲であった。
PK研究の前に外科的に移植されたカロチド動脈カテーテルを介して、投与する直前、ならびに投与してから5、10、20、30、45、60、90、120、180、240、300、および600分後に、ラットから血液試料を得た。血漿を、遠心分離によって血液から得、瞬間凍結した。数日後、血漿試料を氷上で解凍し、各血漿試料を2つの対になった管(20μL/管)に分け、そのうちの一方を(ジスルフィド結合の還元を定量した後)チオールの測定のために処理し、もう一方をジスルフィドの分析のために処理した。
ジスルフィド結合を定量的に還元するために、第1の管中の血漿を、Dohilら(2012)によって報告されたプロトコルを使用して、5mMのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)(選択的かつ強力なジスルフィド結合の還元剤)で処理した。簡潔には、2.2ulの新たに調製した50mM TCEPストック溶液を、20ulの血漿に添加し、試料を37℃で45分間インキュベートした。2.2ulの脱イオン水を添加することによって、対合した(非還元)試料中の血漿の量を調整した。
TCEP還元ステップの後、全ての血漿試料を、内部標準を含有する3.5体積の氷冷アセトニトリル(ACN)/1%ギ酸(FA)溶液を添加することによって除タンパクした(77μLのACN/1% FA溶液を、22.2μLの血漿に添加した)。内部標準を、各々ACN/1% FA溶液中0.2ug/mlの最終濃度の、重水素化(d4)システアミン(Toronto Research Chemicals)、重水素化(d8)バリン、および重水素化(d8)フェニルアラニン(いずれもCambridge Isotope Laboratories(Andover,MA)から入手)であった。
変性タンパク質を、エッペンドルフマイクロ遠心分離機において、4℃で10分間、14,000rpmで遠心分離によってペレット化した。上清(25ul)を新しい管に移し、75ulのACN/0.1% FA溶液と混合し、150×2mm Atlantis親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)カラム(Waters、Milford,MA)に直接注入した。Nexera X2 U−HPLC(Shimadzu)およびQ−Exactiveハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計(Thermo Fisher Scientific)を用いて、代謝産物を分析した。5%移動相A(水中10mMのギ酸アンモニウムおよび0.1%のギ酸)で1分間、続いて40%移動相B(0.1%ギ酸を含むアセトニトリル)への線形勾配で7分間、360μl/分の流量で均一濃度でカラムを溶離した。エレクトロスプレーイオン化電圧は、3.5kVであり、70,000分解能および3Hzのデータ収集速度でm/z 70〜800のフルスキャン分析を使用してデータを取得した。陽イオンモードでの質量分析は、目的の検体からより良いシグナルを生成することが分かった。イオン化電源電圧は、−3.0kVであり、ソース温度は325℃であった。Tracefinder(バージョン3.2、Thermo Fisher Scientific)を使用して、MSデータを処理した。
標準曲線を、血漿中の連続希釈(100、75、50、25、15、10、5、3、1、および0.5uM)によって、システアミン、N−アセチルシステアミン、およびパンテテイン(全てSigma−Aldrichから入手)について生成し、次いでそれを使用して、それらの物質の血漿濃度をLC−MSイオンカウントから補間する。
血漿試料に加えて、胃腸内容物(胃内容物、近位小腸内容物、遠位小腸内容物、および盲腸/結腸内容物)、肝臓、腎臓および脾臓を、試験終了時(投与後10.5時間)にラットから得て、瞬間凍結した。システアミン、N−アセチルシステアミン、およびパントテン酸の組織レベルを、胃腸内容物、ならびに肝臓および腎臓組織において測定した。組織分析のためのプロトコルは、(i)凍った組織片をドライアイス上で砕いて小片を得ること、(ii)いくつかの凍結した組織片(約25〜150ug)を、2つの金属ボールベアリングを備えた風袋を除いた1.5mlの微量遠心管に計量し、直ちにドライアイス上で保存すること、(iii)組織片を、Retsch Cryomillを使用して250ヘルツで5分間、低温で均質化すること、(iv)試料を2本の管に分け、20ulの懸濁した均質化組織粉末を、2.2ulの50mM TCEP(最終濃度5mM)で37℃で45分間インキュベートするか、または2.2ulの脱イオン水を添加すること、(v)等量(w:v)のアセトニトリル:メタノール(1:1)を、両方の試料(TCEP、TCEPなし)に添加し、4℃のエッペンドルフ微量遠心分離機で10分間、14,000rpmでの遠心分離によって沈殿したタンパク質をペレット化すること、(vi)75ulのACN/0.1% FAを含有する新しい管に25ulの上清を移すこと、(vii)血漿試料と同じカラムおよび操作条件を用いて、上記のLC−MS装置に試料を注入することを必要とした。
結果:化合物2を投与したラットにおいて、システアミンは、システアミンHClを投与したラットよりも著しく長い期間にわたって産生され、吸収された。システアミンHClを投与したラットにおけるピークシステアミン血漿濃度(Cmax)は、強制経口投与から15分後に生じた。その後、システアミン濃度は、90分までに最大半分以下に低下した(図30A)。対照的に、化合物2を投与したラット(120mg/kg、群3)のピークシステアミン濃度は、180分で生じた(図30B)。さらに、システアミン塩酸塩を投与したラットにおける血漿濃度−時間曲線の形状は、高い、鋭いピークであるが、化合物2を投与したラットでは、血漿濃度−時間曲線は、プラトーにより近くなる(図30Aおよび30Bを比較)。システアミンHClを投与したラットにおけるピーク血漿システアミン濃度(200uM超)は、ヒト対象で観察されるよりも高く、ヒトにおいて重度の毒性と関連している。Sprague−Dawleyラットに低用量(20mg/kgのシステアミン塩基当量)で投与した場合、システアミン重酒石酸塩は、投与後5〜22.5分の間に81.9uMのCmaxを生じ、システインレベルは、2時間でベースラインに戻った(Dohil et al.2012)。
(120mg/kgラットの胃腸内容物の分析により、投与から10時間後にラット8および9の胃にかなりの量の溶解していない薬物が滞留していたことが明らかになり、これらのラットが全用量を受けなかったことを示す。したがって、図30Bの曲線は、全用量で達成されたであろうシステアミン曝露の過小評価である。)
30mg/kg、60mg/kg、および120mg/kgの化合物2の用量の比較(図31A)は、Cmaxの漸増およびTmaxの等しく重要な進行性の遅延、Cmaxが生じる時間を明らかにし、30mg/kg群でのピーク血漿濃度は、30分で最初に小字、次いでそのレベルは、90分で再び達成され、その間には非常に小さな低下があった。60mg/kg群のTmaxは90分で生じ、120mg/kg群では180分で生じた。3用量の全てにおいて、システアミン濃度の時間曲線に対する二相性の特徴が現れ、最初の上昇は約30分でピークに達し、次いで第2の上昇は(60および120mg/kg用量群では、より高い)、1.5〜3時間でピークに達する。
胃腸管におけるジスルフィド結合の還元の際に、化合物2は、2つのチオール部位:N−アセチルシステアミンおよびパンテテインを生じる。その後、システアミンは、2つの独立したプロセス、すなわち前者の脱アセチル化および後者のパンテテイナーゼ切断によって産生される。これらの2つのプロセスの時間経過は、パンテテインが切断されたときに(システアミンとともに)生成される、N−アセチルシステアミンおよびパントテン酸の腸および血漿レベルを観察することによってモニタリングすることができる。(パントテン酸は、ヒトのシステアミンよりも長い半減期を有し、ラットに現れる。)図31Bは、(i)N−アセチルシステアミンが、システアミンと実質的に類似の動態で血液中に吸収され(これまで知られていない)、同様の輸送機序を示唆する。さらに、高いシステアミンレベルを説明するために、胃腸管(N−アセチルシステアミンおよびシステアミンの両方が存在する)および血液の両方におけるN−アセチルシステアミンのシステアミンへの変換が進行中でなければならない。パントテン酸もまた、腸内容物および血漿中に存在する。パントテン酸のレベルは、最初の1時間で急激に増加し、パンテテインのパンテテイナーゼ切断によるシステアミンの産生を示し、その後90分でわずかに低下し、次いで240分間までゆっくりと非常に緩やかな上昇を再開し(図31B)、システアミン血漿レベルに対するパンテテイン切断からの早期および後期寄与の両方を示す。
10.5時間でのシステアミンの組織レベルは、120mg/kg群(ラット7、8、および9、投与群3を含む、図32)の全3匹のラットの肝臓および腎臓試料の両方において、明らかに50uMを超えていた。これらの3匹のラットにおける10時間での血漿システアミンレベルは、1.1、0、および1.5uMであった。はるかに高い組織レベルは、(i)血液と比較して、組織中のパンテテイナーゼのレベルが低い(もしくはより具体的には、パンテテイナーゼが一部の腎臓細胞において発現するため、ある特定の細胞型においてパンテテイナーゼレベルがより低い)、および/または(ii)血漿と比較して、組織中のデアセチラーゼがより多くなり、血液中よりも組織中でN−アセチルシステアミンのシステアミンへのより効率的な変換をもたらすことを反映し得る。比較のために、Sprague−Dawleyラットにシステアミン重酒石酸塩(20mg/kg)を投与したとき、システアミンの組織半減期は、25〜29分と推定され、システアミンの95%以上が150分までに消失すると推測された(Dohil et al.2012)。システアミンの治療効果の大部分は、血液ではなく組織内で生じるため(腎臓がシスチン症の患者で奏効しない最初の臓器である)、投与から10時間後の腎臓および肝臓におけるシステアミンの存在は、治療的に非常に重要である。
実施例11.異なるジスルフィドをラットに投与した後のシステアミンの薬物動態
方法
血漿中のシステアミンの薬物動態を、システアミン塩酸塩(30mg/kg)、シスタミン二塩酸塩(30mg/kg)、パンテチン(30mg/kg)、またはパンテテイン−システアミンジスルフィド(別名TTI−0102、化合物1)(100mg/kg)をラットに投与した後、分析した。
用量を、体重1キログラムあたり、各化合物によって送達可能なシステアミン塩基のミリグラムに関して表す。それらを以下のように計算した。TTI−0102の1分子は、ジスルフィド結合の還元に際し、システアミンの1分子およびパンテテインの1分子を生じる。その後、腸のパンテテイナーゼによるパンテテインの切断により、1つのシステアミンおよび1つのパントテン酸を生じる。したがって、TTI−0102の1分子は、システアミンの2分子を生じる。したがって、1モルのTTI−0102(式量:353.52グラム)は、2モルのシステアミン(式量:77.15グラム/モル)を生じるため、353.52グラムのTTI−0102あたり、77.15×2=154.3グラムのシステアミンを送達する。したがって、質量基準で154.3/353.52=43.65%のTTI−0102が、分解後にシステアミンに変換可能である。反対に、システアミン塩基に関してTTI−0102の用量を計算するには、TTI−0102の質量を、送達されたシステアミン塩基の質量で割る:353.52/154.3=2.291。したがって、TTI−0102の30mg/kgのシステアミン等価用量を計算するには、30mg/kg×2.291=68.73mg/kgとなる。したがって、以下の考察および添付の図において、「30mg/kg」用量のTTI−0102は、68.73mg/kgが投与されたことを意味し、「60mg/kg」用量のTTI−0102は、137.46mg/kgが投与されたことを意味し、「100mg/kg」用量のTTI−0602(別名化合物2)は、229.1mg/kgが投与されたことを意味する。システアミンの薬理学文献において標準であるこの命名法の目的は、異なるシステアミン前駆体およびシステアミン塩の用量の比較を容易にすることである。(その他の3つの分子についても同様の計算を行った。システアミンHClの質量は113.6ダルトンであり、そのうち77.15ダルトンまたは67.91%はシステアミン塩基である。反対に、システアミン塩基の用量からシステアミンHClの用量を計算するには、後者に1.47を乗じる。例えば、30mg/kgのシステアミン塩基を送達するシステアミンHCl用量を計算するには、30×1.47=44.2mg/kgとなる。)
4つの化合物の各々を、体重およそ300グラムの3匹の雄のSprague−Dawleyラットに強制経口投与で投与した。全ての用量が、2.5ミリリットルの生理食塩水中に溶解した。
PK研究の前に外科的に移植されたカロチド動脈カテーテルを介して、投与した直後(1分以内)、ならびに投与してから10、20、30、45、60、90、120、180、240、300、および360分後に、ラットから血液試料を得た。血漿を、遠心分離によって血液から得、瞬間凍結して、摂氏−80度で保管した。数日後、血漿試料を氷上で解凍し、各々を2つの対になった管(20μL/管)に分け、そのうちの一方を(ジスルフィド結合の還元を定量した後)チオールの測定のために処理し、もう一方をジスルフィドの分析のために処理した。
ジスルフィド結合を定量的に還元するために、第1の管中の血漿を、Dohilら(2012)によって報告されたプロトコルを使用して、5mMのトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)(強力かつ選択的なジスルフィド結合の還元剤)で処理した。簡潔には、2.2ulの新たに調製した50mM TCEPストック溶液を、20ulの血漿に添加し、試料を37℃で45分間インキュベートした。2.2ulの脱イオン水を添加することによって、対合した(非還元)試料中の血漿の量を調整した。
TCEP還元ステップの後、全ての血漿試料を、内部標準を含有する3.5体積の氷冷アセトニトリル(ACN)/1%ギ酸(FA)溶液を添加することによって除タンパクした(77μLのACN/1% FA溶液を、22.2μLの血漿に添加した)。内部標準を、各々ACN/1% FA溶液中0.2ug/mLの最終濃度の、重水素化(d4)システアミン(Toronto Research Chemicals)、重水素化(d8)バリン、および重水素化(d8)フェニルアラニン(いずれもCambridge Isotope Laboratories(Andover,MA)から入手)であった。
変性タンパク質を、マイクロ遠心分離機において、4℃で10分間、14,000rpmで遠心分離によってペレット化した。上清(25ul)を新しい管に移し、75ulのACN/0.1% FA溶液と混合し、150×2mm Atlantis親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)カラム(Waters、Milford,MA)に直接注入した。Nexera X2 U−HPLC(Shimadzu)およびQ−Exactiveハイブリッド四重極オービトラップ質量分析計(Thermo Fisher Scientific)を用いて、代謝産物を分析した。5%移動相A(水中10mMのギ酸アンモニウムおよび0.1%のギ酸)で1分間、続いて40%移動相B(0.1%ギ酸を含むアセトニトリル)への線形勾配で7分間、360μl/分の流量で、均一濃度でカラムを溶離した。エレクトロスプレーイオン化電圧は、3.5kVであり、70,000分解能および3Hzのデータ収集速度でm/z 70〜800のフルスキャン分析を使用してデータを取得した。陽イオンモードでの質量分析は、目的の検体からより良いシグナルを生成することが分かった。イオン化電源電圧は、−3.0kVであり、ソース温度は325℃であった。Tracefinder(バージョン3.2、Thermo Fisher Scientific)を使用して、MSデータを処理した。
標準曲線を、血漿中の連続希釈(100、75、50、25、15、10、5、3、1、および0.5uM)または関連組織マトリックスによって、システアミンおよびパンテテイン(全てSigma−Aldrichから入手)について生成した。標準を通る最適な直線の勾配を使用して、LC−MSイオンカウントからそれらの物質の血漿中濃度を計算した。
血漿試料に加えて、胃腸内容物(胃内容物、近位小腸内容物、遠位小腸内容物、および盲腸/結腸内容物)を、試験終了時(投与後6時間)にラットから得て、瞬間凍結した。システアミンおよびパンテテインの組織レベルは、胃腸内容物で測定した。組織分析のためのプロトコルは、(i)凍結した組織片をドライアイス上で砕いて小片を得ること、(ii)いくつかの凍結した組織片(約25〜150ug)を、2つの金属ボールベアリングを備えた風袋を除いた1.5mlの微量遠心管に計量し、直ちにドライアイス上で保存すること、(iii)組織片を、Retsch Cryomillを使用して250ヘルツで5分間、低温で均質化すること、(iv)氷上の各試料を解凍し、2体積の水を添加して(w:v、すなわち、均質化した組織の各ミリグラムに対して2マイクロリットルの水を添加した)、およそ1:3の希釈液を作製すること、(v)20ulの再懸濁した組織粉末を新しい管に除去し、2.2ulの50mM TCEP(最終濃度5mM)を添加して、37℃で45分間インキュベートするか(TCEP処理された試料)、または2.2ulの脱イオン水をTCEPの代わりに添加すること(TCEPなし試料)、(vi)3.5体積のアセトニトリル:0.1%のギ酸を添加して、15秒間渦流混合し、次いで4℃の微量遠心分離機で10分間、14,000rpmでの遠心分離によって沈殿したタンパク質をペレット化すること、(vii)75ulのACN/0.1% FAを含有する新しい管に25ulの上清を移すこと、(vii)血漿試料と同じカラムおよび操作条件を用いて、上記のLC−MS装置に試料を注入することを必要とした。
結果および考察:
システアミンHCl(30mg/kg)を投与されたラットでは、血漿システアミンレベルの急速な上昇があり、薬物動態パラメータは、用量の半分が1分で吸収され、観察されたピーク濃度(約50uM)が強制経口投与の10分後の最初の測定時点で発生することを示す。システアミンレベルは、4時間で低マイクロモルレベルに低下する(図1)。高システアミンレベルは、口臭、体臭、吐き気、嘔吐、食欲不振、および胃痛を伴う。
シスタミンHCl(30mg/kg)を投与されたラットでは、血漿システアミンピークはより遅く(30〜60分の間)、より広範に(システアミンHClよりも大きなAUC)発生した。次いで、システアミンレベルは、約4時間でベースライン値に低下する(図1)。したがって、驚くべきことに、生理食塩水(すなわち、即時放出剤形)で胃に送達されたシスタミンは、システアミン自体と比較した場合、システアミンへの優れた曝露を提供するが、高いピークレベルおよび急速な排出は、システアミン塩酸塩を投与されたラットと同様である。
予期せぬことに、パンテチン(30mg/kg)を投与したラットでは、血漿システアミンレベルが2.5マイクロモルを超えることは決してない。したがって、パンテチンは、ジスルフィド結合の還元および/またはパンテテイナーゼ発現を促進する薬剤がない場合、ラットにおけるシステアミン送達剤としては不十分である。(ヒトの胃腸の生理機能は、pHおよびグルタチオンの体積および濃度を含むいくつかの潜在的に重要な点で、ラットの生理機能とは異なる。)
TTI−0102(100mg/kg)を投与されたラットでは、血漿システアミンレベルは90分までピークに達せず、4時間後までに10uM超に上昇を続け、評価した全6時間の間5uM超である。さらに、AUC(499分*ug/L)はシステアミンHCl AUC(365)よりも大きいが、一方でCmaxは低い(それぞれ、34.4uM対約55.3uM)(図2)。したがって、TTI−0102(100mg/kg)は、システアミン塩酸塩、シスタミン二塩酸塩、またはパンテチンよりも、システアミンへのより大きな曝露を提供し、より長時間にわたって5および10マイクロモル超の血漿レベルを提供し、かつ前者2つよりも低いCmaxを示し、それらの全ては望ましい薬理学的特性である。
一般に、げっ歯類のシステアミンの代謝はヒトよりも速い(例えば、半減期がより短い)ため、ラットの薬物動態パラメータは、ヒトの設定に直接変換可能であると解釈されるべきではない。用量にかかわらず。
実施例12.30、60、または100mg/kgでパンテテイン−システアミン混合ジスルフィド(TTI−0102)を投与した後のラット血漿中のシステアミンの薬物動態
ラットにTTI−0102を30mg/kg、60mg/kg、または100mg/kgで投与すると(図2)、予想どおり、AUCは用量とともに徐々に増加する(それぞれ175、252、499分*ug/L)。しかし、予期せぬことに、(i)Cmaxはほぼ一定のままであり(3つの用量にわたって29.4、34.4、34.4uM)、かつ(ii)血漿システアミン曝露の期間は用量とともに徐々に増加する。特に、AUC、吸収半減期、および平均滞留時間(MRT)における差異は、60mg/kgのTTI−0102用量と100mg/kgのTTI−0102用量との間で顕著である。したがって、高レベルの化合物1(例えば、50〜150mg/kg)はほぼ理想的な薬物動態パターンを提供し、特に長期間にわたって持続する場合、副作用を引き起こすレベル以下であるが有効性に必要なレベルを超えて、血漿システアミンを保持する。
実施例13.ラットにおけるシステアミンおよびパンテテイン−システアミン混合ジスルフィド(TTI−0102)の腸内代謝
システイン塩酸塩(30mg/kg)を投与されたラット、ならびに30、60、および100mg/kgのラットの胃腸内容物の分析により、3つの化合物1の用量レベルの間に予期しないいくつかの違いが明らかになった(図3)。100mg/kgの化合物1を投与したラットでは、投与後6時間で、胃腸管の全てのレベル(胃、近位および遠位の小腸、結腸)に高レベルのパンテテインが存在する。近位および遠位小腸(SI)の試料では、ジスルフィド結合還元剤TCEPの有無にかかわらず処理された。「TCEPなし」の試料をTCEP試料と比較すると、パンテテインの約半分がチオールの形態であり、その他の(およそ)半分は明らかに別のチオールに結合したジスルフィドであることが分かる。高濃度の遊離パンテテインが小腸に存在するという事実(近位SIに613uM、遠位SIに219uM)は、パンテテイナーゼ切断が、パンテテインのシステアミン(およびパントテン酸)への変換における制限要因であったことを示す。したがって、パンテテイナーゼ誘導剤の化合物1との同時投与、または化合物1(100mg/kg)の投与後いくらかの間隔(例えば、2〜4時間)を置いての投与により、パンテテインのシステアミンへの変換を改善し、システアミンの血漿レベルが低下し始めた場合、容量投与の数時間後にシステアミンの血漿レベルの上昇が始まることが期待される。パンテテイナーゼ遺伝子(VNN1およびVNN2)の発現を調節する天然産物は当該分野で知られており、例えば、スルフォラファン、S−アリルシステイン、ジアリルトリスルフィド、酸化脂肪、オメガ3脂肪酸、およびオレイルエタノールアミドが含まれる。パンテテイナーゼの発現を誘導する薬物には、PPARアルファアゴニスト、PPARガンマアゴニストが含まれる。一般に、Nrf2発現を誘導する薬物または天然産物は有用である。(Nrf2は、パンテテイナーゼの発現を活性化する転写因子である。)
化合物1(100mg/kg)ラットの近位および遠位SIにおけるシステアミンレベルの分析は、それぞれ、129および34uMの中程度の遊離システアミン濃度を示す(TCEPなしの試料)。TCEP還元後、これらのレベルは、それぞれ、430および899uMに増加する。同様のパターンがパンテテインでも見られる。したがって、小腸のシステアミンのかなりの画分がジスルフィド結合しており(還元されていない化合物1の形であろうと、チオール−ジスルフィド交換を介して別のチオールに結合しているジスルフィドであろうと)、画分は近位SIから遠位SIに有意に増加している。これは、近位SIにおけるより高濃度の胆汁由来グルタチオンの存在によって説明することができる。(胆汁は胃腸管におけるグルタチオンの主な供給源であり、腸細胞もまたグルタチオンおよびシステインを分泌すると考えられている。)したがって、胃腸管における還元力は、全ての化合物1を還元する(または還元を維持する)には不十分である。これは、化合物1のシステアミンへの変換を制限する(ジスルフィド結合還元またはパンテテイナーゼ切断に続く還元のいずれかによって)。化合物1(100mg/kg)とともに、またはその後に、生理学的還元剤を投与すると、化合物1のシステアミンへの変換効率が向上する場合がある。例えば、グルタチオン、グルタチオンジエチルエステル、ガンマグルタミルシステイン、ジヒドロリポ酸、N−アセチルシステイン、ホモシステイン、パンテテイン、4−ホスホパンテテイン、デホスホ補酵素A、補酵素A、ビタミンE、またはアスコルビン酸を含む、様々な生理学的チオールを使用することができる。これらの薬剤のいずれも、化合物1とともに、またはその後に投与することができるか、あるいは化合物1と同時配合することができる。有用な製剤は、余分にジスルフィド結合の還元力が最も必要な時間(例えば、化合物1の放出開始から2時間後)および場所(例えば、遠位小腸)に、還元剤を提供する遅延放出または持続放出製剤を含み得る。
結腸内容物(TCEP還元された)の分析により、システアミンおよびパンテテインの両方が高濃度であることが明らかになり、化合物1前駆体のシステアミンへの変換が不完全であることを確認し、したがって、投与後4〜12時間の間隔の間にシステアミンの産生および吸収を増加させることにより、薬物濃度−時間曲線の形状をさらに改善する余地がある。例えば、高用量の化合物1(例えば、100mg/kg以上)を高カロリーの食事とともに投与すると、胃からの化合物1の放出が延長されて、それが還元され、パンテテインを切断し、システアミンとして吸収される期間を延長することになるであろう。化合物1の胃内滞留性製剤は、胃からの長期放出の目的を達成する別の方法である。
実施例14.混合ジスルフィドの合成−シスタミンのアシル化
混合ジスルフィドを合成するための多種多様な方法が説明されている(WittらのLangmuir 23:2318(2007)、MusiejukらのOrg.Prep.and Proc.47.2:95(2015)による概説を参照されたい。)しかしながら、ジスルフィド結合形成の化学の広範な調査(例えば、Singh et al.Sulfur−Containing Functional Groups(1993))にもかかわらず、チオールの特定の対を結合するための効率的な方法は、経験的に決定されなければならない。さらに、不純物プロファイル(不純物の同一性および量の両方)、拡張性(安価なプロセスおよび機器を使用)、固体状態(安定性特性の溶解度が異なる可能性のあるアモルファスまたは結晶)、および塩形態(溶解、安定性、および嗜好性にも影響を与える可能性がある)などの薬物物質の考慮点について、合成方法の開発において考慮する必要がある。
以下の実施例は、本明細書で請求される方法およびシステムがどのように実施および評価されるかについての詳細な説明を当業者に提供するために提示され、これらは本発明の純粋な例示であることが意図され、発明者が発明と見なすものの範囲を限定することを意図しない。実際、可能な改善についても考察する。
以下の例により、TTI−0102およびその塩の合成について説明する。この方法は、他の非対称ジスルフィドの合成に適合され得る。
試薬および方法。
パントテネートによるシスタミンのヘミアシル化のための7つの試薬を以下に列挙する。
反応スキームを、図36、パネルAに示す。試薬1、2、および3を、DMF(80mL)およびH2O(160mL)の混合物中に溶解した。続いて、混合物を0℃に冷却し、80mLのDMF中に溶解した試薬4を滴加した。反応物を0℃で1時間撹拌し、次いで室温で一晩撹拌した。次いで、粗反応物質をシリカゲルカラムに充填し、非アシル化シスタミン、二重アシル化シスタミン(パンテチン)、およびその他の望ましくない副産物からTTI−0102を分離した(実施例5の詳細を参照)。TTI−0102は、主要な汚染物質であるシスタミンの前に溶出する。
あるいは、TTI−0102または汚染物質のいずれかを選択的に結晶化し、結晶を溶解物質から分離することができる。TTI−0102の塩形態および沈殿の考察については、実施例17を参照されたい。
結果
アシル化反応からのTTI−0102の収率は95%〜97%である。クロマトグラフィー精製後、プロトンNMRスペクトルには検出可能な汚染ピークが存在しない(図37)。
観察
アシル化反応は、以下の利点:(i)少ないステップ、(ii)容易に入手できる原材料、(iii)高収率(97%)、および(iv)拡張性を有する。大規模合成では、TTI−0102の選択的結晶化により、クロマトグラフィー精製を省略するか、または「研磨」ステップとして使用することができる(実施例17を参照)。
実施例15.混合ジスルフィドの合成−システアミンおよびパンテチンのチオールジスルフィド交換
以下の例により、TTI−0102およびその塩の合成について説明する。この方法は、他の非対称ジスルフィドの合成に適合され得る。
試薬および方法
システアミン−パンテチンのジスルフィド交換のための試薬を以下に列挙する。
反応スキームを、図36、パネルBに示す。最初に、試薬1および2を、20mLのMeOH中に溶解し、室温で一晩撹拌した。1時間ほどの短い反応時間を使用してもよい。
クロマトグラフィー精製
反応混合物を2グラムの分量に分割し(予想される生成物の50%に基づいて)、真空下で蒸発させ、10mLのDCM:MeOH:AcOH(比率10:3:0.1)中に再懸濁した(例えば、予想される生成物2グラムあたり10mL)。シリカゲルカラム(Sigma Aldrichシリカゲルカタログ番号60737、CAS番号112926−00−8)を、予想される生成物1グラムあたり30立方cm(15gの乾燥ゲル)を使用して調製した。再懸濁した反応物質を充填した後、カラムを、300mLのDCM:MeOH:AcOH(比率10:3:0.1)の溶媒混合物で洗浄し、続いて、DCM:MeOH:AcOH(10:4:0.1)の溶媒混合物(300ml)で洗浄して、再びDCM:MeOH:AcOH(10:5:0.1)の溶媒混合物で洗浄した。カラム画分を収集し、溶媒混合物DCM:MeOH(3:1)中に溶解したTLC−PETプレート(Merckアイテム番号99577)を使用するシリカゲルの薄層クロマトグラフィー(TLC)によって、生成物含有量について分析した。Rfが1/4のTLCで生成物が検出された。純粋な生成物を含有する画分を回収し、濃縮して、真空下で乾燥した。1H NMR(500MHz)を、代表的な試料において実施した。
結果
システアミン−パンテチン反応からのTTI−0102収率は50%〜55%である。クロマトグラフィー精製後、プロトンNMRスペクトルには検出可能な汚染ピークが存在しない。
観察
チオール−ジスルフィド交換反応は、以下の利点:(i)少ないステップおよび緩やかな条件(「ワンポット」反応)、(ii)容易に入手できる安価な原料、(iii)中程度の収率、および(iv)拡張性を有する。チオール−ジスルフィド交換反応は、連続プロセスと互換性がある場合がある。
実施例16.混合ジスルフィドの合成−パンテテインおよびシスタミンのチオールジスルフィド交換
以下の例により、TTI−0102およびその塩の合成について説明する。この方法は、他の非対称ジスルフィドの合成に適合され得る。
試薬および方法
パントテネートによるシスタミンのヘミアシル化のための試薬を以下に列挙する。
方法
この反応のシステアミン−パンテチンの場合(実施例15)のように、溶媒はメタノールである。パンテテインは購入するか、またはジスルフィド結合還元によりパンテチンから生成することができる。試薬1を、10mlのMeOH中に溶解した。続いて、試薬2の溶液を添加し、室温で15分間撹拌した。試薬3を、別個に10mlのMeOH中に溶解し、反応混合物に添加した。混合物全体を室温で一晩撹拌した。
実施例17.TTI−0102の塩形態−物理的特性および沈殿
TTI−0102を、実施例14のように調製した。粗生成物を、水およびDMFの蒸発によって得た。残渣を酢酸エチル/水中に懸濁し、沈殿したジシクロヘキシル尿素(DCU)を濾別した。溶液を蒸発させ、メタノール中に懸濁した。沈殿物(未反応のパントテン酸)を濾別した。濾液を濃縮し、次いで少量のメタノール中に溶解した。ジクロロメタンの添加後、シスタミン塩酸塩が沈殿し、それを濾別した。溶媒の蒸発後、残渣をメタノール:アセトン(1:10)から結晶化して、TTI−1塩酸塩を得た。
酒石酸塩が形成され、MeOH:DCMの混合物から結晶化した。固体形態を濾別し(沈殿)、濾液を蒸発させた。
観察
TTI−0102遊離塩基は、乾燥すると、透明からわずかに黄色のガラス状の固体である。この観察は、TTI−0102の塩形態の調査につながった。TTI−0102の酢酸塩は、遊離塩基よりも安定しており、凍結乾燥して固体形態(白色の、泡で充填された固体)にすることができ、破砕して粉末を生成することができる。TTI−0102の酒石酸塩もまた、凍結乾燥して固体形態にすることができ、上記のように、酢酸塩よりも沈殿しやすいという追加の利点を有する。
化合物1の酸付加塩は、以下の式のいずれかを有することができる:
化合物1の酸付加塩の形態は、酸付加塩が形成される溶液中の化合物1に対する酸(例えば、酢酸または酒石酸などのカルボン酸)のモル比を変化させることによって、および/または塩が単離される溶液のpHを調整することによって、制御することができる。化合物1の酸付加塩は、ジスルフィドの分解に関する安定性などの有利な特性を示すことができる。
他の実施形態
本発明は、その特定の実施形態に関連して説明されているが、さらなる修正が可能であり、本特許出願は、一般に、本発明の原理に従う任意の変形、使用、または適用を網羅することが意図され、本発明が属する技術分野の通常の技術の範囲内にある本開示からのそのような逸脱を含み、本発明の趣旨の範囲内で上述した本質的な特徴に適用され得ることが理解されるであろう。