発明の態様の詳細な説明
I.定義
本明細書に関して「アクセプターヒトフレームワーク」とは、以下に定義するヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワークに由来する軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワークまたは重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークをいう。ヒト免疫グロブリンフレームワークまたはヒトコンセンサスフレームワーク「に由来する」アクセプターヒトフレームワークは、それと同じアミノ酸配列を含んでもよいし、アミノ酸配列変化を含んでいてもよい。いくつかの態様において、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下または2以下である。いくつかの態様において、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列またはヒトコンセンサスフレームワーク配列と配列が同一である。
「アフィニティー」とは、分子(例:抗体またはリガンド)の単一結合部位とその結合パートナー(例:抗原または受容体)との間の非共有結合的相互作用の総和の強さを指す。別段の表示がある場合を除き、本明細書にいう「結合アフィニティー」は、結合ペアのメンバー(例:抗体と抗原)間の1:1相互作用を反映する固有の結合アフィニティーを指す。分子XのそのパートナーYに対するアフィニティーは、一般的には、解離定数(Kd)によって表すことができる。アフィニティーは、本明細書に記載する方法を含む、当技術分野において公知の一般的方法によって測定することができる。結合アフィニティーの測定に関して、説明に役立つ具体的な態様の例は後述する。
本願において使用する用語「アミノ酸」は、アラニン(三文字コード:ala、一文字コード:A)、アルギニン(arg、R)、アスパラギン(asn、N)、アスパラギン酸(asp、D)、システイン(cys、C)、グルタミン(gln、Q)、グルタミン酸(glu、E)、グリシン(gly、G)、ヒスチジン(his、H)、イソロイシン(ile、I)、ロイシン(leu、L)、リジン(lys、K)、メチオニン(met、M)、フェニルアラニン(phe、F)、プロリン(pro、P)、セリン(ser、S)、スレオニン(thr、T)、トリプトファン(trp、W)、チロシン(tyr、Y)およびバリン(val、V)を含む天然カルボキシα-アミノ酸(carboxy α-amino acid)の群を表す。
本明細書において使用する用語「アミノ酸変異」は、アミノ酸の置換、欠失、挿入および修飾を包含するものとする。最終コンストラクトが、例えばFc受容体への結合の低減または別のペプチドとの会合の増加などといった所望の特徴を持つ限り、置換、欠失、挿入および修飾を任意に組み合わせて、最終コンストラクトに達することができる。アミノ酸配列の欠失および挿入には、アミノ末端および/またはカルボキシ末端の欠失ならびにアミノ酸の挿入が含まれる。特定のアミノ酸変異はアミノ酸置換である。例えばFc領域の結合特徴を改変する目的には、非保存的アミノ酸置換、すなわちあるアミノ酸を構造的および/または化学的特性が異なる別のアミノ酸で置き換えることが、特に好ましい。アミノ酸置換には、非天然アミノ酸による置き換え、または20種の標準アミノ酸の天然アミノ酸誘導体(例:4-ヒドロキシプロリン、3-メチルヒスチジン、オルニチン、ホモセリン、5-ヒドロキシリジン)による置き換えが含まれる。アミノ酸変異は、当技術分野において周知の遺伝学的方法または化学的方法を使って作製することができる。遺伝学的方法としては、部位特異的変異導入法、PCR、遺伝子合成などを挙げることができる。化学修飾など、遺伝子工学以外の方法で、アミノ酸の側鎖基を改変する方法が有用な場合もあると考えられる。本明細書では、同じアミノ酸変異を示すために、さまざまな名称を使用する場合がある。例えばFcドメインの329番目におけるプロリンからグリシンへの置換は、329G、G329、G329、P329GまたはPro329Glyと示すことができる。
「アフィニティー成熟」抗体とは、1つまたは複数の超可変領域(HVR)に1つまたは複数の改変を持ち、そのような改変が、そのような改変を持たない親抗体と比較して、抗原に対する抗体のアフィニティーの改良をもたらしている抗体を指す。
本明細書において「抗体」という用語は抗原決定基に特異的に結合する分子に対して最も広義に使用され、限定するわけではないがモノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例:二重特異性抗体)および抗体フラグメントを含むさまざまな抗体構造を、それらが所望の抗原結合活性を呈する限り、包含する。
「抗体特異性」とは、抗原のある特定エピトープに対する抗体の選択的認識を指す。例えば天然抗体は単一特異性である。
「抗原結合ドメイン」という用語は、抗体のうち、抗原の一部または全部に相補的であって抗原の一部または全部に特異的に結合する区域を含む部分を指す。抗原が大きい場合、抗体はその抗原の特定部分にしか結合しないことがあり、その部分をエピトープと呼ぶ。抗原結合ドメインは、例えば1つまたは複数の抗体可変ドメイン(抗体可変領域ともいう)によって与えられうる。好ましくは、抗原結合ドメインは、抗体軽鎖可変領域(VL)および抗体重鎖可変領域(VH)を含む。
本明細書において使用する用語「抗原結合部分」は、抗原決定基に特異的に結合するポリペプチド分子を指す。一態様において、抗原結合部分は、それが取り付けられている実体(例:第2抗原結合部分)を、標的部位に、例えば抗原決定基を帯びた特定タイプの腫瘍細胞または腫瘍間質に、向かわせることができる。別の一態様において、抗原結合部分は、その標的抗原、例えばT細胞受容体複合体抗原によるシグナリングを活性化することができる。抗原結合部分として、本明細書においてさらに詳しく定義する抗体およびそのフラグメントが挙げられる。特定の抗原結合部分は、抗体重鎖可変領域および抗体軽鎖可変領域を含む抗体の抗原結合ドメインを含む。一定の態様において、抗原結合部分は、本明細書においてさらに詳しく定義する当技術分野において公知の抗体定常領域を含みうる。有用な重鎖定常領域として、5種のアイソタイプ:α、δ、ε、γまたはμのいずれかが挙げられる。有用な軽鎖定常領域として、2種のアイソタイプ:κおよびλのいずれかが挙げられる。
「抗原結合部位」とは、抗体のうち、抗原との相互作用を与える部位、すなわち1つまたは複数のアミノ酸残基を指す。例えば抗体の抗原結合部位は、「相補性決定領域」(CDR)からのアミノ酸残基を含む。天然免疫グロブリン分子は、典型的には、2つの抗原結合部位を有し、Fab分子は、典型的には、1つの抗原結合部位を有する。
「抗体の抗原結合部位」という用語は、本明細書において使用される場合、抗体のうち、抗原結合を担うアミノ酸残基を指す。抗体の抗原結合部はCDRからのアミノ酸残基を含む。「フレームワーク」領域、すなわち「FR」領域は、本明細書において定義する超可変領域残基以外の可変ドメイン領域である。それゆえに、抗体の軽鎖可変ドメインおよび重鎖可変ドメインは、N末端からC末端に向かって、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。とりわけ重鎖のCDR3は、抗原結合に最も寄与する領域であり、抗体の特性を規定する。CDR領域およびFR領域は、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991の標準的定義に従って決定され、かつ/または「超可変ループ」からの残基である。
「抗体フラグメント」とは、インタクト抗体のうち、インタクト抗体が結合する抗原に結合する部分を含む、インタクト抗体以外の分子を指す。抗体フラグメントの例として、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)2、ダイアボディ、クロス-Fab(cross-Fab)フラグメント、直鎖状抗体、単鎖抗体分子(例:scFv)および抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。scFvフラグメントの総説として、例えばPluckthun,in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.,Springer-Verlag,New York,pp.269-315(1994)を参照されたい。また、WO93/16185ならびに米国特許第5,571,894号および同第5,587,458号も参照されたい。サルベージ受容体結合エピトープ残基を含み、増加したインビボ半減期を有するFabフラグメントおよびF(ab’)2フラグメントの議論については、米国特許第5,869,046号を参照されたい。ダイアボディは、二価であっても二重特異性であってもよい2つの抗原結合部位を持つ抗体フラグメントである。例えばEP 404,097、WO1993/01161、Hudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)およびHollinger et al.,Proc Natl Acad Sci USA 90,6444-6448(1993)を参照されたい。トリアボディおよびテトラボディもHudson et al.,Nat Med 9,129-134(2003)に記載されている。単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部もしくは一部または軽鎖可変ドメインの全部もしくは一部を含む抗体フラグメントである。一定の態様において、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体(Domantis,Inc.、マサチューセッツ州ウォルサム;例えば米国特許第6,248,516 B1号参照)である。抗体フラグメントは、さまざまな技法によって、例えば限定するわけではないがインタクト抗体のタンパク質分解消化および組換え宿主細胞(例えば大腸菌(E.coli)またはファージ)による生産などによって、作成することができる。
本明細書において使用する用語「抗原決定基」は、「抗原」および「エピトープ」と同義であり、ポリペプチド高分子上の一部位(例:連続するストレッチのアミノ酸、または不連続なアミノ酸の異なる領域から構成されるコンフォメーション上の配置)であって、そこに抗原結合部分が結合して抗原結合部分-抗原複合体を形成するものを指す。有用な抗原決定基は、例えば腫瘍細胞の表面、ウイルス感染細胞の表面、他の疾患細胞の表面、免疫細胞の表面に見いだされるか、血清中および/または細胞外マトリックス(ECM)中に遊離した状態で見いだされる。本明細書において抗原と呼ぶタンパク質(例:FolR1およびCD3)は、別段の表示がある場合を除き、霊長類(例:ヒト)および齧歯類(例:マウスおよびラット)などの哺乳動物を含む任意の脊椎動物に由来するタンパク質の任意の天然形であることができる。一特定態様において、抗原はヒトタンパク質である。本明細書において具体的タンパク質に言及する場合、この用語は、プロセシングされていない「完全長」タンパク質を包含すると共に、細胞におけるプロセシングがもたらす任意の形態の当該タンパク質も包含する。また、この用語は、タンパク質の天然変異体、例えばスプライス変異体またはアレル変異体も包含する。抗原として有用な例示的ヒトタンパク質には、FolR1およびCD3、特にCD3のイプシロンサブユニット(ヒト配列についてはUniProt番号P07766(バージョン130)、NCBI RefSeq番号NP_000724.1、SEQ ID NO:60を、またカニクイザル[Macaca fascicularis]配列についてはUniProt番号Q95LI5(バージョン49)、NCBI GenBank番号BAB71849.1を参照されたい)が含まれるが、それらに限定されるわけではない。一定の態様において、本発明の二重特異性分子は、異なる種からのCD3もしくは標的抗原間で保存されているCD3または標的細胞抗原のエピトープに結合する。一定の態様において、本発明の二重特異性分子はCD3およびFolR1に結合する。
本明細書において使用する用語「二重特異性」抗体は、それぞれが同じ抗原の異なるエピトープまたは異なる抗原に結合する少なくとも2つの結合部位を有する抗体を表す。多重特異性抗体を作成するための技法には、異なる特異性を持つ2種の免疫グロブリン重鎖-軽鎖ペアの組換え共発現(Milstein and Cuello,Nature 305:537(1983)、WO93/08829およびTraunecker et al.,EMBO J.10:3655(1991)参照)および「ノブ・イン・ホール(knob-in-hole)」工学(例えば米国特許第5,731,168号)などがあるが、それらに限定されるわけではない。多重特異性抗体は、抗体Fcヘテロ二量体型分子を作成するために静電ステアリング効果を工作すること(WO2009/089004)、2つ以上の抗体またはフラグメントを架橋すること(例えば米国特許第4,676,980号およびBrennan et al,Science 229:81(1985)参照)、ロイシンジッパーを使って二重特異性抗体を生産すること(例えばKostelny et al,J.Immunol.148(5):1547-1553(1992)参照)、二重特異性抗体フラグメントを作成するために「ダイアボディ」技術を使用すること(例えばHollinger et al,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)参照)、および単鎖Fv(sFv)二量体を使用すること(例えばGruber et al,J.Immunol.152:5368(1994)参照)、および例えばTutt et al,J.Immunol.147:60(1991)に記載されているように三重特異性抗体を調製することによって作成してもよい。二重特異性抗体は、少なくとも2つの相異なる抗原決定基に特異的に結合することができる。通例、二重特異性抗体は、それぞれが異なる抗原決定基に特異的な2つの抗原結合部位を含む。一定の態様において、二重特異性抗体は、2つの抗原決定基、特に2つの相異なる細胞上に発現した2つの抗原決定基に、同時に結合する能力を有する。
本明細書において使用する「細胞」、「細胞株」および「細胞培養」という表現は相互可換的に使用され、これらの呼称は子孫を包含する。したがって、「トランスフェクタント」および「トランスフェクト細胞」という語句は、初代対象細胞と、継代数を問わずそこから派生する培養物とを包含する。故意の変異または偶発的変異により、すべての子孫がDNA内容物に関して厳密に同一でない場合があることも理解される。最初に形質転換された細胞において選別されたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異体子孫は、包含される。
「キメラ」抗体という用語は、重鎖および/または軽鎖の一部分がある特定供給源または特定種に由来し、重鎖および/または軽鎖の残りの部分は異なる供給源または異なる種に由来する、通常は組換えDNA技法によって調製される抗体を指す。ウサギ可変領域およびヒト定常領域を含むキメラ抗体は好ましい。本発明によって包含される「キメラ抗体」の他の好ましい形態は、本発明の特性が、とりわけC1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して生じるように、定常領域が元の抗体から修飾されまたは改変されているものである。そのようなキメラ抗体を「クラススイッチされた抗体」ともいう。キメラ抗体は、免疫グロブリン可変領域をコードするDNAセグメントと免疫グロブリン定常領域をコードするDNAセグメントとを含む免疫グロブリン遺伝子の発現産物である。キメラ抗体を生産するための方法では、当技術分野において周知の従来の組換えDNA技法および遺伝子トランスフェクション技法が使用される。例えばMorrison,S.L.,et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81(1984)6851-6855、米国特許第5,202,238号および同第5,204,244号参照。
「クロスオーバー」Fab分子(「Crossfab」ともいう)は、Fab重鎖およびFab軽鎖の可変領域または定常領域が交換されているFab分子を意味する。すなわちクロスオーバーFab分子は、軽鎖可変領域および重鎖定常領域から構成されるペプチド鎖と、重鎖可変領域および軽鎖定常領域から構成されるペプチド鎖とを含む。明確に理解されるように述べると、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域が交換されているクロスオーバーFab分子の場合、重鎖定常領域のペプチド鎖を、本明細書では、クロスオーバーFab分子の「重鎖」という。逆に、Fab軽鎖とFab重鎖の定常領域が交換されているクロスオーバーFab分子の場合は、重鎖可変領域を含むペプチド鎖を、本明細書では、クロスオーバーFab分子の「重鎖」という。
これに対して、「従来型」Fab分子とは、天然フォーマットのFab分子、すなわち重鎖可変領域および重鎖定常領域から構成される重鎖(VH-CH1)と、軽鎖可変領域および軽鎖定常領域から構成される軽鎖(VL-CL)とを含むFab分子を意味する。
薬剤、例えば薬学的製剤の「有効量」とは、必要な投薬量および期間で、所望の治療結果または予防結果を達成するのに有効な量を指す。
「エフェクター機能」とは、抗体のFc領域に帰することができる生物学的活性を指し、それらは抗体アイソタイプによってさまざまである。抗体エフェクター機能の例として、C1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC);抗体依存性細胞貪食(ADCP)、サイトカイン分泌、免疫複合体が媒介する抗原提示細胞による抗原の取り込み;細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)のダウンレギュレーション;およびB細胞活性化が挙げられる。
本明細書において使用する用語「操作する(engineer)、操作された(engineered)、操作(engineering)」は、天然ポリペプチドもしくは組換えポリペプチドまたはそのフラグメントのペプチドバックボーンの任意の操作または翻訳後修飾を包含するとみなされる。操作には、アミノ酸配列の修飾、グリコシル化パターンの修飾、または個々のアミノ酸の側鎖基の修飾、およびこれらのアプローチの組合せが含まれる。本明細書において使用する場合、用語、操作する、操作された、操作、特に接頭辞「グリコ」が付いている場合、および「グリコシル化操作」(glycosylation engineering)という用語は、天然ポリペプチドもしくは組換えポリペプチドまたはそのフラグメントのグリコシル化パターンの任意の操作を包含するとみなされる。グリコシル化操作は、細胞において発現される糖タンパク質のグリコシル化の改変を達成するためのオリゴ糖合成経路の遺伝子操作を含む、細胞のグリコシル化機構の代謝操作を包含する。さらにまた、グリコシル化操作は、変異および細胞環境がグリコシル化に及ぼす効果を包含する。一態様において、グリコシル化操作はグリコシルトランスフェラーゼ活性の改変である。一特定態様において、この操作は、グルコサミニルトランスフェラーゼ活性および/またはフコシルトランスフェラーゼ活性の改変をもたらす。
「エピトープ」という用語は、抗体に特異的に結合することができる任意のポリペプチド決定基を包含する。一定の態様において、エピトープ決定基は、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリルまたはスルホニルなどの分子の化学的に活性な表面配置(surface grouping)を含み、一定の態様では、特異的三次元構造特徴および/または特異的電荷特徴を有しうる。エピトープは、抗原のうち、抗体が結合する領域である。
本明細書にいう「Fabフラグメント」は、VLドメインおよび軽鎖の定常ドメイン(CL)を含む軽鎖フラグメントならびにVHドメインおよび重鎖の第1定常ドメイン(CH1)を含む抗体フラグメントを指す。
「Fcドメイン」または「Fc領域」という用語は、本明細書では、定常領域の少なくとも一部分を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を規定するために使用される。この用語は、天然配列Fc領域および変異体Fc領域を包含する。IgG重鎖のFc領域の境界はわずかに変動するかもしれないが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、重鎖のCys226またはPro230からカルボキシル末端に及ぶと定義される。ただしFc領域のC末端リジン(Lys447)は存在しても存在しなくてもよい。本明細書に別段の指定がある場合を除き、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD,1991に記載の、EUインデックスとも呼ばれるEUナンバリングシステムに従う。本明細書にいうFcドメインの「サブユニット」は、二量体型Fcドメインを形成する2つのポリペプチドのうちの1つ、すなわち安定に自己会合する能力を有する免疫グロブリン重鎖のC末端定常領域を含むポリペプチドを指す。例えば、IgG Fcドメインのサブユニットは、IgG CH2定常ドメインおよびIgG CH3定常ドメインを含む。
抗原結合部分などに関して本明細書において使用する用語「第1」および「第2」は、各タイプの部分が2つ以上存在する場合に、識別するのに好都合なように使用される。これらの用語の使用は、明示的にそう述べる場合を除き、二重特異性抗体の特別な順序または方向を付与しようとするものではない。
「Fab分子」とは、免疫グロブリンの重鎖のVHドメインおよびCH1ドメイン(「Fab重鎖」)と軽鎖のVLドメインおよびCLドメイン(「Fab軽鎖」)とからなるタンパク質を指す。
「フレームワーク」または「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を指す。可変ドメインのFRは、一般に、4つのFRドメインFR1、FR2、FR3およびFR4からなる。したがって、HVR配列とFR配列は一般にVH(またはVL)中に、以下の順序で現れる:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4。
「完全長抗体」、「インタクト抗体」および「全抗体」という用語は、本明細書では相互可換的に使用されて、天然抗体の構造と実質的に類似する構造を有する抗体または本明細書において定義するFc領域を含有する重鎖を有する抗体を指す。
本明細書において使用する用語「抗体またはリガンドの機能性」は、抗体またはリガンドの生物学的活性、例えば細胞応答を引き出す抗体またはリガンドの能力を指す。例えば標的抗原への結合によって、抗体は細胞シグナリング経路を活性化または抑制し、すなわち標的抗原の機能を活性化または阻害する。例えば被験抗体は、NF-κB経路を活性化する受容体に結合し、この結合によって、細胞核中の応答エレメントが活性化される。この応答エレメントをレポーター遺伝子に連結すると、本発明のアッセイ法において活性化を容易にモニタリングすることができる。「機能性」という用語は、抗体のエフェクター機能、例えばC1q結合および補体依存性細胞傷害(CDC)、Fc受容体結合、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、抗体依存性細胞貪食(ADCP)、サイトカイン分泌、免疫複合体が媒介する抗原提示細胞による抗原の取り込み、細胞表面受容体(例えばB細胞受容体)のダウンレギュレーションおよびB細胞活性化ならびにT細胞の活性化も包含する。
「融合される」とは、構成要素(例:Fab分子およびFcドメインサブユニット)が、ペプチド結合によって、直接的にまたは1つもしくは複数のペプチドリンカーを介して、連結されることを意味する。
本明細書にいう「ハイスループットスクリーニング」は、比較的多数の異なる抗体候補またはリガンド候補を、本明細書に記載の新規アッセイ法を使って、結合および機能性に関して分析できることを意味すると理解されるものとする。典型的なそのようなハイスループットスクリーニングは、マルチウェルマイクロタイタープレート、例えば96ウェルプレートもしくは384ウェルプレートにおいて、または1536ウェルもしくは3456ウェルのプレートにおいて行われる。
「宿主細胞」、「宿主細胞株」および「宿主細胞培養」という用語は、相互可換的に使用され、外因性核酸が導入されている細胞を指し、そのような細胞の子孫を含む。宿主細胞は「形質転換体」および「形質転換細胞」を包含し、それらは、初代形質転換細胞と、継代数を問わずそこから派生する子孫とを包含する。子孫は、核酸内容物が親細胞と完全には同一でなくて、変異を含有してもよい。最初に形質転換された細胞において選別または選択されたものと同じ機能または生物学的活性を有する変異型子孫は、ここに包含される。
「ヒト抗体」は、ヒトまたはヒト細胞によって生産される抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を持つか、ヒト抗体レパートリーまたは他のヒト抗体コード配列を利用する非ヒト供給源に由来する抗体のアミノ酸配列に対応するアミノ酸配列を有するものである。非ヒト抗原結合残基を含むヒト化抗体は、ヒト抗体のこの定義からは、明確に除外される。本発明のキメラ抗体およびヒト化抗体についても述べるとおり、本明細書において使用する用語「ヒト抗体」は、本発明の特性が、とりわけC1q結合および/またはFcR結合に関して生じるように、例えば「クラススイッチ」によって、すなわちFc部分の変化または変異(例えばIgG1からIgG4への変異および/またはIgG1/IgG4変異)によって、定常領域が修飾されているそのような抗体も含む。
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVLまたはVHフレームワーク配列の選択において、最もよく見られるアミノ酸残基に相当するフレームワークである。一般に、ヒト免疫グロブリンVL配列またはVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループから行われる。一般に、配列のサブグループは、Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,Fifth Edition,NIH Publication 91-3242,Bethesda MD(1991),vols.1-3にあるサブグループである。一態様において、VLの場合、サブグループはKabatらの上記文献にあるサブグループ・カッパIである。一態様において、VHの場合、サブグループはKabatらの上記文献にあるサブグループIIIである。
「ヒト化」抗体とは、非ヒトHVRからのアミノ酸残基とヒトFRからのアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を指す。一定の態様において、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質上すべてを含み、その可変ドメインでは、HVR(例えばCDR)のすべてまたは実質上すべてが非ヒト抗体のものに対応し、FRのすべてまたは実質上すべてがヒト抗体のものに対応するであろう。ヒト化抗体は、任意で、ヒト抗体に由来する抗体定常領域の少なくとも一部分を含みうる。抗体の、例えば非ヒト抗体の、「ヒト化型」とは、ヒト化を受けた抗体を指す。本発明によって包含される「ヒト化抗体」の他の形態は、本発明の特性が、とりわけC1q結合および/またはFc受容体(FcR)結合に関して生じるように、定常領域が元の抗体のものからさらに修飾または改変されているものである。
本明細書において使用する用語「超可変領域」または「HVR」は、配列が超可変でありかつ/または構造的に明確なループ(「超可変ループ」)を形成する、抗体可変ドメインの領域のそれぞれを指す。一般に、天然の四鎖抗体は6つのHVRを含み、3つはVHにあり(H1、H2、H3)、3つはVLにある(L1、L2、L3)。HVRは、一般的には、超可変ループからのアミノ酸残基および/または「相補性決定領域」(CDR)からのアミノ酸残基を含み、後者は配列可変性が最も高くかつ/または抗原認識に関与する。例示的な超可変ループは、アミノ酸残基26〜32(L1)、50〜52(L2)、91〜96(L3)、26〜32(H1)、53〜55(H2)および96〜101(H3)に見られる。(Chothia and Lesk,J.Mol.Biol.196:901-917(1987))。例示的なCDR(CDR-L1、CDR-L2、CDR-L3、CDR-H1、CDR-H2およびCDR-H3)は、L1のアミノ酸残基24〜34、L2の50〜56、L3の89〜97、H1の31〜35B、H2の50〜65およびH3の95〜102に見られる。(Kabat et al.,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda,MD(1991))。超可変領域(HVR)は相補性決定領域(CDR)ともいい、本明細書では、これらの用語を、可変領域のうち抗原結合領域を形成する部分に関して、相互可換的に使用する。この特定領域は、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services「Sequences of Proteins of Immunological Interest」(1983)およびChothia et al.,J.Mol.Biol.196:901-917(1987)に記載されており、これらの定義は、互いに比較すると、アミノ酸残基の重複または部分集合を含む。それでもなお、抗体またはその変異体のCDRに言及するためになされるどちらか一方の定義の適用は、本明細書において定義され使用される用語の範囲内であるものとする。上で言及した参考文献のそれぞれによって定義されるCDRを包含する適当なアミノ酸残基を、下記表Aに比較して示す。ある特定CDRを包含する厳密な残基数はCDRの配列およびサイズに依存して変動するであろう。当業者は、抗体の可変領域アミノ酸配列が与えられたら、どの残基が特定CDRを構成するかを、常法によって決定することができる。
(表A)CDR定義
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1表AにおけるすべてのCDR定義のナンバリングは、Kabatらが記載したナンバリング法に従っている(下記参照)。
2表Aにおいて使用する「b」が小文字の「AbM」は、Oxford Molecularの「AbM」抗体モデリングソフトウェアによって定義されるCDRを指す。
Kabatらは、任意の抗体に適用可能な可変領域配列用のナンバリングシステムも規定した。当業者は、配列そのもの以外には何の実験データにも頼らずに、「Kabatナンバリング」のこのシステムを任意の可変領域配列に明確に割り当てることができる。本明細書にいう「Kabatナンバリング」は、Kabat et al.,U.S.Dept.of Health and Human Services「Sequence of Proteins of Immunological Interest」(1983)に記載のナンバリングシステムを指す。別段の指定がある場合を除き、抗体可変領域中の特別なアミノ酸残基位置のナンバリングへの言及は、Kabatナンバリングシステムによる。
VH中のCDR1を例外として、CDRは一般に超可変ループを形成するアミノ酸残基を含む。CDRは、抗原と接触する残基である「特異性決定残基」、すなわち「SDR」も含む。SDRは、短縮CDR(abbreviated-CDR)またはa-CDRと呼ばれるCDRの領域内に含まれている。例示的なa-CDR(a-CDR-L1、a-CDR-L2、a-CDR-L3、a-CDR-H1、a-CDR-H2およびa-CDR-H3)は、L1のアミノ酸残基31〜34、L2の50〜55、L3の89〜96、H1の31〜35B、H2の50〜58およびH3の95〜102に見られる。(Almagro and Fransson,Front.Biosci.13:1619-1633(2008)参照)。別段の表示がある場合を除き、HVR残基および可変ドメイン中の他の残基(例:FR残基)は、本明細書では、Kabatらの前掲書に従ってナンバリングされる。
本明細書にいう「イディオタイプ特異的ポリペプチド」は、抗原結合部分(例えばCD3に特異的な抗原結合部分)のイディオタイプを認識するポリペプチドを指す。イディオタイプ特異的ポリペプチドは、抗原結合部分の可変領域に特異的に結合し、よって抗原結合部分のそのコグネイト抗原への特異的結合を低減または防止する能力を有する。抗原結合部分を含む分子と会合すると、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、その分子のマスキング部分として機能することができる。本明細書では、抗CD3結合分子のイディオタイプに特異的な抗イディオタイプ抗体または抗イディオタイプ結合抗体フラグメントを具体的に開示する。
「イムノコンジュゲート」は、1つまたは複数の異種分子、例えば限定するわけではないが細胞毒性作用物質などにコンジュゲートされた抗体である。
「免疫グロブリン分子」という用語は、天然抗体の構造を有するタンパク質を指す。例えばIgGクラスの免疫グロブリンは、ジスルフィド結合した2本の軽鎖および2本の重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体型糖タンパク質である。各重鎖は、N末端からC末端に向かって、可変領域(VH)(可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインともいう)と、それに続く3つの定常ドメイン(CH1、CH2およびCH3)(重鎖定常領域ともいう)とを有する。同様に、各軽鎖は、N末端からC末端に向かって、可変領域(VL)(可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインともいう)と、それに続く定常軽鎖(CL)ドメイン(軽鎖定常領域ともいう)とを有する。免疫グロブリンの重鎖は、α(IgA)、δ(IgD)、ε(IgE)、γ(IgG)またはμ(IgM)と呼ばれる5つのタイプのうちの1つに割り当てることができ、そのうちの一部は、例えばγ1(IgG1)、γ2(IgG2)、γ3(IgG3)、γ4(IgG4)、α1(IgA1)およびα2(IgA2)などのサブタイプへと、さらに分割することができる。免疫グロブリンの軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのうちの1つに割り当てることができる。免疫グロブリンは、免疫グロブリンヒンジ領域によって連結された2つのFab分子とFcドメインとから本質的になる。
「個体」または「対象」は哺乳動物である。哺乳動物として、家畜(例:ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、およびウマ)、霊長類(例:ヒトおよび非ヒト霊長類、例えばサル)、ウサギ、および齧歯類(例:マウスおよびラット)が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。一定の態様において、個体または対象はヒトである。
「単離された」抗体とは、その自然環境の構成要素から分離されたものである。いくつかの態様において、抗体は、例えば電気泳動(例:SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)またはクロマトグラフィー(例:イオン交換または逆相HPLC)による決定で純度95%超または99%超まで精製される。抗体純度を評価するための方法に関する総説として、例えばFlatman et al,J.Chromatogr.B 848:79-87(2007)を参照されたい。
「単離された」核酸とは、その自然環境の構成要素から分離された核酸分子を指す。単離された核酸には、その核酸を通常含有する細胞に含まれている核酸分子であるが、染色体外に存在するか、その自然の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する核酸分子も包含される。
本明細書において使用する用語「リガンド」は、別の分子に結合することができる任意の分子を指す。リガンド分子の例として、ペプチド、タンパク質、糖質、脂質または核酸が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。本明細書に記載するアッセイ法で分析される好ましいリガンドは、標的抗原に結合する能力を有するペプチドまたはタンパク質である。通常、そのような標的抗原は、細胞表面受容体である。
「Fcドメインの第1サブユニットと第2サブユニットの会合を促進する修飾」とは、Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドが同一ポリペプチドと会合してホモ二量体を形成するのを低減または防止する、ペプチドバックボーンの操作またはFcドメインサブユニットの翻訳後修飾をいう。本明細書にいう会合を促進する修飾には、会合することが望まれる2つのFcドメインサブユニット(すなわちFcドメインの第1サブユニットおよび第2サブユニット)のそれぞれに加えられる別々の修飾であって、2つのFcドメインサブユニットの会合が促進されるように互いに相補的である修飾が、特に含まれる。例えば、会合を促進する修飾は、それらFcドメインサブユニットの会合がそれぞれ立体的または静電気的に有利になるように、それらFcドメインサブユニットの一方または両方の構造または電荷を変化させうる。こうして、第1Fcドメインサブユニットを含むポリペプチドと、第2Fcサブユニットを含むポリペプチドとの間で(これらのポリペプチドは、それらサブユニットのそれぞれに融合されたさらなる構成要素(例:抗原結合部分)が同じではないという意味で同一でないかもしれない)、(ヘテロ)二量体化が起こる。いくつかの態様において、会合を促進する修飾は、Fcドメインにアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。一特定態様において、会合を促進する修飾は、2つのFcドメインサブユニットのそれぞれに、別々のアミノ酸変異、具体的にはアミノ酸置換を含む。
本明細書において使用する用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指す。すなわち、例えば天然の変異を含有する変異体抗体またはモノクローナル抗体調製物の生産中に生じる変異体抗体(そのような変異体の存在量は一般に少ない)などといった考えうる変異体抗体を除けば、前記集団を構成する個々の抗体は同一でありかつ/または同じエピトープに結合する。典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する異なる抗体を含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、1つの抗原上の単一の決定基を指向する。したがって、「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の特徴を示しているのであって、何か特定の方法による抗体の生産を必要とするとみなしてはならない。例えば本発明に従って使用されるモノクローナル抗体は、限定するわけではないがハイブリドーマ法、組換えDNA法、ファージディスプレイ法、ヒト免疫グロブリン遺伝子座の全部または一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法などといったさまざまな技法によって作成することができ、モノクローナル抗体を作成するためのそのような方法および他の例示的方法は、本明細書に記載する。
本明細書において使用する用語「単一特異性」抗体は、1つの結合部位またはそれぞれが同じ抗原の同じエピトープに結合する2つ以上の結合部位を有する抗体を表す。
「裸の抗体」とは、異種部分(例:細胞毒性部分)または放射性ラベルにコンジュゲートされていない抗体を指す。裸の抗体は薬学的製剤中に存在しうる。
「天然抗体」とは、さまざまな構造を持つ天然の免疫グロブリン分子を指す。例えば天然IgG抗体は、ジスルフィド結合された2本の同一軽鎖および2本の同一重鎖から構成される約150,000ダルトンのヘテロ四量体型糖タンパク質である。各重鎖は、N末端からC末端に向かって、可変領域(VH)(可変重鎖ドメインまたは重鎖可変ドメインともいう)と、それに続く3つの定常ドメイン(CH1、CH2およびCH3)とを有する。同様に、各軽鎖は、N末端からC末端に向かって、可変領域(VL)(可変軽鎖ドメインまたは軽鎖可変ドメインともいう)と、それに続く定常軽鎖(CL)ドメインとを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)およびラムダ(λ)と呼ばれる2つのタイプのうちの1つに割り当てることができる。
本明細書にいう「NF-κB」は「活性化B細胞の核内因子カッパ軽鎖エンハンサー(nuclear factor kappa-light-chain-enhancer of activated B cells)」を指し、アポトーシス、ウイルス複製、腫瘍発生、種々の自己免疫疾患、および炎症応答のメディエーターをコードする数多くの遺伝子の調節に関係づけられる転写因子である。NFκBはほとんどすべての真核細胞に存在する。一般にこれは、阻害性カッパB(IκB)タンパク質との複合体を形成するので、不活性状態でサイトゾルに位置する。膜内在性受容体(「NF-κB経路の受容体」ともいう)にリガンドが結合することにより、IκBキナーゼ(IKK)が活性化される。IKKは、2つのキナーゼと調節サブユニットとからなる酵素複合体である。この複合体はIκBタンパク質をリン酸化し、それがユビキチン化に、そしてそれゆえにプロテアソームによるタンパク質の分解につながる。最後に、遊離のNFκBは活性状態にあり、核内に移行して、κB DNAエレメントに結合し、標的遺伝子の転写を誘導する。
本明細書にいう「NF-κB経路」は、NF-κBの活性の調整につながる刺激を指す。例えば、リガンドまたは抗体のどちらかの結合による、Toll様受容体シグナリング、TNF受容体シグナリング、T細胞受容体およびB細胞受容体シグナリングの活性化は、NF-κBの活性化をもたらす。次に、リン酸化NF-κB二量体がκB DNAエレメントに結合し、標的遺伝子の転写を誘導する。ここで有用な例示的κB DNAエレメントを「NF-κB経路の応答エレメント」という。したがって「NF-κB経路の受容体」とは、NF-κB活性の調整の引き金を引くことができる受容体を指す。「NF-κB経路の受容体」の例は、Toll様受容体、TNF受容体、T細胞受容体およびB細胞受容体である。抗体であって、その標的に結合した場合にNF-κB活性の調整をもたらす抗体の非限定的な例は、抗CD3抗体、抗CD40抗体、抗DR5抗体、抗DR4抗体、抗41BB抗体、抗Ox40抗体および抗GITR抗体である。リガンドであって、その標的に結合した場合にNF-κB活性の調整をもたらすリガンドの例は、OX40リガンド、4-1BBリガンドまたはCD40リガンドである。
「実質的交差反応性なし」とは、分子(例:抗体)が、分子の実際の標的抗原とは異なる抗原(例:標的抗原に近縁の抗原)を、特に標的抗原との比較において、認識しないこと、または特異的に結合しないことを意味する。例えば、抗体は、約10%未満〜約5%未満で実際の標的抗原とは異なる抗原に結合しうるか、または抗体は、約10%未満、9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.2%未満もしくは0.1%未満、好ましくは約2%未満、1%未満もしくは0.5%未満、最も好ましくは約0.2%未満もしくは0.1%未満の、実際の標的抗原とは異なる抗原からなる量で、実際の標的抗原とは異なる抗原に結合しうる。
「オクトパス(Octopus)抗体」など、3つ以上の機能的抗原結合部位を持つ操作された抗体も、ここに包含される(例えばUS2006/0025576A1参照)。
本明細書において、抗体またはフラグメントは、「二重作用性(Dual Acting)FAb」、すなわち「DAF」も包含する(例えばUS2008/0069820参照)。
「添付文書」という用語は、治療製品の市販パッケージに通例含まれていて、当該治療製品の適応症、用法、投薬量、投与、併用治療、禁忌および/または使用上の注意に関する情報を含んでいる説明書を指すために使用される。
リファレンスポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、どの保存的置換も配列同一性の一部とはみなさずに、パーセント配列同一性が最大になるように配列を整列し、必要であればギャップを導入した後に、リファレンスポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージと定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定するためのアラインメントは、当技術分野における技量の範囲内にあるさまざまな方法で、例えばBLAST、BLAST-2、ALIGNまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの公に利用できるコンピュータソフトウェアを使って、達成することができる。当業者は、配列を整列させるための適当なパラメータを、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを得るのに必要なあらゆるアルゴリズムを含めて、決定することができる。ただし、本明細書における目的には、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使って、%アミノ酸配列同一性値を生成させる。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムはGenentech,Inc.によって書かれたものであり、ソースコードは米国著作権局(20559ワシントンD.C.)に利用者向け文書と共に登録申請され、米国著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech,Inc.(カリフォルニア州サウスサンフランシスコ)から公的に入手するか、またはソースコードからコンパイルすることができる。ALIGN-2プログラムは、digital UNIX V4.0DなどのUNIXオペレーティングシステム上で使用するためにコンパイルすべきである。すべての配列比較パラメータはALIGN-2プログラムによって設定され、変動しない。
アミノ酸配列比較にALIGN-2を使用する場合、所与のアミノ酸配列Bに対する、または所与のアミノ酸配列Bとの、または所与のアミノ酸配列Bと対比した、所与のアミノ酸配列Aの%アミノ酸配列同一性(これは、所与のアミノ酸配列Bに対して、または所与のアミノ酸配列Bと、または所与のアミノ酸配列Bと対比して、一定の%アミノ酸配列同一性を有する、または含む、所与のアミノ酸配列Aと、言い換えることもできる)は、次のように計算される。
分率X/Y×100
ここで、Xは、配列アラインメントプログラムALIGN-2が、そのプログラムによるAとBとのアラインメントにおいて、完全一致(identical match)と記録したアミノ酸残基の数であり、YはB中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さがアミノ酸配列Bの長さと等しくない場合に、Bに対するAの%アミノ酸配列同一性が、Aに対するBの%アミノ酸配列同一性と一致しなくなることは、理解されるであろう。別段の具体的言明がある場合を除き、本明細書において使用する%アミノ酸配列同一性値はすべて、すぐ上の段落で説明したように、ALIGN-2コンピュータプログラムを使って得られる。
「薬学的製剤」という用語は、そこに含有される活性成分の生物学的活性が有効であることを許すような形態にあって、その製剤を投与されることになる対象にとって、許容できないほどに毒性な追加の構成成分を含有しない調製物を指す。
「薬学的に許容される担体」とは、対象にとって無毒である、活性成分以外の薬学的製剤中の成分を指す。薬学的に許容される担体として、緩衝剤、賦形剤、安定剤または保存剤が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
本明細書にいう「プロテアーゼ」または「タンパク質分解酵素」は、認識部位においてリンカーを切断し、標的細胞によって、例えば腫瘍細胞によって発現される、任意のタンパク質分解酵素を指す。そのようなプロテアーゼは、標的細胞によって分泌されるかもしれないし、標的細胞と(例えば標的細胞表面に)会合したままであるかもしれない。プロテアーゼの例として、メタロプロテイナーゼ、例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ1〜28およびディスインテグリンメタロプロテイナーゼ(A Disintegrin And Metalloproteinase)(ADAM)(2、7〜12、15、17〜23、28〜30および33、セリンプロテアーゼ、例えばウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子およびマトリプターゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、およびカテプシンファミリーのメンバーが挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
T細胞活性化二重特異性分子に関して本明細書にいう「プロテアーゼ活性化可能」は、T細胞活性化二重特異性分子のCD3結合能を低減または抑止するマスキング部分ゆえに、T細胞活性化能が低減または抑止されているT細胞活性化二重特異性分子を指す。タンパク質分解的切断によって、例えばマスキング部分をT細胞活性化二重特異性分子につないでいるリンカーのタンパク質分解的切断によって、マスキング部分が解離すると、CD3への結合が回復し、それによってT細胞活性化二重特異性分子が活性化される。
「固有の蛍光を持つタンパク質」という用語は、タンパク質内の内部アミノ酸の環化および酸化によって、または蛍光性補因子の酵素的付加によって、蛍光性の高い固有の発色団を形成する能力を有するタンパク質を指す。「固有の蛍光を持つタンパク質」という用語には、野生型蛍光タンパク質および改変されたスペクトル特性または物理特性を呈する変異型が包含される。この用語は、タンパク質内の非修飾チロシン、トリプトファン、ヒスチジンおよびフェニルアラニン基の蛍光寄与だけによって弱い蛍光を呈するタンパク質を包含しない。固有の蛍光を持つタンパク質は、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP、Heim et al.1994,1996)、CFPとして公知のシアン蛍光変異体(Heim et al.1996;Tsien 1998)、YFPとして公知の黄色蛍光変異体(Ormo et al.1996;Wachter et al.1998)、サファイア(Sapphire)として公知のバイオレット励起(violet-excitable)緑色蛍光変異体(Tsien 1998;Zapata-Hommer et al.2003)および高感度緑色蛍光タンパク質またはEGFPとして公知のシアン励起(cyan-excitable)緑色蛍光性変異体(Yang et al.1996)など、当技術分野において公知であり、例えば生細胞イメージング(例:Incucyte)または蛍光分光測光法などによって測定することができる。
本明細書において使用する用語「組換えヒト抗体」は、NS0細胞またはCHO細胞などの宿主から単離される抗体、またはヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックな動物(例:マウス)から単離される抗体、または宿主細胞にトランスフェクトされた組換え発現ベクターを使って発現された抗体など、組換え手段によって調製され、発現され、作出されまたは単離される、あらゆるヒト抗体を包含するものとする。そのような組換えヒト抗体は、再編成された形態の可変領域および定常領域を有する。本発明の組換えヒト抗体はインビボ体細胞超変異を受けている。したがって、組換え抗体のVH領域およびVL領域のアミノ酸配列は、ヒト生殖系列VH配列およびVL配列に由来するものの、インビボでヒト抗体生殖系列レパートリー内に自然には存在しないこともありうる配列である。
本明細書にいう「レポーター遺伝子」は、その発現をアッセイすることができる遺伝子を意味する。好ましい一態様において、「レポーター遺伝子」は、その生産と検出が被験抗体または被験リガンドの活性を間接的に検出するための代用物として使用されるタンパク質をコードする遺伝子である。レポータータンパク質は、レポーター遺伝子によってコードされるタンパク質である。好ましくは、最小限の試料調製で済む簡単で迅速なアッセイ法においてレポーター遺伝子発現を検出することができるように、レポーター遺伝子は、簡単なアッセイ法によって検出することができる触媒活性を持つ酵素、または固有の蛍光もしくはルミネセンスなどの特性を持つタンパク質をコードする。検出することができる触媒活性を持つ酵素の非限定的な例は、ルシフェラーゼ、ベータガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼである。ルシフェラーゼは61kDaの分子量(MW)を持つ単量体型酵素である。これは触媒として作用し、アデノシン三リン酸(ATP)およびMg2+の存在下でD-ルシフェリンをルシフェリルアデニレートに変換することができる。加えて、ピロリン酸(PPi)およびアデノシン一リン酸(AMP)が副産物として生成する。次に、中間体ルシフェリルアデニレートがオキシルシフェリン、二酸化炭素(CO2)および光に酸化される。オキシルシフェリンは、反応から放出された光によってルミノメーターで定量的に測定することができる生物発光生成物である。ルシフェラーゼレポーターアッセイ法は、例えばルシフェラーゼ1000アッセイシステム(Luciferase 1000 Assay System)およびONE-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム(Luciferase Assay System)など、市販されていて、当技術分野において公知である。
本明細書にいう「可逆的に隠す」とは、例えば抗原結合部分または抗原結合分子がその抗原、例えばCD3に結合するのを防止するための、抗原結合部分または抗原結合分子へのマスキング部分またはイディオタイプ特異的ポリペプチドの結合を指す。イディオタイプ特異的ポリペプチドは、例えばプロテアーゼ切断によって抗原結合部分または抗原結合分子から放出させることができ、それによって抗原結合部分または抗原結合分子はその抗原に自由に結合できるようになるので、この隠蔽は可逆的である。
本明細書において使用する用語「単鎖」は、ペプチド結合によって直線的に連結されたアミノ酸単量体を含む分子を指す。一定の態様において、抗原結合部分のうちの1つは単鎖Fab分子、すなわちFab軽鎖とFab重鎖とが単一のペプチド鎖を形成するようにペプチドリンカーによってつながれているFab分子である。そのような一特定態様では、Fab軽鎖のC末端が、単鎖Fab分子中のFab重鎖のN末端につながれている。
本明細書にいう「T細胞活性化」は、増殖、分化、サイトカイン分泌、細胞傷害性エフェクター分子放出、細胞傷害活性および活性化マーカーの発現から選択される、Tリンパ球の、特に細胞傷害性Tリンパ球の、1つまたは複数の細胞応答を指す。本明細書に記載の二重特異性抗体分子のいくつかは、T細胞活性化を誘導する能力を有する。T細胞活性化を測定するための適切なアッセイ法は、当技術分野において公知であり、本明細書にも記載する。
本明細書にいう「標的細胞抗原」は、標的細胞、例えばがん細胞または腫瘍間質の細胞などといった腫瘍中の細胞の表面に存在する抗原決定基を指す。
本明細書にいう「標的抗原」は、抗体またはそのフラグメントの標的になりうる任意の細胞表面抗原を指す。これはリガンドの標的となりうる受容体も指す。
「応答エレメント」とは、一定の転写因子が結合したときに活性化またはサイレンシングされうる、特異的転写因子結合エレメントまたはシス作用性エレメントを指す。一態様において、応答エレメントは、転写因子結合時にレポーター遺伝子の発現を駆動する最小プロモーター(例:TATAボックスプロモーター)の上流に位置するシス作用性エンハンサーエレメントである。
本明細書にいう「シグナル伝達細胞表面受容体」は、細胞外シグナル、例えばシグナル伝達細胞表面受容体への抗原結合部分の結合を、レポーター遺伝子の発現をもたらす細胞内シグナリングカスケードに伝達する能力を有する、本明細書に記載のレポーター細胞の表面に局在する細胞表面受容体である。シグナル伝達細胞表面受容体の非限定的な例は、Toll様受容体、TNF受容体、T細胞受容体およびB細胞受容体、またはそれらの組換えバージョンもしくはフラグメントである。
本明細書にいう「処置」(およびその文法上の異形、例えば「処置する」または「処置すること」など)は、処置される個体の自然の過程を変化させようとする臨床的介入を指し、これは、予防のために行うか、または臨床的病変の経過中に行うことができる。処置の望ましい効果としては、疾患の発生または再発を防止すること、症状の緩和、疾患の何らかの直接的または間接的な病理学的帰結の縮減、転移の防止、疾患進行速度を減じること、疾患状態の改善または一時的軽減、および寛解または予後の改善が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。
本明細書において使用する用語「価」は、指定した数の結合部位が抗体分子中に存在することを表す。したがって「二価」、「四価」および「六価」という用語は、抗体分子中にそれぞれ2つの結合部位、4つの結合部位および6つの結合部位が存在することを表す。本発明の二重特異性抗体は少なくとも「二価」であり、「三価」または「多価」(例えば「四価」または「六価」)であることもできる。
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、抗原に対する抗体の結合に関与する抗体重鎖または抗体軽鎖のドメインを指す。天然抗体の重鎖および軽鎖の可変ドメイン(それぞれVHおよびVL)は一般に類似する構造を有し、各ドメインは4つの保存されたフレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)とを含んでいる。(例えばKindt et al.Kuby Immunology,6th ed.,W.H.Freeman and Co.,91頁(2007)参照)。単一のVHドメインまたはVLドメインでも、抗原結合特異性を付与するには十分でありうる。さらにまた、特定の抗原に結合する抗体は、その抗原に結合する抗体からのVHドメインまたはVLドメインを使ってそれぞれ相補的なVLドメインまたはVHドメインのライブラリーをスクリーニングすることによって、単離することができる。例えばPortolano et al.,J.Immunol.150:880-887(1993)、Clarkson et al.,Nature 352:624-628(1991)参照。
本明細書において使用する用語「ベクター」は、それが連結されたもう1つの核酸を増殖させる能力を有する核酸分子を指す。この用語は、自己複製核酸構造としてのベクターも、それが導入された宿主細胞のゲノムに組み込まれているベクターも包含する。一定のベクターは、それらが機能的に連結された核酸の発現を指示する能力を有する。そのようなベクターを本明細書では「発現ベクター」という。
本発明において使用する抗体は2つ以上の結合部位を有し、二重特異性である。すなわち、抗体は、3つ以上の結合部位がある(すなわちその抗体が三価または多価である)場合でも、二重特異性でありうる。本発明の二重特異性抗体として、例えば、多価単鎖抗体、ダイアボディおよびトリアボディ、ならびに完全長抗体の定常ドメイン構造を有し、そこにさらなる抗原結合部位(例:単鎖Fv、VHドメインおよび/またはVLドメイン、Fabまたは(Fab)2))が1つまたは複数のペプチドリンカーを介して連結されている抗体が挙げられる。抗体は、単一種からの完全長抗体であるか、キメラ化またはヒト化抗体であることができる。
II.新規アッセイ法
本発明者は、腫瘍における抗原発現の決定および/または腫瘍細胞、特に原発腫瘍試料中の腫瘍細胞における、二重特異性抗体の機能的活性の決定を可能にするハイスループットフォーマットに適したロバストなアッセイ法を開発した。抗体の機能性(例:細胞応答を引き出す抗体の能力などといった抗体の生物学的活性)は、応答エレメントが活性化されたときに発現されるレポーター遺伝子を有するレポーター細胞株を使うことによって評価される。一定の態様において、レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質(例:緑色蛍光タンパク質、GFP)をコードする遺伝子および/または検出可能な触媒活性を持つ酵素(例:ルシフェラーゼ)をコードする遺伝子から選択される。ここでは、腫瘍試料における標的抗原の存在および/またはプロテアーゼ発現を決定するための方法、ならびに増殖性疾患、特にがんを処置するための、二重特異性抗体の選択方法およびプロテアーゼ切断可能リンカーの選択方法が、さらに提供される。
一態様では、腫瘍試料における標的抗原の存在を決定するためのインビトロ法であって、
(i)腫瘍試料を提供する工程;
(ii)シグナル伝達細胞表面受容体の制御を受けるレポーター遺伝子を含むレポーター細胞を提供する工程;
(iii)腫瘍試料に、
(a)標的抗原に特異的に結合することができる第1抗原結合部分と
(b)シグナル伝達細胞表面受容体に特異的に結合することができる第2抗原結合部分と
を含む二重特異性抗体を加える工程;
(iv)腫瘍試料にレポーター細胞を加える工程;および
(v)レポーター遺伝子の発現を決定することによって標的抗原の存在を決定する工程
を含む、前記方法が提供される。
標的抗原は腫瘍細胞によって発現される抗原であることができ、通常は腫瘍細胞の細胞表面に位置する。一態様において、標的抗原は腫瘍細胞によって発現される。一態様において、腫瘍細胞は標的抗原を自然に発現する。一態様において、標的抗原は腫瘍細胞の表面に位置する。一態様において、標的抗原は細胞表面受容体である。したがって二重特異性抗体は腫瘍細胞の細胞表面にある標的抗原に結合する。一態様において、標的抗原は、CEA、Her2、TYRP、EGFR、MCSP、STEAP1、WT1およびFolR1からなる群より選択される。一態様において、標的抗原はFolR1である。
ただし、標的抗原は細胞表面に位置するタンパク質に限定されず、一時的または永続的に細胞内に位置するポリペプチドまたはタンパク質に由来してもよい。そのような場合、細胞内ポリペプチドまたは細胞内タンパク質に由来する標的抗原は、細胞表面に、特に腫瘍細胞の細胞表面に、提示される。一態様において、標的抗原は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の分子に結合したペプチドである。一態様において、MHCはヒトMHCである。一態様において、MHCの分子に結合したペプチドは、8〜100アミノ酸、好ましくは8〜30アミノ酸、より好ましくは8〜16アミノ酸の全長を有する。一態様において、標的抗原は、もっぱらまたは主として腫瘍組織において発現するタンパク質に由来する。一態様において、タンパク質は細胞内タンパク質であり、ペプチドはMHC-I経路またはMHC-II経路によって生成し、MHCクラスI複合体またはMHCクラスII複合体によって提示される。一態様において、ペプチドはMHC-I経路によって生成し、MHCクラスI複合体によって提示される。
一態様において、腫瘍細胞は哺乳動物細胞、好ましくはヒト細胞または霊長類細胞である。一態様において、腫瘍細胞は腫瘍試料に由来し、特に患者からの生検材料に由来する。一態様において、腫瘍試料はヒト患者からの生検材料である。一態様において、腫瘍細胞は標的抗原決定基を帯びている。一態様において、腫瘍細胞は、増殖性障害、特にがんを患っている患者に由来する。がんの非限定的な例として、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、血液がん、皮膚がん、扁平上皮癌、骨がんおよび腎がんが挙げられる。一態様において、腫瘍細胞はヒト患者の生検材料に由来する。一態様において、腫瘍試料はヒト患者の生検材料である。腫瘍試料は、腫瘍試料または腫瘍組織を単一細胞に解離することなく評価することができる。一態様において、腫瘍試料は、本発明の方法に従って標的抗原の存在を決定する前に、消化されない。一態様において、腫瘍試料は、特にカミソリの刃を使って、切断される。別の一態様において、腫瘍試料は、本発明の方法に従って標的抗原の存在を決定する前に、消化される。一態様において、腫瘍試料は、特にコラゲナーゼまたはヒアルロニダーゼによって、消化される。
第1抗原結合部分と標的抗原との結合時にまたはその後に、二重特異性抗体は、レポーター細胞上のシグナル伝達細胞表面受容体に結合し、そのレポーター細胞では応答エレメントがレポーター遺伝子の発現を活性化する。したがってレポーター細胞中のレポーター遺伝子は、標的抗原に第1抗原結合部分が結合しかつレポーター細胞にシグナル伝達細胞表面受容体が結合したときに発現される。一態様において、レポーター遺伝子の発現は、第1抗原結合部分と標的抗原との結合を示す。驚いたことに、第1抗原結合部分と腫瘍細胞上の標的抗原との結合がなければ、レポーター遺伝子の発現は起こらないか、または極めて低レベルの発現しか起こらない。標的抗原への二重特異性抗体の結合は定性的に、すなわちレポーター遺伝子の発現の有無によって、決定することができ、蛍光またはルミネセンスが何もないことは、結合がないことを示す。通常、レポーター遺伝子発現の非存在は、一定のしきい値によって、すなわちあらゆる背景シグナルを差し引いた後に規定される。背景シグナルは通常、被験抗体を除くすべての試薬を使って、または腫瘍細胞の非存在下で、アッセイ法を行うことによって決定される。さらなる態様において、標的抗原への抗体またはリガンドの結合は定量的に決定することができる。すなわち、本発明の方法に従って結合のレベルまたは強さを決定することができる。そのために、抗体は異なる濃度で試験され、50%有効濃度(half maximal effective concentration)(EC50)が決定される。EC50とは、指定された曝露時間後に抗体がベースラインと最大値の中間点まで結合するときの抗体またはリガンドの濃度を指す。それゆえに、用量応答曲線のEC50は、抗体の最大結合の50%が観察される抗体濃度を表す。KD(解離定数)は、当技術分野において公知の方法により、用量応答曲線から算出することができる。
一態様において、二重特異性抗体はシグナル伝達細胞表面受容体に結合する。シグナル伝達細胞表面受容体への抗体の結合は細胞応答を引き出し、それが、直接的に、または細胞シグナリングのカスケードを介して、応答エレメントの活性の調整をもたらす。応答エレメントは、転写因子などによるサイレンシングまたは活性化を受けうるDNAエレメントである。応答エレメントは当技術分野において公知であり、例えばレポーターベクターなどに入れて市販されている。通常、応答エレメントはDNAリピートエレメントを含み、転写因子結合時にレポーター遺伝子の発現を駆動する最小プロモーターの上流に位置するシス作用性エンハンサーエレメントである。ここで有用な応答エレメントとそれらの転写因子の例を、以下の表に挙げる。
シグナル伝達細胞表面受容体への二重特異性抗体の結合は応答エレメントを活性化する。一態様において、応答エレメントは、細胞の核内に位置する核応答エレメントである。別の一態様において、応答エレメントはレポーター細胞中のプラスミド上に位置する。一態様において、本アッセイ法は、応答エレメントの制御を受けるレポーター遺伝子をコードするDNA配列を含む発現ベクターによるレポーター細胞のトランスフェクションという予備工程を含む。加えて、レポーター細胞には、シグナル伝達細胞表面受容体をコードするDNA配列を含む発現ベクターもトランスフェクトすることができる。レポーター細胞には、シグナリングカスケードのすべての要素を含む発現ベクターをトランスフェクトするか、異なる構成要素を個別に発現する異なるベクターをトランスフェクトすることができる。一態様において、レポーター細胞は、応答エレメントの制御を受けるレポーター遺伝子をコードするDNA配列と、シグナル伝達細胞表面受容体をコードするDNA配列とを含む。
一態様において、レポーター遺伝子は、蛍光タンパク質をコードする遺伝子または検出することができる触媒活性を持つ酵素をコードする遺伝子から選択される。一態様において、レポーター遺伝子は蛍光タンパク質または発光タンパク質をコードしている。一態様において、レポーター遺伝子は緑色蛍光タンパク質(GFP)またはルシフェラーゼをコードしている。さらなる態様において、蛍光タンパク質は、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、赤色蛍光タンパク質(RFP)、青色蛍光タンパク質(BFP、Heim et al.1994,1996)、CFPとして公知のシアン蛍光変異体(Heim et al.1996;Tsien 1998)、YFPとして公知の黄色蛍光変異体(Ormo et al.1996;Wachter et al.1998)、サファイア(Sapphire)として公知のバイオレット励起(violet-excitable)緑色蛍光変異体(Tsien 1998;Zapata-Hommer et al.2003)および高感度緑色蛍光タンパク質またはEGFPとして公知のシアン励起緑色蛍光性変異体(Yang et al.1996)、高感度緑色蛍光タンパク質(EGFP)からなる群より選択され、例えば生細胞イメージング(例:Incucyte)または蛍光分光測光法などによって測定することができる。一態様において、検出することができる触媒活性を持つ酵素は、ルシフェラーゼ、ベータガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼからなる群より選択される。一態様において、レポーター遺伝子はGFPをコードしている。一態様において、レポーター遺伝子はルシフェラーゼをコードしている。ルシフェラーゼの活性は、市販のアッセイ法によって、例えばルシフェラーゼ1000アッセイシステムまたはONE-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステム(どちらもPromega)などによって、検出することができる。ルシフェラーゼ1000アッセイシステムには、基質としてのルシフェリンの他に、補酵素A(CoA)が含まれており、それが少なくとも1分間は持続する強い光強度をもたらす。細胞内ルシフェラーゼをアッセイするには、検出に先だって細胞を溶解する必要がある。それゆえに、ルシフェラーゼ1000アッセイシステムには別途、細胞溶解緩衝液を提供した。これに対して、ONE-Glo(商標)ルシフェラーゼアッセイシステムは、ルシフェラーゼ基質を細胞溶解試薬と組み合わせており、より安定なシグナルも示す。反応の副産物として生じる光を全可視スペクトルからルミノメーターによって集める。本明細書に示す実施例では、シグナルが生産されたルシフェラーゼの量に比例し、それゆえにNFκBプロモーターの活性化の強さに比例した。別の一態様では、ルシフェラーゼが細胞から分泌される場合に、ルシフェラーゼアッセイ法が使用される。したがって、アッセイ法は細胞の溶解を行わずに行うことができる。
したがって、本明細書に記載するとおり、シグナル伝達細胞表面受容体は応答エレメントに機能的に連結されている。一態様において、応答エレメントはレポーター遺伝子の発現を制御する。一態様において、シグナル伝達細胞表面受容体および応答エレメントはNF-κB経路の一部である。一態様において、シグナル伝達細胞表面受容体は、Toll様受容体、TNF受容体、T細胞受容体およびB細胞受容体、ならびにそれらの組換え型およびフラグメントから選択される。抗体であって、その標的に結合した場合にNF-κB活性の調整をもたらす抗体の非限定的な例は、抗CD3抗体、抗CD40抗体、抗DR5抗体、抗DR4抗体、抗41BB抗体、抗Ox40抗体および抗GITR抗体である。
一態様において、応答エレメントはNF-κB応答エレメントである。一態様において、応答エレメントは、1つまたは複数の以下のDNAリピートを含む:
一態様において、応答エレメントは、3〜6つ、3つまたは6つの上記DNAリピートを含む。一態様において、応答エレメントは、3〜6つ、3つまたは6つの上記DNAリピートと、1、2、3または4つの追加ヌクレオチドとを含む。
一態様において、応答エレメントは、
のDNA配列を含む。
一態様において、レポーター細胞は、SEQ ID NO:68、69、70、71または72のDNA配列を持つ少なくとも1つのDNAリピートを含み、DNAリピートはレポーター遺伝子に機能的に連結されており、第2抗原結合部分がシグナル伝達細胞表面受容体に結合すると、レポーター遺伝子が発現する。
一態様において、工程(iii)および(iv)は逐次的にまたは同時に行われる。
本明細書に記載するとおり、レポーター遺伝子の発現は、被験抗体の機能性と正に相関させることができる。例えば蛍光タンパク質をコードする遺伝子またはルシフェラーゼをコードする遺伝子をレポーター遺伝子として使用する場合、細胞から検出される光の量は、被験抗体の標的抗原結合と正に相関する。一態様では、抗体が異なる濃度で試験され、レポーター遺伝子の活性化または阻害の50%有効濃度(EC50)が決定される。EC50とは、指定された曝露時間後に抗体またはリガンドがベースラインと最大値の中間点までレポーター遺伝子を活性化または阻害する抗体またはリガンドの濃度を指す。用量応答曲線のEC50は、標的抗原に対するその最大活性化効果または最大阻害効果の50%が観察される抗体濃度を表す。
本明細書に記載の新規アッセイ法はロバストであり、ハイスループットフォーマットでの使用に適し、アッセイ法を遂行するのに必要な実作業時間の点から効率がよい。さらにまた、本発明のアッセイ法は、分析対象試料における死細胞の存在を許容する。これは、抗体の結合および機能性が細胞の生存または細胞死を測定することによって決定される細胞アッセイ法、例えばキリングアッセイ法とは対称的である。
一態様において、アッセイ対象試料は死細胞を含有する。一態様において、アッセイ対象試料は腫瘍試料、特に腫瘍の生検材料である。一態様において、腫瘍試料は死細胞を、特に10%超の死細胞を含有する。さらなる態様において、腫瘍試料は20%超、30%超、40%超または50%超の死細胞を含有する。細胞培養または組織中の死細胞数を決定するための、例えばヨウ化プロピジウム染色のような方法は、当技術分野において周知である。
本明細書に記載する新規アッセイ法のさらにもう1つの利点は、洗浄工程が必要ないことである。被験抗体とレポーター細胞は、どちらを先に腫瘍試料に加えてもよく、同時に加えてもよい。一態様では、適切な細胞培養フォーマットで、例えば24ウェルプレートのウェルで、または96ウェルプレートのウェルで、抗体を細胞培養培地に希釈し、希釈された抗体が入っているその細胞培養培地に腫瘍試料を加える。好ましくは、試験培地は、細胞が48時間までは生存可能である条件を与える培地である。適切な培地は、例えば、実施例で概説するJurkat培地である。一態様において、アッセイ法はマイクロタイタープレートで行われる。一態様において、マイクロタイタープレートはハイスループットスクリーニングに適している。本発明のアッセイ法は、複数の反応の迅速な調製、加工および分析を可能にする任意のフォーマットで行うことができる。これは、例えばマルチウェルアッセイプレート(例:24ウェル、96ウェルまたは386ウェル)で行うことができる。さまざまな薬剤の保存溶液は手作業でまたはロボットで作成することができ、その後のピペッティング、希釈、混合、分配、洗浄、インキュベーション、試料読出し、データの収集および分析は、市販の分析ソフトウェア、ロボット工学ならびに蛍光シグナルおよび/または発光シグナルを検出することができる検出計器を使って、ロボットで行うことができる。
一態様では、工程(ii)において、24ウェルプレートの1ウェルにつき約100000〜約1000000個のレポーター細胞が提供される。好ましい一態様では、24ウェルプレートの1ウェルにつき約300000〜約700000個または約400000〜約600000個のレポーター細胞が提供される。一態様では、工程(ii)において、24ウェルプレートの1ウェルにつき約500000個のレポーター細胞が提供される。一態様では、工程(ii)において、96ウェルプレートの1ウェルにつき約10000〜約100000個の細胞が提供される。好ましい一態様では、96ウェルプレートの1ウェルにつき約30000〜約70000個または約40000〜約60000個の細胞が提供される。一態様では、工程(ii)において、96ウェルプレートの1ウェルにつき約50000個のレポーター細胞が提供される。一態様では、工程(ii)において、細胞培養培地1mlにつき約200000〜約2000000個の細胞が提供される。好ましい一態様では、細胞培養培地1mlにつき約600000〜約1400000個または約800000〜約1200000個の細胞が提供される。一態様では、工程(ii)において、細胞培養培地1mlにつき約1000000個の細胞が提供される。
一態様では、工程(iii)において、約0.001μg/ml〜10μg/mlの最終濃度が達成されるように抗体が提供される。さらなる態様では、工程(iii)において、約0.05μg/ml〜約2μg/mlまたは約0.1μg/ml〜約1μg/mlの最終濃度が達成されるように抗体が提供される。さらなる態様では、工程(iii)において、約0.5μg/mlの最終濃度が達成されるように抗体が提供される。一態様では、工程(iii)において、約1nM〜約1000nMの最終濃度が達成されるように抗体が提供される。さらなる態様では、工程(iii)において、約5nM〜約200nMまたは約10nM〜約100nMの最終濃度が達成されるように抗体が提供される。さらなる態様では、工程(iii)において、約50nMの最終濃度が達成されるように抗体が提供される。抗体は、細胞培養培地に、例えば実施例の項で述べるようにJurkat培地に、希釈することができる。本明細書に記載の最終濃度に希釈された抗体は、レポーター細胞の添加前または添加後に、腫瘍試料に加えられる。一態様において、本明細書に記載の最終濃度に希釈された抗体は、レポーター細胞の添加前に、腫瘍試料に加えられる。一態様において、腫瘍試料は細胞培養インサートに提供される。一態様において、腫瘍試料はMatrigelに包埋される。
一定の態様において、本発明の二重特異性分子はCD3に結合する。具体的一態様において、二重特異性抗体は
(a)標的細胞抗原に特異的に結合することができるFab分子である第1抗原結合部分、
(b)CD3に特異的に結合することができるFab分子である第2抗原結合部分
を含む。
具体的一態様において、二重特異性抗体は
(a)標的細胞抗原に特異的に結合することができるFab分子である第1抗原結合部分、
(b)SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:13からなる群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)ならびにSEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19の群より選択される少なくとも1つの軽鎖CDRを含む、CD3に特異的に結合することができるFab分子である第2抗原結合部分
を含む。
一態様において、標的抗原は細胞表面受容体である。一態様において、標的抗原は、CEA、Her2、TYRP、EGFR、MCSP、STEAP1、WT1およびFolR1からなる群より選択される。一態様において、標的抗原はFolR1である。一態様において、二重特異性抗体は、
(a)SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15およびSEQ ID NO:16からなる群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)ならびにSEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:19の群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRを含む、FolR1に特異的に結合することができるFab分子である第1抗原結合部分、
(b)SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:13からなる群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)ならびにSEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19の群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRを含む、CD3に特異的に結合することができるFab分子である第2抗原結合部分
を含む。
一態様において、二重特異性抗体は、
(a)SEQ ID NO:27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、SEQ ID NO:28のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、FolR1に特異的に結合することができるFab分子である第2抗原結合部分、および
(b)SEQ ID NO:26のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、SEQ ID NO:28のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む、CD3に特異的に結合することができるFab分子である第1抗原結合部分
を含む。
いくつかの態様において、二重特異性抗体は、安定に会合する能力を有する第1サブユニットと第2サブユニットから構成されるFcドメインを含む。いくつかの態様において、第1抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1サブユニットまたは第2サブユニットのN末端に融合される。
そのような一態様において、第2抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、第1抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。そのような具体的一態様において、二重特異性抗体は、本質的に、第1抗原結合部分、第2抗原結合部分、第1サブユニットおよび第2サブユニットから構成されるFcドメイン、ならびに任意で1つまたは複数のペプチドリンカーからなり、第2抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、第1抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第1抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1サブユニットまたは第2サブユニットのN末端に融合されている。一態様において、第2抗原結合部分のFab軽鎖と第1抗原結合部分のFab軽鎖はさらに、任意でペプチドリンカーを介して、互いに融合されていてもよい。
別の一態様において、第2抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1サブユニットまたは第2サブユニットのN末端に融合される。そのような具体的一態様において、二重特異性抗体は、本質的に、第1抗原結合部分、第2抗原結合部分、第1サブユニットおよび第2サブユニットで構成されるFcドメイン、ならびに任意で1つまたは複数のペプチドリンカーからなり、第1抗原結合部分および第2抗原結合部分は、それぞれ、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインのサブユニットのうちの一方のN末端に融合されている。
別の態様において、第2抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1サブユニットまたは第2サブユニットのN末端に融合される。そのような特定一態様において、第1抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、第2抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合される。そのような具体的一態様において、二重特異性抗体は、本質的に、第1抗原結合部分、第2抗原結合部分、第1サブユニットおよび第2サブユニットから構成されるFcドメイン、ならびに任意で1つまたは複数のペプチドリンカーからなり、第1抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、第2抗原結合部分のFab重鎖のN末端に融合され、第2抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、Fcドメインの第1サブユニットまたは第2サブユニットのN末端に融合されている。任意で、第2抗原結合部分のFab軽鎖および第1抗原結合部分のFab軽鎖は、さらに、互いに融合されていてもよい。
一態様において、第1抗原結合部分および第2抗原結合部分は、共通軽鎖を含む従来型Fab分子である。一態様において、第2抗原結合部分は、Fab重鎖のC末端において、第1抗原結合部分のFab重鎖のN末端に、任意でペプチドリンカーを介して、融合される。一態様において、第1抗原結合部分のFab軽鎖と第2抗原結合部分のFab軽鎖は互いに、任意でペプチドリンカーを介して、融合される。
抗原結合部分は、直接的に、または1つもしくは複数のアミノ酸、典型的には約2〜20個のアミノ酸を含むペプチドリンカーを介して、Fcドメインに、または互いに、融合することができる。ペプチドリンカーは当技術分野において公知であり、本明細書にも記載する。適切な非免疫原性ペプチドリンカーとして、例えば(G4S)n、(SG4)n、(G4S)nまたはG4(SG4)nペプチドリンカーが挙げられ、「n」は一般的には数字1〜10、典型的には2〜4である。第1抗原結合部分および第2抗原結合部分のFab軽鎖を互いに融合するための特に適切なペプチドリンカーは(G4S)2である。加えて、リンカーは免疫グロブリンヒンジ領域(の一部分)を含みうる。特に、抗原結合部分がFcドメインサブユニットのN末端に融合される場合は、それを、免疫グロブリンヒンジ領域またはその一部分を介して、追加のペプチドリンカーありまたはなしで、融合することができる。
標的細胞抗原に特異的に結合することができる単一の抗原結合部分を持つ二重特異性抗体は有用であり、高アフィニティー抗原結合部分の結合に続いて、標的細胞抗原の内部移行が予想される場合は特にそうである。そのような場合、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分の存在は、標的細胞抗原の内部移行を強化し、それによってその利用可能性を低減しうる。
しかし他の多くの場合、例えば標的部位へのターゲティングを最適化するなどの目的で、標的細胞抗原に特異的な2つ以上の抗原結合部分を含む二重特異性抗体があれば、有利であるだろう。
したがって一定の態様において、本発明に従って使用される二重特異性抗体は、標的細胞抗原に特異的に結合することができる第3抗原結合部分を、さらに含む。さらなる態様において、第3抗原結合部分は従来型Fab分子であるか、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域または定常領域のどちらか一方が交換されたクロスオーバーFab分子である。一態様において、第3抗原結合部分は、第1抗原結合部分と同じ標的細胞抗原に特異的に結合することができる。一特定態様において、第2抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができ、第1抗原結合部分および第3抗原結合部分は標的細胞抗原に特異的に結合することができる。一特定態様において、第1抗原結合部分と第3抗原結合部分は同一である(すなわちそれらは同じアミノ酸配列を含む)。
一特定態様において、第2抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができ、第1抗原結合部分および第3抗原結合部分はFolR1に特異的に結合することができ、第1抗原結合部分および第3抗原結合部分は、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15およびSEQ ID NO:16からなる群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:19の群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
一特定態様において、第2抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができ、SEQ ID NO:11、SEQ ID NO:12およびSEQ ID NO:13からなる群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18、SEQ ID NO:19の群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含み、第1抗原結合部分および第3抗原結合部分はFolR1に特異的に結合することができ、第1抗原結合部分および第3抗原結合部分は、SEQ ID NO:14、SEQ ID NO:15およびSEQ ID NO:16からなる群より選択される少なくとも1つの重鎖相補性決定領域(CDR)と、SEQ ID NO:17、SEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:19の群から選択される少なくとも1つの軽鎖CDRとを含む。
一特定態様において、CD3に特異的に結合することができるFab分子である第2抗原結合部分は、SEQ ID NO:11の重鎖相補性決定領域(CDR)1、SEQ ID NO:12の重鎖CDR2、SEQ ID NO:13の重鎖CDR3、SEQ ID NO:17の軽鎖CDR1、SEQ ID NO:18の軽鎖CDR2およびSEQ ID NO:19の軽鎖CDR3を含み、第1抗原結合部分は、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域または定常領域のどちらか一方、特に定常領域が交換されたクロスオーバーFab分子であり、かつそれぞれFolR1に特異的に結合することができるFab分子である第1抗原結合部分および第3抗原結合部分は、SEQ ID NO:14の重鎖CDR1、SEQ ID NO:15の重鎖CDR2、SEQ ID NO:16の重鎖CDR3、SEQ ID NO:17の軽鎖CDR1、SEQ ID NO:18の軽鎖CDR2およびSEQ ID NO:19の軽鎖CDR3を含む。
一特定態様において、第2抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができ、SEQ ID NO:26のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、SEQ ID NO:28のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含み、第1抗原結合部分および第3抗原結合部分はFolR1に特異的に結合することができ、第2抗原結合部分および第3抗原結合部分は、SEQ ID NO:27のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域と、SEQ ID NO:28のアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域とを含む。
本発明に従って使用される二重特異性抗体のFcドメインは、免疫グロブリン分子の重鎖ドメインを含む一対のポリペプチド鎖からなる。例えば免疫グロブリンG(IgG)分子のFcドメインは二量体であり、その各サブユニットはCH2およびCH3 IgG重鎖定常ドメインを含む。Fcドメインの2つのサブユニットは互いに安定に会合する能力を有する。一態様において、本発明に従って使用される二重特異性抗体は、2つ以上のFcドメインを含まない。
一態様において、二重特異性抗体のFcドメインはIgG Fcドメインである。一態様において、FcドメインはIgG1またはIgG4のFcドメインである。一特定態様において、FcドメインはIgG1 Fcドメインである。別の一態様において、FcドメインはIgG4 Fcドメインである。さらに具体的な一態様において、Fcドメインは、位置S228(Kabatナンバリング)にアミノ酸置換(特にアミノ酸置換S228P)を含む、IgG4 Fcドメインである。このアミノ酸置換は、IgG4抗体のインビボFabアーム交換を低減する(Stubenrauch et al.,Drug Metabolism and Disposition 38,84-91(2010)参照)。さらなる一態様において、FcドメインはヒトFcドメインである。
本発明に従って使用される二重特異性抗体は、Fcドメインの2つのサブユニットのうちの一方または他方に融合された異なる抗原結合部位を含むので、Fcドメインの2つのサブユニットは、典型的には、2つの同一でないポリペプチド鎖に含まれる。これらのポリペプチドの組換え共発現とそれに続く二量体化は、2つのポリペプチドの、いくつかの考えうる組合せにつながる。そこで、組換え生産における二重特異性抗体の収量および純度を改良するために、二重特異性抗体のFcドメインに、所望のポリペプチドの会合を促進する修飾を導入すれば有利であるだろう。
したがって、特定の態様において、本発明に従って使用される二重特異性抗体のFcドメインは、Fcドメインの第1サブユニットと第2サブユニットの会合を促進する修飾を含む。ヒトIgG Fcドメインの2つのサブユニット間の最も大規模なタンパク質-タンパク質相互作用の部位は、FcドメインのCH3ドメインにある。したがって、一態様において、該修飾はFcドメインのCH3ドメインにある。
具体的一態様において、該修飾は、Fcドメインの2つのサブユニットのうちの一方に「ノブ」修飾を含み、Fcドメインの2つのサブユニットのうちの他方に「ホール」修飾を含むいわゆる「ノブ・イントゥ・ホール(knob-into-hole)」修飾である。
ノブ・イントゥ・ホール技術は、例えばUS5,731,168、US7,695,936、Ridgway et al.,Prot Eng 9,617-621(1996)およびCarter,J Immunol Meth 248,7-15(2001)に記載されている。一般にこの方法では、ヘテロ二量体形成を促進し、ホモ二量体形成を妨害するために、突起(「ノブ」)がくぼみ(「ホール」)内に位置できるような形で、第1ポリペプチドの境界面に突起を導入し、第2ポリペプチドの境界面に対応するくぼみを導入する。突起は、第1ポリペプチドの境界面にある小さなアミノ酸側鎖を、それより大きな側鎖(例:チロシンまたはトリプトファン)で置き換えることによって構築される。突起と同一または類似するサイズの補償的くぼみは、第2ポリペプチドの境界面において、大きなアミノ酸側鎖を、それより小さなもの(例:アラニンまたはスレオニン)で置き換えることによって作出される。
したがって一特定態様において、二重特異性抗体のFcドメインの第1サブユニットのCH3ドメインでは、あるアミノ酸残基が、それより大きな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられることで、第1サブユニットのCH3ドメイン内に、第2サブユニットのCH3ドメイ内のくぼみに配置されうる突起を生成しており、Fcドメインの第2サブユニットのCH3ドメインでは、あるアミノ酸残基が、それより小さな側鎖体積を有するアミノ酸残基で置き換えられることで、第2サブユニットのCH3ドメイン内に、第1サブユニットのCH3ドメイン内の突起がそこに配置されうるくぼみを生成している。
突起およびくぼみは、ポリペプチドをコードする核酸を例えば部位特異的変異導入で改変することによって、またはペプチド合成によって、作成することができる。具体的一態様において、Fcドメインの第1サブユニットのCH3ドメインでは、366番目のスレオニン残基がトリプトファン残基で置き換えられ(T366W)、Fcドメインの第2サブユニットのCH3ドメインでは、407番目のチロシン残基がバリン残基で置き換えられる(Y407V)。一態様において、Fcドメインの第2サブユニットでは、さらに366番目のスレオニン残基がセリン残基で置き換えられ(T366S)、368番目のロイシン残基がアラニン残基で置き換えられる(L368A)。さらにもう1つの態様において、Fcドメインの第1サブユニットではさらに、354番目のセリン残基がシステイン残基で置き換えられ(S354C)、Fcドメインの第2サブユニットではさらに、349番目のチロシン残基がシステイン残基で置き換えられる(Y349C)。これら2つのシステイン残基の導入はFcドメインの2つのサブユニット間でのジスルフィド架橋の形成をもたらして、二量体をさらに安定化する(Carter,J Immunol Methods 248,7-15(2001))。
一特定態様において、CD3に結合することができる抗原結合部分は(任意で標的細胞抗原に結合することができる抗原結合部分を介して)Fcドメインの第1サブユニット(「ノブ」修飾を含むもの)に融合される。
代替的一態様において、Fcドメインの第1サブユニットと第2サブユニットの会合を促進する修飾は、例えばPCT公開WO2009/089004に記載されているように、静電ステアリング効果(electrostatic steering effect)を媒介する修飾を含む。一般に、この方法では、2つのFcドメインサブユニットの境界面にある1つまたは複数のアミノ酸残基が、静電的にホモ二量体形成は不利になるが静電的にヘテロ二量体化は有利になるように、荷電アミノ酸残基で置き換えられる。
一態様において、工程(iii)の二重特異性抗体は、(c)プロテアーゼ切断可能リンカーを介して第2抗原結合部分に共有結合されたマスキング部分をさらに含み、マスキング部分は、第2抗原結合部分のイディオタイプに特異的に結合することができ、それによって第2抗原結合部分を可逆的に隠す。第2抗原結合部分はプロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼで切断された場合にのみ露出することになるので、そのようなコンストラクトを「プロテアーゼ活性化可能(protease activatable)」という。一態様において、プロテアーゼは腫瘍試料によって発現される。一態様において、プロテアーゼ切断可能リンカーを切断する能力を有するプロテアーゼは、メタロプロテイナーゼ、例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)1〜28およびディスインテグリンメタロプロテイナーゼ(ADAM)2、7〜12、15、17〜23、28〜30および33、セリンプロテアーゼ、例えばウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子およびマトリプターゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、およびカテプシンプロテアーゼからなる群より選択される。具体的一態様において、プロテアーゼはMMP9またはMMP2である。さらにもう1つの具体的態様において、プロテアーゼはマトリプターゼである。プロテアーゼの発現が悪性腫瘍を示すことは当技術分野において公知である。したがって一態様において、プロテアーゼ発現は悪性腫瘍を示す。一態様において、レポーター遺伝子は、腫瘍試料中の腫瘍細胞上の標的抗原に第1抗原結合部分が結合し、腫瘍細胞によって発現されたプロテアーゼがプロテアーゼ切断可能リンカーを切断し、続いてシグナル伝達細胞表面受容体に第2抗原結合部分が結合したときに、レポーター細胞によって発現される。リンカーが切断されると、第2抗原結合部分は顕わになってシグナル伝達細胞表面受容体に結合し、ここでレポーター遺伝子の発現が開始される。したがってレポーター遺伝子の発現は、腫瘍における標的抗原およびプロテアーゼ発現を示し、ここでプロテアーゼ発現は悪性腫瘍を示す。
一態様において、抗イディオタイプマスキング部分は第2抗原結合部分のイディオタイプに結合する。一態様において、抗イディオタイプマスキング部分は、特に表面プラズモン共鳴(SPR)で決定した場合に、約1nM〜約8nMのKDを有する。一態様において、抗イディオタイプマスクは、SPRで決定した場合に、37℃で約2nMのKDを有する。具体的一態様において、マスキング部分は、CD3(例えばヒトCD3)に特異的に結合することができる第2抗原結合部分のイディオタイプを認識する。具体的一態様において、マスキング部分は、標的抗原に結合することができる第2抗原結合部分のイディオタイプを認識する。
一態様において、第2抗原結合部分はCD3に特異的に結合することができる。CD3に特異的に結合することができる第2抗原結合部分は、イディオタイプを含む。一態様において、プロテアーゼ活性化可能T細胞活性化二重特異性分子のマスキング部分は、第2抗原結合部分に共有結合される。一態様において、マスキング部分は、第2抗原結合部分の重鎖可変領域に共有結合される。一態様において、マスキング部分は、第2抗原結合部分の軽鎖可変領域に共有結合される。この共有結合は、イディオタイプ第1抗原結合部位へのマスキング部分の(好ましくは非共有結合的である)特異的結合とは別である。第2結合部分のイディオタイプはその可変領域を含む。一態様において、マスキング部分は、第2抗原結合部分がCD3に結合したときにCD3と接触するアミノ酸残基に結合する。好ましい一態様において、マスキング部分は、第2抗原結合部分のコグネイト抗原またはそのフラグメントではない。すなわちマスキング部分はCD3またはそのフラグメントではない。一態様において、マスキング部分は、抗イディオタイプ抗体またはそのフラグメントである。一態様において、マスキング部分は抗イディオタイプscFvである。抗イディオタイプscFvであるマスキング部分およびそのようなマスキング部分を含むプロテアーゼ活性化可能T細胞活性化分子の例示的態様については、実施例で詳述する。
一態様において、マスキング部分はCD3結合部分をマスクし、SEQ ID NO:20の重鎖CDR1、SEQ ID NO:21の重鎖CDR2、SEQ ID NO:22の重鎖CDR3、SEQ ID NO:23の軽鎖CDR1、SEQ ID NO:24の軽鎖CDR2およびSEQ ID NO:25の軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む。一態様において、マスキング部分は、SEQ ID NO:20の重鎖CDR1、SEQ ID NO:21の重鎖CDR2、SEQ ID NO:22の重鎖CDR3、SEQ ID NO:23の軽鎖CDR1、SEQ ID NO:24の軽鎖CDR2およびSEQ ID NO:25の軽鎖CDR3を含む。
一態様において、イディオタイプ特異的ポリペプチドは抗イディオタイプscFvである。一態様において、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、リンカーを介して分子に共有結合される。一態様において、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、2つ以上のリンカーを介して分子に共有結合される。一態様において、イディオタイプ特異的ポリペプチドは、2つのリンカーを介して分子に共有結合される。一態様において、リンカーはペプチドリンカーである。一態様において、リンカーはプロテアーゼ切断可能リンカーである。一態様において、プロテアーゼ切断可能リンカーはSEQ ID NO:30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43または44の配列を含む。一態様において、プロテアーゼ切断可能リンカーは、少なくとも1つのプロテアーゼ認識部位を含む。
一態様において、プロテアーゼ認識部位は、SEQ ID NO:45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58または59のポリペプチド配列を含む。
一態様において、プロテアーゼ切断可能リンカーはプロテアーゼ認識配列を含む。一態様において、プロテアーゼ認識配列は、
からなる群より選択され、ここでXは任意のアミノ酸である。
一態様において、プロテアーゼは、メタロプロテイナーゼ、例えばマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)1〜28およびディスインテグリンメタロプロテイナーゼ(ADAM)2、7〜12、15、17〜23、28〜30および33、セリンプロテアーゼ、例えばウロキナーゼ型プラスミノーゲン活性化因子およびマトリプターゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼならびにカテプシンプロテアーゼからなる群より選択される。一態様において、プロテアーゼは、メタロプロテイナーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよびカテプシンプロテアーゼからなる群より選択される。一態様において、プロテアーゼはメタロプロテイナーゼである。一態様において、メタロプロテイナーゼはマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、特にMMP9またはMMP2である。一態様において、プロテアーゼはセリンプロテアーゼである。一態様において、セリンプロテアーゼはマトリプターゼである。したがって一態様では、プロテアーゼがプロテアーゼ切断可能リンカーを切断して、第2抗原結合部分が露出する。一態様において、本明細書に記載のプロテアーゼは腫瘍細胞によって発現される。一態様において、プロテアーゼは腫瘍試料中、特に本明細書の記載の生検材料中で発現する。一態様において、プロテアーゼは腫瘍組織試料中、特に患者からの生検材料中で発現する。一態様において、レポーター遺伝子の発現は腫瘍試料におけるプロテアーゼ発現を示す。
本明細書に記載の方法によれば、プロテアーゼ切断可能リンカーを介して第2抗原結合部分につながれたマスキング部分を含む抗体が、腫瘍試料におけるプロテアーゼ発現を検出するために使用される。一態様において、プロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体の標的抗原は細胞表面受容体である。一態様において、標的抗原は、CEA、Her2、TYRP、EGFR、MCSP、STEAP1、WT1およびFolR1からなる群より選択される。一態様において、標的抗原はFolR1である。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、FolR1に特異的な少なくとも1つの抗原結合部分を含み、SEQ ID NO:20の重鎖CDR1、SEQ ID NO:21の重鎖CDR2、SEQ ID NO:22の重鎖CDR3、SEQ ID NO:23の軽鎖CDR1、SEQ ID NO:24の軽鎖CDR2およびSEQ ID NO:25の軽鎖CDR3のうちの少なくとも1つを含む抗イディオタイプCD3 scFvをさらに含む。一態様において、抗イディオタイプscFvは、SEQ ID NO:20の重鎖CDR1、SEQ ID NO:21の重鎖CDR2、SEQ ID NO:22の重鎖CDR3、SEQ ID NO:23の軽鎖CDR1、SEQ ID NO:24の軽鎖CDR2およびSEQ ID NO:25の軽鎖CDR3を含む。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体はFolR1に特異的な少なくとも1つの抗原結合部分を含み、SEQ ID NO:29と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列を含む抗イディオタイプCD3 scFvをさらに含む。一態様において、抗イディオタイプscFvはSEQ ID NO:29のポリペプチド配列を含む。
したがって本発明のアッセイ法は、本明細書に記載の標的抗原への結合と、本明細書に記載のプロテアーゼの発現とを、どちらも評価することができる。一態様において、標的抗原への結合とプロテアーゼの発現は、同じバイアルにおいて決定される。一態様において、本発明のアッセイ法は、腫瘍の処置に適したプロテアーゼ切断可能リンカーの選択に使用される。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、SEQ ID NO:5と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列、SEQ ID NO:6と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列、およびSEQ ID NO:7と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列を含む。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、SEQ ID NO:5のポリペプチド配列、SEQ ID NO:6のポリペプチド配列およびSEQ ID NO:7のポリペプチド配列を含む。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、SEQ ID NO:5と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列、SEQ ID NO:7と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列、およびSEQ ID NO:10と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列を含む。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、SEQ ID NO:5のポリペプチド配列、SEQ ID NO:7のポリペプチド配列およびSEQ ID NO:10のポリペプチド配列を含む。(8363)
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、SEQ ID NO:5と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列、SEQ ID NO:7と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列、およびSEQ ID NO:8と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列を含む。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、SEQ ID NO:5のポリペプチド配列、SEQ ID NO:7のポリペプチド配列およびSEQ ID NO:8のポリペプチド配列を含む。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、SEQ ID NO:3と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列、SEQ ID NO:4と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列、およびSEQ ID NO:5と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%または100%同一であるポリペプチド配列を含む。
一態様において、本発明に従って使用されるプロテアーゼ活性化可能二重特異性抗体は、SEQ ID NO:3のポリペプチド配列、SEQ ID NO:4のポリペプチド配列およびSEQ ID NO:5のポリペプチド配列を含む。
さらなる態様において、
(a)標的抗原に特異的に結合することができる第1抗原結合部分と
(b)シグナル伝達細胞表面受容体に特異的に結合することができる第2抗原結合部分と
を含む腫瘍処置用の二重特異性抗体を選択するための方法であって、本明細書に記載の方法に従って腫瘍試料における標的抗原の存在を決定する工程を含み、レポーター遺伝子の発現が検出された場合に、その二重特異性抗体が腫瘍処置のために選択される、前記方法が提供される。
一態様において、二重特異性抗体は、(c)プロテアーゼ切断可能リンカーを介して第2抗原結合部分に共有結合されたマスキング部分をさらに含み、マスキング部分は、第2抗原結合部分のイディオタイプに特異的に結合することができ、それによって本明細書に記載するように第2抗原結合部分を可逆的に隠す。そのようなコンストラクトを、本明細書では、プロテアーゼ活性化可能であると記載する。
同じ細胞上の異なる抗原、さらには異なる細胞上の異なる抗原を標的とする二重特異性抗体により、がん治療における目下の課題のいくつかは克服されると考えられる。これらのコンストラクトのいくつかは、異なる細胞上の抗原に、例えばがん細胞上の標的抗原と、エフェクター細胞上の、特にT細胞上の、免疫刺激抗原とに、結合する。標的抗原は二重特異性抗体を腫瘍組織に向かわせると考えられ、一方、免疫刺激抗原はエフェクター細胞を活性化し、それがエフェクター細胞、例えばT細胞による腫瘍細胞の効率のよい破壊につながる。加えて、抗体の全身適用に起因する有害作用を回避するために、抗体がその腫瘍標的に到達するまでは、免疫刺激抗原を隠しておく必要があるかもしれない。いくつかのコンストラクトは、腫瘍への結合時に露出する活性化可能免疫調整部分を含む。これは、本明細書に記載するように、プロテアーゼ切断可能リンカーを介して免疫調整部分に取り付けられたマスキング部分で免疫調整部分を隠すことによって行うことができる。これらのコンストラクトは、本明細書では、プロテアーゼ活性化可能であると記載される。
腫瘍を効率よく溶解するために、腫瘍細胞は、抗体が腫瘍細胞に効率よく結合するのに適した量で、標的抗原を発現させなければならない。加えて、隠された部分を持つプロテアーゼ活性化可能コンストラクトの場合、腫瘍細胞は、腫瘍組織特異的プロテアーゼも、マスキング部分とマスクされる部分との間のプロテアーゼ切断可能リンカーを効率よく切断するのに適した量で発現させなければならない。本発明の方法は、腫瘍試料、例えば腫瘍生検材料を、標的抗原結合および/またはプロテアーゼ発現について評価することによって、二重特異性抗体が腫瘍の処置に適しているかどうかを評価するためのアッセイ法を提供する。したがって、本発明の方法で測定されるレポーター遺伝子の発現は腫瘍処置用の適切な二重特異性抗体を示し、腫瘍試料は患者からの腫瘍生検材料であり、その二重特異性抗体は腫瘍処置用の候補抗体である。一態様において、本発明のアッセイ法は、腫瘍の処置に適したプロテアーゼ切断可能リンカーの選択に使用される。この評価は、本明細書に記載のハイスループットフォーマットで行うことができる。すなわち、多数の腫瘍処置用候補抗体を並行して評価することができる。このアッセイ法はロバストであり、腫瘍試料における死細胞の存在を許容する。腫瘍処置用に選択される二重特異性抗体は、本明細書に記載の治療方法において使用することができる。本発明のアッセイ法を使って選択される腫瘍の処置に適したプロテアーゼ切断可能リンカーは、がん処置用の新規または公知二重特異性抗体に含めることができる。
本明細書に記載の、腫瘍の処置のために選択された二重特異性抗体はいずれも、治療方法において使用しうる。本明細書に記載の、腫瘍の処置のために選択された二重特異性抗体は免疫治療剤として、例えばがんの処置において使用することができる。治療方法において使用するために、本発明に従って選択された二重特異性抗体は、医療実施基準(good medical practice)に合致する方法で、製剤化され、用量決定され、投与されるであろう。この文脈において考慮すべき因子としては、処置される特定障害、処置される特定哺乳動物、個々の患者の臨床状態、障害の原因、作用物質の送達部位、投与の方法、投与のスケジューリング、および医療従事者に公知の他の因子が挙げられる。
一局面では、本発明の方法に従って腫瘍の処置のために選択された二重特異性抗体が提供される。一局面では、医薬として使用するための、選択された二重特異性抗体が提供される。さらなる局面では、疾患の処置に使用するための、本発明の選択された二重特異性抗体が提供される。一定の態様では、処置方法に使用するための、本発明の選択された二重特異性抗体が提供される。一態様において、本方法は、処置を必要とする個体における疾患の処置に使用するための、本明細書に記載するように選択された二重特異性抗体を提供する。一定の態様において、本発明は、治療有効量の選択された二重特異性抗体を個体に投与する工程を含む、疾患を有する個体を処置する方法において使用するための、二重特異性抗体を提供する。一定の態様において、処置される疾患は増殖性障害である。一特定態様において、疾患はがんである。一定の態様において、本方法は、治療有効量の少なくとも1つの追加治療剤を、例えば処置される疾患ががんである場合には抗がん剤を、個体に投与する工程を、さらに含む。さらなる態様において、本発明は、標的細胞の溶解、特に腫瘍細胞の溶解の誘導に使用するための、本明細書に記載するように選択された二重特異性抗体を提供する。一定の態様において、本発明は、標的細胞の溶解を誘導するために有効量の選択された二重特異性抗体を個体に投与する工程を含む、個体中の標的細胞の溶解、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法において使用するための、二重特異性抗体を提供する。上記の態様のいずれにおいても「個体」とは哺乳動物、好ましくはヒトである。
さらなる一局面において、本発明は、医薬の製造または調製における、本明細書に記載の、腫瘍の処置のために選択された二重特異性抗体の使用を提供する。一態様において、医薬は、処置を必要とする個体における疾患を処置するための医薬である。さらなる一態様において、医薬は、疾患を有する個体に治療有効量の医薬を投与する工程を含む、疾患の処置方法において使用するための医薬である。一定の態様において、処置される疾患は増殖性障害である。一特定態様において、疾患はがんである。一態様において、本方法は、治療有効量の少なくとも1つの追加治療剤を、例えば処置される疾患ががんである場合には抗がん剤を、個体に投与する工程を、さらに含む。さらなる一態様において、医薬は、標的細胞の溶解、特に腫瘍細胞の溶解を誘導するための医薬である。さらにもう1つの態様において、医薬は、標的細胞の溶解を誘導するために有効量の医薬を個体に投与する工程を含む、個体中の標的細胞の溶解、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法において使用するための医薬である。上記の態様のいずれにおいても「個体」とは哺乳動物、好ましくはヒトでありうる。一特定態様において、個体の腫瘍試料、例えば腫瘍生検材料は、その腫瘍を処置するための適切な二重特異性抗体を見つけるために、本発明の方法を使って評価される。
さらなる一局面において、本発明は、疾患を処置するための方法を提供する。一態様において、本方法は、疾患を処置するための二重特異性抗体を、本明細書に記載の方法に従って選択する工程、およびそのような疾患を有する個体に治療有効量の選択された二重特異性抗体を投与する工程を含む。一態様では、選択された二重特異性抗体を薬学的に許容される形態で含む組成物が、個体に投与される。一定の態様において、処置される疾患は増殖性障害である。一特定態様において、疾患はがんである。一定の態様において、本方法は、治療有効量の少なくとも1つの追加治療剤を、例えば処置される疾患ががんである場合には抗がん剤を、個体に投与する工程を、さらに含む。上記の態様のいずれにおいても「個体」とは哺乳動物、好ましくはヒトでありうる。
さらなる一局面において、本発明は、標的細胞の溶解、特に腫瘍細胞の溶解を誘導する方法を提供する。一態様において、本方法は、標的細胞を、T細胞、特に細胞傷害性T細胞の存在下で、本発明に従って選択された二重特異性抗体と接触させる工程を含む。さらなる一局面において、個体における標的細胞の溶解、特に腫瘍細胞の溶解を誘導するための方法が提供される。そのような一態様において、本方法は、標的細胞の溶解を誘導するために有効量の二重特異性抗体を個体に投与する工程を含む。一態様において、「個体」はヒトである。
一定の態様において、処置される疾患は増殖性障害、特にがんである。がんの非限定的な例として、膀胱がん、脳がん、頭頸部がん、膵がん、肺がん、乳がん、卵巣がん、子宮がん、子宮頸がん、子宮内膜がん、食道がん、結腸がん、結腸直腸がん、直腸がん、胃がん、前立腺がん、血液がん、皮膚がん、扁平上皮癌、骨がんおよび腎がんが挙げられる。二重特異性抗体を使って処置することができる他の細胞増殖障害としては、腹部、骨、胸、消化器系、肝臓、膵臓、腹膜、内分泌腺(副腎、副甲状腺、下垂体、精巣、卵巣、胸腺、甲状腺)、眼、頭頸部、神経系(中枢および末梢)、リンパ系、骨盤、皮膚、軟組織、脾臓、胸部および泌尿生殖器系に位置する新生物が挙げられるが、それらに限定されるわけではない。前がん状態または前がん病変およびがん転移も含まれる。一定の態様において、がんは、腎細胞がん、皮膚がん、肺がん、結腸直腸がん、乳がん、脳がん、頭頸部がんからなる群より選ばれる。多くの場合、二重特異性抗体は治癒をもたらすわけではなく、部分的な利益をもたらしうるに過ぎないことは、当業者にはすぐにわかる。いくつかの態様では、何らかの利益を有する生理学的変化も、治療上有益であるとみなされる。したがっていくつかの態様において、生理学的変化をもたらす二重特異性抗体の量は、「有効量」または「治療有効量」とみなされる。処置を必要とする対象、患者または個体は、典型的には、哺乳動物、より具体的にはヒトである。
いくつかの態様では、有効量の、本発明の選択された二重特異性抗体が細胞に投与される。別の態様では、治療有効量の二重特異性抗体が、疾患の処置のために、個体に投与される。疾患の防止または処置に関して、二重特異性抗体の適当な投薬量(単独で使用する場合、または1種もしくは複数種の他の追加治療剤と併用する場合)は、処置すべき疾患のタイプ、投与経路、患者の体重、T細胞活性化二重特異性抗体のタイプ、疾患の重症度および経過、T細胞活性化二重特異性抗体を防止目的で投与するのか治療目的で投与するのか、過去または現在の治療的介入、患者の病歴および二重特異性抗体に対する応答、ならびに主治医の裁量に依存することになる。いずれにせよ、投与責任者が、組成物中の活性成分濃度および個々の対象にとって適当な用量を決定することになる。限定するわけではないが、単回投与、またはさまざまな時点にわたる複数回投与、ボーラス投与、およびパルス注入を含む、さまざまな投薬スケジュールが、ここでは考えられる。
選択された二重特異性抗体は、患者に1回で、または一連の処置で、適切に投与される。疾患のタイプおよび重症度に依存して、例えば1回または複数回の独立した投与によるか、または持続注入によるかを問わず、約1μg/kg〜15mg/kg(例:0.1mg/kg〜10mg/kg)の二重特異性抗体を、患者に投与するための初回候補投薬量とすることができる。典型的な1日量は、上述の因子に依存して約1μg/kgから100mg/kgまで、またはそれ以上に及ぶかもしれない。数日またはそれ以上にわたる反復投与の場合、状態に応じて、処置は一般に、疾患症状の所望の抑制が起こるまで、継続されるであろう。T細胞活性化二重特異性抗体の例示的投薬量の1つは約0.005mg/kg〜約10mg/kgの範囲にあるだろう。別の非限定的な例において、用量は、1回の投与につき約1マイクログラム/kg体重、約5マイクログラム/kg体重、約10マイクログラム/kg体重、約50マイクログラム/kg体重、約100マイクログラム/kg体重、約200マイクログラム/kg体重、約350マイクログラム/kg体重、約500マイクログラム/kg体重、約1ミリグラム/kg体重、約5ミリグラム/kg体重、約10ミリグラム/kg体重、約50ミリグラム/kg体重、約100ミリグラム/kg体重、約200ミリグラム/kg体重、約350ミリグラム/kg体重、約500ミリグラム/kg体重から、約1000mg/kg体重まで、またはそれ以上、およびそこから導き出すことができる任意の範囲も含みうる。本明細書に列挙した数字から導き出すことができる範囲の非限定的な例では、上述の数字に基づいて、約5mg/kg体重〜約100mg/kg体重、約5マイクログラム/kg体重〜約500ミリグラム/kg体重などの範囲を投与することができる。したがって、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、5.0mg/kgまたは10mg/kg(またはそれらの任意の組合せ)を患者に1回または複数回投与することができる。そのような用量は、(例えば患者が二重特異性抗体の投与を約2回〜約20回、例えば約6回受けることになるように)間欠的に、例えば毎週または3週ごとに投与することができる。高用量の初回負荷量を投与した後に、それより低い用量を1回または複数回投与してもよい。ただし他の投薬レジメンも役立ちうる。この治療の進行は、従来の技法およびアッセイ法によって容易にモニタリングされる。
本発明の選択された二重特異性抗体は、一般に、意図した目的を達成するのに有効な量で使用されるであろう。疾患状態を処置または防止するための使用の場合、選択された二重特異性抗体またはその薬学的組成物は、治療有効量で投与または適用される。治療有効量の決定は、とりわけ本明細書において提供される詳細な開示に照らせば、十分に当業者の能力の範囲内にある。全身性投与の場合、まずは、細胞培養アッセイ法などのインビトロアッセイ法から、治療有効量を見積もることができる。次に、細胞培養において決定されたIC50を含む循環濃度範囲が達成されるように、動物モデルにおいて用量を処方することができる。そのような情報を使って、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定することができる。初回投薬量は、インビボデータ、例えば動物モデルから、当技術分野において周知の技法を使って見積もることもできる。当業者は、動物データに基づいて、ヒトへの投与を容易に最適化することができるだろう。投薬量および投薬間隔は、治療効果を維持するのに十分な二重特異性抗体の血漿中レベルが得られるように、個別に調節されうる。注射による投与の場合、通常の患者投薬量は、約0.1〜50mg/kg/日、典型的には約0.5〜1mg/kg/日の範囲にある。治療的に有効な血漿中レベルは、毎日複数回投与することによって達成しうる。血漿中のレベルは、例えばHPLCによって測定しうる。
本明細書に記載する選択された二重特異性抗体の治療有効量は、一般に、実質的な毒性を引き起こすことなく治療上の利益を与えるであろう。二重特異性抗体の毒性と治療効力は、標準的な薬学的手順によって、細胞培養または実験動物において決定することができる。細胞培養アッセイ法および動物研究を使って、LD50(集団の50%に対して致死的である用量)およびED50(集団の50%において治療的に有効である用量)を決定することができる。毒性効果と治療効果の間の用量比が治療係数であり、これは比LD50/ED50として表すことができる。大きな治療係数を呈する二重特異性抗体は好ましい。一態様において、本発明の選択された二重特異性抗体は高い治療係数を呈する。細胞培養アッセイ法および動物研究から得られたデータは、ヒトでの使用に適した投薬量範囲を処方するのに使用することができる。投薬量は、好ましくは、毒性をほとんどまたは全く伴わない、ED50を含む循環濃度の範囲内にある。投薬量は、使用する剤形、利用する投与経路、対象の状態などといったさまざまな因子に依存して、この範囲内で変動しうる。個々の医師は、患者の状態を考慮して、的確な製剤、投与経路および投薬量を選ぶことができる(例えば参照によりその全体が本明細書に組み入れられるFingl et al.,1975,in:The Pharmacological Basis of Therapeutics,Ch.1,p.1参照)。
本発明の選択された二重特異性抗体で処置される患者の主治医には、毒性、臓器不全などのために、投与を終結、中断または調節する方法と、そうすべき時とがわかるであろう。逆に、臨床応答が十分でない場合には、処置を(毒性を排除しつつ)さらに高いレベルに調節することも、主治医にはわかるだろう。関心対象の障害の管理において投与される量の規模は、処置される状態の重症度や投与経路などによって変動するであろう。状態の重症度は、例えば1つには、標準的な予後評価方法によって評価することができる。さらに、用量と、おそらく投与頻度は、個々の患者の年齢、体重および応答によっても変動するであろう。
例示的態様
1.腫瘍試料における標的抗原の存在を決定するためのインビトロ法であって、
(i)腫瘍試料を提供する工程;
(ii)シグナル伝達細胞表面受容体の制御を受けるレポーター遺伝子を含むレポーター細胞を提供する工程;
(iii)腫瘍試料に、
(a)標的抗原に特異的に結合することができる第1抗原結合部分と
(b)シグナル伝達細胞表面受容体に特異的に結合することができる第2抗原結合部分と
を含む二重特異性抗体を加える工程;
(iv)腫瘍試料にレポーター細胞を加える工程;および
(v)レポーター遺伝子の発現を決定することによって標的抗原の存在を決定する工程
を含む、前記方法。
2.標的抗原が腫瘍細胞によって発現される、態様1記載の方法。
3.レポーター遺伝子の発現が、第1抗原結合部分と標的抗原との結合を示す、態様1または2記載の方法。
4.二重特異性抗体が、
(c)プロテアーゼ切断可能リンカーを介して第2抗原結合部分に共有結合されたマスキング部分
をさらに含み、マスキング部分が、第2抗原結合部分のイディオタイプに特異的に結合することができ、それによって第2抗原結合部分を可逆的に隠す、態様1〜3のいずれか1つに記載の方法。
5.プロテアーゼがプロテアーゼ切断可能リンカーを切断して、第2抗原結合部分が露出する、態様1〜4のいずれか1つに記載の方法。
6.プロテアーゼが腫瘍細胞によって発現される、態様1〜5のいずれか1つに記載の方法。
7.レポーター遺伝子の発現が、腫瘍試料におけるプロテアーゼ発現を示す、態様4〜6のいずれか1つに記載の方法。
8.腫瘍試料が腫瘍組織試料であり、特に患者からの生検材料である、態様1〜7のいずれか1つに記載の方法。
9.腫瘍試料が消化されない、態様1〜8のいずれか1つに記載の方法。
10.腫瘍試料が消化される、特に腫瘍試料がコラゲナーゼまたはヒアルロニダーゼによって消化される、態様1〜9のいずれか1つに記載の方法。
11.腫瘍試料が死細胞を、特に10%超の死細胞を含有する、態様1〜10のいずれか1つに記載の方法。
12.プロテアーゼ発現が悪性腫瘍を示す、態様6〜11のいずれか1つに記載の方法。
13.シグナル伝達細胞表面受容体が応答エレメントに機能的に連結されている、態様1〜12のいずれか1つに記載の方法。
14.応答エレメントがレポーター遺伝子の発現を制御する、態様1〜13のいずれか1つに記載の方法。
15.応答エレメントがNF-κB経路の一部である、態様1〜14のいずれか1つに記載の方法。
16.応答エレメントが、SEQ ID NO:68、69、70、71または72のDNA配列を持つ少なくとも1つのDNAリピートを含む、態様15記載の方法。
17.応答エレメントが、SEQ ID NO:73、74、75または76のDNA配列を含む、態様15または16記載の方法。
18.レポーター遺伝子が蛍光タンパク質または発光タンパク質をコードしている、態様1〜17のいずれか1つに記載の方法。
19.レポーター遺伝子が緑色蛍光タンパク質(GFP)またはルシフェラーゼをコードしている、態様1〜18のいずれか1つに記載の方法。
20.レポーター細胞が、応答エレメントの制御を受けるレポーター遺伝子をコードするDNA配列と、シグナル伝達細胞表面受容体をコードするDNA配列とを含む、態様1〜19のいずれか1つに記載の方法。
21.レポーター細胞が、SEQ ID NO:68、69、70、71または72のDNA配列を持つ少なくとも1つのDNAリピートを含み、DNAリピートはレポーター遺伝子に機能的に連結されており、第2抗原結合部分がシグナル伝達細胞表面受容体に結合すると、レポーター遺伝子が発現する、態様1〜20のいずれか1つに記載の方法。
22.第2抗原結合部分がCD3εに特異的に結合することができる、態様1〜21のいずれか1つに記載の方法。
23.プロテアーゼ切断可能リンカーがプロテアーゼ認識配列を含む、態様4〜22のいずれか1つに記載の方法。
24.プロテアーゼ認識配列が、
からなる群より選択され、ここでXは任意のアミノ酸である、態様23記載の方法。
25.プロテアーゼが、メタロプロテイナーゼ、セリンプロテアーゼ、システインプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼおよびカテプシンプロテアーゼからなる群より選択される、態様4〜24のいずれか1つに記載の方法。
26.メタロプロテイナーゼがマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)、特にMMP9またはMMP2である、態様25記載の方法。
27.セリンプロテアーゼがマトリプターゼである、態様26記載の方法。
28. マスキング部分が、第2抗原結合部分の重鎖可変領域に共有結合される、態様4〜27のいずれか1つに記載の方法。
29.マスキング部分が、第2抗原結合部分の軽鎖可変領域に共有結合される、態様4〜28のいずれか1つに記載の方法。
30.マスキング部分が抗イディオタイプscFvである、態様4〜29のいずれか1つに記載の方法。
31.第1抗原結合部分と第2抗原結合部分が互いに、任意でペプチドリンカーを介して、融合される、態様1〜30のいずれか1つに記載の方法。
32.第1抗原結合部分および第2抗原結合部分が、共通軽鎖を含む従来型Fab分子である、態様1〜31のいずれか1つに記載の方法。
33.第2抗原結合部分が、Fab重鎖のC末端において、第1抗原結合部分のFab重鎖のN末端に、任意でペプチドリンカーを介して、融合される、態様32記載の方法。
34.第1抗原結合部分のFab軽鎖と第2抗原結合部分のFab軽鎖が互いに、任意でペプチドリンカーを介して、融合される、態様32または33記載の方法。
35.二重特異性抗体が、腫瘍抗原に特異的に結合することができる第3抗原結合部分を含む、態様1〜34のいずれか1つに記載の方法。
36.第3抗原結合部分が従来型Fab分子であるか、Fab軽鎖とFab重鎖の可変領域または定常領域のどちらか一方が交換されたクロスオーバーFab分子である、態様35記載の方法。
37.第3抗原結合部分が第1抗原結合部分と同一である、態様36記載の方法。
38.二重特異性抗体が、安定に会合する能力を有する第1サブユニットおよび第2サブユニットから構成されるFcドメインをさらに含む、態様1〜37のいずれか1つに記載の方法。
39.FcドメインがIgGの、具体的にはIgG1またはIgG4の、Fcドメインである、態様38記載の方法。
40.FcドメインがヒトFcドメインである、態様38または39記載の方法。
41.標的抗原が細胞表面受容体である、態様1〜40のいずれか1つに記載の方法。
42.標的抗原がFolR1である、態様1〜41のいずれか1つに記載の方法。
43.標的抗原が、ヒト主要組織適合遺伝子複合体(MHC)の分子に結合したペプチドである、態様1〜42のいずれか1つに記載の方法。
44.8〜100アミノ酸、好ましくは8〜30アミノ酸、より好ましくは8〜16アミノ酸の全長を有する、態様43記載のペプチド。
45.標的抗原への結合とプロテアーゼの発現が、同じバイアルにおいて決定される、態様4〜44のいずれか1つに記載の方法。
46.(a)標的抗原に特異的に結合することができる第1抗原結合部分と
(b)シグナル伝達細胞表面受容体に特異的に結合することができる第2抗原結合部分と
を含む腫瘍処置用の二重特異性抗体を選択するためのインビトロ法であって、
態様1〜45のいずれか1つに記載の方法に従って腫瘍試料における標的抗原の存在を決定する工程を含み、レポーター遺伝子の発現が検出された場合に、その二重特異性抗体が腫瘍処置のために選択される、前記方法。
47.本質的に上述したとおりの方法。
以下は本発明の方法および組成物の実施例である。上述の一般的説明を考慮すれば、他にもさまざまな態様を実施しうることは理解される。明解に理解されるように、上述の発明を、図解と実例を使って多少詳しく説明したが、これらの説明および実例が、本発明の範囲を限定していると解釈してはならない。本明細書において言及する特許文献および科学文献はすべて、それらの全体が参照により特に本明細書に組み入れられる。
III.実施例
実施例1
抗CD3 scFvを持つ抗FolR1/抗CD3 T細胞二重特異性(TCB)分子の調製
この実施例では以下の分子を調整した。その略図を図2A〜Fに示す。
ID 8364:「抗CD3 scFv 4.32.63およびMMP9-MK062プロテアーゼリンカーがN末端融合されているFolR1 2+1 IgG、古典的フォーマット(抗イディオタイプscFv 4.32.63-MMP9-MK062マトリプターゼ部位-FolR1 VHにN末端融合されたCD3-不活性Fc)」(図2A、SEQ ID NO:5、6、7)
ID 8363:「抗CD3 scFv 4.32.63およびカテプシンS/BプロテアーゼリンカーがN末端融合されているFolR1 2+1 IgG、古典的フォーマット(抗イディオタイプscFv 4.32.63-カテプシンS/B部位-FolR1 VHにN末端融合されたCD3-不活性Fc)」(図2B、SEQ ID NO:5、7、10)
ID 8409:「抗CD3 scFv 4.32.63および非切断可能GSリンカーがN末端融合されているFolR1 2+1 IgG、古典的フォーマット(抗イディオタイプscFv 4.32.63-非切断可能リンカー-FolR1 VHにN末端融合されたCD3-不活性Fc)」(図2C)
ID 6298:「FolR1 2+1 IgG、古典的フォーマット」(図2D、SEQ ID NO:3、4、5)
ID 7235/6182:「DP47GS 2+1 IgG、逆転型フォーマット」(図2E)
ID 8408:「抗CD3 scFv 4.32.63およびマトリプターゼプロテアーゼリンカーがN末端融合されているFolR1 2+1 IgG、古典的フォーマット(抗イディオタイプscFv 4.32.63-マトリプターゼ部位-FolR1 VHにN末端融合されたCD3-不活性Fc)」(図2F、SEQ ID NO:5、7、8)。
可変ドメインを、各レシピエント哺乳類発現ベクターに、事前に挿入されているドメインとインフレームでサブクローニングした。タンパク質発現は、MPSVプロモーターによって駆動され、CDSの3’端には合成ポリAシグナル配列が存在する。加えて、各ベクターはEBV OriP配列を含有する。
懸濁培養で成長しているHEK293-EBNA細胞にポリエチレンイミン(PEI)を使って哺乳類発現ベクターを共トランスフェクトすることによって、分子を生産した。トランスフェクションのために、6mMのL-グルタミンと250mg/lのG418とを含有する無血清ExCell培養培地で、HEK293EBNA細胞を培養した。生産のために、600mlチューブスピン(tubespin)フラスコ(最大作業容積400ml)において、トランスフェクションの24時間前に、8億個のHEK293 EBNA細胞を、G418なしで播種した。トランスフェクションのために、8億個の細胞を210×gで5分間遠心分離し、6mM L-グルタミンを含有する予熱した40mlのCD CHO培地で、上清を置き換えた。発現ベクターを、6mM L-グルタミンを含有する40mlのCD CHO培地と混合して、DNAの総量を400μgにした。1080μlのPEI溶液(2.7μg/ml)を加えた後、その混合物を15秒間ボルテックスしてから、室温で10分間インキュベートした。その後、細胞を、前記DNA/PEI溶液と混合し、600mlチューブスピンフラスコに移し、5%CO2雰囲気のインキュベータ中、37℃で3時間インキュベートした。インキュベーション後に、320mlのExCell+6mM L-グルタミン+5g/L Pepsoy+1.0mM VPA+3g/lグルコース培地を加え、細胞を24時間培養してから、7%Feed 7を供給した。6〜7日後に、培養上清を収集し、210×gで20〜30分間の遠心分離(Sigma 8K遠心機)によって精製した。その溶液を滅菌濾過(0.22μmフィルタ)し、アジ化ナトリウムを0.01%w/vの最終濃度で加えた。その溶液を精製まで4℃に保った。
分泌されたタンパク質を、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーを使ったアフィニティークロマトグラフィーと、それに続く1〜2回のサイズ排除クロマトグラフィー工程とによって、細胞培養上清から精製した。
アフィニティークロマトグラフィーのために、20mMクエン酸ナトリウム、20mMリン酸ナトリウム、pH7.5で平衡化したプロテインA MabSelectSure(CV=5mL、GE Healthcare)に上清をローディングした。結合していないタンパク質を、少なくとも10カラム体積の20mMクエン酸ナトリウム、20mMリン酸ナトリウム、pH7.5での洗浄によって除去し、標的タンパク質を、20カラム体積(0%〜100%の勾配)の20mMクエン酸ナトリウム、100mM塩化ナトリウム、100mMグリシン、pH3.0で溶出させた。1/10の0.5M Na2HPO4 pH8.0を加えることによってタンパク質溶液を中和した。標的タンパク質をAmicon(登録商標)Ultra-15 Ultracel 30K(Merck Millipore Ltd.)で、最大4mlの体積まで濃縮してから、20mMヒスチジン、140mM NaCl、0.01%Tween pH6.0で平衡化したHiLoad Superdex 200カラム(GE Healthcare)にローディングした。
精製タンパク質試料のタンパク質濃度は、アミノ酸配列に基づいて算出されるモル吸光係数で割った280nmにおける光学密度(OD)を測定することによって決定した。
最終精製工程後の分子の純度および分子量は、還元剤存在下および還元剤非存在下でのCE-SDS分析によって分析した。Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper Lifescience)は、製造者の指示に従って使用した。
分子の凝集物含量は、25mM K2HPO4、125mM NaCl、200mM L-アルギニン一塩化水素塩、0.02%(w/v)NaN3、pH6.7ランニング緩衝液中、25℃で、TSKgel G3000 SW XL分析用サイズ排除カラム(Tosoh)を使って分析した。
どの分子も最終品質は良好であり、単量体含量は≧95%であった。
(表1)プロテアーゼ活性化型TCB分子の生産および精製の要約
実施例2
品質管理および安定性
さまざまなTCB分子のキャピラリー電気泳動SDS分析。最終精製工程後の分子の純度および分子量は、還元剤存在下および還元剤非存在下でのCE-SDS分析によって分析した。Caliper LabChip GXIIシステム(Caliper Lifescience)は、製造者の指示に従って使用した。無処理分子(4℃で貯蔵)、処理分子(適当な組換えプロテアーゼ(R&D Systems)により37℃で24時間処理)および37℃で72時間インキュベートした分子の比較。
無処理分子と処理分子を比較すると、MMP9-MK062マトリプターゼリンカーを含有する分子では、rhマトリプターゼ/ST14処理後の抗ID scFvの切断が示される(図3A)。rhカテプシンB処理およびrhカテプシンS処理による切断は不完全である。精製酵素に対して条件は最適化されていない(図3B)。
37℃で72時間インキュベートした分子は純粋な分子と同じ高さに泳動することから、分子はインビトロアッセイ継続時間の間は37℃で安定であることが示唆される。正しい分子量の見積もりのために、染色済みタンパク質マーカーMark 12(Invitrogen)を使用した。
実施例3
リンカーおよびフォーマットが異なるプロテアーゼ活性化型FolR1 TCBの比較
Jurkat NFAT活性化アッセイ。フォーマットおよびリンカーが異なるプロテアーゼ活性化型TCBを比較するためのJurkat NFAT活性化アッセイ。Jurkat-NFATレポーター細胞株(Promega)は、NFATプロモーターを持つヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株であり、ヒトCD3εを発現する。TCBが腫瘍標的に結合し、CD3バインダー(架橋)がCD3εに結合すれば、ルシフェラーゼ発現を、One-Glo基質(Promega)の添加後に、ルミネセンスで測定することができる。2万個の標的細胞を、ハイグロマイシンなしのJurkat培地(RPMI1640、2g/lグルコース、2g/l NaHCO3、10%FCS、25mM HEPES、2mM L-グルタミン、1×NEAA、1×ピルビン酸ナトリウム)50μl/ウェルに入れて、96ウェル白クリアボトムプレート(Greiner BioOne)に播種した。プレートを37℃で約20時間インキュベートした。Jurkat-NFATレポーター細胞を収穫し、ViCellを使って生存能を評価した。ハイグロマイシンなしのJurkat培地に細胞を再懸濁し、1ウェルあたり50μl(5万細胞/ウェル)を加えた。E:T比は2.5:1(播種した細胞数に基づく)とした。ハイグロマイシンなしのJurkat培地に抗体を希釈し、50μl/ウェルを加えた。細胞を湿潤インキュベータ中、37℃で6時間インキュベートしてから、インキュベータから取り出し、ルミネセンス読出しに先だって約10分間室温に順応させた。50μl/ウェルのONE-Glo溶液をウェルに加え、暗所において室温で10分間インキュベートした。ルミネセンスは、WALLAC Victor3 ELISAリーダー(PerkinElmer2030)を使用し、1秒/ウェルを検出時間として、検出した。陽性対照(前処理済み)として、プロテアーゼ活性化型TCBを、37℃で約20時間、rhマトリプターゼ/ST14(R&D Systems)で処理した。前処理済みプロテアーゼ活性化型TCB(8364、灰色で塗りつぶされた四角)とFolR1 TCB(黒い下向き三角)を比較したところ、切断後に効力は完全に回復することが示された。マスクされたTCB(GS非切断可能リンカーを含有する、灰色の上向き三角)および非標的TCB対照(白抜きの下向き三角)と共にインキュベートされた細胞では、この濃度範囲ではどちらの細胞株でも、ルミネセンスは検出されなかった。点線は、TCBが何もない場合の標的細胞およびエフェクター細胞のルミネセンスを示す(図4A〜B)。
実施例4
原発腫瘍試料における標的発現(FOLR1 TCB)およびプロテアーゼ活性(プロテアーゼ活性化型FOLR1 TCB)をモニタリングするためのJurkat-NFATレポーターアッセイ
このアッセイの目的は、ヒト腫瘍試料における腫瘍標的抗原(FolR1)発現およびMMP9、マトリプターゼまたはカテプシンのような腫瘍特異的プロテアーゼの活性を示すことであった。
Jurkat-NFATレポーター細胞株(Promega)はNFATプロモーターを持つヒト急性リンパ性白血病レポーター細胞株であって、ヒトCD3εを発現している。T細胞二重特異性分子が腫瘍標的とCD3ε(架橋)とに結合すれば、ルシフェラーゼ発現を測定することができる。ルミネセンスは、One-Glo基質(Promega)の添加後に測定される。
原発腫瘍試料はIndivumed GmbH(ドイツ)から受領した。試料は、輸送培地に入れて、一晩で搬送された。手術の約24時間後に試料を細断した。
第1方法(図5):
各ウェルに1つのMillicell細胞培養インサート12mm、親水性PTFE、0.4μm(PICM01250、MerckMillipore)を挿入することによって、24ウェルプレートを調製した。ハイグロマイシンは含有しないが1.5×ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は含有するJurkat培地に抗体を希釈した。ウェルの内側に400μlを加え、フィルタの外に600μlを加えた。各ウェルに2〜3片のヒト腫瘍を加え、37℃、5%CO2で48時間インキュベートした。
Jurkat-NFATレポーター細胞を収穫し、ViCellを使って生存能を評価した。細胞を350×gで7分間遠心分離した後、それらをハイグロマイシンなしのJurkat培地に再懸濁し、1ウェルにつき500μl(50万細胞/ウェル)を加えた。プレートは、湿潤インキュベータ中、37℃で5時間インキュベートしてから、ルミネセンス読出しのために取り出した。各ウェルに500μlのONE-Glo溶液を加え、暗所において室温で10分間インキュベートした。ルミネセンスは、WALLAC Victor3 ELISAリーダー(PerkinElmer2030)を使用し、1秒/ウェルを検出時間として、検出した。
第2方法(図6):
18μlの冷Matrigel(Matrigel(734-1101、Corning/VWR)を加えることによって、96ウェル白平底(クリア)プレートを調製した。プレートを37℃で2分間インキュベートしてから腫瘍片を加えた(三つ一組)。1ウェルにつき33μlの冷Matrigelを加え、プレートを再び37℃で2分間インキュベートした。1ウェルにつき50μlの抗体希釈液(ハイグロマイシンは含有しないが2×ペニシリン/ストレプトマイシン溶液は含有するJurkat培地に希釈したもの)を加え、プレートを5%CO2、37℃で約48時間インキュベートした。
Jurkat-NFATレポーター細胞を収穫し、ViCellを使って生存能を評価した。細胞を350×gで7分間遠心分離した後、それらをハイグロマイシンなしのJurkat培地に再懸濁し、1ウェルにつき50μl(5万細胞/ウェル)を加えた。プレートは、湿潤インキュベータ中、37℃で5時間インキュベートしてから、ルミネセンス読出しのために取り出した。各ウェルのうち80μlを96ウェル白プレートに移した。27μl/ウェルのONE-Glo溶液を各ウェルに加え、暗所において室温で10分間インキュベートした。ルミネセンスは、WALLAC Victor3 ELISAリーダー(PerkinElmer2030)を使用し、1秒/ウェルを検出時間として、検出した。
Jurkat NFATレポーター細胞はFolR1 TCB(6298)および腫瘍試料とのインキュベーション後に活性化される。プロテアーゼ活性化型FolR1 TCB(8363、8408)および対照TCB(8409、7235)はルシフェラーゼ発現を誘導しない。点線は腫瘍と共インキュベートされたJurkat NFAT細胞のベースラインルミネセンスを示す(図5および図6)。
悪性腫瘍試料(図6)およびプロテアーゼ活性化型FolR1 TCB(MMP9-マトリプターゼ、8364)と共にインキュベートされたJurkat NFAT細胞については、増加したルミネセンスを検出することができる。しかし、良性腫瘍試料(図5)およびプロテアーゼ活性化型FolR1 TCB(MMP9-マトリプターゼ、8364)については、Jurkat NFAT活性化を測定することができない。
実施例5
患者由来異種移植片における標的発現(p95HER2)をモニタリングするためのJurkat-NFATレポーターアッセイ
免疫不全マウスにおいて拡大したさまざまな患者由来異種移植片(PDX)由来の細胞の存在下でp95HER2-TCB(図7A)によって誘導されるT細胞の活性化を定量するために、本発明者らは、ルシフェラーゼに共役したTCR活性化のNFAT駆動レポーターを発現するJurkat細胞を使用した。患者試料の断片をNOD.CB17-Prkdcscid(NOD/SCID)マウス(#SM-NOD-5S-F、Janiver)またはNOD.Cg-Prkdcscid Il2rgtm1WjI/SzJ(NSG)マウス(Charles River Laboratories)の脂肪パッドに移植し、17β-エストラジオール(1μM)(#E8875-1G、Sigma)を飲料水に添加した。
患者由来の異種移植片またはヒト乳がん試料組織を、pH=7に緩衝化した4%ホルムアルデヒド(メタノールで安定化)で24時間固定してから、パラフィン包埋した(FFPE)。厚さ4μmの組織切片を正荷電ガラススライドにマウントし、表示の抗体で免疫染色した。認定病理学者が、HスコアならびにサイトケラチンおよびCD8陽性細胞のパーセンテージによってp95HER2発現を評価した(図7Bおよび図7C)。
PDX由来の腫瘍を切除し、可能な限り小さく細断し、200U/mlコラゲナーゼ1A(Sigma)と共に1時間インキュベートし、洗浄し、100μmストレーナー(Corning)で濾過し、計数した。単一標的細胞を、96ウェルV底プレート中、p95HER2-TCBの存在下、エフェクター細胞と5:1のエフェクター:標的(E:T)比で共培養した。プレートを湿潤インキュベータ中、37℃で16時間インキュベートしてから、上述のようにルミネセンス読出しのために取り出した。p95HER2-TCBによって誘導されるT細胞応答の活性化(図7D)と、定量IHCベースの分析および免疫組織化学によって決定されたp95HER2のレベルとの間に、正の相関が見られた。