JP2020200145A - 昇降装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】モータによって搬送対象物を昇降させる昇降装置において、搬送対象物を支持して上昇を開始した後、早期に、過荷重状態を正確に検出し、上昇運動を緊急停止させることができる昇降装置を提供する。【解決手段】昇降装置1は、ブレーキを備えたモータ41と、モータ41に周波数可変の交流を駆動電源として出力する電源部と、搬送対象物を支持し、モータ41の回転によって昇降される支持具30と、電源部およびブレーキを制御し、モータ41の回転を緊急停止させることができる制御部とを有する。支持具30の上昇の開始時に、電源部は、駆動電源の周波数を徐々に増大させ、制御部は、駆動電源の周波数が所定値に安定した時点で、モータトルクの監視を開始し、モータトルクが閾値を超えたのを検出すると、モータ41の回転を緊急停止させる。【選択図】図1
Description
本発明は、昇降装置に関し、さらに詳しくは、緊急停止機能を備えた、クレーン等の昇降装置に関するものである。
クレーン等、搬送対象物を支持して昇降させる昇降装置においては、支持した搬送対象物の荷重が大きすぎる場合等に、装置の構成部材に損傷が生じる可能性がある。例えば、特許文献1に開示されたマスト式クレーンは、搬送対象物を支持する荷役治具として、側面視がほぼコの字形で横長のクローが備えられている。図4(a)に示すように、この種のクロー30を用いて、井桁状に積層された長尺状の鋼材Bを下方から掬い上げて、搬送することができる。通常は、図4(a)のように、井桁状構造の最上段に載置された、所定本数(ここでは3本)の鋼材Bの下方にクロー30を挿入して鋼材Bを掬い上げるが、作業者の錯誤等により、図4(b)のように、所定本数を超える鋼材B(図では右端の鋼材B)にクロー30の先端を掛けてしまう場合や、図4(c)のように、下段の鋼材Bの下方にクロー30を挿入してしまう場合が生じうる。これらの事態が生じると、鋼材Bが持ち上げられる際に、クロー30に過剰な荷重が印加され、クロー30に曲損が発生してしまう可能性がある。
クレーン等の昇降装置において、過剰な負荷の印加を防止するための制御として、インバータ制御されるモータの出力トルクを監視し、オーバートルク状態が発生すると、モータを緊急停止させる形態が用いられる場合がある。例えば、特許文献2に、インバータ制御によるモータを駆動源として使用し、減速停止時にブレーキ機構を作動させるようにしたクレーンにおいて、モータに供給される電流を検出して該モータにおけるオーバートルクの有無を判定する手段を有し、該判定に用いるレベルを、クレーンの減速停止に際してはレベルA、それ以外の運転に際してはレベルBとし、しかもレベルAをレベルBよりも高くなるように設定した、クレーンにおけるインバータ制御モータのトルク監視方法が開示されている。
クレーン等の昇降装置において、構成部材を過剰な荷重の印加から効果的に保護するためには、搬送対象物を支持具で支持して上昇させる過程において、なるべく早期に、過荷重を検知できるようにすることが好ましい。特に、特許文献1に開示されるようなクローを備えたクレーンにおいては、クローの曲損は、モータに過負荷が生じる荷重よりも小さな荷重でも生じることが多く、図4(b)のように、意図しない箇所にクロー30を引掛けてしまった場合や、図4(c)のように、過剰量の搬送対象物を掬い上げてしまった場合には、搬送対象物が設置面を離れる瞬間(地切りの瞬間)に、過荷重状態が発生したと検知し、クロー30の上昇を停止させられることが望ましい。
特許文献2のように、インバータ制御されるモータにおいては、大きな荷重が印加されるほど、モータトルクが大きくなるので、モータトルクを監視し、モータトルクが所定の閾値を超えたことをもって、過荷重状態の発生を検知することができるが、地切りの瞬間に過荷重状態を検出するためには、モータの始動後、できるかぎり早期にモータトルクの監視を開始することが重要となる。しかし、クレーンにおいて上昇運動を開始する際には、通常、ブレーキを閉状態としたままモータを始動するため、図5等に示すように、モータの駆動初期に、モータトルクが急激に上昇し、閾値との比較によって、過荷重状態を正確に検知することが難しくなる。図5中の閾値Lのように、モータ駆動初期のモータトルクの上昇値よりも低いレベルに、閾値を設定する場合に、モータ駆動初期のモータトルクの上昇を過荷重状態と誤検知するのを防止するためには、モータトルクの上昇が収束してから、閾値との比較によるトルク監視を開始する必要がある。一方、地切り後なるべく早期に過荷重状態を検知できるようにするためには、モータトルクの上昇が収束した後、早期にトルク監視を開始する必要がある。
特許文献2では、クレーンの減速停止時よりも低いレベル(レベルB)に閾値を設けて、モータ駆動初期のモータトルクを監視しており、モータの駆動開始と同時に、レベルBを閾値としたモータトルクの監視が開始されている。この場合に、レベルBを、モータ駆動初期のモータトルクの上昇値よりも低いレベルに設定するならば、やはり、モータ駆動初期のモータトルクの上昇を、過荷重状態が発生したと誤検知することになる。
このような誤検知を避けるために、図5(b)に示すように、モータの回転開始から所定の時間(時間ta)が経過してから、閾値との比較によるモータトルクの監視を開始する形態がとられる場合もある。しかし、その場合には、モータトルクの監視を開始するまでの時間が長くなりやすく、地切りの瞬間、あるいは地切りから短時間の間に過荷重状態を検知するのが難しくなる。特に、昇降装置の上昇速度を変更可能である場合には、選択する速度によって、モータ駆動初期のモータトルクの急激な立ち上がりが収束するまでの時間が異なるため、選択した上昇速度によっては、地切り後、過荷重状態を検知できるまでの時間が、他の上昇速度を選択した場合よりも、さらに長くなる場合がある。このように、モータの回転開始からの時間経過を契機として、モータトルクの監視を開始する場合には、過荷重状態が発生していても検知できない時間が長くなりやすく、クローの曲損等、昇降装置の構成部材に損傷が発生するリスクが高くなる。
本発明が解決しようとする課題は、モータによって搬送対象物を昇降させる昇降装置において、搬送対象物を支持し、上昇を開始した後、早期に、過荷重状態を正確に検出し、上昇運動を緊急停止させることができる昇降装置を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明にかかる昇降装置は、ブレーキを備えたモータと、前記モータに周波数可変の交流を駆動電源として出力する電源部と、搬送対象物を支持し、前記モータの回転によって昇降される支持具と、前記電源部および前記ブレーキを制御し、前記モータの回転を緊急停止させることができる制御部とを有し、前記支持具の上昇の開始時に、前記電源部は、前記駆動電源の周波数を徐々に増大させ、前記制御部は、前記駆動電源の周波数が所定値に安定した時点で、モータトルクの監視を開始し、前記モータトルクが閾値を超えたのを検出すると、前記モータの回転を緊急停止させるものである。
ここで、前記昇降装置は、クレーンであるとよい。
前記支持具は、前記搬送対象物に対して重力方向下側に挿入され、前記搬送対象物を重力方向下側から支持するものであるとよい。
前記電源部は、前記駆動電源の周波数および前記モータトルクに応じた電気信号を出力可能であり、前記制御部は、該電気信号を入力されることで、前記モータトルクを監視するとよい。
前記支持具の上昇速度を、複数の設定速度から選択可能であり、選択された設定速度によって、前記支持具の上昇を開始する際に前記駆動電源の周波数が安定するまでの時間が、異なるとよい。
上記発明にかかる昇降装置においては、支持具の上昇を開始する際に、電源部が出力する駆動電源の周波数が、徐々に増大し、所定値に安定した時点で、モータトルクの監視を開始する。そのため、モータ駆動初期にモータトルクが急激に上昇するのを、過荷重状態が発生したと誤検知するのを抑制し、過荷重状態の検出を正確に行うことが可能となる。一方、モータの駆動電源の周波数が徐々に増大している間は、搬送対象物を支持した支持具の上昇距離が小さいので、周波数が所定値に安定した時点でモータトルクの監視を開始することにより、過荷重状態が発生していれば、搬送対象物が大きく上昇される前に、早期に発見し、上昇運動を緊急停止させることができる。このようにして、誤検知による搬送作業の効率低下を避けながら、過荷重状態を早期に発見できるようにすることで、支持具等、昇降装置の構成部材に、過荷重の印加によって損傷が発生するのを、効果的に抑制することができる。
ここで、昇降装置が、クレーンである場合には、過荷重状態が発生しやすく、また過荷重状態が発生した際に、構成部材の損傷等の影響が大きくなりやすいため、搬送対象物を支持具で支持して上昇させる際に、初期に過荷重状態を正確に検出し、上昇を停止させることの効果が、大きくなる。
支持具が、搬送対象物に対して重力方向下側に挿入され、搬送対象物を重力方向下側から支持するものである場合には、支持具がそのような形態をとることにより、他の形態をとる場合よりも、過荷重の印加によって、曲損等の損傷が、支持具に発生しやすい。支持した搬送対象物の荷重が大きすぎる場合には、搬送対象物を支持して上昇を開始した直後から、曲損の可能性が生じる。しかし、駆動電源の周波数が所定値に安定した時点から、モータトルクの監視を開始し、支持具の上昇開始後、早期に、過荷重状態の発生を検出できるようにすることで、支持具の曲損を効果的に抑制することができる。特許文献1に記載されるようなクローが、この形態の支持具に相当する。
電源部が、駆動電源の周波数およびモータトルクに応じた電気信号を出力可能であり、制御部が、該電気信号を入力されることで、モータトルクを監視する場合には、簡素な装置構成で、駆動電源の周波数の安定を契機としたモータトルクの監視を、実行することができる。
支持具の上昇速度を、複数の設定速度から選択可能であり、選択された設定速度によって、支持具の上昇を開始する際に駆動電源の周波数が安定するまでの時間が、異なる形態においては、いずれの設定速度を選択した場合でも、駆動電源の周波数が安定した時点で、モータトルクの監視を開始するので、選択した設定速度によらず、搬送対象物が大きく上昇される前に、過荷重状態を早期に、また正確に検知し、上昇運動を緊急停止させることができる。
以下、本発明の一実施形態にかかる昇降装置について、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明の実施形態にかかる昇降装置は、搬送対象物を支持した支持具を、モータの回転によって昇降させられるものであれば、特にその種類を限定されるものではない。その種の昇降装置としては、搬送対象物を空中で支持して搬送するクレーン、搬送対象物を支持して床面または軌道上を走行する自動搬送装置、搬送対象物や人員を収容して昇降させるリフトやエレベータ等を例示することができる。以下では、昇降装置がクレーンである場合について、詳細に説明する。しかし、以下で説明する過荷重監視にかかる構成は、各種昇降装置に同様に適用することができる。
[クレーンの概略]
図1に、本発明の一実施形態にかかるクレーン1の構成を示す。また、図2に、その支持具であるクロー30の近傍の拡大図を示す。さらに、図3に、クレーン1の駆動制御装置40の構成を示す。
図1に、本発明の一実施形態にかかるクレーン1の構成を示す。また、図2に、その支持具であるクロー30の近傍の拡大図を示す。さらに、図3に、クレーン1の駆動制御装置40の構成を示す。
本実施形態にかかるクレーン1は、図1に概略を示すように、特許文献1に開示されるマストクレーンと同様の構造を有する。その構造について、簡単に説明する。
本クレーン1は、天井走行式クレーンであり、工場等の建屋の天井に設けられたレール(図略)上を、車輪11によって走行可能な走行体10を有している。また、走行体10の上面には、レール(図略)が設けられており、台車20が車輪21によって走行可能となっている。台車20には、モータ41を有する巻き揚げ装置22が搭載されている。
台車20からは、ワイヤーロープ23を介して、柱状のマスト24が垂下されている。ワイヤーロープ23は、滑車25を介して、巻き揚げ装置22によって、繰り出しおよび巻き取り可能となっている。モータ41を一方向に回転させて、ワイヤーロープ23を巻き揚げ装置22から繰り出すことで、マスト24が下降する。一方、モータ41を他方向に回転させて、ワイヤーロープ23を巻き揚げ装置22に巻き取ることで、マスト24が上昇する。さらに、台車20の底面に固定して、トラス構造体26が垂設されており、マスト24は、トラス構造体26に対して回転可能となっている。また、台車20の下方には、トラス構造体26に固定されて、作業者が搭乗してクレーン1の操作を行う操作室12が設けられている。
マスト24の下端には、搬送対象物を運搬するための長尺状のビーム27が取り付けられている。ビーム27の下面には、相互に離間して、支持具としてのクロー30が複数(図では4つ)取り付けられている。
図2にクロー30の近傍の構造を示す。クロー30は、ほぼコの字形の断面形状を有しており、水平方向に延びた取り付け部31と、取り付け部31の一端から下方に延びた垂下部32と、垂下部32の下端部から取り付け部31とほぼ平行に延びた支持部33を有している。クロー30は、取り付け部31において、ビーム27に取り付けられている。クロー30は、支持部33の上面に、搬送対象物を載置して支持する。垂下部32には、支持部33に載置した搬送対象物に当接させるストッパ34が設けられている。
クレーン1において、巻き揚げ装置22のモータ41を回転させることで、ワイヤーロープ23を介して、マスト24に結合されたビーム27を昇降させることができる。クロー30にて搬送対象物を支持した状態で、マスト24を上昇させることで、搬送対象物が空中で支持される。その状態で、天井面に対する走行体10の移動、また走行体10に対する台車20の移動を駆動することで、搬送対象物を移動させることができる。
図3に、モータ41の制御を行う駆動制御装置40の概略を示す。駆動制御装置40は、巻き揚げ装置22に含まれるモータ41に加え、電源部42と、ブレーキ43と、制御部44を有している。電源部42は、巻き揚げ装置22のモータ41に駆動電源を供給する電源供給装置であり、周波数可変の交流を駆動電源として出力することで、モータ41の回転速度およびモータトルクを制御することができる。電源部42は、商用電源等の交流電源(AC)から、任意の周波数の交流を生成できるものであればよく、コンバータ回路およびインバータ回路を含むインバータ装置、マトリクスコンバータ等、モータの制御に用いられる公知の電源装置を利用することができる。ブレーキ43は、モータ41の軸回転を停止させる機構であり、電磁ブレーキ等、公知の機構を利用することができる。
制御部44は、シーケンサ、コンピュータ等より構成することができ、制御信号S1により、電源部42を介してモータ41の回転状態を制御できるとともに、制御信号S2により、ブレーキ43の開閉を制御することができる。また、電源部42は、モータ41に供給する駆動電源の周波数に応じた周波数信号F、およびモータ41のモータトルクに応じたトルク信号Tを、電気信号として、制御部44に出力することができる。制御部44は、それらの電気信号F,Tによって、モータ41に供給されている駆動電源の周波数、およびモータトルクの大きさを認識することができる。電源部42としては、モータに出力される駆動電源の周波数やトルク指令値を、電圧値に変換して出力できる出力端子を有するインバータ装置やマトリクスコンバータが、一般に利用可能であり、周波数信号Fおよびトルク信号Tとして、それらの出力端子からの信号を利用することが好ましい。
制御部44は、操作室12の中から、作業者によって操作可能であり、作業者は、制御部44を介して、マスト24の昇降/停止の制御や、昇降速度の設定等を、行うことができる。制御部44は、このような作業者による制御に加え、後に詳しく説明するように、マスト24の上昇運動中に、周波数信号Fおよびトルク信号Tに基づいて、自動的に、モータトルクの監視を行う。そして、モータトルクの挙動から、過荷重状態の発生を検知すると、制御信号S1,S2を発して、電源部42からモータ41への電源供給を遮断させるとともに、ブレーキ43を閉状態(制動状態)として、モータ41の回転、およびマスト24に結合されたクロー30の上昇運動を、緊急停止させることができる。
ここで、搬送対象物が長尺状の鋼材Bである場合を例に、クレーン1による搬送について説明する。搬送対象の鋼材Bは、図4(a)に示すように、井桁状に積層されている。つまり、複数の鋼材Bが幅方向に並べられた集合体が、長手方向を交互にほぼ直交させて、層状に積み上げられている。操作室12に搭乗した作業者は、制御部44を操作して、モータ41を一方向に回転させることでマスト24を下降させる。そして、走行体10や台車20の座標制御、およびトラス構造体26に対するマスト24の回転制御を適宜併用しながら、作業者は、一旦、マスト24の昇降運動を停止させ、図6(b)に示すように、クロー30の支持部33を最上段の鋼材Bの下側に挿入する。クロー30が複数(図では3本)の鋼材Bの下側に配置されると、モータ41の回転が停止され、ブレーキ43が閉状態とされる。その後、作業者は、制御部44を制御して、モータ41を反対方向に回転させ、マスト24を上昇させる。これにより、図4(a)および図6(c)に示すように、クロー30の支持部33が、複数の鋼材Bを、下側から支持した状態で、掬い上げる。鋼材Bは、長手方向に沿って複数の箇所を、それぞれ、共通のビーム27に取り付けられたクロー30によって、支持された状態となる。クロー30によって空中で鋼材Bを支持した状態で、作業者が、走行体10および台車20の座標を制御することで、クレーン1の可動範囲の任意の位置に、鋼材Bを搬送することができる。
[過荷重状態の監視]
(1)監視の形態
本実施形態にかかるクレーン1においては、上記のように、マスト24を介してクロー30を上昇させる間、制御部44が、電源部42から出力される周波数信号Fおよびトルク信号Tに基づいて、モータトルクを監視し、過荷重状態が検出されれば、電源部42およびブレーキ43を制御信号S1,S2によって制御し、モータ41の回転を緊急停止させる。以下、モータトルクの監視による過荷重の検出について説明する。
(1)監視の形態
本実施形態にかかるクレーン1においては、上記のように、マスト24を介してクロー30を上昇させる間、制御部44が、電源部42から出力される周波数信号Fおよびトルク信号Tに基づいて、モータトルクを監視し、過荷重状態が検出されれば、電源部42およびブレーキ43を制御信号S1,S2によって制御し、モータ41の回転を緊急停止させる。以下、モータトルクの監視による過荷重の検出について説明する。
まず、検出すべき過荷重状態について説明する。上記で説明したように、井桁状に積層された鋼材Bをクレーン1で搬送する際、正常であれば、図4(a)に示すように、最上段の鋼材Bの下側にクロー30の支持部33を挿入し、最上段の鋼材Bを、所定本数だけ掬い上げる。図示した形態では、所定本数は3本である。モータ41のモータトルクの定格をはじめ、クレーンの各構成部材の設計は、このように所定本数の鋼材Bを掬い上げる際の荷重に対して、余裕をもたせたものとなっている。
しかし、操作室12でクレーン1を操作する作業者の錯誤等により、図4(b)のように、所定本数よりも多数(図では4本)の鋼材Bの下方にクロー30の支持部33を挿入してしまい、支持部33の先端部を、余剰の鋼材Bに引掛けてしまう場合がある。あるいは、最上段の鋼材Bではなく、下段の鋼材Bの下側にクロー30の支持部33を挿入してしまう場合がある。特に、図4(c)のように、最上段の鋼材Bと平行に配置された上から3段目の鋼材Bの下側に、クロー30の支持部33を挿入してしまう事態が起こりやすい。操作室12は、走行体10に設けられたレールを走行する台車20に設置されており、作業者は、井桁状に積層された鋼材Bを上方から見てクレーン1の操縦を行うため、積層体の高さ方向の構造を、正確に視覚認識することが難しく、図4(b)のような支持部33の先端の引掛けや、図4(c)のような下段での掬い上げが起こりやすい。
図4(b)のように、クロー30の先端を鋼材Bに引掛けた状態や、図4(c)のように下段の鋼材Bを掬い上げた状態のまま、クロー30を上昇させようとすると、クロー30に過大な荷重が印加されることになる。すると、その過荷重によって、クロー30に曲損が起こる可能性がある。つまり、支持部33と垂下部32との境界部や、支持部33の中途部等が、曲がってしまう可能性がある。クロー30の曲損は、クロー30を、固定物に掛けてしまった場合等にも起こりうる。
クロー30に曲損が起こると、クロー30の修理や交換が必要となり、鋼材Bの搬送を継続することができなくなる。よって、このような過荷重状態を、できるかぎり早期に検出し、曲損が発生する前、あるいは深刻となる前に、クロー30の上昇を停止させることが重要となる。クロー30の上昇を停止させれば、次いで、作業者がクロー30の下降等の措置を取ることで、曲損の発生を抑制することができる。そこで、本実施形態にかかるクレーン1においては、制御部44が、モータ41を始動させてクロー30を上昇させる過程の初期段階から、モータトルクに基づき、過荷重状態の発生の有無を監視する。
図5(a)を参照しながら、本実施形態における過荷重状態の監視について説明する。図5(a)には、電源部42から出力される周波数信号Fおよびトルク信号Tに基づいて、制御部44にて監視される、モータ41の駆動電源の周波数(破線)およびモータトルク(実線)の時間変化を、クロー30の上昇開始前の状態から表示している。併せて、制御部44によって制御されるブレーキ43の開閉状態(実線)、および制御部44で設定されるモータトルクの閾値(監視閾値;一点鎖線)も示している。
図5(a)の初期状態においては、クロー30が下降した位置に配置されており、モータ41の回転は駆動されていない。また、ブレーキ43は閉状態となっており、モータ41の回転軸を回転しないように固定している。作業者が、制御部44を介してクロー30の上昇を指示すると、まず、時刻t0において、モータ41がごく低周波数で回転を開始する。ブレーキ43は閉状態のまま保持される。この際、閉状態となったブレーキ43に抗って、モータ41の回転が開始されることになるので、モータトルクが急激に上昇する。このように、ブレーキ43を閉状態としたままモータ41の回転を開始するのは、ブレーキ43を開放した際に、搬送対象物を支持したクロー30が急に下降すること(ずり下がり)を防止するためである。
その後、時刻t1において、ブレーキ43が開放されるとともに、駆動電源の周波数の上昇が開始される。ブレーキ43の開放により、その後、モータトルクは、下降を始める。
駆動電源の周波数は、徐々に増大され、時刻t2において、所定の目標値に達して、その目標値で安定するようになる。周波数の目標値は、制御部44にて作業者が設定したクロー30の上昇速度に応じて定められ、上昇速度が大きいほど、目標周波数は大きくなる。時刻t2までは、制御部44に、周波数信号Fとともに、トルク信号Tは入力されているものの、制御部44は、モータトルクの監視を行っていない。しかし、時刻t2において、駆動電源の周波数が目標値に安定した時点で、制御部44は、モータトルクの監視を開始する。つまり、モータトルクの値と閾値Lとの比較を開始する。
時刻t0から上昇し、その後、ブレーキ43の開放に伴って下降していたモータトルクは、時刻t2までには、低いレベルに落ち着いている。しかし、図示した形態においては、その後、モータトルクは上昇を始め、時刻t3に、閾値Lに達している。制御部44は、時刻t2から閾値Lとの比較によるモータトルクの監視を継続しており、時刻t3において、モータトルクが閾値Lを超えたのを検出する。すると、制御部44は、即座に、電源部42からモータ41への駆動電源の出力を停止するともに、ブレーキ43を閉状態に切り替えるべく、制御信号S1,S2を発する。そして、制御部44および電源部42、ブレーキ43の動作に要する不可避的な時間経過を経て、時刻t4で、実際に、電源部42からモータ41への駆動電源の供給が遮断されるとともに、ブレーキが閉状態となり、モータ41の緊急停止が完了する。モータ41の回転の緊急停止に伴い、クロー30の上昇運動も緊急停止される。ここで、モータトルクは、クロー30に印加される荷重が大きくなるほど、大きくなり、閾値Lは、クロー30の曲損を避ける観点から、クロー30に印加してもよい荷重の上限に対応するモータトルク値として定められている。
クロー30に過荷重状態が発生しておらず、図4(a)のように正常に規定本数の鋼材Bを掬い上げていれば、モータトルクは、時刻t2までに初期の上昇が収束した後は、閾値Lを超えることはない。よって、モータ41が緊急停止されることはない。しかし、図5(a)では、時刻t2の後、モータトルクが上昇する場合を想定している。図4(b),(c)のように、過荷重状態が発生すると、そのように、モータトルクが上昇する。上記のように、図5(a)では、時刻t3において、モータトルクが閾値Lを超えており、それを即座に検知した制御部44が、制御信号S1,S2を発し、モータ41の回転を急停止させている。
このように、モータ41の駆動電源の周波数が所定の目標値に安定したことを検出して、モータトルクの監視を開始することで、過荷重状態が発生していれば、クロー30の上昇運動の開始後、初期に検出し、モータ41を緊急停止させることができる。モータ41の駆動電源の周波数が徐々に増大されている間は、まだクロー30の上昇速度が目標値に達していないので、クロー30の上昇量は、それほど大きくなっておらず、鋼材Bが高く掬い上げられていない。換言すると、鋼材Bは、クロー30に掬い上げられて、地切りの瞬間、つまり、載置面(1段下層の鋼材Bの上面)を離れた瞬間(あるいは載置面を離れた途端の状態;他の箇所においても同様)にある。そのように、地切りの瞬間の状態で過荷重状態を検出し、それ以上のクロー30の上昇を行わないようにすることにより、過荷重状態のままでクロー30が上昇するのに伴って、クロー30に深刻な曲損が発生するのを、抑制することができる。
一方、モータ41の周波数が所定の目標値に安定しないうちは、モータトルクの監視を行わないようにすることで、時刻t0からブレーキ43を閉状態としたままモータ41の回転を開始したことに伴って、初期にモータトルクが閾値Lを超えて急上昇する現象を、過荷重状態であると誤検知し、クロー30の上昇運動の開始を妨げる事態を、避けることができる。誤検知が起こると、異常が発生していない場合でも、搬送対象物の上昇が中断されてしまうため、搬送作業の能率が低下する。
上記のように、モータ41の回転開始直後のモータトルクの急激な上昇は、ブレーキ43を閉状態としままモータ41の回転を開始することによる負荷に起因している。そのように、ブレーキ43を閉状態としている間は、モータ41の駆動電源の周波数は、わずかしか上昇されない。その後、時刻t1でブレーキ43を開放して、ブレーキ43によるモータ41への負荷が除去された状態で、目標値に向けた駆動電源の周波数の増大が開始される。よって、駆動電源の周波数が目標値に安定する時刻t2の時点では、ブレーキ43からの負荷に起因するモータトルクの上昇は、おおむね収束している。従って、駆動電源の周波数の安定を、モータトルクの監視を開始するためのトリガーとすることで、モータ41の始動時のモータトルクの急激な上昇の影響を避けながら、早期に、過荷重状態の監視を開始することが可能となっている。
(2)過荷重状態の検出例
図6,7に、実測された駆動電源の周波数およびモータトルクの挙動に基づいて、過荷重状態の監視について説明する。図6は、図4(a)のように、所定本数の鋼材Bを正常に掬い上げる場合を示している。上記で図5(a)に基づいて説明したのと同様に、時刻T0において、ブレーキ43を閉状態としたまま、モータ41の回転が開始され、その後、ブレーキ43を開放するとともに、駆動電源の周波数が徐々に上昇される。時刻T0におけるクロー30の状態を図6(b)に示すが、正常に、3本の鋼材Bの下方に、支持部33が挿入されている。
図6,7に、実測された駆動電源の周波数およびモータトルクの挙動に基づいて、過荷重状態の監視について説明する。図6は、図4(a)のように、所定本数の鋼材Bを正常に掬い上げる場合を示している。上記で図5(a)に基づいて説明したのと同様に、時刻T0において、ブレーキ43を閉状態としたまま、モータ41の回転が開始され、その後、ブレーキ43を開放するとともに、駆動電源の周波数が徐々に上昇される。時刻T0におけるクロー30の状態を図6(b)に示すが、正常に、3本の鋼材Bの下方に、支持部33が挿入されている。
時刻T2において、周波数が目標値に安定すると、閾値Lとの比較によるモータトルクの監視が開始される。その後、時刻T3において、モータトルクは上昇し始める。これは、図6(c)のように、クロー30に掬われた鋼材Bが、下層の鋼材Bによる支持を離れ、地切りが起こったことに対応している。このように、地切りに伴ってモータトルクが上昇するが、クロー30に印加される荷重は、過荷重とみなされない正常なものであり、モータトルクが閾値Lを超えることはない。正常に3本の鋼材Bを支持したクロー30は、上昇を続ける。
その後、鋼材Bを支持したクロー30が所定の高さ位置に達すると、時刻T5から、駆動電源の周波数が徐々に減少され、モータ41の回転が停止されるとともに、ブレーキ43が閉状態とされる。ブレーキ43が閉状態とされた後も、しばらくはモータ41が回転を続けるため、モータ41の駆動初期と同様に、モータトルクが急激に上昇する。しかし、制御部44は、周波数の減少が開始された後は、閾値Lとの比較によるモータトルクの監視を行わないので、この際のモータトルクの急上昇により、閾値Lを超えても、モータ41の回転が緊急停止されることはない。このようにして、正常に掬い上げた鋼材Bの上昇が、完了される。
一方、図7には、図4(c)に示したように、下段の鋼材Bを掬い上げる場合を示している。時刻T0において、ブレーキ43を閉状態としたまま、モータ41の回転が開始され、その後、ブレーキ43を開放するとともに、駆動電源の周波数が徐々に上昇される。時刻T0におけるクロー30の状態を図7(b)に示すが、図6(b)の正常時とは異なり、最上段ではなく、下段(上から3段目)の鋼材Bの下方に、クロー30の支持部33が挿入されている。
時刻T2において、周波数が目標値に安定すると、閾値Lとの比較によるモータトルクの監視が開始される。時刻T3’において、図7(c)のように、鋼材Bが地切りの状態となるが、3段分の鋼材Bを掬い上げており、3段分の鋼材Bに対応する荷重がクロー30を介してモータ41に印加されることになる。そのため、モータトルクが急激に上昇し、閾値Lを超える。制御部44は、モータトルクが閾値Lを超えたのを検知すると、即座に、制御信号S1,S2により、電源部42とブレーキ43を制御し、モータ41の回転を緊急停止させる。そして、時刻T4において、モータ41の緊急停止が完了し、クロー30の上昇が停止される。時刻T3’から時刻T4までの間の経過時間は、制御部44および電源部42、またブレーキ43の動作に不可避的に要するごく短い時間のみである。よって、図7(d)に示すように、地切り後、クロー30の上昇が停止されるまでに、鋼材Bが掬い上げられる距離dは、ごく短いものである。距離dは、例えば、30mm以下とすることができる。クロー30の上昇が緊急停止されたことを認識した作業者は、クロー30を下降させ、クロー30への荷重の印加を解放した後、適宜、クロー30の点検、鋼材Bの積層構造へのクロー30の挿入のやり直し等を行えばよい。
このように、モータ41の駆動電源の周波数が安定した時点で、閾値Lとの比較によるモータトルクの監視を開始することで、モータ41の駆動開始直後のモータトルクの急激な上昇を、過荷重状態であると誤検知することなく、実際に過荷重状態が発生している場合には、早期に過荷重状態の発生を検知し、モータ41を緊急停止させることができる。図7に示したように、地切りの瞬間に過荷重状態を検知し、クロー30の上昇を停止させれば、過荷重状態のまま鋼材Bを高く持ち上げることによる曲損から、クロー30を保護することができる。図7(a)に表示した実測のデータで、時刻T2で、モータトルクの監視を開始してから、時刻T3’で過荷重状態を検出し、さらに時刻T4で実際にクロー30の上昇を停止するまでの経過時間は、最短で0.4秒であった。
(3)従来の形態との比較
従来からも、クレーン1において、モータトルクの監視による過荷重状態からの保護は、行われている。しかし、モータトルクと閾値との比較によって過荷重状態の監視を開始する時期を、上記本発明の実施形態のように、駆動電力の周波数を指標として決定するのではなく、例えば、モータ41の回転開始から、所定の時間(無監視時間)が経過したことをもって、モータトルクによる過荷重状態の開始を開始していた。
従来からも、クレーン1において、モータトルクの監視による過荷重状態からの保護は、行われている。しかし、モータトルクと閾値との比較によって過荷重状態の監視を開始する時期を、上記本発明の実施形態のように、駆動電力の周波数を指標として決定するのではなく、例えば、モータ41の回転開始から、所定の時間(無監視時間)が経過したことをもって、モータトルクによる過荷重状態の開始を開始していた。
そのような時間の経過を指標としてモータトルクの監視を開始する従来の形態を、図5(b)に示す。ここでは、時刻t0にモータ41の回転を開始してから、所定の無監視時間ta(例えば4秒)が経過するまでは、制御部44は、閾値Lとの比較によるモータトルクの監視を開始しない。時間taが経過すると、制御部44は、モータトルクの監視を開始し、以降、モータトルクが閾値Lを超えると、モータ41の回転を緊急停止させる。図5(b)では、図5(a)と同様に、時刻t3において、モータトルクが閾値Lを超えているが、時刻t3は、時刻t0から無監視時間taが経過するよりも前であり、制御部44は、時刻t3の時点では、モータトルクが閾値Lを超えたことを、検出することができない。そして、無監視時間taが経過した時点(時刻t2’)ではじめて、モータトルクが閾値Lを超えていることを検知し、過荷重状態が発生していることを認識して、モータ41の回転を緊急停止させるための制御信号S1,S2を発する。そして、不可避的な動作時間の後、時刻t4’で、実際に、モータ41の回転が緊急停止される。
この場合、過荷重状態の検知に、時刻t3から時刻t4’にわたる遅延時間が生じる。その遅延時間の間、過荷重状態が発生しているにもかかわらず、モータ41は回転を続け、鋼材Bを支持したクロー30は、上昇を続ける。その間、クロー30に大きな負荷が印加され、クロー30に曲損が発生する可能性がある。モータ41の駆動開始直後に、ブレーキ43を閉状態としたままモータ41を回転させることにより、モータトルクが閾値Lを超えて大きくなる現象を、過荷重状態が発生したと誤検知するのを避けるためには、無監視時間taを長めに設定する必要があるが、そうすると、過荷重状態が発生している場合に、それを検知できるまでの遅延時間が、ますます長くなる。一方、その遅延時間を短くすべく、モータ41の回転開始後、モータトルクの監視を行わない無監視時間taを短くするとすれば、モータ41の駆動開始直後のモータトルクの急激な上昇を、過荷重状態が発生したと誤検知しやすくなり、搬送作業の能率を低下させることになる。
この従来の形態のように、モータ41の回転開始から所定の無監視時間の経過を待ってモータトルクの監視を開始する形態においては、過荷重状態を、早期に、また正確に検出するのが難しい。この従来の監視形態は、主に、モータ41自体を過負荷から保護するために用いられてきた。他にも、モータ41自体を過負荷から保護するための制御として、モータ41に流れる電流を監視する形態がある。いずれの形態においても、過荷重状態の発生から検出まで、長い時間、例えば数秒の時間を要するものであった。通常、クレーンにおいては、想定される荷重に対して、かなり余裕をもって、モータの定格が設定されており、過荷重状態が発生した際に、即座にモータの回転を停止させなくても、深刻な故障等には至りにくいこと等が、その理由である。また、クレーン1には、搬送対象物の重量を計測する等の目的で、ワイヤーロープ23に荷重計(ロードセル)が設けられる場合があり、その荷重計測機構を、過荷重状態の検出に利用することも考えられる。しかし、荷重計を用いて正確に荷重を計測するためには、搬送対象物の支持状態が安定するまで待つ必要があり、過荷重状態が正確に検出できるようになるまでに、長い時間がかかる。
このように、従来から用いられているモータ41の保護や荷重計測のための機構を、過荷重状態の監視に転用するとすれば、過荷重状態を検知するまでに、長い時間を要することになる。しかし、クロー30をはじめとする支持具は、モータ41の定格よりも小さい荷重の印加でも、損傷を起こしやすく、損傷を防ぐためには、過荷重状態が発生してから、早期に運転を停止することが重要となる。特に、上で説明したクロー30は、板状の支持部33が、一端を垂下部32に支持されて、他端がほぼ水平方向に延出しているという構造により、また、鋼材B等の搬送対象物を、支持部33で重力方向下方から支持するという機構により、過荷重の印加を受けた際に、容易に曲損を起こしてしまう。そこで、従来のモータ保護や荷重計測のための機構のように、検出までに長い時間を要する監視方法ではなく、本実施形態のように、駆動電源の周波数の安定をトリガーとして、早期にモータトルクの監視を開始し、過荷重状態が発生すると早期に検出できるようにしておくことで、クロー30をはじめとするクレーン1の構成部材を、過荷重による損傷から効果的に保護することができる。同時に、誤検知による搬送作業の能率低下も、防ぐことができる。
また、本実施形態においては、駆動電源の周波数およびモータトルクに基づく過荷重状態の監視を、インバータ装置やマトリクスコンバータ等よりなる電源部42から電気信号として出力される、周波数信号Fおよびトルク信号Tを利用して、行っている。よって、駆動電源の周波数およびモータトルクの監視を安定して行うことができる。また、従来一般に、モータの駆動および制御に用いられている電源装置を、そのまま電源部42として利用することができるので、過荷重状態の監視にかかる機構を、簡便に、また安価に構築することができる。定期的な点検や校正の頻度も少なくて済む。特許文献2のように、電源装置(インバータユニット)とモータの間に、電流検出器を設けて、モータトルクを読み取る形態も考えられるが、その場合は、読み取られたモータトルクの値が不安定になりやすいとともに、電流計検出器の設置に、装置の改造と費用を要する。
(4)上昇速度の変更と過荷重監視
さらに、本実施形態においては、モータ41の駆動電源の周波数が安定した時点で、モータトルクの監視を開始することにより、モータ41の回転速度が変化することがあっても、過荷重状態の検出を、早期に、また正確に行うことができる。クレーン1においては、通常、クロー30等の支持具を上昇させる際の上昇速度を、複数の設定速度から選択可能となっている。上昇速度の選択は、操作室12から、作業者が行うことができる。
さらに、本実施形態においては、モータ41の駆動電源の周波数が安定した時点で、モータトルクの監視を開始することにより、モータ41の回転速度が変化することがあっても、過荷重状態の検出を、早期に、また正確に行うことができる。クレーン1においては、通常、クロー30等の支持具を上昇させる際の上昇速度を、複数の設定速度から選択可能となっている。上昇速度の選択は、操作室12から、作業者が行うことができる。
クロー30の上昇速度を速くするほど、電源部42からモータ41に供給される駆動電源の周波数が高くなる。上記のように、モータ41の回転を駆動してクロー30の上昇を開始する際に、電源部42から出力される周波数は、徐々に増大され、目標値に達するように制御されるが、クロー30の上昇速度として選択された設定速度によって、駆動電源の周波数が目標値に安定するまでの時間は異なる。つまり、設定速度が大きくなり、目標周波数が高くなると、目標値に達するまでに要する時間が長くなる。また、目標周波数が高くなるほど、モータ41の回転開始直後のモータトルクの上昇量も大きくなり、上昇が収束するまでの時間も長くなる。
図8に、クロー30の上昇速度を変更した場合の周波数およびモータトルクの挙動について、実測した例を示す。クロー30の上昇速度が、(a)で低速(1ノッチ)、(b)で中速(2ノッチ)、(c)で高速(3ノッチ)となっている。周波数の時間変化を破線にて表示しているが、クロー30の上昇速度が速くなるほど、目標周波数、つまり増大後に平坦になる周波数レベルが、高くなっている。また、ガイド線で表示するように、クロー30の上昇速度が速くなるほど、周波数が増大し、目標周波数に達するまでの時間が、長くなっている。さらに、モータトルクが急激に上昇した後、小さな値に落ち着くまでの時間も、長くなっている。
従来のように、モータ41の回転開始から所定の無監視時間が経過した時点で、閾値との比較によるモータトルクの監視を開始する場合に、無監視時間を、クロー30の上昇速度によらず一定とするならば、モータトルクの初期の上昇が収束したにもかかわらず、モータトルクの監視が開始されない時間が、上昇速度が遅い場合ほど、長くなってしまう。また、無監視時間を短くすれば、特に上昇速度が速い場合に、モータトルクの初期の上昇を、過荷重状態が発生したと誤検知しやすくなる。無監視時間を、クロー30の上昇速度に応じて変更することも考えられるが、それでも、上昇速度の多様な変更に対応し、過荷重状態を早期に、また正確に検出することは難しい。例えば、作業者が、モータ41の回転開始直後に、上昇速度を切り替えた場合等に、無監視時間を適切に設定することは難しい。
一方、本実施形態においては、周波数が、増大後に、目標値に安定した時点で、閾値との比較によるモータトルクの監視を開始する。図8(a)〜(c)のように、クロー30の上昇速度を変更し、周波数が目標値に安定するまでの時間が変化した場合でも、毎回、周波数の時間変化を監視し、実際に所定の目標値に安定したのを確認して、その時点でモータトルクの監視を開始するので、選択した上昇速度によらず、地切りの瞬間から、過荷重状態の有無を監視し、過荷重状態が発生すると、早期に、クロー30の上昇を停止させることができる。作業者が、モータ41の回転開始直後に、上昇速度を切り替える場合等、上昇速度が多様に変更されることがあっても、その変更様式に応じて、実際に周波数が所定値に安定したのを確認してから、モータトルクの監視を開始するので、誤検知を起こさずに、過荷重状態を早期に発見することが可能である。
以上、昇降装置が、支持具としてクロー30を備えたクレーン1である場合について、モータ41の駆動電源の周波数とモータトルクを指標として、過荷重状態を監視する形態について、詳細に説明した。上記のように、昇降装置の種類は、クレーンに限られるものではないが、クレーンは、各種昇降装置の中でも、作業者等が十分に認識できないまま、過荷重状態が発生しやすいものであり、また、過荷重状態を早期に検知することが重要であるため、上記のように、モータの駆動電源の周波数とモータトルクを指標として、上昇開始直後に、正確に、また早期に過荷重状態を検出することの意義が大きい。また、支持具も、クロー30に限定されるものではなく、フックやバスケット等であってもよいが、上記のように、搬送対象物に対して重力方向下方から挿入し、支持する形態のクロー30等の支持具は、その構造および支持機構から、他種の支持具に比べて、過荷重による損傷が深刻となりやすいので、本実施形態を適用し、早期に過荷重状態を検出することで、過荷重からの保護することの効果を、特に高めることができる。
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
1 クレーン(昇降装置)
10 走行体
20 台車
22 巻き揚げ装置
23 ワイヤーロープ
24 マスト
27 ビーム
30 クロー(支持具)
31 取り付け部
32 垂下部
33 支持部
40 駆動制御装置
41 モータ
42 電源部
43 ブレーキ
44 制御部
B 鋼材(搬送対象物)
10 走行体
20 台車
22 巻き揚げ装置
23 ワイヤーロープ
24 マスト
27 ビーム
30 クロー(支持具)
31 取り付け部
32 垂下部
33 支持部
40 駆動制御装置
41 モータ
42 電源部
43 ブレーキ
44 制御部
B 鋼材(搬送対象物)
Claims (5)
- ブレーキを備えたモータと、
前記モータに周波数可変の交流を駆動電源として出力する電源部と、
搬送対象物を支持し、前記モータの回転によって昇降される支持具と、
前記電源部および前記ブレーキを制御し、前記モータの回転を緊急停止させることができる制御部とを有し、
前記支持具の上昇の開始時に、前記電源部は、前記駆動電源の周波数を徐々に増大させ、前記制御部は、前記駆動電源の周波数が所定値に安定した時点で、モータトルクの監視を開始し、前記モータトルクが閾値を超えたのを検出すると、前記モータの回転を緊急停止させることを特徴とする昇降装置。 - 前記昇降装置は、クレーンであることを特徴とする請求項1に記載の昇降装置。
- 前記支持具は、前記搬送対象物に対して重力方向下側に挿入され、前記搬送対象物を重力方向下側から支持するものであることを特徴とする請求項1または2に記載の昇降装置。
- 前記電源部は、前記駆動電源の周波数および前記モータトルクに応じた電気信号を出力可能であり、前記制御部は、該電気信号を入力されることで、前記モータトルクを監視することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の昇降装置。
- 前記支持具の上昇速度を、複数の設定速度から選択可能であり、
選択された設定速度によって、前記支持具の上昇を開始する際に前記駆動電源の周波数が安定するまでの時間が、異なることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の昇降装置。
Priority Applications (1)
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---|---|---|---|
JP2019107864A JP2020200145A (ja) | 2019-06-10 | 2019-06-10 | 昇降装置 |
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- 2019-06-10 JP JP2019107864A patent/JP2020200145A/ja active Pending
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