JP2020193646A - スラストころ軸受、及び、スラストころ軸受の軌道輪の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】スラストころ軸受において、第一軌道輪と第二軌道輪との内の少なくとも一方と、保持器との間における摩耗を防ぐ。【解決手段】スラストころ軸受10は、第一軌道輪11と、第二軌道輪12と、複数のころ13と、保持器14とを備える。第一軌道輪11は、ころ13が転がり接触する軌道面16を有する第一円環部15と、第一円筒部17とを有する。第二軌道輪12は、ころ13が転がり接触する軌道面19を有する第二円環部18と、第二円筒部20とを有する。第一円環部15と第二円環部18とは、軌道面16,19から軸方向に隆起し、ころ13の軸方向端部13a,13bと接触可能である隆起部41,46を有する。保持器14及びころ13が径方向に変位すると、保持器14が第一円筒部17(第二円筒部20)に接触する前に、ころ13の軸方向端部13a(13b)が隆起部41(46)に接触する。【選択図】 図1
Description
本発明は、スラストころ軸受、及び、その軌道輪の製造方法に関する。
スラストころ軸受は、相対回転する第一部材と第二部材との間に生じるアキシアル荷重を受けることができる。スラストころ軸受は、自動車及び産業建設機械のトランスミッション等、多くの回転機器に用いられる。
図8に示すように、スラストころ軸受90は、第一部材99に取り付けられる第一軌道輪91と、第二部材98に取り付けられる第二軌道輪92と、複数のころ93と、保持器94とを備える。第一軌道輪91と第二軌道輪92とが相対回転すると、ころ93は、保持器94によって適切な姿勢となるように保持されて、自転しながら公転する。
スラストころ軸受90が回転すると、保持器94の径方向外側の端部95aが、第一軌道輪91の円筒部(フランジ部)96に滑り接触する。これにより、保持器94はガイドされる。つまり、第一軌道輪91の円筒部96によって、保持器94は径方向について位置決めされる。特許文献1に開示のスラストころ軸受90では、前記滑り接触による摩擦抵抗を小さくするために、保持器94の前記端部95aの断面形状が、突曲形状とされている。
スラストころ軸受90が、高速回転でかつ高荷重の条件で用いられると、保持器94と第一軌道輪91との滑り接触による摩耗が発生しやすくなる。特に、図8に示すように、中心線Cが水平線に沿うようにして、スラストころ軸受90が回転機器に取り付けられると、前記摩耗が発生しやすくなる場合がある。すなわち、回転機器では、第一部材99と第二部材98とは相対的に僅かではあるが径方向に変位可能となっている。このため、組み立ての際、重力によって、第一部材99が第一軌道輪91と共に下に変位する場合がある。すると、円筒部96が保持器94の端部95aに接触した状態となり、更に、円筒部96が保持器94を押し下げる。この結果、第一軌道輪91が第二軌道輪92に対して偏心した状態で組み立てされることになる。
この状態で、スラストころ軸受90に大きなアキシアル荷重が作用すると、偏心した状態にある第一軌道輪91と第二軌道輪92との間に、ころ93は強く挟まれた状態となる。すると、スラストころ軸受90が回転しても、偏心した状態は維持され、解消されにくく、保持器94の端部95aが円筒部96に繰り返し摺接する。この結果、端部95aが摩耗しやすくなる。
なお、回転機器の種類又は組み立ての態様等によっては、前記のような偏心した状態での回転により、保持器94の内周側の端部95bが、第二軌道輪92の円筒部97に、強く摺接することがある。すると、内周側の端部95bが摩耗しやすくなる。
そこで、本開示の目的は、スラストころ軸受において、第一軌道輪と第二軌道輪との内の少なくとも一方と、保持器との間における摩耗を防ぐことにある。
本開示のスラストころ軸受は、第一軌道輪と、当該第一軌道輪の軸方向一方側に設けられ当該第一軌道輪と軸方向に対向する第二軌道輪と、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪との間に配置される複数のころと、前記ころを保持する保持器と、を備え、前記第一軌道輪は、前記ころが転がり接触する軌道面を有する第一円環部と、当該第一円環部の径方向外側から軸方向一方に延びる第一円筒部と、を有し、前記第二軌道輪は、前記ころが転がり接触する軌道面を有する第二円環部と、当該第二円環部の径方向内側から軸方向他方に延びる第二円筒部と、を有し、前記第一円環部と前記第二円環部との内の少なくとも一方は、前記軌道面から軸方向に隆起し、前記ころの軸方向端部と接触可能である隆起部を有し、前記保持器及び前記ころが径方向に変位すると、当該保持器が前記第一円筒部又は前記第二円筒部に接触する前に、当該ころの軸方向端部が前記隆起部に接触する。
前記スラストころ軸受によれば、第一円環部が隆起部を有する場合、保持器及びころと、第一軌道輪とが相対的に径方向に変位すると、ころの軸方向端部が隆起部に接触し、保持器は第一円筒部に接触しない。このため、第一円筒部と保持器の外環状部との間の摩耗が防がれる。第二円環部が隆起部を有する場合、保持器及びころと、第二軌道輪とが相対的に径方向に変位すると、ころの軸方向端部が隆起部に接触し、保持器は第二円筒部に接触しない。このため、第二円筒部と保持器の内環状部との間の摩耗が防がれる。
また、好ましくは、前記ころは、当該ころの外周面と当該ころの軸方向端面との間に凸曲面を有し、前記隆起部は、当該隆起部の軸方向に向く側面と前記軌道面との間に、前記凸曲面が接触可能である凹曲面を有する。
この場合、ころの凸曲面が隆起部の凹曲面に接触することで、保持器は第一円筒部又は第二円筒部に接触しない。
この場合、ころの凸曲面が隆起部の凹曲面に接触することで、保持器は第一円筒部又は第二円筒部に接触しない。
さらに好ましくは、前記凹曲面の曲率半径は、前記凸曲面の曲率半径以上である。
隆起部の凹曲面ところの凸曲面とで曲率半径が同じである場合、凹曲面に凸曲面が線接触することが可能となる。隆起部の凹曲面の方がころの凸曲面よりも曲率半径が大きい場合、凹曲面に凸曲面が点接触することが可能となる。これにより、ころと隆起部との間の摩耗が防がれる。
隆起部の凹曲面ところの凸曲面とで曲率半径が同じである場合、凹曲面に凸曲面が線接触することが可能となる。隆起部の凹曲面の方がころの凸曲面よりも曲率半径が大きい場合、凹曲面に凸曲面が点接触することが可能となる。これにより、ころと隆起部との間の摩耗が防がれる。
また、好ましくは、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪との内の少なくとも一方と、前記ころとの硬さの差は、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪との内の少なくとも一方と、前記保持器との硬さの差よりも小さい。
この場合、ころの軸方向端部が隆起部に接触することによる、ころと隆起部との間の摩耗が抑制される。
この場合、ころの軸方向端部が隆起部に接触することによる、ころと隆起部との間の摩耗が抑制される。
また、本開示は、スラストころ軸受が備える軌道輪の製造方法であって、平坦な鋼板に対して打ち抜きを行って所定形状の中間品を得る打ち抜き工程と、絞り加工によって前記中間品の周縁部を折り曲げる絞り工程と、を含み、前記打ち抜き工程において前記打ち抜きを行う際に、前記鋼板に対して、打ち抜き方向に段差部を有する金型を押圧することで、スラストころ軸受が備えるころが接触する軌道面を有する薄肉部と、当該薄肉部よりも板厚の大きい厚肉部と、を形成する。
この製造方法により、スラストころ軸受が備える軌道輪を製造することができる。その軌道輪には、厚肉部において前記隆起部が形成される。隆起部にころの軸方向端部が接触することで、保持器が軌道輪に接触しないようにすることが可能となる。この結果、軌道輪を含めてスラストころ軸受の組み立てが完了し、使用された状態で、保持器との間における摩耗を防ぐことが可能となる。
本発明によれば、スラストころ軸受において、第一軌道輪と第二軌道輪との内の少なくとも一方と、保持器との間における摩耗を防ぐことが可能となる。
図1は、スラストころ軸受の一例を示す断面図である。図1に示すスラストころ軸受10(以下、単に「軸受10」とも称する。)は、第一軌道輪11と、第一軌道輪11の軸方向一方側に設けられている第二軌道輪12と、複数のころ13と、円環状である保持器14とを備える。第一軌道輪11と第二軌道輪12とは、複数のころ13及び保持器14を間に挟んで、軸方向に対向している。第一軌道輪11及び第二軌道輪12それぞれは、全体として略円環状の部材であり、後に説明するが鋼板をプレスによって成形することで製造される。
本開示の軸受10は、自動車のトランスミッションの回転軸を支持するために用いられる。軸受10は、第一軌道輪11及び第二軌道輪12の中心線Cが水平線に沿うようにして用いられる。軸受10は、潤滑油(オイル)によって潤滑される。なお、軸受10は、トランスミッション以外の他の回転機器にも適用可能である。
本開示の軸受10において、第一軌道輪11の中心線Cに沿った方向が「軸方向」と定義される。この軸方向には、中心軸Cに平行な方向も含まれるものとする。中心軸Cに直交する方向が「径方向」と定義される。中心軸Cを中心とする周方向、つまり、第一軌道輪11と第二軌道輪12との相対回転の方向が軸受10の「周方向」と定義される。
ころ13は、円筒状の外周面50と、ころ13の軸方向一方側の第一の端面51と、ころ13の軸方向他方側の第二の端面52とを有する。ころ13は、更に、外周面50と第一の端面51との間に凸曲面38を有していて、外周面50と第二の端面52との間に凸曲面39を有する。凸曲面38,39は、凸アール形状の面取りとも称される。ころ13は、針状ころ、円筒ころ、又は棒状ころである。複数のころ13が、第一軌道輪11と第二軌道輪12との間に配置される。複数のころ13が、保持器14によって保持される。
第一軌道輪11は、トランスミッション(回転装置)が備える第一部材31に取り付けられる。第一軌道輪11は、第一円環部15と第一円筒部17とを有する。第一円環部15は、円環状であり、ころ13が転がり接触する軌道面(第一軌道面)16を有する。第一円環部15は、更に、第一の隆起部41を有する。第一の隆起部41は、第一軌道面16の径方向外側の隣に設けられていて、第一軌道面16から軸方向一方に隆起している。第一の隆起部41については、後にも説明する。
第一円筒部17は、円筒状であり、第一円環部15の径方向外側の端部15aから軸方向一方に延びて設けられている。第一軌道輪11は、更に、第一円筒部17の軸方向一方側の端部17aの一部から径方向内方に向かって突出している爪部(ステーキング)55を有する。爪部55と第一円環部15の一部との間に、保持器14が有する外環状部23が介在することで、保持器14と第一軌道輪11との分離が防止される。
第二軌道輪12は、トランスミッション(回転装置)が備える第二部材32に取り付けられる。第二軌道輪12は、第二円環部18と第二円筒部20とを有する。第二円環部18は、円環状であり、ころ13が転がり接触する軌道面(第二軌道面)19を有する。第二円環部18は、更に、第二の隆起部46を有する。第二の隆起部46は、第二軌道面19の径方向内側の隣に設けられていて、第二軌道面19から軸方向他方に隆起している。第二の隆起部46については、後に説明する。
第二円筒部20は、円筒状であり、第二円環部18の径方向内側の端部18aから軸方向他方に延びて設けられている。第二軌道輪12は、更に、第二円筒部20の軸方向他方側の端部20aの一部から径方向外方に向かって突出している爪部(ステーキング)56を有する。爪部56と第二円環部18の一部との間に、保持器14が有する内環状部24が介在することで、保持器14と第二軌道輪12との分離が防止される。
図1は、中心線Cを含む面における断面を示している。図2は、図1と異なる位置における軸受10の断面図であって、中心線Cを含む面における断面を示している。本開示の第一軌道輪11では、第一円筒部17は、第一の大フランジ部26(図1参照)と、第一の小フランジ部27(図2参照)とを有する。大フランジ部26と小フランジ部27とは周方向に沿って交互に設けられている。第一円筒部17は、例えば、四つの大フランジ部26と、四つの小フランジ部27とにより構成されている。大フランジ部26は、小フランジ部27よりも軸方向の寸法が大きい。爪部55は、大フランジ部26に設けられている。小フランジ部27は、大フランジ部26よりも軸方向の寸法が小さい。小フランジ部27の軸方向の寸法が小さいことから、小フランジ部27の軸方向一方側に開口33が形成される。開口33を通じて潤滑油が軸受10の内外を通過可能となっている。この潤滑油は、軸受10の潤滑のためのみならず、その周囲の潤滑にも用いられる。
本開示の第二軌道輪12では、第二円筒部20は、第二の大フランジ部28(図1参照)と、第二の小フランジ部29(図2参照)とを有する。大フランジ部28と小フランジ部29とは周方向に沿って交互に設けられている。第二円筒部20は、例えば、四つの大フランジ部28と、四つの小フランジ部29とにより構成されている。大フランジ部28は、小フランジ部29よりも軸方向の寸法が大きい。爪部56は、大フランジ部28に設けられている。小フランジ部29は、大フランジ部28よりも軸方向の寸法が小さい。小フランジ部29の軸方向の寸法が小さいことから、小フランジ部29の軸方向他方側に開口34が形成される。開口34から潤滑油が軸受10の内外を通過可能となっている。この潤滑油は、軸受10の潤滑のためのみならず、その周囲の潤滑にも用いられる。
保持器14は、ころ13よりも径方向外方に位置する円環状の外環状部23と、ころ13よりも径方向内方に位置する円環状の内環状部24と、外環状部23と内環状部24とを繋ぐ複数の柱部25とを有する。外環状部23と内環状部24との間であって、周方向で隣り合う柱部25,25の間が、ころ13を収容するポケット30となる。各ポケット30に一つのころ13が収容されている。ころ11の中心軸が径方向と一致するように、ころ13は各ポケット30に保持されている。
図3は、軸受10の外周側部及び内周側部を拡大して示す断面図である。ころ13の第一の端面51と、外環状部23の内周面36aとの間には、径方向についての隙間e1が形成されている。ころ13の第二の端面52と、内環状部24の外周面37aとの間には、径方向についての隙間e2が形成されている。径方向外側の隙間e1と径方向内側の隙間e2とにより、ころ13と保持器14とは径方向について相対的に変位可能である。また、保持器14はころ13と共に径方向に変位可能である。
第一軌道輪11における第一の隆起部41について説明する。隆起部41は、周方向に沿って形成されていて環状であり、周方向に沿って断面形状は同じである。隆起部41により、第一円環部15は、薄肉部42と、厚肉部43とを有する。薄肉部42の軸方向一方側の面が、第一軌道面16である。隆起部41は厚肉部43に含まれる。隆起部41により、厚肉部43は、薄肉部42よりも軸方向の寸法(厚さ)が大きくなっている。隆起部41に、ころ13の軸方向端部(第一端部)13aが接触可能である。
第一の隆起部41は、その隆起部41の軸方向一方側に向く側面41aと第一軌道面16との間に、凹曲面44を有する。つまり、隆起部41は、径方向内方に向く面として凹曲面44を有する。前記のとおり、ころ13は、外周面50と第一の端面51との間に凸曲面38を有する。なお、隆起部41の径方向内方に向く面は、図4に示すように、凹曲面44のみならず、凹曲面44と滑らかに連続する短円筒面(断面において直線状となる面)44aを含んで構成されていてもよい。凹曲面44の曲率半径r1は、凸曲面38の曲率半径r2と同じであってもよく、又は、凹曲面44の曲率半径r1は、凸曲面38の曲率半径r2よりも大きくてもよい。
図3において、ころ13が径方向外方へ変位すると、凸曲面38が凹曲面44に接触し、これにより、ころ13の変位が制限される。ころ13が隆起部41に接触した状態で、そのころ13に対して保持器14が更に径方向外方に変位すると、内環状部24の外周面37aがころ13の第二の端面52に接触し、保持器14の変位が制限される。このように、ころ13が隆起部41に接触し、かつ、内環状部24がころ13に接触した状態で、保持器14及びころ13は、第一軌道輪11に対して径方向外方に移動不能となる。この移動不能となる状態で、外環状部23の外周面36bと、第一円筒部17の内周面21との間には隙間E1が形成され、外環状部23と第一円筒部17とは非接触となる。
つまり、ころ13及び保持器14が径方向外方に変位すると、外環状部23が第一円筒部17に接触する前に、ころ13の軸方向端部13aが隆起部41に接触する。このように構成されるために、第一軌道輪11、第二軌道輪12、及び保持器14が同心状に配置された状態(図1、図2、図3に示す状態)で、外環状部23と第一円筒部17との間に形成される隙間E1aは、ころ13(軸方向端部13a)と隆起部41との間の接触部における径方向の隙間(最大隙間)F1よりも、大きく設定される(E1a>F1)。また、ころ13に対する保持器14の径方向外方への変位を考慮すると、隙間E1aは、隙間F1と隙間e2との和よりも大きく設定される(E1a>e2+F1)。なお、この場合の隙間e2は、ころ13を挟んで反対側の隙間e1と値を同じとする。
第二軌道輪12における第二の隆起部46について説明する。隆起部46は、周方向に沿って形成されていて環状であり、周方向に沿って断面形状は同じである。隆起部46により、第二円環部18は、薄肉部47と、厚肉部48とを有する。薄肉部47の軸方向他方側の面が、第二軌道面19である。隆起部46は厚肉部48に含まれる。隆起部46により、厚肉部48は、薄肉部47よりも軸方向の寸法(厚さ)が大きくなっている。隆起部46に、ころ13の軸方向端部(第二端部)13bが接触可能である。
第二の隆起部46は、その隆起部46の軸方向他方側に向く側面46aと第二軌道面19との間に、凹曲面49を有する。つまり、隆起部46は、径方向外方に向く面として凹曲面49を有する。前記のとおり、ころ13は、外周面50と第二の端面52との間に凸曲面39を有する。なお、隆起部46の径方向外方に向く面は、図5に示すように、凹曲面49のみならず、凹曲面49と滑らかに連続する短円筒面(断面において直線状となる面)49aを含んで構成されていてもよい。凹曲面49の曲率半径r3は、凸曲面39の曲率半径r4と同じであってもよく、又は、凹曲面49の曲率半径r3は、凸曲面39の曲率半径r4よりも大きくてもよい。
図3において、ころ13が径方向内方へ変位すると、凸曲面39が凹曲面49に接触し、これにより、ころ13の変位が制限される。ころ13が隆起部46に接触した状態で、そのころ13に対して保持器14が更に径方向内方に変位すると、外環状部23の内周面36aがころ13の第一の端面51に接触し、保持器14の変位が制限される。このように、ころ13が隆起部46に接触し、かつ、外環状部23がころ13に接触した状態で、保持器14及びころ13は、第二軌道輪12に対して径方向内方に移動不能となる。この移動不能となる状態で、内環状部24の内周面37bと、第二円筒部20の外周面22との間には隙間E2が形成され、内環状部24と第二円筒部20とは非接触となる。
つまり、ころ13及び保持器14が径方向内方に変位すると、内環状部24が第二円筒部20に接触する前に、ころ13の軸方向端部13bが隆起部46に接触する。このように構成されるために、第一軌道輪11、第二軌道輪12、及び保持器14が同心状に配置された状態(図1、図2、図3に示す状態)で、内環状部24と第二円筒部20との間に形成される隙間E2aは、ころ13(軸方向端部13b)と隆起部46との間の接触部における径方向の隙間(最大隙間)F2よりも、大きく設定される(E2a>F2)。また、ころ13に対する保持器14の径方向内方への変位を考慮すると、隙間E2aは、隙間F2と隙間e1との和よりも大きく設定される(E2a>e1+F2)。なお、この場合の隙間e1は、ころ13を挟んで反対側の隙間e2と値を同じとする。
以上のように、本開示の軸受10では、第一軌道輪11は、第一円環部15と第一円筒部17とを有する。第一円環部15は、第一軌道面16から軸方向一方に隆起し、ころ13の軸方向端部13aと接触可能である第一の隆起部41を有する。保持器14及びころ13が径方向外方に変位すると、その保持器14の外環状部23が第一円筒部17に接触する前に、ころ13の軸方向端部13aが第一の隆起部41に接触する。
この軸受10によれば、保持器14及びころ13と第一軌道輪11とが、相対的に径方向について、ころ13と第一円筒部17とが接近する方向に変位すると、ころ13の軸方向端部13aが第一の隆起部41に接触し、保持器14は第一円筒部17に接触しない。このため、軸受10の回転の際、第一円筒部17と保持器14の外環状部23との間の摩耗が防がれる。
また、本開示では、第二軌道輪12は、第二円環部18と第二円筒部20とを有する。第二円環部18は、第二軌道面19から軸方向他方に隆起し、ころ13の軸方向端部13bと接触可能である第二の隆起部46を有する。保持器14及びころ13が径方向内方に変位すると、その保持器14の内環状部24が第二円筒部20に接触する前に、ころ13の軸方向端部13bが第二の隆起部46に接触する。
この軸受10によれば、保持器14及びころ13と第二軌道輪12とが、相対的に径方向について、ころ13と第二円筒部20とが接近する方向に変位すると、ころ13の軸方向端部13bが第二の隆起部46に接触し、保持器14は第二円筒部20に接触しない。このため、軸受10の回転の際、第二円筒部20と保持器14の内環状部24との間の摩耗が防がれる。
特に本開示の軸受10は、図1に示すように、第一軌道輪11の中心線Cが水平線に沿うようにして用いられる。この場合、第一部材31と第二部材32と共に軸受10を組み立てる際、重力によって、第一部材31が第一軌道輪11と共に下に変位する場合がある。しかし、このように第一軌道輪11が下に変位しても、第一の隆起部41がころ13に接触し、その状態で、第一円筒部17と、保持器14の外環状部23との間には隙間E1(図3参照)が残される。更に、下に変位する第一軌道輪11がころ13を押し下げ、ころ13が保持器14と共に下に変位しても、そのころ13は、第二の隆起部46に接触する。その状態で、保持器14の内環状部24と第二円筒部20との間には隙間E2(図3参照)が残される。よって、軸受10の回転の際、第一円筒部17と外環状部23との間の摩耗が防がれ、第二円筒部20と内環状部24との間の摩耗が防がれる。
ここで、保持器14、第一軌道輪11及び第二軌道輪12、及び、ころ13の材質等について説明する。保持器14は、冷間圧延鋼板をプレスにより所定形状に成形することで製造される。保持器14は、ガス軟窒化処理が施されていて、表面に硬化層として化合物層(窒化化合物層)が形成されている。保持器14の表面硬さは、例えば、400〜740Hvである。
第一軌道輪11及び第二軌道輪12は、機械構造用炭素鋼(特殊鋼薄板)をプレスにより所定形状に成形することで製造される。第一軌道輪11及び第二軌道輪12は、焼入れ及び焼戻しの熱処理が施されていて、表面に硬化層が形成されている。第一軌道輪11及び第二軌道輪12の硬さは、例えば、675−775Hvであり、保持器14よりも硬い。
ころ13は、軸受鋼の線材を切断し、転動面を研磨することで製造される。ころ13は、焼入れ及び焼戻しの熱処理が施されていて、表面に硬化層が形成されている。ころ13の硬さは、例えば、60〜65HRCであり、保持器14よりも硬い。
第一軌道輪11及び第二軌道輪12は、機械構造用炭素鋼(特殊鋼薄板)をプレスにより所定形状に成形することで製造される。第一軌道輪11及び第二軌道輪12は、焼入れ及び焼戻しの熱処理が施されていて、表面に硬化層が形成されている。第一軌道輪11及び第二軌道輪12の硬さは、例えば、675−775Hvであり、保持器14よりも硬い。
ころ13は、軸受鋼の線材を切断し、転動面を研磨することで製造される。ころ13は、焼入れ及び焼戻しの熱処理が施されていて、表面に硬化層が形成されている。ころ13の硬さは、例えば、60〜65HRCであり、保持器14よりも硬い。
保持器14等の各硬さが前記の値の範囲内に設定されている。そして、本開示では、第一軌道輪11ところ13との硬さの差が、第一軌道輪11と保持器14との硬さの差よりも小さい。このため、ころ13の軸方向端部13aが第一の隆起部41に接触することによる、ころ13と第一の隆起部41との間の摩耗が抑制される。また、第二軌道輪12ところ13との硬さの差は、第二軌道輪12と保持器14との硬さの差よりも小さい。このため、ころ13の軸方向端部13bが第二の隆起部46に接触することによる、ころ13と第二の隆起部46との間の摩耗が抑制される。なお、第一軌道輪11と第二軌道輪12との内の少なくとも一方と、ころ13との硬さの差が、第一軌道輪11と第二軌道輪12との内の少なくとも一方と、保持器14との硬さの差よりも小さくてもよい。軸受10が回転すると、ころ13と第一軌道輪11の第一の隆起部41とが滑り接触する場合があり、また、ころ13と第二軌道輪12の第二の隆起部46とが滑り接触する場合がある。しかし、前記構成により、ころ13、第一軌道輪11、及び第二軌道輪12の摩耗が抑制され、軸受10の全体として、耐摩耗効果が期待できる。
また、図3及び図4に示すように、軸受10の外周側において、ころ13は、軸方向端部13aに、凸曲面38を有する。第一の隆起部41は、凸曲面38が接触可能である凹曲面44を有する。そして、前記のとおり、凹曲面44の曲率半径r1は、凸曲面38の曲率半径r2以上である。凹曲面44と凸曲面38とで曲率半径が同じ(r1=r2)である場合、凹曲面44に凸曲面38が線接触することが可能となる。凹曲面44の方が凸曲面38よりも曲率半径が大きい(r1>r2)場合、凹曲面44に凸曲面38が点接触することが可能となる。これにより、隆起部41ところ13との間において、エッジ接触するのを防ぐことができ、隆起部41ところ13との間における摩耗が抑制される。
また、軸受10の内周側においても、ころ13は、軸方向端部13bに、凸曲面39を有する。第二の隆起部46は、凸曲面39が接触可能である凹曲面49を有する。このため、軸受10の外周側と同様に、内周側においても、隆起部46ところ13との間において、エッジ接触するのを防ぐことができ、隆起部46ところ13との間における摩耗が抑制される。
本開示では、第一円環部15と第二円環部18との双方が、それぞれころ13と接触可能である隆起部41,46を有しているが、隆起部を有する円環部は一方のみであってもよい。つまり、第一円環部15と第二円環部18との内の少なくとも一方が、ころ13と接触可能である隆起部を有していればよい。
前記のような第一の隆起部41を備える第一軌道輪11の製造方法について説明する。図6及び図7は、その製造方法を示す説明図であり、上が加工対象の平面図であり、下がその断面図である。第一軌道輪11は、鋼板5からプレス加工により製造される。その製造方法には、打ち抜き工程S10と、その後に行われる絞り工程S20とが含まれる。図6及び図7により説明する製造方法では、打ち抜き工程S10には、内径抜き工程S11と、外径抜き工程S12とが含まれ、また、絞り工程S20の後に、ステーキング成形工程S30、及びカットオフ工程S40が行われる。
内径抜き工程S11では、矩形の鋼板(機械構造用炭素鋼の板、特殊鋼薄板等)5をプレスして、その中央に孔5aを形成する。外径抜き工程S12では、孔5aの周囲を残して、更にその外周側をプレスにより打ち抜き、孔5bを形成する。この状態では、外周に矩形状のフレーム部6と、そのフレーム部6に繋がる第一の中間品7とが形成される。絞り工程S20では、中間品7の外周縁部7aが絞り加工により折り曲げられる。この折り曲げられた外周縁部7aが、第一円筒部17となり、外周縁部7a以外の部分7bが、第一円環部15となる。ステーキング成形工程S30では、第一円筒部17の一部を、径方向内方へ折り曲げることで、爪部55が形成される。カットオフ工程S40では、フレーム部6と、爪部55が形成された第二の中間品8とを分離する。以上より、第一軌道輪11が得られる。
このように、第一軌道輪11の製造方法は、平坦な鋼板5に対して打ち抜きを行って所定形状の中間品7を得る打ち抜き工程S10(内径抜き工程S11、外径抜き工程S12)と、絞り加工によって中間品7の外周縁部7aを折り曲げる絞り工程S20とを含む。そして、打ち抜き工程S10において打ち抜きを行う際に、鋼板5に対して、打ち抜き方向に段差部を有する金型を押圧することで、ころ13(図1参照)が接触する第一軌道面16を有する薄肉部42と、その薄肉部42よりも板厚の大きい厚肉部43とを形成する。
図6及び図7に示す製造方法では、薄肉部42及び厚肉部43の形成は、外径抜き工程S12で行われる。打ち抜き工程S10における薄肉部42及び厚肉部43の形成は、外径抜き工程S12で行われてもよいが、内径抜き工程S11で行われてもよい。つまり、パンチにより孔5aを形成する際に、併せて押し金型により薄肉部42及び厚肉部43が形成される。または、孔5aの周囲を残して、更にその外周側に孔5bを形成する際に、併せて押し金型により薄肉部42及び厚肉部43が形成される。この製造方法により、薄肉部42の表面に第一軌道面16が形成され、また、厚肉部43において第一の隆起部41が形成された第一軌道輪11が得られる。
なお、ここでは、第一軌道輪11について説明したが、第二軌道輪12は、第一軌道輪11と同様に、断面L字形状を有していて、その製造方法は、第一軌道輪11の製造工程と同様である。第二軌道輪12においても、打ち抜き工程において打ち抜きを行う際、鋼板5に対して、打ち抜き方向に段差部を有する金型を押圧することで、ころ13(図1参照)が接触する第二軌道面19を有する薄肉部47と、その薄肉部47よりも板厚の大きい厚肉部48とを形成する。この製造方法により、薄肉部47の表面に第二軌道面19が形成され、また、厚肉部48において第二の隆起部46が形成された第二軌道輪12が得られる。
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
5:鋼板 7:第一の中間品 8:第二の中間品
10:スラストころ軸受 11:第一軌道輪 12:第二軌道輪
13:ころ 13a:軸方向端部 13b:軸方向端部
14:保持器 15:第一円環部 16:軌道面
17:第一円筒部 18:第二円環部 19:軌道面
20:第二円筒部 38:凸曲面 39:凸曲面
41:第一の隆起部 41a:側面 44:凹曲面
46:第二の隆起部 46a:側面 49:凹曲面
50:外周面 51:第一の端面(軸方向端面)
52:第二の端面(軸方向端面) r1:曲率半径
r2:曲率半径 r3:曲率半径 r4:曲率半径
10:スラストころ軸受 11:第一軌道輪 12:第二軌道輪
13:ころ 13a:軸方向端部 13b:軸方向端部
14:保持器 15:第一円環部 16:軌道面
17:第一円筒部 18:第二円環部 19:軌道面
20:第二円筒部 38:凸曲面 39:凸曲面
41:第一の隆起部 41a:側面 44:凹曲面
46:第二の隆起部 46a:側面 49:凹曲面
50:外周面 51:第一の端面(軸方向端面)
52:第二の端面(軸方向端面) r1:曲率半径
r2:曲率半径 r3:曲率半径 r4:曲率半径
Claims (5)
- 第一軌道輪と、当該第一軌道輪の軸方向一方側に設けられ当該第一軌道輪と軸方向に対向する第二軌道輪と、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪との間に配置される複数のころと、前記ころを保持する保持器と、を備え、
前記第一軌道輪は、前記ころが転がり接触する軌道面を有する第一円環部と、当該第一円環部の径方向外側から軸方向一方に延びる第一円筒部と、を有し、
前記第二軌道輪は、前記ころが転がり接触する軌道面を有する第二円環部と、当該第二円環部の径方向内側から軸方向他方に延びる第二円筒部と、を有し、
前記第一円環部と前記第二円環部との内の少なくとも一方は、前記軌道面から軸方向に隆起し、前記ころの軸方向端部と接触可能である隆起部を有し、
前記保持器及び前記ころが径方向に変位すると、当該保持器が前記第一円筒部又は前記第二円筒部に接触する前に、当該ころの軸方向端部が前記隆起部に接触する、
スラストころ軸受。 - 前記ころは、当該ころの外周面と当該ころの軸方向端面との間に凸曲面を有し、
前記隆起部は、当該隆起部の軸方向に向く側面と前記軌道面との間に、前記凸曲面が接触可能である凹曲面を有する、請求項1に記載のスラストころ軸受。 - 前記凹曲面の曲率半径は、前記凸曲面の曲率半径以上である、請求項2に記載のスラストころ軸受。
- 前記第一軌道輪と前記第二軌道輪との内の少なくとも一方と、前記ころとの硬さの差は、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪との内の少なくとも一方と、前記保持器との硬さの差よりも小さい、請求項1〜3のいずれか一方に記載のスラストころ軸受。
- スラストころ軸受が備える軌道輪の製造方法であって、
平坦な鋼板に対して打ち抜きを行って所定形状の中間品を得る打ち抜き工程と、
絞り加工によって前記中間品の周縁部を折り曲げる絞り工程と、
を含み、
前記打ち抜き工程において前記打ち抜きを行う際に、前記鋼板に対して、打ち抜き方向に段差部を有する金型を押圧することで、スラストころ軸受が備えるころが接触する軌道面を有する薄肉部と、当該薄肉部よりも板厚の大きい厚肉部と、を形成する、
スラストころ軸受の軌道輪の製造方法。
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JP2019098581A JP2020193646A (ja) | 2019-05-27 | 2019-05-27 | スラストころ軸受、及び、スラストころ軸受の軌道輪の製造方法 |
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