以下、図面を参照して、本発明の1または複数の実施形態が説明される。しかしながら、発明の範囲は、開示された実施形態に限定されない。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
実施形態における圧延機の蛇行抑制方法は、タンデム型の圧延機によって圧延される圧延材の蛇行を抑制するように前記圧延機の入側張力を設定する方法である。この圧延機の蛇行抑制方法は、前記圧延機の線荷重を決定する第1工程と、前記圧延機の入側において、前記圧延機から、前記圧延機に最も近くに配置されるロールであって前記圧延材の進行方向を拘束する前記ロール(以下、適宜「拘束ロール」と呼称する)まで、の距離((以下、適宜「ミル前距離」と呼称する)を決定する第2工程と、前記第1および第2工程それぞれで決定した線荷重および距離に基づいて、前記圧延機の入側張力を設定する第3工程とを備える。以下、より具体的に説明する。なお、以下では、圧延機は、タンデム型を例に、実施形態を説明するが、これに限定されず、シングルスタンド型であっても良い。
図1は、圧延機を含む圧延システムの構成を示す概略図である。実施形態における圧延システムSは、タンデム型の圧延機1で圧延材WKを圧延することによって圧延材WKを所定の厚さに加工するシステムであり、本実施形態では、例えば、圧延材WKの圧延を開始する前に、タンデム型の圧延機1の受入板厚と払出板厚(最終スタンド出側の目標板厚)、板幅、圧延材WKの強度等からパススケジュール(各スタンドの目標板厚)と圧延荷重を計算し、それに基づいて圧延機1のロール開度とロール回転数の設定値を計算するセットアップ計算等において、圧延材WKの蛇行を抑制するように、圧延機1の入側張力が設定される。このような圧延システムSは、例えば、図1に示すように、図略の巻出し機と、ステアリングロールSLと、ブライドルロールBLと、圧延機1と、巻取り機VR(VR1)と、プロセスコントロール装置PCとを備える。これら前記巻出し機、ステアリングロールSL、ブライドルロールBL、圧延機1および巻取り機VRは、この順で順次に、圧延材WKの搬送路(製造ライン)に沿って配置されている。
前記巻出し機は、圧延材WKを巻回した第1リールを備え、前記第1リールに巻回された圧延材WKを圧延機1へ、図1に示す例ではステアリングロールSLへ送り出す装置である。
ステアリングロールSLは、圧延材WKに対し幅方向(ロールの軸方向)の送出し位置を調整し、ステアリングロール設置位置で圧延材WKをミル中心にセンタリングする装置である。ステアリングロールSLは、図1に示す例では、第1および第2ステアリングロールSL−1、SL−2を備え、第1および第2ステアリングロールSL−1、SL−2は、これら各回転中心(軸心)を結ぶ線分が圧延材WKの進行方向(搬送方向)DRと直交するように、垂直方向(上下方向)に沿って圧延材WKを介して当接するように並置されている。前記巻出し機から送り出された圧延材WKは、側面視にてその断面が逆S字に見えるように、第1ステアリングロールSL−1に掛けられ、第1および第2ステアリングロールSL−1、SL2で挟み込まれて第2ステアリングロールSL−2から、ブライドルロールBLへ送り出される。
なお、ステアリングロールSLによって圧延材WKがセンタリングされるが、センタリング可能な制御量には、その仕様に応じた所定の範囲があり、前記範囲を超えて圧延材WKをセンタリングできないため、蛇行してしまう虞がある。また、ステアリングロールSLによって圧延材WKがセンタリングされても、ブライドルロールBLと圧延機1との距離が比較的長いと蛇行してしまう。このため、本実施形態では、後述のように、前記線荷重と前記距離(ミル前距離)とに基づいて入側張力が設定される。
ブライドルロールBLは、圧延材WKにかかる入側張力を発生する装置であり、入側張力を発生する張力発生装置の一例に相当する。ブライドルロールBLは、図1に示す例では、第1および第2ブライドルロールBL−1、BL−2を備え、第1および第2ブライドルロールBL−1、BL−2は、これら各回転中心(軸心)を結ぶ線分が圧延材WKの進行方向DRと斜めに交差するように、進行方向DRに沿って並置されている。ステアリングロールSLから送り出された圧延材WKは、第1ブライドルロールBL−1に掛けられ、第1ブライドルロールBL−1で進行方向DRが逆方向に折り返されて第2ブライドルロールBL−2に掛けられ、第2ブライドルロールBL−2で進行方向DRが再度折り返されて圧延機1へ送り出される。第1および第2ブライドルロールBL−1、BL−2それぞれを回転させる図略の第1および第2モータに、負荷差(トルク差)を設けることで、前記負荷差に応じた張力が発生し、前記張力が前記入側張力として圧延材WKにかかる。なお、2個の第1および第2ブライドルロールBL−1、BL−2で発生できる張力には、限度があるので、より高い張力を発生させるために、3個以上の、例えば5個の第1ないし第5ブライドルロールが使用される。
圧延機1は、例えばフィルムや鋼板等の圧延材WKを、所望の品種の製品に加工するために、ロールギャップを調整して稼動することによって、長尺な圧延材WKを所定の厚さに圧延する装置である。圧延機1は、例えば、本実施形態では、複数、例えば4個の圧延スタンド10(10−1〜10−4)を配置することによって、製品の元になる圧延材WKを連続的に圧延するタンデム型の圧延機である。圧延スタンド10(10−1〜10−4)は、例えば、所定のロールギャップで圧延材WKを圧延する一対の第1および第2ワークロール11、12(11−1〜11−4、12−1〜12−4)と、前記一対の第1および第2ワークロール11、12の弾性変形等を抑制するように前記一対の第1および第2ワークロール11、12それぞれを支持する一対の第1および第2バックアップロール13、14(13−1〜13−4、14−1〜14−4))とを備える。圧延機1には、この他、圧延材WKの圧延中に、圧延荷重、圧下位置および圧延速度等を検出する図略の各センサ(ロードセル、圧下位置センサおよび圧延速度センサ等)が備えられている。ブライドルロールBL(図1に示す例では第2ブライドルロールBL−2)から送り出された圧延材WKは、圧延機1に送り込まれる。圧延機1では、第1ないし第4圧延スタンド10−1〜10−4における各一対のワークロール11−1〜11−4、12−1〜12−4における各間(各パス)を順次に、圧延材WKを通過させることによって順次にその厚さを減じ、所定の厚さで所定の断面形状に圧延して成形する。圧延機1で圧延された圧延材WKは、巻取り機VRへ送り出される。
なお、圧延機1の圧延スタンド10は、4個に限定されるものではなく、任意であって良い。
巻取り機VR(VR1)は、圧延材WKを巻回す第2リールを備え、圧延機1から送り出された圧延材WKを前記第2リールに巻回して巻き取る装置である。
プロセスコントロール装置PCは、圧延条件を入力し、前記圧延条件に従って圧延スタンド10の動作を制御し、前記各センサで検出された検出結果を表示する装置である。
このような圧延システムSの圧延機1に対し、圧延材WKの蛇行を抑制するために、次のように、入側張力が求められ、この求めた入側張力を発生するように、圧延機1のブライドルロールBLが設定される。
図2は、前記圧延システムの圧延機に対して実行される蛇行抑制方法を示すフローチャートである。図3は、蛇行予測に用いられる入側張力分布およびミル前距離を説明するための図である。
図2において、まず、図略の上位のコンピュータからプロセスコントロール装置PCへ、受入板厚、払出板厚、板幅、圧延材WKの強度等の圧延材WKの情報が与えられる(S1)。プロセスコントロール装置PCには、その時点で使用されているワークロール11、12の種類、ワークロール11、12の径、ワークロール11、12の幅等の圧延機1の情報も予め記憶されている。
次に、プロセスコントロール装置PCによって、タンデム型の圧延機1の受入板厚、払出板厚、板幅、圧延材WKの強度等の情報から、公知の常套手段により、セットアップ計算が実行される(S2)。前記セットアップ計算では、圧延機1の各圧延スタンド10−1〜10−4の目標板厚、その板厚を得るための圧延荷重が計算される。
次に、この計算された圧延荷重を板幅で除算することによって単位幅当たりの荷重である線荷重pが求められる(S3、(線荷重)=(圧延荷重)/(圧延材WKの幅(板幅))。
次に、設備上の定数としてミル前距離Lが予め決まっており。このミル前距離Lが取得される(S4)。前記ミル前距離は、圧延機1の入側において、圧延機1から、圧延機1に最も近くに配置されるロールであって圧延材WKの進行方向DRを拘束する前記ロール(拘束ロール)まで、の距離である。前記進行方向DRを拘束する拘束ロールは、圧延材WKが90度以上で周面に巻き付いているロールであり、図1に示す例では、ブライドルロールBLである。図1に示す例では、ミル前距離Lは、第1圧延スタンド10−1から第2ブライドルロールBL−2までの距離Lである。
次に、この線荷重pと、予め設備上の定数として決まっているミル前距離Lとから、所定の対応関係を用いることによって、圧延機1における入側の蛇行を停留させるための必要な入側張力σが求められる(S5)。
前記対応関係は、例えば、表1に示すルックアップテーブルで表される。あるいは、前記対応関係は、例えば、次式1の関数式で表される。
このルックアップテーブルは、各ミル前距離Lの各行と、各線荷重pの各列との2次元マトリクス状に構成されたテーブルであり、行と列との交差欄に、当該行のミル前距離Lおよび当該列の線荷重pに対応する入側張力σが登録(格納)される。例えば、ミル前距離Lが6mであり、線荷重pが1.4Ton/mmである場合、2行3列の欄に登録されている値3.2kg/mm2がこれらに対応する入側張力σである。このルックアップテーブルには、いわゆるユニット張力[kg/mm2]が登録されており、圧延材WKの断面積(=(圧延材WKの厚さh)×(圧延材WKの幅W))を前記ユニット張力に乗算することで、いわゆるトータル張力[kg](または[Ton])が求められる。前記ユニット張力とは、次式2で定義され、前記トータル張力は、次式3で定義される。
ここで、Wは、圧延材WKの幅(板幅)であり、x[mm]は、圧延材WKにおける幅方向に沿った位置(例えばミル中心をx=0とする)であり、T(x)は、位置xにおいて圧延材WKに作用する単位張力[kg/mm2]である入側張力分布である。tは、圧延材WKの厚さであり、幅方向に板厚分布はなく、一定値としている。
なお、このルックアップテーブルに該当するミル前距離Lおよび線荷重pが無い場合には、これら該当ミル前距離Lおよび当該線荷重pそれぞれを挟んで近い2個のミル前距離Lおよび線荷重pそれぞれに対応する2個の入側張力σから線形補間によって該当ミル前距離Lおよび当該線荷重pに対応する入側張力が演算されて良い。
前記式1は、前記表1のルックアップテーブルにおける各入側張力σに最もフィッティングする関数式である。なお、この例では、表1のルックアップテーブルにおける各入側張力σは、2次の多項式で近似されたが、これに限定されるものではなく、他の関数形で近似されても良い。
これらルックアップテーブルや式1は、例えば、特開2018−1271号公報に開示された蛇行予測システムを利用することによって作成される。この特開2018−1271号公報に開示された蛇行予測システムは、図3に示すように、圧延機RMの上流側に配置された上流側ロールR3または前記圧延機RMにおいて蛇行量の演算対象となる一対の圧延ロールR1、R2の前段に配置された前段ロールR3により、板材の送り出し方向および送り出し位置が拘束されると共に、前記一対の圧延ロールR1、R2間に進入する前記板材に、前記上流側ロールR3または前記前段ロールR3と前記一対の圧延ロールR1、R2との間に張力が掛けられた状態で、前記一対の圧延ロールR1、R2により前記板材を圧延する際の蛇行を予測するシステムであって、前記上流側ロールR3または前記前段ロールR3により前記板材を拘束する状態を表す拘束条件と、前記板材が前記一対の圧延ロールR1、R2間に進入する際の進入条件と、を用いて、前記板材の蛇行量の変化量を演算する演算部を備える。すなわち、大略、次のように、蛇行量の変化量が演算される。まず、第1に、ロールR3(前記上流側ロールR3または前記前段ロールR3)により板材を拘束する状態を表す拘束条件と、板材が圧延ロールR1、R2間に進入する際の進入条件と、を用いて、張力分布T(x)が計算される。この進入条件として、例えば、圧延ロールR1、R2間への板材の進入角度および進入位置(板材の蛇行量)を用いることができ、また例えば、進入角度に代えて、進入角度の計算に使用される圧延ロールR1、R2の左右の圧下率差または接触弧長差を用いることもできる。第2に、この計算された張力分布T(x)に基づいて荷重分布P(x)が計算される。第3に、この計算された荷重分布P(x)を含む、圧延ロールR1、R2における左右の圧下率の違いに影響を与える因子(例えば、圧延ロールR1、R2における左右のレベリング差、左右の入側板厚の差、左右のミル定数の差等)を用いて、出側板厚の幅方向の分布が計算される。第4に、この計算された出側板厚の分布に基づいて板材の進入角度が計算される。第5に、この計算された板材の進入角度に基づいて蛇行量の変化量が計算される。そして、第6に、前記第1ないし第5の各演算を繰り返し、蛇行量の変化量における時間変化が求められ、蛇行の停留か蛇行の発散かが求められる。前記張力分布T(x)は、前記特開2018−1271号公報の[0058]段落および[0059]段落に記載されているように、例えば、二次元有限要素法を用いて計算され、前記張力分布T(x)の計算において、拘束条件、進入角度θ、進入位置および圧延ロールR1、R2とロールR3との間の距離が用いられる。
この特開2018−1271号公報と本実施形態との対応関係は、圧延ロールR1、R2が第1および第2ワークロール11−1、12−1に対応し、上流側ロールR3または前段ロールR3が拘束ロール(図1に示す例では第2ブライドルロールBL−2)に対応し、圧延ロールR1、R2とロールR3との間の距離がミル前距離Lに対応する。この対応関係の元に、次のように、蛇行を抑制するための、すなわち、蛇行の停留を生じさせるための入側張力が求められる。まず、第1に、入側板厚、出側板厚、線荷重p、入側張力σ、ワークロール11、12における左右のレベリング差、ウェッジ、ミル前距離Lおよび圧延長(圧延機1によって圧延される圧延材WKの長さ)が適宜に仮定(設定)される。第2に、前記圧延長に応じた回数だけ、特開2018−1271号公報に開示された手法により蛇行量の変化量が計算され、蛇行の停留か蛇行の発散かが判定される。第3に、同一の線荷重pおよびミル前距離Lにおいて、入側張力σを変更しながら、前記第2の処理が繰り返し実施され、蛇行の停留を生じさせる最低の入側張力σlimが求められる。そして、第4に、線荷重pとミル前距離Lとの組合せを変更しながら、前記第3の処理が繰り返し実施され、例えば、表1や式1に示すような、線荷重pおよびミル前距離Lと入側張力σとの対応関係が求められる。このように前記対応関係が求められる。
図2に戻って、次に、公知の常套手段によって、ロールギャップやロール回転数等の、圧延機1の設定が実行される(S6)。
次に、処理S5で求められた入側張力σに設定するために、ブライドルロールBLの設定が実行される(S7)。より具体的には、上述のように求められた前記対応関係を表すルックアップテーブルや式1から求められる入側張力σは、蛇行を抑制するために必要な入側張力σの下限値σlimであり、このため、前記ルックアップテーブルや式1から求められる入側張力σ以上の張力を発生するように、図1に示す例では、ブライドルロールBLが設定される。前記入側張力σの設定は、プロセスコントロール装置PCから前記入側張力σが圧延条件として入力され、プロセスコントロール装置PCが、この入力された入側張力σ以上の張力(例えば前記入力された入側張力σそのものの値、あるいは、前記入力された入側張力σに、予め設定された所定値を加算した値)を発生するようにブライドルロールBLを制御して良い。あるいは、前記決定された入側張力σ以上の張力を発生するようにブライドルロールBLが直接調整され、前記入側張力σの設定が行われて良い。
このような蛇行抑制方法では、前記工程S7で設定される入側張力以上の張力を発生する張力発生装置が用いられる。すなわち、本実施形態では、圧延システムSは、前記設定される入側張力σ以上の張力を発生する前記張力発生装置の一例としてのブライドルロールBLを備えている必要がある。したがって、より具体的には、この工程S7では、工程S3および工程S4それぞれで決定した線荷重pおよびミル前距離Lに基づいて、工程S5で圧延機1の入側張力σが求められ、この求められた入側張力σ以上の張力を発生する張力発生装置(図1に示す例ではブライドルロールBL)が圧延システムSに組み込まれ、前記で求められた入側張力σ以上の張力を発生するように圧延システムSに組み込まれた張力発生装置(ブライドルロールBL)が設定される。より詳しくは、表1のルックアップテーブルや式1を用いることによって、S3および工程S4それぞれで決定した線荷重pおよびミル前距離Lから、圧延機1の入側張力σ[kg/mm2]が前記ユニット張力として求められ、この求められたユニット張力σに圧延材WKの断面積t×Wを乗算することで、前記トータル張力[kg](または[Ton])が求められ、この求められたトータル張力以上の張力を発生できるブライドルロールBLが用意され、この用意されたブライドルロールBLが圧延システムSに組み込まれる。
そして、このように設定されると、圧延材WKの圧延加工が実施される。前記巻出し機から巻出された圧延材WKは、ステアリングロールSLでその送出し位置が調整され、ブライドルロールBLで、工程S7で設定された入側張力がかけられ、圧延機1で圧延され、そして、巻取り機VRで巻き取られる。
以上説明したように、圧延機1の蛇行抑制方法は、前記線荷重pと前記ミル前距離Lとに基づいて前記入側張力σを設定するので、圧延材WKの蛇行をより適切に抑制できる。また、圧延材WKの蛇行を抑制するために、前記設定される入側張力σ以上の張力を発生する張力発生装置が必要と理解されるので、前記張力発生装置の仕様が決定できる。
上記圧延機1の蛇行抑制方法は、所与の対応関係から前記入側張力σを求めので、より簡便に前記入側張力σを求めることができる。前記対応関係を、圧延機の設定計算を実行するプロセスコンピュータ等で導出することによって、あるいは、予め前記ルックアップテーブルや前記関数式をプロセスコンピュータ上のデータベースやプログラムとして実装し、適宜参照することによって、圧延機の設定が実行できたり、導出結果をオペレータに提示することで、前記オペレータが確実に前記入側張力を設定できる。
上記圧延機1の蛇行抑制方法は、前記設定される入側張力σ以上の張力を発生する張力発生装置の一例としてのブライドルロールBLが用いられるので、より確実に、圧延材WKの蛇行を抑制できる。
なお、上述の実施形態では、拘束ロールは、ブライドルロールBLであるが、これに限定されるものではない。図4は、圧延システムの変形形態を説明するための図である。図4Aは、第1変形形態を示し、図4Bは、第2変形形態を示し、図4Cは、第3変形形態を示す。
例えば、第1変形形態では、図4Aに示すように、前記巻出し機、ブライドルロールBL、ステアリングロールSL、圧延機1および巻取り機VRは、この順で順次に、圧延材WKの搬送路(製造ライン)に沿って配置され、拘束ロールは、ステアリングロールSLである。
また例えば、第2変形形態では、図4Bに示すように、前記巻出し機、ステアリングロールSL、ブライドルロールBL、デフレクタロールDL、圧延機1および巻取り機VRは、この順で順次に、圧延材WKの搬送路(製造ライン)に沿って配置され、拘束ロールは、デフレクタロールDLである。デフレクタロールDLは、圧延材WKの進行方向を変えるロールであり、図4Bに示す例では、進行方向を水平方向から垂直方向に変える第1デフレクタロールDL−1と、進行方向を垂直方向から再度水平方向に変える第2デフレクタロールDL−2とを備え、第2デフレクタロールDL−2が拘束ロールとなる。なお、拘束ロールがデフレクタロールDLである場合に、図4Bでは、前記巻出し機、ステアリングロールSL、ブライドルロールBL、デフレクタロールDL、圧延機1および巻取り機VRは、この順で順次に、圧延材WKの搬送路(製造ライン)に沿って配置されたが、前記巻出し機、ブライドルロールBL、ステアリングロールSL、デフレクタロールDL、圧延機1および巻取り機VRの順で順次に、圧延材WKの搬送路(製造ライン)に沿って配置されても良い。
また例えば、第3変形形態では、図4Cに示すように、第2変形形態におけるデフレクターロールDLより圧延機1の入側に、圧延材WKの進行方向および横方向位置の移動を拘束するロール群LVが配置されている。このロール群LVは、側面視にてロール軸の軸位置を千鳥状に配置した複数のロール(図4Cに示す例では、上方の2個のロールLVu−1、LVu−2)と下方の3個のロール(LVd−1〜LVd−3)との5個のロール)から成り、これら各ロール間を圧延材WKが通過することで圧延材WKを拘束する。千鳥状に配された各ロールの高さは、例えば、上側のロールLVuの下端を、下側のロールLVdの上端よりも低い位置となるように調整される。これによってロール群LVは、デフレクターロールDLと等価な効果を奏する。
また、上述の実施形態では、前記対応関係は、図3を用いて上述のように求められたが、次のように、より簡便に求められても良い。図5は、線荷重とミル前距離との対応関係の他の演算方法を説明するための図である。図5に示す点線は、上流側ロールR3または前段ロールR3と圧延ロールR1、R2の間にある板(圧延材)WKの中心線の軌跡である。
上流側ロールR3または前段ロールR3を起点として通板方向にz軸(一点鎖線で示す)が設定され、z=zの位置での、板幅中心線のセンターラインからのずれ(水平面内でのたわみ量)をu(z)とすると、圧延ロールR1、R2および上流側ロールR3または前段ロールR3での拘束条件とミル前距離L、板幅といった幾何学条件とから、材料力学におけるはりのたわみ理論(例えば機械工学便覧)を用いてたわみ量u(z)が計算できる。圧延ロールR1、R2直下での水平面内の曲率κ(z)は、次式4に示すように、u(z)を2階微分することによって求められる。
圧延ロールR1、R2直下における板幅方向張力分布σ(x)は、曲率κ(L)と、板幅中央からの距離xを用いることによって次式5で与えられる。
この式5のσ0は、圧延ロールR1、R2と上流側ロールR3または前段ロールR3の間に負荷される入側張力(単位断面積当たり)である。
また、上述の実施形態では、所定の圧延材WKについて、張力発生装置の一例であるブライドルロールBLが設定されたが、圧延機1で、将来、圧延される圧延材WKに対応可能なようにブライドルロールBLが設定されても良い。
図6は、ブライドルロールの仕様決定手順を示すフローチャートである。図6において、まず、製品サイズ(圧延材WKのサイズ)とタンデム型の圧延機1における最大荷重、定格モータ負荷、ロール幅とから、最も負荷の高い受入板厚と払出板厚とが圧延材WKの強度と板幅別に決まる(S11)。
次に、或る強度と板幅、受入板厚、払出板厚とに基づき、プロセスコントロール装置PCによって、公知の常套手段により、パススケジュールおよび圧延荷重が求められる(S12)。
次に、この求められた圧延荷重と圧延材WKの板幅から線荷重pが求められる(S13)。
次に、設備上の定数としてミル前距離Lが予め決まっており。このミル前距離Lが取得される(S14)。
次に、この線荷重pと、予め設備上の定数として決まっているミル前距離Lとから、所定の対応関係を用いることによって、圧延機1における入側の蛇行を停留させるための必要な入側張力(単位面積当たり)σが求められる(S15)。
そして、この求めた入り側張力σに、受入板厚と板幅との積で与えられる入側の圧延材WKの断面積を乗算することで、ブライドルロールBLに求められるトータル張力値が求められる。このような手順により、将来を含め当該タンデム型の圧延機1で圧延するすべて圧延材WKにおける強度と板幅について、ブライドルロールBLに求められるトータル張力値が計算され、その最大値でブライドルロールの張力仕様が決定される(S16)。このような張力発生装置を用いることで、蛇行が停留できる。
一例として、タンデム型の圧延機において、受入板厚および板幅それぞれを2.5[mm]および1500[mm]とした場合に、上述の手順によってもとめた、蛇行を停留させるために必要なトータル張力が、線荷重とミル前距離別に、表2に示されている。ブライドルロールで発生させるトータル張力の仕様が、表2に基づき決定され、その仕様を満足するブライドルロールが、タンデム型の圧延機における入側に設置され、式1で計算される単位張力以上の張力を負荷して圧延することで、蛇行を停留させることが可能となる。
また、上述の実施形態では、線荷重およびミル前距離に基づき圧延機の入側張力が設定されたが、線荷重および入側張力に基づきミル前距離が設定されても良い。すなわち、タンデム型の圧延機によって圧延される圧延材の蛇行を抑制するように前記圧延機の入側張力を設定する圧延機の蛇行抑制方法は、前記圧延機の線荷重を決定する第1工程と、前記圧延機の入側張力を決定する第2工程と、前記第1および第2工程それぞれで決定した線荷重および入側張力に基づいて、前記圧延機の入側において、前記圧延機から、前記圧延機に最も近くに配置されるロールであって前記圧延材の進行方向を拘束する前記ロールまで、の距離を決定する第3工程とを備える。より具体的には、以下のように、ミル前距離が設定される。
図7は、蛇行抑制方法の変形形態を示すフローチャートである。図7において、まず、製品サイズ(圧延材WKのサイズ)とタンデム型の圧延機1における最大荷重、定格モータ負荷、ロール幅とから、最も負荷の高い受入板厚と払出板厚とが圧延材WKの強度と板幅別に決まる(S21)。
次に、或る強度と板幅、受入板厚、払出板厚とに基づき、プロセスコントロール装置PCによって、公知の常套手段により、パススケジュールおよび圧延荷重が求められる(S22)。
次に、この求められた圧延荷重と圧延材WKの板幅から線荷重pが求められる(S23)。
次に、圧延システムSに設置されているブライドルロールBLの最大のトータル張力が取得され、前出の圧延材の入側板厚と板幅との積で与えられる入側の断面積で除算することによって、単位面積当たりのユニット張力が求められ、取得される(S24)。
次に、この工程S24で取得されたユニット張力が、当該線荷重において蛇行を停留させるために必要な入側張力以上であるように、ミル前距離Lが表1を用いて求められる(S25)。
表2から明らかなように、線荷重が同じであるならば、蛇行を停留させるための張力は、ミル前距離Lが短い方が小さくなる。すなわち、ミル前距離Lが短い方が蛇行は、発生し難い。したがって、ここで求められたミル前距離Lは、蛇行を発生させないための上限値であり、ミル前距離をここで求められたLよりも小さい値となるように設備を設計することで、蛇行は、さらに発生し難くなる。
そして、この求められたミル前距離Lで圧延機1と拘束ロール、ここでは、ブライドルロールBLのレイアウトが決定される(S26)。なお、ブライドルロールBLに代え、拘束ロールとしてステアリングロールやデフレクタロールが用いられてもよい。また、想定される圧延材すべてについて、与えられたトータル張力の範囲内で蛇行を停留させるためのミル前距離Lが求められ、その最小値によって拘束ロール(ブライドルロール、ステアリングロールまたはデフレクタロール)を設置する位置が決定されても良い。これにより、常に蛇行を停留させることが可能となる。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。