JP2020181815A - 高分子電解質膜およびそれを用いたレドックスフロー電池 - Google Patents

高分子電解質膜およびそれを用いたレドックスフロー電池 Download PDF

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Abstract

【課題】耐酸化性に優れた電解質膜を提供すること。加えて、該電解質膜を隔膜として使用することで、長期耐久性を達成することができる実用性に優れたレドックスフロー電池用を提供すること。
【解決手段】イオン性基含有ポリマー(A)を含む高分子電解質膜であって、−0.35V〜1.30Vの範囲に酸化還元電位を示す添加剤を含有する高分子電解質膜。該電解質膜を、正極と負極を隔離分離する隔膜として用いたレドックスフロー電池。
【選択図】図1

Description

本発明は、−0.35V〜1.30Vの範囲に酸化還元電位を示す添加剤を含有する高分子電解質膜およびそれを用いたレドックスフロー電池に関するものである。
近年、太陽光や風力などの再生可能エネルギーの活用が増加している。一方で、日射しや風速など発電量の変動が大きく、再生可能エネルギーの出力安定化や電力負荷平準化、電力系統の安定化を実現する大型蓄電池システムが求められている。蓄電池としては鉛蓄電池、ナトリウム硫黄(NAS)電池、リチウムイオン電池、レドックスフロー電池が知られている。このうち、活物質を含む電解液をポンプで循環させて充放電するレドックスフロー電池は電解液を外部タンクに貯蔵できるため大型化が容易であり、他の蓄電池と比較して再生が容易であることなどを理由に利用拡大が進んでいる。
レドックスフロー電池は、電極上での酸化還元反応を利用し、電池内のポンプ循環により充放電を繰り返す電池である。電解液に含まれる活物質としては、鉄−クロム系、クロム−臭素系、チタン−マンガン系、臭素−亜鉛系などが挙げられるが、特に正極および負極の活物質として価数の異なるバナジウム系を用いる場合、析出物が生成するような電極反応での副反応が起こりにくく、電解液の劣化が少ないことからも長期利用に適していると考えられている。
電極と正極活物質を含む正極と電極と負極活物質を含む負極を隔てる隔膜として高分子電解質膜が利用されている。電解質膜に求められる特性として、電池出力およびエネルギー効率を維持する目的で活物質の透過性が低いことが挙げられる。また、活物質としてバナジウムを使用する場合、充放電反応で生成する5価のバナジウムは非常に酸化力が強いため、電解質膜には強い耐酸化性が求められる。耐酸化性が不十分な場合、電解質膜が隔膜の役割を果たすことが出来ず、アノードとカソードで発生する2価〜5価のバナジウムが混合し、充放電特性が低下する恐れがある。
これまで特定の窒素化合物構造を有するブランチャーを分子鎖内に導入することで耐酸化性を向上させた電解質膜(特許文献1〜2、)、耐酸化性に優れるピリジニウム基をポリマー鎖に導入した電解質膜(特許文献3)や、バナジウムの透過性を低下させて耐酸化性を向上させる目的でポリビニルイミダゾールを添加した電解質膜(特許文献4)が提案されている。しかし、長期間充放電を繰り返した場合にはポリマー鎖が分解される恐れがあり、従来技術による高分子電解質膜では耐酸化性を満たすには不十分であった。
特表2017−538792号公報 特平9−223513号公報 特開平10−208767号公報 特開2014−135144号公報
バナジウム系レッドックスフロー電池では、充放電時にアノード側の電解液中には下記式(6)で示す様に、4価と5価のバナジウムが生成し、カソード側の電解液中には下記式(7)で示す様に、2価と3価のバナジウムが生成する(参考文献:Renewable and Sustainable Energy Reviews 69 (2017) 264頁)。
Figure 2020181815
Figure 2020181815
また、これらのバナジウムは電解質膜を透過することができ、電解質膜中には2価〜5価までのバナジウムが存在する。なお、電解質膜の劣化機構としては、アノード側の充放電で生成する5価のバナジウムによる酸化劣化が推定され、電解液に触れる電解質膜表面の劣化と電解質膜中を浸透した際の膜中の劣化が考えられる。そのため、5価のバナジウムを4価のバナジウムに還元するか錯体化することで無害化できれば電解質膜の劣化を抑制できると考えられる。しかし、レドックスフロー電池の場合、充放電が繰り返されるだけでなく、定期的に活物質を含む電解液が交換されるため、半永久的に5価のバナジウムからの酸化劣化を抑制できなければならない。そこで、発明者らは膜中には2〜5価のバナジウムが存在することとバナジウムの酸化還元反応に着目し、下記式(8)で示されるような5価のバナジウムにより酸化され、2価のバナジウムにより還元されるような添加剤を膜中に存在させることができれば半永久的に5価のバナジウムを無害化できると考え本発明に至った。ここで、添加剤に求められる条件としては、酸化還元電位が−0.35V〜1.30Vの付近に存在することと、硫酸水溶液に不溶であること、電解質膜への分散性を鑑みて有機溶媒(特にNMPやDMSOなどの極性溶媒)に溶解することが挙げられる。
Figure 2020181815
本発明の高分子電解質膜は、上記課題を解決するため次の構成を有する。すなわち、
イオン性基含有ポリマー(A)を含む高分子電解質膜であって、−0.35V〜1.30Vの範囲に酸化還元電位を示す添加剤(B)を含有する高分子電解質膜、である。
また、本発明のレドックスフロー電池は次の構成を有する。すなわち、
上記電解質膜を、正極と負極を隔離分離する隔膜として使用したレドックスフロー電池、である。
本発明の高分子電解質膜は、前記添加剤(B)が下記式で示すいずれかの構造から選ばれる窒素含有構造を有することが好ましい。なお、最も右の構造式中、酸素原子およびその右上の点はラジカルを意味する。
Figure 2020181815
ここで、R〜Rは、炭素数1〜20までの炭化水素基、芳香環を有する基、CHO−、NH−のうちのいずれかから選択でき、これらの構造を複数含んでいても良い。
本発明の高分子電解質膜は、前記イオン性基含有ポリマーが主鎖中に芳香環を有する炭化水素系ポリマーであることが好ましい。
本発明の高分子電解質膜は、前記イオン性基含有ポリマー(A)が下記式(2)および(3)で表される構造単位を含有することが好ましい。
Figure 2020181815
Figure 2020181815
ここで、Ar,Arは下記式(4)、Arは下記式(5)で表わされ、XおよびXはケトン基(−(C=O)−)、エーテル基(−O−)、スルホン酸基(―SO−)、フッ化炭素含有基(−C(CF−)のいずれかから選択でき、さらに上記構造を複数含んでいても良く、Yがイオン性基である。またXは保護基であってもよい。
Figure 2020181815
Figure 2020181815
本発明の高分子電解質膜は、前記電解質膜の少なくとも片面に、添加剤(B)を含むポリマーからなるP層を有し、P層に含まれる添加剤(B)の含有量(T)と、前記電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tとが、T≦Tの関係を満たすことが好ましい。
本発明の高分子電解質膜は、4価バナジウム濃度1.5mol・L−1、硫酸濃度3.0mol・L−1水溶液に対する単位面積当たりの活物質透過量が1800×10−10cm/分以下であることが好ましい。
本発明の高分子電解質膜は、5価のバナジウム濃度0.3mol・L−1、硫酸濃度3.5mol・L−1水溶液に80℃で48時間浸漬した後の分子量維持率が35%以上であることが好ましい。
本発明によれば、耐酸化性に優れた電解質膜を提供することができる。加えて、該電解質膜を隔膜として使用することで、長期耐久性を達成することができる実用性に優れたレドックスフロー電池を提供することができる。
添加剤T1のサイクリックボルタンメトリー測定結果を示すグラフである。 添加剤T2のサイクリックボルタンメトリー測定結果を示すグラフである。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電解質膜は、イオン性基含有ポリマー(A)を含む高分子電解質膜であって、−0.35V〜1.30Vの範囲に酸化還元電位を示す添加剤(B)を含有することを特徴とする。上記範囲内に酸化還元電位を示す化合物を添加しなければ、5価のバナジウムにより酸化されず、2価のバナジウムにより還元されないので電解質膜の劣化を抑制することができない。添加剤(B)の酸化還元電位は好ましくは−0.30V〜1.15Vであり、さらに好ましくは−0.25V〜1.00Vである。添加剤(B)の酸化還元電位はサイクリックボルタンメトリー(CV)法により測定することができる。サイクリックボルタンメトリーは以下の装置・条件にて測定を行った。得られた酸化電位ピークと還元電位ピークがそれぞれ、請求項の範囲内である場合に添加剤(B)として適用可能であると判断できる。ここで、本発明において、酸化還元電位は水素基準における酸化還元電位を意味する。
測定装置
・ポテンショスタット:北斗電工(株)製HZ−3000
・作用電極:白金電極(ビー・エー・エス(株)製、OD:6.3mm、ID:2.0mm)
・カウンター電極:白金電極(ビー・エー・エス(株)製、コイル状:23cm)
・参照電極:非水溶媒系参照電極 Ag/Ag+(ビー・エー・エス(株)製、RE−7)
測定条件
・支持電解質:10mM テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート
・掃引速度:100mV/秒
・掃引範囲:−1.2V〜1.5V(0V→1.5V→−1.2V→0V)
・溶媒:超脱水アセトニトリル(添加剤が溶解しない場合は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)やジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。)
・測定前にアルゴンガスで10分間置換を行ってから測定を開始した。
本発明の電解質膜において、前記添加剤(B)が下記式で示すいずれかの構造から選ばれる窒素含有構造を有することが好ましい。なお、最も右の構造式中、酸素原子およびその右上の点はラジカルを意味する。
Figure 2020181815
ここで、R〜Rは、炭素数1〜20までの炭化水素基、芳香環を有する基、CHO−、NH−のうちのいずれかから選択でき、これらの構造を複数含んでいても良い。
また、添加剤(B)としては、単量体でもよく高分子量体であっても良い。より具体的には、次の化学式で示す添加剤を好ましく使用することができる。より好ましくは芳香族基を有する窒素化合物であることが好ましい。
Figure 2020181815
本発明の電解質膜は、レドックスフロー電池の正極と負極を隔離分離する隔膜として使用することが好ましい。特にバナジウムを活物質として用いるレドックスフロー電池向けの隔膜として好適に用いることができる。
本発明の電解質膜は、イオン性基含有ポリマーが主鎖中に芳香環を有する炭化水素系ポリマーであることが好ましい。ポリマー主鎖中に芳香環を有する炭化水素系の電解質膜としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリパラフェニレン、ポリアリーレン系ポリマー、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリベンズイミダゾール、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリイミドスルホン等のポリマーが挙げられる。なお、ここでいうポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン等は、その分子鎖にスルホン結合、エーテル結合、ケトン結合を有しているポリマーの総称であり、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン、ポリエーテルケトンスルホンなどを含むものであり、特定のポリマー構造を限定するものではない。
これらのポリマーのなかでも、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド等のポリマーが、機械強度、物理
的耐久性、加工性および耐加水分解性の面からより好ましい。なかでも、機械強度、物理的耐久性や製造コストの面から、芳香族ポリエーテル系重合体がさらに好ましい。主鎖骨格構造のパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶剤に全く溶解しない性質を有する点から、また引張強伸度、引裂強度および耐疲労性の点から、芳香族ポリエーテルケトン(PEK)系ポリマーが特に好ましい。
芳香族ポリエーテルケトン(PEK)系ポリマーはそのパッキングの良さおよび極めて強い分子間凝集力から結晶性を示し、一般的な溶剤に全く溶解しない性質があり溶液製膜に不向きであるものの、ポリマー中に保護基を含有させることにより、PEKポリマーの結晶性を低減させ、有機溶媒への溶解性を付与し溶液製膜を可能とすることができる。なお、膜状等に成形された後には、該ポリマーの分子鎖の分子間凝集力を高めるために、保護基の一部を脱保護することで、耐熱水性、引張強伸度、引裂強度や耐疲労性等の機械特性、バナジウムやチタン、マンガンなどの活物質遮断性を大幅に向上させた電解質膜をえることができる。この製造工程を経た場合に、特に本発明の高分子電解質膜は高いプロトン伝導性に加え、製膜性(加工性)、製造コストならびに耐熱水性、活物質遮断性、機械特性を両立できるという特徴を有する。
本発明の電解質膜は、イオン性基含有ポリマー(A)が下記式(2)および(3)で表される構造単位を含有することが好ましい。
Figure 2020181815
Figure 2020181815
ここで、Ar,Arは下記式(4)、Arは下記式(5)で表わされ、XおよびXはケトン基(−(C=O)−)、エーテル基(−O−)、スルホン酸基(―SO−)、フッ化炭素含有基(−C(CF−)のいずれかから選択でき、さらに上記構造を複数含んでいても良い。有機溶媒への可溶性や膜にした際の物理的特性の観点から、XおよびXがケトン基、フッ化炭素含有基であることがより好ましい。ここで、Yはイオン性基である。また、Xは保護基であっても良い。
Figure 2020181815
Figure 2020181815
なお、上記構造を得るためには、2価の芳香族ジハライド化合物と2価のビスフェノール化合物の重縮合により得ることができ、これらの仕込み量比により構造単位の含有量を変更することが出来る。
ここで、Yはイオン性基であってもよく、イオン性基は塩となっている場合を含むものとする。前記塩を形成するカチオンとしては、任意の金属カチオン、NR4(Rは任意の有機基)等を例として挙げることができる。金属カチオンの場合、その価数等特に限定されるものではなく、使用することができる。これらのイオン性基は高分子電解質材料中に2種類以上含むことができ、組み合わせはポリマーの構造などにより適宜決められる。中でも、高プロトン伝導度の点から少なくともスルホン酸基、スルホンイミド基、硫酸基を有することがより好ましく、原料コストの点から少なくともスルホン酸基を有することが最も好ましい。これら電解質ポリマーに対してイオン性基を導入する方法は、イオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法と、高分子反応でイオン性基を導入する方法が挙げられるが、本発明はイオン性基を有するモノマーを用いて重合する方法を使用する。
ここで、Xが保護基であってもよく、保護基としては、有機合成で一般的に用いられる保護基があげられ、該保護基とは、後の段階で除去することを前提に、一時的に導入される置換基であり、反応性の高い官能基を保護し、その後の反応に対して不活性とするものであり、反応後に脱保護して元の官能基に戻すことのできるものである。すなわち、保護される官能基と対となるものであり、例えばt−ブチル基を水酸基の保護基として用いる場合があるが、同じt−ブチル基がアルキレン鎖に導入されている場合は、これを保護基とは呼ばない。保護基を導入する反応を保護(反応)、除去する反応を脱保護(反応)と呼称される。
このような保護反応としては、例えば、セオドア・ダブリュー・グリーン(Theodora W. Greene)、「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)、米国、ジョン ウイリー アンド サンズ(John Wiley & Sons, Inc.)、1981に詳しく記載されており、これらが好ましく使用できる。保護反応および脱保護反応の反応性や収率、保護基含有状態の安定性、製造コスト等を考慮して適宜選択することが可能である。また、重合反応において保護基を導入する段階としては、モノマー段階からでも、オリゴマー段階からでも、ポリマー段階でもよく、適宜選択することが可能である。
保護反応の具体例を挙げるとすれば、ケトン部位をケタール部位で保護/脱保護する方法、ケトン部位をケタール部位のヘテロ原子類似体、例えばチオケタール、で保護/脱保護する方法が挙げられる。これらの方法については、前記「プロテクティブ グループス イン オーガニック シンセシス」(Protective Groups in Organic Synthesis)のチャプター4に記載されている。また、スルホン酸と可溶性エステル誘導体との間で保護/脱保護する方法、芳香環に可溶性基としてt−ブチル基を導入および酸で脱t−ブチル化して保護/脱保護する方法等が挙げられる。一般的な溶剤に対する溶解性を向上させ、結晶性を低減させるため、立体障害が大きいという点で脂肪族基、特に環状部分を含む脂肪族基が保護基として好ましく用いられる。
保護基を導入する官能基の位置としては、ポリマーの主鎖であることがより好ましい。本発明の高分子電解質膜の材料は、加工性向上を目的としてパッキングが良いポリマーに保護基を導入することから、ポリマーの側鎖部分に保護基を導入しても本発明の効果が十分に得られない場合がある。ここで、ポリマーの主鎖に存在する官能基とは、その官能基を削除した場合にポリマー鎖が切れてしまう官能基と定義する。例えば、芳香族ポリエーテルケトンのケトン基を削除するとベンゼン環とベンゼン環が切れてしまうことを意味するものである。より具体的には、次の(P1)〜(P7)の化学式で表される構造が挙げられ、ここで示す構造の通り2価のビスフェノール化合物をモノマーとして使用することで、ポリマー鎖中に導入することができる。なお、次の化学式で示されるビスフェノール化合物を使用した場合、前記化学式(2)、(3)で示されるArの構造として考えることが出来る。また、膜として成形せしめたのちに、脱保護によりケタール部位がケトン基に変化していても問題ない。
Figure 2020181815
ここで、Arを2価の芳香族ジハライド化合物由来の構造、Arをイオン性基を有する芳香族ジハライド化合物由来の構造とすると、各モノマーとしてはこれらに限定されないが、下記に示すような化合物を用いることができる。
芳香族ジハライド化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、等を挙げることができる。中でも、製造コスト、活物質透過抑制効果の点から3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。
また、イオン性基を有する芳香族ジハライド化合物の具体例としては、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルスルホン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルフェニルホスフィンオキシド、等を挙げることができる。中でも、芳香族活性ジハライド化合物としては、製造コスト、活物質透過抑制効果の点から3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジクロロジフェニルケトン、3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンがより好ましく、重合活性の点から3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロジフェニルケトンが最も好ましい。
本発明に好ましく使用する芳香族ポリエーテル系重合体の重合方法については、実質的に十分な高分子量化が可能な方法であれば特に限定されるものではないが、例えば芳香族ジハライド化合物と2価フェノール化合物の芳香族求核置換反応を利用して合成することができる。また、ハロゲン化芳香族フェノール化合物の芳香族求核置換反応を利用して、第5成分を導入することも可能である。
本発明の高分子電解質膜に好ましい材料を得るために行う、芳香族求核置換反応による芳香族ポリエーテル系重合体の重合は、上記モノマー混合物を塩基性化合物の存在下で反応させることで重合体を得ることができる。重合は、0〜350℃の温度範囲で行うことができるが、50〜250℃の温度であることが好ましい。0℃より低い場合には、十分に反応が進まない傾向にあり、350℃より高い場合には、ポリマーの分解も起こり始める傾向がある。反応は、無溶媒下で行うこともできるが、溶媒中で行うことが好ましい。使用できる溶媒としては、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒などを挙げることができるが、これらに限定されることはなく、芳香族求核置換反応において安定な溶媒として使用できるものであればよい。これらの有機溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用されても良い。
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等があげられるが、芳香族ジオール類を活性なフェノキシド構造にしうるものであれば、これらに限定されず使用することができる。
芳香族求核置換反応においては、副生物として水が生成する場合がある。この際は、重合溶媒とは関係なく、トルエンなどを反応系に共存させて共沸物として水を系外に除去することもできる。水を系外に除去する方法としては、モレキュラーシーブなどの吸水剤を使用することもできる。反応水又は反応中に導入された水を除去するのに用いられる共沸剤は、一般に、重合を実質上妨害せず、水と共蒸留し且つ約25℃〜約250℃の間で沸騰する任意の不活性化合物である。普通の共沸剤には、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、塩化メチレン、ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼンなどが含まれる。もちろん、その沸点が用いた双極性溶媒の沸点よりも低いような共沸剤を選定することが有益である。共沸剤が普通用いられるが、高い反応温度、例えば200℃以上の温度が用いられるとき、特に反応混合物に不活性ガスを連続的に散布させるときにはそれは常に必要ではない。一般には、反応は不活性雰囲気下に酸素が存在しない状態で実施するのが望ましい。
芳香族求核置換反応を溶媒中で行う場合、得られるポリマー濃度として5〜50重量%となるようにモノマーを仕込むことが好ましい。5重量%よりも少ない場合は、重合度が上がりにくい傾向がある。一方、50重量%よりも多い場合には、反応系の粘性が高くなりすぎ、反応物の後処理が困難になる傾向がある。
重合反応終了後は、反応溶液より蒸発によって溶媒を除去し、必要に応じて残留物を洗浄することによって、所望のポリマーが得られる。また、反応溶液を、ポリマーの溶解度が低く、副生する無機塩の溶解度が高い溶媒中に加えることによって、無機塩を除去、ポリマーを固体として沈殿させ、沈殿物の濾取によりポリマーを得ることもできる。回収されたポリマーは場合により水やアルコール又は他の溶媒で洗浄され、乾燥される。所望の分子量が得られたならば、ハライドあるいはフェノキシド末端基は場合によっては安定な末端基を形成させるフェノキシドまたはハライド末端封止剤を導入することにより反応させることができる。
本発明においては、加工性の観点から製膜段階まで保護基を脱保護させずに導入しておく必要があることから、保護基が安定に存在できる条件を考慮して、重合および精製を行う必要がある。例えば、ケタールを保護基として使用する場合には、酸性下では脱保護反応が進行してしまうため、系を中性あるいはアルカリ性に保つ必要がある。
本発明において、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とする方法は特に限定されるものではない。前記脱保護反応は、不均一又は均一条件下に水及び酸の存在下において行うことが可能であるが、機械強度や耐溶剤性の観点からは、膜状等に成型した後で酸処理する方法がより好ましい。具体的には、成型された膜を塩酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については適宜選択することができる。
ポリマーに対して必要な酸性水溶液の重量比は、好ましくは1〜100倍であるけれども更に大量の水を使用することもできる。酸触媒は好ましくは存在する水の0.1〜50重量%の濃度において使用する。好適な酸触媒としては塩酸、硝酸、フルオロスルホン酸、硫酸などのような強鉱酸、及びp−トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンルスホン酸などのような強有機酸が挙げられる。ポリマーの膜厚等に応じて、酸触媒及び過剰水の量、反応圧力などは適宜選択できる。
例えば、膜厚50μmの膜であれば、6N塩酸水溶液に例示されるような酸性水溶液中に浸漬し、95℃で1〜48時間加熱することにより、容易にほぼ全量を脱保護することが可能である。また、25℃の1N塩酸水溶液に24時間浸漬しても、大部分の保護基を脱保護することは可能である。ただし、脱保護の条件としてはこれらに限定される物ではなく、酸性ガスや有機酸等で脱保護したり、熱処理によって脱保護しても構わない。
本発明の電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量(T)は0.1重量部以上50重量部以下であることが好ましい。より好ましくは0.1重量部以上40重量部以下であり、さらに好ましくは0.1重量部以上30重量部以下であり、さらに好ましくは20重量部以下である。添加剤(B)の含有量が0.1重量部より少ない場合は5価のバナジウムによる酸化劣化が抑制されないため好ましくなく、50重量部以上の場合は製膜中にブリードアウトしてきて製造ラインを汚染する恐れがあり好ましくない。なお、電解質膜中の添加剤(B)の含有量を確認する方法としては、GC−MASSやTPD−MASSなどにより確認することができる。
5mLのメスフラスコに、5mm角程度に細断した添加剤(B)を有する電解質膜とN−メチル−2−ピロリドン(NMP)0.2mLを入れ、120℃に加熱して溶解させた。溶解を目視で確認したのちにトルエンで定容した。次いでPTFEメンブレンディスクフィルター(0.45μm)で濾過し試料溶液とした。得られた試料溶液を用いて下記条件にて測定を行った。あらかじめ作成しておいた検量線の値から含有量を算出することができる。
・GC−MASS:GCMS−QP2020((株)島津製作所製)
・カラム:DB−5MS、30m×0.25mm、膜厚0.25μm(アジレント・テクノロジー(株))
・昇温プログラム:50℃(1分ホールド)→320℃(40℃/分)
・キャリアガス圧力:149.0KPa(ヘリウム、定圧力モード)
・注入量:1μL
・注入口温度:320℃
・検出モード:SIM(選択イオンモード)
本発明の電解質膜の少なくとも片面に、添加剤(B)を含むポリマーからなるP層を有し、P層に含まれる添加剤(B)の含有量(T)と、前記電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tとが、T≦Tの関係を満たすことが好ましい。ここで、P層を構成するポリマーは特に制限されないが、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンオキシド、ポリアリーレンエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリアリーレンケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレンホスフィンホキシド、ポリエーテルホスフィンホキシド、パーフルオロカーボン重合体、ポリフッ化ビニリデンのいずれかであることが好ましく、上記ポリマーがイオン性基を有していることがさらに好ましい。また、P層は均一な膜であってもよいし、多孔状の膜であってもよい。電解質膜に含まれる添加剤(B)とP層に含まれる添加剤(B)は同じでも異なっていても良い。また、P層の添加剤(B)の含有量(T)は、0.1重量部より多く80重量部以下であることが好ましい。より好ましくは0.1重量部より多く65重量部以下であり、さらに好ましくは0.1重量部より多く50重量部以下であり、さらにより好ましくは0.1重量部より多く40重量部以下であり、さらにより好ましくは0.1重量部より多く30重量部以下である。
電解質膜を酸化劣化させると推定される5価のバナジウムは正極側の電解液に存在するため、本発明の電解質膜をレドックスフロー電池に組み込む際に、P層を正極側に向けて配置することでより効果的に5価のバナジウムによる酸化劣化を抑制することができるため好ましい。また、P層を確認する方法として、FT−IR ATR法により電解質膜の表裏のスペクトルを採取し、添加剤由来のピーク強度が表裏で異なっているかどうかにより確認することができる。また、電解質膜の厚み方向に切片を作成し、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した断面画像から、膜表面と膜内部の窒素含有量をEDXにより元素分析を行い、膜の表面と中央部で窒素濃度が異なっているかどうかで確認することが出来る。
本発明の電解質膜は、25℃における4価バナジウム(活物質)濃度1.5mol・L−1、硫酸濃度3.0mol・L−1水溶液に対する単位面積当たりの活物質透過量が1800×10−10cm/分以下であることが好ましい。より好ましくは1500×10−10cm/分以下であり、さらに好ましくは800×10−10cm/分以下であり、最も好ましくは50×10−10cm/分以下であり、特に好ましくは30×10−10cm/分以下である。透過量が上記好ましい範囲であると、正極にある活物質が負極側に透過(クロスオーバー)して自己放電することはないので、電流効率が低下せず、また、充放電を繰り返した際のエネルギー効率が低下することもない。また、下限は特に限定されないが、プロトン伝導性を確保する観点からは1×10−11cm/分以上が好ましい。なお、活物質の透過量を上記の範囲内とするためには、電解質膜がイオン性基含有ポリマー(A)であり、下記式(2)および(3)で表される構造単位を含有することにより達成される。
Figure 2020181815
Figure 2020181815
ここで、Ar,Arは下記式(4)、Arは下記式(5)で表わされ、XおよびXはケトン基(−(C=O)−)、エーテル基(−O−)、スルホン酸基(―SO−)、フッ化炭素含有基(−C(CF−)のいずれかから選択でき、さらに上記構造を複数含んでいても良い。有機溶媒への可溶性や膜にした際の物理的特性の観点から、XおよびXがケトン基、フッ化炭素含有基であることがより好ましい。ここで、Yはイオン性基である。また、Xは保護基であっても良い。
Figure 2020181815
Figure 2020181815
本発明の電解質膜は、5価のバナジウム濃度0.3mol・L−1、硫酸濃度3.5mol・L−1水溶液に80℃で48時間浸漬した後の分子量維持率が35%以上であることが好ましい。より好ましくは、分子量維持率が40%以上であり、さらに好ましくは分子量維持率が50%以上であり、さらに好ましくは分子量維持率が55%以上である。ここでいう 分子量維持率とは、下記式で表される値である。
分子量維持率(%)=(試験後の膜の分子量)/(試験前の膜の分子量)×100
分子量維持率が35%よりも低い場合は、5価のバナジウムの酸化反応による電解質膜の劣化が大きく、レドックスフロー電池の隔膜として好適に用いることができない場合があるため好ましくない。なお、分子量維持率を35%以上とするためには、少なくともイオン性基含有ポリマー(A)からなる電解質膜に 下記式で示すいずれかの構造から選ばれる窒素含有構造を有する添加剤(B)を含有させることで達成可能である。なお、最も右の構造式中、酸素原子およびその右上の点はラジカルを意味する。
Figure 2020181815
ここで、R〜Rは、炭素数1〜20までの炭化水素基、芳香環を有する基、CHO−、NH−のうちのいずれかから選択でき、これらの構造を複数含んでいても良い。
本発明の電解質膜の膜厚としては、好ましくは1〜2,000μmのものが好適に使用される。実用に耐える膜の強度を得るには1μmより厚い方がより好ましく、膜抵抗の低減つまり電圧効率の向上のためには2,000μmより薄い方が好ましい。かかる膜厚のさらに好ましい範囲は3〜500μm、特に好ましい範囲は5〜250μmである。かかる膜厚は、溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御することができる。
また、本発明の電解質膜には、通常の高分子化合物に使用される結晶化核剤、可塑剤、安定剤あるいは離型剤、酸化防止剤等の添加剤を、本発明の目的に反しない範囲内で添加することができる。
また、本発明の電解質膜には、前述の諸特性に悪影響をおよぼさない範囲内で機械的強度、熱安定性、加工性などの向上を目的に、各種ポリマー、エラストマー、フィラー、微粒子、各種添加剤などを含有させてもよい。また、微多孔膜、不織布、メッシュ等で補強しても良い。
電解質膜中のスルホン酸基の量は、スルホン酸基密度(mmol/g)の値として示すことができる。本発明における電解質膜のスルホン酸基密度は、プロトン伝導性、活物質遮断性および機械強度の点から1.0〜3.0mmol/gであることが好ましく、活物質遮断性の点から1.1〜2.5mmol/gであることがより好ましく、1.2〜2.0mmol/gであることがさらに好ましい。スルホン酸基密度が、上記好ましい範囲であると、プロトン伝導性が高く十分な電圧効率が得られ、一方、レドックスフロー電池用電解質膜として使用する際に、含水時の機械的強度が十分である。
ここで、スルホン酸基密度とは、乾燥した高分子電解質材料1gあたりに導入されたスルホン酸基のモル数であり、値が大きいほどスルホン酸基の量が多いことを示す。スルホン酸基密度は、元素分析、中和滴定により求めることが可能である。これらの中でも測定の容易さから、元素分析法を用い、S/C比から算出することが好ましいが、スルホン酸基以外の硫黄源を含む場合などは、中和滴定法によりイオン交換容量を求めることもできる。本発明の電解質膜は、後述するようにイオン性基を有するポリマーとそれ以外の成分からなる複合体である態様を含むが、その場合もスルホン酸基密度は複合体の全体量を基準として求めるものとする。
本発明の電解質膜には本発明の目的を阻害しない範囲において、他の成分、例えば導電性若しくはイオン伝導性を有さない不活性なポリマーや有機あるいは無機の化合物、が含有されていても構わない。
本発明の電解質膜において、保護基を有する基の含有量は特に限定されるものではないが、機械特性、活物質遮断性ならびに化学的安定性の点から、より少量であることが好ましく、全て脱保護されているものが最も好ましい。保護基の含有量は、核磁気共鳴スペクトル(NMR)、熱重量減少測定(TGA)、昇温熱脱離−質量分析法(TPD−MS)による発生ガス分析、熱分解ガスクロマトグラフ、熱分解GC−MS、赤外吸収スペクトル(IR)等によって測定することが可能である。電解質膜中に含有する保護基の量が多い場合には、溶剤溶解性があるため核磁気共鳴スペクトル(NMR)が保護基の定量に好適である。しかしながら、保護基の量がごく少量で溶剤不溶性である場合には、NMRで正確に定量することは困難な場合がある。そうした場合には、昇温熱脱離−質量分析法(TPD−MS)による発生ガス分析、あるいは熱分解ガスクロマトグラフ、熱分解GC−MSが好適な定量方法となる。
本発明の電解質膜とは、本発明の電解質材料を含有する成型体を意味する。本発明において、具体的な成型体の形状としては、膜類(フィルム、シートおよびフィルム状のものを含む)の他、板状、繊維状、中空糸状、粒子状、塊状、微多孔状、コーティング類、発砲体類など、使用用途によって様々な形態をとりうる。ポリマ−の設計自由度の向上および機械特性や耐溶剤性等の各種特性の向上が図れることから、幅広い用途に適応可能である。特に高分子電解質成型体が膜類であるときに好適である。
本発明の電解質膜を構成するポリマーの重量平均分子量は、30万以上であることが好ましい。本発明の電解質膜を構成するポリマーの重量平均分子量が上記好ましい範囲であると、成型した膜にクラックが発生しにくく機械強度が十分で,化学安定性が良好である。本発明の電解質膜を構成するポリマーの重量平均分子量は40万以上であることがより好ましく、50万以上であることがさらに好ましい。一方、重量平均分子量の上限は特に制限されないが、500万以下であると、溶解性が十分であり、また溶液粘度が適度で、加工性が良好である。ここで用いた重量平均分子量Mwは、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)を移動相とするゲルパーミエーションクロマトグラフィー法で求めた、標準ポリスチレンの分子量に対する相対的な重量平均分子量を示す。
なお、本発明の電解質膜を構成するポリマーの化学構造は、赤外線吸収スペクトルによって、1,030〜1,045cm−1、1,160〜1,190cm−1のS=O吸収、1,130〜1,250cm−1のC−O−C吸収、1,640〜1,660cm−1のC=O吸収などにより確認でき、これらの組成比は、スルホン酸基の中和滴定や、元素分析により知ることができる。また、核磁気共鳴スペクトル( 1 H−NMR)により、例えば6.8〜8.0ppmの芳香族プロトンのピークから、その構造を確認することができる。また、溶液13C−NMRや固体13C−NMRによって、スルホン酸基の付く位置や並び方を確認することができる。
本発明の電解質膜は、重水素化ジメチルスルホキシドや重水素化クロロホルムに例示される一般的な有機溶剤に不溶な場合があるが、重水素化硫酸を用いれば測定が可能である。これにより、モノマー段階でスルホン化され、スルホン化位置が制御されたポリマーであるか、あるいはスルホン化位置の制御されていない後スルホン化ポリマーかを見極めることが可能である。ただし、ケトン基やスルホン基のような電子吸引性の基が隣接していない場合には、サンプル作成中や測定中にスルホン化反応が進行してしまうので、サンプルの正確なスルホン化位置を断定することが困難となる。
本発明の電解質膜として用いるポリマー中のスルホン酸基はブロック共重合で導入しても、ランダム共重合で導入しても構わない。用いるポリマーの化学構造や結晶性の高さによって適宜選択することができる。電解質遮断性や低含水率が必要である場合にはランダム共重合がより好ましく、プロトン伝導性や高含水率が必要である場合にはブロック共重合がより好ましく用いられる。
本発明の電解質膜は成型した後、成型体に含有される該保護基の少なくとも一部を脱保護せしめて得ることを特徴とする。膜に転化する方法に特に制限はないが、ケタール等の保護基を有する段階で、溶液状態より製膜する方法あるいは溶融状態より製膜する方法等が可能である。前者では、たとえば、該高分子電解質材料をN−メチル−2−ピロリドン等の溶媒に溶解し、その溶液をガラス板等の上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法が例示できる。
製膜に用いる溶媒としては、高分子電解質材料を溶解し、その後に除去し得るものであればよく、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ヘキサメチルホスホントリアミド等の非プロトン性極性溶媒、γ−ブチロラクトン、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶媒、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル、あるいはイソプロパノールなどのアルコール系溶媒、水およびこれらの混合物が好適に用いられるが、非プロトン性極性溶媒が最も溶解性が高く好ましい。
必要な固形分濃度に調製したポリマー溶液を常圧の濾過もしくは加圧濾過などに供し、高分子電解質溶液中に存在する異物を除去することは強靱な膜を得るために好ましい方法である。ここで用いる濾材は特に限定されるものではないが、ガラスフィルターや金属性フィルターが好適である。該濾過で、ポリマー溶液が通過する最小のフィルターの孔径は、1μm以下が好ましい。濾過を行うことで、異物の混入を許さず、膜破れの発生を防ぎ、耐久性が十分となる。
次いで、得られた高分子電解質膜はイオン性基の少なくとも一部を金属塩の状態にしてから熱処理することが好ましい。用いる高分子電解質材料が重合時に金属塩の状態で重合するものであれば、そのまま製膜、熱処理することが好ましい。金属塩の金属はスルホン酸と塩を形成しうるものであればよいが、価格および環境負荷の点からはLi、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、Ti、V、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、Wなどが好ましく、これらの中でもLi、Na、K、Ca、Sr、Baがより好ましく、Li、Na、Kがさらに好ましい。この熱処理の温度は好ましくは150〜550℃、さらに好ましくは160〜400℃、特に好ましくは180〜350℃である。
熱処理時間は、好ましくは10秒〜12時間、さらに好ましくは30秒〜6時間、特に好ましくは1分〜1時間である。熱処理温度が上記好ましい範囲であると、活物質の透過抑制効果や弾性率、破断強度が十分となる。一方、膜材料の劣化を生じにくくなる。熱処理時間が上記好ましい範囲であると、熱処理の効果が十分となる。一方、膜材料の劣化を生じにくくなる。熱処理により得られた高分子電解質膜は必要に応じて酸性水溶液に浸漬することによりプロトン置換することができる。この方法で成形することによって本発明の高分子電解質膜はプロトン伝導度と活物質遮断性、ならびに機械特性、長期耐久性をより良好なバランスで両立することが可能となる。
本発明の電解質膜は芳香族ポリエーテルケトン系重合体から構成されるポリマー溶液を上記の方法により膜状に成型後、ケタールで保護したケトン部位の少なくとも一部を脱保護せしめ、ケトン部位とするものである。この方法によれば、溶解性に乏しい低スルホン酸基量ポリマーの溶液製膜が可能となり、プロトン伝導性と活物質遮断性効果の両立、優れた機械特性、寸法安定性を達成可能となる。
本発明において、ケタールで保護したケトン部位の一部または全部を脱保護せしめ、ケトン部位とする方法は特に限定されるものではないが、成型した後で、酸処理する方法が挙げられる。具体的には、成型された膜を塩酸や硫酸水溶液中に浸漬することにより脱保護することが可能であり、酸の濃度や水溶液の温度については成型体への染みこみ安さ等を考慮して適宜選択することができる。例えば、膜厚50μmの膜であれば6N塩酸水溶液に例示されるような酸性水溶液中に浸漬し、95℃で8時間加熱することにより、容易に脱保護することが可能である。ただし、脱保護の条件としてはこれらに限定される物ではなく、熱処理による脱保護や酸性ガスや有機酸等で脱保護しても構わない。
本発明の電解質膜は、種々の用途に適用可能である。例えば、体外循環カラム、人工皮膚などの医療用途、ろ過用用途、イオン交換樹脂用途、各種構造材用途、電気化学用途に適用可能である。また、人工筋肉としても好適である。中でも種々の電気化学用途により好ましく利用できる。電気化学用途としては、例えば、燃料電池、レドックスフロー電池、水電解装置、電気化学式水素圧縮装置、クロロアルカリ電解装置等が挙げられるが、中でもレドックスフロー電池が最も好ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、各物性の測定条件は次の通りである。また、本実施例中には化学構造式を挿入するが、該化学構造式は読み手の理解を助ける目的で挿入するものであり、ポリマーの重合成分の化学構造、正確な組成、並び方、スルホン酸基の位置、数、分子量などを必ずしも正確に表すわけではなく、これらに限定されるものでない。
(1)核磁気共鳴スペクトル(NMR)
下記の測定条件で、H−NMRの測定を行い、構造確認を行った。
装置 :日本電子(株)製EX−270
共鳴周波数 :270MHz(H−NMR)
測定温度 :室温
溶解溶媒 :DMSO−d6
内部基準物質:TMS(0ppm)
積算回数 :16回
(2)重量平均分子量
ポリマーの重量平均分子量をGPCにより測定した。紫外検出器と示差屈折計の一体型装置として東ソー(株)製HLC−8022GPCを、またGPCカラムとして東ソー(株)製TSK gel Super HM−H(内径6.0mm、長さ15cm)2本を用い、N−メチル−2−ピロリドン溶媒(臭化リチウムを10mmol/L含有するN−メチル−2−ピロリドン溶媒)にて、サンプル濃度0.1wt%、流量0.2mL/分、温度40℃で測定し、標準ポリスチレン換算により重量平均分子量を求めた。
(3)純度の測定方法
下記条件のガスクロマトグラフィー(GC)により定量分析した。
カラム:DB−5(アジレント・テクノロジー(株)製)、L=30m、Φ=0.53mm、D=1.50μm
キャリヤー:ヘリウム(線速度=35.0cm/秒)
分析条件は次のとおりとした。
Inj.temp.:300℃
Detct.temp.:320℃
Oven:50℃×1分
Rate:10℃/分
Final:300℃×15分
SP ratio:50:1
(4)膜厚
(株)ミツトヨ製グラナイトコンパレータスタンドBSG−20にセットした(株)ミツトヨ製ID−C112型を用いて測定した。
(5)イオン交換容量(IEC)
プロトン置換し、純水で十分に洗浄した電解質膜の膜表面の水分を拭き取った後、100℃にて12時間以上真空乾燥し、乾燥重量を求めた。次に、電解質に5重量%硫酸ナトリウム水溶液を50mL加え、12時間静置してイオン交換した。続いて、0.01mol/L水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生じた硫酸を滴定した。指示薬として市販の滴定用フェノールフタレイン溶液0.1w/v%を加え、薄い赤紫色になった点を終点とした。最終的に、下記の式によりイオン交換容量を算出した。
イオン交換容量(meq/g)=〔水酸化ナトリウム水溶液の濃度(mmol/mL)×滴下量(mL)〕/試料の乾燥重量(g)
(6)5価バナジウム溶液の色変化確認
電解質膜を5cm×5cmのサイズに切り出し、ポリエチレンテレフタレートフィルム上に貼り付けた。次いで、0.075mol・L−15価バナジウム/3.5mol・L−1硫酸水溶液からなる液を、上記電解質膜の上に1滴たらし、5分後に液滴の色を観察した。5価のバナジウム/硫酸水溶液は黄色であり、4価になると緑色、3価では青色、2価では紫色となることから、電解質膜上の液滴の色の変化により5価のバナジウム溶液が膜中の添加剤によって還元されたどうかを確認することができる。液滴の色が緑、青、紫に変化した場合は「優」とし、液滴の色変化が無い場合は「不可」と評価した。
(7)4価バナジウムイオン透過量
H型セル間に電解質膜(6.6cm)を挟み、片側に1.5mol・L−1硫酸マグネシウム/3.5mol・L−1硫酸水溶液、もう片側に1.5mol・L−1硫酸バナジウム(IV)/3.5mol・L−1硫酸水溶液を各70mL入れた。マグネチックスターラーを用いて、25℃、300rpmで攪拌した。4日後の硫酸マグネシウム溶液中に溶出した4価のバナジウム濃度をUV分光光度計((株)日立製作所製、U−3010)で765nmの吸光度を測定した。
あらかじめ、濃度の異なる硫酸バナジウム(IV)の3.5mol・L−1硫酸水溶液を調製し、上記UV分光高度計により吸光度を測定し、濃度と吸光度の関係から得られる検量線を作成し、この検量線から透過した4価のバナジウム濃度を定量した。
次いで、下記式により4価のバナジウムイオン透過量を算出した。ここで、使用した硫酸水溶液の比重(密度)は水と同じとする。
4価バナジウムイオン透過量(×10−10cm/分)=透過したバナジウム濃度(mol)/(膜面積(cm)×透過時間(分))/1.5(mol/m)×膜厚(m)
(7)分子量維持率(耐酸化性)
2cm×2cmに切り出した電解質膜を、0.3mol・L−15価バナジウム/3.5mol・L−1硫酸水溶液に80℃で48時間浸漬し、浸漬前後の電解質膜の分子量を(2)項と同様の手法で測定した。得られた分子量から、下記式により分子量維持率を算出した。
分子量維持率(%)=(浸漬後の膜の分子量/浸漬前の膜の分子量)×100
(8)添加剤(B
実施例で使用した添加剤を下記する。
T1:トリフェニルアミン(TPA、東京化成工業(株)製試薬)
T2:N,N,N’,N’−テトラフェニルビフェニル4,4’−ジアミン(TPPA、東京化成工業(株)製試薬)
T3:トリ−p−トリルアミン(Me−TPA,東京化成工業(株)製試薬)
T4:N,N,N’、N’−テトラキス(4−メトキシフェニル)ベンジジン(MeO−TPPA、東京化成工業(株)製試薬)
T5:4,4’,4’’−トリス(ジフェニルアミノ)トリフェニルアミン(TDATPA、東京化成工業(株)製試薬)
Figure 2020181815
合成例1
[下記一般式で表される2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン(K−DHBP)の合成]
Figure 2020181815
攪拌器、温度計及び留出管を備えた500mLフラスコに、4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノン49.5g、エチレングリコール134g、オルトギ酸トリメチル96.9g及びp−トルエンスルホン酸1水和物0.50gを仕込み溶解する。その後78〜82℃で2時間保温攪拌した。更に、内温を120℃まで徐々に昇温、ギ酸メチル、メタノール、オルトギ酸トリメチルの留出が完全に止まるまで加熱した。この反応液を室温まで冷却後、反応液を酢酸エチルで希釈し、有機層を5%炭酸カリウム水溶液100mLで洗浄し分液後、溶媒を留去した。残留物にジクロロメタン80mLを加え結晶を析出させ、濾過し、乾燥して2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソラン52.0gを得た。この結晶をGC分析したところ99.8%の2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3−ジオキソランと0.2%の4,4’−ジヒドロキシベンゾフェノンであった。
合成例2
[下記一般式で表されるジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンの合成]
Figure 2020181815
4,4’−ジフルオロベンゾフェノン109.1g(アルドリッチ試薬)を発煙硫酸(50%SO)150mL(和光純薬工業(株)試薬)中、100℃で10時間反応させた。その後、多量の水中に少しずつ投入し、NaOHで中和した後、食塩200gを加え合成物を沈殿させた。得られた沈殿を濾別し、エタノール水溶液で再結晶しジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノンを得た。純度は99.3%であった。構造はH−NMRで確認した。不純物はキャピラリー電気泳動(有機物)およびイオンクロマトグラフィー(無機物)で定量分析を行った。
合成例3
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP20.66g(80mmol、50mol%)、前記合成例2で得たジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン13.51g(32mmol、20mol%)、および4,4’−ジフルオロベンゾフェノン10.47g(アルドリッチ試薬、48mmol、30mol%)を入れ、窒素置換後、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMP)90mL、トルエン45mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、200℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、高分子電解質材料を得た。
合成例4
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP16.53g(64mmol、40mol%)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン5.39g(東京化成工業(株)試薬、16mmol、10mol%)、前記合成例2で得たジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン13.51g(32mmol、20mol%)、および4,4’−ジフルオロベンゾフェノン10.47g(アルドリッチ試薬、48mmol、30mol%)を入れ、窒素置換後、NMP90mL、トルエン45mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、200℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、高分子電解質材料を得た。
合成例5
窒素導入管を備えた250mL二口フラスコに、イソフタル酸ジフェニル(東京化成工業(株)製)29.7g(93.3mmol)及びポリリン酸(和光純薬製)5gを入れ窒素置換後、150℃まで昇温し、溶融、混合した。室温まで冷却後、3,3’−ジアミノベンジジン(アルドリッチ試薬)20.0g(93.3mmol))を加え、再度150℃まで昇温した。イソフタル酸ジフェニルの融解後、5時間かけ200℃まで昇温した。200℃到達より1時間経過後、30分間減圧しフェノールを除去した後、200℃にて8時間反応を行った。得られた褐色固体を350gのNMPに溶解、濾過後、2重量%重曹水溶液3Lで再沈殿することで精製を行い、ポリベンゾイミダゾール(PBI)化合物25.9g(収率90%)を得た。次いで、得られたPBI5gとジメチルアセトアミド95gをオートクレーブ中に入れて密閉し、250℃まで昇温し24時間保持した。オートクレーブを自然冷却し、PBI濃度5重量%のN,N−ジメチルアセトアミド溶液を作製した。
このPBI溶液100gを有機溶媒用スプレードライヤ(ヤマト科学(株)製ADL311S−A)を用いて噴霧し、5gのPBI粉末を得た。この時の運転条件は、入口温度200℃、出口温度50℃、送液速度1.0g/分、噴霧圧力0.25MPaであった。このスプレードライにより得られたPBI粉末をNMPに溶解してGPC法により分子量測定したところ重量平均分子量は21万であった。
合成例6
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP20.66g(80mmol、50mol%)、前記合成例2で得たジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン11.82g(28mmol、17.5mol%)、および4,4’−ジフルオロベンゾフェノン11.35g(アルドリッチ試薬、52mmol、32.5mol%)を入れ、窒素置換後、NMP90mL、トルエン45mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、200℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、高分子電解質材料を得た。
合成例7
かき混ぜ機、窒素導入管、Dean−Starkトラップを備えた500mL三口フラスコに、炭酸カリウム13.82g(アルドリッチ試薬、100mmol)、前記合成例1で得たK−DHBP20.66g(80mmol、50mol%)、前記合成例2で得たジソジウム3,3’−ジスルホネート−4,4’−ジフルオロベンゾフェノン16.89g(40mmol、50mol%)、および4,4’−ジフルオロベンゾフェノン8.731g(アルドリッチ試薬、40mmol、50mol%)を入れ、窒素置換後、NMP90mL、トルエン45mL中、180℃で脱水後、昇温してトルエン除去、200℃で3時間重合を行った。多量の水で再沈殿することで精製を行い、高分子電解質材料を得た。
合成例8
[下記式(O6)で表されるセグメントと下記式(O7)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマー前駆体b2’の合成]
無水塩化ニッケル1.78gとジメチルスルホキシド15mLとを混合し、70℃に調整した。これに、2,2’−ビピリジル2.37gを加え、同温度で10分撹拌し、ニッケル含有溶液を調製した。
ここに、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸(2,2−ジメチルプロピル)1.64gと下記式(O5)で示される、ポリエーテルスルホン(住友化学社製スミカエクセルPES5200P、Mn=40,000、Mw=94,000)0.55gとを、ジメチルスルホキシド5mLに溶解させて得られた溶液に、亜鉛粉末1.35gを加え、70℃に調整した。これに前記ニッケル含有溶液を注ぎ込み、70℃で4時間重合反応を行った。反応混合物をメタノール60mL中に加え、次いで、6mol/L塩酸60mLを加え1時間攪拌した。析出した固体を濾過により分離し、乾燥し、灰白色の下記式(O6)と下記式(O7)で表されるセグメントを含むブロックコポリマー前駆体b2’(ポリアリーレン前駆体)1.75gを収率97%で得た。重量平均分子量は21万であった。
Figure 2020181815
[前記式(O7)で表されるセグメントと下記式(G8)で表されるセグメントからなるポリエーテルスルホン(PES)系ブロックコポリマーb2の合成]
ブロックコポリマー前駆体b2’0.25gを、臭化リチウム1水和物0.18gとN−メチル−2−ピロリドン8mLとの混合溶液に加え、120℃で24時間反応させた。反応混合物を、6mol/L塩酸80mL中に注ぎ込み、1時間撹拌した。析出した固体を濾過により分離した。分離した固体を乾燥し、灰白色の前記式(O7)で示されるセグメントと下記式(O8)で表されるセグメントからなるブロックコポリマーb2を得た。得られたポリアリーレンの重量平均分子量は19万であった。
Figure 2020181815
(実施例1)
合成例3で得られた高分子材料を13重量部溶解させたNMP溶液に、添加剤(B)としてトリフェニルアミン(TPA)を0.13重量部添加、溶解させたポリマー溶液を調製し、ガラス繊維フィルターを用いて加圧ろ過を行った。この場合、電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tは1wt%となった。
上記で得られたポリマー溶液をコンマコーターでポリエチレンテレフタレート基材上に流延塗布し、115℃で13分、150℃で13分乾燥し、ポリケタールケトン膜を得た。次いで、10重量%硫酸水溶液に25℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、電解質膜を得た。膜の特性を表1に示す。
Figure 2020181815
(実施例2〜8)
使用する添加剤(B)の種類および含有量を表1に示す様に変更した以外は実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。すなわち、ポリマー(A)13重量部に対し、添加剤(B)を0.65重量部(実施例2)、1.30重量部(実施例3)、0.65重量部(実施例4)、1.17重量部(実施例5)、0.78重量部(実施例6)、1.56重量部(実施例7)、1.82重量部(実施例8)をそれぞれ添加した。膜の特性を表1に示す。
(実施例9)
使用するポリマーを合成例4で得られたポリマーに変更し、添加剤は表1の通り添加した以外は実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。すなわち、ポリマー(A)13重量部に対し、添加剤(B)を1.56重量部添加した。この場合、電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tは11wt%となった。膜の特性を表1に示す。
(実施例10)
Nafion(登録商標)Solution D2020(Ion Power Inc.製ナフィオン(登録商標)水溶液)をエバポレーターを用いてNMP置換し、ナフィオン(登録商標)のNMP溶液を調製した。得られた溶液に、ポリフッ化ビニリデンのNMP溶液(株式会社クレハ製 KFPOLYMER L#7305)を混合し、ナフィオン(登録商標)が40重量部、PVDFが60重量部となるように混合し固形分濃度が6重量部の溶液を調製し、次いで添加剤(B)としてトリフェニルアミン(TPA)を0.6重量部の割合で添加し溶液を調製した。この場合、P層に含まれる添加剤(B)の含有量Tは9wt%となった。
さらに、実施例2で作製した膜をガラス版に貼り付けて、上記で得られた溶液をアプリケーターにより該膜上に流延塗布した。なお、実施例2で作製した膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tは5wt%であった。次いで120℃で4時間乾燥して、添加剤(B)を含有する、ナフィオン(登録商標)とPVDFからなるP層を有するポリケタールケトン膜を得た。次いで、10重量%硫酸水溶液に25℃で24時間浸漬してプロトン置換、脱保護反応した後に、大過剰量の純水に24時間浸漬して充分洗浄し、P層を有する電解質膜を得た。膜の特性を表1に示す。
(実施例11)
使用するポリマーを合成例5で得られたポリマーに変更し、添加剤は表1の通り添加した以外は実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。すなわち、ポリマー(A)13重量部に対し、添加剤(B)を1.17重量部添加した。この場合、電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tは8wt%となった。膜の特性を表1に示す。
(実施例12)
使用するポリマーを合成例6で得られたポリマーに変更し、添加剤は表1の通り添加した以外は実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。すなわち、ポリマー(A)13重量部に対し、添加剤(B)を1.17重量部添加した。この場合、電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tは8wt%となった。膜の特性を表1に示す。
(実施例13)
使用するポリマーを合成例7で得られたポリマーに変更し、添加剤は表1の通り添加した以外は実施例1と同様の方法で電解質膜を得た。すなわち、ポリマー(A)13重量部に対し、添加剤(B)を1.17重量部添加した。この場合、電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tは8wt%となった。膜の特性を表1に示す。
(比較例1)
合成例3で得られたポリマーを用いて、添加剤(B)を含有させない以外は実施例1に記載の方法と同様にして電解質膜を得た。膜の特性を表1に示す。
(比較例2)
合成例3で得られたポリマーに、添加剤(B)を含有させず、これに代えて合成例5で得られたポリベンゾイミダゾール(PBI)を1.30重量部添加した以外は、実施例1と同じ方法で電解質膜を得た。膜の特性を表1に示す。
(比較例3)
市販のナフィオン(登録商標)212膜(デュポン社製)を用い、各種特性を評価した。ナフィオン(登録商標)212膜は100℃の5%過酸化水素水中にて30分、続いて100℃の5%希硫酸中にて30分浸漬した後、100℃の脱イオン水でよく洗浄した。膜の特性を表1に示す。
本発明の電解質膜は、種々の電気化学装置(例えば、レドックスフロー電池、燃料電池、水電解装置、クロロアルカリ電解装置等)に適用可能である。これら装置の中でも、レドックスフロー電池向けの隔膜として好適であり、特にバナジウムを活物質とするレドックスフロー電池に好適に用いることができる。
本発明のレドックスフロー電池の用途としては、太陽光発電や風力発電により生成された電力を貯蔵する2次電池として好ましく用いられる。

Claims (9)

  1. イオン性基含有ポリマー(A)を含む高分子電解質膜であって、−0.35V〜1.30Vの範囲に酸化還元電位を示す添加剤(B)を含有する高分子電解質膜。
  2. 前記添加剤(B)が下記式で示すいずれかの構造から選ばれる窒素含有構造を有する請求項1に記載の電解質膜。
    Figure 2020181815
    ここで、R〜Rは、炭素数1〜20までの炭化水素基、芳香環を有する基、CHO−、NH−のうちのいずれかから選択でき、これらの構造を複数含んでいても良い。
  3. 請求項1および2に記載の電解質膜が、レドックスフロー電池用である電解質膜。
  4. 前記イオン性基含有ポリマー(A)が主鎖中に芳香環を有する炭化水素系ポリマーである、請求項1〜3のいずれかに記載の電解質膜。
  5. 前記イオン性基含有ポリマー(A)が下記式(2)および(3)で表される構造単位を含有する請求項1〜4のいずれかに記載の電解質膜。
    Figure 2020181815
    Figure 2020181815
    ここで、Ar,Arは下記式(4)、Arは下記式(5)で表わされ、XおよびXはケトン基(−(C=O)−)、エーテル基(−O−)、スルホン酸基(―SO−)、フッ化炭素含有基(−C(CF−)のいずれかから選択でき、さらに上記構造を複数含んでいても良く、Yがイオン性基である。またXは保護基であっても良い。
    Figure 2020181815
    Figure 2020181815
  6. 前記電解質膜の少なくとも片面に、添加剤(B)を含むポリマーからなるP層を有し、P層に含まれる添加剤(B)の含有量(T)と、前記電解質膜に含まれる添加剤(B)の含有量Tとが、T≦Tの関係を満たす請求項1〜5のいずれかに記載の電解質膜。
  7. 4価バナジウム濃度1.5mol・L−1、硫酸濃度3.0mol・L−1水溶液に対する単位面積当たりの活物質透過量が1800×10−10cm/分以下である請求項1〜6のいずれかに記載の電解質膜。
  8. 5価のバナジウム濃度0.3mol・L−1、硫酸濃度3.5mol・L−1水溶液に80℃で48時間浸漬した後の分子量維持率が35%以上である請求項1〜7のいずれかに記載の電解質膜。
  9. 請求項1〜8のいずれかに記載の電解質膜を、正極と負極を隔離分離する隔膜として用いたレドックスフロー電池。
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