JP2020176102A - 新規スクアレン誘導体および抗炎症剤 - Google Patents

新規スクアレン誘導体および抗炎症剤 Download PDF

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Abstract

【課題】スクアレンを出発原料とした新規スクラレン誘導体を提供し、また、このスクアレン誘導体を用いた抗炎症剤を提供する。【解決手段】一般式(1)で表されるスクアレン誘導体、このスクアレン誘導体を有効成分とする抗炎症剤、およびこのスクアレン誘導体を含有する飲食品、医薬。【化1】(式中R1とR2は、いずれか一方が水素で、もう一方がR=(CH2CH2O)nH、ただしn=1〜10である)【選択図】 図2

Description

本発明は、抗炎症活性を有する新規化合物であるスクアレン誘導体、および抗炎症剤に関するものである。また、本発明は、上記抗炎症剤を含有する飲食品または医薬品に関する。
スクアレンは、サメの肝油や藻類などから得られるトリテルペンの一種であり、抗酸化作用、ガンマ線照射による保護作用、抗腫瘍効果など様々な生理活性が知られている。
特許文献1には、スクアレンが低コレステロール血症の患者に対して血中総コレスレロール上昇作用を有することが記載され、また、特許文献2には、ビタミンAおよびその誘導体の制がん剤としての効果と、スクアレンおよびその誘導体のがん転移防止剤としての効果の両方を有する、スクアレン−ω−アルコールとビタミンAアシドのエステルの制がんおよびがんの転移抑制作用について記載されている。
一方、近年、ガンや糖尿病、高血圧、脂質異常症等の生活習慣病に加え、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎、食物アレルギーをはじめとするアレルギー性疾患などの炎症を病態とする疾患の増加が、大きな問題となっており、その予防や治療が社会的な課題となっている。しかしながら、生活習慣病、アレルギー性疾患を予防、治療するために医薬品の服用は長期間にわたるため、人体への悪影響は避けられず、また、医療費の増大を招く一因となっている。
一方、医薬品等の高額な治療法に頼ることなく抗炎症効果を得るためには、抗炎症作用を有する天然の食品成分を摂取するという、生活の質を下げることのない食事による予防、軽減、治療方法が求められているものの、特定保健用食品や機能表示性食品は、医薬品と比較して効果が出るために必要な摂取量がさらに多いか、あるいは長期的な摂取が必要であるという課題がある。
特開2008−266306号公報 特公昭60−38370号公報
Tetrahedron Letters (1962) No.3, p.121-124 Tetrahedron Letters (1968) No.6, p.723-725
本発明は、従来技術の上記状況に鑑みてなされたものであり、天然由来の成分であるスクアレンを化学的に修飾することにより、その抗炎症効果が増強された新規スクアレン誘導体を提供することを課題とする。また、本発明は、該新規スクアレン誘導体を有効成分とする抗炎症剤、該新規スクアレン誘導体を含む飲食品、および該新規スクアレン誘導体を含む医薬を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、スクアレンを出発原料として、2,3−エポキシスクアレンを合成し、さらにエチレングリコールまたはポリエチレングリコールを付加することにより、新規スクアレン誘導体を合成することに成功した。そして、この新規スクアレン誘導体の優れた抗炎症作用を発見して上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
本発明は、下記(1)〜(3)の新規スクアレン誘導体に関する。
(1) 一般式(1)
Figure 2020176102
(式中R1とR2は、いずれか一方が水素で、もう一方がR=(CH2CH2O)nH、ただしn=1〜10である)で表されるスクアレン誘導体。
(2)前記一般式(1)におけるRのnが1〜4である、上記(1)に記載のスクアレン誘導体。
(3)前記一般式(1)におけるR1が水素で、R2がRである、上記(1)または(2)に記載のスクアレン誘導体。
また、本発明は、下記(4)の抗炎症剤、下記(5)の飲食品、または下記(6)の医薬に関する。
(4)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のスクアレン誘導体を有効成分とする抗炎症剤。
(5)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のスクアレン誘導体を含有する飲食品。
(6)上記(1)ないし(3)のいずれかに記載のスクアレン誘導体を含有する医薬。
本発明は、微細藻類、深海ザメ、あるいは植物由来の天然由来成分であるスクアレンを出発原料として新規エチレングリコール付加スクアレンを合成し、その抗炎症作用を発見、確認したことを特徴とし、マクロファージ様RAW細胞を、スクアレンおよびエチレングリコール付加スクアレンで処理することにより、スクアレンでは見出されなかった細胞生存率の低下がエチレングリコール付加スクアレンにおいて見出した。
また、スクアレンおよびエチレングリコール付加スクアレン処理RAW細胞において、LPSが誘導する炎症性化学物質である一酸化窒素産生量の抑制効果、ならびに、炎症性サイトカインであるTNF−α遺伝子発現レベルおよびケモカインであるCCL2の遺伝子発現レベルでの抑制効果が認められ、抗炎症効果が確認された。
そして、スクアレンおよびエチレングリコール付加スクアレンのこれら効果の活性比較を行なったところ、エチレングリコール付加スクアレンはスクアレンと比較して、1/100の濃度で効果を発揮することが明らかとなった。
炎症反応は、生体への異物の浸入、感染、外傷、火傷あるいはアレルゲンなどの有害刺激が作用したときに起こる生体防御反応であるだけでなく、メタボリックシンドローム、動脈硬化疾患、神経変性疾患、自己免疫疾患などの多くの疾患の病態基盤に炎症が存在すると考えられている。
本発明のエチレングリコール付加スクアレン、ポリエチレングリコール付加スクアレンには、今後、炎症予防・改善あるいは症状の緩和効果において、より低濃度で効果を発揮することから、無理なく摂取可能な抗炎症剤として期待される。
スクアレン濃度1、10、100μg/mLでの細胞毒性試験の結果を示す。 実施例1で合成したエチレングリコール付加スクアレンの1、10、100μg/mLの濃度での細胞毒性試験の結果を示す。 スクアレン濃度1、10、100μg/mLでのNO産生測定試験の結果を示す。 エチレングリコール付加スクアレンの1、10、100μg/mLの濃度でのNO産生測定試験の結果を示す。 スクアレンまたはエチレングリコール付加スクアレンで処理した細胞における、LPS添加によるTNF−α遺伝子発現量を示す。 スクアレンまたはエチレングリコール付加スクアレンで処理した細胞における、LPS添加によるCCL2遺伝子発現量を示す。
本発明の新規スクアレン誘導体は、スクアレンを出発原料として、2,3−エポキシスクアレンを合成し、さらにエチレングリコールまたはポリエチレングリコールを付加して合成される。
スクアレンは、下記式(2)の構造のトリテルペンである。
Figure 2020176102
このスクアレンの末端をエポキシ化して、下記式(3)の2,3−エポキシスクアレンを合成する方法は、非特許文献1、非特許文献2に記載されているように従来公知である。
Figure 2020176102
例えば、スクアレンは、市販の富士フィルム和光純薬製のものを用いることができ、このスクアレンに対して2当量のN−ブロモコハク酸イミドを、エチレングリコールジメチルエーテル水溶液に溶かし、室温23℃で1時間攪拌した。反応溶液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー方法を用いて精製することで、81%の収率で2,3−ブロモヒドリンスクアレンが合成できる。更に、2,3−ブロモヒドリンスクアレンを塩基性エタノール溶液中で、室温下1時間攪拌する。反応溶液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー方法を用いて、5%の酢酸エチルを含むヘキサン留分で精製することで、2,3−エポキシスクアレンが合成できる。
次いで合成した2,3−エポキシスクアレンの2位を、以下の方法によりエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等の求核試薬と反応させてエーテル化して、下記式(1)の新規化合物を合成する。
一般式(1)
Figure 2020176102
(式中R1とR2は、いずれか一方が水素で、もう一方がR=(CH2CH2O)nH、ただしn=1〜10である)
本発明のスクアレン誘導体の製造方法は、2,3−エポキシスクアレンを例えば、イソプロパノール等のアルコールに溶解させて、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、またはテトラエチレングリコールを加えて80℃程度で数時間加熱して反応させることで行われる。放冷後、酢酸エチルで抽出してからカラムクロマトグラフィーで精製することにより、本発明のスクアレン誘導体を単離できる。
2,3−エポキシスクアレンを溶解させる溶媒は、例えば、アセトン、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン、tert−ブチルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、クロロホルム等であり、また、添加するエチレングリコールの量は、2,3−エポキシスクアレンに対して、50〜500当量である。反応温度は50℃〜90℃の範囲、反応時間は4〜9時間が好ましい。
単離精製した本発明のスクアレン誘導体の抗炎症活性を、マクロファージ様RAW細胞を用いた細胞毒性評価試験により確認する。
細胞毒性試験であるMTT試験とは、生細胞でMTT(3−(4,5−di−methylthiazol−2−yl)−2,5−diphenyltetrazolium bromide、yellow tetrazole)を可視化する試験であり、MTTは、生細胞においては紫色のホルマザン色素へ還元され、死細胞では還元されない。ジメチルスルホキシドや、酸性エタノール溶液、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の希塩酸溶液を、不溶性のホルマザン色素を可溶化させるために添加し、得られた着色溶液を500〜600nmの波長の間の吸光度を分光光度計で測定することで、生細胞の定量化を行う。吸収極大波長は使用する溶媒に依存する。
また、LPSが誘導する炎症性化学物質である一酸化窒素(NO)産生量の抑制効果を確認するために、NO産生測定試験を行う。RAW細胞は、LPSの添加によりNOを産生し、このNOは単独またはスーパーオキサイドと反応して、DNA障害性を有するペルオキシ亜硝酸を産生し、細胞や組織に障害を与え炎症症状を増悪することが知られている。
上記のような試験により抗炎症活性が確認された本発明のスクアレン誘導体を有効成分とする抗炎症剤には、医薬や栄養補助食品として、錠剤やカプセとして経口投与する態様のものと、特定保健用食品や機能性表示食品を含む飲食品としての態様のものがある。
本発明の抗炎症剤は、炎症の予防、治療に有用である。マクロファージ活性抑制効果を有するため、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎およびアトピー性皮膚炎等の炎症症状、遅延型アレルギー、胃炎および潰瘍性大腸炎等の炎症性疾患、関節リウマチおよび変性性骨関節炎等の関節炎等の炎症の他にも、動脈硬化、子宮内膜症、急性呼吸急迫症候群、気管支炎、腎臓移植による障害、急性心筋梗塞、糖尿病、全身性エリテマトーデス、クローン病、腎炎、肝炎、肺炎、IgA腎症、エンドトキシンショック、および感染症による敗血症等の炎症性疾患を対象とする。
本発明の抗炎症剤を医薬や栄養補助食品として用いる場合、その形状は特に限定されず、コーティング錠、糖衣錠、硬ゼラチンカプセル剤、軟ゼラチンカプセル剤、液剤、粉粒状剤、乳剤または懸濁剤等のいずれの形状でも製剤化できる。製剤化用担体としては特に制限はなく、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、界面活性剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、発色剤、矯味剤、着香剤、酸化防止剤、防腐剤、呈味剤、酸味剤、甘味剤、強化剤、ビタミン剤、膨張剤、増粘剤、流動性促進剤などの中から、製剤に必要な諸特性を損なわないもので、最終製品の剤形に応じたものを1種または2種以上選択することができる。
賦形剤としては、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等が挙げられ、崩壊剤としては、デンプン、ヒドロキシプロピルスターチ、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルセルロース、低置換ヒドロキシプロピルセルロースが、結合剤としては、デンプン、デキストリン、アラビアゴム末、ゼラチン、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、エチルセルロース、ポリビニルピロリドン、マクロゴールが挙げられる。界面活性剤としては、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリソルベート80が、滑沢剤としては、タルク、ロウ類、水素添加植物油、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ポリエチレングリコールが、流動性促進剤としては、軽質無水ケイ酸、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムが挙げられる。
上記医薬や栄養補助食品は、ヒトまたはヒト以外の哺乳動物用として用いることができる。経口剤としての服用量、摂取量は、それを使用する対象者の症状、性別、年齢に応じて適宜設定することができる。例えば、成人一人あたり一日に、有効成分である式(1)のスクアレン誘導体を、0.1mg〜5g程度摂取できるよう服用することができる。
本発明の抗炎症剤を飲食品として用いる場合、特定保健用食品、機能性表示食品として機能を表示して用いるだけでなく、一般飲食品として用いることもできる。飲食品としては、例えば、飲料(清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、粉末飲料、果実飲料、乳飲料、ゼリー飲料など)、菓子類(クッキー、ケーキ、ガム、キャンディー、タブレット、グミ、饅頭、羊羹、プリン、ゼリー、アイスクリーム、シャーベットなど)、水産加工品(魚肉ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、はんぺんなど)、畜産加工品(ハンバーグ、ハム、ソーセージ、ウィンナー、チーズ、バター、ヨーグルト、生クリーム、チーズ、マーガリン、発酵乳など)、スープ(粉末状スープ、液状スープなど)、主食類(ご飯類、麺類、パン、シリアルなど)、調味料(マヨネーズ、ショートニング、ドレッシング、ソース、たれ、しょうゆなど)などが挙げられる。
例えば、成人一人あたり一日に、有効成分である式(1)のスクアレン誘導体を、0.1mg〜5g程度摂取できるような量で添加すればよい。
以下に、本発明における式(1)のスクアレン誘導体の製造方法、細胞毒性試験、および抗敗血症活性試験に関する実施例を用いてさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
式(2)のスクアレンから上記方法により合成した式(3)の2,3−エポキシスクアレンを原料にして、式(1)のR2がn=1のRであるエチレングリコール付加スクアレンを合成した。
2,3−エポキシスクアレン30mg(71μmol)をイソプロパノール3mLに溶解し、エチレングリコール2.7mg(43mmol)を加え、80℃で6時間加熱し、放冷した。水を加えて酢酸エチルで抽出し、無水酢酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルc−300)を用いて、ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒で精製し、エチレングリコール付加スクアレン17mg(49%)を無色油状物として得た。この精製物の1H−NMR、13C−NMRを以下に示す。
エチレングリコール付加スクアレンのスペクトルデータ
IR・(CHCl3) 3451,2977,2877,1452,1381,1219,1083,909,670cm-1.
1H−NMR (400MHz CDCl3)δ5.20−5.08(m,5H),3.75−3.68(m,2H),3.55−3.46(m,3H),2.29(m,1H),2.12−1.95(m,16H),1.68(s,3H),1.62(s,3H),1.60(br s,12H),1.52−1.37(m,5H),1.15(s,3H).
13C−NMR (100MHz,CDCl3) δ135.1,135.1,134.9,134.8,131.2,124.7,124.4,124.3,(2C),77.8,76.0,62.4,62.2,39.7,39.7(2C),36.8,29.7,28.6,(2C),26.7,26.7,26.6,25.7,21.6,19.8,17.7,16.0(3C),16.0.
HRMS (ESI) m/z 511.4131(calcd for C3256NaO3[M+Na]+ 511.4127).
式(3)の2,3−エポキシスクアレンを原料にして、式(1)のR2がn=2のRであるジエチレングリコール付加スクアレンを合成した。
2,3−エポキシスクアレン30mg(71μmol)をイソプロパノール3mLに溶解し、ジエチレングリコール4.6mg(43mmol)を加え、80℃で6時間加熱し、放冷した。水を加えて酢酸エチルで抽出し、無水酢酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルc−300)を用いて、ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒で精製し、ジエチレングリコール付加スクアレン27mg(80%)を無色油状物として得た。この精製物の1H−NMR、13C−NMRを以下に示す。
ジエチレングリコール付加スクアレンのスペクトルデータ
IR・(CHCl3) 3449,3005,2973,2929,2873,1452,1383,1235,1219,1127,1082,971cm-1.
1H−NMR (400MHz CDCl3) δ5.21−5.05(m,5H),3.79−3.45(m,9H),2.29(m,1H),2.14−1.94(m,16H),1.67(s,3H),1.60(br s,15H),1.47−1.33(m,3H),1.14(s,3H),1.12(s,3H).
13C−NMR (100MHz,CDCl3) δ135.1(2C),134.9,134.8,131.2,124.6,124.4,124.3(3C),78.1,74.6,72.7,70.8,61.8,60.6,39.7(2C),39.7,37.0,29.8,28.3(2C),26.8,26.7,26.7,25.7,21.7,20.3,17.7,16.0(3C),16.0.
HRMS (ESI) m/z 555.4416(calcd for C3460NaO4[M+Na]+ 555.4389).
式(3)の2,3−エポキシスクアレンを原料にして、式(1)のR2がn=3のRであるトリエチレングリコール付加スクアレンを合成した。
2,3−エポキシスクアレン30mg(71μmol)をイソプロパノール3mLに溶解し、トリエチレングリコール6.5mg(43mmol)を加え、80℃で6時間加熱し、放冷した。水を加えて酢酸エチルで抽出し、無水酢酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルc−300)を用いて、ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒で精製し、トリエチレングリコール付加スクアレン11mg(40%)を無色油状物として得た。この精製物の1H−NMR、13C−NMRを以下に示す。
トリエチレングリコール付加スクアレンのスペクトルデータ
IR・(CHCl3) 3445,3006,2958,2927,2874,1453,1375,1246,1179,1081,909cm-1
1H−NMR (400MHz CDCl3) δ5.19−5.06(m,5H),3.79−3.43(m,13H),2.30(m,1H),2.11−1.94(m,16H),1.67(s,3H),1.59(br s,15H),1.45−1.30(m,3H),1.12(s,3H),1.11(s,3H).
13C−NMR (100MHz,CDCl3) δ135.2,135.1,134.9,131.2,124.4(2C),124.4(2C),124.3,77.9,73.2,70.6,70.6,70.1,69.9,61.7,60.3,39.8,39.7,39.7,37.0,29.9,28.3(2C),26.8,26.8,26.7,25.7,21.9,20.6,17.7,16.1(2C),16.0,16.0.
HRMS (ESI) m/z 599.4661(calcd for C3664NaO5[M+Na]+ 599.4651).
式(3)の2,3−エポキシスクアレンを原料にして、式(1)のR2がn=4のRであるテトラエチレングリコール付加スクアレンを合成した。
2,3−エポキシスクアレン30mg(71μmol)をイソプロパノール3mLに溶解し、テトラエチレングリコール8.4mg(43mmol)を加え、80℃で6時間加熱し、放冷した。水を加えて酢酸エチルで抽出し、無水酢酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧濃縮後、残渣をカラムクロマトグラフィー(ワコーゲルc−300)を用いて、ヘキサン・酢酸エチル混合溶媒で精製し、テトラエチレングリコール付加スクアレン13mg(51%)を無色油状物として得た。この精製物の1H−NMR、13C−NMRを以下に示す。
テトラエチレングリコール付加スクアレンのスペクトルデータ
IR・(CHCl3) 3460,3008,2928,2864,1452,1383,1239,1104cm-1.
1H−NMR (400MHz CDCl3) δ5.18−5.06(m,5H),3.36−3.48(m,17H),2.31(m,1H),2.11−1.95(m,16H),1.68(s,3H),1.60(br s,15H),1.45−1.38(m,3H),1.13(s,3H),1.11(s,3H).
13C−NMR (100MHz,CDCl3) δ135.1,135.1,135.0,134.9,131.2,124.4(2C),124.3(3C),77.9,74.9,72.7,70.9,70.6,70.6,70.4,70.3,61.6,60.5,39.8,39.7,39.7,37.0,29.9,28.3(2C),26.7(2C),26.6,25.7,21.7,20.0,17.7,16.0(3C),16.0.
HRMS (ESI) m/z 643.4920(calcd for C3868NaO6[M+Na]+ 643.4914).
マクロファージ様RAW細胞を用いた細胞毒性試験を行った。
マクロファージ様RAW細胞は、炎症試験に汎用されている細胞であり、スクアレンおよび実施例1で合成したエチレングリコール付加スクアレンのそれぞれについて、RAW細胞に対する毒性とその毒性効果の適正濃度の決定するために、MTT試験を実施した。
溶媒としてDMS0(ジメチルスルホキシド:富士フィルム和光純薬製)を用いてRAW細胞を溶解し、96ウェルプレートに2×104細胞/ウェルの割合で播種し、24時間CO2インキュベーター内で細胞をインキュベートした。
細胞播種してから24時間後、細胞培養液をアスピレート用いて除去し、各試料として、スクアレンまたはエチレングリコール付加スクアレンをそれぞれ、1、10、100μg/mLの濃度になるように細胞培養液に混合添加し、試料処理を行なった。
試料処理24時間後、アスピレート用いて試料などの混合培養液を除去し、MTTを混合した細胞培養液をウェルへ添加して、24時間、C02インキュベーター内でインキュベートした。24時間後にSDS処理を行い、さらに24時間、C02インキュベーター内でインキュベートしてから、マイクロプレートリーダーを用いて、吸光度570nmにおける吸光度を測定した。
結果を図1と図2に示す。スクアレン処理細胞においては、1、10、100μg/mLのいずれの濃度においても、有意な細胞生存率の変動は認められなかった(図1)のに対して、エチレングリコール付加スクアレンにおいては10および100μg/mLの試料濃度処理の細胞において、有意な細胞生存率の減少が認められた(図2)。
スクアレンと本発明のスクアレン誘導体を比較すると、細胞毒性試験におけるスクアレン誘導体は、スクアレンの1/100の濃度で効果を発揮した。
次に、RAW細胞を用いたNO産生測定試験を行った。
スクアレンおよびエチレングリコール付加スクアレンのRAW細胞に対するNO産生に及ぼす影響解析を調べるために、DMS0を用いてRAW細胞を溶解し、96ウェルプレートに2×104細胞/ウェルの割合で播種し、24時間CO2インキュベーター内で細胞をインキュベートした。細胞播種してから24時間後、細胞培養液をアスピレート用いて除去し、各試料として、スクアレンまたはエチレングリコール付加スクアレンをそれぞれ、1、10、100μg/mLの濃度になるように細胞培養液に混合添加し、試料処理を行なった。
試料処理24時間後、リポポリサッカライド(LPS、グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分)をウェルに添加した。LPS添加12時間後、細胞溶液の上澄を別の96ウェルプレートへ写し、グリース試薬(2.5% sulufanilamide,2.5% phospholic acid,0.05% n(−1−naphtyl)ethylendiamine)を等量混合し、10分間室温、暗所でインキュベートした。その後、マイクロプレートリーダーを用いて、吸光度540nmにおける吸光度を測定した。
結果を図3と図4に示す。LPS処理細胞において、有意なNO産生量の増大が認められたが、スクアレン処理細胞群において、1および10μg/mLの濃度において有意なNO産生量の変動は認められなかったが、100μg/mLの濃度において、有意なNO産生量の減少が認められた(図3)。
一方、エチレングリコール付加スクアレンにおいては、スクアレンで減少効果のあった濃度の1/100の1μg/mLの試料濃度処理の細胞において、有意なNO産生量の減少が認められた(図4)。なお、10および100μg/mLの濃度における有意なNO産生量の減少は、細胞生存率の減少によるものと考察された。
さらに、サイトカインおよびケモカイン遺伝子発現の測定試験を行った。
スクアレンおよびエチレングリコール付加スクアレンの抗炎症効果のメカニズム解析のため、代表的な炎症性サイトカインであるTNF−α、およびケモカインであるCCL2における遺伝子発現をリアルタイムPCR法を用いて解析した。リアルタイムPCRでは、RAW細胞を10cmディッシュに2×106細胞/ディッシュの割合で播種し、24時間CO2インキュベーター内で細胞をインキュベートした。細胞播種してから24時間後、細胞培養液をアスピレート用いて除去し、各試料として、スクアレンまたはエチレングリコール付加スクアレンを、それぞれ100μg/mL、1μg/mLの濃度になるように細胞培養液に混合添加し、試料処理を行なった。
なお、試料処理24時間後、LPSをディッシュに添加した。LPS添加12時間後、細胞からISOGENを用いてRNA抽出を行なった。抽出したRNAはTaqMan Gene expression Assaysを用いて遺伝子解析を行なった。
その結果、LPS処理によりTNF−αおよびCCL2の有意な発現増加が認められたが、しかし、100μg/mLのスクアレンまたは1μg/mLエチレングリコール付加スクアレン処理により、TNF−α遺伝子(図5)およびCCL2遺伝子(図6)について、有意な発現減少が認められた。
以上の結果から、本発明の新規スクアレン誘導体はスクアレンと比較して、1/100の濃度で、抗炎症活性効果を発揮することが明らかとなった。また、その抗炎症活性の原因の一つに、炎症性サイトカインやケモカインの発現量の減少があることがわかった。
生体内の炎症反応は、生体への異物の浸入、感染、外傷、火傷あるいはアレルゲンなどの有害刺激が作用したときに起こる生体防御反応であるだけでなく、多くの疾患の病態基盤に炎症が存在すると考えられている。本発明の新規スクアレン誘導体は、より低濃度で抗炎症効果を発揮することから、無理なく摂取可能な抗炎症剤として、炎症予防や症状改善効果が期待される。

Claims (6)

  1. 一般式(1)
    Figure 2020176102
    (式中R1とR2は、いずれか一方が水素で、もう一方がR=(CH2CH2O)nH、ただしn=1〜10である)で表されるスクアレン誘導体。
  2. 前記一般式(1)におけるRのnが1〜4である、請求項1に記載のスクアレン誘導体。
  3. 前記一般式(1)におけるR1が水素で、R2がRである、請求項1または2に記載のスクアレン誘導体。
  4. 請求項1ないし3のいずれかに記載のスクアレン誘導体を有効成分とする抗炎症剤。
  5. 請求項1ないし3のいずれかに記載のスクアレン誘導体を含有する飲食品。
  6. 請求項1ないし3のいずれかに記載のスクアレン誘導体を含有する医薬。


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