JP2020169379A - 被覆鋼材 - Google Patents

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正人 山下
Masato Yamashita
正人 山下
理 桑野
Osamu Kuwano
理 桑野
古川 健司
Kenji Furukawa
健司 古川
清伸 中山
Kiyonobu Nakayama
清伸 中山
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Abstract

【課題】高い耐食性を付与することができる被覆鋼材を提供する。【解決手段】被覆鋼材100は、鋼材5と、鋼材5上に設けられた第1膜10と、を備える。第1膜10は、酸化バリウム及び/又は水酸化バリウムを含む。第1膜10は、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含まない。さらに、この被覆鋼材は、以下の(A)又は(B)のいずれかを満たす。(A)前記鋼材と前記第1膜とが接触している。(B)前記鋼材と前記第1膜との間に少なくとも一つの中間膜30が設けられ、いずれの前記中間膜30も、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及び水酸化バリウムからなる群から選択される少なくとも一つと、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩と、の組み合わせを含まない。【選択図】図1

Description

本発明は高い耐食性を有する被覆鋼材に関する。
従来より、特許文献1及び2に開示されるように、鋼材上に種々の成分を含む膜を形成し、当該膜と鋼材との界面に耐食性を有する酸化物層を形成させ、この酸化物層によって鋼材の耐食性が得ることが知られている。
特開2001−234369号公報 国際公開第2014/020665号
しかし、より一層耐食性を向上させることが望まれている。本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い耐候性を有する被覆鋼材を提供することを目的とする。
本発明に掛かる被覆鋼材は、鋼材と、前記鋼材上に設けられた第1膜と、を備える。前記第1膜は、酸化バリウム及び/又は水酸化バリウムを含み、前記第1膜は、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含まない。さらに、この被覆鋼材は、以下の(A)又は(B)のいずれかを満たす。
(A)前記鋼材と前記第1膜とが接触している。
(B)前記鋼材と前記第1膜との間に少なくとも一つの中間膜が設けられ、いずれの前記中間膜も、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及び水酸化バリウムからなる群から選択される少なくとも一つと、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩と、の組み合わせを含まない。
鋼材は、表面に鋼の金属面が露出しているものでもよく、表面にあらかじめ錆層が形成されているものでもよく、表面にめっき層を有するものでもよい。
上記被覆鋼材において、前記第1膜は、酸化バリウム及び水酸化バリウムを合計で0.05〜50質量%含むことができる。
また、前記第1膜は、さらに酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含むことができる。
また、上記被覆鋼材は、第2膜を更に備えることができる。ここで、前記第2膜は、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含む。前記第2膜は、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及び水酸化バリウムを含まない。さらに、前記第2膜は前記第1膜の上に設けられた、又は、前記第2膜は前記中間膜の少なくとも一つである。
ここで、前記第2膜に含まれる金属硫酸塩は、硫酸アルミニウム、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸クロム、及び硫酸モリブデンからなる群から選択される少なくとも一つであることができる。
上記被覆鋼材は、前記第1膜の上に設けられた上塗膜をさらに備える。前記上塗膜は、乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m・24h)以下の透湿度を有することができる。
上記被覆鋼材は、前記第1膜及び前記第2膜の上に設けられた上塗膜をさらに備えることができる。前記上塗膜は、乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m・24h)以下の透湿度を有する。
本発明にかかる防食層が形成された後の被覆鋼材は、鋼材と、前記鋼材上に設けられた防食層とを備える。前記防食層は、鉄を含む酸化物、及び、炭酸バリウムを含む。
ここで、前記酸化物は、鉄及びバリウムを含む複合酸化物であることができる。
また、前記酸化物は、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも一つの元素、鉄を含む複合酸化物であってもよく、あるいは、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも一つの元素、鉄、及び、バリウムを含む複合酸化物であってもよい。
また、前記防食層は樹脂をさらに含むことができる。
本発明によれば、腐食反応により生成する鉄さびを含む防食層を利用した高い耐食性を有する被覆鋼材を提供することができる。
図1の(a)及び(b)は、それぞれ本発明の一実施形態に係る被覆鋼材の断面図である。 図2の(a)〜(c)は、それぞれ本発明の他の実施形態に係る被覆鋼材の断面図である。 図3は、それぞれ本発明の実施形態に係る、防食層が形成された後の被覆鋼材の断面図である。を示す。
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。
[被覆鋼材]
(構造)
図1の(a)及び(b)に示すように、本発明の第1実施形態に係る被覆鋼材100は、鋼材5と、鋼材5上に設けられた第1膜10と、を備える。
(鋼材)
鋼材5の鋼種は特に限定されず、普通鋼材であってもよく、低合金鋼材であってもよく、ステンレス鋼等の高合金鋼材であってもよく、特殊鋼材であってもよい。鋼材は、表面に鋼の金属面が露出していてもよく、表面にあらかじめ錆層が形成されていてもよい。鋼材は、表面にめっき層を有するめっき鋼材であってもよい。めっき層の例は、防食作用を有する金属であればよく、例えば、アルミニウム、亜鉛及びこれらの合金等の金属によるめっき層である。
なお、塗布前に鋼材5の表面をショットブラスト又は電動工具等で研磨してもよく、表面に錆層が形成されている場合にはワイヤーブラシ等で容易に除去できる錆を除去してもよい。また、鋼材が表面に錆層又は有機層若しくは無機層を有している場合、これらの層を剥離しなくともよく、これらの層を含めて鋼材の表面に塗膜を設けることができる。
(第1膜)
第1膜10は、酸化バリウム及び/又は水酸化バリウムを含み、かつ、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含まない。
(酸化バリウム及び水酸化バリウム)
第1膜10における酸化バリウム及び水酸化バリウムの含有量の合計は、第1膜10の全固形分を基準として、例えば0.05〜50.0質量%であることができる。上記含有量が0.05質量%以上であることにより酸化バリウム及び水酸化バリウムによって奏される効果が得られやすくなる。また、上記含有量が50.0質量%以下であることにより、塗膜の鋼材への密着性が得られやすくなる。同様の観点から、上記含有量の合計は、好ましくは0.1〜50.0質量%であり、より好ましくは1.0〜30.0質量%であり、さらに好ましくは10.0〜25.0質量%である。また、鋼材等に塗布する際の塗料の粘度を好適な範囲内とする観点からは、上記含有量は、好ましくは1.0〜10.0質量%である。
(酸化カルシウム及び水酸化カルシウム)
本実施形態に係る第1膜10はさらに酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含んでいてもよい。
酸化カルシウム及び水酸化カルシウムの含有量の合計は、第1膜10の全固形分を基準として、例えば30.0質量%以下であることができる。上記含有量は、好ましくは0.1〜30.0質量%であり、より好ましくは1.0〜25.0質量%であり、さらに好ましくは5.0〜20.0質量%である。
(樹脂)
本実施形態に係る第1膜10はさらに樹脂を含むことができる。樹脂としては、特に制限されず、ビニルブチラール樹脂(ポリビニルブチラール樹脂等)、エポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ニトロセルロース樹脂、ビニル樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル、及びポリビニルアルコール等)、フタル酸樹脂、メラミン樹脂、及びフッ素樹脂等が挙げられ、これらの樹脂の混合物であってもよい。これらの樹脂は熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂の硬化物であってもよい。上記樹脂が熱硬化性樹脂である場合、塗料は必要に応じて硬化剤をさらに含むことができ、通常、塗料は乾燥中及び乾燥後に硬化する。熱硬化性樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、200〜20000程度である。また、熱可塑性樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、10000〜5000000程度である。第1膜10が樹脂を含むことにより、第1膜10中の各成分が鋼材表面付近に保持されやすくなる。したがって、塗布後、防食層が形成される前に、降雨又は結露等によって上記第1膜中の各成分が外部へ流出することが抑制され、本実施形態に係る第1膜が奏する作用効果が一層得られやすくなる。
第1膜10中の樹脂の含有量の下限値は、第1膜10の全固形分を基準として、例えば、3.0質量%であってもよく、5.0質量%であってもよく、10.0質量%であってもよく、20質量%であってもよい。樹脂の含有量が3.0質量%以上であることにより、鋼材上に防食層が形成されるまで塗料中の各成分が鋼材表面付近に保持されやすくなる傾向がある。第1膜中の樹脂の含有量の上限値は、塗料の全固形分を基準として、例えば、95.0質量%であってもよく、90.0質量%であってもよく、70.0質量%であってもよく、50.0質量%であってもよい。樹脂の含有量が95.0質量%以下であることにより、鋼材上に防食層が形成されやすくなる傾向がある。
(その他の成分)
第1膜は、必要に応じて、リン酸;アルミニウム粉、亜鉛粉、並びに、アルミニウム及び亜鉛を含有する合金粉などの金属粉;着色顔料、体質顔料、防錆顔料、特殊機能顔料等の顔料;及び、チキソ剤、分散剤、及び酸化防止剤等の添加剤を含むことができる。これらの添加量は、例えば合計で50質量%以下とすることができ、20質量%以下とすることができ、10質量%以下とすることができる。上記塗料は腐食環境が厳しい場合に耐食性を制御するために防錆顔料を含むことがあるが、耐食性鋼構造体に過度の耐食性を与えないために、その含有量は、上記塗料の全固形分を基準として、30.0質量%以下であることができ、20.0質量%以下であってもよく、10.0質量%以下であってもよい。
本実施形態において、塗料に含まれる粒子状の材料の平均粒子径は100μm以下であることができ、好ましくは30μm以下である。
第1膜10の厚みは、1〜1000μmとすることができる。第1膜10の厚さが1μm以上であることにより、第1膜10中の各成分が鋼材上に十分保持される。また、第1膜10の厚さが1000μm以下であることにより、経済的に有利であるばかりでなく、下地の鋼材に何らかの影響で発生した応力により第1膜10に曲げモーメントが発生した場合等の、第1膜10の割れ又は鋼材表面からの剥離を抑制することができる。第1膜10の厚さの下限値は、3μmであってもよく、5μmであってもよく、10μmであってもよい。第1膜10の厚さの上限値は、750μmであってもよく、500μmであってもよい。
この被覆鋼材100は、以下の(A)又は(B)のいずれかを満たす。
(A)鋼材5と第1膜10とが接触している。
(B)鋼材5と第1膜10との間に少なくとも一つの中間膜30が設けられ、いずれの中間膜30も、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及び水酸化バリウムからなる群から選択される少なくとも一つの化合物B1と、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩B2と、の組み合わせを含まない。
図1の(a)は(A)の態様の例であり、鋼材5と第1膜10とが直接接触している。
図1の(b)は(B)の態様の例であり、鋼材5と第1膜10との間に中間膜30が設けられている。中間膜30は単層膜でも多層膜であっても良いが、中間膜30が単層膜である場合にはその単層膜が、中間膜30が多層膜である場合にはその各層が、上記の化合物B1及び金属硫酸塩B2の組み合わせを含有しない。中間膜30の全厚は、例えば、5〜300μmであることが出来る。
中間膜30の例は、顔料及び樹脂を含む膜である。樹脂の種類及び量は、第1膜と同様とすることができる。
第1膜10の上に他の膜が設けられていてもよい。他の膜は上記の化合物B1及び金属硫酸塩B2の組み合わせを含有しないことが好適である。
このような態様で第1膜10を有すると、以下のような効果を奏する。
第1膜中の酸化バリウム及び水酸化バリウムは、腐食環境中の水と反応しバリウムイオンを供給する。さらに、バリウムイオンと空気中の二酸化炭素との反応によって炭酸バリウムが生成し、当該炭酸バリウムの粒子が、鉄系酸化物を含む防食層中に析出して防食層の緻密化を実現し、腐食物質の浸透を抑制でき、厳しい腐食環境において特に高い防食機能を有する防食層を得ることができる。
特に上記の(A)又は(B)を満たすことにより、炭酸バリウムが鋼材の表面に形成される防食層内に到達することが容易となる。
また、鋼材の腐食反応で生成する鉄酸化物の生成過程においてバリウムイオンが供給されると、結晶構成イオンの一部がバリウムイオンである鉄酸化物が形成されたり、鉄酸化物とバリウム化合物(例えば、水酸化バリウム、酸化バリウム、硫酸バリウム)との混合相(粒子)が形成されたりすることが可能となる。本明細書では、結晶構成イオンの一部が鉄以外の金属Mのイオンである鉄酸化物、及び、鉄酸化物と鉄以外の金属Mの化合物との混合相(粒子)を、合わせて、「金属M及び鉄を含む複合酸化物」と呼ぶ。例えば、結晶構成イオンの一部がバリウムイオンである鉄酸化物、及び、鉄酸化物とバリウム化合物との混合相(粒子)を、ここでは、合わせて、鉄及びバリウムを含む複合酸化物と呼ぶ。混合相における鉄以外の金属Mの化合物の大きさは、通常1000nm以下の大きさであってよい。
このような鉄及びバリウムを含む複合酸化物により、防食層の熱力学的安定性を高めることができ、防食層の酸化還元を進行しにくくすることができる。例えば、バリウムイオンのイオン半径が鉄イオンのイオン半径より十分に大きいことに起因して、生成する複合酸化物の結晶粒径は極めて微細になるためその凝集性が向上し、これによっても防食層を緻密化することができる。さらに、バリウムを含む複合酸化物は、エネルギー的に高い安定性を有するため酸化還元に対する高い抵抗性を有するとともに、強いカチオン選択透過性を示し、腐食性アニオンの透過を抑制することができる。この際、バリウムイオンのイオン半径が鉄イオンのイオン半径より十分大きいため、イオン半径の差から酸化物結晶に大きな歪を与えることができ、結晶を構成する原子の再配列を阻害することができる。このため、バリウムを含む複合鉄酸化物は、当該酸化物の熱力学的安定性を著しく高める効果も有する。バリウムイオンによって奏される上記効果は、鉄イオンのイオン半径より十分に大きくない他のイオン、例えば、カルシウムイオンの場合と比べて極めて大きい。
(第2膜)
図2の(a)〜(c)に示すように、本実施形態に係る被覆鋼材100は、更に第2膜20を有していてもよい。
第2膜20は、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含み、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及び水酸化バリウムを含まない。
(金属硫酸塩)
第2膜20に含まれる金属硫酸塩は水溶性であり、上記金属硫酸塩の水100gに対する溶解量は5℃において0.5g以上である。
このような金属硫酸塩の例は、硫酸アルミニウム、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸クロム、及び、硫酸モリブデンである。特に金属硫酸塩は、硫酸アルミニウム、硫酸ニッケル及び硫酸マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種の化合物であることが好ましい。
第2膜20における金属硫酸塩の含有量は、第2膜の全固形分を基準として、例えば0.05〜30.0質量%であることができる。上記含有量が0.05質量%以上であることにより上記金属硫酸塩によって奏される上述の効果が得られやすくなる。上記含有量が30.0質量%以下であることにより、塗膜が脆弱となり、本発明の効果が得られる前に塗膜が剥離することを抑制することができる。ただし、このような塗膜剥離を回避できる塗膜設計が別途実現するのであれば、さらに含有量を増加させることも可能である。同様の観点から、上記含有量は、好ましくは1.5〜25.0質量%であり、より好ましくは6.0〜20.0質量%である。
第2膜20は、第1膜と同様に、樹脂、リン酸、金属粉、及びその他の成分を含んでもよい。樹脂等の濃度は、第1膜10で記載した態様と同様とすることができる。
第2膜20の厚みは、1〜1000μmとすることができる。第2膜20の厚さが1μm以上であることにより、第2膜20中の各成分が鋼材上に十分保持される。また、第2膜20の厚さが1000μm以下であることにより、経済的に有利であるばかりでなく、下地の鋼材に何らかの影響で発生した応力により第2膜20に曲げモーメントが発生した場合等の、第2膜20の割れ又は鋼材表面からの剥離を抑制することができる。第2膜20の厚さの下限値は、3μmであってもよく、5μmであってもよく、10μmであってもよい。第2膜20の厚さの上限値は、750μmであってもよく、500μmであってもよい。
図2の(a)は、(A)の態様で第2膜20を有する場合の1例であり、鋼材5の上に、第1膜10が直接設けられ、第1膜10の上に第2膜20が直接設けられている。第1膜10と第2膜20との間に、他の層が設けられていてもよい。この他の層は、中間膜30と同様に、上記の化合物B1及び金属硫酸塩B2の組み合わせを含有しないことが好適である。
図2の(b)は、(B)の態様で第2膜20を有する場合の1例であり、鋼材5の上に、第2膜20が直接設けられ、第2膜20の上に第1膜10が直接設けられている。第2膜20は、上記の化合物B1及び金属硫酸塩B2の組み合わせを含有しないことから、中間膜30の要件を満たしている。なお、鋼材5と第2膜20との間に他の中間膜30を有してもよく、第2膜20と第1膜10との間に他の中間膜30を有してもよい。これらの中間膜30も、上記の化合物B1及び金属硫酸塩B2の組み合わせを含有しない。
図2の(c)は、(B)の態様で第2膜20を有する場合の他の1例であり、鋼材5の上に、中間膜30が設けられ、中間膜の上に直接第1膜10が設けられ、第1膜10の上に直接第2膜20が設けられている。第2膜20は、上記の化合物B1及び金属硫酸塩B2の組み合わせを含有しないことが好適である。なお、第1膜10と第2膜20との間に他の中間膜30を有してもよい。この中間膜30も、上記の化合物B1及び金属硫酸塩B2の組み合わせを含有しないことが好適である。
第1膜10及び第2膜20の上にさらに他の膜が設けられていてもよい。他の膜は上記の化合物B1及び金属硫酸塩B2の組み合わせを含有しないことが好適である。
第2膜20の存在により、防食層中の鉄酸化物が、金属硫酸塩由来の金属と鉄とを含む複合酸化物、又は、金属硫酸塩由来の金属とバリウムと鉄とを含む複合酸化物となることができる。これにより、鉄酸化物の結晶粒微細化や熱力学的安定性の向上、さらには腐食を加速するアニオンの拡散を抑制するというメリットがある。
(上塗膜)
また、上記の各被覆鋼材は、図1及び図2に点線で示すように、第1膜10の上に設けられた、又は、第1膜10及び第2膜20の上に設けられた上塗膜60を有していていることができる。
上塗膜60は、乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m・24h)以下の透湿度を有することが好適であり、乾燥膜厚100μmにおいて、200g/(m・24h)以下の透湿度を有することがより好ましい。透湿度とは一定時間に単位面積の膜状物質を通過する水蒸気の量を示し、膜状物質を境界線として一方の空気を相対湿度90%、他方の空気を脱湿剤によって乾燥状態に保ち、24時間にこの境界線を通過する水蒸気の量をその膜状物質1m当たりに換算した値である。
このような上塗膜が形成されることにより、鋼材等に意匠性を付与することができるとともに、防食層による防食効果を補助することができ、鋼材の耐食性をさらに向上することが可能となる。
上塗膜60の透湿度は、乾燥膜厚100μmにおいて、20g/(m・24h)以上であってもよい。透湿度が20g/(m・24h)以上であることにより、防食層の形成に必要な水分を外部から第1膜10及び第2膜20に早期に供給しやすくなり、耐食性付与の効果が発揮されやすくなる。このように、被覆鋼材100が上塗膜60を含むことにより、外部環境によらず、第1膜10及び第2膜20に供給される水の量を制御することができる。ただし、上塗膜の透湿度は、乾燥膜厚100μmにおいて、20g/(m・24h)未満であっても差し支えない。透湿度が小さいと、第1膜10及び第2膜20への水分の供給が少なくなり、防食層が早期に形成されにくくなる。しかし、同時に透湿による鋼材5の早期の腐食、溶出及び板厚減少も防止することができる。上塗膜60によって、鋼材5の腐食が十分防止されている場合には、防食層の形成が必ずしも早期になされる必要はないからである。
上塗膜60は具体的には樹脂膜であり、この樹脂膜中には各種顔料などの添加物を含んでいてもよい。樹脂は、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、又はこれらの混合物等であることができる。上塗膜60の透湿度は、樹脂を選択又は混合することにより、所望の範囲内に制御することができる。例えば、ポリエチレン樹脂の乾燥膜厚100μmにおける透湿度は約5〜20g/(m・24h)であり、エポキシ樹脂の透湿度は約20〜40g/(m・24h)であり、ポリビニルブチラール樹脂の透湿度は約100〜200g/(m・24h)であり、ポリビニルアルコール樹脂の透湿度は約200〜400g/(m・24h)である。
上塗膜60の厚さは、例えば、10〜100μmであり、10〜50μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましい。また、上塗膜が奏する効果を得るためには、上塗膜の厚さは、好ましくは5μm以上であり、より好ましくは10μm以上であり、さらに好ましくは15μm以上であり、特に好ましくは20μm以上である。上塗膜の厚さは、経済的な観点から、例えば、1mm以下、500μm以下、300μm以下、又は100μm以下等であることができるが上塗膜が奏する効果を得る観点からは特に制限されない。
(被覆鋼材の製造方法)
このような被覆鋼材は例えば以下のようにして製造できる。すなわち、各層の構成成分を含有する塗料を調製し、塗布し、乾燥させることを繰り返せばよい。塗料の調整時には適宜溶媒を使用することができる。
(溶剤)
溶剤の例は、としては、キシレン及びトルエン等の芳香族系、イソプロピルアルコール及びノルマルブタノール等の炭素数3以上のアルコール系、並びに、酢酸エチル等のエステル系等の非水系溶剤;水、メチルアルコール及びエチルアルコール等の水系溶剤である。また、溶剤は、樹脂を溶解することが好ましい。
20℃においてB型粘度計によって測定される塗料の粘度は、例えば200〜1000cpsであることができる。塗料中の溶剤の含有量は、塗料の粘度が上記範囲となるように調整することができる。
塗料の塗布方法としては、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り及びローラー塗り等が挙げられる。また、上記塗料の乾燥は、例えば、常温(25℃)常圧(1atm)の空気中での自然乾燥等により行われる。乾燥時間は、乾燥形態により異なるものの、通常30分〜6時間程度であり、実用的な塗膜強度が得られる程度に選択される。上記塗布方法によれば、場所を選ばず塗料を塗布することができる。また、1回の塗布作業でも塗膜が得られるため、経済性にも優れている。さらには、被覆鋼材が設置される現場での塗布が可能であるため、現場での鋼材の切断及び溶接等の加工後にも対応できる。各膜は、塗料を1回塗布することにより形成することもできるが、複数回重ねて塗布することにより形成してもよい。各膜を塗料を複数回重ねて塗布することにより形成する場合、塗料の組成はそれぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
(防食層形成後の被覆鋼材)
続いて、上記の被覆鋼材100を腐食環境に曝した後に形成される被覆鋼材200について、図3を参照して説明する。
本発明の防食層形成後の被覆鋼材200は、鋼材5、及び、鋼材5上に設けられた防食層70を有する。被覆鋼材200は、防食層70の上に、第1膜10、第2膜20、中間膜30、上塗膜60等の樹脂を含む膜に由来する樹脂層80を有することができる。
防食層70は、鉄を含む酸化物すなわち鉄さびを含む。防食層70における鉄を含む酸化物の量は50質量%以上であることができ、70質量%以上でもよく、80質量%以上でもよく、90質量%以上でもよい。鉄を含む酸化物の少なくとも一部は、バリウム及び鉄を含む複合酸化物であることができ、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及び、モリブデンからなる群から選択される少なくとも1つ及び鉄を含む複合酸化物であることができ、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及び、モリブデンからなる群から選択される少なくとも1つ、鉄、及び、バリウムを含む複合酸化物であることができる。鉄を含む複合酸化物は、更に、カルシウムを含む複合酸化物であることもできる。めっき鋼材の場合には、鉄を含む酸化物はさらにめっきを構成する金属、例えば亜鉛を含むことができる。鉄を含む酸化物を構成する全金属元素における鉄の量は、表面清浄鋼材及び表面に錆層を有する鋼材で50〜98質量%、めっき鋼材で1〜20質量%であることが出来る。鉄を含む酸化物を構成する全金属元素におけるバリウムの量は、1〜30質量%であることができる。鉄を含む酸化物を構成する全金属元素におけるアルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及び、モリブデンの合計の量は、1〜30質量%であることができる。
防食層70は、鉄を含む酸化物以外に、炭酸バリウムを含む。具体的には、炭酸バリウムは、鉄を含む酸化物の隙間の少なくとも一部を埋めている。これにより、防食層70が緻密化され、鋼材5の高い耐食性が確保される。防食層における炭酸バリウムの濃度は、1〜30質量%とすることができる。また、防食層は塗膜に由来する樹脂を含んでいてもよく、樹脂を含むことで防食層の靭性を向上させる効果が得られる。炭酸バリウムの電子顕微鏡写真における円相当径は10nm以上であることができる。上限は例えば30μmであって良い。
なお、防食層70は硫酸バリウムを含む必要は無いが、含んでいてもよい。
具体的には、本実施形態の防食層は緻密でありかつ高い安定性を有する。生成した防食層は、外部の腐食環境に存在する水、酸素及び各種腐食性物質が鋼材に過度に透過することを抑制することができる(バリアー効果)。上記防食層が形成された鋼材は、一般の腐食環境のみならず、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境において、優れた耐食性を有する。
このような防食層70は、上述の第1膜10を有する被覆鋼材100を、大気下で強い腐食環境下に曝露することにより迅速に得られやすい。腐食環境の好適な例は、硫酸を含んだ水溶液である。硫酸水溶液は、さらに、塩化ナトリウム及び塩化カルシウムなどのアルカリ金属塩化物、炭酸水素ナトリウムなどのアルカリ金属の炭酸水素塩を含むこともできる。これらのアルカリ金属塩化物の濃度は0.01〜2質量%程度とすることができ、アルカリ金属の炭酸水素塩の濃度は0.01〜2質量%とすることができる。
なお、このような防食層70は、大気下で屋外に暴露することにより、長期間かけて形成することもできる。上記曝露は例えば屋外環境若しくは屋内環境下、硫酸等の酸性環境下、海塩粒子飛来環境下、又はSO若しくはNO等の大気汚染物質飛来環境下等で行われてもよい。暴露期間の例は、1〜10年である。
また、第1膜10が酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含んでいる場合は更に以下の作用効果がある。すなわち、酸化カルシウム及び水酸化カルシウムは、腐食環境中の水と反応しカルシウムイオンを供給する。そして、バリウムイオンに加えてカルシウムイオンが存在すると、カルシウムイオンが生成核となり、炭酸バリウムの生成が助長される。
また、被覆鋼材が第2膜20を有している場合には、第2膜の金属硫酸塩は水が供給されると金属イオンと硫酸イオンに解離する。解離した硫酸イオンは、腐食環境下に曝露した初期の段階での鋼材中の鉄の溶解を促進し、防食層の早期形成に寄与する。
この場合、解離した金属イオンに由来して、鉄を含む酸化物は、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも一つの元素と、鉄と、を含む複合酸化物、又は、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも一つの元素と、鉄と、バリウムとを含む複合酸化物を含むことができる。
防食層70は、鉄を含む酸化物(複合酸化物)及び炭酸バリウムに加え、樹脂を含んでもよい。樹脂は、上記の第1膜10、第2膜20、上塗膜60等の樹脂を含む膜に由来し、防食層70の生成時に防食層に取り込まれていてもよい。防食層が、樹脂を含むと層の緻密化に寄与する傾向がある。
また、鉄を含む酸化物及び炭酸バリウムなどの防食層を構成する化合物の一部は、防食層70から離れて樹脂層80の内部に不連続に分散している場合もある。なお、樹脂層80自体は必須ではなく、防食層の形成後には剥離されていてもよい。
防食層70を備える被覆鋼材200は、外部の腐食環境に存在する水、酸素及び各種腐食性物質が鋼材に過度に透過することを抑制することができ(バリアー効果)、一般的な腐食環境のみならず、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境においても優れた耐食性を有する。
防食層70の厚さは、0.5〜50μm程度であってよい。防食層70の厚さが0.5μm以上であると、鋼材の耐食効果が得られやすくなる。防食層70の厚さは、1μm以上でもよく、2μm以上でもよい。防食層70の厚さは、25μm以下でもよく、15μm以下でもよい。
この防食物層は、一般腐食環境のみならず、酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境においてもその効果を発揮するものである。なお、ここでいう酸性環境又は塩化物を含む厳しい腐食環境とは、低いpH環境(例えば、pH4.0以下)、又は、塩化物が常時各種鋼材表面に自然大気腐食環境(一般的な腐食環境)を上回る濃度で存在する(例えば海の近くの地上)など、鋼材の腐食を著しく加速することが想定される環境などが例示される。
また、被覆鋼材100の鋼材5が清浄表面でなく、表面に錆層を含む場合には、そのさび層の上に防食層70が形成される。また、鋼材5がめっき鋼材である場合には、めっき膜の上に防食層70が形成される。なお、めっき鋼材上に第1膜等を形成したときには、めっき層12中の一部の亜鉛等の腐食による亜鉛イオンや亜鉛酸化物の生成も防食層70の形成に寄与する。
以下、本発明の実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
<鋼材の準備>
鉄以外に、0.05質量%の炭素、0.03質量%のケイ素,0.33質量%のマンガン、0.005質量%のリン、0.003質量%の硫黄を含み、70×150×3mmの寸法を有する鋼材αを用意した。鋼材αの表面は、研磨により、黒皮、汚れ、錆等が除去され、表面に清浄な金属表面を有していた。また、鋼材αに対して小浜市で1年間大気暴露を行い、表面に平均厚み50μmの錆層(酸化物膜)を設けて鋼材βを作成した。鋼材αの表面に厚み20μmの溶融亜鉛めっき層を設けて鋼材γを作成した。
<第1膜塗料の調製>
水酸化バリウム、酸化バリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、顔料、樹脂X(ポリビニルブチラール)、樹脂Y(エポキシ樹脂とポリアミノアミド樹脂との混合物)を、表1〜表8の各試験番号に記載の組成比で、適当量のキシレン、トルエン及びイソプロピルアルコールとともに混合し、塗料を得た。樹脂X及びYの詳細を表7に示す。顔料は、体質顔料としての、硫酸バリウム及び炭酸カルシウム、並びに、着色顔料としての、ベンガラ、カーボン(無機顔料)及びフタロシアニンブルー(有機顔料)からなり、それぞれを等質量部含む。
<第2膜塗料の調製>
硫酸アルミニウム、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸クロム、硫酸モリブデン、顔料、及び、樹脂X、樹脂Yを、表1〜表8の各試験番号に記載の組成比で、適当量のキシレン、トルエン及びイソプロピルアルコールとともに混合し、塗料を得た。樹脂X、樹脂Y、及び、顔料は第1膜と同じである。
<中間膜塗料1、2の調製>
バリウム化合物、カルシウム化合物、硫酸塩、顔料、樹脂X,樹脂Yの比率を表1〜表8の各試験番号に記載の組成比で、適当量のキシレン、トルエン及びイソプロピルアルコールとともに混合し、塗料を得た。樹脂X、樹脂Y、及び、顔料は第1膜と同じである。
<上塗膜塗料の調製>
上塗膜塗料として、ポリエチレン樹脂、エポキシ樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、及びポリビニルアルコール樹脂を単独又は混合して用いることにより、上塗膜の透湿度を調整した。上塗膜の透湿度は、各実施例及び比較例と同じ上塗膜塗料を用いて透湿度測定用に厚さ100μmの上塗膜を作製し、JIS Z 0208(カップ法)の条件B(温度40℃、相対湿度90%)に準じて測定した。
鋼材の表面に、表1〜8の各試験番号に示したように、第1層〜第4層までを、各層の組成に対応する塗料を塗布して、塗膜の積層体を形成した。ここで、第1層が最も鋼材に近い層であり、数字が大きくなるほど鋼材から離れる位置にある。また、表1〜表8に記載される各膜の組成における樹脂は、塗料の固形成分の残り全部を占めるバランス成分である。そして、塗布後の鋼材を常温(25℃)で、通常の塗膜試験法に従い、7日間空気中で乾燥させることにより、被覆鋼材を得た。乾燥後の各層の厚さも表1〜表8に示す。樹脂X、Yについて、表9に示す。
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<腐食試験>
実施例及び比較例で得られた鋼材に対して以下の腐食性水溶液を以下のスケジュールで接触させることを1年間繰り返した。
腐食性水溶液:0.5%NaCl+0.1%CaCl+0.075%NaHCOの水溶液に硫酸を添加してpH3に調整した水溶液(大気汚染物質による環境の酸性化も考慮し、中性環境より厳しい環境にすることで、腐食を促進した)
1日の腐食試験サイクルは以下の通りとし、365日繰り返した。
(a)温度50℃、相対湿度95%の環境に6時間、試験片を水平に静置する。
(b)25℃の腐食性水溶液に1時間試験片を浸漬する。
(c)温度60℃、相対湿度50%の環境に17時間、試験片を水平に静置する。
<防食層の評価>
鋼材表面に存在する酸化物を主とする防食層を、鋼材から剥離して採取し、粉末にしたうえで、以下の分析を行った。
赤外線吸収スペクトル法により、樹脂特有の吸収を確認し、樹脂の有無を判断した。
X線照射に伴う特性X線のエネルギー分析により、酸化物中における金属元素の有無を判断した。
X線回折パターンを測定することにより、炭酸バリウムの有無を判断した。なお、電子顕微鏡で観察した結果、炭酸バリウムの円相当径は概ね0.03〜20μmであった。
<耐腐食性の評価>
試験材として鋼材αを用いた場合は、塗膜剥離剤による防食層の除去、及び、クエン酸二アンモニウム及び微量の腐食抑制液の混合水溶液中に浸漬することにより防食層を完全に除去し、金属表面を露出させた。金属露出後の鋼材の質量と、腐食試験前の試験片の質量とを比較することにより、腐食試験前後での鋼材の厚さの減少量を求めた。なお、上記厚さの減少量は、鋼材の厚さが、鋼材の全表面で均一に減少していると仮定して求めたものである。
試験材として鋼材βを用いた場合は、腐食試験を行っていない鋼材βを上記と同様に処理して錆層を除去し、除錆後の鋼材の質量を腐食試験前の試験片の質量とみなした以外は、鋼材αと同様にして鋼材の厚さの減少量を求めた。
試験材として鋼材γを用いた場合は、腐食試験後の表面における赤錆の発生有無で評価した。
すべての試験例において防食層中には鉄を含む酸化物すなわち鉄さびを含んでいた。表1〜8に示されるように、第1膜を有する例(表1〜表6)では、いずれの場合も第1膜を有さない例(表7,8)に比べて、鋼材α、βでは板厚減少量が小さくなり、鋼材γでは赤さびが発生しなかった。これらのことから、本実施形態に係る被覆鋼材は、鋼材に高い耐食性を付与することができると結論づけられる。
また、表1〜表6の腐食試験後の鋼材では、防食層に、炭酸バリウムが存在していることから、炭酸バリウムが腐食性に寄与していることが推定される。すなわち、防食層中に鉄系酸化物と共存する炭酸バリウムが、酸性の水溶液環境でも溶解せずに安定して存在するとともに、それ自体が酸化還元反応に寄与しないことや、塩化物イオンや酸素の侵入を抑制すること、防食酸化物層中の鉄系酸化物及び樹脂部分の間の空隙を埋めること、などで防食効果を示すと考えられる。
また、第1膜に加えて、第2膜を有すると、防食層中の鉄系酸化物にアルミニウム,ニッケル,マグネシウム,銅,亜鉛,クロム,モリブデンなどのカチオンが混在することになり、酸化物の結晶粒微細化や熱力学的安定性の向上、カチオン選択透過性を与える、などの効果を示してより耐食性が向上すると考えられる。
特に、化合物B1と金属硫酸塩B2とを含む層を設けず、第1膜、好ましくはさらに第2膜を設けていることで、バリウムの化合物が全て硫酸塩にならず、少なくとも一部が炭酸塩になることで、防食性が向上していることが考えられる。第1膜にカルシウムが添加されていると、バリウムが炭酸塩になるのを助長することが考えられる。
試験番号59,60のように、一つの膜に化合物B1と金属硫酸塩B2とを含む層を設けると、硫酸塩が優先的に生成してしまうため炭酸バリウムが生成せず、防食性が低下すると考えられる。
試験番号51〜54のように、バリウム成分を含まないと防食的な酸化物層が形成されず、防食性が高くならない。
また、試験番号55〜58のように、第2膜を有していても第1膜を有さない場合には、硫酸の生成によりpHが低下し防食性は悪いと考えられる。
5…鋼材、10…第1膜、20…第2膜、30…中間膜、60…上塗膜、70…防食層、80…樹脂層、100,200…被覆鋼材。

Claims (12)

  1. 鋼材と、前記鋼材上に設けられた第1膜と、を備え、
    前記第1膜は、酸化バリウム及び/又は水酸化バリウムを含み、
    前記第1膜は、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含まず、
    以下の(A)又は(B)のいずれかを満たす、被覆鋼材。
    (A)前記鋼材と前記第1膜とが接触している。
    (B)前記鋼材と前記第1膜との間に少なくとも一つの中間膜が設けられ、いずれの前記中間膜も、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及び水酸化バリウムからなる群から選択される少なくとも一つと、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩と、の組み合わせを含まない。
  2. 前記第1膜は、酸化バリウム及び水酸化バリウムを合計で0.05〜50質量%含む、請求項1に記載の被覆鋼材。
  3. 前記第1膜は、さらに酸化カルシウム及び/又は水酸化カルシウムを含む、請求項1又は2に記載の被覆鋼材。
  4. 第2膜を更に備え、
    前記第2膜は、水100gに対する溶解量が5℃において0.5g以上である金属硫酸塩を含み、
    前記第2膜は、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及び水酸化バリウムを含まず、
    前記第2膜は前記第1膜の上に設けられた、又は、前記第2膜は前記中間膜の少なくとも一つである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆鋼材。
  5. 前記第2膜に含まれる金属硫酸塩は、硫酸アルミニウム、硫酸ニッケル、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硫酸亜鉛、硫酸クロム、及び硫酸モリブデンからなる群から選択される少なくとも一つである、請求項4に記載の被覆鋼材。
  6. 前記第1膜の上に設けられた上塗膜をさらに備え、
    前記上塗膜は、乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m・24h)以下の透湿度を有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆鋼材。
  7. 前記第1膜及び前記第2膜の上に設けられた上塗膜をさらに備え、
    前記上塗膜は、乾燥膜厚100μmにおいて、300g/(m・24h)以下の透湿度を有する、請求項4又は5に記載の被覆鋼材。
  8. 鋼材と、前記鋼材上に設けられた防食層とを備え、
    前記防食層は、鉄を含む酸化物、及び、炭酸バリウムを含む、被覆鋼材。
  9. 前記酸化物は、鉄及びバリウムを含む複合酸化物である、請求項8に記載の被覆鋼材。
  10. 前記酸化物は、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも一つの元素、及び、鉄を含む複合酸化物である、請求項8に記載の被覆鋼材。
  11. 前記酸化物は、アルミニウム、ニッケル、マグネシウム、銅、亜鉛、クロム、及びモリブデンからなる群から選択される少なくとも一つの元素、鉄、及び、バリウムを含む複合酸化物である請求項8に記載の被覆鋼材。
  12. 前記防食層は樹脂をさらに含む、請求項8〜11のいずれか1項に記載の、被覆鋼材。

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