以下、本発明の実施の形態を図面に従い説明する。
まず、本発明の作業機械を、油圧ショベルを例にとり説明する。なお、本発明は油圧ショベルに限らず、潤滑剤や動力伝達媒体としてオイルを利用している作業機械であれば、ダンプトラック、ホイールローダ、ブルドーザ、フォークリフト、クレーンなどのその他の作業機械にも適用可能である。
図1は油圧ショベルの外観を示す図である。
図1において、作業機械としてよく知られている油圧ショベル300は、下部走行体301と、下部走行体301上に旋回可能に搭載された上部旋回体302と、上部旋回体302の前部に俯仰可能に取り付けられたフロント作業機303とを有している。
下部走行体301は、左右の走行モータ(油圧モータ)310,311の回転により左右の履帯313,314を駆動することによって走行を行う。上部旋回体302は下部走行体301に対して、旋回装置316に備えられた旋回モータ(油圧モータ)317の回転によって旋回可能である。
上部旋回体302は運転室を形成するキャビン318を備え、キャビン318内にオペレータが着座する運転席330やオペレータが操作する操作装置331などが配置されている。また、上部旋回体302には、エンジン320や、後述する複数のオイル循環回路が配置されている。
フロント作業機303は、ブーム306、アーム307、バケット308とから構成されている。ブーム306,アーム307,バケット308は、それぞれ、ブームシリンダ(油圧シリンダ)321、アームシリンダ(油圧シリンダ)322、バケットシリンダ(油圧シリンダ)323の伸縮により上下方向に回動可能である。
操作装置331は、走行モータ310,311、旋回モータ317、ブームシリンダ321、アームシリンダ322、バケットシリンダ323の動作をそれぞれ指示する走行用の操作装置、旋回用の操作装置、ブーム用の操作装置、アーム用の操作装置、バケット用の操作装置を含んでいる。
油圧ショベル300により掘削作業を行うときは、オペレータがブーム用の操作装置、アーム用の操作装置、バケット用の操作装置が操作すると、ブームシリンダ321、アームシリンダ322及びバケットシリンダ323が伸縮し、ブーム306、アーム307、バケット308が駆動される。掘削した土砂をダンプ等へ積み込む作業を行うときは、オペレータがブーム用の操作装置と旋回用の操作装置を操作すると、ブームシリンダ321が伸長し、ブーム306が上げ方向に駆動され、旋回モータ317が回転し、上部旋回体302が旋回する。油圧ショベル300を走行させるときは、オペレータが走行用の操作装置を操作すると、走行モータ310,311が回転し、履帯313,314が駆動される。
また、油圧ショベル300は、オイルが供給される複数の部品を備えた複数のオイル循環回路を備えている。
図2は、そのようなオイル循環回路の1つとして油圧駆動回路(油圧機器系の回路)500を示す図である。油圧駆動回路で動力伝達媒体として用いられる作動油は、油圧駆動回路の油圧機器を潤滑する潤滑剤としての役割も有している。
図2において、油圧駆動回路500は、作動油タンク502、油圧ポンプ504、コントロールバルブ506、油圧シリンダ508、オイルクーラ510、作動油フィルタ512を備えている。
作動油タンク502内の作動油(オイル)は、エンジン320によって駆動される油圧ポンプ504によって汲み上げられ、コントロールバルブ506を経由して油圧シリンダ508(例えばブームシリンダ321)に供給される。コントロールバルブ506は、操作装置(例えばブーム用の操作装置)の切換位置に応じて油圧シリンダ508に供給される圧油の流れ方向と流量を制御する。これにより油圧シリンダ508が駆動されて例えばブーム306が動作する。また、油圧シリンダ508から流出した作動油は、コントロールバルブ506を経由してオイルクーラ510に導かれて冷却された後、作動油フィルタ512を介して作動油タンク502に戻される。オイルクーラ510はエンジン320によって駆動される冷却ファン514が取り込む空気によって冷却される。
なお、図2においては、油圧シリンダ508がブームシリンダ321である場合について説明したが、油圧シリンダ508が他の油圧アクチュエータである場合も同様である。すなわち、油圧シリンダ508が他の油圧アクチュエータである場合でも、対応するコントロールバルブがそれぞれ設けられ、各油圧アクチュエータは各コントロールバルブで制御された作動油によって適宜駆動される。
図3は、オイル循環回路の他の1つとしてエンジンオイル回路(エンジン系の回路)600を示す図である。エンジンオイルは、エンジン320の内部の潤滑剤及びエンジン320の冷却剤として用いられる。
図3において、エンジンオイル回路600は、オイルパン602、エンジンオイルポンプ604、オイルクーラ606、ウォータジャケット608、オイルフィルタ610、ウォータポンプ612、ラジエータ614を備えている。
エンジンオイルポンプ604は、エンジン320によって駆動される。エンジンオイルポンプ604は、オイルパン602からエンジンオイルを吸引し、エンジンオイルをオイルクーラ606に送る。オイルクーラ606においてエンジンオイルは、ウォータジャケット608内の冷却水との熱交換によって冷却される。冷却されたエンジンオイルはオイルフィルタ610で異物を除去された後、オイルパン602に戻される。
また、ウォータポンプ612もエンジン320によって駆動され、ウォータジャケット608内の冷却水を吸引してラジエータ614に供給する。ラジエータ614で冷却された冷却水はウォータジャケット608に戻される。ラジエータ614は、エンジン320によって駆動される冷却ファン514が取り込む空気によって冷却される。
また、本実施の形態の油圧ショベル300は、その特徴的な構成として、オイルの粘度、密度、誘電率、色差の少なくとも1つのオイル性状とオイルの温度を計測するオイル性状センサ120,122(図2及び図3参照)と、オイルが供給される複数の部品とオイルの交換時期を推定する制御装置110(図1参照)とを備えたメンテナンス時期推定システムを備えている。
本実施の形態において、油圧ショベル300は、オイル性状センサとして、作動油の性状を検出するオイル性状センサ120(図2参照)と、エンジンオイルの性状を検出するオイル性状センサ122(図3参照)とを備えている。
オイル性状センサ120は、図2に示すように、コントロールバルブ506と油圧シリンダ508のヘッド側の油圧室を接続する油路に設けられており、この油路を通過する作動油の性状(例えば、温度、粘度、密度、誘電率)を検出する。
オイル性状センサ122は、図3に示すように、オイルクーラ606とオイルフィルタ610を接続し、エンジンオイルをオイルパン602に戻す油路に設けられており、この油路を通過するエンジンオイルの性状(例えば、温度、粘度、密度、誘電率)を検出する。
本実施の形態において、オイル性状センサ120,122は、それぞれ、作動油及びエンジンオイルの温度、粘度、密度、誘電率の4つの性状を検出する場合について説明するが、オイル性状センサ120,122は、温度以外に、粘度、密度、誘電率の少なくとも1つを検出するようにシステムを構成してもよい。また、オイル性状センサ120,122は更にオイルの色差を検出するようにシステムを構成してもよい。更に、オイル性状センサ120,122は、温度、粘度、密度、誘電率、色差を複数のオイル性状センサで適宜分担して検出するようにシステムを構成してもよいし、同じ性状を異なる複数の箇所で検出するようにシステムを構成してもよい。
図4は本発明の一実施の形態に係る油圧ショベル300の制御装置110と他の制御装置とを含むメットワークシステムを示す図である。
図4に示すネットワークシステムは、油圧ショベル300の制御装置110と、油圧ショベル300のメーカの管理下にあるメーカ用制御装置(サーバ)112と、油圧ショベル300の管理者(ユーザ)が使用する制御装置(管理者用制御装置)114と、作業機械メーカ又はその営業所若しくは代理店等に所属し、油圧ショベル300の故障修理・メンテナンスを行うサービス担当者(サービスマン)が使用する制御装置(サービス用制御装置)116とを有している。
油圧ショベル300の制御装置110が使用する管理情報(後述)はメーカ用制御装置112から送信され、適宜更新される。油圧ショベル300の制御装置110は推定した部品或いはオイルの交換時期情報に、交換対象名、油圧ショベル300の機体番号、油圧ショベル300の位置情報等,メンテナンスに必要な情報を付加したメンテナンス情報をメーカ用制御装置112に送信する。メーカ用制御装置112は、そのメンテナンス情報に部品或いはオイルの交換に必要な情報を付加し、管理者用制御装置114とサービス用制御装置116に送信する。また、サービス用制御装置116は部品或いはオイルの交換のためのサービス情報を管理者用制御装置114に送信する。これにより油圧ショベル300の制御装置110が推定した部品或いはオイルの交換時期情報に基づいて、速やかな部品或いはオイルの交換が可能となる。
次に、本発明の考え方を説明する。
図5の(a)及び(b)は、異なる機械A及びBのエンジンオイルの時系列的な粘度変化を示す図である。機械Aはオイル交換間隔が長いため、粘度変化は大きく、機械Bはオイル交換間隔が短いため、粘度変化が小さい。ここで、新油での粘度を基準として、所定の時間ΔT(例えば30〜60秒)に対する基準(新油値)からの粘度の変化量(オイルが新油であるときのオイル性状値からの変化量)をΔAとすると、粘度変化量の積分値(オイル性状の変化量の積分値)は下記式(1)で計算できる。
ΣΔAn×ΔTn ・・・(1)
図5(c)は上記式(1)で計算して機械A及び機械Bの粘度変化量の積分値(累積値)を示しており、この粘度変化量の積分値は機械部品の摩耗量と良い相関を持っていることが分かっている。この粘度変化量の積分値が所定の管理基準値(しきい値)を超えた際に、部品交換もしくはオーバーホールの時期が来たと推定し、部品交換もしくはオーバーホールを通知する。
ここでは粘度を例に説明を述べたが、オイルの密度や誘電率、色差などにも同様に適用可能であり、それらを組合せて判定することで摩耗量に対するリスクを抑えることができる。
図6は、異なる機械C及び機械Dのエンジンオイルの時系列的な温度変化を示す図である。機械Cは短時間だけ負荷を上げた場合であり、機械Dは継続的に負荷を上げている場合である。
図7は、エンジンオイルの温度とその粘度の劣化度を示す図である。オイルは温度上昇により急激に損傷することが知られている。この劣化度を係数Kdとして用い、上述した新油値からのオイル性状値の変化量(例えば粘度の変化量)ΔAnと係数Kdとで所定の演算処理を行って、ΔAnを温度補正し、この温度補正したオイル性状値の変化量に対して積分処理を行い、積分値を算出する。すなわち、温度補正したオイル性状値の変化量をΔACnとすると、以下式(2)により温度補正したオイル性状値の変化量の積分値を算出する。
ΣΔACn×ΔTn ・・・(2)
図6の機械Cと機械Dとではオイルの総被熱量が異なる(機械Cの総被熱量<機械Dの総被熱量)。オイルの劣化は総被熱量と密接な相関があり、オイルの温度(総被熱量)の影響を含めたオイルの劣化状況を知ることにより、そのときのオイルの劣化状態(潤滑状態)や部品の損傷度合いをより正確に把握することが可能である。例えば、機械Dのようにオイルの温度の高い状態が続いた機械はオイルの劣化が激しく、部品の交換を高頻度で(短い間隔で)行わなければならないが、機械Cのように稼働時間は長いが、オイルの温度の高い状態が短い場合は、オイルの状態が比較的健全であると思われるため、部品の交換を低頻度で(長い間隔で)行うことができると考えられる。また、オイル自身の交換も機械Dの場合は高頻度で(短い間隔で)行わなければならないが、機械Cの場合は低頻度で(長い間隔で)行うことができると考えられる。
上述した検討結果は、エンジンオイルについて言及したが、作動油もオイルとして同様の性質を有しており、その検討結果は作動油にも同様に適用可能である。
また、上述した検討結果は、オイルの粘度について言及したが、オイルの密度、誘電率、色差に対しても同様に適用可能である。
本発明は上述した知見に基づくものである。以下にその詳細を説明する。
図8は、油圧ショベル300の制御装置110の構成と処理内容を示す図である。
制御装置110は、各種プログラムを実行するための演算手段としての演算処理装置(例えば、CPU)200と、当該プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶手段としての記憶装置(例えば、ROM、RAMおよびフラッシュメモリ等の半導体メモリや、ハードディスクドライブ等の磁気記憶装置)202,204と、演算処理装置200及び記憶装置202,204へのデータの入出力制御を行う入出力演算処理装置206とを備えている。また、制御装置110は、演算処理装置200の処理結果等を表示するためのモニタ(例えば、液晶モニタ等)208や、オペレータからの情報入力を行う図示しない入力装置(例えば、テンキー、キーボード、タッチパネル等)を備えている。
記憶装置202は、オイル性状センサ120のセンサ値に基づくセンサ情報102及びオイル性状センサ122のセンサ値に基づくセンサ情報104などの稼動情報を記憶する。記憶装置204は、メーカ用制御装置112から送信された管理基準値や温度劣化度関数などの管理情報106を記憶する。
図9は、記憶装置202に記憶される稼動情報を示す図である。
オイル性状センサ120は、温度、粘度、密度、誘電率、色差の5つのオイル性状の測定が可能である。図8に示すように、例えば、或る時刻におけるセンサ120によるセンサ情報102のうち粘度のセンサ情報は、入出力演算処理装置206によって適宜処理され、センサ情報A1として記憶装置202に測定時刻と関連づけて記憶される。図8中のセンサ情報A1,A2,A3,A4…は、センサ120が異なる時刻に測定した粘度のセンサ情報を示しており、時間経過とともに末尾の数字が増加するようになっている。これによりセンサ120による粘度のセンサ情報Aの時系列データが記憶装置202に記憶される。同様に図中のセンサ情報Bはセンサ120による密度のセンサ情報を示す。説明は省略するが、センサ120で検出される他の性状の誘電率、色差、温度についても同様にセンサ情報C,D,Eとして記憶装置202に記憶される。
オイル性状センサ122によるセンサ情報104のうち粘度のセンサ情報及び密度のセンサ情報についても入出力演算処理装置206によって適宜処理され、時間間隔ΔT毎のセンサ情報F1,F2,F3,F4…、G1,G2,G3,G4…として記憶装置202に測定時刻と関連づけて記憶される。誘電率、温度、色差のセンサ情報についても同様にセンサ情報H,I,Jとして測定時刻と関連づけて記憶装置202に記憶される。
図10は、記憶装置204に記憶される情報を示す図である。
前述したように、油圧ショベル300の制御装置110が使用する管理情報106はメーカ用制御装置112から送信される。この管理情報106は記憶装置204に記憶される。本実施の形態において、記憶装置204に記憶される管理情報106は以下の管理基準値と温度劣化度関数を含む。
管理基準値
オイル劣化量しきい値(部品交換用のしきい値;部品毎)
オイル劣化量しきい値(オイル交換用のしきい値)
金属部品しきい値(低温側しきい値)
高分子部品しきい値(高温側しきい値)
フロント動作しきい値
非フロント部動作しきい値
走行負荷しきい値
走行モータ動作しきい値
アタッチメント動作しきい値
温度劣化度関数(オイル性状毎)
図8に戻り、演算処理装置200は、オイル劣化量積分値算出部210と、部品・オイル交換時期判定部212とを有している。
オイル劣化量積分値算出部210は、オイル性状センサ120又は122で検出したオイル性状値に基づいて、上記式(2)によりオイル劣化量積分値を算出し、部品・オイル交換時期判定部212は、そのオイル劣化量積分値に基づいて部品或いはオイルの交換時期を推定する。すなわち、オイル劣化量積分値算出部210及び部品・オイル交換時期判定部212は以下の処理を行う。
(1)オイル劣化量積分値算出部210は、オイル性状センサ120,122によって計測したオイル性状値とオイルの温度に基づいて、所定時間毎にオイルが新油であるときのオイル性状値に対する計測時におけるオイル性状値の変化量を算出し、オイル性状値の変化量をオイルの温度に基づいて補正して、オイルの温度の影響を含めたオイル性状に基づくオイル劣化量を算出し、所定時間毎のオイル劣化量を積分してオイル性状に基づくオイル劣化量の積分値を算出し、部品・オイル交換時期判定部212は、オイル劣化量の積分値が複数の部品毎に予め定められた管理基準値を超えたときに、当該管理基準値に係わる部品の交換時期が来たと推定する。
これによりオイルの劣化状態を把握し、部品の交換時期を正確に推定することができる。
(2)また、好ましくは、上記(1)において、部品・オイル交換時期判定部212は、オイル劣化量積分値がオイルに予め定められた管理基準値を超えたときに、オイルの交換時期が来たと推定する。
これによりオイルの劣化状態を把握し、オイルの交換時期を正確に推定することができる。
(3)また、好ましくは、上記(1)において、オイル劣化量積分値算出部210は、オイルの温度とオイル性状の劣化度の関係を記憶しておき、その関係を用いてそのときのオイルの温度の計測値に対応するオイル性状の劣化度を算出し、オイル性状値の変化量とオイル性状の劣化度とで所定の演算を行うことで、オイル性状値の変化量をオイルの温度に基づいて補正して、オイルの温度の影響を含めたオイル性状に基づくオイル劣化量を算出する。
(4)更に、好ましくは、上記(1)において、オイル劣化量積分値算出部210は、オイル性状値の変化量として、オイルの粘度、密度、誘電率のそれぞれの変化量を算出し、オイルの粘度、密度、誘電率のそれぞれの変化量に対して温度の補正を行ってオイルの粘度ベースの第1オイル劣化量、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量を算出し、所定時間毎のオイルの粘度ベースの第1オイル劣化量、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量、第3オイル劣化量をそれぞれ積分して第1オイル劣化量積分値、第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値を算出し、部品・オイル交換時期判定部212は、複数の部品毎に定められた管理基準値として、複数の部品毎に、オイルの粘度、密度、誘電率のうち最も部品の損傷に影響する性状値の管理基準値を記憶しておき、複数の部品毎に、オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値のうち、自身が係わる管理基準値に対応するオイル劣化量積分値が当該管理基準値を超えたときに、当該部品の交換時期が来たと推定する。
(5)更に好ましくは、上記(4)において、部品・オイル交換時期判定部212は、オイルの粘度、密度、誘電率毎に管理基準値を記憶しておき、オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値のいずれかが最も早く管理基準値を超えたときに、オイルの交換時期が来たと推定する。
以下に、演算処理装置200(オイル劣化量積分値算出部210及び部品・オイル交換時期判定部212)の処理内容の詳細を、フローチャートを用いて説明する。
<実施例1>
図11A及び図11Bは、実施例1における演算処理装置200が行う演算処理内容を示すフローチャートである。実施例1はオイルがエンジンオイルである場合のものであるが、オイルが作動油である場合にも同様に適用可能である。
図11Aにおいて、演算処理装置200は、オイル性状センサ122によって検出され、記憶装置202に記憶されたセンサ情報104から、時間間隔ΔT毎の粘度、密度、誘電率及び温度のセンサ情報を抽出する(ステップS100)。次いで、演算処理装置200は、エンジンオイルの粘度、密度、誘電率及び温度のセンサ情報を用いて、温度補正を付加したオイル劣化量の積算値を算出する積分処理を行う(ステップS110)。
図11BはステップS110の詳細を示すフローチャートである。
演算処理装置200は、オイル性状センサ122によって計測したオイル性状値とオイルの温度に基づいて、時間間隔ΔT毎にオイルが新油であるときのオイル性状値に対するそのときのオイル性状値の変化量を算出する(ステップS112)。このとき、オイル性状値の変化量として、オイルの粘度、密度、誘電率のそれぞれの変化量を算出する。
次いで、演算処理装置200は、オイル性状値の変化量をオイルの温度に基づいて補正して、オイルの温度の影響を含めたオイル性状に基づくオイル劣化量ACnを算出する(ステップS114)。また、制御装置110は、記憶装置204に、図7に示すようなオイルの温度とオイル性状の劣化度の関係を記憶しておき、演算処理装置200はその関係を用いてそのときのオイルの温度に対応するオイル性状の劣化度を算出し、オイル性状値の変化量とオイル性状の劣化度とで所定の演算を行うことで、オイル性状値の変化量をオイルの温度に基づいて補正し、オイルの温度の影響を含めたオイル性状に基づくオイル劣化量ACnを算出する。
上記所定の演算の一例を説明する。
図7に示すオイル性状の劣化度は上述したように係数Kdである。そのオイルの温度とオイル性状の劣化度の関係にオイルの温度の計測値を参照させて、対応する係数Kdを算出する。この係数をステップS112において算出したオイル性状値の変化量に掛け合わせ、その値を当該変化量に加算し、オイルの温度の影響を含めたオイル性状に基づくオイル劣化量ACnを算出する。
また、オイル性状に基づくオイル劣化量を算出は、オイルの粘度、密度、誘電率のそれぞれの変化量に対して行う。すなわち、オイルの粘度、密度、誘電率のそれぞれの変化量に対して温度の補正を行ってオイルの粘度ベースの第1オイル劣化量AC1n、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量AC2n及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量AC3nを算出する。
次いで、演算処理装置200は、時間間隔ΔT毎のオイル劣化量ACnを上記式(2)により積分してオイル劣化量の積分値を算出する(ステップS116)。このオイル劣化量の積分値の算出はオイルの粘度、密度、誘電率のそれぞれのオイル劣化量ACnに対して行う。すなわち、時間間隔ΔT毎の第1オイル劣化量AC1n、第2オイル劣化量AC2n、第3オイル劣化量AC3nをそれぞれ積分してオイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値を算出する。
図11Aに戻り、次いで演算処理装置200は、オイル劣化量の積分値が複数の部品毎に予め定められた管理基準値を超えたかどうかを、或いはオイルに予め定められた管理基準値(オイル劣化量しきい値))を超えたかどうかを判定し(ステップS120,S140)、オイル劣化量の積分値がそれぞれの管理基準値を超えたときに、当該管理基準値に係わる部品或いはオイルの交換時期が来たと推定し、モニタ208にその旨を表示してオペレータに通知する(ステップS130,S140)。
また、制御装置110は、記憶装置204に、複数の部品毎に定められた管理基準値として、複数の部品毎に、オイルの粘度、密度、誘電率のうち最も部品の損傷に影響する性状値の管理基準値を記憶しておき、演算処理装置200はその管理基準値を用いて、複数の部品毎に、オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値のうち、自身が係わる管理基準値に対応するオイル劣化量積分値が当該管理基準値を超えたかどうかを判定し(ステップS120)、オイル劣化積分値が管理基準値を超えたときに、当該部品の交換時期が来たと推定する(ステップS130)。
更に、制御装置110は、記憶装置204に、オイルに定められた管理基準値として、オイルの粘度、密度、誘電率毎に管理基準値を記憶しておき、演算処理装置200はその管理基準値を用いて、オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの密度ベースの第3オイル劣化量積分値がそれぞれの管理基準値を超えたかどうかを判定し(ステップS140)、第1オイル劣化量積分値、第2オイル劣化量積分値及び第3オイル劣化量積分値のいずれかが最も早く管理基準値を超えたときに、オイルの交換時期が来たと推定する(ステップS150)。
このように計測したオイル性状値に図7に示すエンジンオイルの劣化度を付加し、式(2)によりオイル劣化量積分値を算出し、管理基準値と比較することにより、そのときのエンジンオイルの劣化状態(潤滑状態)に基づいて、エンジンオイルが供給される周囲部品の損傷度合いを正確に把握することができ、これによりエンジンオイルや周辺部品の交換時期を正確に推定し、メンテナンス警告を通知することができる。
また、周辺部品としても様々な部品が使用されており、これらの部品においてはエンジンオイルの劣化による管理基準値は異なっている。このため、部品毎に管理基準値を設定することで、部品毎のメンテナンス警告を出すことが可能である。例えば、エンジン内にあるエンジンオイルによって十分に潤滑されている合金製のすべり軸受けと、高温、高圧に曝されてエンジンオイルによる潤滑が過酷なピストン上部の装着されているピストンリングとでは、エンジンオイルの劣化による影響度が異なる。その場合、式(2)の積分値を部品毎に算出し、管理基準値を部品毎に設定することで、部品の交換時期を部品毎に分けて推定し、メンテナンス警告も別々に通知することが可能となる。
また、エンジンオイルはベースオイルと添加剤を含む様々な高分子化合物で構成されており、ベースオイルの劣化は粘度に影響し、添加剤の劣化は誘電率、密度に影響する。したがって、粘度と、誘電率と、密度を分けて劣化量積分値を算出し、それぞれでエンジンオイルの交換時期を判定することで、エンジンオイルの交換時期をより正確に把握することができる。
また、エンジンオイルのどの成分が部品の摺動特性に影響するかは部品によって異なる。例えば、軸受部は粘度(粘度が低くなると油膜形成が不十分になり、焼きつく)である。また、エンジンのピストンリングやシリンダボアは誘電率(エンジンオイルの誘電率は水とススに影響があるため)であり、プランジャやシリンダボアは粘度と密度(油膜の状態と添加剤の状態により摺動特性が変化するため)である。したがって、粘度と、誘電率と、密度を分けて劣化量積分値を算出し、部品毎に、粘度、密度、誘電率のうち最も部品の損傷に影響する性状値の管理基準値を用いて部品の交換時期を判定することで、部品毎にオイルの劣化状態を正確に把握し、部品の交換時期をより正確に推定することができる。
<実施例2>
図12は、実施例2における演算処理装置200が行う演算処理内容を示すフローチャートである。実施例2はオイルが作動油である場合のものであるが、オイルがエンジンオイルである場合にも同様に適用可能である。
図12において、ステップS100,S110,S140,S150の処理内容は、オイルが作動油である点を除いて、図11Aおよび図11Bに示した実施例1と同じである。
制御装置110は、オイルの温度変化範囲に低温側しきい値と高温側しきい値を設定し、この低温側しきい値と高温側しきい値を記憶装置204に記憶しておく。
演算処理装置200は、ステップS110において、オイル性状センサ120で計測された作動油の粘度、密度、誘電率及び温度を用いて温度補正を付加したオイル劣化量積算値を算出した後、オイル性状センサ120で計測されたオイルの温度が低温側しきい値(金属部品しきい値)を超えたかどうかを判定し(ステップS200)、オイルの温度が低温側しきい値を超えたときに、オイルの温度が低温側しきい値を超えたオイル性状値に対して、再度、図11Bに示すステップS110と同様の処理手順でオイル劣化量積分値(オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの密度ベースの第3オイル劣化量積分値)を算出する(ステップS210)。
次いで、演算処理装置200は、オイル性状センサ120で計測されたオイルの温度が高温側しきい値(高分子部品しきい値)を超えたかどうかを判定し(ステップS220)、オイルの温度が高温側しきい値を超えたときは、更に、オイルの温度が高温側しきい値を超えたオイル性状値に対して、図11Bに示すステップS110と同様の処理手順でオイル劣化量積分値(オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの密度ベースの第3オイル劣化量積分値)を算出する(ステップS230)。
ここで、低温側しきい値は、油圧ショベル300の通常作業運転時における作動油温度以下の例えば28〜35℃の範囲内の任意の温度(好ましくは30℃)である。高温側しきい値は、ゴムの耐熱温度である例えば75〜85℃の範囲内の任意の温度(好ましくは80℃)である。なお、エンジンオイルの場合、低温側しきい値は、作動油の場合と同じ例えば28〜35℃の範囲内の任意の温度(好ましくは30℃)であり、高温側しきい値は、パッキンの耐熱温度である例えば95〜105℃の範囲内の任意の温度(好ましくは100℃)である。
次いで、演算処理装置200は、ステップS230において算出したオイル劣化量積分値に基づいて複数の部品のうち摺動面に高分子化合物(例えば合成樹脂)を含む高分子部品の交換時期を推定する(ステップS240,S250)。
このとき、制御装置110は、高分子部品の管理基準値として、複数の部品毎に、オイルの粘度、密度、誘電率のうち最も部品の損傷に影響する性状値の管理基準値を記憶しておき、演算処理装置200はその管理基準値を用いて、複数の部品毎に、第1オイル劣化量積分値、第2オイル劣化量積分値及び第3オイル劣化量積分値のうち、自身が係わる管理基準値に対応するオイル劣化量積分値が当該管理基準値を超えたかどうかを判定し(ステップS240)、オイル劣化量積分値が管理基準値を超えたときに、当該高分子部品の交換時期が来たと推定する(ステップS250)。
次いで、演算処理装置200は、ステップS210において算出したオイル劣化量積分値に基づいて複数の部品のうち摺動面に金属を含む金属部品の交換時期を推定する(ステップS260,S270)。
このとき、制御装置110は、記憶装置204に、金属部品の管理基準値として、複数の部品毎に、オイルの粘度、密度、誘電率のうち最も部品の損傷に影響する性状値の管理基準値を記憶しておき、演算処理装置200はその管理基準値を用いて、複数の部品毎に、第1オイル劣化量積分値、第2オイル劣化量積分値及び第3オイル劣化量積分値のうち、自身が係わる管理基準値に対応するオイル劣化量積分値が当該管理基準値を超えたかどうかを判定し(ステップS260)、オイル劣化量積分値が管理基準値を超えたときに、当該金属部品の交換時期が来たと推定する(ステップS270)。
このように実施例2においては、低温側しきい値と高温側しきい値を設定し、計測値がこれらしきい値を超えた場合に別々にオイル劣化量積分値を算出する。また、低温側しきい値を超えたオイル性状値に対して、金属部品を含む摺動部品全般の交換時期を監視し、高温側しきい値を越えたオイル性状値に対して、高分子部品の交換時期を監視する。
これにより、低温時、つまり作業機械がほとんど稼動しないか、若しくはエンジンのアイドリング時において、作動油の劣化が発生せず、部品の劣化も発生しないような状態のオイル性状値の計測値を除外することができる。このため、待機運転が多い作業機械について、低温側しきい値を使用しない値により判断してしまうと、部品が健全な場合でも部品の交換時期が来たと判定されてしまうおそれがあるが、そのような誤判定を防止することができる。
また、高温側しきい値を用いる判定は、主に高分子を使用した部品、例えばゴム製のオイルシールや樹脂製の摺動材料を対象としている。これは、高分子化合物は温度や環境に対して、例えばガラス転移温度以上については劣化速度が急速に変わるため、金属製品とは別のしきい値を設けることにより、より正確に高分子部品に対するメンテナンス警告を発する必要があるからである。また、高分子化合物は作動油のシール材として使用されることが多いので、早めにメンテナンス警告を発することにより、高分子部品の交換を促し、作動油が外部への流出を防ぐことが可能となる。
<実施例3>
図13は、実施例3における演算処理装置200が行う演算処理内容を示すフローチャートである。実施例3はオイルが作動油である場合のものである。
実施例3の油圧ショベル300は、操作装置331(図1参照)のうちフロント作業機303の操作装置(ブーム用の操作装置、アーム用の操作装置、バケット用の操作装置)が操作されたことを検出するフロント操作センサ251(図8参照)を更に備えている。フロント操作センサ251は、例えば、ブーム用の操作装置、アーム用の操作装置、バケット用の操作装置が操作されることにより生成されるフロント操作信号(操作パイロット圧)を検出する圧力センサである。
図13において、ステップS100,S140,S150の処理内容は、オイルが作動油である点を除いて、図11Aおよび図11Bに示した実施例1と同じである。
演算処理装置200は、ステップS100において、オイル性状センサ122によって検出され、記憶装置202に記憶されたセンサ情報104から、時間間隔ΔT毎の粘度、密度、誘電率及び温度のセンサ情報を抽出した後、フロント操作センサ251からフロント操作信号が入力されたかどうかを判定し(ステップS300)、フロント操作信号が入力されたときは、フロント動作時における作動油の粘度、密度、誘電率及び温度のセンサ情報を用いて、図11Bに示すステップS110と同様の処理手順で、フロント動作時におけるオイル劣化量積分値(オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの密度ベースの第3オイル劣化量積分値)を算出する(ステップS310)。
次いで、演算処理装置200は、フロント動作時において、複数の部品毎に、オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値のうち、自身が係わる管理基準値(フロント動作しきい値)に対応するオイル劣化量積分値が当該管理基準値を超えたかどうかを判定し(ステップS330)、オイル劣化積分値が管理基準値を超えたときに、フロント作業機303の部品の交換時期が来たと推定し、部品のチェック或いは交換の必要性をモニタ208に表示してオペレータに通知する(ステップS340)。
一方、ステップS300においてフロント操作信号が入力されないときは、演算処理装置200は、フロント非動作時における作動油の粘度、密度、誘電率及び温度のセンサ情報を用いて、図11Bに示すステップS110と同様の処理手順で、フロント非動作時におけるオイル劣化量積分値(オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの密度ベースの第3オイル劣化量積分値)を算出する(ステップS320)。
次いで、演算処理装置200は、フロント非動作時において、複数の部品毎に、オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値のうち、自身が係わる管理基準値(非フロント部動作しきい値)に対応するオイル劣化量積分値が当該管理基準値を超えたかどうかを判定し(ステップS350)、オイル劣化積分値が管理基準値を超えたときに、フロント作業機303以外の部品(主に走行系の部品)の交換時期が来たと推定し、部品のチェック或いは交換の必要性をモニタ208に表示してオペレータに通知する(ステップS360)。
ステップS330において、フロント動作時におけるオイル劣化量積分値が管理基準値を超えていないとき、ステップS350において、フロント非動作時におけるオイル劣化量積分値が管理基準値を超えていないとき、ステップS340、S360の処理が終了したとき、処理はステップS140,S150に進み、実施例1と同様、オイルに予め定められた管理基準値を超えたかどうかを判定し、オイル劣化量の積分値がそれぞれの管理基準値を超えたときに、当該管理基準値に係わる部品或いはオイルの交換時期が来たと推定し、モニタ208にその旨を表示してオペレータに通知する。
このようにフロント動作時の作動油の劣化量積分値と、それ以外、例えば走行時の作動油の劣化量積分値の算出を分離して行うことにより、より詳細に部品毎にオイルの劣化状態を見分けることが可能となる。
例えば、フロント動作時の作動油の劣化量積分値と、フロント非動作時で走行時の作動油の劣化量積分値を比較することにより、それぞれの動作時の作動油の劣化を比較することができ、劣化部位の推定が可能となる。更に、実施例2で用いた低温側しきい値と高温側しきい値を用いた演算処理を組み合わせることにより、さらに詳細な劣化部位を特定することができ、適切なメンテナンスを必要なタイミングで行うことができる。
<実施例4>
図14は、実施例1における演算処理装置200が行う演算処理内容を示すフローチャートである。実施例4もオイルが作動油である場合のものである。
実施例4の油圧ショベル300は、操作装置331(図1参照)のうち走行用の操作装置が操作されたことを検出する走行操作センサ253(図8参照)と、走行モータ310,311(図1参照)の負荷圧(積極駆動時は駆動圧、慣性駆動時は背圧)を検出する圧力センサ255(図8参照)を更に備えている。走行操作センサ253は、例えば、走行用の操作装置が操作されることにより生成される走行操作信号(操作パイロット圧)を検出する圧力センサである。
図14において、ステップS100,S110,S140,S150の処理内容は、オイルが作動油である点を除いて、図11Aおよび図11Bに示した実施例1と同じである。
制御装置110は、走行モータ310,311が過負荷状態にあるかどうかを判定する走行過負荷しきい値を設定し、この走行過負荷しきい値を記憶装置204に記憶しておく。また、制御装置110は、油圧ショベル300の走行状態における管理基準値を設定し、この管理基準値を記憶装置204に記憶しておく。
演算処理装置200は、ステップS110において、オイル性状センサ120で計測された作動油の粘度、密度、誘電率及び温度を用いて温度補正を付加したオイル劣化量積算値を算出した後、走行操作センサ253から走行操作信号が入力され、油圧ショベル300が走行状態にあるかどうかを判定し(ステップS400)、油圧ショベル300が走行状態にあるときは、更に、圧力センサ255によって検出された走行モータ310,311の負荷圧が走行過負荷しきい値以上かどうかを判定する(ステップS410)。
次いで、演算処理装置200は、ステップS410において、走行モータ310,311の負荷圧が走行過負荷しきい値以上にあると判定されときは、走行過負荷状態における作動油の粘度、密度、誘電率及び温度のセンサ情報を用いて、図11Bに示すステップS110と同様の処理手順で、フロント動作時におけるオイル劣化量積分値(オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの密度ベースの第3オイル劣化量積分値)を算出する(ステップS420)。
次いで、演算処理装置200は、走行過負荷状態において、オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値が、走行状態の管理基準値(走行モータ動作しきい値)を超えたかどうかを判定し(ステップS430)、オイル劣化積分値が管理基準値を超えたときに、走行モータ310,311の交換時期が来たと推定し、走行モータのチェック或いは交換の必要性をモニタ208に表示してオペレータに通知する(ステップS440)。
油圧ショベル300が下り坂を走行するときは、車体の慣性によって走行モータ310,311が過回転し、摺動部や作動油への負荷が急激に増加し、過負荷状態となる。過負荷状態になるということは、部品や作動油が急激に損傷、劣化することを意味する。そこで、走行操作センサ253及び圧力センサ255の計測値を入力し判定を行うことにより、過負荷時の走行状態を計測することができる。そして、その計測値を用いて走行モータ310,311の部品の劣化状態を推測するにより、走行モータ310,311の適切なメンテナンス時期或いは交換時期を把握することが可能となる。
なお、実施例4に実施例1で行った図11AのステップS110〜S140の処理を組み合わせてもよく、これにより上記のような走行モータ310,311の交換時期の推定に加え、実施例1のように、オイル性状センサ122によって計測したオイル性状値とオイルの温度を用いて、走行モータ以外の部品の交換時期の推定も可能となる。
また、油圧ショベル300が走行状態であるかどうかは、走行操作センサ253に限らず、速度センサやGPSよる位置情報の受信であってもよい。
<実施例5>
図15は、実施例5における演算処理装置200が行う演算処理内容を示すフローチャートである。実施例5もオイルが作動油である場合のものである。
油圧ショベル300は、フロント作業機303にバケット308に代えて破砕機やブレーカーなどのアタッチメントを装着して作業を行うことがある。
実施例5の油圧ショベル300は、フロント作業機303にバケット308に代えてアタッチメントが装着されたことを検出するアタッチメント装着センサ257(図8参照)を更に備えている。アタッチメント装着センサ257は、例えば、キャビン318(図1参照)内の運転席に設けられたスイッチである。また、アタッチメントの油圧回路に設けられた圧力センサや、アタッチメントを交換する際に必要なピンの抜き差しを検出するスイッチであってもよい。
また、実施例5の油圧ショベル300は、実施例3と同様、フロント作業機303の操作装置(ブーム用の操作装置、アーム用の操作装置、バケット用の操作装置)が操作されたことを検出するフロント操作センサ251(図8参照)を更に備えている。
図15において、ステップS100,S110,S140,S150の処理内容は、オイルが作動油である点を除いて、図11Aおよび図11Bに示した実施例1と同じである。
制御装置110は、アタッチメントの使用状態の管理基準値を設定し、この管理基準値を記憶装置204に記憶しておく。
演算処理装置200は、ステップS110において、オイル性状センサ120で計測された作動油の粘度、密度、誘電率及び温度を用いて温度補正を付加したオイル劣化量積算値を算出した後、フロント操作センサ251からフロント操作信号が入力され、フロント作業機303が動作状態にあるかどうかを判定し(ステップS500)、フロント作業機303が動作状態にあるときは、更に、アタッチメント装着センサ257の検出値に基づいて、フロント作業機303にバケット308に代えてアタッチメントが装着されたかどうかを判定する(ステップS510)。
次いで、演算処理装置200は、ステップS510において、アタッチメントが装着されたと判定されたときは、アタッチメント装着状態における作動油の粘度、密度、誘電率及び温度のセンサ情報を用いて、図11Bに示すステップS110と同様の処理手順で、フロント動作時におけるオイル劣化量積分値(オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの密度ベースの第3オイル劣化量積分値)を算出する(ステップS520)。
次いで、演算処理装置200は、アタッチメント装着状態において、オイルの粘度ベースの第1オイル劣化量積分値、オイルの密度ベースの第2オイル劣化量積分値及びオイルの伝導率ベースの第3オイル劣化量積分値が、アタッチメント装着状態の管理基準値を超えたかどうかを判定し(ステップS530)、オイル劣化積分値が管理基準値を超えたときに、アタッチメントの交換時期が来たと推定し、アタッチメントのチェック或いは交換の必要性をモニタ208に表示してオペレータに通知する(ステップS540)。
実施例5において、アタッチメントとしては、主に破砕機やブレーカーを想定している。破砕機やブレーカーを装着した際の使用環境は非常に過酷であり、アタッチメントの油圧回路のシール部からダスト等が侵入するケースが多い。これらダストがアタッチメントの油圧回路に侵入すると、作動油が劣化するとともに、部品の摩耗を加速させてしまう。そのため、通常の作動油の劣化とは別に計測する必要がある。
そこで、実施例5では、アタッチメント装着状態においてオイル劣化量積分値を算出し、管理基準値と比較することにより、アタッチメント装着時の作動油の劣化状態を適切に判断し、アタッチメントや油圧回路、作動油に対する適切な交換時期の把握とメンテナンスを行うことが可能となる。
なお、実施例5においても、実施例1で行った図11AのステップS110〜S140の処理を組み合わせてもよく、これにより上記のようなアタッチメントに係わる部品の交換時期の推定に加え、実施例1のように、オイル性状センサ122によって計測したオイル性状値とオイルの温度を用いて、アタッチメントに係わる部品以外の部品の交換時期の推定も可能となる。