JP2020165102A - 重防食鋼管矢板及びその製造方法 - Google Patents
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信頼性の高い防食層は、何らかの外力により防食層に疵が生じても、この疵が鋼材にまで到達しないことが必要であるが、このウレタン樹脂防食層は、耐衝撃性や耐傷性に優れることから、日本では標準的な防食方法である。但し、ウレタン樹脂重防食塗装鋼材は、下地処理や塗装設備、塗装技術を要するため、設備の整った工場で主として生産されている。
一方鋼管矢板は、鋼管(杭)と鋼管(杭)を杭の打設方向に対して直角方向に連結するための爪が鋼管(杭)外面に溶接されたもので、これにより鋼管(杭)の自立性と止水性を兼ね備えた物となっている。鋼管矢板には、爪の形状により、L−T形、P−P形、P−T形がありこれらはJIS A5530「鋼管矢板」に規定されているが、本発明の対象はこの中のL−T形である。
このL−T形にウレタン樹脂塗装を行うと、現状は図2のような塗装状態となり、L爪及びT爪のウレタン樹脂層4に端部が生じることとなる。
従って、塗膜端部に鋼材露出部が出来てしまう鋼管矢板では何らかの対策が必要である。
同様に塗膜端部がある鋼矢板では加熱塗装を用いた高耐久性タイプに塗装仕様を変更して対応しているが、鋼管矢板は、加熱が困難なこともあって鋼矢板と同じ塗装仕様は難しい。特に塗膜端部である爪嵌合部は複雑な形状により塗装が困難なことから、耐剥離性能を向上させることが出来なかった。このため、鋼管矢板において南方地域にも対応可能な塗膜端部からの剥離抑制技術が望まれていた。
これに対して特許文献2では鋼管矢板のL爪内部の鋼管母管部分にブラスト処理と塗装を施す方法が提案され、爪内部でも鋼管部分の鋼材を腐食から保護することが出来る。しかしながら、本方法では爪の端面から裏面を塗装することは難しいことから、ウレタン樹脂の防食層端部では腐食が生じてしまう。このため、長期使用では腐食部位と塗膜下の電気的なカップリングによるアルカリ発生によって、鋼材露出部に接するウレタン樹脂塗膜端部から剥離が進展してしまう。
ウレタン樹脂塗装端部では鋼材露出部に腐食を生じると、マクロ腐食でのカソード部位がウレタン樹脂塗膜下となり、塗膜端部からのカソード剥離が生じる。ウレタン樹脂層の剥離端部の耐剥離性を向上させるためには端部からさらに何らかの塗装を行って、端部からの水侵入を防止すると供に鋼材腐食部位(アノード)を遠ざける方法が有効である。
しかしながら、これまで鋼管矢板では爪嵌合部の塗装を爪部の溶接後に行っていたことから、爪内部等にまでは塗装を行うことが出来ず、図2におけるウレタン樹脂層4に端部が残存する状態となっていた。この結果、鋼管矢板の耐久性は、飛沫〜干満部では塗装端部が無い鋼管杭には及ばないという問題があった。
爪内部の塗装に用いる2液硬化型エポキシ樹脂は硬く脆いために耐衝撃性は悪いが、爪内部の塗装であれば問題は無い。その一方、2液硬化型エポキシ樹脂は耐熱性や耐疵性には優れ、鋼管矢板の打ち込み時の摩擦熱や擦り傷に強い事から爪内部の塗装にはエポキシ樹脂塗装が最適である。また、2液硬化型エポキシ樹脂は常温では硬化に時間を要するものの、この方法では塗装後に溶接工程が入るため、その溶接熱によって2液硬化型エポキシ樹脂の硬化が進むという利点がある。更にこの方法は溶接前に爪部材の塗装を行うため、十分なブラスト処理と塗装の膜厚管理が可能である。
本発明のウレタン樹脂塗装は、鋼材露出部が発生しないように、予め施工されたエポキシ樹脂塗装と連続するように塗装されなければならない。これにより、爪部のウレタン樹脂層とエポキシ樹脂層が連続して形成されるため、ウレタン樹脂層端部からの剥離を防止できる。爪部においてウレタン樹脂層4とエポキシ樹脂層5が連続して形成されている本発明の重防食鋼管矢板の部分断面図の例を図4に示す。
しかしながら、この方法は、その効果は大きいが、確実にばらつきなく塗り重ねる事が必要であることから、工場での製造時の管理が重要となる。
シール塗装に使用する塗料としては、防食性及びウレタン樹脂層とエポキシ樹脂層との密着性を考慮し、エポキシ樹脂塗料を用いる。これにより、ウレタン樹脂層とエポキシ樹脂層の連続性が不十分な場合でもシール層によってこれが補完され耐腐食剥離性に優れた重防食鋼管矢板を形成することが可能となる。
そこで、従来の鋼管矢板を形成する際に用いる爪部材の塗装仕様を変更することでウレタン樹脂層端部からの剥離を大幅に抑制することが出来る塗装仕様を実現した。
次に、本発明に用いる防食鋼管矢板用の爪部材は以下の方法で塗装を行う。
エポキシ樹脂塗料は2液硬化型が適しており、エポキシ樹脂成分としては、ビスフェノールA又はFタイプを主剤とし、アミン系の硬化剤を用いる。前記樹脂成分に無機顔料成分として、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、タルク、酸化鉄等の体質顔料を5〜50重量%添加する。また、リン酸化合物、亜鉛化合物を主とした防錆顔料を添加しても良い。また、着色顔料としてカーボンブラックを用いることも出来る。塗装は、刷毛塗り、ローラー塗布、スプレー塗装などの既知の方法を用いる。
これにより、本発明の2液硬化型エポキシ樹脂塗料を塗装した重防食鋼管矢板用爪部材を製作することが出来る。
溶接前に爪内部になる部分にエポキシ樹脂塗装を施した本発明の鋼管矢板用爪部材の断面図例を図3に示す。
プライマーを塗装後にウレタン樹脂層を塗装する。ウレタン樹脂層に用いるウレタン樹脂塗料としては、従来公知の塗料が挙げられ、例えば、パーマガードR137、パーマガードR250、パーマガードR601、パーマガードR901、MACFLEX107、MACFLEX109(以上、第一工業製薬社製)、ミゼロン(日本ペイント防食コーティングス社製)、エラスト#92(日塗化学社製)などのウレタン樹脂塗料が挙げられる。これらの塗料はひまし油、ポリブタジエン、エポキシ変性各種ポリオール等を主剤とし、クルードMDI等のイソシアンートを硬化剤として用いたものであり、数mmの厚膜スプレー塗装を行うために、粘度、硬化速度を調整したものである。
ウレタン樹脂層は2〜5mmの厚みとなるように調整する。2mm以下では耐疵性、防食性が悪く、5mmを超えると塗膜応力によって低温剥離が増加する。
上記塗装によって、ウレタン樹脂層とエポキシ樹脂層を連続して形成するが、工業的には、ばらつきを考慮する必要があることから、ウレタン樹脂層を一部エポキシ樹脂層に塗り重ねる(オーバーラップさせる)方法が有効である。爪部においてウレタン樹脂層4が一部エポキシ樹脂層5に塗り重ね(オーバーラップ)された本発明の重防食鋼管矢板の部分断面図例を図5に示す。
この方法は、工場における省力化を図れる優位性があるが、確実に重ねて塗装する必要がある。
シール塗装に使用する塗料としては、防食性及びウレタン樹脂層とエポキシ樹脂層との密着性を考慮し、エポキシ樹脂塗料を用いる。これにより、ウレタン樹脂層とエポキシ樹脂層の連続性が不十分な場合でもシール層によってこれが補完され耐腐食剥離性に優れた重防食鋼管矢板を形成することが可能となる。
本発明に適用する鋼管矢板はJIS A5530鋼管矢板(外径500A〜2000A、板厚9〜25mm)が中心となるが、特にこの規格に限定されるものではない。
次に本発明の実施形態に係る鋼管矢板の爪形状を図1に示す。図1はL−T形の部分断面図であり、鋼管1にL状の爪2及びT状の爪3が溶接され、打ち込み時に連結して使用される。
L−T形について、次に詳細に説明する。
L−T形の爪は互いに組み合わされるL爪、T爪から構成され、鋼管1の軸に直交する断面において、軸を中心として互いに対向する位置に設けられる。
T爪3は基端部31及び係合部32を備える。基端部31は鋼管1の径方向に沿って鋼管1の外面から外側に突出して設けられ底部が鋼管の外面に溶接される。係合部32は基端部の突出方向先端から基端部31に直交する方向の両側に延びるように設けられる。
L爪2は2つのL爪2が組み合わされてT爪3と係合する。L爪は、L字の一方を形成する第1辺21と他方を形成する第2辺22から構成される。第1辺21は鋼管1の外面から外側に突出して設けられ、底部が鋼管1の外面に溶接される。第2辺22は第1辺21の上端から第1辺21に直交する方向に延びている。2つのL爪2は、第2辺22同士が互いに向き合うように鋼管1の外面に設けられ被係合部が構成される。
T爪3及びL爪2は、T爪3の係合部32が2つのL爪2の第2辺22の内側に挿入されて係合する。
次に、グリッドを用いたインペラーブラスト装置により鋼管矢板本管及び爪部外面にブラスト処理を行って、除錆度をSa2・1/2以上とした。ブラスト処理後にプライマーを塗布する。プライマー層は、ウレタン樹脂及びエポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含んでおり、日本ペイント防食コーティングス社製のRプライマーを50μm狙いでスプレー塗装した。3時間の養生処理を行い、日本ペイント防食コーティングス社製のミゼロンウレタン樹脂塗料をエアレス高圧スプレー塗装機によって、鋼管表面に3mm以上、爪部には2mm以上を目標に塗装を行った。
一方、図4は図3に示す重防食鋼管矢板用塗装爪部材を鋼管1に溶接後、外面からウレタン樹脂層4を塗装した本発明の重防食鋼管矢板の部分断面図例である。ウレタン樹脂層4がエポキシ樹脂層5に連続して形成されており、その結果ウレタン樹脂層の端部が消失し、塗膜として最大の弱点である端面からの剥離を防止することが出来る。
この方法は、工業的には優れた製造方法であるが、確実に塗り重なっている事が必須であり、これを塗装後に確認するのは、位置が爪裏面等確認しづらい事から、塗装条件の確立と塗装時の管理が重要である。
図5は図4のウレタン樹脂層4を形成後、ウレタン樹脂層4とエポキシ樹脂層5の境界部にシール塗装9を行った本発明の重防食鋼管矢板の断面図例である。シール塗装にはウレタン樹脂層4とエポキシ樹脂層5の両者に接着性に優れたエポキシ塗料を用いるのが適当であり、刷毛塗りで100μm以上の膜厚となるようにNSパイルプライマーを塗布した。
この結果、ウレタン樹脂層の端部を完全に消失させることができ、厳しい条件においても長期の耐久性を維持できる。
重防食鋼管矢板の製造にはこれらの1種の方法のみでも良いが、製造工場の塗装のバラツキ、作業の手間の大小、作業時間の制約等を考慮して、これら3種類を適時組み合わせて製造する事ができる。
例えば、T爪の両端部及びL爪の端部はシール剤を塗布し、T爪の溶接端部及びL爪の溶接端部はウレタン樹脂層とエポキシ樹脂層が連続したものとする等の組み合わせが考えられる。
2 鋼管矢板勘合部のL爪
21 L爪の第1辺
22 L爪の第2辺
3 鋼管矢板勘合部のT爪
31 T爪の基端部
32 T爪の係合部
4 ウレタン樹脂層
5 エポキシ樹脂層
6 T爪の溶接予定端部
7 L爪の溶接予定端部
9 エポキシ塗料によるシール塗装部
Claims (7)
- 鋼管杭と鋼管杭を杭の打設方向に対して直角方向に連結するための爪が鋼管外面に溶接によって形成されている鋼管矢板であって、その断面形状が、T形状のオス爪であるT爪と、L形状の爪が2個左右対称に配置されているメス爪であるL爪とで構成される、JIS A5530「鋼管矢板」のL−T形の爪において、T爪横部の裏側(Tの縦部が形成されている側)、T爪縦部及びL爪の内側部に塗装されたエポキシ樹脂層に連続してT爪横部の表側部、T爪縦部の鋼管溶接近傍部及びL爪の外側部にウレタン樹脂層が塗装されていることを特徴とする重防食鋼管矢板。
- 前記爪部において前記ウレタン樹脂層が前記エポキシ樹脂層に一部重なって連続していることを特徴とする請求項1記載の重防食鋼管矢板。
- 前記爪部において前記ウレタン樹脂層と前記エポキシ樹脂層が連続する境界部にシール剤が塗布されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の重防食鋼管矢板。
- ブラスト処理を行った後、あらかじめ2液硬化型のエポキシ樹脂塗料を塗装した爪部材を製作し、この爪部材を前記鋼管に溶接することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の重防食鋼管矢板の製造方法。
- 前記爪部材を鋼管に溶接して爪部を形成し、前記爪部を含めた前記鋼管の外面にブラスト処理、プライマー塗装、ウレタン樹脂塗装を行って前記エポキシ樹脂にウレタン樹脂層を連続させて形成することを特徴とする請求項4記載の重防食鋼管矢板の製造方法。
- 前記爪部を含めた外面にブラスト処理、プライマー塗装、ウレタン樹脂塗装を行ってウレタン樹脂層を形成するとき、エポキシ樹脂層に一部重ねてウレタン樹脂層を塗装し、ウレタン樹脂層とエポキシ樹脂層とが連続している塗膜とすることを特徴とする請求項5記載の重防食鋼管矢板の製造方法。
- さらに、前記ウレタン樹脂層と前記エポキシ樹脂層の連続する境界部にシール剤を塗布することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の重防食鋼管矢板の製造方法。
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