JP2020163833A - 樹脂成形材料および成形品の製造方法 - Google Patents

樹脂成形材料および成形品の製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】取扱いやすく、かつ、複雑な形状の磁石を量産することに適した、磁石を製造するための樹脂成形材料を提供すること。【解決手段】エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬磁性粒子と含み、トランスファー成形法により磁石を製造するために用いられる樹脂成形材料。エポキシ樹脂の70質量%以上は23℃で固形のエポキシ樹脂であり、硬化剤の70質量%以上は23℃で固形の硬化剤である。樹脂成形材料中の揮発性有機溶剤の含有率は3質量%以下であることが好ましい。樹脂成形材料中の硬磁性粒子の含有率は25体積%以上であることが好ましい。【選択図】なし

Description

本発明は、樹脂成形材料および成形品の製造方法に関する。より具体的には、トランスファー成形法により磁石を製造するために用いられる樹脂成形材料、および、その樹脂成形材料を、トランスファー成形法により成形して、磁石である成形品を製造する方法に関する。
磁性粒子を含む樹脂成形材料を成形して磁石を製造する試みが、いくつか知られている。
磁性粒子を含む樹脂成形材料を成形して得られた磁石は、「ボンド磁石」「プラスチック磁石」などと呼ばれる場合がある。
特許文献1の例えば実施例1には、Sm−Fe−N系磁性粉末、ラジカル重合反応性を有する熱硬化樹脂である不飽和ポリエステル樹脂、硬化剤であるパーオキシエステル系過酸化物などを混合・攪拌してボンド磁石用組成物を得たことが記載されている。また、同実施例には、そのボンド磁石用組成物を射出成形法により成形してボンド磁石を得たことが記載されている。
特許文献2には、樹脂組成物と磁石用粉末を含む樹脂コンパウンドを「圧縮成形」するなどして、ボンド磁石を得ることが記載されている。
特開2007−109963号公報 特開2017−073479号公報
本発明者の知見によれば、特許文献1の実施例に記載されたボンド磁石用組成物に含まれる不飽和ポリエステル樹脂は、常温で液状である。このことから、特許文献1に記載の組成物は、(i)成形材料として流通や保管がしにくい、(ii)常温での「粉砕」が難しく、樹脂成形でしばしば採用される顆粒状またはタブレット状の樹脂成形材料とすることが難しい、等、「材料として取扱いにくい」という問題を有する。
また、特許文献2に記載されている「圧縮成形」は、複雑な形状の成形が不向きであったり、他の樹脂成形法に比べて量産性が低くなりがちであったりする問題を有する。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものである。本発明は、取扱いやすく、かつ、複雑な形状の磁石を量産することに適した、磁石を製造するための樹脂成形材料を提供することを目的の1つとする。
本発明者らは、鋭意検討の結果、以下に提供される発明を完成させ、上記課題を解決した。
本発明によれば、
トランスファー成形法により磁石を製造するために用いられる樹脂成形材料であって、
エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬磁性粒子と含み、
前記エポキシ樹脂の70質量%以上は23℃で固形のエポキシ樹脂であり、前記硬化剤の70質量%以上は23℃で固形の硬化剤である、樹脂成形材料
が提供される。
また、本発明によれば、
トランスファー成形装置を用いて、上記の樹脂成形材料の溶融物を金型に注入し、前記溶融物が硬化した成形品を得る、成形品の製造方法
が提供される。
本発明によれば、取扱いやすく、かつ、複雑な形状の磁石を量産することに適した、磁石を製造するための樹脂成形材料が提供される。
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
本明細書中、数値範囲の説明における「a〜b」との表記は、特に断らない限り、a以上b以下のことを表す。例えば、「1〜5質量%」とは「1質量%以上5質量%以下」を意味する。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換か無置換かを記していない表記は、置換基を有しないものと置換基を有するものの両方を包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有しないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書における「有機基」の語は、特に断りが無い限り、有機化合物から1つ以上の水素原子を除いた原子団のことを意味する。例えば、「1価の有機基」とは、任意の有機化合物から1つの水素原子を除いた原子団のことを表す。
<樹脂成形材料>
本実施形態の樹脂成形材料は、トランスファー成形法により磁石を製造するために用いられる。
本実施形態の樹脂成形材料は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬磁性粒子と含む。
エポキシ樹脂の70質量%以上は23℃で固形のエポキシ樹脂であり、硬化剤の70質量%以上は23℃で固形の硬化剤である。
本実施形態の樹脂成形材料は、23℃で「固形」のエポキシ樹脂と、23℃で「固形」の硬化剤とをある程度多量に含む。このことにより、特許文献1に記載された組成物のように液状ではなく、通常、23℃で実質的に流動性を有しない樹脂成形材料を設計することができる。このことにより、樹脂成形材料としての取扱い性が向上する。
また、本実施形態の樹脂成形材料は「トランスファー成形用」の樹脂成形材料である。このことにより、本実施形態の樹脂成形材料は、特許文献2に記載されている材料(圧縮成形用の材料)に比べて、より複雑な形状の成形品すなわちボンド磁石を、より量産しやすいものであると言える。
本実施形態の樹脂成形材料の含有成分、性状などについて以下説明する。
以下では、23℃で固形のエポキシ樹脂を「特定エポキシ樹脂」と、23℃で固形の硬化剤を「特定硬化剤」と、それぞれ表記することがある。
(エポキシ樹脂)
本実施形態の樹脂成形材料は、エポキシ樹脂を含む。そして、エポキシ樹脂の70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上は、特定エポキシ樹脂すなわち23℃で固形のエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂の全て(100%)が特定エポキシ樹脂であってもよい。
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールE型エポキシ樹脂、ビスフェノールM型エポキシ樹脂、ビスフェノールP型エポキシ樹脂、ビスフェノールZ型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、アリールアルキレン型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、アントラセン型エポキシ樹脂、フェノキシ型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ノルボルネン型エポキシ樹脂、アダマンタン型エポキシ樹脂、フルオレン型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。特定エポキシ樹脂としては、これらのうち、23℃で固形状のものを挙げることができる。
本実施形態の樹脂成形材料は、エポキシ樹脂を1種のみ含んでもよいし、2種類以上含んでもよい。また、同種のエポキシ樹脂であっても異なる分子量のものを併用してもよい。
エポキシ樹脂は、特に特定エポキシ樹脂として、好ましくはトリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂および/またはビフェニル構造を含むエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む。これらエポキシ樹脂の構造の適度な剛直性により、得られる磁石の耐熱性や耐久性を高めることができる。
別観点として、エポキシ樹脂は、特に特定エポキシ樹脂として、好ましくはビスフェノールA型またはF型エポキシ樹脂を含む。このエポキシ樹脂の樹脂骨格は適度に柔軟であるため、トランスファー成形時の流動特性を高めやすかったり、トランスファー成形時の設定温度を低くしたりすることができる。
特に、(i)トリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂および/またはビフェニル構造を含むエポキシ樹脂からなる群より選ばれる少なくともいずれかと、(ii)ビスフェノールA型またはF型エポキシ樹脂とを併用することが、種々の性能のバランスの点で好ましい。
トリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂とは、具体的には、メタン(CH)の4つの水素原子のうちの3つがベンゼン環で置換された部分構造を含むエポキシ樹脂である。ベンゼン環は、無置換であっても置換基で置換されていてもよい。置換基としては、ヒドロキシ基やグリシジルオキシ基などを挙げることができる。
具体的には、トリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(a1)で表される構造単位を含む。この構造単位が2つ以上連なることで、トリフェニルメタン骨格が構成される。
Figure 2020163833
一般式(a1)において、
11は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、
12は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基またはシアノ基であり、
iは、0〜3の整数であり、
jは、0〜4の整数である。
11およびR12の1価の有機基の例としては、後述の一般式(BP)におけるRおよびRの1価の有機基として列挙されているものを挙げることができる。
iおよびjは、それぞれ独立に、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0〜1である。
一態様として、iおよびjはともに0である。つまり、一態様として、一般式(a1)中のベンゼン環の全ては、1価の置換基としては、明示されたグリシジルオキシ基以外の置換基を有しない。
ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂とは、具体的には、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造を含むエポキシ樹脂のことである。ここでのベンゼン環は、置換基を有していてもいなくてもよい。
具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP)で表される部分構造を有する。
Figure 2020163833
一般式(BP)において、
およびRは、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
rおよびsは、それぞれ独立に、0〜4であり、
*は、他の原子団と連結していることを表す。
およびRの1価の有機基の具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキリデン基、アリール基、アラルキル基、アルカリル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、ヘテロ環基、カルボキシル基などを挙げることができる。
アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基などが挙げられる。
アルケニル基としては、例えばアリル基、ペンテニル基、ビニル基などが挙げられる。
アルキニル基としては、例えばエチニル基などが挙げられる。
アルキリデン基としては、例えばメチリデン基、エチリデン基などが挙げられる。
アリール基としては、例えばトリル基、キシリル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が挙げられる。
アラルキル基としては、例えばベンジル基、フェネチル基などが挙げられる。
アルカリル基としては、例えばトリル基、キシリル基などが挙げられる。
シクロアルキル基としては、例えばアダマンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロオクチル基などが挙げられる。
アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、s−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基などが挙げられる。
ヘテロ環基としては、例えばエポキシ基、オキセタニル基などが挙げられる。
およびRの1価の有機基の総炭素数は、それぞれ、例えば1〜30、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜6である。
rおよびsは、それぞれ独立に、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0〜1である。一態様として、rおよびsはともに0である。
より具体的には、ビフェニル構造を含むエポキシ樹脂は、以下一般式(BP1)で表される構造単位を有する。
Figure 2020163833
一般式(BP1)において、
およびRの定義および具体的態様は、一般式(BP)と同様であり、
rおよびsの定義および好ましい範囲は、一般式(BP)と同様であり、
は、複数ある場合はそれぞれ独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
tは、0〜3の整数である。
の1価の有機基の具体例としては、RおよびRの具体例として挙げたものと同様のものを挙げることができる。
tは、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0〜1である。
ビスフェノールA型またはF型エポキシ樹脂(ビスフェノールAまたはビスフェノールFと、エピクロルヒドリンとの縮合反応により製造されるエポキシ樹脂)として具体的には、以下一般式(EP)で表されるエポキシ樹脂を挙げることができる。
Figure 2020163833
一般式(EP)中、
複数のRは、各々独立に、水素原子またはメチル基、好ましくはメチル基であり、
、R、RおよびRは、それぞれ、複数存在する場合は各々独立に、1価の有機基、ヒドロキシル基またはハロゲン原子であり、
p、q、rおよびsは、それぞれ独立に、0〜4であり、好ましくは0〜2であり、
nは0以上の整数であり、通常0〜10、好ましくは0〜5である。
、R、RおよびRの1価の有機基の具体例としては、一般式(BP)におけるRおよびRの1価の有機基の具体例として挙げたものと同様のものを挙げることができる。
本実施形態の樹脂成形材料中のエポキシ樹脂の量は、例えば0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%である。
本実施形態の樹脂成形材料中のエポキシ樹脂の量は、例えば0.5〜60体積%、好ましくは3〜40体積%である。
(他の樹脂)
本実施形態の樹脂成形材料は、取扱い性などを過度に損なわない限り、エポキシ樹脂以外の他の樹脂を含んでもよい。
他の樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の熱硬化性樹脂を挙げることができる。
また、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のポリオレフィン、変性ポリオレフィン、ポリアミド(ナイロン)、熱可塑性ポリイミド、芳香族ポリエステル等の液晶ポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテル、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、スチレン系、ポリオレフィン系、ポリ塩化ビニル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、トランスポリイソプレン系、フッ素ゴム系、塩素化ポリエチレン系等の熱可塑性樹脂も挙げることができる。
(硬化剤)
本実施形態の樹脂成形材料は、硬化剤を含む。そして、硬化剤の70質量%以上、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上は、特定硬化剤すなわち23℃で固形の硬化剤である。硬化剤の全て(100%)が特定硬化剤であってもよい。
硬化剤は、エポキシ樹脂が有するエポキシ基と反応して結合形成可能なものである限り、特に限定されない。例えば、脂肪族ポリアミン、芳香族ポリアミン、芳香族ジアミン、ジシアミンジアミドのようなアミン化合物、脂環族酸無水物、芳香族酸無水物のような酸無水物、ノボラック型フェノール樹脂のようなフェノール化合物、イミダゾール化合物等を挙げることができる。特定硬化剤としては、これらの中から、23℃で固形のものを挙げることができる。
硬化剤は、特に特定硬化剤として、好ましくはフェノール系硬化剤(フェノール化合物)を含む。これにより、最終的に得られる磁石の耐久性の一層の向上などが期待できる。フェノール系硬化剤は、典型的には、1分子あたり2以上のヒドロキシ基を有する。
フェノール系硬化剤は、好ましくは、ノボラック骨格およびビフェニル骨格からなる群より選ばれるいずれかの骨格を含む。フェノール系硬化剤がこれらの骨格のいずれかを含むことで、特に磁石の耐久性を高めることができる。
「ビフェニル骨格」とは、具体的には、前述のエポキシ樹脂の説明における一般式(BP)のように、2つのベンゼン環が単結合で連結している構造である。
ビフェニル骨格を有するフェノール系硬化剤として具体的には、前述のエポキシ樹脂の説明における一般式(BP1)において、グリシジル基を水素原子に置き換えた構造のものなどを挙げることができる。
ノボラック骨格を有するフェノール系硬化剤として、具体的には以下一般式(N)で表される構造単位を有するものを挙げることができる。
Figure 2020163833
一般式(N)において、
は、1価の置換基を表し、
uは、0〜3の整数である。
の1価の置換基の具体例としては、一般式(BP)におけるRおよびRの1価の置換基として説明したものと同様のものを挙げることができる。
uは、好ましくは0〜2であり、より好ましくは0〜1であり、更に好ましくは0である。
硬化剤が高分子またはオリゴマーである場合、硬化剤の数平均分子量(GPC測定による標準ポリスチレン換算値)は、例えば200〜800程度である。
樹脂成形材料中の硬化剤の含有量は、例えば0.1〜20質量%、好ましくは0.5〜10質量%である。
また、樹脂成形材料中の硬化剤の含有量は、例えば0.5〜60体積%、好ましくは3〜40体積%である。
硬化剤の量を適切に調整することにより、成形性を一層向上させることができ、得られる硬化物(磁石)の機械特性や磁気特性を向上させることができる。
(硬磁性粒子)
本実施形態の樹脂成形材料は、硬磁性粒子を含む。硬磁性粒子とは、保磁力が大きく、永久磁石とみなすことができる磁性粒子である。硬磁性粒子としては、磁力の強さやコストなどにより任意のものを選択可能である。
磁力の強さの点では、好ましくは、硬磁性粒子は希土類元素を含む硬磁性粒子である。希土類元素としてはSm、Nd、Pr、Y、La、Ce、Gdなどを挙げることができる。
具体的には、硬磁性粒子として、サマリウム鉄窒素磁石(Sm−Fe−N系磁性粒子)、サマリウムコバルト磁石(Sm−Co系磁性粒子)、ネオジム磁石(Nd−Fe−B系磁性粒子)などを好ましく挙げることができる。これら磁石中の各元素の比率は特に限定されない。最終的な成形品(ボンド磁石)において、必要な磁力やその他磁気特性が得られていればよい。
また、フェライト磁石(ハードフェライト)も、使用可能な硬磁性粒子の一例として挙げることができる。フェライト磁石は、上記のサマリウム系磁石やネオジム磁石には磁力の強さでは劣るが、比較的安価である。用途によってはフェライト磁石で十分な場合も多い。硬磁性を示す限り、フェライト磁石の結晶構造などは特に限定されない。
2種以上の硬磁性粒子を併用してもよい。化学組成および/または粒径分布が異なる2種以上の硬磁性粒子を併用することで、成形の際の流動性を一層高めたり、磁気特性をより高めたりしうる。
好ましい硬磁性粒子の組み合わせとしては、ネオジム磁石とサマリウム鉄窒素磁石が挙げられる。ネオジム磁石は、極めて強い磁力を有するが、高価である。硬磁性粒子としてネオジム磁石とサマリウム鉄窒素磁石を併用することで、強い磁力を得つつ、製造コストを下げることができる。
硬磁性粒子の表面には何らかの処理が施されていてもよい。例えば、硬磁性粒子の表面はカップリング剤で処理されていてもよいし、プラズマ処理されていてもよい。表面処理により、硬磁性粒子の表面が改質され、エポキシ樹脂などとの相溶性向上や、流動性向上などの効果が得られる場合がある。
例えば、エポキシ樹脂などと混合する前の硬磁性粒子を、シランカップリング剤などのシラン化合物で表面処理することが考えられる。シラン化合物の具体例としては、後述のアルコキシシリル基を有する化合物を挙げることができる。
表面処理の具体的方法としては、硬磁性粒子をシラン化合物の希釈溶液に浸漬したり、硬磁性粒子にシラン化合物を直接噴霧したりする方法が挙げられる。
表面処理の一環として、シラン化合物による表面処理の前に、プラズマ処理を施してもよい。例えば、酸素プラズマ処理を施すことで、硬磁性粒子の表面にOH基が生じて、硬磁性粒子とシラン化合物との結合が容易になる。これにより、より強固に官能基を結合させることができる。
硬磁性粒子の形状は特に限定されない。硬磁性粒子の形状は、破砕形状、球状、鱗片形状等であることができる。
硬磁性粒子の体積基準のメジアン径D50は、例えば1〜200μm、好ましくは1〜150μm、より好ましくは1〜135μmである。2種以上の硬磁性粒子を併用する場合には、硬磁性粒子全体としての(2種以上の硬磁性粒子の混合物としての)メジアン径D50がこの数値範囲内にあることが好ましい。D50が1μm以上であることで、トランスファー成形時の流動性を一層高めやすい。また、D50が150μm以下であることで、硬化物(ボンド磁石)の磁気特性を十二分に高めやすい。
硬磁性粒子は、メジアン径D50が好ましくは1〜10μm(より好ましくは1〜5μm)である第一硬磁性粒子と、メジアン径D50が好ましくは50〜150μm(より好ましくは100〜150μm)である第二硬磁性粒子とを含んでもよい。第一硬磁性粒子と第二硬磁性粒子は、通常、化学組成および/または粒径分布が互いに異なる。第一硬磁性粒子および第二硬磁性粒子を併用することで、比較的大きな粒径を有する第二硬磁性粒子の「隙間」に、比較的小さな第一硬磁性粒子が入ると考えられる。そして、単位体積当たりの硬磁性粒子の充填量を高めることができると考えられる。これにより、成形時の流動性を維持しつつ、磁気特性が一層良化すると考えられる。
好ましくは、第一硬磁性粒子はサマリウム鉄窒素磁石、第二硬磁性粒子はネオジム磁石である。サマリウム鉄窒素磁石は一般に粒径が小さいほうが良好な磁気特性を有する。一方、ネオジム磁石の磁力は非常に強力であるが、一般に高価であり多量には使いにくい。これらのことより、メジアン径が小さいサマリウム鉄窒素磁石とネオジム磁石とを併用することは非常に合理的といえる。
第一硬磁性粒子と第二硬磁性粒子の使用比率は特に限定されない。ただし、併用による効果を十分に得る観点からは、体積比で第一硬磁性粒子/第二硬磁性粒子=10/90〜50/50が好ましく、第一硬磁性粒子/第二硬磁性粒子=20/80〜30/70がより好ましい。
メジアン径D50は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置により得ることができる。具体的には、HORIBA社製の粒子径分布測定装置「LA−950」により、磁性体粒子を乾式で測定することで粒子径分布曲線を得、この分布曲線を解析することでD50を求めることができる。
硬磁性粒子としては、公知または市販のものを適宜用いることができる。市販品としては、例えば、住友金属鉱山株式会社のサマリウム鉄窒素磁性粉(商品名:SFN合金微粉)などを挙げることができる。
硬磁性粒子の含有率は、樹脂成形材料中、好ましくは25体積%以上、より好ましくは25〜80体積%、さらに好ましくは40〜60体積%である。
硬磁性粒子の含有率が25体積%以上であることで、得られる成形品(ボンド磁石)の磁力をより高めることができる。また、硬磁性粒子の含有率が80体積%以下であることで、エポキシ樹脂や硬化剤などを十二分な量用いることができる。このことは、流動特性の一層の向上や硬化物性の点で好ましい。
(硬化触媒)
本実施形態の樹脂成形材料は、好ましくは硬化触媒を含む。硬化触媒は、硬化促進剤などと呼ばれる場合もある。硬化触媒は、エポキシ樹脂の硬化反応を早めるものである限り特に限定されず、公知のエポキシ硬化触媒を用いることができる。
具体的には、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類(イミダゾール系硬化促進剤);1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7、ベンジルジメチルアミン等が例示されるアミジンや3級アミン、アミジンやアミンの4級塩等の窒素原子含有化合物などを挙げることができる。
硬化触媒を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
硬化触媒を用いる場合、その含有量は、樹脂成形材料全体に対して、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.05〜0.8質量%である。このような数値範囲とすることにより、他の性能を過度に悪くすることなく、十分に硬化促進効果が得られる。
(離型剤)
本実施形態の樹脂成形材料は、好ましくは離型剤を含む。これにより、トランスファー成形後の離型性を高めることができる。
離型剤としては、例えばカルナバワックス等の天然ワックス、モンタン酸エステルワックスや酸化ポリエチレンワックス等の合成ワックス、ステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸およびその金属塩類、ならびにパラフィン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
離型剤を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
離型剤を用いる場合、その含有量は、樹脂成形材料全体中、好ましくは0.01〜3質量%、より好ましくは0.05〜2質量%である。これにより、離型性向上の効果を確実に得ることができる。
(アルコキシシリル基を有する化合物)
本実施形態の樹脂成形材料は、好ましくはアルコキシシリル基を有する化合物を含む。この化合物のアルコキシシリル基が硬磁性粒子と反応して結合形成する(つまり、この化合物が硬磁性粒子の表面を修飾する)ことで、硬磁性粒子の凝集抑制、エポキシ樹脂との相溶性の向上による流動特性の向上、などの効果を得やすい。
一例として、アルコキシシリル基を有する化合物は、シランカップリング剤である。つまり、一例として、アルコキシシリル基を有する化合物は、一分子中に、硬磁性粒子と結合形成可能なアルコキシシリル基と、有機成分と結合形成可能な反応性官能基とを有する化合物である。
シランカップリング剤としては、例えば、アミノ基含有シランカップリング剤、エポキシ基含有シランカップリング剤、(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤、メルカプト基含有シランカップリング剤、ビニル基含有シランカップリング剤、ウレイド基含有シランカップリング剤、スルフィド基含有シランカップリング剤等を挙げることができる。
特に、シランカップリング剤としては、以下一般式(S1)で表される化合物が好ましい。このシランカップリング剤は、特にLの炭素数が6以上であることにより、エポキシ樹脂や硬化剤などとの相溶性が良好である。
Figure 2020163833
一般式(S1)において、
3つのRは、それぞれ独立に、アルキル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基であり、
Lは、炭素数6以上(好ましくは6〜10)の、直鎖状または分岐状アルキレン基であり、
Xは、反応性有機官能基であり、例えばビニル基、エポキシ基、グリシジル基、オキセタニル基、(メタ)アクリロイル基などである。
別の例として、アルコキシシリル基を有する化合物は、アルコキシシリル基と、炭素数6以上(好ましくは6〜10)の、直鎖状または分岐状アルキル基とを有する化合物であってもよい。アルコキシシリル基が硬磁性粒子と結合する一方、炭素数6以上のアルキル基の存在によりエポキシ樹脂等の他成分との相溶性が良好となる傾向がある。
このような化合物として具体的には以下一般式(S2)で表される化合物が挙げられる。
Figure 2020163833
一般式(S2)において、
3つのRは、それぞれ独立に、アルキル基であり、好ましくはメチル基またはエチル基であり、
Yは、炭素数6以上(好ましくは6〜10)の、直鎖状または分岐状アルキル基である。
アルコキシシリル基を有する化合物を用いる場合、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
アルコキシシリル基を有する化合物を用いる場合、その量は、樹脂成形材料全体に対して、好ましくは0.1〜5質量%、より好ましくは0.5〜3質量%である。
(その他の成分)
本実施形態の樹脂成形材料は、上述した成分以外の成分を含んでいてもよい。例えば、低応力剤、着色剤、酸化防止剤、耐食剤、染料、顔料、難燃剤等のうち1または2以上を含んでもよい。
(揮発性有機溶剤について)
本実施形態の樹脂成形材料は、上述の種々の成分以外の成分として、揮発性有機溶剤を含まないか、含むとしても少量であることが好ましい。これにより、樹脂成形材料の取り扱い性が一層良好となる。
具体的には、本実施形態の樹脂成形材料中の揮発性有機溶剤の含有率は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。特に好ましくは、本実施形態の樹脂成形材料は、揮発性有機溶剤を実質的に含まない。
(樹脂成形材料の形態)
本実施形態の樹脂成形材料は、23℃で、好ましくはタブレット状または顆粒状であり、より好ましくはタブレット状である。樹脂成形材料がタブレット状または顆粒状であることにより、樹脂成形材料の流通や保管がしやすく、また、トランスファー成形に適用しやすい。
(樹脂成形材料を溶融させた際の特性)
本実施形態の樹脂成形材料の組成などを調整して、樹脂成形材料の溶融時の流動特性を適当な数値範囲とすることで、成形性などを一層高めることができる。
具体的には、定荷重細管押出式レオメータ(フローテスタ)を用いて、温度175℃の条件で測定される溶融粘度は、好ましくは0.1〜500Pa・s、より好ましくは0.1〜300Pa・s、さらに好ましくは0.1〜200Pa・sである。
定荷重細管押出式レオメータとしては、例えば、島津製作所製のフローテスタ「CFT―500D」などを用いることができる。また、ダイ穴径は例えば0.5mm、ダイ長さは例えば1.0mm、圧力(荷重)は例えば40kgf(392N)とすることができる。
(硬化物のガラス転移温度)
本実施形態の樹脂成形材料を175℃で溶融して成形したものを、大気下で175℃、4時間後硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度は、好ましくは150〜220℃、より好ましくは160〜200℃である。ガラス転移温度が150℃以上となるように樹脂成形材料を設計することで、例えば車載用途で要求される耐熱性をクリアしやすい。ガラス転移温度が220℃以下となるように樹脂成形材料を設計することで、比較的低温で成形をすることができるようになる。このことは、低温加工による熱減磁の抑制の点で好ましい。
(樹脂成形材料の製造方法)
本実施形態の樹脂成形材料は、工業的には、例えば、まず(1)ミキサーを用いて各成分を混合し、(2)その後、ロールを用いて、120℃前後で5分以上、好ましくは10分程度混練することにより混練物を得、(3)そして得られた混練物を冷却し、(4)さらにその後、粉砕することにより製造することができる。(以上により、粉末状の樹脂成形材料を得ることができる。)
粉末状の樹脂成形材料を打錠し、顆粒状やタブレット状にしてもよい。これにより、特にトランスファー成形法に用いることに適した樹脂成形材料が得られる。
<成形品の製造方法>
トランスファー成形装置を用いて、上述の樹脂成形材料の溶融物を金型に注入し、その溶融物を硬化させることで、成形品(ボンド磁石)を製造することができる。
トランスファー成形については、公知のトランスファー成形装置を適宜用いるなどして行うことができる。具体的には、まず、予熱した樹脂成形材料を、トランスファー室とも言われる加熱室に入れて溶融し、溶融物を得る。その後、その溶融物をプランジャーで金型に注入し、そのまま保持して溶融物を硬化させる。これにより、所望の成形物を得ることができる。
トランスファー成形は、成形品の寸法の制御性や、形状自由度の向上などの点で、他の成形法に比べて好ましい。
トランスファー成形における各種条件は、任意に設定することができる。例えば、予熱の温度は60〜100℃、溶融の際の加熱温度は150〜250℃、金型温度は150〜200℃、金型に樹脂成形材料の溶融物を注入する際の圧力は1〜20MPaの間で適宜調整することができる。
金型温度を高くしすぎないことで、硬磁性粒子の熱減磁を抑えることができる。
ボンド磁石を製造するにあたっては、製造の際に磁場をかけることで、最終的なボンド磁石の磁力をより高めることができる。例えば、トランスファー成形における溶融物の金型注入の際、金型中でまだ流動性を有している状態の溶融物に対して磁場をかけることで、硬磁性粒子を配向させることが好ましい。また、金型から取り出された硬化物を着磁装置にセットして着磁することが好ましい。
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。なお、本発明は実施例に限定されるものではない。
<樹脂成形材料の製造、および、取扱い性(常温粉砕性)>
まず、表1に記載の各成分を、記載の比率で準備し、均一に混合して混合物を得た。
次いで、得られた混合物を、120℃、10分の条件で混練した。混練終了後、得られた混練物を室温まで冷却して固形状とし、そして粉砕、打錠成形した。以上により、タブレット状の樹脂成形材料を得た。
念のため述べておくと、混合や混練の際、揮発性有機溶剤は用いなかった。
ただし、比較例1および2(一部成分が23℃で液状)においては、混練終了後の混練物を室温まで冷却しても固形状とならず、粉砕や打錠成形できる状態にならなかった。よって、以後の評価は行わなかった。
後掲の表2では、常温での粉砕と打錠成形によりタブレット状の樹脂成形材料を得ることができたものを常温粉砕「可」、そうでなかったものを「不可」と記載した。
表1に記載の原料成分は、具体的には以下である。
(硬磁性粒子)
SFN合金微粉:住友金属鉱山社製のサマリウム鉄窒素磁石、D50=2.4μm、破砕形状
MF15P:愛知製鋼社製のネオジム(NdFeB)系磁石、D50=120μm、破砕形状
(エポキシ樹脂)
jER1032H60:三菱ケミカル株式会社製のトリフェニルメタン構造を含むエポキシ樹脂、23℃で固形、前掲の一般式(a1)で表される構造単位含有
YL−6810:三菱ケミカル株式会社製のビスフェノールA型エポキシ樹脂、23℃で固形、前掲の一般式(EP)で表される構造含有
NC−3000:日本化薬社製のビフェニル構造を含むエポキシ樹脂、23℃で固形、前掲の一般式(BP1)で表される構造含有
jER152(比較用):三菱ケミカル株式会社製のフェノールノボラック型エポキシ樹脂、23℃で液状
(硬化剤)
PR−HF−3:住友ベークライト株式会社製のノボラック型フェノール樹脂、23℃で固形
MEH−7851SS:明和化成社製のビフェニル構造を含むフェノール樹脂、23℃で固形、前掲の一般式(BP1)においてグリシジル基を水素原子に置き換えた構造含有
MEH−8000H(比較用):明和化成株式会社製のフェノール樹脂、23℃で液状
(硬化触媒)
キュアゾール2PZ−PW:四国化成工業株式会社製のイミダゾール系硬化促進剤
(離型剤)
WE−4:クラリアントケミカルズ株式会社製のエステルワックス
(アルコキシシリル基を有する化合物)
KBM−4803:信越化学工業株式会社製、グリシドキシオクチルトリメトキシシラン
KBM−3103C:信越化学工業株式会社製、デシルトリメトキシシラン
<評価>
(成形性)
直径5mm×高さ5mmの円柱状の空隙を有する金型を準備した。この金型に、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS−15」)を用いて、タブレット状の樹脂成形材料の溶融物を注入した。注入の条件については、金型温度175℃、注入圧10MPa、硬化時間300秒とした。
冷却後、金型内の硬化物(成形品)を取り出し、その外観を観察した。そして以下基準により成形性を評価した。
○(良い):得られた成形物に未充填箇所は認めらなかった。
×(悪い):得られた成形物に未充填箇所が認められた。
(スパイラルフロー)
低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS−15」)を用いて、EMMI−1−66に準じたスパイラルフロー測定用の金型に、金型温度175℃、注入圧力6.9MPa、硬化時間120秒の条件で樹脂成形材料を注入し、スパイラルフローを測定した。この値が大きいほど、流動性が良好であり、複雑な形状の金型を用いることで複雑な形状の磁石を製造可能なことを表す。
(ゲルタイム)
175℃に設定されたホットプレート上に、粉体状の樹脂成形材料を置いた。材料が溶融した後、ヘラで練りながら、硬化するまでの時間(ヘラで練ることができなくなるまでの時間)を測定した。この時間がある程度長いことは、金型への溶融物の注入から完全硬化まである程度の時間的余裕があるということであり、複雑な形状の金型を用いることで複雑な形状の磁石を製造可能なことを表す。
(硬化物のガラス転移温度)
樹脂成形材料を、低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製「KTS−30」)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間300秒間の条件で注入成形し、15mm×4mm×4mmの成形品を得た。次いで、得られた成形品を175℃、4時間の条件で後硬化した。これにより試験片を得た。
得られた試験片に対して、熱機械分析装置(セイコーインスツル社製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃〜400℃、昇温速度5℃/分の条件での測定により、ガラス転移温度(℃)を求めた。すなわち、熱機械分析装置を用いた測定により、縦軸に伸び/圧縮量を、横軸に温度をプロットしたときの、低温側の直線部と高温側の直線部との交点の温度を、ガラス転移温度とした。
(溶融粘度)
島津製作所製のフローテスタ(定荷重細管押出式レオメータの一種)「CFT−500D」を用い、温度175℃、ダイ穴径0.5mm、ダイ長さ1.0mm、圧力40kgfの条件で、樹脂成形材料の溶融粘度を測定した。
(磁場中での成形と、磁気特性の確認)
磁場中で樹脂成形材料を175℃程度で溶融させて成形し、成形品(ボンド磁石)を製造した。
具体的には、磁場を掛けながらの樹脂成形材料の溶融および成形が可能な以下成形機を用いて、7mm角の立方体状の成形品(ボンド磁石)を得た。
・成形機
名称:磁場中成形油圧プレス
型名:TM−MPH10525−10A2TM型
メーカー:玉川製作所
磁場:25kOe
上記で得た成形品(ボンド磁石)について、以下の測定装置を用い、以下の測定条件で、残留磁束密度Brを測定した。Brが大きいほど、永久磁石の磁気パワーは大きいといえる。
・測定装置
名称:振動試料型磁力計(VSM)
型名:TM−VSM331483−HGC型
メーカー:玉川製作所
・測定条件
雰囲気:室温
測定磁界:3.3T/Gap14mm
そして、以下基準により評価した。
可:Brが0.5T以上0.7T未満
良:Brが0.7T以上0.8T以下
優:Brが0.8T超
樹脂成形材料の組成を表1に、評価結果をまとめて表2に示す。
表1において、硬磁性粒子以外の成分の量は、硬磁性粒子を含む組成全体を基準としたときの質量%で記載している。硬磁性粒子の量については、硬磁性粒子を含む組成全体を基準としたときの体積%(すなわち充填率)で記載している。
Figure 2020163833
Figure 2020163833
表2にまとめられているように、実施例1〜11の樹脂成形材料は、常温粉砕可能であった(つまり取扱い性は良好であった)。また、実施例1〜11の樹脂成形材料については、成形性、スパイラルフロー、ゲルタイムなどの性能も良好であった。つまり、実施例1〜11の樹脂成形材料は、複雑な形状の磁石を量産することに適していることが示された。
加えて、磁気特性の確認結果より、実施例1〜11の樹脂成形材料を成形したもの(ボンド磁石)は、永久磁石として機能することが確認された。特に、硬磁性粒子としてネオジム磁石を用いた場合、さらには、硬磁性粒子として比較的大きなメジアン径のネオジム磁石と比較的小さなメジアン径のサマリウム鉄窒素磁石を用いた場合、非常に良好な磁気特性(大きな残留磁束密度Br)が得られた。

Claims (14)

  1. トランスファー成形法により磁石を製造するために用いられる樹脂成形材料であって、
    エポキシ樹脂と、硬化剤と、硬磁性粒子と含み、
    前記エポキシ樹脂の70質量%以上は23℃で固形のエポキシ樹脂であり、前記硬化剤の70質量%以上は23℃で固形の硬化剤である、樹脂成形材料。
  2. 請求項1に記載の樹脂成形材料であって、
    揮発性有機溶剤の含有率は3質量%以下である樹脂成形材料。
  3. 請求項1または2に記載の樹脂成形材料であって、
    前記硬磁性粒子の含有率は25体積%以上である樹脂成形材料。
  4. 請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    前記硬磁性粒子の体積基準のメジアン径D50は1〜150μmである樹脂成形材料。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    前記硬磁性粒子は、メジアン径D50が1〜10μmである第一硬磁性粒子と、メジアン径D50が50〜150μmである第二硬磁性粒子とを含む樹脂成形材料。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    前記硬磁性粒子は、フェライト磁石、サマリウム鉄窒素磁石、サマリウムコバルト磁石およびネオジム磁石からなる群より選ばれる少なくともいずれかを含む樹脂成形材料。
  7. 請求項1〜6のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    前記硬磁性粒子は、ネオジム磁石およびサマリウム鉄窒素磁石を含む樹脂成形材料。
  8. 請求項1〜7のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    前記硬化剤は、フェノール系硬化剤を含む樹脂成形材料。
  9. 請求項1〜8のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    さらに離型剤を含む樹脂成形材料。
  10. 請求項1〜9のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    さらにアルコキシシリル基を有する化合物を含む樹脂成形材料。
  11. 請求項1〜10のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    23℃でタブレット状である樹脂成形材料。
  12. 請求項1〜11のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    定荷重細管押出式レオメータを用いて、温度175℃の条件で測定される溶融粘度が0.1〜500Pa・sである樹脂成形材料。
  13. 請求項1〜12のいずれか1項に記載の樹脂成形材料であって、
    当該樹脂成形材料を175℃で溶融して成形したものを、大気下で175℃、4時間後硬化させて得られる硬化物のガラス転移温度が150〜220℃である樹脂成形材料。
  14. トランスファー成形装置を用いて、請求項1〜13のいずれか1項に記載の樹脂成形材料の溶融物を金型に注入し、前記溶融物が硬化した成形品を得る、成形品の製造方法。
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