本発明の実施形態におけるコンバータの制御方法及び制御装置について説明する。
図1は、本実施形態のモータシステム100の概略構成図である。モータシステム100が電動車両に用いられる場合には、負荷の一例であるモータジェネレータ4が車両の駆動源となる。
モータシステム100では、バッテリ1、コンバータ2、インバータ3、及び、モータジェネレータ4が直列に接続されている。モータシステム100は、さらに、モータジェネレータ4と接続される出力軸5と、コントローラ6とを備える。
バッテリ1は、充放電可能な二次電池である。コンバータ2は、昇降圧が可能なコンバータであって、バッテリ1から供給される直流電圧を昇圧し、昇圧した電力をインバータ3へ供給可能に構成されている。インバータ3は、コンバータ2から供給される直流電力を交流電力へ変換し、変換した交流電力をモータジェネレータ4へ供給する。
モータジェネレータ4には、出力軸5が接続されている。モータジェネレータ4は、モータ又はジェネレータのいずれかで機能する。モータジェネレータ4が力行運転される場合には、コンバータ2からインバータ3及びモータジェネレータ4に対して電力が供給される。モータジェネレータ4が回生運転される場合には、モータジェネレータ4にて発生する回生電力はインバータ3及びコンバータ2を介してバッテリ1に充電される。
モータジェネレータ4には、ロータの回転角度や回転数などを検出するレゾルバ41が設けられている。なお、モータシステム100が電動車両に用いられる場合には、モータジェネレータ4の回転出力に伴って出力軸5に接続される駆動輪(不図示)が駆動される。
コントローラ6は、コンバータ2、及び、インバータ3を制御するとともに、レゾルバ41からモータジェネレータ4の回転角や回転数などを受け付ける。コントローラ6は、所定の処理をプログラムとして記憶しており、プログラムを実行することで、プログラムに対応する処理を実行可能に構成されている。
図2は、モータシステム100の回路図である。
バッテリ1から供給される直流電力は、コンバータ2において昇圧されてインバータ3へと供給される。コンバータ2のバッテリ1側の端子電圧であるバッテリ側電圧V1、及び、コンバータ2内を流れるリアクトル電流ILは、コンバータ2内に設けられる電圧センサ22、及び、電流センサ26により取得される。また、コンバータ2のインバータ3側の端子電圧であるインバータ側電圧V2は、コンバータ2の近傍に設けられる電圧センサ28により取得される。
コンバータ2からインバータ3へ出力される電力を、インバータ電流I0と称する。インバータ電流I0は、コンバータ2からインバータ3へ出力される場合には正であり、コンバータ2に対してインバータ3から入力される場合には負であるものとする。なお、コンバータ2の詳細の構成は、後に、図3を用いて説明する。
インバータ3は、三相インバータであり、複数のスイッチング素子により構成される。インバータ3は、コンバータ2から入力される直流電力を三相の交流電力に変換し、モータジェネレータ4に供給する。また、インバータ3は、モータジェネレータ4における交流の回生電力を、バッテリ1にて充電可能な直流電力に変換する。
レゾルバ41は、モータジェネレータ4の回転数Nを検出し、検出した回転数Nをコントローラ6に送信する。電流センサ42は、インバータ3とモータジェネレータ4との間に設けられ、インバータ3とモータジェネレータ4との間のUVW相の電流を検出し、駆動電流Ipをコントローラ6へと送信する。駆動電流Ipは、検出されたUVW相の電流を示す。なお、この図において、モータジェネレータ4と接続される出力軸5は省略されている。
コントローラ6は、上位装置にて算出されるモータジェネレータ4に対するトルク指令値T*、レゾルバ41により検出される回転数N、電流センサ42にて検出される駆動電流Ip、及び、電圧センサ28にて検出されるインバータ側電圧V2に応じて、スイッチングパターンを生成する。コントローラ6は、生成したスイッチングパターンをゲート信号として、インバータ3へ出力する。このゲート信号に応じてインバータ3が駆動することで、モータジェネレータ4は所望のトルクで回転する。
コントローラ6は、モータジェネレータ4における必要電力を求め、必要電力に応じて、インバータ3への印加電圧となるコンバータ2の目標インバータ側電圧V2 *を定める。コントローラ6は、目標インバータ側電圧V2 *に応じたデューティ比Dを生成し、生成したデューティ比Dをゲート信号として、コンバータ2へ出力する。デューティ比Dに応じてスイッチング素子24a、24bが制御されることで、所望のインバータ側電圧V2を得ることができる。
図3は、図2におけるコンバータ2の近傍の詳細な回路図である。
図3に示されるように、コンデンサ21は、バッテリ1からの電源供給線の正極と負極との間に設けられる。コンデンサ21により、バッテリ1からコンバータ2への供給電源に含まれるノイズが抑制される。コンデンサ21の近傍には、電圧センサ22が設けられている。電圧センサ22は、コンデンサ21の電圧を測定することで、バッテリ側電圧V1を検出すると、検出したバッテリ側電圧V1をコントローラ6に送信する。
リアクトル23(インダクタンス)は、一端がバッテリ1の正極と接続され、他端がスイッチング素子24aの一端及びスイッチング素子24bの一端と接続される。スイッチング素子24aの他端がインバータ3の出力側の正極となり、スイッチング素子24bの他端がインバータ3の出力側の負極となる。スイッチング素子24a、24bは、例えばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などで構成される。
スイッチング素子24a、24bのそれぞれと並列に、ダイオード25a、25bが接続される。ダイオード25aは、順方向がスイッチング素子24aの一端から他端へと向かう方向となるように設けられる。ダイオード25bは、順方向がスイッチング素子24aの他端から一端へと向かう方向となるように設けられる。
コンバータ2においては、スイッチング素子24a、24bが制御され、ターンオン状態とターンオフ状態と称される状態が繰り返されることで、昇圧が行われる。以下ではこのメカニズムの詳細について説明する。
まず、スイッチング素子24aがオフとされ、スイッチング素子24bがオンとされるターンオン状態について検討する。ターンオン状態では、バッテリ1の正極から出力される電流は、リアクトル23、及び、スイッチング素子24bを通り、バッテリ1の負極へと流れる(ルート(a))。そのため、リアクトル23には、バッテリ1からの電気エネルギーが蓄積される。
その後、スイッチング素子24aがオンとされ、スイッチング素子24bがオフとされるターンオフ状態となる。ターンオフ状態では、リアクトル23に蓄積された電力が放電され、インバータ電流I0がスイッチング素子24aを介してインバータ3へと供給される(ルート(b))。この放電により、インバータ3には、バッテリ1の供給電圧よりも高い電圧が印加される。
コンバータ2においては、ターンオン状態とターンオフ状態との繰り返し期間に対するターンオン状態の時間の割合であるデューティ比Dを変更することで、インバータ側電圧V2を制御できる。
リアクトル23と、スイッチング素子24a及びスイッチング素子24bとの間には、電流センサ26が設けられる。電流センサ26は、リアクトル23に流れるリアクトル電流ILを検出し、リアクトル電流ILをコントローラ6に送信する。
コンデンサ27は、コンバータ2のインバータ3側の正極と負極との端子間に設けられる。コンデンサ27によって、スイッチング素子24a、24bのスイッチングによる電圧リップルが抑制される。電圧センサ28は、コンデンサ27の近傍に設けられ、コンデンサ27の電圧を測定することでインバータ側電圧V2を取得し、インバータ側電圧V2をコントローラ6へ送信する。
図4は、コントローラ6のブロック図である。
この図には、コントローラ6において行われる種々の制御のうち、主にコンバータ2の制御に関する構成が示されている。コントローラ6は、電圧制御部61、電流制御部62、減算器63、除算器64、PWM生成部65、制御ゲイン演算部66を有する。本実施形態においては、インバータ3が定電圧制御され、かつ、モータジェネレータ4が力行運転する場合において、制御ゲイン演算部66によるゲイン調整がなされている。
コントローラ6においては、コントローラ6内の他の部分で算出された出力電圧指令値Vout_astrの入力に加えて、コンバータ2からバッテリ側電圧V1、インバータ側電圧V2、及び、リアクトル電流ILがフィードバック入力される。そして、コントローラ6は、これらの入力に応じたゲート信号を、コンバータ2に出力する。
電圧制御部61は、出力電圧指令値Vout_astr、及び、インバータ側電圧V2のフィードバック入力に基づいて、制御ゲイン演算部66にて算出されるゲインKに応じたPI制御を行う。これにより、電圧制御部61は、入力電流指令値IL_astrを算出する。
電流制御部62は、電圧制御部61からの入力電流指令値IL_astrの入力と、コンバータ2からのリアクトル電流ILのフィードバック入力に基づいて、所定のゲインK’が用いられたPI制御により、リアクトル電圧指令値VL_astrを算出する。
ここで、電圧制御部61、及び、電流制御部62の詳細な構成について、図5A、5Bを用いて説明する。
図5Aに示されるように、電圧制御部61においては、減算器611において出力電圧指令値Vout_astrからインバータ側電圧V2が減算され、PIコントローラ612において、減算器611における減算結果に対して、制御ゲイン演算部66において算出されたゲインKに基づくPI制御が行われて、入力電流指令値IL_astrが算出される。
図5Bに示されるように、電流制御部62においては、減算器621において入力電流指令値IL_astrからリアクトル電流ILが減算され、PIコントローラ622において、減算器621における減算結果に対して、所定のゲインK’に基づくPI制御を行うことで、リアクトル電圧指令値VL_astrを算出する。なお、リアクトル電圧指令値VL_astrは、リアクトル23に印加する電圧の指令値である。また、電流制御部62のPIコントローラ622におけるPI制御に用いられるゲインK’を、制御ゲイン演算部66にて算出されるゲインKと同じ値を用いてもよい。
再び図4を参照すれば、減算器63は、コンバータ2からフィードバック入力されるバッテリ側電圧V1から、電流制御部62から出力されるリアクトル電圧指令値VL_astrを減ずる。そして、除算器64において、減算器63による減算結果を、コンバータ2からフィードバック入力されるインバータ側電圧V2で除することで、デューティ比Dを算出して、デューティ指令値を求める。
PWM生成部65は、デューティ比Dに応じたパルス幅を有するゲート信号を、コンバータ2に出力する。ゲート信号の生成方法について、以下のように説明することができる。
コンバータ2のバッテリ側電圧V1とインバータ側電圧V2の関係は、スイッチング素子4aのデューティ比D及びリアクトル電圧VLを用いると、次式で表現できる。
式(1)において、リアクトル電圧VLをリアクトル電圧指令値VL_astrに置き換えると、デューティ比Dは次式で表現することができる。
PWM生成部65は、減算器63及び除算器64を経ることで、式(2)により算出したデューティ比Dを用いて、PWM生成部65においてゲート信号に変換し、コンバータ2へと出力する。コンバータ2は、入力されたゲート信号に基づいて、インバータ3のスイッチング素子を駆動することで、インバータ側電圧V2を出力する。
制御ゲイン演算部66は、バッテリ側電圧V1、インバータ側電圧V2、出力電力P、及び、デューティ比Dを用いて、後述の図6に示されるフローチャートに従って、電圧制御部61のPI制御に用いられるゲインKを算出する。
なお、本実施形態においては、ゲインKは、電圧制御部61におけるPI制御における比例積分ゲイン(比例ゲイン及び積分ゲイン)として用いる例について説明するがこれに限らない。例えば、ゲインKを、P制御における比例ゲインに、又は、PID制御における比例ゲイン、積分ゲイン及び微分ゲインに用いてもよい。
図6は、制御ゲイン演算部66におけるゲインKの算出制御のフローチャートである。なお、この図に示される算出制御において、モータジェネレータ4は力行運転しているものとする。
ステップS1において、制御ゲイン演算部66は、コンバータ2の回路のセンサによる検出値であるバッテリ側電圧V1及びインバータ側電圧V2と、算出されるデューティ比Dと、コンバータ2の出力電力Pとを取得する。なお、制御ゲイン演算部66は、インバータ電流I0とインバータ側電圧V2とにより、コンバータ2の回路の受け持つ出力電力Pを算出してもよいし、電力センサを用いた検出値を取得してもよい。
ステップS2において、制御ゲイン演算部66は、次式より負性抵抗特性1/R0を算出する。なお、負性抵抗特性1/R0については、後に図10を用いて説明する。
ステップS3において、制御ゲイン演算部66は、予め記憶しているテーブルを用いて、負性抵抗特性1/R0に基づいて第1ゲインK1を算出する。第1ゲインK1は、インバータ3を定電力制御する場合に生じる負性抵抗特性1/R0に起因する不安定化を抑制するように定められる。図7は、予め記憶している第1ゲインK1と負性抵抗特性1/R0との関係を示す図である。なお、この関係の詳細については、後述する。
ステップS4において、制御ゲイン演算部66は、予め記憶しており、ステップS4で用いられるものとは異なるテーブルを用いて、負性抵抗特性1/R0に基づいて第2ゲインK2を算出する。第2ゲインK2は、入力電圧に対する出力電圧の位相遅れに起因する不安定化を抑制するように定められる。図8は、予め記憶している第2ゲインK2と負性抵抗特性1/R0との関係を示す図であり、後に、詳細に説明する。なお、位相遅れは昇圧比D’に応じて変化するため、ステップS4において、図8のテーブルを用いずに、昇圧比D’に応じて第2ゲインK2を求めてもよい。
ステップS5において、制御ゲイン演算部66は、ステップS3において算出された第1ゲインK1と、ステップS4において算出された第2ゲインK2とを用いて、ゲインKを算出する。具体的には、第1ゲインK1と第2ゲインK2との間の値を、ゲインKとして求めてもよい。なお、第1ゲインK1と第2ゲインK2とを重み付けをつけた平均値を、ゲインKをとして求めてもよい。図9に示されるように、第1ゲインK1と第2ゲインK2とを1つのグラフにまとめれば、このグラフにおける第1ゲインK1と第2ゲインK2との間の領域が、ゲインKの取り得る値を示すことになる。
ここで、第1ゲインK1の算出方法に関連して、図7に示された負性抵抗特性1/R0と第1ゲインK1との関係について説明する。第1ゲインK1は、インバータ3を定電力制御する場合に生じる負性抵抗特性1/R0に起因する制御対象の不安定化を抑制することができる安定化ゲインである。
まず、モータジェネレータ4が力行運転時、すなわちコンバータ2が受け持つ出力電力Pが正の場合に、インバータ3の定電力制御に伴う負性抵抗特性1/R0が原因となって、コンバータ2のインバータ側電圧V2が振動する原理について説明する。
コンバータ2のインバータ側電圧V2と、コンバータ2によってインバータ3に流れ込む電流Iとの関係は、図10のように示すことができる。
図10は、コンバータ2におけるインバータ側電圧V2とインバータ電流I0との関係を示すグラフである。
モータジェネレータ4に供給される電力は、コンバータ2の出力電力P(出力電力P)と略等しい。この出力電力Pは、インバータ側電圧V2とインバータ電流I0との積で求められる。モータジェネレータ4は定電力制御されている場合には、出力電力Pが一定のため、インバータ側電圧V2とインバータ電流I0とは反比例の関係となる。
そのため、このグラフに示されるように、インバータ側電圧V2が大きくなるほどインバータ電流I0が小さくなる。この特性は負性抵抗特性1/R0と称され、一般的な印加電圧に応じて電流が大きくなる特性とは逆の特性を示す。
そして、ある動作点においてインバータ側電圧V2とインバータ電流I0との関係を線形近似すると、次式が求められる。なお、コンバータ2の出力電力Pが正の場合には、モータジェネレータ4のインピーダンスの抵抗成分R0は、正である。
ただし、Iofsは線形近似の直線のI0軸の切片とする。例えば、モータジェネレータ4のある動作点において、インバータ側電圧V2がV10であり、インバータ電流I0がI10である場合には、モータジェネレータ4の抵抗成分R0は、次式のように示される。
この抵抗成分R0などを用いて、コンバータ2におけるバッテリ側電圧V1からインバータ3側のインバータ側電圧V2までの伝達特性を示せば、次式となる。
ただし、L[H]はリアクトル23のインダクタンスとし、C[F]はコンデンサ27の容量とし、R[Ω]はターンオン状態のコンバータ2の抵抗成分とし、Dはデューティ比とする。
ここで、インバータ3側のインバータ側電圧V2が発散せずに安定するためには、式(6)前半の分母において支配的なパラメータである「s」の係数の「R/L−1/R0C」が正となる必要がある。そのため、抵抗成分R0は、次式の条件を満たすように設定される必要がある。
図11は、モータジェネレータ4が力行運転をする場合におけるコンバータ2の制御系のシステムを示すブロック図である。この図に示されるように、バッテリ側電圧V1に対して、減算器111におけるフィードバック制御、ブロック112による「1/(Ls+R)」のフィルタ処理、及び、ブロック113によるデューティ比Dに応じた処理が施される。また、Iofsについて、インバータ側電圧V2が「−1/R0」の特性のフィルタ114を経て減算器115にフィードバック入力されて、インバータ電流I0が算出される。
そして、減算器116において、ブロック113の出力から、減算器115の出力が減じられ、その減算結果に対して、「1/Cs」の特性を有するブロック117の処理を経て、インバータ側電圧V2が算出される。なお、インバータ側電圧V2は、減算器111へフィードバックされる際には、ブロック118によるデューティ比Dに応じた処理がなされる。
このシステムにおいて、インバータ側電圧V2からみたR0の影響を1/R0と示すことができる。そこで、一般的なコンバータ2において成立する次式(8)を用いて、式(7)を、コンバータ2のインバータ側電圧V2とコンバータ2が受け持つ出力電力Pとの関係に変換した上で、1/R0が左辺となるように整理すれば、式(9)が得られる。
式(9)を満たすことにより、コンバータ2の動作を安定化させることができる。そこで、式(9)を用いて、インバータ3の定電力制御に伴う負性抵抗特性1/R0の影響を検討すれば、コンバータ2が受け持つ出力電力Pが大きくなるほど、負性抵抗特性1/R0は大きくなり、また、インバータ側電圧V2が小さくなるほど、負性抵抗特性1/R0が大きくなる。そのため、負性抵抗特性1/R0が大きくなるほど、応答性が悪化するため、第1ゲインK1を大きくする必要がある。このようにして、図7に示されるような、負性抵抗特性1/R0が大きくなるほど、第1ゲインK1が大きくなる関係が求められる。
図7のグラフについて式(9)を用いて検討すれば、インバータ側電圧V2が一定の場合には、コンバータ2が受け持つ出力電力Pが大きくなると、負性抵抗特性1/R0は大きくなるので、第1ゲインK1を大きくする。また、コンバータ2が受け持つ出力電力Pが一定の場合には、インバータ側電圧V2が小さくなるほど、負性抵抗特性は1/R0は大きくなるので、第1ゲインK1は大きくなる。さらに、コンバータ2が受け持つ出力電力Pが小さく、かつ、コンバータ2のインバータ側電圧V2が大きい場合には、負性抵抗特性1/R0が小さくなるので、第1ゲインK1は小さくなる。すなわち、第1ゲインK1は、コンバータ2の出力電力P、及び、インバータ側電圧V2に応じて、定められることになる。
このようにして、図3のステップS3において、制御ゲイン演算部66は、図7のグラフを参照して、負性抵抗特性1/R0に応じて第1ゲインK1を定め、負性抵抗特性1/R0が小さいほど、第1ゲインK1を小さく設定する。
次に、第2ゲインK2の算出方法について説明する。
図8は、負性抵抗特性1/R0と第2ゲインK2との関係を示すグラフである。このグラフは、図6に示されたステップS4における第2ゲインK2の算出に用いられる。第2ゲインK2は、コンバータ2における位相遅れに起因する振動を抑制できるゲインである。
一般に、コンバータ2の固有角周波数ω0について、デューティ比Dと、インダクタンスLと、コンデンサCより、次式の関係が成立する。
式(10)によれば、固有角周波数ω0とデューティ比Dとが比例関係にある。そして、デューティ比Dと昇圧比D'とが逆数の関係であるため、固有角周波数ω0と昇圧比D'とは反比例の関係となる。また、コンバータ2においては、角周波数ωが大きくなるほどコンバータ2から出力されるインバータ側電圧V2の位相遅れが生じ、固有角周波数ω0を閾値として遅れがステップ状に大きくなる。
本実施形態においては、第2ゲインK2は、コンバータ2において生じる位相遅れによる制御系を安定させるように、制御対象であるコンバータ2の特性から決まるゲイン余有と位相余裕が所定値以下となるように求められる。例えば、ゲイン余裕12dB、位相余裕60°以下にならないように、第2ゲインK2が求められる。
図12は、コンバータ2の昇圧比D'に応じた、角周波数ωとコンバータ2における入力電圧に対する出力電力のゲイン及び位相遅れとの関係を示す図である。図12(A)には、角周波数ωと出力電圧の入力電圧に対するゲインとの関係が示され、図12(B)には、角周波数ωとコンバータ2により生じる出力電圧の入力電圧に対する位相遅れとの関係が示されている。なお、この図12(B)においては、y軸における下方向は位相が遅れることを示す。また、それぞれの図においては、昇圧比D'の大きさに応じたA〜Cの3種類の関係がそれぞれにおいて示されている。
図12(A)に示されるように、角周波数ωが固有角周波数ω0となる場合においてコンバータ2の出力電力が最大となる。そして、このような、ゲインが最大となる固有角周波数ω0は、昇圧比D’が小さくなるほど、大きい。すなわち、固有角周波数ω0は、昇圧比D’が大きい状態Aにおける固有角周波数ω0A、昇圧比D’が中程度の状態Bにおける固有角周波数ω0B、及び、昇圧比D’が小さい状態Cにおける固有角周波数ω0Cの順に、大きくなる。さらに、図12(B)を参照すれば、固有角周波数ω0を閾値として、コンバータ2における位相の遅れが大きくなる。また、全体としては、角周波数ωが大きくなると、位相の遅れが大きくなる。
そして、昇圧比D'が大きい状態Aにおいては、位相遅れがステップ状に大きくなる固有角周波数ω0Aが小さいので、位相遅れが生じやすい。位相遅れが生じた際に、第2ゲインK2を大きくしてしまうと制御系が振動するおそれがあるので、第2ゲインK2を大きくすることはできない。そこで、昇圧比D'が大きいほど、第2ゲインK2を小さくする必要がある。
ここで、第1ゲインK1の算出方法にあわせるために、昇圧比D'と第2ゲインK2との関係を、負性抵抗特性1/R0と第2ゲインK2との関係に変更する。負性抵抗特性1/R0は、昇圧比D'を用いて次式のように表すことができる。すなわち、昇圧比D'が大きいほど負性抵抗特性1/R0は小さくなる。
そのため、負性抵抗特性1/R0が小さくなるほど、昇圧比D'が大きくなるので、第2ゲインK2を小さく設定することになる。したがって、図8に示されるような、負性抵抗特性1/R0が小さくなるほど、第1ゲインK1が小さくなる関係が求められる。
このように、第1ゲインK1の算出と同様に、第2ゲインK2についても負性抵抗特性1/R0に応じて算出することで、図3のステップS5の処理において、第1ゲインK1と第2ゲインK2とを考慮したゲインKの算出が容易になる。そのため、ゲインKは、負性抵抗特性1/R0に応じて求められる負性抵抗特性に起因する不安定性を抑制するとともに、昇圧比D’の増加に応じて大きくなるコンバータ2から出力されるンバータ側電圧V2における位相遅れに起因する不安定性を抑制することができる。
ここで、図13、14を用いて、本実施形態と比較例とにおける、コンバータ2からのインバータ側電圧V2との比較を行う。図13には本実施形態が、図14には比較例が示されている。なお、両者の例において、インバータ3は定電力制御されているものとする。
図13においては、上部にインバータ側電圧V2のタイムチャートが、下部に出力電力Pのタイムチャートが示されている。
まず、出力電力Pが小さな小電力状態では、モータジェネレータ4が一定の低トルクで力行運転し、一定の回転数を維持するものとする。この小電力状態においては、インバータ側電圧V2は、一定である。
そして、インバータ3が定電力制御されている状態において、所定の時刻t1において出力電力Pが小電力から大電力へと大きく変化する。ゲインKは、負性抵抗特性が考慮された第1ゲインK1、及び、昇圧比D’が考慮された第2ゲインK2に基づいて設定されているので、制御系における応答性と安定性との両者が確保されて、インバータ側電圧V2は振動しない。
これに対して、比較例におけるフィードバック制御においては、バッテリ温度変化によるバッテリ内部抵抗の特性と、通過電流によるコイルのインダクタンス変化を考慮してコンバータ2のフィードバック制御ゲインが設定されるものとする。このような場合には、コンバータ2が受け持つ出力電力Pが小さい場合には、インバータ3の定電力制御に伴う負性抵抗特性1/R0に対し、十分な応答性を有しておりインバータ側電圧V2は安定している。しかしながら、時刻t1において出力電力Pが大きくなると、負性抵抗特性1/R0の影響が大きくなってしまい、インバータ側電圧V2が振動してしまう。
このように、本実施形態では、モータの力行運転時に、コンバータ2の制御に用いられるゲインKは、出力電力Pとインバータ側電圧V2により定まる負性抵抗特性1/R0に起因する不安定性を抑制する第1ゲインK1と、コンバータ2の昇圧比D’に応じて生じる位相遅れに起因する不安定性を抑制する第2ゲインK2とを考慮して定められる。このようなゲインKを用いたPI制御がなされることにより、コンバータ2の応答性と安定性とを両立させることができる。
本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
本実施形態のコンバータ2の制御方法によれば、定電圧制御されたインバータ3からの出力電力Pによってモータジェネレータ4が力行運転する場合において、コンバータ2からインバータ3への出力電力P、及び、出力電圧となるインバータ側電圧V2、並びに、コンバータ2の昇圧比D’に応じて、ゲインKを定める。そして、電圧制御部61におけるゲインKを用いたフィードバック制御により、コンバータ2に対するゲート信号を算出して、コンバータ2の出力を制御する。
インバータ3を定電力制御する場合には、負性抵抗特性1/R0が生じ、負性抵抗特性1/R0が大きくなるほど、応答性が悪化する。そのため、図7に示されるように、負性抵抗特性1/R0が大きくなるほど、第1ゲインK1を大きくする必要がある。さらに、第1ゲインK1の算出には、式(9)の条件が前提となっているため、第1ゲインK1は、コンバータ2からインバータ3への出力電力P、及び、インバータ側電圧V2に応じて定められることになる。
さらに、図12に示されるように、昇圧比D'が大きくなるほど、コンバータ2の固有角周波数ω0は小さくなり、位相遅れが生じやすくなるので、第2ゲインK2を大きくすることはできない。そのため、昇圧比D'に応じて第2ゲインK2を定めることができる。
最終的に、第1ゲインK1及び第2ゲインK2によりゲインKが定められる。そのため、第1ゲインK1の算出に用いられる出力電力P、及び、出力端子となるインバータ側電圧V2、及び、第2ゲインK2の算出に用いられる昇圧比D'に応じて、ゲインKは定められる。このような算出過程を経ることにより、ゲインKは、負性抵抗特性1/R0による応答性悪化と、昇圧比D'に応じたコンバータ2における位相遅れによる遅延とが考慮されるので、コンバータ2の出力をより安定的に制御できる。
本実施形態のコンバータ2の制御方法によれば、第1ゲインK1を負性抵抗特性1/R0に応じて算出したため、第2ゲインK2についても負性抵抗特性1/R0に応じて算出することにより、コンバータ2の制御において、負性抵抗特性1/R0に起因する不安定性を抑制するとともに、昇圧比D’の増加に応じて大きくなる位相遅れに起因する不安定性を抑制することができるようなゲインKを求めることができる。
ここで、式(11)によれば、負性抵抗特性1/R0は、出力電力P、バッテリ側電圧V1、及び、昇圧比D'に応じて定められる。そのため、式(11)を用いることにより、昇圧比D'と第2ゲインK2との関係を、図8に示されるような負性抵抗特性1/R0と第2ゲインK2との関係で示すことができる。
このように、第1ゲインK1と第2ゲインK2との両者を負性抵抗特性1/R0に応じて算出することにより、図9に示されるようなグラフを用いてゲインKを算出できる。このようにして定められるゲインKは、負性抵抗特性1/R0に応じて求められる負性抵抗特性に起因する不安定性を抑制するとともに、昇圧比D’に応じて大きくなる位相遅れに起因する不安定性を抑制することができる。
また、本実施形態のコンバータ2の制御方法によれば、出力電力Pが大きいほど、負性抵抗特性1/R0が大きくなるので、第1ゲインK1は大きい。また、コンバータ2から出力されるインバータ側電圧V2が小さいほど、負性抵抗特性1/R0が大きくなるので、第1ゲインK1は大きい。ここで、出力電力Pが大きいほど、また、インバータ側電圧V2が低いほど、式(9)が満たされずにコンバータ2は不安定になるおそれが大きいので、第1ゲインK1を大きくすることにより、コンバータ2の応答性及び安定性が向上させることができる。
また、本実施形態のコンバータ2の制御方法によれば、図12に示されるように、昇圧比D'が大きいほど、コンバータ2の位相遅れが生じやすくなるので、第2ゲインK2を大きくすることはできない。また、式(11)によれば、昇圧比D'が大きくなるほど、負性抵抗特性1/R0が小さくなる。そこで、図8に示されるように、負性抵抗特性1/R0が小さいほど、昇圧比D'が大きくなるので、第2ゲインK2を小さくする。このようにすることで、コンバータ2の応答性及び安定性が向上させることができる。
(変形例)
上記の実施形態においては、モータシステム100に、1つのモータジェネレータ4が設けられる例について説明したが、これに限らない。本変形例においては、モータシステム100に、2つの第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bが設けられる例について説明する。
図15は、変形例のモータシステム100の構成を示す図である。たとえば、モータシステム100は、ハイブリッド車両などに用いられる。本変形例のモータシステム100は、図1に示されるモータシステム100と同様に出力軸5の駆動に用いられる第1インバータ3A、及び、第1モータジェネレータ4Aを有する。
モータシステム100は、さらに、第2インバータ3B、及び、第2モータジェネレータ4Bを有する。第2インバータ3Bは、コンバータ2から供給される電圧を昇圧し、第2モータジェネレータ4Bへと供給する。第2モータジェネレータ4Bは、エンジン7のスタータとして機能する。なお、エンジン7と出力軸5との間にトルク伝達装置を備え、エンジン7の出力トルクが出力軸5へと伝達されてもよい。なお、第2モータジェネレータ4Bにはレゾルバ41Bが設けられている。エンジン7には、クランクシャフトの回転角度あるいは回転数を検出するレゾルバ71が設けられている。
コントローラ6は、コンバータ2、第1インバータ3A、第2インバータ3Bを制御可能に構成されるとともに、レゾルバ41Aから第1モータジェネレータ4Aの回転数、レゾルバ41Bから第2モータジェネレータ4Bの回転数、及び、レゾルバ71からエンジン7の回転数を受け付ける。
図16は、モータシステム100の回路図である。コントローラ6には、上位装置にて算出される第1モータジェネレータ4Aに対するトルク指令値Ta *及び第2モータジェネレータ4Bに対するトルク指令値Tb *、レゾルバ41A、41Bにより検出される回転数Na、Nb、電流センサ42A、42Bに基づいて検出される駆動電流Ipa、Ipb、及び、電圧センサ28にて検出されるインバータ側電圧V2などが入力される。コントローラ6は、これらの入力に基づいて、コンバータ2、第1インバータ3A、及び、第2インバータ3Bなどを制御する。
第1モータジェネレータ4Aに対する要求電力をPa、第2モータジェネレータ4Bに対する要求電力Pbとすると、コンバータ2の出力電力PはPaとPbとの和で示される。
例えば、第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bがそれぞれ力行運転をする場合には、Pa及びPbは、共に正となる(Pa>0、Pb>0)。第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bがそれぞれ回生運転をする場合には、Pa及びPbは、共に負となる(Pa<0、Pb<0)。
コントローラ6は、コンバータ2の出力電力Pに対して、図5に示される制限制御を行う。ステップS4においては、コントローラ6は、PaとPbとの和が制限電力Plimに示される基準を満たすように、第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bを制御する。
例えば、出力電力Pが負の場合には、第1モータジェネレータ4A、及び、第2モータジェネレータ4Bのいずれか一方を力行運転させることで、PaとPbとの和である出力電力Pが入力制限電力Pinを下回らないようにしてもよい。
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。また、上記実施形態は、適宜組み合わせ可能である。