JP2020159546A - トリポード型等速自在継手 - Google Patents

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Shota Kawata
将太 河田
弘昭 牧野
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弘昭 牧野
卓 板垣
Taku Itagaki
卓 板垣
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Minoru Ishijima
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Abstract

【課題】 製造コストの高騰を抑制しつつトリポード部材の脚軸の耐久性を向上させる。【解決手段】 脚軸7に、脚軸7の表面に形成され、表面側から芯部側にかけて徐々に炭素量が減少する高硬度部Aと、高硬度部Aよりも芯部側に形成され、高硬度部Aよりも低硬度の中硬度部Bと、中硬度部Bよりも芯部側に形成され、中硬度部よりも低硬度の低硬度部Dとを設ける。高硬度部Aおよび中硬度部Bの硬度を550HV以上にし、低硬度部の硬度を550HV未満にする。【選択図】図9

Description

本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達用に用いられるトリポード型等速自在継手に関する。
自動車の動力伝達系で使用されるドライブシャフトにおいては、中間軸のインボード側(車幅方向の中央側)に摺動式等速自在継手を結合し、アウトボード側(車幅方向の端部側)に固定式等速自在継手を結合する場合が多い。ここでいう摺動式等速自在継手は、二軸間の角度変位および軸方向相対移動の双方を許容するものであり、固定式等速自在継手は、二軸間での角度変位を許容するが、二軸間の軸方向相対移動は許容しないものである。
摺動式等速自在継手としてトリポード型等速自在継手が公知である。このトリポード型等速自在継手としては、シングルローラタイプとダブルローラタイプとが存在する。シングルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラを、トリポード部材の脚軸に複数の針状ころを介して回転可能に取り付けたものである。ダブルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラと、トリポード部材の脚軸に外嵌して前記ローラを回転自在に支持するインナリングとを備えるものである。ダブルローラタイプは、ローラを脚軸に対して首振り揺動させることが可能となるため、シングルローラタイプに比べ、誘起スラスト(継手内部での部品間の摩擦により誘起される軸力)とスライド抵抗の低減を達成できるという利点を有する。ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の一例が、例えば特許第3599618号公報に記載されている。
特許第3599618号公報
特許文献1に記載されたダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手では、トルク負荷側において、トリポード部材の脚軸の外周面とインナリングの内周面とが点に近い形で接触する。特に高負荷トルク時には、この接触部における面圧が高くなるため、脚軸外周面の耐久性に影響する。脚軸耐久性を向上することができれば、ローラの安定した動きを維持することが可能となり、振動特性の経時劣化を防止することができる。
脚軸耐久性向上のためには、脚軸の表面に形成した硬化層の深さを深くするのが有効となる。トリポード部材では、肌焼鋼に浸炭焼入れ焼戻しを適用して表面に硬化層を形成するのが一般的であるため、硬化層の深さを深くする手法として、浸炭時間を増すことが考えられる。しかしながら、浸炭時間は深さの増大分の二乗に比例して増加するため、深い硬化層を形成しようとすると膨大な浸炭時間が必要となり、製造コストが嵩む。
他の対策として、トリポード部材を、炭素含有量を増やした鋼材、例えばS50C〜S55C等の機械構造用炭素鋼(JIS G4051参照)で製作し、その表面に高周波焼入れにより硬化層を形成することも考えられる。しかしながら、この手法では、炭素量の増加により、鋼材が硬くなるため、トリポード部材を鍛造加工により成形する際の加工荷重が大きくなる。そのため、鍛造設備の大型化や鍛造金型寿命の低下を招く。
そこで、本発明は、製造コストの高騰を抑制しつつトリポード部材の脚軸の耐久性を向上させることを目的とする。

以上の知見に基づいてなされた本発明は、円周方向の三カ所に軸方向に延びるトラック溝を備え、各トラック溝が円周方向に対向して配置された一対のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三つの脚軸を備えたトリポード部材と、前記各脚軸に装着されるローラとを備え、前記ローラが前記ローラ案内面に沿って前記外側継手部材の軸方向に移動可能に構成され、前記トリポード部材の各脚軸の表面に熱処理による硬化層が形成されたトリポード型等速自在継手において、前記脚軸に、当該脚軸の表面に形成され、表面側から芯部側にかけて徐々に炭素量が減少する高硬度部と、前記高硬度部よりも芯部側に形成され、前記高硬度部よりも低硬度の中硬度部と、前記中硬度部よりも芯部側に形成され、前記中硬度部よりも低硬度の低硬度部とを設け、前記高硬度部および中硬度部の硬度が550HV以上であり、前記低硬度部の硬度が550HV未満であることを特徴とする。
脚軸の表面に上記の硬度分布を形成することにより、550HVを超える硬化層(高硬度部および中硬度部)の深さを深くし、その一方で、芯部となる低硬度部の硬度を低くすることができる。従って、トリポード型等速自在接手に対する過大トルクの負荷により、脚軸の表面が局所的に高面圧となった場合にも脚軸の耐久性を確保することができる。また、脚軸の芯部が高靭性となるため、トリポード部材の繰り返し疲労強度の低下も回避することができる。
このトリポード型等速自在接手としては、前記脚軸に外嵌され、前記ローラを回転自在に支持するインナリングを備え、前記ローラと前記インナリングとでローラユニットが形成され、前記ローラユニットが前記脚軸に対して首振り揺動可能である構成を採用することができる。
このトリポード型等速自在継手では、前記脚軸の外周面が、縦断面においてはストレートで横断面においては略楕円となる形状をなし、前記インナリングの内周面が凸曲面で形成され、前記脚軸の外周面が、継手の軸線と直交する方向で前記インナリングの内周面と接触し、かつ継手の軸線方向で前記インナリングの内周面との間に隙間を形成する。
前記低硬度部における炭素含有量は0.10%以上とするのが好ましい。なお、炭素含有量を表す「%」は、質量%を意味する(以下、同じ)。
本発明によれば、製造コストの高騰を抑制しつつトリポード部材の脚軸の耐久性を向上させることが可能となる。
ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を示す縦断面図である。 図1のK−K線で矢視した縦断面図である。 図1のL−L線で矢視した横断面図である。 図1のトリポード型等速自在継手が作動角をとった状態を表す縦断面図である。 トリポード部材に形成した硬化層を示す縦断面図である。 従来品の脚軸での硬度分布を示す図である。 改良品の脚軸での硬度分布を示す図である。 改良品の脚軸での硬度分布を示す図である。 本実施形態の脚軸との硬度分布を示す図である。 シングルローラタイプのトリポード型等速自在継手の横断面図である。 (a)図は図1のK−K線で矢視したトリポード部材の縦断面図であり、(b)図は(a)図中のM−M線で矢視した横断面図である。 図11(a)のM−M線で矢視した横断面図である。
本発明に係るトリポード型等速自在継手の第一の実施形態を図1〜図9に基づいて説明する。
図1〜図4に示す本実施形態のトリポード型等速自在継手1はダブルローラタイプである。なお、図1は、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を示す縦断面図であり、図2は図1のK−K線で矢視した部分横断面図である。図3は、図1のL−L線で矢視した横断面図であり、図4は、作動角をとった時のトリポード型等速自在継手を示す縦断面図である。
図1および図2に示すように、このトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、トルク伝達部材としてのローラユニット4とで主要部が構成されている。外側継手部材2は、一端が開口したカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる3本の直線状トラック溝5が周方向等間隔に形成される。各トラック溝5には、外側継手部材2の円周方向に対向して配置され、それぞれ外側継手部材2の軸方向に延びるローラ案内面6が形成されている。外側継手部材2の内部には、トリポード部材3とローラユニット4が収容されている。
トリポード部材3は、トラニオン胴部3aと、トラニオン胴部3aの円周方向の三等分位置から半径方向に突出する3本の脚軸7(トラニオンジャーナル)とを一体に有する。トリポード部材3は、トラニオン胴部3aの中心孔8に形成された雌スプライン23に、軸としてのシャフト9に形成された雄スプライン24(図1参照)を嵌合させることで、シャフト9とトルク伝達可能に結合される。シャフト9の先端に装着した止め輪10をトリポード部材3の端面と係合させることで、トリポード部材3がシャフト9に対して軸方向に固定される。
ローラユニット4は、ローラであるアウタリング11と、このアウタリング11の内側に配置されて脚軸7に外嵌された円環状のインナリング12と、アウタリング11とインナリング12との間に介在された多数の針状ころ13とで主要部が構成されており、外側継手部材2のトラック溝5に収容されている。インナリング12、針状ころ13、およびアウタリング11からなるローラユニット4は、ワッシャ14、15により分離しない構造となっている。
この実施形態において、アウタリング11の外周面は、脚軸7の軸線上に曲率中心を有する円弧を母線とする凸曲面である。アウタリング11の外周面は、ローラ案内面6とアンギュラコンタクトしている。
針状ころ13は、アウタリング11の円筒状内周面を外側軌道面とし、インナリング12の円筒状外周面を内側軌道面として、これらの外側軌道面と内側軌道面の間に転動自在に配置される。
トリポード部材3の各脚軸7の外周面は、脚軸7の軸線を含んだ縦断面においてストレート形状をなす。また、図3に示すように、脚軸7の外周面は、脚軸7の軸線に直交する横断面において略楕円形状をなす。脚軸7の外周面は、継手の軸線と直交する方向、すなわち長軸aの方向でインナリング12の内周面12aと接触する。継手の軸線方向、すなわち短軸bの方向では、脚軸7の外周面とインナリング12の内周面12aとの間に隙間mが形成されている。
インナリング12の内周面12aは凸曲面状、具体的にはインナリング12の軸線を含む縦断面において凸円弧状をなす。このことと、脚軸7の断面形状が上述のように略楕円形状であり、脚軸7とインナリング12の間に所定の隙間mを設けてあることから、インナリング12は、脚軸7に対して首振り揺動可能となる。上述のとおりインナリング12とアウタリング11が針状ころ13を介して相対回転自在にアセンブリとされているため、アウタリング11はインナリング12と一体となって脚軸7に対して首振り揺動可能である。つまり、脚軸7の軸線を含む平面内で、脚軸7の軸線に対してアウタリング11およびインナリング12の軸線は傾くことができる(図4参照)。
図4に示すように、トリポード型等速自在継手1が作動角をとって回転すると、外側継手部材2の軸線に対してトリポード部材3の軸線は傾斜するが、ローラユニット4が首振り揺動可能であるため、アウタリング11とローラ案内面6とが斜交した状態になることを回避することができる。これにより、アウタリング11がローラ案内面6に対して水平に転動するので、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図ることができ、継手の低振動化を実現することができる。
また、既に述べたように、脚軸7の横断面が略楕円状で、インナリング12の内周面12aの横断面が円弧状凸断面であることから、トルク負荷側での脚軸7の外周面とインナリング12の内周面12aとは点接触に近い狭い面積で接触する。よって、ローラユニット4を傾かせようとする力が小さくなり、アウタリング11の姿勢の安定性が向上する。
以上に述べたトリポード部材3は、鋼材料から、鍛造加工→機械加工(旋削)→熱処理→脚軸7の外周面の研削加工、という主要工程を経て製作される。脚軸7の外周面は、研削加工に代えて焼入れ鋼切削で仕上げることもできる。
図5は、トリポード部材3に対する熱処理によって形成された硬化層16を示す断面図である。図5に示すように、トリポード部材3の脚軸7の外周面および雌スプライン23を含む全表面に硬化層16が形成される。完成品としてのトリポード部材3は、脚軸7の外周面が研削(もしくは焼入れ鋼切削)で仕上げられるため、脚軸7の外周面の硬化層16の深さは、他の領域に比べて研削等による取り代分だけ浅い。なお、この取り代は、通常、0.1mm程度で小さいため、図5では硬化層16の厚さを全表面で均一に描いている。
既に述べたように、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手では、図3に示すように、トルク負荷側で脚軸7の外周面とインナリング12の内周面12aとが点に近い領域Mで接触するため、高トルク負荷時には当該接触部の面圧が高くなる問題がある。面圧が過大であると、脚軸7の耐久性の低下につながる。
この課題を解決するため、本発明者らは以下の検証を行った。
一般に、トリポード部材3においては、肌焼鋼の一種であるクロム・モリブデン鋼を素材として鍛造を行い、その後、熱処理として浸炭焼入れ焼戻しを行うことにより、表面に硬化層16が形成される。図6に、従来のトリポード部材3の素材(例えばJIS G4052のクロム・モリブデン鋼等であり、炭素量約0.23%未満の相当材)を使用し、これに浸炭焼入れ焼戻し(焼入れ温度860℃、焼戻し温度180℃)を行った時の脚軸7表面から芯部にかけての硬度分布を示す。なお、図6中の破線は推定値を示す(図7も同じ)。この場合、図6から明らかなように、表面の硬度は、550HVを超えているが、表面からごく浅い領域で硬度が550HVを下回る。よって、過大なトルクが負荷された場合、脚軸7の耐久性に影響する。従って、上記の課題を解決するためには、硬化層16を極力深く形成する必要がある。
硬化層16を深くするには、浸炭層の深さを増すのが最も簡単な手法となるが、既に述べたように、深い浸炭層を形成するには、膨大な浸炭時間が必要となり製造コストの高騰を招く。素材として炭素含有量が多い鋼材、例えばS50C〜S55C等の機械構造用炭素鋼を使用し、熱処理方法を、浸炭焼入れよりも深く焼入れが可能な高周波焼入れに変更することも考えられるが、この場合、炭素量が増す分だけ素材が固くなるため、トリポード部材3を鍛造する際の加工荷重が増大し、鍛造設備の大型化等を招く問題がある。
以上の考察を経て、本発明者らは、浸炭処理の条件や焼入れ焼戻しの条件を従来と同様としつつ、従来よりも高炭素量の肌焼鋼を使用することの有効性について検証した。図7に、素材としてクロム・モリブデン鋼で炭素量約0.34%相当材を使用して浸炭焼入れ焼戻しを行った時の硬度分布を示す。焼入れ温度は850℃、焼戻し温度は180℃である。なお、図7における横軸(表面からの深さ)は、図6と同じ縮尺で示してある(図8、図9も同様である)。
図7の結果から明らかなように、肌焼鋼の炭素量を増すことにより、狙いどおり硬化層16の深さを増すことができることが判明した。その一方で、浸炭焼入れ焼戻し後の芯部の硬度が550HV程度まで達しているため、脚軸7の靭性が低下し、トリポード部材3の繰り返し疲労強度が低下するおそれがある。このように肌焼鋼の炭素量を増すだけでは、疲労強度が低下するため、対策として不十分である。同じ素材を使用し、浸炭焼き入れ焼戻しに代えてズブ焼入れおよび焼戻し(焼入れ温度870℃、焼戻し温度160℃)を行うことも試みたが、図8に示すように、芯部の硬度が550HVを超えて同様の問題を生じることが明らかになった。
以上の検証結果から、課題解決のためには、材料の変更だけでは足りず、熱処理の手法を見直す必要があることが明らかとなった。
一般に鋼材の焼入れ後、焼戻しを行う際の焼戻し温度は、焼戻し後の硬度に影響を与える。例えば、焼戻し温度250℃程度までは、焼戻しを行わずに焼入れのままにした場合と同程度の硬さが維持され、焼戻し温度を高めるほど、焼戻し後の硬さが低下する。従って、焼戻し温度を高めて、例えば350℃〜450℃の温度で焼戻し(以下、「高温焼戻し」という)を行えば、脚軸7の芯部における硬度を低下させ得ると考えられる。
以上の考察に基づいて、クロム・モリブデン鋼の炭素量約0.34%相当材で製作したトリポード部材3について、浸炭焼入れ後に高温焼戻しを行ったところ(焼入れ温度860℃、焼戻し温度410℃)、表面硬度が545HVとなり、芯部硬度が425HVとなることが判明した。このままでは、表面硬度が不十分であり、さらに表面硬度を高める必要がある。
以上の知見を経て、本発明者は、不足する表面硬度を補うため、浸炭焼入れおよび焼戻し(高温焼戻し)後に、高周波焼入れを行う、との着想に至った。つまり、トリポード部材13の熱処理として、浸炭焼入れ後に高温焼戻しを行った上で、さらに高周波焼入れ焼戻しを行うこととした。高周波焼入れであれば、加熱時間は数秒程度であるため、サイクルタイムの増加も最小限に抑えることができる。なお、高周波焼入れ後は焼戻しが不可欠となるが、既に述べたように、250℃以下の焼戻し(以下、「低温焼戻し」という)を行えば、硬度の低下は殆ど生じない。従って、表層および芯部を問わず、高周波焼入れ後の硬度を維持することが可能となる。
図9は、以上に述べた手順で熱処理を行ったトリポード部材3の脚軸7の硬度分布を示すものである。なお、トリポード部材3の素材は前述の炭素量約0.34%相当材としている。また、浸炭焼入れ焼戻しにおける焼入れ温度は860℃、焼戻し温度は410℃に設定し、高周波焼入れ焼戻しの際の焼戻し温度は190℃に設定している。
この硬度分布からも明らかなように、本実施形態のトリポード部材3は、脚軸7の表面に形成された高硬度部A、高硬度部Aよりも芯部側に形成された中硬度部B、中硬度部Bよりも芯部側に形成された境界部C、境界部Cよりも芯部側に形成された低硬度部Dをそれぞれ有する。
高硬度部Aは、浸炭焼入れおよび高周波焼入れにより硬化された領域であり、各部A〜Dの中で最も炭素濃度が高い。また高硬度部Aでは、浸炭に起因して表面側から芯部側にかけて徐々に炭素濃度が低下している。そのため、高硬度部Aの硬度は、脚軸7の各部A〜Dの中で最も高く、かつ表面側から芯部側にかけて徐々に低下している。中硬度部Bは、浸炭による炭素の添加はないが高周波焼入れにより硬化された領域であり、その硬度は高硬度部Aよりも低く、略一定の値(600HV程度)になっている。高硬度部Aおよび中硬度部Bは、マルテンサイト化した焼入れ領域であり、そのため、高硬度部Aおよび中硬度部Bの双方でビッカース硬さ550HVを超える硬化層16が形成されている。なお、ここでいう「550HV」は、JIS G0557に規定の有効硬化層深さにおける限界深さと一致する。また、ビッカース硬さの試験力は何れも0.3kgである。
低硬度部Dは、焼入れされていない領域、すなわちマルテンサイト化していない領域である。低硬度部Dの硬度(芯部硬度)は中硬度部Bの硬度よりも低く、550HVを下回る略一定の硬度(300HV程度)になっている。境界部Cは、中硬度部Bと低硬度部Dの間に位置し、硬化層16と非硬化領域との間の遷移層を形成する。境界部Cでは表面側から芯部側にかけて硬度が徐々に低下している。境界部Cの表面側は550HVを超える硬度、芯側は550HVを下回る硬度をそれぞれ有する。
このように、浸炭焼入れ後に高温焼戻しを行い、次いで高周波焼入れ焼戻し(低温焼戻し)を行うことにより、図9に示す硬度分布が得られる。この硬度分布では、550HVを超える硬化層16の深さが従来品(図6参照)に比べて4倍〜5倍程度の深さにまで達し、その一方で、550HVを下回る低硬度部Dの硬度は従来品と同程度、もしくは従来品よりも低い。従って、トリポード型等速自在接手に対する過大トルクの負荷により、接触領域M(図3参照)が高面圧となった場合にも脚軸7の耐久性を確保することができる。また、脚軸7の芯部が高靭性となるため、トリポード部材3の繰り返し疲労強度の低下も回避することができる。
なお、以上の説明では、トリポード部材3の素材として炭素量約0.34%相当材を使用する場合を例示したが、使用できる素材の種類は限定されない。例えばクロム・モリブデン鋼であれば、SCM435の他に、SCM440等を使用することができる。また、焼入れ性が保証された、いわゆるH鋼(例えばSCM435H、SCM440H等:JISG4052に規定)を使用することもできる。肌焼鋼であれば、他の種類の鋼材も使用可能であり、例えばJIS G4053に規定のクロム鋼(例えばSCr435、SCr440等)を素材として使用することもできる。クロム鋼についても、例えばSCr435H、SCr440H等のH鋼を使用することが可能である。クロム・モリブデン鋼やクロム鋼等の肌焼鋼に限らず、S10C〜S35C等の機械構造用炭素鋼(JIS G4051に規定)を素材として使用することもできる。
冷間鍛造時の成形性を考慮すれば、炭素量0.44%以下の鋼材を使用するのが好ましいが、例えば熱間鍛造する場合等のように鍛造時の成形性が問題とならない場合は、より多くの炭素を含む鋼材を使用することもできる。炭素量1%以下の肌焼鋼であれば、熱間鍛造時にも特に不具合は生じない。
炭素量の下限値として0.1%以上の炭素を含む鋼材を使用するのが好ましいが、高硬度部Aおよび中硬度部Bの硬度を極力高める観点からは、炭素量が0.24%以上、さらに好ましくは0.32%以上の鋼材をトリポード部材3の素材として使用するのが好ましい。通常は、低硬度部Dの炭素量は素材に含まれる炭素量と一致する。
次に本発明の第二の実施形態を説明する。
既に述べたように、炭素量約0.34%相当材を使用して浸炭焼入れ焼戻し(高温焼戻し)を行う一方で、高周波焼入れ焼戻しを省略した場合、脚軸7の表面硬度は545HVであり、芯部硬度は425HV程度となる。この結果と、図9の硬度分布との対比から、脚軸7の芯部硬度は、高周波焼入れ有りの方が高周波焼入れ無しの場合よりも低下していることが理解できる。これは、高周波焼入れ時の加熱によって脚部7の芯部が400℃程度まで昇温し、その後の焼戻しの際に空冷(徐冷)されることにより、高温焼戻しと同様の硬度低減効果(焼鈍り)が得られたことによる、と推測される。
この点に着目すれば、浸炭焼入れ後の高温焼戻しは必ずしも必須ではなく、省略することも可能である。例えば、浸炭焼入れ後に焼戻しを行うことなく高周波焼入れを行い、その後、低温焼戻しを行うことにより、図9に示す硬度分布と同様の硬度分布を得ることが可能である。そのため、高面圧に対する脚軸7の耐久性と、脚軸7の靭性とを両立することができる。以上に説明した事項を除き、トリポード型自在接手の各部の構成および機能は第一の実施形態と共通する。
次に本発明の第三の実施形態を説明する。
以上に述べた第一の実施形態および第二の実施形態では、浸炭焼入れ後に高周波焼入れを行っているが、浸炭による炭素浸入のみを行い(浸炭直後の焼入れを省略)、その後、高周波焼入れを行うことで硬化層16を形成することもできる。具体的には、浸炭工程によりトリポード部材3の表面に炭素を浸入させた後、空冷等の冷却を経て、高周波焼入れおよび焼戻し(低温焼戻し)を行う。これにより、図9に示す硬度分布と同様の硬度分布を得ることができ、高面圧に対する脚軸7の耐久性と、脚軸7の靭性とを両立することが可能となる。この場合、浸炭直後の焼入れや焼戻しが省略されるので、低コスト化を図ることができる。
浸炭(炭素浸入)を行う際の雰囲気温度は500℃以上とする。浸炭後は表面および芯部の双方の組織がフェライト+パーライトとなる。その後、高周波焼入れ焼戻しを行うことで、表面にマルテンサイトが形成され、芯部では、マルテンサイトが形成されず、フェライト+パーライトの組織が維持される。
この第三の実施形態において、高周波焼入れにより形成される硬化層16は、図11(a)に示すように、少なくとも脚軸7の外周面および脚軸7の付け根に形成すれば足りる。脚軸7の付け根はトリポード型等速自在接手にトルクが伝達された際に引張応力が集中する領域であるため、脚軸7の付け根に硬化層17を設けることにより、トリポード部材3の捩り強度を確保することができる。
脚軸7の外周面の硬化層16は、その耐久性を向上させるために設けられれる。脚軸7の外周面の硬化層16は、図11(b)に示すように、その全周に渡って形成する他、図12に示すように、インナリング12の内周面12aとの接触部に限って形成してもよい。
また、トリポード部材3の内周面は一般にシャフト9(図1参照)とスプライン等(セレーションも含む)と嵌合する領域であるため、図11(a)に示すように、トリポード部材3の内周面(スプライン等の歯面)にも焼入れによる硬化層16を形成するのが好ましい。なお、図11(a)(b)および図12に示す硬化層16の分布は、既に述べた第一の実施形態および第二の実施形態においても採用することができる。
この第三の実施形態のトリポード部材3の製造工程の一例を挙げれば、a)バー材切断工程→b)球状化焼き鈍し工程→c)ボンデ処理工程→d)冷間鍛造工程→e)旋削加工工程→f)ブローチ加工工程→g)炭素浸入工程→h)高周波熱処理(焼入れ、焼戻し)工程→i)研削加工工程、となる。a)〜f)の工程については、第一の実施形態および第二の実施形態でも適用することができる。炭素量の低い材料を使用する等の事情により、冷間鍛造時の打鍛性に問題がなければ、球状化焼き鈍し工程を省略することができる。また、炭素量の低い材料を使用する場合、焼割れ感受性が低くなるため、高周波焼入れ後の焼戻し工程を廃止できる可能性がある。
以上に述べた本発明の各実施形態は、他の構成を有するダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手にも適用することができる。
例えば、脚軸7の外周面を凸曲面(例えば断面凸円弧状)に形成し、インナリング12の内周面12aを円筒面状に形成することもできる。また、脚軸7の外周面を凸曲面(例えば断面凸円弧状)に形成し、インナリング12の内周面12aを脚軸外周面と嵌合する凹球面に形成することもできる。この際、アウタリングの内径両端部に鍔を設けることにより、ワッシャ14,15を不要とすることもできる。
以上の実施形態の説明では、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在接手を例示したが、図9に示す硬度分布は、シングルローラタイプのトリポード型等速自在接手においても同様に適用することができる。
図10は、シングルローラタイプのトリポード型等速自在継手100の横断面図である。
図10に示すように、このトリポード型等速自在継手100は、外側継手部材102、内側継手部材としてのトリポード部材103、トルク伝達部材としてのローラ111、および転動体としての針状ころ113を主な構成とする。外側継手部材102は、その内周に円周方向の三等分位置に軸方向に延びる3本のトラック溝105を有する中空カップ状である。各トラック溝105の円周方向で対向する側壁にローラ案内面106が形成されている。ローラ案内面106は、円筒面の一部、すなわち部分円筒面で形成されている。
トリポード部材103は、トラニオン胴部から円周方向の三等分位置で半径方向に突出した3本の脚軸107を有する。トリポード部材103は、シャフトとトルク伝達可能にスプライン嵌合している。脚軸107の円筒状外周面の周りに複数の針状ころ113を介して回転自在にローラ111が装着されている。脚軸7の外周面は針状ころ113の内側軌道面を形成する。ローラ111の内径面は円筒形状で、針状ころ113の外側軌道面を形成する。
トラニオンジャーナル9の軸端付近には、アウタワッシャ113を介して止め輪112が装着されている。針状ころ113は、インナワッシャ114とアウタワッシャ113により、脚軸107の軸線方向への移動が規制されている。
トリポード部材103の脚軸7に回転自在に装着されたローラ111は、外側継手部材102のトラック溝105のローラ案内面106に回転自在に案内される。このような構造により、外側継手部材102とトリポード部材103との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収され、回転が等速で伝達される。
以上に述べたシングルローラタイプのトリポード型等速自在継手100においても、針状ころ113と脚軸107の外周面が線接触するため、過大なトルク負荷時に両者の接触部が高面圧となり、ダブルローラタイプと同様の課題を生じる可能性がある。従って、この場合も、既に述べたように、脚軸107に、脚軸107の表面に設けられ、表面側から芯部側にかけて徐々に炭素量が減少する高硬度部Aと、高硬度部Aよりも芯部側に形成され、高硬度部Aよりも低硬度の中硬度部Bと、中硬度部Bよりも芯部側に形成され、中硬度部Bよりも低硬度の低硬度部Dとを設け、高硬度部Aおよび中硬度部Bの硬度を550HV以上とし、低硬度部Dの硬度を550HV未満とすることにより、同様の効果を得ることができる。
以上に述べたトリポード型等速自在継手1,100は、自動車のドライブシャフトに限って適用されるものではなく、自動車や産業機器等の動力伝達経路に広く用いることができる。
1,100 トリポード型等速自在継手
2,102 外側継手部材
3,103 トリポード部材
4 ローラユニット
5,105 トラック溝
6,106 ローラ案内面
7,107 脚軸
9 軸(シャフト)
11 ローラ(アウタリング)
12 インナリング
13,113 針状ころ
16 硬化層
111 ローラ
A 高硬度部
B 中硬度部
C 境界部
D 低硬度部

Claims (4)

  1. 円周方向の三カ所に軸方向に延びるトラック溝を備え、各トラック溝が円周方向に対向して配置された一対のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三つの脚軸を備えたトリポード部材と、前記各脚軸に装着されるローラとを備え、前記ローラが前記ローラ案内面に沿って前記外側継手部材の軸方向に移動可能に構成されたトリポード型等速自在継手において、
    前記脚軸に、当該脚軸の表面に形成され、表面側から芯部側にかけて徐々に炭素量が減少する高硬度部と、前記高硬度部よりも芯部側に形成され、前記高硬度部よりも低硬度の中硬度部と、前記中硬度部よりも芯部側に形成され、前記中硬度部よりも低硬度の低硬度部とを設け、
    前記高硬度部および中硬度部の硬度を550HV以上とし、前記低硬度部の硬度を550HV未満としたことを特徴とするトリポード型等速自在継手。
  2. 前記脚軸に外嵌され、前記ローラを回転自在に支持するインナリングを備え、前記ローラと前記インナリングとでローラユニットが形成され、前記ローラユニットが前記脚軸に対して首振り揺動可能である請求項1に記載のトリポード型等速自在接手。
  3. 前記脚軸の外周面が、縦断面においてはストレートで横断面においては略楕円となる形状をなし、前記インナリングの内周面が凸曲面で形成され、前記脚軸の外周面が、継手の軸線と直交する方向で前記インナリングの内周面と接触し、かつ継手の軸線方向で前記インナリングの内周面との間に隙間を形成する請求項2に記載のトリポード型等速自在継手。
  4. 前記低硬度部における炭素含有量が0.1%以上である請求項1〜3何れか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
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