JP7088865B2 - トリポード型等速自在継手 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車や各種産業機械の動力伝達用に用いられるトリポード型等速自在継手に関する。
自動車の動力伝達系で使用されるドライブシャフトにおいては、中間軸のインボード側(車幅方向の中央側)に摺動式等速自在継手を結合し、アウトボード側(車幅方向の端部側)に固定式等速自在継手を結合する場合が多い。ここでいう摺動式等速自在継手は、二軸間の角度変位および軸方向相対移動の双方を許容するものであり、固定式等速自在継手は、二軸間での角度変位を許容するが、二軸間の軸方向相対移動は許容しないものである。
摺動式等速自在継手としてトリポード型等速自在継手が公知である。このトリポード型等速自在継手としては、シングルローラタイプとダブルローラタイプとが存在する。シングルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラを、トリポード部材の脚軸に複数の針状ころを介して回転可能に取り付けたものである。ダブルローラタイプは、外側継手部材のトラック溝に挿入されるローラと、トリポード部材の脚軸に外嵌して前記ローラを回転自在に支持するインナリングとを備えるものである。ダブルローラタイプは、ローラを脚軸に対して首振り揺動させることが可能となるため、シングルローラタイプに比べ、誘起スラスト(継手内部での部品間の摩擦により誘起される軸力)とスライド抵抗の低減を達成できるという利点を有する。ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手の一例が、例えば特許第3599618号公報(特許文献1)に記載されている。
特許文献1に記載されたダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手では、トルク負荷側において、トリポード部材の脚軸の外周面とインナリングの内周面とが点に近い形で接触する。特に高負荷トルク時には、この接触部における面圧が高くなるため、脚軸外周面の耐久性に影響する。脚軸の耐久性を向上させることができれば、ローラの安定した動きを維持することが可能となり、振動特性の経時劣化をより防止することができる。
脚軸耐久性向上のためには、脚軸の表面に形成した硬化層の深さを深くするのが有効となる。トリポード部材では、肌焼鋼に浸炭焼入れ焼戻しを適用して表面に硬化層を形成するのが一般的であるため、硬化層の深さを深くする手法として、浸炭時間を増すことが考えられる。しかしながら、浸炭時間は深さの増大分の二乗に比例して増加するため、深い硬化層を形成しようとすると膨大な浸炭時間が必要となり、製造コストが嵩む。
他の対策として、浸炭焼入れ焼戻しで使用する肌焼鋼より炭素濃度の高い鋼材を使用し、高周波焼入れにより脚軸表面に硬化層を形成することも考えられる。これは、高周波焼入れであれば、浸炭焼入れよりも深い硬化層を設けることができるためである。
脚軸表面に高周波焼入れにより、硬化層を形成した例が、特開2008-64158号(特許文献2)に記載されている。
特許第3599618号公報 特開2008-64158号公報
トリポード部材の硬化層を形成すべき領域として、脚軸の外周面、脚軸付け根部、およびトリポード部材の内周面に形成される雌セレーションを挙げることができる。特許文献2では、脚軸の外周面、脚軸の付け根部、および雌セレーションのそれぞれに高周波焼入れによる硬化層を形成することが開示されている。
しかしながら、特許文献2のように脚軸外周面(付け根部も含む)と雌セレーションのそれぞれに高周波焼入れを行う場合、トリポード部材の内周と外周のそれぞれに高周波焼入れ用コイルを配置し、それぞれ別工程で高周波焼入れを行う必要がある。そのため、設備の複雑化や焼入れ工数の増加を招く。また、2回目の高周波焼入れで素材を加熱した際の熱影響が1回目の高周波焼入れで形成された硬化層にも及ぶため、当該硬化層が焼き鈍しされた状態となり、当該硬化層の硬度低下を招くおそれもある。
そこで、本発明は、製造コストの高騰を抑制しつつトリポード部材の耐久性を向上させることを目的とする。
以上の知見に基づいてなされた本発明は、円周方向の三カ所に軸方向に延びるトラック溝を備え、各トラック溝が円周方向に対向して配置された一対のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した三つの脚軸と軸方向の端部に形成された薄肉部と内周面に形成された雌スプラインとを有するトリポード部材と、前記各脚軸に装着されるローラとを備え、前記ローラが前記ローラ案内面に沿って前記外側継手部材の軸方向に移動可能に構成されたトリポード型等速自在継手において、前記トリポード部材のうち、少なくとも脚軸の外周面、付け根部、および薄肉部の外周面に高周波焼入れによる硬化層が形成され、前記薄肉部の外周面に形成された硬化層が、前記雌スプラインの端部の歯先を包含して形成されていることを特徴とする。
このように脚軸の外周面に高周波焼入れによる硬化層を形成すれば、浸炭焼入れで硬化層を形成する場合よりも深い硬化層を形成することができる。これにより、過大トルクの負荷によりローラとの接触領域が高面圧となった場合にも、脚軸の耐久性を確保することが可能となる。また、脚軸の芯部は焼入れされておらず、靭性が確保されているため、トリポード部材の繰り返し疲労強度の低下も回避することができる。
また、薄肉部は、トリポード部材における最弱部となるが、薄肉部の外周面に形成した硬化層を雌スプラインの歯先まで包含して形成することにより、かかる最弱部を硬化させてその強度アップを図ることができる。この場合、トリポード部材の外径側を加熱するだけで、薄肉部の硬化層を含む全ての硬化層を形成することができ、トリポード部材の内径側からの加熱が不要となる。従って、トリポード部材の外径側にのみ高周波焼入れ用コイルを配置すれば足り、一度の高周波焼入れでトリポード部材の全ての硬化層を形成することが可能となる。そのため、高周波焼入れ用設備の複雑化や高周波焼入れ工数の増大によるトリポード部材の製造コストの高騰を抑制することができる。また、一度の高周波焼入れで全ての硬化層が形成されるため、二回に分けて高周波焼入れを行う場合において、二回目の高周波焼入れ時に問題となる、既設硬化層の焼き鈍しも回避することができる。
この場合、雌スプラインの軸方向中央領域は、高周波焼入れによる硬化層が存在しない領域となる。
トリポード部材の表面に浸炭層を形成することもできる。このように浸炭層を形成することにより、浸炭焼入れと高周波焼入れの併用を通じて硬化層をさらに硬化させることが可能なり、トリポード部材の耐久性をより一層高めることができる。
このトリポード型等速自在接手としては、前記脚軸に外嵌され、前記ローラを回転自在に支持するインナリングを備え、前記ローラと前記インナリングとでローラユニットが形成され、前記ローラユニットが前記脚軸に対して首振り揺動可能である構成を採用することができる。
このトリポード型等速自在継手では、前記脚軸の外周面が、縦断面においてはストレートで横断面においては略楕円となる形状をなし、前記インナリングの内周面が凸曲面で形成され、前記脚軸の外周面が、継手の軸線と直交する方向で前記インナリングの内周面と接触し、かつ継手の軸線方向で前記インナリングの内周面との間に隙間を形成する。
前記脚軸の芯部における炭素含有量は0.3%以上とするのが好ましい。なお、炭素含有量を表す「%」は、質量%を意味する(以下、同じ)。
本発明によれば、製造コストの高騰を抑制しつつトリポード部材の耐久性を向上させることが可能となる。
ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を示す断面図である。 図1のK-K線で矢視した断面図である。 図1のL-L線で矢視した断面図である。 図1のトリポード型等速自在継手が作動角をとった状態を表す断面図である。 図5(a)は図5(b)のM-M線で矢視した断面図であり、図5(b)は、図1のK-K線で矢視した断面図である。 図6(a)は図6(b)のN-N線で矢視した断面図であり、図6(b)は、図1のK-K線で矢視した断面図である。 図7(a)は図7(b)のO-O線で矢視した断面図であり、図7(b)は、図1のK-K線で矢視した断面図である。 第三の実施形態における脚軸の硬度分布を示す図である。 シングルローラタイプのトリポード型等速自在継手の断面図である。
本発明に係るトリポード型等速自在継手の第一の実施形態を図1~図9に基づいて説明する。
図1~図4に示す本実施形態のトリポード型等速自在継手1はダブルローラタイプである。なお、図1は、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手を示す縦断面図であり、図2は図1のK-K線で矢視した部分横断面図である。図3は、図1のL-L線で矢視した横断面図であり、図4は、作動角をとった時のトリポード型等速自在継手を示す縦断面図である。
図1および図2に示すように、このトリポード型等速自在継手1は、外側継手部材2と、内側継手部材としてのトリポード部材3と、トルク伝達部材としてのローラユニット4とで主要部が構成されている。外側継手部材2は、一端が開口したカップ状をなし、内周面に軸方向に延びる3本の直線状トラック溝5が周方向等間隔に形成される。各トラック溝5には、外側継手部材2の円周方向に対向して配置され、それぞれ外側継手部材2の軸方向に延びるローラ案内面6が形成されている。外側継手部材2の内部には、トリポード部材3とローラユニット4が収容されている。
トリポード部材3は、概略円筒状のトラニオン胴部3aと、トラニオン胴部3aの円周方向の三等分位置から半径方向に突出する3本の脚軸7(トラニオンジャーナル)とを一体に有する。トリポード部材3は、トラニオン胴部3aの中心孔8に形成された雌スプライン23に、軸としてのシャフト9に形成された雄スプライン24(図1参照)を嵌合させることで、シャフト9とトルク伝達可能に結合される。シャフト9の先端に装着した止め輪10をトリポード部材3の端面と係合させることで、トリポード部材3がシャフト9に対して軸方向に固定される。
ローラユニット4は、ローラであるアウタリング11と、このアウタリング11の内側に配置されて脚軸7に外嵌された円環状のインナリング12と、アウタリング11とインナリング12との間に介在された多数の針状ころ13とで主要部が構成されており、外側継手部材2のトラック溝5に収容されている。インナリング12、針状ころ13、およびアウタリング11からなるローラユニット4は、ワッシャ14、15により分離しない構造となっている。
この実施形態において、アウタリング11の外周面は、脚軸7の軸線上に曲率中心を有する円弧を母線とする凸曲面である。アウタリング11の外周面は、ローラ案内面6とアンギュラコンタクトしている。
針状ころ13は、アウタリング11の円筒状内周面を外側軌道面とし、インナリング12の円筒状外周面を内側軌道面として、これらの外側軌道面と内側軌道面の間に転動自在に配置される。
トリポード部材3の各脚軸7の外周面は、脚軸7の軸線を含んだ縦断面においてストレート形状をなす。また、図3に示すように、脚軸7の外周面は、脚軸7の軸線に直交する横断面において略楕円形状をなす。脚軸7の外周面は、継手の軸線と直交する方向、すなわち長軸aの方向でインナリング12の内周面12aと接触する。継手の軸線方向、すなわち短軸bの方向では、脚軸7の外周面とインナリング12の内周面12aとの間に隙間mが形成されている。
インナリング12の内周面12aは凸曲面状、具体的にはインナリング12の軸線を含む縦断面において凸円弧状をなす。このことと、脚軸7の断面形状が上述のように略楕円形状であり、脚軸7とインナリング12の間に所定の隙間mを設けてあることから、インナリング12は、脚軸7に対して首振り揺動可能となる。上述のとおりインナリング12とアウタリング11が針状ころ13を介して相対回転自在にアセンブリとされているため、アウタリング11はインナリング12と一体となって脚軸7に対して首振り揺動可能である。つまり、脚軸7の軸線を含む平面内で、脚軸7の軸線に対してアウタリング11およびインナリング12の軸線は傾くことができる(図4参照)。
図4に示すように、トリポード型等速自在継手1が作動角をとって回転すると、外側継手部材2の軸線に対してトリポード部材3の軸線は傾斜するが、ローラユニット4が首振り揺動可能であるため、アウタリング11とローラ案内面6とが斜交した状態になることを回避することができる。これにより、アウタリング11がローラ案内面6に対して水平に転動するので、誘起スラストやスライド抵抗の低減を図ることができ、継手の低振動化を実現することができる。
また、既に述べたように、脚軸7の横断面が略楕円状で、インナリング12の内周面12aの横断面が円弧状凸断面であることから、トルク負荷側での脚軸7の外周面とインナリング12の内周面12aとは点接触に近い狭い面積で接触する。よって、ローラユニット4を傾かせようとする力が小さくなり、アウタリング11の姿勢の安定性が向上する。
以上に述べたトリポード部材3は、鋼材料から、鍛造加工→機械加工(旋削)→熱処理→脚軸7の外周面の研削加工、という主要工程を経て製作される。脚軸7の外周面は、研削加工に代えて焼入れ鋼切削で仕上げることもできる。
既に述べたように、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手では、図3に示すように、トルク負荷側で脚軸7の外周面とインナリング12の内周面12aとが点に近い領域Mで接触するため、高トルク負荷時には当該接触部の面圧が高くなる問題がある。面圧が過大となると、脚軸7の耐久性の低下につながる。
図5(a)(b)は、以上の課題解決のため、熱処理によってトリポード部材3の表面に形成された硬化層16を示す断面図である。
この硬化層16は、熱処理として高周波焼入れ焼戻しを行うことによって形成される。十分な硬度の硬化層16を得るため、トリポード部材3の素材は、0.3%以上の炭素含有量を有する鋼材で形成するのが好ましい。鋼材の具体例として、例えばJIS G4051に定める機械構造用炭素鋼(S35C等)、JIS G4053に定めるクロム・モリブデン鋼(SCM435等)やクロム鋼(Scr435等)を用いることができる。トリポード部材の鍛造工程において冷間鍛造を採用する場合は、その成形性を考慮して炭素量が0.44%以下の鋼材を使用するのが好ましい。鍛造工程として熱間鍛造する場合には、鍛造時の成形性が問題となり難いため、0.44%を超える炭素量の鋼材を使用することもできる。炭素量1%以下の鋼材であれば、熱間鍛造時にも特に成形性の問題は生じない。
図5(a)(b)に示すように、本実施形態では、トリポード部材3の内周面を除く全表面に高周波焼入れによる硬化層16が形成される。具体的には、脚軸7の全面(外周面7aを含む)、脚軸7の付け根部7bの脚軸周りの全周、隣接する脚軸7間に位置するトラニオン胴部3aの外周面31、およびトラニオン胴部3aの軸方向両端に形成された薄肉部32の外周面、のそれぞれに高周波焼入れによる硬化層16が連続して形成される。この硬化層16は、トリポード部材3の外径側に高周波焼入れ用のコイルを配置し、このコイルでトリポード部材3を電磁誘導加熱した後、焼入れを行うことで形成される。脚軸7の芯部、トラニオン胴部3aの芯部、並びにトラニオン胴部3aの内周面の軸方向中央部は、高周波焼入れによる硬化層16が形成されない領域となる。硬化層16の形成後に、焼戻し(後述する低温焼戻し)が行われる。
薄肉部32は、脚軸7の軸方向両端に環状に形成された、トリポード部材3の中で最も薄肉の部分である。薄肉部32を含むトリポード部材3の内周面の軸方向全長にわたって雌スプライン23が形成されている。硬化層16は、薄肉部32の外周面の全周に形成される。また、この硬化層16は、雌スプライン23の軸方向両端の歯先にまで到達している。従って、薄肉部32の硬化層16は、雌スプライン23の軸方向両端の歯先を包含して形成されている。雌スプライン23の軸方向両端では、硬化層16が、雌スプライン23の全周にわたって形成されている。
このようにトリポード部材3の表面、特に脚軸7の外周面7aに高周波焼入れによる硬化層16を形成すれば、浸炭焼入れで硬化層を形成する場合よりも深い硬化層を形成することができる。これにより、過大トルクの負荷により接触領域M(図3参照)が高面圧となった場合にも、脚軸7の耐久性を確保することが可能となる。また、脚軸7およびトラニオン胴部3aの芯部は焼入れされておらず、これらの靭性が確保されているため、トリポード部材3の繰り返し疲労強度の低下も回避することができる。脚軸7の付け根部7bはトルクが負荷された際に引張応力が集中する領域であるが、脚軸7の付け根部7bにも硬化層16を形成することにより、応力集中によるトリポード部材3の耐久性の低下を回避することができる。
トリポード部材3の内周面の雌スプライン23は、シャフト9に設けた雄スプライン24との嵌合により、シャフト9との間でトルク伝達を行う部位となるため、雌スプライン23には、負荷されるトルクに応じた強度が必要とされる。そのため、従来のトリポード部材では、浸炭焼入れにより雌スプライン23の軸方向全長にわたって硬化層を形成している。また、浸炭焼入れに代えて高周波焼入れを行う場合も、外径側の硬化層と分離した形で、雌スプライン23の全長にわたって硬化層を形成している(特許文献2の図5参照)。
本発明者の検証によれば、トリポード型等速自在接手1のトルク伝達中は、雌スプライン23の軸方向両端部(特にシャフト9の根元側の端部)に殆どのトルクが作用し、雌スプライン23の軸方向中央部では、トルクは殆ど作用しないことが判明した。従って、雌スプライン23の軸方向中央部の硬化層を省略しても、雌スプライン23の強度上は特に問題はない。以上の知見に基づき、本実施形態では、上記のように、高周波焼入れによる硬化層16を雌スプライン23の軸方向両端部のみに形成し、軸方向中央部では高周波焼入れによる硬化層16を形成していない。
薄肉部32は、トリポード部材3の中で最も薄肉の部分であり、しかもトルク伝達時にトルクが作用する部分でもあるため、トリポード部材における最弱部となる。本実施形態のように、薄肉部32の外周面に形成した硬化層16を雌スプライン23の歯先まで到達させることにより、かかる最弱部を硬化させてその強度アップを図ることができる。この場合、トリポード部材3の外径側を加熱するだけで、薄肉部32の硬化層を含む全ての硬化層16を形成することができ、トリポード部材3の内径側からの加熱が不要となる。従って、トリポード部材の外径側にのみ高周波焼入れ用コイルを配置すれば足り、一度の高周波焼入れでトリポード部材3の全ての硬化層16を形成することが可能となる。そのため、高周波焼入れ用設備の複雑化や高周波焼入れ工数の増大によるトリポード部材3の製造コストの高騰を抑制することができる。また、一度の高周波焼入れで全ての硬化層16が形成されるため、二回に分けて高周波焼入れを行う場合において、二回目の高周波焼入れ時に問題となる、既設硬化層16の焼き鈍しも回避することができる。従って、高強度のトリポード部材7を低コストに得ることができる。
[第二の実施形態]
次に、図6(a)(b)に基づいて本発明の第二の実施形態を説明する。
第二の実施形態では、図5(a)(b)に示す第一の実施形態の硬化層16のうち、隣接する脚軸7間に位置するトラニオン胴部3aの外周面31の硬化層が省略されている。この他の硬化層16の形態は、第一の実施形態と共通しており、脚軸7の全面(外周面7aを含む)、脚軸7の付け根部7bの脚軸周りの全周、および軸方向両端の薄肉部32の外周面に連続した硬化層16が形成されている。また、薄肉部16の硬化層16は、雌スプライン23の軸方向両端部の歯先まで到達している。この硬化層16であっても、第一の実施形態と同様の効果を得ることができる。
[第三の実施形態]
以上の各実施形態では、高周波焼入れ焼戻しだけで硬化層16を形成する場合を例示したが、浸炭焼入れを行った後で、上記の高周波焼入れ焼戻しを行って硬化層16を形成することもできる。図7(a)(b)は、そのような手順で形成された硬化層16を示す。図中の散点模様が浸炭焼入れで硬化された領域を表し、ハッチングが高周波焼入れで硬化された領域を表している。図中の散点模様は浸炭層が形成された領域でもある。
浸炭焼入れ後、高周波焼入れ前には、焼戻しが行われるが、その際の焼戻し温度は高温(350℃~450℃程度)に設定するのが好ましい(この焼戻しを「高温焼戻し」という)。このように高温焼戻しを行うことにより、脚軸7の芯部の硬度を低下させて靭性を確保できるため、トリポード部材3の繰り返し疲労強度を高めることが可能となる。なお、高周波焼入れ後にも焼戻しが必要となるが、250℃以下の温度で焼戻し(この焼戻しを「低温焼戻し」という)を行えば、硬度の低下は殆ど生じない。従って、高周波焼入れ後に低温焼戻しを行うことにより、焼戻しに伴う硬化層の硬度低下を回避することができる。
浸炭焼入れ後の高温焼戻しは必須ではなく、当該高温焼戻しを省略して、浸炭焼入れ後に高周波焼入れ焼戻し(低温焼戻し)を行ってもよい。これは、高周波焼入れ時の入熱によってトリポード部材3の各部の芯部が400℃程度まで昇温し、その後の、焼戻しの際に空冷(徐冷)されることにより、高温焼戻しと同様の硬度低減効果(焼鈍し)が得られることによる。
以上に説明した第三の実施形態では、雌スプライン23の軸方向中央部に硬化層16が形成されるが、この硬化層は浸炭焼入れにより形成されたものであり、高周波焼入れで形成されたものではない。従って、雌スプライン23の軸方向中央部の硬化層では、表面から芯部側にかけて徐々に炭素濃度が低下する(因みに、高周波焼入れのみで形成された硬化層では炭素濃度が一定となる)。
図8は、第三の実施形態の手順で硬化層16を形成した時の脚軸7の外周面7aにおける硬度分布を模式的に示している。図8に示すように、熱処理後の脚軸7は、脚軸7の表面に形成された高硬度部A、高硬度部Aよりも芯部側に形成された中硬度部B、中硬度部Bよりも芯部側に形成された境界部C、境界部Cよりも芯部側に形成された低硬度部Dをそれぞれ有する。
高硬度部Aは、浸炭焼入れおよび高周波焼入れにより硬化された領域であり、各部A~Dの中で最も炭素濃度が高い。また高硬度部Aでは、浸炭に起因して表面側から芯部側にかけて徐々に炭素濃度が低下している。そのため、高硬度部Aの硬度は、各部A~Dの中で最も高く、かつ表面側から芯部側にかけて徐々に低下している。中硬度部Bは、浸炭による炭素の添加はないが高周波焼入れにより硬化された領域であり、その硬度は高硬度部Aよりも低く、略一定の値になっている。高硬度部Aおよび中硬度部Bは、マルテンサイト化した焼入れ領域であり、そのため、高硬度部Aおよび中硬度部Bの双方でビッカース硬さ550HVを超える硬化層16が形成されている。なお、ここでいう「550HV」は、JIS G0557に規定の有効硬化層深さにおける限界深さと一致する。ビッカース硬さの試験力は0.3kgである。
低硬度部Dは、焼入れされていない領域、すなわちマルテンサイト化していない領域である。低硬度部Dの硬度(芯部硬度)は中硬度部Bの硬度よりも低く、550HVを下回る硬度になっている。境界部Cは、中硬度部Bと低硬度部Dの間に位置し、硬化層16と非硬化領域との間の遷移層を形成する。
このような硬度分布が形成されることにより、550HVを超える硬化層16の深さが従来品に比べて深くなり、その一方で、550HVを下回る低硬度部Dの硬度は従来品と同程度、もしくは従来品よりも低くなる。従って、トリポード型等速自在接手に対する過大トルクの負荷により、接触領域M(図3参照)が高面圧となった場合にも脚軸7の耐久性を確保することができる。また、脚軸7やトラニオン胴部3aの芯部が高靭性となるため、トリポード部材3の繰り返し疲労強度の低下も回避することができる。
この実施形態においても、薄肉部32の高周波焼入れによる硬化層16を雌スプライン23の歯先まで到達するように形成することにより、複数回の高周波焼入れが不要となり、トリポード部材3の低コスト化を図ることができる。
本発明は、以上に述べた実施形態には限定されず、他の構成を有するダブルローラタイプのトリポード型等速自在継手にも適用することができる。
例えば、脚軸7の外周面を凸曲面(例えば断面凸円弧状)に形成し、インナリング12の内周面12aを円筒面状に形成することもできる。また、脚軸7の外周面を凸曲面(例えば断面凸円弧状)に形成し、インナリング12の内周面12aを脚軸外周面と嵌合する凹球面に形成することもできる。この際、アウタリングの内径両端部に鍔を設けることにより、ワッシャ14,15を不要とすることもできる。
以上の実施形態の説明では、ダブルローラタイプのトリポード型等速自在接手を例示したが、各実施形態の構成は、シングルローラタイプのトリポード型等速自在接手においても同様に適用することができる。
図9は、シングルローラタイプのトリポード型等速自在継手100の横断面図である。
図9に示すように、このトリポード型等速自在継手100は、外側継手部材102、内側継手部材としてのトリポード部材103、トルク伝達部材としてのローラ111、および転動体としての針状ころ113を主な構成とする。外側継手部材102は、その内周に円周方向の三等分位置に軸方向に延びる3本のトラック溝105を有する中空カップ状である。各トラック溝105の円周方向で対向する側壁にローラ案内面106が形成されている。ローラ案内面106は、円筒面の一部、すなわち部分円筒面で形成されている。
トリポード部材103は、トラニオン胴部から円周方向の三等分位置で半径方向に突出した3本の脚軸107を有する。トリポード部材103は、シャフトとトルク伝達可能にスプライン嵌合している。脚軸107の円筒状外周面の周りに複数の針状ころ113を介して回転自在にローラ111が装着されている。脚軸7の外周面は針状ころ113の内側軌道面を形成する。ローラ111の内径面は円筒形状で、針状ころ113の外側軌道面を形成する。
脚軸107の軸端付近には、アウタワッシャ115を介して止め輪112が装着されている。針状ころ113は、インナワッシャ114とアウタワッシャ115により、脚軸107の軸線方向への移動が規制されている。
トリポード部材103の脚軸7に回転自在に装着されたローラ111は、外側継手部材102のトラック溝105のローラ案内面106に回転自在に案内される。このような構造により、外側継手部材102とトリポード部材103との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収され、回転が等速で伝達される。
以上に述べたシングルローラタイプのトリポード型等速自在継手100においても、針状ころ113と脚軸107の外周面が線接触するため、過大なトルク負荷時に両者の接触部が高面圧となり、ダブルローラタイプと同様の課題を生じる可能性がある。従って、この場合も、第一の実施形態~第三の実施形態と同様の構成を適用することで、脚軸の耐久性を高めることができる。また、薄肉部32(図5(a)等参照)に形成した硬化層16を、雌スプライン23の軸方向両端部の歯先を包含して形成することにより、トリポード部材3の低コスト化を図ることができる。
以上に述べたトリポード型等速自在継手1,100は、自動車のドライブシャフトに限って適用されるものではなく、自動車や産業機器等の動力伝達経路に広く用いることができる。
1,100 トリポード型等速自在継手
2,102 外側継手部材
3,103 トリポード部材
3a トラニオン胴部
4 ローラユニット
5,105 トラック溝
6,106 ローラ案内面
7,107 脚軸
9 軸(シャフト)
11 ローラ(アウタリング)
12 インナリング
13,113 針状ころ
16 硬化層
23 雌スプライン
32 薄肉部
111 ローラ

Claims (6)

  1. 円周方向の三カ所に軸方向に延びるトラック溝を備え、各トラック溝が円周方向に対向して配置された一対のローラ案内面を有する外側継手部材と、
    半径方向に突出した三つの脚軸と、軸方向の端部に形成された薄肉部と、内周面に形成された雌スプラインとを有するトリポード部材と、
    前記各脚軸に装着されるローラとを備え、
    前記ローラが前記ローラ案内面に沿って前記外側継手部材の軸方向に移動可能に構成されたトリポード型等速自在継手において、
    前記トリポード部材のうち、少なくとも脚軸の外周面、付け根部、および薄肉部の外周面に高周波焼入れによる硬化層が形成され、前記薄肉部の外周面に形成された硬化層が、前記雌スプラインの端部の歯先を包含して形成されていることを特徴とするトリポード型等速自在継手。
  2. 前記雌スプラインの軸方向中央領域を、前記高周波焼入れによる硬化層が存在しない領域にした請求項1に記載のトリポード型等速自在接手。
  3. 前記トリポード部材の表面に浸炭層が形成されている請求項1または2に記載のトリポード型等速自在接手。
  4. 前記脚軸に外嵌され、前記ローラを回転自在に支持するインナリングを備え、前記ローラと前記インナリングとでローラユニットが形成され、前記ローラユニットが前記脚軸に対して首振り揺動可能である請求項1~3何れか1項に記載のトリポード型等速自在接手。
  5. 前記脚軸の外周面が、縦断面においてはストレートで横断面においては略楕円となる形状をなし、前記インナリングの内周面が凸曲面で形成され、前記脚軸の外周面が、継手の軸線と直交する方向で前記インナリングの内周面と接触し、かつ継手の軸線方向で前記インナリングの内周面との間に隙間を形成する請求項4に記載のトリポード型等速自在継手。
  6. 前記脚軸の芯部における炭素含有量が0.3%以上である請求項1~5の何れか1項に記載のトリポード型等速自在継手。
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