以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。まず始めに、本実施形態に係るリバースロールコーターの構成概要と、該リバースロールコーターの動作および制御パラメータについて説明する。
<リバースロールコーター>
図1は、リバースロールコーター10の概略構成を示す図である。図1の(a)は、3ロール式の場合のリバースロールコーター10の一例を示し、図1の(b)は、2ロール式の場合のリバースロールコーター10の一例を示す。なお、図1の(a)および(b)では、塗料16が注がれたコーティングパン11、リバースロールコーター10を用いて塗装される帯状体(被塗装体)20、および、帯状体20を搬送するための搬送装置15も、併せて記載している。
リバースロールコーター10は、塗料16を帯状体20に塗装する装置である。図1の(a)に示すように、3ロール式の場合、リバースロールコーター10には、ピックアップロール12、ミータリングロール13、およびアプリケーターロール14が含まれる。ピックアップロール12は、コーティングパン11内の塗料16を巻き上げる。塗料は、ピックアップロール12から、ミータリングロール13に移送され、ミータリングロール13およびアプリケーターロール14の間隙により絞られて、間隙出口で各ロールに分配される。アプリケーターロール14に分配された塗料は、アプリケーターロール14から、帯状体20に転写される。帯状体20は、搬送装置15により所定のライン速度で、アプリケーターロール14の回転方向と逆方向に搬送される。
一方、図1の(b)に示す2ロール式のリバースロールコーター10の場合、1つのミータリングロール17が、図1の(a)に示したピックアップロール12と、ミータリングロール13との双方の機能を兼ねている。すなわち、図1の(b)におけるミータリングロール17は、コーティングパン11内の塗料16を巻き上げる機能と、アプリケーターロール14との間隙で、アプリケーターロール14に分配する塗料16の量を調整する機能とを有する。
リバースロールコーター10における種々の操業因子およびプロセス因子は、帯状体20に塗装される塗料の膜厚が、予め設定された目標値になるように調整される。これらの因子として、例えば、ロールの構成、ロールの周速度、ロールの回転方向、帯状体とロールの間の押しつけ圧力、ロール間の押し付け圧力、ライン速度、および塗料物性(粘度、表面張力、固形含有物有無など)等が挙げられる。
リバースロールコーター10において、アプリケーターロール14の周速度Va、および、ミータリングロール13(2ロール式のリバースロールコーターでは、ピックアップロール12)の周速度Vmは、ユーザが適宜設定してよい。また、ニップ荷重の荷重値Wもユーザが適宜設定してよい。なお、ニップ荷重とは、ミータリングロール13をアプリケーターロール14に押し当てるための押し付け圧力である。
したがって、予め決まったリバースロールコーター10の物理的条件において、帯状体20に塗装される塗料の膜厚を、目標値にする(または、目標値に近づける)ためには、WまたはVmを調整することが考えられる。
しかしながら、Wとして設定できる値の範囲は、様々な因子によって限定され得る。例えば、アプリケーターロール14のライニングゴムの硬度、ライニングゴムの厚み、ロール軸のたわみ、リバースロールコーター10の機械能力等の物理的要因が上述の因子として挙げられる。このような、限定された荷重値Wの範囲内で膜厚が目標値に近づくように、荷重値Wと、ミータリングロール13の周速度Vmとは、膜厚の目標値、および塗料16の物性に応じて適切値に設定される。
また、塗料16の粘度は、温度により大きく変化する。このため、VmとWとは、粘度に応じて適宜調整することが望ましい。粘度に応じた調整において、VmおよびWの値が、VmおよびWの調整可能な値の範囲を超える場合は、塗料16の希釈などによる粘度調整、または温度管理を行うことも有効である。
Wを変化させると、アプリケーターロール14のロール表面とミータリングロール13のロール表面との間の間隙h0が変化する。アプリケーターロール14とミータリングロール13の平均周速度(Vm+Va)/2にh0を乗じたものが間隙を通過する塗料流量であり、間隙出口でアプリケーターロール14およびミータリングロール13の周速度比に依存して、アプリケーターロール14上に分配される塗料の流量が調整される。リバースロールコーター10を用いた塗装では、アプリケーターロール14上の塗料が、ほぼ全量、帯状体20に転写される。このため、ライン速度、アプリケーターロール14の周速度Va、ミータリングロール13の周速度Vm、および、塗料の物性が一定である条件下では、ニップ荷重の荷重値Wを制御することは、アプリケーターロール14上の塗料の膜厚を制御することと略同義である。
また、ミータリングロール13からアプリケーターロール14に塗料が分配される箇所で、アプリケーターロール14のロール表面と、ミータリングロール13のロール表面とは互いに離れていく。このとき、各ロール表面に付着している塗料は、アプリケーターロール14側とミータリングロール13とに引き裂かれる。塗料が引き裂かれる位置では、気液界面近傍での塗料の内圧および表面張力等の塗料に作用する力と、大気圧とが釣り合う。塗料が引き裂かれる位置において、ロール軸に垂直な面で塗料の形状を見ると、アプリケーターロール14上に分配される塗料は、曲率半径r1の水かき状の膜のようになる。そして、アプリケーターロール14のロール軸方向には、塗料の気液界面に曲率半径r2の波状の凹凸が形成される。
ミータリングロール13と、アプリケーターロール14との間で引き裂かれる塗料の気液界面の曲率半径は、ロール表面に近い位置では小さくなり、ロール表面から離れるに従って大きくなる。これを塗料の体積という観点から表現すると、塗料の気液界面がロール表面に近い場合に塗料の体積が小さくなり、塗料の気液界面がロール表面から離れるに従って塗料の体積が大きくなるといえる。このため、アプリケーターロール14上に、塗料の膜の厚さの違いによる凹凸が、ロール軸方向に周期性を有して波状に現れる。アプリケーターロール14上の塗料に形成された波状の凹凸は、そのまま帯状体20に転写される。
以下では、塗装膜厚の目標値M0、アプリケーターロール14の周速度Va、ミータリングロール13の周速度Vm、およびニップ荷重の荷重値Wの互いの関係について説明する。
まず、アプリケーターロール14とミータリングロール13との間隙h0、塗料の物性、ロールの寸法、ロールの周速度、ロールの縦弾性係数、およびニップ荷重の荷重値Wの関係について示す。なお、以下に示す式において、Lはロール幅、Eaはアプリケーターロール14の縦弾性率、Emはミータリングロール13の縦弾性率、νaはアプリケーターロール14のポアソン比、νmはミータリングロール13のポアソン比、Raはアプリケーターロール14の半径、Rmはミータリングロール13の半径である。
間隙h0は、弾性流体潤滑理論(Elastic-hydrodynamic lubrication Theory)に基づいて、下記の式(1)または式(2)を用いて算出することができる。
アプリケーターロール14と、ミータリングロール13との等価縦弾性係数であるEmaは、下記の式(3)で定義される。
また、アプリケーターロール14と、ミータリングロール13との等価半径Rmaは、下記の式(4)で定義される。
なお、上記の式(2)において、Uは下記の式(5)で定義される塗料の平均流速である。
アプリケーターロール14のロール表面に付着した塗料の気液界面とミータリングロール13のロール表面に付着した塗料の気液界面とが互いに離れて行く部分における塗料分配率は、H.Benkreiraらの実験から求めることができる。より具体的には、各ロール上への流量比が、以下の式(6)で示される。
式(6)において、qaは、アプリケーターロール14上の塗料流量を示し、qmはミータリングロール13上の塗料流量を示している。また、帯状体20に転写される前のアプリケーターロール14上の塗料の膜厚tapは、以下の式(7)で示される。
式(6)、および式(7)において、αと、βとはそれぞれ定数であり、α=0.87、β=1.65である。
上述したように、リバースロールコーター10では、アプリケーターロール14が、帯状体20の走行方向とは逆向きに回転する。これにより、アプリケーターロール14と帯状体20との界面におけるアプリケーターロール14と帯状体20との間隙hasは、以下の条件(a)〜(e)から、弾性流体潤滑理論(Elastic-hydrodynamic lubrication Theory)に基づいて求められる。
(a)塗料の物性
(b)アプリケーターロール14の寸法
(c)アプリケーターロール14の周速度Va
(d)アプリケーターロール14の縦弾性係数
(e)アプリケーターロール14と帯状体20との間の荷重
具体的には、アプリケーターロール14と帯状体20との間隙hasは、下記の式(8)にて求められる。なお、以下に示す式において、ωは帯状体20の幅、Eaはアプリケーターロール14の縦弾性率、Esは帯状体20の縦弾性率、νaはアプリケーターロール14のポアソン比、νsは帯状体20のポアソン比、Raはアプリケーターロール14の半径、Rsは帯状体20を搬送する搬送装置15のロール半径、LSは帯状体20の速度(ライン速度)、σはリーク係数(σ=0.63)、Rmmaxはミータリングロール13の最大粗さ、ρは塗料16の密度、Cは塗料の濃度(溶媒に溶かしている固形分濃度)、Wasはアプリケーターロール14と帯状体20との間の押し付け荷重である。
そして、加熱乾燥後の帯状体20の塗装膜厚Mは、以下の式(9)で示される。
ここで、アプリケーターロール14と、帯状体20との等価縦弾性係数であるEmsは、下記の式(10)で定義される。
また、アプリケーターロール14と、帯状体20との等価半径Rmsは、下記の式(11)で定義される。
ここで、塗装膜厚の目標値M0、塗料物性(塗料密度ρ、塗料固形分濃度C、塗料表面張力γ)およびライン速度LSは予め決定されているので、M0は、Vaの設定値と、Vmの設定値と、Wの設定値とに依存して、以下のような関係式を満たすことになる。ここでf(a,b,c)は、a,b,およびcを変数とした関数であり、その関数型は、塗料物性やライン速度LS等に依存する。
M0=f(Va,Vm,W)
よって、目標値を満たす膜厚で塗装するための諸条件を設定すること(以降、膜厚条件設定とも称する)は、Vaと、Vmと、Wとを、塗装膜厚が目標値M0となるように設定することと同義である。
更にアプリケーターロール14の周速度Vaと、ライン速度LSとの比率は経験に基づいて定められる。上述の通り、ライン速度LSは予め決定されているため、Vaも実質的に変更されない値であるといえる。よって、膜厚条件設定は、ミータリングロール13の周速度Vmと、ニップ荷重の荷重値Wとを、塗装膜厚が目標値M0となるように設定することと同義である。また、VmとWとは、リバースロールコーター10の機械的な制約、および塗料の飛び散りの限界等の制約の中で設定する必要がある。
図2の(a)は、アプリケーターロール14のロール表面に付着した塗料の気液界面と、ミータリングロール13とのロール表面に付着した塗料の気液界面とが互いに離れて行く部分を、模式的に示した断面図である。図2(a)に示すように、アプリケーターロール14のロール表面に付着した塗料32の気液界面とミータリングロール13のロール表面に付着した塗料33の気液界面とが互いに離れて行く部分では、塗料が引き裂かれる「引き裂かれ現象」が生じる。
一方、図2の(b)は、アプリケーターロール14のロール表面に付着した塗料の気液界面とミータリングロール13のロール表面に付着した塗料の気液界面とが互いに離れて行く部分における、塗料の膜形状を示す図である。なお、同図において、X軸はロール軸と直交する基準座標軸を示し、Y軸方向はロール軸の方向と平行な基準座標軸を示す。図2の(b)に示すように、塗料の膜に、ロール軸方向に曲率半径r2の波状の凹凸35が形成される。この波状の凹凸をリブとも称する。塗料の膜における波状の凹凸の形成位置は常時変動するが、当該波状の凹凸の波長λは、塗装条件に応じて概ね所定の範囲内に収まることがわかっている。
図2の(a)および(b)を参照して、リブについて、Y軸をロール軸方向とするXYZ座標系を用いて説明する。なお、Z軸とは、図2の(a)に示すように、X軸およびY軸と直交する基準座標軸である。図2の(a)、および(b)に示す例では、任意の瞬間に、気液界面のリブが、Y軸方向に曲率半径r2の正弦波状に、形成されている。図2に示したモデルでは、気液界面の平均的なX軸方向の位置は変化しないが、流体である塗料はロール表面とともに移動する。このため、流体である塗料と接するロール表面が気液界面に対して相対移動する。一定の間隔で対向する平板間に満たされた液体中を進行する気体の気液界面挙動の解析としては、David Bensimonらの安定性解析が挙げられる。
アプリケーターロール14の気液界面の周期変動の振幅をA(t)、気液界面の周期変動の波数をNとすると、振幅A(t)の時間変化量であるdA(t)/dtは、下記の式(12)で示される。なお、以下の式においても、γは塗料の表面張力であり、Uはアプリケータ―ロール周速度Vaとミータリングロール周速度Vmの平均速度である。
式(12)における右辺の振幅A(t)の係数は、振幅A(t)の時間変化率である。ここで、振幅A(t)の時間変化率をdAA(すなわち、dA(t)/dt*1/A(t))とする。dAAが正の値である場合、気液界面の周期変動が増大して不安定化する。気液界面には、ロールの回転等による外乱振動が常に与えられるため、dAAは、正の方向へ変化する傾向がある。dAAが正となる場合に波数Nがとり得る値の範囲は、下記の式(13)で示される。
そして、式(13)に示した領域において、dAAが最大値dAAmaxとなるときの波数Nmは、下記の式(14)で示される。波数NはNmに収束する傾向がある。したがって、Nmを算出することは、波数Nを算出することと同義である。以降、特段の記載が無い限りは、Nmについての関係式を用いて、波数Nと塗装条件等、他のパラメータとの関係を説明する。
そして、このときの波長λは、下記の式(15)で示される。
このように、波状の凹凸の形成位置は常に変動するが、波長λは塗装条件に応じて略決まることがわかる。また、ドクターバーを備えないリバースロールコーター10について、式(12)〜式(15)を用いて説明したように、ロール間出口での塗料の引き裂かれ現象の動的挙動をモデル化することができる。このモデルを利用して、設定された塗装条件で塗装した場合、塗膜の膜厚の不均一を発生させずに、適切に塗装できるか否かを解析することができる。
以降の説明では、帯状体20に塗装を施した場合に、製品または中間生成物として要求される品質を満たす程度に均一な塗膜が得られ、かつ、該塗膜に製品または中間生成物の品質を損なうような膜厚の不均一が発生しなかったことを「塗装が適切であった」と称することとする。また、以降の説明では、適切な塗装が実行できた場合の塗装条件を「適切な塗装条件」と称する。なお、品質とは、該塗膜機能に加え、例えば、着色塗料であれば、膜厚不均一による色むらのような外観不良または加飾不良も含むものとする。
適切な塗装条件であるか否かは、該塗装条件を設定したときのNmの値に基づいて判定することができる。具体的には、Nmの値が過大でも過少でもない適切な範囲内に収まっている場合、設定した塗装条件は適切な塗装条件であるといえる。以下、その理由について説明する。
Nmは、間隙h0が大きくなる程、また、塗料の平均流速Uが小さくなる程、少なくなる。Nmが過少となる塗装条件では、振幅A(t)の係数が正になるNの範囲が狭くなり、振幅A(t)の時間変化率も小さくなるため、一見塗装の膜厚が均一になるように捉えられる。しかしながら、波数Nmが過少となる塗装条件では間隙h0が拡がるため、ロールから塗料にかかる圧力が低下する。具体的には、Nmの値とh0の値は、前掲の式(14)のように関係する。
塗料の粘度μおよび表面張力γは、塗料の種類および濃度によって定まる。そのため、同じ種類および濃度の塗料で塗装を行う場合、これらは固定値であるといえる。また、詳しくは後述するが、塗料の平均速度Uは、アプリケーターロール14の周速度、ミータリングロール13の周速度、および各ロールの直径に基づいて求められる値である。
このように、塗料の粘度μおよび表面張力γは固定値であり、また塗料の平均速度Uは略一定であるため、ある塗装条件において波数Nmが小さくなる場合、間隙h0が大きくなる。
また、ロールの単位幅あたりのニップ荷重Wの値とh0の値は、前掲の式(1)を変形した式(16)のように関係している。式(16)に示す通り、間隙h0が大きくなると、荷重Wは小さくなる。
さらに、図2の(a)のX軸と同様に、ロール間隙における塗料進行方向(アプリケーターロール14およびミータリングロール13のロール軸に直角な方向)の基準座標軸をX軸、アプリケーターロール14のロール軸方向の基準座標軸をY軸と仮定する。この場合、任意のロール断面(XZ面)において、ロール間(ミータリングロール13とアプリケーターロール14との間)のX軸方向の塗料内圧力分布pは、以下の式(17)で示される。圧力分布pのX軸方向×Y軸方向の積分値は、ロール間にかかる押し付け荷重と釣り合う。
なお、ψは、以下に示すxとψの関係式(18)で示される変数である。なお、圧力pは、Martinの式においてx=0かつp=0の境界条件(ガッカムの条件)を入れて解いた簡素化したモデルで示している。
図3は、ロール間界面位置x/Rと、圧力pとの関係を示すグラフである。図3には、一例として、Nmを、過少値(例えば、Nm=2444)、適正値(例えば、Nm=2661)、過大値(例えば、Nm=2858)の3通りに設定した場合の、ロール間界面位置x/Rと圧力pとの関係が示されている。なお、ロール間界面位置x/Rとは、ミータリングロール13とアプリケーターロール14との間の塗料のロール間界面におけるある位置(x)を、アプリケーターロール14のロール半径Raで規格化したものである。
Nmを過少にすると、前掲の式(14)および式(16)に示したように、固定値が同じであれば、間隙h0の値が大きくなり、ニップ荷重Wの値が小さくなる。そのため、x/Rが同値の場合、式(17)で計算される圧力pの値は小さくなる。具体的には、図示の通り、圧力pは大気圧の1/3以下になる。
圧力pが小さくなるほど、間隙h0を均一に制御することは困難である。圧力pが小さくなるほど、間隙h0の大きさは各ロールの機械精度(例えばミータリングロール13またはアプリケーターロール14の偏芯、または真円度)、および、各ロールの振動等の、外乱の影響を受けやすくなるからである。 したがって、圧力pが小さくなるほど、間隙h0の値が不安定になるため、NmおよびWも不安定になる。また、圧力pが小さいと、例えば、アプリケーターロール14とミータリングロール13とのロール軸方向のロール径差、ゴムライニング厚差、および弾性率差等が、塗装に与える影響が大きくなるため、これらの要因からも、適切な塗装条件を決定することが困難になる。
したがって、Nmが過少の場合、膜厚が不安定になるといえる。すなわち、Nmが過少の場合、帯状体20の塗装膜の膜厚は不均一になり、ローピング模様やまだら模様が発生する。
式(16)より、Nmが大きいほど、h0の値が小さくなる。また、式(17)より、h0の値が小さくなるほど、荷重Wは増加する。したがって、この場合、式(15)より、波長λは短くなる。波長λが短いほど、塗料の粒子による気液界面の切れが起こり易くなるため、塗料の膜厚は不安定になる。
さらに、式(13)より、h0の値が小さくなるほど、dAAが正となる場合にNがとり得る値の範囲は広くなる。したがって、波数NがNmとなる場合のdAA、すなわちdAAmaxも増大する。
このように、波数Nmが過大となる塗装条件では、振幅A(t)も大きく変動することとなるため、ロールコーターの振動等の外乱が、該振幅の変動により強く影響するようになる。
また、図3から、波数Nmが大きい条件では、圧力のピークが増加し、荷重とバランスするx/Rの領域全体の圧力も増加する。さらに、流体(塗料)の流れ方向と垂直な方向の力を受ける部分(x/R=0〜−0.03)を除いた領域の割合も増加する。アプリケーターロール中心とx/R軸上の0点を結ぶ線と該アプリケーターロール中心とx/R軸上の負領域のx/R=−0.03を結ぶ線がなす角度は、約2度弱となる。すなわち、x/R<−0.03の領域では、ロール界面が塗料の流れ方向(X軸方向)に対して傾き、ロールからの押し付け力がロール軸方向(Y軸方向)に分散しやすい領域であり、圧力も変動しやすくなる。
図4では、波数Nmが過大のNm=2858では、x/R<−0.03領域の積分値比率は0.82で、波数Nmが正常のNm=2661では0.50である。このように、波数Nmが過大になると、積分比率が増加し、かつ、先に示したように圧力が増加し不安定化する。そのため、アプリケーターロール14上の塗料膜厚が不安定になり、帯状体20の塗装膜厚が不均一になって、ローピング模様やまだら模様が発生する。
<塗装システム>
図5は、塗装システム100の概略構成を示すブロック図である。塗装システム100は、リバースロールコーター10と、リバースロールコーター10を制御するロール制御装置30と、リバースロールコーター10の塗装条件に係る情報を処理する情報処理装置110と、を備えている。なお、リバースロールコーター10とロール制御装置30をまとめて塗装装置と記すことがある。
ロール制御装置30は、情報処理装置からの情報に基づいて、リバースロールコーターの周速度等を制御する。一例として、ロール制御装置30は、情報処理装置110から塗装条件を示す情報を取得し、取得した塗装条件を用いた塗装をリバースロールコーター10に実行させる。なお、ロール制御装置30は、リバースロールコーターの周速度等を測定して、得られた測定情報を情報処理装置110にフィードバックしてもよい。
情報処理装置110は、通信部111、入力部112、制御部120、記憶部130、および表示部140を備えている。情報処理装置110は、プロセッサ、チップセット、およびメモリ等を備えた1又は複数のコンピュータによって実現することができる。
通信部111は、無線通信、または有線通信によって、ロール制御装置30と通信する。
入力部112は、ユーザが入力する各種の入力情報を受け付け、受け付けた入力情報を制御部120に供給する。入力部112は、一例として、ユーザによって設定された塗装条件を示す情報を取得し、取得した塗装条件を制御部120に供給する。
制御部120は、情報処理装置110を統括的に制御する。制御部120は、塗装条件取得部(取得部)121、算出部122、判定部123、および変更部124を含む。また、制御部120は、通信部111を介して、ロール制御装置30に塗装条件を示す情報を送信する。
塗装条件取得部121は、入力部112から塗装条件を示す情報を取得する。
算出部122は、塗装条件取得部121が取得した塗装条件に応じて、アプリケーターロール14の塗料の膜に形成される凹凸の波数Nmを算出する。以降、特段の記載が無い限り、「波数」とは、アプリケーターロール14の塗料の膜に形成される凹凸の波の数を示す。
算出部122は、例えば、帯状体20に塗料を転写するアプリケーターロール14に塗料を供給するミータリングロール13の周速度Vmと、ミータリングロール13をアプリケーターロール14に押し当てるニップ荷重の荷重値Wと、に応じて波数Nmを算出する。
なお、算出部122は、比ミータリングロール周速度V’ mと、比ニップ荷重W’とに応じてNmを算出してもよい。比ミータリングロール周速度V’ mとは、ミータリングロール13の周速度Vmから、基準のミータリングロール周速度を除算することによりVmを規格化した値である。また、比ニップ荷重W’とは、ニップ荷重Wから、基準となる荷重値を除算することによりWを規格化した値である。
ゆえに、 算出部122は、予め定められている基準のミータリングロール周速度にV’ mを乗算することでミータリングロール周速度Vmを算出できる。また、算出部122は、予め定められている基準の荷重値にW’を乗算することでニップ荷重Wを算出できる。したがって、算出部122において、比ミータリングロール周速度V’ mおよび比ニップ荷重W’を用いて処理を実行するのと、ミータリングロール周速度Vmおよびニップ荷重Wを用いて処理を実行するのとは略同義である。
判定部123は、算出部122が算出した波数Nmに基づいて、塗装条件取得部121が取得した塗装条件が適切か否かを判定する。
変更部124は、塗装条件の適否を判定するために判定部123が用いる判定条件を、塗料が固体粒子成分を含んでいるか否かに応じて変更する。
記憶部130は、制御部120の各部が実行する算出処理、判定処理、または変更処理に用いる各種式、設定値、および閾値の値を記憶している。例えば、記憶部130は、前記波数Nmの適切範囲の値を記憶している。より詳しくは、記憶部130は、塗料が固体粒子成分を含んでいる場合と、含んでいない場合とで異なる波数Nmの適切範囲の値を記憶している。
表示部140は、判定部123判定部123が判定した結果を表示することにより、判定部123の判定結果をユーザに提示する。なお、情報処理装置110は、判定結果を表示部140に表示させる構成に限らず、不図示のスピーカから音声出力することにより判定結果をユーザに提示する構成としてもよい。また、情報処理装置110は、表示部140とスピーカとを備え、表示部140における表示と、スピーカからの音声出力との両方を組み合わせて、ユーザに判定結果を通知してもよい。
<塗装条件の判定処理の流れ>
次に、対象の塗装条件の適否を判定する処理の流れについて説明する。図6は、当該判定処理の流れを示すフローチャートである。図6に示す各ステップは、上述した塗装システム100の各部が実行する。
情報処理装置110の入力部112は、ユーザによる塗装条件のパラメータの入力を受け付ける。塗装条件取得部121は、入力部112が受け付けた塗装条件のパラメータを取得する(S1、取得ステップ)。なお、情報処理装置110の制御部120は、塗装条件の少なくとも一部を、ユーザの手入力以外の方法で取得してもよい。例えば、制御部120は、ロール制御装置30等において設定された塗装条件の、少なくとも一部を示す情報を受信してもよい。
ここで、あるひとつの塗装において、すなわち、ひとつの被塗装帯板を巻いたコイルに同一のロットに属す塗料を塗装する工程において、塗装条件には、原則、固定する条件と調整する条件が含まれる。そこで調整する条件パラメータに対しては、それらの変化に応じて適宜条件を調整変更する。条件を原則、固定するパラメータとしては、例えば、ライン速度LS、アプリケーターロール14の周速度Va、塗料への固体粒子成分の含有有無が挙げられる。ここで、塗料の固体粒子成分とは、塗料に含有させるフィラー等の、溶媒に溶けない固形粒子である。
一方、調整変更するパラメータとしては、ロット単位で変化する、塗料の粘度μ、固形分濃度C、表面張力γである。塗料の粘度μは周囲温度や希釈濃度によっても変化する。また、固形分濃度Cも希釈濃度によっても変化する。
目標の塗料膜厚を得るには、これらの条件のもと、比ミータリングロール周速度V’ mと比ニップ荷重の荷重値W’とを組み合わせで調整変更することになる。すなわち、上述の変動要因に応じて条件の調整変更を行うが、比ミータリングロール周速度V’ mと比ニップ荷重の荷重値W’との組み合わせは一意でなく、これらの条件に関して、塗装品質を予測判断(評価)すること、さらには、好適な塗装品質を得るための、塗装条件を求めることが、当該情報処理装置の本質的な機能となる。
次に、算出部122(後述する第1の波数算出部201)は、S1において塗装条件取得部121が取得した塗装条件から、前記アプリケーターロール上に形成される凹凸の波数Nmを算出する(S2、算出ステップ)。算出部122は、波数Nmを、前掲の式(14)を用いて算出する。
ここで、アプリケーターロール14のロール表面と、ミータリングロール13のロール表面との間隙h0は、前掲の式(1)によって定義される。
また、アプリケーターロール14のロール表面に付着した塗料の気液界面と、ミータリングロール13のロール表面に付着した塗料の気液界面とにおける塗料の平均速度Uは、前掲の式(5)で定義される。
続いて、情報処理装置110の判定部123は、塗料に固体粒子成分が含有されているか否かを判定する(S3)。塗料に固体粒子成分が含有されていると判定した場合は(S3でYES)、S4を実行する。塗料に固体粒子成分が含有されていないと判定した場合は(S3でNO)、S7を実行する。
なお、S3の判定を行う前に、ユーザによって、塗料に固体粒子成分が含有されているかを判定するための情報が情報処理装置110に入力されているものとする。そして、塗装条件取得部121は、入力部112が受け付けた入力情報に含まれる、塗料の商品名、または型番等を前記判定するための情報を取得し、該情報を判定部123に送ってもよい。この場合、判定部123は入力情報に基づいて、塗料に固体粒子成分が含有されているかを判定してもよい。
ところで、塗料に溶媒に溶けない固体粒子成分が含まれる場合、該固体粒子成分が含まれていることよって、気液界面における塗料の引き裂かれ現象が複雑化する。引き裂かれ現象が複雑化することで、塗膜に対する外乱の影響が生じる。なお、前記固体粒子成分とは、例えば、顔料や機能性添加物である。このため、固体粒子成分が含有されている塗料では、適切な塗装条件を規定する波数Nmのうち、大きい方の閾値が、固体粒子成分が含有されていない塗料に比べて小さくなる。
ゆえに、判定部123は、ステップS2で算出した波数Nmが所定の範囲内、具体的には2600<Nm<2750であるか否かを判定する(S4、判定ステップ)。判定部123は、波数Nmが2600<Nm<2750の範囲内である場合(S4でYES)、S5を実行する。一方、波数Nmが2600<Nm<2750の範囲内ではない場合(S4でNO)、S6を実行する。
S4でYESの場合、判定部123は、S1にて取得した塗装条件は適切であると判定し、処理を終了する(S5)。S4でNOの場合、判定部123は、S1にて取得した塗装条件は適切ではないと判定し、処理を終了する(S6)。
一方、S3でNOの場合、判定部123は、ステップS2で算出した波数Nmが、2600<Nm<2900の範囲内であるか否かを判定する(S7、判定ステップ)。判定部123は、S2で算出した波数Nmが所定の範囲内、具体的には2600<Nm<2900である場合(S7でYES)、S8を実行する。判定部123は、S2で算出した波数Nmが2600<Nm<2900の範囲内ではない場合(S7でNO)、S9を実行する。
S7でYESの場合、情報処理装置110の判定部123は、ステップS1にて取得した塗装条件は適切であると判定し、処理を終了する(S8)。
S7でNOの場合、情報処理装置110の判定部123は、S1にて取得した塗装条件は適切ではないと判定し、処理を終了する(S9)。
このように、本実施形態では、帯状体20に塗料を転写するアプリケーターロール14に前記塗料を供給するミータリングロール13の周速度と、ミータリングロール13をアプリケーターロール14に押し当てる荷重値とを少なくとも含む、塗装条件を示す情報を取得し、取得した、塗装条件を示す情報に基づいて、塗装時にアプリケーターロール上に形成される、塗料の波状の凹凸の波数Nmを算出する。また、本実施形態では、算出した波数に基づいて、塗装条件の適否を判定する。これにより、塗料の引き裂かれ現象による塗装むらが塗装膜に生じるか否かを、塗装条件に応じて算出された波数Nmに基づいて判定することができる。よって、塗装前に塗装条件の適否を判定することができる。
また、上述したように、本実施形態では、塗装膜に形成される波状の凹凸の波数Nmが所定の範囲内であるか否かに基づいて、塗装条件の適否を判定する。そして、塗装条件の適否を判定するために用いる波数Nmの範囲を、塗料が固体粒子成分を含んでいるか否かに応じて変更する。これにより、塗料が固体粒子成分を含有し、波数Nmが多くなると共に塗装条件が不適切になる場合には、波数Nmの範囲を、塗料が固体粒子成分を含有しない場合よりも狭くすることができる。よって、塗装条件の適否をより正確に判定することができる。
なお、塗装条件の適否の判定処理は上述の例に限られるものではない。たとえば、図6のS2において、Nmの値が、最小値より大きくS4における最大値より小さい場合、すなわち2600<Nm<2750である場合、判定部123は、S3、S4、およびS7の判定を実行することなく、塗装条件は適切であると判定してもよい。
また、図6のS2において、Nmの値が最小値以下か、又は、S7の最大値以上である場合、すなわちNm≦2600またはNm≧2900である場合、判定部123は、S3、S4、およびS7の判定を実行することなく、塗装条件は適切でないと判定してもよい。
<塗装条件の判定処理から塗装条件の適用処理までの処理の流れ>
上述した塗装条件の適切を判定する方法により、塗装条件から算出される波数Nmに基づいて、塗装条件の適否を判定することができる。図7は、塗装条件の判定処理から塗装条件の適用処理までの処理の流れの概要を示すフローチャートである。図7に示す各ステップは、情報処理装置110の各部によって実行される。
まず、情報処理装置110の判定部123は、設定された塗装条件が適切であるか否かを判定する(S11)。
判定部123が、設定された塗装条件が適切であると判定した場合(S11でYES)、制御部120は、塗装条件を波数Nmが好適値(例えば、理想値)となる塗装条件に調整するか否かをユーザに問い合わせるための画像を、表示部140に表示させる(S12)。より具体的には、例えば、「塗装条件は適切であると判定されました。更に波数Nmが好適値となる塗装条件に調整しますか?」という文言を含んだ画像を表示させる。
続いて、制御部120は、入力部112が、塗装条件の調整を指示する入力操作を受け付けたか否かを特定する(S13)。
入力部112が、塗装条件の調整を指示する入力操作を受け付けなかった場合(S13でNO)、制御部120は、既に設定されている塗装条件をロール制御装置30に供給し、ロール制御装置30は、リバースロールコーター10に、当該塗装条件を用いた塗装を実行させる(S14)。
判定部123が、設定された塗装条件が適切でないと判定した場合(S11でNO)、制御部120は、塗装条件を再設定計算する旨をユーザに提示するための画像を生成し、表示部140に表示させる(S15)。より具体的には、例えは、「塗装条件は適切ではないと判定されました。このため、塗装条件を再設定し再計算を行います。」という文言を含む画像を表示させる。なお、制御部120は、塗装条件を再設定計算する旨のメッセージを、音声等によってユーザに提示してもよい。
入力部112が、塗装条件の調整を指示する入力操作を受け付けた場合(S13でYES)、または、S15の処理の後、算出部122は、適切な塗装条件となるミータリングロール13の周速度と、ニップ荷重とを算出する(S16)。制御部120は、S16にて算出した塗装条件をリバースロールコーター10に適用させる。具体的には、制御部120は、S16にて算出した塗装条件を示す情報をロール制御装置30に供給し、ロール制御装置30は、リバースロールコーター10に、当該塗装条件で塗装を実行させる(S17)。
このように、図7に示した処理によれば、塗装システム100は、塗装条件が適切ではない場合、適切な塗装条件を導き出すことができる。そして、導き出した適切な塗装条件で、適切な塗装を実行させることができる。また、塗装条件が適切である場合であっても、塗装条件を更に調整するか否かをユーザに問い合わせて、ユーザの要望に応じて、より適切な塗装条件を導き出すことができる。そして、導き出した適切な塗装条件で、適切な塗装を実行させることができる。
<算出部122の構成と処理>
図8は、塗装システム100の算出部122の機能構成を示すブロック図である。算出部122は、第1の波数算出部201、荷重決定部202、近似式決定部203、第2の波数算出部204、周速度算出部205、および荷重算出部206を含んでいる。
第1の波数算出部201は、上述した波数Nmを算出する。第1の波数算出部201は、ミータリングロール13の周速度Vmと、ユーザが入力した塗装条件に含まれるニップ荷重の荷重値Wと、に応じて波数Nmを算出する。なお、上述のように、第1の波数算出部201は比ミータリングロール周速度V’ mと、比ニップ荷重W’とから波数Nmを算出してもよい。
荷重決定部202、近似式決定部203、第2の波数算出部204、周速度算出部205、および荷重算出部206は、以下に説明する、適切な塗装条件の算出に係る処理を行う。
荷重決定部202は、ミータリングロール13の少なくとも3つの周速度Vmに対して、塗装膜厚Mが目標値となる、比ニップ荷重W’をそれぞれ決定する。荷重決定部202は、例えば、VmまたはV’ mの最小値、中間値、および最大値について、塗装膜厚Mが目標値になるWまたはW’を決定する。
ここで、荷重決定部202が参照するVmまたはV’ mの最小値、中間値、および最大値は、リバースロールコーター10の性能によって決定される。また、W’は、ミータリングロール13をアプリケーターロール14に押し当てる荷重値Wの基準に対する比率である。なお、荷重決定部202はWを算出してもよい。
なお、「中間値」とは、一例として、最大値と最小値の平均のことを指すが、これは本実施形態を限定するものではない。すなわち、本明細書における「中間値」は、上述の最大値と最小値と間の値であればよく、最大値と最小値の平均に限定されるものではない。また、本明細書における「中間値」は所謂「中央値」とは異なる。
近似式決定部203は、ミータリングロール13の周速度Vmと、波数Nmとの関係を示す非線形近似式を決定する。近似式決定部203は、VmとNmとの少なくとも3つの組み合わせに基づいて、非線形近似式を決定する。近似式決定部203は、例えばVmの最小値、中間値、および最大値と、第2の波数算出部204によって算出される各周速度Vmにおける波数Nmとから、周速度Vmと波数Nmとの関係を示す非線形近似式を決定する。なお、近似式決定部203によって決定される非線形近似式は、指数近似式であってもよいし、他の形態の近似式であってもよい。また、近似式決定部203は、比ミータリングロール周速度V’ mと、波数Nmとの関係を示す非線形近似式を算出してもよい。上述の通り、V’ mに定数である基準のミータリングロール周速度を足すことでVmを算出することができるため、V’ mが含まれる非線形近似式も、Vmが含まれる非線形近似式も、略同義といえる。
第2の波数算出部204は、ミータリングロール13の周速度Vmと、荷重決定部202によって決定されたW’との少なくとも3つの組み合わせにそれぞれ対応する波数Nmを算出する。なお、比ニップ荷重とは、ニップ荷重を所定の基準ニップ荷重で除した値である。説明の都合上、ニップ荷重の代わりに比ニップ荷重を用いて説明することがあるが、いずれを用いても内容は実質的に同じである。また、第2の波数算出部204は、比ミータリングロール周速度V’ mと、W’との少なくとも3つの組み合わせにそれぞれ対応する波数Nmを算出してもよい。もしくは、第2の波数算出部204は、Vmと、ニップ荷重の荷重値Wとの少なくとも3つの組み合わせにそれぞれ対応する波数Nmを算出してもよい。もしくは、第2の波数算出部204は、V’ mと、Wとの少なくとも3つの組み合わせにそれぞれ対応する波数Nmを算出してもよい。VmとV’ m、WとW’のそれぞれどちらを用いてNmを算出するかは、荷重決定部202、周速度算出部205、および荷重算出部206の算出する各種パラメータ、ならびに、近似式決定部203の決定する非線形近似式に応じて適宜定められてよい。
周速度算出部205は、近似式決定部203によって決定された非線形近似式を用いて波数Nmが所定値の場合のミータリングロール13の周速度Vmを算出する。周速度算出部205は、近似式決定部203によって決定された非線形近似式を用いて、例えば、波数Nmが、最小値、好適値、および最大値の場合のミータリングロールの周速度Vmをそれぞれ算出する。なお、近似式決定部203の決定した非線形近似式が、比ミータリングロール周速度V’ mと、波数Nmとの関係を示す非線形近似式である場合、周速度算出部205は、比ミータリングロール周速度V’ mを算出してもよい。例えば、周速度算出部205は、波数Nmが、最小値、好適値、および最大値の場合のV’ mを算出してもよい。上述の通り、V’ mに定数を足すことでVmを算出できるため、V’ mを算出することと、Vmを算出することは、周速度算出部205の処理および後工程の処理において略同義であるといえる。
荷重算出部206は、周速度算出部205によって算出されたVmまたはV’ mのそれぞれに基づいて、ミータリングロール13をアプリケーターロール14に押し当てる荷重値の比(比ニップ荷重W’)を算出する。なお、荷重算出部206は、ニップ荷重の荷重値Wを算出してもよい。この場合、荷重算出部206は、W’を算出してW’からWを算出してもよいし、VmまたはV’ mから直接Wを算出してもよい。上述の通り、W’に定数を足すことでWを算出できるため、W’を算出することと、Wを算出することは略同義であるといえる。
図9は、塗料が固体粒子成分を含有している場合における、振幅A(t)の時間変化率dAAが最大値(dAAmax)となるときの波数(Nm)と、該最大値dAAmaxと、塗装結果との関係を示すグラフである。図10は、塗料が固体粒子成分を含有していない場合における、Nmと、dAAmaxと、塗装結果との関係を示すグラフである。なお、図9および図10における白丸は塗装が適切であった(good)ことを示し、黒丸は、塗装が適切でなかった(no good)ことを示す。
図9および図10に示すように、塗料が固体粒子成分を含有しているか否かに関わらず、波数Nmの好適値は、dAAmaxがなるべく小さく、且つ、塗装膜が均一になる値である、2650に設定することができる。また、上述したように、塗料が固体粒子成分を含有している場合、適切な塗装が実現できる波数Nmの最小値は2600であり、適切な塗装が実現できる波数Nmの最大値は2750である。また、塗料が固体粒子成分を含有していない場合、適切な塗装が実現できる波数Nmの最小値は2600であり、適切な塗装が実現できる波数Nmの最大値は2900である。したがって、適切な塗装条件は、これらの波数Nmの値を用いて、算出することができる。
<塗装条件の算出処理の流れ>
以下では、より適切な塗装条件の算出処理について図11〜図14を参照して説明する。
図11は、波数Nmと、比ミータリングロール周速度V’ mと、比アプリケーターロール周速度V’ aとの関係を示すグラフである。比アプリケータ―ロール周速度V’ aとは、アプリケーターロール14の周速度Vaから、基準のアプリケーターロール周速度を除算することにより、Vaを規格化した値である。また、図12は、塗装膜厚Mと、比ニップ荷重W’と、V’ mとの関係を示すグラフである。また、図13は、V’ mと波数Nmとの非線形近似式を示すグラフである。
図11に示すように、V’ aによりV’ mとNmとの関係は変化するが、NmはV’ mに対して単調増加する。また、図12に示すように、MはW’の増加に伴い、単調減少する。
これらの関係から、情報処理装置110は、比ミータリングロール周速度V’ mを少なくとも3点設定し、W−M曲線にそってW’を増加させ、膜厚Mが目標膜厚M0となるW’の条件を算出する。一例として、図13に示したように、以下の処理によって、より適切な塗装条件となるV’ mと、W’とを算出することができる。そして、V’ mと、波数Nmとの非線形近似式を得ることができる。
当該非線形近似式の波数Nmに適切な塗装条件となる範囲の値(例えば、最小値、中間値、および最大値)を代入することにより、そのときのV’ mを求める(V’ m=V’ m st、図13の例ではV’ m st=2.78)。
図14は、適切な塗装条件の算出、および該塗装条件の提示に係る処理の流れを示すフローチャートである。なお、図14に示した算出処理、および提示処理は、図7に示した塗装条件を提示する処理のうち、S16の内部処理としても実行可能な処理である。
まず、荷重決定部202は、V’ mの少なくとも3点の値について、塗装膜厚Mが目標値になるW’をそれぞれ決定する(S21、荷重決定ステップ)。荷重決定部202は、例えば、V’ mの最小値、中間値、および最大値について、塗装膜厚Mが目標値になるW’を決定する。V’ mの最小値、および最大値は、ミータリングロール13のサイズ、およびミータリングロール13を回転させるモータの性能等から定められる。なお、4点以上のV’ mについて塗装膜厚Mが目標値になるW’をそれぞれ決定することで、後述する非線形近似式の精度を上げることができる。
図12に示したグラフでは、比アプリケーターロール周速度V’ aは、V’ a=7.68に設定されている。図12に示したグラフが得られる例の場合、荷重決定部202は、目標膜厚M=13μmとなるW’を、例えば、V’ mの最小値=1.67、V’ mの中間値=2.78、V’ mの最大値=3.89に対してそれぞれ決定する。
荷重決定部202は、塗装膜厚Mが目標値になる、W’を決定するために、まず、V’ mの最小値における、W’の最小値を、機械的な制約と、経験則等に基づいて使用者が決定する。そして、荷重決定部202は、下記の式(19)を用いて、ニップ荷重Wの増分ΔWを、上述の式(9)を用いて算出される塗装膜厚Mが目標値となるまで繰り返す。なお、式(19)において、i=i+1である。なお、図12に示した例では、塗装膜厚Mが目標値となった後も、ニップ荷重Wの増分ΔWを行いながら繰り返し演算を続けることで得られる、塗装膜厚Mが目標値よりも小さくなるW’についても図示している。ただし、荷重決定部202は、塗装膜厚Mが目標値となった場合に処理を停止し、それ以降は、ニップ荷重Wの増分ΔWによる塗装膜厚の算出を行わない構成としてもよい。
次に、第2の波数算出部204は、S21で決定した、V’ mとW’とに基づいて、波数Nmを算出する(S22、波数算出ステップ)。 例えば、第2の波数算出部204は、V’ mとW’との少なくとも3つの組み合わせに対して、それぞれの組合せにおけるNmを算出する。第2の波数算出部204は、例えば、目標膜厚M=13μmとなるW’と、V’ mの最小値=1.67、V’ mの中間値=2.78、V’ mの最大値=3.89のそれぞれとに基づいて、波数Nmを算出する。第2の波数算出部204は、上述の式(14)を用いて、波数Nmを算出する。図13に示した例では、波数Nmは、V’ mの最小値に対しては2330、V’ mの中間値に対しては2637、V’ mの最大値に対しては2825と算出される。
次に、近似式決定部203は、V’ mの各点と、各点におけるNmとから、比周速度と波数の非線形近似式(V’ m=α・exp(β・Nm))を決定する(S23、近似式決定ステップ)。例えば、近似式決定部203は、V’ mと、S22で算出したNmとの少なくとも3つの組み合わせに基づいて非線形近似式を決定する。 近似式決定部203は、例えばV’ mの最小値、中間値、および最大値と、各比周速度における波数Nmとに基づいて、V’ mと波数Nmの非線形近似式を決定する。なお、近似式決定部203は、人工知能を用いて、V’ mとNmとの関係とから、非線形近似式を決定してもよい。
図13、および図14に示すように、近似式決定部203は、(1)V’ mの最小値=1.67に対する波数Nm=2330、(2)V’ mの中間値=2.78に対する波数Nm=2637、および(3)V’ mの最大値=3.89に対する波数Nm=2825の、平面上の3点を用いて、非線形近似式を決定する。V’ mの最小値、中間値、および最大値と、それぞれに対する波数Nmとによる、平面上の3点を非線形近似して得られた非線形近似式は、下記の式(20)で示される。
次に、周速度算出部205は、S23で得られた非線形近似式を用いて、波数Nmが好適である所定の値をとる場合のV’ mを算出する(S24、周速度算出ステップ)。周速度算出部205は、塗料が固体粒子成分を含有している場合には、波数Nmの値として、最小値(2600)、好適値(2650)、最大値(2750)のそれぞれの値を非線形近似式に代入して、それぞれの値の場合のV’ mを算出する。
また、周速度算出部205は、塗料が固体粒子成分を含有していない場合には、波数Nmの値として、最小値(2600)、好適値(2650)、および最大値(2900)のそれぞれの値を非線形近似式に代入して、それぞれの値の場合のV’ mを算出する。
次に、荷重算出部206は、S24で得られた非線形近似式を用いて算出したV’ mに基づいて、塗装膜厚Mが目標値になるW’を算出する(S25、荷重算出ステップ)。例えば、荷重算出部206は、波数Nmが最小値(2600)、好適値(2650)、最大値(2900)のそれぞれの値をとる場合に、塗装膜厚Mが目標値になるW’を算出する。これにより、塗装前に、適切な塗装条件を算出することができる。
制御部120は、周速度算出部205が算出したV’ mと荷重算出部206が算出したW’とを、塗装条件として、ユーザに提示する(S26、提示ステップ)。なお、制御部120は、V’ mではなくVmを提示してもよい。また、制御部120はW’ではなくWを提示してもよい。また、塗装条件の提示方法は限定されない。例えば制御部120は、表示部140に塗装条件を表示させてもよいし、音声によって塗装条件を通知してもよいし、表示と音声とを併せて塗装条件を通知してもよい。
制御部120は、算出した波数Nmが、最小値、好適値、および最大値の場合のV’ mと、算出した波数Nmが、最小値、好適値、および最大値の場合のW’とのそれぞれを、下限塗装条件、最適塗装条件、および上限塗装条件の設定値として提示してもよい。
ユーザは、提示された比ミータリングロール周速度V’ mと、W’とを参照して、リバースロールコーター10の塗装条件を設定することで、より適切な塗装条件で、リバースロールコーター10による塗装を実現することができる。
また、塗装システム100のロール制御装置30は、情報処理装置110から受信する、塗装条件の算出処理によって算出されたV’ mと、W’とに基づいて、リバースロールコーター10による塗装条件を自動で設定してもよい。
波数Nmが好適値である2650になる場合のV’ mと、W’とを算出し、ロール制御装置30がリバースロールコーター10を、算出した周速度および比ニップ荷重となるように稼働させることによって、塗料が固体粒子成分を含有するか否かに関わらず、適切な塗装を行うことができる。
また、V’ mと、W’とを最適化することで塗装条件を適切なものとすることができるため、適切な塗装を実現するために膜厚を変える必要が無い。塗装の膜厚を変更できる範囲は限られている。これは、塗料の種類および帯状体20の材質等により、許容できる膜厚の範囲が限られているからである。また、膜厚を大幅に変更した場合、塗装後の帯状体20の製品としての品質が低下する虞があるためである。上述のように、比ミータリングロール周速度V’ mと、W’とを最適化することで塗装条件を適切にすると、帯状体20における塗料の膜厚自体は変わらないため、塗装後の帯状体20の製品品質を低下させることなく、適切な塗装を実現することができる。
〔変形例〕
上述の実施形態において説明した塗装システム100は、以下のような構成としてもよい。
例えば、情報処理装置110はロール制御装置30を含んでいても良い。すなわち、情報処理装置110の制御部120が、直接リバースロールコーター10の各ロールのパラメータを制御してもよい。
また、図5では、情報処理装置110は、リバースロールコーター10と接続されているが、リバースロールコーター10がない環境、またはリバースロールコーター10を稼働させない状況で、ユーザの入力したパラメータ値に基づいて、図6、7、および14の処理フローを実行してもよい。ただし、その場合、図7のS14およびS17では、値を適用するのではなく、情報処理装置の表示部に、算出した値を表示させる構成とすればよい。
塗装システム100は、膜厚を測定する測定装置を含んでいてもよい。測定装置は、膜厚の実測値をロール制御装置30に送信してもよい。ロール制御装置30は、リバースロールコーター10から、実際の稼働パラメータ(周速等)を取得し、測定装置から膜厚の実測値を取得して、これらを情報処理装置110に送信してもよい。情報処理装置110は、取得した実際の稼働パラメータおよび膜厚の実測値に応じて、塗膜の膜厚を均一にする波数Nmの値の範囲、中間値、好適値、の各値を調整してもよい。また、この場合、情報処理装置110は、あるリバースロールコーター10の塗装ラインと該ラインの測定装置から得られた実際の稼働パラメータおよび膜厚の実測値の組み合わせを教師データとして、機械学習により、塗膜の膜厚を均一にする波数Nmの値の範囲、中間値、好適値、の値を随時学習してもよい。また、情報処理装置110は、複数のリバースロールコーター10の塗装ライン、および各ラインにおける測定装置から得た、実際の稼働パラメータおよび膜厚の実測値を教師データとして、上述の機械学習を行っても良い。
〔ソフトウェアによる実現例〕
情報処理装置110の制御ブロック(特に算出部122および判定部123)は、集積回路(ICチップ)等に形成された論理回路(ハードウェア)によって実現してもよいし、ソフトウェアによって実現してもよい。
後者の場合、塗装システム100は、各機能を実現するソフトウェアであるプログラムの命令を実行するコンピュータを備えている。このコンピュータは、例えば1つ以上のプロセッサを備えていると共に、上記プログラムを記憶したコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えている。そして、上記コンピュータにおいて、上記プロセッサが上記プログラムを上記記録媒体から読み取って実行することにより、本発明の目的が達成される。上記プロセッサとしては、例えばCPU(Central Processing Unit)を用いることができる。上記記録媒体としては、「一時的でない有形の媒体」、例えば、ROM(Read Only Memory)等の他、テープ、ディスク、カード、半導体メモリ、プログラマブルな論理回路などを用いることができる。また、上記プログラムを展開するRAM(Random Access Memory)などを更に備えていてもよい。また、上記プログラムは、該プログラムを伝送可能な任意の伝送媒体(通信ネットワークや放送波等)を介して上記コンピュータに供給されてもよい。なお、本発明の一態様は、上記プログラムが電子的な伝送によって具現化された、搬送波に埋め込まれたデータ信号の形態でも実現され得る。
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
<付記事項>
本発明は一側面として、以下の内容を含んでいてもよい。
(項目1)上記実施形態では、リバースロールコーターにより塗料を帯状体に塗装する塗装条件の適否を判定する塗装条件判定方法についても説明した。本開示のある局面によると、前記塗装条件判定方法は、前記帯状体に塗料を転写するアプリケーターロールに前記塗料を供給するミータリングロールの周速度と、前記ミータリングロールを前記アプリケーターロールに押し当てる荷重値とを少なくとも含む、前記塗装条件を示す情報を取得する取得ステップと、前記塗装条件を示す情報に基づいて、塗装時に前記アプリケーターロール上に形成される、塗料の波状の凹凸の波数を算出する算出ステップと、前記波数に基づいて、前記塗装条件の適否を判定する判定ステップと、を含んでいる。
上記の方法によれば、波数に基づいて、塗装前に、塗装条件の適否を判定することができる。
(項目2) (項目1)において、前記判定ステップでは、前記波数が所定の範囲内の場合に、前記塗装条件が適切であると判定してもよく、前記所定の範囲は、前記塗料が固体粒子成分を含んでいるか否かに応じて決定されてもよい。
上記の方法によれば、塗料が固体粒子成分を含んでいるか否かに応じて、対象の塗装条件が適切であるか否かをより正確に判定することができる。
(項目3) (項目2)において、前記判定ステップでは、塗料に固体粒子成分が含有されている場合であって、算出した前記波数が2600よりも大きく2750よりも小さい場合に、前記塗装条件が適正であると判定してもよい。
上記の方法によれば、塗料が固体粒子成分を含んでいる場合に応じた波数の適切範囲に基づいて、対象の塗装条件が適切であるか否かをより正確に判定することができる。
(項目4) (項目2)または(項目3)において、前記判定ステップでは、塗料に固体粒子成分が含有されていない場合であって、算出した前記波数が2600よりも大きく2900よりも小さい場合に、前記塗装条件が適正であると判定してもよい。
上記の方法によれば、塗料が固体粒子成分を含んでいない場合に応じた波数の適切範囲に基づいて、対象の塗装条件が適切であるか否かをより正確に判定することができる。
(項目5) 上記実施形態では、リバースロールコーターにより塗料を帯状体に塗装する塗装条件の適否を判定する情報処理装置についても説明した。本開示のある局面によると、前記情報処理装置は、前記帯状体に塗料を転写するアプリケーターロールに前記塗料を供給するミータリングロールの周速度と、前記ミータリングロールを前記アプリケーターロールに押し当てる荷重値とを少なくとも含む、前記塗装条件を示す情報を取得する取得部と、前記塗装条件を示す情報に基づいて、塗装時に前記アプリケーターロール上に形成される、塗料の波状の凹凸の波数を算出する算出部と、前記波数に基づいて、前記塗装条件の適否を判定する判定部と、を備える。
上記の構成によれば、波数に基づいて、塗装前に、対象の塗装条件の適否を判定することができる。
以下では、一実施例について説明する。本実施例は、塗料が固体粒子成分を含有する場合における、適切な塗装を実現可能なNmの範囲を実証したものである。
表1は、粘度=0.11(N・s/m2)、表面張力=27(N・m/s)の、固体粒子成分を含有する溶剤系塗料を用いてリバースロールコーター10で塗装を行った際の塗装条件、および塗装結果を示す表である。表1に塗装結果を示した実験では、3ロール式のリバースロールコーター10を用いた。また、ミータリングロール13としては、平均粗さRmax0.042mmのメッシュ状の彫刻が施されたロールを用いた。帯状体20としては、アルミニウム合金製の帯板を用いた。ライン速度LSは、7.23D(m/s)に設定した。また、目標塗装膜厚は、13μmに設定した。
表1では、アプリケーターロール14の周速度Vaを、基準となる周速度で除算することにより周速度V’ a(−/s)に規格化し、ミータリングロール13の周速度Vmを、基準となる周速度で除算することにより比ミータリングロール周速度V’ m(−/s)に規格化した。また、ニップ荷重の荷重値Wを、基準となる荷重値Wo(N)で除算することによりW’(−)に規格化した。また、アプリケーターロール14の帯状体への押しつけ力を基準となる押しつけ力で除算して得られる比タッチ力(比押しつけ力)を、W’ as(−)とした。また、表1における波数Nmおよび波数変化度合の最大値dAAmaxは、波数および波の振幅の時間変化率の値で、実機での実測ができないため、実機で観測できるパラメータ(速度、荷重など)から計算で求めた。外乱により、dAAは最大化する傾向にあるため、波数変化度合はdAAmaxと同義である。
表1に示すように、塗装膜に色むらが発生するか否か、すなわち、塗装膜の膜厚が不均一であるか均一であるかは、波数Nmに依存するという結果が得られた。この結果から、塗装条件が適切であるか否かは、波数Nmに依存するといえる。また、波数Nmが2600〜2750である場合に、塗装の色むらは発生しなかった。すなわち、塗装膜の膜厚は比較的均一であった。一方、波数Nmが2600より小さい場合、および波数Nmが2750より大きい場合に、塗装の色むらが発生した。すなわち、塗装膜の膜厚は不均一であった。これらの結果から、塗料が固体粒子成分を含有する場合の、波数Nmの適切範囲は、2600〜2750であることが分かった。
本実施例は、塗料が固体粒子成分を含有しない場合における、適切な塗装を実現可能な波数Nmの範囲を実証したものである。
表2は、粘度=0.12(N・s/m2)かつ表面張力=27(N・m/s)の、固体粒子成分を含有しない溶剤系塗料を用いて、リバースロールコーター10で塗装を行った際の塗装条件、および塗装結果を示す表である。表2に塗装結果を示した実験では3ロール式のリバースロールコーター10を用いた。ミータリングロール13には、平均粗さRmax0.042mmのメッシュ状の彫刻が施されたロールを用いた。帯状体20としては、アルミニウム合金製の帯板を用いた。ライン速度LSは、7.23D(m/s)に設定した。また、目標塗装膜厚は、13μmに設定した。
表2では、アプリケーターロール14の周速度Vaを、基準となる周速度で除算することにより周速度V’ a(−/s)に規格化し、ミータリングロール13の周速度Vmを、基準となる周速度で除算することにより周速度V’ m(−/s)に規格化した。また、ニップ荷重の荷重値Wは、Wo(N)で規格化したW’(−)とし、アプリケーターロール14の帯状体への押しつけ力を、基準となる押しつけ力で除算して得られる比タッチ力(比押しつけ力)を、W’ as(−)とした。また、表2における波数Nmおよび波数変化度合dAAmaxは、表1と同様の意味を持つ。
表2に示すように、塗膜の膜厚が均一になるか否か、または塗装膜に色むらが発生するか否かは、波数Nmに依存するという結果が得られた。また、波数Nmの値が2600〜2900の範囲内である場合に、塗装の色むらは発生しなかった。一方、波数Nmが2600より小さい場合、および波数Nmが2900より大きい場合に、塗装の色むらが発生した。このように、固体粒子成分を含有しない塗料では、固体粒子成分を含有する塗料と比較して、適切な塗装を実現可能な波数Nmの範囲が広がった。このようにして、塗料が固体粒子成分を含有しない場合の、波数Nmの適切範囲は、2600〜2900であることが分かった。
本実施例は、塗料が固体粒子成分を含有する場合における、適切な塗装を実現するための波数Nmの好適値が2650にする場合の最適条件の計算の実証結果を示したものである。
表3は、塗料に固体粒子成分が含有されている場合の、塗装条件計算の結果を示す表である。表3では、V’ mとW’とを、波数Nmが2650となるように設定(最適化)する前の、V’ m、W’、および塗装の結果(色むらの有無)と、最適化した後のV’ m、W’および塗装条件の計算結果を示した。なお、表3に示した塗装実験の番号は、表1で示した塗装実験の番号に応じたものであり、ミータリングロール13の周速度V’ mと、W’以外の塗装条件は、表1の塗装結果を示した実験と同様であることを示している。すなわち、大項目「膜厚」に含まれる小項目「実測」における各値は表1の実験結果を示し、大項目「膜厚」に含まれる小項目「計算」における各値は、塗装条件を最適化した場合における目標膜厚を示す。
表3に示すように、波数Nmが2650となるようにV’ mと、W’とを設定することによって、色むらのない好適な塗装を行う条件を予測できた。また、このように、V’ mと、W’とを、最適化することで、膜厚を変えることなく適切な塗装を実現することが可能となる。
本実施例は、塗料が固体粒子成分を含有しない場合における、好適な塗装を実現するための波数Nmの好適値が2650になるような最適条件計算の実証結果を示したものである。
表4は、塗料に固体粒子成分が含有されていない場合の塗装条件計算の結果を示す表である。表4では、V’ mとW’とを、波数Nmが2650となるように最適化する前の、V’ m、W’、および塗装の結果(色むらの有無)と、最適化した後のV’ m、W’および塗装条件計算結果を示した。なお、表4に示した塗装実験の番号は、表2で示した塗装実験の番号に応じたものである。すなわち、表4に示した塗装実験の番号は、表2の塗装結果を示した実験と同様である。表4の諸元は表3と同様である。
表4に示すように、波数Nmが2650となるようにV’ mと、W’とを設定することによって、色むらのない好適な塗装を行う条件を予測できた。また、このように、V’ mと、W’とを最適化することで、膜厚を変えることなく適切な塗装を実現することが可能となる。