以下、図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について説明する。図面において、同等の構成要素には同等の符号を付す。本発明は下記実施形態に限定されるものではない。以下に記載の「永久磁石」はいずれも、「R‐T‐B系永久磁石」を意味する。以下に記載の「濃度」は、「含有量」と言い換えられてよい。「濃度」の単位は、原子%である。
(永久磁石)
本実施形態に係る永久磁石は、少なくとも希土類元素(R)、遷移金属元素(T)、ホウ素(B)、及びガリウム(Ga)を含有する。
永久磁石は、希土類元素Rとして、少なくともネオジム(Nd)を含有する。永久磁石は、Ndに加えて、さらに他の希土類元素Rを含んでもよい。他の希土類元素Rは、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、及びルテチウム(Lu)からなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
永久磁石は、遷移金属元素Tとして、少なくとも鉄(Fe)を含有する。永久磁石は、遷移金属元素Tとして、Fe及びコバルト(Co)の両方を含有してもよい。
図1中の(a)は、本実施形態に係る直方体状の永久磁石2の模式的な斜視図である。図1中の(b)は、永久磁石2の断面2csの模式図である。図2は、永久磁石2の断面2csの一部(領域II)の拡大図である。永久磁石2の形状は、直方体に限定されない。例えば、永久磁石2の形状は、例えば、立方体、矩形(板)、多角柱、アークセグメント、扇、環状扇形(annular sector)状、球、円板、円柱、筒、リング、又はカプセルであってよい。永久磁石2の断面の形状は、例えば、多角形、円弧(円弦)、弓形、アーチ形、C字形、又は円であってよい。
図2に示されるように、永久磁石2は、互いに焼結した複数(多数)の主相粒子4を備える。主相粒子4は、少なくともNd、T及びBを含む。主相粒子4は、R2T14Bの結晶を含んでよい。R2T14Bは、例えば、(Nd1−xPrx)2(Fe1−yCoy)14Bと表されてよい。xは0以上1未満であってよい。yは0以上1未満であってよい。主相粒子4は、Rとして、軽希土類元素に加えて、Tb及びDy等の重希土類元素を含んでもよい。R2T14BにおけるBの一部が、炭素(C)で置換されていてもよい。主相粒子4は、Nd、T及びBに加えて他の元素を含んでもよい。主相粒子4内の組成は均一であってよい。主相粒子4内の組成は不均一であってもよい。例えば、主相粒子4におけるR、T及びB其々の濃度分布が勾配を有していてもよい。
永久磁石2は、複数の主相粒子4に囲まれた粒界を備える。永久磁石2は、粒界として、粒界多重点6を備えてよい。粒界多重点6は、三つ以上の主相粒子4に囲まれた粒界である。永久磁石2は、複数(多数)の粒界多重点6を備えてよい。永久磁石2は、粒界として、二粒子粒界10を備えてよい。二粒子粒界10は、隣り合う二つの主相粒子4の間に位置する粒界である。永久磁石2は、複数(多数)の二粒子粒界10を備えてよい。
複数の粒界多重点6のうち少なくとも一部の粒界多重点は、Si含有相3を含む。Si含有相3は、その組成に基づいて、主相粒子4及び他の相とは明確に識別される。一つの粒界多重点6が、Si含有相3のみからなっていてよい。一つの粒界多重点6が、Si含有相3に加えて、一つ以上の他の相を更に含んでもよい。二粒子粒界10がSi含有相3を含んでもよい。Si含有相3は、以下のように定義される。
Si含有相3は、希土類元素R’、Si(ケイ素)、Ga及びC(炭素)を含む。R’は、Nd、Pr、Tb及びDyからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Si含有相3は、更に遷移金属元素T’を含んでよい。T’は、Fe及びCoのうち少なくとも一種である。Si含有相3は、更に銅(Cu)を含んでよい。主相粒子4におけるR’、Fe、C、Si及びGaの濃度の合計を100原子%としたとき、主相粒子4におけるR’の濃度の合計は、[R’]m原子%と表される。主相粒子4におけるR’、Fe、C、Si及びGaの濃度の合計を100原子%としたとき、主相粒子4におけるCの濃度は、[C]m原子%と表される。主相粒子4に関する「100原子%」とは、主相粒子4に含まれる全元素の濃度の測定値の合計を意味しない。主相粒子4は、C、Si及びGaを含んでよく、主相粒子4は、C、Si及びGaを含まなくてもよい。Si含有相3におけるR’、Fe、C、Si及びGaの濃度の合計を100原子%としたとき、Si含有相3におけるR’の濃度の合計は、[R’]s原子%と表される。Si含有相3におけるR’、Fe、C、Si及びGaの濃度の合計を100原子%としたとき、Si含有相3におけるCの濃度は、[C]s原子%と表される。Si含有相3におけるR’、Fe、C、Si及びGaの濃度の合計を100原子%としたとき、Si含有相3におけるSiの濃度は、[Si]s原子%と表される。Si含有相3におけるR’、Fe、C、Si及びGaの濃度の合計を100原子%としたとき、Si含有相3におけるGaの濃度は、[Ga]s原子%と表される。Si含有相3に関する「100原子%」とは、Si含有相3に含まれる全元素の濃度の測定値の合計と必ずしも一致するわけではない。つまり、Si含有相3は、R’、Fe、Si、Ga及びCに加えて、他の元素を更に含んでよい。以上の通り、[R’]m、[C]m、[R’]s、[C]s、[Si]s及び[Ga]s其々は、各元素の濃度の相対値である。[R’]sは[R’]mよりも大きい。[C]sは[C]mよりも大きい。[Si]s/[R’]sは、0.12以上0.24以下、又は0.14以上0.22以下である。[Ga]s/[R’]sは、0.010以上0.046以下、又は0.012以上0.044以下である。[Si]s/[Ga]sは、3.0以上18.5以下、又は3.3以上18.3以下である。
[R’]m、[Fe]m、[C]m、[Si]m、[Ga]m、[R’]s、[Fe]s、[C]s、[Si]s及び[Ga]s其々は、以下のように定義されてもよい。主相粒子4におけるR’の濃度の測定値の合計は、(R’)m原子%と表されてよい。主相粒子4におけるFeの濃度の測定値は、(Fe)m原子%と表されてよい。主相粒子4におけるCの濃度の測定値は、(C)m原子%と表されてよい。主相粒子4におけるSiの濃度の測定値は、(Si)m原子%と表されてよい。主相粒子4におけるGaの濃度の測定値は、(Ga)m原子%と表されてよい。(R’)m+(Fe)m+(C)m+(Si)m+(Ga)mは、Σm原子%と表されてよい。[R’]mは、100×(R’)m/Σmと定義されてよい。[Fe]mは、100×(Fe)m/Σmと定義されてよい。[C]mは、100×(C)m/Σmと定義されてよい。[Si]mは、100×(Si)m/Σmと定義されてよい。[Ga]mは、100×(Ga)m/Σmと定義されてよい。Si含有相3におけるR’の濃度の測定値の合計は、(R’)s原子%と表されてよい。Si含有相3におけるFeの濃度の測定値は、(Fe)s原子%と表されてよい。Si含有相3におけるCの濃度の測定値は、(C)s原子%と表されてよい。Si含有相3におけるSiの濃度の測定値は、(Si)s原子%と表されてよい。Si含有相3におけるGaの濃度の測定値は、(Ga)s原子%と表されてよい。(R’)s+(Fe)s+(C)s+(Si)s+(Ga)sは、Σs原子%と表されてよい。[R’]sは、100×(R’)s/Σsと定義されてよい。[Fe]sは、100×(Fe)s/Σsと定義されてよい。[C]sは、100×(C)s/Σsと定義されてよい。[Si]sは、100×(Si)s/Σsと定義されてよい。[Ga]sは、100×(Ga)s/Σsと定義されてよい。
Si含有相3の磁化は、Si含有相3を含有しない従来の粒界多重点の磁化に比べて低いと考えられる。したがって、Si含有相3を含む粒界多重点6が主相粒子4の間にあることにより、主相粒子4同士が磁気的に分断され易いと考えられる。その結果、高温における永久磁石2の保磁力が増加し易い。高温とは、例えば、100℃以上200℃以下であってよい。
Si含有相3はCを含むため、Si含有相3を囲む主相粒子4におけるCの濃度が減少し易い。その結果、Cに起因する主相粒子4の磁気特性の劣化が抑制される。
従来の永久磁石の場合、永久磁石におけるSiの含有量が多いほど、主相粒子4におけるSiの濃度が高くなり、R2T14Bの飽和磁化が低下するため、永久磁石の残留磁束密度が低減し易い。しかし本実施形態に係る永久磁石の粒界多重点6は、Si含有相3を含むため、Si含有相3を囲む主相粒子4におけるSiの濃度が減少し易い。その結果、Siに起因する残留磁束密度の減少が抑制される。
以上の理由により、永久磁石2における重希土類元素の含有量が少ない場合であっても、永久磁石2は、高い残留磁束密度を保ちつつ、高温において高い保磁力を有することができる。ただし、永久磁石2の磁気特性が向上する理由は、上記のメカニズムに限定されない。
[Si]s/[R’]sが0.12未満である場合、GaがSi含有相3に集中し易く、遷移金属リッチ相5が十分に生じないため、保磁力が低減し易い。[Si]s/[R’]sが0.24を超える場合、多くのSiが主相粒子4にも入るため、残留磁束密度が低減し易い。[Ga]s/[R’]sが、0.010未満である場合、遷移金属リッチ相5が生じ難いため、保磁力が低減し易い。[Ga]s/[R’]sが、0.046を超える場合、GaがSi含有相3に集中しているため、遷移金属リッチ相5が十分に生じず、保磁力が低減し易い。[Si]s/[Ga]sが、3.0未満である場合、GaがSi含有相3に集中しているため、遷移金属リッチ相5が十分に生じず、保磁力が低減し易い。[Si]s/[Ga]sが、18.5を超える場合、多くのSiが主相粒子4にも入るため、残留磁束密度が低減し易い。
[R’]m、[Fe]m、[C]m、[Si]m及び[Ga]mは、無作為に選ばれた複数の主相粒子4の組成に基づく平均値であってよい。つまり、複数の主相粒子4其々の[R’]m、[Fe]m、[C]m、[Si]m及び[Ga]mが上記の手順で計算された後、[R’]m、[Fe]m、[C]m、[Si]m及び[Ga]m其々の平均値が計算されてよい。
[R’]s、[Fe]s、[C]s、[Si]s及び[Ga]sは、無作為に選ばれた複数のSi含有相3の組成に基づく平均値であってよい。つまり、複数のSi含有相3其々の[R’]s、[Fe]s、[C]s、[Si]s及び[Ga]sが上記の手順で計算された後、[R’]s、[Fe]s、[C]s、[Si]s及び[Ga]s其々の平均値が算出されてよい。
永久磁石2における重希土類元素の含有量の合計は、0.0質量%以上10質量%以下、又は0.0質量%以上0.5質量%以下であってよい。本実施形態に係る永久磁石2は、重希土類元素を含有しない場合であっても、高温において十分に高い保磁力を有することができる。したがって、永久磁石2は重希土類元素を実質的に含有しなくてよい。高温における永久磁石2の保磁力を更に増加させるために、永久磁石2が重希土類元素を含有してもよい。ただし、重希土類元素の含有量が多すぎる場合、残留磁束密度が減少する傾向がある。重希土類元素の使用を極力控えることで、重希土類元素を使用することの資源リスクを軽減できる。重希土類元素は、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。
重希土類元素は、主相粒子4の表面近傍に局在してよい。その結果、異方性磁界が主相粒子4の表面近傍において局所的に強まり、磁化反転の核が主相粒子4の表面近傍において発生し難く、高温における永久磁石2の保磁力が増加し易い。永久磁石2の表面から永久磁石2の内部へ向かう方向において、重希土類元素の濃度が徐々に減少してもよい。つまり、永久磁石2の内部における重希土類元素の濃度分布が勾配を有していてよい。
Si含有相3を含まない従来の永久磁石の場合、重希土類元素が、粒界に位置するR‐O‐C相にトラップ(trap)され易い。R‐O‐C相とは、R、O及びCを含み、R、O及びC其々の濃度が主相粒子に比べて高い相である。Si含有相3とは異なる相である。R‐O‐C相が重希土類元素をトラップし易いため、重希土類元素は主相粒子の表面近傍へ拡散し難い。その結果、主相粒子の表面近傍における異方性磁界が強まり難く、保磁力が増加し難い。一方、本実施形態に係る永久磁石2の場合、Si含有相3にCが濃縮されるため、R‐O‐C相におけるO(酸素)及びC(炭素)の濃度の比率は、従来のR‐O‐C相におけるO及びCの濃度の比率から変化している。その結果、Tb等の重希土類元素は、R‐O‐C相にトラップされ難い。つまり重希土類元素は、R‐O‐C相に溜まり難いため、主相粒子4の表面近傍へ拡散し易い。その結果、異方性磁界が主相粒子4の表面近傍において局所的に強まり、磁化反転の核が主相粒子4の表面近傍において発生し難く、高温における永久磁石2の保磁力が増加し易い。
少なくとも一部の粒界多重点6は、遷移金属リッチ相5を含んでよい。遷移金属リッチ相5は、遷移金属元素T’、R’及びGaを含む。T’は、Fe及びCoのうち少なくとも一種である。T’は、Feのみであってよい。T’は、Coのみであってもよい。T’は、Fe及びCoの両方であってもよい。遷移金属リッチ相5は、Siを含んでもよい。遷移金属リッチ相5におけるT’の濃度の合計は、(T’)t原子%と表される。Si含有相3におけるT’の濃度の合計は、(T’)s原子%と表される。(T’)tは、(T’)sよりも大きい。遷移金属リッチ相5は、その組成に基づいて、主相粒子4及び他の粒界相とは明確に識別される。一つの粒界多重点6が、遷移金属リッチ相5のみからなっていてよい。一つの粒界多重点6が、遷移金属リッチ相5に加えて、一つ以上の他の相を更に含んでもよい。例えば、一つの粒界多重点6が、遷移金属リッチ相5及びSi含有相3の両方を含んでよい。二粒子粒界10が遷移金属リッチ相5を含んでもよい。
遷移金属リッチ相5の磁化は、Gaを含まない従来の粒界多重点の磁化に比べて低い。磁化が低い遷移金属リッチ相5が、隣り合う二つ以上の主相粒子4の間にあることにより、主相粒子4同士の磁気的な結合が分断される。つまり、隣り合う二つ以上のR2T14Bの結晶粒が、磁化の低い遷移金属リッチ相5の介在によって、互いに分離される。したがって、永久磁石2が遷移金属リッチ相5を含有することにより、高温での保磁力が増加し易い。
上述の通り、[Si]s/[Ga]sは3.0以上18.5以下であり、Si含有相3におけるGaの濃度はSi含有相3におけるSiの濃度よりも抑制されている。したがって、Si含有相3以外の粒界は、遷移金属リッチ相5の形成のために充分なGaを含むことが可能であり、遷移金属リッチ相5が形成され易い。粒界におけるGaの濃度が低過ぎる場合、R’、T’及びSiからなる相が粒界相として形成され易く、[Si]s/[Ga]sが18.5以下であるSi含有相3が形成され難く、遷移金属リッチ相5も形成され難い。
遷移金属リッチ相5におけるR’の濃度の合計は、(R’)t原子%と表される。(T’)t/(R’)tは、1.50以上3.00以下であってよい。遷移金属リッチ相5は、R’6T’13Gaを含む相であってよい。遷移金属リッチ相5は、R’6T’13Gaのみからなる相であってもよい。R’6T’13Gaは、例えば、Nd6Fe13Gaであってよい。
(T’)tは、無作為に選ばれた複数の遷移金属リッチ相5其々におけるT’の濃度の合計の平均値であってよい。(T’)tは、例えば40.00原子%以上70.00原子%以下であってよい。(T’)sは、無作為に選ばれた複数のSi含有相3其々におけるT’の濃度の合計の平均値であってよい。(T’)sは、例えば10.00原子%以上20.00原子%以下であってよい。遷移金属リッチ相5に含まれるT’は、Si含有相3に含まれるT’と共通していてよい。遷移金属リッチ相5に含まれるT’は、Si含有相3に含まれるT’と異なっていてもよい。遷移金属リッチ相5に含まれるR’は、主相粒子4に含まれるR’と共通していてよい。遷移金属リッチ相5に含まれるR’は、主相粒子4に含まれるR’と異なっていてもよい。遷移金属リッチ相5に含まれるR’は、Si含有相3に含まれるR’と共通していてよい。遷移金属リッチ相5に含まれるR’は、Si含有相3に含まれるR’と異なっていてもよい。
一部の粒界多重点6は、Si含有相3及び遷移金属リッチ相5以外の他の相を含んでよい。例えば、一部の粒界多重点6は、希土類元素リッチ相を含んでよい。希土類元素リッチ相は、他の粒界相に比べて希土類元素R’の濃度の合計が高い相である。一部の粒界多重点6は、酸化物相を含んでよい。酸化物相は、希土類元素R’の酸化物を含む相、又はR’の酸化物のみからなる相である。
永久磁石2の断面2csに露出する全ての粒界多重点6のうち、Si含有相3を含む粒界多重点6の個数の割合は、5%以上80%以下であってよい。Si含有相3を含む粒界多重点6の個数の割合が上記範囲内である場合、永久磁石2は高い残留磁束密度を保ちつつ、高温において高い保磁力を有し易い。
主相粒子4の平均粒子径又はD50は、特に限定されないが、例えば、1.0μm以上10.0μm以下又は1.5μm以上6.0μm以下であってよい。永久磁石2における主相粒子4の体積の割合の合計は、特に限定されないが、例えば、80体積%以上100体積%未満であってよい。
主相粒子4、粒界多重点6及び二粒子粒界10其々の組成は、永久磁石2の断面2csに露出する主相粒子4、粒界多重点6及び二粒子粒界10其々の分析によって特定されてよい。永久磁石2の断面2csに露出する主相粒子4、粒界多重点6及び二粒子粒界10は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって撮影される断面の画像において容易に識別される。主相粒子4、粒界多重点6及び二粒子粒界10其々の組成は、電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)又はエネルギー分散型X線分光(EDS)によって分析されてよい。
永久磁石2の全体の具体的な組成は、以下に説明される。ただし、永久磁石2の組成の範囲は以下に限定されるものではない。上述したSi含有相3の組成に起因する本発明の効果が得られる限りにおいて、永久磁石2の組成は以下の組成の範囲を外れてもよい。
永久磁石におけるSiの含有量は、0.08質量%以上1.50質量%以下、又は0.12質量%以上0.60質量%以下であってよい。永久磁石2におけるGaの含有量は、0.06質量%以上0.60質量%以下、又は0.10質量%以上0.30%質量以下であってよい。永久磁石2におけるSiの含有量は、<Si>質量%と表されてよい。永久磁石2におけるGaの含有量は<Ga>質量%と表されてよい。<Si>/<Ga>は、1.2以上2.5以下、又は1.2以上2.0以下であってよい。永久磁石2におけるSi及びGa其々の含有量、及び<Si>/<Ga>が上記範囲内である場合、Si含有相3が粒界多重点6において形成され易い。
永久磁石2におけるCの含有量は、0.0質量%より多く0.1質量%未満、又は0.040質量%以上0.095質量%以下であってよい。Cの含有量が上記の範囲内である場合、Cに起因する主相粒子4の磁気特性の劣化が抑制され易く、且つSi含有相3の形成にとって十分なCが粒界多重点6に含まれ易い。永久磁石2におけるCの含有量は<C>質量%と表されてよい。永久磁石におけるOの含有量は、0.0質量%以上0.5質量%以下、又は0.03質量%以上0.2質量%以下であってよい。Oの含有量が上記範囲内である場合、磁気特性および耐食性が向上しやすい。永久磁石2におけるOの含有量は<O>質量%と表されてよい。<C>/<O>は、1以上3以下であってよい。換言すれば、永久磁石2におけるOの含有量は、永久磁石2におけるCの含有量の1/3倍以上1倍以下であってよい。重希土類元素は、粒界多重点6中のR‐O‐C相によってトラップされ易い傾向がある。したがって、粒界多重点6における重希土類元素のトラップを抑制するためには、粒界多重点6中のR‐O‐C相が少なく、且つSi含有相3の形成にとって十分なCが粒界多重点6に含まれることが好ましい。<C>/<O>が1以上3以下である場合、粒界多重点6中のR‐O‐C相が少なく、且つSi含有相3の形成にとって十分なCが粒界多重点6に含まれる。その結果、重希土類元素が粒界多重点6のR‐O‐C相にトラップされ難い。
永久磁石におけるRの含有量は、25〜35質量%又は29〜34質量%であってよい。永久磁石がRとして重希土類元素を含む場合、重希土類元素を含む全ての希土類元素の合計の含有量が25〜35質量%又は29〜34質量%であってよい。Rの含有量がこの範囲であることにより、残留磁束密度及び保磁力が増加する傾向がある。Rの含有量が少なすぎる場合、主相粒子(R2T14B)が形成され難く、軟磁性を有するα‐Fe相が形成され易い。その結果、保磁力が減少する傾向がある。一方、Rの含有量が多すぎる場合、主相粒子の体積比率が低くなり、残留磁束密度が減少する傾向がある。残留磁束密度及び保磁力が増加し易いことから、全希土類元素Rに占めるNd及びPrの割合の合計は、80〜100原子%又は95〜100原子%であってよい。
永久磁石におけるBの含有量は、0.5〜1.5質量%、又は0.75〜0.98質量%であってよい。Bの含有量が上記範囲内である場合、Si含有相が形成され易い。Bの含有量が、R2T14Bで表される主相の組成の化学量論比よりも少ないことで、遷移金属リッチ相5が形成され易く、保磁力が向上し易い。Bの含有量が少なすぎる場合、R2T17相が析出し易く、保磁力が減少する傾向がある。一方、Bの含有量が多すぎる場合、遷移金属リッチ相5が形成され難い。
永久磁石は、Coを含有してよい。永久磁石におけるCoの含有量は、0.1〜4.0質量%、又は0.5〜1.5質量%であってよい。永久磁石がCoを含むことにより、永久磁石のキュリー温度が増加し易い。また永久磁石がCoを含むことにより、粒界相の耐食性が向上し易く、永久磁石全体の耐食性が向上し易い。
永久磁石は、アルミニウム(Al)を含有してよい。永久磁石におけるAlの含有量は、0.03〜0.6質量%、又は0.1〜0.4質量%であってよい。Alの含有量が上記範囲であることにより、永久磁石の保磁力及び耐食性が向上し易い。
永久磁石は、銅(Cu)を含有してよい。永久磁石におけるCuの含有量は0.05〜1.5質量%、又は0.15〜0.6質量%であってよい。Cuの含有量が上記範囲であることにより、永久磁石の保磁力、耐食性及び温度特性が向上し易い。
永久磁石は、ジルコニウム(Zr)を含有してよい。永久磁石におけるZrの含有量は、0.2〜1.5質量%であってよい。Zrは、永久磁石の製造過程(焼結工程)で、主相粒子(結晶粒)の異常粒成長を抑制し、永久磁石の組織を均一且つ微細にして、永久磁石の磁気特性を向上させる。
永久磁石は窒素(N)を含有してよい。永久磁石におけるNの含有量は、0.01〜0.2質量%であってよい。Nの含有量が多すぎる場合、保磁力が減少する傾向がある。
永久磁石から上述の元素を除いた残部は、Feのみ、又はFe及びその他の元素であってよい。永久磁石が十分な磁気特性を有するためには、残部のうち、Fe以外の元素の含有量の合計は、永久磁石の全質量に対して0〜5質量%であってよい。
永久磁石は、その他の元素として、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ビスマス(Bi)、カルシウム(Ca)、塩素(Cl)、硫黄(S)及びフッ素(F)からなる群より選ばれる少なくとも一種を含有してよい。
以上の永久磁石全体の組成は、例えば、蛍光X線(XRF)分析法、高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析法、不活性ガス融解‐非分散型赤外線吸収(NDIR)法、酸素気流中燃焼‐赤外吸収法及び不活性ガス融解‐熱伝導度法等によって分析されてよい。
本実施形態に係る永久磁石は、モータ、発電機又はアクチュエーター等に適用されてよい。例えば、永久磁石は、ハイブリッド自動車、電気自動車、ハードディスクドライブ、磁気共鳴画像装置(MRI)、スマートフォン、デジタルカメラ、薄型TV、スキャナー、エアコン、ヒートポンプ、冷蔵庫、掃除機、洗濯乾燥機、エレベーター及び風力発電機等の様々な分野で利用される。
(永久磁石の製造方法)
以下では、上述の永久磁石の製造方法が説明される。
上述の永久磁石を構成する各元素を含む金属(原料金属)から、原料合金を作製する。原料合金は、ストリップキャスティング法、ブックモールド法、又は遠心鋳造法によって作製されてよい。原料金属は、例えば、希土類元素の単体(金属単体)、希土類元素を含む合金、純鉄、フェロボロン、又はこれらを含む合金であってよい。これらの原料金属を、所望の永久磁石の組成に一致するように秤量する。
原料合金として、第1合金及び第2合金が用いられてよい。つまり、二合金法によって永久磁石が製造されてよい。
第1合金は、少なくともR、T(Fe)及びBを含む。第1合金は、Rとして重希土類元素を含まなくてよい。第1合金は、Rとして重希土類元素を含んでもよい。第2合金は、少なくともR、T(Fe)、Si及びGaを含む。第2合金は、Rとして重希土類元素を含まなくてよい。第2合金は、Rとして重希土類元素を含んでもよい。第2合金は、Bを含まなくてよい。第2合金は、Bを含んでもよい。
第2合金におけるSiの含有量は、第1合金におけるSiの含有量よりも多いことが好ましく、第2合金におけるGaの含有量は、第1合金におけるGaの含有量よりも多いことが好ましい。第2合金が第1合金に比べて多量のSi及びGaを含むことにより、Si含有相を含む永久磁石が得られ易い。第2合金におけるSiの含有量は、例えば、0.4質量%以上15質量%以下、又は2.0質量%以上2.6質量%以下であってよい。第2合金におけるGaの含有量は、例えば、0.3質量%以上6.0質量%以下、又は1.3質量%以上1.9質量%以下であってよい。第1合金は、Si及びGaを含まなくてよい。第1合金は、Si及びGaのうち少なくともいずれかを含んでもよい。
以下の各工程は、酸素濃度が100ppm未満である非酸化的雰囲気下で実施されてよい。
上記の各原料合金を粉砕して、原料合金粉末が得られる。原料合金を、粗粉砕工程及び微粉砕工程の二段階で粉砕してよい。粗粉砕工程では、水素が原料合金へ吸蔵される。水素の吸蔵後、原料合金の加熱により水素が原料合金から脱離する。水素の脱離により、原料合金が粉砕される。粗粉砕工程においては、原料合金の粒径が数百μm又は数mm程度となるまで原料合金を粉砕する。第1合金及び第2合金其々の粗粉砕工程は、個別に実施されてよい。
粗粉砕工程に続く微粉砕工程では、原料合金を、その平均粒径が0.1〜10.0μmとなるまで更に粉砕する。微粉砕工程では、例えば、ジェットミル、又はビーズミル等の粉砕装置を用いてよい。第1合金及び第2合金其々の微粉砕工程は、個別に実施されてよい。
微粉砕工程では、粉砕助剤(潤滑剤)が原料合金へ添加されてよい。粉砕助剤の添加により、原料合金の凝集、及び粉砕装置への原料合金の付着が抑制される。粉砕助剤は、例えば、脂肪酸エステル、アミンカルボン酸塩、脂肪族アミン、脂肪酸及び脂肪酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも一種の有機化合物であってよい。Si含有相に含まれるCの少なくとも一部は、粉砕助剤に含まれるCに由来してよい。具体的な粉砕助剤は、例えば、エチレングリコールジステアレート、ステアリン酸メチル、オクタデシルアミン酢酸塩、オクチルアミン、カプリル酸、ラウリン酸アミド及びオレイン酸アミドからなる群より選ばれる少なくとも一種であってよい。粉砕助剤の質量は、100質量部の原料合金に対して0.04質量部以上0.1質量部以下であってよい。原料合金に添加される粉砕助剤の質量が上記範囲内である場合、Si含有相を含む永久磁石が得られ易く、永久磁石におけるCの含有量が、0.0質量%より多く0.1質量%未満である範囲に制御され易い。
第1合金の粉末及び第2合金の粉末は、所定の混合比で混合される。混合比は、第1合金及び第2合金の混合物の全体的な組成が、目的とする永久磁石の組成に略一致し、且つSi含有相が形成され易い比率であってよい。第1合金の質量はM1と表されてよく、第2合金の質量はM2と表されてよく、混合比はM1/M2と表されてよい。M1/M2は、例えば、80/20以上97/3以下、又は85/15以上97/3以下であってよい。第1合金及び第2合金の混合に伴って、潤滑剤が第1合金及び第2合金へ添加されてよい。以下に記載の原料合金粉末は、第1合金及び第2合金の混合物を意味する。
原料合金粉末を磁場中で成形して、成形体を得る。例えば、金型内の原料合金粉末に磁場を印加しながら、原料合金粉末を金型で加圧することにより、成形体を得る。金型が原料合金粉末に及ぼす圧力は、30MPa以上300MPa以下であってよい。原料合金粉末に印加される磁場の強さは、950kA/m以上1600kA/m以下であってよい。原料合金粉末及び有機溶媒の混合物(スラリー)が成形されてよい。つまり、湿式成形によって、成形体が形成されてよい。
焼結工程では、成形体を、真空又は不活性ガスの中で焼結させることにより、焼結体が得られる。焼結工程の諸条件は、目的とする永久磁石の組成、原料合金の粉砕方法及び粒度等に応じて、適宜設定されてよい。
焼結工程は、第一昇温過程と、第一昇温過程に続く温度保持過程と、温度保持過程に続く第二昇温過程と、第二昇温過程に続く焼結過程とを有する。第一昇温過程では、成形体が設置された焼結炉内の雰囲気の温度が、室温から中間温度Tmまで上昇する。温度保持過程では、焼結炉内の雰囲気の温度をTmに保持しながら、成形体が加熱される。第二昇温過程では、焼結炉内の雰囲気の温度が、Tmから焼結温度Tsまで上昇する。焼結過程では、成形体がTsで加熱される。Tmは、500℃以上700℃以下であってよい。温度保持過程の継続時間は、0.5時間以上3時間以下であってよい。Tsは、900℃以上1200℃以下であってよい。焼結過程の継続時間は、1時間以上30時間以下であってよい。
以下のメカニズムにより、Si含有相を含む粒界多重点が焼結体内に形成される。
粉砕助剤、潤滑剤及び有機溶媒のうち少なくともいずれかに由来する有機化合物は、成形体中に残存する。成形体中の有機化合物は第一昇温過程において熱的に分解される。しかし、成形体中の有機化合物は完全には分解されないため、炭素又はその化合物として成形体中に残存する。成形体に含まれる第2合金の少なくとも一部は、粗粉砕工程において既に水素化物になっている。第2合金は、第1合金に比べて多量のSi及びGaを含んでいるため、第2合金の融点は第1合金の融点よりも低い。したがって、温度保持過程において第2合金の水素化物から水素が脱離することにより、第2合金の液相が生じる。この液相中のR’、Si及びGaが、上記の炭素と優先的に反応することにより、Si含有相が第1合金の粒子の間に析出する。Tmが500℃未満である場合、第2合金の液相が生じ難く、液相におけるR’、Si、Ga及び炭素の反応が起き難い。同様の問題は、温度保持過程の継続時間が0.5時間未満である場合も起き易い。Tmが700℃よりも高い場合、炭素が他の相とも反応し易いため、Si含有相3が形成され難い。温度保持過程の継続時間が3時間よりも長い場合、永久磁石の生産効率が低下する。
上記の通り、Si含有相の形成には温度保持過程が必要である。ただしSi含有相が形成されるメカニズムは、必ずしも上記のメカニズムに限定されない。
時効処理工程において、焼結体が更に加熱されてよい。時効処理工程により、焼結体の磁気特性が向上する。時効処理工程の雰囲気は、真空又は不活性ガスであってよい。時効処理工程では、焼結体が約600℃で1〜3時間加熱されてよい。多段階の時効処理工程が実施されてもよい。例えば、第一時効処理では、焼結体が700〜900℃で1〜3時間加熱されてよく、第一時効処理に続く第二時効処理では、焼結体が500〜700℃で1〜3時間加熱されてよい。焼結工程に続いて時効処理工程が実施されてよい。
時効処理工程に続く冷却工程により、焼結体が急冷されてよい。焼結体は、Arガス等の不活性ガス中で急冷されてよい。焼結体の冷却速度は、例えば5℃/分以上100℃/分以下であってよい。
加工工程では、切削及び研磨等により、焼結体の寸法及び形状が調整されてよい。以上方法によって得られた焼結体(基材)は、重希土類元素を含んでいなくてよい。つまり、拡散工程前の焼結体は、重希土類元素を含んでいなくてよい。拡散工程前の焼結体が、既に重希土類元素を含んでいてもよい。焼結体中の重希土類元素の有無に関わらず、以下の拡散工程が実施されてよい。ただし拡散工程は必須ではない。
重希土類元素を含む永久磁石を製造する場合、拡散工程が実施されてよい。拡散工程では、重希土類元素又はその化合物を上記の焼結体の表面に付着させた後、焼結体が加熱されてもよい。例えば、重希土類元素の水素化物を焼結体の表面に付着させてよい。重希土類元素を含む蒸気中において、焼結体が加熱されてもよい。拡散工程により、重希土類元素が焼結体の表面から内部へ拡散し、さらに重希土類元素が粒界を介して主相粒子の表面へ拡散する。
重希土類元素を含有する塗料が焼結体に表面に塗布されてよい。塗料が重希土類元素を含む限り、塗料の組成は限定されない。塗料は、例えば、重希土類元素の単体、重希土類元素を含む合金、水素化物、フッ化物、又は酸化物等の化合物を含んでよい。塗料に含まれる溶媒(分散媒)は、水以外の溶媒であってよい。例えば、溶媒は、アルコール、アルデヒド、又はケトン等の有機溶媒であってよい。塗料における重希土類元素の濃度は限定されない。
拡散工程における拡散処理温度は、800℃以上950℃以下であってよい。拡散処理時間は、1時間以上50時間以下であってよい。拡散処理温度及び拡散処理時間が上記の範囲内であることにより、重希土類元素の濃度分布を制御し易く、永久磁石の製造コストが低減される。拡散工程が上述の時効処理工程を兼ねてもよい。
拡散工程後に、さらに熱処理を永久磁石に施してもよい。拡散工程後の熱処理温度は、450℃以上600℃以下であってよい。熱処理時間は、1時間以上10時間以下であってよい。拡散工程後の熱処理によって、最終的に得られる永久磁石の磁気特性(特に保磁力)が向上し易い。
拡散工程の後、切削及び研磨等により、焼結体の寸法及び形状が調整されてよい。
熱処理工程、加工工程及び拡散工程の順序は限定されない。
焼結体の表面の酸化又は化成処理(chemical treatment)により、不動態(passive)層が焼結体の表面に形成されてよい。焼結体の表面が樹脂膜で覆われてもよい。不動態層又は樹脂膜の形成により、永久磁石の耐食性が向上する。
以上の方法により、本実施形態に係る永久磁石が得られる。
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、R‐T‐B系永久磁石は、熱間加工磁石であってよい。焼結体の代わりに熱間加工磁石を用いた上記の拡散工程が実施されてよい。
以下では実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
(実施例1)
[永久磁石の作製]
ストリップキャスティング法により、永久磁石の原料金属から第1合金A及び第2合金Aを作製した。原料金属の秤量により、第1合金A及び第2合金A其々の組成を調整した。第1合金A中の各元素の含有量は、下記表1に示される値に調整された。第2合金A中の各元素の含有量は、下記表1に示される値に調整された。下記の表1中のR(T.RE)は、Nd、Pr、Dy及びTbを意味する。Fe、Nd、Pr、Dy、Tb、Co、Cu、Al、Zr、Si及びGa其々の含有量は、蛍光X線分析により測定した。Bの濃度は、ICP発光分析により測定した。
第1合金A及び第2合金Aは、以下の方法により別々に粉砕された。
室温において水素を第1合金Aへ吸蔵させた。Ar雰囲気中において第1合金Aを500℃で3時間加熱して脱水素することにより、第1合金粉末を得た。つまり粗粉砕工程として、水素粉砕処理を行った。
粉砕助剤としてオレイン酸アミドを第1合金粉末へ添加して、これらを円錐型混合機で混合した。オレイン酸アミドの添加量は、100質量部の第1合金粉末に対して0.09質量部であった。粗粉砕工程に続く微粉砕工程では、ジェットミルを用いて、第1合金粉末の平均粒径を4μmに調整した。微粉砕工程から成形工程までの各工程は、酸素濃度が50ppm未満である窒素ガス中で実施した。
第1合金Aの粉砕方法と同様の方法により、第2合金Aを粉砕して第2合金粉末を得た。
第1合金A及び第2合金Aの混合物の全体的な組成が、下記表1に記載の焼結体の組成に一致するように、第1合金粉末及び第2合金粉末が秤量された。これらを円錐型混合器で混合することにより、原料合金粉末を得た。第1合金粉末の質量M1と第2合金粉末の質量M2との比(M1/M2)は、90/10であった。
成形工程では、原料合金粉末を金型内に充填した。そして、1200kA/mの磁場を金型内の原料粉末へ印加しながら、原料粉末を120MPaで加圧することにより、成形体を得た。
以下の焼結工程が実施された。
焼結工程は、第一昇温過程と、第一昇温過程に続く温度保持過程と、温度保持過程に続く第二昇温過程と、第二昇温過程に続く焼結過程とを有していた。第一昇温過程では、成形体を焼結炉内に設置し、焼結炉内の雰囲気の温度を室温から600℃(中間温度Tm)まで上げた。焼結炉内の雰囲気は、5kPaのArガスであった。第一昇温過程の昇温速度は6℃/分であった。温度保持過程では、焼結炉内を真空にして、焼結炉内の雰囲気の温度を600℃に保持しながら、成形体を2時間加熱した。第二昇温過程では、焼結炉内の雰囲気の温度を、600℃から1060℃(焼結温度Ts)まで上げた。焼結過程では、成形体を1060℃の真空中で4時間加熱することにより、焼結体を得た。焼結過程に続いて、焼結体を急冷した。
時効処理工程として、第一時効処理と、第一時効処理に続く第二時効処理を実施した。第一時効処理及び第二時効処理のいずれにおいても、焼結体をArガス中で加熱した。第一時効処理では、焼結体を850℃で1.5時間加熱した。第二時効処理では、焼結体を510℃で1.5時間加熱した。
時効処理工程後、バーチカル加工により、焼結体の寸法を縦幅14mm×横幅10mm×厚み3.7mmに調整した。つまり、板状の焼結体を形成した。
100質量部のエタノールと3質量部の硝酸を混合することにより、エッチング液を調製した。焼結体をエッチング液中に3分間浸漬した後、焼結体をエタノール中に1分間浸漬した。このエッチング処理を2回行った。
TbH2からなる粒子をエタノール中に分散させることにより、スラリーを調製した。TbH2からなる粒子の粒径D50は、10μmであった。エッチング処理後の焼結体の全ての表面にスラリーが塗布された。塗布されたスラリー中のTbの質量は、100質量部の焼結体に対して0.6質量部であった。
拡散工程では、スラリーが塗布された焼結体を熱処理炉内において930℃で24時間加熱した。拡散工程では、Arガスを熱処理炉内へ流し続けた。熱処理炉内の気圧は大気圧に維持された。拡散工程に続く熱処理では、焼結体を510℃で3時間加熱した。熱処理後の焼結体の寸法は、縦14mm×横10mm×厚さ3.7mmであった。焼結体の各表面を、0.1mmの厚さで削り落とした。
以上の方法により、実施例1の永久磁石(焼結磁石)を得た。後述される分析及び測定のために、複数個の実施例1の永久磁石を作製した。
(実施例2及び3)
実施例2の永久磁石の作製には、第1合金Aの代わりに第1合金Bを用い、第2合金Aの代わりに第2合金Bを用いた。第1合金B及び第2合金B其々の組成は、下記表1に示される。
実施例3の永久磁石の作製には、第1合金Aの代わりに第1合金Cを用い、第2合金Aの代わりに第2合金Cを用いた。第1合金C及び第2合金C其々の組成は、下記表1に示される。
第1合金及び第2合金の組成を除いて実施例1と同様の方法で、実施例2及び3其々の永久磁石を作製した。
(比較例1〜3)
比較例1の永久磁石の作製には、原料合金として、原料合金1のみを用いた。比較例2の永久磁石の作製には、原料合金として、原料合金2のみを用いた。比較例3の永久磁石の作製には、原料合金として、原料合金3のみを用いた。原料合金1〜3其々の組成は、下記表1に示される。
原料合金を除いて実施例1と同様の方法で、比較例1〜3其々の永久磁石を作製した。
[永久磁石の組成の分析]
永久磁石をスタンプミルで粉砕することにより、分析用の試料を調製した。蛍光X線分析及びICP発光分析により、試料の組成を分析した。実施例1〜3及び比較例1〜3のいずれの場合も、永久磁石がTbを含むことを除いて、永久磁石の組成は、下記表1に示される焼結体の組成にほぼ一致した。実施例1〜3及び比較例1〜3のいずれの場合も、永久磁石におけるOの含有量<O>は0.05質量%であり、永久磁石におけるCの含有量<C>は0.08質量%であり、<C>/<O>は1.6であった。
[永久磁石の断面の分析]
永久磁石を、その磁化方向に対して垂直に切断した。永久磁石の断面をイオンミリングで削り、断面に形成された酸化物等の不純物を除去した。続いて、永久磁石の断面の一部の領域を、走査型電子顕微鏡(SEM)と電子線プローブマイクロアナライザ(EPMA)で分析した。分析された領域の寸法は、50μm×50μmであった。分析された領域は、永久磁石の断面の中央付近に位置していた。
実施例1〜3其々の永久磁石は以下の特徴を有していた。
永久磁石は、多数の主相粒子と、多数の粒界多重点と、を備えていた。各主相粒子は、少なくともNd、Pr、Fe及びBを含んでいた。少なくとも一部の主相粒子は、更にSi、Ga及びCを含んでいた。複数の粒界多重点は、Si含有相であった。いずれのSi含有相も、少なくとも希土類元素R’、Si、Ga及びCを含んでいた。R’は、Nd、Pr及びTbからなる群より選ばれる少なくとも一種である。Si含有相に含まれるR’、Fe、C、Si及びGaの濃度の合計を100原子%としたときの、各実施例のSi含有相におけるR’、Fe、Si、Ga及びC其々の濃度は、下記表2に示される。表2中のR’(T.R’E)の濃度とは、Si含有相におけるNd、Pr及びTbの濃度の合計である。Si含有相における各元素の濃度は、3個のSi含有相における各元素の濃度から算出された平均値である。平均値の算出方法は、上述の通りである。3個のSi含有相は、分析された領域から無作為に選ばれた。Si含有相におけるR’、Si及びGa其々の濃度から算出された[Si]s/[R’]s、[Ga]s/[R’]s及び[Si]s/[Ga]sは、下記表2に示される。主相粒子に含まれるR’、Fe、C、Si及びGaの濃度の合計を100原子%としたときの、各実施例の主相粒子におけるR’、Fe、Si、Ga及びC其々の濃度は、下記表2に示される。主相粒子における各元素の濃度は、6個の主相粒子における各元素の濃度から算出された平均値である。平均値の算出方法は、上述の通りである。6個の主相粒子は、分析された領域から無作為に選ばれた。EPMAによって測定されるCの濃度の値は、EPMA装置中に存在する有機化合物の影響で、実際の値よりも高くなる傾向があるが、Cの濃度の大小関係は影響されない。
比較例1〜3其々の永久磁石のいずれも、多数の主相粒子と、多数の粒界多重点と、を備えていた。しかし、比較例1〜3其々の永久磁石のいずれにおいても、Si含有相は検出されなかった。
全ての実施例及び比較例の永久磁石におけるTbの濃度分布をEPMAで分析した。実施例1〜3及び比較例1〜3のいずれの場合も、Tbの濃度は永久磁石の表面から内部に向かって徐々に低下していた。
[磁気特性の測定]
23℃(室温)における永久磁石の残留磁束密度(Br)を測定した。Brの単位は、mTである。また150℃(高温)における永久磁石の保磁力(HcJ)を測定した。HcJの単位は、kA/mである。Br及びHcJの測定には、B‐Hトレーサーを用いた。実施例1〜3及び比較例1〜3其々の永久磁石のBr及びHcJは、下記表2に示される。Brは1390mT以上であることが好ましく、HcJは800kA/m以上であることが好ましい。