JP2020130165A - 生体試料を含む固化体 - Google Patents

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Abstract

【課題】生体試料を高い細胞生存率で含む固化体、およびその製造方法を提供することを目的とする。【解決手段】水性溶媒と水溶性高分子またはその塩とを含有するマトリクスおよび生体試料を含み、生体試料が、固化する前の培養液中と比べて1より小さく1/3.5以上に縮小された正射影面積を有し、可視光を透過させた場合に光射出側から見て、生体試料が占める領域のマンセル表色系における明度およびマトリクスが占める領域のマンセル表色系における明度の差が3以下であり、DSC曲線の吸熱ピークが確認されないか、または吸熱ピークが確認される温度が−1.4℃を超え、1.1℃以下である固化体。【選択図】なし

Description

本発明は、マトリクスおよび生体試料を含む固化体または固化体を製造する方法に関する。
近年の再生医療研究の飛躍的な発展に伴い、ヒトにのみならず獣医分野においても細胞治療などの再生医療が積極的に行われている。生体から採取した骨髄由来間葉系幹細胞や脂肪由来間葉系幹細胞は、採取の後に大量に増やし、上記のような再生医療や再生医療研究に用いられる。この際、余剰に増やした細胞を凍結保存し、適宜使用することが一般的である。また、このような細胞の安定供給に対する需要も高まっている。
細胞の凍結保存メカニズムにおいて、凍結および/または解凍の過程で細胞内に氷結晶が成長すると、細胞膜や細胞内構造が損傷を受けたり、細胞のタンパク質が変性したりして細胞が致命的なダメージを受けてしまうことが知られている。したがって、細胞を凍結保存する際には、細胞内凍結を防ぐことが重要であり、通常、細胞の凍結保存には、メチルスルホキシド(DMSO)、グリセリン、プロピレングリコールなどの低分子化合物が細胞内浸透型の凍結保護試薬として、培養培地などの緩衝液に加えることにより用いられている(特許文献1)。このうち、DMSOが最もよく用いられており、細胞や細胞小器官を保護する効果は良好である。しかしながら、細胞内浸透型の凍結保存液では、細胞内に凍結保護試薬である低分子化合物が浸透するため、凍結保護試薬の細胞への影響が懸念されている(非特許文献1)。
そこで、化学物質の代わりに、凍結保護試薬として天然の凍結保護剤を利用する試みも行われている。例えば、二糖、オリゴ糖、または高分子多糖が非浸透型の凍結保護試薬として、培養培地などの緩衝液に加えることが知られている。
また、ハイドロゲルを形成する架橋体内に生体成分を保持させる方法も検討されている。特許文献2には、重量平均分子量が5000〜400万である原料のヒアルロン酸に、水酸基と反応して架橋構造を形成する置換基を有する側鎖が導入された修飾ヒアルロン酸を原料とした生体成分用保存剤が記載されている。修飾ヒアルロン酸は、ポリビニルアルコールなどの複数の水酸基を有する化合物の水酸基と反応して修飾ヒアルロン酸を架橋した架橋物となり、この寒天状のハイドロゲル中に生体成分が包埋されることにより保存剤として使用されている。特許文献2に記載のハイドロゲルの実際の保存剤としての分子量は数百万以上であると推測される。特許文献2においては、生体成分の保存は約4℃の冷蔵で実施されており保存期間は数日程度である。
また、特許文献3では、ポリアミノ酸のアミノ基が、カルボン酸無水物でカルボキシル化(またはアセチル化)されることによりブロックされているカルボキシル化ポリアミノ酸と有機両性剤とを含む凍結保存組成物が記載されている。さらに、特許文献4では、フルクタンが細胞保存液の有効成分として開示されている。
特開昭63−216476号公報 国際公開第2016/076317号 特表2018−533377号公報 特開2012−235728号公報
REJUVENATION RESEARCH Volume 18 Number 5,2015 Mary Ann Liebert, Inc.
細胞内浸透型の凍結保護物質は、細胞の脱水を促進させることにより、細胞内に形成される氷晶の形成速度を遅らせ、氷晶形成を阻害する。特にDMSOは細胞内に浸透しやすく、したがって、哺乳動物細胞などの複雑な構造をもつ細胞の凍結保存に有効であるが、上述の非特許文献1にも記載されているように、DMSOのような化学物質は細胞毒性を有している。凍結保護物質の細胞内への浸透が進み細胞内濃度が上昇すると毒性の影響も高まると考えられる。
さらに、DMSOは、HL−60細胞やP19CL6細胞(マウス胎生期癌(embryonal carcinoma)細胞由来)などの分化を誘導すること(PNAS March 27, 2001 98 (7) 3826-3831.およびBiochem Biophys Res Commun. 2004 Sep 24;322(3):759-65.)、また、ES細胞の分化に影響を及ぼすことが報告されている(Cryobiology. 2006 Oct;53(2):194-205.)。したがって、凍結保護試薬としてのDMSOの使用は、幹細胞における未分化性や機能性の維持が必要である場合の細胞保存には適さないことが考えられる。また、DMSOを用いて試料を長期保存する場合、取扱い管理が必要となる液体窒素中または雰囲気下での試料の保存が必要不可欠であり、再生医療や再生医療研究の普及への課題となると考えられる。
一方、糖などの天然凍結保護物質は、細胞に親和的であるが、分子サイズが大きく、細胞内に取り込まれにくい。したがって、細胞外から添加するだけでは細胞内凍結を十分に抑制できないと考えられる。
特許文献2に記載の生体成分用保存剤では、前述のように、試験された保存期間は数日にすぎず、数か月単位の保存をするためにはより優れた凍結保存技術が必要であると考えられる。また、特許文献2に記載のハイドロゲルを製造するためにはヒアルロン酸への修飾基の導入が必要であり、さらに保存後の生体成分のハイドロゲルからの回収のためにゲルを溶解するための添加物の使用も必要となる。しかしながら、このような添加物を凍結保存方法に導入すると研究試験用としては使用できるものの、不純物の混入リスク等から、実際の医療用には使用しづらい。
特許文献3には、ポリアミノ酸のアミノ基がカルボン酸で修飾されたカルボキシル化ポリアミノ酸と有機両性剤と必要に応じて多糖を含む、凍結保存組成物が開示されているが、細胞を凍結保存させた場合の生存率は十分なものではなかった。
また、特許文献4に記載のフルクタンも破裂などによる細胞の死滅がみられ、細胞を十分に凍結保存できるものではなかった。
非浸透型の凍結保護試薬を使用する方法も知られているが、このような保存試薬のみでは、細胞への影響は低いものの、十分な保存効果を得ることができない。そこで、細胞内浸透型のDMSO、グリセリン、プロピレングリコールなどの細胞内浸透型の化合物と非浸透型の物質とを組み合わせて、化合物量の低減や置換が行われたものが市販されている。しかしながら、生体構成成分などの天然成分のみで良好な凍結保存効果を示し、かつ実用的であるような凍結保護物質は未だ報告されていない。
本発明は、前記問題点に鑑みてなされたもので、生体試料がその性状を保持しつつ高い生存率で保存されている固化体を提供する。特には、固化体は、生体試料と共に水と水溶性高分子またはその塩とを含有するマトリクスを含み、これにより生体試料の凍結保存効果が向上されており、さらにジメチルスルホキシド(DMSO)、プロピレングリコール(PG)、エチレングリコール(EG)等の化学物質や、血清や血清由来タンパク質を含まないため、安全である。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を含むことは可能である。また、上記化学物質も細胞の機能を損なわない低濃度で添加することは可能である。本発明はまた、このような固化体を製造する方法を提供することを目的とする。
本発明は、水性溶媒と水溶性高分子またはその塩とを含有するマトリクスおよび生体試料を含む固化体であって、前記生体試料が、固化する前の培養液中(培地中)と比べて1より小さく1/3.5以上に縮小された正射影面積を有し、可視光を透過させた場合に光射出側から見て、前記生体試料が占める領域のマンセル表色系における明度および前記マトリクスが占める領域のマンセル表色系における明度の差が3以下であり、前記マトリクスの、示差走査熱量計(DSC)を用いた下記(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、吸熱ピークが確認されないか、または吸熱ピークが確認される温度が−1.4℃を超え、1.1℃以下であることを特徴とする固化体に関する。なお、ここで、DSCの走査は、(1)20℃で1分間保持後、5℃/minの降温速度で−80℃まで降温、(2)−80℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で20℃まで昇温、の条件下で行われる。
なお、本明細書において「吸熱ピークが確認されない」というのは、吸熱ピークが−30℃〜+5℃の範囲で確認されなければ、「吸熱ピークが確認されない」と考える。水溶性高分子を含む水が吸熱ピークを示すとすれば、概ねこの範囲だからである。また、生体試料の正射影面積や生体試料が占める領域およびマトリクス領域のマンセル表色系の明度は、凍結固化後は不変であるが、もし、生体試料の正射影面積や生体試料が占める領域およびマトリクス領域のマンセル表色系の明度に温度依存性がある場合には、−80℃にて正射影面積およびマンセル表色系の明度をそれぞれ測定する。
水溶性高分子の塩としては例えば、金属塩、ハロゲン塩もしくは硫酸塩が望ましい。金属塩としては、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩が望ましい。アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属としてはナトリウム、カリウム、カルシウムなどが選択される。ハロゲンとしては、塩素、臭素などを使用できる。
本発明の固化体は、生体試料に対する細胞内浸透型の凍結保護物質であるジメチルスルホキシドを含まないことが望ましい。また、本発明の固化体は、エチレングリコールなどの生体試料に対して細胞毒性のある凍結保護剤は含まない方が望ましい。これらは、解凍後の生体試料にとって有害だからである。
本発明の固化体は、固化凍結物であることが好ましい。
固化体が、水溶性高分子またはその塩を0.1w/v%以上、20w/v%以下の含有量で含む固化体であることが好ましい。
本発明の固化体は、上記のDSCの(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、前記昇温過程における、吸熱ピークの吸熱量が、0J/g、または水からなる基準液の対応する吸熱量の65%以下であることが好ましい。
固化体に含まれる前記生体試料が、細胞であり、前記細胞が、哺乳動物細胞である固化体が好ましい。
固化体に含まれる前記生体試料が、細胞であり、前記細胞が、哺乳動物間葉系幹細胞、哺乳動物血球細胞、または哺乳動物内皮細胞である固化体が好ましい。
本発明の固化体は、好ましくは、融解されて生体試料投与用溶液として用いられ得る。本発明の固化体は、DMSOやエチレングリコールなどの細胞浸透性で毒性を有する化合物を含まず、また、血清や血清由来タンパク質も含まないため、融解後にそのまま生体試料投与溶液とすることができる。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。また、細胞の機能を損なわない低濃度で細胞浸透性で毒性を有する化合物を使用することは可能である。
本発明の固化体が融解された生体試料投与用溶液中に含有される生体試料によるHGFの産生量が、前記水溶性高分子またはその塩の代わりにDMSOを含む固化体中の生体試料が融解後に産生するHGFの産生量と比較して抑制されていることが好ましい。
本発明の固化体が融解された生体試料投与用溶液中に含有される生体試料によるIL−10の産生量が、前記水溶性高分子またはその塩の代わりにDMSOを含む固化体中の生体試料が融解後に産生するIL−10の産生量と比較して増大されていることが好ましい。
本発明は、また、生体試料を含んだ固化体を製造する方法であって、水溶性高分子またはその塩を水性溶媒中に溶解させて、−80℃に凍結させた際前記生体試料が、固化する前の培養液中(培地中)と比べて1より小さく1/3.5以上に縮小された正射影面積を有し、−80℃に凍結させた際可視光を透過させた場合に光射出側から見て、前記生体試料が占める領域のマンセル表色系における明度および前記生体試料が占める前記領域以外の領域のマンセル表色系における明度の差が3以下であり、示差走査熱量計(DSC)を用いた下記(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、吸熱ピークが確認されないか、または吸熱ピークが確認される温度が−1.4℃を超え、1.1℃以下となる性質をもつように調整された高分子水溶液を準備する工程と、前記高分子水溶液中に前記生体試料を含ませる工程と、前記生体試料を含む前記高分子水溶液を冷却および凍結する工程とを備えることを特徴とする固化体を製造する方法に関する。なお、ここで、DSCの走査は、(1)20℃で1分間保持後、5℃/minの降温速度で−80℃まで降温、(2)−80℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で20℃まで昇温、の条件下で行われる。
なお、本明細書において「吸熱ピークが確認されない」というのは、吸熱ピークが−30℃〜+5℃の範囲で確認されなければ、「吸熱ピークが確認されない」と考える。水溶性高分子を含む水が吸熱ピークを示すとすれば、概ねこの範囲だからである。
水溶性高分子の塩としては例えば、金属塩、ハロゲン塩もしくは硫酸塩が望ましい。金属塩としては、アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属の塩が望ましい。アルカリ金属もしくはアルカリ土類金属としてはナトリウム、カリウム、カルシウムなどが選択される。ハロゲンとしては、塩素、臭素などを使用できる。
また、本発明の生体試料を含む固化体中にはジメチルスルホキシドやエチレングリコールなどの細胞浸透性で細胞毒性を有する化合物を含ませないことが望ましい。これらは解凍後に細胞に対して毒性を有しているからである。また、血清や血清由来タンパク質なども含ませないことが望ましい。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。また、細胞の機能を損なわない低濃度で細胞浸透性で毒性を有する化合物を使用することは可能である。
前記生体試料を含む前記高分子水溶液を冷却および凍結する工程が、冷却速度10℃/min以下の緩慢凍結法で−27℃以下の温度まで冷却および凍結することで行われる固化体を製造する方法が好ましい。
本発明の生体試料を含んだ固化体を製造する方法において、生体試料を含む高分子水溶液を冷却および凍結する際の温度の範囲としては、−27℃以下であれば限定されるものではないが、上限として、望ましくは、−70℃以下、好ましくは−80℃以下である。また下限として、望ましくは、−196℃以上、好ましくは−150℃以上である。
本発明の生体試料を含んだ固化体を製造する方法において、生体試料を含む高分子水溶液を冷却および凍結する際の冷却速度としては、10℃/min以下が好ましく、望ましくは、1℃/min以下であり、冷却および凍結する工程が緩慢凍結法で行われることが好ましい。
本発明の生体試料を含んだ固化体を製造する方法では、固化体に水溶性高分子またはその塩を0.1w/v%以上、20w/v%以下の含有量で含ませることが好ましい。
本発明の生体試料を含んだ固化体を製造する方法では、水溶性高分子またはその塩の水溶液の、上記のDSCの(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線の昇温過程における吸熱ピークの吸熱量が、0J/g、または水からなる基準液の対応する吸熱量の65%以下であることが好ましい。
本発明によれば、細胞内浸透型の凍結保護物質であるDMSOやエチレングリコールなどの細胞浸透性で毒性を有する化合物を用いずに、性状が適切に維持されている細胞等の生体試料を含む固化体を提供することができる。本発明において使用される水溶性高分子またはその塩は、細胞内非浸透型であるため、生体試料に対して低毒性であるにも関わらず、生体試料に対して高い凍結保護効果を示すため、固化体中の生体試料は高い生存率で保存される。
また、本発明の固化体は、固化体中の生体試料へのダメージを防ぐための血清や血清由来タンパク質を含まないため、細菌やウィルスに汚染されることもない。生体由来の未知成分や感染物質を含むおそれがないため、本発明の固化体は融解された後、そのまま生体試料投与用溶液として用いることができる。したがって、例えば再生医療用途の生体試料の保存に適切であると考えられる。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を使用することは可能である。また、細胞の機能を損なわない低濃度で細胞浸透性で毒性を有する化合物を使用することは可能である。
本発明の固化体のマトリクスを形成する水溶性高分子またはその塩は水性溶媒中に溶解されている。したがって、本発明の固化体のマトリクスには、水と水溶性高分子またはその塩とに加えて、水性溶媒由来の成分が含まれていてもよい。本発明において使用され得る水性溶媒としては、水、生理的溶液、または、体液や細胞液の浸透圧とほぼ同じになるようにナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等によって塩濃度や糖濃度等を調整した等張水溶液が好ましい水性溶媒として挙げられる。具体的には、水性溶媒は、例えば、水、生理食塩水、緩衝効果のある生理食塩水であるリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline;PBS)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水(Tris Buffered Saline;TBS)、HEPES緩衝生理食塩水等、ハンクス平衡塩溶液などの平衡塩溶液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液、または、D−MEM、E−MEM、αMEM、RPMI−1640培地、Ham’s F−12、Ham’s F−10、M−199などの動物細胞培養用基礎培地、各種の細胞または組織用の一般的な培養液、市販の培地などである。しかしながら、本発明の水性溶媒には、DMSOやエチレングリコール、血清や血清由来のタンパク質などは含まれないことが好ましい。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。また、細胞の機能を損なわない低濃度で細胞浸透性で毒性を有する化合物を使用することは可能である。
本発明の固化体によれば、細胞等の生体試料が、毒性の高いDMSOやエチレングリコールなどの凍結保護物質を使用せずに、生体試料の生存率およびその性状を維持したままで、水と水溶性高分子またはその塩とを含有するマトリクス中で凍結保存され得る。本発明の固化体において凍結保護剤として機能し得る、本発明で使用される水溶性高分子またはその塩は、凍結時に生体試料からの脱水を促進させることにより、良好なガラス化状態を生体試料の内外で実現することができる。本発明における水溶性高分子またはその塩は、細胞膜透過性でない。したがって、細胞等の生体試料のガラス化時に、生体試料中に浸透して生体組織を膨潤させることがなく、この結果、本発明の固化体に含まれる生体試料は、固化する前の培養液中(培地中)と比較して縮小した正射影面積を有する。本発明における水溶性高分子において、水溶性高分子の分子種および重合度(分子量)を調整することにより、および/または、水溶性高分子の水溶液に低分子量や単分子の化合物を添加することにより、昇温過程の融解の吸熱ピークの温度および熱量、ならびに、固化体の溶媒部分領域と生体試料内領域とにおける可視光の透過率の差が調整され得る。本発明において、高分子水溶液のDSCで吸熱ピークが観察されないか、または標準水(超純水)の吸熱ピーク付近に吸熱ピークが出現するように調整することにより、ならびに、固化体の溶媒部分領域と生体試料内領域とにおいて可視光を照射した際の明度の差を調整することにより、細胞等の生体組織の凍結保存効果が改善され得る。
本発明の固化体は、DMSOやエチレングリコールなどの細胞内浸透型の化学物質を含まない。このため、生体試料へのダメージや細胞毒性、また、DMSOに関して報告されているような細胞の性状への影響を低く抑えることができる。固化体が融解された後でも、生体試料の性状は適切に維持され得る。
さらに、本発明の固化体では、血清および/または血清由来タンパク質を含ませることなく、生体試料の生存率および性状を維持することが可能となるため、生体試料が細菌やウィルスに汚染されることもない。
また、本発明の固化体は、生体試料を含ませた高分子水溶液を、緩慢凍結させることによって簡便に製造され得る。また、得られた固化体は、DMSOやエチレングリコールなどの細胞毒性を有する化学物質や血清などのタンパク質が用いられていないにも関わらず、−27℃以下の温度で、すなわちディープフリーザー中などで長期間安定に保存することができる。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。また、細胞の機能を損なわない低濃度で細胞浸透性で毒性を有する化合物を使用することは可能である。
凍結保存温度の範囲としては、−27℃以下であれば限定されるものではないが、上限として、望ましくは、−70℃以下、好ましくは−80℃以下である。また下限として、望ましくは、−196℃以上、好ましくは−150℃以上である。
本発明の試験用試料溶液を用いた凍結保存における初代ヒト間葉系幹細胞の細胞生存率を示す図である。 示差走査熱量分析による試験用試料溶液の分析結果を示す図である。 示差走査熱量分析による試験用試料溶液の分析結果を示す拡大図である。 示差走査熱量分析による超純水を含む試験用試料溶液の分析結果を示す図である。 示差走査熱量分析によるDMSOを凍結保護剤として含む試験用試料溶液の分析結果を示す図である。 示差走査熱量分析による実施例1の試験用試料を含む試験用試料溶液の分析結果を示す図である。 本発明の試験用試料溶液を用いた凍結保存における初代ヒト間葉系幹細胞の長期保存効果を示す図である。 本発明の試験用試料溶液を用いた冷蔵保存における初代ヒト間葉系幹細胞の長期保存効果を示す図である。 本発明の試験用試料溶液を用いた凍結保存後の初代ヒト間葉系幹細胞におけるHGFの産生量を示す図である。 本発明の試験用試料溶液を用いた凍結保存後の初代ヒト間葉系幹細胞におけるIL−10の産生量を示す図である。 本発明の試験用試料溶液を用いた凍結保存後の初代ヒト間葉系幹細胞における未分化バイオマーカーの発現量を示す図である 対照試験(比較例2)における凍結後の細胞内ガラス化状態を示す図である。 比較例1の試験用試料溶液を用いた凍結後の細胞内ガラス化状態を示す図である。 実施例1の試験用試料溶液を用いた細胞内ガラス化状態を示す図である。 細胞内ガラス化状態の明度差を示す図である。 細胞内ガラス化状態の明度差をマンセル明暗度(0〜10)に従い数値化し、溶媒と細胞内の明度差を求めた図である。 本発明の試験用試料溶液を用いた凍結保存における種々の細胞に対する凍結保護効果を示す図である。 低分子量の糖類を用いた凍結保存における初代イヌ間葉系幹細胞の細胞生存率を示す図である。 各種製造例による試験用試料のHPLC分析結果を示す図である。 各種製造例による試験用試料のHPLC分析結果を示す図である。 各種製造例による試験用試料のHPLC分析結果を示す図である。 所定の糖の数を有する糖類の検量線用HPLC分析結果を示す図である。 本発明の高分子鎖を有する試験用試料のHPLC分析結果を示す図である。
本発明の固化体は、水と水溶性高分子またはその塩とを含有するマトリクスおよび生体試料を含む固化体である。そして、本発明の固化体中において、生体試料は、固化される前と比較して1より小さく1/3.5以上に縮小された正射影面積を有している。
なお、本発明において、生体試料の「正射影面積」とは、顕微鏡用冷却ステージ上で生体試料を観察した場合の、冷却ステージの法線方向上方から画像を撮影し、画像中の生体試料の面積を画像解析ソフトImageJ(https://imagej.nih.gov/ij/)で算出した面積を意味している。
本発明の固化体において、固化体中の生体試料は、凍結固化時に生体試料内からの水の排出が促進された結果、凍結前の生体試料と比較してその体積が収縮している。このように細胞内が良好に脱水されることにより、凍結時の細胞へのダメージは著しく低下され、細胞が保護され、そして固化体が融解された際、固化体に含まれていた細胞などの生体試料は高い生存率を示す。
本発明の固化体においては、生体試料内が脱水されることにより、生体試料内での氷晶の形成が抑制または防止され、水と水溶性高分子またはその塩とを含有するマトリクス部分と生体試料内とが良好なガラス化状態となっている。したがって、マトリクス部分にも生体試料内にも氷晶が形成されない。結晶粒が大きな氷晶が形成されると、固化体に可視光を透過させた場合にその可視光が遮断されて、氷晶部分の明度は低下する。本発明の固化体では、固化体のマトリクス部分も生体試料内も同じような凍結状態に形成されている、すなわち同じようにガラス化されているため、本発明の凍結状態にある固化体に可視光を透過させた場合には、光射出側から見て、固化体中の生体試料内部の明度と固化体中のマトリクス部分すなわち生体試料内部以外の領域の明度とは近くなっている。好ましくは、生体試料が占める領域のマンセル表色系における明度およびマトリクスが占める領域のマンセル表色系における明度の差は3以下である。そして、凍結固化されたマトリクス部分と生体試料内部とが、氷晶形成による暗転を起こしていないことが好ましい。
通常、ガラス化法と呼ばれる凍結方法は、溶液が凍結する際に溶質(凍害を防止するための凍結保護剤)が結晶から排除されることにより残存溶液中の塩濃度が上昇し、細胞内外で浸透圧差が生じることにより細胞内を脱水し細胞内部をガラス化するという方法であり、解凍後の生存率が特に低い細胞に適用される。このような方法では、水をよりガラス化しやすくするために、溶質(凍結保護剤)の濃度を高めることや、冷却速度を大きくすることが行われる。しかしながら、浸透圧差を大きくすると細胞へのダメージも大きくなってしまう問題や、溶解時に再結晶化が起こり細胞がダメージを受けてしまうという問題が知られてきた。また、手技的にも困難が伴う。
本発明においては、生体試料からの脱水およびその促進は、水溶性高分子またはその塩と水とを含有するマトリクスによって実現される。本発明のマトリクスは、冷却過程で高分子鎖により形成されるマトリクス内に水性溶媒分子を良好にトラップすることができる。これにより、冷却時に水性溶媒の水の分子運動を制限して、水を結晶化せずに、すなわち氷晶が形成されることなく、ガラス化状態で固化および/または凍結することができる。
固化凍結時に、本発明において使用される水溶性高分子は、その高分子鎖の作用により、非晶質であるガラス状態のマトリクスを形成する。本発明の固化体では、溶媒の水分子は高分子のネットワークマトリクス中に存在して、自由水または束縛水(水分子が高分子に絡め捕られた状態)の状態で存在していると考えられる。また、固化凍結時に細胞等内から浸透圧差で排除されてきた水分子は、細胞等の生体試料の周囲の高分子と置換されるものと考えられる。この置換により、生体試料内から外への水分子の移動はさらに促進され得る。この結果生体試料内での氷晶の形成が抑制および防止され、生体試料内がガラス化状態となる。
すなわち、本発明の固化体では、水溶性高分子の高分子鎖の作用により、生体試料内外がともにガラス化されるので、従来のガラス化法での問題である凍結時の生体試料における浸透圧ショックを弱めることができる。したがって、細胞毒性を有するジメチルスルホキシド(DMSO)やエチレングリコールなどの化学物質を含有させる必要がなく、本発明の固化体は、DMSOおよび/またはエチレングリコールを含まない。
本発明の固化体は、このような優れたガラス化能を有するマトリクスを含むものである。このような本発明のマトリクスにおいては、示差走査熱量計(DSC)を用いた以下の(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、DSCで測定した吸熱ピークが確認されないか、または吸熱ピークが確認される温度が−1.4℃を超え、1.1℃以下である。
DSCの測定条件:
(1)20℃で1分間保持後、5℃/minの降温速度で−80℃まで降温、および
(2)−80℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で20℃まで昇温。
すなわち、本発明のマトリクスにおいては、水の融解に起因すると推定される吸熱ピークは、マトリクスの昇温過程において、観察されないか、または、観察される場合、−1.4℃を超え、1.1℃以下の範囲、すなわち超純水において同条件下のDSC測定で吸熱ピークが観察される温度(0.7℃)付近に存在する。溶媒や細胞などの生体試料内のガラス化のためには、一般的に、より降下した溶融点(凝固点)を有する溶液などを用いることが望ましいように思われる。しかし、本発明者らは、凍結時の生体試料の良好なガラス化のためには、マトリクスがこの技術的常識の逆の特徴を有していることが望ましいことを見出した。通常、融解点(凝固点)が水のそれよりも下がるという現象は、水のマトリクス中に溶質が分散している状態で生じるものであるが、本発明における水溶性高分子を含むマトリクスでは、逆に、水溶性高分子で形成される水性溶媒中の高分子ネットワークマトリクス中に水分子が存在しており、水は高分子マトリクス中に氷結しない状態で、自由水として存在するか、あるいは水は氷結するとしても高分子に絡め捕られた状態(束縛水)で氷結する。このため、本発明の高分子水溶液では、昇温過程において水の融解の吸熱ピークは観察されないか、あるいは、純水の吸熱ピークが観察される温度と近い温度で観察されると推定される。
このような本発明のマトリクスを形成し得る水溶性高分子としては、例えば、親水基を有するモノマーを繰り返し単位として含む重合体などを使用することができる。ここで、親水性基は、例えば、ヒドロキシル基ならびにカルボン酸基およびその塩である。また、水溶性高分子は、置換されていてもよいアミノ基または置換されていてもよいアミド基を有するような窒素含有モノマーを繰り返し単位として含んでいてもよい。特には、水溶性高分子の構造内にエクアトリアル位のヒドロキシル基を有していることが好ましい場合がある。これにより、溶媒の水を凍結時により良好に高分子鎖で形成されるマトリクス内にトラップすることができると考えられるからである。
親水基を有するモノマーは例えば、糖残基である。この場合、本発明において使用される高分子は、糖残基が繰り返し単位としてグリコシド結合により結合した重合体およびこれらの誘導体を含む水溶性高分子であり得る。糖残基としては、単糖、または、単糖のヒドロキシル基および/またはヒドロキシメチル基が置換された単糖、例えば、ヒドロキシル基および/またはヒドロキシメチル基が、カルボキシル基、アミノ基、N−アセチルアミノ基、スルホオキシ基、メトキシカルボニル基およびカルボキシメチル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換された単糖などが例示されるがこれらに限定はされない。
単糖としては、トリオース、テトロース、ペントース、ヘキソースおよびヘプトース等が挙げられる。例えば、ペントースとしては、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、キシルロース、リブロース、デオキシリボースなどが挙げられる。ヘキソースとしては、グルコース、マンノース、ガラクトース、フルクトース、ソルボース、タガトース、フコース、フクロース、ラムノースなどが挙げられる。
例えば、カルボキシル基で置換された単糖としては、ウロン酸などが挙げられる。ウロン酸としては、例えば、グルクロン酸、イズロン酸、マンヌロン酸およびガラクツロン酸などが挙げられる。アミノ基で置換された単糖としては、アミノ糖などが挙げられる。アミノ糖としては、例えば、グルコサミン、ガラクトサミン、マンノサミンおよびムラミン酸などが挙げられる。N−アセチルアミノ基で置換された単糖としては、例えば、N−アセチルグルコサミン、N−アセチルマンノサミン、N−アセチルガラクトサミンおよびN−アセチルムラミン酸などが挙げられる。スルホオキシ基で置換された単糖としては、ガラクトース−3−硫酸などが挙げられる。また複数の置換基をもつ単糖としては、例えば、N−アセチルグルコサミン−4−硫酸、イズロン酸−2−硫酸、グルクロン酸−2−硫酸、N−アセチルガラクトサミン−4−硫酸、ノイラミン酸およびN−アセチルノイラミン酸などが挙げられる。
例えば、本発明において使用される水溶性高分子は、上述したような単糖類を繰り返し単位として含む高分子である。例えば、本発明における水溶性高分子は、置換されていてもよいペントース、ヘキソースもしくはウロン酸またはそれらの組み合せを繰り返し単位として含む高分子であり得る。例えば、本発明における水溶性高分子はその主鎖に六員環構造を含み得る。六員環構造を主鎖に持つ多糖類等は、水素結合を介して、細胞の周囲に高分子のネットワーク構造を形成し易い場合があるためである。また、本発明における水溶性高分子は、親水性基を有するモノマーと窒素含有モノマーとの交互共重合体であってもよい。窒素含有モノマーは例えばアミノ糖であってもよい。この場合、例えば、本発明における水溶性高分子は、グリコサミノグリカンであり得る。また、1つ以上のヒドロキシル基がスルホオキシ基で置換された、硫酸化多糖類であってもよい。これらに限定されるわけではないが、本発明における高分子としては、例えば、ヒアルロン酸、デキストラン、プルラン、またはコンドロイチン硫酸などが挙げられる。
本発明における水溶性高分子またはその塩は、天然由来のものであってもよく、また、化学的に合成したものを用いてもよい。市販の水溶性高分子またはその塩をそのまま使用してもよい。分子量がより大きな天然由来の高分子化合物や市販の高分子化合物を用いて、加水分解や酵素処理、亜臨界処理等の処理に付してその切断生成物を得、分子量の調整をして本発明における水溶性高分子としてもよい。また、各モノマーも、天然由来のものであってもよく、天然由来のモノマーを修飾・置換して用いてもよく、また、化学合成されたものでもよい。例えば、好ましくは、本発明における水溶性高分子に含まれるモノマーは生体構成成分である。水溶性高分子を含むマトリクスに生体試料が混合されたり、保存されたりした際の細胞毒性が低いと考えられる。また、固化体を解凍および/または融解した後に、生体試料から細胞保護成分を洗浄して除くような、従来の凍結保存液に必要なプロセスが不要または簡便化され得る。
冷却過程において、本発明における水溶性高分子の高分子鎖により形成されるマトリクス内に水分子が効率よくトラップされるために、本発明においては例えば、水溶性高分子またはその塩を水性溶媒に溶解した高分子水溶液の極限粘度は、0.20〜0.95dL/g程度に調整され得る。高分子水溶液の極限粘度が小さ過ぎると、高分子が拡散してしまい、水溶性高分子のネットワークに水分子を絡め捕ることができない。一方、高分子水溶液の極限粘度が高すぎると、生体試料近傍での水分子との置換が進行しない。また、生体試料を凍結保存するために高分子溶液中に生体試料を含ませる際のハンドリング性が悪化するという問題が生じ得る。高分子水溶液の極限粘度を0.20dL/g以上、0.95dL/g以下程度の範囲とすることにより、高分子水溶液が冷却された場合、凍結状態での非晶質であるガラス状態が安定化され得る。このため、冷却および凍結によっても生体試料がダメージを受けにくく、生体試料が安定に高い生存性を維持したままで、効率よく固化体中に保存されると考えられる。氷晶の形成による生体試料の細胞の破壊も起こりにくい。したがって、本発明の固化体を融解した後の溶液中の生体試料における細胞の生存率が高い。
なお、本発明において使用される水溶性高分子またはその塩の水溶液の「極限粘度(η)」とは、以下のような方法と計算式とから算出される値を意味する。
極限粘度測定:
(1)所定量のNaClを30℃のイオン交換水に溶解させ、0.2MのNaCl溶液(標準液)を調製する。
(2)水溶性高分子またはその塩の試料を30℃の標準液に溶解させ、原液を調製する。水溶性高分子またはその塩の試料が溶液で入手される場合は、溶液から溶媒を除去した固形分を水溶性高分子またはその塩の試料とする。複数の水溶性高分子を含む混合試料の場合は、そのまま混合物の試料とする。水溶性高分子に不純物が混じった混合物であっても、そのまま試料とする。もっとも、後述する粘度平均分子量を測定する場合は、この限りではない。複数の水溶性高分子を含む混合試料の場合は、各水溶性高分子を分離、分画した後、各溶液から溶媒を除去したものを各水溶性高分子の試料とする。また、未知の水溶性高分子であれば、水溶性高分子についてHPLC、LC−MSやLC−IR等で物質を同定して、後述するように粘度平均分子量を計算する。また、未知の水溶性高分子を複数含む場合は、各成分を分離、分画し、それぞれの水溶性高分子についてHPLC、LC−MSやLC−IR等で物質を同定し、後述するように粘度平均分子量を計算する。なお、水溶性高分子に不純物が混じった混合物であっても、粘度に影響がなければ(例えば、金属塩のような不純物)、混合物を水溶性高分子の試料とする。また、粘度平均分子量の計算に影響がある不純物を含む場合は、不純物を除去するか、水溶性高分子を分画した後測定する。この際、標準液および原液それぞれの粘度を測定し、標準液に対する原液の相対粘度が2.0〜2.4となるように調整する。
(3)30℃の原液を、30℃の標準液を用いて5/4、5/3、5/2倍となるようにそれぞれ希釈する。
(4)30℃の標準液、原液および希釈液の粘度をそれぞれ測定する。粘度測定には、E型粘度計を用いる。
(5)原液および希釈液それぞれの粘度を標準液の粘度で割ったものを相対粘度(ηr)とし、下式に基づき還元粘度を導出する。
ここで、ηsp:水溶性またはその塩の還元粘度[mL/g]、ηr:水溶性高分子またはその塩の相対粘度[−]、C:水溶性高分子またはその塩の濃度[g/mL]である。
(6)水溶性高分子またはその塩の濃度と、水溶性高分子またはその塩の還元粘度との関係をそれぞれプロットし、近似直線を引く。近似直線の切片(高分子または糖類濃度=0)の値を水溶性高分子またはその塩の水溶液の極限粘度とする。
高分子水溶液の極限粘度は、水溶性高分子の分子種と重合度(粘度平均分子量)を選択することで調整することができる。
例えば、本発明において使用される水溶性高分子またはその塩は、例えば、3000を超え、500000以下である粘度平均分子量を有する水溶性高分子またはその塩である。この程度の粘度平均分子量をもつ水溶性高分子またはその塩を使用することにより、水溶性高分子を含むマトリクスが冷却された場合に、凍結状態での非晶質であるガラス状態が安定化される。このため、冷却および凍結時にマトリクスにより細胞が保護され、その結果細胞がダメージを受けにくく、固化体内に細胞が安定に効率よく凍結保存され得る。したがって、凍結保存後の固化体を解凍した後の、生体試料における細胞の生存率が高い。水溶性高分子の粘度平均分子量が3000以下であると、ガラス化が良好に起こりにくい場合がある。また、水溶性高分子の粘度平均分子量が500000より大きいと、粘度が著しく上昇し、また、溶解度が低下したり、調製した溶液が泡立ってハンドリング性が悪化するという問題が生じ得る。粘度平均分子量は例えば、10000以上が好ましい。また、400000以下、さらには200000以下の粘度平均分子量である高分子が好ましく、150000以下が特に好ましい。水溶液として粘度を低く調整でき、また取扱いやすいからである。
なお、本発明において使用される水溶性高分子または塩の「粘度平均分子量」は、上記の方法と計算式から算出された極限粘度(η)を用いて、以下のような方法と計算式とによって求められる
粘度平均分子量:
粘度平均分子量は、極限粘度から算出する。
上記のマークホーイング桜田の式に、測定で導出した極限粘度と、文献等で公開されているKとαの値から粘度平均分子量Mを求める。例えば、水溶性高分子がヒアルロン酸の場合、K=3.6×10-4およびα=0.78である。その他、プルランおよびゼラチンの場合、文献値よりK=9×10-4、α=0.5であり、デキストランでは、K=6.3×10-8、α=1.4、また、コンドロイチン硫酸では、K=5.8×10-4、α=0.74、フルクタンでは、K=1.6×10-3、α=0.45、カルボキシル化ポリリジンはK=2.78×10-5、α=0.87である。
Kおよびαは高分子の種類によって変動する数値であり、例えば「高分子材料便覧」(社団法人高分子学会編)など多数の公開文献にKとαの値が開示されており、公表されている値を用いて、極限粘度(η)より粘度平均分子量を算出することができる。
本発明では、この方法で算定された分子量を粘度平均分子量とする。なお、スクロースやグルクロン酸のような単糖や二糖、単分子と考えられる化合物の場合は、構造式から分子量が明確に特定されるため、構造式から特定される分子量を粘度平均分子量として擬制して扱う。
本発明で使用される水溶性高分子またはその塩の親水性基は、修飾されていないか、修飾されていても親水性基の全数の50%以下、すなわち、高分子鎖に置換基が導入されていないか、導入されていても親水性基の全数の50%以下であることが望ましい。水溶性高分子の親水性基、特にOH基、NH2基、COOH基が生体試料の保護およびマトリクスのガラス化、生体試料周辺の水分子との置換に寄与していると推定されるため、これらの官能基が修飾されていない方が生体試料の生存率向上に有利だからである。さらに、水溶性高分子に官能基を導入しようとすると、高分子の親水性基を修飾する際に使用される試薬などにより、高分子の凍結保護効果に悪影響を与えたり、再生医療目的の生体試料の凍結保存のための凍結保存液として使用できなくなったりする恐れがある。
さらに、本発明者らは、本発明において、水と水溶性高分子またはその塩とを含有するマトリクスの吸熱ピークの調整は、水溶性高分子またはその塩を含む高分子水溶液に、水溶性高分子よりも低い分子量を有する糖類またはその塩を添加することにより行うことができることを見出した。したがって、本発明のマトリクスは、水溶性高分子に加え、低分子量の糖類またはその塩をさらに含んでいてもよい。
低分子量の糖類またはその塩は、水溶性高分子中の親水性基によって、水素結合により高分子マトリクス内に保持される。この結果、高分子マトリクス中にトラップされる自由水や束縛水として存在する水の量やバランスが変化されると考えられる。さらに、低分子量の糖類またはその塩は、凍結過程における生体試料内の脱水をさらに促進させる作用もあると考えられる。すなわち、低分子量の糖類またはその塩を保持した高分子が細胞などの生体試料の周りに存在することで、細胞膜近傍の水分子は低分子量の糖類とも置換されると推定される。したがって、凍結中に細胞等の生体試料から浸透圧差で生体試料外へと排出された水は、細胞等の生体試料の周囲の高分子に加え、低分子量の糖類とも置換するものと考えられる。したがって、低分子量の糖類またはその塩の添加は、生体試料内からの水の排出を助け、そして、水分子との置換により、細胞膜付近の氷晶の形成および成長を抑制または防止すると考えられる。例えば高分子水溶液の極限粘度を0.20dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲とすることで、水分子と低分子量の糖類との置換を促進することができる。その結果、凍結中の細胞膜障害が顕著に抑制され得る。換言すると、低分子量の糖類またはその塩は、高分子水溶液中、細胞保護のための成分として機能し得る。高分子水溶液の極限粘度が小さ過ぎると、高分子溶液中に低分子量の糖類が拡散してしまい、水溶性高分子のネットワークに水分子を効率よく絡め捕ることができないおそれがある。一方、高分子水溶液の極限粘度が高すぎると、低分子量の糖類と水分子との置換が効率よく進行しないと考えられる。
低分子量の糖類またはその塩をそのマトリクス内に保持するためにも、本発明において使用される水溶性高分子またはその塩の親水性基は、修飾されていないか、修飾されていても親水性基の全数の50%以下、すなわち、高分子鎖に置換基が導入されていないか、導入されていても親水性基の全数の50%以下であることが望ましい。水溶性高分子の親水性基が修飾されていると、親水性基による低分子量の糖類またはその塩の保持効果が低下してしまい、低分子量の糖類が共存していても、生体試料の生存率向上に十分寄与させることができないことがある。したがって、例えば、水溶性高分子のOH基やNH2基をカルボン酸などで修飾することは好ましくない場合がある。
本発明において使用される低分子量の糖類またはその塩は、例えば3000以下の粘度平均分子量を有する糖類またはその塩である。好ましくは、粘度平均分子量が1000以下である、単糖類、二糖類、またはオリゴ糖などであり得る。
本発明における低分子量の糖類は、例えば、水溶性高分子を構成するモノマーとして上述された単糖類であってもよい。例えば、低分子量の糖類は、グルコース、フルクトース、ガラクトースまたはそれらのアルコール基が酸化したウロン酸もしくはアルコール基がアミノ基で置換されたアミノ糖、スクロース、トレハロース、または、それらの重合体または組み合わせである。また、低分子量の糖類は、例えば、高分子、例えばヒアルロン酸、デキストラン、プルラン、またはコンドロイチン硫酸などの断片であってもよい。本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、低分子量の糖類は、例えば、グリコサミノグリカンの切断生成物(断片)すなわちグリコサミノグリカンを構成している単糖、その二糖、またはそのオリゴ糖であり得る。ヒアルロン酸の場合は、粘度平均分子量が1000以下のものを用いることが望ましい。
好ましくは、低分子量の糖類は、ヒアルロン酸の切断生成物である。したがって、好ましくは、本発明において使用される低分子量の糖類またはその塩は、グルクロン酸もしくはN−アセチルグルコサミン、もしくは、それらからなる二糖もしくはオリゴ、または、それらの塩である。好ましくは、糖類は、グルクロン酸もしくはその修飾化合物、またはその二糖もしくはオリゴ糖、またはその塩であり得る。
本発明でいう「切断生成物」とは、高分子に対して加水分解や酵素処理、亜臨界処理等の処理を行った際に得られると考えられる、元の高分子より小さな分子量をもつ化合物を意味する。例えば、本発明における高分子は、上述のように、より大きな高分子化合物の処理により得られる、水溶性高分子であってもよく、そして、本発明における低分子量の糖類は、本発明における水溶性高分子の処理により得られる、低分子量の糖類であってもよい。本発明において、切断生成物は、元の高分子の構成成分であるモノマーおよび/またはモノマーの種々の重合度の重合体および/またはそれらの混合物であり得る。
「亜臨界処理」とは、所定の温度および所定の圧力の条件下で亜臨界状態にした抽出溶媒としての亜臨界流体と、抽出対象の原料とを接触させることを意味する。例えば、水は、圧力22.12MPa以上および温度374.15℃以上まで上げると液体でも気体でもない状態を示す。この点を水の臨界点といい、臨界点より低い近傍の温度および圧力の熱水を亜臨界水という。この亜臨界水の加水分解作用を用いて、抽出対象の原料から所望の成分を得ることができる。本発明において、亜臨界処理する場合の条件としては、例えば、150℃以上、350℃以下の温度であり、亜臨界処理圧力は、各温度の飽和蒸気圧以上とすることができるが例えば、0.5MPa以上、25MPa以下とすることができる。亜臨界処理後、所定の分子量以下である成分が分離回収され、本発明の切断生成物として使用され得る。また、加水分解や酵素処理としても、特に限定されず、通常用いられるような試薬および処理方法が問題なく用いられ得る。
本発明で使用される水溶性高分子および低分子量の糖類は、一度の亜臨界処理によって同時に得られるものであってもよい。すなわち、本発明における水溶性高分子および低分子量の糖類は、粘度平均分子量として3000より大きく、500000以下である分子量範囲に第1の分子量分布を有し、粘度平均分子量として3000以下の分子量の範囲に第2の分子量分布を有するような、高分子化合物の亜臨界処理物であってもよい。したがって、例えば、高分子水溶液の製造方法は、粘度平均分子量として500000を超える分子量を有する多糖類である高分子を水に溶解させた後、水の亜臨界条件下で抽出処理を行うことによって、本発明で使用される水溶性高分子および低分子量の糖類を得る工程を含んでいてもよい。しかしながら、もちろん、本発明で使用される水溶性高分子および低分子量の糖類は、別々の処理工程で処理および/または分子量に基づいて分離されたものを組み合わせて用いてもよい。
本発明における低分子量の糖類またはその塩の水溶液は、純水においてDSC測定で吸熱ピークが観察される温度(0.7℃)よりも低い温度でその吸熱ピークが観察される。例えば、粘度平均分子量が1000以下であるヒアルロン酸は、吸熱ピークの温度が、−8.1℃であり、純水の吸熱ピークの温度0.7℃よりも低下している。
一方、本発明で使用される水溶性高分子またはその塩は、例えば、粘度平均分子量15000のヒアルロン酸で、吸熱ピーク温度が−1.4℃であり、粘度平均分子量373000のプルランで、1.49℃である。本発明にしたがい、このような水溶性高分子またはその塩に、低分子量糖類またはその塩を組み合わせると、高分子水溶液の吸熱ピーク温度は純水の吸熱ピーク温度に近づけられるか、または、吸熱ピーク自体がDSCによる測定で観察されなくなる。例えば、粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸を粘度平均分子量15000のヒアルロン酸に添加すると、吸熱ピーク温度は低下するのではなく、−0.4℃へと上昇する。一方、粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸を粘度平均分子量373000のプルランに添加すると、吸熱ピーク温度は、0.83℃へと低下する。
すなわち、粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸を吸熱ピーク温度が純水の吸熱ピーク温度よりも低い水溶性高分子に混合すると、吸熱ピーク温度が上昇して純水の吸熱ピーク温度に近づけられるか、またはDSCにおいて吸熱ピークそれ自体が出現しないように調整できる。また、粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸を吸熱ピーク温度が純水の吸熱ピーク温度よりも高い水溶性高分子に混合すると、吸熱ピーク温度が低下して、純水の吸熱ピーク温度に近づけられるか、またはDSCにおいて吸熱ピークそれ自体が出現しないように調整される。このように、例えば粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸を用いることで、水溶性高分子の吸熱ピーク温度を純水の吸熱ピーク温度0.7℃付近となるよう調整できる。
このような効果を奏する低分子量の糖類またはその塩としては、上述の粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸に限定される訳ではない。粘度平均分子量が1000以下であれば、ヒアルロン酸でなくても、スクロース、トリハロースなどの他の糖類でも同じ効果がある。本発明のマトリクスの凍結固化過程において、低分子量の糖類は、水分子間に存在して水の氷晶化を阻害するか、または、水溶性高分子のネットワークと協働して水をネットワーク内にトラップ(束縛水か自由水かいずれかの状態で)して、そもそも水の氷晶化を阻害することにより、本発明の高分子水溶液が純水に近い挙動を実現し得るように作用しているのではないかと推測される。
したがって、本発明の固化体では、水溶性高分子に、低分子量の糖類などの化合物を添加することにより、吸熱ピークの出現温度を調整することができ、このことは、吸熱ピーク出現温度を純水の吸熱ピーク温度に近づける、または、吸熱ピークを出現しないようにすることにより、高分子ネットワーク内への水分子のトラップ状態を調整することができることを示している。したがって、本発明の固化体においては、固化体中に含まれる生体試料に対する保護効果が適切なものとなるように調整されている。
さらに、本発明の固化体では、水溶性高分子に、低分子量の糖類などの化合物を添加することにより、固化体中で生体試料が占める領域のマンセル表色系における明度と固化体中でマトリクスが占める領域のマンセル表色系における明度との差を3以下に調整することができる。このことは、低分子量の糖類などの化合物の添加により生体試料内での氷晶形成の程度すなわちガラス化の程度を調整することができることを示している。したがって、本発明の固化体においては、固化体中の生体試料内と生体試料外(マトリクス領域)との両方がともに良好なガラス化状態となり得るように調整されている。
この結果、本発明では、凍結後に得られる生体試料を含む固体凍結物中において、水が氷晶を形成することなく、したがって細胞等の生体試料が氷晶によって破壊されることなく、高い生存率で保存されている。
本発明の固化体では、生体試料領域に氷晶が形成されないので、可視光が氷晶で遮断されることがない。上述のように、固化体中の溶媒部分と生体試料領域とでは、可視光の透過率がほぼ同じであり、顕微鏡下での観察でも、溶媒部分と生体試料領域との明度差はマンセル色表系で3以下である。このため、凍結した固化体に可視光を照射して顕微鏡観察するだけで、固化体中の生体試料が生存しているか否かの確認を簡単に行うことができる。
本発明の固化体は、水溶性高分子またはその塩を0.1w/v%以上、20w/v%以下程度の濃度で含む。水溶性高分子の濃度が低すぎると、溶媒部分を良好にガラス化することができない場合がある。例えば、水溶性高分子またはその塩の濃度は、1w/v%以上が好ましく、5w/v%以上が特に好ましい。また、20w/v%より高い濃度では、粘度が高くなりすぎて、ハンドリング性が悪化するおそれがある。好ましくは、高分子またはその塩の濃度は、5w/v%以上、20w/v%以下である。
本発明で使用される水溶性高分子の塩としては、金属塩、ハロゲン塩または硫酸塩などが挙げられる。金属塩としては、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩が望ましい。アルカリ金属またはアルカリ土類金属としてはナトリウム、カリウム、カルシウムなどが選択される。ハロゲンとしては、塩素、臭素などを使用できる。
また、本発明のマトリクスは、水溶性高分子に加えて、低分子量の糖類またはその塩を含んでいることが好ましい。低分子量の糖類またはその塩の添加量は、上述のように、固化体中で生体試料が占める領域の明度と固化体中でマトリクスが占める領域の明度との差が所望の価より小さくなること、および/または、吸熱ピーク出現の温度を所望の温度の近傍となることを達成するために、適宜調整され得るが、例えば、低分子量の糖類またはその塩の添加は、水溶性高分子と低分子量の糖類との高分子水溶液中での含有量の割合が約10:1程度となるように添加され得る。糖類またはその塩の濃度が低すぎると低分子量の糖類による細胞保護の効果が十分得られない場合がある。また、糖類を水溶性高分子の1/10倍以上の濃度で添加しても、細胞保護成分としてのさらなる効果は得られにくい。
本発明において、水溶性高分子を溶解して固化体のマトリクスを形成するための水性溶媒としては、水、生理的溶液、または、体液や細胞液の浸透圧とほぼ同じになるようにナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等によって塩濃度や糖濃度等を調整した等張水溶液が好ましい。具体的には、例えば、水、生理食塩水、緩衝効果のある生理食塩水であるリン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline;PBS)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水(Tris Buffered Saline;TBS)、HEPES緩衝生理食塩水等、ハンクス平衡塩溶液などの平衡塩溶液、リンゲル液、乳酸リンゲル液、酢酸リンゲル液、重炭酸リンゲル液などが例示されるがこれらに限定される訳ではない。また、本発明の効果を損なわない限り溶媒は、例えば等張剤やキレート剤、溶解補助剤などの他の任意成分を含んでいてもよい。本明細書において、「任意成分」とは、含んでもよいし含まなくてもよい成分のことを意味している。例えば溶媒は、5%グルコース水溶液などであってもよい。また、本発明のマトリクスを形成するための水性溶媒として、細胞培養用の培地が用いられてもよい。培養培地としては特に限定される訳ではなく、例えば市販の培地やD−MEM、E−MEM、αMEM、RPMI−1640培地、Ham’s F−12、Ham’s F−10、M−199などの動物細胞培養用基礎培地、各種の細胞または組織用の一般的な培養液が例示され得る。したがって、本発明のマトリクスを用いて生体試料を凍結保存する場合、水溶性高分子の水溶液を準備して、この高分子水溶液に培養後の細胞などの生体試料が懸濁して凍結し、固化体を製造してもよいし、あるいは、水溶性高分子またはその塩を、培養後の細胞培養液または細胞懸濁液などの生体試料を含む培養液に所望の濃度で添加して、凍結させて固化体が製造されてもよい。
また、水溶性高分子を溶解した水溶液は、必要に応じて、pH調整され得る。例えば、親水性基を有するモノマーの親水性基がカルボン酸基などである場合、このようなモノマーが重合された水溶性高分子を含む水溶液は酸性を呈することがある。このような場合、pH調整を行うことによって水溶液を中性溶液とすることで、固化体中で凍結保存される細胞の生存により適したマトリクスとなり得、細胞の生存率が向上すると考えられる。pH調整のために用いられる塩としては限定されず、水溶液のpH調整に通常使用されるものを使用することができる。
示差走査熱量分析(DSC)による本発明のマトリクスの熱分析の結果によれば、本発明のマトリクスにおいては、以下の(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、昇温過程における吸熱ピークの吸熱量が、0J/gであるか、または、水からなる基準液の対応する吸熱量の65%以下、望ましくは、水からなる基準液の対応する吸熱量の40%以下である。
DSC測定における昇温過程における吸熱ピークの吸熱量が、本発明のマトリクスにおいて、水からなる基準液の対応する吸熱量よりも小さい(100%未満である)ということは、凍結したマトリクスにおいて氷晶を形成しない束縛水や自由水が残存しているということを意味している。すなわち、本発明のマトリクスを形成する水溶性高分子の水溶液中では、水溶性高分子および/または低分子量の糖類と水との置換が進行し、水溶性高分子のマトリクス内に水分子がトラップされて、水分の分子運動を制限している。これにより、マトリクスに含まれる生体試料の細胞内からの水の脱水が促進されるとともに、水を結晶化せずにガラス状態で固化することができる。固化体におけるマトリクスおよび固化体に含まれる生体試料内部の良好なガラス化が達成される。したがって、本発明の固化体中では、氷晶の形成による細胞の破壊が抑制または防止され得る。また、本発明の固化体内では、冷却過程において氷晶形成が抑制または防止されるだけでなく、その後の昇温過程での、すなわち融解時の水の再結晶化も抑制することができる。すなわち、本発明の固化体では、固化体内に含まれる生体試料の凍結状態でのガラス状態が安定化されていると考えられる。このようにガラス状態がより安定化されるため、本発明の固化体中で保存される生体試料は、ヒト、ウシ由来の血清や血清由来成分(例えばアルブミンなど)のタンパク質成分の添加を必要とせずに、高い細胞保護効果を示す。したがって、融解後の生体試料は、感染症などの心配がなく、また、生物製剤によるロット間格差などの影響も受けないと考えられる。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。
本発明の固化体は、細胞に浸透型の化合物を含まないため、生体試料の凍結保存のために使用された場合の細胞毒性は低いと考えられる。さらに、水の分子運動を制限するために溶質の濃度を高める必要がないので、細胞へのダメージが低いと考えられる。加えて、添加される本発明で使用される低分子量の糖類またはその塩は、凍結時に細胞周辺で細胞内から排出される水を速やかに置換する細胞保護効果を有するので、凍結保存中に細胞の性状を変化させないと考えられる。したがって、本発明の固化体中では、細胞の特性を維持しつつ生体試料が凍結保存されていると考えられる。
また、本発明の固化体は、従来のガラス化法と異なり、製造時に浸透圧ショックを軽減するための大きな冷却速度も冷却時に必要としない。したがって、本発明の固化体によれば、生体試料を毒性が軽減された簡便な方法で効率よく凍結保存することができ、また、凍結保存後、固化体が融解された際には、解凍された生体試料は高い生存率を示す。
示差走査熱量分析(DSC)による水溶性高分子の水溶液の熱分析の結果によれば、水溶性高分子の水溶液は、−23℃±4℃近辺にガラス転移温度を有する。本発明の水溶性高分子のマトリクスでは、上述のように、凍結時に、水溶性高分子のネットワークに水分子を絡め捕ることによりガラス化を実現している。したがって、従来のガラス化法で必要とされるような冷却時における細胞保護のための大きな冷却速度を必要としない。このため、生体試料を高分子水溶液に含ませた後、高分子水溶液のガラス転移点温度である−27℃以下に冷却する、例えば生体試料を含む高分子水溶液を凍結処理容器等に入れて−80℃のディープフリーザー中に放置するだけで、保存に付される細胞や組織などを安定的に凍結、そして保存することができる。通常の細胞などの凍結保存時に必要とされる−150℃といった低温度は必ずしも必要でないため、液体窒素凍結保存のための特別な容器や液体窒素の準備などを不要とすることができる。このため、生体試料の凍結保存に関わる操作が顕著に簡便化され得る。また、本発明の固化体では、固化体融解時の水の再結晶化も抑制することができるので、本発明の固化体とすることにより、生体試料の凍結、保存、および解凍の一連の工程が、特別な手技を必要とすることなく、容易に効率よく行うことができる。勿論、水溶性高分子の水溶液を用い、液体窒素を用いて、液体窒素中または液体窒素蒸気中で生体試料を凍結保存することも可能である。
本発明で使用される高分子水溶液は、非浸透型の凍結保存液として機能するため、本発明の高分子水溶液を用いて固化体とされて凍結保存に付される生体試料としては特に限定されない。種々の種類の細胞の凍結保存に使用することができる。また、細胞の由来種も特に問わない。本発明の水溶性高分子を含むマトリクスは、凍結および融解時の氷晶形成および再結晶を効果的に抑制または防止することができるため、複雑な構造をもつ哺乳動物細胞等にも良好に使用され得る。したがって様々な種類の動物種、マウス、イヌ、ヒトなどの種の細胞の凍結保存に適用できる。さらに、本発明の水溶性高分子を含むマトリクスは、一般の培養用細胞と比較して凍結時の障害が大きいことが知られており、いわゆる従来の緩慢凍結法では生存率の顕著な低下が避けられないような幹細胞、初期胚や卵子、精子、受精卵等の生殖細胞の凍結保存に特に好適に使用できる。また、本発明の水溶性高分子を含むマトリクスは、分化因子として働き得るDMSOやエチレングリコールのような化学物質を含まないため、未分化維持が必要な細胞の保存に使用することができ、例えば、再生医療用途の幹細胞も、分化のリスクを伴うことなしに凍結保存できる。
また、本発明の固化体には血清や血清由来タンパク質が添加されないため、細菌やウィルスによる汚染もない。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。また、細胞の機能を損なわない低濃度で細胞浸透性で毒性を有する化合物を使用することは可能である。
また、本発明の水溶性高分子を含むマトリクスは、凍結状態でのガラス状態を安定化する効果に優れているため、保存が困難であることが知られている細胞のサイズが大きな卵子等の細胞や受精卵、および、組織化された細胞構造体、組織や組織様物、例えば再生医療で得られた組織などの凍結保存にも使用することができる。
すなわち、本発明の固化体に、細胞、組織、または、膜もしくは凝集体である組織様物などから選択される生体試料を含ませることで、生体試料の凍結保存における高い生存率を実現することができる。特には、本発明の水溶性高分子を含むマトリクスは、初代細胞あるいは樹立細胞に関係なく、間葉系幹細胞;造血系幹細胞;神経系幹細胞;骨髄幹細胞、生殖幹細胞等の体性幹細胞;血球細胞;内皮細胞;等の凍結保存、とりわけ、マウスよりも凍結耐性が低いとされている霊長類の幹細胞の凍結保存、移植用組織の凍結保存、および、生殖医療における生殖細胞の凍結保存において有利に使用され得る。
また、本発明における水溶性高分子として、例えば、生体構成成分である水溶性高分子を使用すれば、固化体を融解して、そのまま生体試料投与用溶液として用いることも可能である。さらに、組織または組織様物の場合には、組織化の段階で本発明のこのような水溶性高分子を含むマトリクスを添加しておき、そのまま凍結させて固化体とすることも可能である。これにより、移植後の問題が軽減すると考えられる。このような場合、本発明の水溶性高分子を含むマトリクスのための好ましい水溶性高分子は、ヒアルロン酸である。特には、粘度平均分子量が3000より大きく、より望ましくは5000より大きく、そして、60000以下、より望ましくは20000以下であるヒアルロン酸である。
本発明の生体試料を含んだ固化体を製造する方法は、水溶性高分子またはその塩を水性溶媒中に溶解させて、上述のような、すなわち、−80℃に凍結させた際生体試料が、固化する前の培養液中(培地中)と比べて1より小さく1/3.5以上に縮小された正射影面積を有し、−80℃に凍結させた際可視光を透過させた場合に光射出側から見て、生体試料が占める領域のマンセル表色系における明度および生体試料が占める領域以外の領域のマンセル表色系における明度の差が3以下であり、示差走査熱量計(DSC)を用いた下記(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、吸熱ピークが確認されないか、または吸熱ピークが確認される温度が−1.4℃を超え、1.1℃以下となる性質をもつように調整された高分子水溶液を準備する工程と、高分子水溶液中に、生体試料を含ませる工程と、生体試料を含む高分子水溶液を冷却および凍結する工程とを含んでいる。
ここで、DSCの測定条件:
(1)20℃で1分間保持後、5℃/minの降温速度で−80℃まで降温、および
(2)−80℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で20℃まで昇温。
本発明のマトリクスを形成する水溶性高分子の水溶液は、−23℃±4℃近辺にガラス転移温度を有しているため、また、マトリクスのガラス化は、凍結時に、水溶性高分子のネットワークに水分子が絡め捕られることにより実現されているため、本発明の固化体を製造するプロセスでは、大きな冷却速度は必要とされない。このため、生体試料を本発明で使用される高分子水溶液に含ませた後、高分子水溶液のガラス転移点温度である−27℃以下に冷却する、例えば生体試料を含む本発明の高分子水溶液を凍結処理容器等に入れて−80℃のディープフリーザー中に放置するだけで、保存に付される細胞や組織などを、生存率を維持したまま、安定的に固化体中に凍結、そして保存することができる。
しかしながら、凍結保存温度の範囲としては、−27℃以下であれば限定されるものではない。例えば上限としては、望ましくは、−70℃以下、好ましくは−80℃以下である。また下限としては、望ましくは、−196℃以上、好ましくは−150℃以上である。
本発明の固化体を製造するプロセスにおける冷却および凍結は、緩慢凍結法で行われる。すなわち、本発明の固化体を製造するためには、冷却速度が10℃/min以下であることが好ましい。さらに好ましくは、冷却速度は、1℃/min以下程度である。この程度の冷却速度であれば、生体試料内が適度に脱水されていって生体試料内液のガラス化が良好に起こり、そして高い細胞凍結保護効果が得られると考えられる。
本発明の固化体では、ガラス化状態が安定化されており、生体試料に対する毒性も低いため、生体試料が長期間安定的に保存され得る。本明細書において、長期間安定的な保存とは、例えば、本発明の固化体を解凍した後の、生体試料例えば細胞の生存率が、保存直前の細胞の生存率を基準として、5か月後に、10%未満程度、好ましくは5%未満程度の低下、または、6か月後に、20%未満程度、好ましくは10%未満程度の低下、または、12か月後に、15%未満程度、好ましくは30%未満程度の低下しかみられないことを意味する。また、本明細書において、長期間安定的な保存とは、例えば、細胞を固化体中で−80℃で長期間保存した後、固化体を解凍し、続いて4℃でそのまま細胞を保存した場合に、解凍後の24時間後でも、解凍直後の細胞生存率を基準として5%未満の生存率の低下しかみられないことを意味する。本発明の固化体では、DMSO溶液を凍結保存液として用いる従来の凍結保存方法と比べ、細胞がストレスの少ない条件で凍結保存されていると考えられる。したがって、本発明の固化体として保存された生体試料では、10%のDMSO溶液などの従来の凍結保存液を用いた凍結保存方法と比較して、解凍後の非常に高い細胞生存率を得ることができる。さらに、固化体の解凍直後のみならず、解凍後に冷蔵保存された細胞も高い細胞生存率を示し得る。本発明の固化体では、細胞の性状を変化させることなしに、安定的に長期間、細胞が凍結保存され得る。したがって、例えば再生医療用途の生体試料の保存に適切である。本発明の固化体の製造および保存のために特別な手技や装置は必要でないため、生存率の高い生体試料を含む本発明の固化体は簡便に製造することができ、また、その運搬等も容易であり、生体試料の取扱いを容易にし得る。
本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、以下において、lifecore biomedical社製のヒアルロン酸は、ヒアルロン酸ナトリウムであるが、簡単化のため、「ヒアルロン酸」と記載している。
マトリクスを形成する水溶性高分子
<試験用試料および試料溶液の調製>
・実施例1
容積2Lの耐圧容器に平均分子量100万である高分子ヒアルロン酸(Shanghai Easier Industrial Development社製)と水とを20:100で混合し、処理温度175℃、処理圧力0.89MPa、および処理時間3分で亜臨界処理を行った。その後、亜臨界処理物を凍結乾燥で乾燥した(なお、この乾燥はスプレードライ法でも可能であった)。これにより、粘度平均分子量が約1万の高分子ヒアルロン酸と粘度平均分子量1000のヒアルロン酸との混合物である水溶性高分子を得た。
この水溶性高分子をHPLCで確認したところ(図12)、実施例1の試験試料はヒアルロン酸の亜臨界処理による高分子量のヒアルロン酸分解物と低分子量のヒアルロン酸分解物の混合物であると考えられたため、エタノール中で高分子量ヒアルロン酸を沈殿させ、低分子量ヒアルロン酸を上澄み側に分画し、この分画した上澄みをHPLCで再分析した。後述する製造例1〜3のヒアルロン酸のHPLCピーク(図11A〜C)と概ね一致したため、本実施例1によって得られた低分子量ヒアルロン酸成分の粘度平均分子量は1000であると見積もられた。
高分子量ヒアルロン酸の極限粘度は、0.49dL/gであり、粘度平均分子量は10000であった。
実施例1の試験用試料1gを、溶媒として10mLのαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)に溶解させることにより、実施例1の試験用試料溶液を得た(すなわち、試験用試料溶液中のヒアルロン酸試料の濃度が10w/v%)。なおこの実施例1を含めて、本発明の実施例、製造例および比較例では、αMEM培地を溶媒としているが、αMEM培地に代えて、超純水を溶媒として用いてもよい。また、後述するDSCの測定では、溶媒をαMEMに代えて超純水としている。なお、以下の例により得られる各試験用試料は、後述の各評価のための試験において、それぞれ適切な溶媒を用いて所定の濃度となるように調製されて使用された。
・製造例1
処理時間7分で亜臨界処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行い、粘度平均分子量が1000のヒアルロン酸断片である試験用試料を得た。極限粘度0.08dL/gであった。
・製造例2
処理時間5分で亜臨界処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行い、粘度平均分子量が2000のヒアルロン酸断片である試験用試料を得た。極限粘度は、0.14dL/gであった。
・製造例3
処理時間4分で亜臨界処理を行った以外は、実施例1と同様な操作を行い、粘度平均分子量が3000のヒアルロン酸断片である試験用試料を得た。極限粘度は、0.19dL/gであった。
・比較例1
DMSO(ナカライテスク(株)製、細胞培養グレード)を試験用試料とした。この試験用試料1mLを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させることにより、比較例1の試験用試料溶液を得た(すなわち、試験用試料溶液中の試験用試料のDMSO濃度が10w/v%)。
・比較例2
溶媒として使用したαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)を試験用試料とした。
・比較例3
ゼラチン(粘度平均分子量315000 新田ゼラチン(株)製)1gを溶媒としてのαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させることにより、比較例3の試験用試料溶液を得た(すなわち、試験用高分子水溶液中の試験用試料のゼラチン濃度が10w/v%)。極限粘度は0.50dL/gであった。
・比較例4
粘度平均分子量1000000である高分子量ヒアルロン酸(Shanghai Easier Industrial Development社製)1gを溶媒としてのαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)100mLに溶解させることにより、比較例4の試験用試料溶液を得た(すなわち、試験用試料溶液中の試験用試料のヒアルロン酸濃度が1w/v%)。極限粘度は、17.2dL/gであった。
・比較例5
粘度平均分子量15000であるヒアルロン酸(lifecore biomedical社製;粉末)を試験用試料とした。この試験用試料1gを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させることにより、比較例5の試験用試料溶液を得た(すなわち、試験用試料溶液中の試験用試料のヒアルロン酸濃度が、10w/v%)。極限粘度は、0.65dL/gであった。
・比較例6
粘度平均分子量23000であるコンドロイチン硫酸ナトリウム塩A(sigma社製)を試験用試料とした。この試験用試料1gを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させることにより、比較例6の試験用試料溶液を得た(すなわち、試験用試料溶液中の試験用試料のコンドロイチン硫酸濃度が10w/v%)。極限粘度は、0.97dL/gであった
・比較例7
アミノ基が60%カルボキシル化されたカルボキシポリリジン(粘度平均分子量13400:(株)バイオベルデ製、CryoScarless DMSO free)に、製造例1の試験用試料(粘度平均分子量が1000のヒアルロン酸断片試料)を1w/v%の量で添加して比較例7の試験用試料溶液とした。極限粘度は、0.11dL/gであった。
・比較例8
試験用試料としてラッキョウ由来のフルクタンを用いた。なお、フルクタンは特開2012−235728号公報の例2にしたがい、以下の方法で抽出・精製することによって得た。
原料としての乾燥ラッキョウ約1kgを、粉砕し、15gの水酸化カルシウムを懸濁させた抽出用の水に混合し、1時間、常温抽出を行った後、1時間、95℃で加熱抽出し、その後、一晩、60℃で加熱抽出した。抽出物に活性炭を添加して脱臭処理を行い、その後、珪藻土で濾過し、残渣と活性炭を除去した。得られた抽出液を、限外濾過膜に通液させて、フルクタンの精製を行った。
得られた精製液は、一端加熱殺菌した後、活性炭を添加して再度脱色処理を行った。この精製液を、85℃で1時間加熱することにより殺菌し、凍結乾燥させて、粉末化を行うことにより、精製フルクタン粉末400gを得た。
得られた精製フルクタン粉末について、粘度平均分子量を測定したところ、12000であった。
このフラクタン粉末1gを溶媒としてのαMEM培地10mLに溶解させることにより、比較例8の試験用試料溶液を得た(すなわち、試験用試料溶液中の試験用試料のフルクタン濃度が10w/v%)。極限粘度は、0.11dL/gであった
・比較例9
粘度平均分子量373000であるプルラン(東京化成工業(株)製)を試験用試料とした。この試験用試料1gを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させることにより比較例9の試験用試料溶液を得た(すなわち、試験用試料溶液中の試験用試料のヒアルロン酸濃度が10w/v%)。極限粘度は、0.55dL/gであった。
・比較例10
比較例5の試験用試料(粘度平均分子量15000のヒアルロン酸)1gを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させたヒアルロン酸濃度10w/v%の水溶液に、製造例2の試験用試料(粘度平均分子量が2000のヒアルロン酸断片試料)を終濃度1w/v%の量で添加して、比較例10の試験用試料溶液を得た。極限粘度は、0.47dL/gであった。
・実施例2
比較例5の試験用試料(粘度平均分子量15000のヒアルロン酸)1gを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させたヒアルロン酸濃度10w/v%の試験用試料溶液に、製造例1の試験用試料(粘度平均分子量が1000のヒアルロン酸断片試料)を終濃度1w/v%の量で添加した。得られた水溶液のpHを10mM Tris−HClを用いて中性に調整して、実施例2の試験用試料溶液とした。極限粘度は、0.65dL/gであった。
・実施例3
比較例9の試験用試料(粘度平均分子量373000のプルラン)1gを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させたプルラン濃度10w/v%の試験用試料溶液に、製造例1の試験用試料(粘度平均分子量が1000のヒアルロン酸断片試料)を終濃度1w/v%の量で添加して、実施例3の試験用試料溶液を得た。極限粘度は、0.55dL/gであった。
・実施例4
比較例9の試験用試料(粘度平均分子量373000のプルラン)1gを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させたプルラン濃度10w/v%の試験用試料溶液に、製造例1の試験用試料(粘度平均分子量が1000のヒアルロン酸断片試料)を終濃度5w/v%の量で添加した。得られた水溶液のpHを10mM Tris−HClを用いて中性に調整して、実施例4の試験用試料溶液とした。極限粘度は、0.55dL/gであった。
・実施例5
容積2Lの耐圧容器に平均分子量100万である高分子ヒアルロン酸(Shanghai Easier Industrial Development社製)と水とを20:100で混合し、処理温度175℃、処理圧力0.89MPa、および処理時間3.5分で亜臨界処理を行った。その後、亜臨界処理物を凍結乾燥またはスプレードライ法で乾燥した。これにより、粘度平均分子量が約6000のヒアルロン酸試料を得た。
このヒアルロン酸1gを溶媒であるαMEM培地(Gibco製、品番C1257−1500BT、溶媒は水である)10mLに溶解させたヒアルロン酸濃度10w/v%の試験用試料溶液に、スクロース(ナカライテスク(株)製、分子量(粘度平均分子量と同値)は342)と、グルクロン酸(富士フイルム和光純薬(株)製、分子量(粘度平均分子量と擬制)194)をそれぞれ終濃度1w/v%の量で添加して実施例5の試験用凍結保存液を得た。極限粘度は、0.32dL/gであった。
<試験例1:初代ヒト間葉系幹細胞の試験用試料溶液を用いた固化体中での凍結保存およびその保存効果の評価>
培養した初代ヒト間葉系幹細胞(Lonza PT2501)を、1×106個/mLの濃度で、実施例1および5ならびに比較例1、2、4、5、7および8の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。
その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、−80℃冷凍庫内で凍結して固化体を得た。7日間、固化体を−80℃で保存した後、37℃の温浴中で急速解凍した。解凍後の各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液は、解凍直後に細胞生存率をトリパンブルー染色により評価した。結果を図1および表1に示す(実施例5の結果は表1のみ)。
図1は、凍結保存液未添加の培地、すなわち比較例2の試験用試料溶液を含む固化体中、または、実施例1ならびに比較例1、4、5、7および8の試験用試料溶液を含む固化体中で凍結保存した細胞の、解凍後の細胞生存率を示している。図1に示されるように、実施例1において、すなわち、ヒアルロン酸の亜臨界処理により得られた、粘度平均分子量が約1万であって、さらに、粘度平均分子量1000であるすなわち1万より小さな分子量を有するヒアルロン酸の切断生成物を含んでいるヒアルロン酸試料が水溶性高分子であって、その水溶液の極限粘度が0.49dL/gである実施例1の試験用試料溶液を含む固化体で、90%を超える顕著に高い保存効果が得られた。この保存効果は一般的によく用いられている凍結保存剤であるDMSOを凍結保存剤として含む比較例1よりも、さらに高い効果であった。本発明の固化体中での凍結が細胞毒性の低い優れた凍結保存であることがわかる。
実施例1の凍結固化体は、昇温過程のDSC測定における吸熱ピークが確認されず(下記の試験例2を参照)、水分子は氷晶を形成せず、自由水もしくはヒアルロン酸分子鎖に吸着もしくは絡め捕られて束縛水となっていると推定される。また、この凍結固化体の溶媒マトリクス領域と細胞領域の明度差が2と小さい(下記の試験例8を参照)ことから、溶媒マトリクス領域と細胞領域の水分子の存在状態が近似し、細胞内も氷晶が形成されていないと考えられる。さらに、試験用試料溶液を−80℃で固化した場合の細胞の面積が固化する前の培養液中(培地中)の細胞の面積の38%にまで収縮している(下記の試験例9を参照)ことから、ヒアルロン酸は細胞内に侵入しておらず、また、浸透圧差によって水分子が細胞外に移動していると考えられる。細胞外に移動した水分子は低分子量のヒアルロン酸もしくは高分子量のヒアルロン酸と置換すると考えられ、細胞周囲に残留して氷晶を形成することで、細胞組織を破壊するといった問題を引き起こすこともなく、また、ヒアルロン酸が細胞内に侵入して細胞を害することもない。このため、比較例1のDMSOとは異なり、細胞毒性が低く、細胞内および細胞周辺に氷晶が形成されることもないので、細胞の凍結保存効果においても優れているのである。
分子量が1000000と大きい高分子量ヒアルロン酸を試験用試料として含む極限粘度が17.2dL/gと大きい比較例4の試験用試料溶液を含む固化体では、細胞保護効果はほとんど認められなかった。比較例4の凍結固化体は、昇温過程のDSC測定における吸熱ピークが確認されなかった(下記の試験例2を参照)のであるが、凍結固化した細胞に収縮が見られず、水分子が細胞内に残存し、また、凍結固化体の溶媒マトリクス領域と細胞領域の明度差が4と大きく(下記の試験例8を参照)、細胞領域が暗転しており、細胞内の水分子が氷晶を形成していると考えられる。このため、氷晶が細胞を破壊してしまい、細胞の保存効果が見られなかったものと推定している。
なお、凍結保存剤を含まない比較例2では、細胞生存率はほぼ0%であった。
また、カルボキシポリリジンを試験用試料として含む極限粘度が0.11dL/gと小さい比較例7では、実施例1やDMSOを凍結保護剤とする比較例1ほどの細胞保護効果は見られなかった。比較例7では、昇温過程のDSC測定における吸熱ピークの出現温度が−9.66℃と低く(下記の試験例2を参照)、水の凍結速度が遅く、氷晶が生成してしまうと考えられる。また、溶媒マトリクス領域と細胞領域の明度差が小さい(下記の試験例8を参照)ことから、溶媒マトリクス領域と細胞領域の氷晶形成状態が近似しており、細胞内にも氷晶が形成されていると推定され、また、細胞も培養液中(培地中)の面積よりも凍結後の面積の方が大きい(下記の試験例9を参照)ことから、細胞内にポリリジンが侵入しているか、氷晶によって細胞が膨張していると考えられる。このため、細胞が損傷してしまい、十分な保存効果が得られないのでないかと推定している。
比較例8のフルクタンについても、吸熱ピークの出現温度が−2℃と低く(下記の試験例2を参照)、水の凍結速度が遅く、氷晶が生成しやすいと考えられ、また、細胞が培養液中(培地中)の面積よりも大きくなっており、破裂も観察された(下記の試験例9を参照)ため、フルクタンの細胞への侵入が考えられる。また、凍結固化後の溶媒マトリクス領域と細胞領域の明度差が5と大きく、細胞領域が暗転していた(下記の試験例8を参照)ことから、細胞内に氷晶が形成されていると推定され、十分な保存効果が得られないと思われる。
このように、昇温過程のDSC測定における吸熱ピークが出現しないか、その出現温度を水の吸熱ピークである0.7℃近辺(−1.4℃〜1.1℃)に出現するように調整することで、溶媒マトリクス中の氷晶の形成を抑制し、かつ溶媒マトリクス領域と細胞領域の明度差を小さくして両者の氷晶形成状態を近似させ、また、細胞を収縮させるように固化することで、細胞に対して水溶性高分子が侵入することを抑制しつつ、細胞内の水分子を減少させて、細胞内の氷晶の形成を防止することで、優れた細胞凍結保存効果を実現できると考えられる。
さらに、本発明の凍結固化体は、DSC測定、明度測定、細胞の正射影面積の測定により、細胞が良好に凍結保存されているか否か、解凍しなくても推認することができるという効果も有している。
なお、実施例5からは、グルクロン酸やスクロースにも、吸熱ピークを0.7℃付近に調整する機能があることが理解される(粘度平均分子量約6000のヒアルロン酸の吸熱ピークは−1.4℃である)。
また、本発明の固化体は、水溶性高分子を溶解する水性溶媒として水の代わりにαMEM培地などの培養液を使用して製造しても、高い細胞保存効果を示したことから、本発明の固化体は、高分子水溶液をそのまま細胞の培養液に加えて細胞を懸濁後、凍結させて製造することができ、そのまま保存することができる。保存する細胞を遠心分離する必要もなく、より高い細胞生存率および細胞の性状の維持が可能であると考えられる。
<試験例2:各試験用試料溶液の示差走査熱量計による分析>
実施例1〜5、比較例1〜10および製造例1〜3の各試験用試料溶液の溶媒をαMEM培地から超純水に変えて、示差走査熱量分析用のサンプルとした。各サンプルを、次に示すように示差走査熱量分析装置(DSC)で走査した。
(1)20℃で1分間保持後、速度フリーで−80℃まで降温。
(2)−80℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で20℃まで昇温。
実施例1、比較例5および超純水の場合(比較例2)の、上記DSCの測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線を図2Aに示す。図2Bは、ガラス転移温度付近における図2Aの拡大図である。また、実施例1、比較例1および超純水の場合(比較例2)それぞれのDSC曲線を図3A〜Cに示す。
また、各試験用試料溶液の昇温過程のDSC曲線において、水の融解に起因すると推定される吸熱ピークが観察される温度、および、昇温過程のDSC曲線において観察される吸熱ピークの吸熱量(昇温時の吸熱量)を分析した。結果を表1に示す。なお、表1において吸熱ピークの吸熱量は、超純水(比較例2;基準液とする)で測定された熱量112.4J/gを100とした場合の割合(%)によって示されている。
図2Aおよび2Bに示されているように、試験用試料が超純水である比較例2(すなわち超純水であるサンプル)では、自由水の氷晶融解ピークのみが観察された(図2A)。試験用試料が粘度平均分子量15000のヒアルロン酸である比較例5では、比較例2と比較して氷晶融解ピークのシフトおよび凝固点降下が見られ(図2A)、また、−20℃付近にガラス転移が確認された(図2B)。一方、粘度平均分子量が約1万のヒアルロン酸に加えてヒアルロン酸の切断生成物(粘度平均分子量1000である低分子ヒアルロン酸)を含む実施例1の試験用試料では、氷晶融解のピークは極めて小さく、ほぼ認められず(図2A)、そして−23℃±4℃付近にガラス転移のみが確認された(図2B)。この結果は、実施例1の固化体においては、水はマトリクス中に氷結しない状態(自由水)で、または高分子に絡め捕られた状態(束縛水)として存在していること、および、融解時の水の再結晶化が抑制されているという、本発明の固化体の顕著に有利な効果を示している。
さらに、図3Aに示されるように、試験用試料が超純水である比較例2では、降温過程において、氷晶形成に伴う非常に大きな発熱ピークが見られた。また、昇温過程においても、氷晶融解に伴う大きな融解熱量が観察された。試験用試料がDMSOである比較例1では、図3Bに示されるように、小さな氷晶形成に伴うピークしか見られず、氷晶融解に伴うピークはほとんど見られなかった。これは、比較例1の試験用試料(DMSO)を含む凍結保存液は凍結状態においてガラス化状態に近いことを示している。実施例1の試験用試料(ヒアルロン酸の切断生成物を含む粘度平均分子量10000のヒアルロン酸)の高分子水溶液では、図3Cに示されるように、融解ピークはほとんど見られず、また、氷晶形成に伴うピークも比較例1で観察されたピークよりもはるかに小さいものであった。したがって、実施例1の試験用試料を含む固化体中では、氷晶はほぼ形成されず、極めて良好なガラス化状態にあると考えられる。
また、吸熱ピークが観察される温度(吸熱ピーク温度)は、比較例5(試験用試料は粘度平均分子量15000のヒアルロン酸)で−1.4℃であったが、比較例5に製造例1の、粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸断片を混合した実施例2で−0.4℃であり、純水の吸熱ピーク出現温度0.7℃に近づいた。製造例1の吸熱ピーク温度は、−8.1℃であり、吸熱ピーク出現温度が純水よりも低い水溶性高分子に添加すれば、吸熱ピーク出現温度はさらに低下すると予想されるが、逆に、吸熱ピーク出現温度は上昇して、純水の吸熱ピーク出現温度に近づけられるかまたは吸熱ピークや発熱ピーク自体が出現しないように調整され得る。
一方、比較例9(試験用試料は粘度平均分子量373000のプルラン)の吸熱ピーク出現温度は1.49℃であり、純水の吸熱ピーク出現温度0.7℃より高かった。この比較例9に製造例1(吸熱ピーク出現温度が−8.1℃)を混合すると(実施例3および4)、吸熱ピーク出現温度は、上昇されるのではなく低下されて、純水の吸熱ピーク出現温度0.7℃と近い0.83℃となった。
すなわち、分子量1000以下のヒアルロン酸と吸熱ピーク出現温度が純水よりも低い水溶性高分子を混合すると、高分子水溶液のピーク出現温度は上がって純水に近づけられ、分子量1000程度のヒアルロン酸と吸熱ピーク出現温度が純水よりも高い水溶性高分子を混合すると、高分子水溶液のピーク出現温度は下がって純水に近づけられることが明らかとなった。
これに対し、製造例2の、粘度平均分子量が2000以下のヒアルロン酸断片の吸熱ピーク温度は、表1に示されているように−0.3℃であった。この製造例2の低分子量試料を比較例5(吸熱ピーク出現温度が−1.4℃)に混合した比較例10の吸熱ピーク出現温度は、低下されて−1.6℃であった。
この結果は、低分子の糖類またはその塩、特に好ましくは粘度平均分子量が1000以下である低分子量の糖類を用いることで、高分子水溶液の吸熱ピーク温度を調整して高分子水溶液の吸熱ピーク温度が純水の吸熱ピーク温度0.7℃付近となるようにできることを示している。粘度平均分子量が1000以下である低分子の糖類またはその塩として、スクロースやトレハロース、グルクロン酸を用いた場合も、吸熱ピーク温度に対して製造例1の試料と同様の効果が観察された。
また、実施例1〜5の試験用試料溶液の昇温過程における吸熱ピークの吸熱量は、水からなる基準液(比較例2)の対応する吸熱量よりも小さく、65%以下であった。本発明の固化体では、水が結晶化されずにガラス状態で固化されていることがわかる。
実施例1〜5の試験用試料溶液の吸熱ピーク温度が水の吸熱ピーク温度0.7℃付近にあること、すなわち純水に近い挙動を示していること、そして、吸熱ピークの吸熱量は水の昇温過程で観察される吸熱ピークの吸熱量より小さいことは、凍結固化した本発明の固化体中のマトリクスにおいては、氷晶を形成しない束縛水や自由水が残存しているということを示している。本発明で使用される水溶性高分子は、凍結時にそのマトリクス内に水分子をトラップしてガラス化を実現していると考えられる。
<試験例3:初代ヒト間葉系幹細胞の試験用試料溶液を用いた固化体中での凍結保存における長期保存効果の評価>
培養した初代ヒト間葉系幹細胞(Lonza PT2501)を、1×106個/mLの濃度で、実施例1および比較例1の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、−80℃冷凍庫内で凍結して固化体を得た。固化体を−80℃で最長12か月まで保存した後、所定の保管期間で、各固化体を取り出し、37℃の温浴中で急速解凍した。解凍後の各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液の細胞生存率を解凍直後にトリパンブルー染色により評価した。結果を図4Aに示す。また、3か月間−80℃で凍結保存した固化体を解凍し、続いて4℃で、一日あるいは1週間保存した。4℃で保存後の細胞懸濁液の細胞生存率をトリパンブルー染色により評価した。なお、4℃での保存後の細胞生存率は、解凍直後(すなわち保存直前)の細胞生存率を100%として算出した。結果を図4Bに示す。
図4Aに示されている結果から、本発明の固化体中で凍結された細胞は、5か月の保存後でもほぼ変わらない、95%以上の高い細胞生存率を示していることがわかる。一方、比較例1の試験用試料(DMSO)を含む試料溶液を用いた凍結保存では、凍結保存2か月後に既に細胞生存率の低下が見られた。そして、3か月後には、比較例1の凍結保存における細胞生存率は50%をきっていることが分かる。この結果は、3か月後でも依然として高い細胞生存率が維持されている本発明の固化体とは対照的であった。凍結保存6か月後においては、本発明の固化体中での凍結保存では、10%未満の生存率の低下しかみられない一方、比較例1の試料溶液を用いた凍結保存では、細胞生存率は25%ほどに低下していた。さらに、本発明の固化体中での凍結保存では、凍結保存12か月後においても、依然として高い細胞生存率が維持されており、細胞生存率の低下は15%未満にすぎなかった。
したがって、本発明の固化体によれば、細胞を長期間安定に、高い細胞生存率で凍結保存することができることがわかる。
また、−80℃で長期間保存した細胞を解凍後にそのまま4℃で保存した場合において、本発明の固化体を用いた場合では、4℃で1日保存した後の細胞生存率が保存直前の細胞生存率のほぼ100%に近かった一方、比較例1では60%程度に低下していた。本発明の固化体中で凍結保存された細胞では、一週間の4℃での保存後でさえも、未だ40%以上の細胞生存率が見られた。これは、本発明の固化体中での凍結保存において、解凍後に生存していた細胞が、実質正常に増殖に向かう細胞であったこと、および、保存中に本発明の固化体中のマトリクスが細胞にダメージを与えていないことを示しており、これにより、本発明の固化体中のマトリクスが非常に優れた細胞保存効果を有していることが確認された。
<試験例4:初代ヒト間葉系幹細胞の試験用試料溶液を用いた固化体中での凍結保存後の細胞の性状の評価>
培養した初代ヒト間葉系幹細胞(Lonza PT2501)を、1×106個/mLの濃度で、実施例1および比較例1の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、−80℃冷凍庫内で凍結して固化体を得た。固化体を−80℃で6か月間保存した。6か月後に、各固化体を37℃の温浴中で急速解凍し、αMEMで洗浄したのち、6ウェルプレートに2.5×104個ずつ播種し、4日後、培養培地中のHGFおよびIL−10濃度を定量した。HGFおよびIL−10の定量には、それぞれ、専用のキット(Quantikine(登録商標) ELISA Human HGF、カタログ番号DHG00、R&D社製)、Quantikine(登録商標) ELISA Human IL−10、カタログ番号D100B、R&D社製)を用い、キット添付の手順書の順序に準じて行った。結果を図5Aおよび5Bに示す。
図5Aに示されるように、凍結保存剤としてのDMSOを含む比較例1の試料溶液の存在下の凍結保存では、解凍後の細胞におけるHGF産生が高かった。一方、ヒアルロン酸の切断生成物を含む粘度平均分子量10000のヒアルロン酸を含む本発明の実施例1の固化体では、解凍後の細胞におけるHGF産生量は低く、比較例1の1/3以下であった。DMSO存在下での結果は、DMSO存在下での保存では細胞がストレス状態にあったことを示している。本発明の固化体を用いた細胞保存ではこのような高いHGF産生は観察されないことから、本発明の固化体では細胞は安定に保護されていることがわかる。
図5Bに示されるように、IL−10産生量は、実施例1の固化体中で凍結保存された細胞で高く、比較例1の試験用試料溶液を用いて凍結保存された細胞では非常に低かった。この結果から、本発明の固化体は、細胞の機能を維持しつつ良好に細胞を凍結保存できることがわかる。
本発明の固化体はDMSOやエチレングリコールなどの細胞毒性を有する化合物を含まないので、本発明の固化体中での凍結保存は、従来の凍結保存液とは異なり、生体試料をストレス状態にさらすことなく、その性状を維持したままで凍結保存することが可能であるという顕著な効果を有する。
また、血清や血清由来タンパク質を添加しないため、細菌やウィルスによる汚染もない。なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。また、細胞の機能を損なわない低濃度で細胞浸透性で毒性を有する化合物を使用することは可能である。
<試験例5:初代ヒト間葉系幹細胞の試験用試料溶液を用いた固化体中での凍結保存後の細胞の性状(未分化性)の評価>
培養した初代ヒト間葉系幹細胞(Lonza PT2501)を、1×106個/mLの濃度で、実施例1および比較例1の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、−80℃冷凍庫内で凍結して固化体を得た。固化体を−80℃で6か月間保存した。6か月後に、各固化体を取り出し、37℃の温浴中で急速解凍した。解凍後の各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液において、CD90、CD44およびCD105の発現強度をフローサイトメトリーにより解析した。結果を図6に示す。
CD90、CD44およびCD105は、未分化状態の間葉系幹細胞に発現する代表的な表面タンパク質であり、間葉系幹細胞の未分化性マーカーとして用いられるものである。図6に示されるように、CD90、CD44およびCD105の、全ての未分化性バイオマーカーの発現は、実施例1の固化体中で凍結保存した細胞において比較例1の試験用試料溶液で凍結保存した細胞よりも高かった。したがって、実施例1の固化体中で凍結保存した細胞が未分化マーカーの発現を維持していることがわかる。すなわち、実施例1の固化体中で細胞は未分化状態を保持することができる。本発明の固化体を用いた凍結保存によれば、比較例1の試験用水溶液で保存した場合に見られるような分化状態への影響を低減することができることがわかる。
この結果より、本発明の固化体中での凍結保存が、未分化状態で凍結保存することが重要である幹細胞の凍結保存にも好適に適用可能であることがわかる。
<試験例6:各種試料を含む固化体における細胞生存率の評価>
培養した初代イヌ間葉系幹細胞(cyagen C160)を、1×106個/mLの濃度で、実施例1〜4および比較例3、6、9および10の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した(ただし、実施例1の試験用試料溶液中のヒアルロン酸試料の濃度は20w/v%とした)。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、−80℃冷凍庫内で凍結して固化体を得た。各固化体を1日間保存した後、各固化体を取り出し、37℃の温浴中で急速解凍した。解凍後の各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液の細胞生存率をトリパンブルー染色により評価した。結果を表1に示す。
試験例1の結果と併せて表1に示されている細胞生存率の結果から、本発明における水溶性高分子はヒアルロン酸に限定されず、他の水溶性高分子であっても、その高分子水溶液が所定の吸熱ピーク温度を有していれば高い細胞保護効果を示すことがわかる。また、比較例9と実施例3および4(比較例9に製造例1を添加したもの)との結果から、水溶性高分子に、より分子量の小さい糖類またはその塩を組み合わせて使用することにより、固化体のマトリクスが良好な細胞保護効果を示すようになることがわかった。これは、試験例2の結果にも示されているように、低分子の糖類またはその塩を高分子水溶液に添加することによって試料溶液の吸熱ピーク温度を純水の吸熱ピーク温度0.7℃付近となるよう調整できたことによるものと推定される。比較例10は、粘度平均分子量15000であるヒアルロン酸の高分子水溶液(比較例5)に、製造例2の低分子量の糖類(粘度平均分子量が2000のヒアルロン酸断片試料)を添加した試験用試料溶液であるが、試験例2の結果でも示されているように、DSC曲線の吸熱ピーク温度が−1.6℃と、比較例5の吸熱ピーク温度(−1.4℃)よりも低下してしまい、純水の吸熱ピーク出現温度0.7℃から遠ざかってしまった。この結果、また、実施例ほどの高い細胞生存率は得られなかった。この結果から、高分子水溶液に低分子量の糖類またはその塩を混合して、試験用試料溶液の吸熱ピーク温度を所望の範囲に調整することにより、より高い細胞生存率が得られ得ることがわかった。
また、糖類またはその塩を添加することによって、調製された試験用試料溶液が酸性を呈している場合には、pH調整により試験用試料溶液を中性にすることで、良好な細胞保護効果が得られた。pH調整により細胞の生存に、より適切な条件となったと考えられる。添加される低分子量の糖類またはその塩が細胞保護成分として作用して凍結保存後の細胞の細胞生存率がさらに向上されるためには、高分子水溶液中に低分子量の糖類またはその塩が、水溶性高分子に対して1〜5w/v%の量で添加されていることが必要であった。一方、添加する低分子量の糖類またはその塩の量を水溶性高分子に対して10w/v%より多くしても、細胞生存率の向上効果にさらなる影響は見られなかった。
また、表1から、試験用試料溶液の極限粘度(η)が、0.20dL/g以上、0.95dL/g以下程度の範囲にあることが、細胞生存率を高めるためにより好ましいことがわかる。極限粘度(η)が上記の所定の範囲内にある場合、高分子溶液を含むマトリクスが、生体試料内からの水分子の排出を助け、そして排出されてきた水分子を効率よく生体試料の周囲の高分子および/または低分子の糖類と置換することができると考えられる。また、表1より、DSC曲線の吸熱ピーク温度が−1.4℃以下、1.1℃より大きい場合、凍結保存後の細胞生存率が低下することがわかる。すなわち、吸熱ピーク温度が−1.4℃を超え、1.1℃以下程度であることは、凍結時に高分子溶液が高分子マトリクス内に水分子を保持することができることを示していると考えられる。
また、本試験例6の結果より、本発明の固化体が、ヒトだけでなく、イヌ間葉系幹細胞に対しても、良好な凍結保護効果を示すことがわかった。
<試験例7:固化体中の細胞の評価(細胞内ガラス化状態の評価)>
培養した初代イヌ間葉系幹細胞(cyagen C160)を、1×106個/mLの濃度で、実施例1および比較例1の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。対照として、凍結保存剤を含まないαMEM培地からなる比較例2の試験用試料溶液に細胞を懸濁させた対照懸濁液を同様に調製した。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液および対照懸濁液を、硬質硝子製試料置板(16φ×0.12mm)に5μL添加し、硬質硝子製カバーガラス(12φ×0.12mm)でカバーし、linKam社製顕微鏡用冷却ステージ(THMS600)で、5℃/minで−80℃まで降温し、透過光顕微鏡(Olympus BX53)で−80℃にて固化体の画像を撮影した。結果を図7A〜Cに示す。
図7Aは、対照懸濁液の結果を示しており、培地のみでは、固化体中での細胞内に氷晶が発生して光が乱反射するために細胞が暗転していることがわかる。図7Bは、DMSOが試験用試料である比較例1の結果を示している。図7Bにおいても、細胞は暗転しており、微小氷晶が形成されていることがわかる。図7Cは、実施例1の固化体の結果である。細胞が明転しており、固化体中での細胞内が非晶状態にガラス化していることがわかる。
この結果から、本発明の固化体が細胞内をガラス化状態にして凍結させていることがわかる。そして、ヒアルロン酸の切断生成物である糖類を含むことにより、ガラス状態がより安定的に形成されることがわかった。低分子量を有する糖類によって細胞周辺の氷晶形成が抑制されることにより、ガラス化が安定的に効率よく起こったと考えられる。
<試験例8:明度差を用いた細胞内ガラス化状態の評価>
培養した初代イヌ間葉系幹細胞(cyagen C160)を、1×106個/mLの濃度で、実施例1〜5および比較例1〜10の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。対照として、凍結保存剤を含まないαMEM培地からなる比較例2の試験用試料溶液に細胞を懸濁させた対照懸濁液を同様に調製した。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液および対照懸濁液を、硬質硝子製試料置板(16φ×0.12mm)に5μL添加し、硬質硝子製カバーガラス(12φ×0.12mm)でカバーし、linKam社製顕微鏡用冷却ステージ(THMS600)で、5℃/minで−80℃まで降温し、透過光顕微鏡(Olympus BX53)で−80℃にて固化体の画像を撮影した。図8Aおよび8Bに実施例1ならびに比較例1および2の結果を示す。
図8Aに示されている観察像の細胞内と細胞外の明暗の差(絶対値)を画像解析ソフトImageJを用いて解析した。それぞれの画像において、溶媒領域の明度および細胞内部の明度と、マンセル明度とを同条件で読み込み、溶媒領域の明度および細胞内部の明度のそれぞれの読み込みデータと各マンセル明度の読み込みデータとを比較して、最も近い読み込みデータのマンセル明度を、溶媒領域の明度および細胞内部の明度として採用して、溶媒の明度および細胞内部の明度を数値化(マンセル値化)した。なお、画像解析ソフトで読み込んだ細胞内領域または溶媒領域の明度の読み込み値が、マンセル明度の最も暗い値0の読み込み値よりもさらに暗い値である場合は、便宜上細胞内領域または溶媒領域のマンセル値を0とし、画像解析ソフトで読み込んだ細胞内領域または溶媒領域の明度の読み込み値が、マンセル明度の最も明るい値10の読み込み値よりもさらに明るい値である場合は、便宜上細胞内領域または溶媒領域のマンセル明度の値を10とする。
測定の結果、対照懸濁液(比較例2)では、溶媒領域のマンセル明度は5、細胞内領域のマンセル明度は0であり、溶媒領域と細胞内部領域のマンセル明度の差は5であった。比較例1では溶媒領域の明度は4、細胞内領域のマンセル明度は0、マンセル明度差は4であった。これに対し、実施例1では、溶媒領域のマンセル明度が4、細胞内領域のマンセル明度が2で、マンセル明度差は2であった(図8B)。実施例2〜4および比較例3〜10についても、同様に、溶媒領域のマンセル明度、細胞内領域のマンセル明度を求め、明度差を算出した。結果を表1に示す。
凍結時に氷晶が形成されると可視光は遮断されて明度が低下する。したがって、溶媒マトリクス領域および生体試料内領域(細胞内領域)においてマンセル明度が2以上であることが好ましい。マンセル明度がこの程度の値であることは、溶媒マトリクス領域および生体試料内領域(細胞内領域)において氷晶が形成されていない、すなわち良好にガラス化されていることを示している。実施例1では、溶媒領域のマンセル明度が4であり、細胞内領域のマンセル値が2であったことから、どちらの領域においても、氷晶が形成されていないことがわかった。
また、溶媒領域のマンセル明度と細胞内領域のマンセル値との明度差は、実施例2〜5においても、実施例1と同様、2であった。本発明の固化体において、固化体中の溶媒領域は、上述のように水溶性高分子を調整して、氷晶ができない状態となっている。したがって、この溶媒マトリクス側の明度と生体試料内側の明度とに差がほぼ無いというこの結果は、マトリクス領域と細胞内領域とで凍結状態がほぼ同じであることを意味する。すなわち、本発明の固化体では生体試料内の領域にも氷晶が形成されていないことを示している。
さらに、実施例1および2と、粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸が添加されていない比較例5および粘度平均分子量が2000以下のヒアルロン酸が添加されている10とを比較することにより、また、実施例3および4と、粘度平均分子量が1000以下のヒアルロン酸が添加されていない比較例9とを比較することにより、溶媒マトリクス領域の明度と生体試料内領域の明度との差の調整も、水溶性高分子またはその塩を含む高分子水溶液に、水溶性高分子よりも低い分子量を有する糖類またはその塩を添加することにより行うことができることが判明した。表1から、明度差と細胞生存率とは良好な相関関係を示していることがわかる。細胞内領域と溶媒領域との明度差は3以下であることが望ましい。また、細胞内領域の明度の値に比べて、溶媒領域の明度の値の方が大きいか同じであることが望ましい。したがって、本発明の固化体においては、低分子量の糖またはその塩を添加することなどにより、溶媒マトリクス領域の明度と生体試料内領域の明度との差が3以下に調整され、これにより、細胞内領域と溶媒領域との両方で良好なガラス化状態が実現されている。
<試験例9:固化体中の細胞の評価>
培養した初代イヌ間葉系幹細胞(cyagen C160)を、1×106個/mLの濃度で、実施例1〜5、比較例1〜10および製造例1〜3の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液を、硬質硝子製試料置板(16φ×0.12mm)に5μL添加し、硬質硝子製カバーガラス(12φ×0.12mm)でカバーし、linKam社製顕微鏡用冷却ステージ(THMS600)で、5℃/minで−80℃まで降温して固化させ、透過光顕微鏡(Olympus BX53)で固化体を観察した。培養液中(培地中)すなわち固化前および−80℃への降温後(固化した状態)に冷却ステージの法線方向上方から固化体の画像を撮影した。撮影した降温前および降下後の画像において各細胞の細胞面積を画像解析ソフトImageJを用いて算出し(細胞の正射影面積)、固化に伴う細胞の正射影面積の変化を求めた。固化前の培養液中(培地中)の細胞の面積に対する固化後の細胞の面積の割合を算出し、細胞の収縮率(%)とした。結果を表1に示す。
実施例1〜5の固化体中で凍結された細胞は、それぞれ、38、33、33、33、および40%の細胞収縮率を示した。実施例1〜5の固化体中での凍結保存では、凍結される細胞内からの水の排出が促進され、凍結時に細胞内が良好に脱水されている。実施例1〜5の生体試料の凍結では、いずれの場合も水溶性高分子および/または低分子量の糖類が細胞の周囲に十分に近接して存在し、細胞内液と高分子溶液とのあいだに生じる浸透圧差により細胞内から細胞外へ移動した水分子を水溶性高分子のマトリクス中にトラップしてさらに細胞内からの水の排出を促進させ、そして、細胞内のタンパク質や糖類の高められた濃度によって細胞内の水を過冷却状態とし、さらに過冷却水とのあいだの蒸気圧差によって水分子の細胞膜を通過した細胞外への移動をさらに促進して、細胞内での氷結や氷晶の成長を防止または抑制している。また、細胞が収縮しているのであるから、水溶性高分子等は細胞に侵入していないことがわかる。
これに対し、DMSOが試験用試料である比較例1および培地のみである比較例2では、凍結後に細胞の正射影面積が増大していた。また、極限粘度(η)が、0.20dL/g以上、0.95dL/g以下の範囲外にある比較例3、4および6の試験用試料溶液での凍結保存では、細胞は凍結前とほぼ同じ正射影面積を有していた。細胞内の脱水が十分に起こらなかったと考えられる。一方、DSC曲線の吸熱ピーク温度が水の吸熱ピーク温度0.7℃付近から外れ、−1.4℃以下、1.1℃より大きい試験用試料溶液(比較例5、9および10)においては、細胞の収縮は起こったものの十分ではなかった。細胞の脱水が十分に促進されなかったためであると考えられる。したがって、これら比較例の固化体中での凍結保存後の細胞の生存率は、細胞が良好に脱水している実施例1〜5と比較して低かったと考えられる。比較例7および8では、細胞の正射影面積は凍結前より増大してした。比較例8では、凍結により細胞破裂も起こっていることが観察された。比較例7および8では、水溶性高分子が細胞内に浸透していると考えられる。また、比較例7および8における凍結保存後の細胞の細胞生存率も低かった。このような細胞浸透性の水溶性高分子は、凍結により細胞を膨張させ、細胞にダメージを与えるため、生体試料の凍結保存用に用いられる高分子水溶液のための水溶性高分子としては適していないと考えらえる。また、極限粘度(η)の小さい製造例1〜3では、細胞の正射影面積に変化は見られず、細胞の脱水は起こっていないと推定された。
本発明の固化体中での凍結保存では、凍結時に細胞内が良好に脱水されることにより、凍結時の細胞へのダメージは著しく低下され、これにより、解凍された細胞が高い生存率を示すと考えられる。
<試験例10:種々の細胞に対する凍結保護の評価>
培養したマウス由来マクロファージ様細胞株(RAW264)、ヒト結腸癌由来細胞(Caco-2)および初代ヒト肺微小血管内皮細胞(HMVEC)のそれぞれを、1×106個/mLの濃度で、実施例1および比較例1の試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、−80℃冷凍庫内で凍結して固化体を得た。固化体を7日間保存した後、各固化体を取り出し、37℃の温浴中で急速解凍した。解凍後の各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液の細胞生存率をトリパンブルー染色により評価した。結果を図9に示す。
図9に示されるように、本発明の固化体中で凍結保存した場合、全ての細胞において、DMSOが試験用試料である比較例1とほぼ同等、またはそれ以上の高い細胞生存率が得られた。この結果から、本発明の固化体では、初代細胞あるいは樹立細胞に関係なく、また、細胞の由来種も問わず、様々な種類の細胞が高い細胞生存率で凍結保存されていることが確認された。
<試験例11:低分子量の糖類の細胞生存率に及ぼす効果の評価>
培養した初代イヌ間葉系幹細胞(cyagen C160)を、1×106個/mLの濃度で、製造例1〜3の各試験用試料溶液(血清非含有)に懸濁した。その後、各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液を、緩慢細胞凍結器(Nalgene(登録商標)ミスターフロスティー)中で、−80℃冷凍庫内で凍結して固化体を得た。固化体を7日間保存した後、各固化体を取り出し、37℃の温浴中で急速解凍した。解凍後の各試験用試料溶液を含む細胞懸濁液の細胞生存率をトリパンブルー染色により評価した。結果を図10および表1に示す。
表1に示されているように、水溶性高分子より分子量の小さい、低分子量の糖類またはその塩(粘度平均分子量がそれぞれ、1000、2000、3000)の極限粘度(η)はそれぞれ、0.08、0.14、0.19と、0.2dL/g以上、0.95dL/g以下という所望の範囲の範囲外にある。本試験例11により、このような低分子量の糖類またはその塩だけでは、細胞生存効果を得ることはできないことが判明した。製造例3では、約10%の細胞生存率が観察されたが、これは、製造例3の試験用試料中に含まれ得る3000より分子量の大きなヒアルロン酸によるものであると推測される。
<試験例12:亜臨界処理ヒアルロン酸試料のHPLC分析>
製造例1〜3の試験用試料の1wt%水溶液を作製し、0.45μmのメンブレンフィルター(ミリポア社製)でフィルターろ過した後、各試験用試料の成分をHPLCにより分析した。移動相として、A液:16mM NaH2PO4水溶液、B液:800mM NaH2PO4水溶液を用い、ZORBAX NH2(アジレント・テクノロジー(株)製、カラムサイズφ4.6×250mm、粒子径5μm)順相HPLCカラムを用いて、流速1.0mL/min、カラム温度40℃、検出波長210nmで、成分を分離した。グラジエント条件は、移動相B濃度0%(0分)→移動相B濃度100%(60分)とした。結果を図11A〜Cに示す。また、標品として、0.2wt%の濃度で、二糖であるHA02、四糖であるHA04、六糖であるHA06、八糖であるHA08および十糖であるHA10(全てイズロン社製)のヒアルロン酸のオリゴ糖をそれぞれ含む水溶液を調製し同様にHPLC分析を行った。この結果が図11Dに示されている。
本HPLC分析条件では、単糖は保持時間3.5分、また、図11Dに示されているように、二糖は保持時間9分付近に確認される。図11Aは、製造例1のヒアルロン酸の切断生成物を含む粘度平均分子量が1000である試験用試料の分析結果を示すものであるが、保持時間3.5分付近に単糖に対応するピーク、保持時間9分付近の二糖に対応するピークが観察される。すなわち、製造例1の試験用試料には、このような単糖や二糖の成分が含まれており、細胞生存率の向上効果に寄与していると考えられる。
<試験例13:実施例1の試験用試料のHPLC分析>
実施例1の試験用試料(亜臨界処理により得られた粘度平均分子量が約1万のヒアルロン酸試料)について、上述の製造例1〜3の試験用試料のHPLC分析と同じ条件を用いて、HPLC分析した。結果を図12に示す。
同様に図11Dと比較すると、実施例1の試験用試料にも、保持時間3.5分付近および9分付近にそれぞれ単糖や二糖に対応するピークが観察されることがわかる。すなわち、実施例1の試験用試料にも、このような単糖や二糖の成分が含まれており、これにより、高い細胞生存率効果が得られていると考えられる。
上記の結果より、本発明の固化体内では、生体試料内はマトリクス部分と同様に安定にガラス化されており、これにより凍結時の生体試料内での氷晶の成長が防止または抑制されていることがわかる。本発明の固化体は、DMSOやエチレングリコールなどの細胞浸透性で細胞毒性のある化合物、および/または、血清や血清由来のタンパク質等の添加を基本的に必要とすることなく、高い細胞生存率で生体試料を凍結保存することができるという顕著な効果を有していることがわかる。本発明の固化体内では細胞は良好に保護され、その性状も維持される。
なお、細菌やウィルスに汚染されていないようなタンパク質を添加することは可能である。また、細胞の機能を損なわない低濃度で細胞浸透性で毒性を有する化合物を使用することは可能である。

Claims (13)

  1. 水性溶媒と水溶性高分子またはその塩とを含有するマトリクスおよび生体試料を含む固化体であって、
    前記生体試料が、固化する前と比べて1より小さく1/3.5以上に縮小された正射影面積を有し、
    可視光を透過させた場合に光射出側から見て、前記生体試料が占める領域のマンセル表色系における明度および前記マトリクスが占める領域のマンセル表色系における明度の差が3以下であり、
    前記マトリクスの、示差走査熱量計(DSC)を用いた下記(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、吸熱ピークが確認されないか、または吸熱ピークが確認される温度が−1.4℃を超え、1.1℃以下であることを特徴とする固化体。
    (DSC測定条件)
    (1)20℃で1分間保持後、5℃/minの降温速度で−80℃まで降温。
    (2)−80℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で20℃まで昇温。
  2. 固体凍結物である請求項1記載の固化体。
  3. 前記水溶性高分子またはその塩を0.1〜20w/v%以下の含有量で含む請求項1または2記載の固化体。
  4. 前記(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、前記昇温過程における、吸熱ピークの吸熱量が、0J/g、または水からなる基準液の対応する吸熱量の65%以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の固化体。
  5. 前記生体試料が細胞であり、前記細胞が、哺乳動物細胞である請求項1〜4のいずれか1項に記載の固化体。
  6. 前記生体試料が細胞であり、前記細胞が、哺乳動物間葉系幹細胞、哺乳動物血球細胞、または哺乳動物内皮細胞である請求項5記載の固化体。
  7. 融解されて生体試料投与用溶液として用いられる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の固化体。
  8. 前記生体試料投与用溶液中に含有される生体試料によるHGFの産生量が、前記水溶性高分子またはその塩の代わりにDMSOを含む固化体中の生体試料が融解後に産生するHGFの産生量と比較して抑制されている、請求項7記載の固化体。
  9. 前記生体試料投与用溶液中に含有される生体試料によるIL−10の産生量が、前記水溶性高分子またはその塩の代わりにDMSOを含む固化体中の生体試料が融解後に産生するIL−10の産生量と比較して増大されている、請求項7記載の固化体。
  10. 生体試料を含んだ固化体を製造する方法であって、
    水溶性高分子またはその塩を水性溶媒中に溶解させて
    −80℃に凍結させた際、前記生体試料が、固化する前と比べて1より小さく1/3.5以上に縮小された正射影面積を有し、
    −80℃に凍結させた際、可視光を透過させた場合に光射出側から見て、前記生体試料が占める領域のマンセル表色系における明度および前記生体試料が占める前記領域以外の領域のマンセル表色系における明度の差が3以下であり、
    示差走査熱量計(DSC)を用いた下記(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、吸熱ピークが確認されないか、または吸熱ピークが確認される温度が−1.4℃を超え、1.1℃以下となる性質をもつように調整された高分子水溶液を準備する工程と、
    前記高分子水溶液中に前記生体試料を含ませる工程と、
    前記生体試料を含む前記高分子水溶液を冷却および凍結する工程とを備えることを特徴とする固化体を製造する方法。
    (DSC測定条件)
    (1)20℃で1分間保持後、5℃/minの降温速度で−80℃まで降温。
    (2)−80℃で1分間保持後、10℃/minの昇温速度で20℃まで昇温。
  11. 前記生体試料を含む前記高分子水溶液を冷却および凍結する工程が、冷却速度10℃/min以下の緩慢凍結法で−27℃以下の温度まで冷却および凍結することで行われる請求項10記載の固化体を製造する方法。
  12. 前記固化体が、前記水溶性高分子を0.1〜20w/v%以下の含有量で含む請求項10または11記載の固化体を製造する方法。
  13. 前記(1)〜(2)の測定条件によって得られる昇温過程のDSC曲線において、前記昇温過程における、吸熱ピークの吸熱量が、0J/g、または水からなる基準液の対応する吸熱量の65%以下である請求項10〜12のいずれか1項に記載の固化体を製造する方法。
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