JP2020125811A - 回転伝達装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】クラッチ機構のローラが中立位置にある状態で内方部材が外方部材に対して相対的に高速回転する際、クラッチ機構の円筒面とローラ間における引き摺りトルクの発生を防ぐ。【解決手段】クラッチ機構3は、内方部材1の円筒面10と、外方部材2の内周部7のカム面11と、円筒面10とカム面11によるくさび空間に配置されたローラ12と、ローラ12を保持する保持器13とを有する。ローラ12は、円筒面10とカム面11に係合する係合位置と、当該係合を解除する中立位置との間を移動可能に配置されている。保持器13とローラ12との間に介在する弾性部材19を備える。弾性部材19により、中立位置のローラ12を円筒面10から浮いた状態に保つ。【選択図】図1
Description
この発明は、動力伝達経路における動力の伝達と遮断の切り替えに用いられる回転伝達装置に関する。
従来、回転伝達装置として、内方部材と、この内方部材の外方に配置された内周部を有する外方部材と、それら内方部材と外方部材間で回転トルクの伝達と遮断を行うクラッチ機構とを備えるものが知られている。そのクラッチ機構は、外方部材の内周部に設けられた円筒面と、内方部材に設けられたカム面と、それら円筒面とカム面とで形成されたくさび空間に配置されたローラと、ローラを保持する保持器とを有する。保持器は、周方向にローラと当接可能なポケット面を有する。ローラは、カム面に対する保持器の相対回転によって円筒面及びカム面に係合する係合位置と、当該係合を解除する中立位置との間を移動可能に配置されている。保持器とカム面間の相対回転を制御する手段として、電磁アクチュエータが利用されている。
例えば、特許文献1に開示された回転伝達装置は、スイッチばねと、電磁石と、ロータと、アーマチュアとを備える。スイッチばねは、内方部材に対する保持器の相対回転により弾性変形させられ、その復元弾性によりローラが中立位置に移動するように保持器を復帰回転させる。アーマチュアは、保持器に対して回り止めされた状態で軸方向に移動可能に支持されている。ロータは、外方部材と一体に回転可能に配置されている。アーマチュアが、電磁石に対する通電により、ロータに吸着されると、保持器が、アーマチュア、ロータを介して外方部材に接続され、その保持器と内方部材の相対回転により、ローラが外方部材の円筒面および内方部材のカム面に係合させられ、内方部材と外方部材間において回転トルクが伝達される。前述の通電を解除すると、スイッチばねのばね力により保持器が復帰回転させられ、この保持器のポケット面に周方向に押されるローラが中立位置に移動させられ、円筒面及びカム面に対するローラの係合が解除される。
上述のようなクラッチ機構においては、ローラが中立位置にある状態で内方部材が高速に回転する場合、その内方部材のカム面と共にローラが高速に回転する。このため、ローラに作用する遠心力により、ローラが外方部材の円筒面に押し付けられることがある。このとき、内方部材と外方部材間の相対的な回転速度差が大きい場合、ローラが内方部材と共に外方部材の円筒面に対して相対的に高速回転し、円筒面とローラの接触部で生じる引き摺りトルクが、ローラや円筒面の摩耗、ローラのミス係合(ローラが不正に係合位置へ移動させられる)、動力損失の原因になる。
そこで、この発明が解決しようとする課題は、クラッチ機構のローラが中立位置にある状態で内方部材が外方部材に対して相対的に高速回転する際、クラッチ機構の円筒面とローラ間における引き摺りトルクの発生を防ぐことである。
上記の課題を達成するため、この発明は、内方部材と、前記内方部材の外方に配置された内周部を有する外方部材と、前記内方部材と前記外方部材間で回転トルクの伝達と遮断を行うクラッチ機構と、を備え、前記クラッチ機構が、前記内方部材と前記外方部材の前記内周部との間に配置されたローラと、前記ローラを保持する保持器と、を有し、前記ローラが、前記内方部材と前記外方部材に係合する係合位置と、当該係合を解除する中立位置との間を移動可能に配置されている回転伝達装置において、前記保持器と前記ローラとの間に介在する弾性部材をさらに備え、前記内方部材が、周方向に連続する円筒面を有し、前記外方部材の前記内周部が、前記円筒面との間に周方向に向かって狭小となるくさび空間を形成するカム面を有し、前記弾性部材が、前記中立位置の前記ローラを前記円筒面から浮いた状態に保つように配置されている構成を採用したものである。
上記構成によれば、中立位置のローラが弾性部材によって内方部材の円筒面から浮いた状態に保たれるため、クラッチ機構のローラが中立位置にある状態で内方部材が外方部材に対して相対的に高速回転しても、そのローラと円筒面間における引き摺りトルクの発生が防止される。
具体的には、前記保持器が、前記ローラに対して周方向両側の位置に当該ローラと周方向に接触可能なポケット面を有し、前記弾性部材が、前記中立位置の前記ローラを周方向一方側の前記ポケット面と前記カム面とに押し付けるように当該ローラに対して内方側かつ周方向他方側から当該ローラを外方側かつ周方向一方側に向けて押すばね片部を有するとよい。このようにすると、中立位置のローラを弾性部材のばね片部で円筒面から浮かせる状態のとき、そのローラをばね片部が押す方向とは反対側のポケット面とカム面で安定させることができる。
また、前記保持器が、周方向に隣り合う前記ローラ間に位置する複数の柱部を有し、前記ポケット面が、前記柱部の周方向両端にそれぞれ形成されており、前記柱部が、周方向一端側の前記ポケット面から周方向に凹んだ第一盗み部と、周方向他端側の前記ポケット面から周方向に凹んだ第二盗み部とを有し、前記弾性部材が、前記第一盗み部と前記第二盗み部を掴むフック部を有するとよい。このようにすると、弾性部材をフック部で盗み部に取り付けることができると共に、ローラとフック部の干渉を避けることができる。
また、前記外方部材が、外輪と、前記外輪の内側に圧入されたカムリングとを有し、前記外輪の内側に円筒面状の嵌め合い面が形成されており、前記カムリングの外周が、前記嵌め合い面に嵌め合う円筒面状であり、前記カム面が、前記カムリングの内周に形成されているとよい。このようにすると、カム面を含むカムリングを簡単に形成することができる。
また、前記クラッチ機構が、前記外方部材に対する前記保持器の相対回転により弾性変形させられその復元弾性によって前記保持器を復帰回転させるように配置されたスイッチばねと、前記保持器に対して回り止めされた状態で軸方向に移動可能に支持されたアーマチュアと、前記アーマチュアに軸方向に対向するロータと、前記アーマチュアを前記ロータに磁気吸引する電磁石と、前記アーマチュアを前記ロータから離反する方向に押圧する離反ばねとを有するとよい。このようにすると、内方部材と外方部材間で相対回転する場合、電磁石への通電時、アーマチュアとロータ間の摩擦で保持器が外方部材に対して相対回転させられ、その保持器によって中立位置のローラが弾性部材に抗して係合位置まで移動させられるので、内方部材と外方部材間で回転トルクを伝達することができる。一方、その通電を遮断すると、アーマチュアが離反ばねによってロータから離され、スイッチばねにより保持器が復帰回転させられ、その保持器によってローラが中立位置に移動させられるので、弾性部材によってローラを内方部材の円筒面から浮いた状態に戻すことができる。
上述のように、この発明は、上記構成の採用により、クラッチ機構のローラが中立位置にある状態で内方部材が外方部材に対して相対的に高速回転する際、弾性部材でローラを内方部材の円筒面と非接触の状態に保ち、ローラと円筒面間における引き摺りトルクの発生を防ぐことができる。
この発明の一例としての第一実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1、図2に示すように、実施形態に係る回転伝達装置は、内方部材1と、内方部材1と同軸上に配置された外方部材2と、内方部材1と外方部材2間で内方部材1から外方部材2への回転の伝達と遮断とを行なうクラッチ機構3とを備える。
以下、内方部材1と外方部材2の軸線(回転中心線)に沿った方向を「軸方向」という。また、その軸線に直交する方向を「径方向」という。また、その軸線回りの円周方向を「周方向」という。軸方向は、図1において左右方向に相当し、径方向は、図1において上下方向に相当する。また、「内方」は径方向内方を意味し、「外方」は径方向外方を意味する。
内方部材1と外方部材2は、それぞれ動力伝達経路の構成要素となる軸である。内方部材1と外方部材2の少なくとも一方は、クラッチ機構3に回転トルクを入力する部材となる。クラッチ機構3は、回転トルクを伝達する係合状態と、回転トルクの伝達を遮断する係合解除状態とを電磁的に切り替え可能なものである。
内方部材1と外方部材2のそれぞれは、例えば、鍛造品からなる。
内方部材1は、軸方向一方側(図1において右方)の端部4と、端部4から拡径した中間部5と、中間部5から軸方向他方側(図1において左方)に延びる軸部6とを有する。外方部材2は、内方部材1の外方に配置された内周部7と、内周部7から軸方向一方側に延びる軸部8とを有する。外方部材2の内周部7と、内方部材1の端部4との間に軸受9が設けられている。軸受9は、内方部材1を外方部材2に対して回転自在かつ軸方向に非可動に支持するためのものである。軸部6,8は、それぞれ動力伝達経路の他の構成要素に連結される。例えば、外部からの回転トルクは、内方部材1の軸部6に伝達され、クラッチ機構3を介して外方部材2に伝達され、軸部8から出力される。
なお、内方部材や外方部材に軸部を一体に設けた例を示したが、軸部に代えて他の軸を内方部材、外方部材に連結してもよい。それらの連結手段は特に限定されず、例えば、セレーション嵌合、スプライン嵌合、キーによる連結等が挙げられる。
クラッチ機構3は、内方部材1に設けられた円筒面10と、外方部材2の内周部7に設けられた複数のカム面11と、円筒面10とカム面11との間に配置されたローラ12と、ローラ12を保持する保持器13と、保持器13の位相をばね力で保持するスイッチばね14と、クラッチ機構3の係合、解除を制御する電磁アクチュエータとを有する。
図2、図3に示すように、円筒面10は、中間部5の外周において周方向全周に連続する。カム面11は、円筒面10との間にくさび空間を形成する。そのくさび空間は、カム面11の周方向中央から周方向両端に向かって次第に狭小となる。すなわち、カム面11と円筒面10との間の径方向の距離は、カム面11の周方向中央から周方向一方側(図2において左回り方向)に向かって次第に小さくなり、また、当該カム面11の周方向中央から周方向他方側(図2において右回り方向)に向かって次第に小さくなっている。なお、カム面11を複数の面で構成した例を示したが、カム面を単一平面で構成してもよいし、単一の曲面で構成してもよい。
図1、図2に示すように、外方部材2の内周部7には、周方向に間隔をおいて複数のカム面11が形成されている。すなわち、複数のくさび空間が形成され、各くさび空間にローラ12が配置されている。
ローラ12は、円筒ころ状に形成されている。ローラ12は、カム面11に対する保持器13の相対回転によって、円筒面10及びカム面11に係合する係合位置と、円筒面10及びカム面11との係合を解除する中立位置との間を移動可能に配置されている。係合位置のローラ12は、内方部材1と外方部材2間で回転トルクを伝達することができる。
図1、図2、図4に示すように、保持器13は、周方向に隣り合うローラ12間に位置する複数の柱部15と、これら柱部15の軸方向他方側に連続する第一環部16と、これら柱部15の軸方向一方側に連続する第二環部17とを有する。周方向に隣り合う柱部15間の空間が、ローラ12を収容する空間になっている。
図3、図4に示すように、柱部15の周方向両端には、それぞれポケット面18が形成されている。ポケット面18は、ローラ12と周方向に接触可能な平坦面になっている。すなわち、保持器13は、ローラ12に対して周方向両側の位置に当該ローラ12と周方向に接触可能なポケット面18を有する。保持器13がカム面11に対して周方向一方又は他方に回転すると、ローラ12は、第一、第二環状部16、17との当接により、円筒面10とカム面11の間に維持され、ポケット面18との当接により、カム面11に対する周方向位置が制限され、また、保持器13と共に強制的に回転させられる。
図2、図3、図5に示すように、第一実施形態に係る回転伝達装置は、保持器13とローラ12との間に介在する弾性部材19をさらに備える。弾性部材19は、柱部15を掴むフック部20と、ローラ12を押すばね片部21とで構成されている。
弾性部材19の全体は、一枚のばね鋼鋼材の板によって形成されている。
図3、図4に示すように、柱部15は、周方向一端側のポケット面18から周方向に凹んだ第一盗み部22と、周方向他端側のポケット面18から周方向に凹んだ第二盗み部23とを有する。フック部20は、柱部15の内径面に重なる基板24と、基板24の周方向一端から外方へ延びる第一爪25と、基板24の周方向他端から外方へ延びる第二爪26とで第一盗み部22と第二盗み部23を掴むように構成されている。
フック部20の軸方向一方側への移動と軸方向他方側への移動は、第一爪25と第一盗み部22の当接、第二爪26と第二盗み部23の当接により規制される。フック部20の周方向一端側への移動は、第二爪26と第二盗み部23の当接により規制され、フック部20の周方向他端側への移動は、第一爪25と第一盗み部22の当接により規制される。フック部20の外方への移動は、基板24と柱部15の内径面の当接により規制され、フック部20の内方への移動は、第一爪25、第二爪26と柱部15の外径面の当接により規制される。このように、弾性部材19は、フック部20が第一盗み部22と第二盗み部23を掴むことにより、柱部15に取り付けられている。
フック部20がポケット面18から周方向に凹んだ第一盗み部22、第二盗み部23を掴むため、ローラ12がポケット面18に当接するとき、フック部20とローラ12との間に隙間が確保される。このため、フック部20がローラ12と干渉する懸念はない。また、ローラ12が外方部材2と共に高速回転するような使用条件であっても、遠心力は、フック部20の基板24を柱部15の内径面に押し付ける方向に作用するので、弾性部材19が柱部15から外れる懸念はない。
図3に示すように、中立位置のローラ12に対して周方向他方側に位置する弾性部材19のばね片部21は、基板24の周方向一端のうち、第一爪25と連なる部分以外の残部から延びている。ばね片部21は、ローラ12と常に板面で接触し、内方側の端縁でローラ12と接触できないように延びている。
ばね片部21は、中立位置のローラ12を当該ローラ12に対して周方向一方(左回り方向)側に位置するポケット面18と、カム面11とに押し付け、かつ円筒面10から浮かせるように当該ローラ12に対して内方側かつ周方向他方(右回り方向)側から当該ローラ12を外方側かつ周方向一方側に向けて押す。
中立位置のローラ12は、ばね片部21によって、円筒面10から浮いた状態に保たれる。また、中立位置のローラ12は、ばね片部21によって、周方向一方側のポケット面18とカム面11とに押し付けられる。このため、中立位置のローラ12の姿勢は、円筒面10から浮いた状態であっても、周方向一方側のポケット面18とカム面11との接触により安定させられる。
ここで、カム面11に接するローラ12の中心Oを通る仮想円の直径をPCD1とし、ばね片部21のばね力Fが当該ローラ12に作用する接触部を通る仮想円の直径をPCD2とし、当該ローラ12の直径をdとする(ただし、いずれの仮想円の中心は前述の軸線上とする。)。図示例の弾性部材19は、常に、PCD1>PCD2かつ(PCD1−PCD2)>d/6を満足する位置で当該ローラ12を押すように設けられている。このような位置関係は、一つの弾性部材19で中立位置のローラ12を周方向一方側のポケット面18とカム面11に押し付けつつ、円筒面10から浮かせるのに好適である。
なお、ばね片部21がローラ12を押す力Fの方向及び強さは、中立位置でローラ12を少なくとも円筒面10から浮いた状態に保つことができるように適宜に設定すればよい。
また、弾性部材19は、ばね片部21でローラ12の軸方向中央部を押すものを例示したが、ローラの軸方向両側を均等に押せるようにばね片部を軸方向に分散配置で設けてもよい。
また、ローラ12を周方向他方側から周方向一方側にだけ押す例を示したが、ローラを周方向両側の弾性部材で押すことにより、中立位置でローラを円筒面から浮いた状態に保つことも可能である。ただし、この場合、比較的に、ローラの姿勢が周方向に関して不安定になり、また部品点数が多くなる点で第一実施形態に劣るが、両側の弾性部材のばね力の釣り合いを取って保持器の位相を保ち易い点で優れる。
図1、図6に示すスイッチばね14は、外方部材2に対する保持器13の相対回転により弾性変形し、その復元弾性によって当該保持器13を復帰回転させる。スイッチばね14は、ローラ12が中立位置となるように保持器13を弾性的に保持する。
スイッチばね14は、C形のリング部27の両端に一対の係合片28を内向きに形成した金属ばねからなる。リング部27は、外方部材2に形成された凹部29内に嵌合されている。凹部29は、軸方向に一定の深さをもっており、外方部材2の軸方向他方側の開口に向かって開放しており、周方向に延びる溝と、その溝の内側壁を周方向の一部分で切り欠いたスリット部とを形成する。スイッチばね14の凹部29からの抜け出しを防止するため、外方部材2の内周部7の止め輪溝に止め輪30が取り付けられている。
一対の係合片28は、凹部29のスリット部から、保持器13の第一環部16に形成された切欠部31内へ挿入されている。一対の係合片28は、凹部29のスリット部、保持器13の切欠部31を周方向の相反する方向に向かって押圧する。その押圧によって、保持器13は、ローラ12が中立位置となる位相に弾性的に保持される。スイッチばね14のばね力は、各弾性部材19が中立位置のローラ12をポケット面18に押し付ける接触部に作用する周方向分力の総和に勝る強さである。
図1に示すように、前述の電磁アクチュエータは、保持器13の第一環部16に軸方向に対向するアーマチュア32と、アーマチュア32に軸方向に対向するロータ33と、ロータ33に軸方向に対向する電磁石34と、アーマチュア32をロータ33から離反する方向に押圧する離反ばね35とを有する。
アーマチュア32は、電磁石34への通電により、磁気吸引される可動部材からなる。アーマチュア32は、外方部材2の内周部7に対して軸方向にスライド自在に嵌合されている。
また、アーマチュア32には、回り止め用の係合穴部36が形成されている。保持器13は、第一環部16から係合穴部36内へ延びる突片部37を有する。突片部37は、アーマチュア32のストロークの全範囲で係合穴部36と周方向に係合可能である。その係合により、アーマチュア32は、保持器13に対して回り止めされる。すなわち、アーマチュア32は、保持器13に対して回り止めされた状態で内方部材1及び外方部材2に対して軸方向に移動できるように外方部材2の内周部7に支持されている。なお、アーマチュアと保持器の回り止めは、スイッチばねを凹部に保持するためのばね保持リングを介在させる構造にしてもよい。
保持器13の軸方向他方側の移動は、第一環状部16とアーマチュア32の当接によって規制される。また、保持器13の軸方向一方側への移動は、第二環状部17に形成された外向きフランジと、外方部材2の内周部7に形成された段部38との当接によって規制される。
ロータ33は、内方円外輪と、この内方円外輪の外方に位置する外方円外輪とを有する。ロータ33は、その内方円外輪の内周において内方部材1の軸部6に圧入されている。このため、ロータ33は、内方部材1と一体に回転することができる。なお、ロータ33は、内方部材1が外方部材2に対して相対的に回転するとき、ロータ33に吸着させられたアーマチュア32の回転を制動することができるように配置すればよく、他部材を介して内方部材と一体に回転可能に連結してもよいし、外方部材2に対して静止する部材に連結してもよい。
ロータ33の外方円外輪の外周と、外方部材2の内周部7との間に軸受39が設けられている。軸受39は、ロータ33を外方部材2に対して回転自在に支持するためのものである。また、軸受39よりも外部側には、シール40が配置されている。シール40は、クラッチ機構3への異物浸入を防止するためのものである。
電磁石34は、フィールドコアと、フィールドコアに支持された電磁コイルとからなる。電磁石34は、ロータ33の内方円外輪と外方円外輪との間の空間に配置されている。電磁石34は、そのフィールドコアにおいて静止部Wに固定されている。静止部Wは、例えば、トランスミッションのハウジングである。電磁石34に通電すると、電磁石34の磁気吸引によってアーマチュア32がロータ33に磁気吸着させられる。
離反ばね35は、アーマチュア32とロータ33の対向面間に介在している。アーマチュア32がロータ33から軸方向に離反する量は、止め輪30により制限される。なお、止め輪30は、スイッチばね14の規制用と兼用にしたが、別途に設けてもよい。
第一実施形態に係る回転伝達装置の動作について説明する(以下、図1を適宜、参照)。先ず、電磁石34の電磁コイルへの通電が遮断されている状態では、図2、図3に示すように、保持器13は、スイッチばね14のばね力により、外方部材2のカム面11に対してローラ12を中立位置に保つ位相に保持され、ローラ12が中立位置にある。このため、内方部材1、外方部材2が左回り又は右回りのいずれに回転したとしても、その回転トルクは、ローラ12を介して内方部材1と外方部材2間で伝達されず、内方部材1と外方部材2が相対的に空転(フリー回転)する。つまり、クラッチ機構3は、内方部材1と外方部材2間での回転トルクの伝達を遮断する係合解除状態にある。
この係合解除状態のとき、中立位置のローラ12は、弾性部材19のばね片部21から与えられるばね力Fにより、内方部材1の円筒面10から浮いた状態に保たれる。したがって、内方部材1や外方部材2が高速に回転しても、ローラ12が円筒面10に接触する懸念はなく、ローラ12と円筒面10間の引き摺りトルクが発生しない。
また、この係合解除状態のとき、外方部材2が回転する場合、外方部材2と保持器13がスイッチばね14によって弾性的に連結されているため、外方部材2の回転トルクがスイッチばね14を介して保持器13に伝達される。したがって、保持器13は、外方部材2及びスイッチばね14と共に回転する。その保持器13のポケット面18に周方向に当接するローラ12も保持器13等と共に回転する。また、アーマチュア32が保持器13に回り止めされているため、アーマチュア32も保持器13等と共に回転する。
ここで、外方部材2が高速回転する場合、中立位置のローラ12は、遠心力により外方へ移動しようとするだけである。したがって、ローラ12が円筒面10に接触する懸念はない。一方、内方部材1が高速回転する場合、その内方部材1の円筒面10がローラ12に対して高速回転する。その円筒面10とローラ12が周方向に隙間g(図3参照)に向かって狭くなる空間を形成するため、その円筒面10に連れ回される流体(潤滑剤、空気)の圧力を高めるくさび効果が生じる。すなわち、係合解除状態で内方部材1が高速回転する程、隙間gでの流体圧力が高くなり、ローラ12が円筒面10から浮き易くなる。したがって、ローラ12が円筒面10に接触する懸念はない。
係合解除状態で電磁石34の電磁コイルに通電すると、アーマチュア32に磁気吸引力が付与される。このため、アーマチュア32は、離反ばね35の弾性に抗して移動し、ロータ33に磁気吸着される。このとき、内方部材1と外方部材2の少なくとも一方が回転し、内方部材1に対して外方部材2が相対的に回転する場合、そのロータ33とアーマチュア32の吸着面に作用する摩擦抵抗は、アーマチュア32に対して回り止めされた保持器13の回転抵抗となる。その摩擦抵抗は、スイッチばね14のばね力よりも予め大きな値に設定されている。このため、スイッチばね14が弾性変形を生じて、保持器13が外方部材2に対して相対回転する。その相対回転により、ローラ12は、図7に示すように、弾性部材19のばね片部21に抗して、円筒面10とカム面11間のくさび空間の狭小部に押し込まれ、円筒面10及びカム面11に係合する。このため、内方部材1又は外方部材2の入力側からの回転トルクは、ローラ12を介して出力側に伝達される。つまり、クラッチ機構3は、内方部材1と外方部材2間で回転トルクを伝達する係合状態にある。
ローラ12が係合位置へ移動すると、弾性部材19のばね片部21は、ローラ12がカム面11に沿って内方へ少し移動するため、弾性部材19のばね片部21が若干の撓み変形を生じ、蓄勢することになる。
この係合状態において、電磁石34の電磁コイルに対する通電を遮断すると、離反ばね35の押圧により、アーマチュア32がロータ33から離反し、止め輪30に当接する位置まで移動する。また、アーマチュア32がロータ33から離反すると、スイッチばね14のばね力により、保持器13が外方部材2に対して係合時の逆方向に復帰回転し、その柱部15のポケット面18に押されたローラ12が図3の中立位置に戻る。これに伴い、弾性部材19のばね片部21は、弾性復元しつつローラ12を円筒面10から浮かせ、ポケット面18及びカム面11に押し付ける。このため、クラッチ機構3は、係合解除状態に戻り、弾性部材19は、再び、中立位置のローラ12を円筒面10に接触不可な状態に規制する。
このように、第一実施形態に係る回転伝達装置は(図1、図3参照)、保持器13とローラ12との間に介在する弾性部材19を備え、内方部材が、周方向に連続する円筒面10を有し、外方部材2の内周部7が円筒面10との間に周方向に向かって狭小となるくさび空間を形成するカム面11を有し、弾性部材19が中立位置のローラ12を円筒面10から浮いた状態に保つように配置されているので、クラッチ機構3のローラ12が中立位置にある状態で内方部材1が外方部材2に対して相対的に高速回転する際、クラッチ機構3の円筒面10とローラ12間における引き摺りトルクの発生を防ぐことができる。その引き摺りトルクの発生防止により、ローラ12や円筒面10の摩耗が防止されるだけでなく、外方部材2に対する保持器13の不正回転が防止され、クラッチ機構3のミス係合の発生も防止されることになる。
なお、クラッチ機構が係合解除状態のときに全てのローラと円筒面との間で引き摺りトルクの発生を防ぐ必要はなく、円筒面に接触できないローラの本数を多くする程、円筒面の摩耗やミス係合を防止する効果も向上する。このため、なるべく多くのローラを弾性部材で規制することが好ましく、全てのローラと円筒面の接触を不可とすることが理想的である。
また、第一実施形態に係る回転伝達装置は、保持器13がローラ12に対して周方向両側の位置に当該ローラ12と周方向に接触可能なポケット面18を有し、弾性部材19が中立位置のローラ12を周方向一方側のポケット面18とカム面11とに押し付けるように当該ローラ12に対して内方側かつ周方向他方側から当該ローラ12を外方側かつ周方向一方側に向けて押すばね片部21を有するので、中立位置のローラ12を弾性部材19のばね片部21で円筒面10から浮かせる状態のとき、そのローラ12をばね片部21が押す方向とは反対側のポケット面18とカム面11で安定させることができる。
また、第一実施形態に係る回転伝達装置は、保持器13が周方向に隣り合うローラ12間に位置する複数の柱部15を有し、ポケット面18が柱部15の周方向両端にそれぞれ形成されており、柱部15が周方向一端側のポケット面18から周方向に凹んだ第一盗み部22と周方向他端側のポケット面18から周方向に凹んだ第二盗み部23とを有し、弾性部材19が第一盗み部22と第二盗み部23を掴むフック部20を有するので、弾性部材19をフック部20で盗み部22,23に取り付けることができると共に、ローラ12とフック部20の干渉を避けることができる。
また、第一実施形態に係る回転伝達装置は、クラッチ機構3が外方部材2に対する保持器13の相対回転により弾性変形させられその復元弾性によって保持器13を復帰回転させるように配置されたスイッチばね14と、保持器13に対して回り止めされた状態で軸方向に移動可能に支持されアーマチュア32と、アーマチュア32に軸方向に対向するロータ33と、アーマチュア32をロータ33に磁気吸引する電磁石34と、アーマチュア32をロータ33から離反する方向に押圧する離反ばね35とを有するので、内方部材1と外方部材2間で相対回転する場合、電磁石34への通電時、アーマチュア32とロータ33間の摩擦で保持器13を外方部材2に対して相対回転させ、その保持器13によって中立位置のローラ12を弾性部材19に抗して係合位置まで移動させて、内方部材1と外方部材2間で回転トルクを伝達することができる一方、その通電を遮断すると、アーマチュア32を離反ばね35によってロータ33から離反させ、スイッチばね14により保持器13を復帰回転させ、その保持器13によってローラ12を中立位置に移動させ、弾性部材19によってローラ12を内方部材1の円筒面10から浮いた状態に戻すことができる。
上述の第一実施形態では、外方部材2の全体を一部品で構成した例を示したが、カム面11を別部品に形成してもよい。その一例としての第二実施形態を図8に示す。なお、以下では、第一実施形態との相違点を述べるに留める。
第二実施形態に係る外方部材50は、外輪51と、外輪51の内側に圧入されたカムリング52とを有する。外輪51の内側には、円筒面状の嵌め合い面53が形成されている。カムリング52の外周54は、嵌め合い面53に嵌め合う円筒面状である。外輪51とカムリング52は、その嵌め合い面53と外周54において圧入されている。カム面11は、カムリング52の内周に形成されている。外方部材50の形状自体は、第一実施形態の外方部材と同等であるが、外輪51とカムリング52の二部品で構成された点でのみ第一実施形態と相違する。カムリング52は、図示の断面形状をカムリング52の軸方向全長に亘って有する筒体からなる。このため、カム面11を含むカムリング52の全体は、軸方向に可動する金型で簡単に形成することができる。
今回開示された各実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 内方部材
2,50 外方部材
3 クラッチ機構
7 内周部
10 円筒面
11 カム面
12 ローラ
13 保持器
14 スイッチばね
15 柱部
18 ポケット面
19 弾性部材
20 フック部
21 ばね片部
22 第一盗み部
23 第二盗み部
32 アーマチュア
33 ロータ
34 電磁石
35 離反ばね
51 外輪
52 カムリング
53 嵌め合い面
54 外周
2,50 外方部材
3 クラッチ機構
7 内周部
10 円筒面
11 カム面
12 ローラ
13 保持器
14 スイッチばね
15 柱部
18 ポケット面
19 弾性部材
20 フック部
21 ばね片部
22 第一盗み部
23 第二盗み部
32 アーマチュア
33 ロータ
34 電磁石
35 離反ばね
51 外輪
52 カムリング
53 嵌め合い面
54 外周
Claims (5)
- 内方部材と、
前記内方部材の外方に配置された内周部を有する外方部材と、
前記内方部材と前記外方部材間で回転トルクの伝達と遮断を行うクラッチ機構と、
を備え、
前記クラッチ機構が、前記内方部材と前記外方部材の前記内周部との間に配置されたローラと、前記ローラを保持する保持器と、を有し、
前記ローラが、前記内方部材と前記外方部材に係合する係合位置と、当該係合を解除する中立位置との間を移動可能に配置されている回転伝達装置において、
前記保持器と前記ローラとの間に介在する弾性部材をさらに備え、
前記内方部材が、周方向に連続する円筒面を有し、前記外方部材の前記内周部が、前記円筒面との間に周方向に向かって狭小となるくさび空間を形成するカム面を有し、
前記弾性部材が、前記中立位置の前記ローラを前記円筒面から浮いた状態に保つように配置されていることを特徴とする回転伝達装置。 - 前記保持器が、前記ローラに対して周方向両側の位置に当該ローラと周方向に接触可能なポケット面を有し、
前記弾性部材が、前記中立位置の前記ローラを周方向一方側の前記ポケット面と前記カム面とに押し付けるように当該ローラに対して内方側かつ周方向他方側から当該ローラを外方側かつ周方向一方側に向けて押すばね片部を有する請求項1に記載の回転伝達装置。 - 前記保持器が、周方向に隣り合う前記ローラ間に位置する複数の柱部を有し、
前記ポケット面が、前記柱部の周方向両端にそれぞれ形成されており、
前記柱部が、周方向一端側の前記ポケット面から周方向に凹んだ第一盗み部と、周方向他端側の前記ポケット面から周方向に凹んだ第二盗み部とを有し、
前記弾性部材が、前記第一盗み部と前記第二盗み部を掴むフック部を有する請求項1又は2に記載の回転伝達装置。 - 前記外方部材が、外輪と、前記外輪の内側に圧入されたカムリングとを有し、
前記外輪の内側に円筒面状の嵌め合い面が形成されており、
前記カムリングの外周が、前記嵌め合い面に嵌め合う円筒面状であり、
前記カム面が、前記カムリングの内周に形成されている請求項1から3のいずれか1項に記載の回転伝達装置。 - 前記クラッチ機構が、前記外方部材に対する前記保持器の相対回転により弾性変形させられその復元弾性によって前記保持器を復帰回転させるように配置されたスイッチばねと、 前記保持器に対して回り止めされた状態で軸方向に移動可能に支持されアーマチュアと、 前記アーマチュアに軸方向に対向するロータと、前記アーマチュアを前記ロータに磁気吸引する電磁石と、前記アーマチュアを前記ロータから離反する方向に押圧する離反ばねとを有する請求項1から4のいずれか1項に記載の回転伝達装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2019018703A JP2020125811A (ja) | 2019-02-05 | 2019-02-05 | 回転伝達装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2019018703A JP2020125811A (ja) | 2019-02-05 | 2019-02-05 | 回転伝達装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JP2020125811A true JP2020125811A (ja) | 2020-08-20 |
Family
ID=72084796
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP2019018703A Pending JP2020125811A (ja) | 2019-02-05 | 2019-02-05 | 回転伝達装置 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP2020125811A (ja) |
-
2019
- 2019-02-05 JP JP2019018703A patent/JP2020125811A/ja active Pending
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