以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.連続鋳造機>
まず、図1を参照して、本発明の実施形態に係る連続鋳造機1について説明する。
図1は、連続鋳造機1を概略的に示す側面断面図である。
なお、以下で参照する各図面は、上下方向(すなわち、鋳型6から鋳片3が引き抜かれる方向)をZ方向とし、Z方向と垂直な水平面内における互いに直交する2方向を、それぞれX方向及びY方向として示されている。なお、X方向は、後述するように、タンディッシュ100に設けられる湯路の並設方向に相当する。
図1に示すように、連続鋳造機1は、連続鋳造用の鋳型6を用いて溶鋼2を連続鋳造し、ブルームやビレット等の鋳片3を製造するための装置である。連続鋳造機1は、取鍋4と、タンディッシュ100と、鋳型6と、二次冷却装置7と、鋳片切断機8とを備える。
取鍋4は、溶鋼2を外部からタンディッシュ100まで搬送するための可動式の容器である。取鍋4はタンディッシュ100の上方に配置され、取鍋4内の溶鋼2が取鍋4の下部から下方に延びる注入ノズル5からタンディッシュ100に供給される。
タンディッシュ100は、鋳型6の上方に配置され、溶鋼2を貯留して、当該溶鋼2中の介在物を除去する。タンディッシュ100の下部には鋳型6に向けて下方に延びる浸漬ノズル125が設けられており、浸漬ノズル125の先端は鋳型6内の溶鋼2に浸漬されている。タンディッシュ100にて介在物が除去された溶鋼2は、浸漬ノズル125から鋳型6内に連続的に供給される。
タンディッシュ100の詳細については後述するが、タンディッシュ100には複数の浸漬ノズル125が設けられており、各浸漬ノズル125から互いに異なる鋳型6に溶鋼2が供給される。図1では、理解を容易にするために、タンディッシュ100から溶鋼2が分配して供給される複数の鋳型6のうちの1つの鋳型6のみが示されている。また、タンディッシュ100は、後述するように、溶鋼2の加熱に2つの誘導加熱装置を用いるものであり、受湯室と出湯室とを接続する4つの湯路を備えている。
鋳型6は、鋳片3の幅及び厚さに応じた四角筒状であり、例えば、一対の長辺鋳型板で一対の短辺鋳型板を両側から挟むように組み立てられる。長辺鋳型板及び短辺鋳型板は、例えば冷却水が流動する水路が設けられた水冷銅板である。なお、図1では、鋳型6の長辺と平行な方向がX方向と一致し、鋳型6の短辺と平行な方向がY方向と一致している。鋳型6は、長辺鋳型板及び短辺鋳型板と接触する溶鋼2を冷却して、鋳片3を製造する。鋳片3が鋳型6から下方に向かって移動するにつれて、内部の未凝固部3bの凝固が進行し、外殻の凝固シェル3aの厚さは、徐々に厚くなる。かかる凝固シェル3aと未凝固部3bを含む鋳片3は、鋳型6の下端から引き抜かれる。
二次冷却装置7は、鋳型6の下方の二次冷却帯9に設けられ、鋳型6の下端から引き抜かれた鋳片3を支持及び搬送しながら冷却する。この二次冷却装置7は、鋳片3の厚さ方向両側に配置される複数対の支持ロール(例えば、サポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13)と、鋳片3に対して冷却水を噴射する複数のスプレーノズル(図示せず)とを有する。
二次冷却装置7に設けられる支持ロールは、鋳片3の厚さ方向両側に対となって配置され、鋳片3を支持しながら搬送する支持搬送手段として機能する。当該支持ロールにより鋳片3を厚さ方向両側から支持することで、二次冷却帯9において凝固途中の鋳片3のブレイクアウトやバルジングを防止できる。
支持ロールであるサポートロール11、ピンチロール12及びセグメントロール13は、二次冷却帯9における鋳片3の搬送経路(パスライン)を形成する。このパスラインは、図1に示すように、鋳型6の直下では垂直であり、次いで曲線状に湾曲して、最終的には水平になる。二次冷却帯9において、当該パスラインが垂直である部分を垂直部9A、湾曲している部分を湾曲部9B、水平である部分を水平部9Cと称する。このようなパスラインを有する連続鋳造機1は、垂直曲げ型の連続鋳造機と呼称される。なお、本発明は、図1に示すような垂直曲げ型の連続鋳造機1に限定されず、湾曲型又は垂直型など他の各種の連続鋳造機にも適用可能である。
サポートロール11は、鋳型6の直下の垂直部9Aに設けられる無駆動式ロールであり、鋳型6から引き抜かれた直後の鋳片3を支持する。鋳型6から引き抜かれた直後の鋳片3は、凝固シェル3aが薄い状態であるため、ブレイクアウトやバルジングを防止するために比較的短い間隔(ロールピッチ)で支持する必要がある。そのため、サポートロール11としては、ロールピッチを短縮することが可能な小径のロールが用いられることが望ましい。図1に示す例では、垂直部9Aにおける鋳片3の両側に、小径のロールからなる3対のサポートロール11が、比較的狭いロールピッチで設けられている。
ピンチロール12は、モータ等の駆動手段により回転する駆動式ロールであり、鋳片3を鋳型6から引き抜く機能を有する。ピンチロール12は、垂直部9A、湾曲部9B及び水平部9Cにおいて適切な位置にそれぞれ配置される。鋳片3は、ピンチロール12から伝達される力によって鋳型6から引き抜かれ、上記パスラインに沿って搬送される。なお、ピンチロール12の配置は図1に示す例に限定されず、その配置位置は任意に設定されてよい。
セグメントロール13(ガイドロールともいう)は、湾曲部9B及び水平部9Cに設けられる無駆動式ロールであり、上記パスラインに沿って鋳片3を支持及び案内する。セグメントロール13は、パスライン上の位置によって、及び、鋳片3のF面(Fixed面、図1では左下側の面)とL面(Loose面、図1では右上側の面)のいずれに設けられるかによって、それぞれ異なるロール径やロールピッチで配置されてよい。
鋳片切断機8は、上記パスラインの水平部9Cの終端に配置され、当該パスラインに沿って搬送された鋳片3を所定の長さに切断する。切断された厚板状の鋳片14は、テーブルロール15により次工程の設備に搬送される。
以上、図1を参照して、連続鋳造機1について説明した。なお、連続鋳造機1は、あくまで本実施形態に係るタンディッシュ100を備える連続鋳造機の一例に過ぎず、タンディッシュ100を備える連続鋳造機として、連続鋳造機1からタンディッシュ100以外の構成要素を適宜変更したものが用いられてもよい。
<2.タンディッシュ>
続いて、図2〜図18を参照して、本発明の実施形態に係るタンディッシュ100の詳細について説明する。
[2−1.全体構成]
まず、図2及び図3を参照して、タンディッシュ100の全体構成について説明する。
図2は、タンディッシュ100の上面視での概略図である。図3は、タンディッシュ100のA−A断面での断面図である。A−A断面は、具体的には、後述する湯路130c,130d及び当該湯路130c,130dに設けられる誘導加熱装置20を通りX−Z平面に平行な断面である。
図2に示すように、タンディッシュ100は、受湯室110と、出湯室120と、受湯室110と出湯室120とを接続する4つの湯路130a,130b,130c,130dとを備える。また、タンディッシュ100には、溶鋼2の加熱のために2つの誘導加熱装置20が設けられている。さらに、タンディッシュ100は、堰140を備える。なお、以下では、湯路130a,130b,130c,130dを特に区別しない場合、これらを単に湯路130と呼ぶ。
受湯室110は、取鍋4から溶鋼2が注入される部分である。具体的には、受湯室110は、上部に開口が形成され下部に底部が形成されている筒形状を有している。より詳細には、受湯室110は、X方向に延びた略角柱形状を有している。なお、受湯室110の形状は特に限定されない。受湯室110のX方向の長さL11は、Y方向の長さL12よりも長くなっており、例えば、長さL11は7200〜8800mm程度であり、長さL12は900〜1100mm程度である。
受湯室110の上方には、取鍋4の注入ノズル5が配置されており、注入ノズル5の先端は受湯室110に貯留されている溶鋼2に浸漬されている。それにより、取鍋4内の溶鋼2が注入ノズル5から受湯室110に注入されるようになっている。具体的には、注入ノズル5は、上面視で、受湯室110のX方向及びY方向の中央に位置している。ゆえに、受湯室110における溶鋼2の注入位置Pは、上面視で、受湯室110のX方向及びY方向の中央に位置している。
なお、受湯室110のY方向の正方向側の壁部112とX方向の両端側の壁部111,111とのなす角θが過度に小さい場合、受湯室110における壁部112と壁部111との接続部の近傍に溶鋼2が滞留してしまい、その位置において溶鋼2の温度が過度に低くなることに起因して湯面に皮張りが発生するおそれがある。ゆえに、壁部112と壁部111とのなす角θは、このような湯面の皮張りを抑制し得る程度に大きな角度に設定され、例えば、90°程度に設定される。
出湯室120は、受湯室110に貯留されている溶鋼2が湯路130を介して送られる部分である。具体的には、出湯室120は、上部に開口が形成され下部に底部が形成されている筒形状を有している。より詳細には、出湯室120は、受湯室110に対してY方向に対向して設けられ、X方向に延びた略角柱形状を有している。なお、出湯室120の形状は特に限定されない。出湯室120のX方向の長さL21は、Y方向の長さL22よりも長くなっており、例えば、長さL21は10000〜12000mm程度であり、長さL22は900〜1100mm程度である。
出湯室120には、溶鋼2を鋳型6内に供給する複数の浸漬ノズル125が設けられている。具体的には、浸漬ノズル125は、出湯室120の底部から下方に延びて設けられる。なお、図2では、このような浸漬ノズル125として6つの浸漬ノズル125a,125b,125c,125d,125e,125fが出湯室120に設けられる例が示されているが、出湯室120に設けられる浸漬ノズル125の数は特に限定されない。具体的には、6つの浸漬ノズル125は、上面視で、出湯室120のY方向の中央に位置しており、X方向に間隔を空けて並設されている。
湯路130は、受湯室110と出湯室120とを接続し、受湯室110内から出湯室120へ送られる溶鋼2が通過する部分である。4つの湯路130は、受湯室110及び出湯室120の間で水平方向に並んで設けられる。具体的には、受湯室110のY方向の正方向側の壁部112と出湯室120のY方向の負方向側の壁部122との間に亘ってY方向に延びる中空円筒状の部材であるスリーブが設けられ、当該スリーブの内部空間が湯路130に相当する。湯路130a,130b,130c,130dは、X方向の正方向側からこの順にX方向に沿って並設される。このように、X方向は、湯路130の並設方向に相当する。
湯路130と浸漬ノズル125との位置関係は、特に限定されないが、例えば、図2に示される例では、X方向について、浸漬ノズル125aは湯路130aより正方向側に位置し、浸漬ノズル125bは湯路130aと湯路130bの間に位置し、浸漬ノズル125c,125dは湯路130bと湯路130cの間に位置し、浸漬ノズル125eは湯路130cと湯路130dの間に位置し、浸漬ノズル125fは湯路130dより負方向側に位置している。
湯路130a,130bは、タンディッシュ100における並設方向Xの一側(具体的には、受湯室110における溶鋼2の注入位置PよりX方向の正方向側)に位置している。一方、湯路130c,130dは、タンディッシュ100における並設方向Xの他側(具体的には、受湯室110における溶鋼2の注入位置PよりX方向の負方向側)に位置している。例えば、湯路130の直径は120〜140mm程度であり、湯路130aと湯路130bとの中心軸間及び湯路130cと湯路130dとの中心軸間の距離L31は1200〜1400mm程度であり、湯路130bと湯路130cとの中心軸間の距離L32は4200〜5200mm程度である。
ここで、並設方向Xの一側の湯路130a,130b及び並設方向Xの他側の湯路130c,130dには、それぞれ誘導加熱装置20が設けられる。誘導加熱装置20は、具体的には、図2及び図3に示すように、環状の鉄芯21と、コイル22とを備える。鉄芯21は湯路130を囲むように配置されており、このような鉄芯21にコイル22が巻回されている。例えば、並設方向Xの一側の誘導加熱装置20の鉄芯21は湯路130aを囲むように配置されており、並設方向Xの他側の誘導加熱装置20の鉄芯21は湯路130dを囲むように配置されている。
誘導加熱装置20のコイル22に交流電流を印加すると、鉄芯21内に湯路130を囲むように磁気回路が生じる。例えば、図3では、並設方向Xの他側の誘導加熱装置20のコイル22に交流電流を印加した場合に鉄芯21内に生じる磁気回路が一点鎖線矢印によって示されている。そして、鉄芯21内に生じる磁気回路によって、タンディッシュ100内の溶鋼2中に渦電流が生じる。例えば、図2では、並設方向Xの一側の湯路130a,130bを通る閉ループを形成するように生じる渦電流と、並設方向Xの他側の湯路130c,130dを通る閉ループを形成するように生じる渦電流とが破線矢印によって示されている。このように、タンディッシュ100内の溶鋼2中に渦電流が生じることによって、溶鋼2の加熱が行われる。
堰140は、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差を低減する目的で、タンディッシュ100内の溶鋼2の流れを調整するために設けられる。堰140は、受湯室110における溶鋼2の注入位置Pの並設方向Xの両側に設けられ、並設方向Xに交差して(具体的には、Y−Z平面に平行に)延在する。堰140の形状の詳細については後述するが、堰140には開口部が形成されており、注入ノズル5から受湯室110における注入位置Pに注入された溶鋼2は、当該開口部を介して堰140を通過する。
上記のように、取鍋4内の溶鋼2は、注入ノズル5から受湯室110に注入される。そして、受湯室110に注入された溶鋼2は、4つの湯路130のいずれかを通って出湯室120へ送られる。なお、図2では、受湯室110に注入された溶鋼2が注入位置Pから各湯路130を通って出湯室120へ送られる様子が実線矢印によって示されている。ここで、上述したように、受湯室110に注入された溶鋼2がいずれの湯路130を通るかによって、出湯室120に到達するまでの経路の長さが異なる。また、湯路130間で溶鋼2の流量にも差が生じる。それにより、各湯路130から出湯室120に流入する溶鋼2の間で温度差が生じやすくなる。
具体的には、溶鋼2が注入位置Pから遠い湯路130a,130dを通る場合には、注入位置Pに近い湯路130b,130cを通る場合と比較して、出湯室120に到達するまでの経路の長さが長くなることに伴い出湯室120に到達するまでの時間が長くなり、さらに溶鋼2の流量が小さくなる。ゆえに、注入位置Pから遠い湯路130a,130dを通って出湯室120に流入する溶鋼2の温度は、注入位置Pに近い湯路130b,130cを通って出湯室120に流入する溶鋼2の温度と比較して低くなりやすい。よって、例えば、湯路130a,130dから出湯室120に流入する溶鋼2がそれぞれ主に送られる浸漬ノズル125a,125fと湯路130b,130cから出湯室120に流入する溶鋼2がそれぞれ主に送られる浸漬ノズル125c,125dとの間で溶鋼2の温度差が大きくなりやすくなる。
そこで、本件発明者は、タンディッシュ100内の溶鋼2について熱流動の数値シミュレーションを行うことによって、タンディッシュ100における各種寸法等を適切に設定することにより浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることを抑制できることを見出した。ゆえに、タンディッシュ100における各種寸法等をそのように適切に設定することによって、受湯室110と出湯室120とを接続する4つの湯路130を備えるタンディッシュ100を利用した連続鋳造において、鋳型6間の鋳片3の品質差の増大を抑制することが可能となる。浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることを抑制するためのタンディッシュ100における各種寸法等の設定については、後述にて詳細に説明する。
[2−2.タンディッシュにおける各種寸法等]
続いて、図4〜図18を参照して、タンディッシュ100における各種寸法等の詳細について説明する。
上述したように、本件発明者は、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることを抑制するためのタンディッシュ100における各種寸法等の設定について調査するために、タンディッシュ100内の溶鋼2について熱流動の数値シミュレーションを行った。それにより、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることを抑制するためのタンディッシュ100における各種寸法等として、浸漬ノズル125の位置と、湯路130の位置と、堰140の形状及び位置とに関する新たな知見を得た。
また、鋳型6間の鋳片3の品質差には、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差のみならず、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差も影響を与える。具体的には、出湯室120の各浸漬ノズル125を通る溶鋼2(つまり、各鋳型6に供給される溶鋼)の間で溶鋼2中の介在物の濃度差が大きくなることは、鋳型6間の鋳片3の品質差が増大する要因となる。そこで、本数値シミュレーションの結果を用いて、タンディッシュ100における各種寸法等と浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差との関係についても調査を行った。
なお、本数値シミュレーションとしては、例えば、非特許文献である「鉄と鋼、Vol.83(1997), No.1, P.30〜35」及び「K.Takatani:ISIJ International, Vol.43, 2003, No.6, P.915−922」に示されている方法を用いた。詳細には、本シミュレーションでは、有限体積法を用いて流体の熱流動に関する支配方程式を時間発展的に解くことにより行った。
本数値シミュレーションでは、流体は非圧縮性であり固相と液相の密度と比熱は同じ値であるものと仮定した。また、固液共存相の流動抵抗はダルシー則から算出されるものと仮定した。また、固相率fs>0.8以上の領域を固相と定義し、固相は剛体としてタンディッシュ100内で静止するものと仮定した。また、気泡及び介在物の運動は液相中の球体の運動方程式に従うものと仮定した。また、気泡は非圧縮性であり一定サイズの球体であるものと仮定した。また、介在物の体積は無視できるものと仮定した。また、乱流モデルとしては、LESモデルを適用した。
また、解析結果としては、非定常計算の結果を100s間で時間平均化した値を用いた。また、溶鋼2の比重は7000kg/m3とし、粘性係数は0.005Pa・sとした。また、誘導加熱装置20の発熱量と電磁力(ローレンツ力密度)については、有限要素法による電磁場解析から得られた値を用いて計算を行った。誘導加熱装置20の周波数は60Hzとし、消費電力は1つの誘導加熱装置20あたり800kWとして計算を行った。誘導加熱装置20の鉄芯21は積層された複数の電磁鋼板であるものとした。また、溶鋼2の導電率は、7.14×105S/mとした。
また、取鍋4からタンディッシュ100に注入される溶鋼2に含まれる介在物の直径に対する個数密度の特性としては、過去の知見に基づいて得られる特性を用いた。また、介在物の溶鋼2中の重量比率の初期値を12.64ppmとして、介在物の電磁力による壁面付着、湯面への浮上分離を考慮した計算を行った。また、介在物の直径については、2μmを最小とし、100μmを最大として、34水準に分級して計算を行った。また、介在物としてはアルミナを想定し、その比重を3900kg/m3とした。また、取鍋4からタンディッシュ100に注入される際の溶鋼2の温度を1600℃と仮定して計算を行った。
なお、以下のシミュレーションの結果の説明において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差、浸漬ノズル125間の介在物濃度差及び平均介在物濃度について述べるが、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差は各浸漬ノズル125を通過する溶鋼2の温度の最大値と最小値との差を意味し、浸漬ノズル125間の介在物濃度差は各浸漬ノズル125を通過する溶鋼2中の介在物の濃度の最大値と最小値との差を意味し、平均介在物濃度は各浸漬ノズル125を通過する溶鋼2中の介在物の濃度の平均値を意味する。
(浸漬ノズルの位置)
まず、図4〜図7を参照して、浸漬ノズル125の位置について説明する。
本件発明者は、数値シミュレーションの結果から、タンディッシュ100における出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121と当該壁部121から最も近い浸漬ノズル125との間の並設方向Xの距離D1を適切に設定することによって、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることを抑制できることを見出した。
図4は、タンディッシュ100における出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121と当該壁部121から最も近い浸漬ノズル125との間の並設方向Xの距離D1を示す図である。具体的には、図4では、出湯室120の並設方向Xの正方向側の端側の壁部121と当該壁部121から最も近い浸漬ノズル125aが示されている。
詳細には、タンディッシュ100における出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121と当該壁部121から最も近い浸漬ノズル125(つまり、並設方向Xの端側の浸漬ノズル125)との間の並設方向Xの距離D1は、図4に示すように、出湯室120の壁部121の内面の下端部と当該壁部121から最も近い浸漬ノズル125(例えば、浸漬ノズル125a)の内面との間の並設方向Xでの最短距離を意味する。
以下、図5〜図7を参照して、距離D1に関する数値シミュレーションの結果について説明する。なお、距離D1に関する数値シミュレーションは、鋳造速度を0.6m/minとし、堰140は設けられないものとし、後述する受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111と当該壁部111から最も近い湯路130との間の並設方向Xの距離D2を220mmとした条件で、誘導加熱を行う場合と行わない場合とのそれぞれについて行われた。
図5は、距離D1と浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差との関係を示す図である。
図5に示される結果から、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差は、距離D1が長くなるにつれて減少した後に増大する傾向を有することがわかった。ゆえに、距離D1が過度に短い場合及び過度に長い場合の双方で、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることがわかる。
距離D1が過度に短い場合に浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなる理由としては、距離D1が短いほど、並設方向Xの端側の浸漬ノズル125に送られる溶鋼2が出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121により冷却される程度が大きくなることが考えられる。また、距離D1が過度に長い場合に浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなる理由としては、距離D1が長いほど、並設方向Xの端側の浸漬ノズル125に送られる溶鋼2が出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121側に迂回した場合に浸漬ノズル125に到達するまでの時間が長くなり、溶鋼2の温度が低下しやすくなることが考えられる。
ここで、一般に、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が5℃より大きくなると、鋳造速度を鋳型6間で調整する等の措置をとる必要性が生じる程度まで鋳型6間の鋳片3の品質差が増大する。ゆえに、本実施形態では、距離D1は、誘導加熱を行う場合において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が図5に示すように5℃以下となる範囲である120mm以上300mm以下に設定される。それにより、受湯室110と出湯室120とを接続する4つの湯路130を備えるタンディッシュ100を利用した連続鋳造において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差の増大を適切に抑制することができるので、鋳型6間の鋳片3の品質差の増大を抑制することができる。
さらに、距離D1は、誘導加熱を行う場合において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が図5に示すように3℃以下となる範囲である170mm以上260mm以下に設定されることがより好ましい。それにより、受湯室110と出湯室120とを接続する4つの湯路130を備えるタンディッシュ100を利用した連続鋳造において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差の増大をさらに適切に抑制することができるので、鋳型6間の鋳片3の品質差の増大をさらに適切に抑制することができる。
なお、図5に示される結果から、誘導加熱を行う場合には、誘導加熱を行わない場合と比較して、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなりやすいことがわかる。このことは、誘導加熱を行うことによって、タンディッシュ100内の溶鋼2が加熱されることに加えて、溶鋼2の流れが乱れやすくなることにより出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121により冷却された溶鋼2が並設方向Xの端側の浸漬ノズル125に送られやすくなることにも起因するものと考えられる。誘導加熱を行うことにより溶鋼2の流れが乱れやすくなる理由としては、誘導加熱によって湯路130内に当該湯路130の内側(つまり、中心軸へ近づく方向)に向けて電磁力が生じることにより、湯路130内の溶鋼2の流路断面積が実質的に減少し、溶鋼2の流速が上昇することが考えられる。
図6は、距離D1と浸漬ノズル125間の介在物濃度差との関係を示す図である。
図6に示される結果から、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差は、距離D1が長くなるにつれて減少する傾向を有することがわかった。特に、誘導加熱を行う場合において、距離D1が200mm以上である場合、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差が顕著に小さくなることがわかる。
距離D1が長くなるにつれて介在物濃度差が減少する理由としては、距離D1が短いほど、並設方向Xの端側の浸漬ノズル125に送られる溶鋼2の流れが出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121との干渉により乱れやすくなることに起因して湯面に浮上している非金属性の介在物(例えば、アルミニウムやマグネシウムの酸化物等)が巻き込まれやすくなることが考えられる。
なお、図6に示される結果から、誘導加熱を行う場合には、誘導加熱を行わない場合と比較して、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差が減少していることがわかる。このことは、誘導加熱を行うことによって、溶鋼2中に生じる電磁力により介在物の除去能力が向上することに起因するものと考えられる。具体的には、誘導加熱を行うことによって、上述したように、湯路130内に当該湯路130の内側(つまり、中心軸へ近づく方向)に向けて電磁力が生じる。ゆえに、湯路130内において、溶鋼2が当該湯路130の内側(つまり、中心軸へ近づく方向)に引き寄せられることに伴い、介在物は当該湯路130の外側(つまり、中心軸から離れる方向)に引き寄せられて、湯路130を画成するスリーブの内壁に付着する。それにより、溶鋼2中の介在物の除去が図られる。
図7は、距離D1と平均介在物濃度との関係を示す図である。
図7に示される結果から、誘導加熱を行う場合には、誘導加熱を行わない場合と比較して、平均介在物濃度が減少していることがわかる。このことは、誘導加熱を行うことによって、溶鋼2中に生じる電磁力により介在物の除去能力が向上することに起因するものと考えられる。なお、図7に示される結果から、距離D1の平均介在物濃度に対する影響は比較的小さいことがわかる。
(湯路の位置)
次に、図8〜図11を参照して、湯路130の位置について説明する。
本件発明者は、数値シミュレーションの結果から、タンディッシュ100における受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111と当該壁部111から最も近い湯路130との間の並設方向Xの距離D2を適切に設定することによって、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることを抑制できることを見出した。
図8は、タンディッシュ100における受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111と当該壁部111から最も近い湯路130との間の並設方向Xの距離D2を示す図である。具体的には、図8では、受湯室110の並設方向Xの正方向側の端側の壁部111と当該壁部111から最も近い湯路130aが示されている。
詳細には、タンディッシュ100における受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111と当該壁部111から最も近い湯路130(つまり、並設方向Xの端側の湯路130)との間の並設方向Xの距離D2は、図8に示すように、受湯室110の壁部111の内面の湯路130側(つまり、Y方向の正方向側)の端部と当該壁部111から最も近い湯路130(例えば、湯路130a)の内面との間の並設方向Xでの最短距離を意味する。
以下、図9〜図11を参照して、距離D2に関する数値シミュレーションの結果について説明する。なお、距離D2に関する数値シミュレーションは、鋳造速度を0.6m/minとし、堰140は設けられないものとし、上述した出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121と当該壁部121から最も近い浸漬ノズル125との間の並設方向Xの距離D1を230mmとした条件で、誘導加熱を行う場合と行わない場合とのそれぞれについて行われた。
図9は、距離D2と浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差との関係を示す図である。
図9に示される結果から、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差は、距離D2が長くなるにつれて減少した後に増大する傾向を有することがわかった。ゆえに、距離D2が過度に短い場合及び過度に長い場合の双方で、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることがわかる。
距離D2が過度に短い場合に浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなる理由としては、距離D2が短いほど、並設方向Xの端側の湯路130に送られる溶鋼2が受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111により冷却される程度が大きくなることが考えられる。また、距離D2が過度に長い場合に浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなる理由としては、距離D2が長いほど、並設方向Xの端側の湯路130に送られる溶鋼2が受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111側に迂回した場合に湯路130に到達するまでの時間が長くなり、溶鋼2の温度が低下しやすくなることが考えられる。
上述したように、一般に、鋳型6間の鋳片3の品質差の増大を抑制する観点では、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差を5℃以下にすることが好ましい。ゆえに、距離D2は、誘導加熱を行う場合において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が図9に示すように5℃以下となる範囲である80mm以上260mm以下に設定されることが好ましい。それにより、受湯室110と出湯室120とを接続する4つの湯路130を備えるタンディッシュ100を利用した連続鋳造において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差の増大をより適切に抑制することができるので、鋳型6間の鋳片3の品質差の増大をより適切に抑制することができる。
さらに、距離D2は、誘導加熱を行う場合において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が図9に示すように3℃以下となる範囲である190mm以上230mm以下に設定されることがより好ましい。それにより、受湯室110と出湯室120とを接続する4つの湯路130を備えるタンディッシュ100を利用した連続鋳造において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差の増大をさらに適切に抑制することができるので、鋳型6間の鋳片3の品質差の増大をさらに適切に抑制することができる。
なお、図9に示される結果からは、図5に示される結果と同様に、誘導加熱を行う場合には、誘導加熱を行わない場合と比較して、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなりやすいことがわかる。
図10は、距離D2と浸漬ノズル125間の介在物濃度差との関係を示す図である。
図10に示される結果から、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差は、距離D2が長くなるにつれて減少する傾向を有することがわかった。
距離D2が長くなるにつれて介在物濃度差が減少する理由としては、距離D2が短いほど、並設方向Xの端側の湯路130に送られる溶鋼2の流れが受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111との干渉により乱れやすくなることに起因して湯面に浮上している非金属性の介在物(例えば、アルミニウムやマグネシウムの酸化物等)が巻き込まれやすくなることが考えられる。
なお、図10に示される結果からは、図6に示される結果と同様に、誘導加熱を行う場合には、誘導加熱を行わない場合と比較して、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差が減少していることがわかる。
図11は、距離D2と平均介在物濃度との関係を示す図である。
図11に示される結果から、誘導加熱を行う場合には、誘導加熱を行わない場合と比較して、平均介在物濃度が減少していることがわかる。このことは、誘導加熱を行うことによって、溶鋼2中に生じる電磁力により介在物の除去能力が向上することに起因するものと考えられる。なお、図11に示される結果から、距離D2の平均介在物濃度に対する影響は比較的小さいことがわかる。
(堰の形状及び位置)
次に、図12〜図18を参照して、堰140の形状及び位置について説明する。
図12は、タンディッシュ100のB−B断面での断面図である。具体的には、図12は、受湯室110における並設方向Xの正方向側の堰140よりもさらに並設方向Xの正方向側の部分を通りY−Z平面に平行な断面図である。
図2を用いて上述したように、堰140は、並設方向Xに交差して(具体的には、Y−Z平面に平行に)延在する。タンディッシュ100に設けられる堰140は、具体的には、図12に示すように、下部の両端に開口部141,141を有している。ここで、堰140の上端は、受湯室110内の溶鋼2の湯面よりも上方に位置している(つまり、堰140の高さは、受湯室110の溶鋼2の深さよりも長くなっている)。なお、図12では、一点鎖線F1によって湯面の位置が示されている。よって、受湯室110における注入位置Pに注入された溶鋼2は、開口部141,141を通過して各湯路130へ送られる。
本件発明者は、数値シミュレーションを行うことによって、浸漬ノズル125間の溶鋼の温度差が大きくなることを抑制する観点では、タンディッシュ100に設けられる堰の形状を、上記のように下部の両端に開口部が形成された形状にすることが好ましいことを見出した。具体的には、堰140の形状に関する数値シミュレーションでは、図13に示される形状1〜形状6の各形状を有する堰のモデルを作成し、各モデルについて数値シミュレーションを行った。図13では、各モデルの形状が実線で示されている。
なお、形状1の堰は、下部のY方向の負方向側の端部のみに開口部を有しており、上端が湯面よりも下方に位置しているものである。また、形状2の堰は、下部に開口部を有しており上端が湯面よりも上方に位置している堰を形状1の堰に対してX方向の外側に追加したものである。また、形状3の堰は、下部に開口部を有しており上端が湯面よりも上方に位置している堰を形状1の堰に対して上方に間隔を空けて追加したものである。また、形状4の堰は、タンディッシュ100に設けられる上述した堰140と同様の形状を有するものである。また、形状5の堰は、下部のY方向の正方向側の端部のみに開口部を有しており、上端が湯面よりも上方に位置しているものである。また、形状6の堰は、下部のY方向の負方向側の端部のみに開口部を有しており、上端が湯面よりも上方に位置しているものである。
以下、図14〜図16を参照して、堰140の形状に関する数値シミュレーションの結果について説明する。なお、堰140の形状に関する数値シミュレーションは、鋳造速度を0.6m/minとし、誘導加熱を行わないものとし、上述した出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121と当該壁部121から最も近い浸漬ノズル125との間の並設方向Xの距離D1を230mmとし、上述した受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111と当該壁部111から最も近い湯路130との間の並設方向Xの距離D2を220mmとした条件で行われた。
図14は、堰の形状と浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差との関係を示す図である。
図14に示される結果から、形状4の堰では、他の形状の堰と比較して、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が小さくなることがわかった。特に、形状4の堰では、他の形状の堰と異なり、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が堰を設けない場合よりも低減していることがわかる。ゆえに、浸漬ノズル125間の溶鋼の温度差が大きくなることを抑制する観点では、タンディッシュ100に設けられる堰の形状を、下部の両端に開口部が形成された形状にすることが好ましいことがわかる。
図15は、堰の形状と浸漬ノズル125間の介在物濃度差との関係を示す図である。
図15に示される結果から、形状4の堰では、他の形状の堰と比較して、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差が小さくなることがわかった。
図16は、堰の形状と平均介在物濃度との関係を示す図である。
図16に示される結果から、形状1〜形状6のいずれの堰によっても、平均介在物濃度が堰を設けない場合よりも低減していることがわかった。特に、上端が湯面より上方に位置しており、湯面近傍において溶鋼2の流れを堰き止めることができる形状2〜形状6の堰では、平均介在物濃度を低減する効果が比較的高いことがわかる。
また、本件発明者は、数値シミュレーションの結果から、溶鋼2の注入位置Pと堰140との間の並設方向Xの距離D3(図2を参照)を適切に設定することによって、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることを抑制できることを見出した。
以下、図17及び図18を参照して、距離D3に関する数値シミュレーションの結果について説明する。なお、距離D3に関する数値シミュレーションは、鋳造速度を0.6m/minとし、上述した出湯室120の並設方向Xの端側の壁部121と当該壁部121から最も近い浸漬ノズル125との間の並設方向Xの距離D1を230mmとし、上述した受湯室110の並設方向Xの端側の壁部111と当該壁部111から最も近い湯路130との間の並設方向Xの距離D2を220mmとした条件で、誘導加熱を行う場合と行わない場合とのそれぞれについて行われた。
図17は、距離D3と浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差との関係を示す図である。
図17に示される結果から、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差は、距離D3が長くなるにつれて減少した後に増大する傾向を有することがわかった。ゆえに、距離D3が過度に短い場合及び過度に長い場合の双方で、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなることがわかる。
距離D3が過度に短い場合に浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなる理由としては、距離D3が短いほど、受湯室110における2つの堰140によって区画される空間内に溶鋼2が貯留されている時間が短くなることに起因して当該空間内において溶鋼2が均熱化される効果が小さくなることが考えられる。また、距離D3が過度に長い場合に浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなる理由としては、距離D3が長いほど、受湯室110における2つの堰140によって区画される空間が大きくなることに起因して当該空間内の位置による溶鋼2の温度差が生じやすくなることが考えられる。
上述したように、一般に、鋳型6間の鋳片3の品質差の増大を抑制する観点では、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差を5℃以下にすることが好ましい。ゆえに、距離D3は、誘導加熱を行う場合において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が図17に示すように5℃以下となる範囲である655mm以上1140mm以下に設定されることが好ましい。それにより、受湯室110と出湯室120とを接続する4つの湯路130を備えるタンディッシュ100を利用した連続鋳造において、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差の増大をさらに適切に抑制することができるので、鋳型6間の鋳片3の品質差の増大をさらに適切に抑制することができる。
なお、図17に示される結果からは、図5及び図9に示される結果と同様に、誘導加熱を行う場合には、誘導加熱を行わない場合と比較して、浸漬ノズル125間の溶鋼2の温度差が大きくなりやすいことがわかる。
図18は、距離D3と浸漬ノズル125間の介在物濃度差との関係を示す図である。
図18に示される結果から、図6及び図10に示される結果と同様に、誘導加熱を行う場合には、誘導加熱を行わない場合と比較して、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差が減少していることがわかる。なお、図18に示される結果から、浸漬ノズル125間の溶鋼2の介在物濃度差は、距離D3によらず比較的低いことがわかる。
受湯室と出湯室とを接続する4つの湯路を備えるタンディッシュにおける各種寸法等と浸漬ノズル間の溶鋼の温度差及び介在物濃度差との関係について確認するために行った実機試験の結果について説明する。
実機試験では、上述した本実施形態に係るタンディッシュ100と同様の構成を有するタンディッシュを実際に操業に用いている連続鋳造機(図1に示す連続鋳造機1と同様の構成を有するもの)に設置し、連続鋳造を行った。そして、浸漬ノズル間の溶鋼の温度差については、各浸漬ノズルの直上におけるタンディッシュ内の溶鋼の温度を測定することによって算出した。また、浸漬ノズル間の溶鋼の介在物濃度差については、各鋳型によって鋳造後に得られた鋳片から50mm×50mm×20mmのサイズのサンプルをそれぞれ切り取り、溶解し、各サンプル中の介在物濃度を求めることによって算出した。なお、本実機試験では、誘導加熱装置の周波数は60Hzとし、消費電力は1つの誘導加熱装置あたり800kWとした。
本実機試験の結果を表1に示す。表1では、各試験条件についての浸漬ノズル間の溶鋼の温度差及び介在物濃度差の結果が示されている。具体的には、試験条件として、鋳造速度、スループット、距離D3、誘導加熱の有無、距離D2及び距離D1を種々に変更した。なお、距離D3が「なし」となっている条件は、堰を設けていない条件である。距離D3の欄に数値が記入されている条件は、距離D3の値が記入されている数値になるように上述した堰140と同様の構成を有する堰が設けられている条件である。
表1に示すように、本実機試験では、出湯室に対する浸漬ノズルの位置を規定する距離D1は120mm以上300mm以下に設定されており、受湯室に対する湯路の位置を規定する距離D2は80mm以上260mm以下に設定されている。ここで、表1によれば、誘導加熱の有無にかかわらず、各試験条件において、浸漬ノズル間の溶鋼の温度差が5℃以下となっている。ゆえに、受湯室と出湯室とを接続する4つの湯路を備えるタンディッシュを利用した連続鋳造において、少なくとも距離D1及び距離D2を上記のように設定した場合には、浸漬ノズル間の溶鋼の温度差の増大が適切に抑制され、鋳型間の鋳片の品質差の増大が抑制されることが確認された。
上述したように、浸漬ノズル間の溶鋼の温度差の増大をより抑制しやすい距離D1の範囲は、170mm以上260mm以下の範囲である。また、浸漬ノズル間の溶鋼の温度差の増大をより抑制しやすい距離D2の範囲は、190mm以上230mm以下の範囲である。ゆえに、浸漬ノズル間の溶鋼の温度差の増大をより適切に抑制する観点では、距離D1が170mm以上260mm以下であり距離D2が80mm以上260mm以下である、又は、距離D1が120mm以上300mm以下であり距離D2が190mm以上230mm以下であることが好ましい。
また、表1によれば、例えば、堰が設けられている条件4,5と、堰が設けられていない条件1,2とを比較することにより、下部の両端に開口部を有する堰をタンディッシュに設けることによって浸漬ノズル間の溶鋼の温度差の増大がより抑制されることが確認された。
また、表1によれば、例えば、距離D3がそれぞれ800mm,1000mmである条件4,8と、距離D3がそれぞれ600mm,1200mmである条件20,22とを比較することにより、受湯室における注入位置に対する堰の位置を規定する距離D3を655mm以上1140mm以下にすることによって浸漬ノズル間の溶鋼の温度差の増大がより抑制されることが確認された。
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は係る例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は応用例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。