JP2020119784A - ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物およびその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法、並びに、リチウムイオン二次電池 - Google Patents

ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物およびその製造方法、リチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法、並びに、リチウムイオン二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】耐久性を向上させ出力特性を改善した正極活物質用の、多孔質構造で高ニッケル比率のリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物の提供。【解決手段】第1の原料水溶液を用いて核生成工程を行った後、粒子成長工程を非酸化性雰囲気下と反応雰囲気下で交互に2回ずつ行い、第5段階を第2の原料水溶液を用いて非酸化性雰囲気で行い、得られる複合水酸化物を多層構造とする。外殻層5のみ低ニッケル比率の組成とし、中心部1、第1の低密度層2、高密度層3、および第2の低密度層4を高ニッケル比率の組成とする。この複合水酸化物を前駆体とした正極活物質は、外殻部と、外殻部と電気的に導通する凝集部と、凝集部の間に分散して存在する空間部とを備え、外殻部は、電解質から凝集部を保護する。【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体であるニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物およびその製造方法、該ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を前駆体として得られるリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質およびその製造方法、並びに、該リチウムイオン二次電池用正極活物質を正極材料として用いたリチウムイオン二次電池に関する。
近年、スマートフォン、タブレット端末、デジタルカメラ、ノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、ハイブリット電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電池式電気自動車などの電気自動車用の電源として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極、正極、非水電解質あるいは固体電解質などで構成され、その負極および正極の材料として用いられる活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が使用される。なお、非水電解質としては、支持塩であるリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液があり、固体電解質としては、不燃性でリチウムイオン電導性を有する無機あるいは有機の固体電解質がある。
このリチウムイオン二次電池のうち、層状岩塩型またはスピネル型の構造を有するリチウム遷移金属含有複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として、研究開発および実用化が進められている。
このようなリチウムイオン二次電池の正極材料として、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5)などのリチウム遷移金属含有複合酸化物からなる正極活物資が提案されている。
近年、これらのリチウム遷移金属含有複合酸化物の中でも、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)を含む、遷移金属として、少なくともニッケル、マンガン、およびコバルトを含有する、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物(NMC)からなる三元系の正極活物質は、熱安定性に優れ、高容量で、電池容量のサイクル特性も良好で、かつ、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されている。リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物やリチウムニッケル複合酸化物などと同じく、層状結晶構造を有する化合物である。
リチウム遷移金属含有複合酸化物に関しては、その内部抵抗の低減による高出力化にその開発の重点が置かれており、リチウムニッケル複合酸化物の特性を改善した、リチウムニッケルコバルトアルミニウム含有複合酸化物(NCA)も着目されているが、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物は、このリチウムニッケルコバルトアルミニウム含有複合酸化物との比較においても、耐候性により優れ、かつ、より取り扱いやすい材料であることから、リチウム遷移金属含有複合酸化物の開発において、最重要視されている。
リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなる三元系の正極活物質に対しては、特に、電気自動車用の電源用途において、さらなる内部抵抗の低減による高出力化が高いレベルで要求されている。
リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物の出力特性やサイクル特性を改善するためには、まず、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物が、3μm〜10μm程度の小粒径で、粒度分布が狭い粒子によって構成されていることが必要である。粒径が小さい粒子とすることにより、その比表面積が大きく、正極活物質として用いた場合に電解質との反応面積を十分に確保することができ、さらに、正極を薄く構成し、リチウムイオンの正極−負極間の移動距離を短くすることができるため、正極抵抗の低減を図ることが可能となる。また、粒度分布が狭い粒子とすることにより、電極内で粒子に印加される電圧を均一化できるため、微粒子の選択的な劣化による電池容量の低下を抑制することが可能となる。
また、出力特性のさらなる改善を図るために、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物の粒子構造の改善についても研究開発が進められている。たとえば、出力特性の改善には、正極活物質の内部に、電解質が侵入可能な空間部を形成することが有効であると考えられる。このような構造を採用することにより、粒径が同程度である中実構造の正極活物質と比べて、電解質との反応面積を大きくすることができるため、正極抵抗を大幅に低減することが可能となる。なお、正極活物質は、その前駆体となる遷移金属含有複合水酸化物の粒子性状を引き継ぐことが知られている。すなわち、上述した正極活物質を得るためには、その前駆体である遷移金属含有複合水酸化物の二次粒子の粒径、粒度分布、および粒子構造などを適切に制御することが必要となる。
たとえば、WO2014/181891号公報や特開2018−104275号公報には、少なくとも遷移金属を含有する金属化合物とアンモニウムイオン供給体とを含む核生成用水溶液のpH値を12.0〜14.0となるように制御して、核生成を行う核生成工程と、生成した核を含有する粒子成長用水溶液のpH値を、核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5〜12.0となるように制御して成長させる粒子成長工程を備え、核生成工程および粒子成長工程の初期を非酸化性雰囲気とするとともに、粒子成長工程における所定のタイミングで、酸化性雰囲気に切り替えた後、再度、非酸化性雰囲気に切替える雰囲気制御を2回行うことを特徴とする遷移金属含有複合水酸化物の製造方法が開示されている。この方法によれば、小粒径で粒度分布が狭く、かつ、板状または針状一次粒子が凝集して形成された中心部を有し、中心部の外側に微細一次粒子が凝集して形成された低密度層と、板状一次粒子が凝集して形成された高密度層が交互に積層した積層構造を2つ備える二次粒子からなる遷移金属含有複合水酸化物を得ることができる。このような構造の遷移金属含有複合水酸化物を前駆体とする正極活物質は、小粒径で粒度分布が狭く、空間部を有する多孔質構造を備えたものとなる。このような多孔質構造の正極活物質を用いた二次電池では、容量特性、サイクル特性とともに、出力特性を改善することが可能である。
WO2014/181891号公報 特開2018−104275号公報
しかしながら、本発明者らの検討によれば、多孔質構造の二次粒子からなるリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなる正極活物質において、エネルギー密度をさらに高めるために、そのニッケル比率を高めることを企図したところ、ニッケルとマンガンとコバルトの比が1:1:1であるリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物との比較では、電解質との接触により粒子構造の劣化がより早く進行することにより、正極活物質の耐久性が損なわれて、そのために内部抵抗(正極界面抵抗)が増加し、出力特性が低下するという問題が生ずるとの知見が得られた。
このような問題に鑑みて、本発明は、ニッケル比率を高めたリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなる正極活物質においても、その耐久性を向上させて、出力特性の改善の効果が十分に確保される粒子構造を実現すること、および、そのような正極活物質の構造を実現するための、前駆体としてのニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の粒子構造を実現すること、および、そのような構造の正極活物質およびその前駆体を工業的に効率よく製造するための手段を提供することを目的とする。
本発明は、遷移金属として、少なくともニッケル、マンガン、およびコバルトを含有する、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物(NMC)からなる三元系のリチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体としてのニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物とその製造方法、および、該ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を前駆体として得られる三元系の正極活物質とその製造方法、並びに、該正極活物質を正極材料として用いたリチウムイオン二次電池に関する。
本発明の第1の態様に係るニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体であって、複数の板状一次粒子および該板状一次粒子よりも小さな微細一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる。
本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を構成する前記二次粒子は、主として前記板状一次粒子が凝集して形成された中心部と、該中心部の外側に、主として前記微細一次粒子が凝集して形成された第1の低密度層と、第1の低密度層の外側に、主として前記板状一次粒子が凝集して形成された高密度層と、該高密度層の外側に、主として前記微細一次粒子が凝集して形成された第2の低密度層と、第2の低密度層の外側に、主として前記板状一次粒子が凝集して形成された外殻層とを備える。
特に、本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物では、前記中心部、第1の低密度層、前記高密度層、および、第2の低密度層は、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有し、前記外殻層は、前記ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有する。
前記二次粒子の平均粒径MVは、4μm〜11μmの範囲にあり、かつ、前記二次粒子の粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は、0.65以下であることが好ましい。
前記中心部の半径は、前記二次粒子の粒径の20%〜40%の範囲にあり、第1の低密度層の厚さは、前記二次粒子の粒径の3%〜15%の範囲にあり、前記高密度層の厚さは、前記二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にあり、第2の低密度層の厚さは、前記二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にあり、前記外殻層の厚さは、前記二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にあることが好ましい。
前記板状一次粒子の粒径は、0.3μm〜3μmの範囲にあり、前記微細一次粒子の粒径は、0.01μm〜0.3μmの範囲にあることが好ましい。
前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物は、一般式(A):NiMnCo(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成を有することが好ましい。
本発明の第2の態様に係るニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法は、反応槽内に、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することで反応水溶液を形成し、晶析反応によって、ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を得る工程を備える。
本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法は、前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を12.0〜14.0の範囲となるように制御することにより、核生成を行う核生成工程と、該核生成工程で得られた核を含む反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、前記核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5〜12.0の範囲となるように制御することにより、前記核を成長させる、粒子成長工程とを備える。
本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法では、(1)前記核生成工程および前記粒子成長工程の第1段階(初期段階)における反応雰囲気を酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気に調整し、(2)前記粒子成長工程の第1段階の後に、前記反応雰囲気を、前記非酸化性雰囲気から酸素の濃度が5容量%を超える酸化性雰囲気に切り替えて、前記粒子成長工程の第2段階とし、(3)次に、前記反応雰囲気を、前記酸化性雰囲気から前記非酸化性雰囲気に切り替えて、前記粒子成長工程の第3段階とし、(4)さらに、前記反応雰囲気を、前記非酸化性雰囲気から前記酸化性雰囲気に切り替えて、前記粒子成長工程の第4段階とし、(5)最後に、前記反応雰囲気を、前記酸化性雰囲気から前記非酸化性雰囲気に切り替えて、前記粒子成長工程の第5段階とする。
特に、本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法では、前記核生成工程および前記粒子成長工程の第1段階から第4段階までに供給される前記原料水溶液は、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有し、前記粒子成長工程の第5段階で供給される前記原料水溶液は、前記ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有する。
また、前記反応雰囲気の切り替えを、前記粒子成長工程において添加される全金属量に対しそれぞれの段階で添加される金属量の割合で定義される、前記粒子成長工程全体に対するそれぞれの段階における晶析反応の割合について、第1段階を8%〜20%の範囲とし、第2段階を2%〜20%の範囲とし、第3段階を12%〜40%の範囲とし、第4段階を3%〜40%とし、第5段階を10%〜50%とすることが好ましい。
前記反応雰囲気の切り替えに際して、酸化性ガスおよび非酸化性ガスの導入を、散気管を用いて行うことが好ましい。
前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物は、一般式(A):NiMnCo(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成を有することが好ましい。
本発明の第3の態様に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質は、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなる三元系の正極活物質であって、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成される。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質において、前記二次粒子は、多孔質構造を備え、具体的には、該二次粒子は、前記凝集した一次粒子により形成された外殻部と、該外殻部の内側に存在し、前記凝集した一次粒子により形成され、かつ、前記外殻部と電気的に導通する凝集部と、および、該凝集部の中に分散して存在する空間部とを備える。
特に、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質では、前記凝集部は、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有し、前記外殻部は、前記ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有する。
前記二次粒子の外殻部の厚さは、0.1μm〜1.0μmの範囲にあることが好ましい。
前記二次粒子の平均粒径MVは、3μm〜10μmの範囲にあり、かつ、前記二次粒子の粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は、0.7以下であることが好ましい。
前記正極活物質のタップ密度は、1.1g/cm〜1.8g/cmの範囲にあることが好ましい。
前記正極活物質のBET比表面積は、2.0m/g〜5.0m/gの範囲にあることが好ましい。
前記正極活物質の吸油量は、35ml/100g〜60ml/100gの範囲にあることが好ましい。
前記正極活物質の(003)面のX線回折による(003)面のピークの半価幅からシェラー式を用いて求めた一次粒子の結晶子径は、300Å〜1500Åの範囲にあることが好ましい。
本発明の非電解質二次電池用正極活物質は、一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなることが好ましい。
本発明の第4の態様に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物とリチウム化合物を混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、前記混合工程で形成された前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃〜920℃の範囲にある温度で焼成する焼成工程を備えることを特徴とする。
前記混合工程において、前記リチウム混合物を、該リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和と、リチウムの原子数との比が、1:0.95〜1.5となるように調整することが好ましい。
前記混合工程の前に、前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を105℃〜750℃の範囲にある温度で熱処理する、熱処理工程をさらに備えることが好ましい。
前記リチウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、多孔質構造を有する六方晶系のリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなることが好ましい。
本発明の第5の態様に係るリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ、および非水電解質を備え(非水電解質二次電池)、あるいは、正極、負極、および固体電解質を備え(固体電解質二次電池)、前記正極に用いられる正極活物質として、本発明の第3の態様に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質が用いられていることを特徴とする。
本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質では、二次粒子の多孔質構造を構成する外殻部と凝集部とのうち、外殻部を低ニッケル比率の組成とし、凝集部を高ニッケル比率の組成とすることにより、高ニッケル比率の組成を有する凝集部を低ニッケル比率の組成を有する外殻部により保護することにより、全体としてニッケル比率の高いリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物でありながら、優れた出力特性という多孔質構造の正極活物質の特徴を損なうことなく、ニッケル比率を高めてエネルギー密度の向上を図った場合でも、その耐久性を確保することが可能となっている。これにより、従来の均一な組成の多孔質構造の正極活物質との比較において、リチウムイオン二次電池の電池性能を向上させることが可能となる。
かかる構造の正極活物質は、中心部と、第1の低密度層と、高密度層と、第2の低密度層と、外殻層とからなる層構造の二次粒子からなり、中心部から第2の低密度層までを、高ニッケル比率の組成とし、外殻層のみを低ニッケル比率の組成とした構造のニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物を前駆体することにより工業的に製造することが可能である。
よって、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質を、電気自動車の電源用とのリチウムイオン二次電池の正極材料に適用することにより、従来との比較において、より耐久性に優れ、かつ、高い出力特性を提供することが可能となるため、その工業的な意義は大きいということができる。
図1は、本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を構成する二次粒子の構造を概略的に示す断面図である。 図2は、本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を製造する工程を示すチャート図である。 図3は、本発明のリチウムイオン二次電池用正極活物質であるリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物を構成する二次粒子の構造を概略的に示す断面図である。 図4は、電池評価に使用した2032型コイン電池の概略断面図である。 図5は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
本発明者らは、多孔質構造の二次粒子からなるリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなる正極活物質において、エネルギー密度をさらに高めるために、そのニッケル比率を高めることを企図したところ、ニッケルとマンガンとコバルトの比が1:1:1であるリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物との比較では、電解質との接触により粒子構造の劣化がより早く進行することにより、正極活物質の耐久性が損なわれて、そのために内部抵抗(正極界面抵抗)が増加し、出力特性が低下するという問題が生ずるとの知見が得られた。
本発明者らは、多孔質構造の正極活物質が有する上記課題について鋭意検討したところ、正極活物質を構成する多孔質構造の二次粒子を均一組成とするのではなく、内部(凝集部)を高ニッケル比率の組成とする一方、外殻部を低ニッケル比率の組成とすることにより、電解質に対して内部を外殻部により保護して、二次粒子の構造が破壊されることを抑制できるとの知見を得た。
また、このような構造の正極活物質を得るためには、その前駆体であるニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を製造する工程において、正極活物質の内部構造に相当する内部の層構造を形成する工程において、高ニッケル比率の組成を有する原料水溶液を用い、外殻層を形成する工程において、高ニッケル比率の組成を有する原料水溶液から、低ニッケル比率の組成を有する原料水溶液に切り替えることにより可能となるとの知見を得た。
本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。以下、本発明について、ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物、その製造方法、正極活物質、その製造方法、並びに、リチウムイオン二次電池の順に説明する。
1.ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物
(1)ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の粒子構造
本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物(以下、「複合水酸化物」という)は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体であって、複数の板状一次粒子、および、板状一次粒子よりも小さな微細一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。二次粒子は、略球状および楕円球状などを含む、丸みを帯びた塊形状を有する。
本発明の複合水酸化物を構成する二次粒子は、図1の概念図に示すように、主として板状一次粒子が凝集して形成された中心部1と、中心部1の外側に、主として微細一次粒子が凝集して形成された第1の低密度層2と、第1の低密度層2の外側に、主として板状一次粒子が凝集して形成された高密度層3と、高密度層3の外側に、主として微細一次粒子が凝集して形成された第2の低密度層4と、第2の低密度層4の外側に、主として板状一次粒子が凝集して形成された外殻層5とを備える。
中心部1と、高密度層3と、外殻層5は、基本的には、板状一次粒子により構成されるが、その中に微細一次粒子が含まれることは妨げられない。一方、第1の低密度層2および第2の低密度層4は、基本的には、微細一次粒子により構成されるが、その中に板状一次粒子が含まれることは妨げられない。特に、第1の低密度層2および第2の低密度層4においては、微細一次粒子が凝集して形成された低密度部の中に、板状一次粒子が凝集して形成された高密度部が存在することができる。より具体的には、第1の低密度層2は、中心部1を構成する板状一次粒子の凝集体の表面と高密度層3を構成する板状一次粒子の凝集体の表面との間に微細一次粒子の凝集体が堆積することにより形成され、第2の低密度層4は、高密度層3を構成する板状一次粒子の凝集体の表面と外殻層5を構成する板状一次粒子の凝集体の表面との間に微細一次粒子の凝集体が堆積することにより形成される。板状一次粒子の凝集体の表面は凹凸があるため、第1の低密度層2および第2の低密度層4は、実質的に、板状一次粒子と微細一次粒子の両方が凝集して形成された構造となる場合がある。
この場合、低密度層内において、中心部の板状一次粒子の凝集体の一部と高密度層の板状一次粒子の凝集体の一部とが、あるいは、高密度層の板状一次粒子の凝集体の一部と外殻層の板状一次粒子の凝集体の一部とが、接触する状態であってもよい。
複合水酸化物を構成する、このような構造の二次粒子を焼成した場合に、板状一次粒子の凝集体が焼結により一次粒子を構成し、一次粒子同士の連結を維持したまま、低密度層が収縮して、一次粒子に吸収される。このため、得られる正極活物質において、後述するように、周方向にわたって一次粒子が凝集した外殻部と、外殻部の内側に存在する一次粒子の凝集部と、該凝集部の間に存在する適切な大きさ気孔からなる空間部とにより構成される。外殻部と、外殻部の内側に存在する一次粒子の凝集部との間、および、内部の一次粒子の凝集部相互間は、それぞれ電気的に導通し、かつ、その経路の断面積が十分に確保される。正極活物質が、このような多孔質構造により構成される結果、正極活物質の内部抵抗(正極界面抵抗)を低減しながら、高いエネルギー密度を維持することが可能となる。
特に、本発明のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物は、このような粒子構造を有しつつ、前記中心部、第1の低密度層、前記高密度層、および、第2の低密度層は、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有し、前記外殻層は、前記ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有する点に特徴を有する。
このような構成とすることにより、このような構造の二次粒子からなる複合水酸化物を焼成した場合、得られた正極活物質において、その内部は、前記中心部から第2の低密度層までの構成に応じて、高ニッケル比率の組成を有する凝集部とその間に存在する空間部により構成され、この内部の周囲を覆う外殻部は、低ニッケル比率の組成を有する。これにより、最も電解質と接触する機会が多い外殻部は、低ニッケル比率の組成を有することから、電解質との接触によっても劣化の進行が進むことなく、二次粒子の構造を保護および維持することが可能となる。
高ニッケル比率の組成では、前記ニッケル比率が0.4を超えて1以下の範囲にある。前記ニッケル比率が0.4を超えて0.8以下の範囲にあることが好ましく、前記ニッケル比率が0.45〜0.7の範囲にあることがより好ましい。焼成後に正極活物質の内部の一次粒子(凝集部)を構成する前記層の組成が0.4以下となると、最終的に得られる正極活物質を全体として高ニッケル比率の組成とすることができない。
一方、低ニッケル比率の組成では、前記ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下の範囲にある。前記ニッケル比率は、0.1を超えて0.38以下の範囲にあることが好ましく、前記ニッケル比率は0.2〜0.36の範囲にあることがより好ましい。通常は、前記ニッケル比率を0.33、すなわち、ニッケルとマンガンとコバルトの比が1:1:1である組成の水酸化物により構成されればよい。焼成後に正極活物質の外殻部の粒子を構成する外殻層の組成におけるニッケル比率が0.4を超えると、外殻層の劣化の抑制効果が不十分となる。一方、前記ニッケル比率が0.1以下となると、最終的に得られる正極活物質を全体として高ニッケルの比率の組成とすることができない。
なお、本発明において、高ニッケル比率の組成におけるニッケル比率と、低ニッケル比率におけるニッケル比率との差は、0.10以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましい。このニッケル比率の差が、0.10未満であると、得られる正極活物質の全体において、高ニッケル比率の組成が得られないか、あるいは、二次粒子の劣化を抑制する効果が十分に得られない可能性がある。
(2)平均粒径MV
本発明の複合水酸化物では、二次粒子の平均粒径MVが、3μm〜12μmの範囲、好ましくは4μm〜11μmの範囲、より好ましくは5μm〜10μmの範囲に調整される。二次粒子の平均粒径MVは、この複合水酸化物を前駆体とする正極活物質の平均粒径MVと相関する。このため、複合水酸化物を構成する二次粒子の平均粒径MVをこのような範囲に制御することで、この複合水酸化物を前駆体とする正極活物質の平均粒径MVを所定の範囲に制御することが可能となる。
なお、本発明において、二次粒子の平均粒径MVとは、体積基準平均粒径(MeanVolume Diameter)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
(3)粒度分布
本発明の複合水酸化物の二次粒子は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径MV〕が、0.65以下、好ましくは0.55以下、より好ましくは0.50以下となるように調整される。
正極活物質の粒度分布は、その前駆体である複合水酸化物の粒子性状の影響を強く受ける。このため、微細粒子や粗大粒子を多く含む複合水酸化物を前駆体とした場合には、正極活物質にも微細粒子や粗大粒子が多く含まれることとなり、これを用いた二次電池の安全性、サイクル特性、および出力特性を十分に改善することができなくなる。これに対して、複合水酸化物の段階で、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕が0.65以下となるように調整しておけば、これを前駆体とする正極活物質の粒度分布を狭くすることができ、上述した問題を回避することが可能となる。ただし、工業規模の生産を前提とした場合には、複合水酸化物として、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕が過度に小さいものを使用することは現実的ではない。したがって、コストや生産性を考慮すると、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕の下限値は、0.25程度とすることが好ましい。
なお、d10は、それぞれの粒子の体積を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の10%となる粒径(全体体積を100%にして粒度分布の累積曲線を求めるとき、この累積曲線が10%となる点の粒径)を、d90は、同様に、それぞれの粒子の体積を粒径の小さい側から累積し、その累積体積が全粒子の合計体積の90%となる粒径(全体体積を100%にして粒度分布の累積曲線を求めるとき、この累積曲線が90%となる点の粒径)を意味する。d10およびd90は、平均粒径MVと同様に、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
(4)中心部の大きさ、並びに、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層の厚さ
本発明の複合水酸化物において、その二次粒子の大きさに対する、中心部の大きさ、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層のそれぞれの厚さを適切に制御することにより、凝集した一次粒子により形成された外殻部と、外殻部の内側に存在し、凝集した一次粒子により形成され、かつ、外殻部と電気的に導通する凝集部と、および、凝集部の中に分散して存在する空間部とにより構成された二次粒子からなる正極活物質が得られる。
このような構造を得るために、まず、本発明の構造の複合水酸化物では、二次粒子の粒径に対する中心部の半径の平均比率は、20%〜40%の範囲にあることが好ましく、25%〜35%の範囲にあることがより好ましい。二次粒子に対する中心部の大きさを上記の範囲に制御することにより、その外側に形成される、第1の低密度層、高密度層、および第2の低密度層を適切な厚さとすることにより、得られる正極活物質において、内部が凝集部と空間部とにより構成される所望の多孔質構造を得ることが可能となる。中心部の大きさが前記範囲を超えると、複合水酸化物において、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層の厚さを所定の範囲に制御できなくなるため、得られる正極活物質において所望の多孔質構造が得られない可能性がある。
また、第1の低密度層の厚さは、二次粒子の粒径の3%〜15%の範囲にあることが好ましく、5%〜10%の範囲にあることがより好ましい。また、高密度層の厚さは、二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にあることが好ましく、4%〜8%の範囲にあることがより好ましい。第2の低密度層の厚さは、二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にあることが好ましく、4%〜8%の範囲にあることがより好ましい。さらに、外殻層の厚さは、二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にあることが好ましく、4%〜8%の範囲にあることがより好ましい。
第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層の厚さを上記の範囲に設定することにより、このような構造の複合水酸化物を前駆体として用いて得られる正極活物質において、二次粒子の骨格を形成する適切な厚さの外殻部、および、その内部に形成される凝集部を備え、かつ、二次粒子の内部に分散して存在する適切な大きさの空間部(気孔)を有する構造が得られる。第1低密度層および第2の低密度層がそれぞれの範囲より小さすぎると、得られる正極活物質において十分な大きさの空間部が、複合水酸化物の焼成時に生じず、実質的に中実構造と同様の構造となる可能性がある。逆に、それぞれの低密度層の厚さが大きすぎると、複合水酸化物の焼成時に、低密度層が気孔構造となるように収縮せずに、得られる正極活物質において、たとえば、中心部と高密度層と外殻部との間に大きな空隙が存在する構造となって、外殻部と内部の凝集部が十分に接続ないしは一体化せず、所望の構造を得られなくなる可能性がある。この場合、外殻部と内部の凝集部と間に十分な断面積を有する電気的導通経路が形成されず、正極抵抗の低減の効果が得られない。
一方、高密度層および外殻層の厚さが小さすぎると、正極活物質の製造段階あるいは充填段階で二次粒子の所定構造が維持されず、破壊されてしまったり、二次粒子の内部に十分な大きさの空間部が形成されなかったりする可能性がある。一方、高密度層および外殻層の厚さが大きすぎると、複合水酸化物の焼成時に、二次粒子の内部に十分な大きさの空間部が形成されず、二次粒子の内部に十分な電解質と導電助剤を侵入させることが不十分となる可能性がある。
本発明の複合水酸化物では、中心部の外側に、実質的に、低密度層と高密度層が積層した積層構造を2つ備える構造となっている。この積層構造を3つ以上備えた場合、それぞれの低密度層が十分な厚さに形成されず、比表面積を向上させる効果が十分に得られない可能性がある。一方、積層構造が1つのみ備えられた場合、得られる正極活物質において、空間部の存在割合が不十分となり、十分な比表面積や低い内部抵抗という所望の特性が得られない可能性がある。
本発明においては、中心部、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層のそれぞれが所定の厚さを有している限り、このような構造の複合水酸化物を焼成する際に、中心部と高密度層と外殻層とが焼結収縮により実質的に一体化し、かつ、内部に分散して生じた空間部が存在する構造が得られる。内部に存在する空間部は、凝集体を形成する一次粒子間の粒界ないしは空隙を介して、外部と連通することが可能である。したがって、このような構造では、得られる正極活物質全体の構造の崩れにくさを維持しつつ、二次粒子を構成する一次粒子間の電気的導通経路が十分に確保され、かつ、空間部と外部との連通が十分に確保される結果、正極抵抗のさらなる低減を図ることが可能となる。
なお、中心部の大きさ、並びに、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および、外殻層の厚さは、複合水酸化物を構成する二次粒子の断面を、電界放出型走査電子顕微鏡(FE−SEM)などの走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより求めることは可能である。ただし、複合水酸化物を構成する二次粒子は、全体形状がいびつであり、かつ、それぞれの層の形状も複雑であるため、それぞれの厚さをSEM観察によって特定することは容易ではない。このため、本明細書における中心部の大きさ、並びに、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および、外殻層の厚さは、複合水酸化物の製造工程のうちの、粒子成長工程の全体において添加される全金属量に対する、中心部およびそれぞれの層を形成するための、非酸化性雰囲気あるいは酸化性雰囲気において添加された、それぞれの金属量の割合から、理論的に求められる。
(5)一次粒子
本発明の複合水酸化物において、中心部、高密度層、および、外殻層を構成する板状一次粒子の大きさと、第1の低密度層および第2の低密度層を構成する微細一次粒子の大きさは、複合水酸化物の二次粒子を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより、その断面観察が可能な状態とした後、その断面について、FE−SEMなどのSEMを用いて観察した場合に、撮像の上で明確に構造の相違が把握できる程度に異なる。
本発明の複合水酸化物において、板状一次粒子は、平均粒径が0.3μm〜3μmの範囲にある大きさで形成される。好ましくは、板状一次粒子の大きさは、平均粒径で0.4μm〜1.5μmの範囲である。板状一粒子の平均粒径が0.3μm未満であると、正極活物質を作製するための焼成工程において、板状一次粒子の体積収縮も低温域においても生じてしまうため、第1の低密度層および第2の低密度層と。中心部、高密度層および外殻層との体積収縮量の差が小さくなるため、正極活物質の内部において十分な数の空間部が得られない可能性がある。一方、板状一次粒子の平均粒径が3μmより大きいときは、正極活物質を作製する際の焼成工程において、正極活物質の結晶性を高めるために、より高温での焼成が必要となり、複合水酸化物を構成する二次粒子間の焼結が進行し、正極活物質の平均粒径MVや粒度分布を所定の範囲に設定することが困難となる。
一方、微細一次粒子は、SEM観察などにより、板状一次粒子と十分に区別できる大きさに形成される。SEM観察の撮像では、その大きさを十分に把握しがたい場合もあるが、微細一次粒子は、板状一次粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径を有し、すなわち、平均粒径が、0.01μm〜0.3μmの範囲であって、板状一次粒子の平均粒径との差が0.1μm以上ある。通常は、微細一次粒子の平均粒径は、板状一次粒子の平均粒径との差を0.3μm以上有する。微細一次粒子の平均粒径が、0.01μm未満であると、低密度層の厚みを満足に得ることができない。一方、微細一次粒子の平均粒径が、0.3μmよりも大きくなると、正極活物質を作製するための焼成工程において、低温域における焼成時に、加熱による体積収縮が十分に進行せず、低密度層と中心部および高密度層との体積収縮量の差が小さくなるため、正極活物質の二次粒子の内部に十分な大きさの空間部が形成されない可能性がある。
このような微細一次粒子の形状は、SEM観察でも十分に把握できずに特定できない場合もあり、基本的には任意の形状を採り得るが、針状であることが好ましい。針状一次粒子は、一次元的な方向性を有する形状であり、粒子が凝集したときに、隙間の多い構造、すなわち、密度の低い構造を形成することができるためである。
上述の通り、微細一次粒子と板状一次粒子の大きさは、SEM観察でその凝集により形成された層ないしは部分の相違を理解できる程度に異なっていれば十分であり、具体的に計測する必要はない。特に、微細一次粒子については、粒径が小さすぎてその形状が十分に把握できない場合がある。微細一次粒子と板状一次粒子の形状および大きさがいずれも、SEM観察を行うことが可能な場合、次のように求めることが可能である。すなわち、二次粒子の断面に存在する10個以上の微細一次粒子または板状一次粒子の最大外径(長軸径)を測定し、その平均値を求め、この値を、この二次粒子における微細一次粒子または板状一次粒子の粒径とする。次に、10個以上の二次粒子について、同様に微細一次粒子および板状一次粒子の粒径を求める。最後に、これらの二次粒子について得られた粒径の平均を求めることにより、これらの複合水酸化物全体における微細一次粒子または板状一次粒子の平均粒径を決定する。
(4)組成
本発明の複合水酸化物は、遷移金属として、少なくともニッケル、マンガン、およびコバルトを含有する、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物(NMC)からなる三元系の正極活物質の前駆体である。上述した粒子構造、平均粒径、および粒度分布を有する限り、その組成が制限されることはない。ただし、本発明は、特に、高ニッケル比率の組成を有する正極活物質に好適に適用されるため、複合水酸化物全体として、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超えていることが好ましい。
特に、本発明の複合水酸化物は、一般式(A):NiMnCo(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成を有することが好ましい。このような組成を有する複合水酸化物を前駆体とすることで、後述する一般式(B)で表される正極活物質を容易に得ることができ、より高い電池性能を実現することができる。
なお、一般式(A)で表される複合水酸化物において、これを構成するニッケル、マンガン、コバルト、および、添加元素Mの組成範囲およびその臨界的意義は、一般式(B)で表される正極活物質と同様となる。このため、これらの事項について、ここでの説明は省略する。
2.ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法
(1)晶析反応
本発明の複合水酸化物の製造方法は、反応槽内に、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することで反応水溶液を形成し、晶析反応によって、正極活物質の前駆体となる複合水酸化物を製造する方法である。
本発明の複合水酸化物の製造方法では、晶析反応を、主として核生成を行う核生成工程と、主として粒子成長を行う粒子成長工程の2段階に明確に分離するとともに、それぞれの工程における晶析条件を調整することにより、特に、粒子成長工程において、原料水溶液の供給を継続しながら、反応雰囲気を切り替え、かつ、原料水溶液の組成を切り替えることにより、上述した粒子構造、平均粒径MV、および、粒度分布を備える複合水酸化物を効率よく得ることを可能としている。
本発明の複合水酸化物の製造方法は、晶析反応を、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を12.0〜14.0の範囲に調整し、核生成を行う核生成工程と、核生成工程で得られた核を含む反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5〜12.0となるように制御して、核を成長させる、粒子成長工程の2段階に明確に区別している。
また、核生成工程の開始前または核生成工程の開始時において、反応槽内に不活性ガスを流通させることにより、核生成工程および粒子成長工程の初期における反応雰囲気を酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気に調整するとともに、粒子成長工程において、原料水溶液の供給を継続しながら、雰囲気ガスを導入することにより、反応雰囲気を、非酸化性雰囲気から酸素の濃度が5容量%を超える酸化性雰囲気に切り替えた後、非酸化性ガスを再度導入することにより、反応雰囲気を、非酸化性雰囲気から酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気に切り替える、雰囲気制御を2回行うことを特徴とする。
より具体的には、本発明の複合水酸化物の製造方法は、図2に示すように、(1)核生成工程および粒子成長工程の第1段階(初期段階)における反応雰囲気を酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気に調整し、(2)粒子成長工程の第1段階の後に、反応雰囲気を、非酸化性雰囲気から酸素の濃度が5容量%を超える酸化性雰囲気に切り替えて、粒子成長工程の第2段階とし、(3)次に、反応雰囲気を、酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に切り替えて、粒子成長工程の第3段階とし、(4)さらに、反応雰囲気を、非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気に切り替えて、粒子成長工程の第4段階とし、(5)最後に、反応雰囲気を、酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に切り替えて、粒子成長工程の第5段階とする、工程により構成される。
その際、反応雰囲気の切り替えを、粒子成長工程において添加される全金属量に対しそれぞれの段階で添加される金属量の割合で定義される、粒子成長工程全体に対するそれぞれの段階における晶析反応の割合について、以下の通りとすることが好ましい。すなわち、第1段階を8%〜20%の範囲とし、第2段階を2%〜20%の範囲とし、第3段階を12%〜40%の範囲とし、第4段階を3%〜40%とし、第5段階を10%〜50%とすることが好ましい。
基本的には、上記のように反応雰囲気を切り替えることにより、所望の多層構造の複合水酸化物の二次粒子が得られる。
また、本発明の複合水酸化物の製造方法では、晶析反応の途中で、原料水溶液の組成を切り替える。具体的には、核生成工程および粒子成長工程の第1段階から第4段階までに供給される原料水溶液として、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有する原料水溶液を用いる。一方、粒子成長工程の第5段階で供給される原料水溶液として、ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有する原料水溶液を用いる。このような原料水溶液の切り替えにより、中心部、第1の低密度層、高密度層、および、第2の低密度層を構成する一次粒子の組成を、ニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成とすることができ、外殻層を構成する一次粒子の組成を、ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成とすることができる。
なお、本発明の複合水酸化物の製造方法は、上述した構造、平均粒径MV、および粒度分布を実現できる限り、その組成によって制限されることはないが、一般式(A)で表される複合水酸化物に対して、好適に適用することができる。
以下、晶析工程について、より具体的に説明する。
[核生成工程]
核生成工程では、はじめに、この工程における原料となる遷移金属の化合物を水に溶解し、原料水溶液を調製する。同時に、反応槽内に、アルカリ水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給および混合して、液温25℃基準で測定するpH値が12.0〜14.0、アンモニウムイオン濃度が3g/L〜25g/Lである反応前水溶液を調製する。なお、反応前水溶液のpH値はpH計により、アンモニウムイオン濃度はイオンメータにより測定することができる。
次に、この反応前水溶液を撹拌しながら、原料水溶液を供給する。これにより、反応槽内には、核生成工程における反応水溶液である核生用成水溶液が形成される。この核生成用水溶液のpH値は上述した範囲にあるので、核生成工程では、核はほとんど成長することなく、核生成が優先的に起こる。なお、核生成工程では、核生成に伴い、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度は変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、反応槽内液のpH値が液温25℃基準でpH12.0〜14.0の範囲に、アンモニウムイオンの濃度が3g/L〜25g/Lの範囲に維持するように制御することが必要となる。
なお、核生成工程においては、反応槽内に不活性ガスを流通させ、反応雰囲気を酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気に調整することが必要となる。反応雰囲気の調整は、通常、原料水溶液の供給を開始する前に行うことが好ましい。これにより、この複合水酸化物を前駆体とする正極活物質の内部に凝集部が十分に形成され、空間部を形成することによる粒子密度の低下を抑制することが可能となる。
核生成工程では、核生成用水溶液に、原料水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することにより、連続して新しい核の生成が継続される。そして、核生成用水溶液中に、所定量の核が生成した時点で、核生成工程を終了する。
この際、核の生成量は、核生成用水溶液に供給した原料水溶液に含まれる金属化合物の量から判断することができる。核生成工程における核の生成量は、特に制限されるものではないが、粒度分布の狭い複合水酸化物の二次粒子を得るためには、核生成工程および粒子成長工程を通じて供給する原料水溶液に含まれる金属化合物中の金属元素に対して、0.1原子%〜2原子%とすることが好ましく、0.1原子%〜1.5原子%とすることがより好ましい。なお、核生成工程における反応時間は、通常0.2分〜5分程度である。
[粒子成長工程]
核生成工程終了後、反応槽内の核生成用水溶液のpH値を、液温25℃基準で10.5〜12.0に調整し、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長用水溶液を形成する。pH値は、アルカリ水溶液の供給を停止することでも調整可能であるが、粒度分布の狭い複合水酸化物の二次粒子を得るためには、一旦、すべての水溶液の供給を停止してpH値を調整することが好ましい。具体的には、すべての水溶液の供給を停止した後、核生成用水溶液に、原料となる金属化合物を構成する酸と同種の無機酸を供給することにより、pH値を調整することが好ましい。
次に、この粒子成長用水溶液を撹拌しながら、原料水溶液の供給を再開する。この際、粒子成長用水溶液のpH値は上述した範囲にあるため、新たな核はほとんど生成せず、核(粒子)成長が進行し、所定の粒径を有する複合水酸化物の二次粒子が形成される。なお、粒子成長工程においても、粒子成長に伴い、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度は変化するので、アルカリ水溶液およびアンモニア水溶液を適時供給し、pH値およびアンモニウムイオン濃度を上記範囲に維持することが必要となる。
特に、本発明の複合水酸化物の製造方法においては、粒子成長工程の途中で、原料水溶液の供給を継続しながら、雰囲気ガスを導入することにより、反応雰囲気を、非酸化性雰囲気から酸素の濃度が5容量%を超える酸化性雰囲気に切り替えたり、この非酸化性雰囲気から酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気に切り替えたりする操作を行う。
なお、粒子成長工程においては、散気管を用いて、反応槽内の反応水溶液に不活性ガスおよび/または酸化性ガスを流通させて、酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気への切り替え、あるいは、非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気への切り替えを速やかに行うことが好ましい。不活性ガスおよび/または酸化性ガスの反応槽内の反応水溶液への供給方法は、反応水溶液と接する反応槽内の空間への供給も可能であるが、散気管を用いて、不活性ガスおよび/または酸化性ガスを反応水溶液中に直接供給する方法を採ることが好ましい。これにより、雰囲気の切り替え時間を短縮することができ、中心部の大きさ、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層の厚さを適切に設定することが可能となる。
また、粒子成長工程において、最後の酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気への切り替えと同時(第4段階から第5段階への移行時)に、原料水溶液の切り替えを行う。この場合、2つの原料水溶液の反応槽内への供給ルートを設けて、反応槽内に供給される原料水溶液を速やかに切り替えることにより、外殻層を構成する一次粒子の組成を適切に制御することが可能となる。
なお、このような複合水酸化物の製造方法では、核生成工程および粒子成長工程において、金属イオンは、核または一次粒子となって析出する。このため、核生成用水溶液および粒子成長用水溶液中の金属成分に対する液体成分の割合が増加する。この結果、見かけ上、原料水溶液の濃度が低下し、特に、粒子成長工程においては、複合水酸化物の二次粒子の成長が停滞する可能性がある。したがって、液体成分の増加を抑制するため、核生成工程終了後から粒子成長工程の途中で、粒子成長用水溶液の液体成分の一部を反応槽外に排出することが好ましい。具体的には、原料水溶液、アルカリ水溶液およびアンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給および攪拌を一旦停止し、粒子成長用水溶液中の核や複合水酸化物を沈降させて、粒子成長用水溶液の上澄み液を排出することが好ましい。このような操作により、粒子成長用水溶液における混合水溶液の相対的な濃度を高めることができるため、粒子成長の停滞を防止し、得られる複合水酸物の二次粒子の粒度分布を好適な範囲に制御することができるばかりでなく、二次粒子全体としての密度も向上させることができる。
[複合水酸化物の二次粒子の粒径制御]
上述のようにして得られる複合水酸化物の二次粒子の粒径は、粒子成長工程や核生成工程の時間、核生成用水溶液や粒子成長用水溶液のpH値や、原料水溶液の供給量により制御することができる。たとえば、核生成工程を高いpH値で行うことにより、または、粒子生成工程の時間を長くすることにより、供給する原料水溶液に含まれる金属化合物の量を増やし、核の生成量を増加させ、得られる複合水酸化物の二次粒子の粒径を小さくすることができる。反対に、核生成工程における核の生成量を抑制することで、得られる複合水酸化物の二次粒子の粒径を大きくすることができる。
[晶析反応の別実施態様]
本発明の複合水酸化物の製造方法では、核生成用水溶液とは別に、粒子成長工程に適したpH値およびアンモニウムイオン濃度に調整された成分調整用水溶液を用意し、この成分調整用水溶液に、核生成工程後の核生成用水溶液、好ましくは核生成工程後の核生成用水溶液から液体成分の一部を除去したものを添加および混合して、これを粒子成長用水溶液として、粒子成長工程を行ってもよい。
この場合、核生成工程と粒子成長工程の分離をより確実に行うことができるため、それぞれの工程における反応水溶液を、最適な状態に制御することができる。特に、粒子成長工程の開始時から粒子成長用水溶液のpH値を最適な範囲に制御することができるため、得られる複合水酸化物の二次粒子の粒度分布をより狭いものとすることができる。
(2)供給水溶液
本発明の複合水酸化物の製造方法では、反応槽内に、少なくともニッケルとマンガンとコバルトを含有する原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することで反応水溶液を形成し、pH調整剤によって該反応水溶液のpH値を所定範囲に調整しつつ、晶析反応によって、複合水酸化物を得る。
a)原料水溶液
本発明においては、2つの原料水溶液中に含まれる金属元素の比率が、概ね、得られる複合水酸化物の組成比となる。このため、2つの原料水溶液は、ニッケル比率の変更とともに、目的とする複合水酸化物の組成に応じて、それぞれの原料水溶液の金属元素の含有量を適宜調整することが必要となる。
たとえば、上述した一般式(A)で表される複合水酸化物を得ようとする場合には、2つの原料水溶液中に含まれる金属元素の比率を、Ni:Mn:Co:M=x:y:z;t(ただし、x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1)となるように調整するとともに、一方の原料水溶液中に含まれるニッケル比率を、0.4を超える高ニッケル比率の組成に調整し、かつ、他方の原料水溶液中に含まれるニッケル比率を0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成に調整することが必要となる。
より具体的には、第1段階から第4段階において供給される原料水溶液のニッケル比率を、0.4を超えて1以下である範囲とし、好ましくは0.4を超えて0.8以下の範囲とし、より好ましくは、0.45〜0.7の範囲とする。一方、第5段階において供給される原料水溶液のニッケル比率を、0.1を超えて0.4以下の範囲とし、好ましくは、0.1を超えて0.38以下の範囲とし、より好ましくは、0.2〜0.36の範囲とする。たとえば、第1段階から第4段階において供給される原料水溶液における、ニッケルとマンガンとコバルトの比を、5:3:2〜6:3:1とした場合、第5段階において供給される原料水溶液における、ニッケルとマンガンとコバルトの比を、3.5〜4:3〜3.5:3〜3.5とすることができる。
なお、添加元素Mを別工程で導入する場合には、原料水溶液に添加元素Mが含まれないようにする。また、核生成工程と粒子成長工程とにおいて、添加元素Mの添加の有無、あるいは、遷移金属や添加元素Mの含有比率を変更することも可能である。
原料水溶液を調製するための、遷移金属の化合物は、特に制限されることはないが、取扱いの容易性から、水溶性の硝酸塩、硫酸塩、および塩化物などを用いることが好ましく、コストやハロゲンの混入を防止する観点から、硫酸塩を好適に用いることが特に好ましい。
また、複合水酸化物中に添加元素M(Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)を含有させる場合には、添加元素Mを供給するための化合物としては、同様に水溶性の化合物が好ましく、たとえば、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸クロム、クロム酸カリウム、硫酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、硫酸ハフニウム、タンタル酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウムなどを好適に用いることができる。
原料水溶液の濃度は、金属化合物の合計で、好ましくは1mol/L〜2.6mol/L、より好ましくは1.5mol/L〜2.2mol/Lとする。原料水溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽あたりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、混合水溶液の濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、それぞれの金属化合物の結晶が再析出して、配管などを詰まらせるおそれがある。
上述した金属化合物は、必ずしも原料水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。たとえば、混合すると反応して目的とする化合物以外の化合物が生成されてしまう金属化合物を用いて晶析反応を行う場合には、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として、所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
また、原料水溶液の供給量は、粒子成長工程の終了時点において、粒子成長水溶液中の生成物の濃度が、好ましくは30g/L〜200g/L、より好ましくは80g/L〜150g/Lとなるようにする。生成物の濃度が30g/L未満では、一次粒子の凝集が不十分になる場合がある。一方、200g/Lを超えると、反応槽内に、核生成用金属塩水溶液または粒子成長用金属塩水溶液が十分に拡散せず、粒子成長に偏りが生じる場合がある。
b)アルカリ水溶液
反応水溶液中のpH値を調整するアルカリ水溶液は、特に制限されることはなく、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどの一般的なアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。なお、アルカリ金属水酸化物を、直接、反応水溶液に添加することもできるが、pH制御の容易さから、水溶液として添加することが好ましい。この場合、アルカリ金属水酸化物水溶液の濃度を、好ましくは20質量%〜50質量%、より好ましくは20質量%〜30質量%とする。アルカリ金属水溶液の濃度をこのような範囲に規制することにより、反応系に供給する溶媒量(水量)を抑制しつつ、添加位置で局所的にpH値が高くなることを防止することができるため、粒度分布の狭い複合水酸化物の二次粒子を効率的に得ることが可能となる。
なお、アルカリ水溶液の供給方法は、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず、かつ、所定の範囲に維持される限り、特に制限されることはない。たとえば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプなどの流量制御が可能なポンプにより供給すればよい。
c)アンモニウム供給体を含む水溶液
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液も、特に制限されることはなく、たとえば、アンモニア水、または、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウムもしくはフッ化アンモニウムなどの水溶液を使用することができる。
アンモニウムイオン供給体として、アンモニア水を使用する場合には、その濃度は、好ましくは20質量%〜30質量%、より好ましくは22質量%〜28質量%とする。アンモニア水の濃度をこのような範囲に規制することにより、揮発などによるアンモニアの損失を最小限に抑制することができるため、生産効率の向上を図ることが可能となる。
なお、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給方法も、アルカリ水溶液と同様に、流量制御が可能なポンプにより供給することができる。
[pH値]
本発明の複合水酸化物の製造方法においては、反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、核生成工程においては12.0〜14.0の範囲に、粒子成長工程においては10.5〜12.0の範囲に制御することが必要となる。なお、いずれの工程においても、晶析反応中のpH値の変動幅は、±0.2以内に制御することが好ましい。pH値の変動幅が大きい場合には、核生成量と粒子成長の割合が一定とならず、粒度分布の狭い複合水酸化物の二次粒子を得ることが困難となる。なお、反応水溶液のpH値はpH計により測定することができる。
a)核生成工程
核生成工程においては、反応水溶液(核生成用水溶液)のpH値を、液温25℃基準で、12.0〜14.0、好ましくは12.3〜13.5、より好ましくは12.5〜13.3の範囲に制御することが必要となる。これにより、核の成長を抑制し、核生成を優先させることが可能となり、この工程で生成する核を均質かつ粒度分布の狭いものとすることができる。一方、pH値が12.0未満では、核生成とともに核(粒子)の成長が進行するため、得られる複合水酸化物の二次粒子の粒径が不均一となり、粒度分布が悪化する。また、pH値が14.0を超えると、生成する核が微細になりすぎるため、核生成用水溶液がゲル化する問題が生じる。
b)粒子成長工程
粒子成長工程においては、反応水溶液(粒子成長水溶液)のpH値を、液温25℃基準で、10.5〜12.0、好ましくは11.0〜12.0、より好ましくは11.5〜12.0の範囲に制御することが必要となる。これにより、新たな核の生成が抑制され、粒子成長を優先させることが可能となり、得られる複合水酸化物の二次粒子を均質かつ粒度分布が狭いものとすることができる。一方、pH値が10.5未満では、アンモニウムイオン濃度が上昇し、金属イオンの溶解度が高くなるため、晶析反応の速度が遅くなるばかりでなく、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、生産性が悪化する。また、pH値が12.0を超えると、粒子成長工程中の核生成量が増加し、得られる複合水酸化物の二次粒子の粒径が不均一となり、粒度分布が悪化する。
なお、pH値が12.0の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程または粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。すなわち、核生成工程のpH値を12.0より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程のpH値を12.0とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、粒子成長が優先して起こり、粒径分布が狭い複合水酸化物の二次粒子を得ることができる。一方、核生成工程のpH値を12.0とすると、反応水溶液中に成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を12.0より小さくすることで、生成した核が成長して良好な複合水酸化物の二次粒子を得ることができる。いずれの場合においても、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
[反応雰囲気]
本発明の複合水酸化物の二次粒子の構造は、核生成工程および粒子成長工程における反応水溶液のpH値を上述のように制御するとともに、これらの工程における反応雰囲気を制御することにより形成される。したがって、本発明の複合水酸化物の製造方法においては、それぞれの工程におけるpH値の制御とともに、反応雰囲気の制御が重要な意義を有する。
このような反応雰囲気の制御では、第1の低密度層および第2の低密度層を構成する微細一次粒子は、通常、板状および/または針状となるが、複合水酸化物の組成によっては、直方体状、楕円状、稜面体状などの形状も採り得る。この点については、中心部、高密度層および外殻層を構成する板状一次粒子についても同様である。したがって、本発明の複合水酸化物の製造方法においては、目的とする複合水酸化物の組成に応じて、それぞれの段階における反応雰囲気を適切に制御することが必要となる。
a)非酸化性雰囲気
本発明の製造方法においては、複合水酸化物の二次粒子の中心部、高密度層、および外殻層を形成する段階における反応雰囲気は、非酸化性雰囲気である。具体的には、不活性ガスなどの非酸化性ガスを導入することにより、反応雰囲気中における酸素濃度が、5容量%以下、好ましくは2容量%以下、より好ましくは1容量%以下である非酸化性雰囲気となるように、酸素と不活性ガスの混合雰囲気に制御することが必要となる。これにより、不要な酸化を抑制しつつ、核生成工程で生成した核を一定の範囲まで成長させることができるため、複合水酸化物の二次粒子の中心部、高密度層、および外殻層を板状一次粒子が凝集した構造とすることができる。
b)酸化性雰囲気
一方、複合水酸化物の二次粒子の第1の低密度層および第2の低密度層を形成する段階では、反応雰囲気を、酸化性雰囲気に制御する。具体的には、反応雰囲気中における酸素濃度が、5容量%を超えるように、好ましくは10容量%以上、より好ましくは大気雰囲気(酸素濃度:21容量%)となるように制御する。反応雰囲気中の酸素濃度をこのような範囲に制御することにより、粒子成長が抑制され、一次粒子の平均粒径が0.01μm〜0.3μmの範囲となるため、中心部、高密度層、および外殻層と十分な密度差を有する第1の低密度層および第2の低密度層を形成することができる。
なお、この段階における反応雰囲気中の酸素濃度の上限は特に制限されることはないが、酸素濃度が過度に高いと、一次粒子の平均粒径が0.01μm未満となり、低密度層が十分な大きさとならない場合がある。このため、酸素濃度は30容量%以下とすることが好ましい。
c)反応雰囲気の切り替え
粒子成長工程において、目的とする粒子構造を有する複合水酸化物が形成されるように、上述した雰囲気制御を行うことが必要となる。
本発明の複合水酸化物の製造方法では、散気管を用いて、反応水溶液中に雰囲気ガスを直接供給する場合には、反応雰囲気、すなわち反応場である反応水溶液中の酸素溶存量は、反応槽内の酸素濃度の変化に対して遅れることなく変化する。したがって、雰囲気の切り替え時間は、反応槽内の酸素濃度を測定することにより確認することができる。一方、反応槽内の反応水溶液に接する空間へと、雰囲気ガスを供給する場合には、反応水溶液の酸素溶存量の変化と反応槽内の酸素濃度の変化とにタイムラグが生じるため、反応槽内の酸素濃度の変化が安定するまでは、反応水溶液の酸素溶存量を、即時的に正しい値として確認することはできないが、同様に、反応槽内の酸素濃度が安定した後の測定値により確認することが可能である。このように、いずれの場合も、反応槽内の酸素濃度を基準として得られた雰囲気の切り替え時間を、反応場である反応水溶液中の酸素溶存量の切り替え時間とすることができ、よって、反応槽内の酸素濃度を基準として、反応雰囲気の時間的な制御を適切に行うことができる。
なお、本発明において、雰囲気の切り替えに要する時間は、粒子成長工程の全体に対して1%〜2%程度である。この時間は、非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気、または酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気に切り替えるときも共通である。したがって、雰囲気の切り替え時間を、単独で厳密に管理することも可能であるが、通常は、雰囲気切り替え後の非酸化性雰囲気あるいは酸化性雰囲気の時間に含めて管理すれば十分である。
より具体的には、粒子成長段階の第1段階(初期段階)における非酸化雰囲気による晶析反応は、粒子成長工程時間の全体に対して、好ましくは8%〜20%の範囲、より好ましくは10%〜18%の範囲とする。
第2段階における酸化性雰囲気による晶析反応(非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、好ましくは2%〜20%の範囲、より好ましくは3%〜15%の範囲とする。ただし、第2段階と第4段階の酸化性雰囲気での晶析反応全体の割合が好ましくは4%〜45%の範囲、より好ましくは5%〜35%の範囲から外れないようにする。
第3段階における非酸化性雰囲気による晶析反応(酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、好ましくは12%〜40%の範囲、より好ましくは14%〜34%の範囲として、2回目の前記酸化性雰囲気への切り替えを、前記粒子成長工程の開始から該粒子成長工程の全体に対して3%〜40%の範囲、好ましくは4%〜25%の範囲で行う。
第4段階における酸化性雰囲気による晶析反応(非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、第2段階の晶析反応の割合の好ましくは1.2倍〜2.5倍、より好ましくは1.5倍〜2.0倍であって、好ましくは3%〜40%の範囲、より好ましくは4%〜25%の範囲とする。
第5段階における非酸化性雰囲気による晶析反応(酸化性雰囲気から非酸化性雰囲気への切り替え時間を含む)は、粒子成長工程時間の全体に対して、好ましくは10%〜50%の範囲、より好ましくは25%〜45%の範囲として、十分な外殻部の骨格を形成することが好ましい。所定時間の経過後、最終的に晶析反応を終了させる。
なお、それぞれの段階における晶析反応の割合というのは、粒子成長工程において添加される全金属量に対する、それぞれの段階で添加される金属量の割合で定義される。実際の操業においては、これらは、原料水溶液を一定に供給して、添加される金属量を一定にすることで、粒子成長工程全体の時間に対して、それぞれの晶析反応時間が所定の割合となるように制御することができる。
d)切替方法
晶析工程中における反応雰囲気の切り替えは、反応槽内に雰囲気ガスを流通させるか、反応水溶液に、内径が1mm〜50mm程度の導管を挿入し、雰囲気ガスによってバブリングすることで行うことが一般的である。この場合、反応雰囲気の切り替えに長時間を要するため、切替中に、原料水溶液の供給を停止することが必要とされる。原料水溶液の供給を停止しないと、複合水酸化物の粒子内部に緩やかな密度勾配が形成される可能性がある。この場合、特に、第1の低密度層および第2の低密度層の形成が不十分となる場合がある。
一方、反応雰囲気の切り替えを散気管によって行うと、散気管が、表面に微細な孔を多数有する導管によって構成され、液体中に微細なガス(気泡)を多数放出することができるため、短時間で反応雰囲気の切り替えを行うことが可能である。このため、反応雰囲気の切替時に、原料水溶液の供給を停止する必要はなく、生産効率の改善を図ることができる。この場合、酸化性雰囲気での晶析反応の割合が短くなる場合であっても、低密度層を十分に形成することが可能となる。
散気管としては、高pH環境下における耐性に優れるセラミック製のものを用いることが好ましい。また、散気管は、その孔径が小さいほど、微細な気泡を放出することができるため、高い効率で反応雰囲気を切り替えることが可能となる。孔径が100μm以下の散気管を用いることが好ましく、50μm以下の散気管を用いることがより好ましい。
(4)アンモニウムイオン濃度
反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度は、好ましくは3g/L〜25g/L、より好ましくは5g/L〜20g/Lの範囲内で一定値に保持する。反応水溶液中においてアンモニウムイオンは錯化剤として機能するため、アンモニウムイオン濃度が3g/L未満では、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、また、反応水溶液がゲル化しやすくなり、形状や粒径の整った複合水酸化物の二次粒子を得ることが困難となる。一方、アンモニウムイオン濃度が25g/Lを超えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成ずれなどの原因となる。なお、反応水溶液のアンモニウムイオン濃度は、イオンメータにより測定することができる。
なお、晶析反応中にアンモニウムイオン濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な複合水酸化物の二次粒子が形成されなくなる。このため、核生成工程と粒子成長工程を通じて、アンモニウムイオン濃度の変動幅を一定の範囲に制御することが好ましく、具体的には、±5g/Lの変動幅に制御することが好ましい。
(5)反応温度
反応水溶液の温度(反応温度)は、核生成工程と粒子成長工程を通じて、好ましくは20℃以上、より好ましくは20℃〜60℃の範囲に制御することが必要となる。反応温度が20℃未満では、反応水溶液の溶解度が低くなることに起因して、核生成が起こりやすくなり、得られる複合水酸化物の二次粒子の平均粒径MVや粒度分布の制御が困難となる。なお、反応温度の上限は、特に制限されることはないが、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進され、反応水溶液中のアンモニウムイオンを一定範囲に制御するために供給するアンモニウムイオン供給体を含む水溶液の量が増加し、生産コストが増加してしまう。
(6)被覆工程
本発明の複合水酸化物の製造方法では、原料水溶液中に添加元素Mを含有する化合物を添加することで、粒子内部に添加元素Mが分散した複合水酸化物の二次粒子を得ることができる。しかしながら、より少ない添加量で、添加元素Mの添加による効果を得ようとする場合には、粒子成長工程後に、複合水酸化物の二次粒子の表面を、添加元素Mを含む化合物で被覆する被覆工程を行うことが好ましい。
被覆方法は、複合水酸化物の二次粒子を、添加元素Mを含む化合物によって被覆することができる限り、特に制限されることはない。たとえば、複合水酸化物をスラリー化し、そのpH値を所定の範囲に制御した後、添加元素Mを含む化合物を溶解した水溶液(被覆用水溶液)を添加し、複合水酸化物の二次粒子の表面に添加元素Mを含む化合物を析出させることで、添加元素Mを含む化合物によって被覆された複合水酸化物の二次粒子を得ることができる。この場合、被覆用水溶液に代えて、添加元素Mのアルコキシド溶液をスラリー化した複合水酸化物に添加してもよい。また、複合水酸化物をスラリー化せずに、添加元素Mを含む化合物を溶解した水溶液またはスラリーを吹き付けて乾燥させることにより被覆してもよい。さらに、複合水酸化物と添加元素Mを含む化合物が懸濁したスラリーを噴霧乾燥させる方法により、または、複合水酸化物と添加元素Mを含む化合物を固相法で混合するなどの方法により被覆することもできる。
なお、複合水酸化物の二次粒子の表面を添加元素Mで被覆する場合には、被覆後の複合水酸化物の組成が、目的とする複合水酸化物の組成と一致するように、原料水溶液および被覆用水溶液の組成を適宜調整することが必要となる。また、被覆工程は、複合水酸化物を熱処理した後の熱処理粒子に対して行ってもよい。
(7)製造装置
本発明の複合水酸化物を製造するための晶析装置(反応槽)としては、反応雰囲気の切り替えおよび原料水溶液の切り替えを行うことができるものである限り、特に制限されることはない。しかしながら、晶析反応が終了するまで、析出した生成物を回収しないバッチ式晶析装置を用いることが好ましい。このような晶析装置であれば、オーバーフロー方式によって生成物を回収する連続晶析装置とは異なり、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されることがないため、粒度分布の狭い複合水酸化物の二次粒子を容易に得ることができる。また、本発明の複合水酸化物の製造方法では、晶析反応中の反応雰囲気を適切に制御することが必要となるため、密閉式の晶析装置を用いることが好ましい。
3.リチウムイオン二次電池用正極活物質
(1)粒子構造
本発明の正極活物質は、遷移金属として、少なくともニッケル、マンガン、およびコバルトを含有する、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなる、三元系のリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成される。本発明の正極活物質では、図3に示すように、二次粒子は、凝集した一次粒子からなる外殻部6と、外殻部6の内側に存在し、外殻部6と同様に凝集した一次粒子からなり、かつ、外殻部6と電気的に導通する凝集部7、および、外殻部6の内側で凝集部7の間に分散して存在する空間部8とを備えた多孔質構造を有している。
特に、本発明の正極活物質は、かかる多孔質構造の二次粒子において、凝集部7は、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有し、外殻部6は、ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有する。
ここで、「電気的に導通する」とは、一次粒子の凝集部同士が、構造的に接続され、電気的に導通可能な状態であることを意味する。また、「外殻部」は、前駆体である複合水酸化物の二次粒子の最も外側に形成された外殻層が焼結収縮した部分に相当する。また、「凝集部」は、前駆体である複合水酸化物の二次粒子の中心部、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層が焼結収縮した部分に相当する。さらに、「空間部」は、前駆体である複合水酸化物の二次粒子の第1の低密度部および第2の低密度部を構成する微細一次粒子が周囲の板状一次粒子に吸収されることにより形成された気孔構造である。これらの空間部は、凝集部の存在により相互に離間して存在するが、一次粒子間の粒界や空隙を介して、外部および相互に連通し、空間部内への電解質と導電助剤の侵入が可能である。
本発明の正極活物質は、このような粒子構造により、従来の中空構造を有する正極活物質と比較して、より大きい比表面積とより高いタップ密度を両立させている。本発明の粒子構造を有する正極活物質では、一次粒子間の粒界や空隙または空間部を介して、二次粒子の内部に電解質が浸入するため、二次粒子の表面ばかりでなく、二次粒子の内部においても、リチウムの脱離および挿入が可能となる。しかも、この正極活物質は、外殻部と凝集部とが電気的に導通し、かつ、その経路の断面積が十分に大きいため、粒子内部の抵抗(内部抵抗)を大幅に低減することができる。
本発明の正極活物質では、二次粒子の骨格を形成する外殻部と凝集部のうち、凝集部を、ニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成として、三元系の正極活物質の全体組成におけるニッケル比率を向上させることにより、エネルギー密度を向上させるとともに、外殻部を、ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成として、外殻部により二次粒子内部に存在する高ニッケル比率の組成を有する凝集部を保護し、電解質との接触によって、二次粒子の構造が劣化することを抑制している。
凝集部における高ニッケル比率の組成では、ニッケル比率が0.4を超えて1以下の範囲にある。ニッケル比率が0.4を超えて0.8以下の範囲にあることが好ましく、ニッケル比率が0.45〜0.7の範囲にあることがより好ましい。ニッケル比率が、0.4以下となると、正極活物質の全体組成におけるニッケル比率を従来の0.33(ニッケルとマンガンとコバルトの比が1:1:1)よりも十分に高くすることができない。好ましくは、正極活物質の全体組成におけるニッケル比率が0.4を超えるように、凝集部のニッケル比率を設定することが好ましい。
一方、外殻部における低ニッケル比率の組成では、ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下の範囲にある。ニッケル比率は、0.1を超えて0.38以下の範囲にあることが好ましく、ニッケル比率は0.2〜0.36の範囲にあることがより好ましい。通常は、ニッケル比率を0.33(ニッケルとマンガンとコバルトの比が1:1:1)とすることができる。外殻部のニッケル比率が0.4を超えると、外殻層による二次粒子の劣化の抑制効果が不十分となる。一方、外殻部のニッケル比率が0.1以下となると、最終的に得られる正極活物質を全体として高ニッケルの比率の組成とすることができない。
このような構造を有する正極活物質を正極材料に用いてリチウムイオン二次電池を構成した場合、正極活物質の耐久性が向上し、その劣化による正極界面抵抗の抵抗に伴う、出力特性の悪化が防止され、電池容量やサイクル特性を損なうことなく、出力特性をさらに改善することが可能となる。
(2)平均粒径MV
本発明の正極活物質は、平均粒径MVが、3μm〜10μmの範囲、好ましくは4μm〜9μmの範囲、より好ましくは4μm〜8μmの範囲となるように調整される。正極活物質の平均粒径がこのような範囲にあれば、この正極活物質を用いた二次電池の単位体積あたりの電池容量を増加させることができるばかりでなく、安全性や出力特性も改善することができる。これに対して、平均粒径MVが3μm未満では、正極活物質の充填性が低下し、単位体積あたりの電池容量を増加させることができない。一方、平均粒径MVが10μmを超えると、正極活物質の反応面積が低下し、電解質との界面が減少するため、出力特性を改善することが困難となる。
なお、正極活物質の平均粒径MVとは、上述した複合水酸化物と同様に、体積基準平均粒径(Mean Volume Diameter)を意味し、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
(3)粒度分布
本発明の正極活物質は、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径MV〕が、0.70以下、好ましくは0.60以下、より好ましくは0.55以下であり、きわめて粒度分布が狭い二次粒子により構成される。このような正極活物質は、微細粒子や粗大粒子の割合が少なく、これを用いた二次電池は、安全性、サイクル特性および出力特性が優れたものとなる。
これに対して、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕が0.70を超えると、正極活物質中の微細粒子や粗大粒子の割合が増加する。たとえば、微細粒子の割合が多いと、微細粒子の局所的な反応に起因して、二次電池が発熱しやすくなり、安全性が低下するばかりでなく、微細粒子の選択的な劣化により、サイクル特性が劣ったものとなる。また、粗大粒子の割合が多いと、電解質と正極活物質の反応面積を十分に確保することができず、出力特性が劣ったものとなる。
工業規模の生産を前提とした場合には、正極活物質として、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕が過度に小さいものを用いることは現実的ではない。したがって、コストや生産性を考慮すると、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕の下限値は、0.25程度とすることが好ましい。
なお、粒度分布の広がりを示す指標〔(d90−d10)/平均粒径MV〕におけるd10およびd90の意味、ならびに、これらの求め方は、上述した複合水酸化物の場合と同様である。
(4)一次粒子
本発明の正極活物質において、外殻部および凝集部を構成する一次粒子は、平均粒径が0.01μm〜0.3μmの範囲にある大きさで形成される。一次粒子の大きさは、複合水酸化物の場合と同様に、二次粒子を樹脂などに埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工などにより、その断面観察が可能な状態とした後、その断面について、FE−SEMなどのSEMを用いて観察し、二次粒子の断面に存在する10個以上の一次粒子の最大外径(長軸径)を測定し、その平均値を求めることにより得られる。正極活物質は、前駆体である複合水酸化物を適切な焼成条件で焼成することにより、前駆体を構成する板状一次粒子が、微細一次粒子を吸収しつつ、焼結収縮することにより、上記の大きさの一次粒子が形成される。一次粒子の平均粒径が0.01μmを下回ると、脆弱になり十分な電池性能が得られないという問題が生ずる可能性がある。一方、一次粒子の平均粒径が0.3μmを上回ると、粒子内の固体内拡散距離が長くなり、十分な電池性能が得られないという問題が生ずる可能性がある。
本発明の正極活物質では、凝集部を構成する一次粒子と外殻部を構成する一次粒子との間でニッケル比率を異にするが、個々の一次粒子は、概ね均一な組成を有する。
(5)外殻部
二次粒子を構成する外殻部は、低ニッケル比率の組成を有する一次粒子の凝集体によって構成される。外殻部の厚さは、0.1μm〜1.0μmの範囲にあることが好ましい。外殻部の厚さが0.1μm未満では、正極活物質の二次粒子の強度が十分に担保されない。一方、外殻部の厚さが1.0μmを超えると、低ニッケル比率の組成の一次粒子が多くなりすぎて、正極活物質全体を高ニッケル比率の組成とすることが困難となる。外殻部の厚さは、好ましくは0.1μm〜0.5μmの範囲であり、より好ましくは0.12μm〜0.3μmの範囲である。
(6)(003)面のX線回折図形から求めた結晶子径
本発明の正極活物質は、X線回折による(003)面のピークの半価幅からシェラー式を用いて一次粒子の結晶子径を求めた場合に、その結晶子径が、300Å〜1500Åの範囲、好ましくは400Å〜1300Åの範囲、より好ましくは700Å〜1250Åの範囲にある。このような範囲の結晶子径を有する正極活物質は、結晶性がきわめて高く、二次電池の正極抵抗を低減させ、かつ、その出力特性を向上させることができる。
これに対して、(003)面の結晶子径が300Å未満であると、一次粒子が微細で、正極活物質内の一次粒子間に存在する細孔が微細となりすぎて、正極活物質内に電解質が浸入しがたくなるため、電解質との反応面積が減少し、二次電池の出力特性が低下する。一方、(003)面の結晶子径が1500Åを超えると、一次粒子が粗大になりすぎて、二次粒子中に占める細孔の割合が極端に減少し、電解質の浸入経路が減少するため、電解質との反応面積が減少して、二次電池の出力特性が低下する。
(7)タップ密度
携帯電子機器の使用時間や電気自動車の走行距離を伸ばすために、二次電池の高容量化は重要な課題となっている。一方、二次電池の電極の厚さは、電池全体のパッキングや電子伝導性の問題から数μm程度とすることが要求される。このため、正極活物質として高容量のものを使用するばかりでなく、正極活物質の充填性を高め、二次電池全体としての高容量化を図ることが必要となる。
このような観点から、本発明の正極活物質では、充填性(正極活物質を構成する二次粒子の球形性)の指標であるタップ密度を、1.1g/cm〜1.8g/cmの範囲に維持することが好ましい。タップ密度が1.1g/cm未満のときは、BET比表面積を大きくしても、充填性が低く、二次電池全体の電池容量を十分に向上させることができない場合がある。一方、タップ密度の上限値は、特に制限されるものではないが、本発明の粒子構造の場合、通常の製造条件での上限は、1.8g/cm程度となる。タップ密度は、1.2g/cm以上であることが好ましく、1.4g/cm以上であることがより好ましい。
なお、タップ密度とは、JIS Z−2504に基づき、容器に採取した試料粉末を、100回タッピングした後のかさ密度を表し、振とう比重測定器を用いて測定することができる。
(8)BET比表面積
本発明の正極活物質は、二次粒子の内部に形成された空間部の存在により比表面積を向上させている点に特徴がある。本発明における正極活物質の比表面積としては、たとえば窒素ガス吸着によるBET法により測定したBET比表面積が用いられる。本発明の正極活物質において、上述の二次粒子の構造が維持される限り、BET比表面積は可能な限り大きくあることが好ましい。BET比表面積が大きくなるほど電解質との接触面積が大きく、これを用いた二次電池の出力特性を大幅に改善することができるためである。具体的には、本発明の正極活物質のBET比表面積は、2.0m/g〜5.0m/gの範囲にあることが好ましい。本発明において、正極活物質の比表面積が2.0m/g未満では、二次電池を構成した場合に、電解質との反応面積を十分に確保することができず、出力特性を十分に向上させることが困難となる。BET比表面積は、2.5m/g〜5.0m/gであることがより好ましく、3.0m/g〜6.0m/gであることがさらに好ましい。
(9)吸油量
本発明の正極活物質は、二次粒子の内部に形成された空間部を有する多孔質構造を備えることにより、出力特性を向上させている点に特徴がある。本発明では、二次粒子に存在する空間部の存在比率(以下、「空間部率」という)を示す指標として吸油量を用いることが可能である。
吸油量は、「JIS K 6217−4(ゴム用カーボンブラック−基本特性−第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む))」に記載の手順に従い操作することにより求められる。ただし、その操作工程が煩雑であるため、一般的には、上記のJISに準拠して上市された吸油量(吸収量)測定装置を用いて、吸油量は測定される。なお、通常、測定用オイル(油)には、フタル酸ジ−n−ブチル(ジ−n−ブチルフタレート、DBP)が用いられるほか、その測定結果は、試料100g当たりの吸油量で算出されるため、単位は「ml/100g」で表される。
本発明の正極活物質の吸油量は、35ml/100g〜60ml/100gの範囲にあることが好ましく、40ml/100g〜55ml/100gの範囲にあることがより好ましい。吸油量が大きくなるほど、正極活物質を構成するそれぞれの二次粒子に占める空間部の占有率、すなわち、空間部率は大きくなり、比表面積を増大させる傾向となる。したがって、吸油量が35ml/100gを下回ると、十分な空間部が形成されず、比表面積を増大させる効果が得られないと評価できる。一方、吸油量が60ml/100gを超えると、二次粒子内部に構造的に空隙部が多く存在し、凝集部の割合が低くなりすぎて、所望の特性を得られない。
(10)組成
本発明の三元系の正極活物質は、上述した構造を有する限り、その組成が制限されることはないが、本発明は、一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなる正極活物質に対して好適に適用することができる。
この正極活物質において、リチウム(Li)の過剰量を示すuの値は、好ましくは−0.05〜0.50の範囲、より好ましくは0〜0.50の範囲、さらに好ましくは0〜0.35の範囲にあるようにする。uの値を上記範囲に規制することにより、この正極活物質を正極材料として用いた二次電池の出力特性および電池容量を向上させることができる。これに対して、uの値が−0.05未満では、二次電池の正極抵抗が大きくなるため、出力特性を向上させることができない。一方、0.50を超えると、初期放電容量が低下するばかりでなく、正極抵抗も大きくなってしまう。
ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化および高容量化に寄与する元素であり、高ニッケル比率の三元系の正極活物質とする観点から、その含有量を示すxの値は、好ましくは0.4〜0.7の範囲、より好ましくは0.43〜0.65の範囲、さらに好ましくは、0.5〜0.6の範囲にあるようにする。xの値が0.4未満では、この正極活物質を用いた二次電のエネルギー密度を十分に向上させることができない。一方、xの値が0.7を超えると、他の元素の含有量が減少し、三元系の正極活物質としての効果を得ることができない。
マンガン(Mn)は、熱安定性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すyの値は、好ましくは0.15〜0.4の範囲、より好ましくは0.2〜0.35の範囲にあるようにする。yの値が0.15未満では、この正極活物質を用いた二次電池の熱安定性を向上させることができない。一方、yの値が0.4を超えると、高温作動時に正極活物質からMnが溶出し、充放電サイクル特性が劣化してしまう。
コバルト(Co)は、充放電サイクル特性の向上に寄与する元素であり、その含有量を示すzの値は、好ましくは0.15〜0.3の範囲、より好ましくは0.2〜0.25の範囲にあるようにする。zの値が0.3を超えると、この正極活物質を用いた二次電池の初期放電容量が大幅に低下してしまう。
本発明の正極活物質では、二次電池の耐久性や出力特性をさらに改善するため、上述した金属元素に加えて、添加元素Mを含有してもよい。このような添加元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)から選択される1種以上を用いることができる。
添加元素Mの含有量を示すtの値は、好ましくは0〜0.1の範囲、より好ましくは0.001〜0.05の範囲にあるようにする。tの値が0.1を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少するため、電池容量が低下する。
このような添加元素Mは、正極活物質の粒子内部に分散させてもよく、正極活物質の粒子表面を被覆させてもよい。さらには、粒子内部に分散させた上で、その表面を被覆させてもよい。いずれにしても、添加元素Mの含有量が上記範囲となるように制御することが必要となる。
4.リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上述した複合水酸化物を前駆体として用い、所定の粒子構造、平均粒径MVおよび粒度分布を備える正極活物質を合成することができる限り、特に制限されることはない。しかしながら、工業規模の生産を前提とした場合には、上述した複合水酸化物をリチウム化合物と混合し、リチウム混合物を得る混合工程と、得られたリチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃〜920℃で焼成する焼成工程とを備える製造方法によって正極活物質を合成することが好ましい。なお、必要に応じて、上述した工程に、熱処理工程や仮焼工程などの工程を追加してもよい。このような製造方法によれば、上述した正極活物質、特に、一般式(B)で表される正極活物質を容易に得ることができる。
(1)熱処理工程
本発明の正極活物質の製造方法においては、任意的に、混合工程の前に熱処理工程を設けて、複合水酸化物を熱処理粒子としてからリチウム化合物と混合してもよい。ここで、熱処理粒子には、熱処理工程において余剰水分を除去された複合水酸化物のみならず、熱処理工程により、酸化物に転換されたニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物(以下、「複合酸化物」という)、または、これらの混合物も含まれる。
熱処理工程は、複合水酸化物を105℃〜750℃に加熱して熱処理することにより、複合水酸化物に含有される余剰水分を除去する工程である。これにより、焼成工程後まで残留する水分を一定量まで減少させることができ、得られる正極活物質の組成のばらつきを抑制することができる。
熱処理工程における加熱温度は105℃〜750℃とする。加熱温度が105℃未満では、複合水酸化物中の余剰水分が除去できず、ばらつきを十分に抑制することができない場合がある。一方、加熱温度が700℃を超えても、それ以上の効果は期待できないばかりか、生産コストが増加してしまう。
なお、熱処理工程では、正極活物質中のそれぞれの金属成分の原子数や、Liの原子数の割合にばらつきが生じない程度に水分が除去できればよいので、必ずしもすべての複合水酸化物を複合酸化物に転換する必要はない。しかしながら、それぞれの金属成分の原子数やLiの原子数の割合のばらつきをより少ないものとするためには、400℃以上に加熱して、すべての複合水酸化物を、複合酸化物に転換することが好ましい。なお、熱処理条件による複合水酸化物に含有される金属成分を分析によって予め求めておき、リチウム化合物との混合比を決めておくことで、上述したばらつきをより抑制することができる。
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中で行うことが好ましい。
また、熱処理時間は、特に制限されないが、複合水酸化物中の余剰水分を十分に除去する観点から、少なくとも1時間とすることが好ましく、5時間〜15時間とすることがより好ましい。
(2)混合工程
混合工程は、上述した複合水酸化物または熱処理粒子に、リチウム化合物を混合して、リチウム混合物を得る工程である。
混合工程では、リチウム混合物中のリチウム以外の金属原子、具体的には、ニッケルマンガンコバルトおよび添加元素Mとの原子数の和(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、0.95〜1.5、好ましくは1.0〜1.5、より好ましくは1.0〜1.35、さらに好ましくは1.0〜1.2となるように、複合水酸化物または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。すなわち、焼成工程の前後ではLi/Meは変化しないので、混合工程におけるLi/Meが、目的とする正極活物質のLi/Meとなるように、複合水酸化物または熱処理粒子とリチウム化合物を混合することが必要となる。
混合工程で使用するリチウム化合物は、特に制限されることはないが、入手の容易性から、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウムまたはこれらの混合物を用いることが好ましい。特に、取り扱いの容易さや品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムまたは炭酸リチウムを用いることが好ましい。
複合水酸化物または熱処理粒子とリチウム化合物は、微粉が生じない程度に十分に混合することが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない場合がある。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。たとえば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができる。
(3)仮焼工程
リチウム化合物として、水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、混合工程後、焼成工程の前に、リチウム混合物を、後述する焼成温度よりも低温、かつ、350℃〜800℃、好ましくは450℃〜780℃で仮焼する仮焼工程を行ってもよい。これにより、複合水酸化物または熱処理粒子中に、リチウムを十分に拡散させることができ、より均一なリチウム複合酸化物を得ることができる。
なお、上記温度での保持時間は、1時間〜10時間とすることが好ましく、3時間〜6時間とすることがより好ましい。また、仮焼工程における雰囲気は、後述する焼成工程と同様に、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。
(4)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物を所定条件の下で焼成し、複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムを拡散させて、リチウム複合酸化物を得る工程である。
この焼成工程において、複合水酸化物および熱処理粒子の中心部、高密度層、および高密度部を構成する板状一次粒子は、微細一次粒子を吸収しつつ、焼結収縮し、焼結後の一次粒子が、正極活物質における外殻部および凝集部を形成する。なお微細一次粒子は、板状一次粒子よりも低温域から焼結し始め、かつ、板状一次粒子よりも収縮量が大きいため、第1の低密度層および第2の低密度層は、焼結の進行が遅い中心部、高密度層、および外殻層に吸収され、適度な大きさの空間部が気孔として形成される。この際、板状一次粒子同士は隣接する板状一次粒子との連結を維持したまま、焼結収縮するため、得られる正極活物質においては、外殻部と凝集部との間で電気的に導通し、かつ、その経路の断面積を十分に確保することができる。この結果、正極活物質の内部抵抗が大幅に減少し、二次電池を構成した場合に、電池容量やサイクル特性を損ねることなく、出力特性を改善することが可能となる。
このような正極活物質の粒子構造は、基本的に、前駆体である複合水酸化物の粒子構造に応じて定まるものであるが、その組成や焼成条件などの影響を受けることがあるため、予備試験を行った上で、所望の構造となるように、それぞれの条件を適宜調整することが好ましい。
なお、焼成工程に用いられる炉は、特に制限されることはなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を加熱できるものであればよい。ただし、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の電気炉のいずれも好適に用いることができる。この点については、熱処理工程および仮焼工程に用いる炉についても同様である。
a)焼成温度
リチウム混合物の焼成温度は、650℃〜920℃とすることが必要となる。焼成温度が650℃未満では、複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物または熱処理粒子が残存したり、得られる正極活物質の結晶性が不十分なものとなったりする。一方、焼成温度が920℃を超えると、正極活物質の二次粒子中の気孔が潰れてしまう可能性があり、また、正極活物質の二次流粒子間が激しく焼結し、異常粒成長が引き起こされ、不定形な粗大粒子の割合が増加することとなる。二次粒子を構成する凝集部および空間部をそれぞれ適切な大きさの範囲内に制御する観点からは、リチウム混合物の焼成温度を700℃〜920℃とすることが好ましく、750℃〜900℃とすることがより好ましい。
また、焼成工程における昇温速度は、2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、5℃/分〜10℃/分とすることがより好ましい。さらに、焼成工程中、リチウム化合物の融点付近の温度で、好ましくは1時間〜5時間、2時間〜5時間保持することがより好ましい。これにより、複合水酸化物または熱処理粒子とリチウム化合物とを、より均一に反応させることができる。
b)焼成時間
焼成時間のうち、上述した焼成温度での保持時間は、少なくとも2時間とすることが好ましく、4時間〜24時間とすることがより好ましい。焼成温度における保持時間が2時間未満では、複合水酸化物または熱処理粒子中にリチウムが十分に拡散せず、余剰のリチウムや未反応の複合水酸化物または熱処理粒子が残存したり、得られる正極活物質の結晶性が不十分なものとなったりするおそれがある。
なお、保持時間終了後、焼成温度から少なくとも200℃までの冷却速度は、2℃/分〜10℃/分とすることが好ましく、33℃/分〜77℃/分とすることがより好ましい。冷却速度をこのような範囲に制御することにより、生産性を確保しつつ、匣鉢などの設備が、急冷により破損することを防止することができる。
c)焼成雰囲気
焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましく、上記酸素濃度の酸素と不活性ガスの混合雰囲気とすることが特に好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、正極活物質の結晶性が不十分なものとなるおそれがある。
(5)解砕工程
焼成工程によって得られた正極活物質を構成する二次粒子は、凝集または軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合には、凝集体または焼結体を解砕することが好ましい。これによって、得られる正極活物質の平均粒径や粒度分布を好適な範囲に調整することができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく分離させて、凝集体をほぐす操作を意味する。
解砕の方法としては、公知の手段を用いることができ、たとえば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
5.リチウムイオン二次電池
本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、セパレータ、および非水電解質などの構成部材を備える、一般的な非水電解質二次電池と同様の構成を採ることができる。あるいは、本発明のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、および固体電解質などの構成部材を備える、一般的な固体電解質二次電池と同様の構成を採ることができる。すなわち、本発明は、リチウムイオンの脱離および挿入により、充放電を行う二次電池であれば、非水系電解液二次電池から全固体リチウム二次電池まで広く適用可能である。なお、以下に説明する実施形態は例示にすぎず、本発明は、本明細書に記載されている実施形態に基づいて、種々の変更、改良を施した形態のリチウムイオン二次電池に適用することが可能である。
(1)構成部材
a)正極
上述した正極活物質を用いて、たとえば、以下のようにしてリチウムイオン二次電池の正極を作製する。
まず、本発明の正極活物質に、導電材および結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの溶剤を添加し、これらを混練して正極合材ペーストを作製する。その際、正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、リチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合には、一般のリチウムイオン二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部〜95質量部、導電材の含有量を1質量部〜20質量部および結着剤の含有量を1質量部〜20質量部とすることができる。
得られた正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレスなどにより加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などをして、電池の作製に供することができる。なお、正極の作製方法は、前記例示のものに限られることはなく、他の方法によってもよい。
導電材としては、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂またはポリアクリル酸を用いることができる。
このほか、必要に応じて、正極活物質、導電材および活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することができる。溶剤としては、具体的に、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金などを使用することができる。また、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用することができる。
負極活物質としては、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる天然黒鉛、人造黒鉛、およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体ならびにコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
c)セパレータ
セパレータは、非水電解質二次電池において、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、非水電解質を保持する機能を有する。このようなセパレータとしては、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されることはない。
d)電解質
非水電解質二次電池に用いられる非水電解質には、支持塩であるリチウム塩を有機溶媒に溶解してなる非水電解液などが用いられる。
非水電解液に用いられる有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
なお、非水電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
一方、全固体リチウム二次電池などの固体電解質二次電池に用いられる固体電解質としては、Li1.3Al0.3Ti1.7(POやLiS−SiSなどを用いることができる。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質には、無機固体電解質および有機固体電解質がある。
無機固体電解質には、酸化物固体電解質、硫化物固体電解質などがある。
酸化物固体電解質としては、酸素(O)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有する酸化物を用いることができる。たとえば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO−LiPO、LiSiO−LiVO、LiO−B−P、LiO−SiO、LiO−B−ZnO、Li1+XAlTi2−X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2−X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3−XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4などを用いることができる。
硫化物固体電解質としては、硫黄(S)を含有し、かつ、リチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有する硫化物を用いることができる。たとえば、LiS−P、LiS−SiS、LiI−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiS−B、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiPO−LiS−SiS、LiI−LiS−P、LiI−LiPO−Pなどを用いることができる。
酸化物固体電解質および硫化物固体電解質以外の無機固体電解質としては、たとえば、LiN、LiI、LiN−LiI−LiOHなどを用いることができる。
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物を用いることができる。たとえば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含むことができる。
なお、固体電解質を用いる場合には、電解質と正極活物質の接触を確保するため、正極材中にも固体電解質を混合させることができる。
(2)リチウムイオン二次電池の構成
リチウムイオン二次電池の構成は、特に限定されず、非水電解質二次電池における、正極、負極、セパレータ、非水系電解質などからなる構成や、固体電解質二次電池における、正極、負極、固体電解質などからなる構成を採りうる。また、二次電池の形状は、特に限定されず、円筒形や積層形など、種々の形状に採ることができる。
非水電解質二次電池の場合、たとえば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水電解質を含浸させ、正極集電体と外部に通じる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉して、リチウムイオン二次電池を完成させる。
(3)リチウムイオン二次電池の特性
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述したように、本発明の高ニッケル比率の組成を有する多孔質構造で三元系の正極活物質を正極材料として用いているため、容量特性、出力特性、およびサイクル特性に優れる。しかも、本発明の正極活物質は、低ニッケル比率の組成を有する外殻部が、高ニッケル比率の組成を有する内部の凝集部を保護する構造を有するため、従来の均一な高ニッケル比率の組成を有する多孔質構造の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池との比較において、同様の高いエネルギー密度を維持しつつ、正極界面抵抗を低減させることができ、かつ、放電容量維持率をさらに向上させることができる。
(4)リチウムイオン二次電池の用途
本発明のリチウムイオン二次電池は、上述のように、容量特性、出力特性、およびサイクル特性に優れており、これらの特性が高いレベルで要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータ、スマートフォン、タブレット端末、デジタルカメラなど)の電源に好適に利用することができる。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、小型化および高出力化が可能であるばかりでなく、安全性および耐久性にも優れており、高価な保護回路を簡略することができるため、搭載スペースに制約を受ける電気自動車などの輸送用機器の電源としても好適に利用することができる。
以下、実施例および比較例を用いて、本発明を詳細に説明する。なお、以下の実施例および比較例では、特に断りがない限り、複合水酸化物および正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の試料を使用した。また、核生成工程および粒子成長工程を通じて、反応水溶液のpH値は、pHコントローラ(株式会社日伸理化製、NPH−690D)により測定し、この測定値に基づき、水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整することで、それぞれの工程における反応水溶液のpH値の変動幅を±0.2の範囲に制御した。
(実施例1)
a)複合水酸化物の製造
[核生成工程]
はじめに、反応槽内に、水を14L入れて撹拌しながら、槽内温度を40℃に設定した。この際、反応槽内に窒素ガスを30分間流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気とした。続いて、反応槽内に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量供給し、pH値が、液温25℃基準で12.6、アンモニウムイオン濃度が10g/Lとなるように調整することで反応前水溶液を形成した。
同時に、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを、それぞれの金属元素のモル比がNi:Mn:Co=5:3:2となるように水に溶解し、2mol/Lの第1の原料水溶液を調製した。また、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを、それぞれの金属元素のモル比がNi:Mn:Co=1:1:1となるように水に溶解し、2mol/Lの第2の原料水溶液を調製した。
次に、第1の原料水応液を、反応前水溶液に115ml/分で供給することで、核生成工程用水溶液を形成し、1分間の核生成を行った。この際、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給し、核生成用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述した範囲に維持した。
[粒子成長工程]
核生成終了後、すべての水溶液の供給を一旦停止するとともに、硫酸を加えて、pH値が、液温25℃基準で11.2となるように調整することで、粒子成長用水溶液を形成した。pH値が所定の値になったことを確認した後、核生成工程と同様の115ml/分と一定の割合で、第1の原料水溶液を供給し、核生成工程で生成した核(粒子)を成長させた。
第1段階として、粒子成長工程の開始時から非酸化性雰囲気での晶析を35分(粒子成長工程全体に対して14.6%)継続させた後、第1の原料水溶液の供給を継続したまま、孔径が20μm〜30μmであるセラミック製の散気管(木下理化工業株式会社製)を用いて反応槽内に空気を流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が21容量%の酸化性雰囲気に調整した(切替操作1)。
第2段階として、切替操作1から酸化性雰囲気での晶析を20分(粒子成長工程全体に対して8.3%)継続させた後、第1の原料水溶液の供給を継続したまま、散気管を用いて反応槽内に窒素を流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気に調整した(切替操作2)。
第3段階として、切替操作2から非酸化性雰囲気での晶析を65分(粒子成長工程全体に対して27.1%)継続させた後、第1の原料水溶液の供給を継続したまま、散気管を用いて反応槽内に空気を流通させ、酸素濃度が21容量%の酸化性雰囲気に調整した(切替操作3)。
第4段階として、切替操作3から酸化性雰囲気での晶析反応を40分(粒子成長工程全体に対して16.7%)継続させた後、散気管を用いて反応槽内に窒素を流通させ、反応雰囲気を、酸素濃度が2容量%以下の非酸化性雰囲気に調整した(切替操作4)。切替操作4では、同時に、第1の原料水溶液の供給を停止し、第2の原料水溶液の供給を開始した。
第5段階として、切替操作4から非酸化性雰囲気での晶析反応を80分(粒子成長工程全体に対して33.3%)継続させた後、第2の原料水溶液を含むすべての水溶液の供給を停止することで、粒子成長工程を終了した。その後、得られた生成物を、水洗、ろ過および乾燥させることにより、粉末状の複合水酸化物を得た。酸化性雰囲気全体の晶析反応の割合は、25.0%であった。
なお、粒子成長工程においては、この工程を通じて、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液と25質量%のアンモニア水を適時供給し、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオン濃度を上述した範囲に維持した。
b)複合水酸化物の評価
[組成]
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE−9000)を用いた分析により、この複合水酸化物の組成は、一般式:Ni0.43Mn0.32Co0.25(OH)で表されるものであることが確認された。
[粒子構造]
複合水酸化物の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ(日本電子株式会社製、IB−19530CP)加工によって断面観察可能な状態とした上で、10個以上の複合水酸化物の二次粒子を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM:日本電子株式会社製、JSM−6360LA)により観察した。この結果、この複合水酸化物は、板状一次粒子が凝集して形成された中心部を有し、中心部の外側に、微細一次粒子が凝集して形成された第1の低密度層と、板状一次粒子が凝集して形成された高密度層と、微細一次粒子が凝集して形成された第2の低密度層と、板状一次粒子が凝集して形成された外殻層からなり、また、中心部、高密度層、および外殻層を構成する板状一次粒子の一部は、相互に連結していることが確認された。
二次粒子の粒径に対する、中心部の半径、並びに、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層の厚さの比率についても計測および算出を行ったところ、それぞれ、25%、10%、5%、5%、および5%であった。
[平均粒径MVおよび粒度分布]
レーザ光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、複合水酸化物の二次粒子の平均粒径MVを測定するとともに、d10およびd90を測定し、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径MV〕を算出した。この結果、平均粒径MVは、5.5μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は0.50であることが確認された。
c)正極活物質の作製
上述のようにして得られた複合水酸化物を、空気(酸素濃度:21容量%)気流中、120℃で12時間熱処理した後(熱処理工程)、Li/Meが1.10となるように、シェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて水酸化リチウムと十分に混合し、リチウム混合物を得た(混合工程)。
このリチウム混合物を、酸素(酸素濃度:100容量%)気流中、昇温速度を1.5℃/分として800℃まで昇温し、この温度で3時間保持することにより焼成し、冷却速度を約4℃/分として室温まで冷却した(焼成工程)。このようにして得られた正極活物質は、凝集または軽度の焼結が生じていた。このため、この正極活物質を解砕し、平均粒径および粒度分布を調整した(解砕工程)。
d)正極活物質の評価
[組成]
ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPE−9000)を用いた分析により、この正極活物質の組成は、一般式:Li1.10Ni0.43Mn0.32Co0.25で表されるものであることが確認された。
[粒子構造]
正極活物質の一部を樹脂に埋め込み、クロスセクションポリシャ(日本電子株式会社製、IB−19530CP)加工によって断面観察可能な状態とした上で、SEM(FE−SEM:日本電子株式会社製、JSM−6360LA)により観察した。この結果、この正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、この二次粒子は、外殻部と、外殻部の内側に分散して存在し、外殻部と電気的に導通する凝集部と、および、外殻部の内側で凝集部の間に存在する、一次粒子の存在しない気孔構造からなる空間部とを備えていることが確認された。また、上記SEM観察から得た、任意の10個以上の二次粒子を含む断面画像の観察から、二次粒子の外殻部の平均厚さは、0.3μmであった。
[結晶子径]
X線回折(XRD)装置(スペクトリス株式会社製、X’Pert PRO)を用いて、CuKα線による粉末X線回折で分析して、X線回折パターンの回折ピークの広がりを除き、それぞれの回折ピークからシェラーの式を用いて、(003)面の結晶子径を算出したところ、530Åであった。
[外殻部および凝集部の組成]
走査型透過電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分光(STEM−EDS)装置(日立ハイテクノロジーズ株式会社製、HD―2300A)を用いての結果から、二次粒子を構成する外殻部におけるニッケルとマンガンとコバルトの比は、3.6:3.2:3.2であり、凝集部におけるニッケルとマンガンとコバルトの比は、5:3:2であることを確認した。
[平均粒径MVおよび粒度分布]
レーザ光回折散乱式粒度分析計(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、正極活物質の平均粒径MVを測定するとともに、d10およびd90を測定し、粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径MV〕を算出した。この結果、平均粒径MVは、5.2μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は0.42であることが確認された。
[BET比表面積およびタップ密度]
流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、マックソーブ1200シリーズ)によりBET比表面積を、タッピングマシン(株式会社蔵持科学器械製作所製、KRS−406)によりタップ密度を、それぞれ測定した。この結果、BET比表面積は4.2m/gであり、タップ密度は1.4g/cmであることが確認された。
[吸油量]
「JIS K 6217−4(ゴム用カーボンブラック−基本特性−第4部:オイル吸収量の求め方(圧縮試料を含む))」に準拠した吸油量測定装置(株式会社あさひ総研製、S−500)により、測定用オイル(油)にフタル酸ジ−n−ブチル(ジ−n−ブチルフタレート、DBP)を用い、吸油量を測定した。その結果、吸油量は、50.0ml/100gであることが確認された。
e)二次電池の作製
図4に示すような2032型コイン電池11を作成した。具体的には、上述のようにして得られた正極活物質:52.5mgと、アセチレンブラック:15mgと、PTEE:7.5mgを混合し、100MPaの圧力で、直径11mm、厚さ100μmにプレス成形した後、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥することにより、正極12を作製した。
次に、この正極12を用いて2032型コイン電池を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。この2032型コイン電池の負極13には、直径17mm、厚さ1mmのリチウム金属を用い、非水電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。また、セパレータ14には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。このようにして、ガスケット15を有し、正極缶16と負極缶17とを備える、2032型コイン電池11を組み立てた。
f)電池評価
[正極界面抵抗]
正極界面抵抗の測定は、インピーダンス測定法を用い、2032型コイン型電池を充電電位4.4Vで充電し、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用することで、図5に示すナイキストプロットを得た。図5に示すナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗(界面抵抗)とその容量を示す特性曲線の和として表されているため、このナイキストプロットに基づき、図5に示す等価回路を用いてフィッティング計算して、正極界面抵抗の値を算出した。なお、正極界面抵抗については、後述する比較例1の正極活物質を基準とし、これに対する抵抗減少率を示す。その結果、正極界面抵抗は、比較例1に対して0.8倍まで減少していた。
[放電容量維持率]
2032型コイン電池を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとして、カットオフ電圧が4.3Vとなるまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧が3.0Vになるまで放電したときの放電容量を測定する充放電試験を行なって、初期放電容量を求めた。さらに、充電と放電を繰り返し100回行い、初期放電容量に対する2回目の放電容量の比率を放電容量維持率とした。その結果、放電容量維持率は、90%であった。
得られた正極活物質の外殻部、凝集部、および全体の組成、および、特性、並びに、得られたリチウムイオン二次電池の特性について、表1に示す。なお、これらについて、実施例2および比較例1についても、同様に表1に示す。
(実施例2)
硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを、それぞれの金属元素のモル比がNi:Mn:Co=6:3:1となるように水に溶解し、2mol/Lの第1の原料水溶液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物、正極活物質、および、リチウムイオン二次電池を得た。
複合水酸化物の組成は、一般式:Ni0.5Mn0.3Co0.2(OH)であった。また、複合水酸化物の二次粒子の粒径に対する、中心部の半径、並びに、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層の厚さの比率は、それぞれ30%、6%、6%、4%、および4%であった。さらに、平均粒径MVは、5.5μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は0.50であった。
正極活物質の組成は、一般式:Li1.10Ni0.5Mn0.3Co0.2であった。二次粒子の外殻部の平均厚さは、0.3μmであり、(003)面の結晶子径は、550Åであった。二次粒子の外殻部におけるニッケルとマンガンとコバルトの比は、3.6:3.2:3.2であり、凝集部におけるニッケルとマンガンとコバルトの比は、6:3:1であった。また、平均粒径MVは、5.2μm、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は0.42であった。さらに、BET比表面積は4.1m/g、タップ密度は1.3g/cm、吸油量は、52.0ml/100gであった。
この正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池における、正極界面抵抗は、比較例1に対して0.9倍まで減少していた。その放電容量維持率は、85%であった。
(比較例1)
原料水溶液について、第1の原料水溶液と第2の原料水溶液に分けずに、硫酸ニッケル、硫酸マンガン、および硫酸コバルトを、それぞれの金属元素のモル比がNi:Mn:Co=5:3:2となるように水に溶解し、2mol/Lの原料水溶液のみを調製し、切替操作4において原料水溶液の切替を行わずに、第5段階の晶析反応を継続したこと以外は、実施例1と同様にして、複合水酸化物、正極活物質、および、リチウムイオン二次電池を得た。
複合水酸化物の組成は、一般式:Ni0.5Mn0.3Co0.2(OH)であった。また、複合水酸化物の二次粒子の粒径に対する、中心部の半径、並びに、第1の低密度層、高密度層、第2の低密度層、および外殻層の厚さの比率は、それぞれ25%、10%、5%、5%、および5%であった。さらに、平均粒径MVは、5.5μmであり、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は0.50であった。
正極活物質の組成は、一般式:Li1.10Ni0.5Mn0.3Co0.2であった。二次粒子の外殻部の平均厚さは、0.3μmであり、(003)面の結晶子径は、530Åであった。二次粒子の外殻部および凝集部におけるニッケルとマンガンとコバルトの比は、いずれも5:2:3であった。また、平均粒径MVは、5.2μm、〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は0.42であった。さらに、BET比表面積は4.2m/g、タップ密度は1.4g/cm、吸油量は、50.0ml/100gであった。
この正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池における、放電容量維持率は、80%であった。
Figure 2020119784
本発明の範囲内にある、実施例1および実施例2の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池では、比較例1との比較において、いずれも正極界面抵抗が減少し、放電容量維持率が向上していることが確認された。
1 中心部
2 第1の低密度層
3 高密度層
4 第2の低密度層
5 外殻層
6 外殻部
7 凝集部
8 空間部
11 コイン電池
12 正極(評価用電極)
13 負極
14 セパレータ
15 ガスケット
16 正極缶
17 負極缶

Claims (20)

  1. リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体であって、複数の板状一次粒子および該板状一次粒子よりも小さな微細一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる、ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物であって、
    前記二次粒子は、主として前記板状一次粒子が凝集して形成された中心部と、該中心部の外側に、主として前記微細一次粒子が凝集して形成された第1の低密度層と、第1の低密度層の外側に、主として前記板状一次粒子が凝集して形成された高密度層と、該高密度層の外側に、主として前記微細一次粒子が凝集して形成された第2の低密度層と、第2の低密度層の外側に、主として前記板状一次粒子が凝集して形成された外殻層とを備え、および、
    前記中心部、第1の低密度層、前記高密度層、および、第2の低密度層は、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有し、前記外殻層は、前記ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有する、
    ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物。
  2. 前記二次粒子の平均粒径MVは、4μm〜11μmの範囲にあり、かつ、前記二次粒子の粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は、0.65以下である、請求項1に記載のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物。
  3. 前記中心部の半径は、前記二次粒子の粒径の20%〜40%の範囲にあり、第1の低密度層の厚さは、前記二次粒子の粒径の3%〜15%の範囲にあり、前記高密度層の厚さは、前記二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にあり、第2の低密度層の厚さは、前記二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にあり、前記外殻層の厚さは、前記二次粒子の粒径の2%〜10%の範囲にある、請求項1または2に記載のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物。
  4. 一般式(A):NiMnCo(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成を有する、請求項1〜3のいずれかに記載のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物。
  5. 反応槽内に、少なくとも遷移金属を含有する原料水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給することで反応水溶液を形成し、晶析反応によって、ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を得る工程を備える、ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法であって、
    前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を得る工程は、前記反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を12.0〜14.0の範囲となるように制御することにより、核生成を行う核生成工程と、該核生成工程で得られた核を含む反応水溶液の液温25℃基準におけるpH値を、前記核生成工程のpH値よりも低く、かつ、10.5〜12.0の範囲となるように制御することにより、前記核を成長させる、粒子成長工程とを備え、
    (1)前記核生成工程および前記粒子成長工程の第1段階における反応雰囲気を酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気に調整し、(2)前記粒子成長工程の第1段階の後に、前記反応雰囲気を、前記非酸化性雰囲気から酸素の濃度が5容量%を超える酸化性雰囲気に切り替えて、前記粒子成長工程の第2段階とし、(3)次に、前記反応雰囲気を、前記酸化性雰囲気から前記非酸化性雰囲気に切り替えて、前記粒子成長工程の第3段階とし、(4)さらに、前記反応雰囲気を、前記非酸化性雰囲気から前記酸化性雰囲気に切り替えて、前記粒子成長工程の第4段階とし、(5)最後に、前記反応雰囲気を、前記酸化性雰囲気から前記非酸化性雰囲気に切り替えて、前記粒子成長工程の第5段階として、前記晶析反応を継続し、および、
    前記核生成工程および前記粒子成長工程の第1段階から第4段階までに供給される前記原料水溶液は、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有し、前記粒子成長工程の第5段階で供給される前記原料水溶液は、前記ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有するようにする、
    ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法。
  6. 前記反応雰囲気の切り替えを、前記粒子成長工程において添加される全金属量に対しそれぞれの段階で添加される金属量の割合で定義される、前記粒子成長工程全体に対するそれぞれの段階における晶析反応の割合について、第1段階を8%〜20%の範囲とし、第2段階を2%〜20%の範囲とし、第3段階を12%〜40%の範囲とし、第4段階を3%〜40%とし、第5段階を10%〜50%とする、請求項5に記載のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法。
  7. 前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物は、一般式(A):NiMnCo(OH)2+a(x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、0≦a≦0.5、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表される組成を有する、請求項5または6に記載のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物の製造方法。
  8. リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
    該正極活物質は、複数の一次粒子が凝集して形成された二次粒子から構成され、該二次粒子は、前記凝集した一次粒子により形成された外殻部と、該外殻部の内側に存在し、前記凝集した一次粒子により形成され、かつ、前記外殻部と電気的に導通する凝集部と、および、該凝集部の中に分散して存在する空間部とを備え、および、
    前記凝集部は、ニッケル、マンガン、およびコバルトの合計に対するニッケルの原子比であるニッケル比率が0.4を超える高ニッケル比率の組成を有し、前記外殻部は、前記ニッケル比率が0.1を超えて0.4以下である低ニッケル比率の組成を有する、
    リチウムイオン二次電池用正極活物質。
  9. 前記二次粒子の外殻部の厚さは、0.1μm〜1.0μmの範囲にある、請求項8に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  10. 前記二次粒子の平均粒径MVは、3μm〜10μmの範囲にあり、かつ、前記二次粒子の粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径MV〕は、0.7以下である、請求項8または9に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  11. 前記正極活物質のタップ密度は、1.1g/cm〜1.8g/cmの範囲にある、請求項8〜10のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  12. 前記正極活物質のBET比表面積は、2.0m/g〜5.0m/gの範囲にある、請求項8〜11のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  13. 前記正極活物質の吸油量は、35ml/100g〜60ml/100gの範囲にある、請求項8〜12のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  14. 前記正極活物質の(003)面のX線回折による(003)面のピークの半価幅からシェラー式を用いて求めた一次粒子の結晶子径は、300Å〜1500Åの範囲にある、請求項8〜13のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  15. 前記リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物は、一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦y≦0.4、0.15≦z≦0.3、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有する、請求項8〜14のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
  16. ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物とリチウム化合物を混合して、リチウム混合物を形成する混合工程と、該混合工程で形成された前記リチウム混合物を、酸化性雰囲気中、650℃〜920℃の範囲にある温度で焼成して、リチウムニッケルマンガンコバルト含有複合酸化物からなるリチウムイオン二次電池用正極活物質を得る焼成工程を備え、
    前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物として、請求項1〜4のいずれかに記載のニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を用いる、
    リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  17. 前記混合工程において、前記リチウム混合物を、該リチウム混合物に含まれるリチウム以外の金属の原子数の和と、リチウムの原子数との比が、1:0.95〜1.5となるように調整する、請求項16に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  18. 前記混合工程の前に、前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を105℃〜750℃の範囲にある温度で熱処理する、熱処理工程をさらに備える、請求項16または17に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  19. 前記リチウムイオン二次電池用正極活物質は、一般式(B):Li1+uNiMnCo(−0.05≦u≦0.50、x+y+z+t=1、0.4≦x≦0.70、0.15≦z≦0.4、0.15≦y≦0.3、0≦t≦0.1、Mは、Mg、Ca、Al、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、Wから選択される1種以上の添加元素)で表され、多孔質構造を有する六方晶系のリチウムニッケルマンガン複合酸化物からなる、請求項16〜18のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
  20. 正極、負極、セパレータ、および非水電解質、あるいは、正極、負極、および固体電解質を備え、前記正極に用いられる正極活物質として、請求項8〜15のいずれかに記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質が用いられている、リチウムイオン二次電池。
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