[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1〜図3を用いて説明する。
本例のハブユニット軸受1は、使用状態で回転しない外輪2と、使用状態で車輪及びディスク、ドラムなどの制動用回転体とともに回転するハブ3と、複数個の転動体4と、外側密封部材5と、内側密封部材6と、内圧調整装置7とを備えている。
なお、ハブユニット軸受1に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図1〜図3の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図1〜図3の右側である。また、軸方向、径方向、及び、周方向とは、特に断らない限り、ハブ3の各方向を言う。
外輪2は、S53Cなどの中炭素鋼製で、略円筒形状を有している。外輪2の外周面の軸方向中間部には、懸架装置のナックルに結合される静止フランジ8を有している。外輪2の内周面には、複列の外輪軌道9a、9bを有している。外輪2は、軸方向中間部で複列の外輪軌道9a、9bの間部分に、外輪2を直径方向に貫通したセンサ取付孔10を有している。センサ取付孔10は、外輪2を懸架装置に固定した状態で、外輪2のうちで鉛直方向上側に位置する部分に形成されている。
ハブ3は、外輪2の内径側に外輪2と同軸に配置されており、S53Cなどの中炭素鋼製のハブ輪11と、SUJ2などの高炭素クロム鋼製の内輪12とを組み合わせて構成されている。ハブ3の外周面には、複列の外輪軌道9a、9bと対向する部分に、複列の内輪軌道13a、13bが設けられている。
ハブ輪11は、内輪12を外嵌保持する軸部材であり、軸部14と、回転フランジ15と、パイロット部16とを有している。また、本例のハブユニット軸受1は、従動輪用であるため、ハブ輪11は中実状に構成されている。ただし、本発明は、駆動輪用のハブユニット軸受にも適用可能である。駆動輪用のハブユニット軸受に適用する場合には、ハブ輪として、駆動軸部材を構成するスプライン軸をスプライン係合させるためのスプライン孔を、径方向中心部に有するものを使用することができる。
軸部14は、ハブ輪11の軸方向内側部から軸方向中間部にわたる範囲に設けられている。軸部14は、その軸方向内側部に内輪12を外嵌するための小径段部17を有しており、その軸方向中間部の外周面に外側列の内輪軌道13aを有している。また、軸部14の軸方向内端部には、径方向外方に折れ曲がったかしめ部18が形成されている。かしめ部18は、小径段部17に外嵌した内輪12の軸方向内側面を抑え付けている。
回転フランジ15は、軸部14の軸方向外側に隣接するハブ輪11の軸方向外側部から径方向外方に伸長しており、略円輪形状を有している。回転フランジ15は、径方向中間部の周方向等間隔となる複数箇所に、貫通孔であるボルト取付孔19を有している。ボルト取付孔19のそれぞれには、スタッド20の軸方向中間部が圧入されている。車輪を構成するホイール及び制動用回転体は、スタッド20の軸方向外側部に螺合する図示しないナットを利用して、回転フランジ15の軸方向外側に固定される。
パイロット部16は、車輪及び制動用回転体をがたつきのない隙間嵌めで外嵌するためのもので、回転フランジ15の径方向中間部から軸方向外側に突出するように設けられており、略円筒形状を有している。
内輪12は、円環形状を有しており、軸部14の軸方向内側部に設けられた小径段部17に締り嵌めで外嵌されている。また、内輪12の軸方向外端面は、軸部14の外周面に形成された段差面21に突き当てられており、内輪12の軸方向内端面は、かしめ部18により抑え付けられている。内輪12は、外周面に内側列の内輪軌道13bを有している。
保持器22により転動自在に保持された転動体4は、複列の外輪軌道9a、9bと複列の内輪軌道13a、13bとの間に配置されている。また、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在し、かつ、複数の転動体4が設置された環状の内部空間23には、図示しないグリースを封入している。そして、内部空間23に封入したグリースが外部に漏洩することを防止するとともに、泥水などの異物が内部空間23に侵入することを防止するために、内部空間23の軸方向外側開口を外側密封部材5により塞ぎ、かつ、内部空間23の軸方向内側開口を内側密封部材6により塞いでいる。
外側密封部材5は、外輪2の軸方向外端部に内嵌されている。外側密封部材5は、全体が円環状に構成されており、金属板製の外側芯金24と、外側芯金24に対して結合された弾性材製の外側シール部25とを備えている。
外側芯金24は、冷間圧延鋼板などの金属板にプレス加工を施して造られており、略U字形の断面形状を有し、全体が円環状である。外側芯金24は、外輪2の軸方向外端部内周面に圧入された円筒状の固定部26と、該固定部26の軸方向外側部から径方向内側に向けて折れ曲がった内向鍔状の折れ曲がり部27とを備えている。折れ曲がり部27は、クランク形の断面形状を有している。
外側シール部25は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などの弾性材製で、外側芯金24の表面に全周にわたり固定されている。外側シール部25は、加硫成形型を用いて加硫成形されており、折れ曲がり部27の軸方向外側面及び径方向内端部を全周にわたり覆っている。
外側シール部25は、複数本(図示の例では3本)のシールリップ28a〜28cを有している。図示の例では、外側シール部25は、アキシアルリップと呼ばれる軸方向に伸長した1本のシールリップ28aと、ラジアルリップと呼ばれる径方向に伸長した2本のシールリップ28b、28cとを備えている。そして、シールリップ28aの先端縁を、回転フランジ15の軸方向内側面に摺接させている。また、シールリップ28b、28cのそれぞれの先端縁を、軸部14の軸方向外端部の外周面に摺接させている。
特に本例では、外側密封部材5に備えられたすべてのシールリップ28a〜28cを、先端側に向かうほど内部空間23から遠ざかる方向に伸長した、漏れ勝手の形状を有するものとしている。つまり、シールリップ28a〜28cの形状を、内部空間23の内圧が上昇した際に、シールリップ28a〜28cを反転させず(捲れを生じさせず)にわずかに弾性変形させることで、シールリップ28a〜28cの先端縁と相手摺接面との間に微小隙間を形成し、内部空間23の空気をシールリップ28c〜28cと相手摺接面との間を通じて外部空間に排出可能な形状としている。
外側密封部材5側から内部空間23の空気が漏れ出す場合、シールリップ28a〜28cを通過する空気の流出方向は、図2中に矢印で示すように、シールリップ28aで径方向外側を向いており、シールリップ28b、28cで軸方向外側を向いている。このため、シールリップ28a〜28cが、このような方向に流出する空気によっても反転することのないように、それぞれのシールリップ28a〜28cを、先端側に向かうほど、空気の流出方向に関して上流側から下流側に向かう方向に伸長させている。具体的には、アキシアルリップであるシールリップ28aを、先端側(軸方向外側)に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長させており、ラジアルリップであるシールリップ28b、28cを、先端側(径方向内側)に向かうほど軸方向外側に向かう方向に伸長させている。このため、本例では、内部空間23の内圧が上昇した際にも、シールリップ28a〜28cを反転させることなく、内部空間23の空気を外部空間に排出することが可能になる。なお、図1及び図2には、シールリップ28a〜28cの自由状態における形状を示している。
内側密封部材6は、組み合わせシールリングであり、外輪2の軸方向内端部に内嵌された第1シールリング29と、内輪12の軸方向内端部に外嵌された第2シールリング30とを備えている。
第1シールリング29は、第1芯金31と、第1芯金31に固定された第1シール部32とを備えている。第1芯金31は、ステンレス冷間圧延鋼板などの耐食性のある金属板製で、略L字形の断面形状を有し、全体が円環状である。第1芯金31は、外輪2の軸方向内端部内周面に圧入された略円筒状の第1固定部33と、第1固定部33の軸方向外側部から径方向内側に向けて折れ曲がった第1折れ曲がり部34とを備えている。第1シール部32は、アクリロニトリルブタジエンゴムなどの弾性材製で、第1折れ曲がり部34の径方向内端部に全周にわたり固定されている。第1シール部32は、ラジアルリップと呼ばれる径方向に伸長したシールリップ35を備えている。
第2シールリング30は、第2芯金36と、第2芯金36に固定された第2シール部37とを備えている。第2芯金36は、ステンレス冷間圧延鋼板などの耐食性のある金属板製で、略L字形の断面形状を有し、全体が円環状である。第2芯金36は、内輪12の軸方向内端部外周面に圧入された略円筒状の第2固定部38と、第2固定部38の軸方向内側部から径方向外側に向けて折れ曲がった第2折れ曲がり部39とを備えている。第2シール部37は、アクリロニトリルブタジエンゴムなどの弾性材製で、第2折れ曲がり部39の径方向外端部に全周にわたり固定されている。第2シール部37は、アキシアルリップと呼ばれる軸方向に伸長したシールリップ40aと、ラジアルリップと呼ばれる径方向に伸長したシールリップ40bとを備えている。
第1シールリング29と第2シールリング30とを組み合わせた状態で、第1シールリング29に備えられたシールリップ35の先端縁を、第2固定部38の外周面に全周にわたり摺接させている。また、第2シールリング30に備えられたシールリップ40aの先端縁を、第1折れ曲がり部34の軸方向内側面に全周にわたり摺接させるとともに、第2シールリング30に備えられたシールリップ40bの先端縁を、第1固定部33の内周面に全周にわたり摺接させている。
特に本例では、内側密封部材6に備えられたすべてのシールリップ35、40a、40bについても、先端側に向かうほど内部空間23から遠ざかる方向に伸長した、漏れ勝手の形状を有するものとしている。つまり、シールリップ35、40a、40bの形状を、内部空間23の内圧が上昇した際に、シールリップ35、40a、40bを反転させずにわずかに弾性変形させることで、シールリップ35、40a、40bの先端縁と相手摺接面との間に微小隙間を形成し、内部空間23の空気をシールリップ35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて外部空間に排出可能な形状としている。
内側密封部材6側から内部空間23の空気が漏れ出す場合、シールリップ35、40a、40bを通過する空気の流出方向は、図3中に矢印で示すように、ラジアルリップであるシールリップ35、40bで軸方向内側を向いており、アキシアルリップであるシールリップ40aで径方向外側を向いている。このため、シールリップ35、40a、40bが、このような方向に流出する空気によっても反転することのないように、それぞれのシールリップ35、40a、40bを、先端側に向かうほど、空気の流出方向に関して上流側から下流側に向かう方向に伸長させている。具体的には、グリースリップであるシールリップ35、40bを、先端側(シールリップ35では径方向内側、シールリップ40bでは径方向外側)に向かうほど軸方向内側に向かう方向に伸長させており、アキシアルリップであるシールリップ40aを、先端側(軸方向外側)に向かうほど径方向外側に向かう方向に伸長させている。このため、本例では、内部空間23の内圧が上昇した際にも、シールリップ35、40a、40bを反転させることなく、内部空間23の空気を外部空間に排出することが可能になる。なお、図1及び図3には、シールリップ35、40a、40bの自由状態における形状を示している。
内圧調整装置7は、内部空間23の内圧を大気圧と同じか大気圧よりも高い値に調整するためのもので、センサユニット41と、コンプレッサなどの圧縮空気供給源77と、制御器78とを備えている。
センサユニット41は、センサホルダ42と、センサホルダ42の先端部に保持された圧力センサ43と、センサホルダ42内に形成された貫通路である送気管44と、圧縮空気供給源77及び制御器78にそれぞれ接続されたケーブル45とを備えている。
センサホルダ42は、例えば合成樹脂製で、外輪2のセンサ取付孔10に径方向外側から挿入された略円柱状(丸棒状)の挿入部46と、挿入部46よりも基端側に設けられ、外輪2の外周面に対して固定される取付フランジ部47とを備えている。挿入部46の先端面は、内部空間23に露出している。なお、図示は省略するが、センサホルダ42は、取付フランジ部47を挿通したボルトを利用して外輪2にねじ止め固定されている。また、挿入部46の外周面とセンサ取付孔10の内周面との間には、内部空間23の密封性(気密性及び液密性)を確保するために、Oリングを挟持している。
圧力センサ43は、内部空間23内の圧力を測定するもので、センサホルダ42の挿入部46の先端面に保持(包埋)されている。圧力センサ43には、図示しない電力線や信号線が接続されており、これらの電力線や信号線は、ケーブル45を通じて車体側に配置された制御器78に接続されている。このため、内部空間23内の圧力を表す圧力センサ43の出力信号は、制御器78に送られ、制御器78によってその値に応じた演算処理が実行される。
送気管44は、内部空間23と外部空間との間で空気を出し入れするのに利用するもので、センサホルダ42を貫通するように形成されている。送気管44は、センサホルダ42の挿入部46の先端面に開口しているとともに、取付フランジ部47の径方向外側面に開口している。送気管44の径方向外側の開口部には、ケーブル45が接続されている。これにより、送気管44は、ケーブル45の内部に配置された図示しない空気路に連通している。
ケーブル45の内部には、上述したように、圧力センサ43と電気的に接続された電力線や信号線が配置されているとともに、送気管44につながった空気路が配置されている。空気路は、圧縮空気供給源77と大気開放部80とにそれぞれ接続されており、例えば制御器78によって開閉制御される電磁弁81によりその接続先が切り換えられる。このため、送気管44及びケーブル45を通じて、圧縮空気供給源77により発生した圧縮空気を内部空間23に供給することができるとともに、大気開放部80により内部空間23を大気に開放することができる。なお、圧縮空気供給源77としては、車体側に設置されたエアコン用のコンプレッサを利用できる。大気開放部80は、制御器78が設置された車体側など、泥水などの異物が空気路に侵入しにくい部分に配置されている。
制御器78は、圧力センサ43の出力信号に基づいて内部空間23の内圧を監視する。そして、内部空間23の内圧が大気圧よりも低いと判定した場合には、送気管44及びケーブル45を通じて、圧縮空気供給源77により発生した圧縮空気を内部空間23に供給するか、又は、内部空間23を大気開放部80により大気に開放する。これにより、内部空間23の内圧を大気圧と同じか大気圧よりも高い値に調整する。
具体的には、ケーブル45の空気路を大気開放部80に接続した場合には、内部空間23の内圧は、大気圧と同じになる。これに対し、ケーブル45の空気路を圧縮空気供給源77に接続した場合には、内部空間23の内圧を、大気圧と同じにすることもできるし、大気圧よりも高い値にすることもできる。ただし、本例では、外側密封部材5及び内側密封部材6が備えるすべてのシールリップ28a〜28c、35、40a、40bの形状を、内部空間23の空気をシールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて外部空間に排出可能な、漏れ勝手の形状としている。このため、ケーブル45を圧縮空気供給源77に接続し、圧縮空気を内部空間23に供給した場合にも、内部空間23の内圧が大気圧よりもある程度高くなると、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて内部空間23の空気が排出される。このため、内部空間23の内圧は、大気圧よりもわずかに高い値(例えば5%〜10%程度高い値)に設定される。このような内部空間23の内圧の上限値は、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bの材質や形状などを変更することにより、適宜設定することが可能である。なお、ケーブル45の接続先として、圧縮空気供給源77と大気開放部80とのいずれを選択するかは、圧縮空気供給源77の稼働状況や路面状況、車両の運転状況、及び、省エネ性などを考慮して、制御器78が決定する。
これに対し、圧力センサ43の出力信号に基づいて内部空間23の内圧が大気圧よりも高いと判定した場合には、内圧調整装置7による内圧調整は特に行わない。この理由は、上述した通り、内部空間23の内圧が大気圧よりもある程度高くなると、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて内部空間23の空気が排出され、内部空間23の内圧がそれ以上上昇することが防止されるためである。
以上のような本例のハブユニット軸受1によれば、長期間にわたり内部空間23の内圧変化を抑えることができる。
すなわち、本例では、内部空間23の内圧が大気圧よりも低い場合に、送気管44及びケーブル45を通じて、圧縮空気供給源77により発生した圧縮空気を内部空間23に供給するか、又は、内部空間23を車体側に配置された大気開放部80で大気に開放することにより、内部空間23の内圧を大気圧と同じか大気圧よりも高い値に調整する。このように本例では、泥水や塵埃が存在する外輪2の周囲に存在する空気ではなく、送気管44及びケーブル45を利用して、車体側に存在する空気を内部空間23に取り入れる。また、内部空間23の内圧が大気圧よりも高くなった場合に、グリースが存在している内部空間23の空気を、送気管44及びケーブル45を通じて外部に排出するのではなく、グリースの漏出防止機能を有するシールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて外部に排出する。したがって、本例のハブユニット軸受1によれば、前述した特開2010−38250号公報(特許文献1)に記載された従来構造のように、目詰まりに起因して内圧調整機能が不能になることを防止でき、長期間にわたり内部空間23の内圧変化を抑えることが可能になる。
しかも、ハブユニット軸受1の温度上昇により内部空間23の内圧が高まり、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて空気が外部空間に漏れた後、ハブユニット軸受1の温度が低下することで、内部空間23の内圧が負圧になった場合にも、内圧調整装置7により、内部空間23の内圧を大気圧と同じか大気圧よりも高い値に直ちに上昇させることができる。このため、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bが相手摺接面に対して貼り付くことを防止できる。したがって、シールトルクの上昇、及び、ハブ3の回転トルクの上昇を防止することができる。また、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bの先端縁が早期に摩耗することも防止できるため、外側密封部材5及び内側密封部材6のシール性を長期間にわたり維持することができる。
また、内部空間23の内圧を大気圧より高い値に調整する場合には、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて空気を外部空間に排出することで、エアシールとしての効果を得ることもできる。したがって、外部空間から泥水などの異物が内部空間23に侵入することをより有効に防止することが可能になり、外側密封部材5及び内側密封部材6のシール性の向上を図ることができる。このため、本例のハブユニット軸受1は、泥水条件が厳しい車両に使用することが可能である。また、シールトルクを低減を図れるとともに、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bの先端縁の摩耗も抑制できる。
なお、本例では、内部空間23の軸方向内側開口を塞ぐ内側密封部材6として、シールリップ35、40a、40bを備えた組み合わせシールリングを用いた場合を説明した。ただし、本例を実施する場合には、例えば特開2008−292275号公報(特許文献2)などに記載されたような、シールリップを1本も備えない、断面略コ字形のカバー部材(キャップ)を使用することもできる。また、このようなカバー部材により内部空間の軸方向内側開口を塞ぐ場合には、カバー部材とハブとの間に、例えば特開2008−30723号公報(特許文献3)に記載されたような、ハブの回転に伴って圧縮空気を発生させるコンプレッサを配置することもできる。このようなコンプレッサを設ける場合には、圧力センサの出力信号に基づいてコンプレッサを制御し、コンプレッサにより発生する圧縮空気を内部空間に送り込む。内部空間に圧縮空気を送り込む手段としては、本例のように送気管44を利用することもできるし、例えばハブの内部に直接形成した空気路を通じて送り込むこともできる。
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図4及び図5を用いて説明する。
本例のハブユニット軸受1aでは、内圧調整装置7aの構造を、実施の形態の第1例の構造から変更している。本例の内圧調整装置7aは、ハブ3aの回転時に作用する遠心力を利用して内部空間23の内圧を調整するいわゆるポンプ装置であり、実施の形態の第1例で使用した、センサユニット41、圧縮空気供給源77及び制御器78(図1参照)はいずれも使用しない。
内圧調整装置7aは、それぞれがハブ輪11aの内部に配置された、シリンダ48と、ピストン49と、付勢手段である複数の押圧ばね50と、シリンダ用吸排気路51と、空気路52とを備えている。
シリンダ48は、ハブ輪11aの軸方向中間部の内部に、円周方向に関して等間隔にそれぞれの中心軸を放射方向に向けて配置されている。シリンダ48は、円柱状空間であり、内径が全長にわたり一定である。また、ハブ輪11aのうちで、シリンダ48よりも径方向外側に位置する部分には、シリンダ48と内部空間23とを連通する、雌ねじ孔53が形成されている。雌ねじ孔53とシリンダ48とは、互いに同軸に配置されている。
ピストン49は、それぞれ段付き円柱形状を有しており、径方向に関する移動可能にシリンダ48内に嵌装されている。ピストン49の全長は、シリンダ48の全長よりも短く設定されており、その中間部に、両側に隣接する部分よりも外径の小さい小径軸部54を有している。
押圧ばね50は、シリンダ48のうちで、ピストン49よりも径方向外側に位置する部分に配置されている。押圧ばね50は、ピストン49を径方向内側に向けて弾性的に押圧する。押圧ばね50は、雌ねじ孔53に螺合された中空セットボルト79により取付位置が規制されている。つまり、押圧ばね50は、中空セットボルト79の先端部とピストン49との間に弾性的に挟持されている。このため、中空セットボルト79の螺合量を調整することで、押圧ばね50によるピストン49への押圧力を調整可能である。本例では、付勢手段として、圧縮コイルばねである押圧ばね50を使用しているが、皿ばねや板ばねなど、その他の構造のばねを利用することもできるし、ゴムなどの弾性部材を利用することもできる。また、中空セットボルトの抜け止めを図るために、雌ねじ孔及び該雌ねじ孔に螺合する中空セットボルトの雄ねじ部を、テーパ(テーパねじ)にすることもできる。
シリンダ用吸排気路51は、シリンダ48内でピストン49が移動する際に、シリンダ48の径方向内側に空気を送り込んだり、シリンダ48の径方向内側の空間から空気を外部空間(第1閉塞空間57)に排出するための孔である。シリンダ用吸排気路51は、ハブ輪11aの径方向中心部に軸方向に伸長するように形成された直線状の共通路55と、共通路55の軸方向内端部から径方向外側に向けて伸長した複数(シリンダ48と同数)の分岐路56とを備えている。共通路55は、すべてのシリンダ48で共通に使用するものであり、分岐路56は、それぞれのシリンダ48ごとに専用に設けられている。共通路55の軸方向外側部は、パイロット部16の内径側に存在する第1閉塞空間(キャビティ)57に開口している。分岐路56の径方向外側部は、シリンダ48の径方向内端面である底面に開口している。
空気路52は、内部空間23と外部空間(第1閉塞空間57)との間を連通したり、非連通としたりするための孔である。空気路52は、シリンダ48を横切るように形成されており、シリンダ48よりも軸方向外側に配置された外側空気路58aと、シリンダ48よりも軸方向内側に配置された内側空気路58bとを備えている。外側空気路58aは、共通路55と略平行で、かつ、共通路55の周囲に配置されている。外側空気路58aの軸方向外側部は、第1閉塞空間57に開口しており、外側空気路58aの軸方向内側部は、シリンダ48の径方向中間部に開口している。内側空気路58bは、略直角に屈曲しており、軸方向に伸長した軸方向路と、軸方向路の軸方向内端部から径方向外側に向けて伸長した径方向路とを備えている。軸方向路の軸方向外側部は、シリンダ48の径方向中間部に開口しており、径方向路の径方向外側部は、ハブ輪11aの外周面に開口している。本例では、ハブ3aが回転せず、ピストン49に遠心力が作用していない状態で、シリンダ48の径方向内側に移動したピストン49の小径軸部54と径方向位置が一致するように、空気路52の径方向に関する形成位置を規制している。
シリンダ用吸排気路51及び空気路52がそれぞれ開口した第1閉塞空間57は、外部空間に対してキャップ59により塞がれている。これにより、シリンダ用吸排気路51及び空気路52に、泥水などの異物が侵入することは防止されている。キャップ59は、パイロット部16の軸方向外側部内周面に圧入された嵌合部60と、嵌合部60の軸方向外端部から径方向内側に向けて伸長した塞ぎ板部61とを備えている。塞ぎ板部61の径方向外端部(面取り部)には、円周方向等間隔の複数個所に、通気孔62を設けている。通気孔62は、外部空間と第1閉塞空間57とを連通する。
上述のような内圧調整装置7aを備える本例のハブユニット軸受1aは、車両の走行速度(ハブ3aの回転速度)に応じて、内部空間23の内圧を以下のように調整する。
先ず、車両の走行速度がゼロ(車両が停止している、ハブ3aが回転していない)場合には、ピストン49には遠心力が作用しないため、図5の(A)に示すように、ピストン49は、押圧ばね50の押圧力によってシリンダ48の径方向内側(底面側)へと移動させられる。これにより、ピストン49の小径軸部54の径方向位置が、空気路52の径方向位置と一致する。このため、外側空気路58aと内側空気路58bとが、シリンダ48のうちで小径軸部54の周囲に存在する空間を介して連通する。したがって、空気路52は、ピストン49によって遮断されず、内部空間23と外部空間(第1閉塞空間57)との間を連通する。この結果、内部空間23は大気に開放されるため、内部空間23の内圧は大気圧と同じになる。
これに対し、車両の走行速度が中高速(例えば60km/h以上)である場合には、ピストン49には大きな遠心力が作用するため、図5の(B)に示すように、ピストン49は押圧ばね50の押圧力に抗してシリンダ48内を径方向外側(天面側)に大きく移動する。このため、ピストン49の小径軸部54の径方向位置と空気路52の径方向位置とが完全に不一致(径方向にずれた状態)になる。これにより、空気路52はピストン49によって遮断された状態になるため、内部空間23は密閉される。一方、ピストン49がシリンダ48内を径方向外側に移動する際に、ピストン49の径方向外端面である先端面が、シリンダ48内の空気を中空セットボルト79の内側を通じて内部空間23に押し出す。このため、内部空間23の内圧は、ピストン49の径方向外側への移動によって上昇する。また、車両の走行速度が上昇するほど、内部空間23の温度は上昇するため、この面からも内部空間23の内圧は上昇する。したがって、内部空間23の内圧を、大気圧よりも高い値に維持することができる。
本例のハブユニット軸受1aの場合にも、内部空間23の開口部を、実施の形態の第1例と同じように、漏れ勝手の形状を有するシールリップ28a〜28c、35、40a、40bから構成される外側密封部材5及び内側密封部材6により塞いでいる。このため、空気路52がピストン49によって遮断されたままの状態で、車両の走行速度の上昇や外気温の上昇などにより、内部空間23の内圧が上昇した場合にも、内部空間23の空気をシールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて外部空間に排出することができる。このため、内部空間23の内圧が過度に高くなることを防止できる。
車両の走行速度が中高速の状態から低下すると、ピストン49に作用する遠心力が押圧ばね50の押圧力よりも小さくなり、ピストン49は径方向内側に押し戻される。そして、車両の走行速度が低速になる、あるいは、車両が停止すると、内部空間23は大気に開放されるため、内部空間23の内圧は、大気圧と同じになり、大気圧よりも低くなることはない。
次に、車両の走行時にピストン49に作用する遠心力の大きさや、ピストン49が内部空間23の内圧によって押し戻されないための各種条件などを、具体的に検討する。
ピストン49に作用する遠心力Fは、ピストン49の質量をm、ピストン49の回転速度(角速度)をω、ハブ3aの中心軸(回転中心)からピストン49の重心までの距離(回転半径)をrとした場合に、F=mrω2で表される。このため、ハブ3aの回転速度を10s−1(車速で70km/sに相当)とし、ピストン49の直径を10mm、全長を10mm、密度を7830kg/m3とし、ピストン49の重心がハブ3aの中心軸から20mmの位置に存在しているとした場合には、ピストン49に作用する遠心力Fは、0.486Nとなる。なお、ピストン49の質量mは、断面積×全長×密度で求められ、0.00615kgであり、ピストン49の角速度ωは、(20×π)2である。
また、車両の停止時に、鉛直方向下側に位置するピストン49を、押圧ばね50の押圧力によって径方向内側(シリンダ48の底面側)に移動可能とするために、押圧ばね50の押圧力を0.1Nに設定すると、ピストン49に作用する遠心力によって支承可能な荷重(径方向内向きの荷重)Wは、0.386N(=0.486−0.1)となる。ここで、荷重Wを気圧換算(W/S)すると、4.9kPaになる。したがって、内部空間23の内圧が4.9kPaになるまでは、ピストン49は押し戻されずに、内部空間23を正圧の状態に維持できることになる。また、ボイルシャルルの法則を適用すれば、4.9kPaの圧力変化は、15℃程度の温度変化(300K→315K)に相当するため、内部空間23の温度が15℃程度上昇した場合にも、ピストン49は押し戻されずに、内部空間23を正圧の状態に維持できる。つまり、空気路52を通じて、内部空間23の空気を外部空間に排出しなくて済む。
なお、ハブ3aの回転速度が上昇するほど、ハブユニット軸受1aの温度は上昇するため、内部空間23からピストン49に作用する荷重は大きくなるが、ピストン49に作用する遠心力Fは角速度ωの2乗で大きくなるため、ハブ3aの回転速度が上昇するほど、ピストン49は押し戻されにくくなり、内部空間23の内圧を大気圧よりも高くする上で有利になる。
以上のような本例のハブユニット軸受1aによれば、泥水条件が緩やかになる車両の停止時又は低速走行時に、空気路52を通じて内部空間23を大気に開放し、内部空間23の内圧を大気圧と同じにすることができる。また、泥水条件が厳しくなる中高速走行時には、遠心力の作用により径方向外側に移動するピストン49によって空気路52を遮断することで内部空間23を密閉しつつ、内部空間23の内圧を大気圧よりも高くすることができる。しかも、本例のハブユニット軸受1aでは、このような内圧調整を、実施の形態の第1例の構造のようなセンサユニットや圧縮空気供給源及び制御器を使用せずに実施することができる。
また、内部空間23の内圧が大気圧よりも高くなった場合に、グリースが存在している内部空間23の空気を、グリースの漏出防止機能を有するシールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて外部に排出することができる。さらに、内部空間23の内圧を高めるために、泥水や塵埃が存在する外輪2の周囲に存在する空気をそのまま取り入れるのではなく、外部空間から閉塞された第1閉塞空間57内の空気を、泥水跳ね掛けの影響の少ない車両の停止時や低速走行時に、空気路52を通じて内部空間23に取り入れる。したがって、本例のハブユニット軸受1aによれば、長期間にわたり内部空間23の内圧変化を抑えることが可能になる。
なお、内部空間23の内圧が上昇した場合には、基本的には、内部空間23の空気は、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bと相手摺接面との間を通じて外部空間に排出されるが、ピストン49が径方向内側に押し戻されることで、空気路52を通じて外部空間に排出される可能性もある。この場合にも、空気路52を通過する空気の量はわずかであるため、グリースが空気路52に目詰まりすることを防止できる。また、空気路52を通過する空気の移動方向は、第1閉塞空間57側を向いているため、空気路52及び内部空間23に泥水などの異物が侵入することもない。
また、ハブユニット軸受1aの温度が低下し、内部空間23の内圧が負圧になりやすい、車両の停止時や低速走行時に、ピストン49に作用する遠心力は押圧ばね50の押圧力よりも小さくなり、ピストン49は径方向内側に押し戻される。これにより、空気路52を通じて内部空間23と外部空間との間を連通し、内部空間23の内圧を大気圧と同じにできるため、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bが相手摺接面に対して貼り付くことを防止できる。したがって、シールトルクの上昇、及び、ハブ3の回転トルクの上昇を防止することができる。また、シールリップ28a〜28c、35、40a、40bの先端縁が早期に摩耗することも防止できるため、外側密封部材5及び内側密封部材6のシール性を長期間にわたり維持することができる。なお、本例のハブユニット軸受1aは、実施の形態の第1例の構造のように、圧縮空気供給源から送られた空気を外側密封部材5及び内側密封部材6から排出することがなく、エアーシール効果は得られないため、パイロット部16までは泥水に浸漬しない条件で使用される車両に好ましく適用することができる。
なお、本例では、キャップ59に形成した通気孔62を利用して、外部空間から空気を吸入したり、外部空間へと空気を排出しているが、後述する実施の形態の第3例の構造のように、外輪の軸方向内端部に、内側密封部材とは別にエンドキャップを設ける場合には、該エンドキャップに通気孔を設けることもできる。また、キャップ59の内面に被膜処理を行い、空気のみを通過させて水分を通過させない、微細な孔を有するフッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン)膜であるゴアテックス(登録商標)の被膜などを形成すれば、キャップ59による密封性能の向上を図れる。また、本例では、ピストンの姿勢の安定化を図るために、中間部に小径軸部を備えたピストンを利用した例を示したが、本例を実施する場合には、このような小径軸部を省略し、ピストンの径方向外端面である先端面を利用して、空気路の開閉を制御することも可能である。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図6を用いて説明する。
本例のハブユニット軸受1bでは、内圧調整装置7bの構造を、実施の形態の第2例の構造から一部変更している。本例の内圧調整装置7bも、実施の形態の第2例の構造と同様に、ハブ3bの回転時に作用する遠心力を利用して内部空間23の内圧を調整するいわゆるポンプ装置であり、実施の形態の第1例で使用した、センサユニット41、圧縮空気供給源77及び制御器78(図1参照)はいずれも使用しない。
本例の内圧調整装置7bは、実施の形態の第2例の構造と同様に、ハブ輪11bの内部に、シリンダ48と、ピストン49aと、付勢手段である押圧ばね50とを備えているとともに、吸気専用の空気路63を備えている。本例のハブユニット軸受1bでは、内部空間23の空気は、外側密封部材5及び内側密封部材6aを通じてのみ外部空間に排出する。なお、本例で使用するピストン49aは、実施の形態の第2例の構造のように小径軸部54(図3参照)を備えておらず、全長にわたり外径が一定である。
空気路63は、内部空間23と外部空間(第2閉塞空間68)との間を連通したり、非連通としたりする孔である。空気路63は、ハブ輪11bの径方向中心部に軸方向に伸長するように形成された直線状の第1空気路64と、第1空気路64の軸方向外端部から径方向外側に向けて伸長した1本又は複数本の第2空気路65と、第1空気路64の軸方向中間部から径方向外側に向けて伸長した複数(シリンダ48と同数)の第3空気路66とを備えている。
第1空気路64の軸方向内側部は、外輪2の軸方向内端部に装着されたエンドキャップ67と内側密封部材6aとにより閉塞された第2閉塞空間68に開口している。第2空気路65の径方向外側部は、ハブ輪11bの外周面に開口している。第3空気路66の径方向外側部は、シリンダ48の径方向内端面である底面に開口している。第1空気路64は、第3空気路66との接続部を挟んで軸方向両側に、第1チェック弁69aと第2チェック弁69bを有している。第1チェック弁69a及び第2チェック弁69bは、第1空気路64を軸方向外側に向けて移動する空気の流通のみを許容する。
エンドキャップ67は、有底円筒状に構成されており、外輪2の軸方向内端部内周面に圧入された嵌合筒部70と、嵌合筒部70の軸方向内側開口を塞ぐ円板状の底板部71と、外向鍔状のフランジ部72とを備えている。フランジ部72は、嵌合筒部70の軸方向内端部から径方向外側に直角に折れ曲がり、その中間部を径方向内側に180度折り返された構成を有している。フランジ部72の径方向内側部は、底板部71の径方向外側部につながっている。また、底板部71の鉛直方向上側部には、切り起こし部73及び挿通孔74が形成されており、底板部71の鉛直方向下側部には、排水孔75が形成されている。切り起こし部73は、底板部71の一部に形成された径方向内側に開口する略U字形の切れ目の内側を、軸方向内側に向けて曲げ起こすことにより形成されている。そして、このようにして切り起こし部73を形成することで、底板部71に、第2閉塞空間68と外部空間とを連通する挿通孔74を形成している。排水孔75は、挿通孔74から侵入した水分などの異物を外部に排出するためのものである。
上述のような内圧調整装置7bを備える本例のハブユニット軸受1bは、車両の走行速度(ハブ3bの回転速度)や内部空間23の内圧に応じて、内部空間23の内圧を以下のように調整する。
先ず、泥水条件が緩やかな車両の停止時又は低速走行時には、内部空間23の内圧が大気圧よりも低いことを条件に、内部空間23を大気に開放する。具体的には、車両の停止時又は低速走行時は、ピストン49aには遠心力が作用しないか、ピストン49aに作用する遠心力は十分に小さくなる。このため、ピストン49aは、押圧ばね50の押圧力によってシリンダ48の径方向内側へと移動させられた状態になる。この状態で、内部空間23の内圧が大気圧よりも低くなると、第1空気路64に備えられた第1チェック弁69a及び第2チェック弁69bが大気圧によっていずれも開く。これにより、空気路63は、内部空間23と外部空間(第2閉塞空間68)との間を連通する。そして、第2閉塞空間68及び空気路63(第1空気路64及び第2空気路65)を通じて、内部空間23内に空気を送り込む。この結果、内部空間23の内圧が、大気圧と同じになるとともに、第1チェック弁69a及び第2チェック弁69bは閉じる。
これに対し、車両の中高速走行時は、ピストン49aには大きな遠心力が作用するため、ピストン49aは押圧ばね50の押圧力に抗してシリンダ48内を径方向外側に大きく移動する。この際、ピストン49aの径方向外端面である先端面が、シリンダ48内の空気を中空セットボルト79aの内側を通じて内部空間23に押し込む。このため、内部空間23の内圧は、ピストン49aの径方向外側への移動によって上昇する。また、車両の走行速度が上昇するほど、内部空間23の温度は上昇するため、この面からも内部空間23の内圧は上昇する。したがって、内部空間23の内圧は、大気圧よりも高くなる。内部空間23の内圧が大気圧よりも高くなると、第2チェック弁69bが閉じ、空気路63は、内部空間23と外部空間(第2閉塞空間68)との間の連通が遮断された状態になる。この結果、内部空間23の内圧を、大気圧よりも高い状態に維持することができる。
一方、ピストン49aの径方向外側への移動により、シリンダ48の径方向内側の空間の内圧が低下するため、第1チェック弁69aが開いて、シリンダ48の径方向内側の空間に、第1空気路64の軸方向内側部分及び第3空気路66を通じて空気が送り込まれる。このようにして、シリンダ48の径方向内側の空間に送り込まれた空気は、車両の走行速度の低下によりピストン49aに作用する遠心力が小さくなった場合などに、シリンダ48の径方向内側の空間の内圧が内部空間23の内圧よりも高いことを条件に、第2チェック弁69bを開き、第2空気路65を通じて内部空間23に送り込まれる。
なお、本例のハブユニット軸受1bの場合にも、内部空間23の開口部は、実施の形態の第1例と同じように、漏れ勝手の形状を有するシールリップ28a〜28c、76a〜76cから構成される外側密封部材5及び内側密封部材6aにより塞いでいる。内側密封部材6aの構造は、実施の形態の第1例及び第2例の構造とは異なるが、内側密封部材6aに備えられたすべてのシールリップ76a〜76cの形状が、先端側に向かうほど内部空間23から遠ざかる方向に伸長した、漏れ勝手の形状を有するものである点は共通している。このため、本例の場合にも、車両の走行速度の上昇や外気温の上昇などを理由として、内部空間23の内圧が上昇した際に、内部空間23の空気をシールリップ28a〜28c、76a〜76cと相手摺接面との間を通じて外部空間に排出することができる。このため、内部空間23の内圧が過度に高くなることを防止できる。
以上のような本例のハブユニット軸受1bの場合にも、泥水条件が緩やかになる車両の停止時又は低速走行時に、ピストン49aに作用する遠心力は押圧ばね50aの押圧力よりも小さくなり、ピストン49aは径方向内側に押し戻される。このため、内部空間23の内圧が大気圧よりも低くなると、空気路63通じて内部空間23と外部空間との間を連通し、内部空間23の内圧を大気圧と同じにできる。また、泥水条件が厳しくなる中高速走行時には、遠心力の作用により径方向外側に移動するピストン49aにより内部空間23の内圧を高めることができるとともに、第2チェック弁69bを利用して内部空間23を密閉することができる。このため、内部空間23の内圧を大気圧よりも高くすることができる。しかも、本例のハブユニット軸受1bでは、このような内圧調整を、実施の形態の第1例の構造のようなセンサユニットや圧縮空気供給源及び制御器を使用せずに実施することができる。
また、内部空間23の内圧が大気圧よりも高くなった場合に、グリースが存在している内部空間23の空気を、グリースの漏出防止機能を有するシールリップ28a〜28c、76a〜76cと相手摺接面との間を通じて外部に排出することができる。さらに、内部空間23の内圧を高めるために、泥水や塵埃が存在する外輪2の周囲に存在する空気をそのまま取り入れるのではなく、外部空間から閉塞された第2閉塞空間68内の空気を、泥水跳ね掛けの影響の少ない車両の停止時や低速走行時に、空気路63を通じて内部空間23に取り入れる。したがって、本例のハブユニット軸受1bによれば、長期間にわたり内部空間23の内圧変化を抑えることが可能になる。
なお、本例では、空気路63を、ハブ3bの軸方向内側に存在する第2閉塞空間68に開口させているが、実施の形態の第2例の構造のように、キャップ59の内側に存在する第1閉塞空間57(図4参照)に開口させることもできる。また、エンドキャップ67の内面に被膜処理を行い、ゴアテックス(登録商標)の被膜などを形成すれば、エンドキャップ67による密封性能の向上を図れる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例及び第2例と同じである。
本発明に使用する外側密封部材及び内側密封部材の構造は、実施の形態の各例に示した構造に限定されず、従来から知られた各種構造を採用することができる。また、実施の形態の各例は、適宜組み合わせて実施することができる。