JP2020118177A - 複列形保持器付き針状ころ - Google Patents
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Abstract
【課題】ピーリングの発生を抑制することで長寿命化を図ることが可能であるとともに生産性を向上させることが可能な複列形保持器付き針状ころを提供すること。【解決手段】複列形保持器付き針状ころの複列形保持器(3)は、溶接保持器である。第1環状部(30)および第2環状部(31)は、同一軸線上に位置して隣接する1つの第1ポケット部(34)および1つの第2ポケット部(36)に面する位置に溶接部(37a,37b)を有する。中鍔部(32)のうち、溶接部(37a,37b)と面する第1ポケット部(34)および第2ポケット部(36)と周方向位置が重なる部分に第1隙間(38)が設けられている。【選択図】図3
Description
本発明は、複列形保持器付き針状ころに関する。
従来から、保持器付き針状ころの構造として、たとえば特許文献1(特開2015−102106号公報)および特許文献2(実開昭52−149954号公報)のような複列形保持器付き針状ころが知られている。複列形保持器付き針状ころは、軸方向両側の一対の端部鍔部と、一対の端部鍔部の中央に位置する中鍔部と、端部鍔部と中鍔部とをつなぐ一対の柱部とを備え、柱部間に形成され、複列に設けられるポケット部に針状ころを収容している。
一方で、針状ころの保持器の製造方法として、たとえば特許文献3(特開2007−16828号公報)のように、薄板を折り曲げて円筒状に溶接する方法が開示されている。特許文献3に記載の保持器は、ポケットが打ち抜かれて切断された板状部材の両端面を溶接により接合して円環状にすることで製造されている。
一般的に、保持器付き針状ころを遊星歯車機構のピニオン軸に用いることが知られている。ピニオン軸に潤滑油供給穴が存在しない場合、潤滑油は保持器付き針状ころの両端部を支持するキャリアとワッシャの軸方向の隙間から軸受に供給される。遊星歯車機構の運転中、この隙間は、ギヤからのモーメント荷重や各部品の精度によって、軸方向の一方側に片寄ってしまう。この場合、潤滑油は、保持器付き針状ころの一方端側からしか供給されない。
特許文献1,2の複列形の保持器付き針状ころを遊星歯車機構のピニオン軸に用いると、遊星歯車機構の運転中、一方端側のポケット部では潤滑油が供給されやすいが、他方端側のポケット部では潤滑油が供給されにくく、潤滑不足によりピーリングが発生するおそれがある。
一方、特許文献3の製造方法を用いて複列の保持器付き針状ころを製造すると、軸方向両側の一対の端部軸部と、一対の端部鍔部の中央に位置する中鍔部との3ケ所で位置合わせして溶接する必要があるため、生産性が悪い。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、ピーリングの発生を抑制することで長寿命化を図ることが可能であるとともに生産性を向上させることが可能な複列形保持器付き針状ころを提供することを目的とする。
本発明の一態様に係る複列形保持器付き針状ころは、複列に配置した複数の針状ころと、針状ころを保持する複列形保持器とからなる。複列形保持器は、軸方向一方端に位置する環状の第1環状部と、軸方向他方端に位置する環状の第2環状部と、第1環状部と第2環状部との間に位置する環状の中鍔部と、軸方向に延びて第1環状部と前記中鍔部とを連結する複数の第1柱部と、軸方向に延びて第2環状部と前記中鍔部とを連結する複数の第2柱部と、隣り合う第1柱部の間に形成されて針状ころを収容する複数の第1ポケット部と、隣り合う第2柱部の間に形成されて針状ころを収容する複数の第2ポケット部と、を備えている。複列形保持器は、溶接保持器である。第1環状部および第2環状部はそれぞれ、同一軸線上で隣接する1つの第1ポケット部および1つの第2ポケット部に面する位置に溶接部を有し、中鍔部のうち、溶接部と面する第1ポケット部および第2ポケット部と周方向位置が重なる部分に第1隙間が設けられている。
好ましくは、中鍔部は、第1隙間を除いて、周方向に隙間なく連なって延びている。
好ましくは、中鍔部のうち、前記溶接部と面していない前記第1ポケット部および前記第2ポケット部と周方向位置が重なる部分に第2隙間が更に設けられている。
好ましくは、第1隙間は、第1環状部側または第2環状部側から供給される潤滑油を案内する通路である。
本発明によれば、ピーリングの発生を抑制することで長寿命化を図ることが可能であるとともに生産性を向上させることが可能な複列形保持器付き針状ころを提供することができる。
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
(遊星歯車支持構造の概要)
はじめに、図1を参照して、本実施の形態に係る複列形保持器付き針状ころ1が用いられる遊星歯車機構(プラネタリヤギア)100の概要について説明する。
はじめに、図1を参照して、本実施の形態に係る複列形保持器付き針状ころ1が用いられる遊星歯車機構(プラネタリヤギア)100の概要について説明する。
遊星歯車機構100は、たとえば、自動車のトランスミッションなどに用いられ、その遊星歯車機構100におけるピニオンギア(遊星歯車)103を回転可能に支持するために、複列形保持器付きの複列形保持器付き針状ころ1が使用されている。すなわち、本実施の形態に係る複列形保持器付き針状ころ1は、自動車用保持器付きころである。なお、以下の説明において、複列形保持器付き針状ころ1を、単に保持器付き針状ころという。
遊星歯車機構100は、内歯を有し外周を取り囲むリングギア(内歯歯車)101と、外歯を有しリングギア101の中心に配置されるサンギア(太陽歯車)102と、外歯を有しリングギア101とサンギア102の間に配置される複数のピニオンギア(遊星歯車)103とを備える。ピニオンギア103は、リングギア101およびサンギア102と噛合し、係合穴に設置されるピニオン軸105に保持器付き針状ころ1によって回転可能に支持される。各々のピニオン軸105は、キャリア104に設けられ(連結され)、キャリア104からピニオンギア103の公転に相当する回転が入出力される。キャリア104とピニオンギア103との間には、ワッシャ106が配置されている。
図1(B)を特に参照して、各ピニオンギア103は、本実施の形態に係る保持器付き針状ころ1を介して、ピニオン軸105上に回転自在に支持されている。つまり、保持器付き針状ころ1は、ピニオンギア103およびピニオン軸105を回転可能に支持するものであり、遊星歯車機構100は、ピニオンギア103と、ピニオン軸105と、保持器付き針状ころ1とを備える。具体的には、保持器付き針状ころ1は、複列に配置した複数の針状ころ2,4と保持器3とで構成され、ピニオン軸105の外周面を内側軌道面とし、ピニオンギア103の内周面を外側軌道面としている。本実施の形態の保持器3は、外輪案内で用いられている。
本実施の形態では、ピニオン軸105に潤滑油供給穴が存在せず、ピニオンギア103とワッシャ106の軸方向の隙間から供給された潤滑油をピニオン軸105の外周面に導くことにより、針状ころ2,4および保持器3の潤滑を行っている。潤滑油の潤滑経路の詳細については、後述する。
なお、多段化の進む自動車のトランスミッションに遊星歯車機構100が使用された場合、自動車の更なる燃費向上のために保持器付き針状ころ1へと供給される潤滑油量が少量化したり、低粘度の潤滑油が供給されることがある。潤滑油の動粘度は、たとえば、100℃で2センチストークス(cSt)〜8センチストークス(cSt)である。
(保持器)
次に、図2,図3を参照して、本実施の形態における保持器3について説明する。なお、以下の説明では、保持器3の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に対して直交する方向を「径方向」、中心軸周りの円周方向を「周方向」と呼ぶ。
次に、図2,図3を参照して、本実施の形態における保持器3について説明する。なお、以下の説明では、保持器3の中心軸に沿った方向を「軸方向」、中心軸に対して直交する方向を「径方向」、中心軸周りの円周方向を「周方向」と呼ぶ。
本実施の形態の保持器3は、複列に配置した複数の針状ころ2,4(図1(B))を保持する複列形保持器であり、板状部材を円環状に折り曲げて両端部を溶接した溶接保持器である。溶接保持器3の製造方法については、後述する。
本実施の形態の溶接保持器3は、複列に配置した複数の針状ころ2,4(図1(B))を保持する。複列とは、複数のポケットが軸方向に並んで配置されることをいう。具体的には、溶接保持器3は、軸方向一方端に位置する環状の第1環状部30と、軸方向他方端に位置する環状の第2環状部31と、第1環状部30と第2環状部31との間に位置する環状の中鍔部32と、軸方向に延びて第1環状部30と中鍔部32とを連結する複数の第1柱部33と、軸方向に延びて第2環状部31と中鍔部32とを連結する複数の第2柱部35とを備える。
周方向に隣り合う第1柱部33の間には、針状ころ2(図1(B))を収容するための第1ポケット部34が複数設けられている。同様に、周方向に隣り合う第2柱部35の間には、針状ころ4(図1(B))を収容するための第2ポケット部36が複数設けられている。針状ころ2,4の形状は、略同一である。各第1ポケット部34および各第2ポケット部36は、同一軸線上に位置し、周方向に間隔をあけて複数設けられる。同一軸線上とは、第1ポケット部34と第2ポケット部36とが、厳密に同一軸線上にある場合だけでなく、溶接保持器3の機能を阻害しない程度に、軸線がずれたり傾いたりしている場合も含む。以下、第1柱部33および第2柱部35、第1環状部30および第2環状部31に設けられる溶接部37a,37bについても同様である。
第1環状部30および第2環状部31は、略同一形状であり、第1,2柱部33,35および中鍔部32を挟んで、軸方向に対向して設けられる。第1環状部30および第2環状部31それぞれには、同一軸線上に位置して隣接する1つの第1ポケット部34および1つの第2ポケット部36と面する(対応する)位置に溶接部37a,37bが設けられている。本実施の形態の溶接保持器3は、板状部材を円環状に折り曲げて両端部を溶接したものであるため、溶接部37a,37bは、板状部材の両端部を溶接によって接合した溶接痕である。第1,2環状部30,31の溶接部37a,37bは、同一軸線上に設けられることが好ましいが、第1,2環状部30,31の第1,2ポケット部34,36と面する位置に設けられていればよい。
第1環状部30および第2環状部31の軸方向中央部には、中鍔部32が設けられている。第1環状部30および第2環状部31の軸方向中央部は、第1環状部30の軸方向外端縁と第2環状部31の軸方向外端縁とを結んだ線の全長のうち中央部に位置する部分である。中鍔部32は、第1柱部33と第2柱部35とを軸方向に連結する役割を果たす。中鍔部32の外径は、第1,2環状部30,31の外径と略同一である。
本実施の形態では、中鍔部32は、2つの溶接部37a,37bを結ぶ軸線と交差する位置に第1隙間38が設けられている。具体的には、第1隙間38は、溶接部37a,37bを通る直線上に位置する部分に設けられている。中鍔部32のうち、溶接部37a,37bと面する第1ポケット部34および第2ポケット部36と周方向位置が重なる部分に第1隙間38が設けられている。言い換えると、第1隙間38は、中鍔部32のうち溶接部37a,37bと周方向位置が重なる部分に設けられている。
中鍔部32は、第1隙間38を除いて、円周状に隙間なく連なって延びている。第1隙間38は、第1環状部30側または第2環状部31側から供給される潤滑油を案内する通路である。中鍔部32に第1隙間38が設けられることにより、第2環状部31側から供給された潤滑油を第1環状部30側に送り出すことができ、同様に、第1環状部30側から供給された潤滑油を第2環状部31側に送り出すことができる。潤滑油の潤滑経路については、後述する。なお、本実施の形態では、第1環状部30を図3の紙面上の左側に設け、第2環状部31を図3の紙面上の右側に設けているが、この方向に限定されない。
本実施の形態の第1柱部33と第2柱部35は、中鍔部32を介して接続されており、同一軸線上に位置している。また、複数の第1柱部33は、周方向に整列している。同様に、複数の第2柱部35は、周方向に整列している。第1,2柱部33,35は、略同一形状であり、その軸方向中央部領域で相対的に径方向内側に位置する柱中央部と、軸方向端部領域で相対的に径方向外側に位置する一対の柱端部と、柱中央部および一対の柱端部それぞれの間に位置する一対の柱傾斜部とを含む。
次に、図4を参照して、保持器付き針状ころ1を遊星歯車機構100Aに用いた場合の保持器付き針状ころ1の動作について説明する。図4(A)は従来の保持器付き針状ころ110を用いた断面図であり、(B)は本実施の形態に係る保持器付き針状ころ1を用いた断面図である。従来の保持器付き針状ころ110は、本実施の形態の保持器付き針状ころ1に設けられる第1隙間38が設けられていないものである。
従来の保持器付き針状ころ110は、ワッシャ106と保持器付き針状ころ110との間に隙間(遊び)が設けられている。図4(A)に示すように、遊星歯車機構100Aのピニオンギア103が動作すると、保持器付き針状ころ110は一方側のワッシャ106に片寄った状態で回転する。第2環状部31とワッシャ106との間に、たとえば図4(A)の紙面上の右側に隙間が形成される場合、潤滑油は、図4(A)の矢印F1に示すように、その隙間から供給される。図4(A)の矢印F1から供給された潤滑油は、矢印F2に示すように、第2柱部135および針状ころ4に供給され、第2柱部135および針状ころ4を潤滑する。しかし、隙間が形成されない方(図4(A)の紙面上の左側)からは潤滑油が供給されにくいため、第1柱部133および針状ころ2側には供給されにくく、第1柱部133および針状ころ4にピーリングが発生するおそれがある。
本実施の形態の保持器付き針状ころ1は、従来の保持器付き針状ころ110と同様に、ワッシャ106と保持器付き針状ころ1との間に隙間(遊び)が設けられている。従来の保持器付き針状ころ110の場合と同様に、保持器付き針状ころ1は、たとえば図4(B)の紙面上の左側に片寄った状態で回転する。第2環状部31とワッシャ106との間に、たとえば図4(B)の紙面上の右側だけに隙間が形成される場合であっても、潤滑油は、図4(B)の矢印F1に示すように、紙面上の右側の隙間から供給され、矢印F2に示すように、第2柱部35および針状ころ4に供給され、第2柱部35および針状ころ4を潤滑する。さらに、中鍔部32には、第2環状部31側から第1環状部30側に潤滑油を案内する第1隙間38が形成されている。そのため、潤滑油は、矢印F3に示すように、中鍔部32に設けられる第1隙間38を通過して、第1柱部33および針状ころ4に供給され、第1柱部33および針状ころ2を潤滑する。
また、図4に示す従来の複列形保持器付き針状ころ110および本実施の形態の複列形保持器付き針状ころ1において、潤滑油が、第2ポケット136,36ところ4との隙間を介して、第2ポケット136,36と第1ポケット134,34との間に到達したとき、保持器付き針状ころ110では、周方向全体が連続している中鍔部132が設けられているため、図4(A)の矢印F4に示すように、潤滑油が第1ポケット部134ところ2の間、および、第2ポケット部136ところ4の間という狭い空間に供給されるに止まり、第1,2柱部133,135の潤滑性を向上させることができない。
一方で、本実施の形態の保持器付き針状ころ1では、図4(B)の矢印F5に示すように、第1ポケット部34と第2ポケット部36との間の潤滑油は、遠心力により、径方向に移動して第1隙間38に到達し、矢印F3に示すように第2ポケット34に供給され、矢印F2に示すように第1ポケット36に供給される。このように、本実施の形態の保持器付き針状ころ1は、軸方向だけでなく、径方向からの潤滑油の通油性を向上させることができる。
これにより、保持器付き針状ころ1がワッシャ106に片寄った状態で回転した場合でも、軸方向に配置した第1,2柱部33,35および針状ころ2,4のいずれにも潤滑油を流すことができるため、ピーリングの発生を抑制することで長寿命化を図ることができる。
また、本実施の形態によれば、第1柱部33および第2柱部35のいずれにも潤滑油を供給し易くなり保持器付き針状ころ1の長寿命化を図ることができるため、省燃費化に伴い、潤滑油の少量化または低粘度化によって軸受の潤滑環境が厳しくなっている用途(たとえば、自動車の変速機における遊星歯車支持構造)に適用した場合の効果は大きい。
なお、保持器付き針状ころ1を遊星歯車機構100に用いた場合の保持器付き針状ころ1の動作の説明で、保持器付き針状ころ1が図4の紙面上左側に片寄り、右側に隙間が形成された場合を例示的に説明したが、保持器付き針状ころ1が図4の紙面上右側に片寄り、左側に隙間が形成される場合もあり得る。
(保持器の変形例)
図5を参照して、保持器3Aの変形例について説明する。保持器3Aは、上述した保持器3と基本的には同様の構成を備えているが、中鍔部32Aの形状において主に異なっている。そのため、上述した保持器3と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を繰り返さない。
図5を参照して、保持器3Aの変形例について説明する。保持器3Aは、上述した保持器3と基本的には同様の構成を備えているが、中鍔部32Aの形状において主に異なっている。そのため、上述した保持器3と同様の構成については、同一の符号を付してその説明を繰り返さない。
本実施の形態の保持器3Aでは、中鍔部32Aのうち溶接部37a,37bと面していない第1ポケット部34および第2ポケット部36と周方向位置が重なる部分に第2隙間39Aが更に設けられている。これにより、軸方向に隣り合う第1ポケット部34と第2ポケット部36とは、すべて連通する。換言すると、中鍔部32Aは、第1隙間38および複数の第2隙間39Aが形成されることにより、各第1,2ポケット部34,36毎に分断される。
第1隙間38および複数の第2隙間39Aで第1,2ポケット部34,36と対面するすべての中鍔部32を分断することにより、軸方向に隣り合う第1ポケット部34と第2ポケット部36との潤滑油の連通を効率よく行うことができる。また、第2隙間39Aは、一部の第1,2ポケット部34,36に面する中鍔部32Aに設けられてもよい。第2隙間39Aを部分的に設けることにより、保持器3の強度を高くすることができる。
(保持器の製造方法)
図6は、保持器を製造する工程を示すフローチャートである。図7は、図6に示された工程のうち、代表的な工程を表す概略図である。図6および図7を参照して、保持器の製造方法について説明する。なお、図7では、図5で示した保持器3Aを図示している。
図6は、保持器を製造する工程を示すフローチャートである。図7は、図6に示された工程のうち、代表的な工程を表す概略図である。図6および図7を参照して、保持器の製造方法について説明する。なお、図7では、図5で示した保持器3Aを図示している。
まず、保持器の材料となる板状部材を準備し、断面形状がV字状となるように成型するプレス工程を行う。ここで、V字状とは、ポケットが打ち抜かれた帯状の鋼板の中央部と環状部とが円筒状に折り曲げられたときに、径方向に段差が設けられるように押し曲げることをいう。したがって、プレス工程によって、柱部の中央部は、環状部よりも径方向の内側に凹んだ形状となる。その後、針状ころを保持するポケットを形成するためのポケット抜き加工(図7(A))を行う。ポケット抜き工程は、打ち抜き刃を有するポンチで、帯状に鋼板に対して、ポケット形状に刃先を押し当てて打ち抜くことにより行う。これにより、帯状の鋼板の横幅方向に複列(2つ)のポケットが形成される。
保持器の円周長さとなるように、帯状の鋼板を切断する切断工程を行う。次に、切断された帯状の鋼板を、外輪の内径面に沿うような円筒状に折り曲げる曲げ工程(図7(B))を行う。その後、両端面を溶接して接合する接合工程(図7(C))を行う。具体的には、第1環状部30と第2環状部31となるべき帯状の鋼板の両端部を位置合わせして接合する。この工程により、第1環状部30および第2環状部31に溶接部37a,37bが形成される。さらに、たとえば軟窒化処理や浸炭焼入処理等の熱処理工程を行って、保持器が製造される。
このようにして製造された保持器のポケットに、複数の針状ころを組み込んで保持器付き針状ころを製造する。
従来の複列形の保持器を溶接して製造する場合、軸方向両端の環状部と中鍔部の3箇所で位置合わせして溶接しなければならないため、生産性が悪かった。本実施の形態の保持器付き針状ころ1は、溶接部37a,37bと中鍔部32の第1隙間38が同一軸線上に設けられているため、図7(B)の曲げ工程および図7(C)の接合工程で示すように、中鍔部32の位置合わせをする必要はなく、第1環状部30と第2環状部31を位置合わせして溶接すれば足りるため、生産性を向上させることができる。
このように、本実施の形態の保持器付き針状ころ1は、第1,2環状部30,31上の溶接部37a,37bと軸方向に面する位置に、第1ポケット部34と第2ポケット部36を連通する第1隙間38が中鍔部32に設けられるため、ピーリングの発生を抑制することで長寿命化を図ることが可能であるとともに、生産性を向上させることが可能となる。
なお、上記実施の形態において、保持器付き針状ころ1は、軌道輪を備えないとして説明したが、軌道輪を備える構成としてもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
1 複列形保持器付き針状ころ、2,4 ころ、3,3A 複列形保持器(溶接保持器)、30 第1環状部、31 第2環状部、32,32A 中鍔部、33 第1柱部、34 第1ポケット部、35 第2柱部、36 第2ポケット部、37a,37b 溶接部、38 第1隙間、39A 第2隙間。
Claims (4)
- 複列に配置した複数の針状ころと、前記針状ころを保持する複列形保持器とからなる複列形保持器付き針状ころにおいて、
前記複列形保持器は、軸方向一方端に位置する環状の第1環状部と、軸方向他方端に位置する環状の第2環状部と、前記第1環状部と前記第2環状部との間に位置する環状の中鍔部と、軸方向に延びて前記第1環状部と前記中鍔部とを連結する複数の第1柱部と、軸方向に延びて前記第2環状部と前記中鍔部とを連結する複数の第2柱部と、隣り合う前記第1柱部の間に形成されて前記針状ころを収容する複数の第1ポケット部と、隣り合う前記第2柱部の間に形成されて前記針状ころを収容する複数の第2ポケット部と、を備え、
前記複列形保持器は、溶接保持器であり、
前記第1環状部および前記第2環状部はそれぞれ、同一軸線上で隣接する1つの第1ポケット部および1つの第2ポケット部に面する位置に溶接部を有し、
前記中鍔部のうち、前記溶接部と面する前記第1ポケット部および前記第2ポケット部と周方向位置が重なる部分に第1隙間が設けられている、複列形保持器付き針状ころ。 - 前記中鍔部は、前記第1隙間を除いて、周方向に隙間なく連なって延びている、請求項1に記載の複列形保持器付き針状ころ。
- 前記中鍔部はのうち、前記溶接部と面していない前記第1ポケット部および前記第2ポケット部と周方向位置が重なる部分に第2隙間が更に設けられている、請求項1に記載の複列形保持器付き針状ころ。
- 前記第1隙間は、前記第1環状部側または前記第2環状部側から供給される潤滑油を案内する通路である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複列形保持器付き針状ころ。
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