ここで、図1乃至図7を参照して、本発明の実施の形態の2次元光走査ミラー装置の一例を説明する。本発明は、本発明者が鋭意研究の結果、従来のように磁性体としてバルク磁性体ではなく磁性薄膜を用いることにより、ミラー可動部の構造を単純化し、且つ、小型化することが可能であるとの結論に至ったものである。磁性薄膜を用いることによりミラー可動部が軽量化され、駆動するための磁場を小さくすることが可能になる。また、磁性薄膜を用いる場合の保磁力の減少を補うために、保磁力が所定の値以上の硬質磁性薄膜、特に、その保磁力に対する少なくとも交流磁場発生装置を含む磁場発生装置30が発生する磁場の比が0.2以下となる硬質磁性薄膜、即ち、保磁力の大きさが磁場発生装置30が発生する磁場の5(=1/0.2)以上である硬質磁性薄膜を用いることにより上述の課題を解決するものである。
図1は、本発明の実施の形態の2次元光走査ミラー装置の概略的斜視図であり、可動ミラー部10と、可動ミラー部10を駆動する交流磁場発生装置を少なくとも含む磁場発生装置30を備えている。可動ミラー部10は、反射部20と、反射部20を第1の光走査回転軸となる一対の第1のヒンジ11で支持する回転外枠12と、回転外枠12を第1のヒンジ11と直交する方向に設けた第2の光走査回転軸となる一対の第2のヒンジ13で支持する非回転外枠14とを有している。第1のヒンジ11及び第2のヒンジ13は、高速回転が反射部20の固有回転周波数になるように決定する必要がある。この固有回転周波数は、反射部20の形状、質量、回転部のバネ定数等で決まり、第1のヒンジ11及び第2のヒンジ13の厚さは、概ね2μm〜50μmであり、代表的な厚さは10μmである。
図2は、反射部の構成例の説明図であり、図2(a)は上面図であり、図2(b)は図2(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部20は、基板21と基板21上に設けられた硬質磁性薄膜22を有している。硬質磁性薄膜22とは、保磁力が大きく、減磁曲線の張り出しの大きいもので、永久磁石になるものを言い、ここでは保磁力が10kA/m以上のものと定義するが、本発明では磁場発生装置30が発生する磁場の5倍以上であれば良く、例えば、100kA/m以上の保磁力を有する硬質磁性薄膜が好ましい。以降においては、本発明の硬質磁性薄膜の有する保持力の好ましい例として、「100kA/m以上」を用いて説明する。
可動ミラー部10を繰り返し作動させていると、高速回転方向に作用する磁場力は駆動用外部磁場と頻繁に相互作用するため、徐々に小さくなる。一方、低速回転方向に掛かる磁場力はそれほど劣化しない。このため、磁場方向が高速回転方向に対して45°より徐々に小さくなりミラーとして特性が劣化するが、保磁力が100kA/m以上であれば、通常の使用状況ではミラー特性の劣化を抑制することができる。したがって、2次元動作の場合には、100kA/m以上の保磁力が好ましい。ここで、保磁力に対する交流磁場発生装置を少なくとも含む磁場発生装置30が発生する磁場の比を0.2以下とすることによって、可動ミラー部10を繰り返し作動させても、2次元走査に必要な保磁力と交流磁場の差が十分大きくなるので、ミラー特性は殆ど劣化することはない。実験においては磁場発生装置30として交流磁場発生装置のみを用いており、ミラー駆動用の交流電流のみを流した場合に交流磁場発生装置としてのソレノイド・コイルが発生する磁場は2kA/m〜20kA/m(25Gauss〜250Gauss相当)であり、2次元走査に必要な保磁力に対する交流磁場発生装置が発生する磁場の比は0.2以下となる。
また、角形比が、1に近いほど永久磁石として特性が良い。後述するように、実測したデータからは、角形比=残留磁束密度Br/最大磁束密度Bm≒0.82であるので、この値から類推すると角形比は0.7以上であることが望ましい。
また、このような硬質磁性薄膜22は、一般に光反射率が高いので、硬質磁性薄膜22自体を反射ミラー用いることによって、硬質磁性薄膜22以外の構造物を可動ミラー部10に余分に設置する必要がなく、可動ミラー部10可動部分の構成が単純化され、小型化が可能になる。また、硬質磁性薄膜22は、図1における反射部20のみに設ける必要はなく、回転外枠12及び非回転外枠14にも形成しても良い。回転外枠12に硬質磁性薄膜22を形成すると、低速走査軸の周りの回転は、磁場による全体の力がより大きくなり、容易に回転しやすくなる。
この硬質磁性薄膜22は、膜平面方向に磁化する必要があり、特に、硬質磁性薄膜の磁化の方向を、可動ミラー部10の第1の光走査回転軸となる第1のヒンジ11に対して45°±30°内の範囲の角度とすることが望ましい。この角度の範囲内であれば、2軸回転走査が可能になる。なお、ここでは、反射部20の形状を円形としているが、楕円形でも正方形でも長方形でも或いは他の多角形でも良い。
図3は、反射部の他の構成例の説明図であり、図3(a)は上面図であり、図3(b)は図3(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部20は、基板21と基板21上に設けられた硬質磁性薄膜22と、硬質磁性薄膜22の上に設けられた反射ミラーとなる反射膜23を有しており、より高い光反射率が要求される場合に有用となる。この場合も反射膜23を設けるだけで、可動ミラー部10の構造を複雑にすることなく、小型化が可能になる。
図4は、反射部のさらに他の構成例の説明図であり、図4(a)は上面図であり、図4(b)は図4(a)におけるA−A′を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部20は、基板21と基板21の一方の面上に設けられた硬質磁性薄膜22と、基板21の他方の面に設けられた反射膜23を有している。この場合も、より高い光反射率が要求される場合に有用となり、反射膜23を設けるだけで、可動ミラー部10の構造を複雑にすることなく、小型化が可能になる。
交流磁場発生装置としては、ソレノイド・コイルが典型的なものであるが、軟鉄からなる鉄心にコイルを巻き付けたものでも良い。ソレノイド・コイルは、小型で且つ高磁場を発生するものが望ましいが、そのサイズ等に制限はない。例えば、今回の実施に際しては、外径が5mm、高さが3mmで、導線の巻き数は800ターンのソレノイド・コイル及び外径が2.46mm、内径が1.21mm、高さが1.99mmで、導線の巻き数は600ターンのソレノイド・コイルを作製した。なお、交流磁場発生装置はソレノイド・コイルに限られるものではなく、可動ミラー部10を回転させるのに十分な磁場が発生できれば良く、例えば、平面上の渦巻き形状に形成した平面スパイラル・コイルでも良い。
なお、可動ミラー部10全体の構成としては、回転外枠12及び非回転外枠14を反射ミラーを兼ねる金属ガラスで形成しても良いし、或いは、SiO2膜等の非磁性誘電体膜で形成しても良い。この場合は、少なくとも非回転外枠14の下部に基板21が存在している。基板21としては、単結晶シリコン基板が典型的なものであるが、ガラス基板や石英基板を用いても良い。
硬質磁性薄膜22としては、貴金属系磁性膜、特に、FeとPtを主成分とする磁性材料、CoとPtを主成分とする磁性材料、或いは、FeとPdを主成分とする磁性材料のいずれかが望ましい。硬質磁性薄膜22は、厚さに制限はなく厚い方が発生するトータルの磁束量の大きさが大きくなるので、交流磁場発生装置に流す電流をより小さくすることができる。この硬質磁性薄膜22の厚さは、10nmから基板21と同じ厚さ程度である。この場合、硬質磁性薄膜22は、SiO2膜等の非磁性絶縁膜を介して2層構造或いは3層構造等の多層構造としても良く、各層の膜厚は同じでも異なった膜厚でも良く、また、各層の組成は同じでも或いは異なった組成でも良い。成膜方法は、目的の膜が得られれば良く、特に限定されないが、蒸着法、スパッタリング法、メッキ法、塗布法などを挙げることができる。
反射膜23としては、ZrCuAlNi等の金属ガラスやFeベース金属ガラス、或いは、Al膜やAu膜、または、誘電体多層膜でも良く、光を反射するものであれば、その種類を問わない。また、反射膜23の上面、反射膜23と硬質磁性薄膜22との間、硬質磁性薄膜22と基板21との間、及び基板21の底面に、例えば、保護膜としてSiO2膜を形成しても良い。
なお、可動ミラー部10を反射ミラーに入射する光ビームを発生する光源と同一基板に集積する場合には、交流磁場発生装置に光走査信号を印加しない状態で可動ミラー部10の反射面を基板21の主面に対して、即ち、入射する光ビームに対して45°±30°内の範囲で傾ける。このように、可動ミラー部10を傾ける方法としては、光ビームに対して機械的な外部の力で反射部20及び回転外枠12を所定の角度、例えば、45°傾けて置き、第2のヒンジ13に絞り込んだレーザビームを照射して第2のヒンジ13を局所的に加熱して反射部20及び回転外枠12を45°傾けた状態のままとする方法がある。
別の方法としては、磁気的に可動ミラー部10を傾けても良い。図5は、磁気的に可動ミラー部10を傾ける方法の説明図である。図5(a)は直流バイアスにより可動ミラー部を傾ける場合の説明図である。交流磁場発生装置31に定常的に直流バイアス電流を流すことによって、反射部20の磁化のN極と直流バイアス電流によって発生する交流磁場発生装置31のN極との反応により光ビームに対して45°傾けることができる。その結果、この直流電流に加え、交流の信号を流すことによって、傾いた45°を中心に反射部20を回転させることができる。なお、この場合には、硬質磁性薄膜22の保磁力を、直流バイアス電流により発生する磁場と交流電流により発生する磁場との合成磁場の5倍以上になるように設定する。
図5(b)は、永久磁石により傾ける場合の説明図である。永久磁石32を可動ミラー部10の下に配置することにより、可動ミラー部10を傾けることができる。この場合には、硬質磁性薄膜22の保磁力を、永久磁石32が発生する磁場と交流磁場発生装置31が発生する磁場との合成磁場の5倍以上になるように設定する。なお、図5(a)の場合を含めて、可動ミラー部として図4に示した構成を採用して、逆方向に45°傾けて光ビームを基板21の板側に反射することも可能である。この場合には、硬質磁性薄膜22自体を反射膜として用いて、金属ガラス膜等からなる反射膜23をヒンジを構成する部材として用いれば良い。
また、交流磁場発生装置31の中心軸を、反射部20の中心部から、光ビームの光軸方向に沿って所定間隔dだけずらすことによって、交流磁場発生装置31の中心軸と反射部20の中心部が一致する場合に比べて、直流電流の強度を5割低減することが可能になる。例えば、d=1mmずらすことによって、交流磁場発生装置31の中心軸と反射部20の中心部が一致する場合に比べて、直流電流の強度を5割低減することが可能になる。
上述の2次元光り走査ミラー装置を作製するためには、基板21上に硬質磁性薄膜22を成膜したのち、硬質磁性薄膜22を磁場中で着磁し、着磁した硬質磁性薄膜22を加工して可動ミラー部10を形成すれば良い。この場合、可動ミラー部20を形成したのち、硬質磁性薄膜22を可動ミラー部20の光走査回転軸に対して45°±30°内の範囲の角度の磁化方向が得られるように着磁することが望ましい。
なお、堆積したままの状態の硬質磁性薄膜は、保磁力が小さいので着磁工程の前にアニールすることが望ましい。アニール温度範囲は、200℃〜1100℃の間で最適化すれば良い。また、着磁工程は、ミラー構造を形成する前に行うことが望ましい。回転外枠12及び反射部20は夫々第2ヒンジ13及び第1のヒンジ11のみで支持しているため、着磁の際に必要な大きな磁場を印加すると機械的なストレスが発生してミラー構造を破損してしまう。
なお、硬質磁性薄膜22の着磁方向を容易に制御するために、硬質磁性薄膜の下に下地層として配向制御膜を設けても良い。或いは、配向制御膜を設けない場合には、下地となるSiO2膜等に溝また凹凸をつけるテクスチャ加工を行っても良い。
2次元光走査装置を形成するためには、上述の2次元光走査ミラー装置に対して、基板21上に光源を設ければ良い。或いは、実装基板上に上述の2次元光走査ミラー装置をマウントするとともに、光源を2次元光走査ミラー装置に対してレーザ光を照射する位置にマウントするようにしても良い。前記この場合の光源としては、赤色レーザと、緑色レーザと、青色レーザと、赤色レーザ、緑色レーザ及び青色レーザの出力光を合波する光合波器を有する光源が望ましい。或いは、光源として、さらに黄色レーザを加えると白色を鮮やかに再現することができる。さらには、赤外線レーザを単独で、或いは、上記の多色可視レーザに加えても良い。
図6は、本発明の実施の形態による2次元光走査装置の一例の概略的斜視図であり、可動ミラー部10を形成したに基板21に光合波器41を設け、この光合波器41に赤色レーザ42、緑色レーザ43及び青色レーザ44を結合させれば良い。可動ミラー部10が小型化されているので、光ビームを発生する光源と一体化した場合にも、一体化後の全体のサイズも小さくできる。特に、光ビームが半導体レーザや光合波器から出射する光源の場合、それらの半導体レーザや光合波器は、Si基板や金属プレート基板の上に形成すれば良いので、これら基板上に光源と2次元光走査ミラー装置を形成することによって、一体化後の全体のサイズも小さくできる効果がある。
画像投影装置を形成するためには、上述の2次元走査装置と、磁場発生装置30に2次元光走査信号を印加して光源から出射された出射光を2次元的に走査する2次元走査制御部と、走査された出射光を被投影面に投影する画像形成部とを組み合わせれば良い。なお、画像投影装置としては、眼鏡型網膜走査ディスプレイ(例えば、特許文献4参照)が典型的なものである。
図7は、本発明の実施の形態による画像投影装置の概略的構成図であり、画像投影装置としては、眼鏡型網膜走査ディスプレイ(例えば、特許文献4参照)が典型的なものである。本発明の実施の形態による画像投影装置は、例えば、メガネ型の装着具などを用いて使用者の頭部に装着される(例えば、特許文献5参照)。
制御ユニット50は、制御部51、操作部52、外部インターフェース(I/F)53、Rレーザドライバ54、Gレーザドライバ55、Bレーザドライバ56及び2次元走査ドライバ57を有している。制御部51は、例えば、CPU、ROM、RAMを含むマイコンなどで構成される。制御部51は、PCなどの外部機器から外部I/F53を介して供給される画像データに基づいて、画像を合成するための要素となるR信号、G信号、B信号、水平信号及び垂直信号を発生する。制御部51は、R信号をRレーザドライバ54に、G信号をGレーザドライバ55に、B信号をBレーザドライバ56に、それぞれ送信する。また、制御部51は、水平信号及び垂直信号を2次元走査ドライバ57に送信し、磁場発生装置30に印加する電流を制御して可動ミラー部10の動作を制御する。
Rレーザドライバ54は、制御部51からのR信号に応じた光量の赤色レーザ光を発生させるように赤色レーザ42を駆動する。Gレーザドライバ55は、制御部51からのG信号に応じた光量の緑色レーザ光を発生させるように、緑色レーザ43を駆動する。Bレーザドライバ56は、制御部51からのB信号に応じた光量の青色レーザ光を発生させるように、青色レーザ44を駆動する。各色のレーザ光の強度比を調整することによって、所望の色を有するレーザ光が合成可能となる。
赤色レーザ42、緑色レーザ43及び青色レーザ44発生した各レーザ光は、合波器41で合波されたのち、可動ミラー部10で2次元的に走査される。走査された合波レーザ光は、凹面反射鏡58で反射されて瞳孔59を介して網膜60に結像される。
本発明の実施の形態においては、可動ミラー部20に硬質磁性薄膜22、特に、2次元走査に望ましい100kA/m以上の保磁力を有し、保磁力に対する磁場発生装置30が発生する磁場の比が0.2以下となる硬質磁性薄膜22を用いているのでミラー特性を劣化することなく、薄膜でも十分な磁場による回転力を確保することができ、可動ミラー部20の構造を複雑にすることなく、小型化することができる。また、上述の特許文献3や非特許文献1に示された可動磁石方式のように、ミラーの周辺に磁石をはめ込む必要がなく、可動ミラー部の構造を単純化でき、且つ、小型化が可能になる。
次に、図8乃至図13を参照して、本発明の実施例1の2次元光走査ミラー装置を説明する。図8は、本発明の実施例1の2次元光走査ミラー装置の概略的斜視図であり、可動ミラー部70と、可動ミラー部70を駆動するソレノイド・コイル90を備えている。可動ミラー部70は、反射部80と、反射部80を一対のヒンジ81で支持する回転外枠82と、回転外枠82をヒンジ81と直交する方向に設けた一対のヒンジ83で支持する非回転外枠84とを有している。
この場合、ヒンジ81が高速走査用回転軸となり、ヒンジ83が低速走査用回転軸となる。反射部80に設けたFe-Pt薄膜からなる硬質磁性薄膜は、互いに直交する高速走査用回転軸と低速走査用回転軸に対して、磁化方向が45°となるように磁化している。このように、磁化方向を両走査軸と45°傾けることによって、単一のソレノイド・コイル90によって、2軸走査が可能となる。この場合、各走査軸と45°傾いた可動ミラー部70の磁化による磁力線の各走査軸と直交する成分が、ソレノイド・コイル90の磁場と反発・引合いを起こし、各走査軸の周りで一定の角度内で往復振動する。
このように、磁気力のみで2軸走査を行う点が、本発明の実施例1の2次元光走査ミラー装置の特徴である。ソレノイド・コイル90に流す交流電流は、図中に示したように、周波数の小さい低速走査軸信号と周波数の大きい高速走査信号の重畳した交流を用いる。
ここで、高速走査については、その走査周波数が、可動ミラー部70の回転軸となるヒンジ81の周りの固有回転周波数(ミラー部分の形状、質量、回転軸のバネ定数等で決定される)の近辺になるように調整することによって、効率的にミラーを回転させることができる。一方、低速走査については、低速走査用回転軸となるヒンジ83の周りの回転の固有周波数の近辺に必ずしも一致させなくとも、低速走査は可能である。ただし、低速走査用回転軸の周りの回転の固有周波数の近辺を用いても勿論良い。
ここでは、高速走査用回転軸となるヒンジ81で反射部80を支え、低速走査用回転軸となるヒンジ83で回転外枠82を支える構造になっているが、逆にヒンジ81を低速走査用回転軸として反射部80を支え、ヒンジ83を高速走査用回転軸として、回転外枠82を支える構造でも良い。
図9は、本発明の実施例1の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の概略的説明図であり、図9(a)は上面図であり、図9(b)は図9(a)におけるA−A″を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部80のサイズ及び可動ミラー部70全体のサイズは任意であるが、ここでは、反射部80のサイズを500μm×300μmとし、可動ミラー部70のサイズは、2.7mm×2.5mmである。Si基板71を用いてSiO2膜72を介してFe56Pt44薄膜74を設け、反射部80、ヒンジ81、回転外枠82、ヒンジ83及び非回転外枠84を金属ガラス膜75で形成している。なお、Fe56Pt44薄膜74に接するSiO2膜の反対側の面にはSi層を機械的強度を保つミラー下部基板76として残存させる。
次に、図10乃至図12を参照して、本発明の実施例1の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の製造工程を説明する。まず、図10(a)に示すように、厚さが500μmで主面が(100)面のシリコン基板71を大気中1000℃で1時間加熱し、厚さが10nm〜150nmのSiO2膜72,73を形成する。ここでは、SiO2膜72の膜厚は100nmとする。
次いで、図10(b)に示すように、電子ビーム加熱蒸着法により、厚さが142nmのFe56Pt44薄膜74を堆積する。次いで、真空中で赤外線照射してアニールすることでFe56Pt44薄膜74を合金化する。ここでは、加熱温度を650℃とし、加熱時間を15分とする。次いで、Fe56Pt44薄膜74をSi基板71の<011>方向に磁場を印加して着磁する。なお、着磁は、磁場強度5テスラ、着磁時間を3分とする。
次いで、図10(c)に示すように、イオンミリング法を用いて、Fe56Pt44薄膜74を図8に示した回転外枠82及び反射部80に対応する形状に加工する。この時、ヒンジ81,83の方向、即ち、ミラー部分の光走査回転軸を、Si基板71の<010>方向と一致させることによって、磁化方向はヒンジ81,83に対して45°となる。次いで、図11(d)に示すように、バッファードHFを用いて、SiO2膜73をSi基板71の外周部のみに残すようにエッチング除去する。
次いで、図11(e)に示すように、リフトオフ法を用いて反射部80、ヒンジ81、回転外枠82、ヒンジ83及び非回転外枠84に対応する形状の金属ガラス膜75を形成する。金属ガラス膜75は、0.4Paの減圧雰囲気中で、スパッタリング法を用いてZr75Cu30Al10Ni5を10μmの厚さに成膜する。なお、金属ガラス膜75の膜厚は、反射部20の形状、質量、回転部のバネ定数等で決まる固有回転周波数に依存し、概ね2μm〜50μmであるが、ここでは、10μmとする。
次いで、図11(f)に示すように、Si基板71の底面側をFe56Pt44薄膜74のパターンに対応するようにエッチングする。次いで、図12(g)に示すように、SiO2膜73をマスクとしてドライエッチングによりSi基板71の底面側をエッチングしてSiO2膜72を部分的に露出させる。この時、Fe56Pt44薄膜74の底面側には100nm程度のSi層がミラー下部基板76として残存する。
次いで、図12(h)に示すように、バッファードHFを用いてSiO2膜72の露出部を完全にエッチングすることによって、ヒンジ81,83が金属ガラス膜75のみとなる。次いで、図12(i)に示すように、Si基板71をダイシングすることによって2次元光走査ミラー装置を切り出すことによって、本発明の実施例1の2次元走査ミラー装置の可動ミラー部70の基本構造が完成する。
図13は、実施例1で作成したFe56Pt44薄膜の磁気ヒステリシス曲線である。図13に示すように、面内方向保磁力は、800kA/m(10kOe程度)であり、残留磁化は、0.8テスラ程度であり、薄膜を用いても十分な保磁力が得られた。また、角形比=残留磁束密度Br/最大磁束密度Bm≒0.82であった。
図8に示すように、この可動ミラー部70の下にソレノイド・コイル90を設置することによって、2次元光走査ミラー装置となる。ソレノイド・コイル90の大きさは、外径が5mm、高さが3mmで、導線の巻き数は800ターンである。ソレノイド・コイル90は、可動ミラー部70の外周のSi基板71上に接着剤を用いて直接接し、ソレノイド・コイル90の中心部が、反射部の中心と一致するように接着剤を用いて固着した。
この2次元光走査ミラー装置に実際にレーザビームを照射して、反射した光をスクリーン上に投影し、光ビームの振れ角を評価した。その結果、縦方向に30°で横方向に5°のビーム振れ角が、動作電圧2Vで得られた。
特性の外部環境およびミラーの繰り返し使用による影響を調べた。具体的な外部環境としては、外気温度と外部磁場を選び、それぞれに対する特性の変化を求めた。その結果、外部温度が上昇しても、特性の変化はなかった。また、外部磁場として、理科教育用の棒磁石(磁場の大きさが、50kA/m程度)を、光ミラー装置に接近させた後でも特性の変化は認められなかった。一方、ミラーの繰り返し使用による影響を調べるため、光走査ミラー装置を1ヵ月連続動作した後の動作特性の変化を調べた。その結果、1ヵ月連続動作した後でも、光ビームの振れ角を評価した結果、縦方向に30 °、横方向に5 °のビーム振れ角が、動作電圧2Vで得られ、動作特性の劣化は認められなかった。
比較のために、実施例1と同じFe56Pt44薄膜を成膜後にアニール処理しないで
作成した2次元光走査ミラー装置の特性を評価した。この場合の保磁力は、10kA/mであったが、光走査ミラー装置を作製した直後の特性は、アニール処理し保磁力が800kA/mの場合と同じであった。しかし、外部磁場として、理科教育用の棒磁石(磁場の大きさが、50kA/m程度)を、2次元光走査ミラー装置に接近させた後で特性を測定すると、印加電圧が2Vでは、縦方向に15°、横方向に1°のビーム振れ角が得られたが、この場合、磁性薄膜をアニールした光走査ミラー装置よりは、外部磁場による外部環境特性が悪くなっている。また、2次元光走査ミラー装置を1ヵ月連続動作した後の動作特性に関しても、動作特性の劣化が認められた。
さらに比較のために実施例1と同じFe56Pt44薄膜を成膜後にアニール処理し、次いで、室温で180keVの20Ne+イオンを照射して作製した2次元光走査ミラー装置の特性を評価した。この場合の保磁力は、100kA/mであった。印加電圧が2Vでは、縦方向に30°、横方向に5°のビーム振れ角が得られ、磁性薄膜をアニールした光走査ミラー装置と同じ特性が得られた。また、外部磁場として、理科教育用の棒磁石(磁場の大きさが、50kA/m程度)を、光ミラー装置に接近させた後で特性を測定すると、印加電圧が2Vでは、縦方向に30°、横方向に5°のビーム振れ角が得られ、この場合も、磁性薄膜をアニールした光走査ミラー装置と同じ特性が得られた。光走査ミラー装置を1ヵ月連続動作した後の動作特性に関しても、動作特性の劣化は認められなかった。
これらの結果から、磁性薄膜の保磁力は、100kA/m以上あれば、温度や外部磁場などの一般的な外部環境の変化およびミラーの繰り返し使用による影響がないことが分かり、保磁力は実用的な電磁駆動型光走査ミラーの特性にとって重要なパラメーターであることを明らかにした。また、実施例1に示した2次元光走査ミラー装置のように小型化された場合の具体的な必要保磁力は、100kA/m以上であることも明らかにできた。
実施例1においては磁性体として、硬質磁性膜を用いているので、薄膜であっても十分な保磁力と磁場による回転力を確保することができ、その結果、ミラー特性を劣化することなく、また、可動ミラー部の構造を単純化且つ小型化することができ、2次元光走査ミラー装置の全体サイズを小型化することが可能になる。
次に、図14を参照して、本発明の実施例2の2次元光走査ミラー装置を説明するが、硬質磁性薄膜として、Fe56Pt44薄膜の代わりにCo80Pt20薄膜を用いた以外は上記の実施例1と同様であるので、可動ミラー部の構造のみ図示する。図14は、本発明の実施例2の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の概略的説明図であり、図14(a)は上面図であり、図14(b)は図14(a)におけるA−A″を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部80のサイズ及び可動ミラー部70全体のサイズは任意であるが、ここでは、反射部80のサイズを500μm×300μmとし、可動ミラー部70のサイズは、2.7mm×2.5mmである。Si基板71を用いてSiO2膜72を介して厚さが160nmのCo80Pt20薄膜77を設け、反射部80、ヒンジ81、回転外枠82、ヒンジ83及び非回転外枠84を金属ガラス膜75で形成している。なお、Co80Pt20薄膜77に接するSiO2膜の反対側の面にはSi層をミラー下部基板76として設けている。
このCo80Pt20薄膜77は、成膜後、真空中で温度670℃で、15分のアニール処理を行った。このCo80Pt20薄膜77の面内方向保磁力は、200kA/m程度である。また、残留磁化は、0.6テスラ程度である。また、このCo80Pt20薄膜77への着磁は、磁場強度5テスラ、着磁時間3分で実施した。
この実施例2の2次元光走査ミラー装置に、図8と同様に、同じ構成のソレノイド・コイルを設置した。コイルの大きさは、外径が5mm、高さが3mmで、導線の巻き数は、800ターンである。この2次元光走査ミラー装置にレーザビームを照射して、反射した光をスクリーン上に投影し、光ビームの振れ角を評価したところ、実施例1と同様な効果が得られた。また、外部磁場として、理科教育用の棒磁石(磁場の大きさが、50kA/m程度)を、2次元光走査ミラー装置に接近させた後で特性を測定すると、多少の劣化が見られた。また、2次元光走査ミラー装置を1ヵ月連続動作した後の動作特性に関しても、動作特性の劣化が認められたが実用には支障のない範囲である。これらの結果から、磁性薄膜の保磁力は、100kA/m以上あれば、温度や外部磁場などの一般的な外部環境の変化およびミラーの繰り返し使用による影響がないことが分る。
次に、図15を参照して、本発明の実施例3の2次元光走査ミラー装置を説明するが、硬質磁性薄膜として、Fe56Pt44薄膜の代わりにCo80Pd20薄膜を用いた以外は上記の実施例1と同様であるので、可動ミラー部の構造のみ図示する。図15は、本発明の実施例2の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の概略的説明図であり、図15(a)は上面図であり、図15(b)は図15(a)におけるA−A″を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部80のサイズ及び可動ミラー部70全体のサイズは任意であるが、ここでは、反射部80のサイズを500μm×300μmとし、可動ミラー部70のサイズは、2.7mm×2.5mmである。Si基板71を用いてSiO2膜72を介して厚さが150nmのCo80Pd20薄膜78を設け、反射部80、ヒンジ81、回転外枠82、ヒンジ83及び非回転外枠84を金属ガラス膜75で形成している。なお、Co80Pd20薄膜78に接するSiO2膜の反対側の面にはSi層をミラー下部基板76として設けている。
このCo80Pd20薄膜78は、成膜後、真空中で温度650℃で、15分のアニール処理を行った。このCo80Pd20薄膜78の面内方向保磁力は、160kA/m程度である。また、残留磁化は、0.5テスラ程度である。また、このCo80Pd20薄膜78への着磁は、磁場強度5テスラ、着磁時間3分で実施した。
この実施例3の2次元光走査ミラー装置に、図8と同様に、同じ構成のソレノイド・コイルを設置した。コイルの大きさは、外径が5mm、高さが3mmで、導線の巻き数は、800ターンである。この2次元光走査ミラー装置にレーザビームを照射して、反射した光をスクリーン上に投影し、光ビームの振れ角を評価したところ、実施例1と同様な効果が得られた。また、外部磁場として、理科教育用の棒磁石(磁場の大きさが、50kA/m程度)を、2次元光走査ミラー装置に接近させた後で特性を測定すると、多少の劣化が見られた。また、2次元光走査ミラー装置を1ヵ月連続動作した後の動作特性に関しても、動作特性の劣化が認められたが実用には支障のない範囲である。これらの結果からも、磁性薄膜の保磁力は、100kA/m以上あれば、温度や外部磁場などの一般的な外部環境の変化およびミラーの繰り返し使用による影響がないことが分る。
次に、図16を参照して、本発明の実施例4の2次元光走査ミラー装置を説明するが、硬質磁性薄膜として、Fe56Pt44薄膜を2層積層構造にした以外は上記の実施例1と同様であるので、可動ミラー部の構造のみ図示する。図16は、本発明の実施例4の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の概略的説明図であり、図16(a)は上面図であり、図16(b)は図16(a)におけるA−A″を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部80のサイズ及び可動ミラー部70全体のサイズは任意であるが、ここでは、反射部80のサイズを500μm×300μmとし、可動ミラー部70のサイズは、2.7mm×2.5mmである。
Si基板71を用いてSiO2膜72を介して厚さが140nmのFe56Pt44薄膜741、厚さが70nmSiO2膜79及び厚さが140nmのFe56Pt44薄膜742を設け、反射部80、ヒンジ81、回転外枠82、ヒンジ83及び非回転外枠84を金属ガラス膜75で形成している。なお、Fe56Pt44薄膜741に接するSiO2膜72の反対側の面にはSi層をミラー下部基板76として設けている。
この場合の面内方向保磁力及び残留磁化は実施例1の場合とほぼ同じであり、ビーム振れ角は実施例1に比べて良い特性が得られた。なお、実施例4のように、硬質磁性薄膜を2層構造にすることによって、外部に発生する磁場が大きくなる。
次に、図17を参照して、本発明の実施例5の2次元光走査ミラー装置を説明するが、硬質磁性薄膜として、Fe56Pt44薄膜を多層積層構造にした以外は上記の実施例1と同様であるので、可動ミラー部の構造のみ図示する。図17は、本発明の実施例5の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の概略的説明図であり、図17(a)は上面図であり、図17(b)は図17(a)におけるA−A″を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部80のサイズ及び可動ミラー部70全体のサイズは任意であるが、ここでは、反射部80のサイズを500μm×300μmとし、可動ミラー部70のサイズは、2.7mm×2.5mmである。
Si基板71を用いてSiO2膜72を介して厚さが120nmのFe56Pt44薄膜743、厚さが70nmSiO2膜791、厚さが120nmのFe56Pt44薄膜744、厚さが5nmのSiO2膜792、及び、厚さが120nmのFe56Pt44薄膜745を順次成膜する。反射部80、ヒンジ81、回転外枠82、ヒンジ83及び非回転外枠84を金属ガラス膜75で形成している。なお、Fe56Pt44薄膜741に接するSiO2膜72の反対側の面にはSi層をミラー下部基板76として設けている。
この場合の面内方向保磁力及び残留磁化は実施例1の場合とほぼ同じであり、ビーム振れ角は実施例1に比べて良い特性が得られた。さらに、硬質磁性薄膜をSiO2膜を介して4層構造にした場合も同様の特性が得られる。実施例5のように、硬質磁性薄膜を多層構造にすることによって、外部に発生する磁場が大きくなる。
次に、図18を参照して、本発明の実施例6の2次元光走査ミラー装置を説明するが、硬質磁性薄膜として、Fe56Pt44薄膜の膜厚以外は上記の実施例1と同様であるので、可動ミラー部の構造のみ図示する。図18は、本発明の実施例6の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の概略的説明図であり、図18(a)は上面図であり、図18(b)は図18(a)におけるA−A″を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部80のサイズ及び可動ミラー部70全体のサイズは任意であるが、ここでは、反射部80のサイズを500μm×300μmとし、可動ミラー部70のサイズは、2.7mm×2.5mmである。
ここでは、Fe56Pt44薄膜74の膜厚を88nm、210nm、460nm、及び、580nmとした。実施例1と同様のビーム振れ角を得るための駆動電圧は膜厚が厚くなるほど低下するが、基本的な特性が実施例1と同様である。
次に、図19乃至図21を参照して、本発明の実施例7の2次元光走査ミラー装置を説明するが製造工程手順が異なるだけで、基本的な構造及び製造方法は上記の実施例1と同様であるので、製造工程のみを説明する。まず、図19(a)に示すように、厚さが0.4mmで主面が(100)面のシリコン基板71を大気中1000℃で1時間加熱し、厚さが10nm〜150nmのSiO2膜72,73を形成する。ここでは、SiO2膜72の膜厚は100nmとする。
次いで、図19(b)に示すように、電子ビーム加熱蒸着法により、厚さが142nmのFe56Pt44薄膜74を堆積する。次いで、真空中で赤外線照射してアニールすることでFe56Pt44薄膜74を合金化する。ここでは、加熱温度を650℃とし、加熱時間を15分とする。次いで、Fe56Pt44薄膜74をSi基板71の<011>方向に磁場を印加して着磁する。なお、着磁は、磁場強度5テスラ、着磁時間を3分とする。
次いで、図19(c)に示すように、イオンミリング法を用いて、Fe56Pt44薄膜74を図8に示した回転外枠82及び反射部80に対応する形状に加工する。この時、ヒンジ81,83の方向、即ち、ミラー部分の光走査回転軸を、Si基板71の<010>方向と一致させることによって、磁化方向はヒンジ81,83に対して45°となる。次いで、図20(d)に示すように、バッファードHFを用いて、SiO2膜73をFe56Pt44薄膜74及びSi基板71の外周部に対応するパターンにエッチングする。
次いで、図20(e)に示すように、リフトオフ法を用いて反射部80、ヒンジ81、回転外枠82、ヒンジ83及び非回転外枠84に対応する形状の金属ガラス膜75を形成する。金属ガラス膜75は、0.4Paの減圧雰囲気中で、スパッタリング法を用いてZr75Cu30Al10Ni5を10μmの厚さに成膜する。
次いで、図20(f)に示すように、Si基板71の底面側をSiO2膜73をマスクとしてSiO2膜72が部分的に露出するまでエッチングする。次いで、図21(g)に示すように、バッファードHFを用いて周辺部に残存させたSiO2膜73以外を除去する。
次いで、図21(h)に示すように、周辺部に残存させたSiO2膜73をマスクとして、Si基板71をエッチングして、厚さが100μmのSi層をミラー下部基板76として残存させる。次いで、図21(i)に示すように、バッファードHFを用いてSiO2膜72の露出部を完全にエッチングすることによって、ヒンジ81,83が金属ガラス膜75のみとなる。次いで、Si基板71をダイシングすることによって2次元光走査ミラー装置を切り出すことによって、本発明の実施例7の2次元走査ミラー装置の可動ミラー部70の基本構造が完成する。
この実施例7も製造工程は異なるものの、最終的な構造は上記の実施例1と同じ構造であるので、上記の実施例1と同じ特性が得られる。
次に、図22を参照して、本発明の実施例8の2次元光走査ミラー装置を説明するが、実施例1のように厚さ100nm程度のSiO2膜72を形成せず、Fe56Pt44薄膜74を反射膜として用いた以外は上記の実施例1と同様であるので、可動ミラー部の構造のみ図示する。図22は、本発明の実施例8の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の概略的説明図であり、図22(a)は上面図であり、図22(b)は図22(a)におけるA−A″を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部80のサイズ及び可動ミラー部70全体のサイズは任意であるが、ここでは、反射部80のサイズを500μm×300μmとし、可動ミラー部70のサイズは、2.7mm×2.5mmである。
図22に示すように、Si基板71に極めて薄いSiO2膜(図示は省略)を介してFe56Pt44薄膜74を設け、Si基板71の底面側をエッチングしてFe56Pt44薄膜74のパターンに対応する部分及びヒンジ81、回転外枠82、ヒンジ83及び非回転外枠84に対応する部分を厚さが100μmのSi層をミラー下部基板76として残存させる。この場合も、上記の実施例1とほぼ同様の特性が得られる。
次に、図23を参照して、本発明の実施例9の2次元光走査ミラー装置を説明するが、Fe56Pt44薄膜74を反射膜として用いた以外は上記の実施例1と基本的に同様であるので、可動ミラー部の構造のみ図示する。図23は、本発明の実施例9の2次元光走査ミラー装置の可動ミラー部の概略的説明図であり、図23(a)は上面図であり、図22(b)は図23(a)におけるA−A″を結ぶ一点鎖線に沿った断面図である。反射部80のサイズ及び可動ミラー部70全体のサイズは任意であるが、ここでは、反射部80のサイズを500μm×300μmとし、可動ミラー部70のサイズは、2.7mm×2.5mmである。
図23に示すように、Si基板71にSiO2膜72を介してFe56Pt44薄膜74を設け、Si基板71の底面側をエッチングして非回転外枠84の外周部にのみSi基板71を残存させる。次いで、反射部80と回転外枠82との間の領域のSiO2膜72をヒンジ81に対応する部分を除いてエッチング除去する。この場合も、上記の実施例1とほぼ同様の特性が得られる。
次に、図24を参照して、本発明の実施例10の2次元光走査装置を説明する。図24は、本発明の実施例10の2次元光走査装置の概略的斜視図である。2次元光走査ミラー部としては上記の実施例1と同じ構造の2次元光走査ミラー装置を用いる。
まず、厚さが500μmのSi基板101上に火炎加水分解法を用いて、厚さが15μmのSiO2膜102を形成する。次いで、SiO2膜102上に同じく火炎加水分解法で、厚さ2μmのSiO2-GeO2層(屈折率差Δn=0.5%、Δn=(n1-n2)/n1で定義。n1:コアの屈折率、n2:クラッドの屈折率)を成膜する。この上に、コンタクトマスクを用いた光露光法で導波路幅が2μmの光導波路パターン104〜106を形成して光合波器103とする。
次いで、光導波路パターン104〜106上に、全体を覆うカバー層として、厚さが20μmのSiO2膜(図示は省略)を上部クラッド層として、同じく火炎加水分解法で成膜する。なお、赤色用の光導波路パターン104及び青色用の光導波路パターン106は光入射部を直角に曲げる必要があるので、曲げる部分にGaを用いた収束イオンビーム法を用いたエッチングにより、深さ30μmの深掘りトレンチを形成し、導波した光が、トレンチ側壁で全反射するようにする。次いで、光合波器103の領域のみ残して、他の部分のSiO2膜を全てエッチングにより取り除き、Si基板101をむき出しの状態にする。
次いで、実施例1に関して、図10乃至図12に示した工程により、2次元光走査ミラー部108を形成する。なお、この製造プロセスの基本は、Fe56Pt44薄膜の永久磁石特性が消えないように、着磁後の全てのプロセスの温度を200℃以下で行う。なお、図における符号107はSiO2膜である。
次いで、赤色半導体レーザチップ109、緑色半導体レーザチップ110及び青色半導体レーザチップ111を、それぞれ光導波路パターン104〜106に光が入射するように、Si基板101上にボンディングする。この時、赤色半導体レーザチップ109、緑色半導体レーザチップ110及び青色半導体レーザチップ111のレーザ出射端と光導波路パターン104〜106の位置が整合するようにSi基板101を所定の深さまでエッチングする。
次いで、2次元光走査ミラー装置108の反射部を駆動するソレノイド・コイル112をSi基板101の下側に配置し、接着剤を用いて、Si基板101に固定する。この時、ソレノイド・コイル112に光走査信号を印加しない状態で、反射部のミラー面が基板101の主面にほぼ平行な光ビームに対して45°傾くようにする。即ち、光ビームに対して機械的な外部の力で45°傾けて置き、金属ガラスからなるヒンジに絞り込んだレーザビーム(ビーム径70μm、出力10mW)を照射してヒンジを局所的に加熱して、45°傾いた状態に固定する。この結果、ヒンジに生じるストレスを緩和することができ、外部の力を除いても、反射部は、45°傾いたままになる。この時の機械的な外部の力は探針(カンチレバー)を用いて加えることができる。この2次元光走査装置のサイズは、縦が6mm、横が3mm、高さが3mmとなり、超小型化が達成される。
ソレノイド・コイル112に光走査信号を印加しない状態のとき、ミラー面が光ビームに対して45°最初から傾くようにするために、ソレノイド・コイル112に定常的に直流電流を流すことによって、光ビームに対して45°傾けても良い。その結果、この直流電流に加え、交流の信号を流すことによって、傾いた45°を中心に走査ミラーを回転させることができる。
或いは、ソレノイド・コイル112の近傍に永久磁石を配置して、光ビームに対して45°傾けても良い。この場合は、ソレノイド・コイル112に交流の信号を流すだけで、傾いた45°を中心に走査ミラーを回転させることができる。
実施例10においては、Si基板に光合波器及び可動ミラー部を一体に集積化しているので、2次元光走査装置の全体サイズをコンパクトにすることが可能になり、眼鏡型網膜走査ディスプレイ用の2次元光走査装置として好適なものとなる。
次に、図25を参照して、本発明の実施例11の2次元光走査装置を説明するが、ソレノイド・コイルの位置以外は上記の実施例10と同様であるので、ソレノイド・コイル近傍のみを図示する。図25は、本発明の実施例11の2次元光走査装置のソレノイド・コイル近傍の側面図である。外径が5mm、高さが3mmで、導線の巻き数は800ターンのソレノイド・コイル112の中心軸を、2次元走査ミラー部107の中心部から、レーザビームの方向に1mmずらして配置する。
このように、ソレノイド・コイル112の中心軸を、2次元走査ミラー部107の中心部から、レーザビームの方向に1mmずらすことによって、2次元走査ミラー部107の磁化の端部とソレノイド・コイル112が近接して相互作用が大きくなる。したがって、ソレノイド・コイル112の中心軸と2次元走査ミラー部107の中心部が一致する場合に比べて、直流電流の強度を5割低減することができる。この場合も、直流電流に加え、交流の信号を流すことによって、傾いた45°を中心に走査ミラーを回転させることができる。なお、図における符号113,114,115は、それぞれ、Fe56Pt44薄膜、金属ガラス膜及びミラー下部基板である。
次に、図26を参照して、本発明の実施例12の2次元光走査装置を説明する。図26は、本発明の実施例12の2次元光走査装置の概略的斜視図である。2次元光走査ミラー部としては上記の実施例1と同じ構造の2次元光走査ミラー装置を用いる。
実装基板120上に、ソレノイド・コイル133を備えた2次元光走査ミラー装置130をマウントするとともに、この2次元光走査ミラー装置130に対してレーザ光を照射する位置に光源装置140をマウントする。この光源装置は、上記の実施例10に示した2次元光走査装置における光源部と同じ構造を有している。即ち、Si基板141上にSiO2膜142を介して光導波路パターン144〜146を設け、その上に上部クラッド層となるSiO2膜(図示は省略)を設けて光合波器143を形成する。次いで、光合波器143を形成した領域以外の領域におけるSiO2膜142を除去してSi基板141を露出させる。なお、図における符号131,132は、それぞれSi基板及びSiO2膜である。
次いで、赤色半導体レーザチップ147、緑色半導体レーザチップ148及び青色半導体レーザチップ149を、それぞれ光導波路パターン144〜146に光が入射するように、Si基板141上にボンディングする。この時、赤色半導体レーザチップ147、緑色半導体レーザチップ148及び青色半導体レーザチップ149のレーザ出射端と光導波路パターン144〜146の位置が整合するようにSi基板141を所定の深さまでエッチングする。
本発明の実施例12においては、2次元光走査ミラー装置130と光源装置140を別基板に形成しているので、それぞれの製造工程に熱処理温度やエッチング条件等の制限が少なくなる。なお、実装基板としては、サファイア基板等の絶縁性基板でも良いし、金属基板でも良いし、或いは、2次元光走査ミラー装置130と光源装置140への電気的接続を考慮して、プリント配線基板等を用いても良い。
ここで、実施例1乃至実施例12を含む本発明の実施の形態に関して、以下の付記を付す。
(付記1)基板と、光走査回転軸を有し、前記基板に2次元光走査可能に支持された可動ミラー部と、前記可動ミラー部に設けられた硬質磁性薄膜と、前記可動ミラー部を駆動する交流磁場発生装置を少なくとも含む磁場発生装置とを有し、前記硬質磁性薄膜が膜平面方向に磁化方向を有し、前記硬質磁性薄膜の保磁力に対する前記磁場発生装置が発生する磁場の比が0.2以下であり、前記交流磁場発生装置に光走査信号を印加しない状態で前記可動ミラー部の反射面が前記基板の主面に対して45°±30°内の範囲で傾いている2次元光走査ミラー装置。
(付記2)前記硬質磁性薄膜が、反射ミラーとなる付記1に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記3)少なくとも前記硬質磁性薄膜の表面に反射ミラーとなる反射膜を有する付記1に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記4)前記可動ミラー部が、反射部と、前記反射部を一対の第1のヒンジで支持する回転外枠と、前記回転外枠を前記第1のヒンジと直交する方向に設けた一対の第2のヒンジで支持する非回転外枠とを有している付記1乃至付記3のいずれか1に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記5)前記回転外枠及び前記非回転外枠が、反射ミラーを兼ねる金属ガラスで形成されている付記4に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記6)前記回転外枠及び前記非回転外枠が、非磁性誘電体膜で形成され、且つ、前記硬質磁性薄膜が前記反射部及び前記回転外枠上に設けられている付記4に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記7)前記硬質磁性薄膜の保磁力が100kA/m以上であることを特徴とする付記1乃至付記6のいずれか1に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記8)前記硬質磁性薄膜が、FeとPtを主成分とする磁性材料、CoとPtを主成分とする磁性材料、或いは、FeとPdを主成分とする磁性材料のいずれかである付記1乃至付記7のいずれか1に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記9)前記硬質磁性薄膜の磁化方向が、前記可動ミラー部の前記光走査回転軸に対して45°±30°内の範囲の角度である付記1乃至付記8のいずれか1に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記10)前記基板が、単結晶Si基板である付記1乃至付記9のいずれか1に記載の2次元光走査ミラー装置。
(付記11)基板上に硬質磁性薄膜を成膜する工程と、前記硬質磁性薄膜を着磁する工程と、着磁した前記硬質磁性薄膜を加工して可動ミラー部を形成する工程と
を有する2次元光走査ミラー装置の製造方法。
(付記12)前記硬質磁性薄膜を着磁する工程の前に、前記硬質磁性薄膜をアニールする工程をさらに有する付記11に記載の2次元光走査ミラー装置の製造方法。
(付記13)付記1乃至付記12のいずれか1に記載の2次元光走査ミラー装置と、前記基板上に形成された光源とを有する2次元光走査装置。
(付記14)付記1乃至付記12のいずれか1に記載の2次元光走査ミラー装置と、前記2次元光走査ミラー装置を実装する実装基板と、前記実装基板上の前記2次元光走査ミラー装置にレーザ光を照射する位置に実装された光源とを有する2次元光走査装置。
(付記15)前記光源が、赤色レーザと、緑色レーザと、青色レーザと、前記赤色レーザ、前記緑色レーザ及び青色レーザの出力光を合波する光合波器を有する付記13または付記14に記載の2次元光走査装置。
(付記16)付記13乃至付記15のいずれか1に記載の2次元光走査装置と、前記交流磁場発生装置に2次元光走査信号を印加して前記光源から出射された出射光を2次元的に走査する2次元光走査制御部と、前記走査された前記出射光を被投影面に投影する画像形成部とを有する画像投影装置。