本発明に係る繊維複合研磨パッドの一実施形態を以下に詳しく説明する。
本発明の繊維複合研磨パッドは、長繊維の極細繊維の平均繊度は、0.01〜0.9dtexであることか好ましく、より好ましくは0.04〜0.1dtexである。このような平均繊度の極細繊維の場合には、研磨中に研磨パッドの表層の極細繊維束が充分に分繊し、それにより、スラリーの保持力が向上して研磨効率や研磨均一性が向上する。極細繊維の平均繊度が0.01dtex未満の場合には繊維束が分繊しにくくなり、極細繊維の平均繊度が0.9dtexを超える場合には研磨パッドの表面が粗くなりすぎて研磨レートが低下したり、ガラス系基材を研磨する際の表面に掛かる応力が高くなりすぎてスクラッチが発生したりしやすくなる。
また、長繊維の極細繊維の平均長さは、特に限定されないが、100mm以上、さらには、200mm以上であることが絡合体の繊維密度を高めやすい点および繊維の抜けを抑制する点から好ましい。極細繊維の長さが短すぎる場合には絡合体の繊維密度を高めにくくなる傾向があり、また、研磨中に繊維が抜けやすくなる傾向がある。上限は、特に限定されず、例えば、後述するスパンボンド法により製造された不織布に由来する繊維絡合体を含有する場合には、物理的に切れていない限り、数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の長繊維が含まれてもよい。
極細繊維を形成するための樹脂の具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET、Tg77℃、50℃における飽和吸水率(以下同様)1質量%)、イソフタル酸変性PET(Tg67〜77℃、吸水率1質量%)、スルホイソフタル酸変性PET(Tg67〜77℃、吸水率1〜3質量%)、ポリブチレンナフタレート(Tg85℃、吸水率1質量%)、ポリエチレンナフタレート(Tg124℃、吸水率1質量%)等から形成される芳香族ポリエステル系繊維;テレフタル酸とノナンジオールとメチルオクタンジオール共重合ポリアミド(Tg125〜140℃、吸水率1〜3質量%)等から形成される半芳香族ポリアミド系繊維等が挙げられる。
これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、PETおよびイソフタル酸変性PET等の変性PETは、後述する海島型繊維からなるウェブ絡合シートから極細繊維を形成する湿熱処理工程において大幅に収縮するために、緻密で高密度の繊維絡合体を形成することができること、研磨シートの剛性を高めやすいこと、および、研磨の際に水分による経時変化を発生しにくいこと、等の点からも好ましい。
繊維束は複数本の極細繊維が束ねられたような形態である。具体的には、例えば、5〜200本、さらには10〜50本、とくには10〜30本の極細繊維が束ねられたように存在していることが好ましい。このように極細繊維が繊維束見掛けを形成して存在することにより、絡合体の見掛け密度を高めることができる。
繊維絡合体の見掛け密度は0.20g/cm3以上、さらには0.40〜0.80g/cm3であることが好ましい。研磨パッドが見掛け密度の高い緻密な絡合体を含有する場合には、研磨中に高い剛性を維持することができ、そのために高い平坦度でガラス基材等を研磨することができる。
次に、繊維束の絡合体に含浸一体化される高分子弾性体について説明する。
高分子弾性体を形成するための樹脂は特に限定されないが、その具体例としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−スチレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−アクリロニトリル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−オレフィン系樹脂、(メタ)アクリル酸系エステル−(水添)イソプレン系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−ブタジエン系樹脂、スチレン−ブタジエン系樹脂、スチレン−水添イソプレン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン系樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、(メタ)アクリル酸エステル−酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル系樹脂、エチレン−オレフィン系樹脂、シリコーン系樹脂、フッ素系樹脂、および、ポリエステル系樹脂等からなる弾性体が挙げられる。これらは単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
高分子弾性体としては、極細繊維に対する結着性が高い点から、水素結合性の高分子弾性体が特に好ましい。水素結合性の高分子弾性体を形成する樹脂とは、例えば、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂のように、水素結合により結晶化あるいは凝集する高分子弾性体である。水素結合性の高分子弾性体は、接着性が高く、繊維絡合体の形態保持性に優れているために、繊維の抜けを抑制しやすい。
これらの中でもポリウレタン系樹脂が極細繊維に対する接着性に優れており、また、研磨パッドの硬度を高め、研磨中の経時的安定性に優れている点から好ましい。以下に、高分子弾性体としてポリウレタン系樹脂を用いる場合について、代表例として詳しく説明する。
ポリウレタン系樹脂としては、平均分子量200〜6000の高分子ポリオールと有機ポリイソシアネ−トと、鎖伸長剤とを、所定のモル比で反応させることにより得られる各種のポリウレタン系樹脂が挙げられる。
高分子ポリオールの具体例としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(メチルテトラメチレングリコール)などのポリエーテル系ポリオールおよびその共重合体;ポリブチレンアジペートジオール、ポリブチレンセバケートジオール、ポリヘキサメチレンアジペートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンアジペート)ジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンセバケート)ジオール、イソフタル酸共重合ポリオール、テレフタル酸共重合ポリオール、シクロヘキサノール共重合ポリオール、ポリカプロラクトンジオールなどのポリエステル系ポリオールおよびその共重合体;ポリヘキサメチレンカーボネートジオール、ポリ(3−メチル−1,5−ペンチレンカーボネート)ジオール、ポリペンタメチレンカーボネートジオール、ポリテトラメチレンカーボネートジオール、ポリ(メチル−1.8−オクタメチレンカーボネート)ジオール、ポリノナンメチレンカーボネートジオール、ポリシクロヘキサンカーボネートジオールなどのポリカーボネート系ポリオールおよびその共重合体;ポリエステルカーボネートポリオール等が挙げられる。
また、必要に応じて、トリメチロールプロパン等の3官能アルコールやペンタエリスリトール等の4官能アルコールなどの多官能アルコール、又は、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の短鎖アルコールを併用してもよい。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
高分子ポリオールとしては、ポリカーボネート系ポリオール、とくに、融点が0℃以下の非晶性のポリカーボネート系ポリオールをポリオール成分全量の60〜100質量%含有することが、貯蔵弾性率が適度になり、研磨中の経時的な安定性にとくに優れる点から好ましい。また、炭素数5以下、特には炭素数3以下のポリアルキレングリコールを0.1〜10質量%程度用いた場合には、水に対する濡れ性がとくに良好になる点から好ましい。
有機ポリイソシアネートの具体例としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の脂肪族あるいは脂環族ジイソシアネート等の無黄変型ジイソシアネート;2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートポリウレタン等の芳香族ジイソシアネート、等が挙げられる。また、必要に応じて、3官能イソシアネートや4官能イソシアネートなどの多官能イソシアネートを併用してもよい。
これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートが、繊維に対する接着性が高く、また、硬度が高い研磨パッドが得られる点から好ましい。
鎖伸長剤の具体例としては、例えば、ヒドラジン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、キシリレンジアミン、イソホロンジアミン、ピペラジンおよびその誘導体、アジピン酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジドなどのジアミン類;ジエチレントリアミンなどのトリアミン類;トリエチレンテトラミンなどのテトラミン類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−ビス(β−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−シクロヘキサンジオールなどのジオール類;トリメチロールプロパンなどのトリオール類;ペンタエリスリトールなどのペンタオール類;アミノエチルアルコール、アミノプロピルアルコールなどのアミノアルコール類等が挙げられる。
これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、ヒドラジン、ピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、イソホロンジアミンおよびその誘導体、エチレントリアミンなどのトリアミンの中から2種以上組み合わせて用いることが、繊維への接着性が高く、また、硬度が高い研磨パッドが得られる点から好ましい。また、鎖伸長反応時に、鎖伸長剤とともに、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミンなどのモノアミン類;4−アミノブタン酸、6−アミノヘキサン酸などのカルボキシル基含有モノアミン化合物;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのモノオール類を併用してもよい。
また、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)吉草酸などのカルボキシル基含有ジオール等を併用して、ポリウレタン系樹脂の骨格にカルボキシル基などのイオン性基を導入することにより、水に対する濡れ性をさらに向上させることができる。
また、ポリウレタン系樹脂の吸水率や貯蔵弾性率を制御するために、ポリウレタンを形成するモノマー単位が有する官能基と反応し得る官能基を分子内に2個以上含有する架橋剤や、ポリイソシアネート系化合物、多官能ブロックイソシアネート系化合物等の自己架橋性の化合物を添加することのより、架橋構造を形成させてもよい。
ポリウレタン系樹脂を形成するモノマー単位が有する官能基と架橋剤の官能基との組み合わせとしては、カルボキシル基とオキサゾリン基、カルボキシル基とカルボジイミド基、カルボキシル基とエポキシ基、カルボキシル基とシクロカーボネート基、カルボキシル基とアジリジン基、カルボニル基とヒドラジン誘導体又はヒドラジド誘導体などが挙げられる。これらの中では、カルボキシル基を有するモノマー単位とオキサゾリン基、カルボジイミド基またはエポキシ基を有する架橋剤との組み合わせ、水酸基またはアミノ基を有するモノマー単位とブロックイソシアネート基を有する架橋剤との組み合わせ、およびカルボニル基を有するモノマー単位とヒドラジン誘導体またはヒドラジド誘導体との組み合わせが、架橋形成が容易であり、得られる研磨パッドの剛性や耐磨耗性が優れる点から、特に好ましい。なお、架橋構造は、繊維の絡合体にポリウレタン系樹脂を付与した後の熱処理工程において形成することが、ポリウレタン系樹脂の水性液の安定性を維持する点から好ましい。これらの中でも、架橋性能や水性液のポットライフ性が優れ、また安全面でも問題のないカルボジイミド基および/またはオキサゾリン基が特に好ましい。カルボジイミド基を有する架橋剤としては、例えば日清紡績株式会社製「カルボジライトE−01」、「カルボジライトE−02」、「カルボジライトV−02」などの水分散カルボジイミド系化合物を挙げることができる。また、オキサゾリン基を有する架橋剤としては、例えば日本触媒株式会社製「エポクロスK−2010E」、「エポクロスK−2020E」、「エポクロスWS−500」などの水分散オキサゾリン系化合物を挙げることができる。架橋剤の配合量としては、ポリウレタン系樹脂に対して、架橋剤の有効成分が1〜20質量%であることが好ましく、1.5〜1質量%であることがより好ましく、2〜10質量%であることがさらに好ましい。
また、極細繊維との接着性を高め繊維束の剛性を高める点から、ポリウレタン系樹脂中の高分子ポリオール成分の含有率としては、40〜65質量%、さらには、45〜60質量%であることが好ましい。
また、ポリウレタン系樹脂に、カルボキシル基、スルホン酸基および炭素数3以下のポリアルキレングリコール基からなる群から選ばれる少なくとも1種の親水性基を導入することにより、吸水率や親水性を調整することができる。これにより、研磨の際における、研磨パッドの砥粒スラリーに対する濡れ性を向上させることができる。このような親水性基はポリウレタン系樹脂を製造する際のモノマー成分として、親水性基を有するモノマー成分を共重合することにより、ポリウレタン系樹脂に導入することができる。このような親水性基を有するモノマー成分の共重合割合としては、0.1〜10質量%、更には、0.5〜5質量%であることが、吸水による膨潤軟化を最小限に抑えつつ、吸水率や濡れ性を高めることができる点から好ましい。
ポリウレタン系樹脂は非多孔質状であることが好ましい。なお、非多孔質状とは、多孔質状、またはスポンジ状のポリウレタン系樹脂が有するような空隙(独立気泡)を実質的に有さない状態を意味する。具体的には、例えば、溶剤系ポリウレタンを凝固させて得られるような、微細な気泡を多数有するポリウレタン系樹脂ではないことを意味する。極細繊維を集束・拘束または極細繊維束同士を結着しているポリウレタン系樹脂を非多孔質状とすることが、極細繊維の拘束力が高まり、曲げ弾性率が向上する。また、研磨安定性が高くなり、また、研磨時のスラリー屑やパッド屑が空隙に堆積しにくくなるために、研磨パッドが摩耗し難いことから、高い研磨レートを長時間維持することができる。更に、極細繊維に対する接着強度が高くなるために、繊維の抜けに起因するスクラッチの発生を抑制することができる。さらに、より高い剛性が得られるために、平坦化性能に優れた研磨パッドが得られる。
ポリウレタン系樹脂は、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、防黴剤、発泡剤、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、染料、顔料、無機微粒子などをさらに含有してもよい。
研磨パッドにおいては極細繊維の繊維束の内部に高分子弾性体が含浸し、高分子弾性体により繊維束を構成する極細繊維の一部或いは大部分が拘束されていることが好ましい。繊維束が高分子弾性体で拘束されることにより、繊維束に剛性が付与されて高い平坦化性能が得られる。また、繊維の抜けを防ぎ、抜けた繊維による砥粒が凝集することを防止可能となり、それによりスクラッチが抑制できる。また、複数の繊維束同士も繊維束の外側に存在する高分子弾性体により結着されていることが、研磨パッドの形態安定性が向上して研磨安定性が向上する点から好ましい。
極細繊維の集束・拘束状態および繊維束同士の結着状態は繊維複合研磨パッドの断面の電子顕微鏡写真により容易に確認することができる。
繊維複合研磨パッドの表面は、バフィング等によるパッド平坦化処理や、ダイヤモンド等のドレッサーを用いた研磨前のシーズニング処理(コンディショニング処理)や、研磨時にドレッシィング処理やブラッシング処理を施すことにより、表面近傍に存在する繊維束を分繊、又はフィブリル化することにより研磨パッドの表面に極細繊維が形成されている。研磨パッドの表面の極細繊維の繊維密度としては、600本/mm2以上、さらには、1000本/mm2以上、特には、2000本/mm2以上であることが好ましい。繊維密度が低すぎる場合には、スラリーの保持性が低下する傾向がある。繊維密度の上限は特に限定されないが、生産性の点から、1000000本/mm2程度である。また、繊維複合研磨パッドの表面の極細繊維は立毛処理されていても、立毛処理されていなくても良い。極細繊維が立毛処理されている場合には、研磨パッドの表面がよりソフトになるためにスクラッチの低減効果がより高くなる。一方、極細繊維の立毛の程度が低い場合には、ミクロ平坦性を重視する用途に有利となる。このように用途に応じて表面状態を適宜選択することが好ましい。
繊維複合研磨パッド中の不織布と高分子弾性体との比率(不織布/高分子弾性体)は、質量比で、90/10〜55/45、さらには85/15〜65/35であることが好ましい。不織布と高分子弾性体との比率が上記範囲である場合には、繊維複合研磨パッドの剛性を高めやすくなる。また、繊維複合研磨パッドの表面に表出する極細繊維の密度を充分に高めることができる。その結果、研磨安定性、研磨レート、及び、平坦化性能を充分に高めることができる
繊維複合研磨パッドのJISD硬度は50以上であることが重要であり、好ましくは50〜65である。繊維複合研磨パッドのD硬度が50未満の場合には剛性が低下することにより平坦化性能が低下する。また、研磨パッドのD硬度が65を超える場合には剛性が高くなりすぎてスクラッチが発生しやすくなる。
また、繊維複合研磨パッドの研磨面の表面粗さ(Sa)は10μm以上である。表面粗さ(Sa)が10μm未満の場合には、スラリー溜まりが不足し、研磨レートや経時的な研磨安定性が低下する傾向がある。上記範囲にするにはダイヤモンドドレッサーを用いてシーズニング処理(コンディショニング処理)するのが好ましい方法である。
繊維複合研磨パッドの見掛け密度は、0.5g/cm3以上が好ましく、さらには、0.6〜1.2g/cm3であることが高い剛性と高研磨レートを保持する点から好ましい。
[研磨パッドの製造方法]
次に、繊維複合研磨パッドの製造方法の一例について詳しく説明する。
繊維複合研磨パッドは、例えば、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸して得られる海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造するウェブ製造工程と、長繊維ウェブを複数枚重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成するウェブ絡合工程と、ウェブ絡合シートを湿熱収縮させることにより、面積収縮率が40%以上になるように収縮させる湿熱収縮処理工程と、ウェブ絡合シート中の水溶性熱可塑性樹脂を熱水中で溶解することにより、極細繊維からなる繊維絡合体を形成する繊維絡合体形成工程と、繊維絡合体に高分子弾性体の水性液を含浸および乾燥凝固させる高分子弾性体充填工程とを備えるような研磨パッドの製造方法により得ることができる。
このような製造方法においては、長繊維を含有するウェブ絡合シートを湿熱収縮させる工程を経ることにより、短繊維を含有するウェブ絡合シートを湿熱収縮させる場合に比べて、ウェブ絡合シートを大きく収縮させることができ、そのために、極細繊維の繊維密度が緻密になる。そして、ウェブ絡合シートの水溶性熱可塑性樹脂を溶解抽出することにより、極細繊維束からなる繊維絡合体が形成される。このとき、水溶性熱可塑性樹脂が溶解抽出された部分に空隙が形成される。そして、この空隙に高分子弾性体の水性液を含浸および乾燥凝固させることにより、極細繊維束を構成する極細繊維が集束されるとともに、極細繊維束同士も集束される。このようにして、繊維密度が高く、極細繊維が収束された剛性の高い研磨パッドが得られる。
以下に各工程について、詳しく説明する。
(1)ウェブ製造工程
本工程においては、はじめに、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸して得られる海島型繊維からなる長繊維ウェブを製造する。
海島型繊維は、水溶性熱可塑性樹脂と、水溶性熱可塑性樹脂と相溶性が低い非水溶性熱可塑性樹脂とをそれぞれ溶融紡糸した後、複合化させることにより得られる。そして、このような海島型繊維から水溶性熱可塑性樹脂を溶解除去または分解除去することにより、極細繊維が形成される。海島型繊維の太さは、工業性の観点から、0.5〜3dtexであることが好ましい。
なお、本実施形態においては、極細繊維を形成するための複合繊維として海島型繊維について詳しく説明するが、海島型繊維の代わりに多層積層型断面繊維等の公知の極細繊維発生型繊維を用いてもよい。
前記水溶性熱可塑性樹脂としては、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等により、溶解除去または分解除去できる熱可塑性樹脂であって、溶融紡糸が可能な樹脂が好ましく用いられる。このような、水溶性熱可塑性樹脂の具体例としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール共重合体等のポリビニルアルコール系樹脂(PVA系樹脂);ポリエチレングリコール及び/又はスルホン酸アルカリ金属塩を共重合成分として含有する変性ポリエステル;ポリエチレンオキシド等が挙げられる。これらの中では、特に、PVA系樹脂が以下の理由により、好ましく用いられる。
PVA系樹脂を水溶性熱可塑性樹脂成分とする海島型繊維を用いた場合、PVA系樹脂を溶解することにより形成される極細繊維が大きく捲縮する。このことにより繊維密度が高い繊維絡合体が得られる。また、PVA系樹脂を水溶性熱可塑性樹脂成分とする海島型繊維を用いた場合、PVA系樹脂を溶解させるときに、形成される極細繊維や高分子弾性体は実質的に分解または溶解されないので、極細繊維や高分子弾性体の物性低下が起こりにくい。さらに、環境負荷も小さい。また、微量残存しても、研磨性能への悪影響は小さく、逆に、研磨パッドの濡れ性を高める傾向がある。研磨パッドに残存するPVA系樹脂の好ましい割合としては、0.01〜0.2質量%、さらには、0.02〜0.1質量%程度である。
非水溶性熱可塑性樹脂としては、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等により、溶解除去または分解除去されない熱可塑性樹脂であって、溶融紡糸が可能な樹脂が好ましく用いられる。
非水溶性熱可塑性樹脂の具体例としては、上述した、研磨パッドを構成する極細繊維を形成するために用いられる、前述したポリエステル系繊維等で代表される各種熱可塑性樹脂が用いられうる。
非水溶性熱可塑性樹脂は各種添加剤を含有してもよい。添加材の具体例としては、例えば、触媒、着色防止剤、耐熱剤、難燃剤、滑剤、防汚剤、蛍光増白剤、艶消剤、着色剤、光沢改良剤、制電剤、芳香剤、消臭剤、抗菌剤、防ダニ剤、無機微粒子等が挙げられる。
次に、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸して海島型繊維を形成し、得られた海島型繊維から長繊維ウェブを形成する方法について、詳しく説明する。
長繊維ウェブは、例えば、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸することにより複合化した後、スパンボンド法により、延伸後、堆積させることにより得られる。このように、スパンボンド法によりウェブを形成することにより、繊維の抜けが少なく、繊維密度が高く、形態安定性が良好な海島型繊維からなる長繊維ウェブが得られる。なお、長繊維とは、短繊維を製造するときのような切断工程を経ずに製造された繊維である。
海島型繊維の製造においては、水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とがそれぞれ溶融紡糸され、複合化される。水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂との質量比としては、5/95〜50/50、さらには、10/90〜40/60の範囲であることが好ましい。水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂との質量比がこのような範囲である場合には、高密度の繊維絡合体が得られ、また、極細繊維の形成性にも優れる。
水溶性熱可塑性樹脂と非水溶性熱可塑性樹脂とを溶融紡糸により複合化した後、スパンボンド法により、長繊維ウェブを形成する方法について、以下に詳しく説明する。
はじめに、水溶性熱可塑性樹脂および非水溶性熱可塑性樹脂をそれぞれ別々の押出機により溶融混練し、それぞれ異なる紡糸口金から溶融樹脂のストランドを同時に吐出させる。そして、吐出されたストランドを複合ノズルで複合させた後、紡糸ヘッドのノズル孔から吐出させることにより海島型繊維を形成する。溶融複合紡糸においては、海島型繊維における島数は4〜4000島/繊維、さらには10〜1000島/繊維にすることが、単繊維繊度が小さく、繊維密度の高い繊維束が得られる点から好ましい。
海島型繊維は冷却装置で冷却された後、エアジェット・ノズルなどの吸引装置を用いて目的の繊度となるように1000〜6000m/分の引き取り速度に相当する速度の高速気流により延伸される。その後、延伸された複合繊維を移動式の捕集面の上に堆積することにより長繊維ウェブが形成される。なお、このとき、必要に応じて堆積された長繊維ウェブを、部分的に圧着してもよい。繊維ウェブの目付量は、20〜500g/m2の範囲であることが均一な繊維絡合体が得られ、また、工業性の点から好ましい。
(2)ウェブ絡合工程
次に、得られた長繊維ウェブを複数枚重ねて絡合させることによりウェブ絡合シートを形成するウェブ絡合工程。
ウェブ絡合シートは、ニードルパンチや高圧水流処理等の公知の不織布製造方法を用いて長繊維ウェブに絡合処理を行うことにより形成される。以下に、代表例として、ニードルパンチによる絡合処理について詳しく説明する。
はじめに、長繊維ウェブに針折れ防止油剤、帯電防止油剤、絡合向上油剤などのシリコーン系油剤または鉱物油系油剤を付与する。なお、目付ムラを低減させるために、2枚以上の繊維ウェブを、クロスラッパーにより重ね合わせ、油剤を付与してもよい。
その後、例えば、ニードルパンチにより三次元的に繊維を絡合させる絡合処理を行う。ニードルパンチ処理を行うことにより、繊維密度が高く、繊維の抜けを起こしにくいウェブ絡合シートが得られる。なお、ウェブ絡合シートの目付量は、目的とする研磨パッドの厚さ等に応じて適宜選択されるが、具体的には、例えば、100〜1500g/m2の範囲であることが取扱い性に優れる点から好ましい。
油剤の種類や量およびニードルパンチにおけるニードル形状、ニードル深度、パンチ数などのニードル条件は、ウェブ絡合シートの層間剥離力が高くなるような条件が適宜選択される。バーブ数は針折れが生じない範囲で多いほうが好ましく、具体的には、例えば、1〜9バーブの中から選ばれる。ニードル深度は重ね合わせたウェブ表面までバーブが貫通するような条件、かつ、ウェブ表面にニードルパンチ後の模様が強く出ない範囲で設定することが好ましい。また、ニードルパンチ数はニードル形状、油剤の種類と使用量等により調整されるが、具体的には、500〜5000パンチ/cm2が好ましい。また、絡合処理後の目付量が、絡合処理前の目付量の質量比で1.2倍以上、さらには、1.5倍以上となるように絡合処理することが、繊維密度が高い繊維絡合体が得られ、また、繊維の抜けを低減できる点から好ましい。
ウェブ絡合シートの層間剥離力は、2kg/2.5cm以上、さらには、4kg/2.5cm以上であることが、形態保持性が良好で、且つ、繊維の抜けが少なく、繊維密度が高い繊維絡合体が得られる点から好ましい。なお、層間剥離力は、三次元絡合の度合いの目安になる。層間剥離力が小さすぎる場合には、繊維絡合体の繊維密度が充分に高くない。また、絡合不織布の層間剥離力の上限は特に限定されないが、絡合処理効率の点から30kg/2.5cm以下であることが好ましい。
(3)湿熱収縮処理工程
次に、ウェブ絡合シートを湿熱収縮させることにより、ウェブ絡合シートの繊維密度および絡合度合を高めるための湿熱収縮処理工程。なお、本工程においては、長繊維を含有するウェブ絡合シートを湿熱収縮させることにより、短繊維を含有するウェブ絡合シートを湿熱収縮させる場合に比べて、ウェブ絡合シートを大きく収縮させることができ、そのために、極細繊維の繊維密度が特に高くなる。湿熱収縮処理は、スチーム加熱により行うことが好ましい。スチーム加熱条件としては、雰囲気温度が60〜130℃の範囲で、相対湿度80%以上、さらには相対湿度90%以上で、60〜600秒間加熱処理することが好ましい。なお、相対湿度が低すぎる場合には、繊維に接触した水分が速やかに乾燥することにより、収縮が不充分になる傾向がある。
湿熱収縮処理は、ウェブ絡合シートを面積収縮率が40%以上、さらには、43%以上になるように収縮させることが好ましい。このように高い収縮率で収縮させることにより、高い繊維密度が得られる。面積収縮率の上限は特に限定されないが、収縮の限度や処理効率の点から80%以下程度であることが好ましい。
なお、面積収縮率(%)は、下記式により計算される。
(収縮処理前のシート面の面積−収縮処理後のシート面の面積)/収縮処理前のシート面の面積×100。前記面積は、シートの両表面(表面と裏面)の面積の平均面積を意味する。
このように湿熱収縮処理されたウェブ絡合シートは、海島型繊維の熱変形温度以上の温度で加熱ロールや加熱プレスすることにより、さらに、繊維密度が高められてもよい。湿熱収縮処理前後におけるウェブ絡合シートの目付量の変化としては、収縮処理後の目付量が、収縮処理前の目付量に比べて、1.2倍(質量比)以上、さらには、1.5倍以上で、4倍以下、さらには3倍以下であることが好ましい。
(4)繊維束結着工程
ウェブ絡合シートの極細繊維化処理を行う前に、ウェブ絡合シートの形態安定性を高める目的や、得られる研磨パッドの空隙率を低減させることを目的として、収縮処理されたウェブ絡合シートに高分子弾性体の水性液を含浸および乾燥凝固させることにより、予め、繊維束を結着させておいてもよい。
本工程においては、収縮処理されたウェブ絡合シートに第1の高分子弾性体の水性液を含浸させ、乾燥凝固させることにより、ウェブ絡合シートに高分子弾性体を充填する。水性液の状態で高分子弾性体を含浸させ、乾燥凝固させることにより、高分子弾性体を形成することができる。第1の高分子弾性体の水性液は、高濃度で粘度が低く、含浸浸透性にも優れているために、高充填しやすい。また、繊維に対する接着性にも優れている。従って、本工程により充填された高分子弾性体は、長繊維の海島型繊維を強固に拘束する。
また、本工程においては、ウェブ絡合シートに含浸された第1の高分子弾性体の水溶液中の水分は低温でゲル化する。そのために、水分の蒸発の進行に伴い、ウェブ絡合シート中の高分子弾性体が表層に移動するマイグレーションを防ぐことができる。不織布中のエマルジョンがマイグレーションした場合には、ウェブ絡合シートの表層付近に高分子弾性体が偏在し中層付近の高分子弾性体が少なくなり、中層付近に空隙が残りやすい。中層付近に空隙が残った場合には、研磨スラリー砥粒が中層に堆積しやすくなり、研磨レートの経時安定性が低下する。このようなマイグレーションは、第1の高分子弾性体の水溶液にゲル化剤を配合して乾燥前に第1の高分子弾性体の水溶液をゲル化させることにより抑制される。
ゲル化剤としては、高分子弾性体の水溶液の粒子が加熱によりゲル化する程度に、高分子弾性体の水溶液のpHを変化させる水溶性の塩であれば特に限定なく用いられる。その具体例としては、一価または二価の無機塩類である、例えば、硫酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、炭酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、酸化亜鉛、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、塩化カリウム、炭酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸鉛等が挙げられる。
そして、ウェブ絡合シートに第1の高分子弾性体の水溶液を含浸させた後、加熱することにより、ウェブ絡合シート中で第1の高分子弾性体の水溶液がゲル化する。このようなゲル化のための加熱条件としては、例えば、40〜90℃、さらには50〜80℃で0.5〜5分間程度保持するような条件が好ましく用いられる。また、表層からの急激な水分の蒸発による高分子弾性体の水溶液のマイグレーションを抑制しながら、内層も均質に加熱することができる点から、スチームで加熱することが好ましい。
そして第1の高分子弾性体の水溶液をゲル化させた後、加熱乾燥することにより高分子弾性体を凝固させる。
加熱乾燥としては、熱風乾燥機等の乾燥装置中で加熱乾燥する方法や、赤外線加熱の後に乾燥機中で加熱乾燥する方法等が挙げられる。加熱乾燥の条件としては、例えば、最高温度が130〜160℃、さらには135〜150℃になるように、2〜10分間で加熱するような条件が挙げられる。加熱乾燥により、第1の高分子弾性体の水溶液中の水分を蒸発させて高分子弾性体を均一に凝集させることにより、ウェブ絡合シート中に高分子弾性体を厚み方向においても均質に付与することができPc(中間層の空隙率(Pb)/全層の空隙率(Pa))が0.35以下とすることが可能となる。なお、Pcを0.35以下とすることで、研磨パッドの表裏面に対して、中間部分が空隙が少なく、経時的にスラリーが中層に滞積することが抑制され経時的な研磨レートの低下を防止することが可能となった。Pcは0.35以下が重要であり、0.34が好ましい。
高分子弾性体の水性液とは、高分子弾性体を形成する成分を水系媒体に溶解した水性溶液、又は、高分子弾性体を形成する成分を水系媒体に分散させた水性分散液である。なお、水性分散液には、懸濁分散液及び乳化分散液が含まれる。特に、耐水性に優れている点から、水性分散液を用いることがより好ましい。水性分散液の粒子径としては平均粒径0.01〜0.2μmであることが、耐水性が向上して研磨中の経時的安定性が向上しやすい点や、繊維束の拘束性が向上して、研磨パッドの剛性が適度になる点から好ましい。
例えば、ポリウレタン系樹脂を水性溶液または水性分散液にする方法は、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基などの親水性基を有するモノマー単位を含有させることにより、水性媒体に対する分散性をポリウレタン樹脂に付与する方法、または、ポリウレタン樹脂に界面活性剤を添加して、乳化又は懸濁させる方法が挙げられる。また、このような水性の高分子弾性体は水に対する濡れ性に優れていることにより、砥粒を均一且つ多量に保持する特性に優れている。
乳化又は懸濁に用いられる界面活性剤の具体例としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレントリデシルエーテル酢酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体などのノニオン性界面活性剤などが挙げられる。また、反応性を有する、いわゆる反応性界面活性剤を用いてもよい。また、界面活性剤の曇点を適宜選ぶことにより、ポリウレタン樹脂に感熱ゲル化性を付与することもできる。ただし、多量に界面活性剤を用いた場合には、研磨性能やその経時安定性へ悪影響を与える場合も有る為、必要最小限とするのが好ましい。
本工程においては、高分子弾性体を形成するために、従来一般的に用いられている高分子弾性体の有機溶媒溶液を用いる代わりに、高分子弾性体の水性液を用いることが好ましい。このように高分子弾性体の水性液を用いることにより、より高い濃度で高分子弾性体を含有する樹脂液を含浸させることができる。
前記ウェブ絡合シートに高分子弾性体の水性液を含浸させる方法としては、例えば、ディップ・ニップ、ナイフコーター、バーコーター、又はロールコーターを用いる方法等が挙げられる。
そして、高分子弾性体の水性液が含浸されたウェブ絡合シートを乾燥することにより、高分子弾性体を凝固させることができる。乾燥方法としては、50〜200℃の乾燥装置中で熱処理する方法や、赤外線加熱の後に乾燥機中で熱処理する方法等が挙げられる。
(5)極細繊維形成工程
次に、水溶性熱可塑性樹脂を熱水中で溶解することにより、極細繊維を形成する工程である、極細繊維形成工程。
本工程は、水溶性熱可塑性樹脂を除去することにより極細繊維を形成する工程である。このとき、ウェブ絡合シートの水溶性熱可塑性樹脂が溶解抽出された部分に空隙が形成される。そして、この空隙に、後述の高分子弾性体充填工程において、高分子弾性体を充填することにより、極細繊維が拘束される。
極細繊維化処理は、ウェブ絡合シート又は、ウェブ絡合シートと高分子弾性体との複合体を、水、アルカリ性水溶液、酸性水溶液等で熱水加熱処理することにより、水溶性熱可塑性樹脂を溶解除去、または、分解除去する処理である。
熱水加熱処理条件の具体例としては、例えば、第1段階として、65〜90℃の熱水中に5〜300秒間浸漬した後、さらに、第2段階として、85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することが好ましい。また、溶解効率を高めるために、必要に応じて、ロールでのニップ処理、高圧水流処理、超音波処理、シャワー処理、攪拌処理、揉み処理等を行ってもよい。
本工程においては、海島型繊維から水溶性熱可塑性樹脂を溶解して極細繊維を形成する際に、極細繊維が大きく捲縮される。この捲縮により繊維密度が緻密になるために、高密度の繊維絡合体が得られる。
(6)上記の極細繊維形成体を、熱プレスすることにより上記の極細繊維形成体の空隙量を減少させるとともに、剛性を高くするする工程。
極細繊維形成体の内部に存在する空隙は、硬度や硬度の均質性を低下させる。本工程においては、上述した極細繊維形成体を熱プレスすることにより、空隙を減少させる。このように空隙を減少させることにより、極細繊維形成体の見掛け密度が高くなり、JISD硬度50以上とすることができ、硬度や硬度の均質性及び剛性が高くなる。熱プレス処理条件としては、極細繊維及び高分子弾性体が分解しない温度として、例えば150〜170℃に加熱された金属ロールで線圧30〜100kg/cmでプレスするような条件が好ましい。
(7)高分子弾性体充填工程
次に、極細繊維から形成される極細繊維束内部に高分子弾性体を充填することにより、極細繊維を拘束するとともに、極細繊維束を拘束し、かつ極細繊維束同士を結着する工程について説明する。
極細繊維形成工程(5)において、海島型繊維に極細繊維化処理を施すことにより、水溶性熱可塑性樹脂が除去されて極細繊維束の内部に空隙が形成される。本工程においては、このような空隙に高分子弾性体を充填することにより、Pc(中間層の空隙率(Pb)/全層の空隙率(Pa))が0.35以下とすることが可能となり、極細繊維束同士を結着することで、繊維複合研磨パッドの空隙率を低下させ、JISD硬度50以上とすることができ、曲げ弾性率が向上する。なお、極細繊維が繊維束を形成している場合には、毛細管現象により高分子弾性体の水性液が含浸されやすいので極細繊維はより集束されて拘束されやすい。
更に上記パッドは、研磨初期(研磨時間0.5時間後)の研磨速度Taに対する研磨後期(研磨時間6時間後)の研磨速度Tbの研磨速度比率(Tb/Ta)が、0.85以上であることが好ましく、0.90以上であることがより好ましい。0.85以上にすることによって、長寿命のパッドが得られ、研磨初期から研磨後期まで安定した研磨レートが得られる。
本工程に用いられる第2の高分子弾性体の水性液、ゲル化剤は、繊維束結着工程(4)で説明した高分子弾性体の水性液、ゲル化剤と同様のものが用いられる。なお、異なる組成であってもよい。
本工程において極細繊維から形成される極細繊維束内部に第2の高分子弾性体を充填する方法は、繊維束結着工程(4)で用いられる方法と同様の方法が適用できる。このようにして、繊維複合研磨パッドが形成される。
[繊維複合研磨パッドの後加工]
得られた中間体研磨パッドは、以下に示すような処理を施すことにより、繊維複合研磨パッドが得られる。
平坦化処理は、得られた中間体研磨パッドを所定の厚みにするため、サンドペーパー等により表面に機械的な摩擦力や研磨力を与えて、集束された極細繊
維を分繊する処理である。繊維複合研磨パッドとしては、厚み0.5〜3mm程度に研削加工されたものであることが好ましい。また、後述の起毛処理で研磨面の算術平均表面粗さ(Sa)10μm以上のような表面を得るためには、#60〜#240、さらには#60〜#120のような粗目〜中目のサンドペーパーを使用することが好ましい。
起毛処理とは、ダイヤモンド等のドレッサーを用いた研磨前のシーズニング処理(コンディショニング処理)であり、研磨前の繊維複合研磨パッド表面を算術平均表面粗さ(Sa)10μm以上にするため、#60〜#325、さらには、#60〜#270のような粗目〜中目のダイヤモンド等ドレッサーを使用することが好ましい。
表面処理は、砥粒スラリーの保持性や排出性を調整するために研磨パッド表面に、格子状、同心円状、渦巻き状等の溝や孔を形成する処理である。
洗浄処理は、得られた研磨パッドに付着しているパーティクルや金属イオン等の不純物を、冷水或いは温水で洗浄したり、或いは、界面活性剤等の洗浄作用を有する添加剤を含んだ水溶液或いは溶剤で洗浄処理したりする加工である。
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
[評価方法]
はじめに、本実施例における評価方法をまとめて説明する。
(1)極細繊維の平均繊度、および、繊維束内部の極細繊維の集束状態の確認
得られた繊維複合研磨パッドをカッター刃を用いて厚み方向に切断することにより、厚み方向の切断面を形成した。そして、得られた切断面を酸化オスミウムで染色した。そして、前記切断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で500〜1000倍で観察し、その画像を撮影した。そして、得られた画像から切断面に存在する極細繊維の断面積を求めた。ランダムに選択した100個の断面積を平均した値を平均断面積とし、繊維を形成する樹脂の密度から平均繊度を算出した。また、繊維束内部の極細繊維の集束状態を画像から確認した。
(2)繊維複合研磨パッドの見掛け密度
繊維複合研磨パッドの単位面積あたりの質量(g/cm2)を厚さ(cm)で除した値を見掛け密度(g/cm3)とした。そして、繊維複合研磨パッドの任意の10箇所について見掛け密度を測定して算術平均した値を見掛け密度とした。なお、厚さは、JISL1096に準じて荷重240gf/cm2で測定した。
(3)繊維複合研磨パッドの表面のJISD硬度
JISK7311に準じて繊維複合研磨パッドの表面のD硬度を測定した。具体的には、繊維複合研磨パッドの表面のD硬度は、厚さ約1.5mmの繊維複合研磨パッドを4枚重ね、幅方向に均等に3点の硬度を測定し、その平均を繊維複合研磨パッドの表面のJISD硬度とした。
(4)繊維複合研磨パッドの表面粗さ(算術平均粗さ:Sa)
菱化システム社製の表面・層断面形状計測システム「VertScan2.0(R5500G)」を使用して繊維複合研磨パッドの表面粗さ(算術平均粗さ:Sa、)を測定した。測定箇所は、ランダムに選択した5箇所とし、得られた画像から前述の表面粗さを解析した。
(5)研磨レート
円形状にカットした繊維複合研磨パッドの裏面に粘着テープを貼り付けた後、CMP研磨装置(株式会社ナノファクター製「NF−300HP」)に装着した。次に、プラテン回転数70回転/分、ヘッド回転数69回転/分、研磨圧力130g/cm2の条件において、昭和電工社製研磨スラリー「SHOROX A−31」を300ml/分の速度で供給しながら、直径4インチの液晶ガラスを0.5時間間研磨した。そして、研磨後の液晶ガラスの面内の任意の25点の厚みを測定し、各点における研磨された厚みを研磨時間で除することにより研磨レート(nm/分)を求めた。
そして、研磨を0.5時間毎に研磨レート求め、累積6時間までの各研磨レート求め、下記式により研磨レート比を求めた。値が小さいほど、研磨レートの経時安定性が良好で、パッド寿命が長いことを示す。
研磨レート比=研磨時間0.5時間後/研磨時間6時間後
(6)繊維複合研磨パッドの断面の空隙率
(全層の空隙率Pa、中間層の空隙率Pbの測定及びPc(Pb/Pa)の算出)
空隙率は、次のようにして求められる。繊維複合研磨パッドの厚み方向の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて100倍で撮影する。そして、得られた写真を厚み方向の断面を均等に3分割したときの両表面層を除いたものを中間層とした。画像解析ソフトImageJを用いて、画像を二値化して空隙部を特定し空隙部の面積の合計を空隙量として算出した。そして、得られた中間層と全層の空隙量を各領域の断面積で割った値をそれぞれ中間層の空隙率(Pb)、全層の空隙率(Pa)とし、Pc(中間層の空隙率(Pb)/全層の空隙率(Pa))を求めた。
[実施例1]
水溶性熱可塑性ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA系樹脂という)と、変性度6モル%のイソフタル酸変性ポリエチレンテレフタレ−ト(以下、変性PETという)とを25:75(質量比)の割合で溶融複合紡糸用口金から吐出することにより、海島型繊維を形成した。なお、溶融複合紡糸用口金は、島数が64島/繊維で、口金温度は260℃であった。そして、紡糸速度3700m/minとなるように調整して、平均繊度2.0dtexの長繊維をネット上に捕集することにより、目付量40g/m2のスパンボンドシート(長繊維ウェブ)が得られた。
得られたスパンボンドシートをクロスラッピングにより12枚重ねて、総目付が480g/m2の重ね合わせウェブを作製した。そして、得られた重ね合わせウェブに、針折れ防止油剤をスプレーした。次に、バーブ数1個でニードル番手42番のニードル針およびバーブ数6個でニードル番手42番のニードル針を用いて、重ね合わせウェブを2000パンチ/cm2でニードルパンチ処理して絡合させることにより、ウェブ絡合シートを得た。得られたウェブ絡合シートの目付量は750g/m2であった。また、ニードルパンチ処理による面積収縮率は38%であった。
次に、得られたウェブ絡合シートを70℃、90%RHの条件で90秒間スチーム処理した。このときの面積収縮率は47%であった。そして、120℃のオーブン中で乾燥させた後、120℃で熱プレスすることにより、目付量1300g/m2、見掛け密度0.57g/cm3、厚み2.3mmのウェブ絡合シートを得た。
次に、熱プレスされたウェブ絡合シートに、第1のポリウレタン弾性体として、ポリウレタン弾性体Aの水性分散液(固形分濃度20質量%)を含浸させた。なお、ポリウレタン弾性体Aは、非晶性ポリカーボネート系ポリオールと、炭素数2〜3のポリアルキレングリコールを、99.7:0.3(モル比)し、カルボキシル基含有モノマーを重量比で1.5wt%含有した非晶性ポリカーボネート系無黄変型ポリウレタン樹脂である。また、ポリウレタン弾性体Aの水性分散液は、ゲル化剤として硫酸アンモニウム3質量部を含有している。
次に、第1のポリウレタン弾性体が含浸されたウェブ絡合シートを90℃、50%RH雰囲気下で加熱することにより第1のポリウレタン弾性体をゲル化させ、さらに、150℃で乾燥処理し、目付量1490g/m2、見掛け密度0.75g/cm3、厚み2.0mmのシートを得た。
次に、ポリウレタン弾性体Aが充填されたウェブ絡合シートを95℃の熱水中に浸漬しながらニップ処理を10分間連続的に行うことによりPVA系樹脂を溶解除去し乾燥させ、さらに、150℃で熱プレスすることにより、極細繊維の平均繊度が0.04dtex、目付量1180g/m2、見掛け密度0.59g/cm3、厚み2.0mmである、ポリウレタン弾性体Aと繊維絡合体との複合体を得た。
そして、前記複合体に、第2のポリウレタン弾性体として、ポリウレタン弾性体B(固形分濃度20質量%)の水性分散液を含浸させた。なお、ポリウレタン弾性体Bは非晶性ポリカーボネート系ポリオールをポリオール成分とし、カルボキシル基含有モノマーを1.7質量%含有する組成物から得られた無黄変型ポリウレタン樹脂100質量部にカルボジイミド系架橋剤3質量部を添加して、熱処理することにより架橋構造を形成させたポリウレタン樹脂である。また、ポリウレタン弾性体Bの水性分散液は、ゲル化剤として硫酸アンモニウム3質量部を含有している。
次に、第1のポリウレタン弾性体と同様に、含浸されたウェブ絡合シートを90℃、50%RH雰囲気下で加熱することにより第2のポリウレタン弾性体をゲル化させ、さらに、150℃で乾燥処理することにより、繊維複合研磨パッド前駆体が得られた。得られた研磨パッド前駆体は、目付量1430g/m2、見掛け密度0.79g/cm3、厚さ1.8mmであった。なお、繊維絡合体とポリウレタン弾性体との質量比率は77/23であり、高分子弾性体Aと高分子弾性体Bの比率は51:49であった。
得られた研磨パッド前駆体を、表面平坦化のためのサンドペーパーを用いて研削加工を行って、目付量1200g/m2、見掛け密度0.80g/cm3、厚さ1.5mmとし、さらに、直径30cmの円形状に切断され、表面に幅2.0mm、深さ1.0mmの溝を格子状に15.0mm間隔で形成することにより、円形状の研磨パッドが得られた。さらに、ダイヤモンドドレッサーを用いた研磨前のシーズニング処理(コンディショニング処理)を行って、パッド表面を算術平均表面粗さ(Sa)を19.7μmにした。そして、前述の方法により研磨評価を実施した。得られた断面の顕微鏡画像を観察したところ、繊維束の外周を構成する極細繊維のみならず、内部の極細繊維同士が高分子弾性体によって接着一体化されている状態が観察された。なお、研磨におけるスラリーとしては、セリア7質量%を含有する、昭和電工(株)製研磨スラリー「SHOROX A−31」を用いた。結果を表1に示す。
[実施例2]
実施例1のPVA系樹脂を溶解除去・乾燥後の150℃熱プレス、及びポリウレタン弾性体Bの水性分散液の含浸を後述の方法で処理した以外は、実施例1と同様の方法で研磨パッドを作製し、研磨評価を実施した。結果を表1に示す。熱プレスを実施例1よりも弱めて熱プレスすることで、目付量1130g/m2、見掛け密度0.59g/cm3、厚み1.9mmである、ポリウレタン弾性体Aと繊維絡合体との複合体を得た。また、ポリウレタン弾性体Bの水性分散液の固形分濃度23質量%に変更した。そして、含浸されたウェブ絡合シートを90℃、50%RH雰囲気下で加熱することにより第2のポリウレタン弾性体をゲル化させ、さらに、150℃で乾燥処理することにより、目付量1380g/m2、見掛け密度0.77g/cm3、厚み1.8mmの繊維複合研磨パッド前駆体が得られた。
得られた研磨パッド前駆体を、実施例1と同様に表面平坦化以降の工程を行い、円形状の研磨パッドが得られた。さらに、ダイヤモンドドレッサーを用いた研磨前のシーズニング処理(コンディショニング処理)を行って、パッド表面を算術平均表面粗さ(Sa)を11.5μmにした。そして、前述の方法により研磨評価を実施した。得られた断面の顕微鏡画像を観察したところ、繊維束の外周を構成する極細繊維のみならず、内部の極細繊維同士が高分子弾性体によって接着一体化されている状態が観察された。なお、研磨におけるスラリーとしては、セリア7質量%を含有する、昭和電工(株)製研磨スラリー「SHOROX A−31」を用いた。結果を表1に示す。
[比較例1]
実施例1のダイヤモンドドレッサーを用いた研磨前のシーズニング処理(コンディショニング処理)時間を変更した以外は、実施例2と同様の方法で研磨パッドを作製し、研磨評価を実施した。研磨前のシーズニング処理(コンディショニング処理)後のパッド表面の算術平均表面粗さ(Sa)は8.2μmであった。結果を表1に示す。
[比較例2]
ポリウレタン弾性体Bの水性分散液にゲル化剤を添加しない以外は、実施例2と同様の方法で研磨パッドを作製し、研磨評価を実施した。結果を表1に示す。
[比較例3]
ウェブ絡合シートの湿熱収縮率を47%に代えて、25%とした以外は、実施例1と同様の方法で研磨パッドを作製し、研磨評価を実施した。結果を表1に示す。