(第1実施例)図面を参照して第1実施例の電力変換器を説明する。第1実施例の電力変換器は、昇圧コンバータ10である。図1に、昇圧コンバータ10の回路図を示す。昇圧コンバータ10の低電圧端12にバッテリ90が接続されている。図示を省略しているが、高電圧端13には、インバータなどの負荷が接続される。昇圧コンバータ10は、低電圧端12に印加された電圧を昇圧して高電圧端13から出力することができるデバイスである。なお、低電圧端12の正極と負極をそれぞれ低圧正極端12aと低圧負極端12bと称し、高電圧端13の正極と負極をそれぞれ高圧正極端13aと高圧負極端13bと称する。低圧負極端12bと高圧負極端13bは、共通負極線14で直接に接続されている。
昇圧コンバータ10は、第1下スイッチング素子31、第2下スイッチング素子32、第1下ダイオード41、第2下ダイオード42、第1上ダイオード43、第2上ダイオード44、トランス2、フィルタコンデンサ20、平滑コンデンサ50を備えている。
第1下スイッチング素子31の負電極は共通負極線14(高圧負極端13b)に接続されている。第1下スイッチング素子31の正電極は第1上ダイオード43のアノードに接続されている。第1上ダイオード43のカソードは高圧正極端13aに接続されている。第1下スイッチング素子31と第1上ダイオード43の直列回路の中点を第1中点27と称する。第1下ダイオード41は第1下スイッチング素子31に逆並列に接続されている。すなわち、第1下ダイオード41のアノードが第1下スイッチング素子31の負電極に接続されており、第1下ダイオード41のカソードは第1下スイッチング素子31の正電極に接続されている。
第2下スイッチング素子32の負電極は共通負極線14(高圧負極端13b)に接続されている。第2下スイッチング素子32の正極端は第2上ダイオード44のアノードに接続されている。第2上ダイオード44のカソードは高圧正極端13aに接続されている。第2下スイッチング素子32と第2上ダイオード44の直列回路の中点を第2中点28と称する。第2下ダイオード42が第2下スイッチング素子32に逆並列に接続されている。すなわち、第2下ダイオード42のアノードが第2下スイッチング素子32の負極端に接続されており、第2下ダイオード42のカソードは第2下スイッチング素子32の正極端に接続されている。第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32は、高圧正極端13aと高圧負極端13bの間で並列に接続されている。
第1、第2上ダイオード41、42、第1、第2下スイッチング素子31、32の接続関係を別言すると以下の通りである。第1上ダイオード43と第2上ダイオード44のカソードが高圧正極端13aに接続されている。第1上ダイオード43のアノードが第1下スイッチング素子31の正電極に接続されており、第2上ダイオード44のアノードが第2下スイッチング素子32の正電極に接続されている。第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32の負電極は高圧負極端13bに接続されている。
第1、第2下スイッチング素子31、32は、ともに、n型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)である。第1、第2下スイッチング素子31、32は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)など、別のタイプのスイッチング素子であってもよい。n型MOSFETの場合、スイッチング素子の正電極はドレインと呼ばれ、負電極はソースと呼ばれる。n型IGBTの場合、スイッチング素子の正電極はコレクタと呼ばれ、負電極はエミッタと呼ばれる。MOSFETの場合は負極端から正極端に電流を流すこともできるが、本明細書では、便宜上、n型スイッチング素子のコレクタあるはドレインを正電端と称する。
トランス2は、2個の(第1コイル4と第2コイル6)が磁気的に結合しているデバイスである。第1コイル4の一端4aは、第1下スイッチング素子31と第1上ダイオード43の直列回路の中点(第1中点27)に接続されている。第2コイル6の一端6aは、第2下スイッチング素子32と第2上ダイオード44の直列回路の中点(第2中点28)に接続されている。第2コイル6の他端6bは、第1コイル4の他端4bに接続されている。第2コイル6の他端6bと第1コイル4の他端4bは、低圧正極端12aに接続されている。
トランス2の第1コイル4と第2コイル6は、巻線の極性が同じである。すなわち、第1コイル4と第2コイル6の一方から他方へ電流が流れたときにはそれぞれが発する磁界が互いに打ち消し合うように磁気的に結合している。逆にいえば、第1コイル4と第2コイル6は、同じ方向(例えば一端4a、6aから他端4b、6bへ向かう方向)の電流が流れたときに第1コイル4が発生する磁界と第2コイル6が発生する磁界が強め合うように磁気的に結合している。
図2に、トランス2の模式図を示す。第1コイル4と第2コイルがリング状のコア5に巻回されている。第1コイル4の他端4bと第2コイル6の他端6bが接続されている。図2(A)は、第1コイル4の一端4aから第2コイル6の一端6aへ向けて電流が流れる場合の磁界を示している。このとき、電流は第1コイル4から第2コイル6へと流れる。第1コイル4に流れる電流の向きと第2コイル6に流れる電流の向きは互いに逆方向になる。
第1コイル4の一端4aから他端4bへ向けて電流が流れるとコア5に時計回りの磁界B1が発生する。第2コイル6の他端6bから一端6aへ向けて電流が流れると、コア5に反時計回りの磁界B2が発生する。磁界B1と磁界B2は逆方向になり、互いに弱め合う。ただし、第1コイル4と第2コイル6のそれぞれに漏れ磁束BL1、BL2が存在する。第1コイル4と第2コイル6は同じ規格で作られているが、それの特性には個体差があるため、第1コイル4の漏れ磁束と第2コイル6の漏れ磁束は厳密に同じにならない。それゆえ、第1コイル4が発生する磁束B1と第2コイル6が発生する磁束B2は完全には相殺されず、漏れ磁束に対応する小さいインピーダンスが生じる。すなわち、第1コイル4から第2コイル6へ向けて電流が流れるとき、トランス2は、小さいインダクタンスを有するリアクトルとして働く。
図2(B)は、第1コイル4の一端4aと第2コイル6の一端6aから同じ向きに電流が流れる場合の磁界を示している。このとき、第1コイル4と第2コイル6で同じ向きに電流が流れる。第1コイル4が発生する磁界B1と第2コイル6が発生する磁界B2はともに反時計回りとなり、互いに弱め合う。第1コイル4と第2コイル6のそれぞれには漏れ磁束BL1、BL2が存在するが、磁界B1と磁界B2が互いに強め合うので、トランス2は大きな抵抗(インダクタンス)を生じる。すなわち、第1コイル4と第2コイル6に同じ向きに電流が流れる場合、トランス2は、大きいインダクタンスを有するリアクトルとして働く。トランス2のこの作用は、1個のメインリアクトルに2個のサブリアクトルが並列に接続されている回路と同じ働きをする。この点については後述する。
図1に戻って昇圧コンバータ10の回路構成の説明を続ける。フィルタコンデンサ20は低圧正極端12aと低圧負極端12bの間に接続されており、平滑コンデンサ50は高圧正極端13aと高圧負極端13bの間に接続されている。
図1に示されているように、第1上トランジスタ43と第1下スイッチング素子31の直列回路と、第2上トランジスタ44と第2下スイッチング素子32の直列回路は並列に接続されている。図1に示す昇圧コンバータ10は、並列に接続された2個のスイッチング素子31、32に電力が分散されるので、大きな電力を昇圧することができる。なお、図1に示す回路の昇圧動作については図5を参照しつつ後に説明する。
先に述べたように、磁気的に結合している第1コイル4と第2コイル6は、1個のメインリアクトル22と2個のサブリアクトル(第1サブリアクトル24と第2サブリアクトル26)と同じ働きをする。図3に、図1の回路のトランス2をメインリアクトル22とサブリアクトル24、26で表した等価回路図を示す。
メインリアクトル22の一端22aは低圧正極端12aに接続されており、メインリアクトル22の他端22bは、第1サブリアクトル24の他端24bと第2サブリアクトル26の他端26bに接続されている。第1サブリアクトル24の一端24aは、第1下スイッチング素子31と第1上ダイオード43の直列回路の中点(第1中点27)に接続されている。第2サブリアクトル26の一端26aは、第2下スイッチング素子32と第2上ダイオード44の直列回路の中点(第2中点28)に接続されている。メインリアクトル22の一端22aは、トランス2の第1コイル4の他端4bと第2コイル6の他端6bの接続点に対応する。第1サブリアクトル24の一端24aは、第1コイル4の一端4aに対応し、第2サブリアクトル26の一端26aは、第2コイル6の一端6aに対応する。なお、「スイッチング素子とダイオードの直列回路」は、「スイッチング素子とダイオードの直列接続」と換言してもよい。
コントローラ54は、不図示の上位コントローラから昇圧コンバータ10の目標出力を受信する。コントローラ54は、昇圧コンバータ10の出力が目標出力に追従するように、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を制御する。コントローラ54は、第1下スイッチング素子31をオンしてオフした後に第2下スイッチング素子32をオンしてオフすることを繰り返す。別言すれば、コントローラ54は、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を交互にオンオフすることを繰り返す。さらに別言すれば、コントローラ54は、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を交互にスイッチングすることを繰り返す。コントローラ54は、図示は省略しているが、中央演算装置(CPU)と、メモリと、インタフェイスを供えたコンピュータである。
図3の回路(図1の等価回路)はスイッチング損失を低減することができる。図4と図5を参照しつつ、スイッチング損失が低減できるメカニズムを説明する。
図4と図5は、昇圧コンバータ10の動作を説明する図である。図4はメインリアクトル22を流れる電流と第1、第2下スイッチング素子31、32のゲート電圧のタイムチャートである。図5は、図4のタイムチャートの各時刻における電流の流れを示す図である。図4のグラフG1は、メインリアクトル22を流れる電流ILmを示している。グラフG2は、第1サブリアクトル24を流れる電流IL1と第2サブリアクトル26を流れる電流IL2を示している。実線が第1サブリアクトル24を流れる電流IL1を示しており、破線が第2サブリアクトル26を流れる電流IL2を示している。
図1の回路図で説明すると、グラフG1は、トランス2と低圧正極端12aの間を流れる電流である。グラフG2の実線は第1コイル4を流れる電流を示しており、破線は第2コイル6を流れる電流を示している。
グラフG3は第1下スイッチング素子31のゲート電圧Vg31を示しており、グラフG4は第2下スイッチング素子32のゲート電圧Vg32を示している。ゲート電圧のHIGHレベルの期間がスイッチング素子のオン期間に相当し、ゲート電圧のLOWレベルの期間がスイッチング素子のオフ期間に相当する。ゲート電圧Vg31の立ち上がりが、第1下スイッチング素子31がオフからオンに切り換わるタイミングに対応する。ゲート電圧Vg31の立ち下りが、第1下スイッチング素子31がオンからオフに切り換わるタイミングに対応する。ゲート電圧Vg32と第2下スイッチング素子32の間にも同様の関係がある。ゲート電圧Vg31、Vg32は、コントローラ54によって制御される。
図4に示すように、時刻T1で第1下スイッチング素子31がオフからオンに切り換わり、時刻T3で第1下スイッチング素子31がオンからオフに切り換わる。時刻T1から時刻T4の間、第2下スイッチング素子32はオフに保持される。第2下スイッチング素子32は、時刻T4でオフからオンに切り換わり、時刻T6でオンからオフに切り換わる。第1下スイッチング素子31は、時刻T3から時刻T6の間、オフに保持される。別言すれば、第1下スイッチング素子31がオンしてオフしてから第2下スイッチング素子32がオンしてオフする。コントローラ54は、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を交互にオンオフする。別言すれば、コントローラ54は、第1下スイッチング素子31がオンの間、第2下スイッチング素子32をオフに保持し、第2下スイッチング素子32がオンの間、第1下スイッチング素子31をオフに保持する。下スイッチング素子31、32は、時刻T1から時刻T6までの動作を繰り返す。
図5には、時刻T1−T6の各時刻における電流の流れを示してある。なお、図5では、昇圧コンバータ10の回路構成を、図1よりも簡略化して示している。
各時刻における動作を説明する。時刻T1にて第1下スイッチング素子31がオフからオンに切り換わる。第2下スイッチング素子32はオフに保持されている。詳しくは後述するが、第1下スイッチング素子31がオンに切り換わる直前において第1サブリアクトル24には電流が流れていない。即ち、ゼロ電流スイッチング(ZCS:Zero Current Switching)が実現され、スイッチング損失が抑えられる。ゼロ電流スイッチングが実現されるメカニズムについては後述する。
第1下スイッチング素子31がオンに切り換わると、低圧正極端12aからメインリアクトル22、第1サブリアクトル24、第1下スイッチング素子31を通って共通負極線14へ電流IL1が流れ始める。また、時刻T1の直前には、低圧正極端12aからメインリアクトル22、第2サブリアクトル26、第2上ダイオード44を通じて高圧正極端13aへと電流IL2が流れている。時刻T1の直前の状態、即ち、時刻T6における状態については後述する。
時刻T1から時刻T2までの間は、第2サブリアクトル26を流れていた電流が第1サブリアクトル24の側へ移るので、電流IL2が急速に減少し、電流IL1が急速に増加する。この間、メインリアクトル22を流れる電流ILmはほとんど変化しない。なお、電流IL1、IL2の変化率は、第1サブリアクトル24と第2サブリアクトル26のインダクタンスに依存する。第1サブリアクトル24と第2サブリアクトル26のインダクタンスとは、第1コイル4と第2コイル6の個体差に起因する磁束差によってもたらされる。
時刻T2で第2サブリアクトル26を流れる電流IL2がゼロになる。即ち、時刻T2で第2上ダイオード44を流れる電流がゼロになり、第2上ダイオード44がオフに切り換わる。第2上ダイオード44がオフに切り換わる際に逆回復電流がカソードからアノードへ流れる。この逆回復電流はスイッチング損失とノイズの一因となる。しかしながら、第1サブリアクトル24と第2サブリアクトル26のインダクタンスにより、第2上ダイオード44の最大電流変化率が小さくなり、逆回復電流が抑えられる。即ち、磁気的に結合している第1コイル4と第2コイル6によって、第2上ダイオード44がオフするときのスイッチング損失とノイズが抑えられる。
時刻T2以降は、メインリアクトル22の誘導電圧と第1サブリアクトル24の誘導電圧(電流IL1を阻止する方向に作用する誘導電圧)が弱まり、低圧正極端12aから流入する電流が増加する。その結果、メインリアクトル22を流れる電流ILmと第1サブリアクトル24を流れる電流IL1がともに増加する。メインリアクトル22と第1サブリアクトル24の誘導電圧は、第1コイル4の誘導電圧に対応する。
時刻T3に第1下スイッチング素子31がオンからオフに切り換わる。第1下スイッチング素子31がオフに切り換わると、メインリアクトル22と第1サブリアクトル24が電流IL1を流し続ける方向に誘導電圧を生じる。この誘導電圧によって、低圧正極端12aからメインリアクトル22、第1サブリアクトル24、第1上ダイオード43を通じて電流IL1が流れる。第1上ダイオード43を通じて流れる電流IL1によって平滑コンデンサ50(図1参照)が充電され、高圧正極端13aの電圧が上昇する。即ち、低電圧端12に印加された電圧が昇圧されて高電圧端13から出力される。時刻T3以後、メインリアクトル22及び第1サブリアクトル24の誘導電圧(電流IL1を流す方向に作用する誘導電圧)が低下するので、電流IL1が徐々に減少する。このため、メインリアクトル22を流れる電流ILmも徐々に減少する。
時刻T3以後、第1上ダイオード43に電流が流れると、順電圧降下により第1上ダイオード43のカソード電圧がアノード電圧よりも下がる。その結果、メインリアクトル22から第2サブリアクトル26と第2上ダイオード44を通じて電流が流れようとする。しかし、第2サブリアクトル26のインダクタンスにより、メインリアクトル22から第2上ダイオード44へ向かう電流が抑制される。第2サブリアクトル26のインダクタンスの効果により、次の時刻T4の直前に第2サブリアクトル26には電流が流れていない。第2サブリアクトル26のインダクタンスは、第2コイル6のインダクタンスに対応する。
時刻T4にて第2下スイッチング素子32がオフからオンに切り換わる。前述したように、時刻T4の直前にて第2サブリアクトル26には電流が流れていない。従って第2下スイッチング素子32がオンに切り換わる際、ゼロ電流スイッチングが実現される。第2下スイッチング素子32がオンに切り換わるので、低圧正極端12aから、メインリアクトル22、第2サブリアクトル26、及び、第2下スイッチング素子32を通じて共通負極線14へ電流IL2が流れる。時刻T4の直前には第1サブリアクトル24と第1上ダイオード43を通じて電流IL1が流れている。第2下スイッチング素子32がオンに切り換わることで、第1サブリアクトル24を流れていた電流が第2サブリアクトル26の側へと移る。その結果、電流IL1が急速に減少すると同時に電流IL2が急速に増加する。この間、メインリアクトル22を流れる電流ILmほとんど変化しない。
時刻T5で第1サブリアクトル24を流れる電流IL1がゼロになる。即ち、時刻T5で第1上ダイオード43を流れる電流がゼロになり、第1上ダイオード43がオフに切り換わる。このとき逆回復電流がカソードからアノードへ流れる。先に述べたように、逆回復電流はスイッチング損失とノイズの一因となる。しかしながら、第1サブリアクトル24と第2サブリアクトル26のインダクタンスにより、第1上ダイオード43における最大電流変化率が抑制され、逆回復電流が抑制される。その結果、スイッチング損失とノイズが低減できる。先に述べたように、第1サブリアクトル24と第2サブリアクトル26のインダクタンスとは、第1コイル4と第2コイル6の個体差に起因する磁束差によってもたらされる。
時刻T5以降は、メインリアクトル22の誘導電圧と第2サブリアクトル26の誘導電圧(電流IL2を阻止する方向に作用する誘導電圧)が弱まり、低圧正極端12aから流入する電流が増加する。その結果、メインリアクトル22を流れる電流ILmと第2サブリアクトル26を流れる電流IL2がともに増加する。メインリアクトル22と第2サブリアクトル26の誘導電圧は、第2コイル6の誘導電圧に対応する。
時刻T6に第2下スイッチング素子32がオンからオフに切り換わる。第2下スイッチング素子32がオフに切り換わると、メインリアクトル22と第2サブリアクトル26が電流IL2を流し続ける方向に誘導電圧を生じるので、低圧正極端12aからメインリアクトル22、第2サブリアクトル26、第2上ダイオード44を通じて電流IL2が流れる。第2上ダイオード44を通じて流れる電流IL2によって平滑コンデンサ50(図1参照)が充電され、高圧正極端13aの電圧が上昇する。即ち、低電圧端12に印加された電圧が昇圧されて高電圧端13から出力される。時刻T6以後、メインリアクトル22及び第2サブリアクトル26の誘導電圧(電流IL2を流す方向に作用する誘導電圧)が低下するので、電流IL2が徐々に減少する。このため、メインリアクトル22を流れる電流ILmも徐々に減少する。
時刻T6以後、第2上ダイオード44に電流が流れると、順電圧降下により第2上ダイオード44のカソード電圧がアノード電圧よりも下がる。その結果、メインリアクトル22から第1上ダイオード43へ向けて電流が流れようとする。しかし、第1サブリアクトル24のインダクタンスにより、メインリアクトル22から第1上ダイオード43へ向かう電流が抑制される。第1サブリアクトル24のインダクタンスの効果により、次の時刻T1(2周期目の時刻T1)の直前に第1サブリアクトル24には電流が流れていない。第1サブリアクトル24のインダクタンスは、第1コイル4のインダクタンスに対応する。
以後、時刻T1からT6までの動作が繰り返される。このように、コントローラ54は第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を交互にオンオフする。そして、図1の回路を備える昇圧コンバータ10は、磁気的に結合した第1コイル4と第2コイル6によって、スイッチング損失を低減することができる。従来であれば1個のメインリアクトルと2個のサブリアクトルを要したスイッチング損失低減効果を、第1実施例の昇圧コンバータ10では磁気的に結合した2個のコイル(第1コイル4と第2コイル6)で実現している。第1実施例の昇圧コンバータ10は、少ない部品でスイッチング損失を低減できる。
(第2実施例)次に、図6−図8を参照して第2実施例の電力変換器を説明する。第2実施例の電力変換器は、双方向DC−DCコンバータ10aである。以下では、説明の便宜のため、双方向DC−DCコンバータ10aを単純に双方向コンバータ10aと称する。
図6に、双方向コンバータ10aの回路図を示す。双方向コンバータ10aは、図1の回路に第1上スイッチング素子33と第2上スイッチング素子34を加えた構成を備えている。第1上スイッチング素子33は、第1上ダイオード43に対して逆並列に接続されている。第2上スイッチング素子34は、第2上ダイオード44に対して逆並列に接続されている。別言すると、第1上スイッチング素子33は、正電極が第1上ダイオード43のカソードに接続されており、負電極が第1上ダイオード43のアノードに接続されている。第2上スイッチング素子34は、正電極が第2上ダイオード44のカソードに接続されており、負電極が第2上ダイオード44のアノードに接続されている。
第1上スイッチング素子33と第2上スイッチング素子34はn型MOSFETであり、正電極(ドレイン)から負電極(ソース)へ電流を流すことが可能であるとともに、負電極(ソース)から正電極(ドレイン)へ電流を流すこともできる。
双方向コンバータ10aも、第1実施例の昇圧コンバータ10と同様に、トランス2を備えている。トランス2は、巻線の極性が同じ第1コイル4と第2コイル6を備えている。第1コイル4の一端4aは、第1下スイッチング素子31と第1上ダイオード43(第1上スイッチング素子33)の直列回路の中点(第1中点27)に接続されている。第2コイル6の一端6aは、第2下スイッチング素子32と第2上ダイオード44(第2上スイッチング素子34)の直列回路の中点(第2中点28)に接続されている。第2コイル6の他端6bは、第1コイル4の他端4bに接続されている。すなわち、第1コイル4と第2コイル6は、同じ極性の端同士が接続されている。第2コイル6の他端6bと第1コイル4の他端4bは、低圧正極端12aに接続されている。第1コイル4と第2コイル6は、一方から他方へ電流が流れたときにそれぞれが発生する磁界が互いに弱め合うように磁気的に結合している。
図6の回路と等価回路の図を図7に示す。トランス2、すなわち、同じ極性で磁気的に結合している第1コイル4と第2コイル6は、図7に示したメインリアクトル22と2個のサブリアクトル(第1サブリアクトル24と第2サブリアクトル26)と電気的に等価である。
メインリアクトル22の一端22aは低圧正極端12aに接続されており、メインリアクトル22の他端22bは、第1サブリアクトル24の他端24bと第2サブリアクトル26の他端26bに接続されている。第1サブリアクトル24の一端24aは、第1下スイッチング素子31と第1上ダイオード43(第1上スイッチング素子33)の直列回路の中点(第1中点27)に接続されている。第2サブリアクトル26の一端26aは、第2下スイッチング素子32と第2上ダイオード44(第2上スイッチング素子34)の直列回路の中点(第2中点28)に接続されている。
昇圧動作に関しては、図1の昇圧コンバータ10と同じである。一方、高電圧端13に電圧が印加された場合、第1上スイッチング素子33、第2上スイッチング素子34がオンオフすることで、降圧動作が実現される。
図6(図7)の双方向コンバータ10aが昇圧動作を行うとき、第1実施例の昇圧コンバータ10と同じ利点、即ち、スイッチング損失低減効果が得られる。
双方向コンバータ10aは、昇圧動作を行うときに第1上スイッチング素子33と第2上スイッチング素子34を活用することで、第1上ダイオード43と第2上ダイオード44の負荷を軽減することができる。第1上スイッチング素子33と第2上スイッチング素子34を活用した昇圧動作のタイミングチャートを図8に示す。グラフG1からG4は、図4のグラフと同じである。グラフG5は、第1上スイッチング素子33のゲート電圧Vg33を示しており、グラフG6は第2上スイッチング素子34のゲート電圧Vg34を示している。第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32と同様に、ゲート電圧のHIGHレベルの期間がスイッチング素子のオン期間に相当し、ゲート電圧のLOWレベルの期間がスイッチング素子のオフ期間に相当する。ゲート電圧Vg33、Vg34もコントローラ54によって制御される。
コントローラ54は、時刻T3と時刻T4の間で第1上スイッチング素子33をオンに保持する。図8において符号Aが示す箇所がオンに保持される期間である。それ以外の期間は、第1上スイッチング素子33はオフに保持される。第1実施例で説明したように、時刻T3から時刻T4の間、第1上ダイオード43に電流IL1が流れている。この期間に第1上スイッチング素子33をオンに保持することで、電流IL1は第1上ダイオード43と第1上スイッチング素子33に分散して流れる。その結果第1上ダイオード43の負荷が軽減される。
コントローラ54は、時刻T6と時刻T1の間で第2上スイッチング素子34をオンに保持する。図8において符号Bが示す箇所がオンに保持される期間である。それ以外の期間は、第2上スイッチング素子34はオフに保持される。第1実施例で説明したように、時刻T6から時刻T1の間、第2上ダイオード44に電流IL2が流れている。この期間に第2上スイッチング素子34をオンに保持することで、電流IL2は第2上ダイオード44と第2上スイッチング素子34に分散して流れる。その結果第2上ダイオード44の負荷が軽減される。昇圧動作の間、第1上スイッチング素子33と第2上スイッチング素子34を常にオフに保持した場合、双方向コンバータ10aの動作は、図4、図5で説明した動作と同一となる。
(第3実施例)次に、図9−図11を参照して第3実施例を説明する。第3実施例は、インバータ110と交流モータ130で構成されるモータシステム100である。交流モータ130を以下ではモータ130と称する。インバータ110の入力端112の入力正極端112aと入力負極端112bに直流電力が入力される。インバータ110は、入力された直流電力を三相交流に変換し、モータ130に供給する。
インバータ110は、3個のスイッチング回路110a−110cを備えている。スイッチング回路110a−110cは、入力正極端112aと入力負極端112bの間で並列に接続されている。スイッチング回路110a−110cの夫々が直流を交流に変換する。
スイッチング回路110a、110b、110cのそれぞれには、対応するモータ配線120a1、120a2、120b1、120b2、120c1、120c2が接続されている。モータ配線120a1、120a2、120b1、120b2、120c1、120c2の他端は、モータ130に接続されている。モータ130は、3つのコイルセット2a、2b、2cを有している。それぞれのコイルセットは、磁気的に結合されている2個のコイル(第1コイル4と第2コイル6)で構成されている。それぞれのコイルセットの第1コイル4と第2コイル6が磁気的に結合しているので、図9では、コイルセット2aをトランスの記号で表記している。
モータ130の模式図を図10に示す。モータ130は、ステータ131とロータ135を備えている。ステータ131には、3セットのティース132a、132b、132cを備えている。ティース132aに第1コイルセット2aの第1コイル4と第2コイル6が巻回されている。第1コイル4と第2コイル6は、同じ向きに電流が流れたときに互いに強め合う磁界を発生するように巻回されている。第1コイルセット2aの第1コイル4の一端がモータ配線120a1に接続されており、第2コイル6の一端はモータ配線120a2に接続されている。第1コイルセット2aの第1コイル4の他端は第2コイル6の他端に接続されている。別言すれば、第1コイル4と第2コイル6は、一方から他方に電流が流れたときにそれぞれが発する磁界が互いに打ち消し合うように巻回されている。
第2コイルセット2bも第1コイルセット2aと同様である。ティース132bに第2コイルセット2bの第1コイル4と第2コイル6が巻回されている。第1コイル4と第2コイル6は、同じ向きに電流が流れたときに互いに強め合う磁界を発生するように巻回されている。第2コイルセット2bの第1コイル4の一端がモータ配線120b1に接続されており、第2コイル6の一端はモータ配線120b2に接続されている。第2コイルセット2bの第1コイル4の他端は第2コイル6の他端に接続されている。
第3コイルセット2cの接続関係も第1コイルセット2aの接続関係と同じであるので説明は割愛する。第1−第3コイルセット2a−2cの第1コイル4と第2コイル6の他端は一点で接続されている。図9に示したように、3個のコイルセット2a−2cは、スター結線されている。
次に、スイッチング回路110a、110b、110cについて説明する。なお、スイッチング回路110a、110b、110cの構成は同じであるので、以下では、スイッチング回路110cについて説明する。
図11に、スイッチング回路110cの回路図を示す。第1コイルセット2aは、第1実施例の昇圧コンバータ10のトランス2と同様の構成であり、メインリアクトルと2個のサブリアクトルの等価回路で表すことができる。すなわち、コイルセット2cは、1個のメインリアクトル222と2個のサブリアクトル(第1サブリアクトル24cと第2サブリアクトル26c)の等価回路で表すことができる。図11は、コイルセット2cを等価回路で表している。なお、「コイル」と「リアクトル」は、実質的に同一の素子を意味する。
スイッチング回路110cの構成は、図7に示した第2実施例の双方向コンバータ10aの等価回路の構成と同じである。そこで以下では、スイッチング回路110cの構成要素のうち、第2実施例の双方向コンバータ10aの構成要素に対応する構成要素については、第2実施例と同じ参照番号を付して説明する。スイッチング回路110cは、スイッチング素子31〜34を有している。第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32は並列に接続されている。第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32の負電極はインバータ110の入力負極端112bに接続されている。第1下スイッチング素子31に第1下ダイオード41が逆並列に接続されており、第2下スイッチング素子32に第2下ダイオード42が逆並列に接続されている。
第1下スイッチング素子31の正電極に第1上ダイオード43のアノードが接続されており、第2下スイッチング素子32の正電極に第2上ダイオード44のアノードが接続されている。第1上ダイオード43と第2上ダイオード44のカソードはインバータ110の入力正極端112aに接続されている。第1上ダイオード43に第1上スイッチング素子33が逆並列に接続されており、第2上ダイオード44に第2上スイッチング素子34が逆並列に接続されている。
第1下スイッチング素子31と第1上ダイオード43の直列回路の中点(第1中点27)にモータ配線120c1の一端が接続されており、モータ配線120c1の他端に第1サブリアクトル24c(第1コイル4)の一端が接続されている。第2下スイッチング素子32と第2上ダイオード44の直列回路の中点(第2中点28)にモータ配線120c2の一端が接続されており、モータ配線120c2の他端に第2サブリアクトル26c(第2コイル6)の一端が接続されている。第1サブリアクトル24cの他端と第2サブリアクトル26cの他端はメインコイル222cの一端に接続されている。
スイッチング回路110aとコイルセット2aの関係、及び、スイッチング回路10bとコイルセット2bの関係も、スイッチング回路110cとコイルセット2cの関係と同じである。コイルセット2cの等価回路のメインコイル222cの他端は、コイルセット2aの等価回路のメインコイル222aの他端、及び、コイルセット2bの等価回路のメインコイル222bの他端とスター結線されている。
良く知られているように、インバータは、2個のスイッチング素子の直列回路の組を3組備えている。インバータの正極端側のスイッチング素子は上アームスイッチング素子と呼ばれており、インバータの負極端側のスイッチング素子は下アームスイッチング素子と呼ばれている。夫々のスイッチング素子にはダイオードが逆並列に接続されている。そのダイオードは還流ダイオードと呼ばれている。
図8−図11から明らかな通り、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32は下アームスイッチング素子に対応し、第1上スイッチング素子33と第2上スイッチング素子34は上アームスイッチング素子に対応する。第1、第2上ダイオード43、44は、上アームスイッチング素子に逆並列に接続される還流ダイオードに対応する。第1、第2下ダイオード41、42は、下アームスイッチング素子に逆並列に接続される還流ダイオードに対応する。
コントローラ54は、第1下スイッチング素子31をオンしてオフした後に第2下スイッチング素子32をオンしてオフする。また、コントローラ54は、第1下スイッチング素子31の駆動信号の相補信号で第1上スイッチング素子33をオンオフし、第2下スイッチング素子32の駆動信号の相補信号で第2上スイッチング素子34をオンオフする。「相補信号」とは、元の信号のHIGHレベルとLOWレベルを逆転させた信号である。結局、コントローラ54は、第2上スイッチング素子34をオンしてオフした後に第1上スイッチング素子33をオンしてオフする。別言すれば、コントローラ54は、第1下スイッチング素子31の駆動信号と逆位相で第1上スイッチング素子33をオンオフし、第2下スイッチング素子32の駆動信号と逆位相で第2上スイッチング素子34とオンオフする。
スイッチング回路110a、110bのスイッチング素子についても同様である。コントローラ54は、3個のスイッチング回路110a−110cを120度の位相差で駆動する。そうすると、3個のスイッチング回路110a−110cの夫々から、120度の位相差を有する交流(即ち三相交流)が出力される。
メインリアクトル222a−222cは第1実施例のメインリアクトル22と同様に所定のインダクタンスを有している。そして、コントローラ54は、並列に接続されている第1下スイッチング素子31をオンしてオフした後に第2下スイッチング素子32をオンしてオフする。それゆえ、モータ130とインバータ110を有しているモータシステム100は、第2実施例の双方向コンバータ10aと同様に、3個のコイルセット2a−2cによってスイッチング損失を低減することができる。モータシステム100は固有のサブリアクトルを備えることなく、スイッチング損失を抑えることができる。即ち、モータシステム100は従来よりも少ない部品数でスイッチング損失を低減することができる。
(制御の変形例)第1実施例の昇圧コンバータ10のコントローラ54は、第1下スイッチング素子31をオンしてオフした後に第2下スイッチング素子32をオンしてオフすることを繰り返す。昇圧コンバータ10の目標出力が所定の出力閾値よりも大きい場合は、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を同じタイミングでオンオフする制御に切り替えてもよい。第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を同じタイミングでオンオフすると、第1コイル4と第2コイル6に同じ方向の電流が流れる。先に述べたように、第1コイル4と第2コイル6に同じ方向の電流が流れると、それぞれのコイルは互いに強め合う磁界を発生する。その結果、コイルの一端4a、6aとコイルの他端4b、6bの間のインダクタンスが大きくなる。従って、昇圧コンバータ10は大きな電力を出力することができる。2個のスイッチング素子を同時にスイッチングするので、それぞれのスイッチング素子の負荷を抑えることができる。
磁気的に結合している第1コイル4と第2コイル6を備えた昇圧コンバータ10は、制御を切り替えることで、次の利点を得られる。昇圧コンバータ10は、目標出力が閾値よりも小さい場合は第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を交互にスイッチングする。その結果、スイッチングに起因する損失と逆回復電流に起因する損失を抑えることができる。目標出力が閾値よりも大きい場合は、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を同じタイミングでスイッチングする。その結果、大出力が得られるとともに、スイッチング素子の負荷(定常損失)を抑えることができる。
第2実施例の双方向コンバータ10aと第3実施例のモータシステム100についても同様である。すなわち、双方向コンバータ10aあるいはモータシステム100の変形例は、目標出力が閾値よりも小さい間は、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を交互にスイッチングする。その結果、スイッチングに起因する損失と逆回復電流に起因する損失を抑えることができる。双方向コンバータ10aあるいはモータシステム100の変形例は、目標出力が閾値よりも大きい間は、第1下スイッチング素子31と第2下スイッチング素子32を同時にスイッチングする。その結果、大出力が得られるとともに、スイッチング素子の負荷(定常損失)を抑えることができる。
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。実施例の高圧正極端13a、入力正極端112aが正極端の一例であり、高圧負極端13b、入力負極端112bが負極端の一例である。
トランス2と低圧正極端12aの間に別のリアクトルを接続してもよい。トランス2とモータ130のスター結線点の間に別のコイルを接続してもよい。
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。