以下、この発明に係る電力変換装置の各実施の形態について図に基づいて説明する。各図において、同一または相当する部材および部位については、同一符号を付して示す。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る電力変換装置の全体の構成を示す図である。図1に示すように、電力変換装置は、平滑コンデンサ3、第1の電力変換器4a、第2の電力変換器4b、および、制御部5を備えている。電力変換装置は、電源としての直流電源2に接続されている。また、電力変換装置には、負荷として、交流回転機1が接続されている。電力変換装置は、直流電源2からの直流電圧を交流電圧に変換して交流回転機1に供給する。
交流回転機1は、第1の3相巻線U1、V1、W1と第2の3相巻線U2、V2、W2とを有する3相交流回転機である。第1の3相巻線U1、V1、W1と第2の3相巻線U2、V2、W2とは、互いに電気的に接続されることなく、交流回転機1の固定子に納められている。3相交流回転機としては、例えば、永久磁石同期回転機、誘導回転機、同期リラクタンス回転機等が挙げられる。本実施の形態1においては、2つの3相巻線を有する交流回転機であれば、いずれの回転機を交流回転機1として用いてもよい。ここでは、第1の3相巻線と第2の3相巻線との位相差が無い場合を例として説明するが、位相差を付けた場合でも同様の効果が得られることは言うまでもない。
直流電源2は、第1の電力変換器4aおよび第2の電力変換器4bに直流電圧Vdcを出力する。直流電源2は、バッテリー、DC−DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等、直流電圧を出力する全ての機器を含む。
平滑コンデンサ3は、直流電源2に並列に接続され、母線電流の変動を抑制して安定した直流電流を実現する。なお、図1では細かく図示していないが、真のコンデンサ容量C以外に等価直列抵抗RcおよびリードインダクタンスLcが存在する。
第1の電力変換器4aは、上アームの高電位側スイッチング素子Sup1、Svp1、Swp1、および、下アームの低電位側スイッチング素子Sun1、Svn1、Swn1を有している。これらのスイッチング素子をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング素子Sup1〜Swn1と呼ぶこととする。
第1の電力変換器4aには、制御部5から、スイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1、および、Qwn1が入力される。以下、スイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1、および、Qwn1をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング信号Qup1〜Qwn1と呼ぶこととする。第1の電力変換器4aは、インバータである逆変換回路を用いて、スイッチング信号Qup1〜Qwn1に基づいて、スイッチング素子Sup1〜Swn1をオンオフする。第1の電力変換器4aは、これらのオンオフ動作により、直流電源2から入力される直流電圧Vdcを電力変換して、交流電圧を得る。第1の電力変換器4aは、当該交流電圧を、交流回転機1の第1の3相巻線U1、V1、W1に印加し、電流Iu1、Iv1、Iw1を通電させる。
ここで、スイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1、および、Qwn1は、第1の電力変換器4aにおいて、それぞれ、スイッチング素子Sup1、Sun1、Svp1、Svn1、Swp1、および、Swn1をオンオフするためのスイッチング信号である。以後、スイッチング信号Qup1〜Qwn1の値が1ならば、対応するスイッチング素子がオンされ、一方、スイッチング信号Qup1〜Qwn1の値が0ならば、対応するスイッチング素子がオフされるものとする。半導体スイッチング素子Sup1〜Swn1として、半導体スイッチとダイオードとを逆並列に接続したものを用いる。半導体スイッチとしては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOS(Metal-Oxide-Semiconductor)パワートランジスタ等の半導体スイッチを用いる。
第2の電力変換器4bは、高電位側スイッチング素子Sup2、Svp2、Swp2および低電位側スイッチング素子Sun2、Svn2、Swn2を有している。これらのスイッチング素子をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング素子Sup2〜Swn2と呼ぶこととする。第2の電力変換器4bには、制御部5から、スイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2、および、Qwn2が入力される。以下、スイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2、および、Qwn2を、まとめて呼ぶ場合には、スイッチング信号Qup2〜Qwn2と呼ぶこととする。第2の電力変換器4bは、インバータである逆変換回路を用いて、スイッチング信号Qup2〜Qwn2に基づいて、スイッチング素子Sup2〜Swn2をオンオフする。第2の電力変換器4bは、これらのオンオフ動作により、直流電源2から入力される直流電圧Vdcを電力変換して、交流電圧を得る。第2の電力変換器4bは、当該交流電圧を、交流回転機1の第2の3相巻線U2、V2、W2に印加し、電流Iu2、Iv2、Iw2を通電させる。
ここで、スイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2、および、Qwn2は、第2の電力変換器4bにおいて、それぞれ、スイッチング素子Sup2、Sun2、Svp2、Svn2、Swp2、および、Swn2をオンオフするためのスイッチング信号である。以後、スイッチング信号Qup2〜Qwn2の値が1ならば、対応するスイッチング素子がオンされ、一方、スイッチング信号Qup2〜Qwn2の値が0ならば、対応するスイッチング素子がオフされるものとする。半導体スイッチング素子Sup2〜Swn2として、半導体スイッチとダイオードとを逆並列に接続したものを用いる。半導体スイッチとしては、例えば、IGBT、バイポーラトランジスタ、MOSパワートランジスタ等の半導体スイッチを用いる。
次に、制御部5について説明する。制御部5は、電圧指令演算器6と、第1および第2の電圧飽和判定器7aおよび7bと、第1および第2のオフセット演算器8aおよび8bと、オン/オフ信号発生器9とを備えている。
電圧指令演算器6は、外部から入力される制御指令に基づいて、交流回転機1を駆動するための第1の3相巻線U1、V1およびW1に印加する電圧に係る第1の3相電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を演算して、第1のオフセット演算器8aに出力する。電圧指令演算器6は、外部から入力される制御指令に基づいて、交流回転機1を駆動するための第2の3相巻線U2、V2およびW2に印加する電圧に係る第2の3相電圧指令Vu2、Vv2、Vw2を演算して、第2のオフセット演算器8bに出力する。
電圧指令演算器6における、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1、および、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の演算方法としては、例えば、V/F(Voltage/Frequency)制御、電流フィードバック制御などを使用する。
V/F制御では、電圧指令演算器6は、図1における制御指令として、交流回転機1の速度指令または周波数指令fを設定して、電圧指令の振幅を決定する。
一方、電流フィードバック制御では、電圧指令演算器6は、図1における制御指令として、交流回転機1の電流指令を設定する。電圧指令演算器6は、交流回転機1の電流指令と第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1との偏差を零とすべく、比例積分制御によって、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1、Vw1を演算する。また、電圧指令演算器6は、交流回転機1の電流指令と第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2との偏差を零とすべく、比例積分制御によって、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2を演算する。なお、電流Iu1、Iv1およびIw1と、電流Iu2、Iv2およびIw2とは、後述する電流検出器により検出される。
ただし、V/F制御はフィードフォワード制御であるため、第1の3相巻線を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1、および、第2の3相巻線を流れる電流Iu2、Iv2、Iw2の情報は必要としない。よって、V/F制御の場合、第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1、および、第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2の情報を電圧指令演算器6に入力することは必須ではない。
図2の上段のグラフは、電圧指令演算器6が演算した第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1の波形を示す。図2の下段のグラフは、電圧指令演算器6が演算した第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の波形を示す。図2において、横軸は電圧位相θv[deg]を示し、縦軸は直流電圧Vdcの倍数を示す。ここでの第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1、および、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の波形は、すべて、0を基準とした正弦波波形である。また、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1の電圧平均Vave1(=(Vu1+Vv1+Vw1)/3)は0である。同様に、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の電圧平均Vave2(=(Vu2+Vv2+Vw2)/3)は0である。
図1の説明に戻る。第1の電圧飽和判定器7aは、電圧指令演算器6から、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1が入力される。第1の電圧飽和判定器7aは、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1に基づいて、第1の3相巻線U1,V1およびW1が飽和状態か否かを判定する。ここでは、第1の電圧飽和判定器7aは、下式(1)に示す、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1から演算される変調率K1を飽和判定の閾値として用いる。
変調率K1が√3/2以下の範囲であれば、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1の振幅はVdc/2以下となる。そのため、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1を、第1の3相印加電圧として出力しても所望の線間電圧を確保できる。従って、第1の電圧飽和判定器7aは、変調率K1が√3/2以下の場合には、第1の3相巻線U1,V1およびW1が不飽和状態と判定し、変調率K1が√3/2を超えている場合には、第1の3相巻線U1,V1およびW1が飽和状態と判定する。
第2の電圧飽和判定器7bは、電圧指令演算器6から、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2が入力される。第2の電圧飽和判定器7bは、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2に基づいて、第2の3相巻線U2,V2およびW2が飽和状態か否かを判定する。ここでは、第2の電圧飽和判定器7bは、下式(2)に示す、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2から演算される変調率K2を飽和判定の閾値として用いる。
変調率K2が√3/2以下の範囲であれば、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2の振幅はVdc/2以下となる。そのため、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2を、第2の3相印加電圧として出力しても所望の線間電圧を確保できる。従って、第2の電圧飽和判定器7bは、変調率K2が√3/2以下の場合には、第2の3相巻線U2,V2およびW2が不飽和状態と判定し、変調率K1が√3/2を超えている場合には、第2の3相巻線U2,V2およびW2が飽和状態と判定する。
なお、ここでは、第1の電圧飽和判定器7aおよび第2の電圧飽和判定器7bの判定方法として、変調率K1および変調率K2を用いる飽和状態の判定方法について述べたが、回転数または電流など他のデータに基づいて判定しても同様のことがいえる。また、電圧指令演算器6において2軸の電圧指令を生成している場合には、第1の電圧飽和判定器7aおよび第2の電圧飽和判定器7bが、2軸の電圧指令を用いて判定してもよい。
第1のオフセット演算器8aには、電圧指令演算器6から、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1が入力される。第1のオフセット演算器8aは、第1の3相電圧指令Vu1、Vv1およびVw1のそれぞれから、第1のオフセット電圧Voffset1を減算することで、第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’およびVw1’を求める。第1のオフセット電圧Voffset1は、第1の電圧飽和判定器7aから出力される。第1の電圧飽和判定器7aは、第1の3相巻線U1,V1およびW1が不飽和状態と判定した場合には、第1のオフセット電圧Voffset1の値として0を出力する。一方、第1の電圧飽和判定器7aは、第1の3相巻線U1,V1およびW1が飽和状態と判定した場合には、所望の線間電圧を確保できるように、第1のオフセット電圧Voffset1の値として、公知の変調方法に基づく値を出力する。
第2のオフセット演算器8bには、電圧指令演算器6から、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2が入力される。第2のオフセット演算器8bは、第2の3相電圧指令Vu2、Vv2およびVw2のそれぞれから、第2のオフセット電圧Voffset2を減算することで、第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’およびVw2’を求める。第2のオフセット電圧Voffset2は、第2の電圧飽和判定器7bから出力される。第2の電圧飽和判定器7bは、第2の3相巻線U2,V2およびW2が不飽和状態と判定した場合には、第2のオフセット電圧Voffset2の値として0を出力する。一方、第2の電圧飽和判定器7bは、第2の3相巻線U2,V2およびW2が飽和状態と判定した場合には、所望の線間電圧を確保できるように、第2のオフセット電圧Voffset2の値として、公知の変調方法に基づく値を出力する。
オン/オフ信号発生器9は、第1のオフセット演算器8aからの第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’およびVw1’に基づいて、スイッチング信号Qup1、Qun1、Qvp1、Qvn1、Qwp1およびQwn1を出力する。また、オン/オフ信号発生器9は、第2のオフセット演算器8bからの第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’、Vw2’に基づいて、スイッチング信号Qup2、Qun2、Qvp2、Qvn2、Qwp2およびQwn2を出力する。
図3および図4は、オン/オフ信号発生器9の動作説明図である。図3および図4においては、横軸は時間である。
図3において、信号C1は、第1の搬送波信号である。以下では、信号C1を、第1の搬送波信号C1、または、信号C1と呼ぶこととする。信号C1は、キャリア周期Tcの三角波である。信号C1は、時刻t1および時刻t5で最小値−Vdc/2となり、時刻t3で最大値Vdc/2となる。オン/オフ信号発生器9は、信号C1と印加電圧Vu1’とを比較し、印加電圧Vu1’が信号C1より大きければ、「Qup1=1かつQun1=0」を出力する。一方、印加電圧Vu1’が信号C1以下の場合は、オン/オフ信号発生器9は、「Qup1=0かつQun1=1」を出力する。同様に、オン/オフ信号発生器9は、信号C1と印加電圧Vv1’とを比較し、印加電圧Vv1’が信号C1よりも大きければ「Qvp1=1かつQvn1=0」を出力し、印加電圧Vv1’が信号C1以下の場合は「Qvp1=0かつQvn1=1」を出力する。同様に、オン/オフ信号発生器9は、信号C1と印加電圧Vw1’とを比較し、印加電圧Vw1’が信号C1よりも大きければ「Qwp1=1かつQwn1=0」を出力し、印加電圧Vw1’が信号C1以下の場合は「Qwp1=0かつQwn1=1」を出力する。
図4において、信号C2は、第2の搬送波信号である。以下では、信号C2を、第2の搬送波信号C2、または、信号C2と呼ぶこととする。信号C2は、キャリア周期Tcの三角波である。信号C2は、時刻t2で最小値−Vdc/2となり、時刻t4で最大値Vdc/2となる。キャリア周期Tcを360degで表わした場合、信号C2は、信号C1に対して、90degの位相差を有する。オン/オフ信号発生器9は、信号C2と印加電圧Vu2’とを比較し、印加電圧Vu2’が信号C2より大きければ、「Qup2=1かつQun2=0」を出力する。一方、印加電圧Vu2’が信号C2以下の場合は、オン/オフ信号発生器9は、「Qup2=0かつQun2=1」を出力する。同様に、オン/オフ信号発生器9は、信号C2と印加電圧Vv2’とを比較し、印加電圧Vv2’が信号C2よりも大きければ「Qvp2=1かつQvn2=0」を出力し、印加電圧Vv2’が信号C2以下の場合は「Qvp2=0かつQvn2=1」を出力する。同様に、オン/オフ信号発生器9は、信号C2と印加電圧Vw2’とを比較し、印加電圧Vw2’が信号C2よりも大きければ「Qwp2=1かつQwn2=0」を出力し、印加電圧Vw2’が信号C2以下の場合は「Qwp2=0かつQwn2=1」を出力する。なお、ここでは、信号C1に対して90degの位相差を有する信号C2を用いているが、そのとき、高変調率で正弦波変調とすることで母線電流リップルのピーク値を三次高調波重畳時よりも抑制することができる。
次に、図5に、スイッチング信号Qup1〜Qwn1に基づく第1の電圧ベクトル、および、第1の電力変換器4aに流入する第1の母線電流Iinv1と第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1との関係を示す。なお、図5に示した関係は公知の技術なので、ここでは詳細な説明については省略する。図5において、第1の電圧ベクトルにおける添え字(1)は、第1の電圧ベクトルを示すために設けたものであり、後述する第2の電圧ベクトルと区別するために設けている。図5において、V0(1)とV7(1)は零ベクトルであり、第1の電圧ベクトルがこれらに等しい時、第1の母線電流Iinv1は0となる。一方、第1の電圧ベクトルが零ベクトル以外、すなわち、第1の電圧ベクトルがV1(1)〜V6(1)の場合には、第1の電圧ベクトルは有効ベクトルとなる。第1の電圧ベクトルが有効ベクトルの場合、第1の母線電流Iinv1は、第1の3相巻線を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1のうちの1つと等しいか、あるいは、電流Iu1、Iv1およびIw1の符号反転値のうちの1つとなる。従って、第1の3相巻線U1、V1およびW1を流れる電流Iu1、Iv1およびIw1が0でない限り、第1の母線電流Iinv1は0と一致しない。
次に、図6に、スイッチング信号Qup2〜Qwn2に基づく第2の電圧ベクトル、および、第2の電力変換器4bに流入する第2の母線電流Iinv2と第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2との関係を示す。なお、図6に示した関係は公知の技術なので、ここでは詳細な説明については省略する。図6において、第2の電圧ベクトルにおける添え字(2)は、第1の電圧ベクトルを示すために設けたものである。図6において、V0(2)とV7(2)は零ベクトルであり、第2の電圧ベクトルがこれらに等しい時、第2の母線電流Iinv2は0となる。一方、第2の電圧ベクトルが零ベクトル以外、すなわち、第2の電圧ベクトルがV1(2)〜V6(2)の場合には、第2の電圧ベクトルは有効ベクトルとなる。第2の電圧ベクトルが有効ベクトルの場合、第2の母線電流Iinv2は、第2の3相巻線を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2のうちの1つと等しいか、あるいは、電流Iu2、Iv2およびIw2の符号反転値のうちの1つとなる。従って、第2の3相巻線U2、V2およびW2を流れる電流Iu2、Iv2およびIw2が0でない限り、第2の母線電流Iinv2は0と一致しない。
図7は、図2における時刻☆で示す瞬間における、第1の搬送波信号C1、第2の搬送波信号C2、第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’およびVw1’、第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’およびVw2’、第1の母線電流Iinv1、第2の母線電流Iinv2、および、第1の母線電流と第2の母線電流との和Iinv_sumの関係を示している。図7における、電圧ベクトルに関する(a)〜(d)の各モードの定義を以下に示す。ここでは、説明を簡単にするため、力率角を0degとして説明する。
(a):第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bとが共に零ベクトルを出力。
(b):第1の電力変換器4aが有効ベクトル、第2の電力変換器4bが零ベクトルを出力。
(c):第1の電力変換器4aが零ベクトル、第2の電力変換器4bが有効ベクトルを出力。
(d):第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bが共に有効ベクトルを出力。
第2の搬送波信号C2を第1の搬送波信号C1に対して90degずらしたことによって、第2の電力変換器4bが有効ベクトルを出力する期間、すなわち、モード(c)となる期間が、時刻t1の後、時刻t3の前後、および、時刻t5の前へシフトしている。これにより、第1の搬送波信号C1の周期Tcの間に、モード(b)とモード(c)とが、それぞれ、2回ずつ生じている。このように、図7の例では、4つのモードのうち、モード(a)、(b)および(c)が発生している。第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bの有効ベクトル発生区間が重複しなければ、モード(d)は発生しない。
次に、直流電源2の出力電流Ib、平滑コンデンサ3の出力電流Ic、および、第1の母線電流Iinv1と第2の母線電流Iinv2との和Iinv_sumの関係について説明する。図1から分かるように、これらの電流には、Iinv1+Iinv2=Ib+Icの関係が成り立つ。また、直流電源2の出力電流Ibは一定値Idcを出力するため、コンデンサ電流Icは、出力電流Ibに対して、Ic=Iinv1+Iinv2−Idcの関係が成り立つ。一定値Idcは、変調率k、力率角θivおよび電流実効値Irmsを用いて下式(3)で与えられる。
図7では、コンデンサ電流Icと一定値Idcとの偏差が大きくなるモード(d)の区間を無くすことによって、Iv1+Iv2―Idcで表されるコンデンサ電流Icのピーク値を出力する期間を低減できる。つまり、式(3)に示すように、一定値Idcは変調率kと力率角θivとに応じて決まる電流値であり、図7のIinv_sumの平均値である。そのため、モード(d)の区間が低減するように操作した図7の場合には、モード(a)の区間も低減する。その結果、モード(b)とモード(c)との区間が増加となって現れ、平滑コンデンサ3のリップル電流が低減する。
また、モード(d)の無い状態において、母線電流Iinv1およびIinv2の値は、最小値0から最大値√2Irmsまでの範囲になる。変調率kが1/(2√3)未満では、最大値√2Irmと一定値Idcとの偏差が大きく、変調率kが1/(2√3)以上では、最小値0と一定値Idcとの偏差が大きくなる。そのため、変調率kが1/(2√3)前後で、平滑コンデンサ3のリップル電流は極大になる。
電圧位相に応じて有効ベクトル発生区間は変化する。変調率kが√3/4のときの、時刻t1から時刻t5までの期間における各相のスイッチング状態を図8に示す。図8の上段は第1の電力変換器4aの場合を示し、図8の下段は第2の電力変換器4bの場合を示す。第1のオフセット電圧Voffset1を0とした場合、図8の上段に示されるように、U1_OFF、V1_OFF、および、W1_OFFの信号の波形は、時刻t2を中心とした正弦波になり、U1_ON、V1_ON、および、W1_ONの信号の波形は、時刻t4を中心とした正弦波になる。一方、第2のオフセット電圧Voffset2を0とした場合、図8の下段に示されるように、U2_OFF、V2_OFF、および、W2_OFFの信号の波形は、時刻t3を中心とした正弦波になり、U2_ON、V2_ON、および、W2_ONの信号の波形は、時刻t1または時刻t5を中心とした正弦波になる。
図8の2つの図を重ねたものが図9である。図9においては、時刻(t1+t2)/2で、U1_OFF、V1_OFF、および、W1_OFFの信号の波形と、U2_ON、V2_ON、および、W2_ONの信号の波形とが接しており、また、時刻(t3+t4)/2で、U1_ON、V1_ON、および、W1_ONの信号の波形と、U2_OFF、V2_OFF、および、W2_OFFの信号の波形とが接している。しかしながら、変調率kが√3/4を超えると、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bの有効ベクトル発生区間が重複する。
図10に、各状態における母線電流Iinv1およびIinv2について示す。図10の上段は母線電流Iinvを示し、図10の下段は母線電流Iinv2を示す。例えば、電圧位相が0degのとき、母線電流Iinv1およびIinv2は、時刻t1から時刻(3t1+t2)/4までの区間ではIinv1=0、Iinv2=Iu2となり、時刻(t1+3t2)/4から時刻(t2+t3)/2までの区間では、Iinv1=Iu1、Iinv2=0となり、時刻(t2+3t3)/4から時刻(t3+t4)/2までの区間では、Iinv1=0、Iinv2=Iu2となり、時刻(t3+t4)/2から時刻(3t4+t5)/4までの区間では、Iinv1=Iu1、Iinv2=0となり、時刻(t4+t5)/2から時刻t5までの区間では、Iinv1=0、Iinv2=Iu2となり、それ以外の区間ではIinv1=Iinv2=0となる。つまり、第1の母線電流Iinv1および第2の母線電流Iinv2が共に0となるのは、図11のハッチングの領域である。
図12は、変調率kが0.5のときの、時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチング状態を示す。図11の変調率kは、k=√3/4≒0.43であるため、図12の変調率kは、図11の変調率よりも高い。変調率kの値が高くなると、図12に示すように、図11の場合に比べて、U1_OFF、V1_OFF、および、W1_OFFの信号が、時刻(t1+t2)/2より左側に突出してくる。また、同様に、U2_ON、V2_ON、W2_ONの信号が、時刻(t1+t2)/2より右側に突出し、U1_ON、V1_ON、W1_ONの信号が、時刻(t3+t4)/2より左側に突出し、U2_OFF、V2_OFF、W2_OFFの信号が、時刻(t3+t4)/2より右側に突出してくる。その結果、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bの有効ベクトル発生区間が重複し、時刻(t1+t2)/2前後および時刻(t3+t4)/2前後で、モード(d)が発生する。モード(d)の発生箇所は、図12のハッチングの領域である。
ここでは図示は省略するが、図12の場合よりも更に変調率kの値が大きくなると、時刻(t2+t3)/2前後および時刻(t4+t5)/2前後でも、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bの有効ベクトル発生区間が重複し、モード(d)が発生する。つまり、平滑コンデンサ3のリップル電流は、変調率0.5前後を極小として、変調率kが上がるにつれて大きくなる。
特許文献1では、2軸に逆向きのバイアスを加えることで、有効ベクトル発生区間が重複しない変調率の範囲を広げ、それにより、変調率0.5前後に存在する極小値を下げているが、変調率1/(2√3)前後に存在する極大値は、本実施の形態1の電力変換装置と差異は無い。コンデンサの発熱量Qは、リップル電流Icとコンデンサの抵抗成分ESRとを用いて、下式(4)で与えられる。式(4)から分かるように、コンデンサの発熱量Qの変化量は、電流の2乗で効いてくるため、交流回転機の動作範囲においてリップル電流の振幅が小さいところを更に低減するよりも、振幅が大きいところを低減する方が、コンデンサの発熱量Qの積算値を抑制できる。
つまり、本実施の形態1の電力変換装置を用いることで、中性点の電圧変動を抑制して振動および騒音を抑制できると共に、バイアスを加えて発生する熱的アンバランスを追加の処理無く解消できる。
ここまでは、低変調率の場合において、式(3)で表される一定値Idcが小さいために、有効ベクトル発生区間の重複を回避して母線電流Iinv1およびIinv2の絶対値を抑制することで、コンデンサのリップル電流の実効値を下げる場合について説明してきた。しかしながら、高変調率の場合には、式(3)で表される一定値Idcが大きいため、有効ベクトル発生区間の重複したときの母線電流Iinv1と母線電流Iinv2との和Iinv_sumと一定値Idcとの偏差が小さいため、第1の電力変換器4aまたは第2の電力変換器4bのいずれか一方の電力変換器において零ベクトルとなっているときの他方の電力変換器の母線電流の絶対値を大きくすることが重要となる。
以下では、高変調率の場合の一例として、変調率kが0.866(=√3/2)のときを例として本実施の形態1の効果について説明する。
図13は、本実施の形態1における、第1のオフセット電圧Voffset1および第2のオフセット電圧Voffset2を0とした正弦波変調の場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流とを示している。零ベクトルは、第1の電力変換器において、時刻t1、時刻t3、および、時刻t5で発生し、第2の電力変換器においてt2、t4で発生する。
図14は、特許文献1のように、同位相の第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2とを用いた状態で、第1の電力変換器4aと第2の電力変換器4bとで逆のバイアスをかけた場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流Iinv1およびIinv2とを示している。図14の上段は、第1の電力変換器4aの場合を示し、図14の下段は、第2の電力変換器4bの場合を示す。零ベクトルは、図14の上段に示すように、第1の電力変換器4aにおいて、時刻t1および時刻t5で発生し、図14の下段に示すように、第2の電力変換器4bにおいて時刻t3で発生する。
平滑コンデンサ3のリップル電流を低減するには、一方の電力変換器で零ベクトルとなる際に、他方の電力変換器で流れる母線電流の大きさが重要になる。図15は、図13において、一方の電力変換器で零ベクトルの状態となる時刻t1〜時刻t5の期間に流れる母線電流を示している。一方の電力変換器で零ベクトルとなるときに、他方の電力変換器では、電圧位相1周期で6回切り替わる電流絶対値最大相の電流を母線に流しているため、母線電流Iinv2の絶対値が大きい。一方、図16は、図14において、一方の電力変換器で零ベクトルの状態となる時刻t1、t3およびt5で流れる母線電流を示している。一方の電力変換器で零ベクトルを流しているときに、他方の電力変換器では電圧位相1周期で3回切り替わる電流最大相の電流または電流最小相の電流の反転値を母線に流している。そのため、図16においては、図15の場合に比べて、母線電流の絶対値が小さい。つまり、図15において、図16の場合に比べて、平滑コンデンサ3のリップル電流を低減できる。
以上のように、本実施の形態1に係る電力変換装置においては、中性点の電圧変動を抑制して振動または騒音を抑制しつつ、一方の電力変換器において零ベクトルを発生するタイミングに、他方の電力変換器で母線に電流絶対値最大相の電流を流すことで、高変調率における母線電流の振幅を確保して平滑コンデンサ3のリップル電流を低減することができる。
変調率kが0.866において相電圧の振幅はVdc/2となる。変調率kが0.866を超えると、第1のオフセット電圧Voffset1および第2のオフセット電圧Voffset2を0とした正弦波変調では、直流電圧の正極の電位Vdc/2、および、負極の電位−Vdc/2に出力が制限されて、所望の線間電圧を確保できない。この領域では第1のオフセット電圧Voffset1および第2のオフセット電圧Voffset2を操作して変調することで所望の線間電圧を確保して交流回転機の出力を確保する。
例えば、第1の3相電圧指令を大きい順に、Vmax1、Vmid1およびVmin1としたとき、第1のオフセット電圧Voffset1をVmax1−Vdc/2に設定する。また、第2の3相電圧指令を大きい順に、Vmax2、Vmid2およびVmin2としたとき、第2のオフセット電圧Voffset2をVmax2−Vdc/2に設定する。図17に、変調率が1の場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流Iinv1およびIinv2とを示す。零ベクトルは、第1の電力変換器4aではt1およびt5で発生し、第2の電力変換器4bではt2で発生している。第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2との位相差90degの効果によって2つの電力変換器のうち、一方の電力変換器において零ベクトルを発生するときに、他方の電力変換器では母線に電流絶対値最大相の電流を流すことができるため、高変調率においてスイッチングの回数を減らしてスイッチング損失を抑制しつつ平滑コンデンサ3のリップル電流を低減できる。更に、電流検出器を、低電位側スイッチング素子に対して直列に配置し、時刻t1および時刻t5において第1の電力変換器4aの各相の電流を検出するとともに、時刻t2にて第2の電力変換器4bの各相の電流を検出することによって、全ての電圧位相で3相または2相の電流を検出することができる。このように、正弦波変調で出しきれない領域において二相変調とすることで、母線電流リップルを抑制しつつ出力を確保できる。
また、変調率kが1で、第1のオフセット電圧Voffset1をVmin1+Vdc/2に設定し、第2のオフセット電圧Voffset2をVmin2+Vdc/2に設定した場合を考える。その場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流とを図18に示す。図18の上段は、第1の電力変換器4aの場合を示し、図18の下段は、第2の電力変換器4bの場合を示す。零ベクトルは、第1の電力変換器4aでは、時刻t3で発生し、第2の電力変換器4bでは、時刻t4で発生している。第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2との位相差90degの効果によって、一方の電力変換器において零ベクトルを発生するときに、他方の電力変換器では母線に電流絶対値最大相の電流を流すことができる。そのため、高変調率において、スイッチングの回数を減らしてスイッチング損失を抑制しつつ、平滑コンデンサ3のリップル電流を低減できる。更に、低電位側スイッチング素子に直列に配置された電流検出器を用いて、時刻t3において、第1の電力変換器4aの各相の電流を検出し、時刻t4において、第2の電力変換器4bの各相の電流を検出するようにしてもよい。その場合には、全ての電圧位相で3相または2相の電流を検出できる。このように、正弦波変調で出しきれない領域において二相変調とすることで、母線電流リップルを抑制しつつ出力を確保できる。
また、変調率kが1で、第1のオフセット電圧Voffset1をVmax1−Vdc/2に設定し、第2のオフセット電圧Voffset2をVmin2+Vdc/2に設定した場合を考える。その場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流とを図19に示す。図19の上段は、第1の電力変換器4aの場合を示し、図19の下段は、第2の電力変換器4bの場合を示す。零ベクトルは、第1の電力変換器4aでは、時刻t1および時刻t5で発生し、第2の電力変換器では、時刻t4で発生している。第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2との位相差90degの効果によって、一方の電力変換器において零ベクトルを発生するときに、他方の電力変換器では母線に電流絶対値最大相の電流を流すことができる。そのため、高変調率において、スイッチングの回数を減らしてスイッチング損失を抑制しつつ、平滑コンデンサ3のリップル電流を低減できる。更に、低電位側スイッチング素子に直列に配置された電流検出器を用いて、時刻t1および時刻t5において、第1の電力変換器4aの各相の電流を検出し、時刻t4において、第2の電力変換器4bの各相の電流を検出するようにしてもよい。その場合には、全ての電圧位相で3相または2相の電流を検出できる。
また、変調率kが1で、第1のオフセット電圧Voffset1を、Vmax1+Vmin1>0のときVmax1−Vdc/2に設定し、Vmax1+Vmin1≦0のときVmin1+Vdc/2に設定し、第2のオフセット電圧Voffset2をVmax2+Vmin2>0のときVmax2−Vdc/2に設定し、Vmax2+Vmin2≦0のときVmin2+Vdc/2に設定した場合を考える。その場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流とを図20に示す。図20の上段は、第1の電力変換器4aの場合を示し、図19の下段は、第2の電力変換器4bの場合を示す。零ベクトルは、第1の電力変換器4aでは、時刻t1、時刻t3および時刻t5で発生し、第2の電力変換器4bでは、時刻t2および時刻t4で発生している。第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2との位相差90degの効果によって、一方の電力変換器において零ベクトルを発生するときに、他方の電力変換器では母線に電流絶対値最大相の電流を流すことができる。そのため、高変調率において、高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子の発熱の均等化を実現すると共に、スイッチングの回数を減らしてスイッチング損失を抑制しつつ、平滑コンデンサ3のリップル電流を低減できる。
なお、高変調率では、どのような変調をしたとしても、第1の電力変換器4aでは、時刻t1、時刻t3または時刻t5のいずれかに零ベクトルが発生し、第2の電力変換器4bでは、時刻t2または時刻t4のいずれかに零ベクトルが発生する。つまり、第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2との位相差が90degであれば、その零ベクトル発生期間に母線に流す電流の相を6回切り替えて電流絶対値最大相の電流を母線に流すことができるため、高変調率での平滑コンデンサ3のリップル電流を低減できる。
ただし、図17〜図20で示した、いずれかの相がVdc/2または−Vdc/2に張り付けた変調方式、すなわち、二相変調では、変調率kが1の場合に、一方の電力変換器で零ベクトルを発生するときに、他方の電力変換器では母線に電流絶対値最大相の電流を流すことができる。しかしながら、変調率kが1未満のときには、一部領域において電流絶対値最大相の電流ではなく、電流絶対値が2番目に大きい相の電流を流す。変調率kが0.9で、図17で示した変調方式を用いた場合において、一方の電力変換器で零ベクトルの状態となる時刻t1、t3およびt5で流れる母線電流を図21に示す。一方の電力変換器で零ベクトルを発生する時刻t1、時刻t2および時刻t5において、他方の電力変換器が母線に流す電流の相が60deg毎に切り替わっていないため、図15に比べてリップル電流が大きくなっている。
この課題に対処するため、第1のオフセット電圧Voffset1を(Vmax1+Vmin1)/2に設定し、第2のオフセット電圧Voffset2を(Vmax2+Vmin2)/2に設定する方式、すなわち、三次高調波重畳を考える。このとき、変調率kが0.9の場合の時刻t1〜時刻t5の期間における各相のスイッチングタイミングと母線電流とを図22に示す。図22の上段は、第1の電力変換器4aの場合を示し、図22の下段は、第2の電力変換器4bの場合を示す。第1の電力変換器4aで零ベクトルを発生する時刻t1、時刻t3および時刻t5において、第2の電力変換器4bにおいて、電圧位相60deg毎に、母線に流す電流の相を切り替えて、電流絶対値最大相の電流を流す。また、第2の電力変換器4bで零ベクトルを発生する時刻t2および時刻t4において、第1の電力変換器4aにおいて、電圧位相60deg毎に、母線に流す電流の相を切り替えて、電流絶対値最大相の電流を流す。これにより、高変調率において、平滑コンデンサ3のリップル電流を低減できる。このように、正弦波変調で出しきれない領域において三次高調波重畳することで、一方の電力変換器が零ベクトルのときに、他方の電力変換器が母線に流す電流を絶対値最大相の電流とすることでコンデンサ3のリップル電流を抑制することができる。
図23に、本実施の形態1の方式と特許文献1の方式でのコンデンサのリップル電流を比較した結果を示す。ここでは、変調方式として、変調率kが0.866以下の場合では正弦波変調を用い、変調率kが0.866を超えた場合では二相変調を用いている。図23において、実線は本実施の形態1の方式、点線は特許文献1の方式を示している。また、図23において、横軸は変調率kを示し、縦軸は平滑コンデンサ3のリップル電流を示す。上記の説明のとおり、極小値は特許文献1の方式に比べて大きいものの、変調率kが0〜1の領域全体において、平滑コンデンサ3のリップル電流ピーク値は、本実施の形態1の方式の方が、特許文献1よりも抑制できていることがわかる。従って、騒音および振動の抑制を確保しつつ、連続運転状態での平滑コンデンサ3のリップル電流を低減したい場合に、本実施の形態1の方式が特許文献1の方式よりも有効であることがわかる。
図24は、図1の変形例を示す。図24においては、図1の構成に対して、第1の電流検出器10aと第2の電流検出器10bとが追加されている。第1の電流検出器10aは、第1の電力変換器4aと交流回転機1の第1の3相巻線との間に設けられ、第1の3相巻線を流れる電流を検出する。第2の電流検出器10bは、第2の電力変換器4bと交流回転機1の第2の3相巻線との間に設けられ、第2の3相巻線を流れる電流を検出する。このように、第1の電流検出器10aと第2の電流検出器10bとを設けたことで、第1の電力変換器4aのスイッチング素子の状態および第2の電力変換器4bのスイッチング素子の状態に関係無く、第1および第2の3相巻線を流れる電流を検出できる。つまり、第1の電圧飽和判定器7aおよび第2の電圧飽和判定器7bによる飽和判定を電流検出可否に関係の無い判定とすることで、不飽和の期間を最大化することが可能となる。これにより、振動および騒音性能を確保しつつ、高変調率でのコンデンサのリップル電流を低減できるという従来に無い効果を得ることができる。このように、常時、3相電流が検出できる構成とすることで、正弦波変調領域を最大化することができる。
また、図25は、図1の別の変形例を示す。図25においては、図1の構成に対して、第1の電流検出器10cと第2の電流検出器10dとが追加されている。第1の電流検出器10cは、第1の電力変換器4aの低電位側スイッチング素子に直列に接続され、第1の3相巻線を流れる電流を検出する。第2の電流検出器10dは、第2の電力変換器4bの低電位側スイッチング素子に直列に接続され、第2の3相巻線を流れる電流を検出する。第1の電力変換器4aのスイッチング素子の状態および第2の電力変換器4bのスイッチング素子の状態によっては電流を検出できない場合がある。また、第1および第2の電流検出器10cおよび10dで電流を検出できるのは、低電位側スイッチング素子を電流が流れる場合に限られる。小型化が進んだ電力変換器では、他相のスイッチングによって発生したノイズの影響で電流検出値が乱れる。例えば、スイッチングノイズの影響が収まる時間が搬送波信号1周期の1/10であれば、変調率0.693(=√3/2×0.8)を第1の電圧飽和判定器7aおよび第2の電圧飽和判定器7bによる飽和判定の閾値として用いればよい。なお、ここでは、第1の電流検出器10cを第1の電力変換器4aの低電位側スイッチング素子に直列に接続し、第2の電流検出器10dを第2の電力変換器4bの低電位側スイッチング素子に直列に接続する場合について説明した。しかしながら、この場合に限らず、第1の電流検出器10cを第1の電力変換器4aの高電位側スイッチング素子に直列に接続し、第2の電流検出器10dを第2の電力変換器4bの高電位側スイッチング素子に直列に接続するようにしてもよい。このように、図25において、高電位側または低電位側で電流を検出する場合には、電圧飽和を切替閾値とせず、電流検出が可能な変調率を飽和判定の閾値として用いることで、電流検出を確保しつつ、正弦波変調領域を拡大することができる。
電動パワーステアリングに本実施の形態1の電力変換装置が使用される場合、低車速では、路面反力が大きいため、高トルクが必要とされ、高車速では、路面反力が小さいため、低トルク領域での使用となる。電動パワーステアリングに使用される交流回転機で発生する騒音および振動は、ハンドルおよび車体を通して運転者に伝達される。車庫入れなど低車速での運転時にはハンドルを回す機会が多く、静穏性と共に切り返し回数が求められる。切り返し回数は、発熱性能によって決まってくるため、各部品での発熱を抑制することが求められる。また、緊急回避では、運転者が要求するアシストトルクを高速応答で出力する必要があるため、高変調率時の出力トルクの確保が重要となる。つまり、本実施の形態1の電力変換装置を電動パワーステアリング装置に適用することで、低変調率では騒音および振動を抑制し、高変調率では出力特性を確保しつつ、連続運転状態でのコンデンサのリップル電流を総合的に抑制するという従来に無い効果を得ることができる。力行運転状態で主に使用される電動パワーステアリングでは、力率角が小さいため、正弦波変調領域の拡大効果を得やすい。
これまでの説明では力率角が0degの力行運転で使用する場合を例として説明してきたが、力率角が180degの回生運転の場合も同様の効果を得られる。力率角が30degおよび60degでの変調率0〜1の領域におけるコンデンサのリップル電流を図26および図27にそれぞれ示す。図26および図27において、実線は本実施の形態1の方式、点線は特許文献1の方式を示している。図26および図27から分かるように、電圧と電流の位相がずれていくにつれて、2つの電力変換器4aおよび4bのうちの、一方の電力変換器で零ベクトルとなるときに、他方の電力変換器で母線に流す電流が電流絶対値最大相の電流とはならなくなるため、平滑コンデンサ3のリップル電流は力率角0degのときよりも大きくなる。つまり、平滑コンデンサ3のリップル電流のピーク値が抑えられている、力率角0deg±30degおよび力率角180deg±30degで使用する場合に、低減効果の大きい、この領域での使用が効果的である。このように、力率角が、0deg前後、および、180deg前後の領域で使用することで効果を最大限発揮することができる。
以上のように、本実施の形態1に係る電力変換装置によれば、第1の搬送波信号C1と第2の搬送波信号C2とが互いに90degの位相差を有する状態で、第1のオフセット電圧Voffset1および第2のオフセット電圧Voffset2を零とすることでオフセット電圧の変動による振動・騒音を抑制できると共に、低変調率から高変調率までの全体におけるコンデンサ3のリップル電流のピーク値を低減できる。
実施の形態2.
以下、本発明の実施の形態2に係る電力変換装置について説明する。本実施の形態2においては、上記の式(1)および式(2)で示した変調率K1および変調率K2を振幅状態変数K1およびK2として用いて、振幅状態変数K1およびK2に応じて母線電流リップルが小さくなるように変調方式を切り替えることにより、コンデンサ3のリップル電流のピーク値を抑制する。
図28は、本発明の実施の形態2に係る電力変換装置の全体の構成を示す図である。図28に示すように、電力変換装置は、平滑コンデンサ3、第1の電力変換器4a、第2の電力変換器4b、および制御部5Aを備えている。電力変換装置は、電源としての直流電源2に接続される。また、電力変換装置には、負荷として、交流回転機1が接続されている。電力変換装置は、直流電源2からの直流電圧を交流電圧に変換して交流回転機1に供給する。
上記の実施の形態1では、図1において、制御部5が、第1の電圧飽和判定器7aと第2の電圧飽和判定器7bを備えて、その判定結果に基づいて、第1のオフセット演算器8aおよび第2のオフセット演算器8bにてオフセット処理を実施している。本実施の形態2においては、図28に示すように、制御部5Aにおいて、図1の第1の電圧飽和判定器7aの代わりに第1の変調方式判定器11aが設けられ、第2の電圧飽和判定器7bの代わりに第2の変調方式判定器11bが設けられている。また、第1のオフセット演算器8aの代わりに第1のオフセット演算器8cが設けられ、第2のオフセット演算器8bの代わりに第2のオフセット演算器8dが設けられている。上記の実施の形態1では、主に、力率角0degの力行運転で使用する場合の平滑コンデンサ3のリップル電流について説明したが、回生運転では電流ベクトルの方向と電圧ベクトルの方向が大きくずれる。本実施の形態2では、力率角120degの回生運転で使用する場合について説明する。
なお、他の構成および動作については、上記の実施の形態1と同じであるため、ここでは、その説明を省略する。
図29は、本実施の形態2に係る電力変換装置において、力率角が120degでの変調率0〜1の領域における平滑コンデンサ3のリップル電流を示す。図29において、実線は本実施の形態2の方式の場合を示し、点線は特許文献1の方式の場合を示している。なお、電圧と電流の位相がずれていくと、2つの電力変換器4aおよび4bのうち、一方の電力変換器で零ベクトルとなるときに、他方の電力変換器で母線に流す電流が電流絶対値最大相の電流にならなくなるため、高変調率における平滑コンデンサ3のリップル電流は力率角0degのときよりも大きくなる。
図30に、正弦波変調、二相変調、および、三次高調波重畳の3種類の方式での平滑コンデンサ3のリップル電流を比較した結果を示す。正弦波変調、二相変調、および、三次高調波重畳については、上記の実施の形態1で説明したため、ここでは、説明を省略する。図30において、実線は正弦波変調の場合を示すが、変調率kが0.866以上では、二相変調を用いている。また、図30において、破線は二相変調の場合を示し、点線は三次高調波重畳の場合を示す。変調率kに応じて平滑コンデンサ3のリップル電流が最小となる方式は異なる。本実施の形態2に係る電力変換器では、振幅状態変数によってこれらの方式を切り替えて使用することにより、変調率0〜1の領域における平滑コンデンサ3のリップル電流のピークを抑制するという従来に無い効果を得ることができる。ここでは、振幅状態変数として変調率kを用いるが、検出電流、回転数、電圧指令あるいは印加電圧などとの組み合わせで、同様の意味合いを持つものであれば、同様の効果を得られることは言うまでもない。
本実施の形態2においては、図30において、第1の変調率閾値Kth1を超える変調率では二相変調に切り替え、第2の変調率閾値Kth2を超える変調率では三次高調波重畳に切り替えることで、変調率0〜1の領域における平滑コンデンサ3のリップル電流のピークを抑制することができる。なお、第1の変調率閾値Kth1は、第2の変調率閾値Kth2よりも小さい。
第1の変調方式判定器11aは、電圧指令演算器6からの第1の3相電圧指令Vu1、Vv1、Vw1に基づいて得られる振幅状態変数K1に基づいて、K1≦Kth1のときに正弦波変調、Kht1<K1≦Kth2のときに二相変調、Kth2<K1のときに三次高調波重畳を選択する。なお、電圧指令演算器6において2軸の電圧指令を生成している場合には、2軸の電圧指令を用いて判定してもよい。第1のオフセット演算器8cは、第1の変調方式判定器11aによって得られた変調方式に基づいて、第1のオフセット電圧を決定し、第1の3相印加電圧を算出する。
第2の変調方式判定器11bは、電圧指令演算器6からの第2の3相電圧指令Vu2、Vv2、Vw2に基づいて得られる振幅状態変数K2に基づいて、K2≦Kth1のときに正弦波変調、Kht1<K2≦Kth2のときに二相変調、Kth2<K2のときに三次高調波重畳を選択する。第2のオフセット演算器8dは、第2の変調方式判定器11bによって得られた変調方式に基づいて、第2のオフセット電圧を決定し、第2の3相印加電圧を算出する。
振幅状態変数閾値Kth1は、正弦波変調から二相変調に切り替える振幅状態変数を表すので、振幅状態変数K1またはK2を単調増加させたとき、例えば変調率を0から1まで単調増加させたときに、正弦波変調時の母線電流リップルが二相変調時の母線電流リップルを超えるときの振幅状態変数とすればよい。このようにして、正弦波変調時の母線電流リップルが二相変調時の母線電流リップルより大きくなるときの値を振幅状態変数閾値Kth1とすることで、正弦波変調領域を最大化することができる。
振幅状態変数閾値Kth2は、二相変調から三次高調波重畳に切り替える振幅状態変数を表すので、振幅状態変数K1またはK2をKth1から単調増加させたときに、二相変調時の母線電流リップルが三次高調波重畳時の母線電流リップルを超えるときの振幅状態変数とすればよい。このようにして、二相変調時の母線電流リップルが三次高調波重畳時の母線電流リップルより大きくなるときの値を振幅状態変数閾値Kth2とすることで、二相変調領域を最大化することができる。
図31は、力率角が180degのときの正弦波変調、二相変調、三次高調波重畳の3種類の方式での平滑コンデンサ3のリップル電流を比較した結果である。図31において、実線は正弦波変調の場合を示すが、変調率kが0.866以上では、二相変調を用いている。また、図31において、破線は二相変調の場合を示し、点線は三次高調波重畳の場合を示す。このとき、変調率kが0.4以上の領域では、平滑コンデンサ3のリップル電流の大きい順は、二相変調、正弦波変調、三次高調波重畳である。ただし、図31における正弦波変調は、変調率0.866以上で二相変調としたものである。実施の形態1にて電圧飽和と判定したときの振幅状態変数を超える領域では、二相変調あるいは三次高調波重畳とすればよいので、二相変調としたいときには実施の形態1にて電圧飽和と判定したときの振幅状態変数をKth1に設定し、Kth2を動作領域外の振幅状態変数値とすればよく、三次高調波重畳としたいときには実施の形態1にて電圧飽和と判定したときの振幅状態変数をKth1およびKth2に設定すればよい。また、平滑コンデンサ3のリップル電流に余裕があってスイッチング損失を低減したい場合には、それらを考慮してKth1を0.866より小さい値に設定すればよい。
さらに、図32のように振幅状態変数閾値Kth3およびKth4によって正弦波変調と三次高調波重畳の切り替えることにより、コンデンサのリップル電流のピーク値だけでなく極小値も抑制することができる。図32において、実線は正弦波変調の場合を示すが、変調率kが0.866以上では、二相変調を用いている。また、図32において、破線は二相変調の場合を示し、点線は三次高調波重畳の場合を示す。振幅状態変数閾値Kth3は、振幅状態変数K1またはK2を単調増加させた場合に、三次高調波重畳時の母線電流リップルが正弦波変調時の母線電流リップルを下回るときの振幅状態変数とすればよく、振幅状態変数閾値Kth4は、振幅状態変数K1またはK2を更に単調増加させた場合に、三次高調波重畳時の母線電流リップルが正弦波変調時の母線電流リップルを上回るときの振幅状態変数とすればよい。このようにして、三次高調波重畳時の母線電流リップルが正弦波変調時の母線電流リップルより小さくなるときの値を閾値とすることで、母線電流リップルを極小とすることができる。さらに、力率角が180degの場合には、Kth1、Kth2、Kth3、および、Kth4を動作領域外の振幅状態変数値とすることで、平滑コンデンサ3のリップル電流のピーク値だけでなく極小値も抑制することができる。
具体的には、図32のように、4つの振幅状態変数閾値Kth1、Kth2、Kth3、および、Kth4を用いる場合は、下記のようにする。
制御部5は、第1の3相電圧指令の振幅状態変数K1、および、予め設定された振幅状態変数閾値Kth1、Kth2、Kth3およびKth4に基づいて、K1≦Kth3およびKth4≦K1<Kth1のときに正弦波変調、Kth1<K1≦Kth2のときに二相変調、Kth3≦K1<Kth4およびKth2<K1のときに三次高調波重畳する。また、制御部5は、第2の3相電圧指令の振幅状態変数K2、および、予め設定された振幅状態変数閾値Kth1、Kth2、Kth3およびKth4に基づいて、K1≦Kth3およびKth4≦K1<Kth1のときに正弦波変調、Kth1<K2≦Kth2のときに二相変調、Kth3≦K1<Kth4およびKth2<K1のときに三次高調波重畳する。このようにして、振幅状態変数K1およびK2に応じて、すなわち、変調率に応じて、母線電流リップルが小さくなるように変調方式を切り替えることにより、ピーク値および極小値を抑制することができる。
なお、振幅状態変数閾値Kth1、Kth2、Kth3、および、Kth4は、交流回転機1の力率に基づいて設定するようにしてもよい。
車両用発電電動機またはその制御装置に本実施の形態の電力変換装置が使用される場合、電気自動車の主機あるいはエンジンの補機として駆動系部品を経由して車両の駆動力となる。電気自動車の主機として用いられる場合には、車両の駆動力を発生させる力行運転状態と制動力を発生させる回生運転状態の両方が求められるため、動作中の力率角の範囲が極めて広い。車両用発電電動機が、エンジンの補機として、エンジンが回転している際の発電機能が求められる場合にも、回転数による力率角の変化が大きいため、180±90degの範囲を動作範囲として考える必要がある。このような動作範囲が広い車両用発電電動機の場合、力率角0deg付近の平滑コンデンサ3のリップル電流だけで無く、動作範囲として考えられる力率角全てにおける平滑コンデンサ3のリップル電流のピーク値を抑制することが重要である。このような動作範囲が広い車両用発電電動機に、力率角に応じて定めた振幅状態変数閾値によって変調方法を決定する本実施の形態の電力変換器を適用することで、動作範囲として考えられる力率角全てにおける平滑コンデンサ3のリップル電流のピーク値を抑制するという従来に無い効果を得ることができる。このように、連続発電性能が要求され、力率角の動作範囲が広い車両用発電電動機では、母線電流リップルのピーク値を抑制することで、コンデンサの個数を低減することができる。
なお、ここで、上記の実施の形態1および実施の形態2に係る制御部5および制御部5Aのハードウェア構成について簡単に説明する。実施の形態1および実施の形態2に係る制御部5および制御部5Aにおける各機能は、処理回路によって実現される。各機能を実現する処理回路は、専用のハードウェアであってもよく、メモリに格納されるプログラムを実行するプロセッサであってもよい。
処理回路が専用のハードウェアである場合、処理回路は、例えば、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものが該当する。電圧指令演算器6、電圧飽和判定器7aおよび7b、オフセット演算器8aおよび8b、オン/オフ信号発生器9、および、変調方式判定部11aおよび11bの各部の機能それぞれを個別の処理回路で実現してもよいし、各部の機能をまとめて1つの処理回路で実現してもよい。
一方、処理回路がプロセッサの場合、電圧指令演算器6、電圧飽和判定器7aおよび7b、オフセット演算器8aおよび8b、オン/オフ信号発生器9、および、変調方式判定部11aおよび11bの各部の機能は、ソフトウェア、ファームウェア、またはソフトウェアとファームウェアとの組み合わせにより実現される。ソフトウェアおよびファームウェアは、プログラムとして記述され、メモリに格納される。プロセッサは、メモリに記憶されたプログラムを読み出して実行することにより、各部の機能を実現する。すなわち、電力変換装置は、処理回路により実行されるときに、電圧指令演算ステップ、電圧飽和判定ステップ、オフセット演算ステップ、オン/オフ信号発生ステップ、および、変調方式判定ステップが結果的に実行されることになるプログラムを格納するためのメモリを備える。
これらのプログラムは、上述した各部の手順あるいは方法をコンピュータに実行させるものであるともいえる。ここで、メモリとは、例えば、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ、EPROM(Erasable Programmable Read Only Memory)、EEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の、不揮発性または揮発性の半導体メモリが該当する。また、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、DVD等も、メモリに該当する。
なお、上述した各部の機能について、一部を専用のハードウェアで実現し、一部をソフトウェアまたはファームウェアで実現するようにしてもよい。
このように、処理回路は、ハードウェア、ソフトウェア、ファームウェア、またはこれらの組み合わせによって、上述した各部の機能を実現することができる。
本発明は、直流電源からの直流電圧に基づいて、交流回転機の2つの3相巻線のうちの第1の3相巻線に電圧を印加する第1の電力変換器と、前記直流電圧に基づいて、前記交流回転機の2つの3相巻線のうちの第2の3相巻線に電圧を印加する第2の電力変換器と、前記交流回転機の制御指令に基づいて演算された第1の3相電圧指令の全ての電圧から第1のオフセット電圧を減算することで求めた第1の3相印加電圧を、第1の搬送波信号と比較することにより、前記第1の電力変換器の高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子にオン/オフ信号を出力すると共に、前記制御指令に基づいて演算された第2の3相電圧指令の全ての電圧から第2のオフセット電圧を減算することで求めた第2の3相印加電圧を、前記第1の搬送波信号に対して90degの位相差を有する第2の搬送波信号と比較することにより、前記第2の電力変換器の高電位側スイッチング素子及び低電位側スイッチング素子にオン/オフ信号を出力する制御部とを備え、前記制御部は、前記第1の3相電圧指令から求めた変調率の大きさに基づいて、前記第1の3相巻線が飽和状態か不飽和状態かの判定を行う第1の電圧飽和判定器と、前記第2の3相電圧指令から求めた変調率の大きさに基づいて、前記第2の3相巻線が飽和状態か不飽和状態かの判定を行う第2の電圧飽和判定器とを有し、前記第1の電圧飽和判定器が前記不飽和状態と判定した場合に、前記第1のオフセット電圧を零として正弦波変調すると共に、前記第2の電圧飽和判定器が前記不飽和状態と判定した場合に、前記第2のオフセット電圧を零として正弦波変調する、電力変換装置である。