以下、この発明に係る電力変換装置、発電電動機の制御装置、および、電動パワーステアリング装置のそれぞれの実施の形態について、図に基づいて説明する。各図において、同一または相当する部材および部位については、同一符号を付して示し、重複する説明は省略する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る電力変換装置の全体構成を示す図である。図1に示すように、本実施の形態1に係る電力変換装置は、第1の電力変換器4a、第2の電力変換器4b、および、制御部6を備えている。また、必要に応じて、電力変換装置は、平滑コンデンサ3を備える。電力変換装置は、電源としての直流電源2に接続されている。また、電力変換装置には、負荷として、交流回転機1が接続されている。電力変換装置は、直流電源2からの直流電圧を交流電圧に変換して交流回転機1に供給する。また、図1に示すように、さらに、必要に応じて、電力変換装置は、交流回転機1の各相の巻線に流れる電流を検出する第1の電流検出器5aおよび第2の電流検出器5bを備える。
以下、図1に示す本実施の形態1に係る電力変換装置の各構成要素、交流回転機1、および、直流電源2について説明する。
交流回転機1は、第1の3相巻線U1,V1,W1および第2の3相巻線U2,V2,W2を有する3相交流回転機から構成されている。第1の3相巻線U1,V1,W1と第2の3相巻線U2,V2,W2とは、互いに電気的に接続されることなく、交流回転機1の固定子に納められている。3相交流回転機としては、例えば、永久磁石同期回転機、誘導回転機、同期リラクタンス回転機等が挙げられる。本実施の形態1においては、2つの3相巻線を有する交流回転機であれば、いずれの回転機を交流回転機1として用いてもよい。第1の3相巻線U1,V1,W1と第2の3相巻線U2,V2,W2は、図2に示すように、位相差が零であるものとして説明するが、後述する第1の3相電圧指令と第2の3相電圧指令との位相差が零である場合も同様の効果を得ることができる。
直流電源2は、電力変換器4に直流電圧Vdcを出力する。直流電源2としては、バッテリー、DC−DCコンバータ、ダイオード整流器、PWM整流器等が挙げられるが、直流電圧を出力する機器であれば、いずれの機器も直流電源2として使用可能である。
平滑コンデンサ3は、直流電源2に並列に接続されている。すなわち、平滑コンデンサの一端は直流電源2の正極端子に接続され、平滑コンデンサ3の他端は直流電源2の負極端子に接続されている。したがって、平滑コンデンサ3は、直流電源2の2つの出力に電気的に接続されていると言える。平滑コンデンサ3は、母線電流Iinv1+Iinv2の変動を抑制して安定した直流電流Icを生成する。ここでは細かく図示しないが、真のコンデンサ容量C以外に、実際には、等価直列抵抗Rc、および、リードインダクタンスLcが存在する。このように、平滑コンデンサ3を用いて、コンデンサのリプル電流を抑制することで、コンデンサの小型化を図ることができる。
電力変換器4aは、上アームの高電位側スイッチング素子Sup1,Svp1,Swp1、および、下アームの低電位側スイッチング素子Sun1,Svn1,Swn1を有している。これらのスイッチング素子をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング素子Sup1〜Swn1と呼ぶこととする。
第1の電力変換器4aには、制御部6から、オン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1,Qwp1,Qwn1が入力される。以下、オン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1,Qwp1,Qwn1をまとめて呼ぶ場合には、オン/オフ信号Qup1〜Qwn1と呼ぶこととする。第1の電力変換器4aは、インバータである逆変換回路を用いて、オン/オフ信号Qup1〜Qwn1に基づいて、スイッチング素子Sup1〜Swn1をオンオフする。第1の電力変換器4aは、これらのオンオフ動作により、直流電源2から入力される直流電圧Vdcを電力変換して、交流電圧を得る。第1の電力変換器4aは、当該交流電圧を、交流回転機1の第1の3相巻線U1,V1,W1に印加し、電流Iu1,Iv1,Iw1を通電させる。
ここで、オン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1,Qwp1,Qwn1は、第1の電力変換器4aにおいて、それぞれ、スイッチング素子Sup1,Sun1,Svp1,Svn1,Swp1,Swn1のオン/オフを切り替えるためのスイッチング信号である。以後、オン/オフ信号Qup1〜Qwn1の値が1ならば、対応するスイッチング素子がオンされ、一方、オン/オフ信号Qup1〜Qwn1の値が0ならば、対応するスイッチング素子がオフされるものとする。なお、半導体スイッチング素子Sup1〜Swn1は、半導体スイッチと、半導体スイッチに逆並列接続されたダイオードとから構成される。半導体スイッチとしては、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、バイポーラトランジスタ、MOS(Metal−Oxide−Semiconductor)パワートランジスタ等の半導体スイッチを用いる。
第2の電力変換器4bは、上アームの高電位側スイッチング素子Sup2,Svp2,Swp2、および、下アームの低電位側スイッチング素子Sun2,Svn2,Swn2を有している。これらのスイッチング素子をまとめて呼ぶ場合には、スイッチング素子Sup2〜Swn2と呼ぶこととする。
第2の電力変換器4bには、制御部6から、オン/オフ信号Qup2,Qun2,Qvp2,Qvn2,Qwp2,Qwn2が入力される。以下、オン/オフ信号Qup2,Qun2,Qvp2,Qvn2,Qwp2,Qwn2をまとめて呼ぶ場合には、オン/オフ信号Qup2〜Qwn2と呼ぶこととする。第2の電力変換器4bは、インバータである逆変換回路を用いて、オン/オフ信号Qup2〜Qwn2に基づいて、スイッチング素子Sup2〜Swn2をオンオフする。第2の電力変換器4bは、これらのオンオフ動作により、直流電源2から入力される直流電圧Vdcを電力変換して、交流電圧を得る。第2の電力変換器4bは、当該交流電圧を、交流回転機1の第2の3相巻線U2,V2,W2に印加し、電流Iu2,Iv2,Iw2を通電させる。
ここで、オン/オフ信号Qup2,Qun2,Qvp2,Qvn2,Qwp2,Qwn2は、第2の電力変換器4bにおいて、それぞれ、スイッチング素子Sup2,Sun2,Svp2,Svn2,Swp2,Swn2のオン/オフを切り替えるためのスイッチング信号である。以後、オン/オフ信号Qup2〜Qwn2の値が1ならば、対応するスイッチング素子がオンされ、一方、オン/オフ信号Qup2〜Qwn2の値が0ならば、対応するスイッチング素子がオフされるものとする。なお、半導体スイッチング素子Sup2〜Swn2は、半導体スイッチと、半導体スイッチに逆並列接続されたダイオードとから構成される。半導体スイッチとしては、例えば、IGBT、バイポーラトランジスタ、MOSパワートランジスタ等の半導体スイッチを用いる。
第1の電流検出器5aは、交流回転機1の第1の3相巻線U1,V1,W1に流れる電流Iu1,Iv1,Iw1の値を、それぞれ、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sとして検出する。図1に示すように、交流回転機1の第1の3相巻線U1,V1,W1と第1の電力変換器4aとの間に第1の電流検出器5aを設けることで、第1の電力変換器4aのスイッチング素子の状態に拘らず常時電流を検出できるという効果を得ることができる。つまり、制御部6は、電流検出可否を考慮せずに、スイッチング素子のオン/オフを決定することが可能となる。そのため、交流回転機1の第1の3相巻線U1,V1,W1と第1の電力変換器4aとの間に第1の電流検出器5aを設けることは、本実施の形態1にとって好適である。
なお、第1の電流検出器5aは、図1の例に限定されない。第1の電流検出器5aは、例えば、第1の電力変換器4aの半導体スイッチング素子Sun1,Svn1,Swn1のそれぞれに対して直列に接続された電流検出用抵抗を備えた電流検出器であってもよい。その場合には、当該電流検出用抵抗を用いて、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sを検出する。あるいは、第1の電流検出器5aは、第1の電力変換器4aと平滑コンデンサ3との間に接続された電流検出用抵抗を備えた電流検出器であってもよい。その場合には、当該電流検出用抵抗を用いて、インバータ入力電流である母線電流Iinv1を検出し、その検出値に基づいて、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sを求める。第1の電流検出器5aがこれらの構成の場合には、制御部6は、電流検出可否を考慮しつつ、半導体スイッチング素子Sup1〜Swn1のオン/オフを決定すればよい。
第2の電流検出器5bは、交流回転機1の第2の3相巻線U2,V2,W2に流れる電流Iu2,Iv2,Iw2の値を、それぞれ、電流検出値Iu2s,Iv2s,Iw2sとして検出する。図1に示すように、交流回転機1の第2の3相巻線U2,V2,W2と第2の電力変換器4bとの間に第2の電流検出器5bを設けることで、第2の電力変換器4bのスイッチング素子の状態に拘らず常時電流を検出できるという効果を得ることができる。つまり、制御部6は、電流検出可否を考慮せずに、スイッチング素子のオン/オフを決定することが可能となる。そのため、交流回転機1の第2の3相巻線U2,V2,W2と第2の電力変換器4bとの間に第2の電流検出器5bを設けることは、本実施の形態1にとって好適である。
なお、第2の電流検出器5bは、図1の例に限定されない。第2の電流検出器5bは、例えば、第2の電力変換器4bの半導体スイッチング素子Sun2,Svn2,Swn2のそれぞれに対して直列に接続された電流検出用抵抗を備えた電流検出器であってもよい。その場合には、当該電流検出用抵抗を用いて、電流検出値Iu2s,Iv2s,Iw2sを検出する。あるいは、第2の電流検出器5bは、第2の電力変換器4bと平滑コンデンサ3との間に接続された電流検出用抵抗を備えた電流検出器であってもよい。その場合には、当該電流検出用抵抗を用いて、インバータ入力電流である母線電流Iinv2を検出し、その検出値に基づいて、電流検出値Iu2s,Iv2s,Iw2sを求める。第2の電流検出器5bがこれらの構成の場合には、制御部6は、電流検出可否を考慮しつつ、半導体スイッチング素子Sup2〜Swn2のオン/オフを決定すればよい。
次に、制御部6について説明する。制御部6は、図1に示すように、電圧指令演算器7、第1のオフセット演算器8a、第2のオフセット演算器8b、第1のオン/オフ信号発生器9a、および、第2のオン/オフ信号発生器9bを備えている。制御部6のハードウェア構成について説明すると、制御部6は、例えば、演算処理を実行するマイクロコンピュータと、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)とから構成される。ROMには、プログラムデータ、固定値データ等のデータが記憶されている。また、RAMには、演算結果などの各種データが記憶される。RAMに格納されている各種データは、更新されて順次書き換えられる。制御部6は、マイクロコンピュータが、ROMに記憶されたプログラムデータを読み出して実行することにより、制御部6の電圧指令演算器7、第1のオフセット演算器8a、第2のオフセット演算器8b、第1のオン/オフ信号発生器9a、および、第2のオン/オフ信号発生器9bの各部の機能を実現する。以下、制御部6の各部について詳細に説明する。
電圧指令演算器7は、外部から入力される制御指令に基づいて、交流回転機1を駆動するための第1の3相巻線U1,V1,W1に印加する電圧に関する第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を演算し、第1のオフセット演算器8aへ出力する。また、電圧指令演算器7は、外部から入力される制御指令に基づいて、交流回転機1を駆動するための第2の3相巻線U2,V2,W2に印加する電圧に関する第2の3相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2を演算し、第2のオフセット演算器8bへ出力する。
電圧指令演算器7における、第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1および第2の3相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2の演算方法としては、例えば、V/F(Voltage/Frequency)制御、電流フィードバック制御などを使用する。
V/F制御では、電圧指令演算器7は、図1における制御指令として、交流回転機1の速度指令または周波数指令fを設定して、電圧指令の振幅を決定する。
一方、電流フィードバック制御では、電圧指令演算器7は、図1における制御指令として、交流回転機1に通電する電流を指令する電流指令を用いる。また、電圧指令演算器7には、第1の電流検出器5aによって検出された第1の3相巻線U1,V1,W1の電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sが入力される。電圧指令演算器7は、電流フィードバック制御を用いて、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sと電流指令との偏差を零とすべく、比例積分制御によって、第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を演算する。また、電圧指令演算器7には、第2の電流検出器5bによって検出された第2の3相巻線U2,V2,W2の電流検出値Iu2s,Iv2s,Iw2sが入力される。電圧指令演算器7は、電流フィードバック制御を用いて、電流検出値Iu2s,Iv2s,Iw2sと電流指令との偏差を零とすべく、比例積分制御によって、第2の3相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2を演算する。このようなフィードバック制御方法は公知技術であるため、ここでは詳細な説明は省略する。
ただし、V/F制御はフィードフォワード制御であるため、第1の3相巻線U1,V1,W1を流れる電流Iu1,Iv1,Iw1、および、第2の3相巻線U2,V2,W2を流れる電流Iu2,Iv2,Iw2の情報を必要としない。よって、V/F制御の場合、第1の3相巻線U1,V1,W1を流れるIu1,Iv1,Iw1、および、第2の3相巻線U2,V2,W2を流れるIu2,Iv2,Iw2の情報を電圧指令演算器7に入力することは必須ではない。
第1のオフセット演算器8aは、電圧指令演算器7から出力された第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1から、オフセット電圧Voffset1をそれぞれ減算し、第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’を演算する。オフセット電圧Voffset1は、第1のオフセット演算器8aによって演算される。図3に、第1のオフセット演算器8aがオフセット電圧Voffset1を演算する処理の流れを示すフローチャートを示す。
図3において、第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1のうちの最大の電圧指令をVmaxとし、それに対応する相を第1電圧最大相または単に電圧最大相とする。また、同様に、最小の電圧指令をVminとし、それに対応する相を第1電圧最小相または単に電圧最小相とする。また、最大と最小との間の中間の電圧指令をVmidとし、それに対応する相を第1電圧中間相または単に電圧中間相とする。すなわち、第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を大きい順に並べたときの電圧最大相の電圧指令をVmax、電圧中間相の電圧指令をVmid、電圧最小相の電圧指令をVminとする。
このとき、図3に示すように、まず、第1のオフセット演算器8aは、ステップS130で、電流検出値Iu1s,Iv1s,Iw1sに基づいて、3相巻線U1,V1,W1を流れる電流Iu1,Iv1,Iw1のうち、その絶対値が最大となる相を、電流絶対値最大相として選択する。そして、第1のオフセット演算器8aは、電流絶対値最大相が電圧最大相と一致しているか否かを判定する。電流絶対値最大相が電圧最大相であるならば、ステップS133に進み、そうでなければ、ステップS131に進む。
ステップS131では、第1のオフセット演算器8aは、電流絶対値最大相が電圧最小相と一致しているか否かを判定する。電流絶対値最大相が電圧最小相であるならば、ステップS134に進み、そうでなければ、ステップS132に進む。
ステップS132は、電流絶対値最大相が電圧中間相である場合を示す。そこで、第1のオフセット演算器8aは、電圧中間相の電圧指令Vmidが正の値であるか否かを判定する。電圧中間相の電圧指令Vmidが正の値であるならば、ステップS135に進み、そうでなければ、ステップS136に進む。
ステップS133およびステップS136では、第1のオフセット演算器8aは、オフセット電圧Voffset1に、電圧最小相の電圧指令Vminの値を設定する。
一方、ステップS134およびステップS135では、第1のオフセット演算器8aは、電圧最大相の電圧指令Vmaxと直流電源2の直流電圧Vdcとの差、すなわち、(Vmax−Vdc)の値を求め、当該値(Vmax−Vdc)をオフセット電圧Voffset1に設定する。
なお、上記のステップS130において、第1のオフセット演算器8aが、第1の3相巻線U1,V1,W1を流れる電流Iu1s,Iv1s,Iw1sに基づいて電流絶対値最大相を選択すると説明したが、これに限定されない。第1のオフセット演算器8aは、制御指令から得られる3相巻線U1,V1,W1を流れる電流Iu1,Iv1,Iw1に基づいて、電流絶対値最大相を選択してもよい。
次に、図4〜図9を用いて、第1のオフセット演算器8aから出力される第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’の波形について説明する。第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’の波形は、電流位相と電圧位相との差である力率角によって変化する。以下に、詳細に説明する。
力率角が0degの場合には、図2の電流位相θiに対する電流波形および電圧波形は図4のようになる。図4の上段のグラフは電流位相に対する第1の3相電流Iu1,Iv1,Iw1の波形を示し、図4の下段のグラフは第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の波形を示す。また、図4の上段のグラフおよび下段のグラフの横軸は共に位相を示す。図4の上段のグラフおよび下段のグラフにおいて、実線がU1相の波形、破線がV1相の波形、点線がW1相の波形をそれぞれ示している。
図4の上段のグラフに示されるように、電流絶対値最大相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から30deg未満まで:U1相、
30deg以上から90deg未満まで:W1相、
90deg以上から150deg未満まで:V1相、
150deg以上から210deg未満まで:U1相、
210deg以上から270deg未満まで:W1相、
270deg以上から330deg未満まで:V1相、
330deg以上から360deg未満まで:U1相。
また、図4の下段のグラフに示されるように、電圧最大相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から60deg未満まで:U1相、
60deg以上から180deg未満まで:V1相、
180deg以上から300deg未満まで:W1相、
300deg以上から360deg未満まで:U1相。
また、図4の下段のグラフに示されるように、電圧最小相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から120deg未満まで:W1相、
120deg以上から240deg未満まで:U1相、
240deg以上から360deg未満まで:V1相。
以上のことからわかるように、電流絶対値最大相は、電圧最大相および電圧最小相のうちのいずれか一方に一致する。
図3のフローチャートに従ってオフセット電圧Voffset1を決定すると、スイッチング停止相は、図5の表に示すように設定される。すなわち、スイッチング停止相と電流絶対値最大相は一致している。従って、スイッチング停止相は、電圧最大相および電圧最小相のうちのいずれか一方に一致する。
その結果、第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’は、図6に示すように、60deg毎にスイッチング停止相が切り替わる波形となる。図6のグラフにおいて、実線が印加電圧Vu1’の波形、破線が印加電圧Vv1’の波形、点線が印加電圧Vw1’の波形をそれぞれ示している。また、最大相を搬送波信号の最大値に設定する上べた二相変調と、最小相を搬送波信号の最小値に設定する下べた二相変調とが、60deg毎に交互に切り替わる。力率角が0〜30deg、150〜210deg、330〜360degの場合には、同様の印加電圧に設定することができる。
一方、力率角が60degの場合には、電流波形および電圧波形は図7のようになる。図7の上段のグラフは電流位相に対する3相電流Iu1,Iv1,Iw1の波形を示し、図7の下段のグラフは第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1の波形を示す。また、図7の上段のグラフおよび下段のグラフの横軸は共に位相を示す。図7の上段のグラフおよび下段のグラフにおいて、実線がU1相の波形、破線がV1相の波形、点線がW1相の波形をそれぞれ示している。
図7の上段のグラフに示されるように、電流絶対値最大相は、図4の上段のグラフと同様に、電流位相によって変化する。図4の場合と同じであるため、ここでは説明を省略する。
図7の下段のグラフに示されるように、電圧最大相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から120deg未満まで:V1相、
120deg以上から240deg未満まで:W1相、
240deg以上から360deg未満まで:U1相。
また、図7の下段のグラフに示されるように、電圧最小相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から60deg未満まで:W1相、
60deg以上から180deg未満まで:U1相、
180deg以上から300deg未満まで:V1相、
300deg以上から360deg未満まで:W1相。
また、図7の下段のグラフに示されるように、電圧中間相は、電流位相によって以下のように変化する。
電流位相:0deg以上から60deg未満まで:U1相、
60deg以上から120deg未満まで:W1相、
120deg以上から180deg未満まで:V1相、
180deg以上から240deg未満まで:U1相、
240deg以上から300deg未満まで:W1相、
300deg以上から360deg未満まで:V1相。
このように、力率角が60degの場合は、力率角が0degの場合とは異なり、電流絶対値最大相が電圧中間相と一致する領域が、30deg毎に発生する。
図3のフローチャートに従ってオフセット電圧Voffset1を決定すると、スイッチング停止相は、図8の表に示すように設定される。図8においても、スイッチング停止相は、電圧最大相および電圧最小相のうちのいずれか一方に一致する。
その結果、第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’は、図9に示すように、30deg毎にスイッチング停止相が切り替わる波形となる。図9のグラフにおいて、実線が印加電圧Vu1’の波形、破線が印加電圧Vv1’の波形、点線が印加電圧Vw1’の波形をそれぞれ示している。また、図3のステップS132の判定結果によってオフセット方向は60deg毎に変化しており、上べた二相変調と下べた二相変調が60deg毎に交互に切り替わる。
第1のオン/オフ信号発生器9aは、第1のオフセット演算器8aから出力される第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’に基づいて、オン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1,Qwp1,Qwn1を出力する。図10は、図4に示すタイミングCでの第1のオン/オフ信号発生器9aの動作説明図である。図10において、C1は第1搬送波信号、C2は第2搬送波信号である。第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2とは、180deg位相が異なる。第1搬送波信号C1および第2搬送波信号C2は、共に、最小値が0で、最大値がVdcで、周期がTcの三角波である。ここでは、第1搬送波信号C1および第2搬送波信号C2の一例として三角波を用いて説明するが、第1搬送波信号C1および第2搬送波信号C2は、のこぎり波等、三角波以外の他の形状であってもよい。また、その場合でも同様の効果が得られる。
第1のオン/オフ信号発生器9aは、第1搬送波信号C1と印加電圧Vu1’とを比較し、印加電圧Vu1’が第1搬送波信号C1の最大値と一致または第1搬送波信号C1よりも大きい場合は「Qup1=1かつQun1=0」を出力し、印加電圧Vu1’が第1搬送波信号C1の最小値と一致または第1搬送波信号C1未満の場合は「Qup1=0かつQun1=1」を出力する。
また、第1のオン/オフ信号発生器9aは、第1搬送波信号C1と印加電圧Vv1’とを比較し、印加電圧Vv1’が第1搬送波信号C1の最大値と一致または第1搬送波信号C1よりも大きい場合は「Qvp1=1かつQvn1=0」を出力し、印加電圧Vv1’が第1搬送波信号C1の最小値と一致または第1搬送波信号C1未満の場合は「Qvp1=0かつQvn1=1」を出力する。
また、第1のオン/オフ信号発生器9aは、第2搬送波信号C2と印加電圧Vw1’とを比較し、印加電圧Vw1’が第2搬送波信号C2の最大値と一致または第2搬送波信号C2よりも大きい場合は「Qwp1=1かつQwn1=0」を出力し、印加電圧Vw1’が第2搬送波信号C2の最小値と一致または第2搬送波信号C2未満の場合は「Qwp1=0かつQwn1=1」を出力する。
その結果、第1の母線電流Iinv1は、図10に示すように、時刻t1〜t2において−Iw1、時刻t2〜t3においてIu1、時刻t3〜t5において−Iv1、時刻t5〜t6においてIu1、時刻t6〜t7において−Iw1となり、いずれのタイミングにおいても力行電流が流れている。図1から分かるように、第1の母線電流Iinv1、第2の母線電流Iinv2、直流電源2の出力電流Ib、および、平滑コンデンサ3の出力電流Icには、Iinv1+Iinv2=Ib+Icの関係がある。また、直流電源2の出力電流Ibは一定値Idcを出力するため、コンデンサ電流Icは、出力電流Ibに対して、Ic=Iinv1+Iinv2−Idcの関係が成り立つ。一定値Idcは、変調率k、力率角θivおよび電流実効値Irmsを用いて下式(1)で与えられる。変調率kは、線間電圧波高値が直流電圧Vdcとなるときを1とした値である。
変調率kが小さい場合にはIcの最大値の絶対値と最小値の絶対値を比較すると、最大値の絶対値の方が大きくなり、変調率kが大きい場合にはIcの最大値の絶対値と最小値の絶対値を比較すると、最小値の絶対値の方が大きくなる。平滑コンデンサ3のコンデンサ電流を小さくするためには、低変調率では、母線電流Iinv1+Iinv2が、予め設定された閾値を超えるような大きな値になることを回避すればよく、高変調率では、母線電流Iinv1+Iinv2が、零または負となることを回避すればよい。例えば、力率角0degの力行運転状態ではIninv1およびIinv2が0〜√3Irmsの範囲となるので、IdcがIninv1+Iinv2の振幅中央値になるには√3Irmsであればよい。この場合、変調率kが1/√2の場合を基準として低変調率、高変調率ということとする。母線電流Iinv2については後述するが、本実施の形態では、Iinv1−Idc/2を抑制した上で、コンデンサ電流Icも抑制する。
なお、上記の図10では、第2搬送波信号C2と印加電圧Vw1’とを比較してオン/オフ信号Qwp1,Qwn1を決定したが、以下では、図11に示すように、第1搬送波信号C1と印加電圧Vw1’とを比較した場合の第1の母線電流Iinv1について説明する。U1相およびV1相のオン/オフ信号Qup1,Qun1,Qvp1,Qvn1は、図10の場合と同様の動きとなるため、ここでは説明を省略する。一方、W1相のオン/オフ信号Qwp1,Qwn1は、図10の場合と異なる。図11では、第1のオン/オフ信号発生器9aが、第1搬送波信号C1と印加電圧Vw1’とを比較し、印加電圧Vw1’が第1搬送波信号C1の最大値と一致または第1搬送波信号C1よりも大きい場合は「Qwp1=1かつQwn1=0」を出力し、印加電圧Vw1’が第1搬送波信号C1の最小値と一致または第1搬送波信号C1未満の場合には「Qwp1=0かつQwn1=1」を出力する。
その結果、第1の母線電流Iinv1は、時刻t1〜t2において0、時刻t2〜t3において−Iw1、時刻t3〜t5においてIu1、時刻t5〜t6において−Iw1、時刻t6〜t7において0となる。時刻t1〜t2および時刻t6〜t7においてIinv1=0となるため、図11は、図10に比べて、コンデンサ電流が大きくなる。
従って、上記の図10で示したように、スイッチング停止相以外の2相のうち、一方の相に対する搬送波信号として第1搬送波信号C1を使用し、もう一方の相に対する搬送波信号として第2搬送波信号C2を使用することで、コンデンサ電流を低減することができる。また、電気角1周期において、上べた二相変調または下べた二相変調とすることによりスイッチング回数を低減できるため、スイッチング損失による発熱を抑制する効果も得ることができる。
以下では、搬送波信号の選択方法について説明する。
図12は、第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’と比較する搬送波信号を、第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2のいずれにするかを示した図である。図12において、搬送波信号の各欄における「1」は第1搬送波信号C1を選択したことを示し、「2」は第2搬送波信号C2を選択したことを示す。また、図12において、ハッチング部分はスイッチング停止相を示しているので、いずれの搬送波信号を選択しても出力結果は変わらない。上述したように、コンデンサ電流を小さくするには、スイッチング停止相以外の2相が互いに異なる搬送波信号を使用すればよい。そのため、スイッチング停止相の変化に合わせて、搬送波信号を60deg毎に切り替える場合、V1相であれば30degで搬送波信号を切り替える必要がある。このとき、V1相は電圧中間相となっているため、スイッチング停止相ではない。
図13は、理想的に搬送波信号が切り替わった場合のオン/オフ信号Qup1,Qvp1,Qwp1の変化を表したものである。V1相については、時刻t10〜t12では第1搬送波信号C1と比較し、時刻t12〜t14では第2搬送波信号C2と比較して、オン/オフ信号Qvp1を生成している。印加電圧Vv1’の演算は、時刻t12より前のタイミングで終了するため、その時点で搬送波信号の切り替え要否は判明している。例えば、印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’の演算が時刻t15で完了し、時刻t15の時点で、搬送波信号を切り替えた場合、本来、時刻t15で実施されるオン/オフ信号Qvp1を0から1にする指示が実施できず、図14のようなオン/オフ信号Qvp1となる。すなわち、図14では、時刻t15以降も、オン/オフ信号Qvp1が0のままである。その結果、時刻t10〜t12で出力したいV1相の印加電圧Vv1’が出せず、3相電流が乱れる要因となる。これを回避して図13のような理想的な波形を実現するには、搬送波信号の切り替えと印加電圧の反映を時刻t12で同期して実施する必要がある。
廉価なマイコンを用いた場合には同期してできる処理が限られるが、図15の表に示すように搬送波信号を切り替えることで、搬送波信号の切り替えと印加電圧の反映を同期せずに実施できる。上記の図12のように搬送波信号を設定すると、電圧中間相で搬送波信号の切り替えが必要となるが、図15のように搬送波信号を設定することで、搬送波信号の切り替え頻度を下げられる。具体的には、図15に示すように、U1相については、電流位相210〜330degで第1搬送波信号C1を使用し、電流位相30〜150degで第2搬送波信号C2を選択する。また、V1相については、電流位相0〜90degおよび電流位相330〜360degで第1搬送波信号C1を選択し、電流位相150〜270degで第2搬送波信号C2を選択する。また、W1相については、電流位相90〜210degで第1搬送波信号C1を選択し、電流位相0〜30degおよび電流位相270〜360degで第2搬送波信号C2を選択する。
すなわち、U1相、V1相、および、W1相の各相において、120degごとに第1搬送波信号C1と第2搬送波信号C2とを切り替え、第1搬送波信号C1の区間と第2搬送波信号C2の区間との間に、スイッチング停止相となる区間を挟む。スイッチング停止相では、搬送波信号1周期においてオンまたはオフのままとなるため、その間に搬送波信号を切り替えてもオン/オフ信号は変化しない。本実施の形態1では、図15の左から右に変化する回転方向であれば、U1相は電流位相150〜210degで第1搬送波信号C1に切り替え、電流位相330〜360degまたは電流位相0〜30degで第2搬送波信号C2に切り替える。また、V1相は、電流位相270〜330degで第1搬送波信号C1に切り替え、電流位相90〜150degで第2搬送波信号C2に切り替える。また、W1相は、電流位相30〜90degで第1搬送波信号C1に切り替え、電流位相210〜270degで第2搬送波信号C2に切り替える。換言すると、U1相は電流位相150〜330degで第1搬送波信号C1を、電流位相330〜360degまたは電流位相0〜150degで第2搬送波信号C2を選択し、V1相は電流位相270〜360degまたは0〜90degで第1搬送波信号C1を、電流位相90〜270degで第2搬送波信号C2を選択し、W1相は電流位相30〜210degで第1搬送波信号C1を、電流位相210〜360degまたは0〜30degで第2搬送波信号C2を選択することになる。つまり、制御部6は、3相巻線U1,V1,W1の各相において、360degのうち、連続する180deg間で第1搬送波信号C1を選択し、残りの連続する180deg間で第2搬送波信号C2を選択することによって、搬送波信号の切り替え回数を低減できる。
図15の表に示すように搬送波信号の切り替えを行うためには、例えば、図16のようなフローチャートで切り替え処理を行うとよい。図16では、まず、ステップS140で、電流絶対値最大相が電圧最大相であるかどうかを判定する。電流絶対値最大相が電圧最大相である場合はステップS142に進み、そうでなければ、ステップS141に進む。ステップS141では、電流絶対値最大相が電圧最小相であるかどうかを判定する。電流絶対値最大相が電圧最小相である場合にはステップS143に進み、そうでなければ、ステップS144に進む。ステップS142では、搬送波信号を第1搬送波信号C1から第2搬送波信号C2に切り替える。ステップS143では、搬送波信号を第2搬送波信号C2から第1搬送波信号C1に切り替える。ステップS144では、搬送波信号を切り替えずに現在の搬送波信号のまま、保持する。
つまり、スイッチング停止状態となるとき、印加電圧が搬送波信号の最大値と一致するとき、または、印加電圧が搬送波信号の最小値と一致するときに、使用する搬送波信号を切り替えることで、搬送波信号の切り替えによって生じる印加電圧の乱れを抑制することができる。なお、ここでは、図13および図14に示すように、第1搬送波信号C1を搬送波信号1周期において上に凸、第2搬送波信号C2を搬送波信号1周期において下に凸である三角波としたが、反対であっても同様の効果が得られることはいうまでもない。
交流回転機1の回転数が低い場合、図15の搬送波信号が切り替わる領域間をハンチングする場合がある。例えば、図3のようなフローチャートで動作させた場合であれば、角度検出誤差または電流検出誤差などの影響によって電圧位相がずれることによって、ハンチングが生じる。この場合には、図16のステップS142によって第2搬送波信号C2に切り替わった後で、再度、第1搬送波信号C1を選択したい領域に戻ることがある。そのため、ステップS140が連続X1回成立したときにステップS142を実施する、および、ステップS141が連続X2回成立したときにステップS143を実施するというように、搬送波信号の切り替えを遅延させる。ここで、X1およびX2の値は、予め適宜設定しておく。つまり、交流回転機1の回転数が、予め設定された回転数閾値以下の場合に、搬送波信号の切り替えを遅延させることによって、搬送波信号が切り替わる領域間のハンチングによる搬送波信号の切り替えミスを回避できる。このように、交流回転機1の回転数が回転数閾値以下の低回転数の場合には、搬送波信号の切り替えがハンチングする可能性があるが、予め設定された条件に基づく不感帯を設けて、切り替えを遅延させることで、ハンチングの発生を回避することができる。なお、ここでは、予め設定された条件として、「ステップS140が連続X1回成立」あるいは「ステップS141が連続X2回成立」という条件を例に挙げて説明したが、これに限定されない。予め設定された条件は、例えば、予め設定した時間が経過したときなど、他の条件としてもよい。
なお、交流回転機1の回転方向が一定の場合には、図16に示すフローに従う判定でよいが、交流回転機1が両方向に回転する場合には、回転方向に応じて切り替え方を変える必要がある。例えば、図15の右から左に変化する回転方向の場合について考える。このとき、U1相は、150〜210degの間で第2搬送波信号C2に切り替え、330〜360degの間、および、0〜30degの間で第1搬送波信号C1に切り替える。V1相は、270〜330degの間で第2搬送波信号C2に切り替え、90〜150degの間で第1搬送波信号C1に切り替える。W1相は、30〜90degの間で第2搬送波信号C2に切り替え、210〜270degの間で第1搬送波信号C1に切り替える。この場合には、例えば、図17に示すフローチャートで切り替えを行うとよい。
図17と図16との違いについて説明する。図17は、図16のステップS142をステップS142aに変更し、図16のステップS143をステップS143aに変更したものである。ステップS142aでは、搬送波信号を第2搬送波信号C2から第1搬送波信号C1に切り替える。ステップS143aでは、搬送波信号を第1搬送波信号C1から第2搬送波信号C2に切り替える。他のステップについては、図16と同じであるため、ここではその説明を省略する。
以上の説明から分かるように、図15の左から右に回転する場合には図16のフローによって搬送波信号を決定し、図15の右から左に回転する場合には図17のフローによって搬送波信号を決定する。これにより、交流回転機1が両方向に回転する場合においても、交流回転機1が一方向に回転する場合と同様に、コンデンサ電流を低減することができる。なお、この場合においても、搬送波信号の切り替えミスを回避するために、交流回転機1の回転数が或る値以下の場合に、搬送波信号の切り替えを遅延させてもよい。また、回転方向が切り替わった後の電気角1周期の搬送波信号が所望の設定と異なるものとなることを許容すれば、回転方向に関係無く図16または図17のフローによって搬送波信号を決定してもよい。
力率角が60degの場合には、搬送波信号は、図18に示すように設定される。具体的には、U1相は、180〜240degおよび270〜330degで第1搬送波信号C1を選択し、0〜60degおよび90〜150degで第2搬送波信号C2を選択する。V1相は、30〜90degおよび300〜360degで第1搬送波信号C1を選択し、120〜180degおよび210〜270degで第2搬送波信号C2を選択する。W1相は、60〜120degおよび150〜210degで第1搬送波信号C1を選択し、0〜30deg、240〜300degおよび330〜360degで第2搬送波信号C2を選択する。すなわち、図18に示すように、60degごとに、30deg分のスイッチング停止相となる区間を挟みながら、「C1」、「C1」、「C2」、「C2」、「C1」、「C1」、・・・の順に、搬送波信号の切り替えを行う。すなわち、一方の搬送波信号が2回連続して選択された後に、他方の搬送波信号が2回連続して選択される。また、スイッチング停止相では搬送波信号1周期においてオンまたはオフのままとなるため、その間に搬送波信号を切り替えてもオン/オフ信号は変化しない。本実施の形態1では、図18の左から右に変化する回転方向であれば、U1相は、150〜180degで第1搬送波信号C1に切り替えられ、330〜360degで第2搬送波信号C2に切り替えられる。また、V1相は、270〜300degで第1搬送波信号C1に切り替えられ、90〜120degで第2搬送波信号C2に切り替えられる。また、W1相は30〜60degで第1搬送波信号C1に切り替えられ、210〜240degで第2搬送波信号C2に切り替えられる。
図18では、スイッチング停止相以外の2相の搬送波信号を30deg毎に同じになるようにしている。すなわち、例えば、図18の60〜90degでは、U1相がスイッチング停止相で、スイッチング停止相以外のV1相およびW1相の搬送波信号は、共に、第1搬送波信号C1である。また、120deg〜150degでは、W1相がスイッチング停止相で、スイッチング停止相以外のU1相およびV1相の搬送波信号は、共に、第2搬送波信号C2である。図18の場合の効果について説明する。電圧と電流の位相が60degずれていることで、2相の搬送波信号が同じになる領域では、電流絶対値最大相が電圧中間相となっている。具体的には、V1相とW1相との搬送波信号が同じになる60〜90degでは、電流絶対値最大相および電圧中間相は共にW1相である。また、U1相とV1相との搬送波信号が同じになる120〜150degでは、電流絶対値最大相および電圧中間相は共にV1相である。このとき、図7のタイミングDにおいて、V1相を第2搬送波信号C2と比較し、W1相を第1搬送波信号C1と比較して、オン/オフ信号を生成したときの出力波形を図19に示し、V1相およびW1相をともに第2搬送波信号C2と比較してオン/オフ信号を生成したときの出力波形を図20に示す。
図19では、2相の搬送波信号を互いに異なるものにしており、第1の母線電流Iinv1は、Iu1、−Iv1および−Iw1の3種類となる。Iu1<0、Iv1<0、Iw1>0なので、力行運転状態にも拘らず、Iu1および−Iw1が流れる間は、回生方向の電流が流れることになる。W1相は電流絶対値最大相であるから、コンデンサ電流が大きくなる。
一方、図20では、2相の搬送波信号を同じものにしており、第1の母線電流Iinv1は、Iu1、−Iv1および0の3種類となる。Iu1が流れる間は、回生方向の電流が流れることになるが、U1相は電流絶対値最小相であるから、コンデンサ電流は、図19より小さくできる。ここでは、1相のスイッチングが停止する二相変調で説明したため、搬送波信号を切り替える切替対象相をスイッチング停止相として説明したが、正弦波変調を含む他の変調方式であっても3相の搬送波信号を同じにすることで同様の効果を得られる。つまり、電流絶対値最大相が電圧中間相であるときには、印加電圧が搬送波信号の最大値と一致する、または、印加電圧が搬送波信号の最小値と一致する相以外の2相の印加電圧を、同一の搬送波信号と比較することによって、コンデンサ電流を低減できる。
上記の説明においては、図3、図16、および、図17のフローに示すように、電流絶対値最大相が、電圧最大相、電圧最小相、および、電圧中間相のいずれであるかに基づいて、オフセット電圧および搬送波信号を決定したが、この場合に限定されない。すなわち、電流位相または力率角に基づいて、オフセット電圧および搬送波信号を決定してもよい。例えば、力率角が180degでは、図15に対してオフセット方向を逆にした図21を用いる。また、力率角が240degでは、図18に対してオフセット方向を逆にした図22を用いる。また、力率角が120degでは図18に対して設定相をずらした図23を用いる。また、力率角が300degでは、図23に対してオフセット方向を逆にした図24を用いる。また、上記以外の力率角の場合には、±30degの範囲内となる力率角60ndegの場合を示した図の切替表に対して、電圧位相のずれ分だけ搬送波信号の切り替え位相をずらせばよい。ここで、nは整数である。例えば、力率角135degの場合には、力率角120degの図23に対して15deg切り替え位相が変化する。
前述のように、電流絶対値最大相が電圧中間相の場合には、搬送波信号を同じにした方がコンデンサ電流を低減できるため、スイッチング停止相の設定には自由度がある。そこで、力率角が60degの場合について、図18では搬送波信号の切り替え頻度を抑制したが、図25の例および図26の例では、スイッチング停止相の切り替え頻度を抑制する。図25と図26との違いは、搬送波信号の割り当てだけである。図25では、制御部6は、第1の3相巻線U1,V1,W1の各相において、360degのうち、連続する180deg間で第1搬送波信号C1を選択し、残りの連続する180deg間で第2搬送波信号C2を選択している。一方、図26では、U1相は、全領域において第1搬送波信号C1を選択し、V1相は、0〜30degおよび180〜210degで第1搬送波信号C1を、それ以外の領域では第2搬送波信号C2を選択し、W1相は、90〜150degおよび270〜330degで第2搬送波信号C2を、それ以外の領域では第1搬送波信号C1を選択している。つまり、制御部6は、図25のように、3相巻線U1,V1,W1の各相において、360degのうち、連続する180deg間で第1搬送波信号C1を選択し、残りの連続する180deg間で第2搬送波信号C2を選択することによって、搬送波信号の切り替え回数を最小とすることができる。図18では、電気角1周期においてスイッチング停止相が12回切り替わるが、図25および図26では、電気角1周期においてスイッチング停止相が6回切り替わるため、その分だけスイッチング損失を低減できる。このとき、オフセット電圧Voffset1は、図27のようなフローチャートで決定するとよい。図27は、図3に対して、図3のステップS135をステップS135aに変更し、図3のステップS136をステップS136aに変更したものである。図27では、ステップS132の判定で、電圧中間相の電圧指令Vmidが正の場合には、下方向へオフセットさせるステップS135aを実施し、電圧中間相の電圧指令Vmidが負の場合には、上方向へオフセットさせるステップS136aを実施する。具体的には、ステップS135aでは、第1のオフセット演算器8aは、オフセット電圧Voffset1に、電圧最小相の電圧指令Vminの値を設定する。一方、ステップS136aでは、第1のオフセット演算器8aは、電圧最大相の電圧指令Vmaxと直流電源2の直流電圧Vdcとの差、すなわち、(Vmax−Vdc)の値を求め、当該値(Vmax−Vdc)をオフセット電圧Voffset1に設定する。
電圧中間相の電圧指令が正の場合、電圧最大相の電圧指令は正、電圧最小相の電圧指令は負であり、3相の電圧指令の和は零であるから、電圧絶対値最大相は電圧最小相となる。電圧最大相の印加電圧を搬送波信号の最大値にするためのオフセット電圧の絶対値に比べて、電圧最小相の印加電圧を搬送波信号の最小値にするためのオフセット電圧の絶対値は小さい。電圧中間相の電圧指令が負の場合、電圧最大相の電圧指令は正、電圧最小相の電圧指令は負であり、3相の電圧指令の和は零であるから、電圧絶対値最大相は電圧最大相となる。電圧最大相の印加電圧を搬送波信号の最小値にするためのオフセット電圧の絶対値に比べて、電圧最小相の印加電圧を搬送波信号の最大値にするためのオフセット電圧の絶対値は小さい。したがって、図3のステップS135およびステップS136を、それぞれ、図27のステップS135aおよびステップS136aにすることで、オフセット電圧を抑制する効果も得られる。
第2のオフセット演算器8bは、第2の3相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2にオフセット電圧Voffset2を等しく減算し、第2の3相印加電圧Vu2’,Vv2’,Vw2’を演算する。図28に、第2のオフセット演算器8bにおけるオフセット電圧Voffset2の演算フローチャートを示す。第2の3相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2を大きい順に並べたときの電圧最大相の電圧指令をVmax、電圧中間相の電圧指令をVmid、電圧最小相の電圧指令をVminとする。3相巻線を流れる電流のうち絶対値最大となる相を電流絶対値最大相と呼び、3相電圧指令を大きい順に並べたときの最大相を第2電圧最大相または単に電圧最大相と呼び、中間相を第2電圧中間相または単に電圧中間相と呼び、最小相を第2電圧最小相または単に電圧最小相と呼ぶ。ステップS230では、電流絶対値最大相が電圧最大相であるか否かを判定し、電流絶対値最大相が電圧最大相であるならばステップS233に進み、そうでないならば、ステップS231に進む。ステップS231では、電流絶対値最大相が電圧最小相であるか否かを判定し、電流絶対値最大相が電圧最小相であるならばステップS234に進み、そうでないならばステップS232に進む。ステップS232は、電流絶対値最大相が電圧中間相である場合である。そのため、ステップS232では、電圧中間相の電圧指令Vmidが正であるか否かを判定し、電圧中間相の電圧指令Vmidが正であるならばステップS235に進み、そうでないならばステップS236に進む。ステップS234およびステップS236では、オフセット電圧Voffset2を電圧最小相の電圧指令Vminに設定する。ステップS233およびS235では、オフセット電圧Voffset2を、電圧最大相の電圧指令Vmaxと直流電源2の直流電圧Vdcとの差(Vmax−Vdc)に設定する。なお、電流絶対値最大相の選択には、制御指令を用いても、第2の電流検出器5bで得られた電流検出値を用いてもよい。
第2のオン/オフ信号発生器9bは、第2の3相印加電圧Vu2’,Vv2’,Vw2’に基づいてオンオフ信号Qup2,Qun2,Qvp2,Qvn2,Qwp2,Qwn2を出力する。第1のオン/オフ信号発生器9aが図15のように搬送波信号を選択する場合に、搬送波信号の設定を図15と同じ設定とすれば図29となり、図15と異なる設定とすれば図30となる。前述のようにコンデンサ電流Ic=Iinv1+Iinv2−Idcの関係が成り立つので、低変調率ではIinv1+Iinv2を抑制することが重要であり、高変調率ではIinv1+Iinv2が零または負となることを回避することが重要である。
図10において、図29の設定とすれば、第2の母線電流Iinv2には−Iw1−Iw2、Iu1+Iu2、−Iv1−Iv2が流れる。V1およびV2が電流絶対値最小相となるため、この搬送波1周期でのコンデンサ電流は−Iv1−Iv2が支配的になる。低変調率の場合にはW1およびW2が電流絶対値最大相となるため、この搬送波1周期でのコンデンサ電流は−Iw1−Iw2が支配的になる。一方、図30の設定とすれば、母線電流Iinv2には−Iw1−Iv2、Iu1+Iu2、−Iv1−Iw2が流れる状態を作ることができる。電流絶対値最大相と電流絶対値最小相とを組み合わせて、第2の母線電流Iinv2を流すため、搬送波信号1周期におけるIinv1+Iinv2の変動を抑制できる。第1のオン/オフ信号発生器9aが図16のようなフローチャートで搬送波信号を切り替える場合には、第2のオン/オフ信号発生器9bは、例えば、図31のようなフローチャートで切り替えるとよい。図31では、ステップS240で、電流絶対値最大相が電圧最大相であるか否かを判定し、電流絶対値最大相が電圧最大相であるならばステップS242に進み、そうでないならば、ステップS241に進む。ステップS241では、電流絶対値最大相が電圧最小相であるか否かを判定し、電流絶対値最大相が電圧最小相であるならばステップS243に進み、そうでないならばステップS244に進む。ステップS242では、第1搬送波信号に切り替え、ステップS243では、第2搬送波信号に切り替え、ステップS244では搬送波信号を保持する。
図32に、力率角0degにおけるオフセット電圧および搬送波信号の設定方法による比較結果を示す。横軸は変調率、縦軸はコンデンサ電流を表す。一点鎖線は特許文献1の方法を用いた場合、実線は特許文献1の方法に対してオフセット方向を同一とした場合、破線は本実施の形態で述べた搬送波信号を同じ設定とした場合、点線は本実施の形態で述べた搬送波信号を異なる設定とした場合である。本実施の形態1で述べた搬送波信号を異なる設定とすることによって、コンデンサ電流の極小値、極大値ともに低減できるという従来に無い効果を得ることができている。
図33に、力率角60degにおけるオフセット電圧および搬送波信号の設定方法による比較結果を示す。一点鎖線は特許文献1の方法を用いた場合、実線は特許文献1の方法に対してオフセット方向を同一とした場合、破線は本実施の形態で述べた搬送波信号を同じ設定とした場合、点線は本実施の形態で述べた搬送波信号を異なる設定とした場合である。特許文献1の方法では低変調率のコンデンサ電流を低減できるものの高変調率では次第に増加するが、本実施の形態1で述べた搬送波信号を異なる設定とすることによって、変調率が変化してもコンデンサ電流の最大値を低減できるという従来に無い効果を得ることができている。
力率角180degの場合は力率角0degと、力率角120deg、240deg、300degの場合は力率角60degと同様の効果が得られるため、本実施の形態1で述べた搬送波信号を異なる設定とすることによって力率角に関係無くコンデンサ電流を低減できるという従来に無い効果を得ることができる。
図34は、本実施の形態1に係る電力変換装置を車両用発電電動機に使用する場合の構成を示す図である。電力変換装置の構成については、図1で説明した通りであるため、ここではその説明を省略する。図34においては、交流回転機1が、内燃機関801とベルトを介して接続されている。交流回転機1および内燃機関801は、共に、車両に搭載されている。交流回転機1は、内燃機関801の補機として、図示しない駆動系部品を経由して、車両に設けられた車輪の駆動力を発生させるとともに、内燃機関801の回転を利用して発電を行う。内燃機関801の回転は一定方向となるため、交流回転機1が図34の例のように使用される場合には、交流回転機1の回転方向が一定となることが多い。このように、交流回転機1の回転方向が決まっているため、図15に示した切替表のように、搬送波信号を切り替えればよい。また、その場合において、図16または図17のいずれかのフローチャートに従って、搬送波信号を決めればよい。本実施の形態1の電力変換装置を車両用発電電動機に用いることで、高頻度で実施される発電動作時のコンデンサ電流を低減しつつ、搬送波信号の切り替えによる電流乱れの発生を抑制することができる。その結果、車両を運転する運転者にとって不快な駆動力変動を抑制できるという従来に無い効果を得ることができる。
図35は、本実施の形態1に係る電力変換装置を車両に設けられた電動パワーステアリング装置用の電動機に使用する場合の構成を示す図である。電力変換装置の構成については、図1で説明した通りであるため、ここではその説明を省略する。図35においては、交流回転機1が、電動パワーステアリング装置に接続されている。車両の運転者は、ハンドル901を左右に回転させて、車両の前輪902の操舵を行う。トルク検出器903は、ステアリング系の操舵トルクTsを検出し、検出した操舵トルクTsを、制御指令生成部905に出力する。制御指令生成部905は、トルク検出器903と電力変換装置との間に設けられている。交流回転機1は、運転者の操舵を補助するアシストトルクを発生して、ギヤ904を介して付与する。制御指令生成部905は、トルク検出器903から出力された運転者の操舵トルクTsに基づいて、交流回転機1を所望の状態に制御するための制御指令を演算する。演算された制御指令は、制御部6の電圧指令演算器7に入力される。制御指令生成部905は、制御指令として、下式(2)により、トルク電流指令Iq_tgtを演算する。
Iq_tgt = ka・Ts・・・(2)
ここで、kaは定数であるが、操舵トルクTsまたは車両の走行速度に応じて、kaの値を変動させるように設定してもよい。ここでは、上式(2)を用いてトルク電流指令Iq_tgtを決定するが、その場合に限らず、操舵状況に応じた公知の補償制御に基づいてトルク電流指令Iq_tgtを決定してもよい。運転者がハンドル901を回転させる方向は、両方向となっているため、回転方向に応じて、図16および図17のいずれかのフローチャートに従って搬送波信号を決めればよい。このように、本実施の形態1に係る電力変換装置を電動パワーステアリング装置用の電動機に用いることで、操舵時のコンデンサ電流を低減しつつ、搬送波信号の切り替えによる電流乱れの発生を抑制することができる。その結果、低回転から使用する電動パワーステアリング装置において、電流およびトルクの乱れにつながる電圧に乱れを抑制することで、車両を運転する運転者にとって不快なハンドル901を介して伝わる振動の抑制、および、車室内に伝わる騒音の低減を実現できるという従来に無い効果を得ることができる。
さらに、第1の電力変換器4aのスイッチング素子のいずれかが故障した場合について説明する。ここでは、高電位側スイッチング素子Sup1が開放故障した場合を例とする。高電位側スイッチング素子Sup1が開放故障した場合、高電位側スイッチング素子Sup1をオンできないため、U相の印加電圧は所望の値を出力できず、第1の3相巻線を流れる電流も120deg位相がずれた正弦波を出力することができない。この状態で継続運転すると、出力トルクおよび母線電流の変動が大きくなる。残りのスイッチング素子Svp1、Swp1、Sun1、Svn1、Swn1を全てオフすることで、第1の3相巻線U1,V1,W1を流れる電流を零にすることができ、第1の母線電流Iinv1は0となる。このとき、第1の母線電流Iinv1の直流成分を表すIdcは、下式(3)で与えられる。
特許文献1の制御方法では、第1の母線電流Iinv1および第2の母線電流Iinv2そのものの低減はしておらず、第1の母線電流Iinv1と第2の母線電流Iinv2との和のみを低減しているため、第1の母線電流Iinv1が0の場合には、コンデンサ電流の低減は望めない。一方、本実施の形態1の方法では、第1の母線電流Iinv1および第2の母線電流Iinv2そのものを低減するとともに、第1の母線電流Iinv1と第2の母線電流Iinv2との和も低減しているため、第1の電力変換器4aの高電位側スイッチング素子または低電位側スイッチング素子の少なくとも1つが開放故障したときに、第1の電力変換器4aの高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子をオフした状態においても、コンデンサ電流の低減が可能であるという従来に無い効果を得ることができる。このように、本実施の形態1においては、制御部6が、第1の電力変換器4aの高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子のうちの少なくとも1つが開放故障したときに、第1の電力変換器4aの高電位側スイッチング素子Sup1,Svp1,Swp1および低電位側スイッチング素子Sun1,Svn1,Swn1をオフし、第2の電力変換器4bの高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子のうちの少なくとも1つが開放故障したときに、第2の電力変換器4bの高電位側スイッチング素子Sup2,Svp2,Swp2および低電位側スイッチング素子Sun2,Svn2,Swn2をオフすることで、片群故障時の継続運転中でも、正常群はそのまま継続運転が可能である。
また、ここでは高電位側スイッチング素子Sup1が短絡故障した場合、高電位側スイッチング素子Sup1をオフできないため、U相の印加電圧は所望の値を出力できず、第1の3相巻線U1,V1,W1を流れる電流も120deg位相がずれた正弦波を出力することができない。この状態で継続運転すると、出力トルクおよび母線電流の変動が大きくなる。短絡故障が発生した高電位側スイッチング素子Sup1と同電位側のスイッチング素子Svp1、Swp1を全てオンにし、反対側の低電位側スイッチング素子Sun1、Svn1、Swn1を全てオフすることで、第1の電力変換器4aと第1の3相巻線U1,V1,W1とを電流が還流する状態を作ることができ、第1の母線電流Iinv1は0となる。特許文献1の制御方法では、第1の母線電流Iinv1および第2の母線電流Iinv2そのものの低減はしておらず、第1の母線電流Iinv1と第2の母線電流Iinv2との和のみを低減しているため、第1の母線電流Iinv1が0の場合には、コンデンサ電流の低減は望めない。一方、本実施の形態1の方法では、第1の母線電流Iinv1および第2の母線電流Iinv2そのものを低減するとともに、第1の母線電流Iinv1と第2の母線電流Iinv2との和も低減しているため、第1の電力変換器4aの高電位側スイッチング素子または低電位側スイッチング素子の少なくとも1つが短絡故障したときに、故障したスイッチング素子と同電位側の全てのスイッチング素子をオン、反対側の全てのスイッチング素子をオフした状態においても、コンデンサ電流の低減が可能であるという従来に無い効果を得ることができる。このように、本実施の形態1においては、制御部6が、第1の電力変換器4aの高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子のうちの少なくとも1つが短絡故障したときに、第1の電力変換器4aの高電位側スイッチング素子Sup1,Svp1,Swp1および低電位側スイッチング素子Sun1,Svn1,Swn1のうち、故障したスイッチング素子と同電位側の全てのスイッチング素子をオンにし、反対側の全てのスイッチング素子をオフし、第2の電力変換器4bの高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子のうちの少なくとも1つが短絡故障したときに、第2の電力変換器4bの高電位側スイッチング素子Sup2,Svp2,Swp2および低電位側スイッチング素子Sun2,Svn2,Swn2のうち、故障したスイッチング素子と同電位側の全てのスイッチング素子をオンにし、反対側の全てのスイッチング素子をオフすることで、片群故障時の継続運転中でも、正常群はそのまま継続運転が可能である。
実施の形態2.
以下、本発明の実施の形態2に係る電力変換装置について説明する。
図36は、本発明の実施の形態2に係る電力変換装置の全体の構成を示す図である。図36の構成は、図1の実施の形態1の構成に対して、交流回転機1の代わりに、交流回転機1Aを設けた点が異なる。図1の実施の形態1の交流回転機1では、図2に示すように、第1の3相巻線U1,V1,W1と第2の3相巻線U2,V2,W2とは位相差が零であるものとしたが、本実施の形態2の交流回転機1Aにおいては、図37に示すように、第1の3相巻線U1,V1,W1と第2の3相巻線U2,V2,W2との位相差は30degである。本実施の形態2では、巻線の位相差が30degである場合について述べるが、第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1と第2の3相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2との位相差が30degである場合も同様の効果を得ることができる。
なお、他の構成については、図1と同じであるため、ここでは、その説明を省略する。
図38は、上段のグラフに、電流位相に対する第1の3相巻線U1,V1,W1を流れる電流Iu1,Iv1,Iw1の波形を示し、下段のグラフに、電流位相に対する第2の3相巻線U2,V2,W2を流れる電流Iu2,Iv2,Iw2の波形を示したものである。図39は、上段のグラフに、電流位相に対する力率角0degのときの第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を示し、下段のグラフに、電流位相に対する力率角0degのときの第2の3相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2を示したものである。図38および図39において、実線がU1相の波形、破線がV1相の波形、点線がW1相の波形をそれぞれ示している。
第1のオフセット演算器8aにおいて、図3のフローチャートに従ってVoffset1を決定し、第2のオフセット演算器8bにおいて、図28のフローチャートに従ってVoffset2を決定したとき、第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’と第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’、Vw2’とは、それぞれ、図40の上段のグラフおよび下段のグラフの通りとなる。図40において、実線がU1相の波形、破線がV1相の波形、点線がW1相の波形をそれぞれ示している。すなわち、第1の3相印加電圧Vu1’,Vv1’,Vw1’と第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’、Vw2’とは、図40に示すように、60deg毎にスイッチング停止相が切り替わる波形となる。また、最大相を搬送波信号の最大値に一致させる上べた二相変調と最小相を搬送波信号の最小値に一致させる下べた二相変調が60deg毎に交互に切り替わる。
図38〜図40に示すタイミングEにおいて、第1の母線電流Iinv1は図11と同様に−Iw1,Iu1,−Iv1となり、第2の母線電流Iinv2は−Iw2,Iu2,−Iv2となる。搬送波信号1周期におけるIinv1+Iinv2の変動を抑制するためには、−Iw1と−Iv2とを組み合わせ、−Iv1と−Iw2とを組み合わせるとよいので、第1のオン/オフ信号発生器9aが図15のように搬送波信号を選択する場合には、第2のオン/オフ信号発生器9bが、図41に示すように、図15とは異なる設定となる搬送波信号を選択すればよい。すなわち、図41では、具体的には、U2相については、電流位相240〜360degで第2搬送波信号C2を使用し、電流位相60〜180degで第1搬送波信号C1を選択する。また、V2相については、電流位相180〜300degで第1搬送波信号C1を選択し、電流位相0〜120degで第2搬送波信号C2を選択する。また、W1相については、電流位相120〜240degで第2搬送波信号C2を選択し、電流位相0〜60degおよび電流位相300〜360degで第1搬送波信号C1を選択する。この場合、例えば、第2のオン/オフ信号発生器9bは、図31のフローチャートで搬送波信号を切り替えることができる。なお、両方向に回転する交流回転機の場合には、実施の形態1と同様に、搬送波信号の切り替え方法を回転数に応じて変更すればよい。
図42は、上段のグラフに、電流位相に対する力率角60degのときの第1の3相電圧指令Vu1,Vv1,Vw1を示し、下段のグラフに、電流位相に対する力率角60degのときの第2の3相電圧指令Vu2,Vv2,Vw2を示したものである。図42において、実線がU1相の波形、破線がV1相の波形、点線がW1相の波形をそれぞれ示している。第1のオフセット演算器8aにおいて、図3のフローチャートに従ってVoffset1を決定し、第2のオフセット演算器8bにおいて、図28のフローチャートに従ってVoffset2を決定したとき、第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’、Vw1’と第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’、Vw2’とは、それぞれ、図43の上段のグラフおよび下段のグラフに示す通りとなる。すなわち、第1の3相印加電圧Vu1’、Vv1’、Vw1’と第2の3相印加電圧Vu2’、Vv2’、Vw2’とは、30deg毎にスイッチング停止相が切り替わる波形となる、ステップS232の判定結果によって、オフセット方向は60deg毎に変化しており、上べた二相変調と下べた二相変調とが60deg毎に交互に切り替わる。
図38の電流波形と図42の電圧波形を見比べると、第1の3相巻線U1,V1,W1の絶対値最大相の電圧指令が電圧最大相または電圧最小相のときに、第2の3相巻線U2,V2,W2の絶対値最大相の電圧指令が電圧中間相となっており、第2の3相巻線U2,V2,W2の絶対値最大相の電圧指令が電圧最大相または電圧最小相のときに、第1の3相巻線U1,V1,W1の絶対値最大相の電圧指令が電圧中間相となっている。また、搬送波信号1周期におけるIinv1+Iinv2の変動を抑制することを考慮すると、第1のオン/オフ信号発生器9aが、図18のように搬送波信号を選択する場合には、第2のオン/オフ信号発生器9bが、図44に示すように、図18と同じ設定となる搬送波信号を選択すればよい。この場合、例えば、図45のフローチャートで搬送波信号を切り替えられる。図45は、図31に対して、ステップS242をステップS242aに変更し、ステップS243をステップS243aに変更したものである。なお、両方向に回転する交流回転機の場合には、実施の形態1と同様に搬送波信号の切り替え方法を回転数に応じて変更すればよい。
これまで力率角0degおよび60degの場合のオフセット電圧および搬送波信号を決定した例を示したが、力率角が180degでは図41に対してオフセット方向を逆にした図46、力率角が240degでは図44に対してオフセット方向を逆にした図47、力率角が120degでは図47に対して設定相をずらした図48、力率角が300degでは図48に対してオフセット方向を逆にした図49のように設定すればよい。また、上記以外の力率角の場合には、±30degの範囲内となる力率角60ndegの図に対して電圧位相のずれ分だけ搬送波信号の切り替え位相をずらせばよい。ここで、nは任意の整数である。例えば、力率角135degの場合には力率角120degの図48に対して15deg切り替え位相が変化する。なお、図46〜図49において、上段の切替表は第1のオン/オフ信号発生器9aで使用する搬送波信号を示し、下段の切替表は第2のオン/オフ信号発生器9bで使用する搬送波信号を示している。
図50に、力率角0degにおけるオフセット電圧および搬送波信号の設定方法による比較結果を示す。横軸は変調率、縦軸はコンデンサ電流を表す。一点鎖線は特許文献1の方法を用いた場合、実線は特許文献1の方法に対してオフセット方向を同一とした場合、破線は本実施の形態2で述べた搬送波信号を同じ設定とした場合、点線は本実施の形態2で述べた搬送波信号を異なる設定とした場合である。つまり、力率角が0±30degおよび180±30degの範囲にある場合、本実施の形態2で述べた搬送波信号を同じ設定とすることによって、コンデンサ電流の最大値を低減できるという従来に無い効果を得ることができている。
図51に、力率角60degにおけるオフセット電圧および搬送波信号の設定方法による比較結果を示す。一点鎖線は特許文献1の方法を用いた場合、実線は特許文献1の方法に対してオフセット方向を同一とした場合、破線は本実施の形態2で述べた搬送波信号を同じ設定とした場合、点線は本実施の形態2で述べた搬送波信号を異なる設定とした場合である。つまり、力率角が60±30deg、120±30deg、240±30deg、および300±30degの範囲にある場合、本実施の形態2で述べた搬送波信号を異なる設定とすることによって、変調率が変化してもコンデンサ電流の最大値を低減できるという従来に無い効果を得ることができている。なお、図33の場合とは異なり、搬送波信号を同じ設定とする方が異なる設定とするよりもコンデンサ電流を抑制できる領域があるので、変調率が0.8付近では搬送波信号を同じ設定とし、他の変調率では搬送波信号を異なる設定としてもよい。
したがって、第1の3相巻線U1,V1,W1と第2の3相巻線U2,V2,W2の位相差が30degの場合には、使用頻度の高い力率角に応じて適切な搬送波信号の設定を選択したり、力率角に基づいて搬送波信号の設定方法を切り替えたりすることで、コンデンサ電流の低減効果をより高めることが可能となる。