以下、図面等を用いて、本発明の実施例について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではない。本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能であり、下記の実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
図1は、一実施例の加熱調理器であるクッキングヒータを、システムキッチン1に設置した状態の斜視図であり、図2は、クッキングヒータの分解した図である。また、図3はプレート3を外した本体2内部の上面図である。
図1、図2において、1はシステムキッチン、2はクッキングヒータの本体で、図ではシステムキッチン1の天板1aに設けられた開口部からクッキングヒータ本体2を落とし込んで据え付けている状態を示す。3はこの本体2の上面部に配置されるプレートで、被加熱物が載置されるもので、耐熱性が高いガラスやセラミックで形成されている。本実施例では、上面3bに載置した鍋を誘導加熱し、発熱した鍋底の温度をプレート3を介して検出する。
4はプレート3の外周端面四辺を保持し保護するプレート枠である。6は被加熱物である鍋(図示無し)を載置する位置を示す載置部で、この載置部6のプレート3を挟んで対応した位置に三口の前記鍋を誘導加熱する加熱コイル60が設置されている。ちなみに、載置部6は、プレート3の上面手前の右に載置部右6a、左に載置部左6bが配置され、これら両載置部6a、6b間の奥(中央後部)に載置部中央6cが配置されている。
前記した渦電流は、右加熱コイル60a、左加熱コイル60b、中加熱コイル60cに例えば20kHz〜40kHz程度の高周波電流を流して磁束を時間的に変化させることで発生する。右加熱コイル60a(60a1、60a2)(図3)、左加熱コイル60b(60b1、60b2)(図3)、中加熱コイル60c(60c1、60c2)(図3)は、インバータ回路の駆動によって高周波電流が流れる加熱コイルで、加熱コイル60の外周には加熱コイル60外周に磁束が漏れるのを防止するシールドリング61が設けられている。このシールドリング61と載置部6を示す位置とは略一致する位置関係にある。また、コイルベース31に載置されている。加熱コイル60の中心付近にプレート3の下面3a(図4参照)に接触してプレート3越しに鍋底の温度を検出する温度センサ34が設置されている。図2では、各加熱コイル60に一個の温度センサ34を図示しているが、他に後述する隙間60a3、隙間60b3、隙間60c3(図3参照)に図示していない複数の温度センサ34を設けている。
コイルベース31は、3つの支持部32(例えば、バネ)で支持され、この支持部32によって上向きの付勢力が与えられている。これによって、加熱コイル60はプレート3の下面3a(図4)に押し付けられ、被加熱物と加熱コイル60との距離が一定に保たれる。
そして、本体2には後述のオーブン11を覆う仕切板2bの上方に設られた基板台73a、73b上に載置した、本発明の電力制御部500である右基板7aと左基板7bと、右基板7a、左基板7bを覆うように設けられる右基板カバー66a、左基板カバー66bと、ファン装置Fとを備えている。なお、電力制御部500は右基板7aと左基板7bの両方を含んでも、片方のみでもどちらでも良い。
9はプレート3の前側に設けられた上面操作部で、前記鍋を加熱する加熱コイル60の火力や加熱時間の設定を行う。10は上面操作部9の奥側に位置する上面表示部で、上面操作部9にて設定された情報の表示を行う。
2aは本体2の後方に設けられた吸気口で、本体2の内部に備わる加熱コイル60や加熱コイル60に電源を供給するインバータ基板、制御基板内の発熱する電子部品を冷却するのに使用される外気を吸引するところである。8は本体2の後方のバックフレーム23に設けられた排気口である。ファン装置Fにより吸気口2aより吸気された外気が発熱部品である加熱コイル60や電子部品を冷却した後の廃熱を排気口8より本体2外に排出される。
11は魚や肉、ピザ等の被加熱物を焼くオーブンで、11aはオーブンのドアである。なお、オーブン11で発生した排熱も排気口8から排出される。5は主にオーブン11の調理条件を設定するために設けられた前面操作部である。
本体2に、収めて設置された基板や表示部等や、加熱コイル60のさらに上から蓋をするようにプレート3が設置されている。
図2に示すように、本体2の上面開口部に配置されるプレート組14は、プレート3と、プレート3の外周を保護するプレート枠4と、プレート3の下面3a(図4)外周を保持する保持部材15(図4)と、プレート3の下面に保持される操作表示基板17(図4)とで構成される。
プレート枠4は、プレート3の左右の辺を保護するサイドフレーム21と、プレート3の前辺を保護するフロントフレーム22と、プレート3の後辺を保護するバックフレーム23から構成される。なお、サイドフレーム21はプレート3の右側の辺を保護するサイドフレーム右用とプレート3の左側の辺を保護するサイドフレーム左用があるが、ここではサイドフレーム21として同じ番号で図示し説明する。
図3で加熱コイル60について説明する。
本体2の右基板7a、左基板7bを覆う右基板カバー66a、左基板カバー66bの上にコイルベース31で支持して加熱コイル60が設けられている。以下では、代表で右加熱コイル60aについて説明する。
右加熱コイル60aは、同心円状の同一平面上に設けられた内側加熱コイル60a1と外側加熱コイル60a2で構成され通常二重加熱コイルと呼ばれ、内側加熱コイル60a1の外端と外側加熱コイル60a2の内端が電気的に接続されている。内側加熱コイル60a1と外側加熱コイル60a2との間には隙間60a3を設けて配置している。内側加熱コイル60a1の内側の径は内径M、外側加熱コイル60a2の外側の径は外径Lである。図3に示すように、左加熱コイル60b、中加熱コイル60cともに同様の構造となっている。また図3に示すように、隙間60a3、隙間60b3には、非接触タイプの赤外線センサRを設けている。左加熱コイル60bにも同様に赤外線センサRを設けている。
図4は、プレート組14を裏返した状態を示し、プレート3の下面3aを示す図である。プレート組14はプレート3の下面3aにプレート3の外周を保持する保持部材15と、プレート3の外周を保護するプレート枠4と、プレート3の下面3aの手前に保持される操作表示基板17とで構成する。プレート3の下面3aの外周には保持部材15がシリコン等の接着剤で貼り付けている。
保持部材15は、鋼板1枚よりプレス加工して作製したものである。保持部材15の前縁部15aには操作表示基板17を支持する複数の支持部15cを備えた基板支持部15bを一体に構成している。支持部15cは操作表示基板17の左右端部を支持する部分と、左右に渡る複数個所(約7箇所)を支えるものである。
図4に示すように、プレート3の下面3aには印刷16が施され、ベース16g(図14に示す主色塗料16a)で外観を装飾し、且つ、本体2内部の構成部品をプレート3上面から見えないようにしている。また、印刷16を施さない窓16fを設け、本体2内部に配置する液晶や発光体などによる火力表示などをプレート3の上面3bから視認できる上面表示部10を構成する。
プレート3の上面3bは、場合により載置部6周囲に鍋の横滑り防止のため直径約1mmのドット柄16e(図14)が印刷されているものがある、ここでは図示を省略する。 下面3aには、図2で示した載置部6を示す載置部表示をベース16g(主色塗料16a)と異なる色で明瞭に印刷される。また、プレート3の手前には、横一列に操作キーの枠と名称などを示す入力部の表示が配置される。
次に、図5、図6を用いて、プレート3の下面3aに設ける温度センサ70について説明する。プレート3の下面3aに設けられた温度センサ70(41、42、43、44、45)は、加熱される鍋(被加熱物)の鍋底の温度検出を行うものである。この温度センサ70は、温度に応じて導体抵抗が変化する銀ペースト、銅ペースト等の導電材料を線状に塗布したものであり、プレート3を介して熱伝導した鍋底温度をその抵抗変化に基づいて検出するものである。本実施例では、加熱コイル60に対向したプレート3の面(下面3a)に導体40を印刷し、導体40の温度に依存して変化する抵抗変化を捉えて、抵抗変化を温度に変換する。これにより、プレート3の実温度を正確に測定することができ、プレート3の異常加熱を精度よく検出できる。
次に、温度センサ70(導体40)について説明する。温度センサ70は、温度検知部40aと引き出し線40bと端子部40cとの3の構成から成っている。図6で例えば、導体43a(温度センサ70)で説明すると、温度検知部43a1と引き出し線43a2と端子部43a3と折返線43a4である。
また温度センサ70は、一端側の端子部40cから他端側の端子部40cまで交わる事が無く途切れる事の無い同じ太さの導体40を平行線で構成している(端子部40cへの引き回し部を除く)。例えば導体43a(温度センサ70)で説明する。往路は一端側の端子部43a3から折返線43a4、一端側の引き出し線43a2そして一端側の温度検知部43a1を経て、この温度検知部43a1の先端部43a5で折り返して、復路は、他端側の温度検知部43a1から他端側の引き出し線43a2、折返線43a4、そして他端側の端子部43a3へと交わる事が無く途切れる事の無い同じ太さの線状の導体40を平行線で描いた構成となっている。
導体40を平行線(略導体の幅一本分の間隔をあけた状態)で構成し、隣接する導体40に流れる電流の向きが相反する向きとすることで、加熱時の加熱コイル60の磁束の影響を軽減している。
また、導体40を折り返して平行線を構成する事で、導体40の往路と復路の長さが同じにすることで加熱時の加熱コイル60の磁束の影響を軽減している。
さらに、温度センサ70の導体40は、径方向に振れる矩形波状を周方向に並べて配置し、加熱コイル60の周方向の巻回と直交して配置することで、加熱時の加熱コイル60の磁束の影響を軽減している。加えて、温度センサ70の導体40には交流の電流を流すことで、平行線で近接する導体間に発生するマイグレーション現象を防止している。
次に、温度センサ70(導体40)の引き回しについて説明する。温度センサ70は、鍋を載置部6に載置して加熱した時に、鍋底の温度が高くなる位置の温度を効率よく検知できるように、右加熱コイル60aと略対向するプレート3の下面3aの位置に導体43と導体44を設けている。左加熱コイル60bも同様の導体41と導体42を設け、中加熱コイル60cでは外側加熱コイル60c2側のみに対向面に導体45を設けている。以下温度センサ70の説明は代表して右加熱コイル60a側に設けた温度センサ70について説明する。
加熱コイル60に対向した下面3aに設けた温度センサ70は、加熱コイル60のコイル形状に沿って、円周方向に複数個の独立した温度センサ70からなっている。例えば、図6に示すように右加熱コイル60aに対向するプレート3の下面3aに設けた温度センサ70(導体43、44)は、導体43a〜導体43fと導体44a〜導体44bの8個の独立した温度センサから成る。二種類の導体43と44の違いについて説明する。導体44は加熱コイル60aの後方側に配置し、導体44は導体43より加熱コイルの中心寄りまで配置し、加熱コイルの中心部の温度を検知できるように配置されている。加熱コイル60bに設けた導体42も同様に、導体42は導体41より加熱コイルの中心寄りまで配置し、加熱コイルの中心部の温度を検知できるように配置されている。
また、最低限、同一加熱コイル60に対向したプレート3の下面3aに設けられる複数の独立した温度センサ70の導体40の全長は同じ長さに定め、前記複数の導体40の温度検知部40aの導体の長さも同じに設けられている。例えば、右加熱コイル60aの場合は、右加熱コイル60aに対向するプレート3の下面3aに独立して設けられた8個の導体40(43a、43b、43c、43d、43e、43f、44a、44b)の全長は、導体43a〜43fと導体44a〜44bは全て同じである。また、各導体の温度検知部43a1〜43f1と温度検知部44a1と温度検知部44b1の長さは全て同じ長さとなっている。理由は、加熱している時の鍋底の極小部の異常加熱を検出するために、同一鍋の鍋底の温度を検出している8個の温度センサ70である8個の導体40(43a、43b、43c、43d、43e、43f、44a、44b)は、単位長当たりの温度変化による抵抗変化を同じに設定している。そして、8個の温度センサ70が検出する温度変化から温度変化率を監視し、複数の温度センサが示す温度変化率に対して急激に温度変化率が大きい値を示す温度センサ70を配置した位置に対応する鍋底の温度が異常加熱していると判断できる。なお、温度センサ70の全長は同じ長さである必要は無く、全長が異なる場合はそれぞれの導体の長さに基づいた補正値を用いることで、単位長当たりの温度変化による抵抗変化を同じに設定できる。
導体40の導電材料の抵抗変化と温度とは比例関係である。よって、温度変化により上昇する抵抗変化率を、実温度に変換することで、プレート3の絶対温度を求めることができる。この絶対温度により、鍋底が異常加熱されていることを判断できる。また、ただ絶対温度に基づいて異常加熱を判断するのではなく、プレート3の耐熱温度やその周囲の温度を所定の閾値として、閾値以上の温度を検出した際に、異常加熱されていると判断しても良い。もしくは、特定の温度変化率以上に大きな変化率を示した時に異常と判断しても良い。各温度センサ70の全長(抵抗値)が異なる場合はソフトで補正することも可能である。すべての導体40の太さ、長さ、抵抗値を略統一している。
温度センサ70は、鍋の温度変化を捉えて抵抗変化するため、導体40の引き出し線40bの長さは短い方が良い。また、最低限の長さに全数の導体40の長さをそろえる必要がある。そこで、全数の導体40を最短距離で描ける引き回しにおいて、一番線長が長くなる導体40の線長に全数の導体40の長さを揃えるものである。そのため、温度検出部40aから引き出した引き出し線40bを最短距離で加熱コイル60とシールドリング61を直交した後、一カ所に集められた端子部40cに引き出し線40bを最短距離となるように引き回すと良い。この場合、先に決めた導体40の長さでは引き出し線40bの長さが長い場合が発生するので、引き出し線40bには引き出し線40bを折り返して長さを調整する調整部40dを設けている。この調整部40dは加熱している鍋の温度の影響を受けにくい場所に設けると最適である。しかし、スペースや導体40の長さの関係で調整部40dを鍋の温度の影響を受けにくい場所に設けられない場合は、調整部40dをシールドリング61の外側に設けることでも良い。シールドリング61の外側では加熱コイル60の磁束の影響を受けにくくなるので、鍋底がシールドリング61の外側に出ている箇所では加熱時に異常加熱されることは無く、シールドリング61の外側に出ている鍋底の温度は加熱コイル60上方の加熱されている鍋底からの熱伝導によって加熱された熱によって温度上昇し、その熱がプレート3を介して引き出し線40bに熱が伝わる。その場合、シールドリング61の外側の引き出し線40bに鍋底の温度の影響が無い場合と比べて、導体40の抵抗値は異なるが温度変化率はほぼ同じになる。そのため、複数の導体40の示す温度変化率に対して急激に温度変化率が大きい値を検出した時に鍋底の異常加熱を検出するシステムでは特に問題は無い。もちろん調整部40dの隣接する導体40の引き回しは平行である。
次に、温度検知部の導体40の配置について説明する。
初めに、本実施例で説明する誘導加熱調理器に使用される加熱コイル60は、被加熱物である鍋底を均一に加熱するため、略帯状の円形形状で構成し、また鍋の径の大小にも対応できるコイル幅を備えている。
加熱コイル60の種類は、全コイルを同一ピッチで巻いた一重コイル形状と、巻回の途中でピッチを広めた箇所を一カ所設けた二重コイル、ピッチを広めた箇所を二カ所設けた三重コイルなどが有る。本実施例で説明する加熱コイル60は、内側加熱コイル60a1(コイル幅H1)と外側加熱コイル60a2(コイル幅H2)と隙間から成る二重コイルの例である。
そして、異常加熱の発生は、鍋を誘導加熱するために発生する磁束の強い位置に特に多く発生する。その位置は、加熱コイル60が一重の場合はコイル幅の略中心の位置、二重コイルの場合は外側加熱コイル60a2(コイル幅H2)の略30%の加熱コイル60中心寄りの位置となる。また、異常加熱の発生する場所は、被加熱物の状態(鍋の径の大きさ、鍋底の凹み、鍋の中身など)に応じて加熱コイル60の内径M側、もしくは外周部側へと、その半径方向で移動する。
この磁束の強い位置、また異常加熱の発生する場所は、正常時の鍋底の温度の高い個所として温度ムラとして発生する場所でもある。
導体40で異常温度を検出する方法は、同一の加熱コイル60に複数の導体40(温度検知部40a)を備え、正常時は全ての温度検知部40aの検知温度の変化が略同じに推移し、異常温度が発生した時は、その異常温度が発生した鍋底に対向して配置してある温度検知部40a(一カ所、もしくは二カ所といった少数の温度検知部40a)が他の温度検知部40aの温度変化と比べ、著しく高い温度を検出した時に異常と判断できるように配置するものである。
以上説明したように、温度センサ70は、加熱コイル60によって加熱される被加熱物(鍋)の鍋底の温度検出できるように、加熱コイル60と対向するプレート3の下面3aに略加熱コイル60の形状に合わせ、コイル形状の円周に対向して独立した複数の温度センサ70(導体40)を設けたものである。正常時は同一加熱コイル60上に設けた独立した各温度センサ70は、加熱時にほぼ同じ温度上昇を示す。何かの理由で鍋底の一部分が異常加熱した時は、異常加熱した鍋底の位置と対向する箇所に配置した温度センサ70が加熱されて導体40の抵抗が急激に変化することで異常加熱の発生を検出する事ができる。また、異常温度の検出時に異常加熱の発生で上昇した抵抗変化率の値から絶対温度を算出することで、部分的に異常加熱していることを正確に検出することができる。そして、この絶対温度がある閾値の温度を超えた場合には電力を制限することで、各温度センサ70の剥離や、プレート3の破損に至ることを防ぐことができる。
図7は、誘導加熱調理器の異常加熱を検出したときの電力制御を示すフロー図である。図7を用いて、異常加熱を検出する方法について詳細に説明する。なお、本フロー図では8個の導体40(43a、43b、43c、43d、43e、43f、44a、44b)を用いて説明するが、導体40の数は8個に限られない。プレート3の下面3aに設けられた温度センサ70(導体43、44)の数次第である。
導体40は温度に応じて導体抵抗が変化する導電材料を線状に塗布したものであるため、抵抗変化は温度に依存し上昇する。そのため、導体40の抵抗変化率と温度は比例の関係となる。そのため、導体40の抵抗変化率を温度帯域に分けて測定する。導体40における抵抗変化率と温度の関係を以下に示す。
ΔT(温度上昇)℃=440×抵抗変化率 (式1)
<S91>加熱を開始すると、温度監視91を行う。
<S92>加熱開始後、鍋底の温度が上昇すると導体40の抵抗値が上昇する。よって、電力制御部500は、加熱開始時の導体40の初期抵抗値から上昇した抵抗値を用いて、抵抗変化率を算出する。そして、抵抗変化率を算出したあとに、前述の(式1)により、導体40の抵抗変化率に定数440を乗算することで、異常加熱が発生しているプレート3を介した鍋底温度の温度上昇値ΔTを算出できる。なお、温度上昇値ΔTにおける初期温度の基準は、抵抗変化率を算出するための初期抵抗値に起因する。例として、鍋底温度が30℃で加熱を開始したときの導体40の抵抗値を初期抵抗値とし、鍋底温度が100℃まで上昇したときの抵抗値の上昇分が、抵抗変化率となる。なお、温度上昇値ΔTの基準となる初期温度は、加熱コイル60の隙間に設けられたサーミスタ等の温度センサ34より取得する。
<S93>温度上昇値ΔTを算出したことにより、プレート3において異常加熱が発生している箇所の温度上昇値を測定可能となる。温度上昇値ΔTに加熱開始時の温度センサ34から取得した初期温度を加算することで、異常加熱が発生しているプレート3の下面の導体40の絶対温度を検出可能となる。以降、導体40の抵抗変化率から算出した絶対温度を導体温度71と呼ぶ。
なお、抵抗変化率から算出可能となる導体温度71は、8個の導体40(43a、43b、43c、43d、43e、43f、44a、44b)すべてにおいて算出可能となるため、何らかの理由で鍋底に異常加熱が発生した導体40だけでなく、異常加熱が発生していないその他の導体40の導体温度71も算出可能となる。
導体温度71の算出値は、加熱を開始したときの温度センサ34より取得する絶対温度、および加熱を開始したときの初期抵抗値に大きく起因する。例として、鍋底温度が30℃で加熱を開始したときの導体40の抵抗値を初期抵抗値とし、鍋底温度が120℃まで上昇したときの抵抗変化率と、鍋底温度が100℃で加熱を開始したときの導体40の抵抗値を初期抵抗値とし、鍋底温度が120℃まで上昇したときの抵抗変化率では、抵抗変化率の結果に差異が生じる。その場合、温度上昇値ΔTを算出するために用いる抵抗変化率の値も変わるため、鍋底温度が120℃時点の導体温度71の値が、加熱開始時の鍋底温度によって変動してしまう。
そのため、加熱開始時の鍋底温度の違いによる抵抗変化率の誤差をなくすために、抵抗変化率を算出するための初期抵抗値を補正する。本実施例では、鍋底温度が常温である30℃未満で加熱を開始したときの導体40の抵抗値を初期抵抗値と記憶させることで、加熱開始時の鍋底温度の差による導体40の抵抗変化率の誤差を解消した。前述の方法をとれば、鍋底温度が100℃で加熱を開始したとしても、過去に鍋底温度が30℃未満で加熱したときの抵抗値を初期抵抗値として用いることができるため、導体温度71の算出値の誤差を解消できる。つまり、電力制御部500は所定の抵抗値(常温の抵抗値や0℃における抵抗値など)に基づいて、抵抗変化率を求めている。
次に、本実施例における8個の導体40(43a、43b、43c、43d、43e、43f、44a、44b)から算出する導体温度71と、加熱コイル60の隙間に設けられたサーミスタ等の温度センサ34の違いについて説明する。まず、導体温度71の算出方法である、抵抗変化率からの絶対温度を算出する基本構成は、温度センサ34と同じ原理である。しかし、温度センサ34での異常加熱の検出は完全でない。なぜなら、温度センサ34は、各加熱コイル60の隙間60a3、60b3、60c3(図3参照)に複数設けているが、直径200mmほどある加熱コイル60に対し、温度センサ34は直径30mm程度の範囲しか検出できない。そのため、温度センサ34で加熱コイル60上面全範囲の異常加熱を検出するためには、約45個の温度センサ34を加熱コイル60に配置しなくてはいけなくなるため、構造上困難である。また、異常加熱の温度がもっとも高温となるのは、外側加熱コイル60a2、60b2、60c2の上面であるため、直径30mmを検出可能とする温度センサ34を外側加熱コイル60a2、60b2、60c2の上面に配置するのは構造上困難である。
それに対し、本実施例における8個の導体40(43a、43b、43c、43d、43e、43f、44a、44b)から算出する導体温度71は、図6の導体40の形状の通り、直径200mmほどある加熱コイル60の上面を全範囲覆うように8個の導体40(43a、43b、43c、43d、43e、43f、44a、44b)に分けられている。これにより、導体温度71なら、温度センサ34とは異なり、広範囲の絶対温度を検出することが可能となり、異常加熱の検出面積が加熱コイル60の上面全て検出可能となる。
<S94>次に、導体温度71を算出後の制御方法について説明する。まず、異常加熱されるプレート3の温度は、プレート3の耐熱温度に尤度をもたせた温度で制御しなくてはならない。なぜなら、異常加熱の温度がプレート3の耐熱温度を超えた場合、温度センサ70の剥離や、プレート3の破損に至る可能性があるためである。本実施例では、プレート3の耐熱温度に尤度をもたせた、所定の閾値である制御温度を設定し、導体温度71が制御温度以上か否かを判断している。そして、導体温度71がプレート3の耐熱温度に尤度をもたせた制御温度から40℃、30℃、20℃、10℃、0℃と近づくにつれ、異常加熱の検出を目的とした電力制御を強めていく。
<S97>導体温度71がプレート3の耐熱温度に尤度をもたせた制御温度以上に到達したときには、電力出力を0と制御する。または電力出力を低下させる。
<S98>導体温度71がプレート3の耐熱温度に尤度をもたせた制御温度よりも50℃以上低いときは、異常加熱の検出を目的とした電力制御は実施しない。
<S99>S97で電力制御をして電力出力0となった場合は、異常加熱を検出する。
以上説明した通り、熱温度に尤度をもたせた制御温度を大きく超えないよう制御することで、導体温度71を用いて異常加熱を安全に防止することができる。
<S95>本実施例では、加熱コイル60の上面を全範囲覆うように8個の導体40(43a、43b、43c、43d、43e、43f、44a、44b)に分けられている。つまり、温度検知部40aは複数領域に分けられており、本実施例では8つの領域(43a1、43b1、43c1、43d1、43e1、43f1、44a1、44b1)に分けられている。また、導体40も前述の通り8個の領域に分けられている。よって、導体温度71における絶対温度で異常加熱を検出する他に、8つの領域や8個の導体をそれぞれ比較して、温度ムラで異常加熱を検出しても良い。温度ムラによる比較で異常加熱の発生を検出するには、異常加熱した鍋底の位置と対向する箇所に配置した温度センサ70の温度上昇を、同一加熱コイル60の上に配置した他の温度センサ70の温度上昇と比較して、その差異が十分判別可能でなくてはならない。
<S96>次に、プレート3上で右加熱コイル60aの上面3bに設けた載置部右6aに鍋を置いて右加熱コイル60aに対向する下面3aに設けた導体(43、44)の温度上昇を比較する。導体(43a〜43f、44a、44b)でなる8個の導体(43、44)を比較する。この8個の導体(43、44)の中で抵抗変化率の大小差異が生じ、この生じた差異を判別して異常加熱の発生を検出する。
しかし、抵抗変化率の大小差異から異常加熱を検出する方法だと、仮に、鍋底の異常加熱の面積が広範囲に渡っているときなど、8個の導体(43、44)の全域や複数の領域に接する場合、抵抗上昇がどれも一律で急上昇する。つまり、抵抗変化の比較が困難になる。異常加熱は発生しているが大小差異は生じない。そのため、8個の導体(43、44)の抵抗変化率を比較して、異常加熱を検出する方法は完全でない。
そこで、前述した、導体40における抵抗変化率から算出した導体温度71での電力制御の方法に加え、8個の導体(43、44)の抵抗変化率を比較して異常加熱を検出する方法を組合わせて同時に検出する方法が考えられる。つまり、S94とS96において両方Yesと判断された場合に、S97の電力制御を実施する。これにより、異常加熱の検出性能が大きく向上し、温度センサ70の剥離や、プレート3の破損に至る可能性が減少する。
なお、前述した、導体40における抵抗変化率から算出した導体温度71での電力制御の方法と、8個の導体(43、44)を比較して温度ムラで異常加熱を検出する方法を組合わせれば、異常加熱の検出性能はより向上するが、前記2つの検出方法をそれぞれ個別に活用しても良い。
以上説明したように、本実施例によれば、誘導加熱調理器の異常加熱温度を広範囲かつ正確に検出することができ、プレートの耐熱温度に尤度をもたせて電力制御することができる。