以下、回転変動吸収プーリの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
まず、回転変動吸収プーリの一実施形態の概略構成について、図1及び図2を使用しながら説明する。本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、エンジンのクランクシャフト等の回転機器の駆動軸に取り付けられて、当該駆動軸から他の装置にトルクを伝達すると共に、その回転変動を吸収する機能を有する。
すなわち、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、トルク伝達機構を構成するプーリであって、伝達トルクの変動を吸収する回転変動吸収機構107を設けたものとなっている。本実施形態では、回転変動吸収プーリ100は、図1に示すように、ハブ102と、プーリ104と、ベアリング106と、回転変動吸収機構107と、カバー114とを備える。
ハブ102は、自動車エンジンのクランクシャフト(不図示)に取り付けられて、クランクシャフトと共に回転するように構成されている。本実施形態では、ハブ102は、図1及び図2に示すように、ボス102a、リム102b、及びフランジ102cが同軸上に設けられ、SP鋼材等の金属材料の鋳造により一体成型により製造される。
ボス102aは、内周側に設けられる軸孔102a1にクランクシャフトの軸端が挿入される円筒状の部材である。リム102bは、回転変動吸収機構107を介してプーリ104を支持する円筒状の部材であり、ボス102aの基端側からフランジ102cを介して連結されて設けられる。本実施形態では、リム102bは、クランクシャフトの回転駆動力を減速させてプーリ104に伝達するので、外径がボス102aよりも大きい構成となっている。また、リム102bの基端側には、凸部102b2が設けられ、外径がリム102bの他の部分よりも幾分大きくなっている。フランジ102cは、ボス102aの基端から外側に向けて展開される部材である。
プーリ104は、外周面にポリV溝104aが形成されており、不図示の無端ベルトが巻き掛けられ、当該無端ベルトを介して、自動車のエンジンで発生する駆動力の一部をオルタネータやウォーターポンプ等の補機に与える機能を有する。本実施形態では、プーリ104は、図1及び図2に示すように、SP鋼材等の金属板のプレス成形及び転造等によって製造された円筒形状の部材であって、ハブ102の周囲を覆うように外側に設けられている。
ベアリング106は、図1及び図2に示すように、ハブ102のフランジ102cの先端側の断面がL字型に屈曲して構成されるサブリム102c1とプーリ104の内周面104bとの間に介在して設けられ、プーリ104の内周面104b側からハブ102を支持する機能を有する。本実施形態では、ベアリング106は、PTFE等の耐摩耗性に優れた低摩擦係数の合成樹脂材料で環状に成形されて構成されるボールベアリングである。
回転変動吸収機構107は、ハブ102とプーリ104との間を連結するように設けられ、クランクシャフト等の駆動軸からの伝達トルクの変動や振動を吸収する機能を有する。本実施形態では、回転変動吸収機構107は、第1の遊星歯車機構108と、第2の遊星歯車機構110と、連結ゴム112とを備える構成となっている。
第1の遊星歯車機構108は、第1のサンギヤ108aと、第1のプラネタリギヤ108b1が回転自在に設けられる第1のキャリア108bと、及びリングギヤ109とから構成される。本実施形態では、第1の遊星歯車機構108は、リム102bの外周面102b1に固定される第1のサンギヤ108aとプーリ104の内周面104bに固定されるリングギヤ109とを第1のキャリア108bに回転自在に設けた第1のプラネタリギヤ108b1で連結する第1の伝達部として機能する。また、本実施形態では、第1の遊星歯車機構108は、ハブ102のリム102bの外周面102b1とプーリ104の内周面104bとの間に設けられる。
第2の遊星歯車機構110は、第2のサンギヤ110aと、第2のプラネタリギヤ110b1が回転自在に設けられる第2のキャリア110bと、及びリングギヤ109とから構成される。本実施形態では、第2の遊星歯車機構110は、リム102bの外周面102b1に固定される第2のサンギヤ110aとプーリ104の内周面104bに固定されるリングギヤ109とを第2のキャリア110bに回転自在に設けた第2のプラネタリギヤ110b1で連結する第2の伝達部として機能する。また、本実施形態では、第2の遊星歯車機構110は、ハブ102のリム102bの外周面102b1とプーリ104の内周面104bとの間のうち、第1の遊星歯車機構108とプーリ102のフランジ102cとの間に設けられる。さらに、本実施形態では、第2の遊星歯車機構110は、図1に示すように、第2のサンギヤ110aがリム102bの基端側に形成される凸部102b2に設けられている。
連結ゴム112は、第1のキャリア108bと第2のキャリア110bとの軸方向に互いに対面する部分を連結する弾性体である。本実施形態では、連結ゴム112は、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110の双方のキャリア108b、110b間に設けられ、これらのキャリア108b、110bの裏面側を加硫接着により連結している環状のゴム板部材から構成される。連結ゴム112は、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、天然ゴム(NR)やウレタンゴム等のゴム材料又はゴム状弾性を有する合成樹脂材料で形成されている。
本実施形態では、回転変動吸収機構107は、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110が双方のキャリア108b、110bの間を連結ゴム112により連結されて構成される。そして、回転変動吸収機構107は、ハブ102のリム102bの外周面102b1とプーリ104の内周面104bとの間に設置され、第1の遊星歯車機構108の外側からカバー114で覆われるようにして、設けられている。
また、本実施形態では、回転変動吸収プーリ100は、回転変動吸収機構107を構成する第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110の共有するリングギヤ109と各キャリア108b、110bの減速比が僅かに異なっており、双方のキャリア108b、110b間が連結ゴム112で連結されている。このように、本実施形態では、ハブ102とプーリ104との間に減速比が僅かに異なる1対の遊星歯車機構108、110と連結ゴム112によって構成される回転変動吸収機構107を設けることによって、共振点通過時と常用回転域の双方でもトルク伝達する際の回転変動や振動を吸収する防振機能の耐久信頼性を高めるものとなっている。
次に、回転変動吸収プーリの一実施形態に備わる回転変動吸収機構の要部の構成の詳細について、図3(A)、図3(B)、及び図4を使用しながら説明する。なお、図3(A)は、回転変動吸収機構を第1の遊星歯車機構の表面側から見た断面斜視図であり、図3(B)は、回転変動吸収機構を第2の遊星歯車機構の表面側から見た断面斜視図である。
本実施形態では、回転変動吸収プーリ100は、ハブ102(図2参照)とプーリ104との間を直接に防振ゴムで連結せずに、クランクシャフト等の駆動軸からのトルクを伝達する際の回転変動や振動を吸収する回転変動吸収機構107をハブ102とプーリ104との間に設けることを特徴とする。回転変動吸収機構107は、図3(A)及び図3(B)に示すように、第1の遊星歯車機構108と、第2の遊星歯車機構110と、連結ゴム112とを備える。
第1の遊星歯車機構108は、図3(A)に示すように、第1のサンギヤ108aと、第1のプラネタリギヤ108b1が一方の面に回転自在に設けられる第1のキャリア108bと、リングギヤ109から構成される。
第1のサンギヤ108aは、図3(A)に示すように、第1のプラネタリギヤ108b1と噛み合う複数の歯108a1が外縁側に設けられ、SP鋼材等の金属材料から形成される環状部材である。本実施形態では、第1のサンギヤ108aは、ハブ102のリム102b(図2参照)の外周面102b1(図2参照)に圧接や溶接等により固定されて設けられ、回転軸がハブ102と同軸上となるように設けられている。
第1のキャリア108bは、SP鋼材等の金属材料から形成される環状の板部材であり、図3(A)及び図4に示すように、複数の第1のプラネタリギヤ108b1が一方の面側に設けられるギヤ軸108b2を介して等間隔で設けられている。本実施形態では、第1のプラネタリギヤ108b1のそれぞれには、図4に示すように、第1のサンギヤ108aとリングギヤ109に噛み合う複数の歯108b3が外縁側に設けられている。なお、本実施形態では、図4に示すように、第1のキャリア108bには、8個の第1のプラネタリギヤ108b1が設けられているが、第1のプラネタリギヤ108b1の個数は、少なくとも1個あればよいので、8個に限定されない。
リングギヤ109は、図3(A)に示すように、第1のプラネタリギヤ108b1と噛み合う複数の歯109aが内周面側に設けられ、SP鋼材等の金属材料から形成される円筒形状の部材である。本実施形態では、リングギヤ109は、プーリ104の内周面104bに、圧接や溶接等によって固定されて設けられ、回転軸がプーリ104と同心となるように設けられている。
このように、本実施形態では、第1の遊星歯車機構108を構成することによって、自動車エンジンのクランクシャフト等の駆動軸に取り付けられたハブ102の回転駆動力が第1のサンギヤ108aを介して、第1のキャリア108bに設けられる第1のプラネタリギヤ108b1のそれぞれに伝達される。そして、第1のプラネタリギヤ108b1のそれぞれに伝達された回転駆動力がリングギヤ109に伝達されて、当該リングギヤ109を介して、プーリ104に伝達される。
このため、第1の遊星歯車機構108は、第1のサンギヤ108aが順方向に回転駆動すると、第1のプラネタリギヤ108b1が一方の面に回転自在に設けられる第1のキャリア108bとリングギヤ109が逆方向に回転駆動するように動作する。すなわち、第1の遊星歯車機構108は、第1のサンギヤ108a、第1のプラネタリギヤ108b1が設けられる第1のキャリア108b、及びリングギヤ109を介して、ハブ102とプーリ104が同軸上に逆方向回転で回転駆動するように、駆動軸の駆動力を伝達する機能を有する。
第2の遊星歯車機構110は、図3(B)に示すように、第2のサンギヤ110aと、第2のプラネタリギヤ110b1が一方の面に回転自在に設けられる第2のキャリア110bと、リングギヤ109から構成される。
第2のサンギヤ110aは、図3(B)に示すように、第2のプラネタリギヤ110b1と噛み合う複数の歯110a1が外縁側に設けられ、SP鋼材等の金属材料から形成される環状部材である。本実施形態では、第2のサンギヤ110aは、ハブ102のリム102b(図2参照)の外周面102b1(図2参照)に圧接や溶接等により固定されて設けられ、回転軸がハブ102と同軸上となるように設けられている。
第2のキャリア110bは、SP鋼材等の金属材料から形成される環状の板部材であり、図3(B)に示すように、複数の第2のプラネタリギヤ110b1が一方の面側に設けられるギヤ軸110b2を介して等間隔で設けられている。本実施形態では、第2のプラネタリギヤ110b1のそれぞれには、図4に示すように、第2のサンギヤ110aとリングギヤ109に噛み合う複数の歯110b3が外縁側に設けられている。なお、本実施形態では、図4に示すように、第2のキャリア110bには、8個の第2のプラネタリギヤ110b1が設けられているが、第2のプラネタリギヤ110b1の個数は、少なくとも1個あればよいので、8個に限定されない。
リングギヤ109は、プラネタリギヤ110b1と噛み合う複数の歯109aが内周面側に設けられ、SP鋼材等の金属材料から形成される円筒形状の部材である。本実施形態では、リングギヤ109は、プーリ104の内周面104bに、圧接や溶接等によって固定されて設けられ、回転軸がプーリ104と同心となるように設けられている。
また、本実施形態では、リングギヤ109は、第1の遊星歯車機構108と共通の部材によって共有される構成となっている。すなわち、リングギヤ109は、厚さ方向に並列して設けられる第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110で共有されるように、第1のキャリア108bと第2のキャリア110bの厚さの総和よりも大きい厚さを有する構成となっている。このため、1つのリングギヤ109に対して、各キャリア108b、110bに設けられる各プラネタリギヤ108b1、110b1と各サンギヤ108a、110aを介して、ハブ102に伝達される駆動軸からの回転駆動力が伝達されるようになる。
なお、本実施形態では、リングギヤ109は、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110で共有される一体型の構成となっているが、別体で構成されていてもよい。すなわち、リングギヤは、それぞれの外縁側に設けられる歯数が同一であり、かつ、厚さ方向に連結されて一体で回転駆動可能に構成されていれば、別体で構成されていてもよい。
このように、本実施形態では、第2の遊星歯車機構110を構成することによって、自動車エンジンのクランクシャフト等の駆動軸に取り付けられたハブ102の回転駆動力が第2のサンギヤ110aを介して、第2のキャリア110bに設けられる第2のプラネタリギヤ110b1のそれぞれに伝達される。そして、第2のプラネタリギヤ110b1のそれぞれに伝達された回転駆動力がリングギヤ109に伝達されて、当該リングギヤ109を介して、プーリ104に伝達される。
このため、第2の遊星歯車機構110は、第2のサンギヤ110aが順方向に回転駆動すると、第2のプラネタリギヤ110b1が一方の面に回転自在に設けられる第2のキャリア110bとリングギヤ109が逆方向に回転駆動するように動作する。すなわち、第2の遊星歯車機構110は、第2のサンギヤ110a、第2のプラネタリギヤ110b1が設けられる第2のキャリア110b、及びリングギヤ109を介して、ハブ102とプーリ104が同軸上に逆方向回転で回転駆動するように、駆動軸の駆動力を伝達する機能を有する。
また、本実施形態では、回転変動吸収機構107は、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110のリングギヤ109と第1のキャリア108b、第2のキャリア110bの減速比が僅かに異なり、これら1対の遊星歯車機構108、110の各キャリア108b、110bが連結ゴム112を介して連結されて一体に構成される。具体的には、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110は、リングギヤ109と各キャリア108b、110bの減速比の差が0.01以下となっており、これらキャリア108b、110bのそれぞれの裏面側が連結ゴム112に加硫接着されて表裏一体に構成されている。なお、ここで言及する減速比Cは、サンギヤの歯数をZa、リングギヤの歯数をZcとすると、下記の式(1)で表される。
本実施形態では、回転変動吸収機構107は、第1のサンギヤ108aの方が第2のサンギヤ110aよりも歯数が僅かに少ない構成となっている。詳細に説明すると、第1のサンギヤ108aと第2のサンギヤ110aの歯間隔を同一にしても歯数を僅かに異なるようにするために、第2のサンギヤ110aは、リム102bの基端側に有する凸部102b2に取り付けられている。これによって、第2のサンギヤ110aの内径が第1のサンギヤ108aよりも僅かに大きくなって、歯数も第1のサンギヤ108aよりも僅かに多くなるようになっている。
このため、第1の遊星歯車機構108は、リングギヤ109と第1のキャリア108bの減速比が第2の遊星歯車機構110のリングギヤ109と第2のキャリア110bの減速比よりも僅かに大きい構成となっている。例えば、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110のリングギヤ109の歯数を100歯とした場合に、第1のサンギヤ108a、第2のサンギヤ110aの歯数がそれぞれ68歯、70歯とすると、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110の減速比Cは、それぞれ0.595、0.588と求まる。すなわち、第1の遊星歯車機構108の方が第2の遊星歯車機構110よりも減速比が僅かに大きい値となり、その減速比の差分が0.01以下となっている。
このとき、リングギヤ109が第1のサンギヤ108a、第2のサンギヤ110aに対して50度捩れた場合に、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110のキャリア移動角度は、それぞれ29.76度、29.41度となる。このように、本実施形態では、リングギヤ109が第1のサンギヤ108a、第2のサンギヤ110aに対して50度捩れた場合における第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110のキャリア移動角度の差分で示されるキャリア相対角度が0.35度となる。
すなわち、各サンギヤ108aとリングギヤ109の相対角度に対して、キャリア108b、110b間の相対角度が0.35度/50.0度≒0.007と0.01以下の値の減速比の差分となっている。このように、本実施形態の回転変動吸収機構107に備わる連結ゴム112は、従来よりもコンパクトなゴム形状としても歪みが小さいものとなるので、防振ゴムとして十分な耐久性が得られるものとなる。
また、この場合に、リングギヤ109の捩れ角に対する連結ゴム112の捩れ角の比λを求めると、λ=50度/0.35度=142.86倍と求まる。ここで、リングギヤ109とハブ102との間の相対バネ定数を114Nm/radとすると、連結ゴム112に必要なバネ定数Kは、下記の式(2)より16286Nm/radと求まる。
K=114Nm/rad×142.86=16286Nm/rad・・・(2)
すなわち、本実施形態では、連結ゴム112に必要なバネ定数Kは、従来の一般的なトーショナルダンパのバネ定数と同等レベルの大きさとなっている。このため、本実施形態の連結ゴム112は、従来の防振ゴムに類似した防振性能を薄肉で高硬度のゴム部材で成立することになる。
このように、本実施形態では、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110のリングギヤ109に対する各キャリア108b、110bの減速比が僅かに異なることから、それぞれのキャリア108b、110bの移動角度が僅かに異なるようになる。このため、これらのキャリア108b、110bの移動角度の差異が防振ゴムとして機能する連結ゴム112を捩る挙動となっている。
すなわち、クランクシャフト等の駆動軸から伝達されるトルクは、ハブ102と第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110を介してプーリ104に伝達される際に、双方のキャリア108b、110bのギヤ比の違いにより、位相角が生じる。本実施形態では、その位相角が連結ゴム112の剛性や弾性により規制されるので、それ以上の大きさに位相角が増大することなく、双方のキャリア108b、110bが固定されて、リングギヤ109にトルクが伝達されるようになっている。
従来技術によるアイソレーションプーリであれば、プーリとハブを防振ゴムとなる弾性体で連結している。このため、この防振ゴムのバネ定数を2Nm/度とした場合に、100Nmの負荷トルクに対して、100Nm÷2Nm/度=50度の相対角度が生じることになる。
これに対して、本実施形態の回転変動吸収プーリ100では、弾性体112は、キャリア108b、110b間に設けられ、プーリ・ハブ間の相対角度である50度は、キャリア108b、110b間の相対角度0.35度に相当することから、0.35度/50度=0.007倍の減速比となる。このとき、プーリ104の負荷トルク100Nmは、100Nm÷0.007=14286Nmのトルクとして各キャリア108b、110bに作用する。このことから、14286Nm÷0.35度=40817Nm/度のバネ定数を有した弾性体112をキャリア108b、110b間に設けることによって、従来技術と同様にプーリ・ハブ間の負荷トルク100Nmと相対角度50度の関係が成立することとなる。
すなわち、プーリ104に100Nmの負荷トルクが発生した場合、キャリア108b、110b間の相対トルクは、14286Nmの負荷トルクとなる。このとき、キャリア108b、110b間の弾性体112のバネ定数を40817Nm/度とすると、キャリア108b、110b間の相対角度として0.35度の変位が生じる。そして、1対の遊星歯車機構108、110の減速比0.007倍によって、0.35度÷0.007=50度としてプーリ・ハブ間の相対角度でバランスを取るようになる。
このように、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、減速比が異なる1対の遊星歯車機構108、110の減速比によって、弾性体112に生じる相対角度や負荷トルクの変換機構が従来技術と大きく異なるものとなる。しかしながら、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、弾性体112のバネ定数(Nm/度=トルク÷角度)によって負荷トルク(Nm)と相対角度(度)のバランスが成立するので、同様の防振性能を発揮するようになる。
次に、回転変動吸収プーリの一実施形態の動作について、図5を使用しながら説明する。本実施形態では、回転変動吸収プーリ100は、ハブ102とプーリ104(図1参照)との間にクランクシャフト等の駆動軸からのトルクを伝達する際の回転変動を吸収する回転変動吸収機構107が設けられている。回転変動吸収機構107は、第1の遊星歯車機構108と第2の遊星歯車機構110のリングギヤ109と各キャリア108b、110bの減速比が僅かに異なっており、これら1対の遊星歯車機構108、110の各キャリア108b、110bが連結ゴム112を介して連結されて一体に構成されている。
本実施形態では、各遊星歯車機構108、110において、第1のサンギヤ108a、第2のサンギヤ110aがハブ102を介してクランクシャフト等の駆動軸に繋がる構造となっているので、駆動力を生み出す駆動ギヤとして機能する。一方、各遊星歯車機構108、110において、リングギヤ109がベルトプーリとなるプーリ104に繋がる受動ギヤとして機能し、第1のキャリア108b、第2のキャリア110bにそれぞれ設けられる各プラネタリギヤ108b1、110b1が固定ギヤに準じた機能の位置づけとなる。すなわち、本実施形態では、各遊星歯車機構108、110は、双方のサンギヤ108a、110aを駆動ギヤ、リングギヤ109を受動ギヤ、各プラネタリギヤ108b1、110b1を固定ギヤとして機能させるスター型の遊星歯車装置となっている。
また、本実施形態では、リングギヤ109と各キャリア108b、110bとの減速比(ギヤ比)の異なる1対の遊星歯車機構108、110の各サンギヤ108a、110aが共にハブ102に固定され、リングギヤ109がプーリ104に固定されている。また、プーリ104には、不図示のベルトを介して補機負荷が入力されている。
ハブ102に固定された第1のサンギヤ108a、第2のサンギヤ110aに所定の大きさのトルクが発生すると、リングギヤ109と第1のキャリア108b、第2のキャリア110bとの減速比、すなわち、ギヤ比が僅かに異なっているので、それぞれのキャリア108b、110bの捩れ角が異なる。このため、これらのキャリア108b、110bの捩れた量の差が各キャリア108b、110b間の位相角となる。
本実施形態では、双方のキャリア108b、110b間を弾性や剛性を有する弾性体として機能する連結ゴム112で連結している。このため、双方のサンギヤ108a、110aに所定の大きさのトルクを入力すると、2つのキャリア108b、110bの間に生じた位相角によって連結ゴム112が弾性変形する。このとき、連結ゴム112は、弾性変形に応じた反力を発生させるので、当該連結ゴム112の剛性によってキャリア108b、110b間の位相角が所定の領域で抑制される。
このように、双方のキャリア108b、110b間の位相角が抑制された状態は、これらのキャリア108b、110bが殆ど動かない状態、換言すると、各キャリア108b、110bが固定された状態に近似される。このため、各サンギヤ108a、110aのトルクは、各プラネタリギヤ108b1、110b1を介してリングギヤ109に伝達されて、当該リングギヤ109を固定するプーリ104がハブ102と逆方向に同じように一緒に回転するようになる。
すなわち、各サンギヤ108a、110aのトルクが一定であれば、これらのサンギヤ108a、110aのトルクが2つのキャリア108b、110bを回転させようとするので、これらのキャリア108b、110b間の位相角で連結ゴム112が弾性変形する。このため、連結ゴム112の反力で各キャリア108b、110b間の位相角のバランスが取れた位置で双方のキャリア108b、110bが停止する。そして、駆動軸から各サンギヤ108a、110a、各キャリア108b、110b、及びリングギヤ109を介して伝達されたトルクがプーリ104に伝達されて当該プーリ104に巻着されたベルトを駆動する。
一方、各サンギヤ108a、110aの一定であったトルクに、ある大きさの衝撃が瞬時に入った場合には、各キャリア108b、110b間の位相角が瞬間的に変化するが、連結ゴム112が衝撃緩衝バネとして機能することによってバランスを取るようになる。このため、当該衝撃によるトルクの大部分が連結ゴム112に吸収されて、残りの一部のトルク変動がプーリ104に伝達されて当該プーリ104に巻着されたベルトを駆動するようになる。
このように、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、ハブ102とプーリ104との間を直接に防振ゴムで連結せずに、トルク変動の状況に応じて柔軟に回転変動を吸収可能な回転変動吸収機構107をハブ102とプーリ104との間に設けている。このため、エンジンスタート時に共振点を通過する際に、例えば、50度程度のプーリの大きな捩れ振動時でも、回転変動吸収機構107に備わる防振ゴムとして機能する連結ゴムの捩れ角が0.35度程度と極端に小さくなる。
すなわち、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、ハブ102とプーリ104との間を直接に防振ゴムで連結する構成としていないので、従来の回転変動吸収プーリに備わる防振ゴムよりも容積が小さなゴム部材を使用しても、ゴム歪みを大幅に低減できる。具体的には、従来技術のゴム歪100%以上に対して、本実施形態の回転変動吸収プーリ100を適用した場合には、ゴム歪を10%程度と従来技術の10分の1に低減できる。
また、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、アイドル未満の共振点の通過時では、回転変動吸収機構107に設けられる各キャリア108b、110b間の捩れ角の大きな減衰によってゴム歪を小さく抑え、かつ、常用回転域では、連結ゴム112で極力小さい減衰とすることによって、回転変動吸収プーリ100の防振性能を改善できる。すなわち、本実施形態の回転変動吸収プーリ100を適用することによって、共振点通過時と常用回転域の双方でも、クランクシャフト等の駆動軸から他の装置にトルクを伝達する際における防振機能の耐久信頼性を高められるようになる。
このように、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、共振時のゴム歪が小さいことから、共振時の伝達率(共振倍率)を軽減することを目的とした減衰要素や機構を新たに設ける必要がない。また、本実施形態では、共振域のゴム歪が小さくなるので、従来技術となるアイソレーションプーリの防振ゴムのように、ゴムの耐久性を懸念する必要がなくなる。さらに、本実施形態では、余計な減衰が無いことによって、防振領域となるエンジンの常用回転域の防振特性を良好なものとする。
すなわち、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、常用回転域で防振性を悪化させる大きな減衰の付与や、共振点通過時のゴム歪を抑制するストッパ機構を必要とせずに、防振機能の耐久信頼性を高めることができる。このことから、本実施形態では、従来のように防振ゴムのゴム歪を抑制するストッパ機構を新たに設置することなく、確実に共振点通過時と常用回転域の双方でも、エンジンのクランクシャフト等の装置の駆動軸から他の装置にトルクを伝達する際における防振機能の耐久信頼性を高められる。
また、本実施形態の回転変動吸収プーリ100は、自動車のエンジンで発生する駆動力の一部をクランクシャフトからプーリに巻着されたベルトを介してオルタネータやウォーターポンプ等の補機に与える際に適用されているが、他の産業分野にも適用できる。例えば、各種産業機械の制御装置や電子機器の防振支持等のように、装置の駆動軸から他の装置にトルクを伝達する際の回転変動を吸収する場合にも、本実施形態の回転変動吸収プーリ100を適用して、防振機能の耐久信頼性を高められるので、極めて大きな工業的価値を有する。
なお、上記のように回転変動吸収プーリの一実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは、当業者には、容易に理解できるであろう。従って、このような変形例は、全て本発明の範囲に含まれるものとする。
例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義又は同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また、回転変動吸収プーリの構成、動作も本実施形態で説明したものに限定されず、種々の変形実施が可能である。