JP2020069525A - 抵抗スポット溶接継手の製造方法 - Google Patents
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特に、引張強度が980MPa以上の高強度鋼板を用いた抵抗スポット溶接継手においては、溶接部(ナゲット)の炭素当量が高く、焼きが入ると、ナゲットの靱性が低下するため、継手のCTSが低下しやすい傾向にある。
例えば、特許文献1には、本通電が終了してから一定時間経過した後にテンパー通電を行うことで、抵抗スポット溶接継手のナゲット部と熱影響部を焼戻して、継手の硬さを低下させる方法が開示されている。
また、特許文献2には、本通電によりナゲットを形成した後に、本通電電流値以上の電流値で後加熱通電する方法が開示されている。
さらに、特許文献3には、重ね合わせた高強度の薄鋼板を一対の電極によって挟み加圧力を加えながら抵抗スポット溶接をするにあたり、1点目を溶接後、電極の位置を移動し、1点目の溶接部がMf点以下の温度まで冷却された後に、1点目の溶接部に一部が重なるように2点目の溶接を行なう方法が開示されている。
さらに、特許文献1および2に開示された方法では、冷却工程においても継手が加圧され続けるため、ナゲットの肉厚減少が大きくなり、継手強度が低下しやすくなる(具体的には、面内引張試験においてナゲット内で破断しやすくなる)という問題があった。
さらに、このような方法では、1点目の溶接で形成された圧痕によって、2点目の溶接を行う際の電流が流れる領域にばらつきが生じるため、結果的に高い継手強度(特に、高いCTS)を安定して得ることができないという問題があった。
重ね合わせた前記複数枚の鋼板を一対の第1電極によって挟持し、所定の通電電流I1および通電時間t1で通電して、ナゲットを形成する第1の工程と、
前記一対の第1電極を開放し、前記ナゲットがMf点以下の温度になるまで冷却する第2の工程と、
前記複数枚の鋼板の前記ナゲットに対応する箇所を一対の第2電極によって挟持し、所定の通電電流I3および通電時間t3で通電して、前記ナゲットを焼戻す第3の工程と、を含み、
前記第1の工程と前記第3の工程の通電条件が、下記の式(1)を満たすことを特徴とする、前記製造方法である。
I3 2×t3<I1 2×t1 ・・・(1)
また、本態様1の製造方法は、一対の第1電極を開放した状態で第2の工程の冷却を行うため、電極の温度にばらつきが生じたとしてもその影響を受けにくく、上述の高い継手強度を安定して得ることができる。さらに、一対の第1電極を開放した状態で第2の工程の冷却を行うことで、ナゲットの肉厚減少が抑制されるため、継手強度を低下しにくくすることができる(具体的には、面内引張試験においてナゲットで破断しにくくすることができる)。
したがって、本態様1の製造方法は、引張強度が440MPa以上の高強度の鋼板を含む複数枚の鋼板を用いた抵抗スポット溶接継手であっても、高い継手強度を安定して得ることができる。
1つの溶接対象箇所において前記第2の工程を行っているときに、他の溶接対象箇所において前記第1の工程を並行して行うものである。
1つの溶接対象箇所において前記第2の工程を行っているときに、他の溶接対象箇所において前記第3の工程を並行して行うものである。
D1≦D2 ・・・(2)
本発明の抵抗スポット溶接継手の製造方法は、引張強度が440MPa以上の鋼板を含む複数枚の鋼板を用いた抵抗スポット溶接継手の製造方法であり、重ね合わせた複数枚の鋼板を一対の第1電極によって挟持し、所定の通電電流I1および通電時間t1で通電して、ナゲットを形成する第1の工程と、一対の第1電極を開放し、第1の工程で形成されたナゲットがMf点以下の温度になるまで冷却する第2の工程と、複数枚の鋼板の上記ナゲットに対応する箇所を一対の第2電極によって挟持し、所定の通電電流I3および通電時間t3で通電して、上記ナゲットを焼戻す第3の工程と、を含み、さらに、第1の工程と第3の工程の通電条件が、下記の式(1)を満たすことを特徴とするものである。
I3 2×t3<I1 2×t1 ・・・(1)
本発明において、第1の工程は、重ね合わせた複数枚の鋼板を一対の第1電極によって挟持し、所定の通電電流I1および通電時間t1で通電して、複数枚の鋼板の重ね合わせ面およびその近傍領域を溶融して、ナゲットを形成する工程である。
なお、この第1の工程では、上記所定の通電電流I1および通電時間t1で通電する前に、所定の通電電流を流すことで、鋼板同士をなじませたり、鋼板のめっきを除去する予備通電を実施してもよい。予備通電としては、矩形状、台形状、三角形状、パルス状、アップスロープ状などの電流波形が挙げられる。
また、第1の工程を終了した段階では、ナゲットは未凝固の状態であるため、第2の工程で一対の第1電極を開放したときに、複数枚の鋼板が互いに離間するおそれがある場合は、このような離間を防ぐために、保持時間(すなわち、通電後に、電極を開放せずに加圧のみを行う時間)を0.05秒〜0.4秒に設定することが望ましい。
第1の工程の通電条件(例えば、通電電流、通電時間、電極の加圧力等)は、複数枚の鋼板の重ね合わせ面およびその近傍領域に、形成しようとするナゲットの大きさに応じた条件を採用することができる。
なお、後述する第3の工程の通電電流I3(kA)と通電時間t3(秒)は、この第1の工程の通電電流I1(kA)と通電時間t1(秒)に基づいて上記式(1)を満たすものに制約されるが、第1の工程の通電電流I1(kA)と通電時間t1(秒)は、形成しようとするナゲットの大きさに応じた電流値と時間を採用することができる。
第1の工程に用いる一対の第1電極は、挟持した複数枚の鋼板の重ね合わせ面およびその近傍領域にナゲットを形成し得るものであれば、通常の抵抗スポット溶接に用い得る電極を採用することができる。
本発明において、第2の工程は、第1の工程の後に、複数枚の鋼板を挟持している一対の第1電極を開放して、第1の工程で形成されたナゲットがMf点以下の温度になるまで冷却する工程である。
なお、この第2の工程でナゲットがMf点以下の温度になっていることは、第3の工程の終了後に、溶接部のナゲットに隣接するコロナボンド部付近の熱影響部のビッカース硬さが280以上420以下となる軟化部が形成されていることで確認できる。
第2の工程は、一対の第1電極を開放した状態でナゲットの冷却を行うものであるため、電極の温度にばらつきが生じていてもその影響を受けにくく、高い継手強度を安定して得ることができる。さらに、一対の第1電極を開放した状態で第2の工程の冷却を行うことで、ナゲットの肉厚減少が抑制されるため、継手強度を低下しにくくすることができる、すなわち、面内引張試験においてナゲットで破断しにくくすることができる。
第2の工程の冷却条件や冷却手段は、第1の工程で形成されたナゲットをMf点以下の温度になるまで冷却し得る条件や手段を採用することができる。例えば、第2の工程は、第1の工程で用いた一対の第1電極を開放することのみによって(すなわち、放冷によって)行ってもよいし、一対の第1電極を開放した状態で、ナゲットに対応する箇所に所定の冷却流体(例えば、冷却水、冷却ガス等)を吹き付けることによって行ってもよい。
本発明において、第3の工程は、複数枚の鋼板の上記ナゲットに対応する箇所を一対の第2電極によって挟持し、所定の通電電流I3および通電時間t3で通電して、上記ナゲットを焼戻す工程である。
そして、本発明においては、かかる第3の工程と上述の第1の工程の通電条件が上記式(1)を満たすことを要する。
なお、このような作用効果を更に確実に得るためには、第1の工程と第3の工程の通電条件が下記の式(1’)を満たすことが好ましい。
I1 2×t1×0.4≦I3 2×t3≦I1 2×t1×0.8 ・・・(1’)
第3の工程の通電条件(例えば、通電電流、通電時間、電極の加圧力等)は、上述のナゲットを焼戻すことができ、かつ、通電電流I3および通電時間t3が上記式(1)を満たすものであれば、それ以外の条件は、特に限定されない。
第3の工程に用いる一対の第2電極は、挟持した複数枚の鋼板の上記ナゲットに対応する箇所を焼戻し得るものであれば、通常の抵抗スポット溶接に用い得る電極を採用することができる。
第1電極と第2電極が同じ電極であると、第1の工程と第3の工程を同じ電極で行うことができるため、製造設備を簡略化することができるという利点がある。
一方、第1電極と第2電極が異なる電極であると、後述するように第1の工程から第3の工程までを1つのサイクルとしたときに、複数のサイクルを並行して行うことができるため、生産性をより一層向上させることができる。さらに、第1の工程の本通電および第3の工程の焼戻しのそれぞれに適した最適な電極を選択することができるため、各工程をより精度よく、より効率よく制御することができるという利点もある。
一方、第1電極と第2電極が異なる電極であるとは、第1の工程で用いる電極と、第3の工程で用いる電極とが異なること、すなわち、第1の工程で用いた電極とは異なる電極を、第3の工程で用いることを意味する。
したがって、例えば、第1電極と第2電極が、全く同じ構造およびサイズを有していても、第1の工程で用いる第1電極が第3の工程では用いられない場合は、両者は異なる電極となる。
D1≦D2 ・・・(2)
第1電極の電極先端径D1と第2電極の電極先端径D2が、上記式(2)を満たすもの、すなわち第2電極の電極先端径D2が、第1電極の電極先端径D1以上の先端径を有していると、第3の工程において、第1電極によって形成されたナゲットだけでなく、ナゲットに隣接するコロナボンド部や熱影響部も通電により焼戻しやすくなるため、溶接継手の靭性をより一層向上させることができ、結果的に高い継手強度(特に、高いCTS)を更に確実に得ることができる。
なお、1つの溶接対象箇所において上記第2の工程を行っているときに、他の溶接対象箇所において上記第3の工程を並行して行うようにしてもよい。このようにしても、複数の溶接対象箇所の溶接を並行して行うことで、上記と同様の効果を得ることができる。
本発明において、溶接対象となる複数枚の鋼板は、引張強度が440MPa以上の鋼板を少なくとも1枚含むものであれば、その他の鋼板は、所望の継手強度や溶接継手の用途などに応じた鋼板を用いることができる。そのような鋼板としては、例えば、引張強度が270MPa〜2500MPa級の鋼板などが挙げられ、かかる鋼板は、亜鉛等のめっき処理が施された鋼板(すなわち、めっき鋼板)であってもよい。
そのような鋼板の中でも、炭素当量が0.22質量%以上0.40質量%以下の鋼板を好適に用いることができる。このような特定の炭素当量の鋼板を用いた場合は、上述の第3の工程において、ナゲットに隣接するコロナボンド部付近の熱影響部にビッカース硬さが280以上420以下となる、鋼板母材よりも軟化した部分が形成されやすくなり、結果的にCTSに優れ、かつ、面内引張試験においてナゲットの破断が生じにくいという、高い継手強度をより安定して確実に得ることができる。なお、ビッカース硬さについては後述するが、図1に示すように、鋼板の重ね合わせ面側の表面から0.2mm離れた位置を鋼板表面に対して略平行に測定する。異なる鋼板同士を重ね合わせた溶接部の場合は、引張強度が最も高い鋼板で測定する。熱影響部の位置は、例えば、ピクラールエッチングすることで確認できる。また、ビッカース硬さは、荷重1kgf前後で測定することが好ましい。
第1の工程および第3の工程で共通して用いる電極(すなわち、第1電極兼第2電極)として、電極先端径(直径)6mm、電極先端曲率半径R40の一対のDR型電極を備えた、定置式スポット溶接機を用意した。
第1の工程の後、一対の電極を開放し、さらに、この開放状態を10秒間維持して、上記ナゲットがMf点以下の温度になるまで冷却した(第2の工程)。
第2の工程の後、3枚の鋼板の上記ナゲットに対応する箇所を、第1の工程で用いた電極と同じ一対の電極によって挟持し(加圧力:450kgf)、通電電流I3:5.0kAおよび通電時間t3:0.40秒で通電して、上記ナゲットを焼戻し(第3の工程)、実施例1の抵抗スポット溶接継手を得た。
なお、第1の工程と第3の工程の通電条件は、I1 2×t1=25.6と、I3 2×t3=10.0となり、上記式(1)を満たしている。
また、この実施例1の抵抗スポット溶接継手の製造に際しては、第2の工程時に別のサイクルの第1の工程を実施した。
電極、通電条件および冷却条件を下記の表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2〜20の抵抗スポット溶接継手を得た。
なお、実施例4および5は、第1の工程と第3の工程で異なる電極を用いた。
鋼板として下記の表1に示す2枚の鋼板を用いたこと、ならびに、電極、通電条件および冷却条件を下記の表1に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例21〜23の抵抗スポット溶接継手を得た。
また、この実施例21〜23の抵抗スポット溶接継手の製造に際しては、第2の工程時に別のサイクルの第3の工程を実施した。
第2の工程および第3の工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の抵抗スポット溶接継手を得た。
第3の工程における通電電流I3を8.0kAに変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の抵抗スポット溶接継手を得た。
なお、第1の工程と第3の工程の通電条件は、I1 2×t1=25.6と、I3 2×t3=25.6となり、上記式(1)を満たしていない。
また、この比較例2の抵抗スポット溶接継手の製造に際しては、第1の工程と第3の工程とで打点を3mmずらしている。
第2の工程において、電極を開放せずにそのまま2秒間加圧した状態で冷却したこと、および第3の工程において、通電電流I3を5.8kAに変更したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の抵抗スポット溶接継手を得た。
実施例1〜8および比較例1〜3の保持時間:0.05秒
実施例9〜16の保持時間 :0.2秒
実施例17〜23の保持時間:0.4秒
なお、これらの確認は、すべてn数5で実施し、その平均値を下記の表1に示す。
抵抗スポット溶接継手の硬さ分布の測定は、ビッカース硬さ計を用いて、図1に示すように、鋼板の重ね合わせ面側の表面から0.2mm離れた位置を鋼板表面に対して略平行に測定した。なお、測定荷重は1kgfとし、一方のナゲット端を基点として所定のピッチで測定し、特にナゲットの境界部付近は0.2mmまたは0.25mmのピッチで測定した。
そして、ナゲットの境界部から熱影響部(HAZ)側に0.5mmの範囲の硬さの平均値を、ナゲットに隣接するコロナボンド部付近のHAZの硬さとして求めた。
また、第2の工程において電極を開放せずに加圧した状態で冷却した比較例3は、表1に示すようにナゲットに隣接するコロナボンド部付近のHAZの硬さが低く、靭性が向上しているため、CTSについては高くなっているものの、面内引張試験においては、ナゲット内に破断が生じていた。
一方、本発明例である実施例1〜23は、表1に示すようにナゲットに隣接するコロナボンド部付近のHAZの硬さが低く、靭性が向上しているため、CTSが高くなっており、さらに、面内引張試験においても、ナゲット内に破断は生じていなかった。
したがって、本発明によれば、引張強度が440MPa以上の高強度の鋼板を含む複数枚の鋼板を用いた抵抗スポット溶接継手であっても、n数5で試験して、高い継手強度を安定して得られることがわかった。
したがって、本発明の抵抗スポット溶接継手の製造方法は、産業上の利用可能性が高いものである。
Claims (7)
- 引張強度が440MPa以上の鋼板を含む複数枚の鋼板を用いた抵抗スポット溶接継手の製造方法であって、
重ね合わせた前記複数枚の鋼板を一対の第1電極によって挟持し、所定の通電電流I1および通電時間t1で通電して、ナゲットを形成する第1の工程と、
前記一対の第1電極を開放し、前記ナゲットがMf点以下の温度になるまで冷却する第2の工程と、
前記複数枚の鋼板の前記ナゲットに対応する箇所を一対の第2電極によって挟持し、所定の通電電流I3および通電時間t3で通電して、前記ナゲットを焼戻す第3の工程と、を含み、
前記第1の工程と前記第3の工程の通電条件が、下記の式(1)を満たすことを特徴とする、前記製造方法。
I3 2×t3<I1 2×t1 ・・・(1) - 前記製造方法は、前記第1の工程から前記第3の工程までを行う溶接対象箇所を複数有しており、
1つの溶接対象箇所において前記第2の工程を行っているときに、他の溶接対象箇所において前記第1の工程を並行して行う、請求項1に記載の製造方法。 - 前記製造方法は、前記第1の工程から前記第3の工程までを行う溶接対象箇所を複数有しており、
1つの溶接対象箇所において前記第2の工程を行っているときに、他の溶接対象箇所において前記第3の工程を並行して行う、請求項1に記載の製造方法。 - 前記第1電極と前記第2電極が異なる電極である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
- 前記第1電極の電極先端径D1と前記第2電極の電極先端径D2が、下記の式(2)を満たす、請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。
D1≦D2 ・・・(2) - 前記引張強度が440MPa以上の鋼板の炭素当量が0.22質量%以上0.40質量%以下であり、
前記第3の工程において、前記ナゲットに隣接するコロナボンド部付近の熱影響部にビッカース硬さが280以上420以下となる部分が形成される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の製造方法。 - 前記第2の工程の工程時間が3秒以上600秒以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の製造方法。
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