JP2020063494A - 鋼材 - Google Patents
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Abstract
Description
5.7≦Nb/C≦9.7 (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
5.7≦Nb/C≦9.7 (1)
5.7≦Nb/C≦9.7 (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態による鋼材は、油井用途に適しており、さらに具体的には、180℃以下のスイート環境の油井用途に適している。本実施形態による鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
炭素(C)は、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Cはさらに、熱間加工工程及び焼入れ処理工程において500nm以上の円相当径のNb含有析出物(ピンニングNb含有析出物)を形成し、ピンニング効果により鋼材の結晶粒を微細化する。これにより、鋼材の低温靭性が高まる。Cはさらに、焼戻し処理工程において100nm未満の円相当径のNb含有析出物(微細Nb含有析出物)を形成して、析出強化により鋼材の強度を高める。C含有量が0.020%以下であれば、C以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.060%を超えれば、C以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、鋼材の低温靭性が低下してしまう。したがって、C含有量は0.020超〜0.060%である。C含有量の好ましい下限は0.021%であり、さらに好ましくは0.023%である。C含有量の好ましい上限は0.055%であり、さらに好ましくは0.050%である。
ケイ素(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が0.05%未満であれば、Si以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が1.00%を超えれば、Si以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、鋼材の靭性及び熱間加工性が低下する。したがって、Si含有量は0.05〜1.00%である。Si含有量の好ましい下限は0.07%であり、さらに好ましくは0.10%である。Si含有量の好ましい上限は0.98%であり、さらに好ましくは0.90%である。
マンガン(Mn)は、鋼を脱酸する。Mnはさらに、鋼材の焼入れ性を高め、鋼材の強度を高める。Mn含有量が0.80%未満であれば、Mn以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、これらの効果が十分に得られない。一方、Mn含有量が6.00%を超えれば、Mn以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Mn含有量は0.80〜6.00%である。Mn含有量の好ましい下限は0.85%であり、さらに好ましくは0.90%であり、さらに好ましくは0.95%であり、さらに好ましくは1.00%であり、さらに好ましくは1.50%超である。Mn含有量の好ましい上限は5.95%であり、さらに好ましくは5.50%である。
燐(P)は不純物である。すなわち、P含有量は0%超である。Pは、粒界に偏析して鋼材の耐炭酸ガス腐食性を低下する。粒界に偏析したPはさらに、鋼材の低温靭性を低下する。したがって、P含有量は0.050%以下である。P含有量の好ましい上限は0.040%であり、さらに好ましくは0.035%である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、P含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、P含有量の好ましい下限は0.001%であり、より好ましくは0.002%であり、さらに好ましくは0.003%である。
硫黄(S)は不純物である。すなわち、S含有量は0%超である。Sは、粒界に偏析して鋼材の熱間加工性を低下する。したがって、S含有量は0.0200%以下である。S含有量の好ましい上限は0.0100%であり、さらに好ましくは0.0050%である。S含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、S含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、S含有量の好ましい下限は0.0001%であり、より好ましくは0.0002%であり、さらに好ましくは0.0003%である。
クロム(Cr)は、鋼材の耐食性を高め、特に、鋼材の耐炭酸ガス腐食性を高める。Cr含有量が9.00%未満であれば、Cr以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、この効果が十分に得られない。一方、Cr含有量が12.00%以上であれば、Cr以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、フェライトが生成しやすくなり、マルテンサイトが安定して得られにくくなる。したがって、Cr含有量は9.00〜12.00%未満である。Cr含有量の好ましい下限は9.20%であり、さらに好ましくは9.50%である。Cr含有量の好ましい上限は11.95%であり、さらに好ましくは11.90%である。
ニッケル(Ni)は、鋼材の耐炭酸ガス腐食性、耐応力腐食割れ性(耐SCC性)、及び、耐硫化物応力腐食割れ性(耐SSC性)を高める。Niはさらに、オーステナイト生成元素であり、マルテンサイト組織を得られやすくする。Ni含有量が0.20%未満であれば、Ni以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、これらの効果が十分に得られない。一方、Ni含有量が1.50%を超えれば、製造コストが高くなる。したがって、Ni含有量は0.20〜1.50%である。Ni含有量の好ましい下限は0.25%であり、さらに好ましくは0.28%である。Ni含有量の好ましい上限は1.45%であり、さらに好ましくは1.40%である。
ニオブ(Nb)はC又はN等と結合してNb含有析出物を形成する。Nb含有析出物のうち、円相当径が500nm以上のピンニングNb含有析出物は、ピンニング効果により鋼材の旧オーステナイト粒を微細化する。これにより、鋼材の低温靱性が高まる。さらに、Nb含有析出物のうち、円相当径が100nm未満の微細Nb含有析出物は、析出強化により鋼材の降伏強度を高める。Nb含有量が0.20%以下であれば、Nb以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、Nb含有量が0.50%を超えれば、Nb以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、Nb含有析出物が過剰に生成して鋼材の低温靱性が低下する。したがって、Nb含有量は0.20超〜0.50%である。Nb含有量の好ましい下限は0.21%であり、さらに好ましくは0.22%である。Nb含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
アルミニウム(Al)は、鋼を脱酸する。sol.Al含有量が0.005%未満であれば、Al以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、sol.Al含有量が0.100%を超えれば、Al以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、粗大な酸化物系介在物が生成して、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、sol.Al含有量は0.005〜0.100%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0.008%であり、さらに好ましくは0.015%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.095%であり、さらに好ましくは0.085%である。本明細書にいうsol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量を意味する。
窒素(N)はオーステナイト生成元素であり、マルテンサイトを安定して生成しやすくする。N含有量が0.002%未満であれば、N以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。一方、N含有量が0.050%を超えれば、N以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、粗大な窒化物が生成してしまい、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、N含有量は0.002〜0.050%である。N含有量の好ましい下限は0.005%であり、さらに好ましくは0.008%である。N含有量の好ましい上限は0.045%であり、さらに好ましくは0.042%である。
酸素(O)は不純物である。すなわち、O含有量は0%超である。Oは粗大な酸化物を形成し、鋼材の低温靱性を低下する。したがって、O含有量は0.020%以下である。O含有量の好ましい上限は0.010%であり、さらに好ましくは0.005%である。O含有量はなるべく低い方が好ましい。ただし、O含有量の極端な低減は、製造コストを大幅に高める。したがって、工業生産を考慮した場合、O含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。
上述の鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Vを含有してもよい。
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0%であってもよい。Vが含有される場合、Vは炭化物、窒化物、又は、炭窒化物(以下、炭化物、窒化物及び炭窒化物を纏めて「炭窒化物等」という)を形成する。V炭窒化物等は、ピンニング効果により鋼材の旧オーステナイト粒を微細化し、鋼材の低温靱性を高める。Vはさらに、焼戻し時に微細な炭化物を形成して、析出強化により鋼材の降伏強度を高める。V含有量が少しでも含有されれば、これらの効果がある程度得られる。しかしながら、V含有量が0.50%を超えれば、V以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、Vを含有する粗大な炭窒化物等が過剰に生成して、鋼材の低温靱性を低下する。したがって、V含有量は0〜0.50%である。V含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。V含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%である。
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。Cuは鋼材の耐炭酸ガス腐食性を高める。Cu含有量が少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Cu含有量が2.00%を超えれば、Cu以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、Cu含有量は0〜2.00%である。Cu含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Cu含有量の好ましい上限は1.50%であり、さらに好ましくは1.00%である。
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。Moは鋼材の耐炭酸ガス腐食性を高める。Mo含有量が少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Mo含有量が1.00%を超えれば、Mo以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、Mo含有量は0〜1.00%である。Mo含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.10%であり、さらに好ましくは0.15%である。Mo含有量の好ましい上限は0.90%であり、さらに好ましくは0.80%であり、さらに好ましくは0.70%である。
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。Caが含有される場合、Caは、鋼材中の硫化物を微細化し、鋼材の熱間加工性を高める。Caが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Ca含有量が0.0100%を超えれば、Ca以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、Ca含有量は0〜0.0100%である。Ca含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0015%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0090%であり、さらに好ましくは0.0080%であり、さらに好ましくは0.0070%である。
マグネシウム(Mg)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mg含有量は0%であってもよい。Mgが含有される場合、Mgは、鋼材中のSを硫化物として無害化し、鋼材の熱間加工性を高める。Mgが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、Mg含有量が0.0100%を超えれば、Mg以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、鋼材中の酸化物が粗大化して、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Mg含有量は0〜0.0100%である。Mg含有量の好ましい下限は0%超であり、より好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0010%であり、さらに好ましくは0.0012%である。Mg含有量の好ましい上限は0.0090%であり、より好ましくは0.0050%である。
硼素(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。Bが含有される場合、Bは、鋼材の熱間加工性を高める。Bが少しでも含有されれば、この効果がある程度得られる。しかしながら、B含有量が0.0050%を超えれば、B以外の他の元素の含有量が本実施形態で説明する範囲内であっても、鋼材中に粗大なB窒化物が生成して、鋼材の低温靱性が低下する。したがって、B含有量は0〜0.0050%である。B含有量の好ましい下限は0%超であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0006%である。B含有量の好ましい上限は0.0040%であり、さらに好ましくは0.0030%であり、さらに好ましくは0.0020%である。
本実施形態の鋼材の化学組成はさらに、上述の各元素の含有量が上述の範囲内であり、かつ、式(1)を満たす。
5.7≦Nb/C≦9.7 (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
本実施形態の鋼材ではさらに、円相当径が500nm以上のNb含有析出物(ピンニングNb含有析出物)の個数密度が1.00×108〜2.00×1010個/m2である。ここで、Nb含有析出物とは、析出物中のNb含有量が質量%で50%以上の析出物であり、具体的には、Nb炭化物、Nb窒化物、Nb炭窒化物、又は、Nb炭窒化物等(Nb炭化物、Nb窒化物、Nb炭窒化物の総称)と他の析出物との複合析出物である。
本実施形態による鋼材の降伏強度YSは758MPa以上(110ksi以上)である。上述の式(1)を満たす化学組成を有し、円相当径が500nm以上のNb含有析出物の個数密度が1.00×108〜2.00×1010個/m2であれば、降伏強度は758MPa以上となる。
本実施形態の鋼材は優れた低温靭性を有し、具体的には、−60℃における吸収エネルギーが100J以上である。
本実施形態による鋼材のミクロ組織は、主としてマルテンサイトからなる。本明細書において「マルテンサイト」とは、フレッシュマルテンサイトおよび焼戻しマルテンサイトの両方を含む。「主としてマルテンサイトからなる」とは、ミクロ組織中のマルテンサイトの体積率が90%以上であることを意味する。組織の残部は、残留オーステナイトである。つまり、残留オーステナイトの体積率は0〜10%である。残留オーステナイトの体積率はなるべく低い方が好ましい。組織中のマルテンサイトの体積率の好ましい下限は90%であり、さらに好ましくは95%である。さらに好ましくは、金属組織は、マルテンサイト単相である。
Vγ=100/{1+(Iα×Rγ)/(Iγ×Rα)}
ここで、式中の「Iα」はα相の積分強度であり、「Iγ」はγ相の積分強度である。「Rα」はα相の結晶学的理論計算値であり、「Rγ」はγ相の結晶学的理論計算値である。上記各面の体積率Vγの算術平均値を、残留オーステナイトの体積率(vol.%)と定義する。得られた残留オーステナイトの体積率から、次の式を用いて、マルテンサイトの体積率(vol.%)を求める。
マルテンサイトの体積率=100−残留オーステナイトの体積率Vγ
本実施形態による鋼材の形状は、特に限定されない。鋼材はたとえば鋼管、鋼板、棒鋼等である。本実施形態の鋼材は、高い降伏強度と優れた低温靭性が要求される用途に広く適用可能であり、特に、スイート環境の油井用鋼材に好適である。油井用鋼材とは、油井及び/又はガス井の掘削、原油及び/又は天然ガスの採取に用いられる鋼材を意味する。鋼材が鋼管である場合、油井用鋼管とはたとえば、ケーシング、チュービング、ドリルパイプ等である。本実施形態の鋼材が油井用鋼管である場合、油井用鋼管は溶接鋼管であってもよいし、継目無鋼管であってもよい。好ましくは、油井用鋼管は継目無鋼管である。本実施形態の鋼材が油井用鋼管である場合、鋼管の外径、肉厚は特に限定されない。
本実施形態による鋼材の製造方法は、熱間加工工程と、焼入れ工程と、焼戻し工程とを備える。本実施形態では、鋼材の製造方法の一例として、鋼管の製造方法を説明し、より具体的には、鋼管の一例である継目無鋼管の製造方法を説明する。以下、各工程について詳述する。
熱間加工工程では、準備された素材を熱間加工して中間鋼材を製造する。鋼材が継目無鋼管である場合、中間鋼材は素管(Hollow Shell)に相当する。
焼入れ工程では、熱間加工工程で製造された中間鋼材に対して、焼入れを実施する。本明細書において、「焼入れ」とは、中間鋼材をAc3点以上の焼入れ温度に加熱し、その後、急冷することを意味する。好ましい焼入れ温度は750〜950℃である。焼入れ温度は、補熱、又は加熱を実施する熱処理炉の炉温に相当する。
焼戻し工程では、上述の焼入れ工程を実施した後、焼戻しを実施する。本明細書において、「焼戻し」とは、焼入れ後の中間鋼材を再加熱して、Ac1変態点以下の焼戻し温度で中間鋼材を保持することを意味する。
上述の焼戻し処理を実施した後、中間鋼材(素管)に対して、必要に応じて、温間での矯正加工(温間矯正)を実施してもよい。つまり、温間矯正工程は実施しなくてもよい。温間矯正工程を実施する場合、上述のとおり、焼戻し温度が500〜650℃であれば、温間矯正を実施するときの中間鋼材の温度が適切であり、温間矯正により過度のひずみが導入されにくい。そのため、上述の焼戻し温度は、温間矯正を実施する場合においても適切である。なお、中間鋼材に曲がりが発生していない場合、温間矯正工程を実施する必要はない。
上記の焼戻し処理後の各試験番号の供試材に対して、Nb析出物個数密度測定試験、降伏強度評価試験、及び、低温靭性評価試験を実施した。
各試験番号の供試材の板幅中央位置であって、かつ、板厚(肉厚)中央位置から、組織観察用サンプルを採取した。組織観察用サンプルの被検面は、各試験番号の供試材を採取した継目無鋼管の軸方向に垂直な面とした。組織観察用サンプルの被検面を鏡面研磨した後、被検面中の任意の5視野(各視野面積は120μm×90μm)に対して、1000倍の倍率でSEMによる組織観察を実施した。そして、各視野において、コントラストに基づいて析出物を特定した。特定された各析出物に対して、SEMに付属したEDSによる成分分析を実施した。EDSによる成分分析の結果、質量%で50%以上のNbを含有する析出物を、Nb含有析出物と特定した。5視野で特定された各Nb含有析出物の円相当径を、画像処理により求めた。そして、5視野で特定されたNb含有析出物のうち、円相当径が500nm以上のNb含有析出物(ピンニングNb含有析出物)の個数をカウントした。5視野で特定された、円相当径が500nm以上のNb含有析出物(ピンニングNb含有析出物)の個数と、5視野の総面積とに基づいて、円相当径が500nm以上のNb含有析出物の個数密度(個/m2)を求めた。求めた個数密度を表2中の「ピンニングNb含有析出物個数密度」欄に示す。
各試験番号の供試材の板幅中央位置であって、かつ、板厚(肉厚)中央位置から、丸棒試験片を採取した。丸棒試験片の直径は6.35mmとし、平行部の長さは35mmとした。平行部は、供試材を採取した継目無鋼管の軸方向に平行であった。採取した丸棒試験片を用いて、ASTM E8に準拠して、常温(25℃)、大気中での引張試験を実施した。引張試験で得られた0.2%耐力を、降伏強度(MPa)とした。
各試験番号の供試材の板幅中央位置であって、かつ、板厚(肉厚)中央位置から、ASTM E23に準拠したVノッチ試験片を採取した。Vノッチ試験片の長手方向に垂直な断面は10mm×10mmの正方形とし、Vノッチ試験片の長手方向の長さは55mmとした。つまり、フルサイズのVノッチ試験片を準備した。Vノッチ試験片の長手方向は、供試材を採取した継目無鋼管の中心軸方向と肉厚方向とに垂直な方向(つまり、供試材を採取した継目無鋼管の円周方向の接線方向)とした。Vノッチ試験片の長さ中央位置でVノッチを形成した。Vノッチ角度を45°とし、ノッチ深さを2mmとし、ノッチ底半径を0.25mmとした。Vノッチの延びる方向は、供試材を採取した継目無鋼管の中心軸と平行な方向とした。ASTM E23に準拠して、−60℃に冷却したVノッチ試験片に対してシャルピー衝撃試験を実施した。5個のVノッチ試験片に対して上述のシャルピー衝撃試験を実施し、得られた吸収エネルギーの算術平均値を、−60℃での吸収エネルギー(J)と定義した。
Vγ=100/{1+(Iα×Rγ)/(Iγ×Rα)}
ここで、式中の「Iα」はα相の積分強度であり、「Iγ」はγ相の積分強度である。「Rα」はα相の結晶学的理論計算値であり、「Rγ」はγ相の結晶学的理論計算値である。上記各面の体積率Vγの算術平均値を、残留オーステナイトの体積率(vol.%)と定義した。得られた残留オーステナイトの体積率から、次の式を用いて、マルテンサイトの体積率(vol.%)を求めた。
マルテンサイトの体積率=100−残留オーステナイトの体積率Vγ
測定の結果、いずれの試験番号においても、マルテンサイトの体積率は90%以上であった。
試験結果を表2に示す。表2を参照して、試験番号1〜20の化学組成はいずれも適切であり、F1が式(1)を満たした。さらに、製造条件(焼入れ温度T1、保持時間t1、焼戻し温度T2、保持時間t2)も適切であった。そのため、これらの試験番号において、円相当径が500nm以上のNb含有析出物の個数密度は、1.00×108〜2.00×1010個/m2であった。その結果、これらの試験番号の降伏強度は758MPa以上であった。さらに、−60℃での吸収エネルギーは100J以上であり、優れた低温靭性を示した。
Claims (5)
- 化学組成が質量%で、
C:0.020超〜0.060%、
Si:0.05〜1.00%、
Mn:0.80〜6.00%、
P:0.050%以下、
S:0.0200%以下、
Cr:9.00〜12.00%未満、
Ni:0.20〜1.50%、
Nb:0.20超〜0.50%、
sol.Al:0.005〜0.100%、
N:0.002〜0.050%、
O:0.020%以下、
V:0〜0.50%、
Cu:0〜2.00%、
Mo:0〜1.00%、
Ca:0〜0.0100%、
Mg:0〜0.0100%、
B:0〜0.0050%、及び、
残部:Fe及び不純物、からなり、かつ、式(1)を満たし、
円相当径が500nm以上のNb含有析出物の個数密度が1.00×108〜2.00×1010個/m2であり、
降伏強度が758MPa以上であり、
−60℃における吸収エネルギーが100J以上である、
鋼材。
5.7≦Nb/C≦9.7 (1)
ここで、式(1)中の元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。 - 請求項1に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、
V:0.01〜0.50%を含有する、
鋼材。 - 請求項1又は請求項2に記載の鋼材であって、
前記化学組成は、
Cu:0.10〜2.00%、及び、
Mo:0.10〜1.00%からなる群から選択される1種以上を含有する、
鋼材。 - 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の鋼材であって、
Ca:0.0005〜0.0100%、
Mg:0.0005〜0.0100%、及び、
B:0.0005〜0.0050%からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、
鋼材。 - 請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の鋼材であって、
前記鋼材は、油井用鋼管である、
鋼材。
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