JP2020059913A - 積層造形用の金属粉末、および銅合金造形物の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】熱処理工程を行うことなく高い電気伝導性および熱伝導性が得られる銅合金造形物を付加製造によって製造するための金属粉末および製造方法を提供する。【解決手段】銅粉末とタングステン粉末が質量基準で99.84:0.16〜73.2:26.8の割合で混合された、積層造形用の金属粉末。前記積層造形用の金属粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記金属粉末のうち少なくとも一部を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する銅合金造形物の製造方法。【選択図】図1

Description

本発明は粉末床溶融結合方式による銅合金の付加製造技術に関し、より詳しくは、原料となる粉末、銅合金からなる積層造形物の製造方法、および銅合金造形物に関する。
金属の立体造形物の製造方法として、付加製造技術、いわゆる3Dプリント技術が注目されている。このうち粉末床溶融結合方式による付加製造方法は、原料となる金属粉末を造形ステージに敷き詰め、その所定位置にレーザー光や電子ビームを照射して金属粉末を溶融・凝固させて積層することを繰り返すことにより、立体形状を造形する方法である。代表的な方法として、レーザー焼結法(SLS、Selective Laser Sintering)やレーザー溶融法(SLM、Selective Laser Melting)が挙げられる。この方法により、従来の切削加工等では作れなかった複雑な形状の製品を比較的短時間で製造できるようになった。
金属の付加製造における一つの問題点は、銅の優れた電気伝導性・熱伝導性を活かした製品の製造が難しいことであった。その主な原因は、レーザー光の波長(例えばYbファイバーレーザーでは1090nm)に対する銅のエネルギー吸収率が極めて低く融点に到達できないことや、融点に到達できても熱伝導が高いために急速に熱が拡散して十分な溶融が進まないことである。
これに対して、特許文献1〜3には、クロムを含有する銅合金粉末を用いて付加製造によって積層造形物を作製し、その積層造形物を300℃以上の温度で熱処理することにより導電率を向上させることが記載されている。
特開2018−070914号公報 特許第6389557号公報 特許第6346983号公報
しかしながら、特許文献1〜3に記載された方法では、積層造形後に熱処理工程が不可欠であり、コスト要因となっていた。
本発明は、上記を考慮してなされたものであり、付加製造によって、熱処理工程を行うことなく高い電気伝導性および熱伝導性が得られる銅合金造形物を提供することを目的とする。
本発明の積層造形用の金属粉末は、銅粉末とタングステン粉末が質量基準で99.84:0.16〜73.2:26.8の割合で混合されたものである。
本発明の他の積層造形用の金属粉末は、0.16質量%〜26.8質量%のタングステンを含み、残部が銅および不純物からなる銅合金粉末である。
本発明の銅合金造形物の製造方法は、上記積層造形用の金属粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記金属粉末のうち少なくとも一部を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する。
本発明の銅合金造形物は、銅合金の積層構造を有し、前記銅合金は0.16質量%〜26.8質量%のタングステンを含み、残部が銅および不純物からなり、室温における電気伝導率が70%IACS以上である。
本発明の積層造形用の金属粉末または銅合金造形物の製造方法によれば、付加製造によって、熱処理工程を行わない造形まま材の状態で、高い電気伝導性および熱伝導性を有する銅合金造形物を製造することできる。本発明の銅合金造形物によれば、熱処理が不要であることによって、低コストで高い電気伝導性および熱伝導性が得られる。
A:銅粉末とタングステン粉末が混合された金属粉末、B:銅−タングステン合金からなる積層造形物の走査電子顕微鏡(SEM)像である。 積層造形物である引張試験片の形状を示す図である。 銅または銅−タングステン合金からなる積層造形物の化学エッチング後のSEM像である。 銅−タングステン合金からなる積層造形物の化学エッチング後のSEM像である。 銅または銅−タングステン合金からなる積層造形物の引張試験結果である。 熱処理による銅−タングステン合金からなる積層造形物の電気抵抗率の変化を示す図である。 銅−タングステン合金粉末のSEM層である。 銅−タングステン合金からなる積層造形物の化学エッチング後のSEM像である。
本発明の一実施形態における積層造形用の金属粉末は、銅(Cu)粉末とタングステン(W)粉末が質量基準で99.8:0.2〜73:27の割合で混合されたものである。以下においてこの金属粉末を「Cu・W混合粉末」という。
銅粉末およびタングステン粉末としては、各種の市販の粉末を用いることができる。
タングステン粉末を混合するのは、付加製造時にレーザー光を吸収させるためである。銅粉末とタングステン粉末の合計に対するタングステン粉末の割合(W/(Cu+W))は0.16質量%以上であり、好ましくは0.47質量%以上、より好ましくは1.29質量%以上である。タングステン粉末の割合が多いほど、付加製造時のレーザー光の吸収量が増えるからである。一方、上記割合(W/(Cu+W))は26.8質量%以下であり、好ましくは11.2質量以下、より好ましくは5.89質量%以下である。タングステン粉末の割合が多すぎると、積層造形物の相対密度(測定密度/理論密度)が低くなり、延性が低下するからである。
銅粉末およびタングステン粉末は不純物元素を含有していてもよい。不純物元素は不可避的に混入した元素(不可避不純物)であってもよいし、意図的に添加された元素(添加元素)であってもよい。不可避不純物としては、酸素(O)、リン(P)や各粉末製造時の原料に混入した他の金属元素が挙げられる。添加元素としては、銅やタングステンより優先的に酸化物を形成して、熱伝導率を下げる酸素(O)の影響を抑える金属元素等が添加されることがある。添加元素の例としては、酸化物の標準生成自由エネルギーが低いジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、シリコン(Si)などが挙げられる。なお、これらの元素が不可避不純物として含まれる場合もある。不純物元素の含有量は好ましくは0.2質量%未満である。
銅粉末およびタングステン粉末の粒度は、付加製造方法の方式や要求される造形物の寸法精度等に応じて定めることができる。一般的なSLS法やSLM法に用いる場合、好ましくは、レーザー回折・散乱法によって測定された粒径の体積基準のメジアン値(d50)が1〜100μmである。
他の実施形態における積層造形用の金属粉末は0.16質量%〜26.8質量%のタングステンを含み、残部が銅および不純物からなる銅合金粉末である。以下においてこの金属粉末を「Cu−W合金粉末」という。
Cu−W合金粉末は、好ましくはメカニカルアロイングによって作製される。Cu−Wの2元系は偏晶反応型の状態図を示し、タングステンの融点(3380℃)が銅の沸点(2571℃)より高く、タングステンの液体銅への溶解度は極めて低い。そのため、Cu−Wの均一な構造の合金粉末を工業的に製造することは困難である。高エネルギーボールミル等を用いて銅とタングステンを機械的に合金化すれば、Cu粒子の表面がW粒子で修飾されたCu−W合金粉末を容易に作製できる。
Cu−W合金粉末が不純物元素を含有してもよいこと、不純物元素が不可避不純物であっても添加元素であってもよいことは、上記のCu・W混合粉末と同様である。Cu−W合金粉末の粒度は、好ましくは、レーザー回折・散乱法によって測定された粒径の体積基準のメジアン値(d50)が1〜100μmであることも、上記のCu・W混合粉末と同様である。
積層造形物の作製には、種々公知の付加製造技術を用いることができる。例えば、上記のCu・W混合粉末の薄層を形成する第1工程と、薄層の所定位置に電磁波ビームを照射してCu・W混合粉末のうち少なくとも一部を溶融・凝固させる第2工程とを順次繰り返す。タングステンの融点が高いためタングステン粉末を完全に溶融することは難しいが、タングステン粉末がレーザー光を吸収することにより少なくとも銅粉末が溶融する。あるいは、例えば、上記のCu−W合金粉末の薄層を形成する第1工程と、薄層の所定位置に電磁波ビームを照射してCu−W合金粉末のうち少なくとも一部を溶融・凝固させる第2工程とを順次繰り返す。Cu−W合金粒子中のW相がレーザー光を吸収することにより少なくともCu相が溶融する。最後に余剰の粉末を除去することにより、銅合金の積層造形物が得られる。
以上の工程によって本実施形態の銅合金造形物が得られる。銅合金造形物の組織は、銅合金の積層構造を有する造形物であって、Cuの母相(マトリクス相)中にW粒子が分散した構造を有する。
次に、いくつかの実験結果によって、上記実施形態をより詳細に説明する。なお、以下の各表における空欄は、実験または分析を行なわなかったことを意味する。
Cu・W混合粉末を用いて、SLS法により、後述する各種特性測定用の試験片を作製した。作製はYbファイバーレーザーを用いた粉末積層造形システム(EOS GmbH、M290)を用い、積層厚0.01〜0.06mm、レーザー出力200〜400Wの条件で行った。比較のために、銅粉末のみを用いて同様なSLM法により純銅の試験片を作製した。レーザー光の走査パターンおよび速度は、下記試料Cu1.3Wが最も緻密になる条件を予め求めて、試料Cu、Cu0.2W、Cu0.5WおよびCu1.3Wはその条件でレーザー光を照射した。タングステン粉末の割合がそれより多い試料では、レーザー光の吸収率に合わせて、走査速度等を適宜調節した。
表1に、積層造形物の作製に用いた銅粉末およびタングステン粉末の不純物濃度および粒度を示す。酸素(O)および窒素(N)の濃度は酸素・窒素分析装置(LECO Corp.、ON736)を用い、酸素は非分散型赤外線吸収法、窒素は熱電導度法によって測定した。銅またはタングステンの純度には酸素および窒素は考慮していない。粒度の測定はレーザー回折・散乱法による粒度分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社、MT3200)を用いて行った。表1中のMNは個数平均径、MVは体積平均径を表す。表1中のd10、d50、d90は、全体積を100%としたときの累積カーブがそれぞれ10%、50%、90%となる点の粒子径を表す。d50はメジアン径である。
表2に作製した積層造形物の化学分析結果を示す。W含有量はICP発光分光分析により求めた。酸素(O)および窒素(N)の分析は原料粉末と同じ方法により行った。
図1AにCu・W混合粉末、図1Bに試料Cu27Wの断面の走査電子顕微鏡(SEM)像を示す。図1Aおよび図1Bの下部にある黒いバーの長さは200μmである。
図1Aにおいて、色の濃い粒子がCu粒子(CU)、色の薄い粒子がW粒子(WL)である。
図1Bにおいて、濃色のマトリクス相中に淡色の粒子相が分散している。エネルギー分散型X線分析(EDS)によって、濃色のマトリクス相はCuからなりWは含まず、淡色の粒子相はWからなりCuを含まず、Cu相とW相が完全に分離していることを確認した。また、この試料のX線回折(XRD)分析では、Cuの結晶面とWの結晶面だけが観測された。銅粉末は完全に溶融し緻密なマトリクス相を形成している。一部のW粒子は溶融しないで元の球形状を保っている。他のW粒子は形が崩れており、一部では凝集が確認できた(図1Bの中央やや左)。
以上の観察から、Cu・W混合粉末の付加製造工程は次のように進行したと考えられる。レーザー光が照射されると、W粒子がレーザー光を吸収して周囲のCu粒子に熱を伝える。タングステンの融点が高く、吸収したレーザー光のエネルギーが周囲のCu粒子に放散するので、W粒子自体は融解せず、あるいは融点に達しても完全に溶融するまえに温度が下がって粒子形状が崩れた状態にとどまる。Cu粒子はW粒子から伝達される熱で温度が上昇する。固体の銅は温度上昇とともにレーザー吸収率が上がり熱伝導度が下がること、さらに、銅が溶融するとレーザー吸収率が格段に上がり熱伝導率が格段に下がることが報告されている(Blomら, "Process spread reduction of laser micro-spot welding of thin copper parts using real-time control", 2003年10月, Proc. SPIE 4977, p.497)。そのため、Cu粒子の一部が一旦溶融すると、レーザー光のエネルギーを直接吸収して、熱の放散も抑制されるので、溶融が加速される。Cu粒子が溶融すると、W粒子と液体のCu相との界面熱抵抗が下がり、W粒子からCu相への熱伝達量が増え、W粒子の「冷却」が促進される。さらに、タングステンの液体銅への溶解度が極めて低いことから、W粒子は元の形状のまま、あるいは一部溶融した状態でCu相中に分散して残る。
次に、作製した積層造形物の各種特性を評価した。
熱伝導率測定用の試験片は、直径10mm、厚さ3mmのコイン型で、1つの直径の方向に積層して作製した。熱伝導率の測定は、室温で、レーザーフラッシュ法を用いて真空中で行った。
いくつかの試料については電気伝導率を測定した。電気伝導率測定用の試験片は、3mm×3mm×80mmの角柱状で、厚さ3mmの方向に積層して作製した。電気伝導率は、電気抵抗測定装置(株式会社アグネ技術センター、ARC−TER−1型)を用い、直流四端子法で測定した電気抵抗率から算出した。測定は室温で、または後述する各設定温度に保持しながら、アルゴン(Ar)雰囲気中で行った。その他の試料については、熱伝導率から電気伝導率を推算した。なお、本明細書中で、電気伝導率は焼鈍標準軟銅に対する比(%IACS)で示す。焼鈍標準軟銅の電気抵抗率は、1.7241×10−2μΩ・mである。
金属の電気伝導率と熱伝導率の間には次式の関係があり、ウィーデマン・フランツの法則として知られている。
K/σ=LT
ここで、K:熱伝導率、σ:電気伝導率、L:ローレンツ数、T:絶対温度。ローレンツ数(L)は理論的には次式で与えられる。
L=(π/3)・(k/e)
=2.44×10−8WΩK−2
ここで、k:ボルツマン定数、e:電気素量。
機械特性測定用の試験片は、長さ50mm×幅6mm×高さ11mmの直方体を高さ方向に積層して作製し、図2に示す形状をワイヤー放電加工により3枚切り出し、表面を研磨して作製した。機械特性の測定は、オートグラフを用い、室温で、ひずみ速度0.001/sの引張試験により行った。ひずみ測定はビデオ式非接触伸び計(株式会社島津製作所、TRView X120S)を用いて行った。
相対密度は、銅の密度(8.89g/cm)、タングステンの密度(19.25g/cm)および両者の組成比から求めた計算値で、実測値を除して求めた。
表3に作製した積層造形物の特性を示す。また、図3および図4に積層造形物の断面を濃硝酸(60%水溶液)で化学エッチングした後のSEM像を示す。各像の下にある黒いバーの長さは300μmである。ただし、図4の試料Cu27Wではバーの長さは500μmである。
表3から、積層造形物の相対密度は、CuにWを加えることで大きくなり、W含有量が約1.3質量%で最大となり、W含有量が約25質量%まで増えると銅粉末のみを用いた場合(試料Cu)と同程度にまで下がっている。
このことは図3および図4のSEM像でも確認できる。試料Cuでは大きなポアが目立つ。このように、銅粉末CUのみでは、Cuの融点が1084℃であるにもかかわらず、レーザー積層造形によって緻密な組織を得ることはできない。なお、タングステン粉末のみを用いた場合は、タングステンの融点が高いにもかかわらず、レーザー積層造形によって緻密な組織が得られる。試料Cu0.2Wでは試料Cuより少ないものの大きなポアが存在した。これはW含有量が小さいためにレーザー光の吸収が不十分であったためと考えられる。また、試料Cu0.5Wでは大きなポアはないものの粗大な界面が存在した。試料Cu1.3Wから試料Cu9Wまでの試料では非常に緻密な組織が得られた。一方、Cu11W以上の試料ではW粒子の凝集が見られ、このことが相対密度低下の原因と考えられる。
表3から、造形物の熱伝導度および電気伝導度は、CuにWを加えることで向上し、W含有量が約3質量%で最大となり、W含有量が約27質量%に至るまで試料Cuより高い値を示した。これはマトリクスのCu相が緻密化したことと、WがCu相に溶解せずCu相の熱伝導性および電気伝導性を損なわないことによると考えられる。
図5に積層造形体の引張試験結果を示す。表3と図5から、積層造形物の0.2%耐力と引張強さは、CuにWを加えることで緩やかに上昇し、W含有量が約11質量%で最大となり、W含有量が約27質量%に至るまで試料Cuより高い値を示した。ただし、試料Cu25Wは積層造形物が脆く、試験片作製時の研磨工程でクラックが入ったため、引張試験のデータが得られなかった。
図5から、試料Cuは延性に乏しく、引張強さを通過した直後に破断している。表3と図5から、積層造形物の破断伸びはCuにWを加えることで向上し、特に、W含有量が約0.2質量%から約1.3質量%へと増えるに従って著しく向上している。一方、W含有量をさらに増やすと、破断伸びは試料Cu27WでCu0.2Wと同程度にまで小さくなった。なお、試料Cu25Wのデータが得られなかったことは上記のとおりである。表3において、破断伸びと相対密度との間には一定の相関があり、積層造形体の組織の緻密性が延性に影響していると考えられる。このことから、W含有量が小さいと図3で示したポアの有無が影響し、W含有量が大きいと図3で示したW粒子の凝集が影響していると考えられる。
上記破断伸びの実験結果からは、積層造形物の機械特性、特に破断伸びが指標となる延性を向上させるには、Cu相中のW粒子が凝集することなく均一に分散していることが重要であるとの知見が得られた。
積層造形物への熱処理の影響を調べるため、電気伝導率測定用のサンプルを用いて、温度を段階的に50℃ずつ上げながら、Ar雰囲気中で電気抵抗率を測定した。各設定温度間の昇温速度は60℃/分とし、各設定温度に到達後、試料内の温度分布が一様になるまで数分〜10分待って測定を行った。結果を図6に示す。図6には1.4質量%のクロム(Cr)を含む銅合金粉末を用いて同じ方法で作製した試料(Cu1.4Cr)の結果を合わせて示す。
図6において、Cu1.4Crでは、電気抵抗率は温度上昇とともに大きくなるが、300℃を超えると低下しており、熱処理によって電気伝導性を向上できることが分かる。これに対して、Cu27Wでは、電気抵抗率は温度上昇とともに直線的に大きくなっており、熱処理による電気抵抗率低減の効果は認められなかった。
さらに、いくつかの試料について、700℃×30分、500℃×2時間の熱処理を行い、空冷した試料の熱伝導率を測定した。表4に、造形まま材の熱伝導率(測定値)、電気伝導率(計算値)と、熱処理後の熱伝導率(測定値)、電気伝導率(計算値)を示す。造形まま材の値は表3から再掲した。なお、表4中のCu27Wの電気伝導率測定値は、造形まま材と図6に示した昇温実験後の測定値である。
表4から、熱伝導率および電気伝導率(計算値)を造形まま材と熱処理後とで比較すると、いずれも熱処理後の方がわずかに向上している。タングステンは銅に固溶せず、熱処理によってタングステンが拡散するとは考えられない。熱処理によるこの効果は、Cuマトリクス相の構造緩和や、酸素(O)等の不純物が酸化物等として析出したことが原因と考えられる。
次に、メカニカルアロイングによって作製したCu−W合金粉末を用いて同様の実験を行った。
Cu−W合金粉末は、銅粉末とタングステン粉末を高エネルギーボールミルで処理し、Cu粒子の表面をW粒子で修飾することにより作製した。表5に作製に用いた銅粉末、タングステン粉末と作製したCu−W合金粉末の粒度分布を示す。銅粉末CU2は表1の粉末CUとは異なる純銅の粉末である。タングステン粉末WKはCu・W混合粉末に用いたものと同じ粉末である。また、図7にCu−W合金粉末のSEM像を示す。なお、表5および図7において「W」の前の数字はタングステンの含有量(質量%)のおおよその値を示している。
表5から、Cu−W合金粉末の粒度分布は銅粉末CU2のそれとほぼ同じである。このことから、タングステン粉末WKが遊離して存在することなく、銅粉末CU2と結合してCu−W合金粉末を形成していることが確認できた。
積層造形物の各種特性測定用の試験片をCu・W混合粉末の場合と同じ方法で作製した。レーザー光の照射条件は、それぞれCu・W混合粉末を用いた組成の近い試料と同じとした。すなわち、下記試料Cu(M)、Cu0.5W(M)およびCu1W(M)は試料Cu、Cu0.5WおよびCu1.3Wと同じく、Cu1.3Wが最も緻密になった条件でレーザー光を照射し、下記試料Cu3W(M)はCu3Mと、下記試料Cu5W(M)はCu6Wと同じ条件でレーザー光を照射した。
表6に作製した積層造形物のW含有量および各種特性を示す。積層造形体Cu(M)は銅粉末CU2を用いて作製したもので、他の積層造形物はそれぞれ同じ記号を付したCu−W合金粉末を用いて作製したものである。各種分析および測定はCu・W混合粉末を用いた実験と同じ方法で行った。熱処理後のデータは、700℃×30分、500℃×2時間の熱処理を行い、空冷した試料の熱伝導率を測定したものである。また、図8に積層造形物の断面を濃硝酸(60%水溶液)で化学エッチングした後のSEM像を示す。各像の下にある黒いバーの長さは300μmである。
Cu−W合金粉末を用いた表6の結果とCu・W混合粉末を用いた表3の結果とを比較すると、同じW含有量ではCu−W合金粉末を用いた積層造形体の方がより高い熱伝導度および相対密度を示している。Cu−W合金粉末を用いた積層造形体では、より緻密な組織が得られたことが分かる。機械特性に関しては、Cu−W合金粉末を用いた方が破断伸びは大きく、一方0.2%耐力および引張強さが低くなっている。
また、表6から、造形まま材と熱処理後とで熱伝導率を比較すると、Cu5W(M)を除いて、熱処理後の方がわずかに向上している。熱処理によるこの効果は、Cu・W混合粉末を用いた場合と同様に、Cuマトリクス相の構造緩和や、酸素(O)等の不純物が酸化物等として析出したことが原因と考えられる。
本発明は、上記の実施形態や実施例に限定されるものではなく、その技術的思想の範囲内で変形が可能である。
例えば、上記実施形態と実施例では付加製造時の熱源がレーザー光であったが、熱源として電子ビームを用いてもよい。

Claims (4)

  1. 銅粉末とタングステン粉末が質量基準で99.84:0.16〜73.2:26.8の割合で混合された、積層造形用の金属粉末。
  2. 0.16質量%〜26.8質量%のタングステンを含み、残部が銅および不純物からなる銅合金粉末である、積層造形用の金属粉末。
  3. 請求項1または2に記載された積層造形用の金属粉末の薄層を形成する第1工程と、前記薄層の所定位置に電磁波ビームを照射して前記金属粉末のうち少なくとも一部を溶解・凝固させる第2工程とを順次繰り返して積層造形物を作製する、
    銅合金造形物の製造方法。
  4. 銅合金の積層構造を有し、
    前記銅合金は0.16質量%〜26.8質量%のタングステンを含み、残部が銅および不純物からなり、
    室温における電気伝導率が70%IACS以上である、
    銅合金造形物。
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