本実施例の光学フィルタは、基板の一方の面上の一部の領域に、所定の可視波長領域における光の透過を遮断し、特定波長領域の光を透過する特定波長透過膜を形成し、少なくても同一基板面上の特定波長透過膜を形成した領域とは異なる領域を含む別の領域に、可視波長領域における光を透過し、特定波長領域の光を遮蔽する特定波長遮蔽膜を形成し、基板のもう一方の面上に、可視波長から特定波長領域における光の反射を阻止する可視特定波長反射防止膜を構成することで、特定波長パスフィルタとしての機能と特定波長カットフィルタとしての機能の、2つの機能を1枚のフィルタ内に有した光学フィルタである。
このような光学フィルタの基板としては、少なくても特定波長透過膜、及び特定波長遮蔽膜のそれぞれの透過帯において光透過性を有する、つまりは可視波長から特定波長において光透過性を有する基板を用いる。このような可視特定波長透明基板はガラスタイプや樹脂タイプ、さらには有機無機のハイブリッドタイプでも良く、光学フィルタの基板として必要とされる強度や光学特性を有する、基体として機能可能であるものが利用される。
基板上に形成される特定波長透過膜と特定波長遮蔽膜、可視特定波長反射防止膜の機能膜は、基板上に1層以上の薄膜を積層することにより作製され、これらの薄膜は物理的、若しくは化学的成膜方法で形成しても良いし、スピンコートなどの湿式法で形成しても良い。これらの成膜方法の中で、再現性や膜の耐環境性などの観点からは、スパッタ法や、何らかのアシストを付加した成膜方法など、比較的高エネルギーで膜を形成できるプロセスが好ましい。より具体的にはスパッタ法、IAD法、イオンプレーティング法、IBS法、クラスター蒸着法などが適用可能であり、膜厚を比較的正確に制御でき、再現性の高い膜を得ることができる成膜方法であればよく、機能膜に求められる特性や生産性等を考慮し、最適な方法を選択すれば良い。
本実施例における特定波長透過膜は、複数層の薄膜で構成されており、その最表層には透過帯である特定波長領域の光の反射を阻止する、1層または複数層の薄膜で構成される特定波長反射防止膜が形成されている。反射防止膜の最表層に配置される膜は透過帯の中心波長、例えば本実施例に記載されているような700〜1100nmの透過帯を有する近赤外透過膜ならば透過帯の中心波長である波長800〜1000nmの1.0qw程度の膜厚であることが好ましい。屈折率の波長分散が無い仮定であれば、400〜500nmの2.0qwと言い換えることもできる。ここで、qwは膜厚を表す単位であり、1つの波長λを基準として、λ/4を1つの単位としたものであり、例えば 2.0×λ/4 の膜厚の場合は2.0qwと表現する。
基板上に特定波長透過膜を形成することにより構成された光学フィルタの透過帯においては、理想的には全域で100%を透過することが望ましいが、実際にはこれを完璧に満足することは大変困難であり、透過帯の全波長域で可能な限り100%に近い透過率を得られるように調整される。このような透過率を実現する為に、本実施例では特定波長透過膜が形成する透過帯での透過率を最大化すると共に、基板裏面に設けられた可視特定波長反射防止膜が形成する透過帯での透過率を最大化し、特定波長透過膜と可視特定波長反射防止膜の2つの透過特性を合成することで、光学フィルタ総体としての透過帯の透過率を最大化している。
ここで、透過帯における透過率は、波長が連続的に変化するにつれ、少なからず波打つように変化しており、これは透過帯のリップル(透過リップル)などと呼ばれ、薄膜の積層数が多く、厚膜化するほど発生し易い。この透過リップルが大きくなると、例えば、カラーバランスが崩れたり、夜間撮影時などでは撮像素子に入射する総合的な光量が低減したりするなど、画質の低下を引き起こすことがある為、リップルは可能な限り小さい方が望ましい。そこで、この透過帯でのリップルを低減する為に、基板と特定波長透過膜との間にリップルを低減する為の透過リップル調整層を挿入しても良い。光学フィルタ総体としての透過リップルは、特定波長透過膜が形成する透過帯での透過リップルと、可視特定波長反射防止膜が形成する透過帯での透過リップルとの合成により決定されるが、本発明においては、積層数が多い為に透過リップルが発生し易い特定波長透過膜単体でも透過リップルが少ない平坦な透過特性を有し、さらに特定波長透過膜が形成された基板の裏面側に配置された可視特定波長反射防止膜単体でも透過リップルが少ない平坦な透過特性を有するように構成されており、これらの平坦な2つの透過帯を合成することで、光学フィルタ総体として透過リップルの少ない平坦な透過特性を形成している。これとは別に、例えば、特定波長透過膜における透過リップルに対し、特定波長−反射防止膜の透過リップルの位相を調整し、両面でリップルを打ち消し合うように構成することでも光学フィルタ総体として透過リップルの少ない平坦な透過特性を得ることが可能ではあるが、特定波長透過膜、及び特定波長反射防止膜での位相関係に誤差が生じた場合には透過リップルを増大させてしまう虞がある為、高画質化の観点から本実施例では先の構成を選択した。このような透過リップル調整層は特定波長透過膜を形成する複数の薄膜と比較し、膜厚が薄い特徴を有しており、全ての層の中で最も薄い層となる。透過リップル調整層は2層以上であっても良いが、その場合も、全ての透過リップル調整層は特定波長透過膜を形成する層よりも薄くなる。
本実施例における特定波長遮蔽膜は、複数層の薄膜で構成されており、その最表層には透過帯である可視波長領域の光の反射を阻止する、1層または複数層の薄膜で構成された可視反射防止膜が形成されている。この可視反射防止膜の最表層に配置される膜は透過帯の中心波長の1.0qw程度の膜厚であることが好ましい。
基板上に特定波長遮蔽膜を形成することにより構成された光学フィルタの透過帯においては、透過帯の全波長域で可能な限り100%に近い透過率を得られるように調整される。このような透過率を実現する為に本実施例では、特定波長遮蔽膜が形成する透過帯での透過率を最大化すると共に、基板裏面に設けられた可視特定波長反射防止膜が形成する透過帯での透過率を最大化し、特定波長遮蔽膜と可視特定波長反射防止膜の2つの透過特性を合成することで、光学フィルタ総体としての透過帯の透過率を最大化している。
ここで、特定波長透過膜と同様に、特定波長遮蔽膜においても透過リップルは可能な限り小さい方が望ましい。そこで、この透過帯でのリップルを低減する為に、基板と特定波長透過膜との間にリップルを低減する為の透過リップル調整層を挿入しても良い。光学フィルタ総体としての透過リップルは、特定波長遮蔽膜が形成する透過帯での透過リップルと、可視特定波長反射防止膜が形成する透過帯での透過リップルとの合成により決定されるが、特定波長透過膜と同様に、特定波長遮蔽膜においても、積層数が多い為に透過リップルが発生し易い特定波長遮蔽膜単体でも透過リップルが少ない平坦な透過特性を有し、さらに特定波長遮蔽膜が形成された基板の裏面側に配置された可視特定波長反射防止膜単体でも透過リップルが少ない平坦な透過特性を有するように構成されており、これらの平坦な2つの透過帯を合成することで、光学フィルタ総体として透過リップルの少ない平坦な透過特性を形成している。このような透過リップル調整層は特定波長遮蔽膜を形成する複数の薄膜と比較し、膜厚が薄い特徴を有しており、全ての層の中で最も薄い層となる。透過リップル調整層は2層以上であっても良いが、その場合も、全ての透過リップル調整層は特定波長遮蔽膜を形成する層よりも薄くなる。
以上のような本発明の光学フィルタを監視カメラ等の撮影装置や、紙幣識別センサなどの光学センサに使用することにより、高精度化が可能となる撮像装置、または光学センサとすることができる。
(実施例1)
多層薄膜により構成された近赤外透過膜と近赤外遮蔽膜、及び可視近赤外反射防止膜とを、1枚の可視近赤外波長透明基板の両面に分割配置し、図1、図2に示した分光透過特性を設計値とする光学フィルタを作製した実施例について、以下に詳しく記載する。
図3に示したような本実施例1の光学フィルタの可視近赤外透明基板10には、少なくても400〜1100nmの波長領域において、基板裏面側での反射成分を除いた入射光の殆どを透過する分光特性を有した厚さ0.4mmのD263Tecoガラスを使用した。
そして、この可視近赤外透明基板10の一方の面上にIAD法により可視近赤外反射防止膜13を形成した後、可視近赤外透明基板10の表裏を変え、可視近赤外透明基板10のもう一方の面上の所定の領域に近赤外透過膜11をIAD法により形成し、さらに基板の同一面上の近赤外透過膜11を形成した領域とは異なる領域に近赤外遮蔽膜12をIAD法により形成した。先に可視近赤外反射防止膜13を形成したのは、近赤外透過膜11や近赤外遮蔽膜12よりも膜厚が薄く、膜応力が低い為、基板の反りに起因した成膜時の基板位置により成膜誤差の影響を小さくする理由からである。以上のように、本実施例1における光学フィルタ14は、図3に示すような、可視近赤外透明基板10の片面側に近赤外透過膜11と近赤外遮蔽膜12を、これと対峙する可視近赤外透明基板10のもう一方の面上に可視近赤外反射防止膜13を配置する構成とした。
可視近赤外透明基板10上に形成された本実施例1の近赤外透過膜11は、図1(b)に示すように、可視波長領域の約400〜650nmの波長領域の光の殆どを遮断する透過阻止帯と、可視波長から近赤外波長領域にかけての約750〜1100nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの光を透過させた透過帯を有している。また、透過阻止帯と透過帯に挟まれた約650〜750nmの波長領域には、透過阻止帯から透過帯へ透過が連続的に変化する透過−阻止遷移領域を有している。さらには、透過−阻止遷移領域における透過率50%の波長をIR半値波長と定義し、この値を700nmとした。また、本実施例1における近赤外透過膜11は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した38層膜で構成されており、図3に示すように、この近赤外透過膜11の可視近赤外透明基板10直上の第1層には透過リップル低減機能を有する透過リップル調整層15aが配置されている。さらに、最表層となる第38層には、近赤外波長における透過帯での反射防止機能を有する1層で構成された近赤外反射防止構造16aが配置されている。透過リップル調整層15aは、近赤外透過膜11を構成する全ての膜厚の中で最も薄い膜厚となっており、また近赤外反射防止構造16aは反射防止帯となる波長域の中心波長である800〜1000nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
可視近赤外透明基板10上に形成された本実施例1の近赤外遮蔽膜12は、図2(b)に示すように、可視波長領域の約400〜600nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どを透過させた透過帯と、可視波長から近赤外波長領域にかけての約700〜1100nmの波長領域の光を遮蔽した透過阻止帯を有している。また、透過帯と透過阻止帯に挟まれた約600〜700nmの波長領域には、透過帯から透過阻止帯へ透過が連続的に変化する透過−阻止遷移領域を有している。さらには、透過−阻止遷移領域における透過率50%の波長をIR半値波長と定義し、この値を670nmとした。また、本実施例1における近赤外遮蔽膜12は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した38層膜で構成されており、図3に示すように、この近赤外遮蔽膜12の可視近赤外透明基板10直上の第1層には透過リップル低減機能を有する透過リップル調整層15bが配置されている。さらに、最表層となる第38層には、近赤外波長における透過帯での反射防止機能を有する1層で構成された可視反射防止構造16bが配置されている。透過リップル調整層15bは、近赤外遮蔽膜12を構成する全ての膜厚の中で最も薄い膜厚となっており、また可視反射防止構造16bは反射防止帯となる波長域の中心波長である400〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
可視近赤外透明基板10上に形成された本実施例1の可視近赤外反射防止膜13は、図1(c)または図2(c)に示すように、可視波長から近赤外波長領域にかけての約400〜1100nmの波長領域の光における、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの反射を阻止した、つまりは殆どの光を透過させた透過帯を有した光学特性となっている。このように、近赤外透過膜11のIR半値波長である700nm、及び近赤外遮蔽膜12のIR半値波長である670nmにおいて、可視近赤外反射防止膜13は透過帯を形成しており、成膜誤差等により光学特性が例えば10nm程度短波長側や長波長側へシフトとしたとしても、可視近赤外反射防止膜13はIR半値波長において透過帯を維持できる。従って、以上のような構成設計とすることにより、可視近赤外反射防止膜13形成時の成膜誤差により可視近赤外反射防止膜13の光学特性が変化したとしても、可視近赤外透明基板10を含んで形成されるIRパスフィルタ17またはIRカットフィルタ18の各IR半値波長に与える影響は極めて小さく、近赤外透過膜11または近赤外遮蔽膜12の誤差のみで、IRパスフィルタ17またはIRカットフィルタ18の透過−阻止遷移領域が決まる為、より再現性を高めることができ、光学フィルタ総体としての高精度化を実現することができる。
また、本実施例1における可視近赤外反射防止膜13は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した12層膜で構成されており、特に反射防止機能に最も影響を与える最表層となる第12層は反射防止帯となる波長域の中心波長である600〜900nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
さらには、可視近赤外透明基板10上に構成された近赤外透過膜11単体が作り出す透過帯の透過特性は、図1(b)で示すように、透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。また同様に、可視近赤外透明基板10上に構成された可視近赤外反射防止膜13単体が作り出す透過帯の透過特性は、図1(c)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。これら2つの機能膜が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は図1(b)(c)に示すように、厳密には可視近赤外反射防止膜13の透過率の方が近赤外透過膜11の透過率よりも僅かながら高い値となっているが、実質的に同一とみなせる特性を有している。そして、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図1(a)で示すように、IRパスフィルタ17の透過帯において、透過リップルが少なく平坦で、近赤外透過膜11、及び可視近赤外反射防止膜13よりも高透過である特性を作り出している。また、IRパスフィルタ17の阻止帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、近赤外透過膜11、及び可視近赤外反射防止膜13の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、IRパスフィルタ17総体としての透過特性が決定される。
同様に、可視近赤外透明基板10上に構成された近赤外遮蔽膜12単体が作り出す透過帯の透過特性は、図2(b)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。また同様に、可視近赤外透明基板10上に構成された可視近赤外反射防止膜13単体が作り出す透過帯の透過特性は、図2(c)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。これら2つの機能膜が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は図2(b)(c)に示すように、厳密には可視近赤外反射防止膜13の透過率の方が近赤外遮蔽膜12の透過率よりも僅かながら高い値となっているが、実質的に同一とみなせる特性を有している。そして、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図2(a)で示すように、IRカットフィルタ18の透過帯において、透過リップルが少なく平坦で、近赤外遮蔽膜12、及び可視近赤外反射防止膜13よりも高透過である特性を作り出している。また、IRカットフィルタ18の阻止帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、近赤外遮蔽膜12、及び可視近赤外反射防止膜13の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、IRカットフィルタ18総体としての透過特性が決定される。
また、本実施例のような監視カメラなどに用いられる撮像装置の場合、ノイズ成分に大変敏感であり、これらは画質に大きな影響を与える。従って、本実施例のフィルタのように、IRパスフィルタ17の阻止帯では透過を平均で1%以下、より好ましくは平均で0.1%以下に抑えつつ、透過帯では平均で80%以上、より好ましくは平均で90%以上の透過特性を有することが望ましい。同様に、IRカットフィルタ18も阻止帯では透過を平均で1%以下、より好ましくは平均で0.1%以下に抑えつつ、透過帯では平均で80%以上、より好ましく平均で90%以上の透過特性を有することが望ましい。
本実施例1における近赤外透過膜11、近赤外遮蔽膜12、及び可視近赤外反射防止膜13において、蒸着膜として構成された高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2の他に、高屈折率材料としてはNb2O5やZrO2、Ta2O5などが使用でき、低屈折率材用としてはMgF2などが使用可能である。また、設計上や成膜上の理由から中間屈折率材料であるAl2O3などを一部の層で使用することも可能であり、これらの材料に限らず、NiやW、Mo、Cu、Cr、Fe、Al、Mg、Ti、Si、Nb、Zr、Ta、In、Ag、Auなどの金属化合物でも良く、その時々で最適な材料の組合せを選択すれば良い。
以上のように作製された、IRパスフィルタ17の分光透過特性は図1(a)で示した設計値と、IRカットフィルタ18の分光透過特性は図2(a)で示した設計値と略同じ特性を得ることができた。これにより、入射光量が多い昼間撮影時などにおいてはIRカットフィルタ18の領域を用いることでノイズ成分となる近赤外波長域の透過を遮断することでカラー画像の高画質化を図ることができ、さらに入射光量が少ない夜間撮影時などにおいてはIRパスフィルタ17の領域を用いることでノイズ成分となる可視波長域の透過を遮断することで、暗視画像の高画質化を図ることができる光学フィルタを得ることができる。
また、近赤外透過膜11と近赤外遮蔽膜12の両方の透過帯において、反射防止効果を発現する可視近赤外反射防止膜13を構成することで、近赤外透過膜11と近赤外遮蔽膜12のそれぞれの機能膜に最適化された2種類の異なる反射防止膜を構成する必要がなくなる為、製造工程を簡易化することができ、光学フィルタの低コスト化を図ることができる。
以上より、IRパスフィルタ17とIRカットフィルタ18の2つの機能を合わせ持つ、高画質化と低コスト化を図ることが可能な光学フィルタ14を得ることができる。
(実施例2)
多層薄膜により構成された近赤外透過膜と近赤外遮蔽膜、及び近赤外反射防止膜に加え、可視波長を含む波長領域の光の透過を減衰するND膜を、1枚の可視近赤外波長透過基板の両面に分割配置し、図1、図4に示した分光透過特性を設計値とする光学フィルタを作製した実施例について、以下に詳しく記載する。
本実施例2の光学フィルタの可視近赤外透明基板20には、少なくても400〜1100nmの波長領域において、基板裏面側での反射成分を除いた入射光の殆どを透過する分光特性を有した厚さ0.4mmのB270iガラスを使用した。
そして、この可視近赤外透明基板20の一方の面上にIAD法により可視近赤外反射防止膜23を形成した後、可視近赤外透明基板20の表裏を変え、可視近赤外透明基板20のもう一方の面上の所定の領域に近赤外透過膜21をIAD法により形成し、さらに基板の同一面上の近赤外透過膜21を形成した領域とは異なる領域に近赤外遮蔽膜22をIAD法により形成した。これに加えて、近赤外遮蔽膜22上にND膜29を通常のEB蒸着法により形成した。以上のように、本実施例2における光学フィルタ24は、図5に示すような、可視近赤外透明基板20の片面側に近赤外透過膜21と近赤外遮蔽膜22を、可視近赤外透明基板20のもう一方の面に可視近赤外波長反射防止膜23を配置し、さらに近赤外遮蔽膜22上の一部領域にND膜29を配置する構成とした。
可視近赤外透明基板20上に形成された本実施例2の近赤外透過膜21は、図1(b)に示すように、可視波長領域の約400〜650nmの波長領域の光の殆どを遮断する透過阻止帯と、可視波長から近赤外波長領域にかけての約750〜1100nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの光を透過させた透過帯を有している。また、透過阻止帯と透過帯に挟まれた約650〜750nmの波長領域には、透過阻止帯から透過帯へ透過が連続的に変化する透過−阻止遷移領域を有している。さらには、透過−阻止遷移領域における透過率50%の波長をIR半値波長と定義し、この値を700nmとした。また、本実施例2における近赤外透過膜21は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した38層膜で構成されており、図5に示すように、この近赤外透過膜21の可視近赤外透明基板20直上の第1層には透過リップル低減機能を有する透過リップル調整層25aが配置されている。さらに、最表層となる第38層には、近赤外波長における透過帯での反射防止機能を有する1層で構成された近赤外反射防止構造26aが配置されている。透過リップル調整層25aは、近赤外透過膜21を構成する全ての膜厚の中で最も薄い膜厚となっており、また近赤外反射防止構造26aは反射防止帯となる波長域の中心波長である800〜1000nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
可視近赤外透明基板20上に形成された本実施例2の近赤外遮蔽膜22は、図4(b)に示すように、可視波長領域の約400〜600nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どを透過させた透過帯と、可視波長から近赤外波長領域にかけての約700〜1100nmの波長領域の光を遮蔽した透過阻止帯を有している。また、透過帯と透過阻止帯に挟まれた約600〜700nmの波長領域には、透過帯から透過阻止帯へ透過が連続的に変化する透過−阻止遷移領域を有している。さらには、透過−阻止遷移領域における透過率50%の波長をIR半値波長と定義し、この値を670nmとした。また、本実施例2における近赤外透過膜21は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した38層膜で構成されており、図5に示すように、この近赤外遮蔽膜22の可視近赤外透明基板20直上の第1層には透過リップル低減機能を有する透過リップル調整層25bが配置されている。さらに、最表層となる第38層には、近赤外波長における透過帯での反射防止機能を有する1層で構成された可視反射防止構造26bが配置されている。透過リップル調整層25bは、近赤外遮蔽膜22を構成する全ての膜厚の中で最も薄い膜厚となっており、また可視反射防止構造26bは反射防止帯となる波長域の中心波長である400〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
次に、近赤外遮蔽膜22上に、近赤外遮蔽膜22との干渉条件を調整する為の干渉条件調整層としてSiO2膜とTiO2膜をこの順に1層ずつ積層した後、誘電体層であるAl2O3と光吸収層であるTiOx(xは約1.0〜2.0)を交互に積層した8層を加え、さらに最表層には反射防止膜となる1層のMgF2膜を配置した全11層で構成されたND膜29を、特にアシストを付加しない通常のEB蒸着法により、図5に示すような配置構成となるように形成した。またND膜29のND濃度は約1.0となるように調整された。
ND膜29の最表層に配置された反射防止膜はMgF2に限らずSiO2膜でも良いし、IAD法により作製された1層のSiO2膜などであっても良い。さらには、例えば複数のSiO2膜とTiO2膜などで形成された多層膜構成であっても良い。ND膜29を構成する薄膜材料としては、本実施例2で形成された材料に限らず、SiO2やAl2O3などの誘電体層やこれらの酸価を変えたもの、NiやW、Mo、Cu、Cr、Fe、Al、Mg、Ti、Si、Nb、Zr、Ta、In、Ag、Auなどの金属単体、またはこれらの合金や金属化合物や、これらを混合させた層など、様々な材料を適宜選択することが可能である。
このように形成された本実施例2におけるND膜29は近赤外遮蔽膜22が形成するIR半値波長の670nmを含む、400〜1100nm、特に400〜700nmの可視波長領域全域の透過を減衰し、略均一な透過特性を有する光学特性となっている。従って、成膜誤差により長波長側、または短波長側に例えば10nm程度ND膜29の分光透過特性がシフトしたとしても、先のIR半値波長に与える影響は極めて小さく、基板の特性を合わせ形成されるNDIRフィルタとしてのNDIR半値波長にも殆ど影響を与えない。このように、ND膜29の光学特性を調整することで、NDIRフィルタ30総体として光学特性における高い再現性を得ることが可能となっている。
可視近赤外透明基板20上に形成された本実施例2の可視近赤外反射防止膜23は、図1(c)または図4(c)に示すように、可視波長から近赤外波長領域にかけての約400〜1100nmの波長領域の光における、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの反射を阻止した、つまりは殆どの光を透過させた透過帯を有した光学特性となっている。このように、近赤外透過膜21のIR半値波長である700nm、及び近赤外遮蔽膜22のIR半値波長である670nmにおいて、可視近赤外反射防止膜23は透過帯を形成することにより再現性を高めることができ、光学フィルタ総体としての高精度化を実現することができる。
また、本実施例2における可視近赤外反射防止膜23は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した12層膜で構成されており、特に反射防止機能に最も影響を与える最表層となる第12層は反射防止帯となる波長域の中心波長である600〜900nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
さらには、可視近赤外透明基板20上に構成された近赤外透過膜21単体が作り出す透過帯の透過特性は、図1(b)で示すように、透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。また同様に、可視近赤外透明基板20上に構成された可視近赤外反射防止膜23単体が作り出す透過帯の透過特性は、図1(c)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。これら2つの機能膜が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は図1(b)(c)に示すように、実質的に同一とみなせる特性を有している。そして、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図1(a)で示すように、IRパスフィルタ27の透過帯において、透過リップルが少なく平坦で、近赤外透過膜21、及び可視近赤外反射防止膜23よりも高透過である特性を作り出している。また、IRパスフィルタ27の阻止帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、近赤外透過膜21、及び可視近赤外反射防止膜23の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、IRパスフィルタ27総体としての透過特性が決定される。
同様に、可視近赤外透明基板20上に構成された近赤外遮蔽膜22単体が作り出す透過帯の透過特性は、図4(b)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。また同様に、可視近赤外透明基板20上に構成された可視近赤外反射防止膜23単体が作り出す透過帯の透過特性は、図4(c)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。さらには、近赤外遮蔽膜22上に構成されたND膜29単体が作り出す透過特性は図4(e)で示すように、可視波長から近赤外波長に掛けて透過リップが少ない平坦で実施的に一定である透過特性を有している。これら近赤外遮蔽膜22と可視近赤外反射防止膜23が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は図4(b)(c)に示すように、厳密には可視近赤外反射防止膜23の透過率の方が近赤外遮蔽膜22の透過率よりも僅かながら高い値となっているが、実質的に同一とみなせる特性を有している。そして、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図4(a)で示すように、IRカットフィルタ28の透過帯において、透過リップルが少なく平坦で、近赤外遮蔽膜22、及び可視近赤外反射防止膜23よりも高い透過特性を作り出している。また、IRカットフィルタ28の阻止帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、近赤外遮蔽膜22、及び可視近赤外反射防止膜23の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、IRカットフィルタ28総体としての透過特性が決定される。さらに、近赤外遮蔽膜22と可視近赤外反射防止膜23に加え、ND膜29が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は図4(b)(c)(f)に示すように、透過リップルが少なく平坦なそれぞれの透過特性を合成することで、図4(e)で示すように、NDIRフィルタ30の透過帯において、透過リップルが少なく平坦な透過特性を作り出している。
本実施例のようにIRパスフィルタ27の阻止帯では透過を平均で1%以下、より好ましくは平均で0.1%以下に抑えつつ、透過帯では平均で80%以上、より好ましくは平均で90%以上の透過特性を有することが望ましい。同様に、IRカットフィルタ28も本実施例のフィルタのように阻止帯では透過を平均で1%以下、より好ましくは平均で0.1%以下に抑えつつ、透過帯では平均で80%以上、より好ましく平均で90%以上の透過特性を有することが望ましい。さらに同様に、NDIRフィルタ30も本実施例のフィルタのように阻止帯では透過を平均で1%以下、より好ましくは平均で0.1%以下に抑えた特性を有することが望ましい。
以上のように作製された、IRパスフィルタ27の分光透過特性は図1(a)で示した設計値と、IRカットフィルタ28の分光透過特性は図4(a)で示した設計値と、NDIRフィルタ30の分光透過特性は図4(e)で示した設計値と略同じ特性を得ることができた。
これにより、入射光量が多い昼間撮影時などにおいては、図5におけるIRカットフィルタ28の領域を用い、さらには特に入射光量が多い撮影環境時には図5におけるNDIRフィルタ30の領域を用いることで、ノイズ成分となる近赤外波長域の透過を遮断することでカラー画像の高画質化を図ることができる。これに加え、入射光量が少ない夜間撮影時などにおいてはIRパスフィルタ27の領域を用いることでノイズ成分となる可視波長域の透過を遮断することで、暗視画像の高画質化を図ることができる光学フィルタを得ることができる。
また、近赤外透過膜21と近赤外遮蔽膜22の両方の透過帯において、反射防止効果を発現する可視近赤外反射防止膜23を構成することで、近赤外透過膜21と近赤外遮蔽膜22のそれぞれに最適化された2種類の異なる反射防止膜を構成する必要がなくなる為、製造工程を簡易化することができフィルタの低コスト化を図ることができる。
以上より、IRパスフィルタ27とIRカットフィルタ28、NDIRフィルタ30の3つの機能を合わせ持つ、高画質化と低コスト化を図ることが可能な光学フィルタ24を得ることができる。
(実施例3)
本実施例1、及び本実施例2で作製されたような、IRパスフィルタとIRカットフィルタの2つの機能を有する光学フィルタの他の構成例について説明する。
本実施例1、及び本実施例2で説明した、図1、図4で示したような、撮像素子の感度特性や、光学系での配置位置などの様々な要素から決定される、調整が必要な近赤外波長領域全域の光の殆どを透過させるエッジフィルタタイプの光学特性とは異なるIRパスフィルタとすることも可能である。
つまりは、調整が必要な近赤外波長領域の特定波長領域のみの光を透過させる、バンドパスタイプのIRパスフィルタとすることでも、本実施例1、2で作製した光学フィルタと同様の効果を持つフィルタを形成することが可能である。例えば、図1(b)における近赤外透過膜の透過帯の透過特性を、800〜900nmの波長領域のみを100%に近い値で透過させ、950〜1100nmの波長領域の透過を遮断し、その他の波長領域は図1(b)と同様な特性とする。そして、近赤外反射防止膜の光学特性を図1(c)と同様とする。以上より、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで作製される、透過帯において透過リップルが少なく平坦で、非常に高い透過特性を有するIRパスフィルタを、近赤外波長領域における800〜900nmの特定領域のみ光を透過させるバンドパスタイプとして形成することができる。このようなバンドパスタイプの透過特性は、近赤外透過膜を構成している複数層の薄膜の膜厚や層数、薄膜材料などを調整することで得ることができる。同様に800〜1000nmや750〜850nmなど、意図する様々な波長領域のみを透過させるバンドパスタイプのIRパスフィルタを形成することが可能である。
他の例として、本実施例1、及び本実施例2では近赤外透過膜や近赤外遮蔽膜、可視近赤外反射防止膜、ND膜の最表層に配置された反射防止構造を1層の薄膜構成としたが、複数層で構成することも可能である。このような構成を取ることにより、前述の各機能膜がそれぞれで必要としている波長領域における、光の反射をより低減することが可能となる場合がある。
また、本実施例2で記載した図5のNDIRフィルタ30について、近赤外遮蔽膜22とND膜29の積層順を反対に構成することも可能である。この場合、IRカットフィルタ28の作製と合わせて、近赤外遮蔽膜22とND膜29の基板面上の成膜領域は維持したまま、近赤外遮蔽膜22とND膜29の成膜の順番を変更し、更には積層順が反対になったことから生じる近赤外遮蔽膜22とND膜29との干渉条件のズレ分を修正する為に、ND膜29を形成する多層薄膜の積層構成を調整することで、本実施例2と略同じ特性、効果を有する光学フィルタを得ることができる。ここで、このような構成であれば、ND膜29の基板面上の成膜領域を少しずらして、ND膜29の断面を含む全体を近赤外遮蔽膜22で覆うように形成することも可能であり、例えばNDIRフィルタ30としての耐環境性が改善したり、耐摩耗性が改善したりするなどの第3の効果を得ることができる場合がある。
さらに別の構成例として、近赤外遮蔽膜のIRカット機能に加え、紫外波長域の光遮蔽機能を付加することで、IRカットフィルタをUVIRカットフィルタとすることも可能である。
以上のような、バンドパスタイプのIRパスフィルタや、各機能膜の最表層に形成された複数層で構成された反射防止膜、UVIRカットフィルタなどを、組み合わせて、IRパスフィルタとIRカットフィルタの2つの機能を有する光学フィルタを構成することも可能である。
(実施例4)
本実施例1〜3で作製した光学フィルタを備えるビデオカメラ等の撮像装置に適用した実施例について図6を用いて説明する。
図6(a)は、ビデオカメラなどの撮像装置で、絞り羽根49などで構成された撮像光学系47を透過した光線を、光学フィルタ挿入位置40に配置された光学フィルタにより固体撮像素子48の特性に合わせて調整し、適正な画像を得るような構成となっている。
例えば、図6の構成において、本実施例1〜3で作製されたIRパスフィルタとIRカットフィルタの2つの機能を有する光学フィルタを撮像装置内の所定の位置に配置しておき、光学フィルタ挿入位置40にIRパスフィルタまたはIRカットフィルタの機能を発現する位置となるように光学フィルタを移動させることで、撮影状況に応じて適切なフィルタを選択し、撮影を行うことが可能である。例えば図6の構成において光学フィルタA44を用いて、撮像光学系47を透過して撮像素子47に結像した光量等を判断して、光学フィルタ挿入位置40にIRパスフィルタ41、またはIRカットフィルタ42のどちらか一方のフィルタ領域を配置させる。入射した光量が通常の撮影に十分な量であるときは、IRカットフィルタ42を光学フィルタ挿入位置40に配置させることでカラー画像を形成し、逆に光量が不十分であるときはIRパスフィルタ41を光学フィルタ挿入位置40に配置させることで暗視画像を形成する。
これにより作製された撮像装置は、入射光量が多い昼間の撮影時にはIRカットフィルタにより近赤外波長のノイズ成分を除去し、入射光量が少ない夜間の撮影時にはIRパスフィルタにより可視波長のノイズ成分を除去することが可能となり、撮影画像の高画質化が図られる。
また、光学フィルタA44に変え、IRパスフィルタ41と、可視波長領域の光量を減衰させるNDフィルタの機能とIRカットフィルタの機能とを合成した光学特性を有するNDIRフィルタ43の機能を有する光学フィルタB45を用いることも可能である。このようなNDIRフィルタ43は、例えば図4(e)で示すように、可視波長領域の光を減衰し、近赤外波長領域の光を遮蔽する透過特性を有している。このような構成とすることで、入射した光量が通常の撮影に十分な量であるときは、NDIRフィルタ43を光学フィルタ挿入位置40に配置させカラー画像を形成し、逆に光量が不十分であるときはIRパスフィルタ41を光学フィルタ挿入位置40に配置させ暗視画像を形成する。
さらには、IRパスフィルタ41とIRカットフィルタ42の機能に加え、NDIRフィルタ43の3種類の機能を有する光学フィルタC46を用いることも可能である。IRカットフィルタ41とIRパスフィルタ42に加え、可視波長領域の光量を減衰させるNDIRフィルタ43の3種の機能を有したフィルタを用いることで、入射光量が特に多いスチエーションではNDIRフィルタ43を光学フィルタ挿入位置40に配置させ、入射光量が通常の撮影に十分な量であるときは、IRカットフィルタ42を光学フィルタ挿入位置40に配置させカラー画像を形成し、逆に光量が不十分であるときはIRパスフィルタ41を光学フィルタ挿入位置40に配置させ暗視画像を形成する。このような構成とすることで、様々な撮影スチエーションにおいて高画質化を図ることが可能な撮像装置を実現することができる。
また、本実施例の光学装置に限らず、他の光学装置であっても、実施例1〜3で作製されたようなIRパスフィルタとIRカットフィルタの機能を1枚の基板上に有する光学フィルタを用いることで、様々な撮影スチエーションにおいて高画質化を図ることが可能な撮像装置を実現することができる。
以上のように、本実施例4の構成であれば、昼間撮影または夜間撮影の異なる撮影環境下で用いる、IRカットフィルタ41とIRパスフィルタ42を1枚の基板上に形成したことにより、それぞれを別フィルタとして個別に形成し、光学フィルタを複数枚設けた場合の装置構成と比較し、フィルタを駆動する為の駆動機構の点数を削減することでき、装置全体としてのコストの低減を図ることができる。
(実施例5)UVPF
多層薄膜により構成された近紫外透過膜と近紫外遮蔽膜、及び可視近紫外反射防止膜とを、1枚の可視近紫外波長透明基板の両面に分割配置し、図7、図8に示した分光透過特性を設計値とする光学フィルタを作製した実施例について、以下に詳しく記載する。
図9に示したような本実施例5の光学フィルタの可視近紫外透明基板50には、少なくても350〜600nmの波長領域において、基板裏面側での反射成分を除いた入射光の殆どを透過する分光特性を有した厚さ0.4mmのD263Tecoガラスを使用した。
そして、この可視近紫外透明基板50の一方の面上にIAD法により可視近紫外反射防止膜53を形成した後、可視近紫外透明基板50の表裏を変え、可視近紫外透明基板50のもう一方の面上の所定の領域に近紫外透過膜51をIAD法により形成し、さらに基板の同一面上の近紫外透過膜51を形成した領域とは異なる領域に近紫外遮蔽膜52をIAD法により形成した。先に可視近紫外反射防止膜53を形成したのは、近紫外透過膜51や近紫外遮蔽膜52よりも膜厚が薄く、膜応力が低い為、基板の反りに起因した成膜時の基板位置により成膜誤差の影響を小さくする理由からである。以上のように、本実施例5における光学フィルタ54は、図9に示すような、可視近紫外透明基板50の片面側に近紫外透過膜51と近紫外遮蔽膜52を、これと対峙する可視近紫外透明基板50のもう一方の面上に可視近紫外反射防止膜53を配置する構成とした。
可視近紫外透明基板50上に形成された本実施例5の近紫外透過膜51は、図7(b)に示すように、可視波長領域の約400〜500nmの波長領域の光の殆どを遮断する透過阻止帯と、可視波長から近紫外波長領域にかけての約350〜377nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの光を透過させた透過帯を有している。また、透過阻止帯と透過帯に挟まれた約380〜395nmの波長領域には、透過阻止帯から透過帯へ透過が連続的に変化する透過−阻止遷移領域を有している。さらには、透過−阻止遷移領域における透過率50%の波長をUV半値波長と定義し、この値を382nmとした。また、本実施例5における近紫外透過膜51は高屈折率材料であるLa2Ti2O7と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した38層膜で構成されており、図9に示すように、この近紫外透過膜51の可視近紫外透明基板50直上の第1層には透過リップル低減機能を有する透過リップル調整層55aが配置されている。さらに、最表層となる第38層には、近紫外波長における透過帯での反射防止機能を有する1層で構成された近紫外反射防止構造56aが配置されている。透過リップル調整層55aは、近紫外透過膜51を構成する全ての膜厚の中で最も薄い膜厚となっており、また近紫外反射防止構造56aは反射防止帯となる波長域の中心波長である330〜380nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
可視近紫外透明基板50上に形成された本実施例5の近紫外遮蔽膜52は、図8(b)に示すように、可視波長領域の約430〜600nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どを透過させた透過帯と、可視波長から近紫外波長領域にかけての約350〜400nmの波長領域の光を遮蔽した透過阻止帯を有している。また、透過帯と透過阻止帯に挟まれた約400〜430nmの波長領域には、透過帯から透過阻止帯へ透過が連続的に変化する透過−阻止遷移領域を有している。さらには、透過−阻止遷移領域における透過率50%の波長をUV半値波長と定義し、この値を415nmとした。また、本実施例5における近紫外遮蔽膜52は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した38層膜で構成されており、図9に示すように、この近紫外遮蔽膜52の可視近紫外透明基板50直上の第1層には透過リップル低減機能を有する透過リップル調整層55bが配置されている。さらに、最表層となる第38層には、近紫外波長における透過帯での反射防止機能を有する1層で構成された可視反射防止構造56bが配置されている。透過リップル調整層55bは、近紫外遮蔽膜52を構成する全ての膜厚の中で最も薄い膜厚となっており、また可視反射防止構造56bは反射防止帯となる波長域の中心波長である400〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
可視近紫外透明基板50上に形成された本実施例5の可視近紫外反射防止膜53は、図7(c)または図8(c)に示すように、可視波長から近紫外波長領域にかけての約350〜600nmの波長領域の光における、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの反射を阻止した、つまりは殆どの光を透過させた透過帯を有した光学特性となっている。このように、近紫外透過膜51のUV半値波長である382nm、及び近紫外遮蔽膜52のUV半値波長である415nmにおいて、可視近紫外反射防止膜53は透過帯を形成しており、成膜誤差等により近紫外透過膜51や近紫外遮蔽膜52の光学特性が例えば10nm程度短波長側や長波長側へシフトとしたとしても、可視近紫外反射防止膜53はそれぞれのUV半値波長において透過帯を維持できる。従って、以上のような構成設計とすることにより、可視近紫外反射防止膜53形成時の成膜誤差により可視近紫外反射防止膜53の光学特性が変化したとしても、可視近紫外透明基板50を含んで形成されるUVパスフィルタ57またはUVカットフィルタ58の各UV半値波長に与える影響は極めて小さく、近紫外透過膜51または近紫外遮蔽膜52の誤差のみで、UVパスフィルタ57またはUVカットフィルタ58の透過−阻止遷移領域が決まる為、より再現性を高めることができ、光学フィルタ54総体としての高精度化を実現することができる。
また、本実施例5における可視近紫外反射防止膜53は高屈折率材料であるLa2Ti2O7と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層した4層膜で構成されており、特に反射防止機能に最も影響を与える最表層となる第4層は反射防止帯となる波長域の中心波長である350〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
さらには、可視近紫外透明基板50上に構成された近紫外透過膜51単体が作り出す透過帯の透過特性は、図7(b)で示すように、透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。また同様に、可視近紫外透明基板50上に構成された可視近紫外反射防止膜53単体が作り出す透過帯の透過特性は、図7(c)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。これら2つの機能膜が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は図7(b)(c)に示すように、厳密には可視近紫外反射防止膜53の透過率の方が近紫外透過膜51の透過率よりも僅かながら高い値となっているが、実質的に同一とみなせる特性を有している。そして、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図7(a)で示すように、UVパスフィルタ57の透過帯において、透過リップルが少なく平坦で、近紫外透過膜51、及び可視近紫外反射防止膜53よりも高透過である特性を作り出している。また、UVパスフィルタ57の阻止帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、近紫外透過膜51、及び可視近紫外反射防止膜53の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、UVパスフィルタ57総体としての透過特性が決定される。
同様に、可視近紫外透明基板50上に構成された近紫外遮蔽膜52単体が作り出す透過帯の透過特性は、図8(b)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。また同様に、可視近紫外透明基板50上に構成された可視近紫外反射防止膜53単体が作り出す透過帯の透過特性は、図8(c)で示すように透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。これら2つの機能膜が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は図8(b)(c)に示すように、厳密には可視近紫外反射防止膜53の透過率の方が近紫外遮蔽膜52の透過率よりも僅かながら高い値となっているが、実質的に同一とみなせる特性を有している。そして、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図8(a)で示すように、UVカットフィルタ58の透過帯において、透過リップルが少なく平坦で、近紫外遮蔽膜52、及び可視近紫外反射防止膜53よりも高透過である特性を作り出している。また、UVカットフィルタ58の阻止帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、近紫外遮蔽膜52、及び可視近紫外反射防止膜53の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、UVカットフィルタ58総体としての透過特性が決定される。
また、本実施例のような紙幣識別センサなどに用いられる光学センサの場合、ノイズ成分に大変敏感であり、これらはセンシング精度に大きな影響を与える。従って、本実施例のフィルタのように、UVパスフィルタ57の阻止帯では透過を1%以下、より好ましくは0.1%以下に抑えつつ、透過帯では80%以上、より好ましくは90%以上の透過特性を有することが望ましい。同様に、UVカットフィルタ58も阻止帯では透過を1%以下、より好ましくは0.1%以下に抑えつつ、透過帯では80%以上、より好ましく90%以上の透過特性を有することが望ましい。
本実施例5における近紫外透過膜51、近紫外遮蔽膜52、及び可視近紫外反射防止膜53において、蒸着膜として構成された高屈折率材料であるLa2Ti2O7やTiO2と低屈折率材料であるSiO2の他に、高屈折率材料としてはNb2O5やZrO2、Ta2O5などが使用でき、低屈折率材用としてはMgF2などが使用可能である。また、設計上や成膜上の理由から中間屈折率材料であるAl2O3などを一部の層で使用することも可能であり、これらの材料に限らず、NiやW、Mo、Cu、Cr、Fe、Al、Mg、Ti、Si、Nb、Zr、Ta、In、Ag、Auなどの金属化合物でも良く、その時々で最適な材料の組合せを選択すれば良い。
以上のように作製された、UVパスフィルタ57の分光透過特性は図7(a)で示した設計値と、UVカットフィルタ58の分光透過特性は図8(a)で示した設計値と略同じ特性を得ることができた。これにより、紙幣識別センサなどでは、UVパスフィルタ57の領域を用いることでUV光の出射時にノイズ成分となる可視波長域の透過を遮断し、さらに蛍光を受光する際にノイズ成分となる近紫外波長の透過を遮断することで、センシング精度の向上を図ることができる光学フィルタを得ることができる。
また、近紫外透過膜51と近紫外遮蔽膜52の両方の透過帯において、反射防止効果を発現する可視近紫外反射防止膜53を構成することで、近紫外透過膜51と近紫外遮蔽膜52のそれぞれの機能膜に最適化された2種類の異なる反射防止膜を構成する必要がなくなる為、製造工程を簡易化することができ、光学フィルタの低コスト化を図ることができる。
以上より、UVパスフィルタ57とUVカットフィルタ58の2つの機能を合わせ持つ、高画質化と低コスト化を図ることが可能な光学フィルタ54を得ることができる。
さらには、本実施例5ではエッジタイプのUVパスフィルタ57とUVカットフィルタ58を作製したが、同様の作成方法により、積層膜の種類や膜厚、層数などを調整することで、バンドパスタイプのUVパスフィルタ57やUVカットフィルタ58を作製することも可能である。
これにより、ノイズ成分となる可視波長域の透過を遮断し、所定の近紫外波長領域の光を今まで以上に効率良く活用することを可能とした、高精度化を図ることができる光学フィルタを得ることができる。
(実施例6)紙幣識別センサ
本実施例5で作製した光学フィルタを備える紙幣識別センサ用の光学センサに適用した実施例について図10を用いて説明する。
図10は紙幣の偽造を防止する為の紙幣識別センサの概略構成図であり、60は投光部、61は受光部、62はUVパスフィルタ、63はUVカットフィルタ、64は紙幣などの被測定物、65はUVパスフィルタ62とUVカットフィルタ63が一体的に構成された光学フィルタである。
LEDライトにより構成された投光部60から照射されたUV光が光学フィルタ65の一部であるUVパスフィルタ62を通過することで可視光のノイズ成分がカットされる。その後、被測定物64に印刷された蛍光塗料に入射した光は、蛍光現象により可視波長に波長変換されて再出射し、蛍光成分のみを受光させる為にノイズ成分となるUV光をカットする為のUVカットフィルタ63を介して、受光部61に到達する。
紙幣識別センサなどの光学センサは、測定光出射時、及び受光時のノイズ成分に大変敏感であり、これらはセンシング精度に大きな影響を与える。従って、UVパスフィルタ62の阻止帯では透過を1%以下、望ましくは0.1%以下に抑えつつ、透過帯では80%以上、望ましくは90%以上の透過特性を必要とする。同様に、UVカットフィルタ63も阻止帯では透過を1%以下、望ましくは0.1%以下に抑えつつ、透過帯では80%以上、望ましくは90%以上の透過特性が必要とされる。
以上より、光学フィルタ65として、本実施例5で作製された光学フィルタを用いることで、より高精度化が図られた光学センサを得ることができる。また、本実施例の構成に限らず、他の装置や光学センサに本実施例5の光学フィルタを用いることで、高精度化を図ることができる。