本実施例の光学フィルタは、基板上に、所定の波長領域における光の透過を遮断し、隣接する他の所定の波長領域の光を透過させるバンドパスフィルタタイプの機能膜を備え、さらには、金属微粒子を分散させ、機能膜が作る透過―不透過遷移波長領域にプラズモン効果による吸収ピークを有した遷移波長吸収層を備えた光学フィルタである。
このような光学フィルタの基板としては、少なくても光学フィルタの透過波長領域において光透過性を有することが必要であり、例えばUVIRカットフィルタならば、少なくても可視波長領域に光透過性を有し、IRパスフィルタならば近赤外線波長領域に光透過性を有したものを用いる。また、基板はガラスタイプや樹脂タイプ、さらには有機無機のハイブリッドタイプでも良く、光学フィルタの基板としての必要とされる強度や光学特性を有する、基体として機能可能であるものが利用される。
基板上に形成されるUVIRカット膜などのバンドパスフィルタタイプの機能膜は、1層以上の薄膜を積層することにより作製され、これらの薄膜は物理的、若しくは化学的成膜方法で形成しても良いし、スピンコートなどの塗装法で形成しても良い。これらの成膜方法の中で、再現性や膜の耐環境性などの観点からは、スパッタ法や、何らかのアシストを付加した成膜方法など、比較的高エネルギーで膜を形成できるプロセスが好ましい。より具体的にはスパッタ法、IAD法、イオンプレーティング法、IBS法、クラスター蒸着法などが適用可能であり、膜厚を比較的正確に制御でき、再現性の高い膜を得ることができる成膜方法であればよく、機能膜に求められる特性や生産性等を考慮し、最適な方法を選択すれば良い。
これらの機能膜の最表層に配置される薄膜は透過帯の中心波長、例えば400〜600nmの透過帯を有する機能膜ならば透過帯の中心波長である波長500nmの1.0qw程度の膜厚であることが好ましい。ここで、qwは膜厚を表す単位であり、1つの波長λを基準として、λ/4を1つの単位としたものであり、例えば 2.0×λ/4 の膜厚の場合は2.0qwと表現する。
このような機能膜の透過帯においては、理想的には全域で100%を透過することが望ましいが、実際にはこれを完璧に満足することは大変困難であり、透過帯の全波長域で可能な限り100%に近い透過率を得られるように調整される。このような透過率を実現する為に本実施例では、透過帯での透過率を最大化すると共に、基板裏面に反射防止膜などの他の機能膜を設けた場合には、この他の機能膜が形成する透過帯での透過率も最大化し、これらの2つの透過特性を合成することで、光学フィルタ総体としての透過帯の透過率を最大化する構成とした。
ここで、透過帯における透過率は、波長が連続的に変化するにつれ、少なからず波打つように変化しており、これは透過帯のリップル(透過リップル)などと呼ばれ、薄膜の積層数が多く、厚膜化するほど発生し易い。この透過リップルが大きくなると、例えばカラー画像のカラーバランスが崩れたり、監視カメラなどにおいては、夜間撮影時などに撮像素子に入射する総合的な光量が低減し、暗視画像の画質低下を引き起こす虞がある為、リップルは可能な限り小さい方が望ましい。そこで、この透過帯でのリップルを低減する為に、基板側に配置された機能膜の初期層にリップルを低減する為の透過リップル調整層を挿入した。バンドパスなどの機能膜に加え、反射防止膜などの他の機能膜を構成した場合、光学フィルタ総体としての透過リップルは、機能膜の透過帯での透過リップルと、他の機能膜での透過リップルとの合成により決定されるが、本発明においては、機能膜での透過リップルが少ない平坦な透過特性を有し、さらに他の機能膜においても透過リップルが少ない平坦な透過特性を有するように構成されており、これらの平坦な2つの透過特性を合成することで、光学フィルタ総体として透過リップルの少ない平坦な透過特性を形成している。これとは別に、例えば、機能膜における透過リップルに対し、他の機能膜の透過リップルの位相を調整し、両面でリップルを打ち消し合うように構成することでも、光学フィルタ総体として透過リップルの少ない平坦な透過特性を得ることが可能ではあるが、それぞれの位相関係に誤差が生じた場合には逆に透過リップルを増大させてしまう虞がある為、高画質化の観点から本実施例では先の構成を選択した。
また、透過リップル調整層の挿入位置が、機能膜の最表層の位置であると、最表層における透過帯での反射防止機能への影響が大きくなる為、透過帯の反射の最小化、つまりは透過帯の透過の最大化と、リップル低減とを同時に満足することが難しくなってしまう。また、機能膜内の途中層に挿入した場合、機能膜を分割してしまうような配置となり、不透過帯での反射の最大化を阻害してしまい、これと同時にリップルを低減することが難しくなってしまう。以上の理由から、透過リップル調整層は、基板と隣接する機能膜の第1層目に配置し、透過帯の透過の最大化と、不透過帯の透過の最小化を優先し、次に透過リップルの低減を優先するコンセプトで最適化された。このような透過リップル調整層は機能膜を形成する複数の薄膜の中で最も膜厚が薄い特徴を有している。透過リップル調整層は2層以上であっても良いが、その場合も、全ての透過リップル調整層は機能膜を形成する複数の薄膜よりも膜厚が薄くなる。
本実施例の光学フィルタにおける遷移波長領域吸収構造体は、数nmから〜数百nmサイズの多数の金属微粒子が分散配置された構造体である。ここで、分散された金属微粒子の金属材料やサイズ、形状、粒子間距離、周期性、微粒子配列などの様々な要因から、プラズモンの共鳴波長が決定される。この共鳴波長ではプラズモン効果による光の吸収作用が発現され、例えば100nm以下程度のAuパーティクルの場合、500〜700nm付近の波長に局所的な吸収ピークを得ることができる。このように、先のパラメータを適切に設定することで、所望の波長領域に選択的に吸収を得ることが可能である。また、粒子間距離を小さくし過ぎて微粒子濃度を高めてしまうと、反射成分が高くなり、必要な透過まで減少させてしまう虞がある為、微粒子のサイズに対し、適切な微粒子間距離を保つことが必要である。
遷移波長領域吸収構造体の厚さは、最小でも金属微粒子のサイズ以上となるが、塗工方法によって厚膜化にも対応することができる。また、形成手法によっては複層化も可能である。さらに、基板の一方の面上のみに配置構成することもできるし、基板の両面上に配置構成することも可能である。
このような金属微粒子の金属材料としてはAu、Ag、Cu、Alなどに加え、Mg、Ti、Nb、Zr、Ni、Fe、Cr、Pt、W、Mo、Taなど、金属単体やこれらの合金など、特に制限はなく、様々な材料を使うことができる。さらには、金属微粒子の外形形状は球体や円柱形状、ロッド形状、三角錐形状、四角形状など、多種多様な形状から適切な形状を選択することができる。この中で、UVIRカットフィルタ、IRパスフィルタなど、可視波長から近赤外波長において遷移波長領域を有する光学フィルタの場合、必要な波長領域に共鳴波長を有し、比較的入手し易いなど理由から、球体や円柱形状、ロッド形状のAuが特に望ましい。
本実施例の光学フィルタでは2つの異なる透過−不透過遷移波長領域のそれぞれにおいて吸収ピークを有する構成とする為、サイズや金属材料などが異なる2つの遷移波長領域吸収構造体を配置しても良いし、サイズや金属材料などが異なる2種類の金属微粒子を混合させて1つの遷移波長領域吸収構造体を形成しても良い。さらには、例えば長軸側と短軸側に2つのプラズモン共鳴波長が存在するロッド形状や長方形状を有する金属微粒子を用いることで、1つの遷移波長領域吸収構造体で2つの異なる吸収ピークを有する構成としても良い。
遷移波長領域吸収構造体の形成方法としては、主にフォトリソグラフィー法を用いた方法や、陽極酸化やナノインプリントを用いた手法、バインダや溶剤を介したディッピング法やスピンコート法に加え、スクリーン印刷やグラビア印刷などの印刷法など、様々な手法を用いることが可能であり、構造体に求められる特性や生産性等を考慮し、最適な作製方法を適宜で選択すれば良い。
所定の波長領域を吸収する吸収構造体として色素を利用したものなどがあるが、色素は紫外線等に大変弱い為、著しく耐環境性に劣る問題がある。これらの構造体と比較し、本発明の金属微粒子のプラズモン効果による吸収を利用した構造体であれば、優れた環境性を得ることができ、例えば監視カメラなど、特に厳しい耐環境性が必要とされる光学機器に使用される光学フィルタでも好適に利用することが可能である。
本実施例のバンドパスフィルタタイプの光学フィルタを構成する機能膜は、透過帯から不透過帯へ亘り、透過が連続的に減少する透過―不透過遷移波長領域を有しており、この透過―不透過遷移波長領域における透過率50%の波長を半値波長と呼ぶ。例えばUVIRカットフィルタでは可視波長領域と近赤外波長領域の間の透過―不透過遷移波長領域にIR側の半値波長を有し、さらには可視波長領域と近紫外波長領域の間の透過―不透過遷移波長領域にUV側の半値波長を有する。
入射光のうち、光学フィルタを透過した後に撮像素子等で反射し、その一部が再度撮像素子側から光学フィルタ面に入射し、この再入射光の一部が再度光学フィルタで反射され、撮像素子に再到達し発生するような不要光の強度は、簡易的には(機能膜の分光透過率)×(機能膜の分光反射率)で計算された値が目安となる。従って、透過または反射のどちらか一方が極めて小さい値をとる透過帯と不透過帯では不要光の強度は極めて小さい値となる。一方で、機能膜において吸収が発生しない理想的な状態を仮定した場合、前記した半値波長における不要光の強度は、透過率50%、反射率50%から25%となり、最大となる。また、機能膜に吸収がある場合は、透過帯の透過率の平均値の半分程度の波長を半値波長と仮定することで、同様に半値波長付近での不要光強度が最大値となる。以上のように、機能膜のおける不要光の強度は半値波長で最大となるので、遷移波長領域吸収構造体のプラズモン効果による吸収ピークを半値波長前後に調整することで、前述の不要光強度を大幅に低減することが可能となる。逆に、半値波長付近で十分な吸収を得ることができない構成の場合には、不要光の強度を十分に低減することは極めて難しい。
また、遷移波長領域吸収構造体の吸収スペクトルがブロードな特性を有していると、本来必要とする透過波長領域の光も大きく吸収してしまうため、吸収構造体の吸収スペクトルは、半値波長付近に吸収ピークを有した、吸収波長領域が小さい急峻なスペクトルが好ましい。さらには、同様の理由から、透過波長領域側よりは不透過波長領域側に吸収量が多くなるように配置される方が好ましい場合がある。以上より、遷移波長領域吸収構造体ではプラズモンによる共鳴波長でのQ値を高める為、金属微粒子のサイズが一定であり、さらには周期性が高い構造とすることがより望ましい。
以上のような理由から、透過―不透過遷移波長領域における遷移波長領域吸収構造体の吸収スペクトルは、透過―不透過遷移波長領域よりも狭い波長域で吸収帯を有することが望ましい。また、透過―不透過遷移波長領域における遷移波長領域吸収構造体の吸収スペクトルが、透過―不透過遷移波長領域よりも広い場合は、吸収ピーク波長を不透過領域側に寄せて、透過帯の透過を最大化できる構成とすることが望ましい。このように、吸収層による透過波長領域の透過光量の減衰を低減することで、高画質化を図ることが可能である。
以上のような本発明の光学フィルタを監視カメラ等の撮影装置に使用することにより、高精度化を図ることが可能となる。
以下、本発明の光学フィルタ、及び撮像装置について実施例に基づき詳細を具体的に説明する。
(実施例1)
透明基板の一方の面上に、金属微粒子を分散配置した遷移波長領域吸収構造体と、多層薄膜により構成された可視波長領域の所定の波長領域のみの光を透過する紫外近赤外遮蔽膜を形成し、基板のもう一方の面に第2の遷移波長領域吸収構造体と多層薄膜により構成された反射防止膜を形成した、図1に示した光学フィルタを作製した実施例について、以下に詳しく記載する。
図1は、少なくとも紫外と近赤外波長領域の所定の波長領域における光の透過を制限するバンドパスフィルタとして機能する実施例1の光学フィルタ15の構成図を示している。このような本実施例1の光学フィルタ15の基板10には、少なくても可視波長領域において透明性を有した厚さ0.4mmのB270iガラスを使用した。ここで、本実施例1においてはB270iガラスを使用したが、光学フィルタとしての透過波長領域において透明性を有するものであれば特に制限は無く、この他のガラス材料を使用することも可能であるし、樹脂系の基板や、無機有機ハイブリッド基板を用いることも可能である。樹脂系基板の場合、オレフィン系やポリイミド系、PET、PEN、ポリエステル系、アクリル系、アラミド系、PC(ポリカーボネート)、アセテート、ポリ塩化ビニル、PVA(ポリビニルアルコール)等も好適な材料の1つである。更には、100μm以下の厚さの各種の樹脂フィルムを用いることも可能である。
最初に、十分な洗浄と乾燥を行った基板10の一方の面上に、金属微粒子を分散させた遷移波長領域吸収構造体11を形成した。金属微粒子には直径10nmの球体形状のAu微粒子を用い、この微粒子を吸収構造体内に分散配置した構成とした。その後、基板10の表裏を変え、直径100nmの円柱形状のAu微粒子を分散させた第2の遷移波長領域吸収構造体13を形成した。この2つの遷移波長領域吸収構造体の作製方法としては、ディッピング法とフォトリソグラフィー法を用いた。
最初に、十分な洗浄と乾燥を行った基板10の一方の面上に、金属微粒子を分散させた遷移波長領域吸収構造体11を形成した。金属微粒子には直径10nmの球体形状のAu微粒子を用い、この微粒子を遷移波長吸収構造体内に分散配置した構成とした。この遷移波長領域吸収構造体11の作製方法としては、ディッピング法を用いた。遷移波長領域吸収構造体11の膜厚は金属微粒子の直径サイズに相当となるように、分散液や形成プロセスを調整した。
まず、無数のAu微粒子を含有させた分散液を作製した。次に、この分散液中に一方の面上に膜の形成を防止する目的のマスクを施した基板10全体を浸漬させた後、所定の条件で液中から引き上げた状態で一定時間保持し、乾燥工程とマスクの剥離工程を経て遷移波長領域吸収構造体11を作製した。また、マスク処理を行わなければ、このようなディッピングプロセスで、基板10の両面に同時に遷移波長領域吸収構造体21を作製することもできる。ここで、混合するバインダや溶剤によって、極薄膜も作製可能であるし、厚膜化に対応することも可能であり、金属微粒子を比較的規則正しく、周期的に配置させることもできる。
その後、基板10の表裏を反転させ、基板10のもう一方の面上に約100nmの一定膜厚でAu薄膜を蒸着した。その後、リソグラフィー用のレジスト溶液をスピンコート法で塗工した後、一度ベーキングを施すことでレジスト内の溶剤を取り除いた。次に、先に塗布したレジスト膜に露光処理を施し、直径100nmの円形状のアレイと逆形状となるようにパターニングを行った。そして、イオンミリング処理を行うことで、剥き出しとなっているAu薄膜を除去した後、レジスト膜を取り除く為に薬剤によるエッチング処理を施し、図2で例示したように金属微粒子16を周期的に分散配置させた第2の遷移波長領域吸収構造体13を形成した。図2のように本実施例1ではあらゆる方向に対し等方的な効果を得ることができるように、金属微粒子16を三方(六方)配列となるように配置したが、正方配列や他の配列であっても良い。
本実施例1では、このようなプロセスにより第2の遷移波長吸収構造体13を形成したが、例えば所謂リフトオフのプロセスでも略同様の構造体を得ることが可能である。以下、第2の遷移波長吸収構造体13の作製を例に形成プロセスを説明する。最初に、十分な洗浄と乾燥を行った基板10上にリソグラフィー用のレジスト溶液をスピンコート法で塗工しベーキング処理を施す。次に、塗布したレジスト膜に露光処理を行い、先のプロセスとは真逆となる、直径100nmの円形状アレイとなるようにパターニングを行い、レジスト膜の一部を取り除く。そしてその上に、蒸着やスパッタにより約100nmの一定膜厚でAu薄膜を成膜した後、薬剤によるエッチング処理を行い、レジスト膜を除去する。以上のようなリフトオフプロセスでも、略同様の第2の遷移波長吸収構造体13を形成することが可能である。
さらに別の方法として、ナノインプリント法を併用することも可能である。例えば、前述した本実施例1での第2の遷移波長領域吸収構造体13の作製プロセスにおいて、先のレジスト膜を光ナノインプリントにより形成した後、アッシング処理を行い、ナノインプリントにおける残膜を処理することで金属薄膜を露出させる。その後、イオンミリングにより剥き出しになっている金属薄膜部を除去し、最後に薬液等によりレジストを除去する。このようにナノインプリントを併用することで、工程は増えるものの、パターニングプロセスの大幅な効率化が可能となることから、生産性を高めることができる。
また、本実施例1では第2の遷移波長領域吸収構造体13における吸収ピークのQ値を重視した為、微粒子の形状と配置周期性の再現性が高い、フォトリソグラフィー法を用いたが、作製方法はこれらに限らず、ウェットプロセスを選択することも可能である。一例としては、遷移波長吸収構造体11と同様のディッピング法による作製や、Auナノ微粒子を有機溶媒やバインダ材料に分散させた混合液を作製し、これを基板10上にスピンコートする方法、スクリーン印刷やグラビア印刷などの印刷法で塗工する方法などが挙げられる。
次に、この遷移波長領域吸収構造体11上にIAD法により紫外近赤外遮蔽膜12を形成した後、基板10の表裏を変え、第2の遷移波長領域吸収構造体13上にIAD法により反射防止膜14を形成した。
基板10上に形成された本実施例1の紫外近赤外遮蔽膜12は、図3(a)に示すように、可視波長領域の約530〜560nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どを透過させた透過帯と、紫外波長から可視波長にかけての約350〜480nmの波長領域と、可視波長から近赤外波長領域にかけての約610〜1050nmの波長領域の光を遮蔽した不透過帯を有している。また、透過帯と不透過帯に挟まれた約480〜530nmのUV側の遷移波長領域と約560〜610nmのIR側の遷移波長領域には、透過帯から不透過帯へ透過が連続的に変化する透過―不透過遷移波長領域を有している。さらには、UV側の透過―不透過遷移波長領域における透過率50%の波長をUV側半値波長と定義し、この値を510nmとした。さらにIR側の透過―不透過遷移波長領域における透過率50%の波長をIR側半値波長と定義し、この値を580nmとした。
本実施例1における紫外近赤外遮蔽膜12は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層し構成されており、この紫外近赤外遮蔽膜12の基板10側の第1層には透過リップル低減機能を有する透過リップル調整層が配置されており、紫外近赤外遮蔽膜12を構成する全ての膜厚の中で最も薄い膜厚となっている。さらに、最表層のSiO2層は反射防止波長領域の中心波長である400〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
基板10上のもう一方の面上に形成された本実施例1の反射防止膜14は可視波長から近赤外波長領域にかけての約400〜700nmの波長領域の光における、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの反射を阻止した、つまりは殆どの光を透過させた透過帯を有した光学特性となっている(不図示)。このように、紫外近赤外遮蔽膜12のUV側半値波長である510nmとIR側半値波長である580nmにおいて、基板裏面に対峙するように配置された反射防止膜14は透過帯を形成しており、成膜誤差等により紫外近赤外遮蔽膜12の光学特性が例えば10nm短波長側や長波長側へシフトとしたとしても、反射防止膜14は2つの半値波長において透過帯を維持できる。従って、以上のような構成設計とすることにより、反射防止膜14形成時の成膜誤差により反射防止膜14の光学特性が変化したとしても、基板10を含んで形成される光学フィルタ15の2つの半値波長に与える影響は極めて小さく、紫外近赤外遮蔽膜12の誤差のみで光学フィルタ15の2つの透過―不透過遷移波長領域が決まる為、より再現性を高めることができ、光学フィルタ15総体としての高精度化を実現することができる。
また、本実施例1における反射防止膜14は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層し構成されており、特に反射防止機能に最も影響を与える最表層のSiO2層は反射防止帯となる波長域の中心波長である500〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
基板10上に構成された紫外近赤外遮蔽膜12単体が作り出す透過帯の透過特性は、透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。また同様に、基板10上に構成された反射防止膜14単体が作り出す透過帯の透過特性は透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板の裏面側の反射成分を除いた殆どの光を透過する特性となっている。これら2つの機能膜が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は実質的に同一とみなせる特性を有している。そして、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図3(d)で示すように、光学フィルタ15の透過帯における、透過リップルが少なく平坦で高透過である特性を作り出している。また、光学フィルタ15の不透過帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、紫外近赤外遮蔽膜12、及び反射防止膜14の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、光学フィルタ15総体としての透過特性が決定される。
本実施例1における紫外近赤外遮蔽膜12、反射防止膜14において、蒸着膜として構成された高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2の他に、高屈折率材料としてはNb2O5やZrO2、Ta2O5などが使用でき、低屈折率材用としてはMgF2などが使用可能である。また、設計上や成膜上の理由から中間屈折率材料であるAl2O3などを一部の層で使用することも可能であり、これらの材料に限らず、NiやFe、Cr、Al、Mg、Ti、Si、Nb、Zr、Pt、In、W、Mo、Ta、Cu、Ag、Auなどの金属化合物でも良く、その時々で最適な材料の組合せを選択すれば良い。
以上のように作製された遷移波長領域吸収構造体11、及び第2の遷移波長領域吸収構造体13における局所的な吸収ピーク波長、つまりは遷移波長領域吸収構造体11と第2の遷移波長領域吸収構造体13におけるプラズモンの共鳴波長は、図3(b)で示したように、紫外近赤外遮蔽膜12が形成する2つの透過―不透過遷移波長領域における半値波長前後の波長に重なるように調整されている。さらには、図3(a)(b)(c)に示したように、遷移波長領域吸収構造体11と第2の遷移波長領域吸収構造体13の吸収スペクトルは、紫外近赤外遮蔽膜12のそれぞれの透過―不透過遷移波長領域よりも狭い波長域を吸収波長領域とする構成とした。ここで、実際に吸収による効果が発揮される条件を考慮して、本実施例における吸収波長領域とは、連続して吸収率が5%以上となる波長領域と定義する。これにより、不要光の強度が原理的に最大となる、透過―不透過遷移波長領域における半値波長付近での不要光のみを選択的に大きく低減することができ、一方で透過帯での吸収ロスを抑えることができる。より具体的には、(機能膜の分光透過率)×(機能膜の分光反射率)で計算される簡易的な不要光強度の目安値で比較すると、紫外近赤外遮蔽膜12のみでは理論上最大で25%の強度となるのに対し、特に撮像素子の感度が高く不要光の影響を強く受け易いIR側半値波長において、本実施例1では透過が約28%、反射が約28%の時に最大値を取り、その値は8%弱と、3分の1以上低減することできた。
また、色素などの有機成分から吸収を得る構造体などと比較し、紫外線による劣化にも強く、このような無機の金属材料により得た吸収特性と、無機の積層薄膜により得た反射特性の、主に2つの特性から光学フィルタ総体としての光学特性を得ている為、温度や湿度、紫外線などの周囲環境による吸収特性の変化が著しく小さく、耐環境性に優れた光学フィルタを得ることができる。
以上のように作製された、光学フィルタ15の分光透過特性は図3(d)で示した設計値に近い特性を得ることができた。これにより、透過帯での高透過を維持しつつ、バンドパスフィルタにおける2つの異なる透過―不透過遷移波長領域において不要光の強度を低減できる、高精度化を実現した、耐環境性に優れた光学フィルタを得ることができた。
(実施例2)
透明基板の一方の面上に、金属微粒子を分散配置したプラズモンによる2つの共鳴波長を有する遷移波長領域吸収構造体と、多層薄膜により構成された可視波長領域の所定の波長領域のみの光を透過する紫外近赤外遮蔽膜を形成し、もう一方の面上も、金属微粒子を分散配置したプラズモンによる2つの共鳴波長を有する遷移波長領域吸収構造体と、多層薄膜により構成された反射防止膜を形成した、図4に示した光学フィルタを作製した実施例について、以下に詳しく記載する。
図4は、少なくとも紫外と近赤外波長領域の所定の波長領域における光の透過を制限するバンドパスフィルタとして機能する実施例2の光学フィルタ24の構成図を示している。このような本実施例2の光学フィルタ24の基板20には、少なくても可視波長領域において透明性を有した厚さ0.4mmのB270iガラスを使用した。
最初に、十分な洗浄と乾燥を行った基板20の両面上に、金属微粒子を分散させた遷移波長領域吸収構造体21を形成した。金属微粒子には長さ40nm、直径10nmのナノロッド形状のAu微粒子を用い、この微粒子を遷移波長吸収構造体内に分散配置した構成とした。この遷移波長領域吸収構造体21の作製方法としては、ディッピング法を用いた。遷移波長領域吸収構造体21の膜厚は金属微粒子の直径サイズに相当となるように、分散液や形成プロセスを調整した。
まず、無数のAuナノロッド微粒子を含有させた分散液を作製した。次に、この分散液中に基板20全体を浸漬させた後、所定の条件で液中から引き上げた状態で一定時間保持し、乾燥工程を経て遷移波長領域吸収構造体21を作製した。ここで、混合するバインダや溶剤によって、極薄膜も作製可能であるし、厚膜化に対応することも可能であり、金属微粒子を比較的規則正しく、周期的に配置させることもできる。さらに、このようなディッピングプロセスによる作製方法以外でも、金属微粒子の形状やサイズに応じて、本実施例1に記載したフォトリソグラフィー法やリフトオフプロセス、ナノインプリント法を併用したプロセスなどの作製方法を選択することが可能である。また、これらに限らず、スピンコートや印刷法などの他のウェットプロセスを選択することも可能である。
次に、この遷移波長領域吸収構造体21上にIAD法により紫外近赤外遮蔽膜22を形成した。その後、基板20の表裏を変え、同様に遷移波長領域吸収構造体21上にIAD法により反射防止膜23を形成した。
基板20上に形成された本実施例2の紫外近赤外遮蔽膜22は、図5(a)に示すように、可視波長領域の約530〜560nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どを透過させた透過帯と、紫外波長から可視波長にかけての約350〜480nmの波長領域と、可視波長から近赤外波長領域にかけての約610〜1050nmの波長領域の光を遮蔽した不透過帯を有している。また、透過帯と不透過帯に挟まれた約480〜530nmのUV側の遷移波長領域と約560〜610nmのIR側の遷移波長領域には、透過帯から不透過帯へ透過が連続的に変化する透過―不透過遷移波長領域を有している。さらには、UV側半値波長を510nmとし、IR側半値波長を580nmとした。
また、本実施例2における紫外近赤外遮蔽膜22は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層し構成されており、この紫外近赤外遮蔽膜22の基板20側の第1層には透過リップル低減機能を有する、紫外近赤外遮蔽膜22を構成する全ての膜厚の中で最も薄い透過リップル調整層が配置されており、最表層のSiO2層は反射防止帯となる波長域の中心波長である400〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
基板20上のもう一方の面上に形成された本実施例2の反射防止膜23は、可視波長から近赤外波長領域にかけての約400〜700nmの波長領域の光における、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの反射を阻止した、つまりは殆どの光を透過させた透過帯を有した光学特性となっている(不図示)。このように、紫外近赤外遮蔽膜22のUV側半値波長である510nmとIR側半値波長である580nmにおいて、基板裏面に対峙するように配置された反射防止膜23は透過帯を形成している。
また、本実施例2における反射防止膜23は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層し構成されており、特に反射防止機能に最も影響を与える最表層のSiO2層は反射防止帯となる波長域の中心波長である500〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
基板20上に構成された紫外近赤外遮蔽膜22単体が作り出す透過帯の透過特性は、透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、基板20上に構成された反射防止膜23単体が作り出す透過帯の透過特性は透過リップルが少ない平坦で、実質的に一定である透過特性を有しており、これら2つの機能膜が作り出す、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図5(c)で示すように、光学フィルタ24の透過帯における、透過リップルが少なく平坦で高透過である特性を作り出している。また、光学フィルタ24の不透過帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、紫外近赤外遮蔽膜22、及び反射防止膜23の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、光学フィルタ24総体としての透過特性が決定される。
本実施例2における紫外近赤外遮蔽膜22、反射防止膜23において、蒸着膜として構成された高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2に材料に限らず、その時々で最適な材料の組合せを選択すれば良い。
ここで、前述した遷移波長領域吸収構造体21における局所的な吸収ピーク波長、つまりは遷移波長領域吸収構造体21におけるプラズモンの共鳴波長は、図5(b)で示したように、紫外近赤外遮蔽膜22が形成する2つの透過―不透過遷移波長領域における2つの半値波長前後の波長に重なるように調整されている。さらには、図5(a)(b)に示したように、遷移波長領域吸収構造体21の吸収スペクトルは、紫外近赤外遮蔽膜22の透過―不透過遷移波長領域よりも狭い波長領域を吸収波長領域とする構成とした。これにより、(機能膜の分光透過率)×(機能膜の分光反射率)で計算される簡易的な不要光強度の目安値で比較すると、紫外近赤外遮蔽膜22のみでは理論上最大で25%の強度となるのに対し、特に撮像素子の感度が高く不要光の影響を強く受け易いIR側半値波長において、本実施例2では透過が約19%、反射が約19%の時に最大値を取り、その値は4%弱と、5分の1以上低減することできた。
以上のように作製された、光学フィルタ24の分光透過特性は図5(c)で示した設計値に近い特性を得ることができた。これにより、透過帯での高透過を維持しつつ、不要光の強度を低減する、高精度化を実現した、耐環境性に優れた光学フィルタを得ることができた。
(実施例3)
透明基板の一方の面上に、2種類の異なる金属微粒子を分散配置した遷移波長領域吸収構造体と、多層薄膜により構成された可視波長領域の所定の波長領域のみの光を透過する紫外近赤外遮蔽膜を形成し、もう一方の面上に多層薄膜により構成された反射防止膜を形成した、図6に示した光学フィルタを作製した実施例について、以下に詳しく記載する。
図6は、少なくとも紫外と近赤外波長領域の所定の波長領域における光の透過を制限するバンドパスフィルタとして機能する実施例3の光学フィルタ34の構成図を示している。このような本実施例2の光学フィルタ34の基板30には厚さ0.4mmのB270iガラスを使用した。
最初に、十分な洗浄と乾燥を行った基板30の一方の面上に、金属微粒子を分散させた遷移波長領域吸収構造体31を形成した。金属微粒子には直径100nmの球体形状のAu微粒子と直径10nmの球体形状のAu微粒子を用い、この2つの異なる金属微粒子を遷移波長吸収構造体31内に分散配置した構成とした。この遷移波長領域吸収構造体31の作製方法としては、ディッピング法を用いた。遷移波長領域吸収構造体31の膜厚は金属微粒子の直径サイズに相当となるように、分散液や形成プロセスを調整した。
まず、無数のAuナノ微粒子を含有させた分散液を作製した。次に、この分散液中に一方の面上に膜の形成を防止する目的のマスクを施した基板30全体を浸漬させた後、所定の条件で液中から引き上げた状態で一定時間保持し、乾燥工程とマスクの剥離工程を経て遷移波長領域吸収構造体31を作製した。
次に、この遷移波長領域吸収構造体31上にIAD法により紫外近赤外遮蔽膜32を形成した。その後、基板30の表裏を変え、同様に基板30上にIAD法により反射防止膜33を形成した。
基板30上に形成された本実施例3の紫外近赤外遮蔽膜32は、図7(a)に示すように、可視波長領域の約530〜560nmの波長領域の光を小さいリップルに抑えつつ、基板裏面側での反射成分を除いた殆どを透過させた透過帯と、紫外波長から可視波長にかけての約350〜480nmの波長領域と、可視波長から近赤外波長領域にかけての約610〜1050nmの波長領域の光を遮蔽した不透過帯を有している。また、透過帯と不透過帯に挟まれた約480〜530nmのUV側の遷移波長領域と約560〜610nmのIR側の遷移波長領域には、透過帯から不透過帯へ透過が連続的に変化する透過―不透過遷移波長領域を有している。さらには、UV側半値波長を510nmとし、IR側半値波長を580nmとした。
また、本実施例3における紫外近赤外遮蔽膜32は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層し構成されており、この紫外近赤外遮蔽膜32の基板30側の第1層には透過リップル低減機能を有する透過リップル調整層が配置されており、紫外近赤外遮蔽膜32を構成する全ての膜厚の中で最も薄い膜厚となっている。さらに、最表層のSiO2層は反射防止帯となる波長域の中心波長である400〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
基板30上のもう一方の面上に形成された本実施例3の反射防止膜33は、可視波長から近赤外波長領域にかけての約400〜700nmの波長領域の光における、基板裏面側での反射成分を除いた殆どの反射を阻止した、つまりは殆どの光を透過させた透過帯を有した光学特性となっている(不図示)。このように、紫外近赤外遮蔽膜32のUV側半値波長である510nmとIR側半値波長である580nmにおいて、基板裏面に対峙するように配置された反射防止膜33は透過帯を形成している。
また、本実施例3における反射防止膜33は高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2を交互に積層し構成されており、特に反射防止機能に最も影響を与える最表層のSiO2層は、反射防止帯となる波長域の中心波長である500〜600nmの約1.0qw程度の膜厚を有している。
基板30上に構成された紫外近赤外遮蔽膜32と反射防止膜33の2つの機能膜が作り出す透過帯におけるそれぞれの透過特性は実質的に同一であり、透過リップルが少なく平坦で、高透過となっているそれぞれの透過特性を合成することで、図7(c)で示すように、光学フィルタ34の透過帯における、透過リップルが少なく平坦で高透過である特性を作り出している。また、光学フィルタ34の不透過帯においても同様に、2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により透過特性が決定される。従って、紫外近赤外遮蔽膜32、及び反射防止膜33の2つの機能膜が作り出す透過特性の合成により、光学フィルタ34総体としての透過特性が決定される。また、本実施例3における紫外近赤外遮蔽膜32、及び反射防止膜33において、蒸着膜として構成された高屈折率材料であるTiO2と低屈折率材料であるSiO2に材料に限らず、その時々で最適な材料の組合せを選択すれば良い。
ここで、前述した遷移波長領域吸収構造体31における局所的な吸収ピーク波長、つまりは遷移波長領域吸収構造体31におけるプラズモンの共鳴波長は、図7(b)で示したように、紫外近赤外遮蔽膜32が形成する2つの透過―不透過遷移波長領域における2つの半値波長前後の波長に重なるように調整されている。さらには、図7(a)(b)に示したように、遷移波長領域吸収構造体31の吸収スペクトルは、紫外近赤外遮蔽膜32の透過―不透過遷移波長領域よりも狭い波長領域を吸収波長領域とする構成とした。これにより、(機能膜の分光透過率)×(機能膜の分光反射率)で計算される簡易的な不要光強度の目安値で比較すると、紫外近赤外遮蔽膜32のみでは理論上最大で25%の強度となるのに対し、特に撮像素子の感度が高く不要光の影響を強く受け易いIR側半値波長において、本実施例3では透過が約28%、反射が約28%の時に最大値を取り、その値は8%弱と、3分の1以上低減することできた。
以上のように作製された、光学フィルタ34の分光透過特性は図7(c)で示した設計値に近い特性を得ることができた。これにより、透過帯での高透過を維持しつつ、不要光の強度を低減する、高精度化を実現した、耐環境性に優れた光学フィルタを得ることができた。
(実施例4)
本実施例1〜3で作製されたような、透過―不透過遷移波長領域を有するバンドパスフィルタタイプの光学フィルタの他の構成例について説明する。
本発明の光学フィルタを図8(a)〜(d)で示したような構成とすることも可能である。また、以下の説明おける各光学フィルタは透過―不透過遷移波長領域における半値波長付近に、金属微粒子を分散配置させ構成された遷移波長領域吸収構造体のプラズモン効果による吸収ピークを有していることを前提としている。さらに、遷移波長吸収構造体が1つで形成されている構成においては、本実施例2または本実施例3で記載されたような、1つの遷移波長吸収構造体において2つの異なる吸収ピークを有しており、2つの遷移波長吸収構造体が配置されている構成においては、1つまたは2つ以上の吸収ピークを有している。また、以下の機能膜42、及び第2の機能膜43は、近赤外線遮蔽膜や紫外線遮蔽膜、紫外近赤外線遮蔽膜、近赤外線透過膜、反射防止膜などから適宜で選択することが可能である。
図8(a)は基板40の両面に遷移波長領域吸収構造体41するか、または遷移波長領域吸収構造体41と第2の遷移波長領域吸収構造体45を配置構成した後、遷移波長領域吸収構造体41上に機能膜42を形成し、もう一方の遷移波長領域吸収構造体41または遷移波長領域吸収構造体45上に第2の機能膜43を形成した、本実施例1や本実施例2に属する構成例である。本実施例1や本実施例2では機能膜42と第2の機能膜43として紫外近赤外線遮蔽膜と反射防止膜を用いたが、例えば近赤外線遮蔽膜と紫外線遮蔽膜を配置することも可能であるし、紫外近赤外線遮蔽膜と近赤外線遮蔽膜を配置することや、阻止帯の異なる2種類の紫外近赤外線遮蔽膜を配置することなどが可能である。また、近赤外透過膜と反射防止膜を配置することもできる。
図8(b)は基板40の一方の面上に機能膜42と遷移波長領域吸収構造体41を配置し、基板40のもう一方の面上に第2の機能膜43と第2の遷移波長領域吸収構造体45を配置した例である。また、図示しないが、2つの遷移波長領域吸収構造体41の一方を、吸収波長領域の異なる第2の遷移波長領域吸収構造体45に変えて配置させることもできる。
図8(c)は図8(b)における一方の遷移波長領域吸収構造体41を取り除いた構成である。また、図示しないが、遷移波長領域吸収構造体41上に更に反射防止膜などの他の機能膜を形成することも可能である。
図8(d)は基板40上の一方面上に形成された機能膜42上に遷移波長領域吸収構造体41を配置し、基板40のもう一方の面上には第2の遷移波長領域吸収構造体46を配置し、その上側に第2の機能膜43を配置した例である。ここで、図示しないが、機能膜42を第2の機能膜43に変えて配置構成することも可能であるし、第2の遷移波長領域吸収構造体45を遷移波長領域吸収構造体41に変えて配置構成することも可能である。また、遷移波長領域吸収構造体41上に更に反射防止膜などの他の機能膜を形成することも可能である。
以上のような構成配置とすることで、バンドパスフィルタタイプの2つの透過―不透過遷移波長領域を有する、UVIRカットフィルタ、IRパスフィルタ、カラーフィルタ、蛍光フィルタなどの、高精度化が実現された、耐環境性に優れる、多種多様な光学フィルタを形成することが可能である。
(実施例5)
本実施例1〜4で作製した光学フィルタを備えるビデオカメラ等の撮像装置に適用した実施例について図9を用いて説明する。
図9は、ビデオカメラなどの撮像装置で、絞り羽根55などで構成された撮像光学系53を透過した光線を、光学フィルタ挿入位置50に配置された光学フィルタにより固体撮像素子54の特性に合わせて調整し、適正な画像を得るような構成となっている。
例えば、図9の構成において、本実施例1〜4で作製されたバンドパスフィルタの機能を有する光学フィルタ51を撮像装置内の所定の位置に配置しておき、光学フィルタ挿入位置50に光学フィルタ51を移動させることで、撮影状況に応じて適切なフィルタを選択し、撮影を行うことが可能である。
例えば図9の構成において光学フィルタ51が本実施例のような2つの透過―不透過遷移波長領域に、金属微粒子によるプラズモン効果による吸収を有したUVIRカットフィルタの場合を説明する。撮像光学系53を透過して固体撮像素子54に結像した光量等を判断して、光学フィルタ挿入位置50に光学フィルタ51、または位相差を調整する為のダミーフィルタとなるARフィルタ52のどちらか一方のフィルタ領域を配置させる。入射した光量が通常の撮影に十分な量であるときは、光学フィルタ51を光学フィルタ挿入位置50に配置させることでカラー画像を形成し、逆に光量が不十分であるときはARフィルタ52を光学フィルタ挿入位置50に配置させる。このように作製された撮像装置は、光学フィルタ51の反射成分、特には透過―不透過遷移波長領域による不要光強度が低減されている為、例えばUVIRカットフィルタならば、赤色ゴーストの発生を抑制することなどが可能となり、またUV側半値波長における不要光も低減できることから、撮影画像の高画質化が図られる。さらには、このような光学フィルタの吸収成分は無機の金属材料によって発現される為、周囲環境による光学特性の変化が少ない、耐環境性に優れた撮像装置を得ることができる。
また、図9における光学フィルタ51が2つの透過―不透過遷移波長領域に、金属微粒子によるプラズモン効果による吸収を有した、所定の近赤外波長領域を透過する、例えば800〜900nmを透過し、400〜700nm及び1000〜1200nmの透過を阻止したIRパスフィルタの場合、ARフィルタ52をIRカットフィルタに変えることで、入射した光量が通常の撮影に十分な量であるときは、IRカットフィルタを光学フィルタ挿入位置50に配置させることでカラー画像を形成し、逆に光量が不十分であるときはIRパスフィルタを光学フィルタ挿入位置50に配置させることができる。このようなIRパスフィルタを配置することで、透過―不透過遷移波長領域による不要光強度が低減される為に暗視画像のさらなる高画質化が図られ、さらには耐環境性に優れた撮像装置を得ることができる。
ここで、光学フィルタ51を構成している遷移波長吸収構造体が基板の一方の面のみに配置されている場合、基板上の2つの面における反射が異なる。そこで、不要光となる波長領域における反射が低い面を撮像素子側に配置することがより望ましい。これは、このような配置とした方が、多重反射を繰り替えした後、撮像素子に入射される不要光の強度をより低減させることができる理由からである。従って、本実施例においては、機能膜が形成する透過―不透過遷移波長領域における光学フィルタ51の反射が小さい面を撮像素子側に配置した。
また、本実施例の撮像装置に限らず、他の光学装置であっても、実施例1〜4で作製されたようなUVIRカットフィルタなどの透過―不透過遷移波長領域を有するバンドパスフィルタタイプの光学フィルタを用いることで、高画質化を図ることが可能な、耐環境性に優れた撮像装置を実現することができる。