JP2020056077A - 摺動部材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】摩擦を低減するとともに、その状態を長時間維持することが可能な摺動部材およびその製造方法を提供する。【解決手段】鋼からなる基材1と、基材1の表面に形成される金属層2と、を備え、基材1の表層部には、直径が0.01μm〜2.0mmであり、Cuを含む金属粒子1aが50.0個/cm2以上の個数密度で分散する分散層1bが存在し、分散層1bの厚さは、20.0〜2000μmであり、金属粒子1aは、純Cuおよび/またはCu合金であり、金属層2は、純CuまたはCu合金であり、かつ、厚さが5.0nm以上であり、純Cuは、質量%で、95%以上のCuを含み、Cu合金は、Cuと、ZnおよびSnから選択される1種または2種とを含み、質量%で、Cu含有量が80%以上であり、かつCu、ZnおよびSnの合計含有量が90%以上である、摺動部材10。【選択図】 図1
Description
本発明は、摺動部材およびその製造方法に関する。
自動車のクランクシャフト等で使用される摺動部材には、耐摩耗性に加えて、低燃費化の観点から優れた摺動特性が要求されており、特に部材表面における摩擦の低減が求められている。
通常の鉄鋼材料において、無潤滑油環境(ドライ環境)または潤滑油環境下で摺動させる場合に焼き付きが問題になる場合が多い。そのため、様々な手法で焼き付きを防ぐための対策が採られる。例えば、ドライ環境ではDLC成膜またはPTFE系のフッ素樹脂によるコーティングによる対策が採られる。
また、特許文献1では、高速回転、高荷重下で使用されても、摺動部材自身および相手シャフト材の摩耗がともに少ない耐久性、信頼性に優れた摺動部材が開示されている。さらに、特許文献2では、耐焼付性と耐摩耗性に優れた摺動部品用めっき皮膜並びにそのめっき皮膜で被覆された摺動用部品が開示されている。
そして、特許文献3では、安価な固体潤滑膜を用いても固体潤滑膜と部材との密着力が低下せず、長時間にわたって低摩擦係数が得られ、しかも高い耐摩耗性が保持できる固体潤滑膜付き部材が開示されている。
一般に、鋼材部品または鋼材表面への焼き付き現象は、摺動時に発生する磨耗粉に由来する等の物理的要因の他、高温かつ高圧環境下で摺動界面にて発生する化学的要因(例えば、摺動相手材の移着または凝着など化学反応に起因すると思われる異種材の発生)に支配される。すなわち、物理的または化学的要因が複雑に入り組んだ結果、焼き付き現象が発生する。
上述のDLC成膜を鋼材部品表面へ施した場合、良好な表面性状は得られる。しかし、摺動時の高温高圧環境では、不測の熱衝撃および応力集中が懸念される。DLC成膜は、かかる環境に十分抗すると言えないのが現状である。また、上述のフッ素樹脂コーティングは利便性が高く、低コストの表面処理方法であるものの、フッ素樹脂の内部に形成されるピンホールが原因と思われる早期腐食劣化の他、高温環境下では毒性のある危険ガスが発生し易い等の環境的懸念がある。このように、上述の方法では、鋼材表面の焼き付き現象を十分に抑制し、良好な摺動性能を維持するのには限界がある。
また、特許文献1および2では、基材の表面にめっきによる皮膜を形成しているため、皮膜の厚さが数μm以上と厚い。そのため、皮膜が摺動時に剥離するおそれがある。そのため、皮膜の持続性に問題がある。
特許文献3に記載の固体潤滑膜付き部材によれば、固体潤滑膜と部材との密着性が低下しないため、長時間にわたって低摩擦係数が得られ、しかも高い耐摩耗性が保持できるとされている。しかし、表面の固体潤滑膜が摩耗した場合、凹みに堆積している固体潤滑膜が掘り起こされ、染み出すとされているが、その際に露出した基材が相手材と接触する可能性があるため、摺動特性が維持できない可能性が考えられる。
本発明は上記の問題を解決し、摩擦を低減するとともに、その状態を長時間維持することが可能な摺動部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであり、下記の摺動部材およびその製造方法を要旨とする。
(1)鋼からなる基材と、該基材の表面に形成される金属層と、を備え、
前記基材の表層部には、直径が0.01μm〜2.0mmであり、Cuを含む金属粒子が50.0個/cm2以上の個数密度で分散する分散層が存在し、
前記分散層の厚さは、20.0〜2000μmであり、
前記金属粒子は、純Cuおよび/またはCu合金であり、
前記金属層は、純CuまたはCu合金であり、かつ、厚さが5.0nm以上であり、
前記純Cuは、質量%で、95%以上のCuを含み、
前記Cu合金は、Cuと、ZnおよびSnから選択される1種または2種とを含み、質量%で、Cu含有量が80%以上であり、かつCu、ZnおよびSnの合計含有量が90%以上である、
摺動部材。
前記基材の表層部には、直径が0.01μm〜2.0mmであり、Cuを含む金属粒子が50.0個/cm2以上の個数密度で分散する分散層が存在し、
前記分散層の厚さは、20.0〜2000μmであり、
前記金属粒子は、純Cuおよび/またはCu合金であり、
前記金属層は、純CuまたはCu合金であり、かつ、厚さが5.0nm以上であり、
前記純Cuは、質量%で、95%以上のCuを含み、
前記Cu合金は、Cuと、ZnおよびSnから選択される1種または2種とを含み、質量%で、Cu含有量が80%以上であり、かつCu、ZnおよびSnの合計含有量が90%以上である、
摺動部材。
(2)前記Cu合金の化学組成が下記(i)式を満足する、
上記(1)に記載の摺動部材。
(Zn+Sn)/(100−Cu)≧0.5 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合は0を代入する。
上記(1)に記載の摺動部材。
(Zn+Sn)/(100−Cu)≧0.5 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合は0を代入する。
(3)前記金属層は、基材側から順に第1層および第2層を含み、
前記第1層の厚さが5.0〜100nmである、
上記(1)または(2)に記載の摺動部材。
前記第1層の厚さが5.0〜100nmである、
上記(1)または(2)に記載の摺動部材。
(4)前記基材の肉厚中央部におけるCu、ZnおよびSnの含有量が、いずれも質量%で、0.01%以下である、
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の摺動部材。
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の摺動部材。
(5)上記(1)から(4)までのいずれかに記載の摺動部材を製造する方法であって、
鋼からなる基材の表面を400〜1000℃の温度範囲まで加熱する、加熱工程と、
加熱された前記表面に対して、Cuを含む金属微粒子をピーニングする、ピーニング工程と、を備える、
摺動部材の製造方法。
鋼からなる基材の表面を400〜1000℃の温度範囲まで加熱する、加熱工程と、
加熱された前記表面に対して、Cuを含む金属微粒子をピーニングする、ピーニング工程と、を備える、
摺動部材の製造方法。
(6)前記金属微粒子の平均粒径が30〜500μmである、
上記(5)に記載の摺動部材の製造方法。
上記(5)に記載の摺動部材の製造方法。
(7)前記金属微粒子は、鋼からなる微粒子の表面が、純CuまたはCu合金によって被覆されており、
前記純Cuは、質量%で、95%以上のCuを含み、
前記Cu合金は、Cuと、ZnおよびSnから選択される1種または2種とを含み、質量%で、Cu含有量が80%以上であり、かつCu、ZnおよびSnの合計含有量が90%以上である、
上記(5)または(6)に記載の摺動部材の製造方法。
前記純Cuは、質量%で、95%以上のCuを含み、
前記Cu合金は、Cuと、ZnおよびSnから選択される1種または2種とを含み、質量%で、Cu含有量が80%以上であり、かつCu、ZnおよびSnの合計含有量が90%以上である、
上記(5)または(6)に記載の摺動部材の製造方法。
(8)前記加熱工程において、高周波誘導加熱によって前記表面を加熱する、
上記(5)から(7)までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
上記(5)から(7)までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
本発明によれば、摺動特性に優れ、かつその状態が長時間持続する摺動部材を得ることが可能である。
図1は、本発明の一実施形態に係る摺動部材の概略構成を示す図である。図1を参照して、本発明の一実施形態に係る摺動部材10は、基材1および金属層2を備える。金属層2は基材1の表面に形成され、その厚さは5.0nm以上である。なお、図1に示す構成においては、金属層2は、基材1側から順に、第1層2aおよび第2層2bを含んでいるが、第2層2bは形成されていなくてもよい。
金属層2は、純CuまたはCu合金である。本発明において、純Cuとは純度が95%以上のものを指すものとする。すなわち、純Cuは、質量%で、95%以上のCuを含む。また、上記Cu合金は、Cuと、ZnおよびSnから選択される1種または2種とを含み、質量%で、Cu含有量が80%以上であり、かつCu、ZnおよびSnの合計含有量が90%以上である。
さらに、上記Cu合金の化学組成は下記(i)式を満足することが好ましい。すなわち、上記Cu合金は、Cu以外の残部の半分以上(50%以上)をZnおよび/またはSnが占めることが好ましい。
(Zn+Sn)/(100−Cu)≧0.5 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合は0を代入する。
(Zn+Sn)/(100−Cu)≧0.5 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合は0を代入する。
なお、第1層2aおよび第2層2bは、それぞれが、純CuまたはCu合金であるが、化学組成は同一であってもよいし、相違していてもよい。後述するが、両者は成因が異なっており、その境界は明瞭に観察することができる。
Cuは軟質(モース硬度で3.0)な金属である。そのため、基材1の表面に軟質な金属層2が形成されていることによって、金属層2が潤滑皮膜としての役割を果たす。その結果、摺動相手となる部材(「相手部材」ともいう。)との摩擦が低減し、基材1の摺動特性を向上させることが可能となる。また、金属層2が純Cuの場合だけでなく、上述した化学組成を有するCu合金である場合には、摺動特性が向上することが分かった。
金属層2の厚さが5.0nm未満では摺動特性の向上効果が不十分となる。一方、上限については特に制限する必要はないが、その厚さが過剰であると却って摺動特性が劣化するおそれがある。そのため、金属層2の厚さは1000μm以下とすることが好ましい。また、上述のように、金属層2が第1層2aおよび第2層2bを含む場合においては、第1層2aの厚さは5.0〜100nmであるのが好ましい。第1層2aの厚さが5.0nm未満では摺動特性の向上効果が不十分となるおそれがあり、一方、100nmを超えると、摺動相手となる部材との接触抵抗が上昇し、摺動特性が劣化するおそれがあるためである。
上述のように、第2層2bは形成されなくてもよいが、形成される場合には、その厚さが過剰であると却って摺動特性が劣化するおそれがある。そのため、第2層2bの厚さは1000μm以下とすることが好ましい。一方、下限は特に制限はないが、第2層2bによる摩擦の低減効果を得たい場合には、例えば、3.0μm以上とすることができる。
また、基材1の表層部には、Cuを含む金属粒子1aが分散する分散層1bが存在する。なお、本発明において、分散層1bとは、直径(円相当径)が0.01μm〜2.0mmである金属粒子1aが50.0個/cm2以上の個数密度で分散する層を指すものとする。なお、金属粒子1aは、純Cuおよび/またはCu合金である。また、分散層1bの厚さは20.0〜2000μmである。
金属粒子1aは全てが同一成分である必要はない。例えば、全ての金属粒子が純CuまたはCu合金であってもよいし、純Cuからなる金属粒子、およびCu合金からなる金属粒子が別々に分散していてもよい。その場合は、純Cuからなる金属粒子、およびCu合金からなる金属粒子の合計個数密度が50.0個/cm2以上で分散する層を分散層1bとする。
潤滑皮膜として機能する金属層2は、相手部材との摺動により消耗する。しかしながら、分散層1bからCuまたはさらにZnおよび/またはSnが基材の表面へと拡散することにより、金属層2のうちの第1層2a部分が再生され、長時間にわたって維持されるようになる。Cu、ZnおよびSnは常温環境下においても、速やかに基材1の表面に拡散する特性を有する。
分散層1b中における金属粒子1aの直径が0.01μm未満では、第1層2aの再生に寄与しにくい。一方、2.0mmを超えると、個数密度を50.0個/cm2以上とすることが困難となる。
また、分散層1bの厚さが20.0μm未満では、供給できるCuの量が少なく、第1層2aを長時間維持することが難しくなる。一方、厚さが2000μmを超えると、基材1の表層部における機械特性が劣化するおそれがある。そのため、分散層1bの厚さは20.0〜2000μmとする。
基材1は鋼からなる。鋼としては、例えば、フェライト鋼、オーステナイト鋼、マルテンサイト鋼、または二相以上の組織を有する鋼等を用いることができる。また、組織中の析出物等の分散・固溶状態についても制限はない。
なお、Cu、ZnおよびSnは、表面に偏析しやすいだけでなく、結晶粒界にも偏析しやすい傾向がある。そのため、これらの元素が基材1中に多量に含有されると、基材1の結晶粒界に偏析し、脆性破壊および粒界腐食などが生じる原因となる。そのため、これらの元素が多量に含まれる領域は、基材1の表層部のみに限定することが好ましい。すなわち、基材1の肉厚中央部においては、Cu、ZnおよびSnの含有量は、いずれも質量%で、0.01%以下であることが好ましい。本発明において、肉厚中央部とは、基材の板厚1/2部を意味する。
上記の構造を有する摺動部材10を製造する方法について、特に制限はないが、例えば、以下に示す方法により製造することができる。
本発明の一実施形態に係る摺動部材10の製造方法は、鋼からなる基材1の表面を400〜1000℃の温度範囲まで加熱する、加熱工程と、加熱された基材1の表面に対して、Cuを含む金属微粒子11をピーニングする、ピーニング工程と、を備える。
図2は、本発明の一実施形態に係る摺動部材の製造方法を説明するための概念図である。図2を参照して、高温に加熱した基材1の表面に対して、金属微粒子11をピーニングすることにより、基材1の内部に純Cuおよび/またはCu合金からなる金属粒子1aを物理的に分散させることができる。そして、その結果、基材1の表層部に分散層1bが形成され、基材1の表面に第1層2aが形成される。また、ピーニング時間に応じて、第1層2aの表面にはさらに第2層2bが形成される。すなわち、第1層2aは分散層1bからのCu等の拡散により形成され、第2層2bはピーニング粒子からのCu等の直接の転着により形成される。
基材1の表面温度が400℃未満では、基材1が十分に軟化せず、ピーニングによる表層部の変形および折り畳み効果が不十分となり、上述の規定を満足する分散層1bを形成することが難しくなる。一方、表面温度が1000℃を超えると、金属微粒子11が表面に衝突するのと同時に溶融して表面を覆い、ピーニング効果が得られず、上記と同様に、上述の規定を満足する分散層1bを形成することが難しくなる。また、表面温度が高すぎる場合、形成された分散層1bからCuが直ちに表面偏析してしまい、分散層1bが消滅してしまうおそれがある。
基材1の表面の加熱方法については特に制限はなく、例えば、高周波誘導加熱を採用することができる。
また、金属微粒子11の大きさについて、特に制限は設けないが、Cuの内部への拡散効果を十分に発揮するためには、平均粒径が30〜500μmであることが好ましい。
Cuは軟質であることから、純Cu等をピーニングしても、基材の内部まで拡散させることは困難である。そのため、例えば、鋼からなる微粒子の表面が純CuまたはCu合金によって被覆されている粒子を、ピーニング用の金属微粒子11として用いることが好ましい。この場合においても、上記Cu合金としては、Cuと、ZnおよびSnから選択される1種または2種とを含み、質量%で、Cu含有量が80%以上であり、かつCu、ZnおよびSnの合計含有量が90%以上であるものを用いることが好ましい。
例えば、鋼球と純CuまたはCu合金の粒子をボールミル内で混合させることによって、鋼球の表面を純CuまたはCu合金によって被覆することができる。また、表面に純Cuが被覆した鋼球、および表面にCu合金が被覆した鋼球を別々に用意したうえで、混合して使用してもよい。さらに、鋼球の表面への純CuまたはCu合金の被覆は、電解もしくは無電解の粉末めっき、または各種蒸着によって行ってもよい。
ピーニング時間についても特に制限はないが、10〜300秒とすることが好ましい。ピーニング時間が10秒未満では、分散層の形成が不十分となるおそれがある。一方、ピーニング時間が300秒を超えると、金属層2の第2層2bの厚さが過剰になるだけでなく、第2層2bの表面の酸化が進み、潤滑性が低下するおそれがある。
また、同様に、第2層2bの酸化を防止する観点から、ピーニング工程は窒素雰囲気等の不活性ガス中で行うことが好ましく、金属微粒子11も不活性ガスによって吹き付けることが好ましい。これにより、金属微粒子11自体の酸化も防止することが可能となる。
なお、基材1の鋳込み段階でCuを添加したとしても、二層に分離し、基材1中にCuを含む金属粒子1aを分散させることは容易ではない。上述の方法によって摺動部材10を製造することで、基材1の表層部のみに金属粒子1aを分散させることができるため、基材の機械特性を劣化させることなく、部材の摺動特性を向上させることが可能となる。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
試験材には4品種のJIS規格相当品を用いた。すなわち、JIS G 4051(2009)に規定されている機械構造用炭素鋼のS45C鋼(0.42C−0.20Si−0.70Mn−0.01S−0.10Cr)、JIS G 5111(1991)に規定されている構造用高張力炭素鋼のSCMn3鋼(0.38C−0.53Si−1.50Mn−0.01P−0.01S)、JIS G 4053(2016)に規定されている機械構造用炭素鋼のSCM435鋼(0.35C−0.20Si−0.75Mn−0.10Ni−1.00Cr−0.20Mo)、JIS G 4404(2006)に規定されている合金工具鋼鋼材のSKD11鋼(1.50C−0.20Si−0.40Mn−0.01P−0.01S−12.0Cr−1.00Mo−0.30V)である。
S45C鋼については、焼入れ材(870℃から水冷)および焼鈍し材(810℃から炉冷)の2種類を、SCMn3鋼については、焼入れ焼戻し材(1000℃から油焼入れ後、400℃で焼戻し)を用いた。また、SCM435鋼は焼入れ焼戻し材(900℃から油焼入れ後、600℃で焼戻し)を、SKD11鋼は焼入れ焼戻し材(焼入れ:1030℃から空冷、低温焼戻し:180℃から空冷)を用いた。試験材は、機械加工によりディスク形状(直径15mm×厚さ4mm)とした後、後述する被膜処理面については、さらに鏡面に仕上げた。
続いて、高周波電源、加熱用高周波誘導加熱(以下、「IH」という。)コイルおよび出力制御盤を微粒子ピーニング(以下、「FPP」という。)装置と組み合わせた装置を用いて、試験材に対して被膜処理を行った。すなわち、本実施例で用いる装置は、金属微粒子投射用ノズル(内径6mm)を有するFPP装置の内部に、円筒状のIHコイル(内径40mm、巻き数4、幅35mm)を備えている。
耐火レンガの上に設置した試験材をIHコイルの内側に設置することで、非接触により試験材を加熱した。そして、試験材の表面を表1に示す温度まで1秒以内で加熱し、その温度で保持しながら、当該表面に対してFPP処理を施した。そして、金属微粒子の噴射を止め、ノズル先端から供給される圧縮気体で急冷した。なお、この処理は窒素雰囲気制御下で実施した。
粒子投射の供給量は2.0g/秒、噴射圧力は0.54MPa、噴射間距離は100mmとし、表1に示す時間噴射した。噴射に供した金属微粒子には、鋼球にSnを被覆したものを用いた。具体的には、平均粒径が100μmの鋼球(1.00C−0.50Si−0.6Mn、Hv800)と、純Cu粒子(直径100μm、純度99.99%)、Cu−Zn合金粒子(中心径100μm、Cu80%、Zn20%)、Cu−Sn合金粒子(中心径100μm、Cu80%、Sn20%)、またはCu−Zn−Sn合金粒子(中心径100μm、Cu80%、Zn10%、Sn10%)のいずれかとをボールミル内で300rpmにて2時間混合することによって、鋼球に純CuまたはCu合金を約10μmの厚みで被覆した。
なお、試験No.14の試験材については、FPP処理は行わなかった。また、試験No.15の試験材については、FPP処理の代わりにCuめっきを施した。
試験No.1〜13の各試験材について、まず表面構造の解析を行った。具体的には、断面観察用の小型試験片を切り出し、断面を鏡面研磨した後、膜厚は走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、組成はSEMに付随しているエネルギー分散型X線分光器(EDS)で元素分析した。
また、基材の表層部に存在する分散層の厚さは、事前に軟質な金属層を研磨で除去した上、表面からバフ研磨で少しずつ削り込んでは表面に存在する直径が0.01μm〜2.0mmの金属粒子の個数を数えることを繰り返し、削り込み深さと個数密度との関係を求めることによって決定した。なお、分散層の厚さは、表面から、金属粒子の個数密度が50.0個/cm2を下回る深さまでの距離とした。すなわち、分散層には、表面に平行な面で切断した場合、0.01μm〜2.0mmの金属粒子が50.0個/cm2以上存在する。
なお、金属粒子および第2層の化学組成は、ピーニングに用いた微粒子とほぼ同じとなった。一方、微粒子にCu合金を用いた場合においては、第1層の化学組成は、微粒子の化学組成よりZnおよび/またはSnの濃度が低くなり、相対的にCu濃度が高くなる結果となった。これは、分散層からのCu、ZnおよびSnの拡散速度の違いによるものと考えられる。
続いて、ボールオンディスク方式の摩擦試験(CSM Instruments社製Tribometer)により、摩擦特性の評価を行った。ボールは市販の直径6mmのSUJ2球を用い、荷重10N、摩擦速度10mm/秒、摩擦時間60分、潤滑剤なしの条件で摩擦試験を実施した。摩擦係数は、試験機のソフトウェアから提供される値を用いた。そして、「初期摩擦係数」として摩擦開始から1分間の平均摩擦係数を計測するとともに、低摩擦の持続性として摩擦係数が0.3を超えるまでの摩擦時間を評価した。本発明においては、初期摩擦が0.20以下でかつ低摩擦の持続性が15分以上であった場合に、摺動特性に優れると判断した。
それらの結果を表1にまとめて示す。
表1の結果を参照して、本発明の規定を満足する試験No.1〜11では、初期摩擦が0.20以下でかつ低摩擦の持続性が15分以上となり、摺動特性が優れる結果となった。これに対して、FPP処理時の表面温度が低すぎる試験No.12では、基材中に分散層が形成されず、低摩擦の持続性が劣る結果となった。また、表面温度が高すぎる試験No.13では、金属層が酸化され酸化物となったため、摩擦特性が劣る結果となった。さらに、FPP処理を実施しなかった試験No.14では、初期摩耗係数が劣る結果となった。そして、表面にCuめっきを施した試験No.15では、基材中に分散層が存在しないため、低摩擦の持続性が劣る結果となった。
本発明によれば、摺動特性に優れ、かつその状態が長時間持続する摺動部材を得ることが可能である。したがって、本発明に係る摺動部材は、自動車、船舶等の輸送機械、一般産業機械等に使用される摺動部材として好適に用いることができる。
1.基材
1a.金属粒子
1b.分散層
2.金属層
2a.第1層
2b.第2層
10.摺動部材
11.金属微粒子
1a.金属粒子
1b.分散層
2.金属層
2a.第1層
2b.第2層
10.摺動部材
11.金属微粒子
Claims (8)
- 鋼からなる基材と、該基材の表面に形成される金属層と、を備え、
前記基材の表層部には、直径が0.01μm〜2.0mmであり、Cuを含む金属粒子が50.0個/cm2以上の個数密度で分散する分散層が存在し、
前記分散層の厚さは、20.0〜2000μmであり、
前記金属粒子は、純Cuおよび/またはCu合金であり、
前記金属層は、純CuまたはCu合金であり、かつ、厚さが5.0nm以上であり、
前記純Cuは、質量%で、95%以上のCuを含み、
前記Cu合金は、Cuと、ZnおよびSnから選択される1種または2種とを含み、質量%で、Cu含有量が80%以上であり、かつCu、ZnおよびSnの合計含有量が90%以上である、
摺動部材。 - 前記Cu合金の化学組成が下記(i)式を満足する、
請求項1に記載の摺動部材。
(Zn+Sn)/(100−Cu)≧0.5 ・・・(i)
但し、上記式中の元素記号は各元素の含有量(質量%)を表し、含まれない場合は0を代入する。 - 前記金属層は、基材側から順に第1層および第2層を含み、
前記第1層の厚さが5.0〜100nmである、
請求項1または請求項2に記載の摺動部材。 - 前記基材の肉厚中央部におけるCu、ZnおよびSnの含有量が、いずれも質量%で、0.01%以下である、
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の摺動部材。 - 請求項1から請求項4までのいずれかに記載の摺動部材を製造する方法であって、
鋼からなる基材の表面を400〜1000℃の温度範囲まで加熱する、加熱工程と、
加熱された前記表面に対して、Cuを含む金属微粒子をピーニングする、ピーニング工程と、を備える、
摺動部材の製造方法。 - 前記金属微粒子の平均粒径が30〜500μmである、
請求項5に記載の摺動部材の製造方法。 - 前記金属微粒子は、鋼からなる微粒子の表面が、純CuまたはCu合金によって被覆されており、
前記Cu合金は、質量%で80%以上のCuを含み、残部の50%以上をZnおよびSnから選択される1種または2種の合計が占める、
請求項5または請求項6に記載の摺動部材の製造方法。 - 前記加熱工程において、高周波誘導加熱によって前記表面を加熱する、
請求項5から請求項7までのいずれかに記載の摺動部材の製造方法。
Priority Applications (1)
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