以下に、本発明を実施するための形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「a〜b」は、下限a及び上限bをその範囲に含む。そして、これらの上限値及び下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに、これらの数値範囲内から任意に選択した数値を、新たな上限や下限の数値とすることができる。
本発明の複合粒子は、Li5FeO4の表面に炭素とLi2CO3とが存在することを特徴とする。
Li5FeO4の表面に炭素が存在することから、本発明の複合粒子は、上記した炭素被覆Li5FeO4の一種といい得る。また、本発明の複合粒子は、炭素以外にLi2CO3を必須とする炭素被覆Li5FeO4ともいい得る。
実施例の欄で詳説するが、本発明の発明者は、炭素被覆の条件の異なる複数の炭素被覆Li5FeO4すなわち複合粒子を製造した。そして、各複合粒子の表面分析を行うとともに、当該各複合粒子を用いたスラリー状の正極活物質層製造用組成物の経時的な安定性を評価した。その結果、本発明者は、炭素被覆に要する時間が長くなると、複合粒子の表面に存在するLi2CO3の量が多くなり、かつ、スラリー状の正極活物質層製造用組成物の経時的な安定性が向上することを知見した。
Li2CO3は、比較的高い温度条件下でLi5FeO4を炭素で被覆して被覆層を形成する際に、当該Li5FeO4が炭素と反応して還元分解することで生成すると考えられる。例えばLi5FeO4を炭素で厚く被覆する場合等、Li5FeO4を炭素で被覆するのに要する時間が長くなると、上記の分解反応が進行して、Li5FeO4の表面におけるLi2CO3の量が多くなると考えられる。
Li5FeO4は、大気中の水分や二酸化炭素と反応し得る程度に活性が高いため、正極活物質層製造用組成物においても、その経時安定性に悪影響を与える何らかの反応を引き起こす可能性がある。本発明の複合粒子において、Li2CO3は、Li5FeO4を被覆する炭素の部分とともに、Li5FeO4が他の成分と直接接触して何らかの反応を引き起こすのを抑制しているといえる。以下、必要に応じて、Li5FeO4を被覆する被覆層のうち、炭素で構成される部分を炭素相と称し、Li2CO3で構成される部分をLi2CO3相と称する。
炭素相は、Li5FeO4の表面に、連続的または断続的に形成されると考えられ、Li2CO3相は、炭素相とLi5FeO4との境界部分に生成すると考えられる。具体的には、Li2CO3相は、Li5FeO4と当該Li5FeO4の表面に形成された炭素相との間や、Li5FeO4の表面に形成された炭素相同士の隙間に生成すると推測される。このような位置にあるLi2CO3相は、炭素相とともに、Li5FeO4を外界から隔てる障壁となり得る。このため、スラリー状の正極活物質層製造用組成物において、Li5FeO4と、溶剤等のその他の材料との直接的な接触が抑制され、その結果、スラリー状の正極活物質層製造用組成物の経時的な安定性が向上すると推測される。
本発明の複合粒子において、Li5FeO4の粒子の表面にある被覆層は、炭素相とLi2CO3相との二相を有すると考えられるが、その他の相を含んでも良い。上記したように、当該その他の相としては、例えば、Li5FeO4と組成比の異なるリチウム鉄酸化物で構成される相や、Fe3C等の鉄炭化物で構成される相等が挙げられる。
被覆層は、Li5FeO4の粒子の表面を部分的に覆うだけでも良いが、Li5FeO4の粒子の表面全体を被覆しているのが好ましい。被覆層の厚さは、1nm〜100nmの範囲内が好ましく、5nm〜50nmの範囲内がより好ましく、10nm〜40nmの範囲内がさらに好ましく、15nm〜35nmの範囲内が特に好ましい。
炭素相は、グラファイト及びアモルファスのいずれの状態であってもよいが、グラファイトを有するものが好ましい。グラファイトの存在の確認は、放射光を用いたX線回折分析で可能である。
複合粒子における炭素の質量%(Wc)としては、1≦Wc≦6の範囲内が好ましく、1.5≦Wc≦5の範囲内がより好ましく、2≦Wc≦4.5の範囲内がさらに好ましく、2.5≦Wc≦4の範囲内がさらにより好ましく、3≦Wc≦4の範囲内が特に好ましく、3.3≦Wc≦3.9の範囲内が最も好ましい。
炭素の質量%(Wc)が過小な複合粒子であれば、正極活物質層製造用組成物の物性に影響が生じる場合がある。炭素の質量%(Wc)が過大であれば、無駄である。
本発明の複合粒子は、粉末状態であるものが好ましい。本発明の複合粒子の粉体抵抗値としては、0.5〜20Ωcm、1〜13Ωcm、1.5〜10Ωcm、2〜7Ωcmを例示できる。
なお、本明細書における粉体抵抗値とは、測定試料に4kNの荷重をかけた際の体積抵抗値を意味する。
本発明の複合粒子の粉末は、一定の範囲内の表面積を示すものが好ましい。本発明の複合粒子のBET比表面積として、0.5〜15m2/g、1〜12m2/g、2〜10m2/g、3〜7m2/gの範囲を例示できる。
BET比表面積が過小であれば、容量に劣る場合がある。他方、BET比表面積が過大であれば、大気中の水分や二酸化炭素と反応して、Li5FeO4が劣化する場合や、正極活物質層製造用組成物の物性などに悪影響を及ぼす場合がある。
本発明の複合粒子を製造する方法について説明する。以下、必要に応じて、当該方法を本発明の複合粒子の製造方法と称する。
本発明の複合粒子の製造方法は、Li5FeO4及び炭素源を、前記炭素源の分解温度以上の温度Tで加熱する工程(以下、炭素被覆工程ということがある。)を含む。
本発明の複合粒子の製造方法で用いるLi5FeO4を準備する方法としては、市販のLi5FeO4を購入してもよいし、また、Li源及びFe源を原料として、Li5FeO4を合成してもよい。
Li5FeO4の合成方法としては、Li源及びFe源を加熱条件下で反応させて合成すればよい。Li源としては、リチウム単体、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、フッ化リチウムを例示できる。Fe源としては、鉄単体、酸化鉄、水酸化鉄、オキシ水酸化鉄、硫酸鉄、硝酸鉄、塩化鉄を例示できる。Li源及びFe源の組成において、理論量よりも酸素が少ない場合には、反応系内に酸素を導入してもよい。
生成物の純度の点から、リチウム単体と酸化鉄を反応させる、酸化リチウムと鉄単体を反応させる、又は、酸化リチウムと酸化鉄を反応させるのが好ましい。
加熱前に、Li源及びFe源を粉砕及び混合しておくのが好ましい。さらには、加熱前に、Li源及びFe源を一体化しておくのが好ましい。
加熱前のLi源及びFe源に対して、粉砕、混合又は一体化させる装置としては、ボールミル、遊星ボールミル、株式会社奈良機械製作所のハイブリダイゼーションシステム(NHS)及びミラーロ(MIRALO)、ホソカワミクロン株式会社のメカノフュージョン及びノビルタ、株式会社徳寿工作所のシータ・コンポーザを挙げることができる。
Li5FeO4合成時の加熱温度としては、400〜1000℃が好ましく、450〜900℃がより好ましく、500〜800℃がさらに好ましく、550〜700℃が特に好ましい。なお、Li源として酸化リチウムを用い、Fe源として鉄単体を用いて、400℃での加熱でLi5FeO4を合成可能であることは、本発明者により確認済みである。
Li5FeO4の合成においては、特別な事情がある場合を除き、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス雰囲気下で加熱するのが好ましい。
また、Li源及びFe源に、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸アミド、N,N’−エチレンビス脂肪酸アミド、フマル酸アルキルエステルアルカリ金属塩及び硬化油から選択される有機添加剤を添加した上で、Li5FeO4を合成するのが好ましい。
有機添加剤の添加により、Li5FeO4の粒子が粗大化するのを抑制できる。なお、有機添加剤は、その添加量が少量であり、かつ、反応系内で気化又は分解するため、Li5FeO4の組成には大きな影響を与えない。有機添加剤の添加量としては、Li源及びFe源の全体に対して、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましく、1〜3質量%がさらに好ましい。
ショ糖脂肪酸エステルは、ショ糖と脂肪酸から製造されるエステルであって、リョートーシュガーエステルなどの商品名として知られる粉末状の非イオン型界面活性剤である。
ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸、脂肪酸塩、脂肪酸アミド、及び、N,N’−エチレンビス脂肪酸アミドにおける脂肪酸としては、炭素数12〜24の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、炭素数16〜20の飽和又は不飽和脂肪酸がより好ましい。また、上記の脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸を例示できる。
脂肪酸塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛を例示できる。脂肪酸塩における塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウムなどのアルカリ金属が、飛散しやすく装置を汚染しがたい点から好ましい。
脂肪酸塩の具体例としては、パルミチン酸リチウム、ステアリン酸リチウム、アラキジン酸リチウム、パルミトレイン酸リチウム、オレイン酸リチウム、リノール酸リチウム、アラキドン酸リチウム、パルミチン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、アラキジン酸ナトリウム、パルミトレイン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、リノール酸ナトリウム、アラキドン酸ナトリウム、パルミチン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、アラキジン酸マグネシウム、パルミトレイン酸マグネシウム、オレイン酸マグネシウム、リノール酸マグネシウム、アラキドン酸マグネシウム、パルミチン酸、ステアリン酸カルシウム、アラキジン酸カルシウム、パルミトレイン酸カルシウム、オレイン酸カルシウム、リノール酸カルシウム、アラキドン酸カルシウム、パルミチン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、アラキジン酸亜鉛、パルミトレイン酸亜鉛、オレイン酸亜鉛、リノール酸亜鉛、アラキドン酸亜鉛を例示できる。
脂肪酸アミドの具体例としては、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、アラキジン酸アミド、パルミトレイン酸アミド、オレイン酸アミド、リノール酸アミド、アラキドン酸アミドを例示できる。
N,N’−エチレンビス脂肪酸アミドの具体例としては、N,N’−エチレンビスパルミチン酸アミド、N,N’−エチレンビスステアリン酸アミド、N,N’−エチレンビスアラキジン酸アミド、N,N’−エチレンビスパルミトレイン酸アミド、N,N’−エチレンビスオレイン酸アミド、N,N’−エチレンビスリノール酸アミド、N,N’−エチレンビスアラキドン酸アミドを例示できる。
フマル酸アルキルエステルアルカリ金属塩におけるアルキルとしては、炭素数12〜24のアルキル基が好ましく、炭素数16〜20のアルキル基がより好ましい。具体的なアルキル基としては、パルミチル、ステアリル、アラキジルを例示できる。アルカリ金属塩を形成するカチオンとしては、リチウム、ナトリウムを例示できる。
フマル酸アルキルエステルアルカリ金属塩の具体例としては、フマル酸パルミチルリチウム塩、フマル酸ステアリルリチウム塩、フマル酸アラキジルリチウム塩、フマル酸パルミチルナトリウム塩、フマル酸ステアリルナトリウム塩、フマル酸アラキジルナトリウム塩を例示できる。
また、脂肪酸塩及びフマル酸アルキルエステルアルカリ金属塩におけるカチオンとしては、リチウムが好ましい。
硬化油としては、ラブリワックス(登録商標)などとして知られる粉末状の水素添加硬化油を例示できる。
Li5FeO4を炭素で被覆し、かつLi2CO3を生じさせる炭素被覆工程について説明する。
炭素被覆工程では、Li5FeO4及び炭素源を、炭素源の分解温度以上の温度Tで加熱する。Li5FeO4と炭素源との共存下、炭素源の炭化温度以上の温度Tで加熱することにより、炭素源は分解及び炭化されて、Li5FeO4の表面に炭素相が形成される。また、このとき、炭素源の炭素とLi5FeO4とが反応することにより、Li5FeO4の表面にはLi2CO3相も形成される。ここで、温度Tを650℃≦Tとすることで、Li5FeO4と炭素とが反応してLi2CO3が好適に合成される。Tが650℃未満の場合には、Li2CO3の合成が困難になる。Tが800℃以上の場合には、本発明の複合粒子の凝集が進行するため、本発明の複合粒子の取り扱いが煩雑になる場合がある。
炭素被覆工程の温度Tとしては、650〜780℃の範囲内が好ましく、650〜760℃の範囲内がより好ましい。また、炭素被覆工程は、アルゴン、ヘリウム、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行われるのが好ましい。
炭素被覆工程に供されるLi5FeO4は、解砕や分級された粉末状態のものが好ましい。
炭素源は有機物である。有機物としては、固体、液体、気体のものがある。特に、気体状態の有機物を用いることで、Li5FeO4の表面に均一な被覆層を形成できる。気体状態の有機物を用いて被覆層を生成させる方法は、一般に熱CVD法と呼ばれている方法を応用したものである。熱CVD法を応用して炭素被覆工程を行う場合には、ホットウォール型、コールドウォール型、横型、縦型などの型式の、流動層反応炉、回転炉、トンネル炉、バッチ式焼成炉、ロータリーキルンなどの公知のCVD装置を用いればよい。
有機物としては加熱によって熱分解して炭化し得るものが用いられ、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの飽和脂肪族炭化水素、エチレン、プロピレン、アセチレンなどの不飽和脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどのアルコール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、スチレン、エチルベンゼン、ジフェニルメタン、ナフタレン、フェノール、クレゾール、安息香酸、サリチル酸、ニトロベンゼン、クロルベンゼン、インデン、ベンゾフラン、ピリジン、アントラセン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミルなどのエステル類、スクロースなどの炭水化物、クエン酸などの有機酸、ポリフッ化ビニリデンなどの樹脂から選択される一種又は混合物が挙げられる。
分解容易性、沸点、及び被覆層における炭素相の純度を考慮すると、有機物としては、炭素数5〜18の飽和脂肪族炭化水素が好ましく、炭素数5〜12の飽和脂肪族炭化水素がより好ましく、炭素数5〜8の飽和脂肪族炭化水素がさらに好ましい。
炭素被覆工程は、Li5FeO4を流動状態にして行うことが望ましい。このようにすることで、Li5FeO4の全表面を有機物と接触させることができる。この場合には、被覆層自体を均一な厚さに形成することや、被覆層における炭素相およびLi2CO3相を偏り無く均一に形成することができるし、複合粒子同士の結着を抑制することもできる。Li5FeO4を流動状態にするには、流動床を用いるなど各種方法があるが、Li5FeO4を撹拌するのが好ましい。例えば、内部に邪魔板をもつ回転炉を用いれば、邪魔板に留まったLi5FeO4が回転炉の回転に伴って所定高さから落下することで撹拌され、その際に有機物と接触して炭素相およびLi2CO3相が形成されるので、Li5FeO4の全体にいっそう均一な被覆層を形成することができる。
本発明の複合粒子は、正極活物質として、リチウムイオン供給剤として、又は、各種の添加剤として機能し得る。特に、本発明の複合粒子は、リチウムイオン二次電池用正極材料であって、リチウムイオン二次電池の正極において、初回充電時のリチウムイオン供給剤として好適に機能する。以下、本発明の複合粒子を具備するリチウムイオン二次電池用正極を「本発明の正極」といい、本発明の正極を具備するリチウムイオン二次電池を「本発明のリチウムイオン二次電池」という。
本発明の正極において、本発明の複合粒子は、正極活物質が存在する正極活物質層に添加されるのが好ましい。本発明の正極の一態様は、本発明の複合粒子を含む正極活物質層、及び、集電体を具備する。正極活物質層は集電体上に形成される。本発明の複合粒子がリチウムイオン供給剤の場合は、正極活物質層における本発明の複合粒子の配合量は、負極の不可逆容量に応じて決定すればよい。
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子伝導体をいう。集電体の材料は、使用する活物質に適した電圧に耐え得る金属であれば特に制限はない。集電体の材料としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
正極の電位をリチウム基準で4V以上とする場合には、正極用集電体としてアルミニウムを採用するのが好ましい。
具体的には、正極用集電体として、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるものを用いるのが好ましい。ここでアルミニウムは、純アルミニウムを指し、純度99.0%以上のアルミニウムを純アルミニウムと称する。純アルミニウムに種々の元素を添加して合金としたものをアルミニウム合金と称する。アルミニウム合金としては、Al−Cu系、Al−Mn系、Al−Fe系、Al−Si系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系が挙げられる。
また、アルミニウム又はアルミニウム合金として、具体的には、例えばJIS A1085、A1N30等のA1000系合金(純アルミニウム系)、JIS A3003、A3004等のA3000系合金(Al−Mn系)、JIS A8079、A8021等のA8000系合金(Al−Fe系)が挙げられる。
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
正極活物質層には、本発明の複合粒子以外に公知の正極活物質が含まれるのが好ましい。
正極活物質としては、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウム複合金属酸化物、LiaNibCocAldDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウム複合金属酸化物、Li2MnO3を挙げることができる。また、正極活物質として、LiMn2O4等のスピネル構造の金属酸化物、スピネル構造の金属酸化物と層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO4、LiMVO4又はLi2MSiO4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質として、LiFePO4FなどのLiMPO4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO3などのLiMBO3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれの金属酸化物も上記の組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも使用可能である。また、正極活物質として、電荷担体(例えば充放電に寄与するリチウムイオン)を含まないものを用いても良い。例えば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS2などの金属硫化物、V2O5、MnO2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウム等の電荷担体を含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極及び/又は負極に、公知の方法により、予め電荷担体を添加しておく必要がある。電荷担体は、イオンの状態で添加しても良いし、金属等の非イオンの状態で添加しても良い。例えば、電荷担体がリチウムである場合には、リチウム箔を正極及び/又は負極に貼り付けるなどして一体化しても良い。
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、層状岩塩構造の一般式:LiaNibCocMndDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Al、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3) で表されるリチウム複合金属酸化物、又は、LiaNibCocAldDeOf(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはW、Mo、Re、Pd、Ba、Cr、B、Sb、Sr、Pb、Ga、Nb、Mg、Ta、Ti、La、Zr、Cu、Ca、Ir、Hf、Rh、Fe、Ge、Zn、Ru、Sc、Sn、In、Y、Bi、S、Si、Na、K、P、Vから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)で表されるリチウム複合金属酸化物を採用することが好ましい。
高容量及び耐久性などに優れる点から、正極活物質として、スピネル構造のLixMn2―yAyO4(Aは、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、P、Ga、Geから選ばれる少なくとも1の元素、及び、Niなどの遷移金属元素から選ばれる少なくとも1種の金属元素から選択される。0<x≦2.2、0≦y≦1)を例示できる。xの値の範囲としては、0.5≦x≦1.8、0.7≦x≦1.5、0.9≦x≦1.2を例示でき、yの値の範囲としては、0≦y≦0.8、0≦y≦0.6を例示できる。具体的なスピネル構造の化合物として、LiMn2O4、LiMn1.5Ni0.5O4を例示できる。
具体的な正極活物質として、LiFePO4、Li2FeSiO4、LiCoPO4、Li2CoPO4、Li2MnPO4、Li2MnSiO4、Li2CoPO4Fを例示できる。他の具体的な正極活物質として、Li2MnO3−LiCoO2を例示できる。
正極活物質層には、結着剤及び導電助剤が含まれているのが好ましい。正極活物質層に含まれる結着剤及び導電助剤としては、後述の負極で説明するものを適宜適切に採用すればよい。
本発明のリチウムイオン二次電池は、具体的に、本発明の正極と、負極と、電解液と、セパレータとを具備する。負極は、集電体と集電体上に形成された負極活物質層を具備する。負極活物質層には負極活物質が含まれる。負極の集電体としては、本発明の正極で説明したものから適宜適切に選択すればよい。
負極活物質としては、電荷担体を吸蔵及び放出し得る材料が使用可能である。したがって、リチウムイオンなどの電荷担体を吸蔵及び放出可能である単体、合金又は化合物であれば特に限定はない。たとえば、負極活物質としてLiや、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫などの14族元素、アルミニウム、インジウムなどの13族元素、亜鉛、カドミウムなどの12族元素、アンチモン、ビスマスなどの15族元素、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、銀、金などの11族元素をそれぞれ単体で採用すればよい。合金又は化合物の具体例としては、Ag−Sn合金、Cu−Sn合金、Co−Sn合金等の錫系材料、各種黒鉛などの炭素系材料、ケイ素単体と二酸化ケイ素に不均化するSiOx(0.3≦x≦1.6)などのケイ素系材料、ケイ素単体若しくはケイ素系材料と炭素系材料を組み合わせた複合体が挙げられる。また、負極活物質して、Nb2O5、TiO2、Li4Ti5O12、WO2、MoO2、Fe2O3等の酸化物、又は、Li3−xMxN(M=Co、Ni、Cu)で表される窒化物を採用しても良い。負極活物質として、これらのものの一種以上を使用することができる。
高容量化の可能性の点から、好ましい負極活物質として、黒鉛、Si含有材料、Sn含有材料を挙げることができる。特に、負極活物質として、不可逆容量の存在が重要な問題となるSi含有材料を採用した場合に、本発明の炭素被覆Li5FeO4のリチウムイオン供給剤としての効果が顕著に発揮される。
Si含有材料の具体例として、Si単体や、Si相とケイ素酸化物相との2相に不均化されたSiOx(0.3≦x≦1.6)を例示できる。SiOxにおけるSi相は、リチウムイオンを吸蔵及び放出でき、二次電池の充放電に伴って体積変化する。ケイ素酸化物相はSi相に比べて充放電に伴う体積変化が少ない。つまり、負極活物質としてのSiOxは、Si相により高容量を実現するとともに、ケイ素酸化物相を有することにより負極活物質全体の体積変化を抑制する。なお、xが下限値未満であると、Siの比率が過大になるため、充放電時の体積変化が大きくなりすぎて二次電池のサイクル特性が低下する。一方、xが上限値を超えると、Si比率が過小になってエネルギー密度が低下する。xの範囲は0.5≦x≦1.5であるのがより好ましく、0.7≦x≦1.2であるのがさらに好ましい。
なお、上記したSiOxにおいては、リチウムイオン二次電池の充放電時にリチウムとSi相のケイ素とによる合金化反応が生じると考えられている。そして、この合金化反応がリチウムイオン二次電池の充放電に寄与すると考えられている。後述するSn含有材料についても、同様に、スズとリチウムとの合金化反応によって充放電できると考えられている。
Sn含有材料の具体例として、Sn単体、Cu−SnやCo−Snなどのスズ合金、アモルファススズ酸化物、スズケイ素酸化物を例示できる。アモルファススズ酸化物としてはSnB0.4P0.6O3.1を例示でき、スズケイ素酸化物としてはSnSiO3を例示できる。
Si含有材料、及び、Sn含有材料は、炭素材料と複合化して負極活物質とすることが好ましい。複合化に因り、特にケイ素及び/又はスズの構造が安定し、負極の耐久性が向上する。上記複合化は、既知の方法で行えば良い。複合化に用いられる炭素材料としては、黒鉛、ハードカーボン、ソフトカーボン等を採用すればよい。黒鉛は、天然黒鉛でもよく、人造黒鉛でもよい。
Si含有材料の具体例として、国際公開第2014/080608号などに開示されるシリコン材料(以下、単に「シリコン材料」という。)を挙げることができる。
シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有するものである。シリコン材料は、例えば、CaSi2と酸とを反応させてポリシランを主成分とする層状シリコン化合物を合成する工程、さらに、当該層状シリコン化合物を300℃以上で加熱して水素を離脱させる工程を経て製造されるものである。
シリコン材料の製造方法を、酸として塩化水素を用いた場合の理想的な反応式で示すと以下のとおりとなる。
3CaSi2+6HCl → Si6H6+3CaCl2
Si6H6 → 6Si+3H2↑
ただし、ポリシランであるSi6H6を合成する上段の反応では、副生物や不純物除去の観点から、通常、反応溶媒として水が用いられる。そして、Si6H6は水と反応し得るため、上段の反応を含む層状シリコン化合物を合成する工程において、層状シリコン化合物がSi6H6のみを含むものとして製造されることはほとんどなく、層状シリコン化合物はSi6Hs(OH)tXu(Xは酸のアニオン由来の元素若しくは基、s+t+u=6、0<s<6、0<t<6、0<u<6)で表されるものとして製造される。なお、上記の化学式においては、残存し得るCaなどの不可避不純物については、考慮していない。そして、当該層状シリコン化合物を加熱して得られるシリコン材料も、酸素や酸のアニオン由来の元素を含む。
既述のとおり、シリコン材料は、複数枚の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有する。リチウムイオン等の電荷担体が効率的に吸蔵及び放出されるためには、板状シリコン体は厚さが10nm〜100nmの範囲内のものが好ましく、20nm〜50nmの範囲内のものがより好ましい。板状シリコン体の長手方向の長さは、0.1μm〜50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長手方向の長さ)/(厚さ)が2〜1000の範囲内であるのが好ましい。板状シリコン体の積層構造は走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。また、この積層構造は、原料のCaSi2におけるSi層の名残りであると考えられる。
シリコン材料には、アモルファスシリコン及び/又はシリコン結晶子が含まれるのが好ましい。特に、上記板状シリコン体において、アモルファスシリコンをマトリックスとし、シリコン結晶子が当該マトリックス中に点在している状態が好ましい。シリコン結晶子のサイズは、0.5nm〜300nmの範囲内が好ましく、1nm〜100nmの範囲内がより好ましく、1nm〜50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm〜10nmの範囲内が特に好ましい。なお、シリコン結晶子のサイズは、シリコン材料に対してX線回折測定を行い、得られたX線回折チャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。
シリコン材料に含まれる板状シリコン体、アモルファスシリコン及びシリコン結晶子の存在量や大きさは、主に加熱温度や加熱時間に左右される。加熱温度は、350℃〜950℃の範囲内が好ましく、400℃〜900℃の範囲内がより好ましい。
シリコン材料は炭素で被覆されていてもよい。炭素で被覆されたシリコン材料は導電性に優れる。
シリコン材料の平均粒子径は、2〜7μmの範囲内が好ましく、2.5〜6.5μmの範囲内がより好ましい。平均粒子径が小さすぎるシリコン材料を用いると、凝集性や濡れ性の観点から、負極製造が困難になる場合がある。具体的には、負極製造時に調製するスラリー中において、平均粒子径が小さすぎるシリコン材料が凝集する場合がある。他方、平均粒子径が大きすぎるシリコン材料を用いた負極を具備するリチウムイオン二次電池は、好適な充放電ができない場合がある。平均粒子径が大きすぎるシリコン材料においては、リチウムイオンが当該シリコン材料の内部まで十分に拡散し得ないことが原因と推測される。なお、本明細書における平均粒子径とは、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で試料を測定した場合におけるD50を意味する。
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムなどの公知のものを採用すればよい。
また、国際公開第2016/063882号に開示される、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸などのカルボキシル基含有ポリマーをジアミンなどのポリアミンで架橋した架橋ポリマーを、結着剤として用いてもよい。
架橋ポリマーに用いられるジアミンとしては、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキレンジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、1,3−ジアミノシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン等の含飽和炭素環ジアミン、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、ベンジジン、o−トリジン、2,4−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、キシリレンジアミン、ナフタレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。
活物質層中の結着剤の配合割合は、0.5〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましく、3〜5質量%が特に好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber)、および各種金属粒子などが例示される。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、チャンネルブラックなどが例示される。これらの導電助剤を単独又は二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。活物質層中の導電助剤の配合割合は、0.5〜20質量%が好ましく、1〜15質量%がより好ましく、2〜10質量%がさらに好ましく、2〜5質量%が特に好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質層の成分及び溶剤を混合してスラリーにしてから、当該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
正極活物質層を製造するための、複合粒子と溶剤とを具備するスラリー状の正極活物質層製造用組成物においては、固形分の配合量は30〜90質量%の範囲内が好ましく、50〜75質量%の範囲内がより好ましい。ここで、固形分とは、正極活物質層製造用組成物に含まれる溶剤以外の成分を意味する。
正極活物質層製造用組成物における、本発明の複合粒子の配合量は、本発明の複合粒子の用途に応じて適宜決定すればよい。
本発明の複合粒子を、負極の不可逆容量に相当するリチウムイオンを補填するためのリチウムイオン供給剤として用いる場合であれば、正極活物質層製造用組成物における本発明の複合粒子の配合量としては、固形分に対して、1〜10質量%の範囲内、3〜9質量%の範囲内、5〜8質量%の範囲内を例示できる。
また、正極活物質層製造用組成物における正極活物質の配合量としては、固形分に対して、80〜95質量%の範囲内、83〜93質量%の範囲内、85〜90質量%の範囲内を例示できる。正極活物質層製造用組成物における結着剤の配合量としては、固形分に対して、0.5〜10質量%の範囲内、1〜5質量%の範囲内、2〜4質量%の範囲内を例示できる。正極活物質層製造用組成物における導電助剤の配合量としては、固形分に対して、0.5〜5質量%の範囲内、1〜4質量%の範囲内、1〜3質量%の範囲内を例示できる。
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、公知のものを採用すればよく、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
非水溶媒としては、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、鎖状エステル、エーテル類等が使用できる。環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネートを例示でき、環状エステルとしては、ガンマブチロラクトン、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネートを例示でき、鎖状エステルとしては、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
電解質としては、LiClO4、LiAsF6、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2等のリチウム塩を例示できる。
電解液としては、フルオロエチレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3などのリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
本発明のリチウムイオン二次電池の具体的な製造方法について述べる。
例えば、正極と負極とでセパレータを挟持して電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極の積層体を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までを、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、例えば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
以下に、各種の具体例を示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの具体例によって限定されるものではない。
(実施例1)
Li源としてLi2O及びFe源としてFe2O3を、モル比で5:1となるように秤量し、遊星ボールミルに投入した。さらに、有機添加剤であるステアリン酸リチウムを、Li2O及びFe2O3の合計量に対して2質量%に相当する量を秤量して、遊星ボールミルに投入した。遊星ボールミルを自転速度800rpm及び公転速度800rpmで作動させて、Li2O、Fe2O3及びステアリン酸リチウムを、得られる粒子の径が10μm以下となるまで粉砕混合した。
粉砕混合されたLi2O、Fe2O3及びステアリン酸リチウムの混合物を、ロータリーキルン型の反応器に配置した。次いで、アルゴン雰囲気下、混合物を600℃で60分間加熱して、Li5FeO4を合成した。続いて、ヘキサン−アルゴン混合ガスの通気下にて、700℃、45分間の条件で熱CVDを行い、Li5FeO4の表面に被覆層を形成させて、実施例1の複合粒子を製造した。
なお、Li5FeO4の合成及び複合粒子の製造の間は、ロータリーキルン型の反応器を回転状態とした。
実施例1の複合粒子を6.7質量部、正極活物質としてLiNi82/100Co15/100Al3/100O2を69質量部、正極活物質としてLi(Fe0.25,Mn0.75)PO4を19.3質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを2質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを3質量部、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、固形分64質量%のスラリーとした。これを実施例1の正極活物質層製造用組成物とした。
(実施例2)
熱CVDの時間を60分間とした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の複合粒子及び正極活物質層製造用組成物を製造した。
(実施例3)
熱CVDの時間を75分間とした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の複合粒子及び正極活物質層製造用組成物を製造した。
(実施例4)
熱CVDの時間を100分間とした以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の複合粒子及び正極活物質層製造用組成物を製造した。
(参考例1)
熱CVDの時間を30分間とした以外は、実施例1と同様の方法で、参考例1の複合粒子を製造した。
(評価例1)
実施例1〜実施例4および参考例1の複合粒子につき、X線源をAlKα線とするX線光電子分光(XPS:X−ray Photoelectron Spectroscopy)を用いた表面分析を行った。
実施例1〜実施例4の複合粒子から得られたXPSスペクトルを基に、各複合粒子についてのC、Fe、LiおよびLi2CO3に由来するピークの面積を算出した。なお、上記XPSスペクトルのO 1S領域およびC 1s領域についてはフィッティングを行った。Cに由来するピークの面積としては、C 1s領域のピーク面積を採用した。Li2CO3に由来するピークの面積としては、C 1s領域の289〜291eV付近に出現する、CO3に帰属するピークの面積を採用した。Feに由来するピークの面積としては、O 1s領域の529〜530eV付近に出現する、Fe−Oに帰属するピークの面積を採用した。Liに由来するピークの面積としては、Li 1s領域のピーク面積を採用した。C、Fe、LiおよびLi2CO3に由来するピークの面積と、熱CVD時間との関係を表すグラフを図1に示し、Li2CO3に由来するピークの面積と熱CVD時間との関係を表すグラフを図2に示す。なお、図1および図2に示すグラフは、横軸に熱CVD時間をとり、縦軸にピーク面積をとったものであり、図2は縦軸すなわちピーク面積を拡大したものである。
既述したように、熱CVD時間は、実施例1で45分間、実施例2で60分間、実施例3で75分間、実施例4で100分間と、実施例1→実施例2→実施例3→実施例4の順に長くなっている。図1および図2に示すように、熱CVD時間が長くなるにつれて、複合粒子表面のFe量およびLi量は低減し、かわりにC量およびLi2CO3量は増大している。この結果から、熱CVDによってLi5FeO4の表面に炭素を含む被覆層が形成されたこと、および、当該被覆層は炭素以外にもLi2CO3を含むこと、が裏付けられる。
ところで、熱CVDの時間が過小であると、Li5FeO4の表面に形成される被覆層の量が少なくなり、Li5FeO4の表面が露出し易くなる。
実施例4の複合粒子について取得したXPSスペクトルのO 1s領域において、Fe−Oに由来するピークの面積は、C−Oに由来するピークの面積よりも小さかった。これに対して、参考例1の複合粒子について取得したXPSスペクトルのO 1s領域では、Fe−Oに由来するピークの面積は、C−Oに由来するピークの面積よりも大きかった。
この結果は、参考例1の複合粒子では、Li5FeO4の表面のうち被覆層で覆われていない部分が比較的多く、Li5FeO4の表面が露出していること、および、参考例1よりも長時間熱CVDを行って得られた実施例4の複合粒子では、Li5FeO4の表面の多くの部分が被覆層で覆われていることを示唆する。
XPSスペクトルにおける各ピークの面積および各元素の相対感度係数を基に、実施例1〜実施例4の複合粒子の表面における各元素の存在比率を算出した。なお、ここでは、FeについてはFe 2p領域、LiについてはLi 1s領域、CについてはC 1s領域、OについてはO 1s領域のピーク面積を各々採用した。結果を表1に示す。
表1に示す結果から、熱CVDにより得られた実施例1〜実施例4の複合粒子の表面には、鉄、リチウム、炭素および酸素が存在することがわかる。また、複合粒子の表面に存在する被覆層は、炭素だけでなくリチウムおよび酸素を含むともいえる。
更に、表1に示す結果から、複合粒子の表面における炭素の存在比率の好ましい範囲として、20〜60原子%、25〜60原子%、30〜60原子%、35〜60原子%、40〜60原子%、および、45〜60原子%の各範囲が挙げられる。複合粒子の表面におけるリチウムの存在比率の好ましい範囲として、20〜55原子%、20〜50原子%、20〜45原子%、および、20〜40原子%の各範囲が挙げられる。複合粒子の表面における酸素の存在比率の好ましい範囲として、10〜17.5原子%、10〜17原子%、10〜16.5原子%、および、10〜16原子%の各範囲が挙げられる。複合粒子の表面における鉄の存在比率の好ましい範囲として、0.1〜1.2原子%、0.1〜1.1原子%、および、0.1〜1原子%の各範囲が挙げられる。
なお、各複合粒子から得られたXPSスペクトルでは、Li5FeO4の表面に形成された被覆層に阻害されて、Li5FeO4に含まれる元素のピーク強度が、実際よりも低い値として顕れる場合がある。特に、Feについては、ピーク位置710eV付近のFe2pの光電子の運動エネルギーが弱いために、実際よりも低い値となる傾向がある。
(評価例2)
実施例1〜実施例3の正極活物質層製造用組成物につき、製造直後と、室温密閉状態で製造から24時間、48時間、72時間、96時間、120時間、144時間、および168時間経過後に、粘度を測定した。粘度は、ブルックフィールドB型粘度計DV−II +Proにて、スピンドル64を用い、スピンドル回転速度20rpm、室温の条件で測定した。粘度が50000mPs・sを超えた場合に、スラリー状の正極活物質層製造用組成物がゲル化した、と判断した。正極活物質層製造用組成物がゲル化したと判断されるまでに要した時間を表2に示す。
表2に示す結果から、熱CVDの時間を長くかけることで、正極活物質層製造用組成物がゲル化し難くなるといえる。熱CVDの時間が長ければ、当然ながら被覆層のうち炭素相が多く生成し、被覆層が厚く形成されると考えられる。また、熱CVDの時間が長ければ、Li5FeO4と炭素との接触頻度が高まり、その結果、反応生成物であるLi2CO3相が被覆層中により多く生成するとも考えられる。これらの協働によって、Li5FeO4が外界からより確実に遮断され、正極活物質層製造用組成物に含まれる溶剤等とLi5FeO4との接触頻度が低減し、その結果、正極活物質層製造用組成物のゲル化がより一層抑制されたものと推測される。
この結果から、熱CVDの温度が実施例1〜実施例4のように700℃である場合、熱CVDの時間が45分以上であれば、被覆層が十分に形成され、正極を製造するのに十分な程度にまで正極活物質層製造用組成物のゲル化が抑制されるといえる。Li2CO3の生成温度は650℃以上と考えられるため、熱CVDの温度が650℃以上である場合の熱CVDの時間の好ましい範囲として、45〜60分間、50〜60分間の各範囲を挙げ得る。
(参考例2)
Li源としてLi2O及びFe源としてFe2O3を、モル比で5:1となるように秤量し、遊星ボールミルに投入した。さらに、有機添加剤であるステアリン酸リチウムを、Li2O及びFe2O3の合計量に対して2質量%に相当する量を秤量して、遊星ボールミルに投入した。遊星ボールミルを自転速度800rpm及び公転速度800rpmで作動させて、Li2O、Fe2O3及びステアリン酸リチウムを、得られる粒子サイズが10μm以下となるまで粉砕混合した。
粉砕混合されたLi2O、Fe2O3及びステアリン酸リチウムの混合物を、ロータリーキルン型の反応器に配置した。次いで、アルゴン雰囲気下、混合物を600℃で60分間加熱して、Li5FeO4を合成した。続いて、ヘキサン−アルゴン混合ガスの通気下にて、700℃、40分間の条件で熱CVDを行い、Li5FeO4の表面に被覆層を形成させて、参考例2の複合粒子を製造した。
なお、Li5FeO4の合成及び複合粒子の製造の間は、ロータリーキルン型の反応器を回転状態とした。
参考例2の炭素被覆Li5FeO4のBET比表面積は3.5m2/gであった。炭素・硫黄分析装置を用いて、参考例2の炭素被覆Li5FeO4に対して、炭素を対象とした元素分析を行ったところ、炭素の量は2.0質量%であった。また、粉体抵抗率測定システム(株式会社三菱アナリテック)を用いて、参考例2の炭素被覆Li5FeO4に対して、4kNの荷重をかけた上での体積抵抗値を測定したところ、4.3Ωcmであった。
参考例2の炭素被覆Li5FeO4を90質量部、導電助剤としてアセチレンブラックを5質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデンを5質量部、及び、適量のN−メチル−2−ピロリドンを混合して、スラリーとした。集電体としてアルミニウム箔を準備し、これにスラリーを塗布して、乾燥することで参考例2の正極を得た。
リチウム箔を準備し、これを負極とした。セパレータとしてガラスフィルター(ヘキストセラニーズ社)及び単層ポリプロピレンであるcelgard2400(ポリポア株式会社)を準備した。また、エチレンカーボネート3体積部、エチルメチルカーボネート3体積部及びジメチルカーボネート4体積部を混合した溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解した電解液を準備した。負極、ガラスフィルター、celgard2400、参考例2の正極の順に、2種のセパレータを、負極と参考例2の正極で挟持し電極体とした。この電極体をコイン型電池ケースCR2032(宝泉株式会社)に収容し、さらに電解液を注入して、密閉型のコイン型電池を得た。これを参考例2のリチウムイオン二次電池とした。
(参考比較例1)
熱CVDを行わなかった以外は、参考例2と同様の方法で、炭素被覆していない参考比較例1のLi5FeO4、正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
(参考評価例1)
各リチウムイオン二次電池につき、電流0.1mAにて電圧が4.4Vとなるまで充電した。その結果、参考例2のリチウムイオン二次電池の充電容量は、805mAh/gであり、参考比較例1のリチウムイオン二次電池の充電容量は、551mAh/gであった。炭素被覆により、充電容量が増加することが裏付けられた。