JP2020037079A - 脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料からのhatsの分離方法及び分析方法並びに脱硫装置の運用方法 - Google Patents

脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料からのhatsの分離方法及び分析方法並びに脱硫装置の運用方法 Download PDF

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Abstract

【課題】脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATSを迅速かつ容易に分離する。また、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATS濃度を迅速かつ容易に管理する。さらに、HATS濃度の上昇を抑制する脱硫装置の運用を可能とする。【解決手段】脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集し、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATSを分離回収し、HATSの重量、反射度合い、着色度合いなどからHATS濃度を簡便かつ迅速に求め得るようにしている。【選択図】なし

Description

本発明は、ヒドロキシルアミントリスルホン酸(以下、本明細書ではHATSと略称する)の脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料からの分離方法及びHATSの分析方法並びに脱硫装置の運用方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、火力発電所の排煙脱硫装置から排出される脱硫排水中のHATSの分離及び分析に好適な分離方法及び分析方法並びに脱硫装置の運用方法に関する。
火力発電所の脱硫排水処理系統では、有機物系COD成分の処理には活性炭充填塔が、ジチオン酸の処理にはイオン交換樹脂が導入されるが、しばしば既存の排水処理設備では処理しきれない原因不明のCOD上昇事象が発生しており、有効な対策を講じることができない場合があることが問題となっている。この問題は、使用炭種の多様化や運転条件の変更、規制強化などに伴って、状況が深刻化することが危惧されており、原因物質を特定する計測技術や対策技術の確立が求められている。
そこで、本発明者等が有機物系COD成分やジチオン酸に起因しない脱硫排水の原因不明のCOD上昇について種々研究・実験を行ったところ、排煙脱硫設備にて反応生成したNS化合物が原因であることを見出した(例えば、非特許文献1,2)。脱硫装置内で生成する可能性のあるNS化合物は8種であり(表1、図2参照)、5種のヒドロキシルアミン系NS化合物と3種のスルファミン系NS化合物に大別されるが、その内のヒドロキシルアミン系NS化合物がCODに影響を与える(例えば、非特許文献3)。なかでも、HATSが排煙脱硫装置の脱硫吸収液中に最も蓄積され、濃度が高くなることに大きな影響が与えられたものと思われる。HATSは、図2の生成経路に示したように、脱硫吸収液内で亜硫酸水素イオン(HSO )と亜硝酸イオン(NO )の反応生成物であるヒドロキシルアミン-N, N-ジスルホン酸(Hydroxylamine-N,N-disulfonic acid,HADS)を出発物質として経由した後に生成され、脱硫吸収液および脱硫排水が中性からアルカリ性である場合、加水分解が抑制されるため、他のヒドロキシルアミン態化合物に変化せず、HATSの形態を維持すると考えられている。このことから、HATSがCOD上昇の主要因と推測される(非特許文献1)。
従来、CODの測定は日本工業規格(JIS K 0102 17)に記載された公定法により行われているが、脱硫排水中に複数のCODに影響を与える成分・物質が含有されている場合には、個々のCOD成分に分別してCODを検出することはできず、物質の全濃度としてCODが検出されることから、NS化合物を分別して分析するには一週間くらい時間を要する、という問題がある。そこで、JIS K 0102で記載されたCOD分析法の前処理を複数組み合わせ、ヒドロキシルアミントリスルホン酸を含むNS化合物に起因するCODを測定する方法が提案されている(特許文献1)。即ち、JISに基づく公定法により得られるJIS法COD値に塩素起因COD値を足してNS化合物除去COD値を引くことによりNS化合物起因COD値を求めることが提案されている。
また、脱硫排水中のNS化合物を分析する方法として、イオンクロマトグラフィーを用いる方法が提案されている(例えば、非特許文献1,2)。この分析手法は、イオンペアクロマトグラフィーにおいて、溶離液を移動相とする一方、イオン交換体などを固定相として充填カラム内で試料溶液中のイオン種成分を分離し、定量する方法であり、溶離液の組合せによってHATSの分析を可能とするものである。
特開2008−76338号公報
青田新, 大山聖一. 難処理性COD成分としてのNS化合物の管理技術−NS化合物の合成および分析条件検討、脱硫排水中NS化合物の特定−. 電力中央研究所 研究報告 V14002. 平成27年4月発行 青田新,大山聖一,難処理性COD成分としてのNS化合物の管理技術(その2)−NS化合物分析の迅速・高感度化",電力中央研究所報告, V15007, (2016). 青田新, 正木浩幸, 大山聖一. 脱硫排水中難処理性COD成分としてのNS化合物に関する文献調査−生成機構および処理技術、測定技術−. 電力中央研究所 調査報告 V13301. 2013.
しかしながら、特許文献1のCOD分析方法では、公定法のCOD分析法の前処理を複数組み合わせ、即ち、JIS法COD値(A)、塩素起因COD値(E)、NS化合物除去COD値(C)を組み合わせてNS化合物起因COD値(Y)を求めることから、簡便性・迅速性の点で劣る。
また、イオンクロマトグラフィーを利用するNS化合物の分析方法では、高感度で各NS化合物種を測定できるが、高価な装置が必要であり、現場導入が難しい上に、定量するためには標準試料が必要である。しかし、HATSは標準試料が市販されていないことから、合成する必要があり、発電所の現場でイオンクロマトグラフィーを利用することはコスト面の課題も含めて困難である。しかも、イオンクロマトグラフィーでは、脱硫排水中のHATSを簡易かつ迅速に分析することができないので、不定期に起こる脱硫排水中のCOD上昇を回避するための脱硫装置や排水処理の運用を困難にさせている。
つまり、現状の分析方法では、脱硫排水中のHATS濃度を簡易かつ迅速に分析して管理することが困難であるため、未然にHATS濃度の上昇を防ぐ対応を採ることができない。そのため、脱硫排水のHATSに起因するCODが上昇した時に、排水処理で十分に低減することが困難となる場合があるという問題がある。
本発明は、脱硫排水中のHATSを迅速かつ容易に分離することができる分離方法を提供することを目的とする。本発明は、脱硫排水中のHATS濃度を迅速かつ容易に管理することができる簡易な分析方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、HATS濃度の上昇を抑制する脱硫装置の運用方法を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、脱硫排水試料からのHATSの分離方法は、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集し、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATSを分離回収するようにしている。
また、本発明にかかるHATSの分析方法は、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集すると共に、フィルタを乾燥させて重量を測定し、HATS濃度を求めるようにしている。
また、本発明にかかるHATSの分析方法は、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集すると共に、フィルタをガラス板状に静置し、不溶性粒子が乾燥する前の湿潤状態にて、ガラス板を介してフィルタの裏側から分光反射率を測定し、分光反射率から算出された色差(△E*ab)とHATS濃度との相関関係を示す検量線に基づいて、HATS濃度を求めるようにしている。
さらに、本発明にかかるHATSの分析方法は、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集すると共に、フィルタ上の不溶性粒子を乾燥させてあるいは湿潤状態でHATS濃度を目視判断による着色度合いより求めるようにしている。
また、本発明にかかる脱硫装置の運用方法は、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATS濃度を定期的に分析し、HATS濃度が上昇したときに吸収塔循環タンクへの酸化空気導入量または脱硫吸収液のpHあるいは液ガス比を調整して吸収液中の亜硫酸水素イオンを減らすようにしている。
請求項1記載の発明によれば、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物が脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液中のHATSと選択的に反応して不溶性粒子を生成させるので、不溶性粒子をフィルタで捕集すれば、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATSを簡単にかつ迅速に分離回収することができる。
さらに、フィルタで捕集された不溶性粒子の重量、反射度合い、着色度合いなどから濃度を簡便かつ迅速に求めることができる。例えば、フィルタで脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液をろ過して不溶性粒子を捕集して、フィルタを乾燥させて重量を測定することにより、HATS濃度を求めることができる。また、フィルタをガラス板状に静置し、不溶性粒子が乾燥する前の湿潤状態にて、ガラス板を介してフィルタの裏側から分光反射率を測定し、分光反射率から算出された色差(△E*ab)とHATS濃度との相関関係を示す検量線に基づいて、HATS濃度を求めることができる。さらには、フィルタ上の不溶性粒子を乾燥させてあるいは湿潤状態でHATS濃度を目視判断による着色度合いより求めることができる。
依って、本発明のHATSの分析方法によれば、イオンクロマトグラフィーのような高価な装置や標準試料も必要とせずにHATS濃度を簡易かつ迅速に求めることができる。しかも、不溶性粒子をフィルタで捕集して不溶性粒子の重量、反射度合い、着色度合いなどから濃度を求めるだけなので、従来の分析法に比べて簡便性・迅速性の点で優れている。特に、本実施形態の拡散反射法による場合、重量法や目視定量法よりもさらに短時間で分析を完了することができる。
また、本発明の脱硫装置の運用方法によれば、脱硫装置から一部抜き出された脱硫吸収液試料あるいは脱硫排水試料中のHATS濃度を測定し、HATS濃度が上昇した場合に、脱硫装置の酸化空気導入量または脱硫吸収液のpHあるいは液ガス比を調整する運用により、NS化合物の出発物質の生成に関与する亜硫酸水素イオン濃度を減少させて、ひいては脱硫排水のHATSに起因するCODが上昇することを未然に防止することができる。即ち、本発明は、NS化合物の出発物質であるHADSをつくらないようにしてHATS濃度を低減させるように脱硫装置を運用することができる。
火力発電所の排煙脱硫装置の原理図である。 NS化合物の反応経路図である。 6種のNS化合物の沈殿物生成状況を示す説明図である。 リン酸水溶液における沈殿物生成とpHとの関係を示す説明図である。 NATS量に対するヘキサアンミンコバルト(III)塩化物の添加量と沈殿物重量の影響を示すグラフある。 イオンクロマトグラフィーと重量法のHATS測定の相関を示すグラフである。 実排水中HATS濃度をイオンクロマトグラフィー及び重量法で測定した結果の相関を示すグラフである。 拡散反射法の測定条件を示す図で、(A)が条件1、(B)が条件2を表す。 2枚のスライドガラス間に保持したフィルター(条件1)をHATS濃度(単位:mg/L)毎に示す説明図で、左から0,10,20,50,80,110,140である。 1枚のスライドガラス上に保持したフィルター(条件2)をHATS濃度(単位:mg/L)毎に示す説明図で、左から0,10,20,50,80,110,140である。 条件1で作製した測定試料を白下地にて測定した分光反射率を示すグラフである。 条件1で作製した測定試料を黒下地にて測定した分光反射率を示すグラフである。 条件1で作製した測定試料を下地無しにて測定した分光反射率を示すグラフである。 条件2で作製した測定試料を乾燥する前に測定した分光反射率を示すグラフである。 条件2で作製した測定試料を乾燥後に測定した分光反射率を示すグラフである。 波長700nmにおける測定試料のHATS濃度と反射率の関係を示すグラフである。 25mLの模擬排水試料より作製した条件2の測定試料におけるHATS濃度と色差の関係を示すグラフである。 実排水中HATSをイオンクロマトグラフィーおよび拡散反射法で測定した結果の相関を示すグラフである。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1に、火力発電所の排煙脱硫装置の実施形態の一例を示す。この排煙脱硫装置は、例えば、吸収塔循環タンク1の底部に貯めた吸収液2を頂部の散水管3から散布して、吸収塔循環タンク1内を上昇する排煙4と吸収液の液滴5とを向流接触させることによって、排煙中のSOxやNOxを吸収液に取り込んで回収するようにしている。即ち、吸収塔循環タンク1の底部に貯留した吸収液2をポンプ6で塔上部まで運んで散水管3から散水し、塔内に導入される排煙4と接触させ、排煙中のSOxを吸収液に取り込んで回収するようにしている。その際、排煙中のNOxの一部も吸収液に回収される。一方、清浄となった排煙を処理排煙7として頂部出口8から排出させる構造としている。
吸収液2に吸収されたSOxは、吸収塔循環タンク1の底部に供給される酸化空気9とタンク底部で接触して石膏にされると共に、循環路10の途中から一部抜き出されて石膏脱水機12でろ過させられ石膏13だけが回収される。他方、ろ液14はろ過水タンク15に戻されてポンプ16で再び石灰石スラリータンク19に還流される。還流されるろ過水17の一部は、そのまま脱硫排水18として放流される。石灰石スラリータンク21に還流されたろ過水17には石灰石20が補給されて所定のpHに調整されてから、ポンプ22で吸収塔循環タンク1に還流吸収液23として戻される。尚、図中の符号11は吸収塔循環タンク1の底部に貯留された吸収液2とそこに吹き込まれる酸化空気とを攪拌する攪拌モータである。
このような排煙脱硫装置から排出される脱硫排水18には、排煙脱硫装置の脱硫吸収液2中で生成されるNS化合物が含まれることがある。このNS化合物は、脱硫排水中のCOD上昇の原因となる。また、NS化合物が脱硫設備内のSOxガス吸収液中に多量に混在すると、脱硫性能が極度に低下することから、SOxガス吸収液中のNS化合物濃度を下げることが望ましい。そこで、本発明者等は、さらに排水処理設備を備えて脱硫排水からNS化合物を除去するのではなく、NS化合物の出発物質であるHADSをつくらないように脱硫装置を運用してHATS濃度を低減させることを着想したものである。そして、そのような運用を実現可能とするために、吸収塔循環タンク1の底部に貯めた吸収液2の中で生成されるNS化合物の濃度を簡易かつ迅速に求め得る、脱硫排水試料からのHATSの分離方法並びにHATSの分析方法を開発するものである。
かかる目的を達成するため、本発明者等が種々実験・研究した結果、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集し、脱硫排水試料中のHATSを簡易にかつ迅速に分離回収し得ることを知見するに至った。そして、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中から不溶性粒子としてフィルター上に分離回収したHATSの重量、反射度合い、着色度合いなどからHATS濃度を簡便かつ迅速に求め得ることを知見するに至った。
即ち、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中の各種NS化合物の中からHATSと選択的に結合して沈殿物を生成する試薬を添加して反応させ、脱硫排水をフィルタでろ過して生成した沈殿物即ち不溶性粒子を捕集すれば、不溶性粒子の重量、反射度合い、着色度合いなどから濃度を簡便かつ迅速に求めることができる。例えば、重量法、拡散反射法、目視定量法を適用して不溶性粒子の量を簡易に測定することができる。
これまでの排出実態調査により、NS化合物の中でも高濃度で生成する傾向が強かったNS化合物種はHATSであった。また、COD上昇の主要因と推測されるHATSは、排煙脱硫装置の脱硫吸収液中に最も蓄積され、濃度が高くなる。このことから、測定対象をHATSとし、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATSと選択的に結合して沈殿物を生成する試薬を反応させ、生成した沈殿物を重量法および拡散反射法によって検出することでHATS濃度を求めるに至った。そして、HATSの濃度を簡易かつ迅速に求め、HATS濃度が一定値以下に抑制されるように排煙脱硫装置の運用をすることによって、SOxガス吸収液中のNS化合物濃度を下げることで脱硫設備の脱硫性能が極度に低下することを防ぐと共に脱硫排水のCOD上昇を抑制するようにしている。
ここで、HATSの不溶性粒子の生成において妨害成分となるものが脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中に存在しないことが必要である。具体的には、HATS以外のNS化合物がHATSの不溶性粒子の生成を阻害しないことが必要である。この阻害要因について確認するため、脱硫排水を模擬した水溶液(模擬排水)に6種のNS化合物(HADS,HAODS,HAOMS,AS,IDS,HATS)をそれぞれ溶解し、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子の生成を試みた結果、HATSとの間でのみ不溶性粒子が生成されることが明らかにされた。尚、ニトリロトリスルホン酸(NTS)は加水分解速度が極めて速く、排水中で検出されないことから、分析を省略した。また、HAMSについても、HAOMSと近似した性質であるため、ほぼ同様の結果を示すと予想されることから分析を省略した。
また、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物は三価の陽イオンであり、三価の陰イオン(リン酸イオン)と反応し易いと思われる。リン酸イオンはpHによって価数が変化する。そこで、pHが異なるリン酸水溶液にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子の生成の有無について検討した。pHと価数との関係を実験結果から、pH12のリン酸水溶液の場合にのみ沈殿物が生成された。一方で、脱硫吸収液の中にはカルシウムが含まれている場合がある。石灰石石膏法が脱硫法の主流であるが、石灰石(カルシウム分)とリン酸が反応して沈殿物を生成するので、実際の吸収液にはリン酸は殆ど含まれてない。依って、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物がHATSとの間に不溶性粒子を生成するのを妨害する成分は存在しないことが判明した。
そこで、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料に、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加し、攪拌して溶解し、溶解後適宜時間例えば10分間程度静置し、生成した不溶性粒子を吸引ろ過により親水性フィルター例えばPTFEフィルタ上に捕集する。ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物とHATSとは、攪拌して溶解された後、静置されることで、次に示すように、1対1の錯体を形成する。
Co(NH 3++(SO)ON(SO 3−
⇒[Co(NH 3+][(SO)ON(SO 3−
ここで、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物の添加量は、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料に含まれるHATSの全量と選択的に反応してHATSの不溶性粒子を生成することが必要である。したがって、等量よりも多めに添加することが望まれるが、その反面分析コストを低減するためには試薬量を極力減らすことが望まれる。本発明者等の実験によれば、少なくとも2倍等量以上を添加すれば、ほぼ全てのHATSが反応したことから、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物の添加量は少なくとも2倍等量とすることが好ましい(分析結果に影響を与えない)。
[HATS濃度と不溶性粒子量の関係(重量法あるいは目視定量法)]
HATS濃度が異なる模擬排水および実排水に、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して、生成した不溶性粒子を吸引ろ過にてフィルター上に捕集した結果、濃度が高くなるにつれて不溶性粒子の量が増え、色が濃くなる様子が観測された。そして、重量法により測定したHATS濃度は、精密に濃度を測定できるイオンクロマトグラフィーによる測定値と高い相関を示した(図6,7参照)。また、HATS濃度が高くなるにつれて沈殿物量が増加し、重量が増えさらには色が濃くなることがわかる(図9,10参照)。このことから、沈殿物の重量を測定して検量線を用いれば、あるいはHATS濃度判定スケールを用意しておいて用いれば容易に目視判断が可能であることが判る。尚、目視定量法の場合、フィルター上に捕集された不溶性粒子は、必ずしも乾燥させることが条件ではなく、湿潤(未乾燥)状態のまま色味判定に供しても良い。ただし、乾燥状態と湿潤状態とで色味は異なるため、乾燥状態用の色見本と湿潤状態用の色見本は、それぞれ必要になる。
しかも、重量法あるいは目視定量法による場合、例えば排水中懸濁物質のろ過(5分)、不溶性粒子の生成反応(12分)、不溶性粒子の吸引ろ過(2分)、乾燥(自然乾燥で60分)、重量測定(3分)あるいは目視定量(1分)で、合計80分〜82分程度の分析時間で済む。
[HATS濃度と不溶性粒子量の関係(拡散反射法)]
拡散反射法による場合、脱硫排水試料中の不溶性粒子をフィルターで濾してフィルター上に捕集したものを、フィルタをガラス板状に静置し、不溶性粒子が乾燥する前の湿潤状態にて、ガラス板を介してフィルタの裏側から分光反射率を測定し、色差(△E*ab)とHATS濃度との相関関係を示す検量線(例えば、図17)に基づいて、HATS濃度を求めることができる。
検量線は、例えば次のようにして求められる。まず、HATS濃度が異なる模擬排水に、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して、生成した不溶性粒子を吸引ろ過にてフィルター上に捕集する。次いで、フィルターをガラス板上に静置し、不溶性粒子が乾燥する前の湿潤状態にて、ガラス板を介してフィルターの裏側から分光反射率を測定する。色差(△E*ab)とHATS濃度との関係、即ち分光反射率からCIELAB色空間のL*、a*、b*の値を算出し、HATSを含まない模擬排水の試料から得られたL0*、a0*、b0*の値と、所定のHATS濃度に調整した模擬排水試料から得られたL1*、a1*、b1*の値から、色差(△E*ab)を導き出し、色差(△E*ab)とHATS濃度との相関関係を求めたところ、Box Lucasモデルでフィッティングできる検量線が得られた(図17参照)。
この拡散反射法による場合、湿潤状態で光照射する必要から、フィルタ上の不溶性粒子の乾燥時間が不要となるので、重量法や目視定量法よりもさらに短時間で分析を完了することができる。例えば、排水中懸濁物質のろ過(5分)、不溶性粒子の生成反応(12分)、不溶性粒子の吸引ろ過(2分)、反射率測定(1分)で合計20分程度の分析時間で完了することができる。
上述のHATS簡易分析法によれば、現場で活用可能なNS化合物の簡易分析技術が提供できる。しかも、脱硫排水中のHATSを簡易かつ迅速に分析することができるので、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATS濃度に対応させて迅速な脱硫装置や排水処理の運用を実施することができる。尚、HATS濃度の検出は、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料のいずれでも良いが、脱硫排水は貯槽にて別の排水と混合されて希釈されることから、吸収液中のHATS濃度を検出するほうがより好ましい。
本発明者等は、これまで、NS化合物の排出実態を調査したところ、CODの上昇時にNS化合物が生成する場合があることを見出した。さらに酸化還元電位(ORP)が低い場合にNS化合物が生成する傾向があり、ORPが高い場合はNS化合物が生成しないという負の相関も見出した。これは、NS化合物の生成に関与する亜硫酸水素イオン濃度がORPと負の相関となる傾向があるため、NS化合物生成とORPの負の相関が観測されたと思われる。このことから、ORPを高くすることでNS化合物を抑制できることを知見するに至った。
しかしながら、ORPは亜硫酸水素イオン濃度のみを反映した値を示すわけではなく、酸素を消費するような有機物等の影響も受けてしまう。また、ORPを高くしすぎると、酸化性物質であるペルオキソ二硫酸が生成し、活性炭やイオン交換樹脂の劣化促進や、生物学的窒素処理の微生物の活性低下や死滅、凝集沈殿で処理が困難な6価セレンへの酸化を招く要因となる。そのため、NS化合物生成を抑制するためにORPを制御する場合、NS化合物の濃度を測定しながら適切に管理することが望まれる。
そこで、例えば、脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液中のHATS濃度を定期的に分析し、濃度が高い場合は、脱硫装置への酸化空気導入量を増やして脱硫吸収液の酸化還元電位を高くすることで、HATSの生成要因となる亜硫酸水素イオンや亜硝酸イオンの濃度を低減できる。即ち、HADSは出発物質であり、脱硫排水中の化学条件によって、酸化反応や還元反応、加水分解反応を経て他のNS化合物へと変化する(図2参照)。このため、酸化空気導入量を増やして、HADSの生成要因である亜硫酸水素イオン(HSO )や亜硝酸イオン(NO )の濃度を低減すれば、HADSひいては最も生成量の蓄積量が多くなるHATSや他の3種類のNS化合物の全てが抑制されることとなる。つまり、HATS濃度が上昇した時に酸化空気導入量を増やすという脱硫装置の運用により、HATSによる脱硫排水のCOD上昇を抑制することができる。
尚、実運転においては、ポンプの運転コストを下げるという要求があるために、できるだけ無駄に酸化空気導入量を増やすことはしたくない。最小限の酸化空気導入量に抑えることが望まれる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では、吸収塔循環タンク1の底部の脱硫吸収液2の中の亜硫酸水素イオンの低減を図るため、酸化空気9の導入量を増やすようにしているが、これに特に限られず、脱硫吸収液のpHまたは液ガス比を調整する運用も効果的である。本発明者等は、NS化合物の出発物質であるHADSは、pHが5〜6で生成しやすく、pHが6.5〜8.0では生成しにくいことを見出した。このことから、脱硫吸収液のpHを高くすることでNS化合物生成を抑制できることを知見するに至った。
ヘキサアンミンコバルト(III)が6種のNS化合物の中から選択的にHATSと不溶性沈殿物を生成し、その沈殿物を重量法あるいは拡散反射法、目視定量法で測定可能であることについて、実験して確認した。
[材料と方法]
[試薬]
ヒドロキシルアミン−O−スルホン酸(HAOMS)とアミドスルホン酸(AS)以外は市販されていないため合成した。各NS化合物は、純度を100%と仮定した。標準試料は、各NS化合物およびジチオン酸ナトリウム二水和物、ペルオキソ二硫酸カリウムを超純水および水酸化カリウム水溶液に溶解し、所定の濃度に調製して用いた。表1に示すNS化合物のうち、ニトリロトリスルホン酸(NTS)は加水分解速度が極めて速く、排水中で検出されないことから、分析を省略した。HATSと反応して不溶性沈殿物を生成する試薬として、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物(CAS番号:10534−89−1)を用いた。ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物の添加により、HATSと反応してオレンジ色の沈殿物が生成する。
国内の3ユニットの石炭火力発電所より、石灰石−石膏法の脱硫装置の脱硫吸収液および脱硫排水を7種入手した。脱硫排水は0.45μm孔径のフィルターにてろ過した後に、各種分析に供した。また、脱硫排水を模擬した試料(模擬排水)として、Ca2+:1000mg/L、Mg2+:300mg/L、Na:100mg/L、Cl:2060mg/L、SO 2−:1000mg/Lに調製した水溶液を用いた。
[分析方法]
[重量法]
275mLの脱硫排水試料にヘキサアンミンコバルト塩化物を所定量添加し、攪拌して溶解した。溶解後、10分間静置し、吸引ろ過により47mm径の親水性PTFEフィルター(オムニポアメンブレンフィルター、JHWP04700、孔径0.45μm)上に捕集した。ガラスシャーレ上にてフィルターを100℃で1時間乾燥し、室温に自然冷却した後に、精密天秤にてガラスシャーレごと重量を測定した。ガラスシャーレとフィルターの重さは、予め精密天秤にて重量を測定し、差分を沈殿物の乾燥重量とした。ヘキサアンミンコバルトイオンは3価の陽イオン(Co(NH 3+)であることから、3価の陰イオンであるHATSと1対1の錯体を形成すると考えられる(Co(NH(SO)ON(SO 3−、分子量431.3)。HATS濃度は、測定した乾燥重量と1対1錯体の分子量から計算した。
[拡散反射法]
本実験で取り扱う沈殿物はオレンジ色を呈していることから、沈殿物量を測定する手法として、色を測定する分光学的手法が適用できると考えられる。家具や自動車、化粧品などに使用される粉体の色を定量的に測定する手法の一つに、拡散反射法が挙げられ、幅広い分野で活用されており、JISにも規格化されている。拡散反射法とは、対象となる粉体に光を照射し、反射した光の強度を波長毎に測定する方法である。測定値は白色板を用いて測定した反射光強度に対する割合であり、波長毎の分光反射率として測定される。
色の相違を定量的に議論する場合、均等色空間を用いて色差を用いる。そこで、分光反射率からCIELAB色空間のL*、a*、b*の値を算出し、HATSを含まない模擬排水の試料から得られたL0*、a0*、b0*の値と、所定のHATS濃度に調整した模擬排水試料から得られたL1*、a1*、b1*の値から、色差(△E*ab)を導き出し、検量線のデータとして用いた。
である。
拡散反射法による沈殿物の定量を検討する実験では、所定量の模擬排水試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を所定量添加し、攪拌して溶解した。溶解後、10分間静置し、吸引ろ過により25mm径の親水性PTFEフィルター(オムニポアメンブレンフィルター、JHWP02500、孔径0.45μm)上に捕集した。フィルターをガラス板に乗せたもの、あるいはフィルターを2枚のガラス板に挟んだものを測定試料とし、分光反射率を測定した。分光反射率測定には分光測色計(コニカミノルタ、CM−700d)を用いた。CM−700dは積分球を用いた拡散照明方式のdi:8°およびde:8°(JIS Z 8722の条件c)であり、波長360〜740nmの範囲を10nm間隔で測定する。観察光源は国際照明委員会により定義された標準光源であるD65とした。付属の高反射板を用いて白色校正し、試料の反射率を相対反射率として測定した。
[結果と考察]
[沈殿物生成の検討]
[HATSの沈殿物生成]
6種のNS化合物(HATS、HAODS、HADS、HAOMS、IDS、AS)について、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物添加による沈殿物生成を検討した。100 mg/LのNS化合物濃度となるように調製した275 mLの模擬排水にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を800 mg添加し、吸引ろ過してフィルター上に沈殿物を捕集した(図3参照)。HATSを含む模擬排水では、オレンジ色を呈した沈殿物が生成したのに対し、他のNS化合物では沈殿物は生成していなかった。そのため、HATS以外のNS化合物による沈殿物生成の妨害は無視できることが明らかとなった。
[リン酸イオンの沈殿物生成への影響]
3価の陽イオンであるヘキサアンミンコバルトイオンは、3価の陰イオンと結合しやすいと考えられる。脱硫排水中に含まれる可能性のある3価の陰イオンはリン酸イオンである。リン酸は多価イオンであり、0価から3価の陰イオンとして存在することができる。pHが高くなるにつれて水素イオンが解離し、価数が大きくなる。1つ目、2つ目、3つ目の水素イオンの解離におけるpKaはそれぞれ2.15、7.20、12.35である。リン酸が3価の陰イオンとなるには溶液がアルカリ性であると推測できる。リン酸イオンは水溶液中にカルシウムイオンがあると、不溶性のリン酸カルシウムの沈殿物が生成する。そこで、リン酸イオンの影響評価においては、リン酸イオン濃度が500mg/Lとなるよう、純水にリン酸イオンを添加し、pHを6〜12まで変化させた時の沈殿物の生成について検討した。275mLのリン酸水溶液に、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を3.45g(12.9mmol)添加し、沈殿物生成について検討した。その結果、pH6〜11においては沈殿物が生成しなかったが、pH12においてはオレンジ色の沈殿物が生成した(図4)。そのため、pHが11を超える条件ではリン酸イオンが妨害成分となることが示唆された。しかしながら、石灰石−石膏法の脱硫装置内では、吸収液に含まれるカルシウムイオンとリン酸イオンが反応し、リン酸カルシウムの沈殿物を生成するため、脱硫排水中にリン酸イオンはほとんど含まれない。また、脱硫排水処理の過程においても、通常の運用をしている限りpHが11を超えることはない。つまり、脱硫装置が通常に運用されているかぎり、リン酸イオンは妨害成分とはなり得ない。
[ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物の添加量の影響]
分析コストを低減するためには、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物の添加量を削減する必要がある。そこで、試料中のHATS量に対するヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を、等量、2倍等量、3倍等量となるよう添加し、沈殿物生成量への影響を評価した。イオンクロマトグラフィーで測定して決定したHATS濃度が91.0mg/Lの模擬排水試料275mL(HATS量:0.09mmol)に、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を27.2mg(0.10mmol)、54.4mg(0.20mmol)、81.6 mg(0.30mmol)添加した。生成した沈殿物の乾燥重量を図5に示す。ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を等量添加した場合、沈殿物重量は33.65 mgであったが、2倍等量と3倍等量においては、それぞれ38.94 mgと39.04 mgの沈殿物重量であった。この結果から、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物は、HATS量に対して2倍等量以上を添加すれば、分析結果に影響はないと考えられた。
[重量法の検討]
[模擬排水を用いた重量法の定量性評価]
HATSの濃度を10、20、40、60、80、100mg/Lとなるよう調整した275 mLの模擬排水試料に、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を3.45 g(12.9mmol)添加する条件にて、沈殿物の乾燥重量を測定した。沈殿物重量は3.34mg〜93.51mgの範囲で測定された。極微量の沈殿物量を測定するため、精密天秤による重量測定は値が安定するまで丁寧に測定した。模擬排水中のHATS濃度はイオンクロマトグラフィーでも測定し、重量法による測定結果と比較した(図6)。イオンクロマトグラフィーとの相関は高く、決定係数(R)は0.9945、傾きは1.013であった。傾きが1.0に近い値であることから、HATSとヘキサアンミンコバルト(III)イオンは1対1の錯体を形成していると考えられる。
[重量法の実排水への適用性評価]
これまでのNS化合物の排出実態調査では、HATS濃度が700mg/L(2.6 mM)程度まで上昇するケースがあった。そこでHATS濃度が1000mg/L(3.7mM)であっても測定できるよう、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物の添加量を3倍等量程度の800mgに設定し、重量法の実排水への適用性を評価した。
図7に、実排水についてイオンクロマトグラフィーおよび重量法にてHATSを測定した結果の相関を示す。沈殿物量は8.88 mg〜47.35 mgの範囲で測定された。イオンクロマトグラフィーとの相関は高く、決定係数(R)は0.9957、傾きは1.021であった。この結果から、生成した沈殿物の乾燥重量を測定することで実排水中のHATSを測定できることが示された。
[拡散反射法の検討]
分光反射率を測定するためには、吸引ろ過後のフィルターをろ過装置から取り外す必要がある。また、沈殿物を直接分光反射率測定装置に接触させることができない。そのため、ろ過装置から取り外したフィルターをスライドガラスの上に置き、もう1枚のスライドガラスではさんだものを測定試料とし、沈殿物側から照射して測定する条件(図8の条件1)と、ろ過装置から取り外したフィルターをスライドガラスの上に置いたものを測定試料とし、フィルターの裏側から照射して測定する条件(図8の条件2)について検討した。条件1については、測定試料の下地として、白色プラスチック板(白下地)と、黒色ゴム板(黒下地)を用いた場合と、下地が無い(下地無し)場合について分光反射率を測定した。分光反射率のHATS濃度依存を検討するため、HATSの濃度を0,10、20、50、80、110、140mg/Lとなるよう調整した模擬排水試料を用いた。条件1については、試料が乾燥する前に測定し、条件2については、試料の乾燥前、乾燥後の両者について測定した。
[測定試料の保持状態の検討]
50mLの模擬排水試料に、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を150mg添加する条件にて、沈殿物を生成し、吸引ろ過によりフィルター上に沈殿物を捕集した。図9および図10に、条件1と条件2で作製した測定試料を示す。
どちらの条件でも、HATS濃度が高くなるにつれて沈殿物量は増加し、色が濃くなっていることがわかる。条件1にて作製した試料は2枚のスライドガラスではさむ時、および測定時に印加される圧力により、捕集後の円形がくずれていることがわかる。一方、条件2で作製した測定試料は、捕集後の円形が保持されていることがわかる。また、本実験で使用した親水性PTFEフィルターは、湿潤状態では半透明であるのに対し(図9)、乾燥状態では不透明であることも確認された(図10)。
以上の検討から、測定試料の保持に関しては条件2がすぐれていることが明らかとなった。一方で、条件2ではフィルターの裏側から測定するため、湿潤状態で光照射する必要があることがわかった。
[光反射率の測定条件の検討]
排水試料量を300mL、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物添加量を900mgにして作製した条件1の測定試料について、白下地を用いた時の分光反射率を測定した結果を示す(図11)。HATS濃度が20mg/L以上では、600nm以上の波長の反射率が高いことがわかる。沈殿物がオレンジ色であることから、分光反射スペクトルの形状は妥当であると考えられる。HATS濃度が0および10mg/Lでは、全体的に反射率が高く、20mg/L以上で特徴的に測定された480nm付近の低反射率が測定されなかった。こは沈殿物量が少ないため、透過した光が白下地によって反射されたことに起因すると考えられる。そのため、白下地の条件では下地の光反射の影響により、沈殿物の反射率を正確に測定することは困難であると考えられた。
排水試料量を50mL、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物添加量を150mgにして作製した条件1の測定試料について、下地の光反射の影響が少ない条件である黒下地と下地無しにおける分光反射率を測定した結果を示す(図12,13)。白下地における測定結果と異なり、480nm付近の高い反射率は測定されておらず、下地の光反射の影響は低減された。
排水試料量を50mL、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物添加量を150mgにして作製した条件2の測定試料について、乾燥前及び乾燥後に分光反射率を測定した結果をそれぞれ図14と図15に示す。乾燥する前の測定では、条件1の黒下地や下地無しの時に測定した場合と同様な分光反射スペクトルを得た。一方で、乾燥後に測定した分光反射率は、全体的に高い反射率として測定された。これは乾燥状態ではフィルターが不透明になり、空気とフィルターの屈折率差が大きくなるため、散乱光が強くなったことに起因すると考えられる。一方で湿潤状態のフィルターは、水とフィルターの屈折率差が小さくなり、散乱光が弱く抑えられていると考えられる。そのため、沈殿物の反射率測定は湿潤状態で実施することが望ましいと考えられた。
下地やフィルターの光反射の影響が少ない測定試料である条件1の黒下地及び下地無し、条件2の乾燥前を対象に、HATS濃度、つまり沈殿物量と反射率の関係を検討した。図16に、波長700nmにおける各測定試料のHATS濃度と反射率の関係を示す。エラーバーは、測定箇所をずらして3回測定した標準偏差を表す。各HATS濃度に対する反射率は、いずれの条件でも近い値を示した。条件1における黒下地の反射率の誤差が、他の2条件に比べて大きくなっている。これは、測定試料に測定器を接触させる際に、重力による加重圧が試料に印加されることにより、沈殿物がばらついたためである。
以上の検討から、沈殿物の反射率測定は、湿潤状態であること、沈殿物以外の光反射の影響が少ないこと、捕集した沈殿物の形状を保持できること、の3条件を満たす必要があることが明らかとなった。前述の[測定試料の保持状態の検討]より、測定試料の保持は条件2が優れていることから、条件2の測定試料を湿潤状態で測定する条件が、最も誤差が少なくなると考えられた。
[模擬排水を用いた拡散反射法の検量線作成]
色差から検量線を作成する標準試料として、HATSの濃度を0、7、15、40、70、100 mg/Lとなるよう調整した模擬排水試料を用いた。模擬排水試料を25 mL、ヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を75 mg添加して条件2の測定試料を作製し、湿潤状態にて分光反射率を測定した。分光反射率から算出されたL*、a*、b*の値から色差を算出し、検量線を作成した(図17)。フィッティングにはBox Lucasモデルを用い、y = 40.509(1-e-0.0315x)が導かれた(R2 = 0.9968)。
[拡散反射法の実排水への適用性評価]
上述の検量線を用いて、実排水中のHATSをイオンクロマトグラフィーおよび拡散反射法で測定した結果の相関を図18に示す。イオンクロマトグラフィーとの相関は高く、決定係数(R2)は0.9953、傾きは0.941であった。この結果から、条件2の測定試料を湿潤状態で分光反射率を測定し、L*、a*、b*の値から色差を算出することで実排水中のHATSを測定できることが示された。
[結言]
以上、ヘキサアンミンコバルト(III)が6種のNS化合物の中から選択的にHATSと不溶性沈殿物を生成し、その沈殿物を重量法あるいは拡散反射法、目視定量法で測定可能であることが確認された。また、沈殿物を生成する妨害成分として、HATS以外の5種のNS化合物とリン酸イオンについて検討し、これらの成分が問題とならないことが確認できた。
重量法においては、模擬排水及び実排水にて、イオンクロマトグラフィーによる測定結果と良好な相関が得られた。今回試験した条件では、測定時間は約80分であった。
拡散反射法においては、色差を用いた検量線を作成した。実排水にて、イオンクロマトグラフィーによる測定結果と良好な相関が得られた。拡散反射法では、重量法における乾燥工程が不要であり、測定も簡便である。今回試験した条件では、測定時間は約20分であった。
また、フィルターに捕集した沈殿物は、図10に示すように、濃度が高くなるにつれて色が濃くなる様子が目視で確認できた。そのため、測定装置を使わない目視定量も可能であった。この場合、分析時間も短くすることができた。
1 吸収塔循環タンク
2 吸収液
9 酸化空気
11 攪拌モータ
18 脱硫排水

Claims (5)

  1. 脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集し、前記脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATSを分離回収することを特徴とする脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料からのHATSの分離方法。
  2. 脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集すると共に、前記フィルタを乾燥させて重量を測定し、HATS濃度を求めることを特徴とするHATSの分析方法。
  3. 脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集すると共に、前記フィルタをガラス板状に静置し、前記不溶性粒子が乾燥する前の湿潤状態にて、前記ガラス板を介して前記フィルタの裏側から分光反射率を測定し、前記分光反射率から算出された色差(△E*ab)とHATS濃度との相関関係を示す検量線に基づいて、前記HATS濃度を求めることを特徴とするHATSの分析方法。
  4. 脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料にヘキサアンミンコバルト(III)塩化物を添加して不溶性粒子を生成し、これをフィルタでろ過して捕集すると共に、前記フィルタ上の不溶性粒子を乾燥させてあるいは湿潤状態でHATS濃度を目視判断による着色度合いより求めることを特徴とするHATSの分析方法。
  5. 脱硫排水試料あるいは脱硫吸収液試料中のHATS濃度を定期的に分析し、前記HATS濃度が上昇したときに吸収塔循環タンクへの酸化空気導入量または脱硫吸収液のpHあるいは液ガス比を調整して前記脱硫吸収液中の亜硫酸水素イオンを減らすことを特徴とする脱硫装置の運用方法。
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