図1は、本発明の例示的な一の実施形態に係る塗布装置1の構成を示す図である。塗布装置1は、プリント基板、半導体基板等の各種基板である対象物9上に所定の塗布液を塗布する装置である。対象物9は、機械部品等であってもよい。塗布液は、例えば、各種接着剤(エポキシ、UV硬化等)、ハンダペースト、封止剤、アンダーフィル剤、グリース等である。
塗布装置1は、制御部10と、移動機構2と、塗布ヘッド3と、塗布液供給部4と、ノズル識別カメラ5とを含む。ノズル識別カメラ5は、塗布ヘッド3の所定位置を撮像する。制御部10は、例えば、CPU等のプロセッサを含むコンピュータであり、塗布装置1の全体制御を担う。また、制御部10は、吐出パラメータ決定部101と、記憶部102とを備える。吐出パラメータ決定部101は、コンピュータが所定のプログラムを実行することにより実現される。吐出パラメータ決定部101が、専用の電気回路により構築されてもよく、部分的に専用の電気回路が利用されてもよい。記憶部102は、制御部10に設けられるメモリ等により実現され、ノズル室情報Aと、補給流量情報Bとを記憶する。ノズル識別カメラ5、吐出パラメータ決定部101、ノズル室情報Aおよび補給流量情報Bの詳細については後述する。
移動機構2は、ステージ21と、ステージ移動機構22と、を含む。ステージ21は、対象物9を保持する。ステージ移動機構22は、塗布ヘッド3に対してステージ21を移動する。ステージ移動機構22によるステージ21の移動方向は、例えば、互いに垂直な2方向である。典型的には、これらの移動方向は、塗布ヘッド3による塗布液の液滴の吐出方向に垂直である。ステージ移動機構22は、ステージ21を吐出方向に平行な軸を中心として回転可能であってもよい。
塗布液供給部4は、塗布ヘッド3における後述の塗布液室36に塗布液を供給する。塗布液供給部4は、塗布液タンク41と、供給管42と、圧力調整部43と、を含む。塗布液タンク41は、塗布液を貯溜する。塗布液タンク41の内部は、密閉されている。供給管42の一端は、塗布液タンク41に接続され、他端は、塗布ヘッド3に接続される。すなわち、供給管42を介して、塗布液タンク41の内部と塗布ヘッド3の塗布液室36とが空間的に連続する。塗布液タンク41は、塗布ヘッド3よりも鉛直方向上方に配置される。圧力調整部43は、例えば圧力調整ポンプを含む。圧力調整部43により、塗布液タンク41内の圧力が、大気圧を含む圧力範囲内の任意の値に調整される。例えば、塗布液タンク41内の圧力は、大気圧よりも低い負圧に調整される。圧力調整部43を含む塗布液供給部4では、塗布液タンク41の位置は、塗布ヘッド3よりも上方には限定されず、塗布液タンク41は、所望の位置に配置可能である。
図2は、塗布ヘッド3を示す断面図である。図2では、後述の吐出口381の中心線C1を含む面における塗布ヘッド3の断面を示している。塗布ヘッド3は、本体部31と、ノズル部35とを備える。本体部31は、本体環状部32と、接液膜33と、加圧部34と、を含む。本体環状部32は、例えば金属等により形成され、中心線C1を中心とする環状部材である。接液膜33および加圧部34については後述する。ノズル部35は、例えば金属等により形成され、中心線C1を中心とする有底の環状部材である。本体環状部32において、中心線C1に垂直な一の面に、ノズル部35が取り付けられる。図2の例では、ノズル部35は、複数のボルト39により本体環状部32に固定される。後述するように、塗布装置1では、複数種類のノズル部35が準備されており、ボルト39の脱着により、ノズル部35の交換が可能である。本体環状部32とノズル部35との間には、塗布液室36を囲むシール部材(図示省略)が設けられており、本体環状部32とノズル部35との間から塗布液が外部に漏れ出すことが防止される。
本体環状部32の内径は、ノズル部35の内径とほぼ同じである。中心線C1に平行な方向において、本体環状部32の内周面はノズル部35の内周面とおよそ連続し、本体環状部32の内周面およびノズル部35の内周面は、塗布液室36の側面を形成する。塗布液室36は、塗布ヘッド3の内部空間であり、例えば中心線C1を中心とする円柱状空間である。塗布液室36には、塗布液が充填される。後述するように、塗布液室36内の塗布液には加圧部34により圧力が付与されるため、塗布液室36は、圧力室とも呼ばれる。塗布液室36の側面には、供給流路37の一端が設けられる。供給流路37の他端は、例えば、本体環状部32においてノズル部35とは反対側を向く面に設けられる。
塗布液室36の底面には、ノズル室38が設けられる。ノズル室38は、塗布液室36から連続する微細な流路である。ノズル室38は、ノズル部35に形成された塗布液室36の底部と連通している。ノズル室38は、中心線C1を中心とする略円柱状空間である。ノズル室38において塗布液室36とは反対側の開口、すなわち、ノズル室38の先端開口が、吐出口381となる。図2のノズル室38では、塗布液室36側から吐出口381に向かって流路の直径が漸次減少する。ノズル室38は、テーパ状の流路である。図2の例では、ノズル室38において直径が減少する割合、すなわち、ノズル室38の側面の傾斜角は一定である。ノズル室38における直径は、いずれの位置においても塗布液室36の直径に比べて十分に小さい。ノズル室38における直径の平均、すなわち、平均径は、例えば、0.05mm〜0.5mmの範囲内に含まれる。図2のように、テーパ状のノズル室38の場合、平均径は、例えば、塗布液室36側の開口の直径と、上記先端開口の直径との平均である。例えば、中心線C1に垂直なノズル室38の断面積の最大値は、塗布液室36の断面積の1/5倍以下であり、好ましくは、1/10倍以下である。
ノズル部35の外面における所定位置(以下、「表示位置」という。)には、ノズル部35を識別するための識別情報が形成される。例えば、識別情報は、凹凸パターンである。識別情報は、凹凸パターン以外に、表示位置に印刷された文字、図形、記号等であってもよい。塗布装置1では、ノズル室38の容積、形状等が異なる、複数種類のノズル部35が予め準備されており、複数種類のノズル部35では、互いに異なる識別情報が表示位置に形成される。
本体部31の接液膜33は、金属等により形成されるダイアフラムである。塗布液室36において、接液膜33は吐出口381に対向する。接液膜33は、塗布液室36における、底面に対向する面を形成する。塗布ヘッド3では、本体環状部32、接液膜33およびノズル部35により塗布液室36が形成される。接液膜33の塗布液室36側の表面は、塗布液室36内の塗布液と接触する接液面である。接液膜33の外縁部は、本体環状部32に固定される。ノズル室38および供給流路37を除き、塗布液室36は、本体部31およびノズル部35により密閉される。塗布ヘッド3では、塗布液室36内の塗布液に含まれる気泡を除去するための排出口等が、必要に応じて設けられてもよい。
加圧部34は、圧電素子341と、駆動回路342(図1参照)とを含む。圧電素子341は、接液膜33における接液面とは異なる面を加圧する。なおここでは、圧電素子341が直接、接液膜33を加圧する例を挙げて説明したが、これに限らず、圧電素子341が別部材を介して接液膜33を加圧してもよい。圧電素子341において接液膜33とは反対側の面は、図示省略の支持部材に固定される。駆動回路342は、圧電素子341に電気的に接続される。駆動回路342が圧電素子341に駆動信号を入力することにより、圧電素子341が伸縮動作を行い、接液膜33の撓み量が変化する。接液膜33が吐出口381に向かって撓む際に、塗布液室36内の塗布液に圧力が付与され、吐出口381から外部に塗布液の液滴が吐出される。このように、加圧部34は、塗布液室36内の塗布液を加圧することにより吐出口381から液滴を吐出させる吐出機構である。図1の塗布ヘッド3において加圧部34が接液膜33を撓ませる方向は、撓んでいない状態の接液膜33に直交する方向を含む。典型的には、駆動信号は、1つの液滴の吐出を指示する信号である。駆動信号の波形は、任意に決定されてよい。以下の説明では、単位時間当たりに圧電素子341に入力する駆動信号の個数を吐出周波数という。
図3は、塗布装置1における塗布動作の流れを示す図である。塗布動作では、まず、図1の吐出パラメータ決定部101において、対象物9に塗布すべき塗布液の補給流量が取得される(ステップS10)。対象物9に塗布すべき塗布液は、塗布液タンク41に貯溜されている、または、貯溜される予定の塗布液である。
ここで、補給流量を説明するために、塗布ヘッド3に対する塗布液の補給について説明する。塗布装置1では、塗布液タンク41から図2の塗布ヘッド3の塗布液室36までの間、すなわち、塗布液タンク41、供給管42、供給流路37および塗布液室36において、塗布液が隙間なく連続する。また、毛細管現象によりノズル室38内のおよそ全体に、塗布液が充填される。塗布ヘッド3からの液滴の吐出が行われていない待機状態では、吐出口381において塗布液の液面M(メニスカス)が形成される。厳密には、加圧部34が塗布液室36内の塗布液を加圧して吐出口381から液滴を吐出する際には、吐出口381において液面Mは存在しないため、以下の説明では、塗布液の液面Mについて言及する場合は、塗布液室36内の塗布液の加圧時を除いているものとする。
塗布液供給部4では、ノズル室38近傍における塗布液の圧力が、吐出口381の周囲における大気圧とほぼ同じ、または、僅かに低くなるように、圧力調整部43により塗布液タンク41内の圧力が調整されている。液滴の吐出動作により、ノズル室38内の塗布液が減少すると、毛細管現象により塗布液室36の塗布液がノズル室38内に引き込まれる。また、塗布液供給部4から塗布液室36内にも塗布液が供給される、すなわち、塗布液室36内に塗布液が補給される。
塗布ヘッド3において、例えば、後述の最高吐出周波数で液滴を連続的に吐出している間に、塗布液供給部4から塗布液室36内に補給される塗布液の単位時間当たりの体積(流量)は、吐出口381から吐出される塗布液の単位時間当たりの体積よりも低くなる。このような場合に、塗布液供給部4から塗布液室36内に補給される塗布液の単位時間当たりの体積が、補給流量である。換言すると、補給流量は、塗布ヘッド3における液滴の吐出動作に並行して塗布液供給部4から塗布液室36内に補給可能な塗布液の単位時間当たりの体積、典型的には、最大体積である。
補給流量は、塗布液タンク41に貯溜する塗布液の粘度に大きく依存する。塗布装置1では、複数種類の塗布液における補給流量を示す情報が、補給流量情報Bとして記憶部102に記憶されている。複数種類の塗布液における補給流量は、例えば、実験またはシミュレーション等により求められる。上記ステップS10における塗布液の補給流量の取得では、対象物9に塗布すべき塗布液の種類の入力が、制御部10に設けられた図示省略の入力部を介して、操作者により行われる。吐出パラメータ決定部101では、塗布液の種類を示す当該入力が受け付けられ、当該入力および補給流量情報Bに基づいて、当該塗布液の補給流量が取得される。塗布液の補給流量は、吐出パラメータ決定部101において記憶される。
続いて、対象物9に塗布すべき塗布液に合わせて、塗布ヘッド3におけるノズル部35が交換される(ステップS11)。ここでは、図4のノズル部35が、図2のノズル部35に交換されたものとする。図2の交換後のノズル部35では、図4の交換前のノズル部35と比較して、ノズル室38の平均径および容積が大きい。なお、図2および図4のノズル部35では、ノズル室38の側面の傾斜角は同じである。例えば、粘度が高い塗布液を用いる場合に、ノズル室38の平均径が大きいノズル部35が選択される。後述するように、ノズル部35の交換により、実際に使用する当該塗布液を対象物9上に適切に塗布することが可能となる。
ノズル部35の交換は、例えば、塗布装置1の設置場所において操作者により行われる。ノズル部35の交換が、塗布装置1の調整作業として、塗布装置1の製造工場等で行われてもよい。なお、ノズル部35の交換前には、供給管42における図示省略のバルブが閉じられる。ノズル部35の交換後に当該バルブを開くことにより、塗布ヘッド3の塗布液室36に、塗布液が充填される。
ノズル識別カメラ5では、ノズル部35の表示位置に形成された識別情報が撮像される。識別情報の画像は、制御部10に入力される。制御部10では、識別情報の画像に基づいて、塗布ヘッド3に設けられているノズル部35の種類が特定される。このように、塗布装置1では、ノズル識別カメラ5および制御部10により、塗布ヘッド3におけるノズル部35の種類を識別するノズル識別部が実現される。ノズル識別部における識別結果は、塗布ヘッド3に設けられるノズル部35の種類の入力として、吐出パラメータ決定部101において受け付けられる。
一方、記憶部102に記憶されるノズル室情報Aは、複数種類のノズル部35におけるノズル室38の容積を示す。例えば、各ノズル部35の設計データを用いてノズル室38の容積を算出することにより、または、ノズル室38の容積を実測することにより、ノズル室情報Aを容易に準備することが可能である。吐出パラメータ決定部101では、ノズル部35の種類を示す上記入力およびノズル室情報Aに基づいて、塗布ヘッド3に設けられるノズル部35のノズル室38の容積が取得される(ステップS12)。
塗布ヘッド3におけるノズル室38の容積が取得されると、ノズル室38の容積を、吐出口381から吐出される塗布液の液滴数に換算した値が、ノズル室液滴数として求められる(ステップS13)。後述するように、本処理例では、圧電素子341に入力する駆動信号の電圧が設定電圧にて一定である。また、制御部10の記憶部102では、複数種類の塗布液と複数種類のノズル部35との各組合せに対して、設定電圧の駆動信号の入力により吐出口381から吐出される液滴の体積を示すテーブルが予め記憶されている。当該テーブルは、例えばシミュレーションまたは実験により作成される。吐出パラメータ決定部101では、上述の塗布液の種類の入力、および、ノズル部35の種類の入力を用いて上記テーブルを参照することにより、塗布ヘッド3から吐出される液滴の体積が、特定体積として特定される。そして、ノズル室38の容積を特定体積で除することにより、ノズル室液滴数が求められる。
例えば、特定体積が10nL(ナノリットル)であり、ノズル室38の容積が300nLである場合、300[nL]÷10[nL]より、ノズル室液滴数は30となる。既述のように、ノズル室38には塗布液が充填されており、ノズル室液滴数は、ノズル室38に充填される塗布液のみにより、吐出可能な特定体積の液滴の個数である。ノズル室液滴数は、吐出パラメータ決定部101において記憶される。塗布装置1において、吐出口381から吐出される液滴の体積(特定体積)は、例えば2nL以上、50nL以下である。なお、ノズル室液滴数の決定では、ノズル室液滴数に特定体積を乗じて得た値がノズル室38の容積以下となればよく、上記値とノズル室38の容積との差が特定体積よりも大きくてもよい。
上記ステップS10〜S13の処理は、塗布動作の事前準備であり、必要に応じて行われる。例えば、ステップS10の処理は、塗布液タンク41内の塗布液の入れ換えにより、または、塗布液タンク41の交換により、実際に用いる塗布液の種類を変更した場合に行われ、変更後の塗布液の補給流量が取得される。ステップS12の処理は、ステップS11にてノズル部35を交換した場合に行われ、交換後のノズル部35におけるノズル室38の容積が取得される。ステップS13の処理は、ステップS10の処理またはステップS12の処理が行われた場合、すなわち、塗布液の補給流量、または、ノズル室38の容積が変更された場合に行われ、ノズル室液滴数が更新される。
対象物9上の一の塗布位置(以下、「注目位置」という。)に対して塗布液の塗布を行う際には、吐出パラメータ決定部101において注目位置に対する塗布指令が受け付けられる(ステップS14)。塗布指令は、対象物9上の各位置に塗布すべき塗布液の体積を塗布量として示す情報である。続いて、吐出パラメータ決定部101では、塗布指令に基づいて、注目位置に対する液滴の吐出に係る吐出パラメータが決定される。
本実施形態では、塗布ヘッド3から吐出される液滴の体積(特定体積)は、対象物9上の各位置に塗布すべき塗布量に比べて十分に小さいため、当該各位置に対して多数の液滴が連続的に吐出される。したがって、吐出パラメータ決定部101では、注目位置に対して液滴が連続的に吐出される連続吐出期間における吐出パラメータが決定される。後述するように、連続吐出期間は、増量吐出期間および定量吐出期間に分けられており、吐出パラメータは、連続吐出期間における増量吐出期間および定量吐出期間の長さ、並びに、増量吐出期間および定量吐出期間のそれぞれにおける吐出周波数および駆動信号の電圧を含む。既述のように、吐出周波数は、駆動信号の周波数であり、吐出口381から吐出される単位時間当たりの液滴の個数を示す。本処理例では、吐出パラメータにおける駆動信号の電圧が、設定電圧にて一定であるため、後述の液滴の吐出では、吐出口381から既述の特定体積の液滴が吐出される。
塗布指令に基づく吐出パラメータの決定では、まず、注目位置に塗布すべき塗布量を、吐出口381から吐出される塗布液の液滴数に換算した値が、必要液滴数として求められる(ステップS15)。必要液滴数は、当該塗布量を特定体積で除することにより求められる。例えば、注目位置に塗布すべき塗布液の塗布量が500nLであり、液滴の特定体積が10nLである場合、必要液滴数は50となる。
続いて、吐出パラメータ決定部101では、注目位置の必要液滴数とノズル室液滴数とが比較される。必要液滴数がノズル室液滴数よりも大きい場合には(ステップS16)、注目位置に対する連続吐出期間の初期において、ノズル室液滴数の液滴を最高吐出周波数で吐出することを指示する吐出パラメータが決定される。ここで、塗布装置1では、圧電素子341の仕様や、駆動回路342の制限等により、最高吐出周波数が予め設定されている。ノズル室液滴数の液滴を最高吐出周波数で吐出する期間を「増量吐出期間」と呼ぶと、ノズル室液滴数と最高吐出周波数の逆数とを乗じて得た値が、増量吐出期間の長さとなる。したがって、連続吐出期間の初期に対する上記吐出パラメータの決定は、増量吐出期間の長さ、および、増量吐出期間における吐出周波数(最高吐出周波数)の決定であるといえる。増量吐出期間の意味については後述する。
吐出パラメータ決定部101では、連続吐出期間の残りの期間において、必要液滴数からノズル室液滴数を減じて得た残りの液滴数の液滴を、塗布液の補給流量に相当する吐出周波数(以下、「平衡吐出周波数」という。)で吐出することを指示する吐出パラメータが決定される。既述のように、補給流量は、塗布液供給部4から塗布液室36内に補給可能な塗布液の単位時間当たりの体積である。平衡吐出周波数は、補給流量を液滴の特定体積で除して得られる数であり、最高吐出周波数よりも十分に低い。上記残りの液滴数の液滴を一定の平衡吐出周波数で吐出する期間を「定量吐出期間」と呼ぶと、上記残りの液滴数と平衡吐出周波数の逆数とを乗じて得た値が、定量吐出期間の長さとなる。したがって、連続吐出期間の残りの期間に対する上記吐出パラメータの決定は、定量吐出期間の長さ、および、定量吐出期間における吐出周波数の決定であるといえる。以上のようにして、増量吐出期間および定量吐出期間を含む連続吐出期間における吐出パラメータが決定される(ステップS17)。
例えば、最高吐出周波数が1kHz(キロヘルツ)であり、ノズル室液滴数が30である場合、増量吐出期間の長さは、30ミリ秒となる。また、必要液滴数が50である場合、必要液滴数からノズル室液滴数を減じて得た残りの液滴数は、20となる。この場合に、補給流量が毎秒10nLであり、液滴の特定体積が10nLであるときには、平衡吐出周波数は1Hzとなり、定量吐出期間の長さは、20秒となる。必要液滴数の液滴が連続的に吐出される期間である連続吐出期間の長さは、増量吐出期間と定量吐出期間とを合わせた長さであり、20.03秒となる。
塗布装置1では、上記吐出パラメータの決定に並行して、移動機構2がステージ21を移動することにより、対象物9上の注目位置が、塗布ヘッド3の吐出口381に対向する位置に配置される。そして、制御部10の制御により、駆動回路342が上記吐出パラメータに従って圧電素子341に駆動信号を入力することにより、注目位置に対して液滴の吐出が行われる(ステップS18)。上述の例では、最高吐出周波数1kHzで、ノズル室液滴数である30個の液滴が吐出され、続いて、平衡吐出周波数1Hzで、残りの液滴数である20個の液滴が吐出される。すなわち、30ミリ秒の増量吐出期間において最高吐出周波数1kHzでの液滴の吐出が行われ、当該増量吐出期間に連続する20秒の定量吐出期間において平衡吐出周波数1Hzでの液滴の吐出が行われる。このようにして、制御部10により塗布ヘッド3からの液滴の吐出が制御され、注目位置に対して塗布指令が示す塗布量の塗布液が塗布される。
既述のように、最高吐出周波数は、平衡吐出周波数よりも十分に高いため、増量吐出期間では、吐出口381から吐出される塗布液の単位時間当たりの体積が補給流量よりも大きい。すなわち、増量吐出期間における塗布液の単位時間当たりの吐出量は、定量吐出期間における塗布液の単位時間当たりの吐出量よりも大きく、定量吐出期間よりも増量されている。増量吐出期間では、ノズル室38内における塗布液の液面Mの位置が次第に塗布液室36へと近づく。増量吐出期間の終了直前には、図5に示すように、塗布液の液面Mは、ノズル室38における塗布液室36側の開口近傍に位置する。増量吐出期間では、ノズル室38の容積を液滴数に換算したノズル室液滴数の液滴のみが吐出される。すなわち、増量吐出期間において吐出される塗布液の量(体積)は、ノズル室38に充填される塗布液の量以下である。したがって、塗布液の液面Mの縁が、ノズル室38の上記開口を超えて塗布液室36内に入り込むことはない。
定量吐出期間では、塗布液の補給流量に相当する平衡吐出周波数で液滴が吐出されるため、塗布液の液面Mの縁の位置は、ノズル室38の上記開口近傍で維持される。連続吐出期間の全体では、吐出口381から吐出される塗布液の総体積は、ノズル室38の容積と、連続吐出期間に塗布液供給部4から塗布液室36内に補給される塗布液の総体積との和以下となる。既述のように、上記の例では、必要液滴数はノズル室液滴数よりも大きく、連続吐出期間に吐出される塗布液の総体積は、ノズル室38の容積よりも大きい。また、連続吐出期間に吐出される塗布液の総体積は、塗布液室36内に補給される塗布液の総体積よりも大きく、既述のように、塗布液の液面Mの縁が、塗布液室36側に移動する。
一方、注目位置に対する必要液滴数とノズル室液滴数との比較において、必要液滴数がノズル室液滴数以下である場合には(ステップS16)、注目位置に対して、連続吐出期間の全体において、必要液滴数の液滴を最高吐出周波数で吐出することを指示する吐出パラメータが決定される(ステップS19)。この場合、連続吐出期間の長さは、必要液滴数と最高吐出周波数の逆数とを乗じて得た値となる。上記吐出パラメータの決定は、増量吐出期間のみを含む連続吐出期間における吐出パラメータの決定である。
そして、対象物9上の注目位置が、塗布ヘッド3の吐出口381に対向する位置に配置された状態で、駆動回路342が上記吐出パラメータに従って圧電素子341に駆動信号を入力することにより、注目位置に対する液滴の吐出が行われる(ステップS18)。これにより、塗布指令が示す塗布量の塗布液が、補給流量に依存することなく高速で注目位置に塗布される。注目位置に対して吐出される塗布液の量は、ノズル室38に充填される塗布液の量以下である。したがって、塗布液の液面Mの縁が、ノズル室38における塗布液室36側の開口を超えて塗布液室36内に入り込むことはない。
実際の塗布装置1では、注目位置に対する塗布液の塗布が完了すると、対象物9上の次の塗布位置が注目位置とされ、上記ステップS14〜S19が繰り返される。このとき、塗布ヘッド3が次の塗布位置へと対象物9に対して相対的に移動する間に、ノズル室38内に塗布液が補給される。ノズル室38内に塗布液を充填するための待ち時間が、必要に応じて設定されてもよい。各塗布位置に対する吐出パラメータの決定に係るステップS14〜S17,S19の処理は、当該塗布位置に対する吐出動作(ステップS18)の前に行われていればよく、例えば、当該塗布位置よりも前に塗布液の塗布が行われる塗布位置に対する吐出動作と並行して行われてもよい。
ここで、各塗布位置に対して、常に、最高吐出周波数で必要液滴数の液滴を吐出する第1の比較例の塗布装置を想定する。第1の比較例の塗布装置では、一の塗布位置に対する必要液滴数がノズル室液滴数よりも大きい場合、当該塗布位置に対して吐出される塗布液の量が、ノズル室38に充填される塗布液の量を超える。したがって、塗布液の液面Mの縁が、ノズル室38の塗布液室36側の開口を超えて塗布液室36内に入り込み、塗布液室36内に空気が侵入する。この場合、加圧部34が塗布液室36内に付与する圧力が気泡により吸収され、吐出口381から塗布液が安定して吐出されなくなる。
また、各塗布位置に対して、常に、平衡吐出周波数で必要液滴数の液滴を吐出する第2の比較例の塗布装置を想定する。第2の比較例の塗布装置では、塗布液の補給流量に相当する平衡吐出周波数で液滴が吐出されるため、塗布液の液面Mの縁の位置はノズル室38内に維持される。しかしながら、平衡吐出周波数は、最高吐出周波数に比べて大幅に低いため、塗布位置に対する塗布液の塗布に長時間を要してしまう。例えば、平衡吐出周波数が1Hzであり、必要液滴数が50である場合には、塗布液の塗布に50秒を要する。
これに対し、図1の塗布装置1では、吐出パラメータ決定部101において、塗布液の補給流量およびノズル室38の容積に基づいて、塗布ヘッド3から液滴が連続的に吐出される連続吐出期間における吐出パラメータが決定される。これにより、吐出口381から吐出される塗布液の単位時間当たりの体積が補給流量よりも大きい増量吐出期間が、連続吐出期間に含まれることとなり、塗布液を高速に塗布することができる。また、連続吐出期間において吐出口381から吐出される塗布液の総体積は、ノズル室38の容積と、連続吐出期間に塗布液供給部4から塗布液室36内に補給される塗布液の総体積との和以下となる。その結果、連続吐出期間における、塗布液室36内の塗布液の加圧時を除く期間、すなわち、塗布液の液滴の吐出時を除く期間において、塗布液の液面Mがノズル室38内に形成された状態を維持することができる。このように、塗布装置1では、塗布液室36内への空気の侵入を抑制することができ、塗布液を安定して塗布することが実現される。
既述のように、必要液滴数が50であり、ノズル室液滴数が30であり、最高吐出周波数が1kHzであり、平衡吐出周波数が1Hzである場合には、塗布液の塗布に要する時間は20.03秒となり、第2の比較例の塗布装置の場合に比べて大幅に短縮可能である。換言すると、対象物9に塗布する塗布液の単位時間当たりの体積である塗布速度を向上することができる。
なお、塗布液タンク41内を陽圧にするとともに供給管42に電磁弁を設け、当該電磁弁の開閉により吐出口381から液滴を吐出する、第3の比較例の塗布装置を想定すると、第3の比較例の塗布装置では、塗布液タンク41内の圧力が高すぎる場合に、吐出口381から塗布液が漏れ出し、吐出口381の周囲が汚れてしまう。一方、圧電素子341の伸縮動作により液滴を吐出する図1の塗布装置1では、塗布液タンク41内の圧力を負圧にして、吐出口381から塗布液が漏れ出すことを抑制することができる。
また、図2の塗布ヘッド3では、ノズル室38を含むノズル部35が、他のノズル部35に交換可能である。また、当該他のノズル部35におけるノズル室38の容積が、交換前のノズル部35におけるノズル室38の容積と相違する。したがって、塗布ヘッド3では、ノズル部35の交換により、粘度が異なる様々な種類の塗布液を適切に吐出することが可能となる。例えば、100ミリパスカル秒(mPa・s)以上の粘度の塗布液を適切に吐出することが可能である。実際には、1000mPa・s以上の粘度の塗布液も好適に吐出可能であり、8000mPa・s以上の粘度の塗布液を吐出することも可能である。塗布ヘッド3において吐出可能な塗布液の粘度の上限値は、ノズル部35の設計に依存するが、例えば30万mPa・sである。
吐出パラメータ決定部101では、対象物9上の各塗布位置に塗布すべき塗布液の塗布量を示す塗布指令が受け付けられる。そして、当該塗布指令に基づいて、当該塗布位置に対する連続吐出期間における吐出パラメータが決定される。これにより、塗布装置1では、好ましい吐出パラメータを自動的に決定することができ、高速塗布を容易に行うことができる。なお、複数の塗布位置における塗布量が同じである場合には、一の塗布位置に対して決定された吐出パラメータが、他の塗布位置に対してそのまま用いられてもよい。
制御部10では、複数種類のノズル部35におけるノズル室38の容積を示すノズル室情報Aが記憶される。また、吐出パラメータ決定部101では、塗布ヘッド3に設けられるノズル部35の種類の入力が受け付けられる。これにより、当該入力およびノズル室情報Aに基づいて、塗布ヘッド3におけるノズル室38の容積を容易に取得することができる。
また、ノズル識別部により、塗布ヘッド3に設けられるノズル部35の種類が識別され、当該ノズル識別部における識別結果が、上記入力として吐出パラメータ決定部101において受け付けられる。これにより、塗布装置1では、ノズル室38の容積を自動で取得することができる。なお、ノズル識別部では、ノズル識別カメラ5以外のセンサを用いてノズル部35の種類が識別されてもよい。また、塗布装置1の設計によっては、制御部10の入力部を介して、操作者により、塗布ヘッド3に設けられるノズル部35の種類の入力が行われ、当該入力が、吐出パラメータ決定部101において受け付けられてもよい。
制御部10では、複数種類の塗布液における補給流量を示す補給流量情報Bが記憶される。また、吐出パラメータ決定部101では、塗布液供給部4から塗布ヘッド3に供給される塗布液の種類の入力が受け付けられる。これにより、当該入力および補給流量情報Bに基づいて、塗布液の補給流量を容易に取得することができる。もちろん、塗布液の補給流量が、制御部10の入力部を介して、操作者により入力されてもよい。
上記塗布装置1では様々な変形が可能である。
連続吐出期間における吐出パラメータの設定手法は、連続吐出期間において吐出口381から吐出される塗布液の総体積が、ノズル室38の容積と、連続吐出期間に塗布液室36内に補給される塗布液の総体積との和以下となる範囲内で、適宜変更されてよい。例えば、連続吐出期間の全体が増量吐出期間とされ、最高吐出周波数よりも低く、かつ、平衡吐出周波数よりも高い吐出周波数が設定されてもよい。この場合、ノズル室38の容積に相当する塗布液の体積を連続吐出期間において均等に分配した分だけ、吐出される塗布液の単位時間当たりの体積が、補給流量よりも大きくされる。また、増量吐出期間における吐出周波数が変動してもよい。一方、上記処理例のように、連続吐出期間における初期が増量吐出期間であり、残りの期間が定量吐出期間である場合には、高速塗布に係る制御を簡素化することが可能である。
また、定量吐出期間では、吐出される塗布液の単位時間当たりの体積が、補給流量未満の一定量であってもよい。この場合に、連続吐出期間における初期が増量吐出期間であり、残りの期間が定量吐出期間であるときには、当該定量吐出期間において、吐出される塗布液の単位時間当たりの体積と補給流量との差に相当する体積の塗布液が、単位時間当たりにノズル室38内に補給される。以上のように、定量吐出期間では、吐出口381から吐出される塗布液の単位時間当たりの体積が、補給流量以下の一定量であればよい。
例えば、増量吐出期間および定量吐出期間において吐出周波数を一定とし、増量吐出期間において、定量吐出期間よりも駆動信号の電圧を高くすることにより、液滴の体積が特定体積よりも大きくされてもよい。この場合も、増量吐出期間において吐出口381から吐出される塗布液の単位時間当たりの体積を、補給流量よりも大きくすることが可能である。また、対象物9上において線状の塗布液パターンを形成する場合等に、連続吐出期間において、対象物9の移動が行われてもよい。
塗布装置1において準備される複数種類のノズル部35では、ノズル室38の平均径以外に、ノズル室38の長さや形状が異なるものが含まれてもよい。例えば、図6のノズル部35では、直径が一定、かつ、真っ直ぐに延びる円柱状空間のノズル室38が形成される。もちろん、ノズル室38の側面の傾斜角が異なるノズル部35が準備されてもよい。また、ノズル部35の交換により、ノズル室38の容積に加えて塗布液室36の容積が変化してもよい。上記の例では、ノズル部35が塗布液室36の一部を形成するが、ノズル部35は、塗布液室36の空間の一部を形成しないものであってもよい。図7の例では、ノズル部35が板状であり、ノズル部35の上面が、塗布液室36の底面となる。
塗布装置1では、ノズル室38の容積が大きいノズル部35に交換することにより、塗布液の塗布に要する時間をさらに短縮することも可能である。また、同じ種類の塗布液を用いつつ、液滴の体積(特定体積)を変更する場合に、ノズル部35を交換することも可能である。例えば、液滴の体積を大きくする場合には、ノズル室38の直径(平均径)がより大きいノズル部35が選択され、塗布ヘッド3に取り付けられる。この場合、吐出パラメータ決定部101では、ノズル室38の直径の増大に合わせて、吐出パラメータが示す駆動信号の電圧が高くされることが好ましい。同様に、液滴の体積を小さくする場合には、ノズル室38の直径がより小さいノズル部35が選択され、好ましくは、吐出パラメータが示す駆動信号の電圧が低くされる。また、表面張力が低い塗布液を用いる場合、ノズル室38において当該塗布液の液面(メニスカス)を維持するために適正な直径のノズル室38を有するノズル部35が選択される。交換前のノズル部35と、交換後のノズル部35とにおいて、ノズル室38の直径(平均径)のみが異なり、容積が同じであってもよい。この場合、例えば、両ノズル部35においてノズル室38の長さが相違する。
以上のように、塗布装置1では、塗布ヘッド3のノズル部35が交換可能であり、交換後のノズル部35におけるノズル室38の容積および直径の少なくとも一方が、交換前のノズル部35におけるノズル室38と相違する。これにより、塗布速度や、液滴のサイズ、塗布液の種類(粘度、表面張力)等の塗布条件を変更した塗布液の塗布を適切に行うことができる。
また、吐出パラメータ決定部101が、塗布ヘッド3に設けられるノズル部35のノズル室38の容積または直径に基づいて、当該塗布ヘッド3に対する吐出パラメータを決定することにより、塗布条件を変更した塗布液の塗布を精度よく実現することができる。塗布装置1では、必ずしも連続吐出期間が設定される必要はなく、例えば、対象物9上の各塗布位置に対して1つの液滴のみが吐出されてもよい。この場合、塗布ヘッド3に対する吐出パラメータは、増量吐出期間の長さ等を含まず、典型的には、駆動信号の電圧および吐出周波数のみを含む。
ノズル室情報Aは、複数種類のノズル部35におけるノズル室38の直径を示すものであってもよい。この場合、吐出パラメータ決定部101では、塗布ヘッド3に用いられるノズル部35の種類の入力、および、上記ノズル室情報Aに基づいて、塗布ヘッド3におけるノズル室38の直径を取得可能である。
吐出口381から液滴を吐出させる吐出機構は、圧電素子341を含む加圧部34以外であってもよい。例えば、吐出機構が、塗布液室36内の塗布液を加熱することにより、吐出口381から液滴を吐出させる加熱部であってもよい。この場合も、吐出パラメータ決定部101において決定される吐出パラメータに従って吐出動作が行われる。これにより、連続吐出期間における、塗布液室36内の塗布液の加熱時を除く期間、すなわち、塗布液の液滴の吐出時を除く期間において、塗布液の液面Mがノズル室38内に形成される。以上のように、本発明を適用可能な塗布装置の例として、塗布液を加圧または加熱することにより液滴を吐出させる吐出機構を有する塗布装置が挙げられる。
塗布装置1において、ステージ21が固定され、塗布ヘッド3が移動機構により移動されてもよい。すなわち、移動機構は、塗布液が塗布される対象物9を塗布ヘッド3に対して相対的に移動すればよい。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。