以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
図1は、レーザ分析計100の構成を示す概略図である。レーザ分析計100は、煙道10に取り付けられ、煙道10の内部の対象ガスをレーザ光により分析する。本明細書では、X軸、Y軸およびZ軸の直交座標軸を用いて技術的事項を説明する。本明細書では、煙道10の燃焼ガスがZ軸の正側に流れる場合について説明する。
煙道10は、側壁12を備える。側壁12には、側壁開口14が一つだけ設けられている。一例において、煙道10の内径はφ0.5〜10mであり、内部には、ボイラー、エンジン等の燃焼機関から排出される高温の燃焼ガスが流通している。燃焼ガスには、レーザ分析計100が分析する対象ガスが含まれる。
レーザ分析計100は、対象ガスのガス濃度や、ダスト量等を分析する装置である。レーザ分析計100は、測定対象となる特定のガスの吸収線の波長を含み、狭いスペクトル線幅のレーザ光を、測定領域に照射する。照射されたレーザ光は、測定領域内の対象ガスによって吸収されて、伝播距離に応じて減衰される。レーザ分析計100は、測定領域を通過したレーザ光を受光素子116で検出して、測定領域を通過する前後のレーザ光の強度変化から、測定領域に含まれる対象ガスの濃度を計測する。また、レーザ分析計100は、対象ガスが吸収しない波長のレーザ光を測定領域に照射して、ダストによる吸収、散乱に起因するレーザ光の減衰量、あるいは散乱光の一部を受光素子116で検出することによりダスト量を計測する。
レーザ分析計100は、煙道10の側壁開口14が設けられた位置において、煙道10の側壁12に溶接等により固定される。本例では、フランジ16によって、レーザ分析計100が側壁開口14に固定される。そして、レーザ分析計100は、煙道10を流通する燃焼ガスに含まれる対象ガスの濃度を計測する。例えば、対象ガスは、塩化水素(HCl)、アンモニア(NH3)、酸素(O2)、一酸化炭素(CO)または二酸化炭素(CO2)である。なお、燃焼ガスには、対象ガス以外に煤塵(ダスト)および水蒸気などが含まれる。
レーザ分析計100は、煙道10の外部において、制御部102、レーザ素子106、コリメートレンズ108、凹面鏡110、光学窓114および受光素子116を備える。また、レーザ分析計100は、煙道10の外部において、筐体118およびフランジ120を備える。レーザ素子106は、照射部の一例であり、受光素子116は、受光部の一例である。
レーザ分析計100は、フランジ16とフランジ120が溶接されることによって煙道10の側壁12に固定される。フランジ16とフランジ120の固定方法は、溶接に限らず、高温環境下において気密を保つ様々な固定方法を採用し得る。フランジ120には、筐体118が取り付けられる。
レーザ素子106は、駆動電流、動作温度によって発振波長が可変である半導体レーザ素子である。本実施形態においては、レーザ素子106は、DFB(Distributed Feedback)レーザである。レーザ素子106には、DFBレーザに限らず、DBR(Distributed Bragg Reflector)レーザ、VCSEL(Vertical Cavity Surface Emitting Laser)などを使用することができる。なお、レーザ素子106は、後述する制御部102によって駆動電流と動作温度とが制御されて、後述する第1波長λ1または第2波長λ2に発振波長が制御されてよい。
レーザ素子106は、第1波長λ1を中心波長とする第1レーザ光と、第1波長λ1とは異なる第2波長λ2を中心波長とする第2レーザ光とを選択的に出射する。ここで、第1波長λ1は、対象ガスの吸収特性により選択的に吸収される波長(吸収線)である。また、第2波長は、対象ガスにほとんど吸収されない波長である。なお、第1波長λ1と第2波長λ2については、図を参照して後述する。
レーザ素子106は、レーザ光をコリメートレンズ108へ向けて出射する。なお、以降の説明において、レーザ素子106の側を「前方」あるいは「前側」、後述するターゲット202の側を「後方」あるいは「後側」と称する場合がある。本例では、「前方」がY軸方向の正側であり、「後方」がY軸方向の負側である。
コリメートレンズ108は、レーザ素子106の後方に配置され、レーザ素子106が出射するレーザ光を平行光に変換して、後方に配置された凹面鏡110へ出射する。コリメートレンズ108は、前側焦点位置の近傍にレーザ光のビームウェストが位置するように配置される。なお、コリメートレンズ108は、平行度の高い平行光に変換するために、非球面レンズが用いられる。図1において、コリメートレンズ108は、一枚のレンズで代表して示されているが、複数枚のレンズで構成されてもよい。また、コリメートレンズ108は、ミラーなどの反射光学素子であってもよい。
凹面鏡110は、孔部111、反射面112を有する。凹面鏡110は、コリメートレンズ108の後方において、コリメートレンズ108が出射するレーザ光が孔部111を通過するように配置される。なお、孔部111の内径は、コリメートレンズ108からのレーザ光が通過するために十分な大きさであればよい。
凹面鏡110の孔部111を通過したレーザ光は、凹面鏡110の後方に配置された光学窓114を透過して、照射光R1としてターゲット202へ出射される。
照射光R1は、ターゲット202で反射および散乱されて、一部の光が反射光R2として再び光学窓114を通過して、凹面鏡110の反射面112に入射する。反射光R2は、仕切板210に反射されることなく、反射面112に入射する。
挿入管204は、側壁開口14の対応する位置において、煙道10の内側に設けられる。挿入管204は、ターゲット202を支持する。挿入管204は、開口部206および非開口部208を有する。
ターゲット202は、側壁開口14に対向して設けられる。ターゲット202は、レーザ素子106から入射された照射光R1を反射する。ターゲット202は鏡である必要はなく、側壁の内面と同程度の光吸収や光散乱を引き起こすものでよい。例えば、ターゲット202の材料は、フランジ120や煙道10で用いられているような鋼材(例えば、ステンレス鋼材:SUS)であってよい。
レーザ分析計100は、ターゲット202を備えることにより、煙道10の径によらず光路長を任意の長さに制限できるので、煙道10が10mを超えるような場合、あるいはダスト濃度が高く光透過が困難な場合であっても、対象ガスをレーザ分析することができる。
開口部206は、挿入管204に設けられた開口である。開口部206は、燃焼ガスが挿入管204の内部を流れるように、挿入管204の周囲に設けられる。また、本例のレーザ分析計100は、開口部206を介して、不要なレーザ光を挿入管204の外部に出射する。本例の挿入管204は、3つの開口部206a〜開口部206cと、4つの非開口部208a〜非開口部208dを有するが、個数はこれに限られない。
非開口部208は、挿入管204の周囲において、開口のない領域である。即ち、非開口部208は、開口部206以外の領域である。非開口部208は、挿入管204の強度を確保するために設けられる。複数の非開口部208は、予め定められた間隔で配置されてよい。本例の非開口部208a〜非開口部208dは、等間隔に設けられるが、これに限定されない。
仕切板210は、挿入管204に設けられる。本例では、非開口部208a〜非開口部208cに対応して、仕切板210a〜仕切板210cの3つの仕切板が設けられているが、これに限定されない。仕切板210は、挿入管204の内壁で反射した不要な照射光が受光素子116側に回り込むのを防止する。仕切板210は、不要な照射光を開口部206から、挿入管204の外部に出射するように設けられる。
仕切板210は、レーザ光が入射する側において、レーザ光を反射する金属等の材料を有する。即ち、仕切板210は、黒色テフロン(登録商標)材等の乱反射を抑制する材料で構成する必要がないので、煙道10の高温に耐えることができる。したがって、レーザ分析計100は、高温となり得る挿入管204におけるレーザ光の乱反射の影響を抑制することができる。
反射面112は、煙道10の側に向かって凹面となるように配置される。反射面112の形状は、放物面に限定されず、様々な面形状をとることができる。例えば、反射面112は、球面であってもよいし、楕円面、双曲面などの円錐面であってもよい。反射面112に楕円面を採用する場合には、煙道10の内面における照射光R1の照射点と、受光素子116の受光面上の集光点が、楕円面のそれぞれの焦点に位置するように配置してもよい。なお、凹面鏡110によって集光される反射光R1は、受光素子116の受光面の有効領域に集光されていればよく、スポット径の大きさは当該有効領域に収まる範囲で許容される。
反射面112は、ターゲット202で反射した反射光R2を折り曲げて、受光素子116の受光面に集光させる。換言すると、反射面112は、入射する反射光R2を、反射光R2が通過する領域外に配置された受光素子116に集光させる。したがって、反射光R2が受光素子116によって遮蔽されないため、反射面112の実効的な反射面積を大きく確保することができ、ガスの検出感度を高めることができる。
光学窓114は、保護部材としてフランジ120よりも前方に設置される。光学窓114は、レーザ光を透過させつつ光路を閉塞する。換言すると、光学窓114は、煙道10を流通する燃焼ガスの筐体118内部への侵入を防止する。また、光学窓114は、面間反射によるレーザ光の干渉を防止するために、入射面と出射面とが平行ではない楔形の形状である。
受光素子116は、ターゲット202で反射して、凹面鏡110によって集光された反射光R2を受光する。そして、受光素子116は、受光した光の強度信号を電気信号である受光信号へ変換して、制御部102へ送信する。受光素子116は、例えば、アバランシェフォトダイオードである。しかし、受光素子116には、計測に使用するレーザ光の波長、要求される感度に応じて、様々な受光素子を使用することができる。受光素子116は、例えば、フォトマルチプライヤ、MCT光導電素子などを使用することができる。また、受光素子116は、計測に使用するレーザ光の波長帯域を含む狭い帯域の光を透過し、他の帯域の光を遮断または減衰する帯域透過フィルタを有してもよい。
制御部102は、レーザ分析計100の各要素の動作を統括的に制御する。例えば、制御部102は、レーザ素子106が出射するレーザ光の波長を変調する。制御部102は、レーザ素子106が出射するレーザ光の波長を切り替えるタイミングを制御してもよい。また、制御部102は、演算部104を有する。
演算部104は、対象ガスの濃度を演算する。本例の演算部104は、レーザ素子106から出射されたレーザ光の強度と、受光素子116で受光された当該レーザ光の強度とから公知の演算方法を用いて対象ガスの濃度を演算する。例えば、演算部104は、波長変調分光法により対象ガスの濃度を演算する。
次に、ガス濃度の検出方法について説明する。レーザ素子106の駆動電流と動作温度は、対象ガスが選択的に吸収する第1波長λ1の第1レーザ光と、吸収しない第2波長λ2の第2レーザ光との間で交互に切り替わるように制御部102により制御される。
第1レーザ光と第2レーザ光は、異なるタイミングでレーザ素子106から出射されてコリメートレンズ108で平行光に変換される。そして、第1レーザ光と第2レーザ光は、煙道10の内部空間を通過して側壁開口14と対向するターゲット202で反射されて、再びレーザ分析計100に入射して、凹面鏡110によって集光されて、受光素子116に受光される。
受光素子116における受光強度を、第1レーザ光と第2レーザ光とで比較する。第2レーザ光は、煙道10を流通するダストによる散乱、吸収、および挿入管204の内壁の散乱により減衰される。一方で、第1レーザ光は、ダストによる散乱、吸収、および挿入管204の内壁の散乱に加えて、対象ガスにおける吸収によって減衰される。そこで、第1レーザ光の受光強度と、第2レーザ光の受光強度の比率から、ダスト、挿入管204の内壁の散乱、吸収の影響をキャンセルして、対象ガスの濃度を正確に測定することができる。
制御部102は、信号処理回路および電流駆動回路として機能する。ガス濃度を計測するためには特定のガスの吸光特性に応じたレーザ光を照射する必要がある。例えば、酸素(O2)を対象ガスとする場合には760nm付近、塩化水素(HCl)を測定する場合は1740nm付近を使用する。加えて、レーザ光は、波長変調された変調光とする必要がある。そこで、制御部102は、このようなレーザ光を発光するための駆動電流信号を、レーザ素子106に供給する。
制御部102は、駆動電流と動作温度により、レーザ素子106の発光波長を可変制御する。一例において、制御部102は、レーザ素子106の発光中心波長は特定のガスの特定の吸収スペクトルの中心波長となるように温度制御する。また、制御部102は、特定の吸収線スペクトルの中心波長の周辺の波長を時間的に掃引されるように、駆動電流が制御してよい。さらに、制御部102は、波長変調分光法により高感度に測定できるように、駆動電流には適切な正弦波変調を重畳してよい。
このように照射されたレーザ光が特定のガスを含むガスが存在する空間に伝搬するとその受光信号は特定のガスによる吸収信号を含んでおり、演算部104に電気信号として送られる。演算部104では、電気信号を処理して、ガス濃度値を算出する。演算部104には、波長変調されたレーザ光の変調周波数の高調波をロックイン検波する回路が設けられ、高感度なガス検出を実現することができる。
レーザ分析計100は、リアルタイム測定が可能であり、例えば、1秒ごとに対象ガスの濃度の測定結果を更新する。レーザ分析計100は、測定結果の更新周期に合わせて、間欠的に第1レーザ光および第2レーザ光をパルス照射する。そして、第1レーザ光及び第2レーザ光のそれぞれのパルス光の発光強度および受光強度から、対象ガスの濃度を算出して出力する。一例において、レーザ分析計100は、波長変調分光法により対象ガスを検出する。
従来のレーザ分析計は、煙道を挟んで発光部と受光部を配置するために、煙道の側壁に互いに対向する2箇所の開口を設ける必要があった。既設の煙道にレーザ分析計を取り付ける場合には、煙道の側壁に2箇所の開口を加工して、さらに現場で発光部と受光部の光軸を調整するという大掛かりな取り付け作業が必要であった。しかし、本実施形態におけるレーザ分析計100は、受光部と発光部が一体で構成されており、煙道の側壁に開口を1箇所だけ設ければよい。このため、従来のレーザ分析計と比較して、煙道の加工および取り付け作業が簡便である。また、煙道10の内面からの反射・散乱光を対象ガスの濃度分析に利用するため、煙道10の内部にミラー等の反射素子を挿入する必要がなく、簡易な構成によって対象ガスの濃度を分析することができる。
また、本実施形態におけるレーザ分析計100は、煙道10の内部において、照射光R1と反射光R2の中心軸が略一致するように構成されている。このため、レーザ分析計100は、反射面までの距離が異なる様々な煙道に取り付ける場合であっても、取り付け現場で光学系の配置の調整を必要としない。
図2は、対象ガスとダストの分光吸収率特性の一例を示す図である。図2において、縦軸は、吸収率を示し、横軸は、波長を示す。また、対象ガスの分光吸収率を実線で示し、ダストの分光吸収率を破線で示す。
図の例において、対象ガスに注目すると、対象ガスの吸収率は、波長λ1でピーク値0.8を示す。すなわち、対象ガスは、図に示した波長の範囲において、波長λ1の光を最も吸収する。一方、対象ガスは、例えば、波長λ2の光はほとんど吸収しない。また、ダストに注目すると、ダストの吸収率は、図に示した波長の範囲において0.1程度であり、顕著な変化はない。
図の例においては、対象ガスの吸収率が高い波長である波長λ1を第1波長とすることができる。また、対象ガスの吸収率が比較的低い波長の内、例えば、波長λ2を第2波長とすることができる。例えば、酸素(O2)を対象ガスとする場合には、第1波長λ1として760nm、第2波長λ2として759nmを選択することができる。
図3は、第1レーザ光と第2レーザ光の発光強度と受光強度の関係を概念的に説明する説明図である。本図において、縦軸はレーザ光の発光強度を1.0に規格化した相対強度を示し、左から順に、第1レーザ光および第2レーザ光の発光強度、第1レーザ光の受光強度、そして、第2レーザ光の受光強度を示す。
図の例において、レーザ素子106から出射される第1波長λ1の第1レーザ光と第2波長λ2の第2レーザ光の発光強度は等しい。なお、説明を簡単にするために、コリメートレンズ108、光学窓114などの要素におけるレーザ光の吸収は考慮せず、および受光素子116における分光感度は一定とする。
また、第1レーザ光は、煙道10の内部を通過する過程で、対象ガスおよびダストに吸収されて減衰する。図の例において、受光素子116で検出される第1レーザ光の受光強度は、発光強度に対して強度変化量Aだけ減衰している。
また、第2レーザ光は、煙道10の内部を通過する過程で、ダストに吸収されて減衰する。図の例において、受光素子116で検出される第2レーザ光の受光強度は、発光強度に対して強度変化量Bだけ減衰している。
図2を参照して説明したように、ダストによる吸収は、第1波長λ1と第2波長λ2とで概ね等しい。したがって、第1レーザ光が対象ガスによって吸収された吸収量は、強度変化量Aと強度変化量Bの差分(A−B)から算出することができる。
図4は、パルス光の発光時間と受光時間の関係を示す図である。図4は、測定光であるレーザ光の強度の時間変化、すなわちレーザ光の光信号を示している。
図4の発光強度のグラフは、レーザ素子106から出射されるレーザ光の光信号を示す。縦軸は出射されるレーザ光の強度を示し、横軸は時間を示す。レーザ素子106は、予め定められた時間間隔で、パルス状のレーザ光を出射する。時間T1、T2、T3にパルス光PL1、PL2、PL3がそれぞれ出射される。図3を参照して説明した発光強度は、例えばT1からT2の区間における光信号の積分値に相当する。
図4の受光強度のグラフは、受光素子116で受光されるレーザ光の光信号を示す。縦軸は受光されるレーザ光の強度を示し、横軸は時間を示す。信号NS1および信号ES1は、パルス光PL1に対応する光信号である。信号NS2および信号ES2は、パルス光PL2に対応する光信号である。信号NS3および信号ES3は、パルス光PL3に対応する光信号である。図3を参照して説明した受光強度は、例えばT1からT2の区間における積分値に相当する。
パルス光である照射光R1の一部は、煙道10の内面に入射するまで往路上で、ダストによって散乱されて、レーザ分析計100に戻り、受光素子116によって検出される場合がある。往路における散乱光は、反射光R2の検出においてノイズの要因となる。受光強度の信号NS1〜NS3は、往路におけるダストからの散乱光に対応する光信号である。
レーザ分析計100は、出射したレーザ光の強度I0、受光したレーザ光の強度Iおよびレーザ光の経路長lの情報を用いて、対象ガスの濃度を算出する。本実施形態においては、レーザ分析計100から出射されて、ターゲット202で反射して、再びレーザ分析計100に戻る経路を辿るレーザ光の強度情報から対象ガスの濃度を算出する。具体的には、側壁12からターゲット202までの距離をdとすると、レーザ分析計100は、煙道10の内部を往復する経路長2dをレーザ光が伝播する間に対象ガスによって吸収される吸収量から対象ガスの濃度を算出する。したがって、例えば、煙道10の内面に到達するまでの間に、ダストによって散乱されて受光素子116で検出される光は、対象ガスの濃度演算に不要なノイズ光である。特に、レーザ分析計100から近い距離においてダストから散乱された光は、減衰されずに比較的高い強度をもったままレーザ分析計100に戻ってくる場合があり、測定精度を低下させる要因となる。
本実施形態において、レーザ分析計100は、第1レーザ光と第2レーザ光を照射して、それぞれの受光強度の差分を取ることによりダストの影響をキャンセルして、対象ガスのみの吸収量を算出する。第1レーザ光と第2レーザ光は、互いに異なるタイミングで出射されるため、互いの出射時間にはタイムラグがある。また、煙道10の内部を流通するダストの濃度分布は、時事刻々と変化する。したがって、ダストによる散乱が生じる往路上の位置は、第1レーザ光と第2レーザ光とで異なり、さらに受光素子116の受光面に到達する強度も異なる。このため、第1レーザ光と第2レーザ光の受光強度の差分を取ったとしても、往路上におけるダストからの散乱光の影響を十分にキャンセルできない場合がある。
そこで、レーザ分析計100は、上述の往路上におけるダストによる散乱光に起因する光信号を除外するために、パルス光を出射して、出射したパルス光がターゲット202で反射されて戻ってくるまでの時間を経過するまで受光素子116の受光時間を遅延させる。本実施形態においては、レーザ分析計100は、レーザ素子106から出射されたレーザ光が、ターゲット202で反射して、受光素子116に到達するまでの往復時間t0を、設計値から予め算出しておく。そして、レーザ分析計100は、レーザ光の出射時間から往復時間t0を経過したときに、受光素子116に入射光の検出を開始させる。
図4を参照しながら説明すると、受光素子116は、パルス光PL1が出射された時間T1から往復時間t0を経過した時間(T1+t0)より、入射光の検出を開始する。そして、受光素子116は、次のパルス光PL2が出射される時間T2まで、入射光の検出を続ける。したがって、受光素子116から出力される受光強度は、期間t1の光信号の積分値である。
同様に、受光素子116は、パルス光PL2が出射された時間T2から往復時間t0を経過した時間(T2+t0)より、入射光の検出を開始する。そして、受光素子116は、次のパルス光PL3が出射される時間T3まで、入射光の検出を続ける。したがって、受光素子116から出力される受光強度は、期間t2の光信号の積分値である。
なお、レーザ分析計100は、パルス光が出射されてから往復時間t0が経過した後、次のパルス光が出射されるまでの間だけ入射光を検出するように受光素子116の受光タイミングを制御してもよい。本実施形態のレーザ分析計100は、レーザ光を出射してから、出射されたレーザ光が煙道10の内部を往復する時間t0が経過するまで受光素子116の検出を停止させて、往路上のダストからの散乱光を検出対象から除外する。これにより、良好なSN比を維持して、測定精度を向上することができる。
なお、受光強度の算出において、往路上におけるダストによる散乱光の成分を取り除く方法は、上記で説明した方法に限定されず様々な方法をとり得る。多くの場合は、ダストによる後方散乱光の強度よりも、煙道10の内面での反射光の強度の方が高いため、光信号において後方散乱光の成分(NS1〜NS3)よりも反射光の成分(ES1〜ES3)の方が信号強度は高くなる。そこで、例えば、パルス光PL1に対しては、時間T1から時間T2の間の光信号を、散乱光成分と反射光成分を分解できるサンプリング周期でサンプリングを行う。そして、ピークホールド回路を用いて光信号のピーク値を抽出して、抽出したピーク値から受光強度を算出してもよい。
なお、上記の説明においては、レーザ分析計100は、第1レーザ光及び第2レーザ光についてそれぞれ1つのパルス光の強度情報から対象ガスの濃度を算出して出力する場合を例示した。しかし、レーザ分析計100は、例えば、測定結果の更新周期である1秒間にレーザ光を200パルス出射して、それぞれのパルス光について演算された受光強度を統計処理することにより、対象ガスの濃度を算出してもよい。この場合には、レーザ分析計100は、前半の0.5秒間は第1レーザ光を100パルス出射して、後半の0.5秒間は第2レーザ光を100パルス出射してもよいし、第1レーザ光のパルスと第2レーザ光のパルスを交互に出射させてもよい。複数のパルス光における演算結果を統計処理することにより、ノイズ信号の影響を除去して対象ガスの濃度を正確に得ることができる。
図5は、実施例に係るレーザ分析計100の挿入管204の拡大図を示す。挿入管204は、開口部206、非開口部208および仕切板210を有する。仕切板210には、傾斜面214が設けられている。仕切板210は、照射光R1および照射光R2を通過させるが、照射光R3を遮断する。
開口部206は、煙道10に流れる対象ガスを挿入管204内に導入するために設けられる。開口部206は、挿入管204のZ軸方向の正側の端部と負側の端部に設けられる。即ち、挿入管204のX軸方向の正側の端部と、X軸方向の負側の端部には開口部206が設けられなくてよい。
ここで、ガスの吸収は光路長に比例する。したがって、感度良くガス濃度度を計測するためには、ガスによりレーザ光が吸収される領域を十分確保する必要がある。そのため、例えば、対象ガスの流れる領域が0.5m〜1m程度確保される。そこで、挿入管204の強度を確保するために、非開口部208を設けることが好ましい。
光通過部212は、照射光R1および照射光R2が仕切板210を通過するための開口である。光通過部212は、仕切板210のXZ平面の中心付近に設けられる。本例の光通過部212は、仕切板210a〜仕切板210cに対応して設けられた3つの光通過部212a〜光通過部212cを有する。複数の光通過部212の径は、それぞれ同一であっても、異なっていてもよい。光通過部212の径が異なる場合、ターゲット202との距離が短いほど、径が小さくなるように設計されてよい。即ち、光通過部212aは、光通過部212bおよび光通過部212cよりも径が大きく、光通過部212bは、光通過部212cよりも径が大きい。これにより、仕切板210は、不要なレーザ光を遮断しやすくなる。
傾斜面214は、仕切板210のターゲット202側に設けられる。傾斜面214は、光通過部212を通過するレーザ光の光軸と直交する方向に対して傾斜されている。仕切板210は、傾斜面214を有することにより、照射光R3を開口部206に向けて反射させる。傾斜面214は、照射光R3を挿入管204の外部に反射させて、挿入管204の内部での再反射を防止する。これにより、傾斜面214は、照射光R3が受光素子116に入射する影響を抑制することができる。このように、仕切板210は、照射光R3を挿入管204の外部に反射させればよく、黒色塗料やテフロン(登録商標)材を使用する必要がないので、高温環境下でも使用することができる。
以上の通り、仕切板210aは、照射光R3aを傾斜面214aで反射して、開口部206aから挿入管204の外部に放出する。仕切板210bおよび仕切板210cも同様に、照射光R3bおよび照射光R3cを挿入管204の外部に放出する。これにより、レーザ分析計100は、不要な照射光R3の回り込みを抑制し、対象ガスの分析精度を向上することができる。
図6は、比較例に係るレーザ分析計500の挿入管504の拡大図を示す。レーザ分析計500は、挿入管の構造がレーザ分析計100と相違する。本例では、レーザ分析計500が備える挿入管504について具体的に説明する。挿入管504は、ターゲット502を固定し、開口部506および非開口部508を有する。照射光R1は、ターゲット502で反射されて照射光R2となる。
照射光R4は、挿入管504の内部で乱反射されて、光学窓514に入射されるレーザ光である。レーザ分析計500は、照射光R4が光学窓514に入射すると、対象ガスの濃度を正確に測定することができない。
ここで、レーザ分析計500は、仕切板を有さないので、挿入管504の内壁で反射した光R3が挿入管504の内壁で反射を繰り返し、受光素子116に入射される場合がある。この場合、レーザ分析計100は、本来受光信号として受光する信号の光路長よりも長い光路長の光も含めて受光することとなり、計測誤差の要因となる。また、光路長の異なる光が受光素子に到達することで干渉ノイズを引き起こす要因となり計測精度を悪化させる恐れがある。
これに対して、実施例に係るレーザ分析計100は、仕切板210を設けることにより、挿入管204の内壁で反射しないレーザ光が受光素子116に入射され、挿入管204の内壁に反射したレーザ光が仕切板210によって反射することができる。これにより、レーザ分析計100は、不要な照射光R3が受光素子116に入射することを防止することができる。
以上の通り、レーザ分析計100は、受光部の部品を一体とした光学系により、フランジ16が1つで済むことにより設置が容易である。また、レーザ分析計100は、仕切板210を設けることにより、精度の高い計測を実現できる。さらに、仕切板210は、金属等の高温に耐え得る材質で構成できるので、煙道の排ガス監視用途で使用できる。レーザ分析計100は、光路長を適当な長さに制限できるので、煙道10が10mを超えるような場合、あるいはダクト濃度が高く光透過が困難な場合であっても、測定することができる。
なお、以上の説明においては、煙道10の内部を対象ガスとダストの混合気体が流通する場合を例に挙げて、2波長のレーザ光を使用することによってダストの吸収成分をキャンセルして、対象ガスの濃度を算出する実施形態について説明した。しかし、煙道10の内部を対象ガスだけが流通する場合、または対象ガス以外のガスが対象ガスの吸収線の光をほとんど吸収しないという場合には、対象ガスの吸収線のレーザ光だけを照射させて濃度を計測することができる。1波長のレーザ光だけを照射して対象ガスの濃度を計測する場合であっても、煙道10の側壁12には開口を一つだけ設ければよい。
本発明に係るレーザ分析計は、ボイラー、ゴミ焼却等の燃焼排ガス測定用、燃焼制御用として好適である。その他、鉄鋼用ガス分析[高炉、転炉、熱処理炉、焼結(ベレット設備)、コークス炉]、青果貯蔵、および熟成、生化学(微生物)[発酵]、大気汚染[焼却炉、排煙脱硫・脱硝]、自動車・船等の内燃機関の排ガス(除テスタ)、防災[爆発性ガス検知、有毒ガス検知、新建築材燃焼ガス分析]、植物育成用、化学用分析[石油精製プラント、石油化学プラント、ガス発生プラント]、環境用[着地濃度、トンネル内濃度、駐車場、ビル管理]、理化学各種実験用などの分析計としても有用である。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。