以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
図1は、本発明が好適に適用された四輪駆動車両10の構成を概略的に説明する骨子図である。図1において、四輪駆動車両10は、エンジン12を駆動力源とし、エンジン12からの駆動力を主駆動輪に対応する左右一対の前輪14L、14Rに伝達する第1の動力伝達経路と、四輪駆動状態においてエンジン12の駆動力の一部を副駆動輪に対応する左右一対の後輪16L、16Rに伝達する第2の動力伝達経路と、を備えているFFベースの四輪駆動装置を有している。
四輪駆動車両10が二輪駆動状態のときには、エンジン12から自動変速機18を介して伝達された駆動力が、前輪用駆動力配分装置20を通して左右一対の前輪車軸22L、22Rおよび左右一対の前輪14L、14Rへ伝達される。この二輪駆動状態のときには、少なくとも第1断接装置(車両用断接装置)24に設けられた第1噛合式クラッチ26が解放され、トランスファ28、プロペラシャフト30、後輪用駆動力配分装置32、および、左右一対の後輪16L、16Rへは、エンジン12から駆動力が伝達されない。しかし、四輪駆動車両10が四輪駆動状態のときには、第1噛合式クラッチ26および第2断接装置34に設けられた第2噛合式クラッチ36が共に係合されて、上記トランスファ28、プロペラシャフト30、後輪用駆動力配分装置32、および、左右一対の後輪16L、16Rへエンジン12から駆動力が伝達される。
前輪用駆動力配分装置20には、図1に示すように、第1差動装置38が第1回転軸線(回転軸線)C1まわりに回転可能に備えられている。第1差動装置38には、例えば、自動変速機18の出力歯車18aと噛み合うリングギヤ38rと、そのリングギヤ38rに一体的に固定され、一対のサイドギヤ38sが内部に組み付けられたデフケース(デファレンシャルケース)38c等と、が備えられている。このように構成された第1差動装置38では、リングギヤ38rにエンジン12から駆動力が伝達されると、左右の前輪車軸22L、22Rの差回転を許容しつつ前輪14L、14Rへ駆動力を伝達する。なお、デフケース38cには、トランスファ28に設けられた入力軸(第2回転部材)40の前輪14L側の軸端部に形成された第1外周スプライン歯40aと嵌合する内周噛合歯38aが形成されている。これにより、エンジン12からデフケース38cに伝達する駆動力の一部が、入力軸40を介してトランスファ28に入力される。
トランスファ28は、図1および図2に示すように、エンジン12に動力伝達可能に接続された円筒状の入力軸40と、プロペラシャフト30に動力伝達可能に接続された第1リングギヤ(第1回転部材)42と、第1リングギヤ42と入力軸40との間の動力伝達経路を選択的に切断または接続する第1断接装置24と、を備えている。なお、トランスファ28では、第1断接装置24によって入力軸40と第1リングギヤ42との間の動力伝達経路が接続されると、エンジン12から伝達される駆動力の一部が、プロペラシャフト30へ出力されるようになっている。
円筒状の第1リングギヤ42は、図2に示すように、例えば斜歯又はハイポイドギヤが形成された傘歯車であり、第1リングギヤ42の内周部から前輪14R側に略円筒状に突出する軸部42aが形成されている。また、円筒状の第1リングギヤ42は、例えば第1断接装置24等を収容する第1ケース44内に設けられた軸受46を介して第1ケース44により軸部42aが支持されることによって第1回転軸線C1まわりに回転可能に片持状に支持されている。
円筒状の入力軸40は、図2に示すように、円筒状の第1リングギヤ42の内側を貫通して、その入力軸40の一部が第1リングギヤ42の内側に配置されている。また、円筒状の入力軸40は、第1ケース44内に設けられた一対の第1軸受48および第2軸受50を介して第1ケース44に両端部が支持されることによって、その入力軸40が第1回転軸線C1まわりに回動可能にすなわちその入力軸40が第1リングギヤ42と同心に回転可能に支持されている。また、円筒状の入力軸40には、前述した第1外周スプライン歯40aと、入力軸40の中央部の外周面に形成された第2外周スプライン歯40bと、入力軸40の前輪14R側の端部の外周面に形成された第3外周スプライン歯40cと、が形成されている。
第1噛合式クラッチ26には、図2に示すように、第1リングギヤ42の軸部42aの前輪14L側の側面42bに形成された複数の第1噛合歯42cと、第1噛合歯42cに噛合可能な第2噛合歯52aが複数形成された円筒状の断接スリーブ52と、が備えられている。なお、断接スリーブ52には、入力軸40に対して第1回転軸線C1まわりの相対回転が不能且つ入力軸40に対して第1回転軸線C1方向の相対移動が可能に、その入力軸40に形成された第2外周スプライン歯40bに噛み合う内周噛合歯52bが形成されている。すなわち、断接スリーブ52は、入力軸40に対して相対回転不能且つ入力軸40に対して第1回転軸線C1方向に移動可能に、入力軸40に設けられている。
第1断接装置24には、第1噛合式クラッチ26に設けられた断接スリーブ52を噛合位置と非噛合位置とに移動させる移動装置54が備えられている。なお、断接スリーブ52は、移動装置54によって前記噛合位置と前記非噛合位置との間で移動させられる。また、前記噛合位置は、断接スリーブ52が第1回転軸線C1方向に移動して断接スリーブ52の第2噛合歯52aに第1リングギヤ42の第1噛合歯42cが噛み合わせられる位置であり、前記噛合位置では、第1リングギヤ42と入力軸40とが相対回転不能に連結されて、第1噛合式クラッチ26が係合させられる。また、前記非噛合位置は、断接スリーブ52が第1回転軸線C1方向に移動して第1リングギヤ42の第1噛合歯42cと断接スリーブ52の第2噛合歯52aとの噛み合いを解く位置であり、前記非噛合位置では、第1リングギヤ42と入力軸40との相対回転が許容されて、第1噛合式クラッチ26が解放させられる。
移動装置54は、図2に示すように、電磁アクチュエータ(アクチュエータ)56と、ラチェット機構58と、を備えている。なお、電磁アクチュエータ56には、例えば、ボールカム60と、電磁コイル62と、補助クラッチ64等と、が備えられている。電磁アクチュエータ56は、入力軸40が回転している時すなわち車両走行時において、電磁コイル62によって可動片66が吸着されて補助クラッチ64を介してボールカム60の環状の第2カム部材70に回転制動トルクが発生させられると、ボールカム60において環状の第2カム部材70と環状の第1カム部材68とを相対回転させて、第1カム部材68を第1回転軸線C1方向に移動させる。ラチェット機構58は、電磁アクチュエータ56によって第1カム部材68が第1回転軸線C1方向に移動させられると、その第1カム部材68の移動によって第1回転軸線C1方向に移動させられた断接スリーブ52の移動位置を保持する。なお、移動装置54には、断接スリーブ52を前記非噛合位置から前記噛合位置に向けて常時付勢、すなわち断接スリーブ52を第1回転軸線C1方向において前輪14R側に常時付勢するスプリング72が備えられている。
ラチェット機構58は、図2に示すように、環状の第1ピストン68aと、環状の第2ピストン74と、複数段の鋸歯状の掛止歯76aを周方向に複数有する環状のホルダ76と、を備えている。なお、ラチェット機構58には、第1カム部材68を第2カム部材70に接近する方向に常時付勢するために、第2ピストン74と第1カム部材68との間に圧縮された状態で配設されたコイル状のコイルスプリング77が備えられている。第1ピストン68aは、電磁コイル62が可動片66を吸着したり可動片66を吸着しないことによりボールカム60によって所定のストロークで第1回転軸線C1方向に往復移動させられる。すなわち、第1ピストン68aは、電磁アクチュエータ56の作動により所定のストロークで第1回転軸線C1方向に往復移動させられる。また、第2ピストン74は、第1ピストン68aの第1回転軸線方向C1の往復移動によりスプリング72の付勢力Fに抗して断接スリーブ52を前記非噛合位置へ移動させる。また、ホルダ76は、複数段の鋸歯状の掛止歯76aにおいて第1掛止歯76bと第2掛止歯76cと第3掛止歯76dとのいずれか1つの掛止歯76b、76c、76dで第1ピストン68aにより移動させられた第2ピストン74を掛け止める。なお、第1ピストン68aは、入力軸40に対して相対回転不能且つ入力軸40に対して第1回転軸線C1方向に移動可能に、入力軸40に設けられている。また、第2ピストン74は、入力軸40に対して相対回転可能且つ入力軸40に対して第1回転軸線C1方向の移動可能に、入力軸40に設けられている。また、ホルダ76は、入力軸40に対して相対回転不能且つ入力軸40に対して第1回転軸線C1方向に移動不能に、入力軸40に設けられている。
ボールカム60は、図2に示すように、ラチェット機構58の第2ピストン74と第2軸受50との間において第1回転軸線C1方向で重なるように介挿された環状の一対の第1カム部材68および第2カム部材70と、第1カム部材68に形成されたカム面68bと第2カム部材70に形成されたカム面70aとに挟まれた複数個の球状転動体78と、を備えている。このように構成されたボールカム60では、第1カム部材68と第2カム部材70とが相対回転させられると、第1カム部材68が第2カム部材70から第1回転軸線C1方向に離隔させられる。なお、第1カム部材68には、入力軸40に対して第1回転軸線C1まわりの相対回転が不能且つ入力軸40に対して第1回転軸線C1方向の相対移動が可能に、その入力軸40に形成された第3外周スプライン歯40cに噛み合う内周歯68cが形成されている。また、ボールカム60の第1カム部材68には、図2に示すように、ラチェット機構58の第1ピストン68aが一体的に設けられている。
補助クラッチ64は、図2に示すように、前述した可動片66と、可動片66と電磁コイル62との間に配設された円板状の一対の第1摩擦板80、82と、その一対の第1摩擦板80、82の間に配設された円板状の第2摩擦板84と、を備えている。なお、一対の第1摩擦板80、82の外周部には、それぞれ、第1ケース44に対して第1回転軸線C1まわり相対回転が不能且つ第1ケース44に対して第1回転軸線C1方向の相対移動が可能に、第1ケース44に形成された内周スプライン歯44aに噛み合う外周歯80a、82aが形成されている。また、第2摩擦板84の内周部には、第2カム部材70に対して第1回転軸線C1まわりの相対回転が不能且つ第2カム部材70に対して第1回転軸線C1方向の相対移動が可能に、第2カム部材70の外周部に形成された外周スプライン歯70bに噛み合う内周歯84aが形成されている。
上記のように構成された電磁アクチュエータ56では、例えば車両走行中で入力軸40が回転している状態において、図示しない電子制御装置から電磁コイル62に駆動電流が供給されて電磁コイル62に可動片66が吸着されると、可動片66によって補助クラッチ64の第1摩擦板80、82および第2摩擦板84が可動片66と電磁コイル62との間で挟圧されて第2摩擦板84すなわち第2カム部材70に回転制動トルクが伝達される。これにより、前記回転制動トルクによってそれら第1カム部材68と第2カム部材70とが相対回転し、第1カム部材68に一体に形成された第1ピストン68aは、球状転動体78を介して第2カム部材70に対して第1回転軸線C1方向においてスプリング72およびコイルスプリング77の付勢力に抗して前輪14L側へ移動する。また、前記電子制御装置から電磁コイル62に駆動電流が供給されなくなると、すなわち電磁コイル62に可動片66が吸着されなくなると、第2カム部材70に前記回転制動トルクが伝達されないので、第2カム部材70が球状転動体78を介して第1カム部材68と連れまわって、第1ピストン68aが、スプリング72およびコイルスプリング77の付勢力によって前輪14R側へ移動する。
第1断接装置24では、電磁アクチュエータ56によって、第1ピストン68aが第1回転軸線C1方向において前輪14L側、前輪14R側へ例えば2回往復移動させられると、図2に示すように、ラチェット機構58を介して断接スリーブ52が前記非噛合位置へスプリング72の付勢力Fに抗して移動させられる。また、第1断接装置24では、電磁アクチュエータ56によって、第1ピストン68aが例えば3回往復移動、すなわち断接スリーブ52が前記非噛合位置に配置された状態でさらに第1ピストン68aが1回往復移動させられると、図示しないが、第2ピストン74がホルダ76の第3掛止歯76dから掛け外されて断接スリーブ52がスプリング72の付勢力Fによって前記噛合位置へ移動させられる。
図3は、ラチェット機構58の一例の作動原理を説明する模式図であり、環状の第1ピストン68a、環状の第2ピストン74、および環状のホルダ76をそれぞれ展開した状態を示している。環状の第2ピストン74は、図3に示すように、環状の環状部74aと、その環状部74aからホルダ76に接近する方向に複数突き出された突起74bと、を備えている。環状のホルダ76は、ホルダ76の周方向に周期的に形成された複数段の鋸歯状の掛止歯76aと、その複数段の鋸歯状の掛止歯76aにおいてホルダ76の周方向に連なる第1掛止歯(隣接する掛止歯)76b、第2掛止歯76c、および第3掛止歯(所定の掛止歯)76dと、を備えている。図3に示すように、第1掛止歯76bには、第1掛止歯76bの先端P1に立ち上る第1立上面(立上り面)76eと、第1掛止歯76bの先端P1から隣接する第2掛止歯76cの第2立上面76fまでの間に第2掛止歯76cに向かうほど第2ピストン74の環状部74aから離れるように傾斜して形成された第1摺動案内面76gと、が設けられている。また、第2掛止歯76cには、第2掛止歯76cの先端P2に立ち上る第2立上面76fと、第2掛止歯76cの先端P2から隣接する第3掛止歯76dの第3立上面76hまでの間に第3掛止歯76dに向かうほど第2ピストン74の環状部74aから離れるように傾斜して形成された第2摺動案内面76iと、が設けられている。また、第3掛止歯76dには、第3掛止歯76dの先端P3に立ち上る第3立上面76hと、第3掛止歯76dの先端P3から隣接する第1掛止歯76bの第1立上面76eまでの間に第1掛止歯76bに向かうほど第2ピストン74の環状部74aから離れるように全体として傾斜して形成された第3摺動案内面(摺動案内面)76jと、が設けられている。環状の第1ピストン68aには、図3に示すように、ホルダ76に形成された第1掛止歯76b、第2掛止歯76c、第3掛止歯76dと略同様の鋸歯状であるが周方向に半位相ずれた形状で周方向に連なり、第2ピストン74の突起74bを受止める第1受止歯68d、第2受止歯68e、第3受止歯68fが周期的に形成されており、第1ピストン68aは、電磁アクチュエータ56によって、スプリング72の付勢力Fに抗して第2ピストン74をボールカム60の1ストローク分だけ移動させられる。
なお、第1ピストン68aに形成された第1受止歯68d、第2受止歯68e、第3受止歯68fは、図3に示すように、第3受止歯68fに形成された斜面68gと第3掛止歯76dの第3摺動案内面76jとの形状が異なる以外で、第1掛止歯76b、第2掛止歯76c、第3掛止歯76dと同様な鋸歯形状で形成されており、それら第1掛止歯76b、第2掛止歯76c、第3掛止歯76dに対して周方向に半波長ずらされて位置させられている。また、図3では、第1ピストン68aおよびホルダ76は、理解を容易とするために意図的に第1回転軸線C1方向にずらして示しているが、実際は、例えば第3受止歯68fの斜面68gが図3において1点鎖線で示す斜面68gの位置に配置されるように、第1ピストン68aはホルダ76に対して配置されている。また、図3に示す移動ストロークSTは、電磁アクチュエータ56の作動によって第1ピストン68aが第1回転軸線C1方向に往復移動させられる移動距離である。
図3に示すように、断接スリーブ52が前記噛合位置にあるときに第2ピストン74から突設された突起74bがホルダ76の第1掛止歯76bに掛け止められた位置Aに位置している初期状態において、第1ピストン68aが電磁アクチュエータ56の作動により移動ストロークSTにて1回目の往復移動が行われると、第2ピストン74の突起74bは、第1ピストン68aの第3受止歯68fの斜面68gに持ち上げられることによりスプリング72の付勢力Fに抗して第1掛止歯76bの先端P1を超えて第1掛止歯76bに形成された第1摺動案内面76gによって位置Bに案内される。そして、第2ピストン74の突起74bは、スプリング72の付勢力Fにより第2ピストン74の突起74bが第2掛止歯76cの第2立上面76fに当接することによって、位置Bに掛け止められる。次いで、第1ピストン68aが電磁アクチュエータ56の作動により移動ストロークSTにて2回目の往復移動が行われると、第2ピストン74の突起74bは、第1ピストン68aの第1受止歯68dに持ち上げられることによりスプリング72の付勢力Fに抗して第2掛止歯76cの先端P2を超えて第2掛止歯76cに形成された第2摺動案内面76iによって位置Cに案内される。そして、第2ピストン74の突起74bは、スプリング72の付勢力Fにより第2ピストン74の突起74bが第3掛止歯76dの第3立上面76hに当接することによって、位置Cに掛け止められる。
次いで、第1ピストン68aが電磁アクチュエータ56の作動により移動ストロークSTにて3回目の往復移動が行われると、第2ピストン74の突起74bは、第1ピストン68aの第2受止歯68eに持ち上げられることによりスプリング72の付勢力Fに抗して第3掛止歯76dの先端P3を超えて第3掛止歯76dに形成された第3摺動案内面76jによって位置Aに案内される。そして、第2ピストン74の突起74bは、スプリング72の付勢力Fにより第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに当接することによって、位置Aに掛け止められて位置Aと同じ初期状態に戻される。すなわち、電磁アクチュエータ56の作動によって第1ピストン68aが所定回数である3回目の往復移動が行われると、断接スリーブ52が前記噛合位置へ戻されることで、第1断接装置24の第1噛合式クラッチ26が係合される。
これにより、ラチェット機構58では、電磁アクチュエータ56による第1ピストン68aの往復移動で第2ピストン74を1回ずつ周方向へ送りつつ断接スリーブ52を前記噛合位置から前記非噛合位置へ向かって順次移動させられる。そして、第2ピストン74の移動回数が2回目に到達すると、すなわち第1ピストン68aが2回往復移動すると、断接スリーブ52が前記非噛合位置に位置させられる。また、ラチェット機構58では、第2ピストン74の移動回数が2回目を超えて3回目になると、第2ピストン74の突起74bがホルダ76の第3掛止歯76dから掛け外されてスプリング72の付勢力Fにより断接スリーブ52が前記噛合位置へ移動する。
図4は、第2ピストン74の突起74bを第3掛止歯76dから隣接する第1掛止歯76bに掛け止める位置を変えるときにおいて、スプリング72の付勢力Fによって第2ピストン74の突起74bを第3掛止歯76dに形成された第3摺動案内面76jで摺動させている状態を説明する図である。その図4に示すように、第3掛止歯76dに形成された第3摺動案内面76jには、第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bに向かうほど第2ピストン74の環状部74aから離れるように傾斜した増速傾斜面76kと、第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bに向かうほど第2ピストン74の環状部74bに向かうように逆傾斜した減速傾斜面(逆傾斜面)76lと、第1掛止歯76bに一旦掛け止められた第2ピストン74の突起74bの第3掛止歯76d側への戻りを防止するために、減速傾斜面76lと第1掛止歯76bの第1立上面76eとの間に穿設されたピストン戻り防止溝76mと、が順次連ねて形成されている。
図4に示すように、第2ピストン74の突起74bが増速傾斜面76kを摺動しているときには、スプリング72の付勢力Fにおける第2ピニオン74の突起74bが増速傾斜面76を摺動する進行方向E1成分の分力F1が、第2ピニオン74の突起74bが増速傾斜面76を摺動するときに作用する摩擦力Fr1より大きいので、第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)が増速させられる。なお、増速傾斜面76kに対する第2ピストン74の突起74bの垂直効力R1の大きさは、スプリング72の付勢力Fにおける進行方向E1に対して垂直方向成分の分力F2の大きさと同じである。また、図4に示す切替区間S1は、第2ピストン74の突起74bが増速傾斜面76kを摺動する区間であり、第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)を増速、すなわち第2ピストン74の突起74bの第1回転軸線C1方向における速度を増速して比較的素早く断接スリーブ52を前記非噛合位置から前記噛合位置に素早く切り替える区間である。
また、図4に示すように、第2ピストン74の突起74bが減速傾斜面76lを摺動しているときには、第2ピストン74の突起74bが減速傾斜面76lを摺動する進行方向E2に対して逆方向の力、例えば、摩擦力Fr1dやスプリング72の付勢力Fにおける進行方向E2成分の分力F1d等によって、増速傾斜面76kにより増速させられた第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)が減速させられる。なお、減速傾斜面76lに対する第2ピストン74の突起74bの垂直効力R1dの大きさは、スプリング72の付勢力Fにおける進行方向E2に対して垂直方向成分の分力F2dの大きさと同じである。また、減速傾斜面76lは、増速傾斜面76kに比べて、表面が粗くなっているので、減速傾斜面76lでの摩擦力Fr1dを好適に大きくすることができる。また、図4に示す減速区間S2は、第2ピストン74の突起74bが減速傾斜面76lを摺動する区間であり、第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)を減速して第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに衝突するエネルギを好適に小さくする区間である。
図5および図6は、本実施例の第1断接装置24とは異なる比較例の第1断接装置を説明する図である。なお、比較例の第1断接装置は、本実施例の第1断接装置24に比較して、ホルダ76の第3掛止歯76dに形成された第3摺動案内面76jとは異なる形状の第3摺動案内面Kが形成されている点で相違しており、その他の点は、本実施例の第1断接装置24と略同じである。なお、第3摺動案内面Kは、図5および図6に示すように、第3掛止歯76dの先端P3から第1掛止歯76bの第1立上面76eまでの間において第1掛止歯76bに向かうほど第2ピストン74の環状部74aから離れるように傾斜した傾斜面であり、第3摺動案内面Kで第2ピストン74の突起74bを摺動させると、スプリング72の付勢力Fによって第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)が増速するようになっている。
図7は、本実施例の第1断接装置24において第3掛止歯76dに形成された第3摺動案内面76jで摺動する第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)と、前記比較例の第1断接装置において第3掛止歯76dに形成された第3摺動案内面Kで摺動する第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)と、を比較する図である。なお、図7で示す破線L1は、本実施例の第1断接装置24が使用された場合の速度V(m/s)を示す線であり、図7で示す実線L2は、前記比較例の第1断接装置が使用された場合の速度V(m/s)を示す線である。図7に示すように、本実施例の第1断接装置24では、第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)が、増速傾斜面76kによって前記比較例の第1断接装置に比べて増速させられて、第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)が、減速傾斜面76lによって前記比較例の第1断接装置に比べて減速させられるようになっている。すなわち、本実施例の第1断接装置24において第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに衝突する第1速度V1(m/s)は、前記比較例の第1断接装置において第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに衝突する第2速度V2(m/s)より遅く(V2>V1)なる。
上述のように、本実施例の第1断接装置24によれば、第3摺動案内面76jの一部には、第1掛止歯76bに向かうほど第2ピストン74の環状部74aに向かうように逆傾斜した減速傾斜面76lが形成されている。このため、スプリング72の付勢力Fによって増速させられた第2ピストン74の突起74bが第3摺動案内面76jに形成された減速傾斜面76lで一旦減速するので、第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに衝突する速度V1が、例えば第3摺動案内面Kに減速傾斜面76lが形成されていないものに比較して低下する。これによって、第2ピストン74の突起74bが第1立上面76eに衝突したときの衝突音が好適に低減されるので、第1リングギヤ42と入力軸40との間を切断した状態から接続する状態へ切り替えるときの切替音を好適に低減することができる。
続いて、本発明の他の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施例の第1断接装置は、第3掛止歯76dの第3摺動案内面(摺動案内面)76pに減速傾斜面76lおよびピストン戻り防止溝76mが形成されていない点と、その減速傾斜面76lにかえて第3摺動案内面76pの複数箇所すなわち3箇所において第1掛止歯76bに向かうほど第2ピストン74の環状部74aに向かうように逆傾斜した第1減速傾斜面(逆傾斜面)76q、第2減速傾斜面(逆傾斜面)76r、第3減速傾斜面(逆傾斜面)76sがそれぞれ形成されている点で相違しており、その他の点は、前述の実施例1の第1断接装置24と同様である。なお、図9に示す第1減速区間Sa1は、第2ピストン74の突起74bが第1減速傾斜面76qを摺動する区間であり、第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)を減速して第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに衝突するエネルギを好適に小さくする区間である。また、図9に示す第2減速区間Sa2は、第2ピストン74の突起74bが第2減速傾斜面76rを摺動する区間であり、第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)を減速して第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに衝突するエネルギを好適に小さくする区間である。また、図9に示す第3減速区間Sa3は、第2ピストン74の突起74bが第3減速傾斜面76sを摺動する区間であり、第2ピストン74の突起74bの速度V(m/s)を減速して第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに衝突するエネルギを好適に小さくする区間である。
上述のように、本実施例の第1断接装置によれば、第3摺動案内面76pの一部には、第1掛止歯76bに向かうほど第2ピストン74の環状部74aに向かうように逆傾斜した第1減速傾斜面76q、第2減速傾斜面76r、第3減速傾斜面76sが形成されている。このため、スプリング72の付勢力Fによって増速させられた第2ピストン74の突起74bが第3摺動案内面76pに形成された第1減速傾斜面76q、第2減速傾斜面76r、第3減速傾斜面76sで一旦減速するので、第2ピストン74の突起74bが第1掛止歯76bの第1立上面76eに衝突する速度Vが、例えば第3摺動案内面76pに第1減速傾斜面76q、第2減速傾斜面76r、第3減速傾斜面76sが形成されていないものに比較して低下する。これによって、第2ピストン74の突起74bが第1立上面76eに衝突したときの衝突音が好適に低減されるので、第1リングギヤ42と入力軸40との間を切断した状態から接続する状態へ切り替えるときの切替音を好適に低減することができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例1において、第3摺動案内面76jに減速傾斜面76lが形成されていたが、例えば、第1摺動案内面76gや第2摺動案内面76iにも減速傾斜面76lを形成させて、第2ピストン74の突起74bが第2掛止歯76cの第2立上面76fや第3掛止歯76dの第3立上面76hに衝突する衝突音を低減させても良い。また、前述の実施例2において、第3摺動案内面76nに減速水平面76oが形成されていたが、例えば、第1摺動案内面76gや第2摺動案内面76iにも減速水平面76oを形成させて、第2ピストン74の突起74bが第2掛止歯76cの第2立上面76fや第3掛止歯76dの第3立上面76hに衝突する衝突音を低減させても良い。
また、前述の実施例1には、第3摺動案内面76jに減速傾斜面76lが形成されていたが、さらに第3摺動案内面76jに減速水平面76oを形成させても良い。また、第3摺動案内面76jには、増速傾斜面76kとピストン戻り防止溝76mとが必ずしも設けられていなくても良い。
また、前述の実施例1では、第2ピストン74の突起74bが第3掛止歯76dから第1掛止歯76bに掛け止められると、断接スリーブ52が前記非噛合位置から前記噛合位置に移動して、第1リングギヤ42と入力軸40との間を切断した状態から接続する状態へ切り替えていたが、例えば、第2ピストン74の突起74bが第3掛止歯76dから第1掛止歯76bに掛け止められると、第1リングギヤ42と入力軸40との間を接続した状態から切断する状態へ切り替えられるようにトランスファ28の構造を変更しても良い。
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。