以下、図1〜図8を参照して本発明の実施形態について説明する。まず、本実施形態が適用される車両の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態に係る駆動力制御装置が適用される車両100の走行駆動系の概略構成を示す図である。この車両100は、自動運転機能を有する車両、すなわち自動運転車両である。車両100は、ドライバによる運転操作が不要な自動運転モードでの走行だけでなく、ドライバの運転操作による手動運転モードでの走行も可能である。
図1に示すように、車両100は、前後左右の4つの車輪1、すなわち、左右の前輪1FL,1FRおよび左右の後輪1RL,1RRの双方が駆動輪である四輪駆動車両として構成される。各車輪1には、それぞれモータ(電動モータ)2が接続される。各モータ2はインバータ3を介してバッテリ4に接続され、バッテリ4から供給される電力によりそれぞれ駆動される。一方、モータ2が外力により駆動されると、モータ2が発電機として機能してモータ2で発電され、バッテリ4に蓄電される。各車輪1に対応してモータ2を設けることで、各車輪1を互いに独立して駆動することができる。なお、インバータ3は、コントローラ40(図2,4)により制御され、これによりモータ2の駆動が制御される。
運転席には、ドライバによって回動操作されるステアリングホイール5が設けられる。ステアリングホイール5には、ステアリングホイール5と一体に回転するステアリングシャフト6の一端部が連結される。ステアリングホイール5の操作(操舵角)は操舵センサ5aにより検出される。ステアリングシャフト6には操舵アクチュエータ7が取り付けられる。操舵アクチュエータ7は例えば電動モータにより構成され、操舵アクチュエータ7の駆動によりドライバのステアリング操作に対し反力を付与することができる。付与する操作反力は、例えばステアリングホイール5の操作量が大きいほど大きくすることができる。
前側の左右の車輪1FL,1FRの間には、例えばラックアンドピニオン式のステアリングギヤボックス8が配置される。ステアリングギヤボックス8には、転舵アクチュエータ9が取り付けられる。転舵アクチュエータ9は例えば電動モータにより構成される。転舵アクチュエータ9は、操舵センサ5aにより検出された操舵角に応じて駆動される。転舵アクチュエータ9の駆動によりステアリングギヤボックス8のラックが左右に移動し、これによりドライバのステアリング操作に応じて前側の車輪1FL,1FRが左右に転舵される。一方、自動運転モードでは、転舵アクチュエータ9は、ドライバのステアリング操作によらずに駆動され、目標進行方向に沿って車輪1FL,1FRが転舵される。
図2は、本実施形態に係る車両制御システム101の全体構成を概略的に示すブロック図である。図2に示すように、車両制御システム101は、コントローラ40と、コントローラ40にそれぞれ電気的に接続された外部センサ群31と、内部センサ群32と、入出力装置33と、GPS受信機34と、地図データベース35と、ナビゲーション装置36と、通信ユニット37と、走行用のアクチュエータACとを主に有する。
外部センサ群31は、車両100の周辺情報である外部状況を検出する複数のセンサの総称である。例えば外部センサ群31には、車両100の全方位の照射光に対する散乱光を測定して車両100から周辺の障害物までの距離を測定するライダ、電磁波を照射し反射波を検出することで車両100の周辺の他車両や障害物等を検出するレーダ、車両100に搭載され、CCDやCMOS等の撮像素子を有して自車両の周辺(前方、後方および側方)を撮像するカメラなどが含まれる。
内部センサ群32は、車両100の走行状態を検出する複数のセンサの総称である。例えば内部センサ群32には、車両100の車速を検出する車速センサ、車両100の前後方向の加速度および左右方向の加速度(横加速度)をそれぞれ検出する加速度センサ、車両100の重心の鉛直軸回りの回転角速度(ヨーレート)を検出するヨーレートセンサ、車重を検出する車重センサなどが含まれる。手動運転モードでのドライバの運転操作、例えばアクセルペダルの操作、ブレーキペダルの操作、ステアリングホイール5の操作等を検出するセンサ(例えば操舵センサ5a)も内部センサ群32に含まれる。
入出力装置33は、ドライバから指令が入力されたり、ドライバに対し情報が出力されたりする装置の総称である。例えば入出力装置33には、操作部材の操作によりドライバが各種指令を入力する各種スイッチ、ドライバが音声で指令を入力するマイク、ドライバに表示画像を介して情報を提供する表示部、ドライバに音声で情報を提供するスピーカなどが含まれる。各種スイッチには、自動運転モードおよび手動運転モードのいずれかを指令する手動自動切換スイッチが含まれる。
手動自動切換スイッチは、例えばドライバが手動操作可能なスイッチとして構成され、スイッチ操作に応じて、自動運転機能を有効化した自動運転モードまたは自動運転機能を無効化した手動運転モードへのモード切換指令を出力する。手動自動切換スイッチの操作によらずに、手動運転モードから自動運転モードへの切換、あるいは自動運転モードから手動運転モードへの切換を指令することもできる。すなわち、ドライバによる所定の操作がなされたときや所定の走行条件が成立したときに、運転モードを手動運転モードまたは自動運転モードに自動的に切り換えることもできる。
GPS受信機34は、複数のGPS衛星からの測位信号を受信し、これにより車両100の絶対位置(緯度、経度など)を測定する。
地図データベース35は、ナビゲーション装置36に用いられる一般的な地図情報を記憶する装置であり、例えばハードディスクにより構成される。地図情報には、道路の位置情報、道路形状(曲率など)の情報、交差点や分岐点の位置情報が含まれる。なお、地図データベース35に記憶される地図情報は、コントローラ40の記憶部42に記憶される高精度な地図情報とは異なる。
ナビゲーション装置36は、ドライバにより入力された目的地までの道路上の目標経路を探索するとともに、目標経路に沿った案内を行う装置である。目的地の入力および目標経路に沿った案内は、入出力装置33を介して行われる。入出力装置33を介さずに、目的地を自動的に設定することもできる。目標経路は、GPS受信機34により測定された自車両の現在位置と、地図データベース35に記憶された地図情報とに基づいて演算される。
通信ユニット37は、インターネット回線などの無線通信網を含むネットワークを介して図示しない各種サーバと通信し、地図情報および交通情報などを定期的に、あるいは任意のタイミングでサーバから取得する。取得した地図情報は、地図データベース35や記憶部42に出力され、地図情報が更新される。取得した交通情報には、渋滞情報や、信号が赤から青に変わるまでの残り時間等の信号情報が含まれる。
アクチュエータACは、車両100の走行動作に関する各種機器を作動させるための走行用アクチュエータである。アクチュエータACには、4つの車輪1をそれぞれ駆動する4つのモータ2、制動装置を作動するブレーキ用アクチュエータ、および前側の車輪1FL,1FRを転舵する転舵用アクチュエータ(転舵アクチュエータ9)などが含まれる。なお、モータ2はインバータ3を介して制御されるが、図2ではインバータ3の図示を省略する。
コントローラ40は、電子制御ユニット(ECU)により構成される。なお、モータ制御用ECU、転舵制御用ECU等、機能の異なる複数のECUを別々に設けることができるが、図2では、便宜上、これらECUの集合としてコントローラ40が示される。コントローラ40は、走行制御に係る処理を行うCPU等の演算部41と、ROM,RAM,ハードディスク等の記憶部42と、図示しないその他の周辺回路とを有するコンピュータを含んで構成される。
記憶部42には、車線の中央位置の情報や車線位置の境界の情報等を含む高精度の詳細な地図情報が記憶される。より具体的には、地図情報として、道路情報、交通規制情報、住所情報、施設情報、電話番号情報等が記憶される。道路情報には、高速道路、有料道路、国道などの道路の種別を表す情報、道路の車線数、各車線の幅員、道路の勾配、道路の3次元座標位置、車線のカーブの曲率、車線の合流ポイントおよび分岐ポイントの位置、道路標識等の情報が含まれる。交通規制情報には、工事等により車線の走行が制限または通行止めとされている情報などが含まれる。記憶部42には、各種制御のプログラム、プログラムで用いられる閾値等の情報も記憶される。
演算部41は、主に自動走行に関する機能的構成として、自車位置認識部43と、外界認識部44と、行動計画生成部45と、走行制御部46とを有する。
自車位置認識部43は、GPS受信機34で受信した車両100の位置情報および地図データベース35の地図情報に基づいて、地図上の車両100の位置(自車位置)を認識する。記憶部42に記憶された地図情報(建物の形状などの情報)と、外部センサ群31が検出した車両100の周辺情報とを用いて自車位置を認識してもよく、これにより自車位置を高精度に認識することができる。なお、道路上や道路脇の外部に設置されたセンサで自車位置を測定可能であるとき、そのセンサと通信ユニット37を介して通信することにより、自車位置を高精度に認識することもできる。
外界認識部44は、ライダ、レーダ、カメラ等の外部センサ群31からの信号に基づいて車両100の周囲の外部状況を認識する。例えば車両100の周辺を走行する周辺車両(前方車両や後方車両)の位置や速度や加速度、車両100の周囲に停車または駐車している周辺車両の位置、および他の物体の位置や状態などを認識する。他の物体には、標識、信号機、道路の境界線や停止線、建物、ガードレール、電柱、看板、歩行者、自転車等が含まれる。他の物体の状態には、信号機の色(赤、青、黄)、歩行者や自転車の移動速度や向きなどが含まれる。
行動計画生成部45は、例えばナビゲーション装置36で演算された目標経路と、自車位置認識部43で認識された自車位置と、外界認識部44で認識された外部状況とに基づいて、現時点から所定時間先までの車両100の走行軌道(目標軌道)を生成する。目標経路上に目標軌道の候補となる複数の軌道が存在するときには、行動計画生成部45は、その中から法令を順守し、かつ効率よく安全に走行する等の基準を満たす最適な軌道を選択し、選択した軌道を目標軌道とする。そして、行動計画生成部45は、生成した目標軌道に応じた行動計画を生成する。
行動計画には、現時点から所定時間(例えば5秒)先までの間に単位時間(例えば0.1秒)毎に設定される走行計画データ、すなわち単位時間毎の時刻に対応付けて設定される走行計画データが含まれる。走行計画データは、単位時間毎の車両100の位置データと車両状態のデータとを含む。位置データは、例えば道路上の2次元座標位置を示す目標点のデータであり、車両状態のデータは、車速を表す車速データと車両100の向きを表す方向データなどである。走行計画は単位時間毎に更新される。
行動計画生成部45は、現時点から所定時間(例えば5秒)先までの単位時間毎の位置データを時刻順に接続することにより、目標軌道を生成する。このとき、目標軌道上の単位時間毎の各目標点の車速(目標車速)に基づいて、単位時間毎の加速度(目標加速度)を算出する。すなわち、行動計画生成部45は、目標車速と目標加速度とを算出する。なお、目標加速度を走行制御部46で算出するようにしてもよい。
走行制御部46は、走行モード(自動運転モード、手動運転モード)に応じてアクチュエータACを制御する。例えば自動運転モードにおいて、走行制御部46は、行動計画生成部45で生成された目標軌道に沿って車両100が走行するように各アクチュエータACを制御する。より具体的には、走行制御部46は、自動運転モードにおいて道路勾配などにより定まる走行抵抗を考慮して、行動計画生成部45で算出された単位時間毎の目標加速度を得るための要求駆動力を算出する。そして、例えば内部センサ群32により検出された実加速度が目標加速度となるようにアクチュエータACをフィードバック制御する。すなわち、自車両が目標車速および目標加速度で走行するようにアクチュエータACを制御する。一方、手動運転モードでは、走行制御部46は、内部センサ群32により取得されたドライバからの走行指令(アクセル開度、ステアリングホイール5の操舵角等)に応じて各アクチュエータACを制御する。
特に、本実施形態の車両100は、各車輪1を駆動するための互いに独立した4つのモータ2を有する。このため、走行制御部46は、要求駆動力に応じた駆動力を発生させながら、前後および左右の駆動力配分が所定の駆動力配分となるように各モータ2の駆動力を制御する。
ところで、乗員はシートに着座するが、加減速走行や旋回走行等、車両100の走行挙動の変化に伴い、乗員に作用する加速度が変化する。このため、加速度変化の影響で、乗員の意思によらずに乗車姿勢が変更させられ、乗員が不快な思いをすることがある。特に、自動運転モードで走行中は、ドライバを含む乗員が車両100の進行方向を目視していない場合があり、車両挙動の変化に伴い乗車姿勢が大きく変化するおそれがある。この点を、シートに作用する面圧の変化を用いて説明する。
図3は、乗員が着座した状態における、シートバック表面の乗員荷重による面圧分布を示す図である。図3の左側は、前後方向の加速度の大きさ(絶対値)が所定値以下かつ左右方向の加速度の大きさが所定値以下の状態、例えば停車またはクルーズ走行状態における面圧分布PD1の一例である。図3の右側は、前後方向の加速度の大きさが所定値以上かつ左右方向の加速度が所定値以下の状態、例えば減速走行状態における面圧分布PD2の一例である。各面圧分布PD1,PD2の中心点P1,P2は、面圧分布の重心位置、すなわち代表位置(中心位置)を表す。シートバック表面の中央部に原点Oをとり、原点Oを通る水平方向軸をX軸、鉛直方向軸をY軸に設定するとき、代表位置P1,P2は、XY座標で表される。以下、代表位置P1,P2の座標をそれぞれ(X1,Y1),(X2,Y2)で表す。
停車またはクルーズ走行状態では、乗員に対し作用する車両100からの走行加速度は小さく、乗員は安定した乗車姿勢を保つ。この場合の面圧分布PD1の代表位置P1を基準位置とも呼ぶ。一方、減速走行状態では、乗車姿勢が前のめりとなるため、面圧分布PD2の代表位置P2が例えば基準位置P1から上方(+Y方向)にずれる。なお、加速走行状態では、例えば代表位置P2が基準位置P1から下方(−Y方向)にずれ、右旋回走行状態では、代表位置P2が基準位置P1から左方(−X方向)にずれ、左旋回走行状態では、代表位置P2が基準位置P1から右方(+X方向)にずれる。
基準位置P1と代表位置P2とのずれが大きいと、乗車姿勢が大きく変化するため、乗員の不快感が増大する。この不快感を解消ないし低減するために、例えば車両100の加減速を徐々に行うようにすると、実駆動力が要求駆動力から乖離し、適切な走行動作を得られないおそれがある。そこで、本実施形態では、要求駆動力に対応した実駆動力を発揮しつつ、乗員の乗車姿勢の変化を抑えるような乗車姿勢抑制制御を実行すべく、以下のように駆動力制御装置を構成する。
図4は、本実施形態に係る駆動力制御装置50の要部構成を示すブロック図である。この駆動力制御装置50は、車両100の走行動作を制御するものであり、図2の車両制御システム101の一部を構成する。
図4に示すように、駆動力制御装置50は、コントローラ40と、コントローラ40にそれぞれ接続された手動自動切換スイッチ33aと、車速センサ32aと、加速度センサ32bと、車重センサ32cと、圧力センサ38と、4つのモータ2(1つのみ図示)とを有する。なお、各モータ2はインバータ3を介して制御されるが、図4ではインバータ3の図示を省略する。
手動自動切換スイッチ33aは、ドライバの操作により切り換えられるモード選択スイッチ、すなわち手動運転モードと自動運転モードのいずれかを選択するスイッチであり、図2の入出力装置33の一部を構成する。車速センサ32a、加速度センサ32b、車重センサ32cは、それぞれ図2の内部センサ群32の一部を構成する。
圧力センサ38は、シートバックの座面に面してシートバック内に水平方向および鉛直方向に所定間隔毎に複数配置され、圧力センサ38により乗員の乗車姿勢、より詳しくは乗員の着座荷重による面圧(座圧)が検出される。圧力センサ38からの信号を用いて図3の面圧分布を得ることができる。圧力センサ38も、図2の内部センサ群32の一部を構成する。
コントローラ40は、主たる機能的構成として、要求駆動力算出部401と、基準位置設定部402と、判定部403と、配分制御部404とを有する。これら要求駆動力算出部401、基準位置設定部402、判定部403、および配分制御部404は、例えば図2の走行制御部46の一部を構成する。
要求駆動力算出部401は、自動運転モード時に、行動計画生成部45(図2)で算出された単位時間毎の目標加速度を得るための要求駆動力を算出する。なお、手動運転モード時においては、要求駆動力算出部401は、内部センサ群32の一部であるアクセル開度センサにより検出されたアクセル開度(アクセルペダルの操作量)に応じて要求駆動力を算出する。
基準位置設定部402は、加速度センサ32bにより検出された前後方向の加速度Gaの大きさ(絶対値)が所定値Ga1以下かつ左右方向の加速度Gbが所定値Gb1以下であるとき、複数の圧力センサ38の検出信号に基づいて、シートバック表面の面圧分布の基準位置P1の座標(X1,Y1)を設定する。すなわち、面圧分布の中心位置(重心位置)を基準位置として設定する。所定値Ga1,Gb1は、車両挙動の変化により乗員に不快感を与えるおそれがあるか否かを判定するための予め定められた閾値であり、加速度Ga,Gbが所定値Ga1,Gb1以下であれば、不快感を与えることがないと判定される。この場合に基準位置P1が変化すると、それは車両100の加速度変化によるものでなく、乗員が自分の意思で着座姿勢を変化させたことによるものと判断される。基準位置P1の座標(X1,Y1)は随時更新され、加速度Ga,Gbが所定値Ga1,Gb1を超える直前の最新の値が記憶部42に記憶される。
判定部403は、車両100の前後方向の駆動力配分または左右方向の駆動力配分を変更する必要があるか否か、すなわち乗車姿勢抑制制御の要否を判定する。具体的には、前後方向の加速度Gaが所定値Ga1より大きいとき、または左右方向の加速度Gbが所定値Gb1より大きいときに、まず、記憶部42に記憶された基準位置P1(X1,Y1)と、圧力センサ38により検出された代表位置P2(X2,Y2)との位置偏差、すなわちX方向の位置偏差ΔXとY方向の位置偏差ΔYとを算出する。
位置偏差ΔXは、X2からX1を減算した値(X2−X1)であり、位置偏差ΔYは、Y2からY1を減算した値(Y2−Y1)である。したがって、代表位置P2が基準位置P1よりも右方にずれているときは、位置偏差ΔXはプラスとなり、左方にずれているときは、位置偏差ΔXはマイナスとなる。代表位置P2が基準位置P1よりも上方にずれているときは、位置偏差ΔYはプラスとなり、下方にずれているときは、位置偏差ΔYはマイナスとなる。
そして、判定部403は、位置偏差ΔYの大きさ(絶対値)が所定値ΔY1以上であるとき、前後方向の駆動力配分を変更する必要があると判定し、位置偏差ΔXの大きさ(絶対値)が所定値ΔX1以上であるとき、左右方向の駆動力配分を変更する必要があると判定する。所定値ΔX1、ΔY1は、車両挙動の変化により乗員に不快感を与えるおそれがあるか否かを判定するための予め定められた閾値(例えば固定値)であり、位置偏差ΔX,ΔYの大きさ(絶対値)が所定値ΔX1,ΔY1未満であれば、乗員にとって不快でないと判定する。なお、所定値ΔX1,ΔY1を、車速や加速度に応じた可変値としてもよい。
配分制御部404は、判定部403により前後輪および左右輪の駆動力配分を変更する必要がないと判定されると、要求駆動力算出部401で算出された要求駆動力を発揮させながら、前後輪および左右輪の駆動力配分を、走行制御部46で算出される通常の駆動力配分に制御する。例えば、燃費に適した駆動力配分(1:1等)に、前後輪と左右輪の駆動力配分を制御する。一方、配分制御部404は、判定部に403より前後輪または左右輪の駆動力配分を変更する必要があると判定されると、要求駆動力算出部401で算出された要求駆動力を発揮させながら、前後輪または左右輪の駆動力配分を変更する。
具体的には、配分制御部404は、代表位置P2のY座標Y2から基準位置P1のY座標Y1を減算して位置偏差ΔYを算出するとともに、位置偏差ΔYに基づいて前後方向の目標駆動力配分を算出する。すなわち、位置偏差ΔYを抑えるような目標駆動力配分を算出する。例えば位置偏差ΔYがマイナスであるとき、ΔYが小さい(絶対値は大きい)ほど、後輪1RL,1RRに対する前輪1FL,1FRの駆動力の割合(前輪駆動力割合)を小さくする。例えば、前輪駆動力割合を0またはマイナスにする。なお、前輪駆動力割合がマイナスのときは、後輪に駆動トルクを、前輪に回生トルクを発生させる。一方、位置偏差ΔYがプラスであるとき、ΔYが大きいほど、前輪1FL,1FRに対する後輪1RL,1RRの駆動力の割合(後輪駆動力割合)を小さくする。例えば、後輪駆動力割合を0またはマイナスにする。なお、後輪駆動力割合がマイナスのときは、前輪に駆動トルクを、後輪に回生トルクを発生させる。
また、配分制御部404は、代表位置P2のX座標X2から基準位置P1のX座標X1を減算して位置偏差ΔXを算出するとともに、位置偏差ΔXに基づいて左右方向の目標駆動力配分を算出する。すなわち、位置偏差ΔXを抑えるような目標駆動力配分を算出する。例えば位置偏差ΔXがプラスであるとき、ΔXが大きいほど、左輪1FL,1RLに対する右輪1FR,1RRの駆動力の割合を小さくする。一方、位置偏差ΔXがマイナスであるとき、ΔXが小さい(絶対値は大きい)ほど、右輪1FR,1RRに対する左輪1FL,1RLの駆動力の割合を小さくする。
配分制御部404は、位置偏差ΔYだけでなく、車両100の前後方向の総駆動力または制動力に基づいて前後輪の目標駆動力配分を算出してもよい。例えば、車速センサ32aにより検出された車速と、加速度センサ32bにより検出された前後方向の加速度と、車重センサ32cにより検出された車重とに基づいて、駆動力配分を変更する前の車両100の前後方向の総駆動力または制動力を算出し、算出された総駆動力または制動力と、位置偏差ΔYとに基づいて前後輪の目標駆動力配分を算出してもよい
さらに、配分制御部404は、位置偏差ΔXだけでなく、車両100の左右方向の横力に基づいて左右輪の目標駆動力配分を算出してもよい。例えば車速センサ32aにより検出された車速と、加速度センサ32bにより検出された左右方向の加速度と、車重センサ32cにより検出された車重とに基づいて、駆動力配分を変更する前の車両100の横力を算出し、算出された横力と、位置偏差ΔXとに基づいて左右輪の目標駆動力を算出してもよい。
配分制御部404は、前後方向の駆動力配分および左右方向の駆動力配分が、算出された目標駆動力配分となるように各モータ2に制御信号を出力する。このとき、車両100が要求駆動力を発揮できるように、すなわちモータ2の総駆動力が要求駆動力となるようにモータ全体のトルクを制御する。
図5A〜図5Cは、車両が急加速走行するときの駆動力配分の変更の例を説明する図であり、図6A〜図6Cは、車両が左旋回走行するときの駆動力配分の変更の例を説明する図である。
図5Aに示すように、車両100が急加速走行するとき、乗員がシート側(後方)に押し付けられ、図5Bに示すように、乗員荷重による面圧分布の代表位置P2が基準位置設定部402で設定された基準位置P1よりも−Y方向(下方)にずれる(点P21)。このとき、配分制御部404は、代表位置P2の基準位置P1からのY方向の位置偏差ΔYに応じてモータ2に制御信号を出力し、図5Cに示すように、前輪1FL,1FRに回生トルクを発生させるとともに、車両100が要求駆動力を発揮するように後輪1RL,1RRの駆動トルクを増加させる。回生トルクの大きさは、位置偏差ΔYの絶対値が大きいほど大きくする。これにより、図5Bの矢印に示すように、代表位置P2が+Y方向(上方)、すなわち基準位置P1側に移動する(点P22)。なお、車両100が急減速走行して代表位置P2が+Y方向にずれたときは、配分制御部404は、後輪1RL,1RRに回生トルクを発生させるとともに、前輪1FL,1FRの駆動トルクを増加させる。
図6Aに示すように、車両100が左旋回走行するとき、乗員がシート右側に押し付けられ、図6Bに示すように、乗員荷重による面圧分布の代表位置P2が基準位置設定部402で設定された基準位置P1よりも+X方向(右方)にずれる(点P21)。このとき、配分制御部404は、代表位置P2の基準位置P1からのX方向の位置偏差ΔXに応じてモータ2に制御信号を出力し、図6Cに示すように、内輪側の右輪1FR,1RRの制動トルクを増加させる。制動トルクの大きさは、位置偏差ΔXが大きいほど大きくする。これにより図6Bの矢印に示すように、代表位置P2が−X方向(左方)、すなわち基準位置P1側に移動する(点P22)。なお、車両100が右旋回速走行して代表位置P2が−X方向にずれたときは、配分制御部404は、左輪1FL,1RLの制動トルクを増加させる。
図7は、予め記憶されたプログラムに従い図4のコントローラ40のCPUで実行される処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートに示す処理は、例えば手動自動切換スイッチ33aにより自動運転モードに切り換えられると開始され、自動運転モード中は所定周期で繰り返される。
まず、ステップS1で、行動計画生成部45で算出された単位時間毎の目標加速度を得るための要求駆動力を算出する。次いで、ステップS2で、圧力センサ38からの信号に基づいて、シートバック表面の面圧分布の代表位置P2の座標(X2,Y2)を設定する。次いで、ステップS3で、加速度センサ32bにより検出された前後方向の加速度Gaの大きさ(絶対値)が所定値Ga1以下であるか否かを判定する。ステップS3で肯定されるとステップS4に進み、加速度センサ32bにより検出された左右方向の加速度Gbの大きさ(絶対値)が所定値Gb1以下であるか否かを判定する。
ステップS4で肯定されるとステップS5に進み、ステップS2で設定された代表位置P2(X2,Y2)を、基準位置P1(X1,Y1)として設定し、ステップS1に戻る。したがって、加速度Gaが所定値Ga1以下かつ加速度Gbが所定値Gb1以下であるとき、基準位置P1が常に更新される。
ステップS3およびステップS4のいずれかが否定されると、乗車姿勢抑制制御が必要と判定し、ステップS6に進む。ステップS6では、ステップS5で設定された基準位置P1(X1,Y1)と、その後にステップS2で設定された代表位置P2(X2,Y2)とのX方向およびY方向の位置偏差ΔX,ΔYを演算する。すなわち、X2からX1を減算した値、およびY2からY1を減算した値を、それぞれ算出する。
次いで、ステップS7で、ステップS6で算出されたY方向の位置偏差ΔYの絶対値が所定値ΔY1以上であるか否かを判定する。ステップS7で肯定されるとステップS8に進み、否定されるとステップS8をパスしてステップS9に進む。ステップS8では、位置偏差ΔYに基づいて、前輪1FL,1FRと後輪1RL,1RRの目標駆動力配分を演算する。すなわち、位置偏差ΔYを所定値ΔY1未満に抑えるような目標駆動力配分を演算する。なお、車速センサ32aにより検出された車速と加速度センサ32bにより検出された前後方向の加速度Gaと車重センサ32cにより検出された車重とに基づいて、車両100の総駆動力または制動力を算出するとともに、算出された総駆動力または制動力と位置偏差ΔYとに基づいて、前後輪の目標駆動力配分を演算してもよい。
ステップS9では、ステップS6で算出されたX方向の位置偏差ΔXの絶対値が所定値ΔX1以上であるか否かを判定する。ステップS9で肯定されるとステップS10に進み、否定されるとステップS10をパスしてステップS11に進む。ステップS10では、位置偏差ΔXに基づいて、左輪1FL,1RLと右輪1FR,1RRの目標駆動力配分を演算する。すなわち、位置偏差ΔXを所定値ΔX1未満に抑えるような目標駆動力配分を演算する。なお、車速センサ32aにより検出された車速と加速度センサ32bにより検出された左右方向の加速度Gbと車重センサ32cにより検出された車重とに基づいて、車両100の横力を算出するとともに、算出された横力と位置偏差ΔXとに基づいて、左右輪の目標駆動力配分を演算してもよい。
次いで、ステップS11で、ステップS8およびステップS9で演算された目標駆動力配分に応じてモータ2の駆動を制御する。このとき、車両100がステップS1で算出した要求駆動力で走行するように、モータ全体のトルクを併せて制御する。これにより、車両の総駆動力を変化させることなく、駆動力配分のみが変更され、位置偏差ΔX,ΔYを減少させることができる。なお、ステップS7で否定かつステップS9で否定されるとき、ステップS11では、前後輪の駆動力配分および左右輪の駆動力配分を、走行制御部46で算出される通常の駆動力配分に制御する。
図8は、本実施形態に係る駆動力制御装置50による動作の一例を示すタイムチャートであり、特に、車両100が急加速した場合の動作の一例を示す。図8に示すように、初期時点では、前後方向の加速度Gaが所定値Ga1以下であり、乗車姿勢抑制制御の開始を示す制御開始フラグがオフである。このとき、前輪1FL,1FRの駆動力(前輪駆動力)と後輪1RL,1RRの駆動力(後輪駆動力)とはともに0より大きい。
時点t1で、前後方向の加速度Gaが所定値Ga1を超え、Y方向の位置偏差ΔYの絶対値が所定値ΔY1以上になると、すなわちシートバック表面の面圧分布の代表位置P2が基準位置P1よりも所定値ΔY1以上、下方にずれると、制御開始フラグがオンされ、乗車姿勢抑制制御が開始される。これにより前後方向の目標駆動力配分が変化し(ステップS8)、時点t2で、前輪駆動力がマイナスとなり、後輪駆動力がその分だけ増加する(ステップS11)。したがって、シートバック表面の面圧分布の代表位置P2が基準位置P1に近づき、代表位置P2と基準位置P1との位置偏差ΔYの絶対値を所定値ΔY1未満に抑えることができる。
このとき、総駆動力は、乗車姿勢抑制制御の開始の前後で一定である。これにより走行加速度を要求駆動力に応じた値に保ったまま、乗員に作用する力が変化して、乗員の乗車姿勢を変更させることができる。したがって、乗員の快適性を向上することができる。時点t3で、位置偏差ΔYが所定値ΔY1未満になると、前輪駆動力と後輪駆動力とが元の値(例えば燃費に適した値)に戻る。
本実施形態によれば以下のような作用効果を奏することができる。
(1)駆動力制御装置50は、要求駆動力を算出する要求駆動力算出部401と、乗員の乗車姿勢を検出する圧力センサ38と、車両100の加速度Ga,Gbを検出する加速度センサ32bと、前後および左右の駆動力配分が変更可能な態様で走行駆動力を発生する4つのモータ2と、加速度センサ32bにより前後方向の所定値Ga1以上の大きさの加速度Gaまたは左右方向の所定値Gb1以上の大きさの加速度Gbが検出され、かつ、圧力センサ38により所定程度以上の乗車姿勢の変化が検出されると、すなわちシートバック表面上の基準位置P1から所定値ΔX1,ΔY1以上離れた乗員荷重による代表位置P2が検出されると、要求駆動力算出部401により算出された要求駆動力を発揮しながら、前後または左右の駆動力配分を、乗車姿勢の変化を抑えるような目標駆動力配分に変更するようにモータ2を制御する配分制御部404と、を備える(図4)。
これにより車両100の加減速走行や旋回走行等、前後方向または左右方向の加速度Ga,Gbの変化に伴って乗員の乗車姿勢が変化した場合に、要求駆動力を維持しつつ、駆動力配分の変更により、乗員の乗車姿勢の変化を抑えることができる。このため、車両100の実駆動力が要求駆動力から大きく乖離することなく、車両100の加減速時における乗員にとっての不快感を抑制することができる。
(2)圧力センサ38は、乗員が着座するシートバックに作用する乗員荷重のシートバック表面上の中心位置(代表位置P2)を検出する。駆動力制御装置50は、加速度センサ32bにより所定値Ga1,Gb1以上の大きさの加速度Ga,Gbが検出される前に圧力センサ38により検出された代表位置P2を、乗員荷重の基準位置P1に設定する基準位置設定部402をさらに備える(図4)。配分制御部404は、加速度センサ32bにより所定値Ga1,Gb1以上の大きさの加速度Ga,Gbが検出され、かつ、圧力センサ38により、基準位置設定部402により設定された基準位置P1との偏差ΔX,ΔYが所定値ΔX1,ΔY1以上となる代表位置P2が検出されると、要求駆動力算出部401により算出された要求駆動力を発揮しながら、前後およびまたは左右の駆動力配分を目標駆動力配分に変更するようにモータ2を制御する。このようにシートバック表面上の代表位置P2の基準位置P1からの変化に基づいて駆動力配分を変更することで、乗員の快適性を損なう乗車姿勢の変化を精度よく判定することができ、車両100の挙動が変化する際の乗員の快適性を向上できる。
(3)配分制御部404は、加速度センサ32bにより前後方向の所定値Ga1以上の大きさの加速度Gaが検出され、かつ、圧力センサ38により、基準位置設定部402により設定された基準位置P1との上下方向の偏差ΔYが所定値ΔY1以上となる代表位置P2が検出されると、前輪1FL,1FRおよび後輪1RL,1RRのいずれか一方に駆動トルクを発生させ、いずれか他方に制動トルクを発生させるようにモータ2を制御する。このように前後輪の一方に駆動トルク、他方に回生トルクを発生させることで、位置偏差ΔYを容易に所定値ΔY1未満に低減することができる。
(4)駆動力制御装置50は、自動運転モードが選択されることを条件として、位置偏差ΔXに応じた駆動力配分の変更を伴う乗車姿勢抑制制御を行う。すなわち、手動運転モード時には、加速度の変化に対処するために乗員が自らの意思で乗車姿勢を変更し、位置偏差ΔX,ΔYが変化することがあるが、この場合は乗員にとっての不快感は小さいため、乗車姿勢を元に戻すような駆動力配分とする必要性は低い。この点を考慮し、本実施形態では、自動運転モード時に乗車姿勢抑制制御を実行するので、車両100の挙動が変化した際の乗車姿勢の変化による乗員の不快感を効果的に解消できる。
上記実施形態は種々の形態に変更することができる。以下、変形例について説明する。上記実施形態では、シートバックに設けた複数の圧力センサ38により乗員の乗車姿勢を検出するようにした。すなわち、乗員が着座するシートに作用する乗員荷重のシート表面上の代表位置を検出する代表位置検出部を設けるようにしたが、姿勢検出部の構成はこれに限らない。例えばカメラによって乗員を撮影するとともに、そのカメラ画像を解析して乗車姿勢を検出してもよい。シートバックに加えて、シートクッションやヘッドレストに圧力センサを設け、これら圧力センサからの信号により乗車姿勢を検出してもよい。
上記実施形態では、加速検出部としての加速度センサ32bにより、前後方向および左右方向の加速度を検出するようにしたが、例えば前後方向の加速度のみ、または左右方向の加速度のみを検出するようにしてもよい。上記実施形態では、各車輪1に対応する4つのモータ2を設けて前後および左右の駆動力配分をそれぞれ変更に構成したが、駆動力発生部の構成はこれに限らない。例えば駆動力を各車輪に伝達するクラッチ等を制御して駆動力配分を変更するようにしてもよい。
上記実施形態では、乗車姿勢抑制制御により、前後輪の駆動力配分と左右輪の駆動力配分の両方を変更するようにしたが、前後輪のみの駆動力配分または左右輪のみの駆動力配分を変更可能に構成してもよい。すなわち、加速度検出部により所定の大きさの加速度が検出され、かつ、姿勢検出部により所定の程度以上の乗車姿勢の変化が検出されると、要求駆動力算出部により算出された要求駆動力を発揮しながら、前後およびまたは左右の駆動力配分を乗車姿勢の変化を抑えるような目標駆動力配分に変更するように駆動力発生部を制御するのであれば、制御部としての配分制御部の構成はいかなるものでもよい。
上記実施形態では、車両100を4輪駆動車として構成したが、前輪駆動車または後輪駆動車として構成することもできる。この場合、駆動輪側の駆動トルクと非駆動輪側の制動トルク(ブレーキ装置の作動)とを制御して、前後方向の駆動力配分を変更すればよい。上記実施形態では、自動運転モードに切り換えられたことを条件に、乗車姿勢抑制制御を実行するようにしたが、手動運転モード時においても、同様にして乗車姿勢抑制制御を実行するようにしてもよい。この場合、例えばアクセルペダルの開度を検出するアクセル開度センサと車速センサとからの信号に基づいて、ドライバの操作による要求駆動力を算出すればよい。
以上の説明はあくまで一例であり、本発明の特徴を損なわない限り、上述した実施形態および変形例により本発明が限定されるものではない。上記実施形態と変形例の1つまたは複数を任意に組み合わせることも可能であり、変形例同士を組み合わせることも可能である。